説明

ハイブリッド駆動装置

【課題】回転電機から逆転回転を出力して車輪を後進回転する後進走行時にあって、電動オイルポンプが出力する必要油圧を低減することで該電動オイルポンプを小型化し、もってコンパクト化やコストダウンを可能とする。
【解決手段】ハイブリッド駆動装置1の制御部は、油圧制御装置に指令して第1クラッチK0を解放すると共に第2クラッチC1を係合した状態で、モータ3から逆転回転を出力し、中間軸12、第2クラッチC1、無段変速機構4を介して車輪30を後進回転する後進走行時に、内燃エンジン2の始動を指令し、該内燃エンジン2の出力回転により入力軸11を介して機械式オイルポンプ21を駆動する機械式オイルポンプ駆動モードを実行する。機械式オイルポンプ21の駆動により油圧を発生させることで、電動オイルポンプ22が出力する設計上の必要油圧が低減され、ハイブリッド駆動装置1の小型化やコストダウンが可能になる

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両等に搭載されるハイブリッド駆動装置に係り、詳しくは内燃エンジンに連動して駆動される機械式オイルポンプと独立して駆動される電動オイルポンプとを備えて、それらオイルポンプの油圧に基づき無段変速機構を油圧制御するハイブリッド駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両燃費向上のため、車両等に搭載されるハイブリッド駆動装置が種々提案されており、中でも、内燃エンジンと無段変速機構との間に1つのモータを配置した簡易な構造のものが提案されている(特許文献1参照)。一般的に、内燃エンジンの回転を変速するベルト式等の無段変速機は、内燃エンジンによる逆転回転出力が困難であるため、入力回転を逆転して後進走行を可能にするための前後進切換え装置を備えているが、この特許文献1のハイブリッド駆動装置は、モータによって逆転回転を出力して後進走行を可能にすることで、内燃エンジンの回転を逆転することを不要とし、つまり前後進切換え装置を省略した構造が採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−260672号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記特許文献1のようにベルト式等の無段変速機構(CVT)を備えたハイブリッド駆動装置にあっては、該無段変速機構のベルトでスリップ等を生じないようにするため、内燃エンジンの最高出力トルクにも耐え得るような比較的大きなベルト挟持圧が必要である。
【0005】
このような無段変速機構に必要な油圧を電動オイルポンプで全て担うようにするためには、該電動オイルポンプに大型で高価なものを採用する必要があり、好ましくない。そのため、内燃エンジンに連動して駆動される機械式オイルポンプを設け、前進走行における内燃エンジンの最高出力トルクにも十分耐え得るベルト挟持圧を該機械式オイルポンプで出力するように構成することで、電動オイルポンプは補助的なもので足り、総じてコンパクトで安価な構造を採用することができる。
【0006】
しかしながら、上述のようにモータの出力による後進走行(EV走行)を行うものにあっては、モータの最高出力に耐え得るベルト挟持圧が必要となるが、内燃エンジンを停止したEV走行では、この油圧(ベルト挟持圧)を電動オイルポンプで全て担う必要が生じ、電動オイルポンプのコンパクト化やコストダウンができないという問題があった。
【0007】
そこで本発明は、回転電機から逆転回転を出力して車輪を後進回転する後進走行時にあって、電動オイルポンプが出力する必要油圧を低減することで該電動オイルポンプを小型化し、もってコンパクト化やコストダウンを可能とするハイブリッド駆動装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るハイブリッド駆動装置(1)は(例えば図1乃至図5参照)、内燃エンジン(2)に駆動連結された第1軸(11)と、
前記第1軸(11)に連動して駆動される機械式オイルポンプ(21)と、
前記機械式オイルポンプ(21)とは独立して駆動される電動オイルポンプ(22)と、
回転電機(3)と、
前記回転電機(3)に駆動連結された第2軸(12)と、
前記第1軸(11)と前記第2軸(12)との動力伝達を切断自在な第1クラッチ(K0)と、
入力軸(4a)に入力された回転を無段変速して該入力軸(4a)に入力された回転と同一方向の回転を車輪(30)に出力し得る無段変速機構(4)と、
前記第2軸(12)と前記入力軸(4a)との動力伝達を切断自在な第2クラッチ(C1)と、
前記機械式オイルポンプ(21)と前記電動オイルポンプ(22)との少なくとも一方により発生された油圧により、前記第1クラッチ(K0)、前記第2クラッチ(C1)、前記無段変速機構(4)を油圧制御し得る油圧制御装置(9)と、
前記油圧制御装置(9)に指令して前記第1クラッチ(K0)を解放すると共に前記第2クラッチ(C1)を係合した状態で、前記回転電機(3)から逆転回転(例えばω2)を出力し、前記第2軸(12)、前記第2クラッチ(C1)、前記無段変速機構(4)を介して前記車輪(30)を後進回転する後進走行時に、前記内燃エンジン(2)の始動を指令し、該内燃エンジン(2)の出力回転(例えばω1)により前記第1軸(11)を介して前記機械式オイルポンプ(21)を駆動する機械式オイルポンプ駆動モードを実行し得る制御部(50)と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係るハイブリッド駆動装置(1)の(例えば図1参照)前記制御部(50)は、前記無段変速機構(4)に入力される入力トルクが所定値(TA)以上である場合に、前記機械式オイルポンプ駆動モードを実行することを特徴とする。
【0010】
さらに、本発明に係るハイブリッド駆動装置(1)の(例えば図1、図5参照)前記制御部(50)は、前記油圧制御装置(9)に指令して前記第1クラッチ(K0)を係合すると共に前記第2クラッチ(C1)を解放した状態で、前記内燃エンジン(2)の出力回転(例えばω1)により、前記第1軸(11)、前記第1クラッチ(K0)、前記第2軸(12)を介して前記回転電機(3)を駆動して充電を行う充電モードを実行し得ることを特徴とする。
【0011】
なお、上記カッコ内の符号は、図面と対照するためのものであるが、これは、発明の理解を容易にするための便宜的なものであり、特許請求の範囲の構成に何等影響を及ぼすものではない。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る本発明によると、回転電機からの逆転回転によって後進走行を行うハイブリッド駆動装置にあって、内燃エンジンの出力回転により機械式オイルポンプを駆動する機械式オイルポンプ駆動モードを実行し得るので、後進走行時であっても、機械式オイルポンプの駆動により油圧を発生させることができ、電動オイルポンプが出力する設計上の必要油圧を低減できて該電動オイルポンプの小型化やコストダウンを可能とすることができる。これにより、ハイブリッド駆動装置のコンパクト化やコストダウンを可能とすることができる。
【0013】
請求項2に係る本発明によると、前記無段変速機構に入力される入力トルクが所定値以上である場合に、機械式オイルポンプ駆動モードを実行するので、無段変速機構で必要な油圧(例えばベルト挟持圧)が所定圧よりも小さい場合には、電動オイルポンプの駆動によって油圧を供給するため、内燃エンジンを停止することができ、車両の燃費向上を図ることができ、無段変速機構で必要な油圧(例えばベルト挟持圧)が所定圧よりも大きい場合には、内燃エンジンによる機械式オイルポンプの駆動により該必要な油圧を確保することができる。
【0014】
請求項3に係る本発明によると、第1クラッチを係合すると共に第2クラッチを解放した状態で、内燃エンジンの出力回転により回転電機を駆動して充電を行う充電モードを実行し得るので、後進走行のために必要な充電残量が足りなくても、車両の停車中に(前進走行することなく)充電を行うことができ、後進走行の再開を可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係るハイブリッド駆動装置を搭載した車両駆動系を示すブロック図。
【図2】ハイブリッド駆動装置における動力伝達状態を示す図で、(a)は内燃エンジンによる前進走行モードの図、(b)はモータによる前進走行モードの図。
【図3】ハイブリッド駆動装置における動力伝達状態を示す図で、(a)は所定トルク未満における後進走行モードの図、(b)は所定トルク以上における後進走行モードの図。
【図4】後進走行時の制御を示すフローチャート。
【図5】ハイブリッド駆動装置の充電モードにおける動力伝達状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る実施の形態を図1乃至図5に沿って説明する。まず、本発明を適用し得るハイブリッド駆動装置、並びにそれを搭載した車両駆動系の概略構成について図1に沿って説明する。
【0017】
図1に示すように、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)タイプの車両には、不図示の出力軸(クランク軸)が車両進行方向に対して横向きとなるように内燃エンジン(E/G)2が搭載されており、該内燃エンジン2の出力軸には、本発明に係るハイブリッド駆動装置1の入力軸(第1軸)11が駆動連結されている。また、該ハイブリッド駆動装置1のディファレンシャル装置(DIFF)5には、前輪用の左右車軸31,31が駆動連結されており、それら左右車軸31,31には左右前方の車輪30が接続されている。なお、内燃エンジン2には、停止した内燃エンジン2を始動するためのスタータ(STARTER)41が接続されて配置されている。
【0018】
ハイブリッド駆動装置1は、上記内燃エンジン2から左右前方の車輪90,90までの車両駆動系の一部を構成しており、ケース10の内部に、入力軸11、エンジン切離し用の第1クラッチK0、モータジェネレータ(M/G)(回転電機)3、中間軸(第2軸)12、モータジェネレータ切離し用の第2クラッチC1、ベルト式の無段変速機構(CVT)4、ディファレンシャル装置(DIFF)5を備えて構成されている。また、ハイブリッド駆動装置1のケース10の外部には、電動オイルポンプ22、油圧制御装置(V/B)9、制御部(ECU)50等が備えられている。
【0019】
詳細には、ハイブリッド駆動装置1において、(ハイブリッド駆動装置としての)入力軸11は、内燃エンジン2の不図示の出力軸に駆動連結されており、該入力軸11上には、例えばギヤ式オイルポンプからなる機械式オイルポンプ(MOP)21が配設されている。該機械式オイルポンプ21の図示を省略したドライブギヤは、該入力軸11に駆動連結されており、つまり機械式オイルポンプ21は入力軸11に連動して駆動され、言い換えると、機械式オイルポンプ21は内燃エンジン2に連動して駆動される。該機械式オイルポンプ21は、駆動されると、図示を省略したオイルパンからオイルを吸引し、油圧制御装置9に対する元圧として油圧を供給する。
【0020】
上記入力軸11と中間軸12との間には、それら入力軸11と中間軸12との動力伝達を切断自在なエンジン切離し用の第1クラッチK0が備えられている。該第1クラッチK0は、図示を省略した油圧サーボを有しており、制御部50の指令に基づき油圧制御装置9から供給される油圧によって該油圧サーボが駆動制御されることにより、係合・解放自在に制御される。
【0021】
一方、モータジェネレータ(M/G)(以下、単に「モータ」という)3は、ロータ3aとケース10に対して固定されたステータ3bとを有しており、モータ3のロータ3aは、上記第1クラッチK0の出力側部材であるクラッチドラムに駆動連結されている。また、第1クラッチK0のクラッチドラムは、中間軸12にも駆動連結されており、つまり中間軸12はモータ3に駆動連結されている。
【0022】
上記中間軸12と詳しくは後述する無段変速機構4の入力軸4aとの間には、それら中間軸12と入力軸4aとの動力伝達を切断自在なモータジェネレータ切離し用の第2クラッチC1が備えられている。該第2クラッチC1は、第1クラッチK0と同様に、図示を省略した油圧サーボを有しており、制御部50の指令に基づき油圧制御装置9から供給される油圧によって該油圧サーボが駆動制御されることにより、係合・解放自在に制御される。
【0023】
無段変速機構(CVT)4は、いわゆるベルト式の無段変速機構からなり、図示を省略したプライマリプーリ、セカンダリプーリ、及びそれら両プーリに巻回されたベルトを有しており、入力軸4aに入力された回転を無段変速して、不図示のカウンタギヤ、上述したディファレンシャル装置(DIFF)5、左右車軸31,31を介して、入力軸4aに入力された回転と同一方向の回転を車輪30に出力する。要するに、本無段変速機構4には、入力軸4aに入力された回転を正転又は逆転させるための前後進切換え装置を有してなく、入力軸4aに入力された回転の方向と出力される回転の方向は同一である。つまり本無段変速機構4は、入力軸4aの回転を入力された回転方向に従って同回転方向に無段変速するだけの変速機である。
【0024】
なお、無段変速機構4のプライマリプーリ及びセカンダリプーリは、例えば可動プーリと固定プーリとから構成されていると共に、可動プーリの背面側にはチャンバ室が設けられており、それらチャンバ室に油圧制御装置9から供給される油圧によってベルトの挟持圧が制御される。即ち、無段変速機構4が比較的小さなトルクを伝達する際は、チャンバ室に供給される油圧が小さくされ、ベルトの耐久性の向上を図るものでありながら、無段変速機構4が比較的大きなトルクを伝達する際は、チャンバ室に供給される油圧が大きくされ、ベルトにスリップが生じないように強い挟持圧で該ベルトが挟持される。従って、内燃エンジン2やモータ3から大きなトルクが入力され、無段変速機構4の伝達トルク容量として大きなトルク容量が必要とされる際は、油圧制御装置9から大きな油圧をチャンバ室に供給する必要があり、油圧制御装置9は、元圧として、機械式オイルポンプ21や後述する電動オイルポンプ22から大きな油圧を得る必要がある。
【0025】
電動オイルポンプ22は、例えばケース10の外部に取付けられており(勿論、ケース10の内部に配置されていてもよい)、不図示の電動モータによって駆動されることで、内燃エンジン2やモータ3の駆動等は無関係に、機械式オイルポンプ21とは独立して駆動される。即ち、電動オイルポンプ22は、内燃エンジン2が停止されて機械式オイルポンプ21が停止している間にあって、独立して補助的に油圧を発生し、モータ3によるEV走行時などにあっても、油圧制御装置9に対する元圧の供給状態を確保する。
【0026】
一方、制御部50は、上記スタータ41に指令することで内燃エンジン2を始動自在であり、かつモータ3に指令することでモータ3の駆動力を制御自在であり、また、油圧制御装置9に指令して電子制御することで、上記第1クラッチK0の係合・解放制御、上記第2クラッチC1の係合・解放制御、上記無段変速機構4の変速制御(ベルト挟持圧の制御も含む)などを行う。また、制御部50は、詳しくは後述するように、本発明に係る機械式オイルポンプ駆動モード、充電モードなどの各種モードを実行制御する。
【0027】
なお、制御部50には、各種センサの検知結果から、アクセル開度情報51、車速情報52、車両の加速度情報53、無段変速機構4の変速比情報54、ハイブリッド駆動装置1の油温情報55、バッテリ充電残量情報56、シフト信号57などが入力される。また、制御部50は、これらの各情報51〜57に基づき、モータ3に出力トルクの指令を行って、モータ3を駆動制御する。
【0028】
即ち、該制御部50は、モータ3への指令に基づき、詳しくは後述する後進走行モード中に無段変速機構4に入力される入力トルク(即ちモータ3の駆動力)が所定値以上となると、機械式オイルポンプ駆動モードを実行することになる。なお、本実施の形態においては、便宜的に、ハイブリッド駆動装置1の制御部50が内燃エンジン2の始動(駆動状態)も制御するように説明するが、エンジン専用の制御部(E/G ECU)を別途備えているものであっても構わない。
【0029】
ついで、本ハイブリッド駆動装置1に各種モードについて、図2乃至図5に沿って説明する。本ハイブリッド駆動装置1の制御部50は、シフト信号57(即ち、ドライブレンジ、リバースレンジ、ニュートラルレンジなど)、バッテリ充電残量(SOC)情報56、アクセル開度情報51、車速情報52などの車両走行状況に基づき、各種モードを選択する。
【0030】
まず、前進走行時のモードについて図2に沿って説明する。例えばシフト信号57がドライブ(D)レンジであって、アクセル開度が大きく、つまり運転者に要求される車両の駆動力が大きいと、図2(a)に示すように、「内燃エンジン2による前進走行モード」が選択され、内燃エンジン2が駆動状態にされると共に第1クラッチK0及び第2クラッチC1が係合状態に制御される。
【0031】
即ち、ハイブリッド駆動装置1の入力軸11に内燃エンジン2の正転方向ω1の出力回転が入力され、第1クラッチK0を介して中間軸12にも内燃エンジン2の正転方向ω1の駆動回転が伝達され、さらに、第2クラッチC1を介して無段変速機構4の入力軸4aにも内燃エンジン2の正転方向ω1の駆動回転が伝達される。そして、無段変速機構4の入力軸4aに入力された内燃エンジン2の回転は、車速やアクセル開度に基づき内燃エンジン2が最適燃費となるような変速比に制御された無段変速機構4によって変速され、ディファレンシャル装置5、左右車軸31,31を介して車輪30に伝達され、車輪30を前進回転させる。
【0032】
この「内燃エンジン2による前進走行モード」にあっては、入力軸11が内燃エンジン2の出力回転により駆動され、機械式オイルポンプ21が回転駆動されるため、該機械式オイルポンプ21によって油圧制御装置9に対する油圧(元圧)が発生される。油圧制御装置9は、その油圧に基づき、第1クラッチK0の油圧サーボの係合圧、第2クラッチC1の油圧サーボの係合圧、無段変速機構4のベルト挟持圧をそれぞれ供給する。
【0033】
なお、この「内燃エンジン2による前進走行モード」の説明においては、内燃エンジン2だけの出力回転(出力トルク)で車両を走行させるものを説明したが、勿論、モータ3を力行制御(アシスト)又は回生制御し、モータ3の出力トルクを内燃エンジン2の出力トルクと複合させて走行しても構わない。
【0034】
次に、例えばシフト信号57がドライブ(D)レンジであって、アクセル開度が小さく、運転者に要求される車両の駆動力が小さい状態で、かつ車速が低い発進時などの走行状況では、図2(b)に示すように、「モータ3による前進走行モード」(即ちEV走行)が選択され、内燃エンジン2が停止状態にされると共に第1クラッチK0が解放状態に制御され、かつ第2クラッチC1が係合状態に制御されて、モータ3がアクセル開度に基づき駆動制御される。
【0035】
即ち、ハイブリッド駆動装置1の入力軸11及び内燃エンジン2は停止状態にあって、中間軸12にモータ3の正転方向ω1の駆動回転が伝達され、さらに、第2クラッチC1を介して無段変速機構4の入力軸4aにもモータ3の正転方向ω1の駆動回転が伝達される。そして、無段変速機構4の入力軸4aに入力されたモータ3の回転は、車速やアクセル開度に基づき最適な変速比に制御された無段変速機構4によって変速され、ディファレンシャル装置5、左右車軸31,31を介して車輪30に伝達され、車輪30を前進回転させる。
【0036】
この「モータ3による前進走行モード」にあっては、内燃エンジン2が停止され、入力軸11も停止されて機械式オイルポンプ21が停止されるため、電動オイルポンプ22が駆動され、該電動オイルポンプ22によって油圧制御装置9に対する油圧(元圧)が発生される。油圧制御装置9は、その油圧に基づき、第2クラッチC1の油圧サーボの係合圧、無段変速機構4のベルト挟持圧をそれぞれ供給する。
【0037】
なお、この「モータ3による前進走行モード」にあって、電動オイルポンプ22により発生し得る最大の油圧に基づく無段変速機構4のベルト挟持圧、即ち無段変速機構4の伝達可能な最大トルク容量よりも、アクセル開度等に基づく運転者の要求駆動力が大きくなるような場合は、制御部50は、上記「内燃エンジン2による前進走行モード」にモード選択を変更する。これにより、機械式オイルポンプ21の駆動によって無段変速機構4のベルト挟持圧が上昇されるので、無段変速機構4におけるベルトスリップが防止されることになる。
【0038】
また、この「モータ3による前進走行モード」の間にあっては、機械式オイルポンプ21が停止されているが、不図示の逆止弁等によって、電動オイルポンプ22から機械式オイルポンプ21への油圧の逆流は防止されている。
【0039】
続いて、本ハイブリッド駆動装置1における後進走行時のモードについて、図3及び図4に沿って説明する。なお、本ハイブリッド駆動装置1においては、上述したように無段変速機構4に前後進切換え装置を備えてなく、モータ3の逆転回転による駆動出力により車両の後進走行を可能にするものである。
【0040】
まず、制御部50が制御を開始し(S1)、例えば運転者がシフトレバー操作によってR(リバース)レンジにシフト操作し、シフト信号57がリバースレンジとなると(S2)、制御部50は電動オイルポンプ22を駆動し(S3)、油圧制御装置9に対する最低限の元圧の供給を開始する(S4)。続いて、制御部50は油圧制御装置9に指令し、第2クラッチC1の油圧サーボに係合圧の供給を行って該第2クラッチC1を係合する(S5)。これにより、図3(a)に示すように、第2クラッチC1を介してモータ3が、無段変速機構4、ディファレンシャル装置5、左右車軸31,31、車輪30に駆動連結される。
【0041】
そして、例えばモータ3からクリープ走行用としての微小なトルクが出力されると、図3(a)に示すように、モータ3から中間軸12に逆転方向ω2のトルクが出力され、さらに、第2クラッチC1を介して無段変速機構4の入力軸4aにもモータ3の逆転方向ω2の駆動回転が伝達される。そして、無段変速機構4の入力軸4aに入力されたモータ3の回転は、車速やアクセル開度に基づき最適な変速比に制御された無段変速機構4によって変速され、ディファレンシャル装置5、左右車軸31,31を介して車輪30に伝達され、車輪30を後進回転させる。
【0042】
ここで、例えば運転者によりアクセルが踏圧(ON)されると(S6)、制御部50は、アクセル開度情報51等から、運転者の要求駆動力を算出し、無段変速機構4に入力される入力トルクTin(即ちモータ3の出力トルク)が所定トルクTA以上であるか否かを判断する(S7)。この所定トルクTAは、電動オイルポンプ22の最大出力油圧に基づく無段変速機構4のベルト挟持圧及び第2クラッチC1のトルク容量から算出される無段変速機構4及び第2クラッチC1の伝達可能トルク容量であり、要するに、電動オイルポンプ22の発生油圧だけでベルトスリップ又はクラッチ滑りが生じるか否かの境界となる値である。
【0043】
上記ステップS7において、制御部50が、無段変速機構4に入力される入力トルクTinが所定トルクTA未満であることを判定すると(S7のYES)、図3(a)に示すように、内燃エンジン2を停止したまま、該制御部50によって電動オイルポンプ22の電動モータが指令制御され、該電動オイルポンプ(EOP)22により無段変速機構4のベルト挟持圧として必要な元圧を油圧制御装置9に出力する(S8)。
【0044】
そして、制御部50は、アクセル開度等に応じてモータ(M/G)3を制御し(S12)、該モータ3は要求駆動力に応じたトルクを出力し、かつ無段変速機構4を最適な変速比に制御することで、車両の後進走行を行い、本制御を終了する(S13)。
【0045】
一方、上記ステップS7において、制御部50が、無段変速機構4に入力される入力トルクTinが所定トルクTA以上であることを判定すると(S7のNO)、図3(b)に示すように、第1クラッチK0を解放したまま、スタータ41に指令して内燃エンジン2を始動し(S9)、入力軸11を正転方向ω1に駆動回転して機械式オイルポンプ21を駆動し(S10)、つまり「機械式オイルポンプ駆動モード」を開始する。
【0046】
即ち、この「機械式オイルポンプ駆動モード」では、第1クラッチK0を解放することで、モータ3による逆転方向ω2の駆動回転には影響することなく、機械式オイルポンプ21を駆動するためだけに内燃エンジン2を始動する。これにより、機械式オイルポンプ21により無段変速機構4のベルト挟持圧として必要な元圧を油圧制御装置9に出力することが可能となる(S11)。
【0047】
このため、モータ3から上記所定トルクTA以上の大きなトルクが出力され(S12)、無段変速機構4に上記所定トルクTA以上の大きなトルクが入力されても、機械式オイルポンプ21により発生される元圧に基づき、ベルト挟持圧が大きくなるように油圧制御されるので、無段変速機構4においてベルトスリップを生じることなく、かつ無段変速機構4を最適な変速比に制御されつつ、車両の後進走行を行い、本制御を終了する(S13)。
【0048】
なお、この「機械式オイルポンプ駆動モード」の間にあっては、機械式オイルポンプ21が出力する元圧が電動オイルポンプ22の元圧出力よりも大きくなると、該電動オイルポンプ22は停止され、不図示の逆止弁等によって、機械式オイルポンプ21から電動オイルポンプ22への油圧の逆流が防止される。
【0049】
続いて、本ハイブリッド駆動装置1における「充電モード」について図5に沿って説明する。上述したように、本ハイブリッド駆動装置1によって後進走行する場合には、無段変速機構4に前後進切換え装置が備えられていないため、モータ3の逆転回転による駆動出力によって、車両の後進走行を可能にしている。そのため、仮にバッテリ残量が足りない場合には、後進走行ができなくなる虞がある。
【0050】
そこで、制御部50は、バッテリ残量が足りない場合に、図5に示すように、「充電モード」を選択する。この「充電モード」が選択されると、第1クラッチK0を係合制御すると共に第2クラッチC1を解放制御した状態にされ、かつ内燃エンジン2が始動されて、入力軸11、中間軸12、及びモータ3のロータ3aが正転方向ω1に回転駆動される。この際、モータ3が回生制御されて、該モータ3によりバッテリの充電が行われる。
【0051】
これにより、後進走行のために必要な充電残量が足りなくても、車両の停車中に(前進走行することなく)充電を行うことができるので、その後、後進走行を再開することを可能とすることができる。
【0052】
なお、この際は、入力軸11の駆動により機械式オイルポンプ21が駆動されるので、該機械式オイルポンプ21が発生する油圧に基づき、第1クラッチK0の係合圧が確保される。
【0053】
また、本モータ3を不図示のインバータ回路及び降圧回路を介して、補機用バッテリ(いわゆる12Vバッテリ)に接続する構成を採用することで、同時に補機用バッテリの充電も可能となり、これにより、オルタネータ、ファンベルト等の充電用補機も不要とすることができる。勿論、モータ3の駆動用のバッテリから降圧回路を介して補機用バッテリに電力を供給するようにしてもよい。
【0054】
以上説明したように、モータ3からの逆転回転によって後進走行を行うハイブリッド駆動装置1にあって、内燃エンジン2の出力回転により機械式オイルポンプ21を駆動する「機械式オイルポンプ駆動モード」を実行し得るので、後進走行時であっても、機械式オイルポンプ21の駆動により油圧を発生させることができ、電動オイルポンプ22が出力する設計上の必要油圧を低減できて電動オイルポンプ22の小型化やコストダウンを可能とすることができる。これにより、ハイブリッド駆動装置1のコンパクト化やコストダウンを可能とすることができる。
【0055】
また、制御部50は、無段変速機構4に入力される入力トルクが所定トルクTA以上である場合に、「機械式オイルポンプ駆動モード」を実行するので、無段変速機構4で必要な油圧(例えばベルト挟持圧)が所定圧よりも小さい場合には、電動オイルポンプ22の駆動によって油圧を供給するため、内燃エンジン2を停止することができ、車両の燃費向上を図ることができ、無段変速機構4で必要な油圧(例えばベルト挟持圧)が所定圧よりも大きい場合には、内燃エンジン2による機械式オイルポンプ21の駆動により該必要な油圧を確保することができる。
【0056】
なお、以上説明した本実施の形態においては、無段変速機構4としてベルト式の無段変速機構を一例に説明したが、これに限らず、例えばトロイダル式の無段変速機構であっても本発明を適用し得る。トロイダル式の無段変速機構の場合は、機械式オイルポンプ21や電動オイルポンプ22から必要とされる元圧の供給により、バリエータにおけるパワーローラの挟持圧を確保することが可能となり、電動オイルポンプ22の油圧が足りない場合に、機械式オイルポンプ21の油圧によって、パワーローラのスリップ防止を図ることができる。
【0057】
また、本実施の形態において、機械式オイルポンプ21や電動オイルポンプ22は、いわゆるギヤ式オイルポンプであるものを説明したが、これに限らず、ベーン式オイルポンプ、クレセント型のギヤ式オイルポンプ、などであってもよく、さらに、ギヤ式オイルポンプであっても、内接型や外接型のギヤ式オイルポンプなどが考えられる。
【符号の説明】
【0058】
1 ハイブリッド駆動装置
2 内燃エンジン
3 回転電機(モータ)
4 無段変速機構
4a 入力軸
9 油圧制御装置
11 第1軸(入力軸)
12 第2軸(中間軸)
21 機械式オイルポンプ
22 電動オイルポンプ
30 車輪
50 制御部
C1 第2クラッチ
K0 第1クラッチ
TA 所定値(所定トルク)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃エンジンに駆動連結された第1軸と、
前記第1軸に連動して駆動される機械式オイルポンプと、
前記機械式オイルポンプとは独立して駆動される電動オイルポンプと、
回転電機と、
前記回転電機に駆動連結された第2軸と、
前記第1軸と前記第2軸との動力伝達を切断自在な第1クラッチと、
入力軸に入力された回転を無段変速して該入力軸に入力された回転と同一方向の回転を車輪に出力し得る無段変速機構と、
前記第2軸と前記入力軸との動力伝達を切断自在な第2クラッチと、
前記機械式オイルポンプと前記電動オイルポンプとの少なくとも一方により発生された油圧により、前記第1クラッチ、前記第2クラッチ、前記無段変速機構を油圧制御し得る油圧制御装置と、
前記油圧制御装置に指令して前記第1クラッチを解放すると共に前記第2クラッチを係合した状態で、前記回転電機から逆転回転を出力し、前記第2軸、前記第2クラッチ、前記無段変速機構を介して前記車輪を後進回転する後進走行時に、前記内燃エンジンの始動を指令し、該内燃エンジンの出力回転により前記第1軸を介して前記機械式オイルポンプを駆動する機械式オイルポンプ駆動モードを実行し得る制御部と、を備えた、
ことを特徴とするハイブリッド駆動装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記無段変速機構に入力される入力トルクが所定値以上である場合に、前記機械式オイルポンプ駆動モードを実行する、
ことを特徴とする請求項1記載のハイブリッド駆動装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記油圧制御装置に指令して前記第1クラッチを係合すると共に前記第2クラッチを解放した状態で、前記内燃エンジンの出力回転により、前記第1軸、前記第1クラッチ、前記第2軸を介して前記回転電機を駆動して充電を行う充電モードを実行し得る、
ことを特徴とする請求項1または2記載のハイブリッド駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−95260(P2013−95260A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−239710(P2011−239710)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】