ハイポイドギヤの解析システム
【課題】所望の歯面接触状態を得るための諸元調整を容易に実現することができるハイポイドギヤの解析システムを提供する。
【解決手段】演算部6は、ピニオンワーク110Pに対するカッタヘッド230の相対位置を設定するに際し、ギヤ101Gの設計諸元を第1の調整寸法で調整した仮想ギヤ101iGを設定し、この仮想ギヤ101iGの諸元とカッタヘッド230の設定寸法とに基づいて仮想ワーク110iGに歯面を成形加工すると仮定したときのカッタヘッド230の仮想相対位置を演算するとともに、第2の調整寸法を用いて仮想相対位置を仮想ギヤ101iGのピッチ点P基準で調整し、仮想ギヤ101iGとピニオン101Pとの仮想組立寸法と調整した仮想相対位置とに基づいてピニオンワーク110Pにピニオン歯面102Pを創成加工する際のカッタヘッド230の相対位置を演算する。
【解決手段】演算部6は、ピニオンワーク110Pに対するカッタヘッド230の相対位置を設定するに際し、ギヤ101Gの設計諸元を第1の調整寸法で調整した仮想ギヤ101iGを設定し、この仮想ギヤ101iGの諸元とカッタヘッド230の設定寸法とに基づいて仮想ワーク110iGに歯面を成形加工すると仮定したときのカッタヘッド230の仮想相対位置を演算するとともに、第2の調整寸法を用いて仮想相対位置を仮想ギヤ101iGのピッチ点P基準で調整し、仮想ギヤ101iGとピニオン101Pとの仮想組立寸法と調整した仮想相対位置とに基づいてピニオンワーク110Pにピニオン歯面102Pを創成加工する際のカッタヘッド230の相対位置を演算する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイポイドギヤを加工する際のワークとカッタヘッドとの相対関係に基づいてハイポイドギヤの解析を行うハイポイドギヤの解析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ハイポイドギヤとしては、ワークを固定したままカッタヘッドを回転させるフェースミル方式の歯面加工によって各歯車(ギヤ及びピニオン)に歯面をそれぞれ加工したハイポイドギヤや、ワークとカッタヘッドとを同時に回転させるフェースホブ方式の歯面加工によって各歯車に歯面をそれぞれ加工したハイポイドギヤとが広く知られている。
【0003】
近年、フェースミル方式を用いて歯面加工されるハイポイドギヤについては、加工機に対する適切な制御パラメータの設定方法や、加工された歯面の解析方法等についての研究が数多くなされている。
【0004】
その一方で、フェースホブ方式を用いて歯面加工されるハイポイドギヤについては、加工機の各種制御パラメータを設定する際に最も基本となる各ワークとカッタヘッドとの相対位置の設定方法さえも十分に確立されていないのが実情であった。
【0005】
これに対処し、例えば、特許文献1には、加工機でギヤを成形加工する際の制御パラメータをギヤの設計諸元に基づいて設定する一方、ギヤの設計諸元に歯当り調整寸法(ギヤのピッチ円錐角に対する調整量、ギヤの捩れ角に対する調整量、及び、ギヤ歯幅に対する歯当り幅の割合等)を反映させて仮想ギヤを設定し、仮想ギヤワークとカッタヘッドとの相対位置、及び、仮想ギヤとピニオンとの組立寸法に基づいて加工機でピニオンを創成加工する際の制御パラメータを設定する技術が開示されている。さらに、この特許文献1に開示された技術では、歯当り調整寸法として、歯筋方向のクラウニング補正量等が設定可能となっており、このクラウニング補正量等に基づいて加工機上の各設定値(例えば、加工機上のスイベル角やチルト角等の座標軸等)が微調整される。
【特許文献1】特開2007−185760号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の特許文献1に開示された技術において、調整される加工機上の各座標軸等はハイポイドギヤの寸法との直接的な対応関係が薄いため、これら加工機設定の修正量に基づいて、歯面の接触状態の変化等を想像することが困難である。
【0007】
また、加工機上の各座標軸を微調整することは、仮想ギヤとピニオン(カッタヘッド)との組立寸法を間接的に変化させることに帰結し、その結果、創成加工されるピニオンの歯丈が変化して切込み量が不足する等、実用性の低いピニオンが加工される虞がある。
【0008】
このため、上述の特許文献1に開示された技術では、最適な歯当り調整寸法を直感的に設定することが困難であり、この設定には熟練を要していた。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、所望の歯面接触状態を得るための諸元調整を容易に実現することができるハイポイドギヤの解析システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、フェースホブ方式のカッタヘッドを回転させることによって、一方の歯車である第1の歯車の歯面が第1のワークに成形加工されるとともに、他方の歯車である第2の歯車の歯面が第2のワークに創成加工されるハイポイドギヤの解析システムであって、前記第1の歯車の設計諸元と前記カッタヘッドの設定寸法とに基づいて前記第1のワークに対する前記カッタヘッドの相対位置を演算し、この相対位置に基づいて前記カッタヘッドで成形加工される前記第1の歯車の歯面を演算する第1の歯面演算手段と、前記第1の歯車の諸元に基づいて仮想歯車の諸元を設定するための第1の調整寸法と、前記仮想歯車のピッチ点或いはその近傍の点を基準として前記カッタヘッドの配置を調整する第2の調整寸法とを入力する入力手段と、前記仮想歯車の諸元と前記第2の調整寸法と前記カッタヘッドの設定寸法とに基づいて前記仮想歯車の仮想ワークに歯面を形成加工すると仮定したときの前記仮想ワークに対する前記カッタヘッドの仮想相対位置を演算する仮想相対位置演算手段と、前記仮想歯車の諸元と前記ピニオンの設計諸元とに基づいて前記仮想歯車と前記ピニオンとの仮想組立寸法を演算する仮想組立寸法演算手段と、前記仮想相対位置と前記仮想組立寸法とに基づいて前記第2のワークに対する前記カッタヘッドの相対位置を演算し、この相対位置に基づいて前記カッタヘッドで創成加工される前記第2の歯車の歯面を演算する第2の歯面演算手段と、前記第1の歯面演算手段で演算した前記第1の歯車の歯面と前記第2の歯面演算手段で演算した前記第2の歯車の歯面との接触状態を解析する歯面接触解析手段と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明のハイポイドギヤの解析システムによれば、所望の歯面接触状態を得るための諸元調整を容易に実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の形態を説明する。図面は本発明の一実施形態に係わり、図1はハイポイドギヤの斜視図、図2はフェースホブ方式のカッタヘッドの一例を示す斜視図、図3はハイポイドギヤの解析システムの概略構成図、図4はハイポイドギヤの解析システムを実現するためのコンピュータシステムの一例を示す概略構成図、図5はハイポイドギヤの解析ルーチンを示すフローチャート、図6は入力画面の一例を示す説明図、図7はギヤワークに対するカッタヘッドの相対位置を示す説明図、図8はギヤワークに対するカッタヘッドの相対位置と組立寸法とに基づいて演算されるピニオンワークに対するカッタヘッドの相対位置を示す説明図、図9はカッタヘッドの傾き調整軸の一例を示す説明図、図10乃至図18は調整寸法とイーズオフの変化との関係を示す説明図、図19乃至図23は各調整寸法及び歯面接触解析結果の表示例を示す説明図、図24は図19乃至図23の歯面接触解析に用いた基本的な寸法の一例を示す図表である。
【0013】
図1において、符号100はハイポイドギヤを示し、このハイポイドギヤ100は、例えば、大径をなす一方の歯車(以下、ギヤまたはクラウンともいう)101Gと、小径をなす他方の歯車(以下、ピニオンともいう)101Pとが互いに噛合して構成されている。本実施形態において、これらギヤ101G及びピニオン101Pの各歯面は、例えば、図2に示すフェースホブ方式のカッタヘッド230を用いて加工されており、具体的には、ギヤ101Gの歯面102G(凸歯面102Ga及び凹歯面102Gb)がカッタヘッド230を用いて成形加工され、ピニオン101Pの歯面102P(凸歯面102Pa及び凹歯面102Pb)がカッタヘッド230を用いて創成加工されている。すなわち、本実施形態では、ギヤ101Gが第1の歯車に相当し、ピニオン101Pが第2の歯車に相当する。
【0014】
図2に示すように、本実施形態において、フェースホブ方式のカッタヘッド230は、円盤状のカッタボディ231を有する。このカッタボディ231の中心部には、加工機(図示せず)にカッタヘッド230を固定するための取付孔232が設けられている。
【0015】
また、カッタボディ231の一端面はカッタヘッド230の表面(Cutter head surface)233として設定され、このヘッド表面233からヘッド軸ZC方向に設定距離離れた点が、カッタヘッド230の基準点(原点OC)として設定されている。ここで、カッタヘッド230のヘッド表面233から原点OCまでの軸方向距離は、カッタヘッド230に固有に設定されるものであるが、ハイポイドギヤ100の設計諸元に基づいて設定されることが望ましく、本実施形態においては、ハイポイドギヤ100の有効歯丈hの半値に適宜クリアランスを加えた値が設定されている。
【0016】
さらに、ヘッド表面233からは、凹歯面加工用ブレード240oと凸歯面加工用ブレード240iとからなる複数のブレード240が突設されている。ここで、各ブレード240o,240iは、カッタボディ231に形成されたブレード固定孔(図示せず)に着脱自在に挿入固定されるようになっている。その際、各ブレード240o,240iは、例えば、先端部に形成されるエッジが、カッタヘッド230の参照平面(原点OCを通りヘッド表面233と平行な平面;reference plane)から設定量突出する位置に固定される。なお、上述のように、カッタヘッド230のヘッド表面233から原点OCまでの軸方向距離がハイポイドギヤ100の有効歯丈hの半値に設定されている本実施形態において、突出量は、ハイポイドギヤ100の有効歯丈hの半値(h/2)にクリアランスcを加算した値b(=(h/2)+c:blade dedendum)に設定されている。
【0017】
このようなカッタヘッド230で加工されるハイポイドギヤ100の解析を行う解析システム1は、図3に示すように、ハイポイドギヤ100の設計諸元やカッタヘッド230の設定寸法、歯当り調整寸法等を入力する入力手段としての入力部5と、カッタヘッド230で加工されるギヤ101G及びピニオン101Pの各歯面102G,102Pやこれら歯面の接触解析等の各種演算を行う演算部6と、演算部6で実行される各種プログラムを格納するとともに、入力部5からの入力情報等を適宜記憶する記憶部7と、演算部6での演算結果等を出力する出力部8とを有して構成されている。
【0018】
この解析システム1の記憶部7には、上述のカッタヘッド230を用いてギヤ101G及びピニオン101Pの各ワーク110G,110Pに加工される歯面についての解析を行うためのプログラムが格納されており、演算部6は、このプログラムを実行することにより、第1の歯面演算手段、仮想相対位置演算手段、仮想組立寸法演算手段、第2の歯面演算手段、及び、歯面接触解析手段としての各機能を実現する。
【0019】
なお、本実施形態の解析システム1は、例えば、図4に示すコンピュータシステム10で実現される。コンピュータシステム10は、例えば、コンピュータ本体11に、キーボード12と、ディスプレイ装置13と、プリンタ14とがケーブル15を介して接続されて要部が構成されている。そして、このコンピュータシステム10において、例えば、コンピュータ本体11に配設された各種ドライブ装置やキーボード12等が入力部5として機能するとともに、コンピュータ本体11に内蔵されたCPU,ROM,RAM等が演算部として機能する。また、コンピュータ本体11に内蔵されたハードディスク等や記憶部7として機能するとともに、ディスプレイ装置13やプリンタ14等が出力部8として機能する。
【0020】
次に、演算部6で実行されるハイポイドギヤの解析処理について、図5に示すハイポイドギヤの解析ルーチンのフローチャートに従って説明する。このルーチンがスタートすると、演算部6は、先ず、ステップS101において、カッタヘッド230の設定寸法、ハイポイドギヤ100の設計諸元、歯当り調整寸法等の各種諸元の取り込みを行う。具体的に説明すると、演算部6は、例えば、ディスプレイ装置13等の出力部8を通じて各種諸元の入力画面(図6(a)参照)を表示し、この入力画面上にキーボード12等の入力部5を通じて入力された諸元を読み込む。
【0021】
ここで、本実施形態において、解析システム1には、カッタヘッド230(及び、ブレード240)の設定寸法として、例えば、
Sr:slot radius
So:slot offset
Cht:cutter head thickness
λs:blade slot tilt angle
γs:blade side rake angle
bfw:blade flat width
bt:blade thickness
bw:blade width
ν:ギヤカッタリード角
rC:カッタ半径
NB:ブレードグループ数
等が入力される。
【0022】
また、解析システム1には、ハイポイドギヤ100(ギヤ101G及びピニオン101P)の設計諸元として、
ψG,ψP:捩れ角(Spiral angle)
ΓG,ΓP:円錐角(Cone angle)
RG,RP:ピッチ点半径(P-point radius)
等が入力される。これらの諸元は、いわゆるギヤ101G及びピニオン101Pの三要素と呼ばれる代表的な寸法である。演算部6は、これら各三要素に基づき、ギヤ101G及びピニオン101Pの他の設計諸元として、例えば、
ZG,ZP:ピッチ点距離(P-point distance)
ε,η:オフセット角(Offset angle)
を一義的に算出する。さらに、演算部6は、ギヤ101Gの設計諸元とピニオン101Pの設計諸元に基づく組立諸元として、例えば、
m:ギヤ比(Gear ratio)
Σ:軸交差角(Shaft angle)
Ε:オフセット量(Offset)
を一義的に算出する。
【0023】
また、解析システム1には、ギヤ101Gの設計諸元に基づいて仮想ギヤ(仮想歯車)101iGの諸元を設定(調整)するための寸法(第1の調整寸法)として、例えば、
ΔψG:捩れ角調整寸法
ΔΓG:円錐角調整寸法
ΔRG:ピッチ点半径調整寸法
が入力される。
【0024】
ここで、仮想ギヤ101iGとは、歯面創成時のピニオンワーク110Pに対するカッタヘッド230の配置等を調整するために設定される仮想的なギヤであり、その諸元は、ギヤ101Gの三要素に、上述の各調整寸法を反映させることによって設定される。
【0025】
すなわち、ピニオンワーク110Pにピニオン歯面102Pa,102Pbを創成加工する際のカッタヘッド230の配置は、基本的には、ギヤワーク110Gにギヤ歯面102Ga,102Gbを成形加工する際のカッタヘッド230の配置と、ギヤ101Gとピニオン101Pとの組立位置とに基づいて設定することが可能である。しかしながら、このような配置で得られるピニオン歯面102Pa,102Pbは、共役歯面となり、ギヤ歯面102Ga,102Gbに対して「べた当たり」するため、実用性に乏しく何らかの歯面調整を要する。そこで、本実施形態においては、後述のように、ギヤ101Gの設計諸元(ψG、ΓG、RG)に対して第1の調整寸法(ΔΨG、ΔΓG、ΔRG)を反映させた仮想ギヤ101iGを設定し、この仮想ギヤ101iGに歯面を形成加工すると仮定したときのワーク(仮想ワーク)110iGに対するカッタヘッド230の配置と、仮想ギヤ101iGとピニオン101Pとの組立位置とに基づいて、ピニオンワーク110Pに対するカッタヘッド230の配置を設定することにより、ピニオン101Pに対する歯面修正を行う。
【0026】
また、仮想ギヤ101iGとピニオン101Pとの組立状態を変更することなく、仮想ギヤ101iGを通じてピニオン101Pに対する更なる歯面修正を行うため、解析システム1には、第1の調整寸法に加え、第2の調整寸法が入力される。この第2の調整寸法は、仮想ギヤ101iGの仮想ワーク110iGに歯面を成形加工すると仮定した際に、仮想ワーク110iGに対して設定されるカッタヘッド230の相対位置(仮想相対位置)を直接的に調整するための各種寸法によって主として構成されている。
【0027】
本実施形態では、第2の調整寸法として、例えば、仮想ギヤ101iGのピッチ点P(Ppoint)を基準とする3軸周りにカッタヘッド230を傾けるための寸法(角度)が入力される。具体的には、例えば、歯面成形時の仮想ワーク110iGとカッタヘッド230との配置関係において、ピッチ点Pを通り且つ仮想ギヤのピッチ円錐の母線方向に設定されるα軸周りにカッタヘッド230を傾けるための角度θαが、第2の調整寸法として入力される。また、ピッチ点Pからカッタヘッド230の原点OCに向かうμ軸と、このμ軸と直交し且つ仮想ワーク110iGのピッチ円錐との接平面上でピッチ点Pを通るκ軸と、μ軸及びκ軸に直交するι軸からなる直交座標系において、κ軸周り及びι軸周りにカッタヘッド230を傾けるための角度θκ及びθιが、第2の調整寸法として入力される。なお、図9には、仮想ギヤ101iG側から見た各軸(α軸、μ軸、κ軸、及び、ι軸)が、当該仮想ギヤ101iGに噛み合うピニオン101P上に表現されている。
【0028】
さらに、他の調整寸法として、例えば、カッタ半径rCを調整するための寸法(カッタ半径修正量)ΔrCが入力されるとともに、歯面創成加工時のパラメータとして使用されるギヤ比mを調整するための修正量(ギヤ比修正量)Δm、ブレード圧力角等が入力される。
【0029】
ステップS101からステップS102に進むと、演算部6は、ギヤ101Gの設計諸元とカッタヘッド230の設定寸法とに基づいてギヤワーク110Gに対するカッタヘッド230の相対位置を演算し、この相対位置に基づいて、カッタヘッド230で成形加工されるギヤ101Gの歯面102Ga,102Gbを演算する。
【0030】
ここで、説明を簡素化するため、カッタヘッド230の原点OCを通る参照平面上にギヤ101Gのピッチ点Pが存在すると仮定すると、ギヤ101Gの設計諸元とカッタヘッド230の設定寸法とに基づき、ギヤ歯面102Gの成型加工時のギヤワーク110Gに対するカッタヘッド230の相対位置として、例えば、図7に示す関係を導き出すことができる。すなわち、ギヤワーク110Gに対するカッタヘッド230の相対位置として、カッタヘッド230の参照平面がギヤワーク110Gのピッチ円錐との接平面Cに一致し、且つ、カッタヘッド230の原点OCが、ピッチ点Pを通りギヤ軸ZGに垂直な平面Bと接平面Cとの交線から、ピッチ点Pを中心に接平面Cに沿ってψG−νだけ回転移動した位置が導き出される。
【0031】
このような関係に基づき、カッタヘッド230の座標系XC−YC−ZCで表されたブレード上の座標は、以下の(1)式に示す行列式により、ギヤワーク110G(ギヤ101G)の座標系XG−YG−ZGに変換することができる。すなわち、行列を〔M〕と表記すると、
〔M〕GC=〔M〕RZ((NB/NG)ωC)〔M〕TZ(ZP)〔M〕TX(RG)
〔M〕RY(ΓG−90°)〔M〕RZ(ψG−ν)〔M〕TZ(d)
〔M〕TY(rC)〔M〕RZ(ωC−90°) … (1)
ここで、(1)式中において、〔M〕GCは、カッタヘッド230の座標系からギヤワーク110Gの座標系へと変換されたブレード上の座標を示す行列である。また、例えば、〔M〕RZ((NB/NG)ωC)はZ軸周りに(NB/NG)ωCの回転(Rotate about Z)を表し、〔M〕TX(RG)はX軸方向にRGの移動(Translate along X)を表す。また、ωCは、カッタヘッド230の回転角度を示す。
【0032】
そして、ギヤ歯面102Gは成形歯面であるため、(1)式において、カッタヘッド230の回転角度ωCを変化させ、ギヤワーク110Gの座標系において、カッタヘッド230のブレード上の点の軌跡を辿れば、ギヤワーク110G上に成形されるギヤ歯面102Gの形状を演算することができる。
【0033】
ステップS102からステップS103に進むと、演算部6は、ギヤ101Gの設計諸元と第1の調整寸法とに基づいて仮想ギヤ101iGの諸元を演算する。すなわち、演算部6は、ギヤ101Gの3要素に第1の調整寸法を反映させることにより、仮想ギヤ101iGの三要素として、例えば、
ψiG(=ψG+ΔψG):捩れ角(Spiral angle)
ΓiG(=ΓG+ΔΓG):円錐角(Cone angle)
RiG(=RG+ΔRG:ピッチ点半径(P-point radius)
を算出し、これら三要素に基づいて、例えば、
ZiG:ピッチ点距離(P-point distance)
εi:オフセット角(Offset angle)
を一義的に算出する。
【0034】
また、ステップS104において、演算部6は、この仮想ギヤ101iGに噛合するピニオン101Pの設計諸元についても、第1の調整寸法に基づく調整を行うようになっており、例えば、
ZiP:ピッチ点距離(P-point distance)
ηi:オフセット角(Offset angle)
を算出する。さらに、演算部6は、仮想ギヤ101iGの諸元とピニオン101Pの設計諸元とに基づき、これらの仮想的な組立諸元(仮想組立寸法)として、例えば、
mi:ギヤ比(Gear ratio)
Σi:軸交差角(Shaft angle)
Ε:オフセット量(Offset)
を演算する。
【0035】
ステップS103からステップS104に進むと、演算部6は、仮想ギヤ101iGの諸元と、第2の調整寸法と、カッタヘッド230の設定寸法とに基づいて、仮想ワーク110iGに対するカッタヘッド230の仮想的な相対位置(仮想相対位置)を演算する。
【0036】
具体的には、演算部6は、先ず、仮想ギヤ101iGの諸元とカッタヘッド230の設定寸法とに基づき、仮想ワーク110iGに対するカッタヘッド230の相対位置として、図7で示した関係と同様の関係を導き出す。また、演算部6は、第2の調整寸法として設定された各角度θα,θκ,θιに基づき、カッタヘッド230の傾きを、仮想ワーク110iG上のピッチ点Pを基準とする3軸(α,κ,ιの各軸)周りに調整する。さらに、寸法ΔrCに基づいてカッタ半径rCをピッチ点P基準で調整することにより、カッタヘッド230の原点OCを、ピッチ点Pを基準としてμ軸方向に移動させる。
【0037】
そして、このように第2の調整寸法を加味して得られたカッタヘッド230の仮想ワーク110iGに対する仮想相対位置に基づき、演算部6は、カッタヘッド230の座標系で表されたブレード上の座標を、仮想ワーク110iG(仮想ギヤ101iG)の座標系に変換するための座標変換式として、以下の(2)式を設定する。
〔M〕iGC=〔M〕RZ((NB/NiG)ωC)〔M〕TZ(ZiP)〔M〕TX(RiG)
〔M〕RY(ΓiG+θα−90°)〔M〕RZ(ΨiG−ν+θι)〔M〕TZ(dP)
〔M〕TX(−θκ)〔M〕TY(rC+ΔrC)〔M〕RZ(ωC−90°)
… (2)
ここで、(2)式中において、〔M〕iGCは、カッタヘッド230の座標系から仮想ギヤワークの座標系へと変換されたブレード上の座標を示す行列である。なお、各調整寸法θα、θκ、θι、及びΔrCが零である場合、(2)式は(1)式と等しくなり、〔M〕iGC=〔M〕GCとなる。
【0038】
ステップS104からステップS105に進むと、演算部6は、ステップS103で演算した仮想ギヤ101iGとピニオン101Pとの仮想組立寸法に基づいて、仮想ギヤ101iG(仮想ワーク110iG)の座標系で定義される座標を、ピニオン101P(ピニオンワーク110P)の座標系の座標に変換するための座標変換式を設定する。本実施形態において、この変換式は、ギヤ比修正量Δm、及び、ピニオン101Pのピッチ点Pの軸方向距離の変化も考慮して設定され、具体的には、例えば、以下の(3)式が設定される。
〔M〕PiG=〔M〕TZ(ZG−ZiG)〔M〕RZ((mi+Δm)ωG−ηi−180°)
〔M〕TY(−Ei)〔M〕RY(−Σi)〔M〕RZ(εi+ωG) … (3)
ここで、(3)式において、ωGは、ギヤ101G(仮想ギヤ101iG)の回転角度を示す。
【0039】
ステップS105からステップS106に進むと、演算部6は、ピニオン歯面102Pの創成加工時のピニオンワーク110Pに対するカッタヘッド230の相対位置を演算し、この相対位置に基づいて、カッタヘッド230で創成加工されるピニオン101Pの歯面102Pa,102Pbを演算する。
【0040】
ここで、ピニオンワーク110Pに対するカッタヘッド230の相対位置は、仮想ワーク110iGに対するカッタヘッド230の仮想相対位置と、仮想ワーク110iG(仮想ギヤ101iG)とピニオンワーク110P(ピニオン101P)との仮想組立寸法とに基づいて演算される(図8参照)。すなわち、ピニオンワーク110Pに対するカッタヘッド230の相対位置は、仮想ワーク110iGに対して配置されたカッタヘッド230上のブレードの向きを、仮想ワーク110iGのピッチ円錐とピニオンワーク110Pのピッチ円錐とに共通の接平面を対称面として反転させる位置に定められる。このような関係は、例えば、上述の(2)式及び(3)式で表すことができ、具体的には、演算部6は、カッタヘッド230の座標系XC−YC−ZCで表されたブレード上の座標を、ピニオンワーク110P(ギヤ101G)の座標系XP−YP−ZPに変換するための行列式として、以下の(4)式を演算する。
〔M〕PC=〔M〕PiG〔M〕iGC …(4)
ここで、(4)式において、〔M〕PCは、カッタヘッド230の座標系からピニオンワーク110Pの座標系へと変換されたブレード上の座標を示す行列である。
【0041】
そして、ピニオン歯面102Pは創成歯面であるため、(4)式において、カッタヘッド230の回転角度ω及びギヤ101Gの回転角度ωGを変化させ、ピニオンワーク110Pの座標系において、カッタヘッド230のブレード上の点の軌跡を辿れば、ピニオンワーク110上に創成されるピニオン歯面102Pの形状を演算することができる。
【0042】
ステップS106からステップS107に進むと、演算部6は、ステップS101で演算したギヤ歯面102Gと、ステップS106で演算したピニオン歯面102Pとの噛み合いについて、歯面接触解析を行う。
【0043】
すなわち、演算部6は、ステップS101で算出した組立諸元(m、Σ、Ε)に基づいてギヤ101Gとピニオン101Pとを配置し、この配置上において上述のギヤ歯面102Gとピニオン歯面102Pとを噛み合わせたときの歯面接触解析を行う。そして、演算部6は、ギヤ歯面102Gとピニオン歯面102Pとの接触状態を表す情報として、例えば、イーズオフとモーションカーブとを演算する。
【0044】
ステップS107からステップS108に進むと、演算部6は、ディスプレイ装置13等の出力部8を通じて、ステップS107で行った歯面接触解析の結果を、各種調整寸法等とともに表示する。すなわち、演算部6は、例えば、図19(a)〜図23(b)に示すように、ギヤ101Gの凸歯面(Crown convex flank)102Gaとピニオンの凹歯面(Pinion concave flank)102Pbとの歯面接触解析結果(イーズオフとモーションカーブ)、及び、ギヤ101Gの凹歯面(Crown concave flank)102Gbとピニオンの凹歯面(Pinion convex flank)102Paとの歯面接触解析結果(イーズオフとモーションカーブ)を、各種調整寸法及びハイポイドギヤ100の外観形状等とともに表示する。
【0045】
ステップS108からステップS109に進むと、演算部6は、ユーザからの変更要求がなされているか否かを調べる。
【0046】
そして、ステップS109において、ユーザからの変更要求がなされていると判定した場合には、演算部6は、ステップS110に進み、例えば、ディスプレイ装置13等の出力部8を通じて調整寸法の入力画面(図6(b)参照)を表示し、キーボード12等の入力部5を通じて入力された歯当り調整寸法を読み込んだ後、ステップS103に戻る。
【0047】
一方、ステップS109において、ユーザからの変更要求がなされていないと判定した場合、演算部6は、ステップS111に進み、ユーザから、本解析処理の終了指示がなされているか否かを調べる。
【0048】
そして、ステップS111において、ユーザからの終了指示がなされていないと判定した場合、演算部6は、ステップS109に戻る。
【0049】
一方、ステップS111において、ユーザからの終了指示がなされていると判定した場合、演算部6は、そのままルーチンを抜ける。
【0050】
なお、上述の処理によって設定されたギヤワーク110G及びピニオンワーク110Pに対する各カッタ配置モデルは、実際の加工機上での配置(加工機設定)に変換して、ハイポイドギヤ100(ギヤ101G及びピニオン101P)の歯切り加工を実現可能であることは勿論である。
【0051】
次に、このような解析装置で調整される各調整寸法と、この調整寸法によって得られるイーズオフの変化(イーズオフ最凸点位置の変化)との関係について、図10乃至図18を参照して説明する。ここで、図10乃至図18において、左側がギヤ101Gの凸歯面102Ga、右側がギヤ101Gの凹歯面102Gbを示し、これらの歯面102Ga,102Gbにおいて、左右の中央側がトー側、下側が歯底側である。また、各調整寸法を±したときの変化を上段(a)と、下段(b)にそれぞれ示す。
【0052】
図10は、第2の調整寸法として入力されるα軸周りの角度θαを調整したときの効果を示す。この角度θαは、ピッチ円錐調整用の寸法であり、角度θαを変更することにより、ギヤ101Gの凸歯面102Ga上で最凸点位置(歯当り位置)がトー側に移動すれば、凹歯面102Gb側でも最凸点位置がトー側に移動する。すなわち、トー側の溝が浅くなる円錐角修正をするときは、ブレード圧力角の作用でトー側の溝幅が狭まる。したがって、最凸点位置がトー側へ移動する。
【0053】
図11は、第2の調整寸法として入力されるκ軸周りの角度θκを調整したときの効果を示す。角度θκを調整することにより、ギヤ101Gの凸歯面102Ga上で最凸点位置が歯底側へ移動すれば、凹歯面102Gb上では最凸点位置が歯先側に移動する。これにより、ピニオン101Pの歯面102Pは創成歯面であるが、カッタヘッド230の傾きによる見かけ上の圧力角が歯当り変化に反映されていることが分かる。
【0054】
図12は、第2の調整寸法として入力されるκ軸周りの角度θκの調整と同時に、ブレード圧力角を変化させて、カッタヘッド230の傾きによる歯当り移動をキャンセルしたときの効果を示す。このような調整により、凸歯面102Ga上及び凹歯面102Gb上において、クラウニングがつくことが分かる。これは、κ軸周りにカッタヘッド230を回転させた場合、ピッチ点P付近ではブレード先端の深さがあまり変わらないものの、歯幅両端側ではより浅くなってブレード圧力角の作用で歯溝幅が狭くなったり、或いは、深くなって広がるためである。
【0055】
図13は、第2の調整寸法として入力されるι軸周りの角度θιを調整したときの効果を示す。角度θιを調整することにより、ギヤ101Gの凸歯面102Ga上で最凸点位置がヒール側へ移動すれば、凹歯面102Gb上では最凸点位置がトー側に移動する。
【0056】
また、図示しないが、カッタ半径修正量ΔrCを調整すれば、凸歯面102Ga側で歯筋方向のクラウニングが大きくなるときは、凹歯面102Gb側で歯筋方向のクラウニングが小さくなる。
【0057】
図14は、第1の調整寸法として入力される捩れ角調整寸法ΔψGを調整したときの効果を示す。捩れ角調整寸法ΔψGを調整することにより、凸歯面102Ga側の歯当りをあまり変化させることなく凹歯面102Gb側の歯丈方向のクラウニングを変化できることが分かる。なお、三要素に対する調整寸法の効果を分かりやすくするため、図14(以下に説明する図15,図16も含む)においては、イーズオフ最凸点が歯面の中央に来るよう、カッタヘッド230の傾き等(第2の調整寸法)の変更等を併用たものを示す。
【0058】
図15は、第1の調整寸法として入力される円錐角調整寸法ΔΓGを調整したときの効果を示す。円錐角調整寸法ΔΓGを調整することにより、凸歯面102Ga側の歯丈方向のクラウニングが大きくなるときは、同時に、凹歯面102Gb側でも歯丈方向のクラウニングが大きくなることが分かる。
【0059】
図16は、第1の調整寸法として入力されるピッチ点半径調整寸法ΔRGを調整したときの効果を示す。ピッチ点半径調整寸法ΔRGを調整することにより、円錐角調整寸法ΔΓGのときと同様に歯丈方向のクラウニングが変化するが、併せて主軸方向の回転が生ずることが分かる。
【0060】
図17は、ギヤ比修正量Δmを調整したときの効果を示す。ギヤ比修正量Δmを調整することにより、凸歯面102Ga上で歯先側に最凸点位置が移動するときは、凹歯面102Gb上においても歯先側に最凸点位置が移動することが分かる。
【0061】
ここで、上述のように、第1の調整寸法によって仮想ギヤ101iGの三要素を変更しても、ピニオン101Pの三要素は変化しないので、ギヤ101Gとピニオン101Pとの間において、歯底と歯先のクリアランス変化による干渉は発生しない。
【0062】
図18は、ギヤ比修正量Δmの調整と同時に、ブレード圧力角を変化させて、歯当り移動をキャンセルしたときの効果を示す。このような調整により、凸歯面102Ga側のクラウニングが凹歯面102Gb側に比べて大きく変化することが分かる。
【0063】
以上の関係から、カッタヘッド230によってギヤ101Gの凸歯面102Ga及び凹歯面102Gbが同時に成形加工されるとともに、カッタヘッド230によってピニオン101Pの凸歯面102Pa及び102Pbが同時に創成加工される本実施形態のハイポイドギヤ100においても、任意の歯当り調整を容易に行うことが可能である。
【0064】
例えば、歯当り最凸点位置の歯丈方向への任意の位置への移動は、上述の図11と図17とに示した調整とを、適宜な大きさで加え合わせれば実現可能である。また、例えば、歯当り最凸点位置の歯幅方向への任意の位置への移動は、上述の図10と図13とに示した調整を、適宜な大きさで加え合わせれば実現可能である。
【0065】
また、例えば、歯丈方向のクラウニングを任意に調整する場合、凹歯面102Gb側が大きく変化する図14に示した調整と、凸歯面102Ga側が大きく変化する図18に示した調整とを、適宜な大きさで加え合わせ、さらに、同方向に変化する図15に示した調整を考慮すれば実現可能である。また、例えば、歯筋方向のクラウニングを任意に調整する場合、凸歯面102Ga及び凹歯面102Gb上において同方向に変化する図12に示した調整と、逆方向に変化するΔrCの調整とを、適宜な大きさで加え合わせれば実現可能である。
【0066】
ここで、図10乃至図18等に示した各調整寸法と歯当り位置との関係を、上述した解析ルーチンのステップS110において、調整寸法の入力画面と同時に、適宜表示することも可能である。
【0067】
次に、図24に示す寸法を基本として、何れか1の寸法変更を行い、クラウン回転角度伝達誤差が40μラジアンとなる球形イーズオフを目標に、上述の解析システム1を用いて各調整寸法を最適化させたときの、解析結果を図19乃至図23に示す。
【0068】
図19(a),(b)は、カッタ寸法を変更した場合の一例を示すものである。このような変更に対しても、イーズオフとモーションカーブは略同様なものが得られることが確認できた。
【0069】
また、図20(a),(b)は、オフセットを変更した場合の一例を示すものである。この場合、オフセットが大きいほうがピニオン101Pの捩れ角と直径が大きくなっている。これらは、ピニオン101Pの見た目の形状が大きく異なるものの、何れも同様のイーズオフとモーションカーブが得られることが確認できた。
【0070】
また、図21(a),(b)は、軸角を変更した場合の一例を示すものである。このような変更に対しても、イーズオフとモーションカーブは略同様なものが得られることが確認できた。
【0071】
図22(a),(b)は、ギヤ比を変更した場合の一例を示すものである。ギヤ比が小さいとピニオン101Pの直径が大きく、ギヤ101Gの円錐角が小さくなっている。これらは、見た目の形状が大きく異なるものの、何れも同様のイーズオフとモーションカーブが得られることが確認できた。
【0072】
図23(a),(b)は、捩れ角を変更した場合の一例を示すものである。捩れ角が小さいと歯丈方向にやや強いクラウニングのイーズオフとなるが、何れも略目標のイーズオフが得られることが確認できた。
【0073】
このような実施形態によれば、ピニオンワーク110Pに対するカッタヘッド230の相対位置を設定するに際し、ギヤ101Gの設計諸元を第1の調整寸法で調整した仮想ギヤ101iGを設定し、この仮想ギヤ101iGの諸元とカッタヘッド230の設定寸法とに基づいて仮想ワーク110iGに歯面を成形加工すると仮定したときのカッタヘッド230の仮想相対位置を演算するとともに、第2の調整寸法を用いて仮想相対位置を仮想ギヤ101iGのピッチ点P基準で調整し、仮想ギヤ101iGとピニオン101Pとの仮想組立寸法と調整した仮想相対位置とに基づいてピニオンワーク110Pにピニオン歯面102Pを創成加工する際のカッタヘッド230の相対位置を演算することにより、所望の歯面接触状態を得るための諸元調整を容易に実現することができる。
【0074】
すなわち、仮想ギヤ101iGの諸元とカッタヘッド230の設定寸法とに基づいて仮想相対位置を演算し、この仮想相対位置を仮想ギヤ101iGのピッチ点Pを基準とする第2の調整寸法(カッタヘッド230の傾きを調整するΔψG、ΔΓG、ΔRG等)によって調整することにより、仮想ワーク110iGに対する切込み量等を適切に維持したまま、カッタヘッド230の配置(仮想相対位置)を調整することができる。そして、このように適切に調整された仮想相対位置と、仮想ギヤ101iGとピニオン101Pとの仮想組立寸法とに基づいて、ピニオンワーク110Pに対するカッタヘッド230の相対位置を演算することにより、歯丈等が適切な創成歯面の加工を実現することができる。
【0075】
また、第2の調整寸法は、カッタヘッド230の配置を仮想ギヤ101iGのピッチ点P基準(換言すれば、ピニオン101Pのピッチ点P基準)で調整するものであるため、当該調整寸法の変更による歯面状態の変化を直感的に理解し易く、歯面の接触状態の変化等を容易に理解することが可能となる。さらに、第2の調整寸法の調整方向等をイーズオフ最凸点位置の変化の方向等とリンクさせて適切に設定すれば、歯面の接触状態の変化等をより直感的に理解することが可能となる。
【0076】
なお、第2の調整寸法として設定される上述の各寸法の基準点は、ピッチ点Pに限定されるものではなく、ピッチ点P近傍の点、特に、ピッチ点Pを通る歯丈方向の点を好適に設定することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】ハイポイドギヤの斜視図
【図2】フェースホブ方式のカッタヘッドの一例を示す斜視図
【図3】ハイポイドギヤの解析システムの概略構成図
【図4】ハイポイドギヤの解析システムを実現するためのコンピュータシステムの一例を示す概略構成図
【図5】ハイポイドギヤの解析ルーチンを示すフローチャート
【図6】入力画面の一例を示す説明図
【図7】ギヤワークに対するカッタヘッドの相対位置を示す説明図
【図8】ギヤワークに対するカッタヘッドの相対位置と組立寸法とに基づいて演算されるピニオンワークに対するカッタヘッドの相対位置を示す説明図
【図9】カッタヘッドの傾き調整軸の一例を示す説明図
【図10】調整寸法とイーズオフの変化との関係を示す説明図
【図11】調整寸法とイーズオフの変化との関係を示す説明図
【図12】調整寸法とイーズオフの変化との関係を示す説明図
【図13】調整寸法とイーズオフの変化との関係を示す説明図
【図14】調整寸法とイーズオフの変化との関係を示す説明図
【図15】調整寸法とイーズオフの変化との関係を示す説明図
【図16】調整寸法とイーズオフの変化との関係を示す説明図
【図17】調整寸法とイーズオフの変化との関係を示す説明図
【図18】調整寸法とイーズオフの変化との関係を示す説明図
【図19】各調整寸法及び歯面接触解析結果の表示例を示す説明図
【図20】各調整寸法及び歯面接触解析結果の表示例を示す説明図
【図21】各調整寸法及び歯面接触解析結果の表示例を示す説明図
【図22】各調整寸法及び歯面接触解析結果の表示例を示す説明図
【図23】各調整寸法及び歯面接触解析結果の表示例を示す説明図
【図24】図19乃至図23の歯面接触解析に用いた基本的な寸法の一例を示す図表
【符号の説明】
【0078】
1 … 解析システム
5 … 入力部(入力手段)
6 … 演算部(第1の歯面演算手段、仮想相対位置演算手段、仮想組立寸法演算手段、第2の歯面演算手段、及び、歯面接触解析手段)
7 … 記憶部
8 … 出力部
100 … ハイポイドギヤ
101G … ギヤ
101P … ピニオン
101iG … 仮想ギヤ
102G … ギヤ歯面
102Ga … 凸歯面
102Gb … 凹歯面
102P … ピニオン歯面
102Pa … 凸歯面
102Pb … 凹歯面
110 … ピニオンワーク
110G … ギヤワーク
110P … ピニオンワーク
110iG … 仮想ワーク
230 … カッタヘッド
231 … カッタボディ
232 … 取付孔
233 … ヘッド表面
240 … ブレード
240i … 凸歯面加工用ブレード
240o … 凹歯面加工用ブレード
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイポイドギヤを加工する際のワークとカッタヘッドとの相対関係に基づいてハイポイドギヤの解析を行うハイポイドギヤの解析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ハイポイドギヤとしては、ワークを固定したままカッタヘッドを回転させるフェースミル方式の歯面加工によって各歯車(ギヤ及びピニオン)に歯面をそれぞれ加工したハイポイドギヤや、ワークとカッタヘッドとを同時に回転させるフェースホブ方式の歯面加工によって各歯車に歯面をそれぞれ加工したハイポイドギヤとが広く知られている。
【0003】
近年、フェースミル方式を用いて歯面加工されるハイポイドギヤについては、加工機に対する適切な制御パラメータの設定方法や、加工された歯面の解析方法等についての研究が数多くなされている。
【0004】
その一方で、フェースホブ方式を用いて歯面加工されるハイポイドギヤについては、加工機の各種制御パラメータを設定する際に最も基本となる各ワークとカッタヘッドとの相対位置の設定方法さえも十分に確立されていないのが実情であった。
【0005】
これに対処し、例えば、特許文献1には、加工機でギヤを成形加工する際の制御パラメータをギヤの設計諸元に基づいて設定する一方、ギヤの設計諸元に歯当り調整寸法(ギヤのピッチ円錐角に対する調整量、ギヤの捩れ角に対する調整量、及び、ギヤ歯幅に対する歯当り幅の割合等)を反映させて仮想ギヤを設定し、仮想ギヤワークとカッタヘッドとの相対位置、及び、仮想ギヤとピニオンとの組立寸法に基づいて加工機でピニオンを創成加工する際の制御パラメータを設定する技術が開示されている。さらに、この特許文献1に開示された技術では、歯当り調整寸法として、歯筋方向のクラウニング補正量等が設定可能となっており、このクラウニング補正量等に基づいて加工機上の各設定値(例えば、加工機上のスイベル角やチルト角等の座標軸等)が微調整される。
【特許文献1】特開2007−185760号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の特許文献1に開示された技術において、調整される加工機上の各座標軸等はハイポイドギヤの寸法との直接的な対応関係が薄いため、これら加工機設定の修正量に基づいて、歯面の接触状態の変化等を想像することが困難である。
【0007】
また、加工機上の各座標軸を微調整することは、仮想ギヤとピニオン(カッタヘッド)との組立寸法を間接的に変化させることに帰結し、その結果、創成加工されるピニオンの歯丈が変化して切込み量が不足する等、実用性の低いピニオンが加工される虞がある。
【0008】
このため、上述の特許文献1に開示された技術では、最適な歯当り調整寸法を直感的に設定することが困難であり、この設定には熟練を要していた。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、所望の歯面接触状態を得るための諸元調整を容易に実現することができるハイポイドギヤの解析システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、フェースホブ方式のカッタヘッドを回転させることによって、一方の歯車である第1の歯車の歯面が第1のワークに成形加工されるとともに、他方の歯車である第2の歯車の歯面が第2のワークに創成加工されるハイポイドギヤの解析システムであって、前記第1の歯車の設計諸元と前記カッタヘッドの設定寸法とに基づいて前記第1のワークに対する前記カッタヘッドの相対位置を演算し、この相対位置に基づいて前記カッタヘッドで成形加工される前記第1の歯車の歯面を演算する第1の歯面演算手段と、前記第1の歯車の諸元に基づいて仮想歯車の諸元を設定するための第1の調整寸法と、前記仮想歯車のピッチ点或いはその近傍の点を基準として前記カッタヘッドの配置を調整する第2の調整寸法とを入力する入力手段と、前記仮想歯車の諸元と前記第2の調整寸法と前記カッタヘッドの設定寸法とに基づいて前記仮想歯車の仮想ワークに歯面を形成加工すると仮定したときの前記仮想ワークに対する前記カッタヘッドの仮想相対位置を演算する仮想相対位置演算手段と、前記仮想歯車の諸元と前記ピニオンの設計諸元とに基づいて前記仮想歯車と前記ピニオンとの仮想組立寸法を演算する仮想組立寸法演算手段と、前記仮想相対位置と前記仮想組立寸法とに基づいて前記第2のワークに対する前記カッタヘッドの相対位置を演算し、この相対位置に基づいて前記カッタヘッドで創成加工される前記第2の歯車の歯面を演算する第2の歯面演算手段と、前記第1の歯面演算手段で演算した前記第1の歯車の歯面と前記第2の歯面演算手段で演算した前記第2の歯車の歯面との接触状態を解析する歯面接触解析手段と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明のハイポイドギヤの解析システムによれば、所望の歯面接触状態を得るための諸元調整を容易に実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の形態を説明する。図面は本発明の一実施形態に係わり、図1はハイポイドギヤの斜視図、図2はフェースホブ方式のカッタヘッドの一例を示す斜視図、図3はハイポイドギヤの解析システムの概略構成図、図4はハイポイドギヤの解析システムを実現するためのコンピュータシステムの一例を示す概略構成図、図5はハイポイドギヤの解析ルーチンを示すフローチャート、図6は入力画面の一例を示す説明図、図7はギヤワークに対するカッタヘッドの相対位置を示す説明図、図8はギヤワークに対するカッタヘッドの相対位置と組立寸法とに基づいて演算されるピニオンワークに対するカッタヘッドの相対位置を示す説明図、図9はカッタヘッドの傾き調整軸の一例を示す説明図、図10乃至図18は調整寸法とイーズオフの変化との関係を示す説明図、図19乃至図23は各調整寸法及び歯面接触解析結果の表示例を示す説明図、図24は図19乃至図23の歯面接触解析に用いた基本的な寸法の一例を示す図表である。
【0013】
図1において、符号100はハイポイドギヤを示し、このハイポイドギヤ100は、例えば、大径をなす一方の歯車(以下、ギヤまたはクラウンともいう)101Gと、小径をなす他方の歯車(以下、ピニオンともいう)101Pとが互いに噛合して構成されている。本実施形態において、これらギヤ101G及びピニオン101Pの各歯面は、例えば、図2に示すフェースホブ方式のカッタヘッド230を用いて加工されており、具体的には、ギヤ101Gの歯面102G(凸歯面102Ga及び凹歯面102Gb)がカッタヘッド230を用いて成形加工され、ピニオン101Pの歯面102P(凸歯面102Pa及び凹歯面102Pb)がカッタヘッド230を用いて創成加工されている。すなわち、本実施形態では、ギヤ101Gが第1の歯車に相当し、ピニオン101Pが第2の歯車に相当する。
【0014】
図2に示すように、本実施形態において、フェースホブ方式のカッタヘッド230は、円盤状のカッタボディ231を有する。このカッタボディ231の中心部には、加工機(図示せず)にカッタヘッド230を固定するための取付孔232が設けられている。
【0015】
また、カッタボディ231の一端面はカッタヘッド230の表面(Cutter head surface)233として設定され、このヘッド表面233からヘッド軸ZC方向に設定距離離れた点が、カッタヘッド230の基準点(原点OC)として設定されている。ここで、カッタヘッド230のヘッド表面233から原点OCまでの軸方向距離は、カッタヘッド230に固有に設定されるものであるが、ハイポイドギヤ100の設計諸元に基づいて設定されることが望ましく、本実施形態においては、ハイポイドギヤ100の有効歯丈hの半値に適宜クリアランスを加えた値が設定されている。
【0016】
さらに、ヘッド表面233からは、凹歯面加工用ブレード240oと凸歯面加工用ブレード240iとからなる複数のブレード240が突設されている。ここで、各ブレード240o,240iは、カッタボディ231に形成されたブレード固定孔(図示せず)に着脱自在に挿入固定されるようになっている。その際、各ブレード240o,240iは、例えば、先端部に形成されるエッジが、カッタヘッド230の参照平面(原点OCを通りヘッド表面233と平行な平面;reference plane)から設定量突出する位置に固定される。なお、上述のように、カッタヘッド230のヘッド表面233から原点OCまでの軸方向距離がハイポイドギヤ100の有効歯丈hの半値に設定されている本実施形態において、突出量は、ハイポイドギヤ100の有効歯丈hの半値(h/2)にクリアランスcを加算した値b(=(h/2)+c:blade dedendum)に設定されている。
【0017】
このようなカッタヘッド230で加工されるハイポイドギヤ100の解析を行う解析システム1は、図3に示すように、ハイポイドギヤ100の設計諸元やカッタヘッド230の設定寸法、歯当り調整寸法等を入力する入力手段としての入力部5と、カッタヘッド230で加工されるギヤ101G及びピニオン101Pの各歯面102G,102Pやこれら歯面の接触解析等の各種演算を行う演算部6と、演算部6で実行される各種プログラムを格納するとともに、入力部5からの入力情報等を適宜記憶する記憶部7と、演算部6での演算結果等を出力する出力部8とを有して構成されている。
【0018】
この解析システム1の記憶部7には、上述のカッタヘッド230を用いてギヤ101G及びピニオン101Pの各ワーク110G,110Pに加工される歯面についての解析を行うためのプログラムが格納されており、演算部6は、このプログラムを実行することにより、第1の歯面演算手段、仮想相対位置演算手段、仮想組立寸法演算手段、第2の歯面演算手段、及び、歯面接触解析手段としての各機能を実現する。
【0019】
なお、本実施形態の解析システム1は、例えば、図4に示すコンピュータシステム10で実現される。コンピュータシステム10は、例えば、コンピュータ本体11に、キーボード12と、ディスプレイ装置13と、プリンタ14とがケーブル15を介して接続されて要部が構成されている。そして、このコンピュータシステム10において、例えば、コンピュータ本体11に配設された各種ドライブ装置やキーボード12等が入力部5として機能するとともに、コンピュータ本体11に内蔵されたCPU,ROM,RAM等が演算部として機能する。また、コンピュータ本体11に内蔵されたハードディスク等や記憶部7として機能するとともに、ディスプレイ装置13やプリンタ14等が出力部8として機能する。
【0020】
次に、演算部6で実行されるハイポイドギヤの解析処理について、図5に示すハイポイドギヤの解析ルーチンのフローチャートに従って説明する。このルーチンがスタートすると、演算部6は、先ず、ステップS101において、カッタヘッド230の設定寸法、ハイポイドギヤ100の設計諸元、歯当り調整寸法等の各種諸元の取り込みを行う。具体的に説明すると、演算部6は、例えば、ディスプレイ装置13等の出力部8を通じて各種諸元の入力画面(図6(a)参照)を表示し、この入力画面上にキーボード12等の入力部5を通じて入力された諸元を読み込む。
【0021】
ここで、本実施形態において、解析システム1には、カッタヘッド230(及び、ブレード240)の設定寸法として、例えば、
Sr:slot radius
So:slot offset
Cht:cutter head thickness
λs:blade slot tilt angle
γs:blade side rake angle
bfw:blade flat width
bt:blade thickness
bw:blade width
ν:ギヤカッタリード角
rC:カッタ半径
NB:ブレードグループ数
等が入力される。
【0022】
また、解析システム1には、ハイポイドギヤ100(ギヤ101G及びピニオン101P)の設計諸元として、
ψG,ψP:捩れ角(Spiral angle)
ΓG,ΓP:円錐角(Cone angle)
RG,RP:ピッチ点半径(P-point radius)
等が入力される。これらの諸元は、いわゆるギヤ101G及びピニオン101Pの三要素と呼ばれる代表的な寸法である。演算部6は、これら各三要素に基づき、ギヤ101G及びピニオン101Pの他の設計諸元として、例えば、
ZG,ZP:ピッチ点距離(P-point distance)
ε,η:オフセット角(Offset angle)
を一義的に算出する。さらに、演算部6は、ギヤ101Gの設計諸元とピニオン101Pの設計諸元に基づく組立諸元として、例えば、
m:ギヤ比(Gear ratio)
Σ:軸交差角(Shaft angle)
Ε:オフセット量(Offset)
を一義的に算出する。
【0023】
また、解析システム1には、ギヤ101Gの設計諸元に基づいて仮想ギヤ(仮想歯車)101iGの諸元を設定(調整)するための寸法(第1の調整寸法)として、例えば、
ΔψG:捩れ角調整寸法
ΔΓG:円錐角調整寸法
ΔRG:ピッチ点半径調整寸法
が入力される。
【0024】
ここで、仮想ギヤ101iGとは、歯面創成時のピニオンワーク110Pに対するカッタヘッド230の配置等を調整するために設定される仮想的なギヤであり、その諸元は、ギヤ101Gの三要素に、上述の各調整寸法を反映させることによって設定される。
【0025】
すなわち、ピニオンワーク110Pにピニオン歯面102Pa,102Pbを創成加工する際のカッタヘッド230の配置は、基本的には、ギヤワーク110Gにギヤ歯面102Ga,102Gbを成形加工する際のカッタヘッド230の配置と、ギヤ101Gとピニオン101Pとの組立位置とに基づいて設定することが可能である。しかしながら、このような配置で得られるピニオン歯面102Pa,102Pbは、共役歯面となり、ギヤ歯面102Ga,102Gbに対して「べた当たり」するため、実用性に乏しく何らかの歯面調整を要する。そこで、本実施形態においては、後述のように、ギヤ101Gの設計諸元(ψG、ΓG、RG)に対して第1の調整寸法(ΔΨG、ΔΓG、ΔRG)を反映させた仮想ギヤ101iGを設定し、この仮想ギヤ101iGに歯面を形成加工すると仮定したときのワーク(仮想ワーク)110iGに対するカッタヘッド230の配置と、仮想ギヤ101iGとピニオン101Pとの組立位置とに基づいて、ピニオンワーク110Pに対するカッタヘッド230の配置を設定することにより、ピニオン101Pに対する歯面修正を行う。
【0026】
また、仮想ギヤ101iGとピニオン101Pとの組立状態を変更することなく、仮想ギヤ101iGを通じてピニオン101Pに対する更なる歯面修正を行うため、解析システム1には、第1の調整寸法に加え、第2の調整寸法が入力される。この第2の調整寸法は、仮想ギヤ101iGの仮想ワーク110iGに歯面を成形加工すると仮定した際に、仮想ワーク110iGに対して設定されるカッタヘッド230の相対位置(仮想相対位置)を直接的に調整するための各種寸法によって主として構成されている。
【0027】
本実施形態では、第2の調整寸法として、例えば、仮想ギヤ101iGのピッチ点P(Ppoint)を基準とする3軸周りにカッタヘッド230を傾けるための寸法(角度)が入力される。具体的には、例えば、歯面成形時の仮想ワーク110iGとカッタヘッド230との配置関係において、ピッチ点Pを通り且つ仮想ギヤのピッチ円錐の母線方向に設定されるα軸周りにカッタヘッド230を傾けるための角度θαが、第2の調整寸法として入力される。また、ピッチ点Pからカッタヘッド230の原点OCに向かうμ軸と、このμ軸と直交し且つ仮想ワーク110iGのピッチ円錐との接平面上でピッチ点Pを通るκ軸と、μ軸及びκ軸に直交するι軸からなる直交座標系において、κ軸周り及びι軸周りにカッタヘッド230を傾けるための角度θκ及びθιが、第2の調整寸法として入力される。なお、図9には、仮想ギヤ101iG側から見た各軸(α軸、μ軸、κ軸、及び、ι軸)が、当該仮想ギヤ101iGに噛み合うピニオン101P上に表現されている。
【0028】
さらに、他の調整寸法として、例えば、カッタ半径rCを調整するための寸法(カッタ半径修正量)ΔrCが入力されるとともに、歯面創成加工時のパラメータとして使用されるギヤ比mを調整するための修正量(ギヤ比修正量)Δm、ブレード圧力角等が入力される。
【0029】
ステップS101からステップS102に進むと、演算部6は、ギヤ101Gの設計諸元とカッタヘッド230の設定寸法とに基づいてギヤワーク110Gに対するカッタヘッド230の相対位置を演算し、この相対位置に基づいて、カッタヘッド230で成形加工されるギヤ101Gの歯面102Ga,102Gbを演算する。
【0030】
ここで、説明を簡素化するため、カッタヘッド230の原点OCを通る参照平面上にギヤ101Gのピッチ点Pが存在すると仮定すると、ギヤ101Gの設計諸元とカッタヘッド230の設定寸法とに基づき、ギヤ歯面102Gの成型加工時のギヤワーク110Gに対するカッタヘッド230の相対位置として、例えば、図7に示す関係を導き出すことができる。すなわち、ギヤワーク110Gに対するカッタヘッド230の相対位置として、カッタヘッド230の参照平面がギヤワーク110Gのピッチ円錐との接平面Cに一致し、且つ、カッタヘッド230の原点OCが、ピッチ点Pを通りギヤ軸ZGに垂直な平面Bと接平面Cとの交線から、ピッチ点Pを中心に接平面Cに沿ってψG−νだけ回転移動した位置が導き出される。
【0031】
このような関係に基づき、カッタヘッド230の座標系XC−YC−ZCで表されたブレード上の座標は、以下の(1)式に示す行列式により、ギヤワーク110G(ギヤ101G)の座標系XG−YG−ZGに変換することができる。すなわち、行列を〔M〕と表記すると、
〔M〕GC=〔M〕RZ((NB/NG)ωC)〔M〕TZ(ZP)〔M〕TX(RG)
〔M〕RY(ΓG−90°)〔M〕RZ(ψG−ν)〔M〕TZ(d)
〔M〕TY(rC)〔M〕RZ(ωC−90°) … (1)
ここで、(1)式中において、〔M〕GCは、カッタヘッド230の座標系からギヤワーク110Gの座標系へと変換されたブレード上の座標を示す行列である。また、例えば、〔M〕RZ((NB/NG)ωC)はZ軸周りに(NB/NG)ωCの回転(Rotate about Z)を表し、〔M〕TX(RG)はX軸方向にRGの移動(Translate along X)を表す。また、ωCは、カッタヘッド230の回転角度を示す。
【0032】
そして、ギヤ歯面102Gは成形歯面であるため、(1)式において、カッタヘッド230の回転角度ωCを変化させ、ギヤワーク110Gの座標系において、カッタヘッド230のブレード上の点の軌跡を辿れば、ギヤワーク110G上に成形されるギヤ歯面102Gの形状を演算することができる。
【0033】
ステップS102からステップS103に進むと、演算部6は、ギヤ101Gの設計諸元と第1の調整寸法とに基づいて仮想ギヤ101iGの諸元を演算する。すなわち、演算部6は、ギヤ101Gの3要素に第1の調整寸法を反映させることにより、仮想ギヤ101iGの三要素として、例えば、
ψiG(=ψG+ΔψG):捩れ角(Spiral angle)
ΓiG(=ΓG+ΔΓG):円錐角(Cone angle)
RiG(=RG+ΔRG:ピッチ点半径(P-point radius)
を算出し、これら三要素に基づいて、例えば、
ZiG:ピッチ点距離(P-point distance)
εi:オフセット角(Offset angle)
を一義的に算出する。
【0034】
また、ステップS104において、演算部6は、この仮想ギヤ101iGに噛合するピニオン101Pの設計諸元についても、第1の調整寸法に基づく調整を行うようになっており、例えば、
ZiP:ピッチ点距離(P-point distance)
ηi:オフセット角(Offset angle)
を算出する。さらに、演算部6は、仮想ギヤ101iGの諸元とピニオン101Pの設計諸元とに基づき、これらの仮想的な組立諸元(仮想組立寸法)として、例えば、
mi:ギヤ比(Gear ratio)
Σi:軸交差角(Shaft angle)
Ε:オフセット量(Offset)
を演算する。
【0035】
ステップS103からステップS104に進むと、演算部6は、仮想ギヤ101iGの諸元と、第2の調整寸法と、カッタヘッド230の設定寸法とに基づいて、仮想ワーク110iGに対するカッタヘッド230の仮想的な相対位置(仮想相対位置)を演算する。
【0036】
具体的には、演算部6は、先ず、仮想ギヤ101iGの諸元とカッタヘッド230の設定寸法とに基づき、仮想ワーク110iGに対するカッタヘッド230の相対位置として、図7で示した関係と同様の関係を導き出す。また、演算部6は、第2の調整寸法として設定された各角度θα,θκ,θιに基づき、カッタヘッド230の傾きを、仮想ワーク110iG上のピッチ点Pを基準とする3軸(α,κ,ιの各軸)周りに調整する。さらに、寸法ΔrCに基づいてカッタ半径rCをピッチ点P基準で調整することにより、カッタヘッド230の原点OCを、ピッチ点Pを基準としてμ軸方向に移動させる。
【0037】
そして、このように第2の調整寸法を加味して得られたカッタヘッド230の仮想ワーク110iGに対する仮想相対位置に基づき、演算部6は、カッタヘッド230の座標系で表されたブレード上の座標を、仮想ワーク110iG(仮想ギヤ101iG)の座標系に変換するための座標変換式として、以下の(2)式を設定する。
〔M〕iGC=〔M〕RZ((NB/NiG)ωC)〔M〕TZ(ZiP)〔M〕TX(RiG)
〔M〕RY(ΓiG+θα−90°)〔M〕RZ(ΨiG−ν+θι)〔M〕TZ(dP)
〔M〕TX(−θκ)〔M〕TY(rC+ΔrC)〔M〕RZ(ωC−90°)
… (2)
ここで、(2)式中において、〔M〕iGCは、カッタヘッド230の座標系から仮想ギヤワークの座標系へと変換されたブレード上の座標を示す行列である。なお、各調整寸法θα、θκ、θι、及びΔrCが零である場合、(2)式は(1)式と等しくなり、〔M〕iGC=〔M〕GCとなる。
【0038】
ステップS104からステップS105に進むと、演算部6は、ステップS103で演算した仮想ギヤ101iGとピニオン101Pとの仮想組立寸法に基づいて、仮想ギヤ101iG(仮想ワーク110iG)の座標系で定義される座標を、ピニオン101P(ピニオンワーク110P)の座標系の座標に変換するための座標変換式を設定する。本実施形態において、この変換式は、ギヤ比修正量Δm、及び、ピニオン101Pのピッチ点Pの軸方向距離の変化も考慮して設定され、具体的には、例えば、以下の(3)式が設定される。
〔M〕PiG=〔M〕TZ(ZG−ZiG)〔M〕RZ((mi+Δm)ωG−ηi−180°)
〔M〕TY(−Ei)〔M〕RY(−Σi)〔M〕RZ(εi+ωG) … (3)
ここで、(3)式において、ωGは、ギヤ101G(仮想ギヤ101iG)の回転角度を示す。
【0039】
ステップS105からステップS106に進むと、演算部6は、ピニオン歯面102Pの創成加工時のピニオンワーク110Pに対するカッタヘッド230の相対位置を演算し、この相対位置に基づいて、カッタヘッド230で創成加工されるピニオン101Pの歯面102Pa,102Pbを演算する。
【0040】
ここで、ピニオンワーク110Pに対するカッタヘッド230の相対位置は、仮想ワーク110iGに対するカッタヘッド230の仮想相対位置と、仮想ワーク110iG(仮想ギヤ101iG)とピニオンワーク110P(ピニオン101P)との仮想組立寸法とに基づいて演算される(図8参照)。すなわち、ピニオンワーク110Pに対するカッタヘッド230の相対位置は、仮想ワーク110iGに対して配置されたカッタヘッド230上のブレードの向きを、仮想ワーク110iGのピッチ円錐とピニオンワーク110Pのピッチ円錐とに共通の接平面を対称面として反転させる位置に定められる。このような関係は、例えば、上述の(2)式及び(3)式で表すことができ、具体的には、演算部6は、カッタヘッド230の座標系XC−YC−ZCで表されたブレード上の座標を、ピニオンワーク110P(ギヤ101G)の座標系XP−YP−ZPに変換するための行列式として、以下の(4)式を演算する。
〔M〕PC=〔M〕PiG〔M〕iGC …(4)
ここで、(4)式において、〔M〕PCは、カッタヘッド230の座標系からピニオンワーク110Pの座標系へと変換されたブレード上の座標を示す行列である。
【0041】
そして、ピニオン歯面102Pは創成歯面であるため、(4)式において、カッタヘッド230の回転角度ω及びギヤ101Gの回転角度ωGを変化させ、ピニオンワーク110Pの座標系において、カッタヘッド230のブレード上の点の軌跡を辿れば、ピニオンワーク110上に創成されるピニオン歯面102Pの形状を演算することができる。
【0042】
ステップS106からステップS107に進むと、演算部6は、ステップS101で演算したギヤ歯面102Gと、ステップS106で演算したピニオン歯面102Pとの噛み合いについて、歯面接触解析を行う。
【0043】
すなわち、演算部6は、ステップS101で算出した組立諸元(m、Σ、Ε)に基づいてギヤ101Gとピニオン101Pとを配置し、この配置上において上述のギヤ歯面102Gとピニオン歯面102Pとを噛み合わせたときの歯面接触解析を行う。そして、演算部6は、ギヤ歯面102Gとピニオン歯面102Pとの接触状態を表す情報として、例えば、イーズオフとモーションカーブとを演算する。
【0044】
ステップS107からステップS108に進むと、演算部6は、ディスプレイ装置13等の出力部8を通じて、ステップS107で行った歯面接触解析の結果を、各種調整寸法等とともに表示する。すなわち、演算部6は、例えば、図19(a)〜図23(b)に示すように、ギヤ101Gの凸歯面(Crown convex flank)102Gaとピニオンの凹歯面(Pinion concave flank)102Pbとの歯面接触解析結果(イーズオフとモーションカーブ)、及び、ギヤ101Gの凹歯面(Crown concave flank)102Gbとピニオンの凹歯面(Pinion convex flank)102Paとの歯面接触解析結果(イーズオフとモーションカーブ)を、各種調整寸法及びハイポイドギヤ100の外観形状等とともに表示する。
【0045】
ステップS108からステップS109に進むと、演算部6は、ユーザからの変更要求がなされているか否かを調べる。
【0046】
そして、ステップS109において、ユーザからの変更要求がなされていると判定した場合には、演算部6は、ステップS110に進み、例えば、ディスプレイ装置13等の出力部8を通じて調整寸法の入力画面(図6(b)参照)を表示し、キーボード12等の入力部5を通じて入力された歯当り調整寸法を読み込んだ後、ステップS103に戻る。
【0047】
一方、ステップS109において、ユーザからの変更要求がなされていないと判定した場合、演算部6は、ステップS111に進み、ユーザから、本解析処理の終了指示がなされているか否かを調べる。
【0048】
そして、ステップS111において、ユーザからの終了指示がなされていないと判定した場合、演算部6は、ステップS109に戻る。
【0049】
一方、ステップS111において、ユーザからの終了指示がなされていると判定した場合、演算部6は、そのままルーチンを抜ける。
【0050】
なお、上述の処理によって設定されたギヤワーク110G及びピニオンワーク110Pに対する各カッタ配置モデルは、実際の加工機上での配置(加工機設定)に変換して、ハイポイドギヤ100(ギヤ101G及びピニオン101P)の歯切り加工を実現可能であることは勿論である。
【0051】
次に、このような解析装置で調整される各調整寸法と、この調整寸法によって得られるイーズオフの変化(イーズオフ最凸点位置の変化)との関係について、図10乃至図18を参照して説明する。ここで、図10乃至図18において、左側がギヤ101Gの凸歯面102Ga、右側がギヤ101Gの凹歯面102Gbを示し、これらの歯面102Ga,102Gbにおいて、左右の中央側がトー側、下側が歯底側である。また、各調整寸法を±したときの変化を上段(a)と、下段(b)にそれぞれ示す。
【0052】
図10は、第2の調整寸法として入力されるα軸周りの角度θαを調整したときの効果を示す。この角度θαは、ピッチ円錐調整用の寸法であり、角度θαを変更することにより、ギヤ101Gの凸歯面102Ga上で最凸点位置(歯当り位置)がトー側に移動すれば、凹歯面102Gb側でも最凸点位置がトー側に移動する。すなわち、トー側の溝が浅くなる円錐角修正をするときは、ブレード圧力角の作用でトー側の溝幅が狭まる。したがって、最凸点位置がトー側へ移動する。
【0053】
図11は、第2の調整寸法として入力されるκ軸周りの角度θκを調整したときの効果を示す。角度θκを調整することにより、ギヤ101Gの凸歯面102Ga上で最凸点位置が歯底側へ移動すれば、凹歯面102Gb上では最凸点位置が歯先側に移動する。これにより、ピニオン101Pの歯面102Pは創成歯面であるが、カッタヘッド230の傾きによる見かけ上の圧力角が歯当り変化に反映されていることが分かる。
【0054】
図12は、第2の調整寸法として入力されるκ軸周りの角度θκの調整と同時に、ブレード圧力角を変化させて、カッタヘッド230の傾きによる歯当り移動をキャンセルしたときの効果を示す。このような調整により、凸歯面102Ga上及び凹歯面102Gb上において、クラウニングがつくことが分かる。これは、κ軸周りにカッタヘッド230を回転させた場合、ピッチ点P付近ではブレード先端の深さがあまり変わらないものの、歯幅両端側ではより浅くなってブレード圧力角の作用で歯溝幅が狭くなったり、或いは、深くなって広がるためである。
【0055】
図13は、第2の調整寸法として入力されるι軸周りの角度θιを調整したときの効果を示す。角度θιを調整することにより、ギヤ101Gの凸歯面102Ga上で最凸点位置がヒール側へ移動すれば、凹歯面102Gb上では最凸点位置がトー側に移動する。
【0056】
また、図示しないが、カッタ半径修正量ΔrCを調整すれば、凸歯面102Ga側で歯筋方向のクラウニングが大きくなるときは、凹歯面102Gb側で歯筋方向のクラウニングが小さくなる。
【0057】
図14は、第1の調整寸法として入力される捩れ角調整寸法ΔψGを調整したときの効果を示す。捩れ角調整寸法ΔψGを調整することにより、凸歯面102Ga側の歯当りをあまり変化させることなく凹歯面102Gb側の歯丈方向のクラウニングを変化できることが分かる。なお、三要素に対する調整寸法の効果を分かりやすくするため、図14(以下に説明する図15,図16も含む)においては、イーズオフ最凸点が歯面の中央に来るよう、カッタヘッド230の傾き等(第2の調整寸法)の変更等を併用たものを示す。
【0058】
図15は、第1の調整寸法として入力される円錐角調整寸法ΔΓGを調整したときの効果を示す。円錐角調整寸法ΔΓGを調整することにより、凸歯面102Ga側の歯丈方向のクラウニングが大きくなるときは、同時に、凹歯面102Gb側でも歯丈方向のクラウニングが大きくなることが分かる。
【0059】
図16は、第1の調整寸法として入力されるピッチ点半径調整寸法ΔRGを調整したときの効果を示す。ピッチ点半径調整寸法ΔRGを調整することにより、円錐角調整寸法ΔΓGのときと同様に歯丈方向のクラウニングが変化するが、併せて主軸方向の回転が生ずることが分かる。
【0060】
図17は、ギヤ比修正量Δmを調整したときの効果を示す。ギヤ比修正量Δmを調整することにより、凸歯面102Ga上で歯先側に最凸点位置が移動するときは、凹歯面102Gb上においても歯先側に最凸点位置が移動することが分かる。
【0061】
ここで、上述のように、第1の調整寸法によって仮想ギヤ101iGの三要素を変更しても、ピニオン101Pの三要素は変化しないので、ギヤ101Gとピニオン101Pとの間において、歯底と歯先のクリアランス変化による干渉は発生しない。
【0062】
図18は、ギヤ比修正量Δmの調整と同時に、ブレード圧力角を変化させて、歯当り移動をキャンセルしたときの効果を示す。このような調整により、凸歯面102Ga側のクラウニングが凹歯面102Gb側に比べて大きく変化することが分かる。
【0063】
以上の関係から、カッタヘッド230によってギヤ101Gの凸歯面102Ga及び凹歯面102Gbが同時に成形加工されるとともに、カッタヘッド230によってピニオン101Pの凸歯面102Pa及び102Pbが同時に創成加工される本実施形態のハイポイドギヤ100においても、任意の歯当り調整を容易に行うことが可能である。
【0064】
例えば、歯当り最凸点位置の歯丈方向への任意の位置への移動は、上述の図11と図17とに示した調整とを、適宜な大きさで加え合わせれば実現可能である。また、例えば、歯当り最凸点位置の歯幅方向への任意の位置への移動は、上述の図10と図13とに示した調整を、適宜な大きさで加え合わせれば実現可能である。
【0065】
また、例えば、歯丈方向のクラウニングを任意に調整する場合、凹歯面102Gb側が大きく変化する図14に示した調整と、凸歯面102Ga側が大きく変化する図18に示した調整とを、適宜な大きさで加え合わせ、さらに、同方向に変化する図15に示した調整を考慮すれば実現可能である。また、例えば、歯筋方向のクラウニングを任意に調整する場合、凸歯面102Ga及び凹歯面102Gb上において同方向に変化する図12に示した調整と、逆方向に変化するΔrCの調整とを、適宜な大きさで加え合わせれば実現可能である。
【0066】
ここで、図10乃至図18等に示した各調整寸法と歯当り位置との関係を、上述した解析ルーチンのステップS110において、調整寸法の入力画面と同時に、適宜表示することも可能である。
【0067】
次に、図24に示す寸法を基本として、何れか1の寸法変更を行い、クラウン回転角度伝達誤差が40μラジアンとなる球形イーズオフを目標に、上述の解析システム1を用いて各調整寸法を最適化させたときの、解析結果を図19乃至図23に示す。
【0068】
図19(a),(b)は、カッタ寸法を変更した場合の一例を示すものである。このような変更に対しても、イーズオフとモーションカーブは略同様なものが得られることが確認できた。
【0069】
また、図20(a),(b)は、オフセットを変更した場合の一例を示すものである。この場合、オフセットが大きいほうがピニオン101Pの捩れ角と直径が大きくなっている。これらは、ピニオン101Pの見た目の形状が大きく異なるものの、何れも同様のイーズオフとモーションカーブが得られることが確認できた。
【0070】
また、図21(a),(b)は、軸角を変更した場合の一例を示すものである。このような変更に対しても、イーズオフとモーションカーブは略同様なものが得られることが確認できた。
【0071】
図22(a),(b)は、ギヤ比を変更した場合の一例を示すものである。ギヤ比が小さいとピニオン101Pの直径が大きく、ギヤ101Gの円錐角が小さくなっている。これらは、見た目の形状が大きく異なるものの、何れも同様のイーズオフとモーションカーブが得られることが確認できた。
【0072】
図23(a),(b)は、捩れ角を変更した場合の一例を示すものである。捩れ角が小さいと歯丈方向にやや強いクラウニングのイーズオフとなるが、何れも略目標のイーズオフが得られることが確認できた。
【0073】
このような実施形態によれば、ピニオンワーク110Pに対するカッタヘッド230の相対位置を設定するに際し、ギヤ101Gの設計諸元を第1の調整寸法で調整した仮想ギヤ101iGを設定し、この仮想ギヤ101iGの諸元とカッタヘッド230の設定寸法とに基づいて仮想ワーク110iGに歯面を成形加工すると仮定したときのカッタヘッド230の仮想相対位置を演算するとともに、第2の調整寸法を用いて仮想相対位置を仮想ギヤ101iGのピッチ点P基準で調整し、仮想ギヤ101iGとピニオン101Pとの仮想組立寸法と調整した仮想相対位置とに基づいてピニオンワーク110Pにピニオン歯面102Pを創成加工する際のカッタヘッド230の相対位置を演算することにより、所望の歯面接触状態を得るための諸元調整を容易に実現することができる。
【0074】
すなわち、仮想ギヤ101iGの諸元とカッタヘッド230の設定寸法とに基づいて仮想相対位置を演算し、この仮想相対位置を仮想ギヤ101iGのピッチ点Pを基準とする第2の調整寸法(カッタヘッド230の傾きを調整するΔψG、ΔΓG、ΔRG等)によって調整することにより、仮想ワーク110iGに対する切込み量等を適切に維持したまま、カッタヘッド230の配置(仮想相対位置)を調整することができる。そして、このように適切に調整された仮想相対位置と、仮想ギヤ101iGとピニオン101Pとの仮想組立寸法とに基づいて、ピニオンワーク110Pに対するカッタヘッド230の相対位置を演算することにより、歯丈等が適切な創成歯面の加工を実現することができる。
【0075】
また、第2の調整寸法は、カッタヘッド230の配置を仮想ギヤ101iGのピッチ点P基準(換言すれば、ピニオン101Pのピッチ点P基準)で調整するものであるため、当該調整寸法の変更による歯面状態の変化を直感的に理解し易く、歯面の接触状態の変化等を容易に理解することが可能となる。さらに、第2の調整寸法の調整方向等をイーズオフ最凸点位置の変化の方向等とリンクさせて適切に設定すれば、歯面の接触状態の変化等をより直感的に理解することが可能となる。
【0076】
なお、第2の調整寸法として設定される上述の各寸法の基準点は、ピッチ点Pに限定されるものではなく、ピッチ点P近傍の点、特に、ピッチ点Pを通る歯丈方向の点を好適に設定することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】ハイポイドギヤの斜視図
【図2】フェースホブ方式のカッタヘッドの一例を示す斜視図
【図3】ハイポイドギヤの解析システムの概略構成図
【図4】ハイポイドギヤの解析システムを実現するためのコンピュータシステムの一例を示す概略構成図
【図5】ハイポイドギヤの解析ルーチンを示すフローチャート
【図6】入力画面の一例を示す説明図
【図7】ギヤワークに対するカッタヘッドの相対位置を示す説明図
【図8】ギヤワークに対するカッタヘッドの相対位置と組立寸法とに基づいて演算されるピニオンワークに対するカッタヘッドの相対位置を示す説明図
【図9】カッタヘッドの傾き調整軸の一例を示す説明図
【図10】調整寸法とイーズオフの変化との関係を示す説明図
【図11】調整寸法とイーズオフの変化との関係を示す説明図
【図12】調整寸法とイーズオフの変化との関係を示す説明図
【図13】調整寸法とイーズオフの変化との関係を示す説明図
【図14】調整寸法とイーズオフの変化との関係を示す説明図
【図15】調整寸法とイーズオフの変化との関係を示す説明図
【図16】調整寸法とイーズオフの変化との関係を示す説明図
【図17】調整寸法とイーズオフの変化との関係を示す説明図
【図18】調整寸法とイーズオフの変化との関係を示す説明図
【図19】各調整寸法及び歯面接触解析結果の表示例を示す説明図
【図20】各調整寸法及び歯面接触解析結果の表示例を示す説明図
【図21】各調整寸法及び歯面接触解析結果の表示例を示す説明図
【図22】各調整寸法及び歯面接触解析結果の表示例を示す説明図
【図23】各調整寸法及び歯面接触解析結果の表示例を示す説明図
【図24】図19乃至図23の歯面接触解析に用いた基本的な寸法の一例を示す図表
【符号の説明】
【0078】
1 … 解析システム
5 … 入力部(入力手段)
6 … 演算部(第1の歯面演算手段、仮想相対位置演算手段、仮想組立寸法演算手段、第2の歯面演算手段、及び、歯面接触解析手段)
7 … 記憶部
8 … 出力部
100 … ハイポイドギヤ
101G … ギヤ
101P … ピニオン
101iG … 仮想ギヤ
102G … ギヤ歯面
102Ga … 凸歯面
102Gb … 凹歯面
102P … ピニオン歯面
102Pa … 凸歯面
102Pb … 凹歯面
110 … ピニオンワーク
110G … ギヤワーク
110P … ピニオンワーク
110iG … 仮想ワーク
230 … カッタヘッド
231 … カッタボディ
232 … 取付孔
233 … ヘッド表面
240 … ブレード
240i … 凸歯面加工用ブレード
240o … 凹歯面加工用ブレード
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェースホブ方式のカッタヘッドを回転させることによって、一方の歯車である第1の歯車の歯面が第1のワークに成形加工されるとともに、他方の歯車である第2の歯車の歯面が第2のワークに創成加工されるハイポイドギヤの解析システムであって、
前記第1の歯車の設計諸元と前記カッタヘッドの設定寸法とに基づいて前記第1のワークに対する前記カッタヘッドの相対位置を演算し、この相対位置に基づいて前記カッタヘッドで成形加工される前記第1の歯車の歯面を演算する第1の歯面演算手段と、
前記第1の歯車の諸元に基づいて仮想歯車の諸元を設定するための第1の調整寸法と、前記仮想歯車のピッチ点或いはその近傍の点を基準として前記カッタヘッドの配置を調整する第2の調整寸法とを入力する入力手段と、
前記仮想歯車の諸元と前記第2の調整寸法と前記カッタヘッドの設定寸法とに基づいて前記仮想歯車の仮想ワークに歯面を形成加工すると仮定したときの前記仮想ワークに対する前記カッタヘッドの仮想相対位置を演算する仮想相対位置演算手段と、
前記仮想歯車の諸元と前記ピニオンの設計諸元とに基づいて前記仮想歯車と前記ピニオンとの仮想組立寸法を演算する仮想組立寸法演算手段と、
前記仮想相対位置と前記仮想組立寸法とに基づいて前記第2のワークに対する前記カッタヘッドの相対位置を演算し、この相対位置に基づいて前記カッタヘッドで創成加工される前記第2の歯車の歯面を演算する第2の歯面演算手段と、
前記第1の歯面演算手段で演算した前記第1の歯車の歯面と前記第2の歯面演算手段で演算した前記第2の歯車の歯面との接触状態を解析する歯面接触解析手段と、を備えたことを特徴とするハイポイドギヤの解析システム。
【請求項1】
フェースホブ方式のカッタヘッドを回転させることによって、一方の歯車である第1の歯車の歯面が第1のワークに成形加工されるとともに、他方の歯車である第2の歯車の歯面が第2のワークに創成加工されるハイポイドギヤの解析システムであって、
前記第1の歯車の設計諸元と前記カッタヘッドの設定寸法とに基づいて前記第1のワークに対する前記カッタヘッドの相対位置を演算し、この相対位置に基づいて前記カッタヘッドで成形加工される前記第1の歯車の歯面を演算する第1の歯面演算手段と、
前記第1の歯車の諸元に基づいて仮想歯車の諸元を設定するための第1の調整寸法と、前記仮想歯車のピッチ点或いはその近傍の点を基準として前記カッタヘッドの配置を調整する第2の調整寸法とを入力する入力手段と、
前記仮想歯車の諸元と前記第2の調整寸法と前記カッタヘッドの設定寸法とに基づいて前記仮想歯車の仮想ワークに歯面を形成加工すると仮定したときの前記仮想ワークに対する前記カッタヘッドの仮想相対位置を演算する仮想相対位置演算手段と、
前記仮想歯車の諸元と前記ピニオンの設計諸元とに基づいて前記仮想歯車と前記ピニオンとの仮想組立寸法を演算する仮想組立寸法演算手段と、
前記仮想相対位置と前記仮想組立寸法とに基づいて前記第2のワークに対する前記カッタヘッドの相対位置を演算し、この相対位置に基づいて前記カッタヘッドで創成加工される前記第2の歯車の歯面を演算する第2の歯面演算手段と、
前記第1の歯面演算手段で演算した前記第1の歯車の歯面と前記第2の歯面演算手段で演算した前記第2の歯車の歯面との接触状態を解析する歯面接触解析手段と、を備えたことを特徴とするハイポイドギヤの解析システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図24】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
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【図7】
【図24】
【図8】
【図9】
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【図11】
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【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【公開番号】特開2009−279674(P2009−279674A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−132025(P2008−132025)
【出願日】平成20年5月20日(2008.5.20)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年5月20日(2008.5.20)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】
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