説明

ハトムギの茎葉を用いた食品及び医薬組成物

【課題】ハトムギの全草、茎葉、茎又は葉の抽出物又はその処理物の食品及び医薬組成物としての用途を提供する。
【解決手段】造血作用、血糖降下作用及び抗肥満作用を有するハトムギの全草、茎葉、茎又は葉の抽出物又はその処理物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハトムギの全草、茎葉、茎又は葉の食品及び医薬組成物としての用途に関する。
【背景技術】
【0002】
ハトムギは学名をCoix lacryma-jobi var. ma-yuenというイネ科の植物で、中国南部から東南アジアを原産地とする。その種子は古くから薬用に用いられてきた。中国の薬草解説書「神農本草経」(非特許文献1)には、「筋肉が異常緊張してひきつり、屈伸できないもの、関節炎、リューマチの疾患、疼痛のある身体マヒによい」とあり、「久しく服すれば強壮薬にもなる」と記載されている。
【0003】
ハトムギの全草、茎葉、茎又は葉又はその抽出物の薬理効果に関する報告はほとんどなく、血糖降下作用、造血作用については何ら報告されていない。
【0004】
【非特許文献1】神農本草経
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ハトムギの全草、茎葉、茎又は葉の抽出物又はその処理物を用いた食品及び医薬組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の発明を包含する。
(1)ハトムギの全草、茎葉、茎又は葉の抽出物又はその処理物を含有する食品。
(2)造血させるための前記(1)に記載の食品。
(3)血糖値を低下させるための前記(1)に記載の食品。
(4)抗肥満食品である前記(1)に記載の食品。
(5)体質改善させるための前記(1)に記載の食品。
(6)ハトムギの全草、茎葉、茎又は葉の抽出物又はその処理物を含有する医薬組成物。
(7)ハトムギの全草、茎葉、茎又は葉由来で造血活性を示す物質を含有する造血剤。
(8)ハトムギの全草、茎葉、茎又は葉の抽出物又はその処理物を含有する造血剤。
(9)食品に添加するための前記(7)又は(8)に記載の造血剤。
(10)ハトムギの全草、茎葉、茎又は葉由来で血糖降下活性を示す物質を含有する血糖降下剤。
(11)ハトムギの全草、茎葉、茎又は葉の抽出物又はその処理物を含有する血糖降下剤。
(12)食品に添加するための前記(10)又は(11)に記載の血糖降下剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ハトムギの全草、茎葉、茎又は葉の抽出物又はその処理物を含有し、造血作用及び血糖降下作用を有する食品及び医薬組成物を提供することができる。本発明の食品及び医薬組成物は、造血作用、血糖降下作用及び抗肥満作用を有することから、体質改善剤としても有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明においては、ハトムギの全草、茎葉、茎又は葉は、抽出物又はその処理物として用いられる。ここで、ハトムギの全草とは地上部と地下部(根)を合わせたすべての植物体をいい、茎葉とは地上茎及び葉部を合わせた部分をいう。前記の全草等としては、資源の有効利用の点から、好ましくは、種子を収穫した後の全草、茎葉、茎又は葉が用いられる。
【0009】
本発明において、ハトムギの全草、茎葉、茎又は葉由来で造血活性を示す物質とは、ハトムギの全草、茎葉、茎又は葉から得られるものであって、骨髄細胞を活性化させるものであれば、特に制限はなく、例えば、ハトムギの全草、茎葉、茎又は葉の抽出物、又はこれに分離、精製、単離等の各種処理の少なくとも1つを施したものであって造血活性を保持しているものをいう。
【0010】
また、ハトムギの全草、茎葉、茎又は葉由来で血糖降下活性を示す物質とは、ハトムギの全草、茎葉、茎又は葉から得られるものであって、血糖値の上昇を抑制する活性を有するものであれば、特に制限はなく、例えば、ハトムギの全草、茎葉、茎又は葉の抽出物、又はこれに分離、精製、単離等の各種処理の少なくとも1つを施したものであって血糖降下活性を保持しているものをいう。
【0011】
抽出溶媒としては、水;アルコール類、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール;エステル類、例えば酢酸エチル等の酢酸エステル;エーテル類、例えばエチルエーテル、ジオキサン;ケトン類、例えばアセトン等が挙げられる。抽出物を一旦溶媒除去して乾燥物として用いる場合には、前述した任意の溶媒を単独で又は混合して用いることができる。一方、抽出物を溶媒に溶解した状態で用いる場合には、人体に対して有害な作用を示さない溶媒を用いる必要があり、この場合には、水、エタノール又はこれらの混合物を用いることが好ましい。抽出に際して、ハトムギの全草、茎葉、茎又は葉は、そのまま用いることができ、また乾燥後に破砕又は粉砕して溶媒との接触を高めることもできる。
【0012】
ハトムギの全草、茎葉、茎又は葉の1kg当り溶媒1〜5Lで抽出する。抽出温度は、好ましくは室温ないし加圧下での沸点の範囲内であり、抽出時間は、抽出温度等により異なるが、好ましくは0.5〜5時間である。
【0013】
このようにして得られた抽出液は、必要に応じて、布、ステンレスフィルター、濾紙、濾過滅菌用フィルター等で濾過して不溶物、不純物等を除去して用いてもよい。また、濾過後の抽出液に、スプレードライ処理、フリーズドライ処理、超臨界処理等の処理を施してもよい。
【0014】
このようにして得られる抽出物又はその処理物は、そのまま本発明の食品、医薬組成物、造血剤及び血糖降下剤の有効成分として用いることができる。また、当該抽出物等を吸着・逆相分配クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、透析等の各種精製手段により処理し、更に活性を高めた処理物として用いてもよい。好ましい処理物として、例えば、水抽出物又は熱水抽出物を吸着・逆相分配クロマトグラフィーに付した水溶出画分及び/又は10%以下のエタノールによる溶出画分が挙げられる。
【0015】
本発明の食品、医薬組成物、造血剤及び血糖降下剤は、ハトムギの全草、茎葉、茎又は葉の抽出物又はその処理物を公知の食品用担体又は医薬用担体と組合せて製剤化することができる。投与形態としては、特に制限はなく、必要に応じ適宜選択されるが、一般には錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、液剤、シロップ剤、懸濁剤、乳剤、エリキシル剤等の経口剤として使用される。また、本発明の医薬組成物、造血剤及び血糖降下剤は、注射剤、点滴剤、坐剤、吸入剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤、貼付剤、軟膏剤等の非経口剤として使用してもよい。また、本発明の食品、造血剤及び血糖降下剤は、食品、チューインガム、飲料等に添加して、いわゆる特定保健用食品(例えば、体質改善用食品、造血機能調整食品、血糖降下性食品、抗肥満食品)等とすることもできる。
【0016】
本発明の食品、医薬組成物、造血剤及び血糖降下剤の投与量は、患者の年令、体重、疾患の程度、投与経路により異なるが、経口投与では、ハトムギの全草、茎葉、茎又は葉抽出物の乾燥粉末として、通常1日50〜500mgであり、投与回数は、通常、経口投与では1日1〜3回である。
【0017】
経口剤は、例えばデンプン、乳糖、白糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等の賦形剤を用いて常法に従って製造される。
【0018】
この種の製剤には、適宜前記賦形剤の他に、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤、着色剤、香料等を使用することができる。
【0019】
結合剤の具体例としては、結晶セルロース、結晶セルロース・カルメロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルメロースナトリウム、エチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、コムギデンプン、コメデンプン、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、デキストリン、アルファー化デンプン、部分アルファー化デンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、プルラン、ポリビニルピロリドン、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE、アミノアルキルメタクリレートコポリマーRS、メタクリル酸コポリマーL、メタクリル酸コポリマー、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルアルコール、アラビアゴム、アラビアゴム末、寒天、ゼラチン、白色セラック、トラガント、精製白糖、マクロゴールが挙げられる。
【0020】
崩壊剤の具体例としては、結晶セルロース、メチルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロース、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、コムギデンプン、コメデンプン、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、部分アルファー化デンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルスターチナトリウム、トラガントが挙げられる。
【0021】
界面活性剤の具体例としては、大豆レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、ステアリン酸ポリオキシル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、セスキオレイン酸ソルビタン、トリオレイン酸ソルビタン、モノステアリン酸ソルビタン、モノパルミチン酸ソルビタン、モノラウリン酸ソルビタン、ポリソルベート、モノステアリン酸グリセリン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウロマクロゴールが挙げられる。
【0022】
滑沢剤の具体例としては、コムギデンプン、コメデンプン、トウモロコシデンプン、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、含水二酸化ケイ素、軽質無水ケイ酸、合成ケイ酸アルミニウム、乾燥水酸化アルミニウムゲル、タルク、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、リン酸水素カルシウム、無水リン酸水素カルシウム、ショ糖脂肪酸エステル、ロウ類、水素添加植物油、ポリエチレングリコールが挙げられる。
【0023】
流動性促進剤の具体例としては、含水二酸化ケイ素、軽質無水ケイ酸、乾燥水酸化アルミニウムゲル、合成ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウムが挙げられる。
【0024】
また、本発明の食品、医薬組成物、造血剤及び血糖降下剤は、液剤、シロップ剤、懸濁剤、乳剤、エリキシル剤として投与する場合には、矯味矯臭剤、着色剤を含有してもよい。
【実施例】
【0025】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0026】
(製造例1)ハトムギ茎葉熱水抽出物の調製
生(10kg)又は乾燥させたハトムギの茎葉(1.2kg)を90〜100℃の熱水2〜4Lで0.5〜1時間抽出した。濾過により固形物を除いた抽出液を減圧濃縮し、熱水抽出物105gを得た。
【0027】
(製造例2)熱水抽出物の分画による極性フラクションの製造
製造例1で得られた熱水抽出物(95.2g)を合成吸着樹脂(三菱化学(株)製DIAION HP−20、500mL)に通導し、蒸留水、10%エタノール、50%エタノール及びエタノール、各2Lで順次溶出させ、減圧濃縮することにより、以下の極性フラクション(水溶出〜エタノール溶出フラクション)を得た。フラクションCL1(水溶出画分、65.4g)、フラクションCL2(10%エタノール溶出画分、2.6g)、フラクションCL3(50%エタノール溶出画分、8.1g)、フラクションCL4(エタノール溶出画分、5.2g)。
【0028】
(実施例1)抗肥満試験
正常マウス(ICR)を用い、これに高脂肪・高カロリー飼料を摂取させて急性肥満を惹起させた。急性肥満モデルマウスに製造例1で得たハトムギ茎葉抽出物を経口投与して、体重、飼料の摂取量、血液中のトリグリセリド、グルコースレベル及び血球数を測定した。
【0029】
(方法)
使用動物:ICRマウス(雄性、5週齢、SPF、日本チャールズリバー)
使用匹数:6匹/群
マウスの群分け:3群(1:一般飼育飼料投与群(通常飼育ICR正常群、n=6)、2:高脂肪・高カロリー飼料投与群(肥満コントロール群、n=6)、3:高脂肪・高カロリー飼料にハトムギ茎葉抽出物の経口投与群(n=6))。
マウス飼育飼料
試料投与:製造例1で得たハトムギ茎葉抽出物に精製水を加えて10mg/mLの溶液を調製し、経口投与用のマウスゾンデを用いて2日に1回、100mg/kgとなるように体重10g当り0.1mLを強制経口投与した。試料は作り置きせずに用時作製した。
飼育条件:マウスをマウス・ラット飼育用の木材チップを敷いた小口のプラスチックケージに6匹ずつ分け、25±2〜3℃の室温で飼育した。
給水:実験期間中の摂水は自由とし、摂水量の測定は行わなかった。なお、摂水は水道水(DDW超軟水は下痢の原因となるので使用しなかった)とし給水ビンは2日に1回、交換した。
飼育方法:アニマルハンドリングはGLP規格に基づき、苦痛をなるだけ軽減するよう配慮して実験した。
実験期間:16日間。7日間馴化(この間の飼料は一般飼料)させた後、投与開始と同時に高脂肪高カロリーの飼料に交換し、16日間観察した。
実験方法:2日に1回、合計8回の試料投与を行い、実験終了後にマウスをエーテル麻酔下に心臓から全身血を採取し、遠心後に血清を得て、−80℃に保存した。
採血:16日間の実験終了後に、マウスをエーテル麻酔下に心臓から全身血を採取し、遠心後に血清を得て−80℃に保存した。
血中のグルコース含量の測定:前記の方法に準じて得られた血清について、「グルコースCII−テストワコー(和光純薬社製)(ムタロターゼ・GOD法)」を用い、マニュアルにしたがって測定した。グルコース含量は何れもmg/dLで表示した。
データ解析:体重の比較増減、飼料摂取量、グルコース含量は平均値±標準誤差で表した。有効性の判定は対照群(正常あるいは肥満コントロール群)と試料投与群との間で薬理学的な有意差検定(ANOVA及びダンネットのt検定)を行い、5%未満の危険率を有意差ありと判断した。
【0030】
(結果)
製造例1で得たハトムギ茎葉抽出物を100mg/kgの用量でマウスに経口投与することにより体重増加を抑制し、実験終了日に採血した際の血糖値(グルコース)のレベルを低下させた。また、赤血球数を有意に増加させた。結果を表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
(実施例2)骨髄細胞増殖活性評価試験
マウスの大腿骨由来骨髄細胞を材料として用い、試料の添加による骨髄細胞の増殖活性を評価した。
【0033】
(方法)
(1) 材料
C57BL/6N雌性マウスの大腿骨から骨髄細胞を採取した。
(2) 骨髄細胞増殖活性の評価
採取した骨髄細胞をPBSで2回洗浄した。これをα−MEM培地(1%BSA、20%FCS、0.05mM2−メルカプトエタノール、100U/mLペニシリン/ストレプトマイシン)に懸濁させ、懸濁液を1〜5×10cells/mLの割合で96wellプレートに分注した。各濃度の試料を添加し、7日間培養した後、培地を交換し、MTT(5mg/mL)を加えた。5時間後SDSを加えて10時間放置し、590nmの吸光度を測定して細胞増殖率を算出した。
【0034】
(結果)
IL−3非添加では製造例2のフラクションCL1(147%)に、IL−3添加条件ではフラクションCL1(140%)及びCL2(143%)にそれぞれ強い増殖活性が認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハトムギの全草、茎葉、茎又は葉の抽出物又はその処理物を含有する食品。
【請求項2】
造血させるための請求項1記載の食品。
【請求項3】
血糖値を低下させるための請求項1記載の食品。
【請求項4】
抗肥満食品である請求項1記載の食品。
【請求項5】
体質改善させるための請求項1記載の食品。
【請求項6】
ハトムギの全草、茎葉、茎又は葉の抽出物又はその処理物を含有する医薬組成物。
【請求項7】
ハトムギの全草、茎葉、茎又は葉由来で造血活性を示す物質を含有する造血剤。
【請求項8】
ハトムギの全草、茎葉、茎又は葉の抽出物又はその処理物を含有する造血剤。
【請求項9】
食品に添加するための請求項7又は8記載の造血剤。
【請求項10】
ハトムギの全草、茎葉、茎又は葉由来で血糖降下活性を示す物質を含有する血糖降下剤。
【請求項11】
ハトムギの全草、茎葉、茎又は葉の抽出物又はその処理物を含有する血糖降下剤。
【請求項12】
食品に添加するための請求項10又は11記載の血糖降下剤。

【公開番号】特開2007−252329(P2007−252329A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−83662(P2006−83662)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(504160781)国立大学法人金沢大学 (282)
【Fターム(参考)】