ハニカム充填塔型の気液接触装置
【課題】気液接触時の流動状態を安定化できる、ハニカム構造体が収容された塔型容器内において気液を上向き流れで接触させるための塔型接触装置と、その運転方法を提供する。
【解決手段】塔型容器11内において気液を上向き流れで接触させるための塔型接触装置10であって、塔型容器内には、気液を接触させるためのハニカム構造体12が収容され、ハニカム構造体が、多数の平行な細管流路からなり、細管流路が、幅方向の断面形状の水力直径が1mm未満であり、好ましくは、細管流路の幅方向の断面形状が三角形である塔型接触装置。
【解決手段】塔型容器11内において気液を上向き流れで接触させるための塔型接触装置10であって、塔型容器内には、気液を接触させるためのハニカム構造体12が収容され、ハニカム構造体が、多数の平行な細管流路からなり、細管流路が、幅方向の断面形状の水力直径が1mm未満であり、好ましくは、細管流路の幅方向の断面形状が三角形である塔型接触装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塔型容器内において気体及び液体(以下「気液」と略す)を上向き流れで接触させるための塔型接触装置に関する。
【背景技術】
【0002】
触媒を収容した反応塔内にて気体と液体の二相(気液二相)を反応させる方法として、上から下に気液を流して反応させる下向並流型あるいはダウンフロー型(特許文献1)と、下から上に気液を流して反応させる上向並流型あるいはアップフロー型(特許文献2)がある。これらの方法で用いる触媒の支持体として、流体が流れるときの圧力損失が小さいことから、多数の平行な細管流路からなるハニカム構造体又はモノリス構造体が使用されている。
【0003】
ハニカム構造体を構成する細管流路を流れる気液二相流の流動様式の一つに、気泡と液スラグが交互に流れるテイラー流がある。前記テイラー流において、気泡と細管内壁に固定化された触媒とを隔てるのは、非常に薄い液膜であることから、気体と固体壁の間の物質移動が速い。そして、液スラグ中では内部循環流れが生じており、液体内部での物質移動も促進される。これらの理由から、気液固触媒反応に対する触媒支持体としてハニカム構造体が期待されている。
【0004】
ハニカム構造体では圧力損失が小さいため、反応塔としてアップフロー型を適用しやすい。気液二相のアップフローでは、気体と液体の幅広い流量条件の下で液体が連続相となるため、ハニカムの細管流路において容易にテイラー流になるという利点がある。また、流路構造の規則性のため、流れもハニカム断面に対して均一になると考えられていた。
しかし、現在では、実際には一部の細管に気泡が集中して流れが不安定になり、ハニカム断面で不均一な流れになることが知られている。
【0005】
反応塔内部の流動状態は、滞留時間分布で把握することができる(非特許文献1)。滞留時間分布とは、ある瞬間に装置に流入した流体が装置内に滞留する時間の分布のことである。滞留時間分布は、例えば装置の入口でトレーサーを瞬間的に注入して、装置の出口におけるトレーサーの濃度応答(濃度変化)を測定し、濃度応答を確率密度として規格化することで得ることができる(インパルス応答法)。
【0006】
滞留時間分布 E(t) として、二つの両極端なモデル的な流動状態である完全混合流れと押出流れが知られている。完全混合流れは連続槽型反応器の流動状態のモデルで、装置内で一瞬にして流体が均一に混合される流れであり、押出流れは管型反応器の流動状態のモデルで、装置内で流れ方向での混合が一切存在しない流れである。これらの仮定は厳密にはあり得ないため、これら二つの流れは理想流れとも呼ばれる。
【0007】
現実の流れは完全混合流れと押出流れの中間的な滞留時間分布を取るが、例えば、反応塔の滞留時間分布が完全混合流れに近いとき、反応塔内部での流体の混合が激しいこと、反応塔内部の流れが非常に乱れていることを示している。気液二相流の場合、完全混合流れは不安定な流動状態を反映していることが多い。
完全混合流れでは、極めて短い滞留時間で反応塔から排出される流体が多いため、反応塔内部で十分に反応が進行せず、反応活性の面で問題が生じる場合がある。一方で、反応塔における滞留時間が非常に長い流体も並存する。このとき、過剰に反応することで本来得るはずの生成物とならず、副生物となる可能性が高まる。つまり、反応の選択性に悪影響を及ぼすこともある。
【0008】
ハニカム構造体又はモノリス構造体を収容した装置における気液二相のアップフローに関して、液体の滞留時間分布を調べた研究として、非特許文献2〜4がある。
【0009】
非特許文献2では、幅2.4 mmの正方形断面の細管流路を1平方インチあたり80個(1cm2あたり12.4個、80cpsi)持つモノリスを使用している。モノリスは一辺2 cmの正方形断面で、高さは10 cmである(断面の細管流路数は49個)。これを一辺2.2 cmの正方形断面の矩形管に1個もしくは3個収容している。気体を均一に分散するように49個の細管流路それぞれ全てにステンレス細管を挿入し、これらのステンレス細管を通じて気体が供給されている。そのようにして得られた液体の滞留時間分布はほぼ完全混合流れに近いものであった。実験条件は、ガス空塔速度5.2×10-2m/s以下、液空塔速度5.2×10-4m/s以下のようである。なお、空塔速度とは、流量を塔(あるいは装置、反応器)の断面積で割ったものである。
【0010】
非特許文献3では、内径5 cmの円管に、幅1 mmの細管流路からなるモノリス(400cpsi)を3個収容している。モノリスの高さは3個合わせて0.33mである。モノリス間で細管流路は整合していない。ガス空塔速度2.2×10-2m/s、液空塔速度2.3×10-3 m/sでの液体の滞留時間分布を得ており、完全混合流れに近い。
【0011】
非特許文献4では、幅2 mmの正方形断面の細管(高さ15.2 cm)を束ねてモノリスを模している。ガス空塔速度1.2×10-2 m/s、液空塔速度1.2×10-3 m/sにて液体の滞留時間分布を得ており、やはり完全混合流れに近い。ここで、空塔速度は装置断面5.7 cm×2.3 cmから算出した。
【0012】
以上のように、ハニカム構造体又はモノリス構造体を収容した装置における気液二相のアップフローに対して、液体の滞留時間分布は完全混合流れに近いものしか知られていない。
【0013】
非特許文献5、非特許文献6では、細管流路におけるテイラー流の圧力損失モデルに基づき、流れの安定性解析が行われている。それらによれば、アップフローでは気体や液体の流量条件に関わらず流れは不安定になるとされており、非特許文献2〜4の結果と整合する。
【0014】
非特許文献7では、MRIによる可視化でハニカムにおける気液二相のアップフローを確認している。使用しているモノリスは、幅1.7 mmの正方形断面の細管流路からなり、モノリスの直径は42mm、高さ0.15 m、200 cpsiである。モノリスは、流れがバイパスしないように側面をシールして、内径50 mmの円管に収容されている。例えば、ガス空塔速度9×10-4 m/s、液空塔速度4.1×10-3 m/sにて得られたモノリス断面での液体の速度分布は、下向きの速度も含めて非常に幅広い分布となっている。これも非特許文献2〜6と整合する結果である。
【0015】
以上のように、ハニカム構造体を収容したハニカム充填塔における気液二相のアップフローは不安定で、液体の滞留時間分布で見ると完全混合流れに近いものしか知られていない。そのため、ハニカム充填塔では、特許文献1、非特許文献5に見られるようにダウンフローでの検討が多い。
ダウンフローにおいては液分散が重要であることから、特許文献1ではハニカム構造体をずらして重ねることで液分散を図っており、非特許文献5ではスプレーノズルやスタティックミキサーが用いられている。
アップフローにおいても、例えば特許文献2のようにスタティックミキサーで気液分散を図る方法が開示されているが、非特許文献2に見られるように、ガス分散性を向上しても液体の滞留時間分布は完全混合流れに近いことが知られている。特許文献2では、スタティックミキサーによる気液分散で物質移動を促進し、反応効率が増しているが、流動状態が安定になっているわけではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特表2004-522567号公報(US2002/0076372)
【特許文献2】特開2003-176255号公報(US2003/0050510)
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】橋本 健治:反応工学(培風館,1993)pp.179≡197.
【非特許文献2】川上 幸衛、安達 公浩、嶺村 則道、楠 浩一郎;化学工学論文集,Vol.13 (1987) 318.(K. Kawakami, K. Kawasaki, F. Shiraishi, K. Kusunoki; Ind. Eng. Chem. Res. 28 (1989) 394.)
【非特許文献3】R.H. Patrick, T. Klindera, L.L. Crynes, R.L. Cerro, M.A. Abraham; AIChE J. 41 (1995) 649.
【非特許文献4】T.C. Thulasidas, M.A. Abraham, R.L. Cerro; Chem. Eng. Sci. 54 (1999) 61.
【非特許文献5】M.T. Kreutzer, J.J.W. Bakker, F. Kapteijn, J.A. Moulijn; Ind. Eng. Chem. Res. 44 (2005) 4898.
【非特許文献6】A. Cybulski, J.A. Moulijn (eds.); Structured Catalysts and Reactors, Second Edition (CRC Press, 2006) pp.426-427.
【非特許文献7】A.J. Sederman, J.J. Heras, M.D. Mantle, L.F. Gladden; Catal. Today 128 (2007) 3.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、気液を接触させたときの流動状態を安定化させることができる、ハニカム構造体が収容された塔型容器内において気液を上向き流れ(アップフロー)で接触させるための塔型接触装置と、その運転方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記の非特許文献5、非特許文献6の解析ではアップフローは不安定になるとされているが、その解析の前提条件として、液膜の存在が無視できるという仮定を置いている。この仮定は、液膜の薄いダウンフローでは適切と考えられるが、ダウンフローに比べて液膜が厚く、その存在が無視できないアップフローでは適切ではない。
このことは、単一の細管流路における気体の体積流量比(気体の空塔速度を、気体の空塔速度と液体の空塔速度の和で割ったもの)とガスホールドアップの間の相関関係からも理解できるが、本願発明者がその相関関係に基づいて安定性解析を行ったところ、特に細管流路が細くなると、液膜による摩擦損失の寄与で、現実的な流量で流れが安定になることを初めて見出した。さらに、細管幅の異なるハニカム構造体を使用して実験で検証したところ、細管流路が細くなることでハニカム構造体を収容したハニカム充填塔のアップフローが安定化することを確認し、本発明を完成したものである。
【0020】
本発明は、課題の解決手段として、
塔型容器内において気液を上向き流れで接触させるための塔型接触装置であって、
前記塔型容器内には、気液を接触させるためのハニカム構造体が収容されており、
前記ハニカム構造体が、多数の平行な細管流路からなるものであり、
前記細管流路が、幅方向の断面形状の水力直径が1 mm未満のものである塔型接触装置を提供する。
【0021】
本発明は、他の課題の解決手段として、
上記の塔型接触装置の運転方法であって、
液空塔速度0.0001〜0.5 m/s、ガス空塔速度0.05〜10 m/sで気液を接触させる塔型接触装置の運転方法を提供する。
【発明の効果】
【0022】
本発明の塔型接触装置によれば、ハニカム構造体が収容された塔型容器内において気液をアップフローで接触させたとき、流動状態を安定化させることができる。このため、ハニカム構造体が有する多数の細管流路の全てにほぼ均等に気液を流すことができることから、気液の接触効率が高められ、反応装置として使用したときには、反応効率が高められる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の塔型接触装置の概念図。
【図2】水力直径の説明図。
【図3】フィンつきの細管流路の断面を例示した図。
【図4】ハニカム構造体の一実施形態の斜視図。
【図5】本発明の塔型接触装置を運転したときにおける、ハニカム構造体の細管流路の形状の違いによる液膜の違いを説明するための図。
【図6】実施例及び比較例における滞留時間分布の算出方法の説明図。
【図7】完全混合流れの滞留時間分布を表す図。
【図8】実施例1〜3で用いた塔型接触装置の縦方向断面図。
【図9】実施例1、比較例1の滞留時間分布の測定結果を示した図。
【図10】(a)は実施例4、5で用いた塔型接触装置の縦方向断面図、(b)は(a)の塔型接触装置で使用したハニカム構造体の断面図。
【図11】実施例4、5と比較例5の滞留時間分布の測定結果を示した図。
【図12】3級アミンの製造を実施するための製造装置と製造フローを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<塔型接触装置>
本発明の塔型接触装置を図1により説明する。図1は、本願発明の塔型接触装置10の一実施形態を示した縦方向の断面図である。本願発明の塔型接触装置は図1のものに限定されるものではない。
【0025】
本発明の塔型接触装置10は、塔型容器11内において気液を上向き流れで接触させるためのものである。
本発明の塔型接触装置10で用いる塔型容器11は、目的に応じた大きさ及び形状のもので、気液を塔下部から供給し、塔頂部で取り出せて、上向き流れで接触させることができるものであればよい。
【0026】
塔型容器11内には、多数の平行な細管流路からなるハニカム構造体12が収容されている。
ハニカム構造体12は、その内部において気液を接触させるためのものであり、1段又は2段以上が収容されている。2段以上が収容されている場合は、段と段の間に間隔が形成された状態で収容されていることを意味する。段と段の間の間隔には、多孔板などの整流部を設置してもよい。
ハニカム構造体12の収容数は、塔型接触装置10の使用目的に応じて選択するものであり、例えば反応装置として使用するときには好ましくは2段以上であり、4段以上がさらに好ましく、10段以上又は20段以上を収容することもできる。
また1つの段のハニカム構造体12は、1個のハニカム構造体からなるものでもよいし、複数個のハニカム構造体の組み合わせからなるものでもよい。
【0027】
本発明の塔型接触装置10で用いるハニカム構造体12の形状や構造等は周知のものであるが、細管流路の幅方向の断面形状の水力直径が1 mm未満のものであることが従来技術とは異なる新規な構成要件である。前記の水力直径は、気液が細管流路を流れるときの圧力損失が大きくなり過ぎないという観点から、0.1 mm以上1 mm未満が好ましく、0.5 mm以上1 mm未満がより好ましい。
ここで「水力直径」は周知のものであり、次式:dH= 4A / L(Aは流路断面積、Lは浸辺長)で表されるものである。図2には、いくつかの断面形状での「水力直径」の計算式を例示した。
ハニカム構造体12としては、水力直径が上記範囲であれば、細管流路の断面形状はどのような形であってもよく、図3のように任意の数、任意の大きさのフィンが任意の場所に付いた形状のものでもよい。同じ形状と断面積の細管流路でも、フィンが付くと浸辺長Lが大きくなることで水力直径が小さくなる。このことは、フィンが付くと気液二相のアップフローが安定化しやすいことを示唆する。一般に、フィンが付くと細管流路の液膜が厚くなることが知られており、液膜に起因する摩擦損失が増大するという観点からも流れの安定化に有利であると考えられる。
【0028】
ハニカム構造体12としては、水力直径が上記範囲であり、加工の容易性等の観点から、細管流路の幅方向の断面形状が円形、楕円形、多角形から選ばれるものが好ましい。
【0029】
ハニカム構造体12としては、水力直径が上記範囲であり、細管流路の幅方向の断面形状が六角形、五角形、四角形、三角形から選ばれる多角形又は略多角形であるものがより好ましい。ここで「略多角形」とは、多角形において、1つ以上の角部が丸みを帯びていたり、1つ以上の辺が曲線を含んでいたりする形状であるものを意味する。
【0030】
ハニカム構造体12としては、水力直径が上記範囲であり、細管流路の幅方向の断面形状が三角形又は略三角形であるものがさらに好ましい。三角形は、正三角形、二等辺三角形、直角三角形であってもよい。「略三角形」は、三角形において、1つ以上の角部が丸みを帯びていたり、1つ以上の辺が曲線を含んでいたりする形状であるものを意味する。
【0031】
ハニカム構造体12としては、平板状のフィルムと波板状のフィルムが厚さ方向に交互に積み重ねられたもので、細管流路の幅方向の断面形状が略三角形のものを用いることができる(以下「平板状フィルムと波板状フィルムの複合ハニカム構造体」と称する)。
このような平板状フィルムと波板状フィルムの複合ハニカム構造体の外観形状及び構造としては、図4に示すものを用いることができる。
図4で示す平板状フィルムと波板状フィルムの複合ハニカム構造体50は、平板状フィルム51と波板状フィルム52が交互に積層されてなるものであり、多数の平行な略三角形(1つの角部が丸みを帯び、2辺が曲線を含んでいる)の細管流路53が形成されている。
【0032】
ハニカム構造体12が構造体触媒として用いられるものであるとき、ハニカム構造体12を触媒の支持体として、その表面に触媒が固定化されたものを用いる。ここで、ハニカム構造体の表面とは気体や液体と接触する面のことであり、ハニカム構造体が有する多数の細管流路の内壁面及びハニカム構造体の外表面である。
このようなハニカム構造体12の表面に触媒が固定化されたものは周知であり、例えば、特許文献1、2に記載されたものを用いることができる。
上記の平板状フィルムと波板状フィルムの複合ハニカム構造体に触媒が固定化されたものは、図4で示すハニカム構造体50に触媒を固定化させて得ることができる。図4で示すハニカム構造体50(水力直径が1 mm未満になるように調整したもの)に触媒を固定化させたものは、特開2009-262145号公報の図3、特開2008-110341号公報の図6に示されたもの(但し、前記2つの公報には、水力直径についての記載は全くない)と同じ製造方法を適用して得ることができる。
【0033】
塔型容器11内にハニカム構造体12を収容するとき、ハニカム構造体12自体が塔型容器11内に収容可能な大きさ及び形状に加工されたものを収容する方法を適用することができる。また必要に応じて、塔型容器11内に収容可能な大きさ及び形状のホルダー(ハニカム構造体の収容容器)内にハニカム構造体12を収容したものを収容する方法を適用することができる。
【0034】
図1では、ハニカム構造体12(又はそれを収容したホルダー)は、気液の流通が可能な部材13により支持・固定されている。
部材13は、塔型容器11に固定した又は着脱自在に取り付けた支持手段であり、例えば、リング、格子、円板状の網、多孔板、円筒状に形成された枠体、骨組構造で形成された枠体等を用いることができる。
【0035】
塔型接触装置10において、気液は塔下部15から供給され、ハニカム構造体12を通過し、塔頂部16から排出される。
最下段のハニカム構造体12(塔下部15に最も近い側)の下側には、多孔板17を設置してもよい。最下段のハニカム構造体12の下側に多孔板を設置した場合には、塔型接触装置10内に気液を流したとき、多孔板17の上側で気体の分散状態が向上するので好ましい。
【0036】
次に、本発明の塔型接触装置10において、気液をアップフローで接触させたときの流動状態を安定化させることができる作用(メカニズム)について説明する。
ハニカム構造体12の細管流路(図4のハニカム構造体50では細管流路53)に気液をアップフローで流したとき、細管流路の壁には液膜が形成される(図5参照)。既に説明したとおり、アップフローの液膜はダウンフローの液膜よりも厚くなり、細管流路内で液体が占める体積割合(液ホールドアップ)が大きくなって、流れの安定化に影響する摩擦損失がより顕著になる。
細管流路が太い場合、ある細管に気泡が侵入すると、気液の密度差に起因して、その細管の圧力損失が低下し、さらに多くの気体や液体が誘導されてその細管に流れが集中し、流れが不安定になる。これはアップフローに対して従来から言われてきた不安定性のメカニズムである。
一方、細管流路が細い場合、摩擦損失の影響が無視できない。摩擦損失は、層流では細管の径の2乗に反比例する。気液の流れが特定の細管に集中すると、その細管の摩擦損失が増大し、気液の密度差による圧力損失低下の影響を上回って流れにくくなり、他の細管に流れが向かうことになって流れが安定化する。このような効果は、液膜の存在を考慮して液ホールドアップや摩擦損失の寄与を見直して初めて明らかになった。なお、摩擦損失とは圧力損失の一形態で、流体が管路内を流れるときの壁面での摩擦に起因した圧力損失のことである。圧力損失には、他にも、重力(流体の密度が関係)や運動量変化に起因したもの等がある。
このようにしてアップフローが安定化すると、特定の細管に流れが集中することがなく、どの細管にも平均的に流れが分配されるようになるため、気液の分散性も自ずと改善される。流れの安定化は、直接的には液体の滞留時間分布の観点から反応活性や選択率の向上が期待されるが、気液分散の観点からも反応へのよい影響が期待できる。
【0037】
そして、本発明の塔型接触装置10におけるアップフローの安定化は、液膜の存在による摩擦損失に基づくため、流れの安定化の観点からは、液膜が厚くなるような細管の断面形状が望ましい。
細管は、図5に示すとおり、断面形状が円形より四角形、さらには三角形の方が、液膜が厚くなることが知られており、これらの事実から、細管の断面形状が鋭角の角を持つものが好ましいことになる。さらに、平板状フィルムと波板状フィルムの複合構造体(図4参照)は、液膜による流れの安定化の観点からはさらに好ましい。
【0038】
本発明の塔型接触装置10は、気液を安定に接触させる装置として用いることができるが、例えば、ハニカム構造体12を目的に応じた構造体触媒とすることにより、水素化反応、脱水素反応、酸化反応、分解反応、アルキル化反応、アシル化反応、エーテル化反応、エステル化反応等に適用することができる。
【0039】
本発明の塔型接触装置10は、アルコールと1級又は2級アミンを用いた3級アミンの製造装置として用いることができる。
3級アミンの製造装置として用いる場合、ハニカム構造体に触媒を固定化させたものは、例えば、特開2009-262145号公報、特開2008-110341号公報に記載の方法を適用して製造することができる。
【0040】
3級アミンの製造装置として用いる場合、ハニカム構造体に固定化させる触媒を構成する活物質としては、特に限定されるものではなく、公知のものを利用することができるが、一般に銅系の金属等を好適に用いることができる。
例えばCu単独あるいはこれにNb、Cr、Mo、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ni、Pd、Pt、Zn等の金属元素を加えた2成分以上の金属を含むものが挙げられ、CuとNiを含有するものが好ましく用いられる。またこれらをさらにシリカ、アルミナ、チタニア、ゼオライト、シリカ−アルミナ、ジルコニア、珪藻土等の担体に担持させたもの等も用いられる。
【0041】
構造体触媒の内部には、それ単独では活物質として作用しないが、活物質を固定化して薄膜状の触媒膜を形成するためのバインダを含有していてもよい。
バインダとしては、活物質同士又は支持体表面への結着性の他に、反応環境に耐え、さらに反応系に悪影響しないような、耐薬品性や耐熱性等の性質を有する高分子あるいは無機化合物が挙げられる。
例えば、カルボキシメチルセルロースやヒドロキシエチルセルロース等のセルロース系樹脂、ポリ四フッ化エチレンやポリフッ化ビニリデン等のフッ素系樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、ポリビニルアルコール、ポリイミド樹脂、ポリイミドアミド樹脂等の高分子化合物、あるいはシリカ、アルミナ等の無機化合物ゾル等が挙げられる。
【0042】
3級アミンを製造するための原料のアルコールとしては、直鎖状又は分岐鎖状の、炭素数6〜36の飽和又は不飽和の脂肪族アルコールが好ましく、例えばヘキシルアルコール、オクチルアルコール、デシルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、パルミチルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、オレイルアルコール等や、これらの混合アルコール等、またチーグラー法によって得られるチーグラーアルコールや、オキソ法によって得られるオキソアルコール及びゲルベアルコール等が挙げられる。
【0043】
3級アミンを製造するための原料の1級又は2級アミンとしては、脂肪族1級又は2級アミンが好ましく、例えばメチルアミン、ジメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、ドデシルアミン、ジドデシルアミン等が挙げられる。
【0044】
得られる3級アミンは、1級もしくは2級アミンの窒素原子に結合する水素原子がアルコール由来のアルキル及び/又はアルケニル基で置換されたものである。例えばドデシルアルコールとジメチルアミンから得られる、対応する3級アミンは、N−ドデシル−N,N−ジメチルアミンであり、ジメチルアミンが不均化して生じたメチルアミン及びアンモニアが反応して副生する3級アミンのN,N−ジドデシル−N−メチルアミン及びN,N,N−トリドデシルアミンと区別される。
【0045】
<塔型接触装置の運転方法>
次に、図1に示す塔型接触装置10により、本発明の塔型接触装置の好ましい運転方法(気液の接触方法乃至は気液の反応方法)について説明する。
【0046】
本発明の塔型接触装置10を運転するときには、塔下部15から気液を供給し、ハニカム構造体12を通って塔頂部16から排出するアップフローとなる。
気液二相のアップフローでは、ガス空塔速度が大きいと流れの乱れが顕著になると一般に考えられているが、本発明ではガス空塔速度が0.05 m/s以上であっても適切に気液を接触できる。ガス空塔速度が0.1 m/s以上であってもよく、さらに0.3 m/s以上であってもよい。上限は気体の元圧(ライン圧)で決まるが、概ね10 m/s以下である。
液空塔速度は、好ましくは0.0001〜0.5 m/s、より好ましくは0.0005〜0.1 m/s、さらに好ましくは0.001〜0.05 m/sとなるように運転して、気液を接触させる。ここで空塔速度とは、液体又は気体の流量を塔断面積で割ったものである。
【0047】
また、本発明の塔型接触装置10を運転するときには、気液の接触効率を高めるという観点から、ガスホールドアップが好ましくは0.05〜0.8、より好ましくは0.1〜0.7、さらに好ましくは0.2〜0.6になるように気液を接触させる。ここでガスホールドアップとは気液二相系で気体が占める体積割合のことで、ボイド率とも呼ばれる。一般には任意の場所の小さい空間を取って局所的な量として定義することもあるが、ここでは装置内全体での気体の体積割合で定義する。
【0048】
また、本発明の塔型接触装置10を運転するときには、塔型接触装置10内での気泡の分散性を高めるという観点から、気液二相流中の気泡の平均直径が0.1〜30 mmになるようにすることが好ましく、0.5〜20 mmになるようにすることがより好ましい。前記気泡径の調整は、例えば液体の表面張力を調整することで行うことができる。
【0049】
本発明の塔型接触装置の運転方法では、上記の空塔速度の範囲において、本発明の塔型接触装置を使用したことによる気液二相流の流動状態の安定化効果を得ることができ、気液の接触効率を高めることができる。特に、ガス空塔速度が大きくてもよいことに特徴がある。さらにガスホールドアップと気液二相流中の気泡径の調整によって、気液の接触効率をより高めることができる。
本発明の塔型接触装置を使用しない場合には、本願発明の運転方法を適用しても、気液二相流の流動状態の安定化効果は得ることができない。
【実施例】
【0050】
(滞留時間分布による評価)
気体と液体が混合される前の液体の配管の途中からシリンジでトレーサーを瞬間的(概ね1秒以内)に注入した。トレーサーとして、液体の滞留時間分布を求めるために20質量% NaCl水溶液を1 mL用いた。
塔型接触装置に気液(トレーサーを含む)をアップフローで供給し、塔型接触装置から排出された気体と液体が分離されるようにカップに受け、そこで液体の導電率を測定した。測定した導電率は、濃度と導電率の検量線(相関線)を用いて濃度に換算される。
トレーサーを注入してから、そのトレーサーが装置から十分に排出されるまでの時間、濃度応答を測定した。この測定時間は、装置の容積(トレーサー注入口から装置までの配管の容積と装置から導電率を測定するカップまでの配管の容積を含む)を液体の流量で割って算出した時間の少なくとも4倍以上である。なお、トレーサーの注入位置から塔型接触装置までの配管の長さと、塔型接触装置からカップ(導電率の測定位置)までの配管の長さはなるべく短くして、塔型接触装置以外の流動状態が測定に与える影響を減らした。
図6(a)で示されるトレーサーの濃度応答を、その積分が1になるように規格化すると、図6(b)に示されるような実時間tで表した滞留時間分布E(t)が得られる。さらに平均滞留時間τを用いてE(t)を無次元化して、図6(c)で示されるような無次元時間θで表した滞留時間分布E(θ) を評価した。なお、図7は完全混合流れの滞留時間分布を示す図である。
【0051】
(槽数Nによる評価)
滞留時間分布を表現するモデルとして知られる槽列モデルを用いて滞留時間分布、すなわち流動状態を評価する。槽列モデルとは、装置を仮想的に等しい体積の完全混合槽に分割し、完全混合槽の槽数Nで流動状態を表すものであり、滞留時間分布は式(I)で表される(非特許文献1)。
なお、完全混合槽とは、内部の流動状態として完全混合流れが仮定される装置のことである。槽数N = 1は完全混合流れに対応し、槽数Nが1より大きくなるほど押出流れに近くなる。
滞留時間分布が完全混合流れに近いとき(槽数N = 1に近いとき)、既に述べたとおり、装置内部での流体の混合が激しいことを示しており、流れが非常に乱れていること、流れが不安定であることを意味する。槽数Nが1より大きくなるほど流れが安定化していると理解できる。槽数Nは滞留時間分布E(t) の分散σt2、あるいは滞留時間分布E(θ) の分散σθ2から式(II)により求めることができる。
式(II)中のτは平均滞留時間で、図6と同じく、式(III)から得られる。分散σt2、分散σθ2は式(IV)から求められる。
【0052】
【数1】
【0053】
実施例1〜3及び比較例1〜4
図8に示す塔型接触装置を用いて、気液の接触を行った。
塔(塔型容器)は流動状態が目視できるようにアクリル樹脂からなる、内径85 mm、高さ830 mmのものを用いた。
塔の底面より115 mmの位置から上方に向かってハニカム構造体が装填され、合計で20個(全体で1段)が重ねて収容されている。
ハニカム構造体は、表1に示す六角形の細管流路を蜂の巣状に持つ新日本フエザーコア(株)製のアルミマイクロハニカム(細管幅0.9mm、1.5 mm)とアルミハニカム(細管幅3.2 mm)を用いた。ここで、細管幅とは、図2の六角形において「a」で示される長さである。
ハニカム構造体は円柱形状に切り出されたものであり、1個の直径は84 mm、高さは26 mmである。ハニカム構造体を重ねる際には、細管流路の整合を取っていない。
【0054】
図8及び表1に示す塔型接触装置を用いた気液の接触方法は次のようにして行った。
気体として空気、液体としてイオン交換水を常温で使用した。気体と液体はそれぞれ独立した配管から流量計を通して、一定の流量になるように維持した。
気体と液体の配管は塔に入る前に予め合流して、気体と液体を直径10mm、長さ30 mmの直管に通すことでガス分散させた。直管は、円錐状に断面が漸増する広がり管に接続している。広がり管の出口は塔の内径に合うようになっており、塔の下側に接続している。
気体と液体は、表1に示す空塔速度で、下側から塔に入れ、上側から排出させた。空塔速度は、一般的な定義に従い、流量を塔の断面積で割って算出した。
なお、使用した3種類のハニカム構造体の開口率は、おおよそ96〜99%と大きいため、ハニカムの開口面積を基準として空塔速度を算出しても、空塔速度は1〜4%程度しか変わらない。
【0055】
【表1】
【0056】
実施例1〜3、比較例1〜4では3種類のハニカム構造体に対して気体と液体の空塔速度を変えて実験を行った。
比較例1〜4は、気体や液体の空塔速度に関わらず、滞留時間分布から算出した槽数Nの値が1に近く、従来から一般に知られているように完全混合流れに近いことが分かった。
一方、実施例1〜3では、槽数Nの値が1より十分大きく、明らかに完全混合流れと異なり、押出流れに近づいていた。
一般に、ガス空塔速度が大きくなると、流れの乱れが顕著になると考えられている。実施例1と実施例3を比較すると、ガス空塔速度が大きい実施例3ではNの値がやや小さいものの、Nの値は1より十分大きい。すなわち、ガス空塔速度が大きくても流れが安定であることが確認できる。
ガス空塔速度が実施例1と実施例3の中間の場合、Nの値は概ね実施例1の値と実施例3の値の間を取るものと考えられる。
実施例2より、液空塔速度が大きい場合も問題なく安定化している様子が分かる。
【0057】
図9(a)、(b)に実施例1と比較例1の滞留時間分布を示した。図9(b)は、図9(a)の縦軸を対数表示したものである。実線は完全混合流れにおける滞留時間分布である。
図9(a)、(b)から、比較例1は完全混合流れに極めて近いこと、実施例1は完全混合流れと明らかに異なり、押出流れに近づいていることが確認できた。
【0058】
次に、実施例1〜3、比較例1〜4の装置において、1%メチレンブルー水溶液をトレーサーとして用いて流れを可視化することで流動状態を確認した。
比較例1〜4の装置(塔)の上側にメチレンブルー水溶液を注入したところ、塔の下側の液体も強く着色され、塔の上側と下側の液体の色は短時間の内にほぼ同じになった。さらに、時間の経過と共に塔内の液体の色が、上側と下側共に一様に薄くなっていくことも確認された。これは、比較例1〜4の装置における流動状態が完全混合流れに近く、著しい逆混合(流れの主流に対して逆流する向きで流体が混合する現象)が起きていることを示している。
実施例1〜3の装置(塔)の上側にメチレンブルー水溶液を注入したところ、塔の下側の液体への着色はほとんど見られず、一方で塔の上側の液体の色は時間の経過と共に薄くなっていった。これは、実施例1〜3の装置で逆混合が小さく、流れが安定であることを示している。
【0059】
実施例4、5、比較例5、6
図10(a)及び表2に示す塔型接触装置を用いて、気液の接触を行った。
塔(塔型容器)は流動状態が目視できるようにアクリル樹脂からなる、内径85 mm、高さ830 mmのものである。
塔の底面より115mmの位置から上方に向かってハニカム構造体が装填されている。
ハニカム構造体は、図10(b)に示す断面形状が略三角形の細管流路を有するものであり、厚さ40μmの銅箔を用いて、波板状に加工したフィルムと平板状のフィルムを重ね合わせて作製した。1つのハニカム構造体の高さは250 mm、断面は円形で、内径85 mmの塔に隙間無く入るように各フィルムが異なる幅寸法でカットされている。
ハニカム構造体を塔に2セット収容し、ハニカム構造体の合計高さを500 mmとした。上下のハニカム構造体は、互いに周方向に角度を90°ずらして重ねたものと、上下のハニカム構造体の間に26 mmの間隔が形成されるように保持して2段に収容したものを実施した。なお、ハニカム構造体は、線径0.47 mm、目開き2 mmのステンレス金網(直径84 mm)で保持した。
ハニカム構造体は、表2及び図10(b)に示す細管流路(断面形状が略三角形)の山高さ(H)と山と山の間のピッチ(P)が異なるものを用いた。
山高さ(H)1.0 mm、ピッチ(P)5.2mmのハニカムの開口率は約92%、細管流路の水力直径は約0.96mmである。山高さ(H)1.6 mm、ピッチ(P)7.6mmのハニカムの開口率は約95%、細管流路の水力直径は1.53 mmである。ここで、開口率と水力直径の値は、波板状のフィルムの断面形状の曲線を三角関数で近似して算出したものである。なお、ハニカム構造体の細管流路の断面形状を二等辺三角形で近似すると、図2の式から水力直径を概算することもでき、三角関数近似のときと非常に近い値が得られる。
【0060】
図10(a)及び表2に示す塔型接触装置を用いた気液の接触方法は、実施例1〜3、比較例1〜4と同様に行った。
空塔速度は、実施例1〜3、比較例1〜4と同様に、一般的な定義に従い、流量を塔の断面積で割って算出した。なお、使用した2種類のハニカム構造体の開口率は大きいため、ハニカムの開口面積を基準として空塔速度を算出しても、空塔速度は5〜9%程度しか変わらない。
【0061】
【表2】
【0062】
比較例5、6では、滞留時間分布から算出した槽数Nの値が1に近く、完全混合流れに近いことが確認できた。
一方、実施例4、5では、比較例5、6よりNの値が大きく、より押出流れに近づいており、特に2段に収容した実施例5では顕著であった。
【0063】
図11(a)、(b)に実施例4、5と比較例5の滞留時間分布を示した。図11(b)は図11(a)の縦軸を対数表示したものである。実線は完全混合流れにおける滞留時間分布である。
比較例5は完全混合流れに極めて近いこと、実施例4は完全混合流れと明らかに異なり、押出流れに近づいていること、実施例5はさらに押出流れに近づいていることが確認できた。
細管流路の断面形状に着目して、実施例4(略三角形の細管流路)を実施例1〜3(六角形の細管流路)と比較する。
実施例4では水力直径は0.96mmであり、細管流路1本の断面積は約2.6 mm2である。
実施例1〜3のハニカム構造体は六角形の細管流路を持つが、細管幅0.9 mmの細管流路では水力直径は0.9 mmで、細管流路1本の断面積は約0.70 mm2である。
実施例4のハニカム構造体は実施例1〜3に比べて水力直径が大きく、細管流路の断面積に着目すると約3.7倍もの大きさである。それにも関わらず流れの安定化効果が得られているのは、細管流路の断面形状の効果であると考えられる。
【0064】
実施例6(3級アミンの製造)
<フィルム状触媒の製造>
フィルム状の支持体に対して、フェノール樹脂をバインダとして粉末状触媒を固定化したフィルム状触媒を調製した。
容量1Lのフラスコに合成ゼオライトを仕込み、次いで硝酸銅と硝酸ニッケル及び塩化ルテニウムを各金属原子のモル比でCu:Ni:Ru=4:1:0.01となるように水に溶かしたものを入れ、撹拌しながら昇温した。
90℃まで昇温した後、10質量%炭酸ナトリウム水溶液を徐々に滴下して、pH9〜10にコントロールした。
1時間の熟成後、沈殿物を濾過・水洗後80℃で10時間乾燥し、600℃で3時間焼成して粉末状触媒を得た。得られた粉末状触媒における金属酸化物の割合は50質量%、合成ゼオライトの割合は50質量%であった。
【0065】
上記粉末状触媒100質量部に、バインダとしてフェノール樹脂(住友ベークライト製PR≡9480、不揮発分56質量%)を加え、フェノール樹脂の不揮発分が25質量部になるようにした。さらに溶剤として4−メチル−2−ペンタノンを加え、固形分(粉末状触媒及びフェノール樹脂の不揮発分)の割合が57質量%となるようにした。
これをペイントシェーカー(東洋精機製作所、250 mLのポリ容器に触媒含有塗料164.5 gと1.0 mm径のガラスビーズ102 gを充填)にて30分間混合分散処理して塗料化した。
銅箔(厚さ40μm、6.5 cm×410 cm×1枚)を支持体とし、上記塗料をバーコータにより両面に塗工後、130℃で1分間乾燥した。
乾燥したもののうちの半分を波板状に折り曲げ加工し、残りを平板状のままで、150℃で90分間硬化処理して、フィルム状触媒を上記銅箔の両面に固定化した。得られたフィルム状触媒の銅箔を除いた片面当りの固形分重量は1 m2あたり18.75 gであった。
【0066】
<ハニカム状触媒の製造>
前記フィルム状触媒を用いてハニカム構造の構造体触媒(ハニカム状触媒)を製造した。
底部にステンレス(SUS304)製の目開き5 mmのメッシュが固定されたSUS304製の外径27 mm、内径24.2 mm、高さ80 mmの円筒管をハニカム状触媒の容器として用意した。
この容器内に、硬化処理済みの平板及び波板状の前記フィルム状触媒を交互に重ねた状態で円筒状に丸めて、ハニカム状となるように装填した。
これを計5個作製し、SUS304製の内径28.0 mm、高さ650 mmの円筒管(塔型容器101)内に、下から70 mmの位置で支持して5個重ねて充填して塔型反応器100とした(全体で1段)。
ラウリルアルコール(花王(株)製カルコール2098)820 gを緩衝槽113に仕込んだ。
外部循環用ポンプ135を作動させ、開閉弁133を開いた状態で、ラウリルアルコールを内径6 mmの配管(ライン125)より塔型反応器100に9L/hrで導入し、緩衝槽113と塔型反応器100との間で液循環を行った。
ガス供給器102として、孔径0.025 mmの金属フィルターを用い、原料タンク116の水素ガスを標準状態体積換算で50 L/hrの流量で、開閉弁132を開いた状態でライン122から供給しながら、塔型反応器100内部の温度を185℃まで昇温した後、1時間保持して触媒の還元を行い、ハニカム状触媒を得た。その後、冷却し、ラウリルアルコールを抜出した。
製作されたハニカム状触媒は、山高さ(H)1.0 mm、ピッチ(P)2.5 mmであり、波板状のフィルムの断面形状の曲線を三角関数で近似すると、細管流路の水力直径は約0.87 mmである。
【0067】
<3級アミンの製造>(N−ドデシル−N,N−ジメチルアミンの製造)
前記塔型反応器100(前記ハニカム状触媒を収容している)に対して、図12の製造フローにより、3級アミンを製造した。
ラウリルアルコール820 gを緩衝槽113に仕込み、液流量9 L/hrで循環させた。ガス供給器102として、孔径0.025 mmの金属フィルターを用いた。原料タンク116の水素を標準状態体積換算で25 L/hrの流量で供給しながら昇温し、原料タンク115のジメチルアミンの供給によって反応を開始し、循環反応を行った。
緩衝槽113内の未反応のジメチルアミン及び水分は、導管126aを通し、開閉弁134を開いた状態でライン127から連続的に排出する。
導管126aから排出される成分中には、上記の他にアルコールや生成した3級アミンの成分等が含まれることがあるため、それらについては充填塔114内で凝縮液化させ、ライン126bから緩衝槽113に戻す。
反応温度は220℃まで昇温し、ジメチルアミン供給量は反応の進行に合わせて調整した。緩衝槽113より、反応液を経時的にサンプリングしてガスクロマトグラフにて分析を行い、面積百分率法にて組成を定量した。
その結果、未反応のラウリルアルコールが1.0質量%になるのに要した時間は反応開始から4時間であり、その時点での反応液の組成は、N−ドデシル−N,N−ジメチルアミンが86質量%であり、副生物として生成したN,N−ジドデシル−N−メチルアミンは11質量%であった。
【技術分野】
【0001】
本発明は、塔型容器内において気体及び液体(以下「気液」と略す)を上向き流れで接触させるための塔型接触装置に関する。
【背景技術】
【0002】
触媒を収容した反応塔内にて気体と液体の二相(気液二相)を反応させる方法として、上から下に気液を流して反応させる下向並流型あるいはダウンフロー型(特許文献1)と、下から上に気液を流して反応させる上向並流型あるいはアップフロー型(特許文献2)がある。これらの方法で用いる触媒の支持体として、流体が流れるときの圧力損失が小さいことから、多数の平行な細管流路からなるハニカム構造体又はモノリス構造体が使用されている。
【0003】
ハニカム構造体を構成する細管流路を流れる気液二相流の流動様式の一つに、気泡と液スラグが交互に流れるテイラー流がある。前記テイラー流において、気泡と細管内壁に固定化された触媒とを隔てるのは、非常に薄い液膜であることから、気体と固体壁の間の物質移動が速い。そして、液スラグ中では内部循環流れが生じており、液体内部での物質移動も促進される。これらの理由から、気液固触媒反応に対する触媒支持体としてハニカム構造体が期待されている。
【0004】
ハニカム構造体では圧力損失が小さいため、反応塔としてアップフロー型を適用しやすい。気液二相のアップフローでは、気体と液体の幅広い流量条件の下で液体が連続相となるため、ハニカムの細管流路において容易にテイラー流になるという利点がある。また、流路構造の規則性のため、流れもハニカム断面に対して均一になると考えられていた。
しかし、現在では、実際には一部の細管に気泡が集中して流れが不安定になり、ハニカム断面で不均一な流れになることが知られている。
【0005】
反応塔内部の流動状態は、滞留時間分布で把握することができる(非特許文献1)。滞留時間分布とは、ある瞬間に装置に流入した流体が装置内に滞留する時間の分布のことである。滞留時間分布は、例えば装置の入口でトレーサーを瞬間的に注入して、装置の出口におけるトレーサーの濃度応答(濃度変化)を測定し、濃度応答を確率密度として規格化することで得ることができる(インパルス応答法)。
【0006】
滞留時間分布 E(t) として、二つの両極端なモデル的な流動状態である完全混合流れと押出流れが知られている。完全混合流れは連続槽型反応器の流動状態のモデルで、装置内で一瞬にして流体が均一に混合される流れであり、押出流れは管型反応器の流動状態のモデルで、装置内で流れ方向での混合が一切存在しない流れである。これらの仮定は厳密にはあり得ないため、これら二つの流れは理想流れとも呼ばれる。
【0007】
現実の流れは完全混合流れと押出流れの中間的な滞留時間分布を取るが、例えば、反応塔の滞留時間分布が完全混合流れに近いとき、反応塔内部での流体の混合が激しいこと、反応塔内部の流れが非常に乱れていることを示している。気液二相流の場合、完全混合流れは不安定な流動状態を反映していることが多い。
完全混合流れでは、極めて短い滞留時間で反応塔から排出される流体が多いため、反応塔内部で十分に反応が進行せず、反応活性の面で問題が生じる場合がある。一方で、反応塔における滞留時間が非常に長い流体も並存する。このとき、過剰に反応することで本来得るはずの生成物とならず、副生物となる可能性が高まる。つまり、反応の選択性に悪影響を及ぼすこともある。
【0008】
ハニカム構造体又はモノリス構造体を収容した装置における気液二相のアップフローに関して、液体の滞留時間分布を調べた研究として、非特許文献2〜4がある。
【0009】
非特許文献2では、幅2.4 mmの正方形断面の細管流路を1平方インチあたり80個(1cm2あたり12.4個、80cpsi)持つモノリスを使用している。モノリスは一辺2 cmの正方形断面で、高さは10 cmである(断面の細管流路数は49個)。これを一辺2.2 cmの正方形断面の矩形管に1個もしくは3個収容している。気体を均一に分散するように49個の細管流路それぞれ全てにステンレス細管を挿入し、これらのステンレス細管を通じて気体が供給されている。そのようにして得られた液体の滞留時間分布はほぼ完全混合流れに近いものであった。実験条件は、ガス空塔速度5.2×10-2m/s以下、液空塔速度5.2×10-4m/s以下のようである。なお、空塔速度とは、流量を塔(あるいは装置、反応器)の断面積で割ったものである。
【0010】
非特許文献3では、内径5 cmの円管に、幅1 mmの細管流路からなるモノリス(400cpsi)を3個収容している。モノリスの高さは3個合わせて0.33mである。モノリス間で細管流路は整合していない。ガス空塔速度2.2×10-2m/s、液空塔速度2.3×10-3 m/sでの液体の滞留時間分布を得ており、完全混合流れに近い。
【0011】
非特許文献4では、幅2 mmの正方形断面の細管(高さ15.2 cm)を束ねてモノリスを模している。ガス空塔速度1.2×10-2 m/s、液空塔速度1.2×10-3 m/sにて液体の滞留時間分布を得ており、やはり完全混合流れに近い。ここで、空塔速度は装置断面5.7 cm×2.3 cmから算出した。
【0012】
以上のように、ハニカム構造体又はモノリス構造体を収容した装置における気液二相のアップフローに対して、液体の滞留時間分布は完全混合流れに近いものしか知られていない。
【0013】
非特許文献5、非特許文献6では、細管流路におけるテイラー流の圧力損失モデルに基づき、流れの安定性解析が行われている。それらによれば、アップフローでは気体や液体の流量条件に関わらず流れは不安定になるとされており、非特許文献2〜4の結果と整合する。
【0014】
非特許文献7では、MRIによる可視化でハニカムにおける気液二相のアップフローを確認している。使用しているモノリスは、幅1.7 mmの正方形断面の細管流路からなり、モノリスの直径は42mm、高さ0.15 m、200 cpsiである。モノリスは、流れがバイパスしないように側面をシールして、内径50 mmの円管に収容されている。例えば、ガス空塔速度9×10-4 m/s、液空塔速度4.1×10-3 m/sにて得られたモノリス断面での液体の速度分布は、下向きの速度も含めて非常に幅広い分布となっている。これも非特許文献2〜6と整合する結果である。
【0015】
以上のように、ハニカム構造体を収容したハニカム充填塔における気液二相のアップフローは不安定で、液体の滞留時間分布で見ると完全混合流れに近いものしか知られていない。そのため、ハニカム充填塔では、特許文献1、非特許文献5に見られるようにダウンフローでの検討が多い。
ダウンフローにおいては液分散が重要であることから、特許文献1ではハニカム構造体をずらして重ねることで液分散を図っており、非特許文献5ではスプレーノズルやスタティックミキサーが用いられている。
アップフローにおいても、例えば特許文献2のようにスタティックミキサーで気液分散を図る方法が開示されているが、非特許文献2に見られるように、ガス分散性を向上しても液体の滞留時間分布は完全混合流れに近いことが知られている。特許文献2では、スタティックミキサーによる気液分散で物質移動を促進し、反応効率が増しているが、流動状態が安定になっているわけではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特表2004-522567号公報(US2002/0076372)
【特許文献2】特開2003-176255号公報(US2003/0050510)
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】橋本 健治:反応工学(培風館,1993)pp.179≡197.
【非特許文献2】川上 幸衛、安達 公浩、嶺村 則道、楠 浩一郎;化学工学論文集,Vol.13 (1987) 318.(K. Kawakami, K. Kawasaki, F. Shiraishi, K. Kusunoki; Ind. Eng. Chem. Res. 28 (1989) 394.)
【非特許文献3】R.H. Patrick, T. Klindera, L.L. Crynes, R.L. Cerro, M.A. Abraham; AIChE J. 41 (1995) 649.
【非特許文献4】T.C. Thulasidas, M.A. Abraham, R.L. Cerro; Chem. Eng. Sci. 54 (1999) 61.
【非特許文献5】M.T. Kreutzer, J.J.W. Bakker, F. Kapteijn, J.A. Moulijn; Ind. Eng. Chem. Res. 44 (2005) 4898.
【非特許文献6】A. Cybulski, J.A. Moulijn (eds.); Structured Catalysts and Reactors, Second Edition (CRC Press, 2006) pp.426-427.
【非特許文献7】A.J. Sederman, J.J. Heras, M.D. Mantle, L.F. Gladden; Catal. Today 128 (2007) 3.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、気液を接触させたときの流動状態を安定化させることができる、ハニカム構造体が収容された塔型容器内において気液を上向き流れ(アップフロー)で接触させるための塔型接触装置と、その運転方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記の非特許文献5、非特許文献6の解析ではアップフローは不安定になるとされているが、その解析の前提条件として、液膜の存在が無視できるという仮定を置いている。この仮定は、液膜の薄いダウンフローでは適切と考えられるが、ダウンフローに比べて液膜が厚く、その存在が無視できないアップフローでは適切ではない。
このことは、単一の細管流路における気体の体積流量比(気体の空塔速度を、気体の空塔速度と液体の空塔速度の和で割ったもの)とガスホールドアップの間の相関関係からも理解できるが、本願発明者がその相関関係に基づいて安定性解析を行ったところ、特に細管流路が細くなると、液膜による摩擦損失の寄与で、現実的な流量で流れが安定になることを初めて見出した。さらに、細管幅の異なるハニカム構造体を使用して実験で検証したところ、細管流路が細くなることでハニカム構造体を収容したハニカム充填塔のアップフローが安定化することを確認し、本発明を完成したものである。
【0020】
本発明は、課題の解決手段として、
塔型容器内において気液を上向き流れで接触させるための塔型接触装置であって、
前記塔型容器内には、気液を接触させるためのハニカム構造体が収容されており、
前記ハニカム構造体が、多数の平行な細管流路からなるものであり、
前記細管流路が、幅方向の断面形状の水力直径が1 mm未満のものである塔型接触装置を提供する。
【0021】
本発明は、他の課題の解決手段として、
上記の塔型接触装置の運転方法であって、
液空塔速度0.0001〜0.5 m/s、ガス空塔速度0.05〜10 m/sで気液を接触させる塔型接触装置の運転方法を提供する。
【発明の効果】
【0022】
本発明の塔型接触装置によれば、ハニカム構造体が収容された塔型容器内において気液をアップフローで接触させたとき、流動状態を安定化させることができる。このため、ハニカム構造体が有する多数の細管流路の全てにほぼ均等に気液を流すことができることから、気液の接触効率が高められ、反応装置として使用したときには、反応効率が高められる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の塔型接触装置の概念図。
【図2】水力直径の説明図。
【図3】フィンつきの細管流路の断面を例示した図。
【図4】ハニカム構造体の一実施形態の斜視図。
【図5】本発明の塔型接触装置を運転したときにおける、ハニカム構造体の細管流路の形状の違いによる液膜の違いを説明するための図。
【図6】実施例及び比較例における滞留時間分布の算出方法の説明図。
【図7】完全混合流れの滞留時間分布を表す図。
【図8】実施例1〜3で用いた塔型接触装置の縦方向断面図。
【図9】実施例1、比較例1の滞留時間分布の測定結果を示した図。
【図10】(a)は実施例4、5で用いた塔型接触装置の縦方向断面図、(b)は(a)の塔型接触装置で使用したハニカム構造体の断面図。
【図11】実施例4、5と比較例5の滞留時間分布の測定結果を示した図。
【図12】3級アミンの製造を実施するための製造装置と製造フローを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<塔型接触装置>
本発明の塔型接触装置を図1により説明する。図1は、本願発明の塔型接触装置10の一実施形態を示した縦方向の断面図である。本願発明の塔型接触装置は図1のものに限定されるものではない。
【0025】
本発明の塔型接触装置10は、塔型容器11内において気液を上向き流れで接触させるためのものである。
本発明の塔型接触装置10で用いる塔型容器11は、目的に応じた大きさ及び形状のもので、気液を塔下部から供給し、塔頂部で取り出せて、上向き流れで接触させることができるものであればよい。
【0026】
塔型容器11内には、多数の平行な細管流路からなるハニカム構造体12が収容されている。
ハニカム構造体12は、その内部において気液を接触させるためのものであり、1段又は2段以上が収容されている。2段以上が収容されている場合は、段と段の間に間隔が形成された状態で収容されていることを意味する。段と段の間の間隔には、多孔板などの整流部を設置してもよい。
ハニカム構造体12の収容数は、塔型接触装置10の使用目的に応じて選択するものであり、例えば反応装置として使用するときには好ましくは2段以上であり、4段以上がさらに好ましく、10段以上又は20段以上を収容することもできる。
また1つの段のハニカム構造体12は、1個のハニカム構造体からなるものでもよいし、複数個のハニカム構造体の組み合わせからなるものでもよい。
【0027】
本発明の塔型接触装置10で用いるハニカム構造体12の形状や構造等は周知のものであるが、細管流路の幅方向の断面形状の水力直径が1 mm未満のものであることが従来技術とは異なる新規な構成要件である。前記の水力直径は、気液が細管流路を流れるときの圧力損失が大きくなり過ぎないという観点から、0.1 mm以上1 mm未満が好ましく、0.5 mm以上1 mm未満がより好ましい。
ここで「水力直径」は周知のものであり、次式:dH= 4A / L(Aは流路断面積、Lは浸辺長)で表されるものである。図2には、いくつかの断面形状での「水力直径」の計算式を例示した。
ハニカム構造体12としては、水力直径が上記範囲であれば、細管流路の断面形状はどのような形であってもよく、図3のように任意の数、任意の大きさのフィンが任意の場所に付いた形状のものでもよい。同じ形状と断面積の細管流路でも、フィンが付くと浸辺長Lが大きくなることで水力直径が小さくなる。このことは、フィンが付くと気液二相のアップフローが安定化しやすいことを示唆する。一般に、フィンが付くと細管流路の液膜が厚くなることが知られており、液膜に起因する摩擦損失が増大するという観点からも流れの安定化に有利であると考えられる。
【0028】
ハニカム構造体12としては、水力直径が上記範囲であり、加工の容易性等の観点から、細管流路の幅方向の断面形状が円形、楕円形、多角形から選ばれるものが好ましい。
【0029】
ハニカム構造体12としては、水力直径が上記範囲であり、細管流路の幅方向の断面形状が六角形、五角形、四角形、三角形から選ばれる多角形又は略多角形であるものがより好ましい。ここで「略多角形」とは、多角形において、1つ以上の角部が丸みを帯びていたり、1つ以上の辺が曲線を含んでいたりする形状であるものを意味する。
【0030】
ハニカム構造体12としては、水力直径が上記範囲であり、細管流路の幅方向の断面形状が三角形又は略三角形であるものがさらに好ましい。三角形は、正三角形、二等辺三角形、直角三角形であってもよい。「略三角形」は、三角形において、1つ以上の角部が丸みを帯びていたり、1つ以上の辺が曲線を含んでいたりする形状であるものを意味する。
【0031】
ハニカム構造体12としては、平板状のフィルムと波板状のフィルムが厚さ方向に交互に積み重ねられたもので、細管流路の幅方向の断面形状が略三角形のものを用いることができる(以下「平板状フィルムと波板状フィルムの複合ハニカム構造体」と称する)。
このような平板状フィルムと波板状フィルムの複合ハニカム構造体の外観形状及び構造としては、図4に示すものを用いることができる。
図4で示す平板状フィルムと波板状フィルムの複合ハニカム構造体50は、平板状フィルム51と波板状フィルム52が交互に積層されてなるものであり、多数の平行な略三角形(1つの角部が丸みを帯び、2辺が曲線を含んでいる)の細管流路53が形成されている。
【0032】
ハニカム構造体12が構造体触媒として用いられるものであるとき、ハニカム構造体12を触媒の支持体として、その表面に触媒が固定化されたものを用いる。ここで、ハニカム構造体の表面とは気体や液体と接触する面のことであり、ハニカム構造体が有する多数の細管流路の内壁面及びハニカム構造体の外表面である。
このようなハニカム構造体12の表面に触媒が固定化されたものは周知であり、例えば、特許文献1、2に記載されたものを用いることができる。
上記の平板状フィルムと波板状フィルムの複合ハニカム構造体に触媒が固定化されたものは、図4で示すハニカム構造体50に触媒を固定化させて得ることができる。図4で示すハニカム構造体50(水力直径が1 mm未満になるように調整したもの)に触媒を固定化させたものは、特開2009-262145号公報の図3、特開2008-110341号公報の図6に示されたもの(但し、前記2つの公報には、水力直径についての記載は全くない)と同じ製造方法を適用して得ることができる。
【0033】
塔型容器11内にハニカム構造体12を収容するとき、ハニカム構造体12自体が塔型容器11内に収容可能な大きさ及び形状に加工されたものを収容する方法を適用することができる。また必要に応じて、塔型容器11内に収容可能な大きさ及び形状のホルダー(ハニカム構造体の収容容器)内にハニカム構造体12を収容したものを収容する方法を適用することができる。
【0034】
図1では、ハニカム構造体12(又はそれを収容したホルダー)は、気液の流通が可能な部材13により支持・固定されている。
部材13は、塔型容器11に固定した又は着脱自在に取り付けた支持手段であり、例えば、リング、格子、円板状の網、多孔板、円筒状に形成された枠体、骨組構造で形成された枠体等を用いることができる。
【0035】
塔型接触装置10において、気液は塔下部15から供給され、ハニカム構造体12を通過し、塔頂部16から排出される。
最下段のハニカム構造体12(塔下部15に最も近い側)の下側には、多孔板17を設置してもよい。最下段のハニカム構造体12の下側に多孔板を設置した場合には、塔型接触装置10内に気液を流したとき、多孔板17の上側で気体の分散状態が向上するので好ましい。
【0036】
次に、本発明の塔型接触装置10において、気液をアップフローで接触させたときの流動状態を安定化させることができる作用(メカニズム)について説明する。
ハニカム構造体12の細管流路(図4のハニカム構造体50では細管流路53)に気液をアップフローで流したとき、細管流路の壁には液膜が形成される(図5参照)。既に説明したとおり、アップフローの液膜はダウンフローの液膜よりも厚くなり、細管流路内で液体が占める体積割合(液ホールドアップ)が大きくなって、流れの安定化に影響する摩擦損失がより顕著になる。
細管流路が太い場合、ある細管に気泡が侵入すると、気液の密度差に起因して、その細管の圧力損失が低下し、さらに多くの気体や液体が誘導されてその細管に流れが集中し、流れが不安定になる。これはアップフローに対して従来から言われてきた不安定性のメカニズムである。
一方、細管流路が細い場合、摩擦損失の影響が無視できない。摩擦損失は、層流では細管の径の2乗に反比例する。気液の流れが特定の細管に集中すると、その細管の摩擦損失が増大し、気液の密度差による圧力損失低下の影響を上回って流れにくくなり、他の細管に流れが向かうことになって流れが安定化する。このような効果は、液膜の存在を考慮して液ホールドアップや摩擦損失の寄与を見直して初めて明らかになった。なお、摩擦損失とは圧力損失の一形態で、流体が管路内を流れるときの壁面での摩擦に起因した圧力損失のことである。圧力損失には、他にも、重力(流体の密度が関係)や運動量変化に起因したもの等がある。
このようにしてアップフローが安定化すると、特定の細管に流れが集中することがなく、どの細管にも平均的に流れが分配されるようになるため、気液の分散性も自ずと改善される。流れの安定化は、直接的には液体の滞留時間分布の観点から反応活性や選択率の向上が期待されるが、気液分散の観点からも反応へのよい影響が期待できる。
【0037】
そして、本発明の塔型接触装置10におけるアップフローの安定化は、液膜の存在による摩擦損失に基づくため、流れの安定化の観点からは、液膜が厚くなるような細管の断面形状が望ましい。
細管は、図5に示すとおり、断面形状が円形より四角形、さらには三角形の方が、液膜が厚くなることが知られており、これらの事実から、細管の断面形状が鋭角の角を持つものが好ましいことになる。さらに、平板状フィルムと波板状フィルムの複合構造体(図4参照)は、液膜による流れの安定化の観点からはさらに好ましい。
【0038】
本発明の塔型接触装置10は、気液を安定に接触させる装置として用いることができるが、例えば、ハニカム構造体12を目的に応じた構造体触媒とすることにより、水素化反応、脱水素反応、酸化反応、分解反応、アルキル化反応、アシル化反応、エーテル化反応、エステル化反応等に適用することができる。
【0039】
本発明の塔型接触装置10は、アルコールと1級又は2級アミンを用いた3級アミンの製造装置として用いることができる。
3級アミンの製造装置として用いる場合、ハニカム構造体に触媒を固定化させたものは、例えば、特開2009-262145号公報、特開2008-110341号公報に記載の方法を適用して製造することができる。
【0040】
3級アミンの製造装置として用いる場合、ハニカム構造体に固定化させる触媒を構成する活物質としては、特に限定されるものではなく、公知のものを利用することができるが、一般に銅系の金属等を好適に用いることができる。
例えばCu単独あるいはこれにNb、Cr、Mo、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ni、Pd、Pt、Zn等の金属元素を加えた2成分以上の金属を含むものが挙げられ、CuとNiを含有するものが好ましく用いられる。またこれらをさらにシリカ、アルミナ、チタニア、ゼオライト、シリカ−アルミナ、ジルコニア、珪藻土等の担体に担持させたもの等も用いられる。
【0041】
構造体触媒の内部には、それ単独では活物質として作用しないが、活物質を固定化して薄膜状の触媒膜を形成するためのバインダを含有していてもよい。
バインダとしては、活物質同士又は支持体表面への結着性の他に、反応環境に耐え、さらに反応系に悪影響しないような、耐薬品性や耐熱性等の性質を有する高分子あるいは無機化合物が挙げられる。
例えば、カルボキシメチルセルロースやヒドロキシエチルセルロース等のセルロース系樹脂、ポリ四フッ化エチレンやポリフッ化ビニリデン等のフッ素系樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、ポリビニルアルコール、ポリイミド樹脂、ポリイミドアミド樹脂等の高分子化合物、あるいはシリカ、アルミナ等の無機化合物ゾル等が挙げられる。
【0042】
3級アミンを製造するための原料のアルコールとしては、直鎖状又は分岐鎖状の、炭素数6〜36の飽和又は不飽和の脂肪族アルコールが好ましく、例えばヘキシルアルコール、オクチルアルコール、デシルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、パルミチルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、オレイルアルコール等や、これらの混合アルコール等、またチーグラー法によって得られるチーグラーアルコールや、オキソ法によって得られるオキソアルコール及びゲルベアルコール等が挙げられる。
【0043】
3級アミンを製造するための原料の1級又は2級アミンとしては、脂肪族1級又は2級アミンが好ましく、例えばメチルアミン、ジメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、ドデシルアミン、ジドデシルアミン等が挙げられる。
【0044】
得られる3級アミンは、1級もしくは2級アミンの窒素原子に結合する水素原子がアルコール由来のアルキル及び/又はアルケニル基で置換されたものである。例えばドデシルアルコールとジメチルアミンから得られる、対応する3級アミンは、N−ドデシル−N,N−ジメチルアミンであり、ジメチルアミンが不均化して生じたメチルアミン及びアンモニアが反応して副生する3級アミンのN,N−ジドデシル−N−メチルアミン及びN,N,N−トリドデシルアミンと区別される。
【0045】
<塔型接触装置の運転方法>
次に、図1に示す塔型接触装置10により、本発明の塔型接触装置の好ましい運転方法(気液の接触方法乃至は気液の反応方法)について説明する。
【0046】
本発明の塔型接触装置10を運転するときには、塔下部15から気液を供給し、ハニカム構造体12を通って塔頂部16から排出するアップフローとなる。
気液二相のアップフローでは、ガス空塔速度が大きいと流れの乱れが顕著になると一般に考えられているが、本発明ではガス空塔速度が0.05 m/s以上であっても適切に気液を接触できる。ガス空塔速度が0.1 m/s以上であってもよく、さらに0.3 m/s以上であってもよい。上限は気体の元圧(ライン圧)で決まるが、概ね10 m/s以下である。
液空塔速度は、好ましくは0.0001〜0.5 m/s、より好ましくは0.0005〜0.1 m/s、さらに好ましくは0.001〜0.05 m/sとなるように運転して、気液を接触させる。ここで空塔速度とは、液体又は気体の流量を塔断面積で割ったものである。
【0047】
また、本発明の塔型接触装置10を運転するときには、気液の接触効率を高めるという観点から、ガスホールドアップが好ましくは0.05〜0.8、より好ましくは0.1〜0.7、さらに好ましくは0.2〜0.6になるように気液を接触させる。ここでガスホールドアップとは気液二相系で気体が占める体積割合のことで、ボイド率とも呼ばれる。一般には任意の場所の小さい空間を取って局所的な量として定義することもあるが、ここでは装置内全体での気体の体積割合で定義する。
【0048】
また、本発明の塔型接触装置10を運転するときには、塔型接触装置10内での気泡の分散性を高めるという観点から、気液二相流中の気泡の平均直径が0.1〜30 mmになるようにすることが好ましく、0.5〜20 mmになるようにすることがより好ましい。前記気泡径の調整は、例えば液体の表面張力を調整することで行うことができる。
【0049】
本発明の塔型接触装置の運転方法では、上記の空塔速度の範囲において、本発明の塔型接触装置を使用したことによる気液二相流の流動状態の安定化効果を得ることができ、気液の接触効率を高めることができる。特に、ガス空塔速度が大きくてもよいことに特徴がある。さらにガスホールドアップと気液二相流中の気泡径の調整によって、気液の接触効率をより高めることができる。
本発明の塔型接触装置を使用しない場合には、本願発明の運転方法を適用しても、気液二相流の流動状態の安定化効果は得ることができない。
【実施例】
【0050】
(滞留時間分布による評価)
気体と液体が混合される前の液体の配管の途中からシリンジでトレーサーを瞬間的(概ね1秒以内)に注入した。トレーサーとして、液体の滞留時間分布を求めるために20質量% NaCl水溶液を1 mL用いた。
塔型接触装置に気液(トレーサーを含む)をアップフローで供給し、塔型接触装置から排出された気体と液体が分離されるようにカップに受け、そこで液体の導電率を測定した。測定した導電率は、濃度と導電率の検量線(相関線)を用いて濃度に換算される。
トレーサーを注入してから、そのトレーサーが装置から十分に排出されるまでの時間、濃度応答を測定した。この測定時間は、装置の容積(トレーサー注入口から装置までの配管の容積と装置から導電率を測定するカップまでの配管の容積を含む)を液体の流量で割って算出した時間の少なくとも4倍以上である。なお、トレーサーの注入位置から塔型接触装置までの配管の長さと、塔型接触装置からカップ(導電率の測定位置)までの配管の長さはなるべく短くして、塔型接触装置以外の流動状態が測定に与える影響を減らした。
図6(a)で示されるトレーサーの濃度応答を、その積分が1になるように規格化すると、図6(b)に示されるような実時間tで表した滞留時間分布E(t)が得られる。さらに平均滞留時間τを用いてE(t)を無次元化して、図6(c)で示されるような無次元時間θで表した滞留時間分布E(θ) を評価した。なお、図7は完全混合流れの滞留時間分布を示す図である。
【0051】
(槽数Nによる評価)
滞留時間分布を表現するモデルとして知られる槽列モデルを用いて滞留時間分布、すなわち流動状態を評価する。槽列モデルとは、装置を仮想的に等しい体積の完全混合槽に分割し、完全混合槽の槽数Nで流動状態を表すものであり、滞留時間分布は式(I)で表される(非特許文献1)。
なお、完全混合槽とは、内部の流動状態として完全混合流れが仮定される装置のことである。槽数N = 1は完全混合流れに対応し、槽数Nが1より大きくなるほど押出流れに近くなる。
滞留時間分布が完全混合流れに近いとき(槽数N = 1に近いとき)、既に述べたとおり、装置内部での流体の混合が激しいことを示しており、流れが非常に乱れていること、流れが不安定であることを意味する。槽数Nが1より大きくなるほど流れが安定化していると理解できる。槽数Nは滞留時間分布E(t) の分散σt2、あるいは滞留時間分布E(θ) の分散σθ2から式(II)により求めることができる。
式(II)中のτは平均滞留時間で、図6と同じく、式(III)から得られる。分散σt2、分散σθ2は式(IV)から求められる。
【0052】
【数1】
【0053】
実施例1〜3及び比較例1〜4
図8に示す塔型接触装置を用いて、気液の接触を行った。
塔(塔型容器)は流動状態が目視できるようにアクリル樹脂からなる、内径85 mm、高さ830 mmのものを用いた。
塔の底面より115 mmの位置から上方に向かってハニカム構造体が装填され、合計で20個(全体で1段)が重ねて収容されている。
ハニカム構造体は、表1に示す六角形の細管流路を蜂の巣状に持つ新日本フエザーコア(株)製のアルミマイクロハニカム(細管幅0.9mm、1.5 mm)とアルミハニカム(細管幅3.2 mm)を用いた。ここで、細管幅とは、図2の六角形において「a」で示される長さである。
ハニカム構造体は円柱形状に切り出されたものであり、1個の直径は84 mm、高さは26 mmである。ハニカム構造体を重ねる際には、細管流路の整合を取っていない。
【0054】
図8及び表1に示す塔型接触装置を用いた気液の接触方法は次のようにして行った。
気体として空気、液体としてイオン交換水を常温で使用した。気体と液体はそれぞれ独立した配管から流量計を通して、一定の流量になるように維持した。
気体と液体の配管は塔に入る前に予め合流して、気体と液体を直径10mm、長さ30 mmの直管に通すことでガス分散させた。直管は、円錐状に断面が漸増する広がり管に接続している。広がり管の出口は塔の内径に合うようになっており、塔の下側に接続している。
気体と液体は、表1に示す空塔速度で、下側から塔に入れ、上側から排出させた。空塔速度は、一般的な定義に従い、流量を塔の断面積で割って算出した。
なお、使用した3種類のハニカム構造体の開口率は、おおよそ96〜99%と大きいため、ハニカムの開口面積を基準として空塔速度を算出しても、空塔速度は1〜4%程度しか変わらない。
【0055】
【表1】
【0056】
実施例1〜3、比較例1〜4では3種類のハニカム構造体に対して気体と液体の空塔速度を変えて実験を行った。
比較例1〜4は、気体や液体の空塔速度に関わらず、滞留時間分布から算出した槽数Nの値が1に近く、従来から一般に知られているように完全混合流れに近いことが分かった。
一方、実施例1〜3では、槽数Nの値が1より十分大きく、明らかに完全混合流れと異なり、押出流れに近づいていた。
一般に、ガス空塔速度が大きくなると、流れの乱れが顕著になると考えられている。実施例1と実施例3を比較すると、ガス空塔速度が大きい実施例3ではNの値がやや小さいものの、Nの値は1より十分大きい。すなわち、ガス空塔速度が大きくても流れが安定であることが確認できる。
ガス空塔速度が実施例1と実施例3の中間の場合、Nの値は概ね実施例1の値と実施例3の値の間を取るものと考えられる。
実施例2より、液空塔速度が大きい場合も問題なく安定化している様子が分かる。
【0057】
図9(a)、(b)に実施例1と比較例1の滞留時間分布を示した。図9(b)は、図9(a)の縦軸を対数表示したものである。実線は完全混合流れにおける滞留時間分布である。
図9(a)、(b)から、比較例1は完全混合流れに極めて近いこと、実施例1は完全混合流れと明らかに異なり、押出流れに近づいていることが確認できた。
【0058】
次に、実施例1〜3、比較例1〜4の装置において、1%メチレンブルー水溶液をトレーサーとして用いて流れを可視化することで流動状態を確認した。
比較例1〜4の装置(塔)の上側にメチレンブルー水溶液を注入したところ、塔の下側の液体も強く着色され、塔の上側と下側の液体の色は短時間の内にほぼ同じになった。さらに、時間の経過と共に塔内の液体の色が、上側と下側共に一様に薄くなっていくことも確認された。これは、比較例1〜4の装置における流動状態が完全混合流れに近く、著しい逆混合(流れの主流に対して逆流する向きで流体が混合する現象)が起きていることを示している。
実施例1〜3の装置(塔)の上側にメチレンブルー水溶液を注入したところ、塔の下側の液体への着色はほとんど見られず、一方で塔の上側の液体の色は時間の経過と共に薄くなっていった。これは、実施例1〜3の装置で逆混合が小さく、流れが安定であることを示している。
【0059】
実施例4、5、比較例5、6
図10(a)及び表2に示す塔型接触装置を用いて、気液の接触を行った。
塔(塔型容器)は流動状態が目視できるようにアクリル樹脂からなる、内径85 mm、高さ830 mmのものである。
塔の底面より115mmの位置から上方に向かってハニカム構造体が装填されている。
ハニカム構造体は、図10(b)に示す断面形状が略三角形の細管流路を有するものであり、厚さ40μmの銅箔を用いて、波板状に加工したフィルムと平板状のフィルムを重ね合わせて作製した。1つのハニカム構造体の高さは250 mm、断面は円形で、内径85 mmの塔に隙間無く入るように各フィルムが異なる幅寸法でカットされている。
ハニカム構造体を塔に2セット収容し、ハニカム構造体の合計高さを500 mmとした。上下のハニカム構造体は、互いに周方向に角度を90°ずらして重ねたものと、上下のハニカム構造体の間に26 mmの間隔が形成されるように保持して2段に収容したものを実施した。なお、ハニカム構造体は、線径0.47 mm、目開き2 mmのステンレス金網(直径84 mm)で保持した。
ハニカム構造体は、表2及び図10(b)に示す細管流路(断面形状が略三角形)の山高さ(H)と山と山の間のピッチ(P)が異なるものを用いた。
山高さ(H)1.0 mm、ピッチ(P)5.2mmのハニカムの開口率は約92%、細管流路の水力直径は約0.96mmである。山高さ(H)1.6 mm、ピッチ(P)7.6mmのハニカムの開口率は約95%、細管流路の水力直径は1.53 mmである。ここで、開口率と水力直径の値は、波板状のフィルムの断面形状の曲線を三角関数で近似して算出したものである。なお、ハニカム構造体の細管流路の断面形状を二等辺三角形で近似すると、図2の式から水力直径を概算することもでき、三角関数近似のときと非常に近い値が得られる。
【0060】
図10(a)及び表2に示す塔型接触装置を用いた気液の接触方法は、実施例1〜3、比較例1〜4と同様に行った。
空塔速度は、実施例1〜3、比較例1〜4と同様に、一般的な定義に従い、流量を塔の断面積で割って算出した。なお、使用した2種類のハニカム構造体の開口率は大きいため、ハニカムの開口面積を基準として空塔速度を算出しても、空塔速度は5〜9%程度しか変わらない。
【0061】
【表2】
【0062】
比較例5、6では、滞留時間分布から算出した槽数Nの値が1に近く、完全混合流れに近いことが確認できた。
一方、実施例4、5では、比較例5、6よりNの値が大きく、より押出流れに近づいており、特に2段に収容した実施例5では顕著であった。
【0063】
図11(a)、(b)に実施例4、5と比較例5の滞留時間分布を示した。図11(b)は図11(a)の縦軸を対数表示したものである。実線は完全混合流れにおける滞留時間分布である。
比較例5は完全混合流れに極めて近いこと、実施例4は完全混合流れと明らかに異なり、押出流れに近づいていること、実施例5はさらに押出流れに近づいていることが確認できた。
細管流路の断面形状に着目して、実施例4(略三角形の細管流路)を実施例1〜3(六角形の細管流路)と比較する。
実施例4では水力直径は0.96mmであり、細管流路1本の断面積は約2.6 mm2である。
実施例1〜3のハニカム構造体は六角形の細管流路を持つが、細管幅0.9 mmの細管流路では水力直径は0.9 mmで、細管流路1本の断面積は約0.70 mm2である。
実施例4のハニカム構造体は実施例1〜3に比べて水力直径が大きく、細管流路の断面積に着目すると約3.7倍もの大きさである。それにも関わらず流れの安定化効果が得られているのは、細管流路の断面形状の効果であると考えられる。
【0064】
実施例6(3級アミンの製造)
<フィルム状触媒の製造>
フィルム状の支持体に対して、フェノール樹脂をバインダとして粉末状触媒を固定化したフィルム状触媒を調製した。
容量1Lのフラスコに合成ゼオライトを仕込み、次いで硝酸銅と硝酸ニッケル及び塩化ルテニウムを各金属原子のモル比でCu:Ni:Ru=4:1:0.01となるように水に溶かしたものを入れ、撹拌しながら昇温した。
90℃まで昇温した後、10質量%炭酸ナトリウム水溶液を徐々に滴下して、pH9〜10にコントロールした。
1時間の熟成後、沈殿物を濾過・水洗後80℃で10時間乾燥し、600℃で3時間焼成して粉末状触媒を得た。得られた粉末状触媒における金属酸化物の割合は50質量%、合成ゼオライトの割合は50質量%であった。
【0065】
上記粉末状触媒100質量部に、バインダとしてフェノール樹脂(住友ベークライト製PR≡9480、不揮発分56質量%)を加え、フェノール樹脂の不揮発分が25質量部になるようにした。さらに溶剤として4−メチル−2−ペンタノンを加え、固形分(粉末状触媒及びフェノール樹脂の不揮発分)の割合が57質量%となるようにした。
これをペイントシェーカー(東洋精機製作所、250 mLのポリ容器に触媒含有塗料164.5 gと1.0 mm径のガラスビーズ102 gを充填)にて30分間混合分散処理して塗料化した。
銅箔(厚さ40μm、6.5 cm×410 cm×1枚)を支持体とし、上記塗料をバーコータにより両面に塗工後、130℃で1分間乾燥した。
乾燥したもののうちの半分を波板状に折り曲げ加工し、残りを平板状のままで、150℃で90分間硬化処理して、フィルム状触媒を上記銅箔の両面に固定化した。得られたフィルム状触媒の銅箔を除いた片面当りの固形分重量は1 m2あたり18.75 gであった。
【0066】
<ハニカム状触媒の製造>
前記フィルム状触媒を用いてハニカム構造の構造体触媒(ハニカム状触媒)を製造した。
底部にステンレス(SUS304)製の目開き5 mmのメッシュが固定されたSUS304製の外径27 mm、内径24.2 mm、高さ80 mmの円筒管をハニカム状触媒の容器として用意した。
この容器内に、硬化処理済みの平板及び波板状の前記フィルム状触媒を交互に重ねた状態で円筒状に丸めて、ハニカム状となるように装填した。
これを計5個作製し、SUS304製の内径28.0 mm、高さ650 mmの円筒管(塔型容器101)内に、下から70 mmの位置で支持して5個重ねて充填して塔型反応器100とした(全体で1段)。
ラウリルアルコール(花王(株)製カルコール2098)820 gを緩衝槽113に仕込んだ。
外部循環用ポンプ135を作動させ、開閉弁133を開いた状態で、ラウリルアルコールを内径6 mmの配管(ライン125)より塔型反応器100に9L/hrで導入し、緩衝槽113と塔型反応器100との間で液循環を行った。
ガス供給器102として、孔径0.025 mmの金属フィルターを用い、原料タンク116の水素ガスを標準状態体積換算で50 L/hrの流量で、開閉弁132を開いた状態でライン122から供給しながら、塔型反応器100内部の温度を185℃まで昇温した後、1時間保持して触媒の還元を行い、ハニカム状触媒を得た。その後、冷却し、ラウリルアルコールを抜出した。
製作されたハニカム状触媒は、山高さ(H)1.0 mm、ピッチ(P)2.5 mmであり、波板状のフィルムの断面形状の曲線を三角関数で近似すると、細管流路の水力直径は約0.87 mmである。
【0067】
<3級アミンの製造>(N−ドデシル−N,N−ジメチルアミンの製造)
前記塔型反応器100(前記ハニカム状触媒を収容している)に対して、図12の製造フローにより、3級アミンを製造した。
ラウリルアルコール820 gを緩衝槽113に仕込み、液流量9 L/hrで循環させた。ガス供給器102として、孔径0.025 mmの金属フィルターを用いた。原料タンク116の水素を標準状態体積換算で25 L/hrの流量で供給しながら昇温し、原料タンク115のジメチルアミンの供給によって反応を開始し、循環反応を行った。
緩衝槽113内の未反応のジメチルアミン及び水分は、導管126aを通し、開閉弁134を開いた状態でライン127から連続的に排出する。
導管126aから排出される成分中には、上記の他にアルコールや生成した3級アミンの成分等が含まれることがあるため、それらについては充填塔114内で凝縮液化させ、ライン126bから緩衝槽113に戻す。
反応温度は220℃まで昇温し、ジメチルアミン供給量は反応の進行に合わせて調整した。緩衝槽113より、反応液を経時的にサンプリングしてガスクロマトグラフにて分析を行い、面積百分率法にて組成を定量した。
その結果、未反応のラウリルアルコールが1.0質量%になるのに要した時間は反応開始から4時間であり、その時点での反応液の組成は、N−ドデシル−N,N−ジメチルアミンが86質量%であり、副生物として生成したN,N−ジドデシル−N−メチルアミンは11質量%であった。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塔型容器内において気体及び液体を上向き流れで接触させるための塔型接触装置であって、
前記塔型容器内には、気体及び液体を接触させるためのハニカム構造体が収容されており、
前記ハニカム構造体が、多数の平行な細管流路からなるものであり、
前記細管流路が、幅方向の断面形状の水力直径が0.1mm以上1mm未満のものである塔型接触装置。
【請求項2】
前記細管流路の幅方向の断面形状が円形、楕円形、多角形から選ばれるものである請求項1記載の塔型接触装置。
【請求項3】
前記細管流路の幅方向の断面形状が六角形、五角形、四角形、三角形から選ばれる多角形又は略多角形である請求項1記載の塔型接触装置。
【請求項4】
前記細管流路の幅方向の断面形状が三角形又は略三角形である請求項1記載の塔型接触装置。
【請求項5】
前記ハニカム構造体が、平板状のフィルムと波板状のフィルムが厚さ方向に交互に積み重ねられたもので、細管流路の幅方向の断面形状が略三角形のものである請求項1記載の塔型接触装置。
【請求項6】
前記ハニカム構造体が、その表面に触媒が固定化されたものである請求項1〜5のいずれか1項記載の塔型接触装置。
【請求項7】
前記ハニカム構造体が、塔型容器内に複数収容されたものである請求項1〜6のいずれか1項記載の塔型接触装置。
【請求項8】
前記ハニカム構造体が、塔型容器内に複数収容されたものであり、複数のハニカム構造体の間に間隔が形成されて収容されている、請求項1〜6のいずれか1項記載の塔型接触装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項記載の塔型接触装置の運転方法であって、
液空塔速度0.0001〜0.5m/s、ガス空塔速度0.05〜10m/sで気体及び液体を接触させる塔型接触装置の運転方法。
【請求項10】
ガスホールドアップが0.05〜0.8になるように気体及び液体を接触させる請求項9記載の塔型接触装置の運転方法。
【請求項1】
塔型容器内において気体及び液体を上向き流れで接触させるための塔型接触装置であって、
前記塔型容器内には、気体及び液体を接触させるためのハニカム構造体が収容されており、
前記ハニカム構造体が、多数の平行な細管流路からなるものであり、
前記細管流路が、幅方向の断面形状の水力直径が0.1mm以上1mm未満のものである塔型接触装置。
【請求項2】
前記細管流路の幅方向の断面形状が円形、楕円形、多角形から選ばれるものである請求項1記載の塔型接触装置。
【請求項3】
前記細管流路の幅方向の断面形状が六角形、五角形、四角形、三角形から選ばれる多角形又は略多角形である請求項1記載の塔型接触装置。
【請求項4】
前記細管流路の幅方向の断面形状が三角形又は略三角形である請求項1記載の塔型接触装置。
【請求項5】
前記ハニカム構造体が、平板状のフィルムと波板状のフィルムが厚さ方向に交互に積み重ねられたもので、細管流路の幅方向の断面形状が略三角形のものである請求項1記載の塔型接触装置。
【請求項6】
前記ハニカム構造体が、その表面に触媒が固定化されたものである請求項1〜5のいずれか1項記載の塔型接触装置。
【請求項7】
前記ハニカム構造体が、塔型容器内に複数収容されたものである請求項1〜6のいずれか1項記載の塔型接触装置。
【請求項8】
前記ハニカム構造体が、塔型容器内に複数収容されたものであり、複数のハニカム構造体の間に間隔が形成されて収容されている、請求項1〜6のいずれか1項記載の塔型接触装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項記載の塔型接触装置の運転方法であって、
液空塔速度0.0001〜0.5m/s、ガス空塔速度0.05〜10m/sで気体及び液体を接触させる塔型接触装置の運転方法。
【請求項10】
ガスホールドアップが0.05〜0.8になるように気体及び液体を接触させる請求項9記載の塔型接触装置の運転方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−130849(P2012−130849A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−284203(P2010−284203)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】
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