説明

ハニカム成形体へのスリット形成方法

【課題】加工速度を向上させることが可能なハニカム成形体へのスリット形成方法を提供する。
【解決手段】一方向に長く先端部分2が最先端部3に向かうに従って漸次細くなり最先端部3が外側に凸の角部となっており最先端部3の角度θが90〜170°であるスリット形成用板状部材1を振動させながら、スリット形成用板状部材1の先端部分2を、流体の流路となる一方の端面11から他方の端面12まで延びる複数のセル13を区画形成する隔壁14を有するハニカム成形体15の一方の端面12に接触させ、スリット形成用板状部材1をハニカム成形体15の他方の端面12側に向かって移動させてハニカム成形体15の隔壁14を切断し、ハニカム成形体15にスリットを形成するハニカム成形体へのスリット形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム成形体へのスリット形成方法に関し、さらに詳しくは、加工速度を向上させることが可能なハニカム成形体へのスリット形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化学、電力、鉄鋼等の様々な分野において、環境対策や特定物資の回収等のために使用される触媒装置用の担体、又はフィルタとして、耐熱性、耐食性に優れるセラミック製のハニカム構造体が採用されている。ハニカム構造体は、流体の流路となる一方の端面から他方の端面まで延びる複数のセルを区画形成する隔壁を有する構造体である。
【0003】
このようなハニカム構造体の中には、製造過程においてスリットを形成するものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−269921号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のハニカム構造体へのスリットの形成方法は、押圧部材を用いてスリット穿設部分を押圧し、破断することによりスリットを穿設するものである。この方法によると、ハニカム構造体の側面からセルに直交する方向に押圧部材を差し込んでスリットを形成する場合には特に問題はないと考えられるが、ハニカム構造体の端面から流路に沿うように(流路に平行に)押圧部材を差し込んでスリットを形成する場合には、破断された切り屑が1セルの開口部よりも大きい時は排出されず、スリット内に残留し、完全な除去が困難という問題があった。また、破断された隔壁の残留リブや切り屑に押圧部材が接触することで、進行の抵抗となりスリット形成速度が低下するという問題があった。また、切り屑が堆積した状態で押圧加工をすると、セル内に詰まりが発生するため、大きな抵抗となり加工できなくなるという問題があった。
【0006】
本発明は、上述した問題に鑑みてなされたものであり、スリット内に切り屑を残留させることなく加工速度を向上させることが可能なハニカム成形体へのスリット形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決するため、本発明は、以下のハニカム成形体へのスリット形成方法を提供する。
【0008】
[1] 一方向に長く先端部分が最先端部に向かうに従って漸次細くなり前記最先端部が外側に凸の角部となっており前記最先端部の角度が90〜170°であるスリット形成用板状部材を、前記スリット形成用板状部材の前記先端部分が、流体の流路となる一方の端面から他方の端面まで延びる複数のセルを区画形成する隔壁を有するハニカム成形体の一方の端面に接触するように配置し、前記スリット形成用板状部材を、振動させながら前記ハニカム成形体の他方の端面側に向かって移動させて前記ハニカム成形体の隔壁を切断し、前記ハニカム成形体にスリットを形成するハニカム成形体へのスリット形成方法。
【0009】
[2] ハニカム成形体の中心軸方向に直交する断面において、隣接する前記隔壁の間に配置される前記隣接する隔壁に直交する隔壁を、前記隣接する隔壁を破損させることなく切断しながら前記隣接する隔壁の間にスリットを形成する[1]に記載のハニカム成形体へのスリット形成方法。
【0010】
[3] 前記スリット形成用板状部材を15kHz以上の高周波振動で振動させながら、前記ハニカム成形体の他方の端面側に向かって移動させて前記ハニカム成形体の隔壁を切断する[1]又は[2]に記載のハニカム成形体へのスリット形成方法。
【0011】
[4] 前記スリット形成用板状部材が、前記先端部分を含む加工部と前記加工部を除いた残りの部分である基部とからなり、前記スリット形成用板状部材の長手方向において、前記加工部の長さが前記スリット形成用板状部材の長さの1〜30%である[1]〜[3]のいずれかに記載のハニカム成形体へのスリット形成方法。
【0012】
[5] 前記スリット形成用板状部材が、前記先端部分を含む加工部と前記加工部を除いた残りの部分である基部とからなり、前記加工部の厚さが前記基部の厚さより厚い[1]〜[4]のいずれかに記載のハニカム成形体へのスリット形成方法。
【0013】
[6] 前記スリット形成用板状部材が、前記先端部分を含む加工部と前記加工部を除いた残りの部分である基部とからなり、前記スリット形成用板状部材の長手方向において、前記加工部の長さが前記スリット形成用板状部材の長さの1〜30%であり、前記基部に少なくとも一の貫通孔が形成された[1]〜[5]のいずれかに記載のハニカム成形体へのスリット形成方法。
【0014】
[7] 前記スリット形成用板状部材を前記ハニカム成形体の一方の端面に接触させるときに、前記最先端部が、前記隣接する隔壁とこれらに直交する隔壁とにより形成される一のセルの中央部に位置するように前記スリット形成用板状部材を配置する[1]〜[6]のいずれかに記載のハニカム成形体へのスリット形成方法。
【0015】
[8] 前記スリット形成用板状部材を、その先端部分が前記ハニカム成形体の一方の端面に接触するように配置し、前記スリット形成用板状部材を振動させながら前記ハニカム成形体の他方の端面側に向かって移動させて前記スリットを形成するスリット形成操作を行った後に、前記スリット形成用板状部材の前記先端部分を、ハニカム成形体の一方の端面に接触させ、前記スリット形成用板状部材を振動させながら前記ハニカム成形体の他方の端面側に向かって移動させて前記ハニカム成形体の隔壁を切断し、前記ハニカム成形体に、既に形成されている前記スリットに連通するスリットを形成する、というスリット拡張操作を少なくとも一回行う[1]〜[7]のいずれかに記載のハニカム成形体へのスリット形成方法。
【0016】
[9] 前記スリット拡張操作を行うときに、ハニカム成形体の中心軸方向に直交する断面において、既に形成された前記スリットを挟む前記隣接する隔壁の間に配置される前記隣接する隔壁に直交する隔壁を、前記スリット形成用板状部材により前記隣接する隔壁を破損させることなく切断しながら、前記隣接する隔壁の間にスリットを形成する[8]に記載のハニカム成形体へのスリット形成方法。
【0017】
[10] 前記スリット拡張操作において、前記スリット形成用板状部材を前記ハニカム成形体の一方の端面に接触させるときに、前記最先端部が、前記隣接する隔壁とこれらに直交する隔壁とにより形成される一のセルの中央部に位置するとともに、前記先端部分の隔壁に接触する位置が、前記スリット形成操作及び既に行った前記スリット拡張操作での前記先端部分の隔壁に接触する位置とは異なる位置となるように前記スリット形成用板状部材を配置する[8]又は[9]に記載のハニカム成形体へのスリット形成方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明のハニカム成形体へのスリット形成方法によれば、最先端部の角度が90〜170°であるスリット形成用板状部材の先端部分を、ハニカム成形体の端面に接触させて、当該スリット形成用板状部材を、振動させながらハニカム成形体の他方の端面側に向かって移動させることにより、最先端部の角度が90〜170°であることより、最先端部によって破壊された隔壁の切り屑が細かくなり、スリット内に切り屑が残留し難くなる。また、ハニカム成形体のセルに詰まり難くなる。これにより、スリット形成用板状部材をハニカム成形体内で移動させる速度、すなわちスリットの形成速度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明のハニカム成形体へのスリット形成方法の一の実施形態における、スリットの形成過程を示す模式図である。
【図2A】本発明のハニカム成形体へのスリット形成方法の一の実施形態に用いるスリット形成用板状部材を模式的に示す平面図である。
【図2B】本発明のハニカム成形体へのスリット形成方法の一の実施形態に用いるスリット形成用板状部材を模式的に示す側面図である。
【図3A】本発明のハニカム成形体へのスリット形成方法の他の実施形態に用いるスリット形成用板状部材を模式的に示す平面図である。
【図3B】本発明のハニカム成形体へのスリット形成方法の他の実施形態に用いるスリット形成用板状部材を模式的に示す側面図である。
【図4A】本発明のハニカム成形体へのスリット形成方法の更に他の実施形態に用いるスリット形成用板状部材を模式的に示す平面図である。
【図4B】本発明のハニカム成形体へのスリット形成方法の更に他の実施形態に用いるスリット形成用板状部材を模式的に示す側面図である。
【図5】本発明のハニカム成形体へのスリット形成方法の一の実施形態における、スリットの形成過程を示し、ハニカム成形体の一方の端面の一部を示す模式図である。
【図6A】本発明のハニカム成形体へのスリット形成方法の一の実施形態によってスリットが形成されたハニカム成形体を模式的に示した平面図である。
【図6B】本発明のハニカム成形体へのスリット形成方法の一の実施形態によってスリットが形成されたハニカム成形体を模式的に示した側面図である。
【図7】図6Aの一部を拡大した模式図である。
【図8A】本発明のハニカム成形体へのスリット形成方法の一の実施形態によってハニカム成形体にスリットを形成する工程を含むハニカム構造体の製造方法の製造過程を示す模式図である。
【図8B】本発明のハニカム成形体へのスリット形成方法の一の実施形態によってハニカム成形体にスリットを形成する工程を含むハニカム構造体の製造方法の製造過程を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に本発明を実施するための形態を図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0021】
本発明のハニカム成形体へのスリット形成方法の一の実施形態は、図1に示すように、一方向に長く先端部分2が最先端部3に向かうに従って漸次細くなり最先端部3が外側に凸の角部となっており最先端部3の角度θが90〜170°であるスリット形成用板状部材1を、スリット形成用板状部材1の先端部分2が、流体の流路となる一方の端面11から他方の端面12まで延びる複数のセル13を区画形成する隔壁14を有するハニカム成形体15の一方の端面11に接触するように配置し、その後、スリット形成用板状部材1を、振動させながらハニカム成形体15の他方の端面12側に向かって移動させてハニカム成形体15の隔壁14を切断し、ハニカム成形体15に、スリットを形成するものである。図1は、本発明のハニカム成形体へのスリット形成方法の一の実施形態における、スリットの形成過程を示す模式図である。図1において、紙面上の左側が、スリット形成用板状部材1をハニカム成形体15の一方の端面11に接触させた状態を示し、中央の矢印を挟んで紙面上の右側が、スリット形成用板状部材1をハニカム成形体15の他方の端面12側に向かって移動させてハニカム成形体15の隔壁14を切断した状態を示す。図1においては、紙面左側の図も紙面右側の図も、スリット形成用板状部材1は、厚さ方向に直交する断面が示され、ハニカム成形体15は、セルの延びる方向に平行な平面で、一列に並ぶセルを切断した断面が示されている。
【0022】
スリット形成用板状部材1の最先端部3の角度θが90〜170°であるため、最先端部によって破壊された隔壁の切り屑が細かくなり、ハニカム成形体のセルに詰まり難くなる。これにより、スリット形成用板状部材をハニカム成形体内で移動させる速度を向上させることができ、スリットの形成速度を向上させることができる。尚、ハニカム成形体15に、ハニカム成形体15の外周面及び他方の端面12に開口しないスリットは、通常のワイヤーソー等の切断装置では形成することができず、本発明のハニカム成形体へのスリット形成方法のように、スリット形成用板状部材の先端部分を用いて、隔壁を突きながら破壊することによって隔壁を切断し、スリットを形成する必要がある。
【0023】
本実施形態のハニカム成形体へのスリット形成方法は、スリット形成用板状部材1を、スリット形成用板状部材1の先端部分2が、ハニカム成形体15の一方の端面11に接触するようにして配置する。これは、予め振動を開始したスリット形成用板状部材1の先端部分2を、ハニカム成形体15の一方の端面12に接触させてもよいし、振動開始前のスリット形成用板状部材1の先端部分2を、ハニカム成形体15の一方の端面11に接触させて、その後に、スリット形成用板状部材1の振動を開始してもよい。また、スリット形成用板状部材1をハニカム成形体15の一方の端面12に接触させるときには、スリット形成用板状部材1の長手方向とハニカム成形体15の一方の端面12とが垂直になるようにすることが好ましい。これにより、効率的に隔壁を破壊、切断することができる。
【0024】
スリット形成用板状部材1を振動は、15kHz以上の高周波振動であることが好ましく、超音波振動であることが更に好ましい。スリット形成用板状部材1を超音波振動させることにより、隔壁の切断速度を向上させることができる。尚、スリット形成用板状部材1を振動させるときの周波数の上限は特に制約されないが、35kHz以下が好ましい。バイブレータのように低周波での振動加工では、振動が製品へ伝播してしまうため、製品へダメージを与える恐れがある。また、押圧部材のみで振動を与えない場合は、隔壁を切断するために大きな力が必要である。薄板状の押圧部材では力を伝えきれず加工する前に挫屈してしまうため、適さない。
【0025】
スリット形成用板状部材1をハニカム成形体15の一方の端面11に接触させた後に、スリット形成用板状部材1を、振動させた状態で、ハニカム成形体15の他方の端面12側に向かって移動させることにより、ハニカム成形体15の隔壁14を切断し、スリットを形成する。スリット形成用板状部材1をハニカム成形体15の他方の端面12側に向かって移動させるときには、スリット形成用板状部材1の先端部分2で隔壁14を、ハニカム成形体15の一方の端面11に垂直な方向に向かって、押圧した状態で移動させることが好ましい。スリット形成用板状部材1をハニカム成形体15の一方の端面11から他方の端面12に向かって移動させるときの速度は、20mm/秒以上、150mm/秒以下が好ましい。スリット形成用板状部材1を挫屈変形させないためである。下限は、25mm/秒以上が更に好ましく、100mm/秒以上が最も好ましい。20mm/秒より遅いと、スリット形成用板状部材と隔壁の接触が多くなり、セルを挟むように隣接する隔壁14を破損させることがある。スリット形成用板状部材1の挫屈強度よりも大きな負荷がかかる速度で加工してしまうとその速度を維持できなくなることがある。そして、無理にその速度を維持しようとすると、スリット形成用板状部材1が変形等することがある。また、スリットが隣の隔壁を破壊し、加工し易い横方向へと逃げてしまう恐れがある。
【0026】
図2A、図2Bに示すスリット形成用板状部材1は、先端部分2が最先端部3に向かうに従って漸次細くなり最先端部3が外側に凸の角部となっており最先端部3の角度θが90〜170°である。下限は、110°が更に好ましい。そして、上限は、150°が更に好ましく、130°が最も好ましい。最先端部3の角度θは、スリット形成用板状部材1の厚さ方向に直交する断面(又は、スリット形成用板状部材1の平面)における最先端部3の角度である。スリット形成用板状部材1は、最先端部3が外側に凸の角部になっているため、スリット形成用板状部材1で隔壁14を切断するときに、隔壁14を先端部分3によって横方向(セルの延びる方向に直交する方向)外側に押しながら隔壁14を破壊するため、隔壁14を効率的に破壊し、スリット形成速度を向上させることができる。また、最先端部3の角度θが90〜170°であるため、スリット形成用板状部材1で隔壁14を切断するときに、隔壁14の切り屑が小さくなり、その切り屑がセル13を通過してハニカム成形体15の外部に排出され易くなる。そして、隔壁14の切り屑がセル13に詰まらずに、外部に排出されることにより、スリット形成用板状部材1によって隔壁を切断するときの抵抗が大きくならないため、スリット形成速度を向上させることができる。隔壁14の切り屑が小さくなるのは、スリット形成用板状部材1の先端部分2によって、隔壁14が、セル13の延びる方向に押し潰されるように切断されるからである。また、最先端部3の角度θが90〜170°であるため、スリット形成用板状部材1がハニカム成形体15内を移動するときの直進性が良くなり、隣接する隔壁を傷つけることなく加工することができる。図2Aは、本発明のハニカム成形体へのスリット形成方法の一の実施形態に用いるスリット形成用板状部材を模式的に示す平面図である。図2Bは、本発明のハニカム成形体へのスリット形成方法の一の実施形態に用いるスリット形成用板状部材を模式的に示す側面図である。
【0027】
最先端部3の角度θが90°より小さいと、スリット形成用板状部材1で隔壁14を切断するときに、隔壁14の切り屑が大きくなるため、スリット内に残留し、完全な除去が困難となる。そして、その切り屑がセル13に詰まり、スリット形成用板状部材1によって隔壁を切断するときの抵抗が大きくなるため、スリット形成速度が低下する。隔壁14の切り屑が大きくなるのは、スリット形成用板状部材1の先端部分2によって、隔壁14が、外側に押し広げられるようにして破壊されるため、隔壁14の切り屑が細かくならずに大きな塊になるからである。最先端部3の角度が170°より大きいと、スリット形成用板状部材1がハニカム成形体15内を移動するときに、超音波振動している状態ではスリット形成用板状部材1の最先端部3が進行方向に垂直な面内で移動し易く(ぶれ易く)なるため、スリット形成用板状部材1の直進性が悪くなり、隣接する隔壁を傷つける恐れがある。
【0028】
また、図1に示すように、スリット形成用板状部材1をハニカム成形体15の一方の端面11に接触させるときに、スリット形成用板状部材1の最先端部3を一のセル13内に入れるように配置することが好ましく、最先端部3がセル13(隣接する隔壁14とこれらに直行する隔壁14とにより形成される一のセル13)の中央部に位置するようにスリット形成用板状部材1を配置することが更に好ましい。これにより、スリット形成用板状部材1をセル13の延びる方向に直進させ易くなる。これは、スリット形成用板状部材1は、最先端部3が外側に凸の角部になっているため、最先端部3をセル13内に入れるように配置し、スリット形成用板状部材1をハニカム成形体15の他方の端面12側に移動させると、先端部分2が、隔壁14によって最先端部3の方向(スリット形成用板状部材1の幅方向における中央部に向かう方向)に向かって力を受け、最先端部3が一本のセル13に沿うようにして移動し易くなるからである。ここで、一のセルの中央部とは、セルの中心を中心にして、セルと相似形であり、セルの面積の65%の範囲である。
【0029】
ここで、先端部分2は、スリット形成用板状部材1の先端の三角形状の部分である。そして、最先端部3は、上記三角形状の先端部分2の最先端に突き出た頂点部分である。そして、「最先端部3が外側に凸の角部になっている」とは、最先端部3の形状が、上記三角形の頂点部分のように、2つの辺が外側に凸になるように繋がったときの頂点部分の形状になっていることを意味する。
【0030】
スリット形成用板状部材1の長さは、特に限定されないが、50〜300mmが好ましい。また、スリット形成用板状部材1の厚さは、スリットを形成するハニカム成形体15の隣接する隔壁間の距離より薄く、隣接する隔壁間の距離の20%より厚いことが好ましく、隣接する隔壁間の距離の80%より薄く、隣接する隔壁間の距離の30%より厚いことが更に好ましい。また、スリット形成用板状部材1の幅(スリット形成用板状部材1の長さ方向及び厚さ方向の両方に直行する方向における長さ)は、特に限定しないが、5mmより小さいと、スリット形成用板状部材1の強度が低下することがあり、また、ハニカム成形体の中心軸方向に直行する断面において、長いスリットを形成するときに、以下に説明するスリット拡張操作を何度も行う必要があり、スリット形成ハニカム成形体の生産効率が低下することがある。幅を大きくする場合は、より多くの隔壁を倒すための大きな負荷が必要となる。セルが湾曲していることもあるので、製品の形状、スリットの幅を考慮して、加工可能な幅を選べばよい。
【0031】
また、スリット形成用板状部材1の材質は、セルに沿って加工をするため、深さ方向に柔軟な(剛性が低い)材質が好ましい。また、リブ(隔壁)との接触が多く加工負荷が大きいため、耐摩耗性に優れる材質が好ましい。これらの中でも、剛性・耐摩耗性の点に優れることより、焼入れ鋼、チタンやニッケルの化合物が好ましい。また鋼の表面にDLC等の表面処理を実施し、磨耗性を向上させることも好ましい。
【0032】
本実施形体のハニカム成形体へのスリット形成方法においては、図5に示すように、ハニカム成形体15の中心軸方向に直交する断面において、隣接する隔壁14A,14Bの間に配置される隣接する隔壁に直交する隔壁14Cを、隣接する隔壁14A,14Bを破損させることなく切断しながら隣接する隔壁14A,14Bの間にスリット16を形成することが好ましい。隔壁14Cは上記のようにスリット形成用板状部材1によって切断する。隣接する隔壁14A,14Bの間に、隔壁14A,14Bを破損することなくスリット16を形成することにより、フィルタ機能を損なわずに、圧力損失等の特性変化も最小限に抑えることができる。
【0033】
図6A、図6B、図7は、中心軸に直行する断面において、スリット形成用板状部材1の幅より長いスリット16が形成されたハニカム成形体15である。このように、スリット形成用板状部材1の幅より長いスリット16を形成する場合、上記のスリット形成操作を行った後に、更にスリットを拡張させるスリット拡張操作を行うことが好ましい。具体的には、スリット形成用板状部材の先端部分をハニカム成形体15の一方の端面11に接触させ、スリット形成用板状部材をハニカム成形体15の他方の端面側に向かって移動させてスリット16を形成するスリット形成操作を行った後に、ブレードの位置を形成されたスリットの延長線上の方向に横移動させ、再び、「スリット形成用板状部材の先端部分を、ハニカム成形体15の一方の端面11に接触させ、スリット形成用板状部材をハニカム成形体15の他方の端面12側に向かって移動させてハニカム成形体15の隔壁を切断し、ハニカム成形体15に、既に形成されているスリットに連通するスリットを形成する」というスリット拡張操作を、少なくとも一回行うことが好ましい。スリット拡張操作を行う回数は、中心軸に直行する断面におけるハニカム成形体のスリットの長さが、所望の長さになるだけの回数にすることが好ましい。図6Aは、本発明のハニカム成形体へのスリット形成方法の一の実施形態によってスリットが形成されたハニカム成形体を模式的に示した平面図である。図6Bは、本発明のハニカム成形体へのスリット形成方法の一の実施形態によってスリットが形成されたハニカム成形体を模式的に示した側面図である。図7は、図6Aの一部を拡大した模式図である。
【0034】
上記のようにスリット拡張操作を行う場合においても、ハニカム成形体の中心軸方向に直交する断面において、既に形成されたスリットを挟む「隣接する隔壁」の間に配置される当該「隣接する隔壁」に直交する隔壁を、スリット形成用板状部材により「隣接する隔壁」を破損させることなく切断しながら、「隣接する隔壁」の間にスリットを形成することが好ましい。
【0035】
また、上記スリット拡張操作において、スリット形成用板状部材をハニカム成形体の一方の端面に接触させるときに、最先端部が、既に形成されたスリットを挟む「隣接する隔壁」とこれらに直交する隔壁とにより形成される一のセルの中央部に位置するとともに、「先端部分の隔壁に接触する位置」が、上記スリット形成操作及び既に行ったスリット拡張操作での「先端部分の隔壁に接触する位置」とは異なる位置となるようにスリット形成用板状部材を配置することが好ましい。このように、スリット拡張操作を行うときに、それまでに行ったスリット形成操作及びスリット拡張操作において、スリット形成用板状部材の先端部分と隔壁とが接触する位置とは異なる位置で、スリット形成用板状部材の先端部分と隔壁とが接触するようにすることにより、スリット形成用板状部材の先端部分における、隔壁との衝突(接触)により摩耗する位置を分散させることができるため、スリット形成用板状部材の耐久性を向上させることができる。このように、スリット形成用板状部材の先端部分と隔壁とが接触する位置を変えるためには、最先端部の角度が大きいことが好ましい。最先端部の角度が小さいと、隔壁から受ける力により最先端部がセルの中央部に向かおうとする傾向が強くなり、先端部分と隔壁との接触位置が同じになり易いからである。そのため、最先端部の角度は、110〜170°が好ましい。そして、スリット形成速度を向上させ、更に、スリット形成用板状部材の耐久性を向上させるために、最先端部の角度は、110〜150°が更に好ましい。
【0036】
また、スリット拡張操作を繰り返して形成されたスリットの他方の端部側の先端は、スリット形成用板状部材の先端部分の形状によって凹凸に形成されている。この「スリットの他方の端部側の先端の凹凸」を、先端部分が平らな(最先端部の角度が180°)の板状部材を用いて平らに均すことが好ましい。スリットの他方の端部側の先端を平らにならすことにより、均一な深さのスリットを形成することができる。
【0037】
本発明のハニカム成形体へのスリット形成方法の他の実施形体は、図3A、図3Bに示すように、上述した本発明のハニカム成形体へのスリット形成方法の一の実施形体において、スリット形成用板状部材1が、先端部分2を含む加工部4と加工部4を除いた残りの部分である基部5とからなり、スリット形成用板状部材1の長手方向において、加工部4の長さがスリット形成用板状部材1の長さの5〜30%であり、加工部4の厚さが基部5の厚さより厚いものである。このように、加工部4の厚さが基部5の厚さより厚いことにより、「隔壁の切り屑」が基部5とハニにカム成形体との間の空間を通って外部に排出されや易くなるため、隔壁の切り屑が詰まることによるスリット形成用板状部材1の移動の障害が抑制され、スリット形成速度をより向上させることができる。また、基部5の厚さは、加工部4の厚さの30〜95%が好ましい。下限は40%が更に好ましく、50%が最も好ましい。上限は90%が更に好ましい。30%より薄いとスリット形成用板状部材1の強度が低下することがある。95%より厚いと、スリット形成速度をより向上させる効果が少ないことがある。
【0038】
また、本発明のハニカム成形体へのスリット形成方法の他の実施形体は、図4A、図4Bに示すように、上述した本発明のハニカム成形体へのスリット形成方法の一の実施形体において、スリット形成用板状部材1が、先端部分2を含む加工部4と加工部4を除いた残りの部分である基部5とからなり、スリット形成用板状部材1の長手方向において、加工部4の長さがスリット形成用板状部材1の長さの5〜30%であり、基部5に貫通孔6が形成されたものである。基部5には、少なくとも一の、厚さ方向に貫通する貫通孔6形成されることが好ましい。このように基部5に貫通孔6が形成されることにより、貫通孔6の部分は「隔壁の切り屑」が通り易いため、「隔壁の切り屑」が外部に排出されや易くなり、隔壁の切り屑が詰まることによるスリット形成用板状部材1の移動の障害が抑制され、スリット形成速度をより向上させることができる。貫通孔6の形状、個数は限定しない。貫通孔6の総面積は、スリット形成用板状部材1の面積(厚さ方向に直交する面の面積)の20〜90%であることが好ましい。下限は30%、上限は80%であることが更に好ましい。20%より小さいと、スリット形成速度をより向上させる効果が低下することがある。90%より大きいと、スリット形成用板状部材1の強度が低下することがある。
【0039】
次に、本発明のハニカム成形体へのスリット形成方法の一の実施形態(以下、「本実施形態のスリット形成方法」ということがある)によりハニカム成形体にスリットを形成する工程を有するハニカム構造体の製造方法について説明する。
【0040】
図8A、図8Bに示すように、成形原料を押出成形して、流体の流路となる一方の端面11から他方の端面12まで延びる、複数のセルを区画形成する隔壁を有するハニカム成形体100を形成し、ハニカム成形体100に、一方の端面11側に開口するとともに外周面及び他方の端面12には開口しないスリット16を、本実施形態のスリット形成方法を用いて形成して、スリット形成ハニカム成形体110を形成し、スリット形成ハニカム成形体110を焼成し、その後、スリットに充填材を充填することにより、スリット内に緩衝部18を形成してハニカム構造体120を得るものである。本実施形態のスリット形成方法によりハニカム成形体にスリットを形成する工程を有するハニカム構造体の製造方法においては、ハニカム成形体の中心軸に直交する断面において、平行に並ぶ複数のスリットを形成してもよいし、平行ではない複数のスリットを形成してもよい。ハニカム成形体に、互いに平行ではない複数のスリットを形成したときは、スリットが交差してもよいし、交差していなくてもよく、交差している場合には互いに直交するように交差していることが好ましい。また、ハニカム成形体に複数のスリットを形成するときには、一方の端面に開口するスリットと、他方の端面に開口するスリットの両方を形成してもよい。また、ハニカム成形体100は、一方の端面11における所定のセルの開口部と、他方の端面12における残余のセルの開口部に、目封止を施して、目封止ハニカム成形体であってもよい。また、ハニカム成形体を焼成した後にスリットを形成してもよい。図8Aは、本発明のハニカム成形体へのスリット形成方法の一の実施形態によってハニカム成形体にスリットを形成する工程を含むハニカム構造体の製造方法の製造過程を示す模式図である。図8Aは、ハニカム成形体の一方の端面側から見た平面図を示している。図8Bは、本発明のハニカム成形体へのスリット形成方法の一の実施形態によってハニカム成形体にスリットを形成する工程を含むハニカム構造体の製造方法の製造過程を示す模式図である。図8Aは、ハニカム成形体の側面図を示している。以下、各工程ごとに説明する。
【0041】
(1−1)ハニカム成形体の作製:
まず、セラミック原料にバインダ、界面活性剤、造孔材(必要に応じて)、水等を添加して成形原料とする。セラミック原料としては、炭化珪素、珪素−炭化珪素系複合材料、コージェライト化原料(焼成によりコージェライト化する、元の原料)、コージェライト、ムライト、アルミナ、チタニア、スピネル、炭化珪素−コージェライト系複合材料、リチウムアルミニウムシリケート、チタン酸アルミニウム、鉄−クロム−アルミニウム系合金からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。これらの中でも、炭化珪素又は珪素−炭化珪素系複合材料が好ましい。珪素−炭化珪素系複合材料とする場合、炭化珪素粉末及び金属珪素粉末を混合したものをセラミック原料とする。セラミック原料の含有量は、成形原料全体に対して40〜90質量%であることが好ましい。
【0042】
バインダとしては、メチルセルロース、ヒドロキシプロポキシルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等を挙げることができる。これらの中でも、メチルセルロースとヒドロキシプロポキシルセルロースとを併用することが好ましい。バインダの含有量は、成形原料全体に対して3〜15質量%であることが好ましい。
【0043】
水の含有量は、成形原料全体に対して7〜45質量%であることが好ましい。
【0044】
界面活性剤としては、エチレングリコール、デキストリン、脂肪酸石鹸、ポリアルコール等を用いることができる。これらは、一種単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。界面活性剤の含有量は、成形原料全体に対して5質量%以下であることが好ましい。
【0045】
造孔材としては、焼成後に気孔となるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、澱粉、発泡樹脂、吸水性樹脂、シリカゲル、炭素等を挙げることができる。造孔材の含有量は、成形原料全体に対して0〜15質量%であることが好ましい。
【0046】
次に、成形原料を混練して坏土を形成する。成形原料を混練して坏土を形成する方法としては特に制限はなく、例えば、ニーダー、真空土練機等を用いる方法を挙げることができる。
【0047】
次に、坏土を成形して、図8A、図8Bに示すような、円筒状のハニカム成形体100を形成する。ハニカム成形体100は、流体の流路となる一方の端面11から他方の端面12まで延びる複数のセルを区画形成する隔壁を有するものであり、隔壁の最外周に外周壁が配設されている。坏土を成形してハニカム成形体を形成する方法は特に制限されず、押出成形等の従来公知の成形法を用いることができる。所望のセル形状、隔壁厚さ、セル密度を有する口金を用いて押出成形してハニカム成形体を形成する方法等を好適例として挙げることができる。口金の材質としては、摩耗し難い超硬合金が好ましい。
【0048】
次に、得られたハニカム成形体を乾燥させることが好ましい。乾燥の方法は特に限定されず、例えば、マイクロ波加熱乾燥、高周波誘電加熱乾燥等の電磁波加熱方式と、熱風乾燥、過熱水蒸気乾燥等の外部加熱方式とを挙げることができる。これらの中でも、成形体全体を迅速かつ均一に、クラックが生じないように乾燥することができる点で、電磁波加熱方式で一定量の水分を乾燥させた後、残りの水分を外部加熱方式により乾燥させることが好ましい。乾燥の条件として、電磁波加熱方式にて、乾燥前の水分量に対して、30〜95質量%の水分を除いた後、外部加熱方式にて、3質量%以下の水分にすることが好ましい。電磁波加熱方式としては、誘電加熱乾燥が好ましく、外部加熱方式としては、熱風乾燥が好ましい。乾燥温度は、90〜180℃が好ましい。乾燥時間は1〜10時間が好ましい。
【0049】
次に、ハニカム成形体の中心軸方向長さ(セルの延びる方向における長さ)が、所望の長さではない場合は、両端面(両端部)を切断して所望の長さとすることが好ましい。切断方法は特に限定されないが、両頭丸鋸切断機等を用いる方法を挙げることができる。
【0050】
(1−2)スリット形成ハニカム成形体の作製:
次に、図8A、図8Bに示すように、ハニカム成形体100に、一方の端面11側に開口するとともに、外周面及び他方の端面12には開口しないスリット16を形成して、スリット形成ハニカム成形体110を作製する。スリット16は、一方の端面11において2本のスリットが十字状に交差したパターン(形状)になるように形成している。
【0051】
スリットの形成は、上記本実施形態のスリット形成方法によって行う。図8A、図8Bに示すような、2本のスリットが十字状に交差した形状のスリットを形成する場合、スリット形成操作及びスリット拡張操作により1本目のスリットを形成した後に、2本目のスリットをスリット形成操作及びスリット拡張操作を行うことにより形成することが好ましい。そして、2本目のスリットを形成する場合において、1本目のスリットを挟んで隣接する隔壁を切断するときには、1本目のスリット内に最先端部が入るようにしてスリット形成用板状部材の先端部分をハニカム成形体の一方の端面に接触させて、スリット形成用板状部材を他方の端面側に移動させることが好ましい。これにより、1本目のスリットを挟んで隣接する隔壁が、2本目のスリットを切るときに、2本目のスリットの幅以上の大きな範囲に亘って破壊されることを防止することができる。
【0052】
また、ハニカム成形体にスリットを形成するときには、ハニカム成形体の下側(スリットを形成し始める端面に対して反対側の端面)から隔壁の切り屑を吸引することが好ましい。このように、スリット形成用板状部材で隔壁を切断することにより発生する隔壁の切り屑を吸引することにより、切り屑をハニカム成形体内から除去し、切り屑の詰まりを防止することができる。また、吸引することで、加工切り屑の飛散を防止できる利点があり、装置としては集塵機による吸引が好ましい。切り屑の除去手段としては、「吸引」のみでもよく、スリット形成用板状部材の厚さの調整や、スリット形成用板状部材への貫通孔の形成と併用してもよい。
【0053】
スリット形成ハニカム成形体110において、スリット16の、セルの延びる方向における長さの下限値は、スリット形成ハニカム成形体の長さに対して70%であることが好ましく、90%であることが更に好ましい。70%より短いと、脱脂、焼成時にクラックが発生し易くなり、脱脂、焼成時間を長くする必要が生じることがある。スリット4の、セルの延びる方向における長さの上限値は、スリット形成ハニカム成形体の長さに対して100%であることが好ましく、98%であることが更に好ましい。100%の場合(スリットの開口部が両端面に形成された場合)は、中央部の応力が完全に開放されるため、キレの生じる確率が更に低くなるという効果を得ることができるが、径方向にキレが生じた場合、スリットで区画された各部分がバラバラに分割され、取り扱いが不便になる可能性もある。スリットのセルの延びる方向における長さは、1本のスリットの中で一定である必要はなく、少なくとも一部が上記範囲に入っていればよいが、全てが上記範囲に入っていることが好ましい。更に、スリット4の、セルの延びる方向における長さは、一本のスリットの中で一定であることが好ましい。同様に、複数のスリットがある場合、少なくとも1本が上記範囲に入っていればよいが、全てが上記範囲に入っていることが好ましい。スリット4の厚さ(幅)は、セル1つ分の厚さの範囲内であることが好ましい。スリット4の厚さ(幅)の下限値は、0.3mmであることが好ましく、1.0mmであることが更に好ましい。0.3mmより薄いと、脱脂、焼成時にクラックが発生し易くなることがある。スリット4の厚さ(幅)の上限値は、3.0mmであることが好ましく、1.5mmであることが更に好ましい。3.0mmより厚いと、ハニカム構造体にガスが流通するときの圧力損失が大きくなることがある。
【0054】
本実施形態のハニカム構造体の製造方法においては、スリット16が、スリット形成ハニカム成形体の外周面に開口部を形成していないため、スリット形成ハニカム成形体を焼成するときに、スリット形成ハニカム成形体が変形することがなく、形状精度の良いハニカム構造体を製造することができる。尚、スリットを、端面及び外周面の両方に開口部を有するように形成すると、焼成時にスリット形成ハニカム成形体が変形することがある。
【0055】
セルの延びる方向に直交する断面において、焼成前に形成した複数のスリットのそれぞれの端部から、スリット形成ハニカム成形体の最外周部(外周壁)までの間に、スリットが形成されていないセルが1〜5個並んで存在することが好ましく、1〜3個並んで存在することが更に好ましい。スリットの端部から最外周部までの距離が、このような範囲であるため、スリット形成ハニカム成形体を脱脂、焼成するときに、高温により崩れることを防止できるとともに、得られたハニカム構造体に排ガス等を流通させたときの圧力損失の増大を防止することができる。スリットの端部から最外周部までに並ぶセル数が5個より多いと、焼成時にスリットの端部から最外周部へ向かうクラックが生じることがある。また、セルの延びる方向に直交する断面において、焼成前に形成した複数のスリットのそれぞれの端部から、スリット形成ハニカム成形体の最外周部までの距離は、1〜5mmが好ましく、1〜3mmが更に好ましい。スリットの端部から最外周部までの距離が、このような範囲であるため、スリット形成ハニカム成形体を脱脂、焼成するときに、高温により崩れることを防止できる。尚、「セルの延びる方向に直交する断面において、スリットの端部から、スリット形成ハニカム成形体の最外周部までの距離」というときは、スリットの端部から外周面までの距離のことをいう。
【0056】
次に、スリット形成ハニカム成形体について、一方の端面における所定のセルの開口部と、他方の端面における残余のセルの開口部に目封止部を形成することが好ましい。所定のセルと残余のセルとが交互に並び、目封止部形成後のハニカム成形体の両端面が市松模様になることが好ましい。ハニカム成形体に目封止部を形成した場合は、得られるハニカム構造体が目封止ハニカム構造体となる。目封止を施す方法は、特に限定されないが、例えば、以下の方法を挙げることができる。ハニカム成形体の一方の端面にシートを貼り付けた後、当該シートの目封止部を形成しようとするセルに対応した位置に穴を開ける。そして、目封止部の構成材料をスラリー化した目封止用スラリーに、ハニカム成形体の当該シートを貼り付けた端面を浸漬し、シートに開けた孔を通じて、目封止しようとするセルの開口端部内に目封止用スラリーを充填する。そして、ハニカム成形体の他方の端面については、一方の端面において目封止部を形成しなかったセルについて、上記一方の端面に目封止を施した方法と同様の方法で目封止部を形成する(目封止スラリーを充填する)。目封止部の構成材料としては、ハニカム成形体の材料と同じものを用いることが好ましい。目封止部の形成は、ハニカム成形体にスリットを形成した後に行ってもよいが、スリットを形成する前に行ってもよい。前者は、目封止部に切り屑が詰まるリスクが少ない点で、好適である。後者の場合は、スリットを形成する部分には目封止を施さない様にしておくことが好ましい。
【0057】
(1−3)スリット形成ハニカム成形体の焼成:
次に、スリット形成ハニカム成形体110を焼成することが好ましい。焼成の前に、バインダ等を除去するため、脱脂(仮焼成)を行うことが好ましい。仮焼成は大気雰囲気において、400〜500℃で、0.5〜20時間行うことが好ましい。仮焼成及び焼成の方法は特に限定されず、電気炉、ガス炉等を用いて焼成することができる。焼成条件は、窒素、アルゴン等の不活性雰囲気において、1300〜1500℃で、1〜10時間加熱することが好ましい。
【0058】
(1−4)ハニカム構造体の作製:
次に、焼成後のスリット形成ハニカム成形体のスリット16に充填材を充填することにより、スリット16内に緩衝部18を形成してハニカム構造体120を得る。緩衝部が配設されたスリットは、その空間が緩衝部によって埋められた状態になる。緩衝部18は、スリット16により形成される空間の70%以上に配設されていることが好ましく、90%以上に配設されていることが更に好ましく、100%に配設されていることが特に好ましい。緩衝部18がスリットの空間の100%に配設されると、隣接する部分セグメントの、互いに対向する接合面全体に配設された状態となるため、接合強度が向上する点で好ましい。緩衝部18は、ハニカム構造体が熱膨張、熱収縮したときに、体積変化分を緩衝させる(吸収する)役割を果たす。
【0059】
緩衝部18を形成する方法としては、充填材を水等の分散媒に分散させてスラリー状にしたものを、スリット内に充填する方法が挙げられる。スラリーをスリット内に充填する際には、スリット形成ハニカム焼成体を、密閉容器に入れ、両端面にスリットが形成されているときには、片側の端面にテープ等を貼り付けて、スラリーが漏れないようにすることが好ましい。スラリーの充填は、注射器のような注入装置や細長く開口したノズルを用いて行うことが好ましい。このような注入装置を用いる場合において、スリット形成ハニカム焼成体が大型の場合、複数個所からスラリーを充填することにより、高圧をかけずに充填することができる。スリット形成ハニカム焼成体の端面に貼り付けるテープの材質としては、ポリエステル等の透水しない材質を挙げることができる。また、エアバックのようなもの(例えば、ブリジストン社製、商品名:エアグリッパー)で脱着を容易にすることもできる。また、スラリーがセルに流入することを防ぐために、セルの開口端部にテープを貼るなどのマスキングをすることにより作業性を向上させることが好ましい。この場合、スリット形成ハニカム焼成体を静止させた状態でスラリーを充填しようとすると、スリット形成ハニカム焼成体が多孔質である場合には、分散媒が隔壁に吸収されてスラリーがスリット内に均一に広がらないことがある。そのため、そのような場合には、スリット形成ハニカム焼成体を振動装置により振動させながら、スラリーを圧入することが好ましい。振動装置としては、例えば、旭製作所社製、商品名:小型振動試験機等を使用することができる。また、スラリーを、より容易にスリット内に均一に浸入させるために、スリットの内壁を含水処理することが好ましい。含水処理としては、蒸気を噴霧する方法等を挙げることができる。スラリーをスリット内に圧入した後には、100℃以上で乾燥を行うことが好ましい。
【0060】
緩衝部18を形成する方法としては、更に、充填材をテープ状に成形し、複数のテープ状の充填材をスリット内に充填し、その後、加熱処理をすることにより緩衝部18とする方法を挙げることができる。充填材をテープ状に成形する方法は特に限定されず、例えば、充填材、バインダ、界面活性剤、水等を混合して成形原料とし、テープ成形の方法でテープ状に成形する方法を挙げることができる。また、緩衝部18を形成する方法としては、粉末状の充填材を、スリット内に充填し、その後、上下部にセメント、接着剤等で封止する処理をすることにより緩衝部18とする方法を挙げることができる。粉末状の充填材は、タッピングによりスリットに充填することができる。
【0061】
充填材としては、無機繊維、コロイダルシリカ、粘土、SiC粒子、有機バインダ、発泡樹脂、分散剤に水を加えて混練したスラリー等を挙げることができる。充填材をテープ状に成形してスリット内に挿入する場合、充填材としは、熱処理で発泡する材料を用い、充填材をスリット内に挿入した後に、スリット形成ハニカム焼成体を加熱することが好ましい。熱処理で発泡する材料としては、ウレタン樹脂等を挙げることができる。
【0062】
ハニカム構造体を形成した後に、両端面の平行度を上げるために、端面を研磨してもよい。
【0063】
(1−5)ハニカム構造体:
得られたハニカム構造体は、流体の流路となる一方の端面から他方の端面まで延びる複数のセルを区画形成する隔壁を有し、セルの延びる方向に平行に、一方の端面に開口部を有するとともに、外周面及び他方の端面に開口部を有しないスリットが形成され、スリットに緩衝部が配設されたものである。また、一方の端面における所定のセルの開口部と、他方の端面における残余のセルの開口部に目封止が施されたハニカム構造体(目封止ハニカム構造体)であることも好ましい。
【0064】
得られたハニカム構造体の形状は、特に限定されないが、例えば、円筒形状、楕円形状、四角柱状等の所望の形状とすることができる。また、ハニカム構造体の大きさは、例えば、円筒形状の場合、底面の直径が50〜450mmであることが好ましく、100〜350mmであることが更に好ましい。また、ハニカム構造体の中心軸方向の長さは、50〜450mmであることが好ましく、100〜350mmであることが更に好ましい。ハニカム構造体の材料(隔壁を形成する材料)としては、セラミックが好ましく、強度及び耐熱性に優れることより、炭化珪素、珪素−炭化珪素系複合材料、コージェライト、ムライト、アルミナ、スピネル、炭化珪素−コージェライト系複合材料、リチウムアルミニウムシリケート、チタン酸アルミニウム、鉄−クロム−アルミニウム系合金からなる群から選択される少なくとも1種であることが更に好ましい。これらの中でも、炭化珪素又は珪素−炭化珪素系複合材料が特に好ましい。炭化珪素は、熱膨張率が比較的大きいため、炭化珪素を骨材として形成されるハニカム構造体は、大きなものを形成すると使用時に熱衝撃により欠陥が生じることがあったが、本実施形態のハニカム構造体の製造方法の一の実施形態により得られるハニカム構造体のように複数のスリットに緩衝部を配設することにより、炭化珪素の熱膨張が緩衝部により緩衝され、ハニカム構造体の欠陥の発生を防止できるという効果を奏する。
【0065】
ハニカム構造体を構成する隔壁は、多孔質であることが好ましい。ハニカム構造体を構成する隔壁の開気孔率の下限値は30%であることが好ましく、40%であることが更に好ましい。ハニカム構造体を構成する隔壁の開気孔率の上限値は80%であることが好ましく、65%であることが更に好ましい。開気孔率をこのような範囲とすることにより、強度を維持しながら圧力損失を小さくできるという利点がある。開気孔率が30%未満であると、圧力損失が上昇することがある。開気孔率が80%を超えると、強度が低下するとともに、熱伝導率が低下することがある。開気孔率は、アルキメデス法により測定した値である。
【0066】
ハニカム構造体を構成する隔壁は、平均細孔径の下限値が5μmであることが好ましく、7μmであることが更に好ましい。また、平均細孔径の上限値が50μmであることが好ましく、35μmであることが更に好ましい。平均細孔径をこのような範囲とすることにより、粒子状物質(PM)を効果的に捕集できるという利点がある。平均細孔径が5μm未満であると、粒子状物質(PM)により目詰まりを起こしやすくなることがある。平均細孔径が50μmを超えると、粒子状物質(PM)がフィルターに捕集されず通過することがある。平均細孔径は、水銀ポロシメータにより測定した値である。
【0067】
ハニカム構造体を構成する隔壁の材質が炭化珪素である場合、炭化珪素粒子の平均粒径が5〜100μmであることが好ましい。このような平均粒径とすることより、フィルターを、好適な気孔率、気孔径に制御しやすいという利点がある。平均粒径が5μmより小さいと、気孔径が小さくなり過ぎ、100μmより大きいと気孔率が小さくなることがある。気孔径が小さ過ぎると粒子状物質(PM)により目詰まりを起こしやすく、気孔率が小さすぎると圧力損失が上昇することがある。原料の平均粒径は、JIS R 1629に準拠して測定した値である。
【0068】
ハニカム構造体のセル形状(ハニカム構造体の中心軸方向(セルが延びる方向)に対して垂直な断面におけるセル形状)としては、特に制限はないが、四角形、六角形、八角形、あるいはこれらの組合せを挙げることができる。目封止を設ける場合は、八角形と四角形との組み合わせも好適な一例である。
【0069】
また、ハニカム構造体の中心軸方向に垂直な断面におけるセルの面積が、全てのセルについて同じであることが好ましい。また、上記の八角形と四角形の組み合わせの様に面積が異なるセルを有することも好ましい態様である。面積が異なるセルを有するハニカム構造体の中では、特に、面積の大きなセルと面積の小さなセルとが交互に並ぶ構造のハニカム構造体が好ましい。面積の大きなセルはそれぞれ同じ面積であり、面積の小さなセルもそれぞれ同じ面積であることが好ましい。面積の大きなセルと面積の小さなセルとの面積比率(面積の小さなセル/面積の大きなセル)は、40〜80%が好ましい。下限は50%が更に好ましく、上限は80%が更に好ましい。このような「面積の大きなセルと面積の小さなセルとが交互に並ぶ構造のハニカム構造体」は、隣接する隔壁間の距離が、面積の大きなセルの位置と面積の小さなセルの位置とで異なるため、スリット形成時にスリットを挟んで隣接する隔壁を破損し易い構造である。そのため、本発明のハニカム構造体へのスリット形成方法を用いてスリットを形成すると、スリットを挟んで隣接する隔壁を破損させ難いという本発明の効果を、より顕著に発揮することができる。
【0070】
ハニカム構造体を構成する隔壁の厚さは、50〜2000μmであることが好ましい。隔壁の厚さが50μmより薄いと、ハニカム構造体の強度が低下することがあり、2000μmより厚いと、圧力損失が大きくなることがある。ハニカム構造体のセル密度は、特に制限されないが、0.9〜311セル/cmであることが好ましい。下限は7.8セル/cmが更に好ましく、上限は62セル/cmが更に好ましい。
【0071】
本実施形態のハニカム構造体を構成する緩衝部は、ハニカム構造部のスリットの空間全体に充填されるように配設されていることが好ましい。
【0072】
また、得られるハニカム構造体の熱膨張係数が、1×10−6/℃以上であることが好ましく、2×10−6〜7×10−6/℃であることが更に好ましい。本発明のハニカム構造体の製造方法によれば、このような熱膨張係数の大きなハニカム構造体であっても、耐熱衝撃性の高いハニカム構造体とすることが可能である。
【実施例】
【0073】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
(実施例1)
【0074】
スリット形成用板状部材を振動させながら、スリット形成用板状部材の先端部分を、ハニカム成形体の一方の端面に接触させ、スリット形成用板状部材をハニカム成形体の他方の端面側に向かって移動させてハニカム成形体の隔壁を切断し、ハニカム成形体に、ハニカム成形体の外周面及び他方の端面に開口しないスリットを形成した。スリット形成用板状部材を、周波数25kHzで超音波振動させながらハニカム成形体内を移動させて、隔壁を切断した。使用したハニカム成形体は、直径155mm、長さ165mmの円筒形であり、気孔率42%、セル密度465セル/cm、隔壁厚さ305μm、セル間の距離1.47mmであり、材質が炭化珪素であった。また、使用したスリット形成用板状部材は、長さ200mm、厚さ(加工部と基部の厚さ)0.6mm、幅12.7mmであり、最先端部の角度(角度θ)が90°であり、材質がSK材であった。また、スリット形成用板状部材の振動は、25kHzとした。スリット形成用板状部材はランジュバン型振動子を用いて振動させた。また、スリット形成用板状部材の移動速度(加工速度)は、100mm/秒とした。また、スリットの深さ(ハニカム成形体の中心軸方向における長さ)は、160mmとした。超音波振動は、超音波発信機(日本電子社製、M88−300L)を用いて発生させた。
【0075】
隔壁の切り屑の大きさ、スリット形成の可否、及び隔壁(スリットを挟んで隣接する隔壁)の破損の状態(隔壁破損)を確認した。結果を表1に示す。表1において、切り屑の大きさについては、スリット内に滞在して除去できない大きさの場合を「大」、スリットより除去できる大きさの場合を「中」、セルから排出される大きさの場合を「小」とした。また、スリット形成の可否については、良好にスリットが形成された場合を「◎」、若干の抵抗があったがスリットが形成された場合を「○」、スリットを形成することができなかった場合を「×」とした。隔壁破損についは、スリットを挟んで隣接する隔壁が破損していなかった場合を「○」、破損していた場合を「×」とした。
【0076】
【表1】

【0077】
(実施例2〜12、比較例1,2)
基部厚さ、最先端部の角度θ、切り屑対策、及び加工速度を表1に示すように変化させた以外は、実施例1と同様にして、ハニカム成形体にスリットを形成した。実施例1の場合と同様に、隔壁の切り屑の大きさ、切り屑によるセルの詰まり、スリット形成の可否、及び隔壁(スリットを挟んで隣接する隔壁)の破損の状態(隔壁破損)を確認した。結果を表1に示す。尚、表1において、「切り屑対策」の欄の「吸引」の記載は、集塵機で切り屑を排出することを意味する。また、表1において、「切り屑対策」の欄の「基部厚さ」の記載は、切り屑を排出する対策として、基部厚さを0.55mmと薄くしていることを意味する。
【0078】
表1に示すように、最先端部の角度θが90〜170°の場合、スリットが良好に形成され、隔壁破損もないことがわかる。更に、最先端部の角度θが110〜150°の場合、加工速度を更に速くすることができるとともに、スリットが良好に形成され、隔壁破損もないことがわかる。また、最先端部の角度θが80°の場合(比較例1)、切り屑の大きさが大きいため、スリットを形成することができなかった。また、最先端部の角度θが180°の場合(比較例2)、隔壁が破損したため、スリットを形成することができなかった。
【0079】
(実施例13)
実施例4と同様の方法(スリット形成用板状部材の最先端部の角度θを150°)で、ハニカム成形体にスリットを形成した(スリット形成操作)後に、スリット拡張操作を複数回行うことにより、ハニカム成形体にスリットを形成した。スリットの合計長さが5250mmになるようにした。スリット拡張操作とは、「スリット形成用板状部材の先端部分を、ハニカム成形体の一方の端面に接触させ、スリット形成用板状部材をハニカム成形体の他方の端面側に向かって移動させてハニカム成形体の隔壁を切断し、ハニカム成形体に、ハニカム成形体の外周面及び他方の端面に開口せず、且つ既に形成されているスリットに連通するスリットを形成する」ことである。スリット拡張操作においても、スリット形成用板状部材を、周波数25kHzで超音波振動させながらハニカム成形体内を移動させて、隔壁を切断した。スリット形成操作及びスリット拡張操作において、スリット形成用板状部材の先端部分を、ハニカム成形体の一方の端面に接触させるときに、最先端部を、一のセルの中心に位置させるようにした。
【0080】
ハニカム成形体にスリットを形成した後の、スリット形成用板状部材の先端部分の摩耗量(摩耗の深さ(mm))を測定した。結果を表2に示す。摩耗量はマイクロスコープを用いて測定した。
【0081】
【表2】

【0082】
(実施例14)
各スリット拡張操作毎に、スリット形成用板状部材の最先端部が配置される位置を、一のセルの中心から0.05mmずつ順次ずらしたこと以外は、実施例13と同様にして、ハニカム成形体にスリットを形成した。実施例13の場合と同様にして、ハニカム成形体にスリットを形成した後の、スリット形成用板状部材の先端部分の摩耗量(摩耗の深さ(mm))を測定した。結果を表2に示す。
【0083】
表2に示すように、スリット形成用板状部材を用いて、複数回ハニカム成形体にスリットを形成する操作を行う場合には、各スリットを形成する操作において、スリット形成用板状部材の先端部分と隔壁との接触する場所を変える(実施例14)ことにより、スリット形成用板状部材の先端部分の摩耗を抑制できることがわかる。これにより、スリット形成用板状部材の寿命を延ばすことが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明のハニカム成形体へのスリット形成方法は、化学、電力、鉄鋼等の様々な分野において、環境対策や特定物資の回収等のために使用される触媒装置用の担体、又はフィルタとして、耐熱性、耐食性に優れるセラミック製のハニカム構造体であって、製造過程においてスリットを形成するものの製造に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0085】
1:スリット形成用板状部材、2:先端部分、3:最先端部、4:加工部、5:基部、6:貫通孔、11:一方の端面、12:他方の端面、13:セル、14、14A,14B,14C:隔壁、15:ハニカム成形体、16:スリット、17:外周面、18:緩衝部、100:ハニカム成形体、110:スリット形成ハニカム成形体、120:ハニカム構造体、θ:最先端部の角度。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向に長く先端部分が最先端部に向かうに従って漸次細くなり前記最先端部が外側に凸の角部となっており前記最先端部の角度が90〜170°であるスリット形成用板状部材を、前記スリット形成用板状部材の前記先端部分が、流体の流路となる一方の端面から他方の端面まで延びる複数のセルを区画形成する隔壁を有するハニカム成形体の一方の端面に接触するように配置し、前記スリット形成用板状部材を、振動させながら前記ハニカム成形体の他方の端面側に向かって移動させて前記ハニカム成形体の隔壁を切断し、前記ハニカム成形体にスリットを形成するハニカム成形体へのスリット形成方法。
【請求項2】
ハニカム成形体の中心軸方向に直交する断面において、隣接する前記隔壁の間に配置される前記隣接する隔壁に直交する隔壁を、前記隣接する隔壁を破損させることなく切断しながら前記隣接する隔壁の間にスリットを形成する請求項1に記載のハニカム成形体へのスリット形成方法。
【請求項3】
前記スリット形成用板状部材を15kHz以上の高周波振動で振動させながら、前記ハニカム成形体の他方の端面側に向かって移動させて前記ハニカム成形体の隔壁を切断する請求項1又は2に記載のハニカム成形体へのスリット形成方法。
【請求項4】
前記スリット形成用板状部材が、前記先端部分を含む加工部と前記加工部を除いた残りの部分である基部とからなり、前記スリット形成用板状部材の長手方向において、前記加工部の長さが前記スリット形成用板状部材の長さの1〜30%である請求項1〜3のいずれかに記載のハニカム成形体へのスリット形成方法。
【請求項5】
前記スリット形成用板状部材が、前記先端部分を含む加工部と前記加工部を除いた残りの部分である基部とからなり、前記加工部の厚さが前記基部の厚さより厚い請求項1〜4のいずれかに記載のハニカム成形体へのスリット形成方法。
【請求項6】
前記スリット形成用板状部材が、前記先端部分を含む加工部と前記加工部を除いた残りの部分である基部とからなり、前記スリット形成用板状部材の長手方向において、前記加工部の長さが前記スリット形成用板状部材の長さの1〜30%であり、前記基部に少なくとも一の貫通孔が形成された請求項1〜5のいずれかに記載のハニカム成形体へのスリット形成方法。
【請求項7】
前記スリット形成用板状部材を前記ハニカム成形体の一方の端面に接触させるときに、前記最先端部が、前記隣接する隔壁とこれらに直交する隔壁とにより形成される一のセルの中央部に位置するように前記スリット形成用板状部材を配置する請求項1〜6のいずれかに記載のハニカム成形体へのスリット形成方法。
【請求項8】
前記スリット形成用板状部材を、その先端部分が前記ハニカム成形体の一方の端面に接触するように配置し、前記スリット形成用板状部材を振動させながら前記ハニカム成形体の他方の端面側に向かって移動させて前記スリットを形成するスリット形成操作を行った後に、
前記スリット形成用板状部材の前記先端部分を、ハニカム成形体の一方の端面に接触させ、前記スリット形成用板状部材を振動させながら前記ハニカム成形体の他方の端面側に向かって移動させて前記ハニカム成形体の隔壁を切断し、前記ハニカム成形体に、既に形成されている前記スリットに連通するスリットを形成する、というスリット拡張操作を少なくとも一回行う請求項1〜7のいずれかに記載のハニカム成形体へのスリット形成方法。
【請求項9】
前記スリット拡張操作を行うときに、ハニカム成形体の中心軸方向に直交する断面において、既に形成された前記スリットを挟む前記隣接する隔壁の間に配置される前記隣接する隔壁に直交する隔壁を、前記スリット形成用板状部材により前記隣接する隔壁を破損させることなく切断しながら、前記隣接する隔壁の間にスリットを形成する請求項8に記載のハニカム成形体へのスリット形成方法。
【請求項10】
前記スリット拡張操作において、前記スリット形成用板状部材を前記ハニカム成形体の一方の端面に接触させるときに、前記最先端部が、前記隣接する隔壁とこれらに直交する隔壁とにより形成される一のセルの中央部に位置するとともに、前記先端部分の隔壁に接触する位置が、前記スリット形成操作及び既に行った前記スリット拡張操作での前記先端部分の隔壁に接触する位置とは異なる位置となるように前記スリット形成用板状部材を配置する請求項8又は9に記載のハニカム成形体へのスリット形成方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【公開番号】特開2010−221575(P2010−221575A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−72416(P2009−72416)
【出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】