説明

ハニカム構造を有する生分解性フィルム

手術後の癒着を防止するための癒着防止材として、生分解性を有し、取扱性に優れ、所望の期間にわたり安定して良好な癒着防止効果を発揮する、生分解性ポリマーからなるハニカムフィルムとその製造方法に関する。なかでも生分解性のポリマーであるポリ乳酸とリン脂質からなるハニカムフィルムの癒着防止材とその製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、手術後の癒着を防止するための癒着防止材に関する。さらに詳細にはハニカム構造を有する生分解性フィルムからなる癒着防止材に関する。本発明の癒着防止材は取扱性に優れ、所望の期間にわたり安定して良好な癒着防止効果を発揮する。
【背景技術】
外科手術後に生じる生理作用である組織癒着は組織損傷に伴って生ずる繊維芽細胞によるコラーゲン線維産生から引き起こされる周囲の組織と臓器等との異常な結合と定義されている。このような癒着は術後90%の確率で起きているとされ、痛み、生体機能障害等を引き起こす場合は、患者にとって精神的、肉体的な苦痛を伴い問題となっている。
その問題を解決するため、以前より数多くの研究がなされている。たとえば癒着形成を最小にするために、アルギン酸ナトリウム水溶液やヒアルロン酸ナトリウム水溶液といった水溶性の癒着防止材が使用された。しかし、これらはある程度の効果はあるものの、水溶性のため、癒着防止を必要とする部位以外にも流出し、必要な場所に留まらないだけでなく、正常な部位の癒着を引き起こす恐れさえ有していた。
そのため、損傷した組織を他の組織から分離するため、物理的バリヤーとしてシリコン、ワセリン、ポリテトラフルオロエチレンといった材料を癒着防止材として検討されている。これらの材料は非生体吸収性材料のため、障壁としての作用は充分持ち備えているが、体内に長期間残留することによる免疫反応のリスクや治癒後にこれらを取り出すための再手術の必要性など問題を抱えていた。
この問題を解決するために生体吸収性材料である天然高分子を使用した癒着防止材が開発された。
具体的には酸化セルロースを用いた癒着防止材が知られているが、酸化セルロースでできたスポンジやニットを利用した場合、繊維素細胞が空隙を通って移動しやすいため、癒着を引き起こす問題点がある。これを防ぐため、ヒアルロン酸ナトリウムとカルボキシメチルセルロースからなる癒着防止材が開発されて使用されている。しかしながら、これらは吸水性が高いため、手術具や、患部以外の臓器の水分に接着してしまい、取扱性が難しいといった問題がある。
癒着防止材は、一組織から他の組織への繊維素細胞の流通が行われない形状が望ましく、かつ生分解性で操作性の高いものが望まれている。
特開2000−197693号公報に乳酸とカプロラクトンとの共重合体からなる多孔性癒着防止材について開示されている。
特開2001−157574号公報には生分解性ポリマーおよび親水性のアクリルアミドポリマーを主鎖骨格とし、疎水性側鎖としてドデシル基を、親水性側鎖としてラクトース基或いはカルボキシル基を併せ持つ両親媒性ポリマーを1から50%添加したポリマーから作成したハニカム構造を有するフィルムおよびその製造方法について記載されている。
然しながら、ここで用いられている基材のポリマーは生体適合性の高いポリマーではあるが、両親媒性ポリマーは分解してアクリルアミド系化合物を生成すると予想され、当該分解物は必ずしも生体に対して安全とは言い切れない。できればこのような両親媒性ポリマーの使用量は極力低く抑えることが望ましい。
このように生体組織へ利用する目的で微細構造を有するフィルムを使用する場合、生体適合性が大きな問題となる。そのため、使用するポリマーだけでなく微細構造を形成する為の試薬、すなわち両親媒性ポリマー等の界面活性剤も生体適合性および生体への安全性を持っていることが望まれている。そのためにはポリマーの含有量を高め、界面活性剤の使用量を抑えることが安全性の確保という観点からも望ましい。
現状では、適度な生分解性と生体適合性を有し、取扱性に優れ、所望の期間にわたり安定して良好な癒着防止効果を発揮する癒着防止材は存在せず、その出現が望まれている。
【発明の開示】
本発明者らは、ハニカム構造を有する生分解性フィルムが取扱性に優れ、所望の期間にわたり安定して良好な癒着防止効果を発揮する癒着防止材であることを見出した。
また、リン脂質を界面活性剤として生分解性ポリマーに配合し、これを高湿度下にキャストすることにより、細胞培養の基材としても有用であり、生体適合性に優れたハニカム構造を有するフィルムが得られること、さらに当該フィルムが手術部位等の癒着防止に効果があることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、ハニカム構造体を有する生分解性フィルムからなる癒着防止材に関するものであり、さらにはハニカム構造の平均空隙内径が20μm以下の生分解性フィルムからなる癒着防止材に関するものである。
そして該癒着防止材の製造方法として生分解性ポリマーの有機溶媒溶液を、相対湿度50〜95%の大気下で基板上にキャストし、該有機溶媒を徐々に蒸散させると同時に該キャスト液表面で結露させ、該結露により生じた微小水滴を蒸発させることで得られたハニカム構造を有する生分解性ポリマーフィルムを用いた癒着防止材の製造方法に関するものである。
本発明の好ましい態様では、ハニカム構造体を有する生分解性フィルムを物理的バリヤーとして手術の部位とその隣接組織との間に配置して組織の並置を制限し、それにより手術後の癒着の形成を減少させる。
本発明における生分解性フィルムを作製するために用いる生分解性ポリマーとしてはポリ乳酸、ポリ乳酸−ポリグリコール酸共重合体、ポリヒドロキシ酪酸、ポリカプロラクトン、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペートなどの生分解性脂肪族ポリエステル、ポリブチレンカーボネート、ポリエチレンカーボネート等の脂肪族ポリカーボネート等が、有機溶媒への溶解性の観点から好ましい。中でも、ポリ乳酸、ポリ乳酸−ポリグリコール酸共重合体、ポリカプロラクトンが入手の容易さ、価格等の観点から望ましい。
ハニカム構造を簡便に再現性よく作製するためには、上記生分解性ポリマーに加えて、両親媒性ポリマーを用いることが好ましい。両親媒性ポリマーとしては癒着防止材として利用することを考慮すると毒性の無いことが好ましく、ポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコールブロック共重合体、アクリルアミドポリマーを主鎖骨格とし、疎水性側鎖としてドデシル基と親水性側鎖としてラクトース基或いはカルボキシル基を併せ持つ両親媒性ポリマー、或いはヘパリンやデキストラン硫酸、DNAやRNAの核酸などのアニオン性高分子と長鎖アルキルアンモニウム塩とのイオンコンプレックス、ゼラチン、コラーゲン、アルブミン等の水溶性タンパク質を親水性基とした両親媒性ポリマー等が利用できる。
また、生分解性かつ両親媒性のポリマーを用いても構わない。このようなポリマーとしては、例えば、ポリ乳酸−ポリエチレングリコールブロック共重合体、ポリε−カプロラクトン−ポリエチレングリコールブロック共重合体、ポリリンゴ酸−ポリリンゴ酸アルキルエステルブロック共重合体などが挙げられる。
またハニカム構造を簡便に再現性よく作製するために、上記生分解性ポリマーに加えて、リン脂質を界面活性剤として加えても良い。
リン脂質は生体膜系を構成している物質であり、元来、生体内にあるため、生体適合性が高く、ドラッグデリバリーシステムにも利用されている物質であり安全性も高いことが知られている。さらに、本発明で界面活性剤として使用するリン脂質は容易に手に入れることができる。
本発明に用いるリン脂質は、動物組織から抽出したものでも、また人工的に合成して製造したものでもその起源を問うことなく使用できる。リン脂質としてはホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロールおよびそれらの誘導体からなる群から選択されてなるものを利用することが望ましい。好ましくはホスファチジルエタノールアミンであり、さらに好ましくはL−α−ホスファチジルエタノールアミン ジオレオイルである。
本発明のハニカム構造体を作製するに当たってはポリマー溶液上に微小な水滴粒子を形成させることが必須である事から、使用する有機溶剤としては非水溶性である事が必要である。これらの例としてはクロロホルム、塩化メチレン等のハロゲン系有機溶剤、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、メチルイソブチルケトン、などの非水溶性ケトン類、二硫化炭素などが挙げられる。これらの有機溶媒は単独で使用しても、又、これらの溶媒を組み合わせた混合溶媒として使用してもかまわない。
これらに溶解する生分解性ポリマーと両親媒性ポリマー両者併せてのポリマー濃度は0.01から10wt%、より好ましくは0.05から5wt%である。ポリマー濃度が0.01wt%より低いと得られるフィルムの力学強度が不足し望ましくない。又、10wt%以上ではポリマー濃度が高くなりすぎ、十分なハニカム構造が得られない。又、生分解性ポリマーと両親媒性ポリマーの組成比は99:1から50:50(wt/wt)である。両親媒性ポリマー組成が1以下では均一なハニカム構造が得られなく、又、該組成が50以上では得られるハニカム構造体の安定性、特に力学的な安定性にかける為、好ましくない。
同様に前記溶媒に溶解する生分解性ポリマーとリン脂質両者併せての溶液濃度は0.01から10wt%、より好ましくは0.05から5wt%である。ポリマー濃度が0.01wt%より低いと得られるフィルムの力学強度が不足し望ましくない。又、10wt%以上では溶液濃度が高くなりすぎ、十分なハニカム構造が得られない。又、生分解性ポリマーとリン脂質の組成比は重量比で1:1から1000:1(wt/wt)である。リン脂質が生分解性ポリマーにたいして1000分の1以下では均一なハニカム構造が得られず、又、該重量比が1:1以上ではフィルムとしての自己支持性を有しておらず、コストも高く、経済性に乏しいため好ましくない。
本発明においては該ポリマー有機溶媒溶液を基板上にキャストしハニカム構造体を調製するわけであるが、該基板としてはガラス、金属、シリコンウェハー、等の無機材料、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエーテルケトン、等の耐有機溶剤性に優れた高分子、水、流動パラフィン、液状ポリエーテル等の液体が使用できる。中でも、基材に水を使用した場合、該ハニカム構造体の特徴である自立性を生かすことで、該構造体を単独で容易に基板から取り出すことが出来、好適である。
本発明で、ハニカム構造が形成される機構は次のように考えられる。疎水性有機溶媒が蒸発するとき、潜熱を奪う為に、キャストフィルム表面の温度が下がり、微小な水の液滴がポリマー溶液表面に凝集、付着する。ポリマー溶液中の親水性部分の働きによって水と疎水性有機溶媒の間の表面張力が減少し、このため、水微粒子が凝集して1つの塊になろうとするにさいし、安定化される。溶媒が蒸発していくに伴い、ヘキサゴナルの形をした液滴が最密充填した形で並んでいき、最後に、水が飛び、ポリマーが規則正しくハニカム状に並んだ形として残る。従って、該フィルムを調製する環境としては相対湿度が50から95%の範囲にあることが望ましい。50%以下ではキャストフィルム上への結露が不十分になり、又、95%以上では環境のコントロールが難しく好ましくない。このようにしてできるハニカム構造の空隙内径の大きさは0.1から20μmであり、この範囲の大きさであれば好適に癒着防止材として用いることができる。
このようにして作製したフィルムは、表面がハニカム構造を有し、膜厚が充分厚い場合は、基盤に接していた裏面は孔が貫通していない平らな面となる。また、膜厚が水滴の大きさよりも薄い場合は孔が貫通したフィルムが得られる。
従って、使用目的により、貫通または非貫通膜を選択することが望ましい。
癒着防止の観点からすると、臓器間の繊維素の流通を抑えるためには、孔は貫通していないフィルムを用いるのが好ましい。また、ハニカム構造を有する面を患部に当てたほうが好ましく、その理由は、患部に生じる血液や組織液をハニカム構造内に吸収でき、外部への進出を防ぐことが可能だからである。
本発明の癒着防止材は、力学的強度を向上させる観点から、2枚以上のハニカム構造体フィルムを積層した形態とすることもできる。積層するハニカム構造体フィルムの枚数としては、フィルムの柔軟性の観点から、2〜15枚が好ましく、2〜10枚がより好ましい。これにより癒着防止材に各フィルムを構成するポリマーが有する力学的強度、組織接着性、生体吸収性などの特性を合わせもたせることができる。
ハニカム構造体フィルムを積層してなる癒着防止用材料は、積層するハニカム構造体フィルムを適当な溶媒で湿潤させて重ね合わせるか、各ハニカム構造体フィルムを重ね合わせて適当な溶媒で湿潤させるかした後、乾燥することにより製造することができる。乾燥フィルムを湿潤させる溶媒としては、ハニカム構造体フィルムが溶解することなく湿潤する溶媒であれば、どのような溶媒でも用いることができる。たとえば、水または塩化ナトリウム、塩化カルシウム等の無機塩類の水溶液が好ましい。または、エタノール、メタノール、プロパノール等の有機溶媒を添加することができる。
ハニカム構造体フィルムの厚みは特に制限されないが、柔軟性の観点から、500μm以下であるのが好ましく、200μm以下であるのがより好ましい。また、取扱性の観点から、1μm以上であるのが好ましく、3μm以上であるのがより好ましい。
本発明の癒着防止材料は、特に外科手術時の癒着を防止するのに好適に用いられる。例えば、肝臓、脾臓、膵臓、腎臓、子宮、卵巣等の疾患に対する開腹手術や、アキレス腱や神経などの縫合手術などの際に手術によって傷つけられた生体組織表面が癒着するのを防止するために用いられる。
本発明の癒着防止材料の使用方法としては、ハニカム構造体フィルムの開孔部を患部に貼付した後に、血液、組織液などの水分を吸着し、患部に定着させる。開孔部に血液、組織液などの水分を吸着するため、患部への縫合の必要はない。
また、患部に水分が少なく定着が不十分な場合は、本発明の癒着防止材を患部に貼付した後、外部から水分を補給し、該材料の定着を促進することもできる。外部から補給する水分としては、患部に無害な水溶液であればどのような溶液でも用いることができるが、生理食塩水またはリンゲル液が適当である。
また、本発明のフィルムは水に漬けた際にゲル化や溶解といったことがないため、手術具に接着することがなく、取扱が容易である。
さらに、本発明の癒着防止材料は、例えば、エタノール滅菌、γ線滅菌、電子線滅菌、エチレンオキサイドガス滅菌などの滅菌処理が可能であり、それらの処理を施すことによって安全性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の癒着防止材の光学顕微鏡写真
図2は、実施例4で得られたハニカム構造を有するフィルムの電子顕微鏡写真である。
図3は、実施例5で得られたハニカム構造を有するフィルムの電子顕微鏡写真である。
図4は、実施例6で得られたハニカム構造を有するフィルムの光学顕微鏡写真である。
図5は、実施例7で得られたハニカム構造を有するフィルムの光学顕微鏡写真である。
図6は、実施例8で得られたハニカム構造を有するフィルムの光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、実施例により本発明の実施の形態を説明するが、これらは本発明の発明を制限するものではない。
【実施例】
【実施例1】
ポリ乳酸(分子量100000)のクロロホルム溶液(5g/L)に両親媒性ポリマーとして化合物式1に示すポリアクリルアミド共重合体(重量平均分子量:85,000)を10:1の割合で混合し、ガラス基板上にキャストし室温、湿度70%の条件下に静置し、溶媒を徐々に飛ばすことでハニカム構造体を調製した。こうして得られた構造体のハニカム構造の空隙内径の大きさは5μmで、膜厚は13μmであった。光学顕微鏡写真を図1に示す。
【実施例2】
ポリ乳酸−ポリグリコール酸共重合体(共重合体比75:25,分子量100000)のクロロホルム溶液(5g/L)に両親媒性ポリマーとしてポリアクリルアミド共重合体を10:1の割合で混合し、ガラス基板上にキャストし室温、湿度70%の条件下に静置し、溶媒を徐々に飛ばすことでハニカム構造体を調製した。こうして得られた構造体のハニカム構造の空隙内径の大きさは5μmで,膜厚は13μmであった。
用いられたポリアクリルアミド共重合体の構造式は以下のようである。

(m,nは繰り返し単位を表し、m:n=1:4である。)
[比較例1]
ポリ乳酸(分子量100000)のクロロホルム溶液(100g/L)をガラス基板上にキャストし室温条件下に静置し、自然乾燥にて溶媒を除去することで、キャストフィルムを作成した。
[比較例2]
ポリ乳酸−ポリグリコール酸共重合体(共重合体比75:25、分子量100000)のクロロホルム溶液(100g/L)をガラス基板上にキャストし室温条件下に静置し、自然乾燥にて溶媒を除去することで、キャストフィルムを作成した。
【実施例3】
雄SPFヘアレスラット(平均体重250g)に腹腔内注射により麻酔をかけた後、腹部を切開し、胃を露出した後に、胃底部壁面外皮に8mm程度の傷を付け、実施例1、2および比較例1、2で得られたそれぞれの癒着防止用材料(3cm四方)を、ラット1匹当たり1枚ずつ貼付した。癒着防止材貼付後、1週間目に剖検して、癒着状態を肉眼で観察した結果、各ラットの癒着状態は下記の表1に示すとおりの結果であった。
実施例1、2のハニカム構造体フィルムでは水に浸した状態ではゲル化、溶解することなく、フィルムの柔軟性から患部への貼付も容易であり、取扱性は良好であった。顕著な炎症反応等を示さず、本発明により得られる癒着防止材の生体適合性が良好であることが分かった。比較例1、2のキャストフィルムは柔軟性にかけ、一度しわが生じると元に戻らず、患部への貼付が困難であったため、操作性が良好とは言えなかった。
結果を表1に示す。

【実施例4】
ポリ乳酸(分子量100000)のクロロホルム溶液(5g/L)に界面活性剤としてホスファチジルエタノールアミン−ジオレオイルを10:1の割合で混合し、ガラス基板上にキャストし室温、湿度70%の条件下に静置し、溶媒を徐々に飛ばすことでハニカム構造を有するフィルムを調製した。こうして得られた構造体中のハニカム構造を構成する個々の孔の空隙内径の大きさは約5μmで、膜厚は13μmであり、非貫通フィルムであった。フィルムは白濁していた。ポリ乳酸フィルムは一般のキャスト法で作成すると無色透明であるが、本発明のようにハニカム構造を有すると光の散乱により、フィルムは白濁する。SEM写真を図2に示す。
【実施例5】
ポリ乳酸(分子量100000)のクロロホルム溶液(5g/L)に界面活性剤としてホスファチジルエタノールアミン−ジオレオイルを200:1の割合で混合し、ガラス基板上にキャストし室温、湿度70%の条件下に静置し、溶媒を徐々に飛ばすことでハニカム構造を有するフィルムを調製した。こうして得られた構造体中のハニカム構造を構成する個々の孔の空隙内径の大きさは約5μmで、膜厚は13μmであり、非貫通フィルムであった。フィルムは白濁していた。このことから実施例4と同様にハニカム構造が生じていることが判る。SEM写真を図3に示す。
【実施例6】
ポリ乳酸(分子量100000)のクロロホルム溶液(5g/L)に界面活性剤としてホスファチジルエタノールアミン−ジオレオイルを800:1の割合で混合し、ガラス基板上にキャストし室温、湿度70%の条件下に静置し、溶媒を徐々に飛ばすことでハニカム構造を有するフィルムを調製した。こうして得られた構造体中のハニカム構造を構成する個々の孔の空隙内径の大きさは約5μmで、膜厚は13μmであり、非貫通フィルムであった。フィルムは白濁していた。このことから実施例4と同様にハニカム構造が生じていることが判る。光学顕微鏡写真を図4に示す。
【実施例7】
ポリ乳酸−ポリグリコール酸共重合体(分子量101000)のクロロホルム溶液(5g/L)に界面活性剤としてホスファチジルエタノールアミン−ジオレオイルを10:1の割合で混合し、ガラス基板上にキャストし室温、湿度70%の条件下に静置し、溶媒を徐々に飛ばすことでハニカム構造を有するフィルムを調製した。こうして得られた構造体中のハニカム構造を構成する個々の孔の空隙内径の大きさは約3μmで、膜厚は10μmであり、非貫通フィルムであった。フィルムは白濁していた。ポリ乳酸フィルムは一般のキャスト法で作成すると無色透明であるが、本発明のようにハニカム構造を有すると光の散乱により、フィルムは白濁する。光学顕微鏡写真を図5に示す。
【実施例8】
ポリ乳酸−ポリグリコール酸共重合体(分子量101000)のクロロホルム溶液(5g/L)に界面活性剤としてホスファチジルエタノールアミン−ジオレオイルを200:1の割合で混合し、ガラス基板上にキャストし室温、湿度70%の条件下に静置し、溶媒を徐々に飛ばすことでハニカム構造を有するフィルムを調製した。こうして得られた構造体中のハニカム構造を構成する個々の孔の空隙内径の大きさは約5μmで、膜厚は10μmであり、非貫通フィルムであった。フィルムは白濁していた。このことから実施例7と同様にハニカム構造が生じていることが判る。光学顕微鏡写真を図6に示す。
[比較例3]
ポリ乳酸(分子量100000)のクロロホルム溶液(5g/L)を実施例4と同様の方法でハニカム構造を有するフィルムの作製を試みた。しかし、ハニカム構造は形成されず、不均一なフィルムが作製された。
[比較例4]
ホスファチジルエタノールアミン−ジオレオイルのクロロホルム溶液(5g/L)を実施例1と同様の方法でハニカム構造体の作製を試みた。しかし、フィルムは作製できず、自己支持性も有していなかった。
本願発明の生体の癒着防止効果を確認するために、ラットの腹腔内癒着モデルを用いて実験を行った。
腹腔内癒着モデルは、ラットをペントバルビタールナトリウム(30mg/kgネンブタール注射液、大日本製薬(株))の腹腔内投与麻酔下で背位に固定し、腹部を剃毛した後、消毒用エタノールで消毒し、さらにイソジン消毒液で手術領域を消毒した後、腹部正中線に沿って3〜4cm切開して盲腸を露出させた。露出させた盲腸の一定の面積(1〜2cm)について、滅菌ガーゼを用いて点状出血が生じるまで擦過した。盲腸を腹腔内に戻した後、癒着防止材を貼付し、切開部の筋層は連続縫合し、皮膚は4〜5針縫合した。創傷部をイソジン消毒液で消毒した後、ケージに戻した。
術後7日にラットをペントバルビタールナトリウム麻酔下で開腹し、腹腔内癒着の程度を肉眼的に観察し、以下に示す基準に従ってスコア化した。
[グレード分類]
グレード0(スコア0):癒着が認められない状態。
グレード1(スコア1):細くて容易に分離できる程度の癒着。
グレード2(スコア2):狭い範囲ではあるが、軽度の牽引に耐えられ得る程度の弱い癒着。
グレード3(スコア3):かなりしっかりとした癒着あるいは少なくとも2箇所に癒着が認められる状態。
グレード4(スコア4):3箇所以上に癒着が認められる状態。
実施例と比較例を以下に示す。
【実施例9】
実施例5で得られたフィルムを用いて生体の癒着防止効果を確認した。
[比較例5]
上記、腹腔内癒着モデルと同様な手順で癒着防止材を用いずに縫合した。
[比較例6]
セプラフィルム(ヒアルロン酸ナトリウムとカルボキシメチルセルロース、厚さ約55μm、科研製薬(株))を用いて腹腔内癒着モデルを実施した。
各動物の腹腔内癒着の程度をグレード分類に従ってスコア化し、結果はその平均値±標準誤差(mean±S.E.)で表記したものを表2に示す。
比較例5(フィルムなし)の平均癒着スコアは、3.0±0.3であった。これに対し、実施例7の平均癒着スコアは1.6±0.5となり、比較例5と比較して癒着スコアの減少が観察された。同様に比較例6(セプラフィルム)の癒着スコア(1.8±0.7)と比較しても癒着スコアの減少が観察された。
本願発明の癒着防止材は、癒着防止材を用いない場合に比べ明らかな効果がある。また現在実用化されている比較例6のフィルムに比べても癒着防止に効果がある上に、比較例6のフィルムのような接着性は示さないので取り扱いが容易である。

【産業上の利用可能性】
本願発明のハニカム構造を有する生分解性フィルムは、癒着防止材として生体への適用が可能である。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハニカム構造を有する生分解性フィルムからなる癒着防止材。
【請求項2】
ハニカム構造の平均空隙内径が20μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の癒着防止材。
【請求項3】
フィルムの片面にのみハニカム構造を有することを特徴とする請求項1または2に記載の癒着防止材。
【請求項4】
生分解性ポリマーと界面活性剤からなるフィルムであって、該界面活性剤がリン脂質であることを特徴としたハニカム構造を有する生分解性フィルム。
【請求項5】
該生分解性ポリマーが生分解性脂肪族ポリエステルおよび/または生分解性脂肪族ポリカーボネートである請求項4に記載のハニカム構造を有する生分解性フィルム。
【請求項6】
該生分解性脂肪族ポリエステルがポリ乳酸、ポリ乳酸−ポリグリコール酸共重合体、ポリヒドロキシ酪酸、ポリカプロラクトン、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペートなどの生分解性脂肪族ポリエステルからなる群から選択される少なくとも一つのポリマーである請求項5に記載のハニカム構造を有する生分解性フィルム。
【請求項7】
該生分解性脂肪族ポリカーボネートがポリブチレンカーボネート、ポリエチレンカーボネートからなる群から選択される少なくとも一つのポリマーである請求項5記載のハニカム構造を有する生分解性フィルム。
【請求項8】
該生分解性ポリマーがポリ乳酸またはポリ乳酸−ポリグリコール酸共重合体であることを特徴とする請求項4から6のいずれか1項に記載のハニカム構造を有する生分解性フィルム。
【請求項9】
該リン脂質がホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロールおよびそれらの誘導体からなる群から選択されてなる請求項4または5に記載のハニカム構造を有する生分解性フィルム。
【請求項10】
該リン脂質がL−α−ホスファチジルエタノールアミンであることを特徴とする請求項4から9のいずれか1項に記載のハニカム構造を有する生分解性フィルム。
【請求項11】
該リン脂質がL−α−ホスファチジルエタノールアミンジオレオイルであることを特徴とする請求項10に記載のハニカム構造を有する生分解性フィルム。
【請求項12】
該生分解性ポリマーと該リン脂質の組成比が1:1から1000:1であることを特徴とする請求項4項に記載のハニカム構造を有する生分解性フィルム。
【請求項13】
請求項4または5項に記載の生分解性フィルムからなる癒着防止材。
【請求項14】
生分解性ポリマーの有機溶媒溶液を、相対湿度50〜95%の大気下で基板上にキャストし、該有機溶媒を徐々に蒸散させると同時に該キャスト液表面で結露させ、該結露により生じた微小水滴を蒸発させることで得られるハニカム構造を有する生分解性ポリマーフィルムを用いたことを特徴とする請求項1または13項に記載の癒着防止材の製造方法。

【国際公開番号】WO2004/089434
【国際公開日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【発行日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−505315(P2005−505315)
【国際出願番号】PCT/JP2004/005068
【国際出願日】平成16年4月8日(2004.4.8)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】