説明

ハニカム構造体の製造方法及び排ガス浄化装置の製造方法

【課題】本発明は、水を吸着及び/又は脱着することによるハニカムユニットの破損を抑制することが可能なハニカム構造体の製造方法及び排ガス浄化装置の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明のハニカム構造体の製造方法は、ハニカムユニットを有するハニカム構造体を製造する方法であって、リン酸塩系ゼオライトと、無機バインダとを含む組成物を用いて成形して、複数の貫通孔が隔壁を隔てて長手方向に並設されたハニカム成形体を得る工程と、該ハニカム成形体を乾燥する工程と、該乾燥されたハニカム成形体を焼成してハニカムユニットを得る工程とを有し、前記乾燥されたハニカム成形体及び/又は前記ハニカムユニットを、前記長手方向に対して垂直な断面における外周部の隔壁と中央部の隔壁の含水率の差が5質量%以下となるように保管する工程をさらに有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム構造体の製造方法及び排ガス浄化装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の排ガスを浄化するシステムの一つとして、アンモニアを用いて、NOxを窒素と水に還元するSCR(Selective Catalytic Reduction)システムが知られている。
【0003】
また、SCRシステムにおいて、アンモニアを吸着する材料として、ゼオライトが知られている。
【0004】
特許文献1には、ハニカムユニットがゼオライトと、無機繊維及び/又はウィスカと、無機バインダを含んでなるハニカム構造体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第06/137149号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のハニカム構造体よりも高いNOxの浄化性能が求められており、ゼオライトとして、NOxの浄化性能に優れるSAPO等のリン酸塩系ゼオライトを用いることが考えられる。しかしながら、例えば、SAPOは、水を吸着することにより、結晶格子定数が変化するため、SAPOを含むハニカムユニットを有するハニカム構造体又はその中間品は、ハニカムユニットが水を吸着及び/又は脱着することにより、破損しやすいという問題がある。
【0007】
本発明は、上記の従来技術が有する問題に鑑み、水を吸着及び/又は脱着することによるハニカムユニットの破損を抑制することが可能なハニカム構造体の製造方法及び排ガス浄化装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のハニカム構造体の製造方法は、ハニカムユニットを有するハニカム構造体を製造する方法であって、リン酸塩系ゼオライトと、無機バインダとを含む組成物を用いて成形して、複数の貫通孔が隔壁を隔てて長手方向に並設されたハニカム成形体を得る工程と、該ハニカム成形体を乾燥する工程と、該乾燥されたハニカム成形体を焼成してハニカムユニットを得る工程とを有し、前記乾燥されたハニカム成形体及び/又は前記ハニカムユニットを、前記長手方向に対して垂直な断面における外周部の隔壁と中央部の隔壁の含水率の差が5質量%以下となるように保管する工程をさらに有する。
【0009】
前記乾燥されたハニカム成形体を保管する際に、前記複数の貫通孔に、該保管する環境の空気又は湿度が20%RH以上60%RH以下である空気を流すことが望ましい。
【0010】
デシケータ又は真空容器中で、前記乾燥されたハニカム成形体を保管することが望ましい。
【0011】
前記ハニカムユニットを保管する際に、前記複数の貫通孔に、該保管する環境の空気又は湿度が20%RH以上60%RH以下である空気を流すことが望ましい。
【0012】
デシケータ又は真空容器中で、前記ハニカムユニットを保管することが望ましい。
【0013】
前記ハニカムユニットを複数有するハニカムユニットの集合体を得る工程と、該ハニカムユニットの集合体を、前記長手方向に対して垂直な断面における、前記ハニカムユニットの外周部の隔壁と中央部の隔壁の含水率の差が5質量%以下となるように保管する工程をさらに有することが望ましい。
【0014】
前記ハニカムユニットの集合体を保管する際に、前記複数の貫通孔に、該保管する環境の空気又は湿度が20%RH以上60%RH以下である空気を流すことが望ましい。
【0015】
デシケータ又は真空容器中で、前記ハニカムユニットの集合体を保管することが望ましい。
【0016】
前記リン酸塩系ゼオライトは、SAPO、MeAPO及びMeAPSOからなる群より選択される一種以上であることが望ましい。
【0017】
前記SAPOは、SAPO−5、SAPO−11及びSAPO−34からなる群より選択される一種以上であることを特徴とすることが望ましい。
【0018】
前記リン酸塩系ゼオライトは、Cu及び/又はFeでイオン交換されているゼオライトを含むことが望ましい。
【0019】
前記無機バインダは、アルミナゾル、シリカゾル、チタニアゾル、水ガラス、セピオライト、アタパルジャイト及びベーマイトからなる群より選択される一種以上に含まれる固形分であることが望ましい。
【0020】
前記組成物は、無機繊維及び/又は鱗片状物質をさらに含むことが望ましい。
【0021】
前記無機繊維は、アルミナ繊維、シリカ繊維、炭化ケイ素繊維、シリカアルミナ繊維、ガラス繊維、チタン酸カリウム繊維及びホウ酸アルミニウム繊維からなる群より選択される一種以上であり、鱗片状物質は、鱗片状ガラス、鱗片状白雲母、鱗片状アルミナ、鱗片状シリカ及び鱗片状酸化亜鉛からなる群より選択される一種以上であることが望ましい。
【0022】
本発明の排ガス浄化装置の製造方法は、本発明のハニカム構造体の製造方法を用いてハニカム構造体を製造する工程と、該ハニカム構造体の周囲に保持シール材を配置した状態で金属容器に収納する工程を有する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、水を吸着及び/又は脱着することによるハニカムユニットの破損を抑制することが可能なハニカム構造体の製造方法及び排ガス浄化装置の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】ハニカム構造体の一例を示す斜視図である。
【図2】排ガス浄化装置の一例を示す断面図である。
【図3】図1のハニカム構造体の変形例を示す斜視図である。
【図4】図3のハニカム構造体を構成するハニカムユニットを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
次に、本発明を実施するための形態を図面と共に説明する。
【0026】
本発明のハニカム構造体の製造方法の一例として、ハニカム構造体10(図1参照)の製造方法について説明する。まず、リン酸系ゼオライト及び無機バインダを含む原料ペースト(組成物)を用いて押出成形し、複数の貫通孔が隔壁を隔てて長手方向に並設された生の円柱状のハニカム成形体を作製する。これにより、焼成温度を低くしても、十分な強度を有する円柱状のハニカムユニット11が得られる。
【0027】
リン酸塩系ゼオライトとしては、SAPO−5、SAPO−11、SAPO−34等のSAPO;MeAPO;MeAPSO等が挙げられる。
【0028】
リン酸塩系ゼオライトは、NOxの浄化性能を考慮すると、Cu及び/又はFeでイオン交換されているリン酸塩系ゼオライトを含むことが好ましい。なお、リン酸塩系ゼオライトは、イオン交換されていないリン酸塩系ゼオライト、及び/又は、上記以外の金属でイオン交換されたリン酸塩系ゼオライトをさらに含んでもよい。
【0029】
Cu及び/又はFeでイオン交換されたリン酸塩系ゼオライトは、イオン交換量が1.0〜5.0質量%であることが好ましい。リン酸塩系ゼオライトのイオン交換量が1.0質量%未満であると、NOxの浄化性能が不十分となることがある。一方、リン酸塩系ゼオライトのイオン交換量が5.0質量%を超えると、イオン交換されるべき金属が酸化物として存在して、イオン交換されないことがある。
【0030】
リン酸塩系ゼオライトの一次粒子又は二次粒子の平均粒径は、0.5〜10μmであることが好ましく、1〜5μmがさらに好ましい。リン酸塩系ゼオライトの一次粒子又は二次粒子の平均粒径が0.5μm未満であると、排ガスが隔壁11bの内部まで浸透しにくくなって、リン酸塩系ゼオライトがNOxの浄化に有効に利用されなくなる。一方、リン酸塩系ゼオライトの一次粒子又は二次粒子の平均粒径が10μmを超えると、ハニカムユニット11中の気孔の数が少なくなるため、排ガスが隔壁11bの内部まで浸透しにくくなり、リン酸塩系ゼオライトがNOxの浄化に有効に利用されなくなる。
【0031】
原料ペーストは、β型ゼオライト、ZSM−5型ゼオライト等のリン酸塩系ゼオライト以外のゼオライトをさらに含んでもよい。
【0032】
ハニカムユニット11は、見掛けの体積当たりのゼオライトの含有量が230〜360g/Lであることが好ましい。見掛けの体積当たりのゼオライトの含有量が230g/L未満であると、NOxの浄化率を向上させるためにハニカムユニット11の見掛けの体積を大きくしなければならないことがある。一方、見掛けの体積当たりのゼオライトの含有量が360g/Lを超えると、ハニカムユニット11の強度が不十分になることがある。
【0033】
原料ペーストに含まれる無機バインダは、アルミナゾル、シリカゾル、チタニアゾル、水ガラス、セピオライト、アタパルジャイト、ベーマイト等として添加されており、二種以上併用されていてもよい。
【0034】
なお、無機バインダは、アルミナゾル、シリカゾル、チタニアゾル、水ガラス、セピオライト、アタパルジャイト、ベーマイト等に含まれる固形分である。
【0035】
ハニカムユニット11の無機バインダの含有量は、5〜30質量%であることが好ましく、10〜20質量%がさらに好ましい。無機バインダの含有量が5質量%未満であると、ハニカムユニット11の強度が低下することがある。一方、無機バインダの含有量が30質量%を超えると、ハニカムユニット11の押出成形が困難になることがある。
【0036】
原料ペーストは、ハニカムユニット11の強度を向上させるために、無機繊維及び/又は鱗片状物質をさらに含むことが好ましい。
【0037】
原料ペーストに含まれる無機繊維としては、ハニカムユニット11の強度を向上させることが可能であれば、特に限定されないが、アルミナ繊維、シリカ繊維、炭化ケイ素繊維、シリカアルミナ繊維、ガラス繊維、チタン酸カリウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維等が挙げられ、二種以上併用してもよい。
【0038】
無機繊維のアスペクト比は、2〜1000であることが好ましく、5〜800がさらに好ましく、10〜500が特に好ましい。無機繊維のアスペクト比が2未満であると、ハニカムユニット11の強度を向上させる効果が小さくなることがある。一方、無機繊維のアスペクト比が1000を超えると、ハニカムユニット11を押出成形する際に金型に目詰まり等が発生したり、無機繊維が折れて、ハニカムユニット11の強度を向上させる効果が小さくなったりすることがある。
【0039】
原料ペーストに含まれる鱗片状物質としては、ハニカムユニット11の強度を向上させることが可能であれば、特に限定されないが、鱗片状ガラス、鱗片状白雲母、鱗片状アルミナ、鱗片状シリカ、鱗片状酸化亜鉛等が挙げられ、二種以上併用してもよい。
【0040】
ハニカムユニット11の無機繊維及び鱗片状物質の含有量は、3〜50質量%であることが好ましく、3〜30質量%がさらに好ましく、5〜20質量%が特に好ましい。無機繊維及び鱗片状物質の含有量が3質量%未満であると、ハニカムユニット11の強度を向上させる効果が小さくなることがある。一方、無機繊維及び鱗片状物質の含有量が50質量%を超えると、ハニカムユニット11中のリン酸系ゼオライトの含有量が低下して、NOxの浄化率が低下することがある。
【0041】
また、原料ペーストには、有機バインダ、分散媒、成形助剤等を、必要に応じて、適宜添加してもよい。
【0042】
有機バインダとしては、特に限定されないが、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリエチレングリコール、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられ、二種以上併用してもよい。なお、有機バインダの添加量は、ゼオライト、無機バインダ、無機繊維及び鱗片状物質の総質量に対して、1〜10%であることが好ましい。
【0043】
分散媒としては、特に限定されないが、水、ベンゼン等の有機溶媒、メタノール等のアルコール等が挙げられ、二種以上併用してもよい。
【0044】
成形助剤としては、特に限定されないが、エチレングリコール、デキストリン、脂肪酸、脂肪酸石鹸、ポリアルコール等が挙げられ、二種以上併用してもよい。
【0045】
原料ペーストを調製する際には、混合混練することが好ましく、ミキサー、アトライタ等を用いて混合してもよく、ニーダー等を用いて混練してもよい。
【0046】
次に、マイクロ波乾燥機、熱風乾燥機、誘電乾燥機、減圧乾燥機、真空乾燥機、凍結乾燥機等の乾燥機を用いて、得られたハニカム成形体を乾燥する。
【0047】
このとき、乾燥されたハニカム成形体を保管する場合は、長手方向に対して垂直な断面における外周部の隔壁と中央部の隔壁の含水率の差が5質量%以下、好ましくは3質量%以下となるように保管する。この含水率の差が5質量%を超えると、ハニカム成形体が破損しやすくなる。
【0048】
長手方向に対して垂直な断面における外周部の隔壁と中央部の隔壁の含水率の差が5%以下となるようにハニカム成形体を保管する方法としては、特に限定されないが、ハニカム成形体の複数の貫通孔に、保管する環境の空気又は湿度が20〜60%RH、好ましくは20〜50%RHである空気を流す方法、デシケータ又は真空容器中で保管する方法等が挙げられる。
【0049】
このとき、ハニカム成形体の複数の貫通孔に保管する環境の空気を流すと、長手方向に対して垂直な断面における中央部の隔壁の含水率と外周部の隔壁の含水率が略同一となる。
【0050】
また、ハニカム成形体の複数の貫通孔に湿度が20〜60%RHである空気を流すと、長手方向に対して垂直な断面における中央部の隔壁の含水率と外周部の隔壁の含水率の差が5質量%以下となる。空気の湿度が20%RH未満である場合及び60%RHを超える場合は、環境の湿度にもよるが、ハニカム成形体の長手方向に対して垂直な断面における中央部の隔壁の含水率と外周部の隔壁の含水率の差が5質量%を超えることがある。
【0051】
ハニカム成形体の複数の貫通孔に、保管する環境の空気又は湿度が20〜60%RHである空気を流す場合、保管する環境は、通常、温度が5〜35℃である。
【0052】
さらに、デシケータ又は真空容器中でハニカム成形体を保管すると、長手方向に対して垂直な断面における中央部の隔壁の含水率と外周部の隔壁の含水率が略同一となる。
【0053】
なお、含水率は、乾燥重量法を用いて測定することができる。また、含水率は、近赤外線式水分計、静電容量式水分計等の水分計を用いて測定してもよい。
【0054】
さらに、得られたハニカム成形体を脱脂する。脱脂条件は、特に限定されず、成形体に含まれる有機物の種類や量によって適宜選択することができるが、400℃で2時間であることが好ましい。
【0055】
次に、得られたハニカム脱脂体を焼成することにより、円柱状のハニカムユニット11が得られる。焼成温度は、600〜1200℃であることが好ましく、600〜1000℃がさらに好ましい。焼成温度が600℃未満であると、焼結が進行せず、ハニカムユニット11の強度が低くなることがある。一方、焼成温度が1200℃を超えると、焼結が進行しすぎて、リン酸系ゼオライトの反応サイトが減少することがある。
【0056】
このとき、ハニカムユニット11を保管する場合は、長手方向に対して垂直な断面における外周部の隔壁11bと中央部の隔壁11bの含水率の差が5質量%以下、好ましくは3質量%以下となるように保管する。この含水率の差が5質量%を超えると、ハニカムユニット11が破損しやすくなる。
【0057】
長手方向に対して垂直な断面における外周部の隔壁と中央部の隔壁の含水率の差が5%以下となるようにハニカムユニット11を保管する方法は、ハニカム成形体の場合と同様である。
【0058】
なお、乾燥されたハニカム成形体を保管せずに脱脂及び焼成してもよい。また、ハニカム成形体を焼成する工程がハニカム成形体を乾燥する工程及びハニカム成形体を脱脂する工程を兼ねていてもよい。
【0059】
次に、円柱状のハニカムユニット11の外周面に外周コート層用ペーストを塗布する。
【0060】
外周コート層用ペーストとしては、特に限定されないが、無機バインダ及び無機粒子の混合物、無機バインダ及び無機繊維の混合物、無機バインダ、無機粒子及び無機繊維の混合物等が挙げられる。
【0061】
また、外周コート層用ペーストは、有機バインダをさらに含有してもよい。有機バインダとしては、特に限定されないが、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等が挙げられ、二種以上併用してもよい。
【0062】
次に、外周コート層用ペーストが塗布されたハニカムユニット11を乾燥固化することにより、円柱状のハニカム構造体10が得られる。このとき、外周コート層用ペーストに有機バインダが含まれている場合は、脱脂することが好ましい。脱脂条件は、有機物の種類や量によって適宜選択することができるが、700℃で20分間であることが好ましい。
【0063】
なお、ハニカムユニット11をCuイオン又はFeイオンを含有する水溶液中に浸漬することにより、ゼオライトをイオン交換することができる。また、Cu及び/又はFeでイオン交換されたゼオライトを含む原料ペーストを用いてもよい。
【0064】
ハニカム構造体10は、複数の貫通孔11aが隔壁11bを隔てて長手方向に並設された単一のハニカムユニット11の外周面に外周コート層12が形成されている。
【0065】
ハニカムユニット11は、気孔率が25〜40%であることが好ましい。ハニカムユニット11の気孔率が25%未満であると、排ガスが隔壁11bの内部まで浸透しにくくなって、リン酸系ゼオライトがNOxの浄化に有効に利用されなくなることがある。一方、ハニカムユニット11の気孔率が40%を超えると、ハニカムユニット11の強度が不十分となることがある。
【0066】
ハニカムユニット11は、長手方向に垂直な断面の開口率が50〜75%であることが好ましい。長手方向に垂直な断面の開口率が50%未満であると、リン酸系ゼオライトがNOxの浄化に有効に利用されなくなることがある。一方、長手方向に垂直な断面の開口率が75%を超えると、ハニカムユニット11の強度が不十分となることがある。
【0067】
ハニカムユニット11は、長手方向に垂直な断面の貫通孔11aの密度が31〜124個/cmであることが好ましい。長手方向に垂直な断面の貫通孔11aの密度が31個/cm未満であると、排ガスとリン酸系ゼオライトが接触しにくくなって、NOxの浄化率が低下することがある。一方、長手方向に垂直な断面の貫通孔11aの密度が124個/cmを超えると、ハニカム構造体10の圧力損失が増大することがある。
【0068】
ハニカムユニット11の隔壁11bの厚さは、0.10〜0.50mmであることが好ましく、0.15〜0.35mmがさらに好ましい。隔壁11bの厚さが0.10mm未満であると、ハニカムユニット11の強度が低下することがある。一方、隔壁11bの厚さが0.50mmを超えると、排ガスが隔壁11bの内部まで浸透しにくくなって、リン酸系ゼオライトがNOxの浄化に有効に利用されなくなることがある。
【0069】
外周コート層12は、厚さが0.1〜2mmであることが好ましい。外周コート層12の厚さが0.1mm未満であると、ハニカム構造体10の強度を向上させる効果が不十分になることがある。一方、外周コート層12の厚さが2mmを超えると、ハニカム構造体10の単位体積当たりのリン酸系ゼオライトの含有量が低下して、NOxの浄化率が低下することがある。
【0070】
ハニカム構造体10は、円柱状であるが、特に限定されず、角柱状、楕円柱状等であってもよい。また、貫通孔11aの形状は、四角柱状であるが、特に限定されず、三角柱状、六角柱状等であってもよい。
【0071】
なお、ハニカム構造体10は、外周コート層12が形成されていなくてもよい。
【0072】
また、ハニカム構造体10の外周部に保持シール材20を配置した状態で、金属管30にキャニングすることにより、排ガス浄化装置100(図2参照)が得られる。排ガス浄化装置100には、排ガスの流れる方向に対して、ハニカム構造体10の上流側に、アンモニア又はその前駆体を噴射する噴射ノズル等の噴射手段(不図示)が設けられている。これにより、排ガスにアンモニアが添加され、その結果、ハニカムユニット11に含まれるリン酸系ゼオライト上で、排ガス中に含まれるNOxが還元される。このとき、アンモニア又はその前駆体の貯蔵安定性を考慮すると、アンモニアの前駆体として、尿素水を用いることが好ましい。なお、尿素水は、排ガス中で加熱されることにより、加水分解し、アンモニアが発生する。
【0073】
このとき、ハニカム成形体の外周部に保持シール材20を配置した状態で、金属管30にキャニングした後、焼成することにより、排ガス浄化装置を得てもよい。
【0074】
次に、ハニカム構造体10の製造方法の変形例として、ハニカム構造体10'(図3参照)の製造方法について説明する。まず、ハニカム構造体10と同様にして、四角柱状のハニカムユニット11を作製する。次に、ハニカムユニット11の外周面に接着層用ペーストを塗布して、ハニカムユニット11を順次接着させ、乾燥固化することにより、ハニカムユニット11の集合体を作製する。
【0075】
このとき、ハニカムユニット11の集合体を作製した後に、円柱状に切削加工し、研磨してもよい。また、長手方向に垂直な断面が扇形状や正方形状に成形されたハニカムユニット11を接着させて円柱状のハニカムユニット11の集合体を作製してもよい。
【0076】
接着層用ペーストとしては、特に限定されないが、無機バインダ及び無機粒子の混合物、無機バインダ及び無機繊維の混合物、無機バインダ、無機粒子及び無機繊維の混合物等が挙げられる。
【0077】
また、接着層用ペーストは、有機バインダを含有してもよい。有機バインダとしては、特に限定されないが、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等が挙げられ、二種以上併用してもよい。
【0078】
このとき、ハニカムユニット11の集合体を保管する場合は、長手方向に対して垂直な断面における、ハニカムユニット11の外周部の隔壁11bと中央部の隔壁11bの含水率の差が5質量%以下、好ましくは3質量%以下となるように保管する。この含水率の差が5質量%を超えると、ハニカムユニット11が破損しやすくなる。
【0079】
長手方向に対して垂直な断面における、ハニカムユニット11の外周部の隔壁と中央部の隔壁の含水率の差が5%以下となるようにハニカムユニット11の集合体を保管する方法は、ハニカム成形体の場合と同様である。
【0080】
次に、円柱状のハニカムユニット11の集合体の外周面に外周コート層用ペーストを塗布する。外周コート層用ペーストは、特に限定されないが、接着層用ペーストと同じ材料を含有してもよいし、異なる材料を含有してもよい。また、外周コート層用ペーストは、接着層用ペーストと同一の組成であってもよい。
【0081】
次に、外周コート層用ペーストが塗布されたハニカムユニット11の集合体を乾燥固化することにより、円柱状のハニカム構造体10'が得られる。このとき、接着層用ペースト及び/又は外周コート層用ペーストに有機バインダが含まれている場合は、脱脂することが好ましい。脱脂条件は、有機物の種類や量によって適宜選択することができるが、700℃で20分間であることが好ましい。
【0082】
ハニカム構造体10'は、複数の貫通孔11aが隔壁11bを隔てて長手方向に並設されたハニカムユニット11(図4参照)が接着層13を介して複数個接着されている以外は、ハニカム構造体10と同様である。
【0083】
ハニカムユニット11は、長手方向に垂直な断面の断面積が5〜50cmであることが好ましい。長手方向に垂直な断面の断面積が5cm未満であると、ハニカム構造体10'の圧力損失が増大することがある。一方、長手方向に垂直な断面の断面積が50cmを超えると、ハニカムユニット11に発生する熱応力に対する強度が不十分になることがある。
【0084】
接着層13は、厚さが0.5〜2mmであることが好ましい。接着層13の厚さが0.5mm未満であると、接着強度が不十分になることがある。一方、接着層13の厚さが2mmを超えると、ハニカム構造体10'の圧力損失が増大することがある。
【0085】
また、ハニカム構造体10'の外周部に位置するハニカムユニット11を除くハニカムユニット11の形状は、四角柱状であるが、特に限定されず、例えば、六角柱状等であってもよい。
【0086】
なお、ハニカム構造体10'は、外周コート層12が形成されていなくてもよい。
【実施例】
【0087】
[実施例1]
まず、Cuで2.7質量%イオン交換された、平均粒径が3μmであるSAPO3100g、ベーマイト895g、平均繊維径が6μm、平均繊維長が100μmのアルミナ繊維485g、メチルセルロース380g、オレイン酸280g及びイオン交換水2425gを混合混練して、原料ペーストを作製した。
【0088】
次に、押出成形機を用いて、原料ペーストを押出成形し、生の正四角柱状のハニカム成形体を作製した。そして、マイクロ波乾燥機及び熱風乾燥機を用いて、ハニカム成形体を110℃で10分間乾燥させた。
【0089】
温度が25℃、湿度が65%RHの環境で、乾燥されたハニカム成形体の複数の貫通孔に、保管する環境の空気を流速9.3m/秒で流し、1時間保管したところ、クラックは見られなかった。また、保管されたハニカム成形体の長手方向に対して垂直な断面における外周部の隔壁の含水率及び中央部の隔壁の含水率は、それぞれ14質量%及び13質量%であった。
【0090】
なお、保管されたハニカム成形体の長手方向に対して垂直な断面における外周部の隔壁と中央部の隔壁の含水率は、それぞれ5mm角の試料を切り出した後、乾燥重量法を用いて測定した。
【0091】
次に、保管されたハニカム成形体を400℃で5時間脱脂した後、700℃で2時間焼成し、一辺が34.3mm、長さが150mmの正四角柱状のハニカムユニット11を作製した。ハニカムユニット11は、貫通孔11aの密度が93個/cm、隔壁11bの厚さが0.23mmであった。
【0092】
温度が25℃、湿度が65%RHの環境で、ハニカムユニット11の複数の貫通孔に、保管する環境の空気を流速9.3m/秒で流し、1時間保管したところ、クラックは見られなかった。また、保管されたハニカムユニット11の長手方向に対して垂直な断面における外周部の隔壁の含水率及び中央部の隔壁の含水率は、それぞれ15質量%及び13質量%であった。
【0093】
なお、保管されたハニカムユニット11の長手方向に対して垂直な断面における外周部の隔壁と中央部の隔壁の含水率は、それぞれ5mm角の試料を切り出した後、乾燥重量法を用いて測定した。
【0094】
次に、平均繊維径が0.5μm、平均繊維長が15μmのアルミナ繊維767g、シリカガラス2500g、カルボキシメチルセルロース17g、固形分30質量%のシリカゾル600g、ポリビニルアルコール167g、界面活性剤167g及びアルミナバルーン17gを混合混練して、耐熱性の接着層用ペーストを作製した。
【0095】
接着層の厚さが2mmになるように接着層用ペーストを塗布して、ハニカムユニット11を16個接着させ、接着層用ペーストを150℃で10分間乾燥固化した後、ダイヤモンドカッターを用いて、長手方向に垂直な断面が略点対称になるように円柱状に切削加工し、ハニカムユニット11の集合体を作製した。
【0096】
さらに、ハニカムユニット11の集合体の外周面に、外周コート層の厚さが1mmになるように接着層用ペーストを塗布した後、マイクロ波乾燥機及び熱風乾燥機を用いて、接着層用ペーストを150℃で10分間乾燥固化し、400℃で2時間脱脂して、直径143.8mm、高さ150mmの円柱状のハニカム構造体10'を作製した。
【0097】
次に、ハニカム構造体10'の外周部に保持シール材(無機繊維からなるマット)20を配置した状態で、金属管(シェル)30にキャニングし、排ガス浄化装置を作製した(図2参照)。
【0098】
[実施例2]
乾燥されたハニカム成形体及びハニカムユニット11をデシケータ中で1時間保管した以外は、実施例1と同様にして、ハニカム構造体10'及び排ガス浄化装置を作製した。
【0099】
なお、保管されたハニカム成形体及びハニカムユニット11のいずれもクラックは見られなかった。また、保管されたハニカム成形体の長手方向に対して垂直な断面における外周部の隔壁の含水率及び中央部の隔壁の含水率は、それぞれ2質量%及び2質量%であった。さらに、保管されたハニカムユニット11の長手方向に対して垂直な断面における外周部の隔壁の含水率及び中央部の隔壁の含水率は、それぞれ2質量%及び2質量%であった。
【0100】
[実施例3]
温度が25℃、湿度が65%RHの環境で、乾燥されたハニカム成形体及びハニカムユニット11の複数の貫通孔に、温度が25℃、湿度が30%RHである空気を流速9.3m/秒で流し、1時間保管した以外は、実施例1と同様にして、ハニカム構造体10'及び排ガス浄化装置を作製した。
【0101】
なお、保管されたハニカム成形体及びハニカムユニット11のいずれもクラックは見られなかった。また、保管されたハニカム成形体の長手方向に対して垂直な断面における外周部の隔壁の含水率及び中央部の隔壁の含水率は、それぞれ14質量%及び9質量%であった。さらに、保管されたハニカムユニット11の長手方向に対して垂直な断面における外周部の隔壁の含水率及び中央部の隔壁の含水率は、それぞれ15質量%及び10質量%であった。
【0102】
[比較例1]
まず、Cuで2.7質量%イオン交換された、平均粒径が3μmであるSAPO3100g、ベーマイト895g、平均繊維径が6μm、平均繊維長が100μmのアルミナ繊維485g、メチルセルロース380g、オレイン酸280g及びイオン交換水2425gを混合混練して、原料ペーストを作製した。
【0103】
次に、押出成形機を用いて、原料ペーストを押出成形し、生の正四角柱状のハニカム成形体を得た。そして、マイクロ波乾燥機及び熱風乾燥機を用いて、ハニカム成形体を110℃で10分間乾燥させた。
【0104】
温度が25℃、湿度が65%RHの環境で、乾燥されたハニカム成形体を1時間放置したところ、ハニカム成形体の外周部にクラックが見られた。また、ハニカム成形体の長手方向に対して垂直な断面における外周部の隔壁の含水率及び中央部の隔壁の含水率は、それぞれ14質量%及び6質量%であった。
【0105】
評価結果を表1に示す。
【0106】
【表1】

表1より、実施例1〜3のハニカム構造体10'及び排ガス浄化装置を製造する際に、ハニカムユニット11のクラックの発生を抑制できることがわかる。
【0107】
以上のことから、乾燥されたハニカム成形体及びハニカムユニット11を、長手方向に対して垂直な断面における外周部の隔壁と中央部の隔壁の含水率の差が5%以下となるように保管することにより、水を吸着及び/又は脱着することによるハニカムユニット11の破損を抑制できることがわかる。
【0108】
なお、本実施例では、ハニカム構造体10'について示したが、ハニカム構造体10についても同様の効果が得られると考えられる。
【符号の説明】
【0109】
10、10' ハニカム構造体
11 ハニカムユニット
11a 貫通孔
11b 隔壁
12 外周コート層
13 接着層
20 保持シール材
30 金属管
100 排ガス浄化装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハニカムユニットを有するハニカム構造体を製造する方法であって、
リン酸塩系ゼオライトと、無機バインダとを含む組成物を用いて成形して、複数の貫通孔が隔壁を隔てて長手方向に並設されたハニカム成形体を得る工程と、該ハニカム成形体を乾燥する工程と、該乾燥されたハニカム成形体を焼成して前記ハニカムユニットを得る工程とを有し、
前記乾燥されたハニカム成形体及び/又は前記ハニカムユニットを、前記長手方向に対して垂直な断面における外周部の隔壁と中央部の隔壁の含水率の差が5質量%以下となるように保管する工程をさらに有することを特徴とするハニカム構造体の製造方法。
【請求項2】
前記乾燥されたハニカム成形体を保管する際に、前記複数の貫通孔に、該保管する環境の空気又は湿度が20%RH以上60%RH以下である空気を流すことを特徴とする請求項1に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項3】
デシケータ又は真空容器中で、前記乾燥されたハニカム成形体を保管することを特徴とする請求項1に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項4】
前記ハニカムユニットを保管する際に、前記複数の貫通孔に、該保管する環境の空気又は湿度が20%RH以上60%RH以下である空気を流すことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項5】
デシケータ又は真空容器中で、前記ハニカムユニットを保管することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項6】
前記ハニカムユニットを複数有するハニカムユニットの集合体を得る工程と、
該ハニカムユニットの集合体を、前記長手方向に対して垂直な断面における、前記ハニカムユニットの外周部の隔壁と中央部の隔壁の含水率の差が5質量%以下となるように保管する工程をさらに有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項7】
前記ハニカムユニットの集合体を保管する際に、前記複数の貫通孔に、該保管する環境の空気又は湿度が20%RH以上60%RH以下である空気を流すことを特徴とする請求項6に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項8】
デシケータ又は真空容器中で、前記ハニカムユニットの集合体を保管することを特徴とする請求項6に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項9】
前記リン酸塩系ゼオライトは、SAPO、MeAPO及びMeAPSOからなる群より選択される一種以上であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項10】
前記SAPOは、SAPO−5、SAPO−11及びSAPO−34からなる群より選択される一種以上であることを特徴とすることを特徴とする請求項9に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項11】
前記リン酸塩系ゼオライトは、Cu及び/又はFeでイオン交換されているゼオライトを含むことを特徴とする請求項1乃至10のいずれか一項に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項12】
前記無機バインダは、アルミナゾル、シリカゾル、チタニアゾル、水ガラス、セピオライト、アタパルジャイト及びベーマイトからなる群より選択される一種以上に含まれる固形分であることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか一項に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項13】
前記組成物は、無機繊維及び/又は鱗片状物質をさらに含むことを特徴とする請求項1乃至12のいずれか一項に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項14】
前記無機繊維は、アルミナ繊維、シリカ繊維、炭化ケイ素繊維、シリカアルミナ繊維、ガラス繊維、チタン酸カリウム繊維及びホウ酸アルミニウム繊維からなる群より選択される一種以上であり、
鱗片状物質は、鱗片状ガラス、鱗片状白雲母、鱗片状アルミナ、鱗片状シリカ及び鱗片状酸化亜鉛からなる群より選択される一種以上であることを特徴とする請求項13に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項15】
請求項1乃至14のいずれか一項に記載のハニカム構造体の製造方法を用いてハニカム構造体を製造する工程と、
該ハニカム構造体の周囲に保持シール材を配置した状態で金属容器に収納する工程を有することを特徴とする排ガス浄化装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−125850(P2011−125850A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−238982(P2010−238982)
【出願日】平成22年10月25日(2010.10.25)
【出願人】(000000158)イビデン株式会社 (856)
【Fターム(参考)】