説明

ハニカム構造型フィルタ

【課題】高効率に粒子状物質を捕集でき、しかも圧力損失が低いハニカム構造型フィルタを提供する。
【解決手段】ハニカム構造型フィルタ10は、多孔質体からなるフィルタ基体11と、前記フィルタ基体11の粒子状物質30を含むガスの流入側に設けられ、流入側端部が開放された流入側ガス流路12と、前記フィルタ基体11の前記ガスの流出側に設けられ、流出側端部が開放された流出側ガス流路12と、これら流入側ガス流路12と流出側ガス流路12との間に設けられ前記ガスを通過させて浄化する隔壁14と、を備えたハニカム構造型フィルタ10であって、前記隔壁14の平均細孔径は5μm以上かつ50μm以下であり、少なくとも前記流入側ガス流路12の内壁面に、平均気孔径が0.05μm以上かつ5μm以下であり、酸化物と銀を含有する微粒子を含む多孔質膜13を設けてなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム構造型フィルタに関するものであって、特に排ガス浄化フィルタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等のエンジン、特にディーゼルエンジンから排出される排ガス中に含まれる種々の物質は、大気汚染の原因となり、これまでに様々な環境問題を引き起こしている。特に排ガス中に含まれる粒子状物質(PM:Particulate Matter)は、喘息や花粉症のようなアレルギー症状を引き起こす原因と言われている。
一般に、自動車用ディーゼルエンジンでは、粒子状物質を捕集するための排ガス浄化フィルタとして、セラミックス製の目封じタイプのハニカム構造体を有するDPF(Diesel Particulate Filter)が使用されている。このハニカム構造体は、セラミックス製のハニカム構造体のセル(ガス流路)の両端を市松模様に目封じしたものであり、このセル間の隔壁中の細孔を排ガスが通過する際、粒子状物質が捕集される(例えば特許文献1、2)。
【0003】
このDPFでは、特にサブミクロン径の粒子状物質の捕集特性を向上させることが要求されているが、従来のDPFでは、その隔壁の平均気孔径は5〜50μm程度であるため、隔壁に粒子状物質が堆積していない状態でのDPFにおける捕集効率(粒子状物質の質量基準)は90%に達しておらず、隔壁に粒子状物質が堆積するにつれて、この隔壁に粒子状物質の層が形成され、この粒子状物質層に新しい粒子状物質が捕集されることでDPFにおける捕集効率が向上し、100%に近付いていく。このように、従来のDPFでは、粒子状物質層が形成した後の捕集効率は高いものの、粒子状物質堆積量が少ない状態での捕集効率は必ずしも満足できるものではないことが知られている(非特許文献1)。
【0004】
粒子状物質堆積量が少ない状態で捕集効率を高くするためには、DPFにおける隔壁の細孔径を小さくするのが有効であることが知られている。しかし、細孔径を小さくすると、DPF中のガス透過性が低下するため圧力損失が上昇してしまい、十分な排ガス流れを得ることができなかった。
このように、従来の技術では、粒子状物質堆積量が少ない状態での高い捕集効率と低い圧力損失を両立できておらず、この両方の性能を満たす材料が求められている。
【0005】
また、自動車の走行時には、常にエンジンから粒子状物質が排出されるため、DPFのハニカム構造体のセル中に、粒子状物質が徐々に蓄積される。粒子状物質堆積量が過大になると、いわゆる「目詰まり」の状態となり、DPFにおける圧力損失が上昇する。そのため、何らかの方法で粒子状物質を定期的に除去し、DPFの圧力損失を低減させる必要がある。
そこで、従来は、粒子状物質が所定量堆積した時点で排ガス温度を上昇させて粒子状物質を燃焼させる再生と呼ばれる操作を行って、DPFの圧力損失を低減させていた。しかしながら、この再生方法では、排ガスの温度を上昇させるために燃料を噴射させる必要がある。再生に用いられる燃料は自動車の走行には全く寄与しないから、エネルギーを有効利用し燃料消費率を向上させるためには、再生にかかる時間が短く、再生時に使用する燃料が少なくてすむ、いわゆる再生効率の良い排ガス浄化フィルタが求められていた。
【0006】
DPFにおける再生効率を改善させる方法としては、酸化触媒である白金や銀等の貴金属微粒子や酸化セリウム等の酸化物微粒子をDPFの隔壁に担持させ、粒子状物質の酸化を促進させる方法が、従来より知られている。また、酸化触媒を担持させることにより、DPF再生時に必要となる温度を下げる、ないしは再生のための高温保持時間を短縮することができるので、DPF自体の熱劣化も低減することができる(例えば特許文献3、4、5)。
これらの酸化触媒をDPFの隔壁に担持させる方法としては、酸化触媒微粒子を含むスラリー中にDPFのハニカム構造体自体を含浸させて、DPFの隔壁に酸化触媒微粒子を付着させる方法(例えば特許文献3、4、5)や、酸化触媒金属化合物を含有する溶液中にDPFのハニカム構造体を含浸後、DPFの隔壁に付着した成分を還元して金属微粒子化することで、DPFの隔壁に酸化触媒微粒子を付着させる方法(例えば特許文献4)等がある。
【0007】
ところで、使用時の圧力損失が低くかつ粒子状物質の捕集効率が高いフィルタとしては、大きな気孔径を有する多孔質支持体の表面に、気孔径が多孔質支持体の気孔径よりも小さくかつ厚みが薄い多孔質膜を設けたフィルタが知られている。
このようなフィルタとしては、多孔質セラミックスからなる支持体の表面に多孔質膜が形成されたセラミックスフィルタが知られている。
このセラミックスフィルタにおける多孔質膜は、多孔質セラミックスからなる支持体の表面に、粒子径の小さいセラミックス微粒子からなる積層体を形成し、この積層体を熱処理することにより形成される。この多孔質膜の気孔径を捕集する微粒子の大きさに合わせて制御する方法としては、積層体を構成しているセラミックス微粒子の粒子径を調整する方法が用いられている。
【0008】
ここで、多孔質セラミックスからなる支持体の表面に、この多孔質セラミックスよりも気孔径が小さくかつ厚みが薄い多孔質膜を形成する場合には、多孔質膜を構成するセラミックス微粒子の粒子径を多孔質セラミックスの気孔径よりも小さくする必要があった。このため、多孔質膜を形成する際に、この多孔質膜を構成するセラミックス微粒子が多孔質セラミックスの気孔内に侵入してしまうという問題点が生じる虞があった。
そこで、このような問題点を解決するための様々な方法が提案されている。
【0009】
例えば、セラミックスからなる多孔質支持体を疎水化処理するとともに、粒子径の小さいセラミックス微粒子を含む水系スラリーを用いることにより、この水系スラリーが多孔質支持体の気孔内に入らないようにする方法が提案されている(例えば特許文献6)。この方法では、多孔質支持体の表面に水系スラリーを付着させるために、水系スラリーに疎水化処理剤を除去またはその機能を低下させる物質を添加している。
また、予め、粒子径の小さいセラミックス微粒子を多孔質支持体の気孔径と同等もしくはそれ以上の大きさの二次粒子とし、この二次粒子を含むスラリーを用いて、多孔質膜を形成する方法が提案されており、二次粒子の製造方法としては、セラミックス微粒子を予め仮焼する方法(例えば特許文献7)や、スラリーに凝集剤を加えて、セラミックス微粒子を凝集させる方法(例えば特許文献8)が提案されている。
【0010】
さらに、多孔質支持体の気孔に除去可能な物質を充填して、この気孔を塞いだ後、多孔質支持体の表面に粒子径の小さいセラミックス微粒子を含むスラリーを塗布する方法が提案されており、気孔を塞ぐ方法としては、除去可能な物質として可燃性物質を用い、この可燃性物質を後の焼成工程により燃焼除去する方法(例えば特許文献9)が提案されている。
また、水やアルコール等の溶媒を多孔質支持体の気孔に充填した後、多孔質支持体の表面に粒子径の小さいセラミックス微粒子を含むスラリーを塗布し、その後溶媒を除去することで、均質な膜を形成する方法(例えば特許文献10、11)も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平05−23512号公報
【特許文献2】特開平09−77573号公報
【特許文献3】特開2005−7259号公報
【特許文献4】特開2001−73748号公報
【特許文献5】特開2008−173592号公報
【特許文献6】特開2000−218114号公報
【特許文献7】特開平11−33322号公報
【特許文献8】特開平11−188217号公報
【特許文献9】特開平1−274815号公報
【特許文献10】特公昭63−66566号公報
【特許文献11】特開2000−288324号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】SAEテクニカルペーパー 980545 米国自動車技術者協会 1998年発行(SAE Technical Paper 980545, Society of Automotive Engineers (1998))
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述したように、従来のDPFでは、隔壁の平均気孔径が5〜50μm程度とミクロン径のオーダーであるために、この平均気孔径より径の小さなサブミクロン径の粒子状物質を捕集することは容易ではないという問題点があった。
サブミクロン径の粒子状物質の捕集特性を向上させるためには、DPFにおける隔壁の平均気孔径を縮小することも一つの方法であるが、隔壁の平均気孔径を縮小すると、サブミクロン径の粒子状物質の捕集特性は向上するものの、DPFとしての通気性が低下し、圧力損失が増加するため、十分な排ガス流量が得られないという不具合が生じることとなる。すなわち、従来のDPFでは、特に粒子状物質堆積量が少ない状態における高い捕集効率と低い圧力損失(十分な排ガス流量)を両立できておらず、この両方の性能を満たす材料が求められていた。
そこで、DPFにおける隔壁の気孔径は5〜50μmのままとし、この隔壁を多孔質支持体として、その表面に気孔径が数10nm〜5μmの多孔質膜を形成することが考えられている。この多孔質膜を形成する場合、上述した従来技術を適用することが考えられる。
【0014】
しかしながら、このような多孔質膜を有するDPFにおいても、次のような問題点がある。
例えば、平均気孔径が100nmの多孔質膜を形成するためには、多孔質膜を構成する微粒子の一次粒子径を数10nm程度とする必要があり、この粒子径はDPFにおける隔壁の平均気孔径の数100分の1程度の大きさである。このように、多孔質膜を構成する微粒子の一次粒子径は、上述の従来技術における多孔質膜の粒子径がサブミクロンからミクロンのオーダーであるのに比べて非常に小さい。
そのため、DPFの隔壁に多孔質膜を形成する際に、従来技術をそのまま適用すると、多孔質膜を構成する微粒子の一部が隔壁の気孔内に流入することを避けるのが難しい。
【0015】
さらに、DPFのハニカム構造体は、それぞれのセルが、例えば一端が封止された断面1mm角、長さ150mmの細長い筒状をなしている。さらに、これらのセルは、隣接するセルの封止端部の位置が互いに逆方向となるように交互に封止端部が設けられ、重ねられてハニカム状とされた特殊な形状とされる。これに対して、上述の従来技術における多孔質支持体は、板状または直径がセンチメートルのオーダーの筒状である。したがって、DPFのハニカム構造体の隔壁に多孔質膜を形成するために上述の従来技術を適用しようとしても、形状が大幅に異なることから適用が難しい。また、従来技術が適用可能であったとしても、工程が複雑になり、用いる材料等も工夫する必要があり、製造コストが高くなる虞がある。
このように、DPFにおけるハニカム構造体の隔壁表面に多孔質膜を形成する技術については、いまだに確立されていないのが現状である。
【0016】
またさらに、DPFの隔壁に酸化触媒微粒子を担持させる場合、従来方法では酸化触媒微粒子は隔壁表面だけでなく隔壁の気孔内部まで入り込むため、酸化触媒微粒子は隔壁の全体にわたって存在することになる。一方、粒子状物質はDPFの隔壁表面に層状に堆積し、気孔内部にはあまり浸入しない。特に粒子状物質がある程度堆積した後は、この傾向が強くなる(非特許文献1参照)。
このように、粒子状物質はDPFの隔壁表面に局在するので、気孔内部に存在する酸化触媒微粒子は、粒子状物質の酸化除去にはほとんど寄与しないことになり、無駄となる。したがって、酸化触媒微粒子を隔壁表面に選択的に担持させることができれば、固着した酸化触媒のほとんどが粒子状物質の酸化除去に寄与するため、酸化触媒の性能を有効に引き出すことができるが、その様な方法は未だ提案されていない。
【0017】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、DPF等の排ガス浄化フィルタを構成するハニカム構造型フィルタにおいて、高効率に粒子状物質を捕集することができ、しかも圧力損失が低いハニカム構造型フィルタを提供することを目的とする。
また、DPF等のハニカム構造型フィルタにおいて、その隔壁における酸化触媒担持方法を改善することにより、再生処理時に、その隔壁に堆積する粒子状物質の燃焼時間を短縮して、再生処理時に排ガス温度上昇に必要な燃料の使用量を低減し、燃料消費率の低下と排ガス浄化フィルタの劣化防止をもたらすことができるハニカム構造型フィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、DPFのハニカム構造体の隔壁に、酸化物と銀を含有する微粒子を成分とし、所定の平均気孔径及び平均気孔率を有する多孔質膜を設けることにより、粒子状物質の堆積量が少ない状態でも高い捕集効率が得られ、同時に圧力損失の上昇を抑えられること、さらには、DPFの再生時において、従来の排ガス浄化フィルタに比べてその隔壁に堆積する粒子状物質の燃焼時間を短縮することができること、また、高温の熱処理による多孔質膜及び排ガス浄化フィルタの気孔径分布変化や酸化触媒成分の劣化が抑制され、結果として高温の熱処理による粒子状物質の燃焼特性の変化が抑制されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0019】
すなわち、本発明のハニカム構造型フィルタは、多孔質体からなるフィルタ基体と、前記フィルタ基体の粒子状物質を含むガスの流入側に設けられ、流入側端部が開放された流入側ガス流路と、前記フィルタ基体の前記ガスの流出側に設けられ、流出側端部が開放された流出側ガス流路と、これら流入側ガス流路と流出側ガス流路との間に設けられ前記ガスを通過させて浄化する隔壁と、を備えたハニカム構造型フィルタであって、前記隔壁の平均細孔径は5μm以上かつ50μm以下であり、少なくとも前記流入側ガス流路の内壁面に、平均気孔径が0.05μm以上かつ5μm以下であり、酸化物と銀を含有する微粒子を含む多孔質膜を設けてなることを特徴とする。
【0020】
前記酸化物がアルミニウム、ジルコニウム、チタン、セリウム、ランタン、鉄、ケイ素、亜鉛、マグネシウム、マンガン、コバルトのうち1種または2種以上の元素の酸化物、またはこれらの元素のうち1種または2種以上の元素を含む複合酸化物であることが好ましい。
前記多孔質膜の平均気孔率が35%以上90%以下であることが好ましい。
前記多孔質膜の平均膜厚が40μm以下であることが好ましい。
前記多孔質膜は、酸化物と銀を含有する微粒子を含む塗料を前記フィルタ基体に塗布した後に熱処理をして形成されたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明のハニカム構造型フィルタでは、隔壁の平均細孔径は5μm以上かつ50μm以下であり、少なくとも流入側ガス流路の内壁面に、平均気孔径が0.05μm以上かつ5μm以下であり、酸化物と銀を含有する微粒子を含む多孔質膜を有する構成とされている。これにより、目の細かい多孔質膜により粒子状物質を効率良く捕集することができる。その一方で、隔壁の細孔径は過度に細かくされていないので、ガスの流通が阻害されず、圧力損失も低く抑えることができる。
【0022】
また、粒子状物質に対する酸化触媒である銀を含有する酸化物を隔壁表面に担持させているので、ハニカム構造型フィルタの再生処理時に、その隔壁に堆積する粒子状物質の燃焼時間を短縮して、再生処理時に排ガス温度上昇に必要な燃料の使用を低減して燃料消費率の低下を図ることができ、さらにはハニカム構造型フィルタ自体の劣化を抑制することができる。
また、酸化物と銀を含有する微粒子の担持方法を改善することにより、高温の熱処理による多孔質膜及びハニカム構造型フィルタの気孔径分布変化や酸化触媒成分の劣化が抑制され、結果として高温の熱処理による粒子状物質の燃焼特性の変化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施形態に係るDPFを示す一部破断斜視図。
【図2】実施形態に係るDPFの隔壁構造を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明のハニカム構造型フィルタの最良の形態について説明する。ここでは、ハニカム構造型フィルタとして、自動車用ディーゼルエンジンに用いられる排ガス浄化フィルタであるDPFを例にとり説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであって、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、以下の説明においては、DPFを例とする関係上、ハニカム構造型フィルタを排ガス浄化フィルタと称する。
【0025】
図1は、本発明の排ガス浄化フィルタの一実施形態であるDPFを示す一部破断斜視図である。図2は、図1において符号βで示す面におけるDPFの隔壁構造を示す断面図である。
DPF10は、多数の細孔(気孔)を有する円柱状の多孔質セラミックスからなるフィルタ基体11と、このフィルタ基体内に形成されたガス流路12と、ガス流路12のうち排気上流側端部が開放された流入セル12Aの内壁面12aに設けられた多孔質膜13と、を備えている。
フィルタ基体11の軸方向の両端面のうち一方の端面αが、粒子状物質を含む排ガスGが流入する流入面であり、他方の端面γが、上記の排ガスGから粒子状物質を取り除いた浄化ガスCを排出する排出面である。
【0026】
フィルタ基体11は、炭化ケイ素、コーディエライト、チタン酸アルミニウム、窒化ケイ素等の耐熱性の多孔質セラミックスからなるハニカム構造体である。フィルタ基体11には、排ガスGの流れ方向である軸方向に沿って延びる隔壁14が形成されており、隔壁14により囲まれた軸方向の中空の領域が多数のセル状のガス流路12とされている。
ここで、本実施形態における「ハニカム構造」とは、フィルタ基体11に複数のガス流路12を互いに平行となるように形成した構造を用いている。ガス流路12の軸方向に直交する方向の断面形状は四角形状であるが、これに限らず、多角形、円形、楕円形などの種々の断面形状とすることができる。また、フィルタ基体11の外周付近に形成されたガス流路12は、断面形状の一部が円弧状となっているが、これはフィルタ基体11の外周付近まで隙間無くガス流路12を配置するために、フィルタ基体11の外形状に倣う断面形状のガス流路12としたものである。
【0027】
多孔質セラミックスからなる隔壁14の平均気孔径は、5μm以上かつ50μmであることが好ましい。
平均気孔径が5μmを下回ると、隔壁14自体による圧力損失が大きくなるため好ましくない。逆に平均気孔径が50μmを上回ると、隔壁14の強度が十分でなくなったり、隔壁14上に多孔質膜13を形成するのが困難になるため好ましくない。
【0028】
ガス流路12は、排ガスGの流れ方向(長手方向)から見た場合に、上流側端部と下流側端部とが交互に閉塞された構造、すなわち、排ガスGの流入側である上流側端部(流入面)が開放された流入セル12Aと、浄化ガスCを排出する側である下流側端部(排出面)が開放された流出セル12Bとにより構成されている。流入セル12Aの内壁面12a(流入セル12Aを構成する隔壁14の表面)には、多孔質膜13が形成されている。
【0029】
多孔質膜13は、フィルタ基体11の隔壁14を構成する多孔質セラミックスの細孔内に実質的に入り込むことなく、流入セル12Aの内壁面12a上に独立した膜として形成されている。すなわち、多孔質膜13を形成する酸化物と銀を含有する微粒子は、隔壁14の内部への侵入が抑制され、また、隔壁14に形成されている気孔を塞ぐことなく、流入セル12Aの内壁面12aに形成されている。多孔質膜13は、多数の気孔を有することにより、これらの気孔が連通し、結果として、貫通孔を有するフィルタ状多孔質となっている。
【0030】
なお、多孔質膜13は、流入セル12Aの内壁面だけでなく、流出セル12Bの内壁面(流出セル12Bを構成する隔壁14の表面)にも設けられていてかまわない。ただし、以下の記載では、流入セル12Aの内壁面に設けられたものとして説明する。
【0031】
ここで、DPF10における排ガスの流れを示すと、図2のようになる。流入面側、すなわち端面α側から流入した粒子状物質30を含む排ガスGは、流入面に開口している流入セル12AからDPF10内に流入し、流入セル12A内を端面α側から端面γ側へと流れる過程で、フィルタ基体11の隔壁14を通過する。この際、排ガスG中に含まれる粒子状物質30は、流入セル12Aの内壁面12aに設けられた多孔質膜13により捕集されて除去され、粒子状物質30が除去された浄化ガスCは、流出セル12B内を端面α側から端面γ側へと流れ、流出セル12Bの開口端(端面γ)からフィルタ外へ排出される。
【0032】
次に、隔壁14上に形成された多孔質膜13についてさらに詳細に説明する。
多孔質膜13は、酸化物と銀を含有する微粒子を成分として構成され、その平均気孔径は0.05μm以上かつ5μm以下とされている。
【0033】
まず、酸化物と銀を含有する微粒子中において、酸化物に対する銀の比率は0.5質量%以上50質量%以下であることが好ましく、1質量%以上40質量%以下がより好ましく、2質量%以上30質量%以下が最も好ましい。
酸化物に対する銀の質量比が0.5質量%を下回ると、粒子状物質の酸化触媒性能を持つ銀の微粒子中の量が少なくなってしまい、銀が粒子状物質の燃焼性向上に実質的に寄与しなくなってしまうため好ましくない。
一方、酸化物に対する銀の質量比が50%を上回ると、銀微粒子同士の融着が進みやすくなり、銀を含有する酸化物微粒子の粒子状物質の酸化触媒性能が劣化しやすくなったり、フィルタへの熱付与に伴い多孔質膜の気孔径分布が変化しやすくなったりするため好ましくない。
【0034】
なお、微粒子に含有される銀は、価数が0の金属状態の銀だけでなく、酸化銀や硫化銀等の銀化合物の形態であってもよい。さらに例えば、金属銀微粒子の表面が酸化や硫化によって酸化銀や硫化銀になっていても良い。
【0035】
また、酸化物と銀を含有する微粒子中の酸化物は、アルミニウム、ジルコニウム、チタン、セリウム、ランタン、鉄、ケイ素、亜鉛、マグネシウム、マンガン、コバルトのうち1種または2種以上の元素の酸化物、またはこれらの元素のうち1種または2種以上の元素を含む複合酸化物である。
【0036】
これらの酸化物のうち、アルミニウム、ジルコニウム、チタン、セリウム、ランタン、鉄のうち1種または2種以上の元素の酸化物、またはこれらの元素のうち1種または2種以上の元素を含む複合酸化物がより好ましく、アルミニウム、ジルコニウム、セリウム、ランタンのうち1種または2種以上の元素の酸化物、またはこれらの元素のうち1種または2種以上の元素を含む複合酸化物がさらに好ましい。
【0037】
特に好ましいのはセリウムを含有する酸化物であり、このセリウムを含有する酸化物は、酸化セリウム単体、又は、ジルコニウム、イットリウム、希土類元素(ランタン、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム)の群から選択される1種類以上の元素とセリウムとの複合酸化物、又は、ジルコニウム、イットリウム、上記希土類元素の群から選択される1種類以上の元素とセリウムとの複合酸化物と酸化セリウム単体の混合物であることが好ましい。なお、セリウムを含有する酸化物の効果については後述する。
【0038】
また、アルミニウム、ジルコニウムを含有する酸化物である、酸化アルミニウム単体、酸化ジルコニウム単体、アルミニウムとジルコニウムの複合酸化物、アルミニウムやジルコニウムと他の元素との複合酸化物やこれら酸化物の混合物を用いることも好ましい。DPF等のセラミックフィルタの場合、排ガスの温度が1000℃以上にまで上昇することがあるので、多孔質膜の材料に対しても1000℃以上までの耐熱性が必要になる。多孔質膜をこれらの酸化物微粒子で構成することにより、多孔質膜及び多孔質膜付き排ガス浄化フィルタの耐熱性を十分なものとすることができる。
また、これらの酸化物または複合酸化物は化学的安定性にも優れているため、多孔質膜をこれらの酸化物または複合酸化物の微粒子で構成することにより、多孔質膜及び多孔質膜付き排ガス浄化フィルタの化学的安定性を十分なものとすることができる。
【0039】
これらのうちから、所望の耐熱性、粒子状物質の燃焼触媒性能等が得られるものを適宜に選択して用いることができる。例えば、酸化ジルコニウムと酸化セリウムの混合微粒子を用い、その混合比率を調整することにより、耐熱性と燃焼触媒能とを制御することができる。
【0040】
なお、ここで多孔質膜13を構成する粒子とは、酸化物粒子に銀が担持されたあるいは酸化物微粒子と銀微粒子が一体化した複合粒子、酸化物粒子と銀粒子の混合物、複合粒子と酸化物粒子の混合物、複合粒子と銀粒子の混合物、複合粒子と酸化物粒子と銀粒子の混合物、のいずれであってもよい。
【0041】
多孔質膜13における平均気孔径は0.05μm以上かつ5μm以下であり、より好ましくは0.05μm以上かつ3μm以下、さらに好ましくは0.1μm以上かつ2μm以下である。多孔質膜13の平均気孔径は、隔壁14の気孔径、すなわち従来のDPFの平均気孔径である5〜50μm程度より小さい。このため、粒子状物質30は、隔壁14にほとんど入り込むことなく、その堆積量が少ない段階から多孔質膜13により高効率に捕集される。
【0042】
ここで、平均気孔径が0.05μm以上かつ5μm以下とされるのは以下の理由による。まず、平均気孔径がこの範囲より小さい場合には、多孔質膜により発生する圧力損失が高くなるため好ましくないからである。一方、平均気孔径がこの範囲より大きい場合には、多孔質膜13と隔壁14の気孔径とに実質的な差がなくなり、粒子状物質30の捕集率が低下し、特に粒子状物質の堆積量が少ない状態で高い捕集効率を得難くなったり、排ガス浄化フィルタの再生処理を行う場合、粒子状物質の燃焼効率の向上が見られないからである。
【0043】
また、多孔質膜13の平均気孔率は35%以上かつ90%以下であることが好ましく、50%以上かつ90%以下であればより好ましく、60%以上かつ90%以下であればさらに好ましい。
多孔質膜13の平均気孔率が35%以上かつ90%以下であることが好ましい理由は、多孔質膜の平均気孔率が35%未満では、多孔質膜により発生する圧力損失が大きくなるからである。一方、平均気孔率が90%を超えると多孔質膜の強度が低下する虞があるためである。
【0044】
また、多孔質膜13の平均膜厚は、40μm以下であることが好ましい。
多孔質膜13の平均膜厚が40μmを超えると、多孔質膜13により発生する圧力損失が大きくなるからである。なお、多孔質膜13は、粒子状物質30を捕集することができ、かつ実質的に粒子状物質30が隔壁14の細孔に入り込まなければよく、この条件を満たす限り、平均膜厚の下限に特に制限はない。
【0045】
以上のように、本発明の排ガス浄化フィルタ(ハニカム構造型フィルタ)によれば、DPF10の隔壁14に多孔質膜13が設けられており、この多孔質膜13の平均気孔径は0.05〜5μmと隔壁14の気孔径よりも小さいために、粒子状物質30はその堆積量が少ない段階から多孔質膜13の表面に捕捉される。このため、粒子状物質30の堆積量が少ない段階から高い捕集効率を得ることができる。
【0046】
また、隔壁14の平均細孔径が5〜50μmと比較的大きいため、圧力損失が低く、十分な排ガス流量を得ることができる。
なお、多孔質膜13の膜厚は40μm以下であるから、フィルタ基体の一般的な厚みである200〜400μmよりも薄い。また多孔質膜13の平均気孔率は35〜90%と多くの細孔を有している。これらの点により、気孔径がフィルタ基体11より小さい多孔質膜13を形成しても、圧力損失の上昇を抑えることができる。
【0047】
さらに、多孔質膜13を設けることにより、粒子状物質30が堆積していく際に隔壁14の細孔内に粒子状物質30が入り込みにくくすることができる。このため、多孔質膜13が付与されていない場合に比べて、粒子状物質30が隔壁14の細孔を閉塞しにくくなり、流入セル12A内に粒子状物質40が堆積した後の圧力損失上昇を抑えることができる。
これらによって、本フィルタを用いた場合、粒子状物質30の堆積量が少ない状態からの高い捕集効率と低い圧力損失を両立することができる。
【0048】
また、多孔質膜13の存在により、DPF10の再生時に、粒子状物質30を燃焼させるための酸素を多孔質膜13上の粒子状物質30の層中に均等に流通させることができる。これにより、粒子状物質30全体に対して確実に酸素を供給し、粒子状物質30の酸化を均等に進行させることができる。その結果、粒子状物質30の燃焼時間を短縮することができる。
【0049】
次に、多孔質膜13が酸化物と銀を含有する微粒子を成分としていることの効果について説明する。
先に述べたように、従来の排ガス浄化フィルタにおいても、そのフィルタ体に銀、白金等の貴金属を担持させることにより、一定の効果が得られている。
そして、本発明の多孔質膜13を構成する微粒子においても、銀を成分として含んでいることから、酸化触媒特性、すなわち粒子状物質30の燃焼触媒作用を有している。したがって、多孔質膜13が銀を含有する酸化物を成分として含むことにより、DPF10の再生処理時に、その隔壁14に堆積する粒子状物質30の燃焼時間を短縮することができる。これにより、再生処理時に排ガス温度上昇に必要な燃料の使用を低減して燃料消費率の低下を図ることができ、さらには排ガス浄化フィルタ自体の劣化を抑制することができる。
なお、本実施形態において酸化触媒効果を得るためには、銀が存在することが重要であって、銀は必ずしも超微細粒子として酸化物表面に担持されている必要は無い。すなわち、多孔質膜13を構成する酸化物と銀を含有する微粒子とは、酸化物粒子に銀が担持されたあるいは酸化物微粒子と銀微粒子が一体化した複合粒子、酸化物粒子と銀粒子の混合物、複合粒子と酸化物粒子の混合物、複合粒子と銀粒子の混合物、複合粒子と酸化物粒子と銀粒子の混合物、のいずれであってもよい。
【0050】
ここで、銀による粒子状物質30の燃焼触媒作用については、銀が活性酸素の放出を促進し、この活性酸素が粒子状物質30の燃焼に寄与しているとされている。この点において、酸化物と銀を含有する微粒子中の酸化物をセリウムを含有する酸化物とすることが好ましい。セリウムを含む酸化物を用いることで、より活性酸素の放出が促進され、粒子状物質30の燃焼効率を向上させることができる。セリウムを含有する酸化物は酸素吸蔵放出能(OSC;Oxygen Storage Capacity)を有しており、銀の存在により活性酸素を放出し易くなるためである。
【0051】
本発明の酸化物と銀を含有する微粒子は、多孔質膜13の形態をとって隔壁14の表面に存在している。多孔質膜13は、その平均気孔径が0.05μm以上かつ5μm以下であるから、粒子状物質30は主にこの多孔質膜13により捕集される。したがって、酸化物と銀を含有する微粒子と、捕集された粒子状物質30は近接した状態となっている。
ここで、前述の活性酸素は寿命が短いことが知られているが、本実施形態の多孔質膜13の構造であれば、酸化物と銀を含有する微粒子と捕集された粒子状物質30とが近接しているので、酸化物と銀を含有する微粒子から発生する活性酸素が失活する前に粒子状物質30と反応し易くなり、酸化物と銀を含有する微粒子の触媒活性をより有効に引き出すことができる。
【0052】
さらに、多孔質膜13はフィルタ基体11を構成する多孔質セラミックスの細孔内に実質的に入り込んでいないので、そのほとんど全てが粒子状物質30の酸化除去に寄与する。したがって、従来の排ガス浄化フィルタのように、酸化物と銀を含有する微粒子がフィルタの気孔内部に入り込んでしまい、粒子状物質30の酸化除去にはほとんど寄与しなくなる(無駄となる)ということがない。よって本実施形態によれば、酸化物と銀を含有する微粒子を無駄なく有効に利用して、十分な酸化触媒効果を得ることができる。
【0053】
また本実施形態では、酸化物と銀を含有する微粒子を隔壁14の表面に多孔質膜状に固着している。このような構成とすることで、従来の隔壁内部に固着させる場合に比べ、DPF10が高温に曝されたときに多孔質膜13及びDPF10の気孔径分布変化や酸化触媒成分の劣化が生じるのを抑制することができる。その結果、高温での粒子状物質30の燃焼特性の変化を抑制することができる。
この理由は必ずしも明確ではないが、発明者らは次のように推測する。すなわち、本実施形態の多孔質膜13では、微粒子同士の間の気孔径が従来の担持方法に比べて大きい。銀は融点が低く微粒子同士が融着し易いが、本発明の構造にすることで微粒子中の銀微粒子同士の間隔が従来よりも広がっているため、銀微粒子の融着が進みにくくなり、銀微粒子としての酸化触媒活性の低下を抑えるためであると考えている。
また、銀微粒子が膜構造を取ることで作用効果部分を集中させているので、融着が多少進み、個々の銀微粒子の酸化触媒活性が若干低下しても、全体としての酸化触媒効果が十分に残されていること、さらには多孔質膜構造とすることにより、粒子状物質30燃焼時における酸素供給特性が改善されることも合わせ、特性劣化が抑えられていると考えている。
【0054】
以上詳細に説明したように、本実施形態によれば、多孔質膜13を酸化物と銀を含有する微粒子で形成し、その平均気孔径を0.05μm以上かつ5μm以下、平均気孔率を35%以上かつ90%以下としたことで、多孔質膜の構造により得られる利点である粒子状物質30の捕集効果の向上、圧力損失の低減を図ることができる。また、DPF10の再生時において、多孔質膜による酸素の供給均等化作用により、粒子状物質30の燃焼時間の短縮を図ることができる。
また、酸化物と銀を含有する微粒子のもつ粒子状物質30の燃焼触媒作用によって、再生時の粒子状物質30の燃焼を促進させることができるという効果を加えることができる。
さらには、酸化物と銀を含有する微粒子の担持方法を改善したことにより、担持した酸化触媒の触媒効果を有効に作用させることができるので、粒子状物質30の燃焼触媒効果の向上による再生処理時の燃焼時間のさらなる短縮や燃焼温度の低下、をも図ることができる。
またさらに、酸化物と銀を含有する微粒子を、本実施形態のように隔壁表面に多孔質膜状に固着することで、従来の隔壁内部に固着させる場合に比べ、フィルタに高温がかかった時の多孔質膜13及びDPF10の気孔径分布変化や酸化触媒成分の劣化が抑制され、結果として高温での粒子状物質の燃焼特性の変化を抑制することができる。
【0055】
そして、これらの各効果を総合することにより、本実施形態のDPF10においては、粒子状物質30の堆積量が少ない状態から粒子状物質30の捕集特性に優れ、粒子状物質30堆積後においても圧力損失の低減が図れるほか、再生処理時間のさらなる短縮により、再生処理時に必要な燃料の使用量をより低減させることや、DPF10自体の劣化をより抑制することができる。さらに、酸化物と銀を含有する微粒子が付与されたDPF10において、熱による粒子状物質燃焼性能の劣化を抑制することができ、フィルタ自体の性能を持続させることができる。
【0056】
次に、本発明の排ガス浄化フィルタ(ハニカム構造型フィルタ)の製造方法を説明する。
本実施形態の排ガス浄化フィルタは、フィルタのガス流路を構成する隔壁、すなわち平均気孔径が5〜50μmの細孔を有する多孔質支持体の表面に、酸化物と銀を含有する微粒子を成分に含む多孔質膜形成用塗料を塗布する工程と、熱処理により多孔質支持体表面に多孔質膜を形成する工程とを含む工程より製造することができる。
この方法によれば、例えば微粒子を分散させたガスをフィルタ基体に流入させて多孔質膜を形成する等の方法に比べ、生産性良くフィルタを製造することができる。
【0057】
本発明の製造方法に用いる多孔質膜形成用塗料は、少なくとも酸化物と銀を含有する微粒子と分散媒とを含むものである。この微粒子は、比表面積が1m/g以上かつ125m/g以下、タップかさ密度が0.1g/cm以上かつ2.0g/cm以下であって、塗料中の平均二次粒子径が0.1μm以上かつ10μm以下であり、前記塗料の粘度は2mPa・s以上かつ1000mPa・s以下である。
【0058】
まず微粒子の比表面積は、1m/g以上かつ125m/g以下であることが好ましく、より好ましくは3m/g以上かつ100m/g以下、さらに好ましくは3m/g以上かつ80m/g以下である。
また、この微粒子のタップかさ密度は、0.1g/cm以上かつ2.0g/cm以下であることが好ましく、より好ましくは0.3g/cm以上かつ1.8g/cm以下、さらに好ましくは0.5g/cm以上かつ1.5g/cm以下である。
【0059】
酸化物と銀を含有する微粒子の比表面積及びタップかさ密度を上記の範囲に設定することで、本発明の目的とする平均気孔径が0.05μm以上かつ5μm以下、気孔率が35%以上かつ90%以下の多孔質膜を形成することができる。
そして、上記の範囲内で比表面積とタップかさ密度が異なる複数種の微粒子を混合して用いることにより、多孔質膜の気孔径を所望の値に制御することができる。
【0060】
ここで、多孔質膜形成用塗料に含まれる微粒子の比表面積が125m/gを上回るか、またはタップかさ密度が0.1g/cmを下回ると、粒子径が過小となり、多孔質膜を得難くなったり、多孔質の平均気孔径が微粒子の形状に因らず小さくなるため平均気孔径を0.05μm以上に保つことが難しくなるため好ましくない。
一方、比表面積が1m/gを下回るか、またはタップかさ密度が2.0g/cmを超えると、多孔質膜形成用塗料に含まれる微粒子の粒子径が過大となるために、平均気孔径が5μm以下の多孔質膜を得にくくなり、さらに塗料の安定性が低下して良好な塗料を得るのが難しくなるので、好ましくない。
【0061】
なお、この「タップかさ密度」とは、日本工業規格JIS R 1628−1997「ファインセラミックス粉末のかさ密度測定方法」に規定されている「タップかさ密度」のことであり、上記の規格には、タップかさ密度の測定方法についても規定されている。
微粒子のタップかさ密度が真密度(真比重)より小さくなる原因は、微粒子間に空隙が生じるからである。すなわち、タップかさ密度が小さくなるほど微粒子間の空隙率が大きいことを示している。
【0062】
次に、塗料中の微粒子の平均二次粒子径は、0.1μm以上かつ10μm以下が好ましく、より好ましくは0.1μm以上かつ8μm以下、さらに好ましくは0.1μm以上かつ6μm以下である。
また塗料の粘度は、2mPa・s以上かつ1000mPa・s以下が好ましく、より好ましくは2mPa・s以上かつ500mPa・s以下、さらに好ましくは2mPa・s以上かつ300mPa・s以下である。
【0063】
すなわち、塗料中の微粒子の平均二次粒子径が0.1μmを下回るか、または塗料の粘度が2mPa・sを下回ると、この塗料を5μm以上かつ50μm以下の平均気孔径を有する排ガス浄化フィルタの多孔質支持体の表面に塗布した場合に、この塗料が多孔質支持体の内部に浸入し易くなり、多孔質支持体の表面に多孔質膜を形成することが難しくなるので好ましくないからである。
一方、微粒子の平均二次粒子径が10μmを超えると、塗料の分散安定性を確保するのが困難になり、また塗料の粘度が1000mPa・sを超えると排ガス浄化フィルタのセルの内部に塗料を十分に浸透させることができなくなったり、排ガス浄化フィルタのセル中の余分な塗料を除去するのが困難になる等のため、いずれも所望の厚さの均質な多孔質膜が形成し難くなったりするので好ましくないからである。
【0064】
多孔質膜形成用塗料は、先に記載の酸化物と銀とを含有する微粒子を分散媒中に分散させて調製する。
この分散工程は、湿式法によることが好ましい。また、この湿式法で用いられる分散機としては、開放型、密閉型のいずれも使用可能であり、例えば、ボールミル、攪拌ミル、ジェットミル、振動ミル、アトライター、高速ミル、ハンマーミル、等が好適に用いられる。
上記のボールミルとしては、転動ミル、振動ミル、遊星ミル等が挙げられ、また、攪拌ミルとしては、塔式ミル、攪拌槽型ミル、流通管式ミル、管状ミル等が挙げられる。
【0065】
分散媒としては、水または有機溶媒が好適に用いられる。その他、必要に応じて、高分子モノマーやオリゴマーの単体もしくはこれらの混合物も用いることができる。
上記の有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ジアセトンアルコール、フルフリルアルコール、エチレングリコール、ヘキシレングリコール等のアルコール類、酢酸メチルエステル、酢酸エチルエステル等のエステル類、ジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテルアルコール類、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、アセチルアセトン、アセト酢酸エステル等のケトン類、N,N−ジメチルホルムアミド等の酸アミド類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素等が好適に用いられ、これらの溶媒のうち1種のみ、または2種以上を混合して用いることができる。
【0066】
また、上記の高分子モノマーとしては、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル等のアクリル系またはメタクリル系のモノマー、エポキシ系モノマー等が好適に用いられる。また、上記のオリゴマーとしては、ウレタンアクリレート系オリゴマー、エポキシアクリレート系オリゴマー、アクリレート系オリゴマー等が好適に用いられる。
【0067】
これらの分散媒のうち、塗料用として好ましいものは、水、アルコール類、ケトン類であり、これらの中でも、水、アルコール類がより好ましく、水が最も好ましい。
【0068】
この塗料では、微粒子と分散媒との親和性を高めるために、酸化物と銀を含有する微粒子の表面改質を行っても良い。この微粒子は酸化物を成分とするから、表面改質剤としては、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、システアミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、アミノエタンジオール等が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、酸化物の微粒子の表面に吸着する官能基を有し、かつ分散媒と親和性を有する末端基を有する表面改質剤であれば良い。
【0069】
多孔質膜形成用塗料は、親水性あるいは疎水性の高分子等を適宜含有していてもよい。この高分子等により、酸化物と銀を含有する微粒子と、例えば排ガス浄化フィルタの隔壁等の多孔質支持体との間にバインダー機能などの機能性を付与することができる。上記の高分子等は、上記の分散媒に溶解し、かつ塗料中の微粒子の平均二次粒子径、塗料の粘度が所望の値になる範囲で適宜選択することができる。
【0070】
ここで、水を分散媒とした場合、親水性高分子としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリル酸ポリビニルビロリドン、ポリアリルアミン等の合成高分子;セルロース、デキストリン、デキストラン、デンプン、キトサン、ペクチン、アガロース、カラギーナン、キチン、マンナン等の多糖類及び多糖類由来の物質等の天然高分子;ゼラチン、カゼイン、コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン、エラスチン等のタンパク質及びタンパク質由来の物質;等を用いることができる。
また、これら合成高分子、多糖類、タンパク質等を由来とするゲル、ゾル等の物質を用いることもできる。
【0071】
なお、この塗料における上記の微粒子の質量に対する上記の高分子の質量の比(高分子の質量/微粒子の質量)は、塗料中の微粒子の平均二次粒子径及び塗料の粘度が所望の値になる範囲で適宜選択することができるが、0以上かつ1以下の範囲が好ましく、より好ましくは0以上かつ0.8以下、さらに好ましくは0以上かつ0.5以下である。
上記の高分子は、最終的に熱処理によって焼失し、多孔質膜には残存しない成分であるから、上記の比が1を超えると、高分子の含有率が高すぎてしまい、コストの上昇を招くことになり好ましくない。また、親水性高分子は必ずしも用いる必要はないため、範囲の下限値は0となる。
【0072】
この塗料の分散安定性を確保したり、あるいは塗布性を向上させたりするために、界面活性剤、防腐剤、安定化剤、消泡剤、レベリング剤等を適宜添加してもよい。これらは、塗料中の微粒子の平均二次粒子径及び塗料の粘度が所望の範囲になるように適宜選択することができる。
これら界面活性剤、防腐剤、安定化剤、消泡剤、レベリング剤等の添加量に特に制限はなく、塗料の粘度及び塗料中の微粒子の平均二次粒子径が本発明の範囲内となるように、添加する目的に応じて加えればよい。
【0073】
このように、酸化物と銀を含有する微粒子を分散媒中に分散させ、必要に応じ、親水性あるいは疎水性の高分子、界面活性剤、防腐剤、安定化剤、消泡剤、レベリング剤等を加えて混合し、多孔質膜形成用塗料とする。
【0074】
次いで、上記の多孔質膜形成用塗料を、多孔質支持体の表面に塗布して、微粒子等の固形成分の他溶媒等の液体成分も多く含む塗布膜を形成し、得られた塗布膜を乾燥後、熱処理して多孔質膜を形成することにより、排ガス浄化フィルタを製造することができる。
例えばDPF10においては、ガス流路12のうち、排気上流側端部が開放された流入セル12Aの内壁面12a(流入セル12Aを構成する隔壁14の表面)に、上記の多孔質膜形成用塗料を塗布して塗布膜を形成し、得られた塗布膜を熱処理して多孔質膜13を形成することにより、DPF10を製造することができる。
【0075】
塗布方法については、多孔質支持体の形状や材質に合わせて適宜選択すればよく、特に制限はないが、ウォッシュコート、ディップコート等、通常のウエットコート法を用いることができる。また、塗布した後に、圧縮空気等を用いて、所望の膜厚を得るのに必要な量以上の余分な塗布液を除去する等の工程を行ってもよい。
【0076】
なお、塗布時においては、この多孔質支持体は乾燥した状態でもよいが、この多孔質支持体を溶媒に浸漬し、この多孔質支持体の気孔内の空気を予め溶媒で置換した状態としたものが好ましい。このようにする理由は、多孔質支持体の気孔内に残留している空気が、塗布工程中あるいはその後に多孔質支持体から気泡となって放出され、多孔質膜が部分的に形成されなくなるといった事態を抑制し、均一な多孔質膜が得られる効果があるからである。
【0077】
このように、塗布膜や多孔質支持体に溶媒が多く含まれているので、熱処理前に乾燥を行うことが好ましい。乾燥条件は溶媒の種類や使用量によるため一概には規定できないが、例えば水の場合では50℃以上かつ200℃以下にて15分以上かつ10時間以下程度であることが好ましい。
なおこの乾燥工程は、次に述べる熱処理工程と併せて行なってもよい。例えば、乾燥工程終了後そのまま昇温させて熱処理工程を行なってもよい。また、熱処理工程における昇温条件を調整し、熱処理工程中の昇温段階と乾燥工程とを兼ねさせることで、実質的に乾燥工程を省略することもできる。
【0078】
この塗布膜には、分散剤の他、必要に応じて上記の高分子、界面活性剤、防腐剤、安定化剤、消泡剤、レベリング剤等が添加されているので、これらを除去し、かつ塗布膜に微細孔構造を形成する等のために熱処理を行う。
熱処理温度は、200℃以上かつ2000℃以下が好ましく、より好ましくは300℃以上かつ1700℃以下である。
また、熱処理時間は、0.25時間以上かつ10時間以下が好ましく、より好ましくは0.5時間以上かつ5時間以下である。
この熱処理の際の雰囲気は、特に限定されず、大気等の酸化性雰囲気、窒素、アルゴン、ネオン、キセノン等の不活性雰囲気、水素、一酸化炭素等の還元性雰囲気、のいずれかの雰囲気中にて行うことができる。
以上のようにして、排ガス浄化フィルタ(ハニカム構造型フィルタ)を製造することができる。
【実施例】
【0079】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお以下の説明においても、ハニカム構造型フィルタを排ガス浄化フィルタと称する。
【0080】
「実施例1」
(CeO/Ag微粒子の作製)
酸化セリウム微粒子[1]100gを、銀換算で濃度2質量%の硝酸銀水溶液250gに含浸させた後に150℃で蒸発乾固させ、更に大気中で500℃で2時間焼成を行い、CeO/Ag微粒子[1]を調製した。
得られたCeO/Ag微粒子[1]の比表面積は100m/gであった。
【0081】
(塗料の作製)
CeO/Ag微粒子[1]90g、ポリカルボン酸系分散剤9g、水201gをボールミルで2時間混合し、固形分30質量%のCeO/Ag分散液[A]を得た。
このCeO/Ag分散液[A]167gに、メチルセルロース[A](25℃における2質量%水溶液の粘度が5mPa・s)の15質量%水溶液67g、水16gを加え、マグネチックスターラーを用いて1時間攪拌し、水中にCeO/Ag微粒子が分散した塗料[A]を得た。
なお、以後の実施例、比較例においては、原則として「分散液」とは分散媒(溶媒)中に酸化物と銀を含有する微粒子を分散させただけのもの、「塗料」とはこの分散液に液の安定性や塗布性を考慮して各種の添加物を加えたものを示す。ただし、分散液自体が安定で塗布性に優れていれば、分散液をそのまま塗料とする場合がある。
【0082】
(排ガス浄化フィルタの作製)
上記の塗料[A]中に、炭化ケイ素(SiC)製ハニカム構造体(DPF、平均気孔径:10μm、平均気孔率:42%)を浸漬させた後に引き上げるディップコートを3回繰り返し行い、ハニカム構造体の隔壁表面にCeO/Ag微粒子(酸化セリウムと銀とを含む微粒子)からなる塗布膜を形成した。なお、ハニカム構造体は予め純水に浸漬し、気孔内に水を充填保持させておいた。
次いで、ディップコート後のハニカム構造体を150℃で1時間乾燥し、さらに大気中500℃で2時間熱処理し、実施例1のハニカム構造体の隔壁表面にCeO/Ag多孔質膜が形成された実施例1の排ガス浄化フィルタを得た。
【0083】
(排ガス浄化フィルタの物性評価)
得られた排ガス浄化フィルタについて、電子顕微鏡による外観観察、多孔質膜の平均気孔径及び気孔率の測定、多孔質膜の平均膜厚測定、捕集効率試験、圧力損失試験、燃焼試験を下記の方法により行った。
【0084】
(1)電子顕微鏡による外観観察
得られた排ガス浄化フィルタを破断し、電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)(S−4000、日立計測器サービス(株)製)により、隔壁表面および断面を観察した。
【0085】
(2)多孔質膜の平均気孔径及び気孔率の測定
排ガス浄化フィルタの隔壁表面に形成した多孔質膜の平均気孔径及び気孔率を、水銀ポロシメーター(AutoPoreIV 9505、島津製作所社製)を用いて、水銀圧入法により測定した。なお、測定結果は多孔質膜とSiC製ハニカム構造体(多孔質支持体)を合わせたものとなるため、多孔質膜を形成していないSiC製ハニカム構造体を用いて同様の測定を行って得られた気孔径、気孔率の測定値を基準値とし、本実施例において形成された多孔質膜の質量及び平均気孔径及び気孔率測定値から、多孔質膜の平均気孔径、気孔率を算出した。
【0086】
(3)多孔質膜の膜厚測定
排ガス浄化フィルタの隔壁を破断し、この隔壁断面を電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)S−4000(日立計測器サービス社製)により観察することにより、多孔質膜の膜厚を測定した。
【0087】
(4)捕集効率試験
排ガス浄化フィルタに粒子状物質が堆積していない状態での、排ガス浄化フィルタにおける粒子状物質の捕集効率を測定した。
測定方法は次の通りである。排ガス浄化フィルタを、プロパンの燃焼により粒子状物質を発生させる標準粒子発生装置に取り付け、排ガス浄化フィルタの上流及び下流における微粒子濃度をSMPS(Scanning Mobility Particle Sizer)で測定し、その微粒子濃度比を排ガス浄化フィルタの捕集効率とした。
【0088】
(5)圧力損失試験
排ガス浄化フィルタの流入口から、流量100L/min.で乾燥空気を流入させ、排ガス浄化フィルタの隔壁を通過させて排出口から通過させ、この時の圧力損失を測定した。
得られた結果は、多孔質膜を形成していないSiC製ハニカム構造体のみ(比較例1)の圧力損失を基準(1.0)として、相対値を算出した。
【0089】
(6)燃焼試験
排ガス浄化フィルタを、排気量2.2Lのディーゼルエンジンに取り付け、エンジン回転数1500rpmで運転し、排ガス浄化フィルタ内に粒子状物質を堆積させた。
粒子状物質を堆積させた排ガス浄化フィルタを、窒素雰囲気中で600℃まで加熱した後、温度を保持しつつ、酸素3.8%、一酸化窒素(NO)200ppm、窒素残部からなる混合ガスを13.5リットル/分の流量で導入して粒子状物質を燃焼させた。酸素を導入した時点から、燃焼により粒子状物質が焼失してその質量が堆積量の10%となるまでの時間を測定し、粒子状物質燃焼性の指標とした。
上記測定時間を、SiC製ハニカム構造体のみ(比較例1)で得られた値を基準(100)として、相対値を算出した。
【0090】
(排ガス浄化フィルタの耐熱性評価)
上記にて作製した排ガス浄化フィルタ(大気中500℃で2時間熱処理して多孔質膜を形成したもの)を、さらに大気中で850℃で32時間熱処理し、耐熱性評価用の排ガス浄化フィルタを得た。
この耐熱性評価用の排ガス浄化フィルタについて、上記(1)〜(6)の物性評価を行い、500℃で2時間処理したフィルタの測定値と比較し、排ガス浄化フィルタの耐熱性を評価した。
【0091】
上記で作製した排ガス浄化フィルタを電子顕微鏡で観察したところ、隔壁表面に多孔質膜が形成しており、さらにCeO/Ag微粒子は実質的にSiC製ハニカム構造体の気孔内には浸入していないことを確認した。
この排ガス浄化フィルタの作製条件を表1に、得られた排ガス浄化フィルタの評価結果を表2に示す。
【0092】
「実施例2」
セリウムとジルコニウムの組成比が1:1の複合酸化物(Ce0.5Zr0.5)微粒子[2]を用いた以外は実施例1と同様にして、複合酸化物と銀とを含む微粒子であるCe0.5Zr0.5/Ag微粒子[2A]を調製した。
得られたCe0.5Zr0.5/Ag微粒子[2A]の比表面積は50m/gであった。
なお、上記にCe0.5Zr0.5と示すものは、あくまで微粒子全体としてのセリウムとジルコニウムの組成比が1:1の酸化物ということであって、セリウムとジルコニウムが1:1の組成比で完全に固溶した複合酸化物であるCeZrOだけではなく、セリウムとジルコニウムの組成比が異なる複合酸化物や、酸化セリウム単体を含有するものも含む。
次いで、このCe0.5Zr0.5/Ag微粒子[2A]を用いた以外は実施例1と同様にして、Ce0.5Zr0.5/Ag分散液[B]を得た。さらに、このCe0.5Zr0.5/Ag分散液[B]を用いた以外は実施例1と同様にして、水中にCe0.5Zr0.5/Ag微粒子が分散した塗料[B]を得た。
【0093】
そして、塗料[B]を用いて、実施例1と同様にして、実施例2の排ガス浄化フィルタを得た。得られた排ガス浄化フィルタについて、実施例1と同様の物性評価、耐熱性評価を行った。
得られた排ガス浄化フィルタは、電子顕微鏡観察により、隔壁表面に多孔質膜が形成していることを確認した。
この排ガス浄化フィルタの作製条件を表1に、得られた排ガス浄化フィルタの評価結果を表2に示す。
【0094】
「実施例3」
塗料として実施例2で作製したものと同一の塗料[B]を用い、排ガス浄化フィルタの製造時のディップコートの回数を1回とした以外は実施例2と同様にして排ガス浄化フィルタを製造し、実施例3の排ガス浄化フィルタを得た。得られた排ガス浄化フィルタについて、実施例1と同様の物性評価、耐熱性評価を行った。
得られた排ガス浄化フィルタは、電子顕微鏡観察により、隔壁表面に多孔質膜が形成していることを確認した。
この排ガス浄化フィルタの作製条件を表1に、得られた排ガス浄化フィルタの評価結果を表2に示す。
【0095】
「実施例4」
塗料として実施例2で作製したものと同一の塗料[B]を用い、この塗料[B]にSiC製ハニカム構造体(DPF、平均気孔径:10μm、平均気孔率:42%)を浸漬させた後に引き上げるディップコートを4回繰り返して行った。次に、ディップコートした後のフィルタを150℃で1時間乾燥後、大気中500℃で2時間焼成した。さらに、上記のディップコート(4回)と、150℃乾燥(1時間)と、500℃熱処理(2時間)の工程をもう一度繰り返して行い、実施例4の排ガス浄化フィルタを得た。得られた排ガス浄化フィルタについて、実施例1と同様の物性評価、耐熱性評価を行った。
得られた排ガス浄化フィルタは、電子顕微鏡観察により、隔壁表面に多孔質膜が形成していることを確認した。
この排ガス浄化フィルタの作製条件を表1に、得られた排ガス浄化フィルタの評価結果を表2に示す。
【0096】
「実施例5」
実施例2で用いたセリウムとジルコニウムの組成比が1:1の複合酸化物(Ce0.5Zr0.5)微粒子[2]100gを、銀換算で濃度0.5質量%の硝酸銀水溶液400gに含浸させた後に150℃で蒸発乾固させ、更に大気中で500℃で2時間焼成を行い、Ce0.5Zr0.5/Ag微粒子[2B]を調製した。
得られたCe0.5Zr0.5/Ag微粒子[2B]の比表面積は50m/gであった。
このCe0.5Zr0.5/Ag微粒子[2B]を用いた以外は実施例1と同様にして、Ce0.5Zr0.5/Ag分散液[C]を調製した。また、Ce0.5Zr0.5/Ag分散液[C]を用いた以外は実施例1と同様にして、水中にCe0.5Zr0.5/Ag微粒子が分散した塗料[C]を得た。
この塗料[C]を用いて、実施例1と同様にして排ガス浄化フィルタを製造し、実施例5の排ガス浄化フィルタを得た。得られた排ガス浄化フィルタについて、実施例1と同様の物性評価、耐熱性評価を行った。
得られた排ガス浄化フィルタは、電子顕微鏡観察により、隔壁表面に多孔質膜が形成していることを確認した。
この排ガス浄化フィルタの作製条件を表1に、得られた排ガス浄化フィルタの評価結果を表2に示す。
【0097】
「実施例6」
実施例2で用いたセリウムとジルコニウムの組成比が1:1の複合酸化物(Ce0.5Zr0.5)微粒子[2]100gを、銀換算で濃度2質量%の硝酸銀水溶液750gに含浸させた後に150℃で蒸発乾固させ、更に大気中で500℃で2時間焼成を行い、Ce0.5Zr0.5/Ag微粒子[2C]を調製した。
得られたCe0.5Zr0.5/Ag微粒子[2C]の比表面積は40m/gであった。
このCe0.5Zr0.5/Ag微粒子[2C]を用いた以外は実施例1と同様にして、Ce0.5Zr0.5/Ag分散液[D]を調製した。また、このCe0.5Zr0.5/Ag分散液[D]を用いた以外は実施例1と同様にして、水中にCe0.5Zr0.5/Ag微粒子が分散した塗料[D]を得た。
この塗料[D]を用いて、実施例1と同様にして排ガス浄化フィルタを製造し、実施例6の排ガス浄化フィルタを得た。得られた排ガス浄化フィルタについて、実施例1と同様の物性評価、耐熱性評価を行った。
得られた排ガス浄化フィルタは、電子顕微鏡観察により、隔壁表面に多孔質膜が形成していることを確認した。
この排ガス浄化フィルタの作製条件を表1に、得られた排ガス浄化フィルタの評価結果を表2に示す。
【0098】
「実施例7」
塗料として実施例2で作製したものと同一の塗料[B]を用い、ハニカム構造体としてコージェライト製ハニカム構造体(DPF、平均気孔径:20μm、平均気孔率:60%)を用いたこと以外は実施例2と同様にして、実施例7の排ガス浄化フィルタを得た。得られた排ガス浄化フィルタについて、実施例1と同様の物性評価、耐熱性評価を行った。
得られた排ガス浄化フィルタは、電子顕微鏡観察により、隔壁表面に多孔質膜が形成していることを確認した。
この排ガス浄化フィルタの作製条件を表1に、得られた排ガス浄化フィルタの評価結果を表2に示す。
【0099】
「実施例8」
塗料として実施例2で作製したものと同一の塗料[B]を用い、ハニカム構造体としてチタン酸アルミニウム製ハニカム構造体(DPF、平均気孔径:10μm、平均気孔率:40%)を用いたこと以外は実施例2と同様にして、実施例8の排ガス浄化フィルタを得た。得られた排ガス浄化フィルタについて、実施例1と同様の物性評価、耐熱性評価を行った。
得られた排ガス浄化フィルタは、電子顕微鏡観察により、隔壁表面に多孔質膜が形成していることを確認した。
この排ガス浄化フィルタの作製条件を表1に、得られた排ガス浄化フィルタの評価結果を表2に示す。
【0100】
「実施例9」
微粒子としてランタンドープ酸化セリウム(La−CeO)微粒子(セリウムとランタンの組成比は9:1(Ce0.9La0.12−X))を用いたこと以外は実施例1と同様にして、Ce0.9La0.12−x/Ag微粒子[3]を得た。
得られたCe0.9La0.12−X/Ag微粒子[3]の比表面積は50m/gであった。
なお、ここでCe0.9La0.12−xと示すものは、あくまで微粒子全体としてのセリウムとランタンの組成比が9:1の酸化物ということであって、酸化セリウム結晶中に酸化ランタンが固溶した複合酸化物だけではなく、セリウムとランタンの組成比が9:1ではない複合酸化物や、酸化セリウム単体を含有するものも含む。
このCe0.9La0.12−x/Ag微粒子[3]を用いた以外は実施例1と同様にして、Ce0.9La0.12−x/Ag分散液[E]を調製した。また、このCe0.9La0.12−x/Ag分散液[E]を用いた以外は実施例1と同様にして、水中にCe0.9La0.12−x/Ag微粒子が分散した塗料[E]を得た。
【0101】
この塗料[E]を用いて、実施例1と同様にして排ガス浄化フィルタを製造し、実施例9の排ガス浄化フィルタを得た。得られた排ガス浄化フィルタについて、実施例1と同様の物性評価、耐熱性評価を行った。
得られた排ガス浄化フィルタは、電子顕微鏡観察により、隔壁表面に多孔質膜が形成していることを確認した。
この排ガス浄化フィルタの作製条件を表1に、得られた排ガス浄化フィルタの評価結果を表2に示す。
【0102】
「実施例10」
微粒子としてプラセオジムドープ酸化セリウム(Pr−CeO)微粒子(セリウムとプラセオジムの組成比は9:1(Ce0.9Pr0.12−x))を用いたこと以外は実施例1と同様にして、Ce0.9Pr0.12−x/Ag微粒子[4]を得た。
得られたCe0.9Pr0.12−X/Ag微粒子[4]の比表面積は50m/gであった。
なお、ここでCe0.9Pr0.12−xと示すものは、あくまで微粒子全体としてのセリウムとプラセオジムの組成比が9:1の酸化物ということであって、酸化セリウム結晶中に酸化プラセオジムが固溶した複合酸化物だけではなく、セリウムとプラセオジムの組成比が9:1ではない複合酸化物や、酸化セリウム単体を含有するものも含む。
このCe0.9Pr0.12−x/Ag微粒子[4]を用いた以外は実施例1と同様にして、Ce0.9Pr0.12−x/Ag分散液[F]を調製した。また、このCe0.9Pr0.12−x/Ag分散液[F]を用いた以外は実施例1と同様にして、水中にCe0.9Pr0.12−x/Ag微粒子が分散した塗料[F]を得た。
なお、ここでCe0.9Pr0.12−xと示すものは、あくまで微粒子全体としてのセリウムとプラセオジムの組成比が9:1の酸化物ということであって、酸化セリウム結晶中に酸化プラセオジムが固溶した複合酸化物だけではなく、セリウムとプラセオジムの組成比が9:1ではない複合酸化物や、酸化セリウム単体を含有するものも含む。
【0103】
この塗料[F]を用いて、実施例1と同様にして排ガス浄化フィルタを製造し、実施例10の排ガス浄化フィルタを得た。得られた排ガス浄化フィルタについて、実施例1と同様の物性評価、耐熱性評価を行った。
得られた排ガス浄化フィルタは、電子顕微鏡観察により、隔壁表面に多孔質膜が形成していることを確認した。
この排ガス浄化フィルタの作製条件を表1に、得られた排ガス浄化フィルタの評価結果を表2に示す。
【0104】
「実施例11」
(微粒子の作製)
微粒子として酸化アルミニウム微粒子[5]を用いたこと以外は実施例1と同様にして、Al/Ag微粒子[5]を得た。
得られたAl/Ag微粒子[5]の比表面積は125m/gであった。
【0105】
(塗料の作製)
Al/Ag微粒子[5]45g、ポリカルボン酸系分散剤4.5g、水250gをボールミルで2時間混合し、固形分15質量%のAl/Ag分散液[G]を得た。このAl/Ag分散液[G]167gと、メチルセルロースA(25℃における2%水溶液の粘度が5mPa・s)の15質量%水溶液33g、水50gをマグネチックスターラーを用いて1時間攪拌し、水中にAl/Ag微粒子が分散した塗料[G]を得た。
【0106】
(排ガス浄化フィルタの作製)
上記の塗料[G]中に、SiC製ハニカム構造体(DPF、平均気孔径:10μm、平均気孔率:42%)を浸漬させた後に引き上げるディップコートを3回繰り返し行い、ハニカム構造体の隔壁表面にAl/Ag微粒子からなる塗布膜を形成した。なお、ハニカム構造体は予め純水に浸漬し、気孔内に水を充填保持させておいた。
次いで、ディップコート後のハニカム構造体を150℃で1時間乾燥し、さらに大気中500℃で2時間熱処理した。
さらに、上記のディップコート(3回)と、150℃乾燥(1時間)と、500℃熱処理(2時間)の工程をもう一度繰り返して行い、実施例11の排ガス浄化フィルタを得た。
得られた排ガス浄化フィルタについて、実施例1と同様の物性評価、耐熱性評価を行った。
得られた排ガス浄化フィルタは、電子顕微鏡観察により、隔壁表面に多孔質膜が形成していることを確認した。
この排ガス浄化フィルタの作製条件を表1に、得られた排ガス浄化フィルタの評価結果を表2に示す。
【0107】
「実施例12」
微粒子として酸化アルミニウム微粒子[6]を用いたこと以外は実施例1と同様にして、Al/Ag微粒子[6]を得た。
得られたAl/Ag微粒子[6]の比表面積は20m/gであった。
微粒子としてこのAl/Ag微粒子[6]を用いた以外は実施例1と同様にして、Al/Ag分散液[H]を調製した。また、このAl/Ag分散液[H]を用いた以外は実施例1と同様にして、水中にAl/Ag微粒子が分散した塗料[H]を得た。
この塗料[H]を用いて、実施例1と同様にして排ガス浄化フィルタを製造し、実施例12の排ガス浄化フィルタを得た。得られた排ガス浄化フィルタについて、実施例1と同様の物性評価、耐熱性評価を行った。
得られた排ガス浄化フィルタは、電子顕微鏡観察により、隔壁表面に多孔質膜が形成していることを確認した。
この排ガス浄化フィルタの作製条件を表1に、得られた排ガス浄化フィルタの評価結果を表2に示す。
【0108】
「実施例13」
微粒子として酸化アルミニウム微粒子[7]を用いたこと以外は実施例1と同様にして、Al/Ag微粒子[7]を得た。
得られたAl/Ag微粒子[6]の比表面積は1m/gであった。
微粒子としてこのAl/Ag微粒子[7]を用いたこと以外は実施例1と同様にして、Al/Ag分散液[I]を調製した。また、このAl/Ag分散液[I]を用いた以外は実施例1と同様にして、水中にAl/Ag微粒子が分散した塗料[I]を得た。
この塗料[I]を用いて、実施例1と同様にして排ガス浄化フィルタを製造し、実施例13の排ガス浄化フィルタを得た。得られた排ガス浄化フィルタについて、実施例1と同様の物性評価、耐熱性評価を行った。
得られた排ガス浄化フィルタは、電子顕微鏡観察により、隔壁表面に多孔質膜が形成していることを確認した。
この排ガス浄化フィルタの作製条件を表1に、得られた排ガス浄化フィルタの評価結果を表2に示す。
【0109】
「実施例14」
(塗料の作製)
微粒子として、酸化アルミニウム微粒子[8](比表面積125m/g)18g、酸化アルミニウム微粒子[9](比表面積1m/g)72g、ポリカルボン酸系分散剤9g、水201gをボールミルで2時間混合し、固形分30質量%のAl分散液[J]を得た。このAl分散液[J]167gと、メチルセルロースA(25℃における2%水溶液の粘度が5mPa・s)の15質量%水溶液67g、水16gをマグネチックスターラーを用いて1時間攪拌し、水中にAl微粒子が分散した塗料[J]を得た。なお、本実施例における微粒子の比表面積は、それぞれ酸化アルミニウム微粒子単体の値である。
【0110】
(排ガス浄化フィルタの製造)
上記の塗料[J]中に、SiC製ハニカム構造体(DPF、平均気孔径:10μm、平均気孔率:42%)を浸漬させた後に引き上げるディップコートを3回繰り返し行い、ハニカム構造体の隔壁表面にAl微粒子からなる塗布膜を形成した。なお、ハニカム構造体は予め純水に浸漬し、気孔内に水を充填保持させておいた。
次いで、ディップコート後のハニカム構造体を150℃で1時間乾燥し、さらに大気中1700℃で2時間熱処理し、ハニカム構造体の隔壁表面にアルミナ多孔質膜が形成された排ガス浄化フィルタ[J1]を得た。
次いで、この排ガス浄化フィルタ[J1]を銀換算で濃度1質量%の硝酸銀水溶液に浸漬させた後に引き上げるディップコートを3回繰り返し行い、Al多孔質膜上に硝酸銀を担持させた。
次いで、ディップコート後のハニカム構造体を150℃で1時間乾燥し、さらに大気中500℃で2時間熱処理し、ハニカム構造体の隔壁表面にAl/Ag多孔質膜が形成された実施例14の排ガス浄化フィルタ[J2]を得た。
【0111】
(排ガス浄化フィルタの物性評価)
得られた排ガス浄化フィルタについて、実施例1と同様の物性評価、耐熱性評価を行った。
得られた排ガス浄化フィルタは、電子顕微鏡観察により、隔壁表面に多孔質膜が形成していることを確認した。
この排ガス浄化フィルタの作製条件を表1に、得られた排ガス浄化フィルタの評価結果を表2に示す。
【0112】
「実施例15」
塗料として実施例2で作製したものと同一の塗料[B]を用い、この塗料[B]にSiC製ハニカム構造体(DPF、平均気孔径:10μm、平均気孔率:42%)を浸漬させた後に引き上げるディップコートを4回繰り返して行った。次に、ディップコートした後のフィルタを150℃で1時間乾燥後、大気中500℃で2時間焼成した。さらに、上記の、ディップコート(4回)と、150℃乾燥(1時間)と、500℃熱処理(2時間)の工程を計3回繰り返して行い、実施例15の排ガス浄化フィルタを得た。
得られた排ガス浄化フィルタについて、実施例1と同様の物性評価、耐熱性評価を行った。
得られた排ガス浄化フィルタは、電子顕微鏡観察により、隔壁表面に多孔質膜が形成していることを確認した。
この排ガス浄化フィルタの作製条件を表1に、得られた排ガス浄化フィルタの評価結果を表2に示す。
【0113】
「比較例1」
実施例1等で、多孔質膜形成基材として用いたSiC製ハニカム構造体(DPF、平均気孔径:10μm、平均気孔率:42%)を、比較例1の排ガス浄化フィルタとした。これには、多孔質膜は設けられていない。
この排ガス浄化フィルタについて、実施例1と同様の物性評価を行った。
この排ガス浄化フィルタの作製条件を表1に、得られた排ガス浄化フィルタの評価結果を表2に示す。
【0114】
「比較例2」
(塗布液の作製)
実施例2で用いたCe0.5Zr0.5/Ag微粒子[2A]90g、ポリカルボン酸系分散剤9g、水201gをサンドグラインダーで4時間分散処理し、固形分30質量%のCe0.5Zr0.5/Ag分散液[K]を得た。
このCe0.5Zr0.5/Ag分散液[K]167gと、メチルセルロースA(25℃における2%水溶液の粘度が5mPa・s)の15質量%水溶液67g、水16gをマグネチックスターラーを用いて1時間攪拌し、水中にCe0.5Zr0.5/Ag微粒子が分散した塗料[K]を得た。
【0115】
(排ガス浄化フィルタの製造)
上記の塗料[K]中に、SiC製ハニカム構造体(DPF、平均気孔径:10μm、平均気孔率:42%)を浸漬させた後に引き上げるディップコートを3回繰り返し行った。なお、ハニカム構造体は予め純水に浸漬し、気孔内に水を充填保持させておいた。
次いで、ディップコート後のハニカム構造体を150℃で1時間乾燥し、さらに大気中500℃で2時間熱処理し、比較例2の排ガス浄化フィルタを得た。
【0116】
(排ガス浄化フィルタの物性評価)
得られた排ガス浄化フィルタについて、ハニカム構造体の隔壁表面を電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)(S−4000、日立計測器サービス社製)で観察したところ、隔壁表面に多孔質膜は形成されておらず、塗布したCe0.5Zr0.5/Ag微粒子は、気孔内を含む隔壁全体に分散していた。
得られた排ガス浄化フィルタについて、実施例1と同様の物性評価、耐熱性評価を行った。なお、多孔質膜が形成されていなかったため、膜厚は測定できなかった。
この排ガス浄化フィルタの作製条件を表1、得られた排ガス浄化フィルタの評価結果を表2に示す。
【0117】
「比較例3」
(塗布液の作製)
分散液として実施例2で作製したものと同一のCe0.5Zr0.5/Ag分散液[B]を用い、このCe0.5Zr0.5/Ag分散液−B84gと、メチルセルロースA(25℃における2%水溶液の粘度が5mPa・s)の15質量%水溶液33g、水133gをマグネチックスターラーを用いて1時間攪拌し、水中にCe0.5Zr0.5/Ag微粒子が分散した塗料[L]を得た。
【0118】
(排ガス浄化フィルタの製造)
上記の塗料[L]中に、SiC製ハニカム構造体(DPF、平均気孔径:10μm、平均気孔率:42%)を浸漬させた後に引き上げるディップコートを1回行い、比較例3の排ガス浄化フィルタを得た。
【0119】
(排ガス浄化フィルタの物性評価)
この排ガス浄化フィルタについて、実施例1と同様の物性評価を行った。
電子顕微鏡観察の結果、隔壁表面に多孔質膜は形成していなかった。
この排ガス浄化フィルタの作製条件を表1に、得られた排ガス浄化フィルタの評価結果を表2に示す。なお、多孔質膜が形成されていなかったため、膜厚は測定できなかった。
【0120】
【表1】

【0121】
【表2】

【0122】
表2に示した評価結果によれば、実施例1〜15の排ガス浄化フィルタは、比較例1の多孔質膜が設けられていないハニカム構造体と比べて、粒子状物質の捕集効率に優れており、圧力損失の増加もわずかであり、粒子状物質の燃焼時間も短縮されており、良好な特性を有する排ガス浄化フィルタが得られていることが分かった。
【0123】
微粒子を構成する酸化物としてセリウム酸化物を含む実施例1〜10の排ガス浄化フィルタは、微粒子を構成する酸化物としてアルミニウム酸化物を含む実施例11〜14の排ガス浄化フィルタと比べて、同等の膜厚の多孔質膜を形成した場合における粒子状物質の燃焼時間が短くなっていた。これは、セリウム酸化物が酸素吸蔵放出能(OSC;Oxygen Storage Capacity)を有しているため、放出される活性酸素量が多くなり、粒子状物質が燃焼しやすくなったことによると考えられる。
【0124】
また、実施例1〜15の結果は、多孔質膜の平均気孔率が35%以上90%以下の範囲において、圧力損失が小さく、粒子状物質の燃焼時間を短縮できる排ガス浄化フィルタが得られることを示している。
また、多孔質膜を構成する微粒子の比表面積が1m/g以上125m/gの範囲において、圧力損失が小さく、粒子状物質の燃焼時間を短縮できる排ガス浄化フィルタが得られることを示している。
【0125】
実施例2〜4の結果は、多孔質膜の膜厚(固着量)を大きくするほど粒子状物質の燃焼時間が短縮される一方、圧力損失が大きくなることを示している。さらに多孔質膜の膜厚(固着量)が大きい実施例15においては、実施例4に比べて圧力損失が大きくなるだけでなく、燃焼時間が多少延びており、多孔質膜の膜厚が好ましくは40μm以下であることを示している。
実施例2,5,6の結果は、多孔質膜における銀の含有量を増やすことで、粒子状物質の燃焼時間を短縮できることを示している。なお、酸化物に対する銀の質量比が5質量%のものと15質量%のものとで燃焼時間は同等であった。
実施例7,8の結果は、ハニカム構造体として、コージェライトやチタン酸アルミニウムを用いてもよく、本発明がハニカム構造体の材質には依存しないことを示している。
実施例9,10の結果は、多孔質膜を構成する酸化物として、希土類元素を添加したセリウム酸化物を用いてもよいことを示している。
また、実施例11〜14の結果は、多孔質膜を構成する酸化物として、OSC能を有さないアルミニウム酸化物を用いても、セリウム酸化物を用いた場合と同様の作用効果を得られることを示している。
【0126】
一方、比較例1の排ガス浄化フィルタは、多孔質膜を設けない従来型のものであるから、実施例1〜15の排ガス浄化フィルタと比べて、粒子状物質の捕集効率が低く、粒子状物質の燃焼時間も長かった。
【0127】
比較例2の排ガス浄化フィルタは、多孔質膜が形成されていなかった。その理由は、分散液の調製にサンドグラインダーを用いたことで多孔質膜を構成する微粒子の二次粒子径が小さくなり過ぎ、微粒子が気孔内を含む隔壁全体に分散してしまい、その結果、多孔質膜を形成することができなかったものと考えられる。
比較例2の排ガス浄化フィルタでは、多孔質膜が形成されていないために、捕集効率はほとんど改善されていなかった。
【0128】
また、比較例2の排ガス浄化フィルタでは、耐熱性評価において850℃で32時間熱処理を行うと、平均気孔径が大きくなり、粒子状物質の燃焼時間が増加した。すなわち、比較例2の排ガス浄化フィルタでは、高温に曝されたときに粒子状物質の燃焼特性に劣化が生じていた。これに対して実施例1〜15の排ガス浄化フィルタでは、このような劣化はまったく生じないか、軽微な程度であった。比較例2と実施例の結果は、本発明の排ガス浄化フィルタが優れた耐熱性を備えることを示している。
【0129】
比較例3の排ガス浄化フィルタは、実施例1〜15の排ガス浄化フィルタと比べて、捕集効率が低く、粒子状物質の燃焼時間が長かった。これは、多孔質膜を構成する微粒子の固着量が少なかったために、多孔質膜がハニカム構造体の壁面を十分に覆っておらず、また粒子状物質に有効に作用する酸化触媒の量が少なくなったためであると考えられる。
【符号の説明】
【0130】
10 DPF、11 フィルタ基体、12 ガス流路、12A 流入セル、12B 流出セル、13 多孔質膜、14 隔壁、30 粒子状物質、α,γ 端面、G 排ガス、C 浄化ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質体からなるフィルタ基体と、前記フィルタ基体の粒子状物質を含むガスの流入側に設けられ、流入側端部が開放された流入側ガス流路と、前記フィルタ基体の前記ガスの流出側に設けられ、流出側端部が開放された流出側ガス流路と、これら流入側ガス流路と流出側ガス流路との間に設けられ前記ガスを通過させて浄化する隔壁と、を備えたハニカム構造型フィルタであって、
前記隔壁の平均細孔径は5μm以上かつ50μm以下であり、
少なくとも前記流入側ガス流路の内壁面に、平均気孔径が0.05μm以上かつ5μm以下であり、酸化物と銀を含有する微粒子を含む多孔質膜を設けてなることを特徴とするハニカム構造型フィルタ。
【請求項2】
前記酸化物がアルミニウム、ジルコニウム、チタン、セリウム、ランタン、鉄、ケイ素、亜鉛、マグネシウム、マンガン、コバルトのうち1種または2種以上の元素の酸化物、またはこれらの元素のうち1種または2種以上の元素を含む複合酸化物である請求項1に記載のハニカム構造型フィルタ。
【請求項3】
前記多孔質膜の平均気孔率は、35%以上かつ90%以下であることを特徴とする請求項1または2記載のハニカム構造型フィルタ。
【請求項4】
前記多孔質膜の平均膜厚は、40μm以下であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項記載のハニカム構造型フィルタ。
【請求項5】
前記多孔質膜は、酸化物と銀を含有する微粒子を含む塗料を前記フィルタ基体に塗布した後に熱処理して形成されたことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項記載のハニカム構造型フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−269268(P2010−269268A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−124409(P2009−124409)
【出願日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】