説明

ハヘラ・チェジュエンシス由来の殺藻効果を有する赤色色素

本発明は、ハヘラ・チェジュエンシス(Hahella chejuensis)由来の殺藻効果を有する赤色色素に係り、より詳しくは、ハヘラ・チェジュエンシス96CJ10356菌株(KCTC 2396)を培養して赤色色素(RP10356)を製造する方法に関する。更にこの発明は、この方法により調整する、殺藻効果を有する赤色色素(RP10356)、前記赤色色素を有効成分として含む殺藻製剤、及び前記菌株培養液の有機溶媒抽出物又は前記赤色色素を用いることを特徴とする赤潮生物の除去方法に関する。
本発明に係る赤色色素(RP10356)は、コクロヂニウム・ポリクリコイデス、ジャイロジニウム・インプジクム、ヘテロシグマ・アカシオなどの赤潮原因種に対して優れた殺潮効果を有していることから、赤潮生物を除去する殺藻製剤の有効成分として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハヘラ・チェジュエンシス(Hahella chejuensis)由来の殺藻効果を有する赤色色素に係り、より詳しくは、ハヘラ・チェジュエンシス96CJ10356菌株(KCTC 2396)を培養して赤色色素(RP10356)を製造する方法に関する。更に本発明は、この方法により調整された、殺藻効果を有する赤色色素(RP10356)、前記赤色色素を有効成分として含む殺藻製剤、及び前記菌株培養液または前記赤色色素を用いることを特徴とする赤潮生物の除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1980年代以来、韓国の南海岸の富栄養化海域を中心に有害・有毒性赤潮が発生している。一部の微細藻類種により引き起こされる赤潮は、毎年養殖漁業に莫大な被害を与えており、特に、毎年8月以降に出現するコクロヂニウム・ポリクリコイデス(Cochlodinium polykrikoides)は、韓国の沿岸養殖に大きな被害を与えている(Park et al., J.Korean Fish. Soc.,31:767−73,1998)。この理由から、赤潮発生の原因となる微細藻類種の死滅と成長抑制に関する研究が進んでいる(Yoshinaga et al.,Japan Fish Sci.,61:780−6,1995)。
【0003】
海洋生態系において、微生物群は赤潮の発生と消滅に対して重要な役割を果たし(Furuka et al.,Marine Pollution Bull.,23:189−93,1992)、殺藻細菌の数は、赤潮発生海域において宿主生物に依存し、赤潮が消滅される段階で最高の濃度に達する(Yoshinaga et al.,Japan Fish Sci.,61:780−6,1995)。
【0004】
殺藻能力を有している細菌としては、アルテロモナス(Alteromonas)、サイトファーガ(Cytophaga)、フラボバクテリウム属(Flavobaterium)、シュードアルテロモナス(Pseudoalteromonas)、スポロスピラ(Sporospira)、ビブリオ(Vibrio)属などが知られている。これらの細菌は、赤潮の消滅に直接的又は間接的に関与すると報告されている(Lovejoy et al.,Appl.Environ.Microbiol.,64:2806−13,1993)。殺藻細菌は、各種の種の藻類を殺藻または溶藻することができ、各細菌ごとに種独自の殺藻範囲を有している。例えば、殺藻細菌サイトファーガ種(Cytophoga sp.)は、珪藻(Bacillariophyceae)、針鞭毛藻(Raphydophyceae)及び渦鞭毛藻(Dinophyceae)に効く様々な殺藻効力を有している(Imai et al.,Mar.Biol.,116:527−32,1993)。
【0005】
しかしながら、殺藻細菌の殺藻メカニズムに関する研究には大きな進展が見られず、赤潮生物の急減は、生物細胞の溶解(Imai et al.,Mar.Biol.,116:527−32,1993)、成長抑制による生物の死滅(Imai et al.,Mar.Biol.,116:527−32,1993)及びアレクランドリウム・カタネラ(Alexandrium catanella)でのように無性生殖から有性生殖への交配段階の阻害による死滅(Sawayama et al.,Nippon Suisan Gakkaishi,59:291−4,1993)などに起因すると報告されている。
【0006】
殺藻細菌の殺藻メカニズムは、(1)殺藻細菌が赤潮生物の表面に付着して赤潮生物を溶解するという接触によるメカニズム(Imai et al.,Mar.Biol.,116:527−32,1993)、及び(2)殺藻細菌が殺藻物質を細胞外に分泌して赤潮生物の成長を抑制または溶解するメカニズムに大別できる。ほとんどの殺藻細菌は後者のメカニズムに含まれ、抗生剤(Kawano et al.,J.Mar.Biotechnol.,5:225−9,1997)、低分子のオリゴペプチド(oligopeptide)(Sawayama et al.,Nippon Suisan Gakkaishi,59:291−4,1993)、タンパク質(Baker and Herson,Appl.Environ.Microbiol.,35:791−6,1978)及び熱に不安定な細胞外物質(Mitsutani et al.,Nippon Suisan Gakkaishi,58:2159−69,1992)などによる殺藻メカニズムが報告されている。このような微細藻類の減少は、ほとんどの殺藻細菌を接種後数時間から数日後に現れる。このように反応時間が遅く現れるのは殺藻物質の活性と直接的に関連しており、殺藻物質生成の違いと誘導物質に応じて様々な時間差を示す。
【0007】
このため、このような殺藻微生物が生産する殺藻物質を用いて赤潮の原因となる微細藻類の成長を抑えることにより、赤潮による養殖業の被害を減らすために、各種の研究が盛んに行われつつある。特に、1982年に初めて赤潮を引き起こしたと言われているコクロヂニウム・ポリクリコイデスは、1990年から絶えず赤潮を引き起こしている。さらに、1995年以来には10,000細胞/mL以上の高密度赤潮を韓国の南海岸から東南海域に至るまで大規模に引き起こし、莫大な水産被害を与えていて、これをきっかけに、赤潮被害を最小化させるための赤潮防除対策への研究が行われている。しかし、色素を殺藻物質として用いるという試みは報告されていない。
【0008】
色素は天然色素と合成色素に区別されていて、食品工業、化粧品、医薬品及び家畜の飼料添加剤など各種の用途にて使われている。中でも、微生物を用いた天然色素は、動植物が生産する色素に比べて発酵による大量生産が可能であり、且つ、安定的な品質を有する製品が生産可能である。微生物色素は、培養方法、使用培地に応じて様々な色の色素が得られ、たとえ同じ菌株であるとしても、培地の成分、培養温度、及びpHなどに応じて各種多様な色調の色素が得られる(Carels et al.,Can.J.Microbiol.,23:1360−72,1977)。特に、色素は2次代謝物質であり、抗生剤、毒素などの2次代謝産物の発酵による典型的な調節メカニズムにより生成されると言われているし、炭素源、窒素源、リン酸及び微量の元素によって色素の生成に大きな影響を受けると報告されている(Wong et al.,Myclogia,73:649−54,1981)。
【0009】
ハヘラ・チェジュエンシス96CJ10356菌株(KCTC 2396=IMSNU 11157)は、韓国済州道の海岸から集められた海底堆積物から分離された海洋性微生物であって、グラム陰性の運動性桿菌である。また、これらは、多量のエキソポリサッカライド(exopolysaccharide)及び赤色色素(red pigment)を生成する(Lee et al.,Systematic and Evolutionary Microbiology,51:661−6,2001)。
【0010】
しかしながら、前記ハヘラ・チェジュエンシス96CJ10356菌株を含むハヘラ属微生物由来の色素により得られる殺藻効果については、未だ知られていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
よって、本発明者らは、優れた殺藻効果を有する新規な微生物を得るために鋭意努力した結果、前記ハヘラ・チェジュエンシス96CJ10356菌株から得られる赤色色素(RP10356)が優れた殺藻効果を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
そこで、本発明の主たる目的は、ハヘラ属微生物を培養することを特徴とする、殺藻効果を有する赤色色素の製造方法を提供することにある。
【0013】
本発明の他の目的は、殺藻効果を有する赤色色素(RP10356)及びこれを有効成分として含む殺藻製剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記目的を達成するために、本発明は、ハヘラ属微生物を培養する段階と、前記培養液から有機溶媒を用いて殺藻効果を示す色素物質を分離・精製する段階とを含む、殺藻効果を有する色素物質の製造方法を提供する。
【0015】
本発明において、前記ハヘラ属微生物はハヘラ・チェジュエンシスであることが好ましく、特に、ハヘラ・チェジュエンシス96CJ10356菌株(KCTC 2396)であることが好ましい。
【0016】
また、本発明は、前記方法により製造され、シリカゲル薄膜クロマトグラフィ(TLC)により、Rf値0.98(石油エーテル:アセトン:メタノール=5:3:2)を示し、及び約539nmにおいて最大の吸光度を示すことを特徴とする、殺藻効果を有する赤色色素を提供する。
【0017】
さらに、本発明は、前記赤色色素を有効成分として含む殺藻製剤を提供する。
【0018】
本発明において、前記赤色色素は、コクロヂニウム・ポリクリコイデス(Cochlodinium polykrikoides)、ジャイロジニウム・インプジクム(Gyrodinium impudicum)、またはヘテロシグマ・アカシオ(Heterosigma akashiwo)に対して殺藻効果を示すことを特徴とする。
【0019】
また、本発明は、前記赤色色素、ハヘラ属微生物培養液、前記培養液の有機溶媒抽出物を用いることを特徴とする赤潮生物の除去方法を提供する。
【0020】
本発明においては、ハヘラ・チェジュエンシス96CJ10356菌株の培養液を有機溶媒で抽出することにより、赤色色素(RP10356)の純粋な分離を行った。ハヘラ・チェジュエンシス96CJ10356菌株から殺藻効果を有する赤色色素RP10356を得るためには、栄養塩類、微量の無機塩類及び熟成海水を含む適当な培地において前記微生物を培養する必要がある。
【0021】
本発明において、栄養培地としては、炭素源として5%のグルコース、窒素源として0.5%のペプトン、リン酸源として0.083g/LのKHPO、0.067g/LのKHPO、5g/LのMgSO、1g/LのCaClなどを使用することができる。また、微量の無機塩類としては、好ましくは、0.005g/LのFeCl・6HO、0.001g/LのMnCl・4HO、0.001g/LのNaMoO、0.001g/LのZnClなどを含む。
【0022】
前記微生物培養液から抽出される粗色素及び前記粗色素から精製されるRP10356が赤潮の原因種であるコクロヂニウム・ポリクリコイデス、ジャイロジニウム・インプジクム、ヘテロシグマ・アカシオ、アレクランドリウム・カタネラ及びプロセントリウム・マイカンスに対して有する殺藻効果を調査した結果、コクロヂニウム・ポリクリコイデス、ジャイロジニウム・インプジクム及びヘテロシグマ・アカシオに対して優れた殺藻効果を有していることが判明された。本発明に係る赤色色素RP10356は、エタノールにおける最大吸光度が486nm、539nmである脂溶性赤色色素である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】ハヘラ・チェジュエンシス96CJ10356菌株(KCTC 2396)が生産する赤色色素の抽出及び分離過程を示す図である。
【図2】ハヘラ・チェジュエンシス96CJ10356菌株(KCTC 2396)が生産する粗色素によるコクロヂニウム・ポリクリコイデス(Cochlodinium polykrikoides)の殺藻効果を示す図である。
【図3】ハヘラ・チェジュエンシス96CJ10356菌株(KCTC 2396)が生産する粗色素によるジャイロジニウム・インプジクム(Gyrodinium impudicum)の殺藻効果を示す図である。
【図4】ハヘラ・チェジュエンシス96CJ10356菌株(KCTC 2396)が生産する粗色素によるヘテロシグマ・アカシオ(Heterosigma akashiwo)の殺藻効果を示す図である。
【図5】ハヘラ・チェジュエンシス96CJ10356菌株(KCTC 2396)が生産するRP10356によるコクロヂニウム・ポリクリコイデス(Cochlodinium polykrikoides)の殺藻効果を示す図である。
【図6】ハヘラ・チェジュエンシス96CJ10356菌株(KCTC 2396)が生産する粗色素による殺藻作用において、調査菌株の形状変化を示す図である(A:コクロヂニウム・ポリクリコイデス、B:ジャイロジニウム・インプジクム、C:ヘテロシグマ・アカシオ、D:アレクランドリウム・カタネラ、E:プロセントリウム・マイカンス)。
【図7】ハヘラ・チェジュエンシス96CJ10356菌株(KCTC 2396)の培養によるpH、菌体及びRP10356の生成を示す図である。
【図8】ハヘラ・チェジュエンシス96CJ10356菌株(KCTC 2396)が生産する粗色素及び粗色素から分離された色素RP10356の薄膜クロマトグラフィ分析結果を示す図である(1:2−プロパノール抽出物(粗色素)、2:RP10356)。
【図9】ハヘラ・チェジュエンシス96CJ10356菌株(KCTC 2396)が生産するRP10356のUV吸光度を示す図である。
【図10】ハヘラ・チェジュエンシス96CJ10356菌株(KCTC 2396)が生産するRP10356のシリカ・クロマトグラフィによる各分画の薄膜クロマトグラフィ分析結果を示す図である(1:2−プロパノール粗色素、2:分画1、3:分画2、4:分画3、5:分画4、溶媒の割合:石油エーテル:アセトン:メタノール=5:3:2)である。
【図11】ハヘラ・チェジュエンシス96CJ10356菌株(KCTC 2396)が生産するRP10356の高速クロマトグラフィ分析結果を示す図である。
【図12】ハヘラ・チェジュエンシス96CJ10356菌株(KCTC 2396)が生産するRP10356に対する、DAD(Diode Array Detector)検出器による300〜550nmでの高速クロマトグラフィ分析結果を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、実施例を挙げて本発明を詳述する。しかし、下記の実施例は単に本発明を例示するためのものであり、本発明の範囲が下記の実施例により制限されないことは当業者にとって明らかである。
【0025】
<実施例1>RP10356の抽出及び分離
本実験に使われた菌株は、李ら(Systematic and evolutionary Microbiology.51:661−666,2001)が済州道海岸の堆積土から分離したハヘラ・チェジュエンシス(Hahella chejuensis gen.nov.,sp.nov.)96CJ10356菌株(KCTC 2396=IMSNU 11157)である。ここでは、前記菌株をSTN固体培地(表1)に接種してから25℃で48時間培養後、4℃で冷蔵保管しながら、2週間おきに新しい培地に植え継ぎ培養して使用した。
【0026】
【表1】

【0027】
前記96CJ10356菌株から赤色色素RP10356を得るために、前記菌株を基本培地となるSzoBell培地(表2)に接種後25℃で且つ120rpmにて3日間培養した。その後、培養液から赤色色素RP10356を分離した。
【0028】
【表2】

【0029】
前記96CJ10356菌株の培養液から、図1の方法により赤色色素を抽出した。96CJ10356菌株は、多量の細胞外多糖類を生産する微生物であり、培養液から多糖類を除去して色素を分離するために、前記菌株培養液1Lに2−イソプロパノールを2倍の量にて加えた。その後、超音波器(ブランソン8210、米国)を用いて1時間処理後、4℃で24時間放置することにより、培養液から多糖類を除去した。多糖類の除去された培養液を12,000g及び30分の条件下で遠心分離した後、GF/F(ワットマン、φ47mm、米国)を用いてろ過を行い、細胞の除去された粗色素を分離した。
【0030】
多糖類及び細胞が除去された2−イソプロパノール色素抽出液(粗色素)からRP10356を分離するために、2−イソプロパノール色素抽出液を45℃で真空濃縮して2−イソプロパノールを除去した。その後、残留している水溶層から水溶性成分と多量の塩を除去して脂溶性分画を抽出するために、水溶層に1倍の石油エーテルを加えて1時間振とう後、分液漏斗を用いて石油エーテル層を分離した。前記分離された石油エーテル層から水分を除去するために、前記分離された石油エーテル層を無水硫酸ナトリウム上で乾燥しそして、ろ過紙(No 5,ワットマン、米国)でろ過した後、さらに40℃で真空濃縮して石油エーテルを除去した(図1)。
【0031】
粗色素抽出液から殺藻性を有する色素を分離するために、シリカ・クロマトグラフィ(silica chlomatography)を行った。前記粗抽出液をシリカゲル(silica gel 60,0.040〜0.063mm,メルク、ドイツ)に加え、同じレジンが入っているガラスカラム(φ2.5×30cm)に石油エーテル:アセトン(7:3)の展開溶媒を通すことにより粗色素を分離した。その結果、分離された色素はそれぞれRf 0.98(明るい黄色)、Rf 0.96(濃い赤色)、Rf 0.88(明るい赤色)及びRf 0.59(青色)の4通りに分画された。中でも、0.88のRf値を有する色素が主色素であるため、これを”RP10356”と名付け、その殺藻効果を調べてみた。
【0032】
<実施例2>RP10356の殺藻効果
本実験に用いられた藻類を表3に示した。微細藻類は、釜慶大學(BKU:BuKung University) 養殖学科及び韓国海洋研究所(KORDI: Korea Ocean Reserch & Development Institute)赤潮研究チームから分譲された。その他、微細藻類は、赤潮発生地域で直接分離した。
【0033】
【表3】

【0034】
微細藻類の培養のためにf/2培地を用いた(表4)。藻類培養は、温度22.5℃、光度150μEin/m/s、16時間:8時間の明暗光周期条件下における藻類培養器(Je−il Science、韓国)において行った。殺藻効果を測定するための藻類培養としては、対数成長段階の細胞を利用した。藻類の成長は蛍光光度計(日立、F−2000、日本)を用いて測定するか、2%のルゴール(Rugol)用液で固定した後、倒立顕微鏡(Zeiss、Axon−1000、ドイツ)を用いて計数を行った。
【0035】
【表4】

【0036】
(1)粗色素の殺藻効果
実施例1で分離された粗色素及びRP10356を0,0.1,1.0,10,50及び100μg/mLの濃度にて1×10cells/mLの赤潮原因である微細藻類(コクロヂニウム・ポリクリコイデス、ジャイロジニウム・インプジクム、ヘテロシグマ・アカシオ、アレクランドリウム・カタネラ及びプロセントリウム・マイカンス)培養液に加えた。30分、1時間、2時間及び24時間経過後、それぞれの処理微細藻類を2%ルゴール液で固定し、倒立顕微鏡(Zeiss、Axon100、ドイツ)を用いて未溶解細胞数を計数した。初期接種細胞数から溶解細胞数を計数し、下記計算式1により殺藻効果を算出した。
【数式1】
【0037】

【0038】
エタノールに溶解した粗色素の殺藻効果を調査した結果、コクロヂニウム・ポリクリコイデスを0.1μL/mL濃度の粗色素にて処理した場合、30分及び24時間経過後、それぞれ3.8%及び72.1%の殺藻効果を示した。1.0μL/mL濃度にて処理した場合、30分及び24時間経過後、それぞれ63.8%及び98.7%の殺藻効果を示した。最大処理濃度となる100μL/mL濃度にて処理した場合、30分経過後、91.3%の殺藻効果を示した。結果として、赤潮被害が最大のコクロヂニウム・ポリクリコイデスウンに対して0.1μL/mLの濃度以上で殺藻効果を示し、特に粗色素は低濃度において優れた初期殺藻能を示した(図2)。
【0039】
ジャイロジニウム・インプジクムを0.1μL/mL濃度の粗色素にて処理した場合、30分及び24時間経過後、それぞれ1.4%及び40.8%の殺藻効果を示し、1.0μL/mL濃度にて処理した場合、30分及び24時間経過後、それぞれ28.7%及び93.0%の殺藻効果を示した。最大処理濃度となる100μL/mL濃度にて処理した場合、30分経過後、60.6%の殺藻効果を示した。この結果から、ジャイロジニウム・インプジクムには、コクロヂニウム・ポリクリコイデスに対するよりもやや低い殺藻能を示すことがわかった(図3)。
【0040】
ヘテロシグマ・アカシオを0.1μL/mL濃度の粗色素で処理した場合、30分及び24時間経過後、それぞれ6.5%及び78.8%の殺藻効果を示し、1.0μL/mL濃度にて処理した場合、それぞれ23.8%及び96.3%の殺藻効果を示した。最大処理濃度となる100μL/mL濃度にて処理した場合、30分経過後、46.4%の殺藻効果を示した(図4)。
【0041】
その他、アレクランドリウム・カタネラ及びプロセントリウム・マイカンスに対しては、粗色素は微弱な殺藻能力を示した。結果として、96CJ10356菌株の培養液から抽出した粗色素は、赤潮原因となる菌株に対して相異なる殺藻効果を示し、このうちコクロヂニウム・ポリクリコイデスに対して極めて高い殺藻効果を示した。
【0042】
(2)RP10356の殺藻効果
毎年韓国に赤潮被害を起こし、粗色素による殺藻試験において最も優れた殺藻効果を示したコクロヂニウム・ポリクリコイデスに対して、前記の4つの分画の殺藻効果を調査した。前記4個分画の殺藻効果試験は、前記粗色素の殺藻効果試験と同様にして行った。粗色素の殺藻効果と比較した結果、4つの色素分画の中でRP10356のみが殺藻効果を有することがわかった。30分処理を基準として殺藻効果を比較した結果、1μL/Lの濃度の場合、粗色素は63.8%の殺藻効果を示す一方、RP10356は一層高い83.5%の殺藻効果を示した。特に、50%の殺藻能を示すRP10356の濃度は、30分処理では0.65μL/Lを示し、24時間処理では0.17μL/Lを示した(図5及び表5)。
【0043】
【表5】

【0044】
(3)微細藻類の観察
粗色素及びRP10356処理による細胞形状の変化を倒立顕微鏡を用いて観察した。RP10356処理による細胞形状の変化は、成長阻害(growth inhibition)、細胞の膨潤(swelling of cell)、細胞の溶解(lysis of cell)、外被の脱離(ecdysis of armor)を基準として観察した。
【0045】
96CJ10356菌株由来の粗色素を1.0μL/Lの濃度にて処理した場合、粗色素が殺藻効果を示すコクロヂニウム・ポリクリコイデス、ジャイロジニウム・インプジクム及びヘテロシグマ・アカシオでは経時によって細胞の膨潤と細胞の溶解が観察された(図6のA、B、C)。これに対し、粗色素が低い殺藻効果を有するアレクランドリウム・カタネラでは一部の外被の脱離が観察され(図6D)、プロセントリウム・マイカンスでは形状変化があまり見られなかった(図6E)。
【0046】
また、微細藻類をRP10356で処理した場合も、コクロヂニウム・ポリクリコイデスにおいて図6Aと同じ形状変異が観察された。この点から、殺藻物質は粗色素のRP10356色素によるものであることが確認できた。
【0047】
<実施例3>RP10356の生産
ハヘラ・チェジュエンシス96CJ10356を用いて殺藻物質であるRP10356を大量生産するために、グルコース5重量%、0.1重量%のペプトン、0.42g/LのKHPO、0.34g/LのKHPO、0.5g/LのMgSO、2.0g/LのCaCl、0.001g/LのCoCl・6HO、0.001g/LのMnCl、0.001g/LのZnSO、0.001g/LのNaMoO、蒸留水750mL及び寝かした海水を加えて最終容量3,000mLになるようにした後、前記96CJ10356菌株を接種し、その次、5L回分式培養器において培養を行った。このとき、培養温度は25℃にし、200rpmにおける通気量は1.5vvmにした。
【0048】
培養時間の経過に伴い多糖類生産が増え、培養81時間後には最大値が保持された。培養48時間までは菌体増殖が増加したが、74時間以後には菌体増殖が減少した。生産されたRP10356の濃度を測定するために培養液1mLに冷エタノール(cold ethanol)2mLを添加し、次いで超音波粉砕器で30分間処理し、遠心分離(8,000xg、15分)を行い菌体を除去した。その後、分光光度計を用いて上澄み液の吸光度(A539)を測定した。その結果、最終的に209mg/LのRP10356が得られた(図7)。
【0049】
<実施例4>RP10356の特性
(1)シリカ薄膜クロマトグラフィ(TLC:thin−layer chromatography)分析
2−プロパノール粗抽出物からRP10356を精製するために、前記粗抽出物1μgをエタノール1mLに溶解し、その後、シリカ60F254STLCプレート(メルク:Merck)に5μLを滴下し、石油エーテル:アセトン:メタノール(5:3:2)混合液で10cm展開した(図8)。その結果、Pf0.98(明るい黄色)、Rf0.96(濃い赤色)、Rf0.88(明るい赤色)及びRf0.59(青色)の4通りの色素が得られた。
【0050】
(2)吸光光度計(UV)による吸収スペクトル分析
RP10356の吸光型を調査するために、RP103561μg/mLのエタノール溶液を分光光度計(島津、UV−VIS2401PC、日本)を用いて300〜700nm波長の範囲で最大吸光波長を調査した(図9)。その結果、吸光光度計によるRP10356の最大吸光度は486nm及び539nmであって、主ピークは539nmであった。
【0051】
(3)シリカゲルクロマトグラフィ(Silica gel chromatography)による色素の大量精製
培養液から2−プロパノールで抽出した色素の大量分離及び精製を行うために、展開溶媒としてアセトン:メタノール(9:1)を使用してシリカ・クロマトグラフィ(silica chlomatography:silica gel 60,0.040〜0.063mm、メルク、ドイツ)を行い粗色素を分離した(図10)。シリカ・クロマトグラフィにより粗色素を分離・精製した結果、4通りに分画された。この分画は、TLC結果と同様に明るい黄色、濃い赤色、明るい赤色及び青色の順になされ、これらのうち明るい赤色となるRP10356を分離した。
【0052】
(4)高速液体クロマトグラフィ(HPLC:High performance liquid chromatography)分析
精製色素をHP1050システム(Hewlett Packard、米国)を用いて分析した。このとき、カラムとしてはシリカカラム(YMC−Pack SIL、250×4.6mm、日本)を用いて、アセトン:メタノール(9:1)溶媒を毎分当たり1.0mLずつ溶出し、DAD−UV(Hewlett Packard、米国)を用いて539nm、486nm、及び300〜800nmで、分析を行った(図11及び図12)。HPLCによる分析によれば、RP10356は、前記条件下で3.52分の保持時間(retention time)を有し、300〜800nmにおいても単一ピークが分離されることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0053】
上述したように、本発明は、ハヘラ・チェジュエンシス菌株由来の殺藻効果を有する赤色色素を提供する効果がある。本発明に係る赤色色素(RP10356)は、コクロヂニウム・ポリクリコイデス、ジャイロジニウム・インプジクム、ヘテロシグマ・アカシオなどの赤潮原因種に対して優れた殺潮効果を有していることから、赤潮生物を除去する殺藻製剤の有効成分として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の段階を含む殺藻効果を有する色素物質の製造方法:
(a)ハヘラ属微生物を培養する段階;及び
(b)前記培養液から有機溶媒を用いて殺藻効果を示す色素物質を分離・精製する段階。
【請求項2】
前記ハヘラ属微生物はハヘラ・チェジュエンシスである請求項1に記載の殺藻効果を有する色素物質の製造方法。
【請求項3】
前記ハヘラ・チェジュエンシスはハヘラ・チェジュエンシス96CJ10356菌株(KCTC 2396)である請求項2に記載の方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法により製造され、シリカゲル薄膜クロマトグラフィ(TLC)により、Rf値0.98(石油エーテル:アセトン:メタノール=5:3:2)を示し、及び約539nmにおいて最大の吸光度を示すことを特徴とする、殺藻効果を有する赤色色素。
【請求項5】
前記赤色色素がコクロヂニウム・ポリクリコイデス(Cochlodinium polykrikoides)、ジャイロジニウム・インプジクム(Gyrodinium impudicum)、またはヘテロシグマ・アカシオ(Heterosigma akashiwo)に対して殺藻効果を示す請求項4に記載の赤色色素。
【請求項6】
前記赤色色素はRP10356である請求項4に記載の赤色色素。
【請求項7】
請求項4に記載の赤色色素を有効成分として含む殺藻製剤。
【請求項8】
前記赤色色素がコクロヂニウム・ポリクリコイデス(Cochlodinium polykrikoides)、ジャイロジニウム・インプジクム(Gyrodinium impudicum)、またはヘテロシグマ・アカシオ(Heterosigma akashiwo)に対して殺藻効果を示す請求項7に記載の殺藻製剤。
【請求項9】
ハヘラ属微生物培養液または前記培養液の有機溶媒抽出物を用いることを特徴とする赤潮生物の除去方法。
【請求項10】
前記ハヘラ属微生物はハヘラ・チェジュエンシスである請求項9に記載の赤潮生物の除去方法。
【請求項11】
前記ハヘラ・チェジュエンシスはハヘラ・チェジュエンシス96CJ10356菌株(KCTC 2396)である請求項9に記載の赤潮生物の除去方法。
【請求項12】
前記有機溶媒は2−イソプロパノールである請求項9に記載の赤潮生物の除去方法。
【請求項13】
前記赤潮はコクロヂニウム・ポリクリコイデス(Cochlodinium polykrikoides)、ジャイロジニウム・インプジクム(Gyrodinium impudicum)、またはヘテロシグマ・アカシオ(Heterosigma akashiwo)によるものである請求項9に記載の赤潮生物の除去方法。
【請求項14】
請求項4の赤色色素を用いることを特徴とする赤潮生物の除去方法。
【請求項15】
前記赤潮はコクロヂニウム・ポリクリコイデス(Cochlodinium polykrikoides)、ジャイロジニウム・インプジクム(Gyrodinium impudicum)、またはヘテロシグマ・アカシオ(Heterosigma akashiwo)によるものである請求項14に記載の赤潮生物の除去方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2006−526573(P2006−526573A)
【公表日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−500691(P2006−500691)
【出願日】平成16年5月10日(2004.5.10)
【国際出願番号】PCT/KR2004/001072
【国際公開番号】WO2004/099391
【国際公開日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【出願人】(505416784)コリア オーシャン リサーチ アンド ディベロップメント インスティテュート (1)
【Fターム(参考)】