説明

ハードコートフィルム

【課題】防汚機能、及び帯電防止機能を付与し、基材との高い密着性を有するとともに、優れた耐カール性、耐擦傷性、表面硬度を付与でき、汚れ(埃、指紋等)の除去が簡便にでき、その特性が劣化することなく常に視認性の高いハードコート層を形成できるハードコートフィルムを提供する。
【解決手段】ハードコートフィルムにおいて、ハードコート層が、多官能(メタ)アクリルモノマーと、光ラジカル重合開始剤と、重合性基を有する含フッ素化合物と帯電性を有する金属酸化微粒子を含み、金属酸化微粒子の添加量が多官能(メタ)アクリルモノマーに対して1.0〜10.0重量%からなり、表面自由エネルギーが15mN/m〜20mN/m以下、表面抵抗値が5E+9Ω〜2.0E+10Ω以下であり、ハードコート層の膜厚が3〜10μmであることを特徴とするハードコートフィルムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置(LCD)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、フィールドエミッションディスプレイ(FED)のようなディスプレイの表面を保護する目的で利用される、ハードコート層形成用組成物およびハードコートフィルムに関するものであり、基材との高い密着性を有するとともに、耐カール性、防汚性に優れ、なおかつ優れた耐擦傷性、帯電防止性、表面硬度を付与できるハードコート層形成用組成物を用いたハードコートフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ用偏光板保護フィルム、有機ELディスプレイ等に用いられる円偏光板の保護フィルムは、様々な機能を持たせるために樹脂層が形成されている。例えば帯電防止機能を持たせるための帯電防止層、反射を抑えるための反射防止層、表面硬度を向上させるためのハードコート層といったものである。特にハードコート層についてはディプレイ用途では必須になっており、ハードコート層単層で用いるだけでなく反射防止層の下層の役割も果たしており重要な技術となっている。
【0003】
例えば、特許文献1には、熱可塑性ノルボルネン系樹脂で形成された基材の表面に碁盤目剥離試験での密着性が100目中50目以上であるシリコーン系ハードコート層を有する熱可塑性ノルボルネン系樹脂から成る成形品が開示され、特許文献2には、重合性官能基を有する1種以上の有機成分と無機フィラーとを含む塗膜成分から形成されており、該有機成分の少なくとも1種が水素結合形成基を有しないものであることを特徴とするプラスチック基材フィルム用ハードコート膜が開示され、特許文献3には、透明プラスチックフィルム基材の少なくとも片面に硬化塗膜層であるハードコート層を有するハードコートフィルムであって、ハードコート層形成材料が、ウレタンアクリレート(A)、イソシアヌル酸アクリレート(B)および無機の超微粒子(B)を含むことを特徴とするハードコートフィルムが開示されている。
【0004】
これらの偏光板の保護機能としてのハードコート層を備えるハードコートフィルムは近年高硬度化の需要が非常に高くなっている。しかしながら、これら偏光板の保護フィルム用ハードコートフィルム基材として主にセルロースエステル系のフィルムが用いられるが、このフィルム基材は軟質であるため、ハードコートフィルムとしての高硬度化は非常に困難である。
【0005】
また、これらの偏光板の適用アプリケーションが液晶テレビ、ノートパソコンなどに広く広がるにつれて多様な特性が要求されるようになり、蛍光灯の映り込みが少ない反射防止機能、埃が付きにくい帯電防止機能、指紋等が拭取れる防汚機能などの特性も要求されるようになってきた。特にノートパソコンなどでは、人が使用することによって、指紋、皮脂、汗、化粧品などの汚れが付着する場合が多く、液晶テレビなどでは埃の付着によりコントラスト低下や画面のちらつきの原因となる。一般に、偏光板の表面エネルギーは大きいために、そのような汚れが付着しやすい。また、反射防止膜の表面には微細な凹凸があるため、汚れを除去することが容易ではない。さらに、そのような汚れが付着した部分だけ高反射となり、汚れが目立つため問題があった。
【0006】
そこで、これら汚れの問題を解決する手段として、汚れが付着しにくく、付着しても拭き取りやすい性能を持つ防汚層、及び埃の付着を防ぐ帯電防止層を光学部材の表面の形成する技術が種々提案されている。
【0007】
例えば、特許文献4には、基材の表面に、主として二酸化ケイ素からなる反射防止膜を設け、更にその表面に有機ケイ素置換基を含む化合物で処理した防汚性、耐摩擦性の反射防止物品が提案されている。特許文献5には、同様に基材表面を末端シラノール有機ポリシロキサンで被覆した防汚性、耐摩擦性のCRTフィルターが提案されている。また、特許文献6には、ポリフルオロアルキル基を含むモノ及びジシラン化合物及び、ハロゲン、アルキルまたはアルコキシのシラン化合物を含有する反射防止膜をその表面に有する防汚性・低反射性プラスチックが提案されている。
【0008】
しかしながら、従来の方法で形成された防汚層は、防汚性が不十分であり、特に、指紋、皮脂、汗、化粧品等の汚れが拭き取りにくく、使用とともに防汚性能が大きく低下する。また、埃の付着を防ぐためには別に帯電防止層を一層設置する必要があり、塗工コストの増大及び密着性などの問題があった。このため、防汚性と耐久性に優れ、簡便な手法で帯電防止性が付与されたハードコート層の開発が望まれている。
【0009】
例えば特許文献7には、帯電防止層の含有成分として酸化スズ系帯電防止剤(SnO、ATO、ITO)などの導電性金属微粒子が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平7−97468号公報
【特許文献2】特開2000−159916号公報
【特許文献3】特開2006−106427号公報
【特許文献4】特開平1−086101号公報
【特許文献5】特開平4−338901号公報
【特許文献6】特開昭61−247743号公報
【特許文献7】特開2006−337664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来のハードコートフィルムは、指紋拭き取り性などの防汚性を付与したものが無く、また防汚性が付与されていたとしても非常に弱い防汚性能であった。そのため、指紋等の汚れが付きやすく、また一度付いてしまうと汚れが取れにくいという課題があった。さらに不十分な汚れ防止処理を施しても、一般的な紙や布で拭いただけでは、かえって汚れを全面に広げることとなり、汚染された表面は外光の反射を招き、透過光を遮り、表示特性を著しく低下させ、初期の視認性を保てないという課題があった。
【0012】
また、フッ素系添加剤を添加しハードコート表面に防汚特性を付与すると、通常のフッ素系添加剤には反応性基が無いためにハードコート層との密着性が十分でなく、布等で表面を拭取ると防汚成分まで拭き取れてしまうという欠点を有している。そのため一般的にはハードコート層とは別に防汚層を別途形成して防汚特性を付与しているものが多い。また、埃等を防ぐためには帯電防止層を別に一層形成する必要があり、密着性や塗工コスト面などの課題があった。
【0013】
したがって本発明の目的はこのような課題を解決するもので、防汚層、帯電防止層を別に1層設置することなく、ハードコート層に防汚機能、帯電防止機能を付与し、基材との高い密着性を有するとともに、優れた耐カール性、耐擦傷性、表面硬度を付与でき、汚れの除去が簡便にでき、その特性が劣化することなく常に視認性の高いハードコート層を形成できるハードコート層形成用組成物を用いたハードコートフィルムの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するための手段として、請求項1に係わる発明は、透明基材の少なくとも一方の面にハードコート層を積層したハードコートフィルムにおいて、前記ハードコート層が、多官能(メタ)アクリルモノマー(A)と、光ラジカル重合開始剤(B)と、重合性基を有する含フッ素化合物(C)と帯電性を有する金属酸化微粒子(D)を含み、金属酸化微粒子(D)の添加量が前記多官能(メタ)アクリルモノマー(A)に対して1.0〜10.0重量%からなるハードコート層形成用組成物を用いて形成され、且つ、前記ハードコート層表面の表面自由エネルギーが15mN/m〜20mN/m以下であり、表面抵抗値が5E+9Ω〜2.0E+10Ω以下であり、さらに、ハードコート層の膜厚が3〜10μmであることを特徴とするハードコートフィルムである。
【0015】
また、請求項2に係わる発明は、前記多官能(メタ)アクリルモノマー(A)が、ウレタン(メタ)アクリレートを主成分とすることを特徴とする請求項1に記載のハードコートフィルム。
【0016】
また、請求項3に係わる発明は、前記重合性基を有する含フッ素化合物(C)の添加量が、前記多官能(メタ)アクリルモノマー(A)の合計に対して0.01〜10.0重量%であることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載のハードコートフィルムである。
【0017】
また、請求項4に係わる発明は、前記光ラジカル重合開始剤(B)の添加量が、前記多官能(メタ)アクリルモノマー(A)に対して0.01〜10重量%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のハードコートフィルムである。
【0018】
また、請求項5に係わる発明は、前記帯電性を有する金属酸化微粒子(D)が、SnO、ATO、ITO等のうち一種類以上からなる金属微粒子を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のハードコートフィルムである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、防汚層、帯電防止層を別に1層設置することなく、ハードコート層に防汚機能、帯電防止機能を付与し、基材との高い密着性を有するとともに、優れた耐カール性、耐擦傷性、表面硬度を付与でき、汚れの除去が簡便にでき、その特性が劣化することなく常に視認性の高いハードコート層を形成できるハードコート層形成用組成物およびハードコートフィルムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施例のハードコートフィルムの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明者は、透明基材上のハードコート層に防汚特性、および帯電防止性の付与を検討した結果、本発明の多官能(メタ)アクリルモノマー(A)と、水酸基を有する(メタ)アクリルモノマー(B)と、光ラジカル重合開始剤(B)と、重合性基を有する含フッ素化合物(C)と帯電性を有する金属酸化微粒子(D)を含むハードコート層形成用組成物を用いることにより、上記従来の課題を解決できることを見出したものである。
【0022】
以下に、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0023】
本発明のハードコート層形成用組成物を構成する多官能(メタ)アクリルモノマー(A)とは、1分子中に2個以上のアルコール性水酸基を有する多価アルコールの該水酸基が、2個以上の(メタ)アクリル酸のエステル化物となっている化合物が好ましい。その他にはアクリル系樹脂骨格に反応性のアクリル基が結合されたものを始めとして、ポリエステルアクリレート、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレートおよびポリエーテルアクリレートなどであり、また、メラミンやイソシアヌル酸などの剛直な骨格にアクリル基を結合したものなども用いられ得るが、本発明では特にウレタン(メタ)アクリレートモノマーおよび/またはオリゴマーを用いると、ハードコート層の硬度ならびに可撓性を著しく向上させることができる。
【0024】
なお、本発明において「(メタ)アクリルモノマー」とは「アクリルモノマー」と「メタクリルモノマー」の両方を示している。たとえば、「多官能(メタ)アクリルモノマー」」は「多官能アクリルモノマー」と「多官能メタクリルモノマー」の両方を示している。また、本発明の多官能(メタ)アクリルモノマー(A)はオリゴマーであっても構わない。
【0025】
本発明にて好ましい多官能(メタ)アクリルモノマー(A)としてウレタンアクリレートとしては、一般にポリエステルポリオールにイソシアネートモノマー、もしくはプレポリマーを反応させて得られた生成物に水酸基を有するアクリレートモノマーを反応させ容易に形成されるものを挙げることができる。
【0026】
具体的な例としては、ペンタエリスリトールトリアクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー、ペンタエリスリトールトリアクリレートトルエンジイソシアネートウレタンプレポリマー、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートトルエンジイソシアネートウレタンプレポリマー、ペンタエリスリトールトリアクリレートイソホロンジイソシアネートウレタンプレポリマー、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートイソホロンジイソシアネートウレタンプレポリマーなどを用いることができる。また、これらの単量体は、1種または2種以上を混合して使用することができる。また、これらは塗液においてモノマーであってもよいし、一部が重合したオリゴマーであってもかまわない。
【0027】
市販されている多官能アクリル系モノマーとしては三菱レイヨン株式会社;(商品名“ダイヤビーム”シリーズなど)、ナガセケムテックス株式会社;(商品名“デナコール”シリーズなど)、新中村化学工業株式会社;(商品名“NKエステル”シリーズなど)、大日本インキ化学工業株式会社;(商品名“UNIDIC”シリーズなど)、東亜合成株式会社;(商品名“アロニックス”シリーズなど)、日本油脂株式会社;(商品名“ブレンマー”シリーズなど)、日本化薬株式会社;(商品名“KAYARAD”シリーズなど)、共栄社化学株式会社;(商品名“ライトエステル”シリーズ、“ライトアクリレート”シリーズなど)などの製品を利用することができる。
【0028】
本発明のハードコート層形成用組成物を構成する光ラジカル重合開始剤(B)としては、電離放射線を照射することでラジカルを発生し、アクリルモノマーの重合反応を開始する化合物が好ましい。
【0029】
光ラジカル重合開始剤(B)の具体的な例としては、アセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、p−ジメチルアセトフェノン、p−ジメチルアミノプロピオフェノン、ベンゾフェノン、2−クロロベンゾフェノン、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、4,4’−ビスジエチルアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンジル、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、p−イソプロピル−α−ヒドロキシイソブチルフェノン、α−ヒドロキシイソブチルフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンなどのカルボニル化合物、テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、チオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチルチオキサントンなどの硫黄化合物などを用いることができる。これらの光重合開始剤は単独で使用してもよいし、2種以上組み合せて用いてもよい。
【0030】
本発明の光ラジカル重合開始剤(B)の使用量は、ハードコート層形成用組成物の前記多官能(メタ)アクリルモノマー(A)と、前記水酸基を有する(メタ)アクリルモノマー(B)の合計に対して、0.01〜10重量%が適当である。0.01重量%より少ない場合は電離放射線を照射した際に十分な硬化反応が進行せず、10重量%を超える場合はハードコート層下部まで十分に電離放射線が届かなくなってしまう。
【0031】
本発明の重合性基を有する含フッ素化合物(C)の使用量は、ハードコート層形成用組成物の前記多官能(メタ)アクリルモノマー(A)と、前記水酸基を有する(メタ)アクリルモノマー(B)の合計に対して、0.01〜10重量%が適当である。0.01重量%よりも少ない場合は十分な防汚特性を発現せず、表面エネルギーも20mN/mよりも大きい値を示し、10重量%を超える場合は積層との密着性が悪くなり、耐擦傷性が低下し、面性不良などの不都合を招く場合がある。
【0032】
本発明のハードコート層形成用組成物を構成する重合性基を有する含フッ素化合物(C)としては、フッ素系添加剤を加えることでハードコート層表面に防汚特性を付与することが可能であるが、重合性基を有しないフッ素系添加剤では添加剤がハードコート層表面に浮いて存在する状態となるため、布等で拭くことでハードコート表面から取り去られてしまうこととなる。このことから、一度布等で表面を拭取ってしまうと、防汚性が無くなるという欠点を有している。本発明では、防汚特性を有するフッ素化合物に重合性基を持たせることで、ハードコート層形成時にフッ素系添加剤も合せて重合することとなり、布等で表面を拭いても防汚特性が維持されるという利点を有している。
【0033】
本発明の重合性基を有する含フッ素化合物(C)としては、さらに好ましくはこの重合性基が(メタ)アクリレート基を有する化合物である。これは多官能(メタ)アクリレート化合物と共重合することも可能となり、電離放射線によるラジカル重合によって高硬度化が図れるためである。
【0034】
このような本発明の重合性基を有する含フッ素化合物(C)としては、オプツールDAC(ダイキン工業(株)製)、SUA1900L10、SUA1900L6(新中村化学(株)製)、UT3971(日本合成(株)製)、ディフェンサTF3001、ディフェンサTF3000、ディフェンサTF3028(大日本インキ(株)製)、ライトプロコートAFC3000(共栄社化学(株)製)、KNS5300(信越シリコーン(株)製)、UVHC1105、UVHC8550(GE東芝シリコーン(株)製)などが挙げられる。
【0035】
本発明の重合性基を有する含フッ素化合物(C)の使用量は、ハードコート層形成用組成物の前記多官能(メタ)アクリルモノマー(A)と、前記水酸基を有する(メタ)アクリルモノマー(B)の合計に対して、0.01〜10重量%が適当である。0.01重量%よりも少ない場合は十分な防汚特性を発現せず、表面エネルギーも20mN/mよりも大きい値を示し、10重量%を超える場合は重合性モノマー、溶剤との相溶性が良くないために、塗液の白濁化、沈殿発生が起こってしまい、塗液・ハードコート層の欠陥発生などの不都合を招く場合がある。
【0036】
また本発明では、ハードコート層の改質剤として、塗布性改良剤、消泡剤、増粘剤、帯電防止剤、無機系粒子、有機系粒子、有機系潤滑剤、有機高分子化合物、紫外線吸収剤、光安定剤、染料、顔料あるいは安定剤などを用いることができ、これらは活性線による反応を損なわない範囲内でハードコート層を構成する塗布層の組成物成分として使用され、用途に応じてハードコート層の特性を改良することができる。
【0037】
本発明では、帯電性を有する金属酸化微粒子(D)をハードコート層形成組成分として用いており、別に一層帯電防止層を形成することなく、低コストかつ簡便に帯電防止機能を付与できる。
【0038】
本発明では、帯電性を有する金属酸化微粒子(D)の使用量は、ハードコート層形成用組成物の前記多官能(メタ)アクリルモノマー(A)に対して、1.0〜10重量%が適当である。1.0重量%より少ない場合は帯電防止性が十分発現できず、埃などが付着しやすい問題がある。10重量%を超える場合は、帯電性を有する金属酸化微粒子の凝集がおこり、膜面の欠陥異物が生じるなどの不具合を招く場合がある。
【0039】
本発明において、上記のハードコート層形成用組成物を硬化させる方法としては、活性線、特に紫外線を照射する方法が好適であり、これらの方法を用いる場合には、前記ハードコート層形成用組成物に、光ラジカル重合開始剤を加えることにより紫外線照射にて硬化させることができる。紫外線照射においては、400nm以下の波長を含む光であれば良く、例えば超高圧水銀灯、高圧水銀灯、中圧水銀灯、低圧水銀灯、キセノンランプ、ハロゲンランプ等を用いることができる。また、必要に応じて加熱工程を加えてもよい。
【0040】
本発明のハードコート層形成用組成物は、基材上に塗布しハードコート層を形成することによりハードコートフィルムとすることができる。
【0041】
ハードコート層形成用組成物の塗布方法としては、ハードコート層形成用組成物をバーコーター、アプリケーター、ドクターブレード、ロールコーター、ダイコーター、コンマーコーター等の公知の塗工手段を用いて塗布することができる。
【0042】
このとき、ハードコート層形成用組成物には、必要に応じて溶媒が加えられる。溶媒としては、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジプロピルケトン、シクロペンタノン、メチルシクロヘキサノン、エチルシクロヘキサノン、2−ブタノン、蟻酸エチル、蟻酸プロピル、蟻酸n−ペンチル、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酢酸n−ペンチル、およびγ−プチロラクトン、酢酸イソブチル、酢酸ブチル、トルエン、キシレン、2−プロパノール、1−ブタノール、シクロペンタノール、ジアセトンアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジブチルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、プロピレンオキシド、ジオキサン、ジオキソラン、トリオキサン、テトラヒドロフラン、アニソール、フェネトール、メチルセロソルブ、セロソルブ、ブチルセロソルブ、セロソルブアセテート、ジクロロメタン、トリクロロメタン、トリクロロエチレン、エチレンクロライド、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、N,N−ジメチルホルムアミド、クロロホルム等を用いることができる。なお、溶媒は1種類に限定されるものではなく、複数の溶媒を混合して混合溶媒としてもよい。
【0043】
基材としては、透光性を有するフィルム状のものが好ましく、基材として適度の透明性、機械強度を有していれば良い。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、三酢酸セルロース(TAC)、ジアセチルセルロース、アセチルセルロースブチレート、ポリエチレンナフタレート(PEN)、シクロオレフィンポリマー、ポリイミド、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)等のフィルムを用いることができる。中でも、液晶ディスプレイの前面にハードコートフィルムを設ける場合、三酢酸セルロース(TAC)は光学異方性がないため、好ましく用いられる。
【0044】
本発明では、防汚特性を有するハードコートフィルムを提供するものである。図1に本発明のハードコートフィルムの説明断面図を示した。本発明のハードコートフィルムにあっては、最外層にハードコート層を備える。このとき、本発明のハードコートフィルムはハードコート層表面の表面エネルギーが20mN/m以下であることが好ましい。
【0045】
これはハードコート層表面の防汚特性の評価方法の指標として、表面自由エネルギーがあり、この表面エネルギーによりハードコート表面の防汚性の有無・大小を推測することが出来る。この表面自由エネルギーは表面接触角から拡張Fowkesの式で求めることができ、この値が小さいほうが防汚特性が良好である。本発明のハードコートフィルムにあっては、表面エネルギーが20mN/m以下であるため、高い防汚特性を有するハードコートフィルムとすることができる。
【0046】
ハードコート層表面の帯電防止特性を評価する指標として、表面の電気抵抗値があり、これは1.0E+11[Ω]以下であることが望ましい。これより値が大きい場合、表面に埃が付着する等の不具合が起こる場合がある。本発明のハードコートフィルムの表面抵抗値は5.0E+09〜2.0E+10[Ω]であるため、高い帯電防止性を有している。
【0047】
塗布して得られたハードコート層の膜厚は、必要とされる硬度によりその膜厚が決定されるが、好ましい膜厚としては3〜10μmである。3μm未満の膜厚では十分な硬度が得られず、一方、10μmを超えるとハードコート層の硬化収縮により基材が非常にカールしてしまい、次工程で破断等の不具合が発生してしまう。
【0048】
本発明のハードコートフィルムには、必要に応じて、機能層が設けられる。機能層は透明基材とハードコート層の間もしくはハードコート層が設けられていない側の透明基材表面に設けられる。これらの機能層としては、反射防止層、防眩層、電磁波遮蔽層、赤外線吸収層、紫外線吸収層、色補正層等が挙げられる。なお、これらの機能層は単層であってもかまわないし、複数の層であってもかまわない。透明基材上にハードコート層が形成されたハードコートフィルム、及び、さらにこれらの機能層を設けたハードコートィルムは、例えば、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、CRTディスプレイといった各種のディスプレイ表面と貼りあわせることができ、耐擦傷性と防汚性に優れたディスプレイを提供することが可能となる。
【実施例】
【0049】
以下に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0050】
<実施例1>
厚さ80μmの三酢酸セルロースフィルム基材を用い、
・ウレタンアクリレート:UV−1700B(日本合成化学) 79.5重量部
・開始剤:イルガキュアー184(チバスペシャリティケミカルズ) 10.0重量部
・フッ素系添加剤:デイフェンサTF3001(DIC) 0.5重量部
・金属酸化微粒子:ATOの微粒子 10.0重量部
を溶剤(MEK/EtOH)と混合・攪拌した塗布液を、バーコート法により硬化膜厚5μmになるように塗布、乾燥させ、メタルハライドランプにより400mJ/cmの紫外線を照射しハードコート層を形成した。このハードコートフィルムの全光線透過率、Haze、耐擦傷性試験、鉛筆硬度、表面抵抗値、防汚性特性の測定結果を(表1)にまとめて示す。
【0051】
<実施例2>
厚さ80μmの三酢酸セルロースフィルム基材を用い、
・ウレタンアクリレート:UV−1700B(日本合成化学) 79.5重量部
・開始剤:イルガキュアー184(チバスペシャリティケミカルズ) 10.0重量部
・フッ素系添加剤:オプツールDAC(ダイキン工業) 0.5重量部
・金属酸化微粒子:ATOの微粒子 10.0重量部
を溶剤(MEK/EtOH)と混合・攪拌した塗布液を、バーコート法により硬化膜厚5μmになるように塗布、乾燥させ、メタルハライドランプにより400mJ/cmの紫外線を照射しハードコート層を形成した。このハードコートフィルムの全光線透過率、Haze、耐擦傷性試験、鉛筆硬度、表面抵抗値、防汚性特性の測定結果を(表1)にまとめて示す。
【0052】
<実施例3>
厚さ80μmの三酢酸セルロースフィルム基材を用い、
・ウレタンアクリレート:UV−1700B(日本合成化学) 81.5重量部
・開始剤:イルガキュアー184(チバスペシャリティケミカルズ) 10.0重量部
・フッ素系添加剤:オプツールDAC(ダイキン工業) 0.5重量部
・金属酸化微粒子:ATOの微粒子 8.0重量部
を溶剤(MEK/EtOH)と混合・攪拌した塗布液を、バーコート法により硬化膜厚5μmになるように塗布、乾燥させ、メタルハライドランプにより400mJ/cmの紫外線を照射しハードコート層を形成した。このハードコートフィルムの全光線透過率、Haze、耐擦傷性試験、鉛筆硬度、表面抵抗値、防汚特性の測定結果を(表1)にまとめて示す。
【0053】
<実施例4>
厚さ80μmの三酢酸セルロースフィルム基材を用い、
・ウレタンアクリレート:UV−1700B(日本合成化学) 79.5重量部
・開始剤:esacure 150(Lamberti) 10.0重量部
・フッ素系添加剤:オプツールDAC(ダイキン工業) 0.5重量部
・金属酸化微粒子:ATOの微粒子 10.0重量部
を溶剤(MEK/EtOH)と混合・攪拌した塗布液を、バーコート法により硬化膜厚5μmになるように塗布、乾燥させ、メタルハライドランプにより400mJ/cmの紫外線を照射しハードコート層を形成した。このハードコートフィルムの全光線透過率、Haze、耐擦傷性試験、鉛筆硬度、表面抵抗値、防汚特性の測定結果を(表1)にまとめて示す。

【0054】
<実施例5>
厚さ80μmの三酢酸セルロースフィルム基材を用い、
・ウレタンアクリレート:UA−306H(共栄社化学) 79.5重量部
・開始剤:イルガキュアー184(チバスペシャリティケミカルズ) 10.0重量部
・フッ素系添加剤:デイフェンサTF3001(DIC) 0.5重量部
・金属酸化微粒子:ATOの微粒子 10.0重量部
を溶剤(MEK/EtOH)と混合・攪拌した塗布液を、バーコート法により硬化膜厚5μmになるように塗布、乾燥させ、メタルハライドランプにより400mJ/cmの紫外線を照射しハードコート層を形成した。このハードコートフィルムの全光線透過率、Haze、耐擦傷性試験、鉛筆硬度、表面抵抗値、防汚特性の測定結果を(表1)にまとめて示す。
【0055】
<比較例1>
厚さ80μmの三酢酸セルロースフィルム基材を用い、
・ウレタンアクリレート:UV−1700B(日本合成化学) 89.5重量部
・開始剤:イルガキュアー184(チバスペシャリティケミカルズ) 10.0重量部
・フッ素系添加剤:オプツールDAC(ダイキン工業) 0.5重量部
を溶剤(MEK/EtOH)と混合・攪拌した塗布液を、バーコート法により硬化膜厚5μmになるように塗布、乾燥させ、メタルハライドランプにより400mJ/cmの紫外線を照射しハードコート層を形成した。このハードコートフィルムの全光線透過率、Haze、耐擦傷性試験、鉛筆硬度、表面抵抗値、防汚特性の測定結果を(表1)にまとめて示す。

【0056】
<比較例2>
厚さ80μmの三酢酸セルロースフィルム基材を用い、
・ウレタンアクリレート:UV−1700B(日本合成化学) 74.5重量部
・開始剤:イルガキュアー184(チバスペシャリティケミカルズ) 10.0重量部
・フッ素系添加剤:オプツールDAC(ダイキン工業) 0.5重量部
・金属酸化微粒子:ATOの微粒子 15.0重量部
を溶剤(MEK/EtOH)と混合・攪拌した塗布液を、バーコート法により硬化膜厚5μmになるように塗布、乾燥させ、メタルハライドランプにより400mJ/cmの紫外線を照射しハードコート層を形成した。このハードコートフィルムの全光線透過率、Haze、耐擦傷性試験、鉛筆硬度、表面抵抗値、防汚特性の測定結果を(表1)にまとめて示す。
【0057】
<比較例3>
厚さ80μmの三酢酸セルロースフィルム基材を用い、
・ウレタンアクリレート:UV−1700B(日本合成化学) 79.5重量部
・開始剤:イルガキュアー184(チバスペシャリティケミカルズ) 10.0重量部
・シリコーン系添加剤:BYK−UV3500(ビックケミー) 0.5重量部
・金属酸化微粒子:ATOの微粒子 10.0重量部
を溶剤(MEK/EtOH)と混合・攪拌した塗布液を、バーコート法により硬化膜厚5μmになるように塗布、乾燥させ、メタルハライドランプにより400mJ/cmの紫外線を照射しハードコート層を形成した。このハードコートフィルムの全光線透過率、Haze、耐擦傷性試験、鉛筆硬度、表面抵抗値、防汚特性の測定結果を(表1)にまとめて示す。
【0058】
<比較例4>
厚さ80μmの三酢酸セルロースフィルム基材を用い、
・ウレタンアクリレート:UV−1700B(日本合成化学) 78.0重量部
・開始剤:イルガキュアー184(チバスペシャリティケミカルズ) 10.0重量部
・フッ素系添加剤:オプツールDAC(ダイキン工業) 2.0重量部
・金属酸化微粒子:ATOの微粒子 10.0重量部
を溶剤(MEK/EtOH)と混合・攪拌した塗布液を、バーコート法により硬化膜厚5μmになるように塗布、乾燥させ、メタルハライドランプにより400mJ/cmの紫外線を照射しハードコート層を形成した。このハードコートフィルムの全光線透過率、Haze、耐擦傷性試験、鉛筆硬度、表面抵抗値、防汚特性の測定結果を(表1)にまとめて示す。
【0059】
<比較例5>
厚さ80μmの三酢酸セルロースフィルム基材を用い、
・ウレタンアクリレート:UV−1700B(日本合成化学) 84.5重量部
・開始剤:イルガキュアー184(チバスペシャリティケミカルズ) 5.0重量部
・フッ素系添加剤:オプツールDAC(ダイキン工業) 0.5重量部
・金属酸化微粒子:ATOの微粒子 10.0重量部
を溶剤(MEK/EtOH)と混合・攪拌した塗布液を、バーコート法により硬化膜厚5μmになるように塗布、乾燥させ、メタルハライドランプにより400mJ/cmの紫外線を照射しハードコート層を形成した。このハードコートフィルムの全光線透過率、Haze、耐擦傷性試験、鉛筆硬度、表面抵抗値、防汚特性の測定結果を(表1)にまとめて示す。
【0060】
上記作製したハードコートフィルムの性能は,下記の方法に従って評価した。
【0061】
「ヘイズ測定」
ヘイズ測定においては、日本電色製NDH−2000を用いJIS−K7105に準じ測定を行った。
【0062】
「全光線透過率測定」
全光線透過率においては、日本電色製NDH−2000を用いJIS−K7105に準じ測定を行った。
【0063】
「鉛筆硬度試験」
鉛筆硬度試験においては、JIS−K5400に準じ評価を行った。
【0064】
「耐擦傷性試験」
耐擦傷性試験においては、#0000のスチールウールを用いて200g/cmの荷重をかけながら10往復し、傷の発生の有無を確認した。試験判定は、傷無しを「○」とし、傷有りを「×」とした。
【0065】
「表面抵抗値測定」
表面抵抗値測定においては、表面抵抗測定機ハイレスターを用いて、500V−10sにて測定を行った。
【0066】
「防汚性評価」
防汚特性の評価としては、ハードコート表面に指紋をつけ、セルロース製不織布(ペンコットM−3:旭化成(株)製)を用いて250g/cmの荷重をかけながら指紋を拭取り、その取れ易さを目視判定にて行った。
【0067】
判定基準は次の通りとした。
○:指紋を完全に拭き取ることができる。
△:指紋の拭き取り跡が残る。
×:指紋を拭き取ることができない。
【0068】
以上の実施例1から5、比較例1から5の評価結果を以下の(表1)にまとめて示す。
【0069】
【表1】

【0070】
(実施例1)と(実施例3)、及び(比較例1)と(比較例2)の比較から、ATOの微粒子の含有量が異なることにより、表面抵抗値及び面性に影響を及ぼすことが分かる。含有量が少ない場合AS性が不十分であり、多すぎると異物欠陥による面性不良の要因となる。
【0071】
(実施例1)と(実施例4)、及び(比較例5)の比較から、開始剤が異なることにより表面抵抗値が異なり、含有量が少ない場合、耐擦傷性及び鉛筆硬度が低下することが分かる。
【0072】
(実施例1)と(実施例2)、及び(比較例3),(比較例4)の比較から、添加剤の種類により、防汚性が異なることが分かる。また、添加量が多すぎると耐擦傷性の低下、及び面性不良の不具合が生じることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材の少なくとも一方の面にハードコート層を積層したハードコートフィルムにおいて、
前記ハードコート層が、多官能(メタ)アクリルモノマー(A)と、光ラジカル重合開始剤(B)と、重合性基を有する含フッ素化合物(C)と帯電性を有する金属酸化微粒子(D)を含み、金属酸化微粒子(D)の添加量が前記多官能(メタ)アクリルモノマー(A)に対して1.0〜10.0重量%からなるハードコート層形成用組成物を用いて形成され、
且つ、前記ハードコート層表面の表面自由エネルギーが15mN/m〜20mN/m以下であり、表面抵抗値が5E+10Ω〜2.0E+10Ω以下であり、さらに、ハードコート層の膜厚が3〜10μmであることを特徴とするハードコートフィルム。
【請求項2】
前記多官能(メタ)アクリルモノマー(A)が、ウレタン(メタ)アクリレートを主成分とすることを特徴とする請求項1に記載のハードコートフィルム。
【請求項3】
前記重合性基を有する含フッ素化合物(C)の添加量が、前記多官能(メタ)アクリルモノマー(A)の合計に対して0.01〜10.0重量%であることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載のハードコートフィルム。
【請求項4】
前記光ラジカル重合開始剤(B)の添加量が、前記多官能(メタ)アクリルモノマー(A)に対して0.01〜10重量%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のハードコートフィルム。
【請求項5】
前記帯電性を有する金属酸化微粒子(D)が、SnO、ATO、ITO等のうち一種類以上からなる金属微粒子を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のハードコートフィルム。

【図1】
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【公開番号】特開2011−174975(P2011−174975A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−37122(P2010−37122)
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】