説明

ハードディスク用ガラス基板の製造方法

【課題】研磨工程において、ガラス基板の微小うねりを悪化させることなく高精度に制御でき、かつガラス基板へのダメージ傷の付着が抑制可能なハードディスク用ガラス基板の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】研磨スラリー粒子を含む研磨スラリーを用いてガラス基板表面の研磨を行う研磨工程を含むハードディスク用ガラス基板の製造方法であって、前記研磨工程において、前記研磨スラリー粒子の実効粒子径を経時的に変化させる処理を用いることを特徴とするハードディスク用ガラス基板の製造方法。前記処理は、前記研磨スラリー粒子の表面電位を経時的に変化させる手段により行うことが好適である。また、前記手段は、交流電流を前記研磨スラリー粒子へ印加することが好適である。また、前記手段は、前記研磨スラリーのpHを変化させることが好適である。また、前記手段が、交流電流を前記研磨スラリー粒子へ印加すること、かつ、前記研磨スラリーのpHを変化させることが好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードディスク用ガラス基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気情報記録装置は、磁気、光及び光磁気等を利用することによって、情報を情報記録媒体に記録させるものである。その代表的なものとしては、例えば、ハードディスクドライブ装置等が挙げられる。ハードディスクドライブ装置は、基板上に記録層を形成した情報記録媒体としての磁気ディスクに対し、磁気ヘッドによって磁気的に情報を記録する装置である。このような情報記録媒体の基材、いわゆるサブストレートとしては、ガラス基板が好適に用いられている。
【0003】
また、ハードディスクドライブ装置は、磁気ヘッドを磁気ディスクに接触することなく、磁気ディスクに対し僅か数nm程度浮上させ、高速回転させながら磁気ディスクに情報を記録させている。さらに、近年においては、ますますハードディスクの記録密度が向上しており、それに伴って磁気ヘッドと磁気ディスクの差(以下、ヘッド浮上量という。)が小さくなってきている。特に、DFH(Dynamic Flying Hight)機構を有するようなハードディスクにおいては、ヘッドの記録再生素子部がヘッドの浮上量を制御するABS(Air Bearing Surface)面から電気的制御により任意の高さで飛び出すことが可能となる機能を有しており、ヘッドの記録再生素子部表面と磁気ディスク表面との間隔がヘッド浮上量よりさらに小さい3nm以下とすることで、記録層と記録再生性素子の実効間隔を小さくし、ヘッドの記録再生能力を高めたものが開発されている。しかしながら、前記DFH機構においては、ヘッド浮上量に対して素子部がさらに突出して磁気ディスクに近付くことで、極めて小さいクリアランスとなるため、数十nmの付着物が残っていた場合でもヘッドクラッシュやサーマルアスペリティが生じるといった問題が頻発していた。
【0004】
ヘッドクラッシュとは、磁気ヘッドと、ガラス基板上に磁性膜をつけたメディアとが衝突することである。また、サーマルアスペリティとは、磁気ディスク上の微小な凸形状又は凹形状を磁気ヘッドが浮上飛行しながら通過する際に、空気の断熱圧縮または接触により磁気抵抗効果型素子が加熱されることにより、読み出しエラーが生じる障害のことである。
【0005】
また、近年のハードディスクドライブ装置は、その記録密度が向上していることにより、そのハードディスクに使用される基板の表面清浄性の高いものが要求されてきている。この基板の表面清浄性を高めるために、研削工程後において、微細なスラリー粒子による複数回に及ぶ研磨加工を施されてきた。
【0006】
特許文献1には、ガラス素板の表面を平滑に粗研磨するための1次研磨処理を施す工程と、粗研磨されたガラス素板の表面をさらに平滑に精密研磨するための2次研磨処理を施す工程との2工程に分けて研磨が行われていることが開示されている。
【0007】
しかしながら、各工程を異なる装置にて研磨を行うと、その都度、研磨パッド状態の変化や加工機の状態の影響を受けてしまい、ガラス基板表面の微小うねりが悪化するという問題が生じてしまう。また、基板のセッティング回数が増える度にハンドリングキズが増加してしまい、セッティング作業回数が多くなることで生産性が上がらず欠陥品質やコストの面でも不利となっていた。
【0008】
また、特許文献2には、被研磨基板を研磨する研磨装置において、スラリー供給槽及び供給ノズルに電界を印加させて、スラリー粒子を分散させていることが開示されている。しかしながら、前記技術は、スラリー粒子の表面電位の大きさに関わらず、スラリーに対して一定値の電界を印加させているため、スラリーの実効粒子径を制御しきれない。その結果、実効粒子径が大きい場合には、加工レートが上がる一方でガラス基板へのダメージによる傷が発生してしまう。また、実効粒子径が小さい場合には、表面平滑性が上がるが、加工レートが十分確保できず、所望の表面うねりが得られなかったり、研削工程等での欠陥除去が十分に行えないなどの問題がある。なお、前記技術は、被研磨基板として、半導体基板に配線及び絶縁膜を形成させたものを用いており、ガラス基板の研磨方法に関する記載はなされていない。
【0009】
さらに、特許文献3には、研磨速度を向上させるために、研磨スラリー中のシリカ粒子のゼータ電位を−15〜40mVとし、さらに研磨スラリーのpHを9以下に調整したものを用いている。しかしながら、酸性域でのスラリーを使用することで研磨レートは向上しているが、スラリー粒子の分散性が不安定になり、粒子が凝集することにより表面粗さや、ダメージによる傷が発生してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−213716号公報
【特許文献2】特開平11−156718号公報
【特許文献3】特許第4414292号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、その解決すべき課題は、研磨工程において、ガラス基板の微小うねりを悪化させることなく高精度に制御でき、かつガラス基板へのダメージ傷の付着が抑制可能なハードディスク用ガラス基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するために、本発明者らは、研磨工程にて用いられる研磨スラリー中のスラリー粒子の表面電位に着目し、鋭意検討を行った。この結果、研磨スラリー中のスラリー粒子へ交流電流を印加させること、及び/又は研磨スラリーのpHを変化させることによって、スラリー粒子の実効粒子径を無段階的に操作することが可能となり、加工進行に応じてスラリーと研磨パッドとの接触圧力や潤滑性を制御できることから、ガラス基板の微小うねりを高精度に制御でき、かつガラス基板へのダメージ傷の付着が抑制可能なハードディスク用ガラス基板を製造し得ることを見出した。また、研磨工程の回数を1回に減少させることで、扱い時におけるガラス基板の傷発生を低減させることができることを見出した。
【0013】
本発明に係るハードディスク用ガラス基板の製造方法は、研磨スラリー粒子を含む研磨スラリーを用いてガラス基板表面の研磨を行う研磨工程を含むハードディスク用ガラス基板の製造方法であって、前記研磨工程において、前記研磨スラリー粒子の実効粒子径を経時的に変化させる処理を用いることを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明に係るハードディスク用ガラス基板の製造方法において、前記処理が、前記研磨スラリー粒子の表面電位を経時的に変化させる手段により行うことが好適である。
【0015】
また、本発明に係るハードディスク用ガラス基板の製造方法において、前記手段が、交流電流を前記研磨スラリー粒子へ印加することが好適である。
【0016】
また、本発明に係るハードディスク用ガラス基板の製造方法において、前記手段が、前記研磨スラリーのpHを変化させることが好適である。
【0017】
また、本発明に係るハードディスク用ガラス基板の製造方法において、前記手段が、交流電流を前記研磨スラリー粒子へ印加すること、かつ、前記研磨スラリーのpHを変化させることが好適である。
【0018】
また、本発明に係るハードディスク用ガラス基板の製造方法において、前記研磨スラリー粒子の表面電位を時間的に変化させることであって、前記研磨スラリーのpHを5以上変化させることが好適である。
【0019】
また、本発明に係るハードディスク用ガラス基板の製造方法において、前記研磨工程は、1次研磨工程と2次研磨工程とを含み、1次研磨工程から2次研磨工程に至る過程において、前記研磨スラリー粒子の表面電位を10mV以上から−5mV以下へ減少させることが好適である。
【0020】
また、本発明に係るハードディスク用ガラス基板の製造方法において、前記スラリー粒子の表面電位を20mV以上変化させることが好適である。また、本発明に係るハードディスク用ガラス基板の製造方法において、前記研磨工程が、前記2次研磨工程の後、さらに1次研磨工程を含むことが好適である。
【0021】
また、本発明に係るハードディスク用ガラス基板の製造方法において、前記研磨スラリー粒子の実効粒子径を制御する手段が、研磨工程の開始から終了の間にかけて行われることが好適である。
【0022】
また、本発明に係るハードディスク用ガラス基板の製造方法において、前記研磨工程の前後に化学強化工程をさらに備えることが好適である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、研磨スラリーの実効粒子径を変化させることが可能になることで、研磨工程段階を低減でき、ガラス基板の微小うねりを悪化させることなく高精度に制御でき、かつガラス基板へのダメージ傷の付着が抑制可能なハードディスク用ガラス基板の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本実施形態に係るハードディスク用ガラス基板の製造方法における研磨工程で用いる研磨装置の一例を示す概略断面図である。
【図2】本実施形態に係るハードディスク用ガラス基板の製造方法により製造されるハードディスク用ガラス基板を示す上面図である。
【図3】本実施形態に係るハードディスク用ガラス基板の製造方法により製造されたハードディスク用ガラス基板を用いた磁気記録媒体の一例である磁気ディスクを示す一部断面斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る実施形態について説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0026】
本実施形態に係るハードディスク用ガラス基板の製造方法は、研磨スラリー粒子を含む研磨スラリーを用いてガラス基板表面の研磨を行う研磨工程を含むハードディスク用ガラス基板の製造方法であって、前記研磨工程において、前記研磨スラリー粒子の実効粒子径を経時的に変化させる処理を用いることを特徴とする。
【0027】
また、本実施形態に係るハードディスク用ガラス基板の製造方法は、研磨工程において前述のような実効粒子径を経時的に変化させる手段を備えていれば、特に限定されない。具体的には、交流電流を前記研磨スラリー粒子へ印加し、前記スラリー粒子の表面電位を時間的に20mV以上変化させること、及び/又は前記研磨スラリーのpHを5以上変化させることにより、前記研磨スラリー粒子の表面電位を時間的に変化させること以外は、特に限定されず、従来公知の製造方法であればよい。
【0028】
ハードディスク用ガラス基板の製造方法としては、例えば、円盤加工工程、ラッピング工程、研磨工程、洗浄工程、化学強化工程等を備える方法等が挙げられる。そして、前記各工程を、この順番で行うものであってもよいし、これら以外の工程を備える方法であってもよい。例えば、ラッピング工程と研磨工程との間に、端面研磨工程を行うものであってもよい。
【0029】
ここで、本発明の製造方法における研磨工程について詳述する。
<研磨工程>
前記研磨工程は、後述するラッピング工程が施されたガラス素板の表面に研磨を施す工程である。この研磨は、上述したラッピング工程で残留した傷や歪みの除去を目的とするもので、下記の研磨方法を用いて実施する。
【0030】
なお、前記研磨工程で研磨する表面は、主表面及び/又は端面である。主端面とは、ガラス素板の面方向に平行な面である。端面とは内周端面と外周端面とからなる面のことである。また、内周端面とは、内周側の、ガラス素板の面方向に垂直な面及びガラス素板の面方向に対して傾斜を有する面である。また、外周端面とは、外周側の、ガラス素板の面方向に垂直な面及びガラス素板の面方向に対して傾斜を有する面である。
【0031】
研磨工程で用いる研磨装置は、ガラス基板の製造に用いる研磨装置であれば、特に限定されない。具体的には、図1に示すような研磨装置1が挙げられる。なお、図1は、本実施形態に係るハードディスク用ガラス基板の製造方法における研磨工程で用いる研磨装置1の一例を示す概略断面図である。
【0032】
図1に示すような研磨装置1は、両面同時研削可能な装置である。また、この研磨装置1は、装置本体部1aと、装置本体部1aに研磨スラリー(研磨液)を供給する研磨スラリー供給部1bとを備えている。
【0033】
装置本体部1aは、円盤状の上定盤2と円盤状の下定盤3とを備えており、それらが互いに平行になるように上下に間隔を隔てて配置されている。そして、円盤状の上定盤2と円盤状の下定盤3とが、互いに逆方向に回転する。
【0034】
この円盤状の上定盤2と円盤状の下定盤3との対向するそれぞれの面にガラス素板10の表裏の両面を研磨するための研磨パッド4が貼り付けられている。この粗研磨工程で使用する研磨パッド4は、粗研磨工程で用いられる研磨パッドであれば、特に限定されない。具体的には、例えば、ポリウレタン製の硬質研磨パッド等が挙げられる。
【0035】
また、円盤状の上定盤2と円盤状の下定盤3との間には、回転可能な複数のキャリア5が設けられている。このキャリア5は、複数の素板保持用孔が設けられており、この素板保持用孔にガラス素板10をはめ込んで配置することができる。キャリア5としては、例えば、素板保持用孔を100個有していて、100枚のガラス素板10をはめ込んで配置できるように構成されていてもよい。そうすると、一回の処理(1バッチ)で100枚のガラス素板10を処理できる。
【0036】
研磨パッドを介して定盤2、3に挟まれているキャリア5は、複数のガラス素板10を保持した状態で、自転しながら定盤2,3の回転中心に対して下定盤3と同じ方向に公転する。なお、円盤状の上定盤2と円盤状の下定盤3とは、別駆動で動作することができる。このように動作している研磨装置1において、研磨スラリー11を上定盤2とガラス素板10との間、及び下定盤3とガラス素板10との間、夫々に供給することでガラス素板10の研磨を行うことができる。
【0037】
研磨スラリー供給部1bは、研磨スラリー11を入れた容器とポンプ8とを備えている。すなわち、容器内の研磨スラリー11をポンプ8によって定盤2,3内に供給し、循環させる。該循環中に生じる、上下の定盤2,3の研削面が削られた切子を、それぞれの研削面から除去する。具体的には、研磨スラリー11を循環させる際に、下定盤3内に設けられたフィルタで濾過し、そのフィルタに切子を滞留させる。
【0038】
また、ここで用いる研磨パッド4は、ウレタンやポリエステル等の合成樹脂の発泡体に、酸化セリウム研磨剤を含有させたものである。また、前記研磨パッド4は、酸化セリウムの他に、ケイ酸ジルコニウム、酸化ジルコニウム、酸化マンガン、酸化鉄、酸化アルミニウム、炭化ケイ素又は二酸化ケイ素を含有させることができ、これらのなかでもケイ酸ジルコニウムを含有させることがより好ましい。
【0039】
電界印加手段6の電極構成は、コイル状電極による誘導結合構成となっているが、一対の平板電極による容量結合、アンテナを用いる構成等、研磨スラリーに有効な電界が印加し得る構成であれば種類を問わない。電界印加手段の電源としては、直流、交流のいずれでもよいが、研磨スラリーの分散効率の面からは交流が好ましい。
【0040】
また、電界印加手段6の配置は、図1のような供給ノズルに限らず、研磨スラリー供給部1b、または研磨装置11の上定盤12又は下定盤13でもよい。
【0041】
本発明のハードディスク用ガラス基板の製造方法は、前述の研磨装置1にて研磨スラリー粒子を含む研磨スラリーを用いた研磨工程を含んでおり、この研磨工程では、研磨スラリー粒子の実効粒子径を経時的に変化させる処理を用いている。
【0042】
ここで、従来の研磨工程においては、ラッピング工程で残留した傷や歪みを除去する粗研磨工程と、この粗研磨工程で得られた平坦平滑な主表面を維持しつつ、主表面の表面粗さを微小なものとし、平滑な鏡面に仕上げる精密研磨工程とを組み合わせて行われることが知られている。また、精密研磨工程後に、さらに3次工程として研磨材を替えて超精密研磨工程が行われることもある。
【0043】
このような粗研磨工程と精密研磨工程とでは、通常、主に使用する研磨パッドや研磨材が異なる。これは、各処理を経る毎に研磨されたガラス素板の平滑性を段階的に向上させるためである。そして、各処理において最適な研磨パッド、研磨剤等を使用するために、それぞれの処理で研磨装置が一台ずつ割り当てられる。
【0044】
従って、従来の研磨工程にて研磨すると、研磨パッド状態の変化や研磨装置の状態の影響をその都度受けることになり、ガラス基板表面の微小うねりに満足のいくものが得られていたものとはいい難かった。加えて、基板のセッティング回数が増えるために、ハンドリングキズの増加が避けられず、さらに作業回数が多くなることで生産性が上がらず欠陥品質やコストの点でも改善の余地があった。
【0045】
これらの問題点に鑑み、本発明者らが、ハードディスク用ガラス基板の製造方法における好適な研磨処理について検討を行ったところ、研磨スラリー粒子の分散又は凝集状態を変化させれば、一台の研磨装置にて一段階の研磨工程を経ることで、上述のような粗研磨工程と精密研磨工程のような複数段階の研磨機能と同様の効果を発揮し得ることを見出した。
【0046】
さらに、本発明によれば、従来行われていた異なる研磨装置での2段階研磨に比較して加工ワークのセッティング回数を減少することで扱いキズの発生を低減し、さらに、従来行われていた実効粒子径がステップ的に変化する2段階研磨に比較して実効粒子径を無段階的に変化させることが可能となるので、加工進行に応じてスラリーとワークの接触圧力や潤滑性を制御することが可能となり、基板の微小うねりを悪化させることなく、高精度に制御して研磨加工を行うことが可能になる。さらに、スラリーの表面電位に応じてスラリーの実効粒子径を制御出来るため、基板へのダメージキズ、付着の抑制を高めることが可能になる。
【0047】
ここで、実効粒子径とは、研磨スラリー粒子1個の粒径ではなく、ガラス基板の研磨を行う上で実際にガラス基板と接触する研磨スラリー粒子の平均凝集粒径である。
【0048】
すなわち、本発明のハードディスク用ガラス基板の製造方法における研磨工程では、研磨スラリー粒子の実効粒子径を経時的に変化させる処理として、研磨スラリー粒子の表面電位を経時的に変化させる手段を行う。前記手段としては、研磨スラリー粒子へ可変制御手段により交流電流を印加することで表面電位を変化させることができる。前記可変制御手段は、種々の可変制御装置を用いて、交流電流の振幅を時間的に制御すること、スラリー粒子のpHを時間的に制御すること等が挙げられる。
【0049】
印加電圧は、電界印加手段6の電極構成は、電極間放電等が起こらない電圧範囲、例えば数十V〜数千Vが選ばれる。また交流の場合の周波数は、数Hz〜数万Hzの範囲から選ばれる。なお、交流電流印加装置は、例えば、エスケーエイ株式会社のウォーターウォッチャーが好適に用いられる。
【0050】
具体的には、上記交流電流印加装置及び可変制御装置を用いて、研磨スラリー粒子に対してマイナスの電荷を付与することによって、該スラリー粒子が凝集し、その実効粒子径が大きくなる。一方で、プラスの電荷を付与すると、スラリー粒子が分散し、実効粒子径は小さくなる。
【0051】
また、研磨スラリー粒子の表面電位を経時的に変化させる手段としては、研磨スラリーのpHを変化させることで行われる。研磨スラリー粒子の表面電位を変化させるには、前記研磨スラリーのpHを5以上、好ましくは7以上変化させることで可能となる。研磨スラリーのpH変化が5未満であると、研磨スラリー粒子の実効粒子径を容易に調整できないことがある。
【0052】
具体的には、研磨スラリーに対して、ゼータ電位調整剤を配合させることで研磨スラリー粒子の表面電位を経時的に変化させることができる。例えば、研磨液組成物中に含有する研磨スラリー粒子表面のゼータ電位が25mVを超える場合、ゼータ電位調整剤としては、酸、酸性塩及びアニオン活性剤を使用することでゼータ電位をマイナス側にシフトさせる。ゼータ電位をマイナス側になることで、スラリー粒子が凝集し、その結果、研磨スラリーの実効粒子径は大きくなる。一方、シリカ粒子表面のゼータ電位が−15mVより低い場合、ゼータ電位調整剤としては、塩基、塩基性塩及びカチオン活性剤を使用しゼータ電位をプラス側にシフトさせる。ゼータ電位をプラス側になることで、スラリー粒子が分散し、研磨スラリーの実効粒子径は小さくなる。また、中性塩、非イオン性活性剤及び両性活性剤は、研磨液組成物のpHを変化させずにゼータ電位を調整する場合に用いられる。
【0053】
酸としては無機酸又は有機酸が用いられる。無機酸としては、塩酸、硝酸、硫酸、燐酸、ポリ燐酸、アミド硫酸等が挙げられる。また、有機酸としては、カルボン酸、有機燐酸、アミノ酸等が挙げられ、例えば、カルボン酸は、酢酸、グリコール酸、アスコルビン酸等の一価カルボン酸、蓚酸、酒石酸等の二価カルボン酸、クエン酸等の三価カルボン酸が挙げられ、有機燐酸としては、2−アミノエチルホスホン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸(HEDP)、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)等が挙げられる。また、アミノ酸としては、グリシン、アラニン等が挙げられる。これらの中でも、ダメージ欠陥低減の観点から、無機酸、カルボン酸及び有機燐酸が好ましく、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、ポリリン酸、グリコール酸、シュウ酸、クエン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンスルホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)が適している。
【0054】
塩基としては、アンモニア水、ヒドロキシルアミン、アルキルヒドロキシルアミン、一級〜三級のアルキルアミン、アルキレンジアミン、アルキルアンモニウムヒドロキシド等が挙げられ、ダメージ欠陥低減の観点から、好ましくはアンモニア水、アルカノールアミンである。
【0055】
上述のように、研磨スラリー粒子の表面電位を経時的に変化させる手段として、交流電流を前記研磨スラリー粒子へ印加すること、又は、前記研磨スラリーのpHを変化させることが挙げられるが、これらを同時に行うことで研磨スラリー粒子の表面電位を経時的に変化させてもよい。同時に行うと、研磨スラリー粒子の表面電位をさらに微細な範囲にまで変化させることができる。
【0056】
以上により、交流電流を前記研磨スラリー粒子へ印加する手段、及び/又は前記研磨スラリーのpHを変化させる手段をとることで、研磨スラリー粒子の実効粒子径も経時的に変化させることができる。ここで、本発明の製造方法において、実効粒子径の大きいスラリー粒子を用いる研磨処理を1次研磨工程とし、実効粒子径の小さいスラリー粒子を用いる研磨処理を2次研磨工程とする。前記1次研磨工程から前記2次研磨工程に至る過程において、研磨スラリー粒子の表面電位を25mV以上から−15mV以下へ減少させると、平均凝集粒径は約60nmほど小さくなる。このことから、研磨スラリー粒子の表面電位を20mV以上変化させると平均凝集粒径は約40nmほど小さくなることが分かる。
【0057】
また、未研磨部分が残存している場合、大きな歪みが生じていている場合、又はより精密な研磨を行いたい場合には、前記2次研磨工程後、さらに1次研磨工程を行うことで、これらを除去することができる。また、必要に応じてラッピング工程のダメージの影響により、1次研磨工程の前に、実効粒子径の小さいスラリー粒子や、実効粒子径の小さ過ぎず、かつ大き過ぎないスラリー粒子を用いて行うことで加工状態の制御を行ってもよい。
【0058】
この研磨スラリー粒子の実効粒子径を制御する手段は、研磨工程の開始から終了の間にかけて行われる。これは、本発明の製造方法における実効粒子径の制御手段が、本研磨工程の途中で中止してもよいし、研磨工程の途中から制御を始めても、本発明の効果は損なわない。
【0059】
本発明で用いる研磨スラリーとしては、コロイダルシリカ、酸化セリウム、SiO、Al、SiC、ジルコニア、及びダイヤモンドからなる群より選択される1種又は2種以上の砥粒を含むスラリーが挙げられる。上記のなかでも特に、コロイダルシリカの含有量が多いものを用いることが好ましい。研磨後のガラス素板の表面粗さを十分に小さくし、平滑性を高めることができるからである。
【0060】
また、研磨パッドについても、前記研磨剤の場合と同様に、CeOの含有量が多く、アルカリ土類金属の少ないものを用いることによって、研磨速度を高め、研磨後のガラス素板の平滑性を充分に高めることができると考えられる。
【0061】
また、前記研磨剤が、レーザ回折散乱法で測定された粒度分布における最大値が3.5μm以下であり、レーザ回折散乱法で測定された粒度分布における累積50体積%径D50が0.4〜1.6μmであることが好ましい。
【0062】
前記研磨剤の粒径が小さすぎると、研磨速度が低下する傾向がある。前記研磨剤の粒径が大きすぎると、研磨によってガラス素板上に形成されうる傷が発生しやすくなる。
【0063】
なお、レーザ回折散乱法で測定された粒度分布における最大値とは、レーザ回折式粒度分布測定装置にて測定して得られる粉体の集団の全体積を100%として累積カーブを求め、その累積カーブの最大値となる点の粒子径を意味する。また、D50とは、レーザ回折式粒度分布測定装置にて測定して得られる粉体の集団の全体積を100%として累積カーブを求め、その累積カーブが50%となる点の粒子径を意味する。
【0064】
なお、本実施形態に係る研磨パッドは、例えば次のような方法において製造される。まず、樹脂溶液と砥粒とを混合して、砥粒分散液を製造する。次に、成形型を使用して該砥粒分散液を硬化させ、内部及び表面に砥粒を固定した板状のブロックを成形させる。続いて、該ブロックを成形型から取り出した後、ブロックの両面を研削し所定の厚さに加工する。また、より好適には、まず、樹脂溶液と砥粒とを混合し、この混合液を減圧して脱泡して、無泡砥粒分散液を製造する。次に、成形型を使用して該無泡砥粒分散液を硬化させ、無発泡体の内部及び表面に砥粒を固定した板状のブロックを成形させる。続いて、該ブロックを成形型から取り出した後、ブロックの両面を研削し、所定の厚さに加工する。
<円盤加工工程>
前記円盤加工工程は、所定の組成のガラス素材から板状に成形したガラス素板から、図2に示すように、内周及び外周が同心円となるように、中心部に貫通孔10aが形成された円盤状のガラス素板10に加工する工程である。具体的には、例えば、以下のようにして加工する。まず、板状に成形したガラス素板であって、そのガラス組成が、後述する組成であって、その厚み0.95mmであるガラス素板を所定の大きさの四角形に切断する。
【0065】
そして、その切断されたガラス素板の一方の表面に、ガラスカッターにて上述した内周及び外周を形成するように円形の切り筋を形成する。そして、この切り筋を形成したガラス素板を、その切り筋を形成させた側の表面から加熱する。そうすることによって、前記切り筋が、ガラス素板の他方の表面に向かって深くなる。そして、内周及び外周が同心円となるように、中心部に貫通孔10aが形成された円盤状のガラス素板10に加工される。
【0066】
この円盤加工工程で、例えば、外径r1が2.5インチ(約64mm)、1.8インチ(約46mm)、1インチ(約25mm)、0.8インチ(約20mm)等で、厚みが2mm、1mm、0.63mm等の円盤状のガラス素板に加工される。また、外径r1が2.5インチ(約64mm)のときは、内径r2が0.8インチ(約20mm)等に加工される。なお、図2は、本実施形態に係るハードディスク用ガラス基板の製造方法により製造されるハードディスク用ガラス基板を示す上面図である。
【0067】
また、板状に成形したガラス素板は、その製造方法は特に限定されないが、例えば、フロート法により製造されたもの等が挙げられる。フロート法とは、例えば、ガラス素材を溶融させた溶融液を、溶融したスズの上に流し、そのまま固化させる方法である。得られたガラス素板は、一方の面がガラスの自由表面であり、他方の面が、ガラスとスズとの界面であるため、平滑性の高い、例えば、算術平均粗さRaが0.001μm以下の鏡面を備えたものとなる。そして、その厚みとしては、例えば、0.95mmのものが挙げられる。なお、ガラス素板やガラス基板の表面粗さ、例えばRaは、一般的な表面粗さ測定機を用いて測定することができる。
<ラッピング行程>
前記ラッピング工程は、前記ガラス素板を所定の板厚に加工する工程である。具体的には、ガラス素板の両面を研削(ラッピング)加工する工程等が挙げられる。このように加工することによって、ガラス素板の平行度、平坦度及び厚みを調整することができる。また、このラッピング工程は、1回であってもよいし、2回以上であってもよい。例えば、2回行う場合、1回目のラッピング工程(第1ラッピング工程)で、ガラス素板の平行度、平坦度及び厚みを予備調整し、2回目のラッピング工程(第2ラッピング工程)で、ガラス素板の平行度、平坦度及び厚みを微調整することが可能となる。
【0068】
より具体的には、前記第1ラッピング工程としては、ガラス素板の表面全体が略均一の表面粗さとなるようにする工程等が挙げられる。その際、例えば、ガラス素板の算術平均粗さRaを複数個所測定した際に、得られたRaの最小値と最大値との差が0.01〜0.4μm程度にすることが好ましい。
【0069】
また、前記第2ラッピング工程としては、粗面化されたガラス基板の主表面を、さらに固定砥粒研磨パッドを用いて研削する行程等が挙げられる。この第2ラッピング工程においては、例えば、粗面化されたガラス基板をラッピング装置にセットし、ダイヤモンドタイル(Diamond Tile)のような表面模様付きの三次元固定研磨物を用いることで、ガラス基板の表面をラッピングすることができる。具体的にはスリーエム(登録商標)社のトライザクト(登録商標)を用いてラッピングすることができる。
【0070】
前記第2ラッピング行程を施すと、後述する粗研磨行程にて行われる研磨を効率良く行うことができる。また、第2ラッピング行程によって施された研磨工程に用いるガラス素板ガラス素板の表面粗さRaは0.10μm以下であることが好ましい。なお、前記表面粗さRaは、0.01μm以上であることが好ましい。0.01μmより小さいと、表面が平滑になりすぎてラッピング行程での加工が難しくなることがある。
<洗浄工程>
前記洗浄工程は、前記粗研磨工程が施されたガラス素板を洗浄する工程である。
【0071】
前記粗研磨工程による粗研磨後のガラス素板は、洗浄工程によって洗浄することが好ましい。洗浄工程としては、特に限定されない。具体的には、例えば、以下のような洗浄工程が挙げられる。
【0072】
まず、pH13以上のアルカリ洗剤を用いて、ガラス素板の洗浄を行い、ガラス素板にリンスを行う。次に、pH1以下の酸系洗剤を用いて、ガラス素板の洗浄を行い、ガラス素板にリンスを行う。最後に、フッ化水素酸(HF)溶液を用いて、ガラス素板の洗浄を行う。酸化セリウムに関しては、アルカリ洗浄、酸洗浄、HF洗浄の順で洗浄を行うことが最も効率的である。これは、まずアルカリ洗剤で研磨材を分散除去し、次に酸洗剤で研磨材を溶解除去し、最後に、HFによってガラス素板をエッチングし、ガラス素板に深く刺さっている研磨材を除去するのである。
【0073】
前記洗浄工程は、アルカリ洗浄、酸洗浄、HF洗浄において、それぞれ別の槽で行うことが好ましい。これらの洗浄を単一の槽で行った場合には、効率的な洗浄ができない場合があるからである。特に、酸洗剤とHFを同一槽に入れた場合、HFのエッチング速度は、研磨材の多い場所で低下するため、基板内を均一にエッチングできなくなる傾向があるからである。また、各洗浄の後にリンス槽を用いることが好ましい。これらの洗剤には、場合によって界面活性剤、分散材、キレート剤、還元材などを添加しても良い。また、各洗浄槽には、超音波を印加し、それぞれの洗剤には脱気水を使用することが好ましい。
【0074】
また、他の方法としては、まず、HFが1質量%、硫酸が3質量%の洗浄液にガラス素板を浸漬させる。その際、その洗浄液に、80kHzの超音波振動を印加させる。その後、ガラス素板を取り出す。そして、取り出したガラス素板を中性洗剤液に浸漬させる。その際、その中性洗剤液に、120kHzの超音波振動を印加させる。最後に、ガラス素板を取り出し、純水でリンスを行い、IPA乾燥させる。
【0075】
また、前記洗浄工程後のガラス素板は、その表面に残存したアルカリ土類金属が、10ng/cm以下であることが好ましく、5ng/cm以下であることがより好ましい。そうすることによって、耐衝撃性により優れたハードディスク用ガラス基板を得ることができる。このことは、化学強化工程を施すガラス素板の表面に、化学強化工程を阻害しうるアルカリ土類金属の付着量が少ないことによると考えられる。よって、化学強化がガラス素板全面に均一に起こり、耐衝撃性により優れたハードディスク用ガラス基板を得ることができると考えられる。すなわち、記洗浄工程後のガラス素板の表面に残存したアルカリ土類金属が多すぎると、化学強化工程が好適に行われずに、得られたガラス基板の耐衝撃性を充分に高めることができない場合がある。
【0076】
また、前記洗浄工程後のガラス素板の表面に残存したアルカリ土類金属は、少なければ少ないほど好ましいものである。このことは、前記化学強化工程の前に、前記研磨工程で研磨されたガラス素板の表面に残存したアルカリ土類金属が、化学強化工程を阻害し、均一な化学強化を阻害すると考えられるからである。そして、本実施形態においては、前記洗浄工程後のガラス素板の表面に残存したアルカリ土類金属が、少なければ少ないほど好ましく、その量10ng/cm以下であれば、耐衝撃性により優れたハードディスク用ガラス基板を製造することができることを見出したものである。
【0077】
また、この粗研磨後のガラス素板の洗浄は、ガラス素板表面の酸化セリウム量が0.125ng/cm以下となるように行なわれる。ガラス素板表面の酸化セリウム量が多すぎると、後述する精密研磨工程による精密研磨後のガラス素板の平坦度を良好にできない傾向がある。
<化学強化工程>
本発明の製造方法における化学強化工程は、公知の方法であれば、特に限定されない。具体的には、例えば、ガラス素板を化学強化処理液に浸漬させる工程等が挙げられる。そうすることによって、ガラス素板の表面、例えば、ガラス素板表面から5μmの領域に化学強化層を形成することができる。そして、化学強化層を形成することで耐衝撃性、耐振動性及び耐熱性等を向上させることができる。
【0078】
より詳しくは、化学強化工程は、加熱された化学強化処理液にガラス素板を浸漬させることによって、ガラス素板に含まれるリチウムイオンやナトリウムイオン等のアルカリ金属イオンをそれよりイオン半径の大きなカリウムイオン等のアルカリ金属イオンに置換するイオン交換法によって行われる。イオン半径の違いによって生じる歪みにより、イオン交換された領域に圧縮応力が発生し、ガラス素板の表面が強化される。
【0079】
また、化学強化工程は、前記研磨工程の前後に備えることが好適である。研削工程を施す前のガラス基板は表面に深いダメージ欠陥が残存しているため、その基板にイオン交換を行うことでイオン交換層の深さにムラが生じる。よって、その後の研磨加工においても基板の位置の違いによる加工性の違いが生じ、さらに基板の応力バランスが崩れることによるガラス基板の変形が生じるからである。
【0080】
本実施形態では、ガラス基板の原料であるガラス素板として、上記のようなガラス組成のものを用いることによって、この化学強化工程により、強化層が好適に形成されると考えられる。具体的には、ガラス素板のアルカリ成分であるLiO、NaO、及びKOのうち、NaOの含有量が多く、このNaOのナトリウムイオンが、化学強化処理液に含まれるカリウムイオンに交換されやすいためと考えられる。さらに、化学強化工程を施す前の研磨工程、ここでは粗研磨工程で用いる研磨剤が、上記のような組成の研磨剤であるので、ガラス素板の表面に付着しているアルカリ土類金属の量が少なく、化学強化が均一になされると考えられる。よって、本実施形態のように、好適な化学強化がなされたガラス素板に、精密研磨工程を行うことによって、耐衝撃性に優れたガラス基板を製造することができる。
【0081】
化学強化処理液としては、ハードディスク用ガラス基板の製造方法における化学強化工程で用いられる化学強化処理液であれば、特に限定されない。具体的には、例えば、カリウムイオンを含む溶融液、及びカリウムイオンやナトリウムイオンを含む溶融液等が挙げられる。
【0082】
これらの溶融液としては、例えば、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、炭酸カリウム、及び炭酸ナトリウム等を溶融させて得られた溶融液等が挙げられる。この中でも、硝酸カリウムを溶融させて得られた溶融液と硝酸ナトリウムを溶融させて得られた溶融液とを組み合わせて用いることが、融点が低く、ガラス素板の変形を防止する観点から好ましい。その際、硝酸カリウムを溶融させて得られた溶融液と硝酸ナトリウムを溶融させて得られた溶融液とを、ほぼ同量ずつの混合させた混合液であることが好ましい。
<最終洗浄工程>
前記最終洗浄工程は、研磨されたガラス素板の表面から研磨剤を除去するように洗浄する工程である。具体的には、精密研磨工程を終えたガラス素板に対して、例えば、下記のように行う工程等が挙げられる。
【0083】
まず、精密研磨工程を終えたガラス素板を乾燥(自然乾燥を含む)させることなく、水中で保管し、湿潤状態のまま次の洗浄工程へ搬送する。研磨残渣が残った状態のままガラス素板を乾燥させてしまうと、洗浄処理により研磨材(コロイダルシリカ)を除去することが困難になる場合があるからである。ここでの洗浄は、鏡面仕上げされたガラス素板の表面をあらすことなく、研磨剤を除去することが求められる。
【0084】
図3は、本実施形態に係るハードディスク用ガラス基板の製造方法により製造されたハードディスク用ガラス基板を用いた磁気記録媒体の一例である磁気ディスクを示す一部断面斜視図である。この磁気ディスクDは、円形のハードディスク用ガラス基板101の主表面に形成された磁性膜102を備えている。磁性膜102の形成には、公知の常套手段による形成方法が用いられる。例えば、磁性粒子を分散させた熱硬化性樹脂をハードディスク用ガラス基板101上にスピンコートすることによって磁性膜102を形成する形成方法(スピンコート法)や、ハードディスク用ガラス基板101上にスパッタリングによって磁性膜102を形成する形成方法(スパッタリング法)や、ハードディスク用ガラス基板101上に無電解めっきによって磁性膜102を形成する形成方法(無電解めっき法)等が挙げられる。
【0085】
磁性膜102の膜厚は、スピンコート法による場合では、約0.3〜1.2μm程度であり、スパッタリング法による場合では、約0.04〜0.08μm程度であり、無電解めっき法による場合では、約0.05〜0.1μm程度である。薄膜化および高密度化の観点から、スパッタリング法による膜形成が好ましく、また、無電解めっき法による膜形成が好ましい。
【0086】
磁性膜102に用いる磁性材料は、公知の任意の材料を用いることができ、特に限定されない。磁性材料は、例えば、高い保持力を得るために結晶異方性の高いCoを基本とし、残留磁束密度を調整する目的でNiやCrを加えたCo系合金等が好ましい。より具体的には、Coを主成分とするCoPt、CoCr、CoNi、CoNiCr、CoCrTa、CoPtCr、CoNiPt、CoNiCrPt、CoNiCrTa、CoCrPtTa、CoCrPtB、CoCrPtSiO等が挙げられる。
【0087】
磁性膜102は、ノイズの低減を図るために、非磁性膜(例えば、Cr、CrMo、CrV等)で分割された多層構成(例えば、CoPtCr/CrMo/CoPtCr、CoCrPtTa/CrMo/CoCrPtTa等)であってもよい。磁性膜102に用いる磁性材料は、上記磁性材料の他、フェライト系や鉄−希土類系であってもよく、また、SiO、BN等からなる非磁性膜中にFe、Co、FeCo、CoNiPt等の磁性粒子を分散した構造のグラニュラー等であってもよい。また、磁性膜102への記録には、内面型および垂直型のいずれかの記録形式が用いられてよい。
【0088】
また、磁気ヘッドの滑りをよくするために、磁性膜102の表面には、潤滑剤が薄くコーティングされてもよい。潤滑剤として、例えば液体潤滑剤であるパーフロロポリエーテル(PFPE)をフレオン系などの溶媒で希釈したものが挙げられる。
【0089】
さらに必要により磁性膜102に対し下地層や保護層が設けられてもよい。磁気ディスクDにおける下地層は、磁性膜102に応じて適宜に選択される。下地層の材料として、例えば、Cr、Mo、Ta、Ti、W、V、B、Al、Ni等の非磁性金属から選ばれる少なくとも一種以上の材料が挙げられる。例えば、Coを主成分とする磁性膜102の場合には、下地層の材料は、磁気特性向上等の観点からCr単体やCr合金であることが好ましい。
【0090】
また、下地層は、単層とは限らず、同一または異種の層を積層した複数層構造であってもよい。このような複数層構造の下地層は、例えば、Cr/Cr、Cr/CrMo、Cr/CrV、NiAl/Cr、NiAl/CrMo、NiAl/CrV等の多層下地層が挙げられる。磁性膜102の摩耗や腐食を防止する保護層として、例えば、Cr層、Cr合金層、カーボン層、水素化カーボン層、ジルコニア層、シリカ層等が挙げられる。これら保護層は、下地層および磁性膜102と共にインライン型スパッタ装置で連続して形成することができる。また、これら保護層は、単層としてもよく、あるいは、同一または異種の層からなる複数層構成であってもよい。
【0091】
なお、上記保護層上に、あるいは、上記保護層に代えて、他の保護層が形成されてもよい。例えば、上記保護層に代えて、Cr層の上にSiO層が形成されてもよい。このようなSiO層は、Cr層の上にテトラアルコキシシランをアルコール系の溶媒で希釈した中に、コロイダルシリカ微粒子を分散して塗布し、さらに焼成することによって形成される。
【0092】
このような本実施形態におけるハードディスク用ガラス基板101を基体とした磁気記録媒体は、ハードディスク用ガラス基板101が上述した組成により形成されるので、情報の記録再生を長期に亘り高い信頼性で行うことができる。
【0093】
なお、上述では、本実施形態におけるハードディスク用ガラス基板101を磁気記録媒体に用いた場合について説明したが、これに限定されるものではなく、本実施形態におけるハードディスク用ガラス基板101は、光磁気ディスクや光ディスク等にも用いることが可能である。
【実施例】
【0094】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0095】
(ゼータ電位及び粒径の測定条件)
以後に示すゼータ電位及び粒径の測定条件は以下の通りである。
・測定機器:ELSZ−2(大塚電子社製)
・印加電圧:60V/cm
・測定試料:各々実施例/比較例の研磨液組成物を、遠心分離機で分離を行い(遠心力35000g、30分)、上澄み液を取り出した。この上澄み液に、当該研磨液組成物を0.2重量%添加混合し、これを測定試料とした。
・測定回数:同一試料、同一測定条件にて、ゼータ電位及び粒径の測定を3回繰り返し、これら3回の平均値を測定値とした。
【0096】
(表面粗さRaと微小うねりμWaの測定)
なお、表面粗さRaは原子間力顕微鏡(AFM社)によって測定される。
【0097】
また、微小うねりμWaは、非接触表面形状測定機(New View 5000)「Zygo Corporation」のを用いて測定することができる。
【0098】
この原理とは、基板の表面に白色光を照射し、位相の異なる参照光と測定光の干渉の強度変化を測定することで、表面の微妙な形状変化を測定する方法である。得られた測定データから30[μm]〜200[μm]の周期の凹凸を抽出した表面うねり高さの平均値を微小うねりμWaと定義する。
【0099】
(ディフェクト数の測定)
基板上のディフェクト数(欠陥や付着物)の測定は、KLA Tencor社 Optical Surface Analyzer「Candela6300」を用いて測定した。
【0100】
まず、本発明のガラス基板の製造方法に用いられる研磨装置、研磨剤及び研磨パッドを用意した。また、通常のガラス基板の製造方法に用いられる一般的なラッピング処理を行ったガラス基板を用意した。そして、各下表のように、実施例1−1〜1−4では研磨スラリーのpHを一定にしたまま、電界印加手段及び可変制御手段にて研磨スラリー粒子の表面電位を調節してガラス基板を研磨した。また、実施例2−1〜2−4では、電界印加手段及び可変制御手段を用いずに、研磨スラリーのpHを調整しながらガラス基板を研磨した。なお、いずれの実施例においても、研磨時間を30分とし、研磨材として平均粒径約20nmのコロイダルシリカを使用した。
【0101】
(研磨レートの測定)
研磨前後のガラス基板の板厚について、レーザ変位計(キーエンス社)を用いて測定し、加工時間で割って研磨レートを算出した。
【0102】
(実施例1−1〜1−4)
上述のように、研磨スラリーのpHを2とし、表1のように電界印加手段及び可変制御手段にて研磨スラリー粒子の表面電位を経時的に調整しながら、ガラス基板を本発明の研磨装置にて研磨を行った。
【0103】
【表1】

【0104】
(実施例2−1〜2−4)
上述のように、電界印加手段及び可変制御手段を用いずに、表2のように研磨スラリーのpHを調整しながら、ガラス基板を本発明の研磨装置にて研磨を行った。なお、pHの酸性から塩基性へのシフトは、研磨スラリーにアンモニア水を添加することで調整した。
【0105】
【表2】

【0106】
(比較例1)
続いて、比較例1では、通常の粗研磨工程と精密研磨工程を施した。すなわち、粗研磨工程ではガラス基板を、平均粒子径約80nmのコロイダルシリカにて15分間研磨を行い、精密研磨工程では粗研磨工程で用いた研磨機とは異なる研磨機を用いて平均粒子径約20nmのコロイダルシリカにて15分間研磨を行った。
【0107】
(比較例2)
比較例2では、通常の粗研磨工程と精密研磨工程を施したことについては、前記比較例1と同じである。しかし、粗研磨工程ではガラス基板を、平均粒子径約80nmのコロイダルシリカにて15分間研磨を行い、その後、ガラス基板や研磨パッドに付着した研磨剤を除去するリンス行程を経て、粗研磨工程で用いた研磨機と同じ研磨機を用いて平均粒子径約20nmのコロイダルシリカにて15分間の精密研磨を行った。
【0108】
(比較例3)
比較例3では、ガラス基板を精密研磨工程のみを行った。すなわち、平均粒子径約20nmのコロイダルシリカにて30分間研磨を行った。
【0109】
(比較例4)
比較例4では、研磨スラリーに100Hzの交流電流を印加しながら、平均粒子径約20nmのコロイダルシリカにて15分間ガラス基板の研磨を行った。
【0110】
表3に、上記実施例及び比較例の測定結果及び評価結果を示す。
【0111】
【表3】

【0112】
表3の結果から明らかなように、コロイダルシリカで通常の研磨を行った比較例1,2では、微小うねりμWa及び表面粗さRaの値が大きくなっていることから、細やかな研磨ができていないことが分かった。さらに、研磨レートに関しても効率よく研磨加工できていないことが分かった。また、精密研磨のみを行った比較例3ではディフェクト数が多く、一定の印加電圧を加えた比較例4についてもディフェクト数の多いガラス基板となった。
【0113】
一方で、電界印加手段及び可変制御手段を用いた本発明の実施例1−1〜1−4、及び2−1〜2−4では、微小うねりμWa及び表面粗さRaがいずれも非常に小さいものとなり、より細やかな研磨が行われていることが分かった。さらにディフェクト数についても非常に少ないものとなることが明らかになった。また、研磨レートについても、書く比較例に比べて効率の良い加工を行っていることが分かった。
【符号の説明】
【0114】
1 研磨装置
2 上定盤
3 下定盤
4 研磨パッド
6 電界印加手段
7 可変制御手段
8 ポンプ
10 ガラス基板
101 ハードディスク用ガラス基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨スラリー粒子を含む研磨スラリーを用いてガラス基板表面の研磨を行う研磨工程を含むハードディスク用ガラス基板の製造方法であって、
前記研磨工程において、前記研磨スラリー粒子の実効粒子径を経時的に変化させる処理を用いることを特徴とするハードディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項2】
前記処理は、前記研磨スラリー粒子の表面電位を経時的に変化させる手段により行うことを特徴とする請求項1に記載のハードディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項3】
前記手段が、交流電流を前記研磨スラリー粒子へ印加することからなる請求項2に記載のハードディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項4】
前記手段が、前記研磨スラリーのpHを変化させることからなる請求項2に記載のハードディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項5】
前記手段が、交流電流を前記研磨スラリー粒子へ印加すること、かつ、前記研磨スラリーのpHを変化させることからなる請求項2に記載のハードディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項6】
前記研磨スラリー粒子の表面電位を時間的に変化させることであって、前記研磨スラリーのpHを5以上変化させることを特徴とする請求項4に記載のハードディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項7】
前記研磨工程は、1次研磨工程と2次研磨工程とを含み、
1次研磨工程から2次研磨工程に至る過程において、前記研磨スラリー粒子の表面電位を10mV以上から−5mV以下へ減少させる請求項2に記載のハードディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項8】
前記スラリー粒子の表面電位を20mV以上変化させる請求項7に記載のハードディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項9】
前記研磨スラリー粒子の実効粒子径を制御する手段が、研磨工程の開始から終了までの間にかけて行われることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のハードディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項10】
前記研磨工程の前後に化学強化工程をさらに備えることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載のハードディスク用ガラス基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−138156(P2012−138156A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−291209(P2010−291209)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(303000408)コニカミノルタアドバンストレイヤー株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】