説明

ハーフエステル化合物、ハーフエステル化合物の製造方法、含フッ素ポリマー水性分散体、及び、含フッ素ポリマー水性分散体の製造方法

【課題】自然界において容易に分解され、合成経路が単純で、分子中に水素原子が含まれていても連鎖移動反応に影響しないハーフエステル化合物、及び、その製造方法を提供し、また、上記ハーフエステル化合物を含有する水性分散体、及び、その製造方法を提供する。
【解決手段】下記一般式(I)
MOOC(CFCOORf (I)
(式中Mは、H、NH、Li、Na又はKを示し、n=2〜3の整数、RfはC、F、Oを構成成分とする、炭素数が4〜6のアルキル基またはアルキレート基を示す。)で表されるハーフエステル化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハーフエステル化合物、ハーフエステル化合物の製造方法、含フッ素ポリマー水性分散体、及び、含フッ素ポリマー水性分散体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素重合体の製造方法として、水性媒体中に、直鎖又は部分的に分岐鎖を有するフッ素置換カルボン酸を界面活性剤として用いることにより、テトラフルオロエチレン[TFE]を重合する方法が知られている(特許文献1、特許文献2及び特許文献3参照)。
【0003】
また、近年、含フッ素重合体の製造方法として、フッ素化されたポリオキシアルキレン基を有するカルボン酸を界面活性剤として用いる方法も開示されている(特許文献4参照)。
【0004】
しかしながら、これらの界面活性剤は、熱的、化学的に非常に安定で、重合の際には、連鎖移動等の副反応を抑制できる点で有用であるが、重合により得られた樹脂から除去するためには、洗浄、加熱等の条件が狭く限定される問題があった。
【0005】
上記の問題に鑑みて、特許文献5では、重合時の安定性を損なうことなく、凝集等の加工処理後における含フッ素重合体粒子中の残存量が少ない界面活性剤を用いて水性媒体中で含フッ素重合体を製造する方法、及び、含フッ素重合体の分散安定性に優れ、凝集等の加工処理後における含フッ素重合体粒子中の残存量が少ない界面活性剤を用いた含フッ素重合体水性分散液が検討されている。
【0006】
しかしながら、特許文献5に記載されている2−アシルオキシカルボン酸は、合成経路が複雑であり、収率が低い。また、特許文献5に記載されているハーフエステル化合物は、フッ素系単量体の乳化重合の乳化剤として使用した場合、分子中に存在する水素原子が連鎖移動反応を引き起こし、重合速度が低下し、高分子量の重合体が得られないという問題もあった。
【0007】
【特許文献1】特開昭61−207413号公報
【特許文献2】特開昭61−228008号公報
【特許文献3】特開平10−212261号公報
【特許文献4】米国特許第6429258号明細書
【特許文献5】特開2005−48178号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記現状に鑑み、合成経路が単純で、含フッ素ポリマーの乳化重合における乳化剤として好適に使用することができるハーフエステル化合物、及び、その製造方法を提供し、また、上記ハーフエステル化合物を含有する含フッ素ポリマー水性分散体、及び、その製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、下記一般式(I)
MOOC(CFCOORf (I)
(式中Mは、H、NH、Li、Na又はKを示し、n=2〜3の整数、RfはC、F、Oからなる炭素数が4〜6のアルキル基またはアルキレート基を示す。)で表されるハーフエステル化合物である。
【0010】
本発明はまた、下記一般式(III)
【0011】
【化1】

【0012】
(式中n=2〜3の整数を示す。)で表される酸無水物と、下記一般式(IV)
RfOH (IV)
(式中RfはC、F、Oからなる炭素数が4〜6のアルキル基またはアルキレート基を示す。)で表される化合物を反応させる工程を含む上記記載のハーフエステル化合物の製造方法である。
【0013】
本発明はまた、下記一般式(III)
【0014】
【化2】

【0015】
(式中n=2〜3の整数を示す。)で表される酸無水物と、下記一般式(V)
RfCHOH (V)
(式中RfはC、F、Oからなる炭素数が3〜5のアルキル基またはアルキレート基を示す。)で表される化合物を反応させる工程および、フッ素化によりCHをCHFまたはCFに転化する工程を含む上記記載のハーフエステル化合物の製造方法である。
【0016】
本発明はまた、上記記載のハーフエステル化合物、及び、含フッ素ポリマーを含有することを特徴とする含フッ素ポリマー水性分散体である。
【0017】
本発明はまた、水性媒体中で、上記のハーフエステル化合物存在下で含フッ素モノマーの重合を行う工程を含む上記記載の含フッ素ポリマー水性分散体の製造方法である。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0018】
本発明のハーフエステル化合物は、界面活性剤として優れた性能を示し、特に含フッ素ポリマーの重合に用いた場合、連鎖移動を生じないため高分子量の含フッ素ポリマーを得ることができる。上記ハーフエステル化合物は、(1)疎水鎖中にエステル結合を有することから、分解性に優れている。(2)連鎖移動反応に影響する水素原子を実質的に有しないという優れた性能を有する。
【0019】
本発明のハーフエステル化合物は、下記一般式(I)
MOOC(CFCOORf (I)
で表されるものである。上記ハーフエステル化合物は、上記含フッ素モノマー重合後に行う凝析等の後処理等により、容易にエステル加水分解を起こし、生成した加水分解物は、通常、揮発性を有し、加熱により除去することができる。分子内にエステル結合を有するため、加水分解されて、容易に分解されると考えられる。
【0020】
上記一般式(I)において、Mは、H、NH、Li、Na又はKを示す。生成した含フッ素ポリマーから加熱処理により容易に除去し得る点でNHが好ましく、乳化や分散力の点でLi、Na又はKが好ましい。
【0021】
上記一般式(I)において、nは、2〜3の整数である。エステル化時の反応性が高い点から、n=2であることが好ましい。
【0022】
上記Rfは、C、F、Oを構成成分とする炭素数が4〜6のアルキル基またはアルキレート基である。上記Rfは、C、F、Oからなることがより好ましい。また、上記Rfの炭素数は、界面活性の点から、好ましい下限は4であり、好ましい上限は5である。より好ましくはC、Fからなる炭素数4のアルキル基である。
【0023】
上記Rfは、下記一般式(II)
−C(CFRf(II)
(式中RfはC、F、Oからなり、炭素数が1〜3のアルキル基またはアルキレート基を示す。)で示される化合物であることが好ましい。上記構造を有するハーフエステル化合物は、酸素に対するα位にCF結合が存在しないため、原料の安定性が高く、製造が容易であるからである。
また、上記Rfは、−C(CFであることが最も好ましい。
【0024】
本発明のハーフエステル化合物は、例えば、RfOM(RfおよびMは、上記定義したものと同じ。)と、HOOC(CFCOOM(Mおよびnは、上記定義したものと同じ。)または、その酸無水物とを、公知の方法等を用いてエステル化することにより製造することができるが、反応性および選択性の面から、酸無水物を用いることが好ましい。
【0025】
上記ハーフエステル化合物は、下記一般式(III)
【0026】
【化3】

【0027】
(式中nは、上記定義したものと同じ。)で表される酸無水物と、下記一般式(IV)
RfOH (IV)
(式中Rfは、上記定義したものと同じ。)で表される化合物を反応させることにより製造することが好ましい。このような製造方法も本発明の1つである。
【0028】
上記反応を行う方法としては、特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができる。例えば、上記式(III)で表される酸無水物と、RfOHで表される上記式(IV)の化合物を化学量論比付近で混合し、60〜150℃に加温して反応させる方法が挙げられる。この際に、両親媒性であり反応性を妨げない有機溶剤を使用することができる。
また反応時に、触媒量の酸触媒を添加することができる。この酸触媒としては、硫酸が好ましく使用される。
上記製造方法には、エステル化反応によって生成した水を間欠的/連続的に留去する工程、及び/又は、反応系に残存するアルコールを間欠的/連続的に留去する工程を含んでいてもよい。
また、上記製造方法は、上記反応によって得られたHOOC(CFCOORf(式中nおよびRfは、上記定義したものと同じ。)で表されるハーフエステル化合物を、アンモニア、LiOH、NaOH、又は、KOHで中和する工程を含むものであってもよい。上記中和反応は、エステル部分の加水分解を防ぐ目的で、アンモニア、LiOH、NaOH、又は、KOHなどの中和剤を、0.1〜20%の水溶液として、好ましくは1〜5%の水溶液として、5〜30℃の温度範囲で攪拌下に除々に滴下し、pHが8を超えない、好ましくは7を超えない、さらに好ましくは6を超えないように調整することが好ましい。
中和された塩は、目的に応じて0.1〜30%の濃度の水溶液状態として使用することもできるし、凍結乾燥などの工程を経て粉末、あるいはワックス状の固体状で使用することもできる。
【0029】
本発明のハーフエステル化合物の製造方法はまた、上記式(III)で表される酸無水物と、RfCHOHで表される上記式(V)の化合物を反応させる工程および、フッ素化によりCHをCHFまたはCFに転化する工程を含むものである。上記Rfは、C、F、Oからなる、炭素数が3〜5のアルキル基またはアルキレート基を示す。上記式(III)で表される酸無水物と、RfCHOHで表される上記式(V)の化合物を反応させる工程は、上記ハーフエステル化合物の製造方法と同様の方法で行うことができる。
【0030】
ハーフエステルの製造方法は、上記式(III)で表される酸無水物と、RfCHOHで表される上記式(V)の化合物を反応させた化合物のCHをフッ素化によりCHFまたはCFに転化する工程を含むものである。上記CHをフッ素化によりCHFまたはCFに転化する方法としては、特に限定されず、公知の方法を適用することができる。
【0031】
本発明はまた、上記ハーフエステル化合物及び含フッ素ポリマーを含有する含フッ素ポリマー水性分散体でもある。すなわち、含フッ素ポリマー粒子を安定化させる乳化剤として、上記ハーフエステル化合物を使用した含フッ素ポリマー水性分散体でもある。上記含フッ素ポリマー水性分散体は、上記ハーフエステル化合物の1種を含有するものであってもよいし、2種以上を含有するものであってもよい。また、その他の界面活性剤を含有するものであってもよいが、PFOA等の炭素数7〜10の直鎖パーフルオロアルキルカルボン酸塩は実質的に含有しないことが好ましい。上記ハーフエステル化合物の含有量は、含フッ素ポリマー水性分散体100質量%に対して、0.01質量%以上であることが好ましい。0.05質量%以上であることがより好ましい。また、2質量%以下であることが好ましい。1質量%以下であることがより好ましい。0.01質量%未満であると、重合反応中の分散力が不十分となり反応容器中で凝集物を生成する、反応収率が低下するなどの問題を生じ易く、2質量%をこえると、含有量に見合った効果が得られず、かえって重合速度の低下や反応停止が起こる場合がある。上記ハーフエステル化合物の含有量は、使用する含フッ素モノマーの種類、目的とする含フッ素ポリマーの分子量等によって、適宜決定される。上記含フッ素ポリマー水性分散体中のハーフエステル化合物の含有量は、反応の仕込みに使用したハーフエステル化合物の量と反応によって得られたポリマー量の割合から計算によって定量することができる。
【0032】
上記含フッ素ポリマーは、炭素原子に結合しているフッ素原子を有するポリマーである。上記含フッ素ポリマーは、含フッ素モノマーを重合することにより得られるものであり、目的に応じて、含フッ素モノマーと、フッ素原子を有しないフッ素非含有モノマーをも共重合させて得られるものであってもよい。上記含フッ素モノマーは、炭素原子に結合しているフッ素原子を少なくとも1個有するモノマーである。
【0033】
上記含フッ素ポリマーとしては、特に限定されるものではなく、所望のものを含有することができる。また、含フッ素ポリマーの1種を含有するものであってもよいし、2種以上を含有するものであってもよい。上記含フッ素ポリマーとしては、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ポリヘキサフルオロプロピレン、又は、ポリビニリデンフルオライドが好ましい。ポリテトラフルオロエチレンがより好ましい。
【0034】
上記含フッ素モノマーとしては、フルオロオレフィン、好ましくは炭素原子2〜10個を有するフルオロオレフィン;環式のフッ素化された単量体;式CY2=CYOR又はCY2=CYOROR(Yは、H又はFであり、R及びRは、水素原子の一部又は全てがフッ素原子で置換されている炭素数1〜8のアルキル基であり、Rは水素原子の一部又は全てがフッ素原子で置換されている炭素数1〜8のアルキレン基である。)で表されるフッ素化アルキルビニルエーテル等が挙げられる。
【0035】
上記フルオロオレフィンは、炭素原子2〜6個を有するものが好ましい。上記炭素原子2〜6個を有するフルオロオレフィンとしては、例えば、テトラフルオロエチレン[TFE]、ヘキサフルオロプロピレン[HFP]、クロロトリフルオロエチレン[CTFE]、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン[VDF]、トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロイソブチレン及びパーフルオロブチルエチレン等が挙げられる。上記環式のフッ素化された単量体としては、好ましくは、パーフルオロ−2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール[PDD]、パーフルオロ−2−メチレン−4−メチル−1,3−ジオキソラン[PMD]等が挙げられる。
上記フッ素化アルキルビニルエーテルにおいて、上記R及びRは、好ましくは、炭素原子1〜4個を有するものであり、より好ましくは水素原子の全てがフッ素によって置換されているものであり、上記Rは、好ましくは、炭素原子2〜4個を有するものであり、より好ましくは、水素原子の全てがフッ素原子によって置換されているものである。
【0036】
上記フッ素非含有モノマーとしては、上記フッ素含有モノマーと反応性を有する炭化水素系モノマー等が挙げられる。上記炭化水素系モノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレン等のアルケン類;エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、n−酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、吉草酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、カプリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、パラ−t−ブチル安息香酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル、モノクロル酢酸ビニル、アジピン酸ビニル、アクリル酸ビニル、メタクリル酸ビニル、クロトン酸ビニル、ソルビン酸ビニル、桂皮酸ビニル、ウンデシレン酸ビニル、ヒドロキシ酢酸ビニル、ヒドロキシプロピオイン酸ビニル、ヒドロキシ酪酸ビニル、ヒドロキシ吉草酸ビニル、ヒドロキシイソ酪酸ビニル、ヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸ビニル等のビニルエステル類;エチルアリルエーテル、プロピルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル、イソブチルアリルエーテル、シクロヘキシルアリルエーテル等のアルキルアリルエーテル類;エチルアリルエステル、プロピルアリルエステル、ブチルアリルエステル、イソブチルアリルエステル、シクロヘキシルアリルエステル等のアルキルアリルエステル類等が挙げられる。
【0037】
上記フッ素非含有モノマーとしては、また、官能基含有炭化水素系モノマーであってもよい。上記官能基含有炭化水素系モノマーとしては、例えば、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシプロピルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、ヒドロキシイソブチルビニルエーテル、ヒドロキシシクロヘキシルビニルエーテル等のヒドロキシアルキルビニルエーテル類;イタコン酸、コハク酸、無水コハク酸、フマル酸、無水フマル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、パーフルオロブテン酸等のカルボキシル基を有するフッ素非含有単量体;グリシジルビニルエーテル、グリシジルアリルエーテル等のグリシジル基を有するフッ素非含有単量体;アミノアルキルビニルエーテル、アミノアルキルアリルエーテル等のアミノ基を有するフッ素非含有単量体;(メタ)アクリルアミド、メチロールアクリルアミド等のアミド基を有するフッ素非含有モノマー等が挙げられる。
【0038】
上記含フッ素ポリマー水性分散体中の含フッ素ポリマー濃度は、重合を行うことにより得られる含フッ素ポリマー水性分散体100質量%に対して、10質量%以上であることが好ましい。15質量%以上であることがより好ましい。また、50質量%以下であることが好ましい。40質量%以下であることがより好ましい。上記含フッ素ポリマー濃度は、試料約1g(Xg)を直径5cmのアルミカップにとり、300℃にて1時間加熱した加熱残分(Zg)より、式:P=(Z/X)×100(%)から算出する方法で測定することができる。
【0039】
また、上記含フッ素ポリマー水性分散体は、水性媒体を含有するものである。上記水性媒体は、水を含むものであれば特に限定されず、水の他に、例えば、アルコール、エーテル、ケトン等の有機溶媒を含むものであってもよい。上記水性媒体としては、水が好ましい。
【0040】
上記含フッ素ポリマー水性分散体は、上記ハーフエステル化合物、含フッ素ポリマー、水性媒体の他に、界面活性剤として作用するその他の化合物を含有していてもよい。その他の化合物としては特に限定されず、例えば、カチオン系、ノニオン系、または、ベタイン系の化合物が挙げられる。また、上記化合物を安定化するため添加剤を含有するものであってもよい。添加剤としては特に限定されず、例えば、安定剤等の一般的な界面活性剤に通常用いられるものを用いることができる。また、公知のラジカル捕捉剤を添加することもできる。
【0041】
上記含フッ素ポリマー水性分散体の製造方法としては特に限定されず、例えば、上記ハーフエステルを乳化剤とした含フッ素モノマーの乳化重合による方法を挙げることができる。具体的には、重合反応器に、上記水性媒体、ハーフエステル化合物、含フッ素モノマー、及び、必要に応じて、フッ素非含有モノマー、公知のラジカル捕捉剤、及び/又は、上記の他の添加剤を仕込み、反応器の内容物を撹拌し、そして反応器を所定の重合温度に保持し、次に所定量の重合開始剤を加え、重合反応を開始する方法が挙げられる。重合反応開始後に、目的に応じて、モノマー、重合開始剤、連鎖移動剤及び上記ハーフエステル化合物等を追加添加してもよい。
上記重合の重合温度は、5〜120℃であることが好ましい。また、重合圧力は、0.05〜10MPaGであることが好ましい。重合温度、重合圧力は、使用するモノマーの種類、目的とするポリマーの分子量、反応速度によって適宜決定される。
【0042】
上記重合開始剤としては、上記重合温度範囲でラジカルを発生しうるものであれば特に限定されず、公知の油溶性及び/又は水溶性の重合開始剤を使用することができる。更に、還元剤等と組み合わせてレドックスとして重合を開始することもできる。上記重合開始剤の濃度は、モノマーの種類、目的とするポリマーの分子量、反応速度によって適宜決定される。
【0043】
本発明の含フッ素ポリマー水性分散体は、ディスパージョンとして使用する場合には、公知のノニオン性界面活性剤の存在下で相分離濃縮、陰イオン交換樹脂との接触、限外ろ過処理などの公知の方法によって、ハーフエステル化合物を水性分散液から低減除去することができる。さらに相分離濃縮、電気濃縮、限外ろ過などの公知の方法によって、ポリマー濃度を調整することが可能である。この際に、回収されたハーフエステルは、イオン交換樹脂による回収、精製を経て再利用することができる。また、含フッ素ポリマーを凝集させた粉体として使用する場合には、公知の方法にて攪拌下に凝析処理を行った後、洗浄、乾燥工程を経てファインパウダーとして使用することもできる。この際に、洗浄排水、乾燥排ガス中のハーフエステルは、公知の方法で回収、精製され再利用することができる。これらの水性分散液の用途としては公知の用途に用いることができ、また、ファインパウダーとした場合の用途としても公知の用途に用いることができる。
【発明の効果】
【0044】
本発明は、上述した構成よりなるので、合成経路が単純で、分子中に水素原子が含まれていてもポリマー合成での連鎖移動反応に影響しないハーフエステル化合物を提供することができる。
また、本発明の含フッ素ポリマー水性分散体は、上述の構成よりなるので、含フッ素重合体を安定に存在させることができ、また、物性のよい含フッ素ポリマーの成形体及び塗膜等を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
以下、実施例、比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0046】
(製造例1)
ハーフエステル化合物の合成例
(CFCOOCCFCF−COONHの合成
還流管、温度計および撹拌子を有する100mL三つ口フラスコ中に、EXFLUOROよりC4ANHDの名称で販売されているパーフルオロコハク酸無水物8gを仕込み、70℃まで加温した。引き続き、TBOLの名称で販売されているt−パーフルオロブタノール25gを滴下、さらに濃硫酸0.5mlを添加すると、内温が80℃まで上昇するので、さらに加熱して内温を85℃に保ち反応を継続させた。GC(島津GC9A、カラム W−98)にて、パーフルオロコハク酸無水物、t−パーフルオロブタノールおよび生成したハーフエステル化合物のピーク比を確認しながら、12時間反応した。引き続き、未反応物を留去し、反応物に水を加え、洗浄、分液を3回繰り返し、回収した油層より、(CFCOOCCFCF−COOH25.3gを得た。この化合物をアンモニアで中和し、(CFCOOCCFCF−COONHを得た。
【0047】
(製造例5)
含フッ素ポリマー水性分散体の製造方法
内容量3Lの攪拌翼付きステンレススチール製オートクレーブに、脱イオン水1.5L、パラフィンワックス60g(融点60℃)、及び、(CFCOOCCFCF−COONH 1.5gを仕込み、系内をTFEで置換した。内温を70℃にし、内圧が0.78MPaになるようにTFEを圧入し、1質量%の過硫酸アンモニウム[APS]水溶液3.75gを仕込み、反応を開始した。重合の進行に伴って重合系内の圧力が低下するので、連続的にTFEを追加して、内圧を0.78MPaに保ち、反応を継続した。重合開始6.7時間後にTFEをパージして重合を停止した。この水性分散液の固形分濃度は、32.4質量%、標準比重は2.201、含フッ素重合体の平均一次粒子径は、240nmであった。
固形分濃度:得られた水性分散液を150℃で1時間乾燥した時の質量減少より求めた。
標準比重(SSG):ASTM D−1457−69に従い測定した。
平均一次粒子径(PTFE):固形分濃度を約0.02質量%に希釈し、単位長さに対する550nmの投射光の透過率と電子顕微鏡写真によって決定された平均粒子径との検量線を基にして、上記透過率から間接的に求めた。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明のハーフエステル化合物は、合成経路が単純で、分子中に水素原子が含まれていても連鎖移動反応に影響しないハーフエステル化合物を提供し、また、上記ハーフエステル化合物を含有する含フッ素ポリマー水性分散体を提供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)
MOOC(CFCOORf (I)
(式中Mは、H、NH、Li、Na又はKを示し、n=2〜3の整数、RfはC、F、Oを構成成分とする、炭素数が4〜6のアルキル基またはアルキレート基を示す。)で表されるハーフエステル化合物。
【請求項2】
Rfは、下記一般式(II)
−C(CFRf (II)
(式中RfはC、F、Oからなる、炭素数が1〜3のアルキル基またはアルキレート基を示す。)で表される請求項1記載のハーフエステル化合物。
【請求項3】
Rfは、−C(CFである請求項1記載のハーフエステル化合物。
【請求項4】
下記一般式(III)
【化1】

(式中n=2〜3の整数を示す。)で表される酸無水物と、下記一般式(IV)
RfOH (IV)
(式中RfはC、F、Oを構成成分とする、炭素数が4〜6のアルキル基またはアルキレート基を示す。)で表される化合物を反応させる工程を含む請求項1、2又は3記載のハーフエステル化合物の製造方法。
【請求項5】
下記一般式(III)
【化2】

(式中n=2〜3の整数を示す。)で表される酸無水物と、下記一般式(V)
RfCHOH (V)
(式中RfはC、F、Oからなる、炭素数が3〜5のアルキル基またはアルキレート基を示す。)で表される化合物を反応させる工程および、フッ素化によりCHをCHFまたはCFに転化する工程を含む請求項1記載のハーフエステル化合物の製造方法。
【請求項6】
請求項1、2、3、4又は5に記載のハーフエステル化合物、及び、含フッ素ポリマーを含有することを特徴とする含フッ素ポリマー水性分散体。
【請求項7】
含フッ素ポリマーは、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ポリヘキサフルオロプロピレン、又は、ポリビニリデンフルオライドである請求項6記載の含フッ素ポリマー水性分散体。
【請求項8】
含フッ素ポリマーは、ポリテトラフルオロエチレンである請求項6記載の含フッ素ポリマー水性分散体。
【請求項9】
水性媒体中で、請求項1、2又は3記載のハーフエステル化合物存在下で含フッ素モノマーの重合を行う工程を含むことを特徴とする請求項6、7又は8記載の含フッ素ポリマー水性分散体の製造方法。

【公開番号】特開2009−13078(P2009−13078A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−173969(P2007−173969)
【出願日】平成19年7月2日(2007.7.2)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】