説明

バイオガスの精製方法

【課題】バイオガスを都市ガス導管に注入する場合に好適なバイオガス精製技術を提供する。
【課題手段】メタン発酵槽4出ガスは貯留タンク9に一旦蓄えられた後、貯留タンク3a出の水素を含むガスと混合され、精製装置5に導入される。ここで混合ガスは、高圧状態で吸収塔(図示せず)上部から噴霧される水と向流接触する。吸収塔内の混合ガスは、水に対する溶解度の相違により分離される。二酸化炭素及び硫黄系不純物は水に吸収され、メタン、水素、酸素は吸収されることなく気体のまま精製装置5を出る。また、シロキサン化合物は高圧状態で凝縮して、高圧水に随伴して吸収塔底部に溜り除去される。精製装置5出のバイオガスは、酸素除去装置6に導入される。水素と酸素は反応器内で触媒燃焼して除去され、メタンのみが熱量調整装置7に導入され、都市ガス供給規定による熱量調整が行われる。熱調されたガスは圧力調整されたのちガス導管L0に注入され、導管内に注入される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバイオガスの精製方法に係り、特に、精製バイオガスを都市ガス導管に注入する場合に好適なバイオガスの精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、再生可能な新エネルギーとして、下水汚泥等のバイオマスを嫌気性微生物により発酵させて、生成するバイオガスの精製により得られるメタンを発電やボイラー燃料として利用する技術が注目されている。さらに、バイオガスを都市ガス導管に注入して供給する技術も提案されている(例えば特許文献1、2)。
都市ガス導管に注入する場合には、メタン以外の不純物成分について供給上許容される濃度以下に抑えることが必要となる。特許文献1のバイオガス供給システム100は、図4に示すように天然ガス導管104から分岐、導入する供給ガスを、精製装置101、熱量調整装置102において精製・熱調したバイオガスと混合させてミキシングタンク103に一旦貯蔵し、導管104に注入するものである。精製後バイオガスの不純物濃度に対応して、バルブ105により導入供給ガスと精製バイオガスの混合比を調整して、注入ガスの不純物濃度を所定基準値以下となるように制御する。
【0003】
バイオガスは、一般にメタン以外に二酸化炭素を主成分とし、不純物として微量の硫化水素、シロキサン、酸素等が含まれるため、不純物のうち、二酸化炭素は化学吸収、PSA、高圧水吸収等により除去する。また、硫化水素は、活性炭や酸化鉄を用いて除去可能である。シロキサンは、特に下水汚泥メタン由来のバイオガスに含まれており、活性炭や高圧水吸収により除去可能である。
酸素は、高圧水吸収による精製過程における溶存酸素や配管等からの漏入に由来するものであり、系外から水素を添加して触媒燃焼反応により除去する方法が開示されている(例えば特許文献2)。
【0004】
なお、バイオガス生成における水素発酵工程に関しては、食品廃棄物を水素発酵処理及びメタン発酵処理を2段階で進めることにより、水素・酸生成、メタン生成を効率的に進行させ、有機物のガス化効率を向上させる方法が提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−59416号公報
【特許文献2】特開2004−300206号公報
【特許文献3】特開2006−255538号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、系外からの水素添加については、水素供給装置や水電解装置等の水素供給設備を必要とし、設備コスト及びランニングコストが課題となる。
また、特許文献3の技術は系内で水素生成を伴うものであるが、生成水素をボイラー燃料、燃料電池用燃料等に用いることを目的とするものであり、バイオガス中に含まれる不純物酸素除去を目的とするものではない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、バイオマスの水素発酵で発生する水素を酸素除去に用いることにより、効率的かつ低コストのバイオガス精製技術を提供するものである。
本発明は、以下の内容を要旨とする。すなわち、本発明に係るバイオガスの精製方法は、
(1)バイオガスの精製方法であって、原料バイオマスを水素発酵させて、水素ガス及び二酸化炭素を主成分とするガスを生成させる水素発酵工程と、水素発酵工程を経たバイオマスをメタン発酵させて、メタン及び二酸化炭素を主成分とするバイオガスを生成するメタン発酵工程と、メタン発酵工程を経たバイオガスに水素発酵工程を経た水素ガスを含むガスを添加する水素ガス添加工程と、水素ガス添加工程を経たバイオガスから二酸化炭素及びその他の不純物を除去する不純物除去工程と、不純物除去工程を経たバイオガス中の水素と酸素を反応させて、不純物である酸素を除去する酸素除去工程と、を含むことを特徴とする。
【0008】
(2)前記メタン発酵工程を経たバイオガスの発生量に対応して、前記水素発酵工程の滞留時間を制御することを特徴とする。
【0009】
(3)前記酸素除去工程において、除去後の精製バイオガス中の酸素残留濃度が所定の基準値を超えるときは、前記水素発酵工程により得られる水素ガスに加えて、さらに系外からの水素ガスを添加することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、バイオガス中の酸素除去において、外部からの水素供給を不要又は最小限に抑えることができ、設備コスト及びランニングコストの低減化が可能という効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】第一の実施形態に係るバイオガス精製システム1の構成を示す図である。
【図2】第一の実施形態の水素発酵槽滞留時間制御のフローを示す図である。
【図3】第二の実施形態に係るバイオガス精製システム20の構成を示す図である。
【図4】従来のバイオガス精製システム100の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図1乃至3を参照してさらに詳細に説明する。なお、本発明の範囲は特許請求の範囲記載のものであって、以下の実施形態に限定されないことはいうまでもない。
【0013】
<第一の実施形態>
図1は、本発明の一実施形態に係るバイオガス精製システム1の構成を示す図である。
バイオガス精製システム1の精製系統は、前処理槽2と、水素発酵槽3と、メタン発酵槽4と、精製装置5と、酸素除去装置6と、熱量調整装置7と、貯留タンク3a、貯留タンク9と、を主要構成として備えている。各装置間は配管L1−L8で接続されている。さらに、水素発酵槽3において生成した水素ガスをメタン発酵槽4出ガスと混合させるための配管L8と、精製ガスを都市ガス導管L0に注入するための配管L8と、を備えている。
また、制御系統は、メタン発酵槽出ガスの流量を計測する流量計S1と、水素発酵槽3における液状又はスラリー状の発酵残渣をメタン発酵槽4に送入するための送入装置10(例えばスラリーポンプ等)と、流量計S1の計測値に基づいて送入装置10に稼働指令して、水素発酵槽3における滞留時間を制御する制御部8と、を主要構成として備えている。
【0014】
前処理装置2において物理化学的処理(異物除去、加熱、破砕、場合によって酸処理、アルカリ処理等)を施したバイオマスを、水素発酵槽3に導入する。水素発酵槽3において、原料バイオマスは槽内の嫌気性微生物の存在下で分解され、水素と二酸化炭素を主成分とするガスが生成する。生成ガスは一旦、貯留タンク3aに貯留される。
原料供給は回分式もしくは連続式により行う。水素発酵条件としては、温度は30℃−65℃、圧力は常圧、pHは4−8の範囲が好ましい。
生成ガス中の水素、二酸化炭素の発生ガス量は原料の槽内滞留時間により定まり、滞留時間が長いほど発生する水素ガス量が多くなる。滞留時間は、後述するようにメタン発酵槽出ガスの流量に対応して定められる。
【0015】
水素発酵槽3の水素発酵残渣は、有機酸(酢酸、ギ酸、酪酸等)、未反応有機物等を含み、これらは送入装置10の稼働によりメタン発酵槽4に送入される。水素発酵残渣は、メタン発酵槽4内において嫌気性微生物により分解され、メタン及び二酸化炭素を主成分とするガスが生成する。発酵残渣は処理槽(図示せず)に集められ、処理されて肥料等に利用される。メタン発酵条件としては、温度は35℃−60℃、pH6−8の間が望ましい。
【0016】
メタン発酵槽4出ガスは貯留タンク9に一旦蓄えられた後、貯留タンク3a出の水素を含むガスと混合され、精製装置5に導入される。導入されるガスはメタン、二酸化炭素及び水素を主成分とし、不純物として微量の硫化水素、シロキサン、酸素等を含む。
精製装置5において、混合ガスは昇圧器(図示せず)により所定の圧力に昇圧され、高圧状態で吸収塔(図示せず)上部から噴霧される水と向流接触する。吸収塔内の混合ガスは、水に対する溶解度の相違により分離される。すなわち、二酸化炭素及び硫黄系不純物(HS等)は水に吸収され、メタン、水素、酸素は吸収されることなく気体のまま精製装置5を出る。また、シロキサン化合物は高圧状態で凝縮して、高圧水に随伴して吸収塔底部に溜り除去される。
【0017】
メタン、水素及び微量酸素を含む精製装置5出のバイオガスは、酸素除去装置6に導入される。ここで、水素と酸素は反応器(図示せず)内で触媒燃焼して除去される。使用する触媒としては、Pt、Pd、Ru、Rh、Agを支持体に担持させたものを用いることができる。メタン以外の不純物成分について許容濃度以下になったバイオガスが、熱量調整装置7に導入される。ここで、都市ガス供給規定による熱量調整が行われる。熱量調整されたガスは圧力調整されたのちガス導管L0に注入され、導管内の供給ガスの一部として使用に供される。
【0018】
次に、図2をも参照して、制御部8の指令により実行される水素発酵槽3における滞留時間制御の具体的内容について説明する。初期状態において、滞留時間Tsはデフォルト値(Td)に設定されている(S101)。発酵処理中は、メタン発酵槽出ガスの流量Fmが計測されている(S102)。
Fmが上限、下限閾値範囲内(Fmax≧Fm≧Fmin)にある場合には(S103においてYES)、現状滞留時間が維持される(S105)。Fm>Fmaxの場合にはメタン生成量が過大であるため、水素発酵ガスの発生量を増大させて、発生したメタンと水素のエネルギー比率(熱量ベース)で表すメタン生成比率を減少させるべく、滞留時間を1段階延長させる(S104)。またFm<Fminの場合には、メタン生成量が過小であるため、水素発酵ガスの発生量を減少させてメタン生成比率を増大させるべく、滞留時間を1段階短縮させる(S106)。
通常、精製装置5出ガスの酸素濃度は0.2−1.0%であるから、以上の制御を所定の時間ごとに繰返し行うことにより、酸素濃度に対応して水素添加量を増減することができ、ガス導管L0に注入するバイオガスの残留酸素濃度を供給上許容される値以下に制御することができる。
【0019】
なお、本実施形態においては精製装置5において混合ガス中の二酸化炭素、硫黄系不純物及びシロキサン化合物の除去を高圧水吸収により行う例を示したが、それぞれ個別に除去する態様、例えば硫黄系不純物については活性炭又は酸化鉄による除去と、その後にシロキサン化合物については活性炭による除去と、その後に二酸化炭素についてはPSA又は吸収液による除去、によることも可能である。
【0020】
また、本実施形態においては水素発酵槽3の滞留時間を、メタン発酵槽4出ガスの流量に基づき制御する例を示したが、酸素除去装置6出ガスの残留酸素濃度に基づき水素発酵槽3の滞留時間を制御する態様としてもよい。
【0021】
また、水素発酵槽3出ガスを貯留タンク3aに一旦貯留する例を示したが、貯留することなく直接、メタン発酵槽4出ガスと混合させる態様としてもよい。
【0022】
<第二の実施形態>
次に、図3を参照して本発明の他の実施形態について説明する。本実施形態に係るバイオガス精製システム20の構成が上述のバイオガス精製システム1と異なる点は、酸素除去装置の構成である。すなわち、本実施形態の酸素除去装置21は、酸化触媒反応器22の上流側に水素ボンベ23a、流量制御装置23bを含む水素ガス添加装置23を備えており、触媒反応器22に導入されるガスに水素が添加されることである。さらに、触媒反応器22の下流側に酸素濃度計S2を備えており、触媒反応器22出ガスの残留酸素濃度を測定可能に構成されていることである。その他の構成についてはバイオガス精製システム1と同様であるので、重複説明を省略する。
以上の構成によりバイオガス精製システム20においては、酸素濃度計S2の計測値に基づき、触媒反応器22出ガスの酸素濃度を所定の許容濃度以下に制御する。すなわち、触媒反応器22出ガスの酸素濃度が所定の閾値以上のときは、水素ガス添加装置23からの水素を添加して触媒反応器22における酸化反応促進を図る。これにより、ガス導管L0に注入するバイオガスの残留酸素濃度を許容基準値以下に制御することができる。
【実施例】
【0023】
以下、水素発酵槽の原料滞留時間を変化させたときの、生成バイオガスの成分比及びエネルギー回収効率を測定した。試験条件は以下の通りである。

【表1】

【0024】
各滞留時間条件についての、全バイオガス発生量に対する水素及びメタン発生割合を表2に示す。ここに、回収効率とは、原料のエネルギー(熱量ベース)に対する回収ガス(水素、メタン)のエネルギーの比率である。
【表2】

【0025】
以上の結果から、水素発酵槽の滞留時間を変化させることにより、水素とメタンの回収効率の比を変更することが可能であることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、下水汚泥のみならず、生ゴミ、食品廃棄物、廃材、木材チップ等、種々のバイオマスを原料としたバイオガス精製システムに広く適用可能である。
【符号の説明】
【0027】
1、20・・・・バイオガス精製システム
2・・・・前処理槽
3・・・・水素発酵槽
4・・・・メタン発酵槽
5・・・・精製装置
6、21・・・・酸素除去装置
7・・・・熱量調整装置
8・・・・制御部
9・・・・貯留タンク
10・・・・送入装置
22・・・・酸化触媒反応器
23・・・・水素ガス添加装置
L0・・・・ガス導管
S1・・・流量計
S2・・・酸素濃度計




【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオガスの精製方法であって、
原料バイオマスを水素発酵させて、水素ガス及び二酸化炭素を主成分とするガスを生成させる水素発酵工程と、
水素発酵工程を経たバイオマスをメタン発酵させて、メタン及び二酸化炭素を主成分とするバイオガスを生成するメタン発酵工程と、
メタン発酵工程を経たバイオガスに、水素発酵工程を経た水素ガスを含むガスを添加する水素ガス添加工程と、
水素ガス添加工程を経たバイオガスから、二酸化炭素及びその他の不純物を除去する不純物除去工程と、
不純物除去工程を経たバイオガス中の水素と酸素を反応させて、不純物である酸素を除去する酸素除去工程と、
を含むことを特徴とするバイオガスの精製方法。
【請求項2】
前記メタン発酵工程を経たバイオガスの発生量に対応して、前記水素発酵工程の滞留時間を制御することを特徴とする請求項1に記載のバイオガスの精製方法。
【請求項3】
前記酸素除去工程において、除去後の精製バイオガス中の酸素残留濃度が所定の基準値を超えるときは、前記水素発酵工程により得られる水素ガスに加えて、さらに系外からの水素ガスを添加することを特徴とする請求項1又は2に記載のバイオガスの精製方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−211213(P2012−211213A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−76267(P2011−76267)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000220262)東京瓦斯株式会社 (1,166)
【出願人】(000221834)東邦瓦斯株式会社 (440)
【Fターム(参考)】