説明

バイオディーゼル燃料容器用材料及び成形品

【課題】バイオディーゼル燃料と直接又は間接に接触する成形品の材料として、成形性や価格といった面で満足でき、しかも、長期耐久性、耐溶出性、機械的強度等の諸特性に優れたバイオディーゼル燃料容器用材料及び成形品を提供する。
【解決手段】密度が0.920〜0.970g/cm、メルトフローレートが0.1〜100g/10分であるポリエチレン(I)100重量部に対して、エチレン−ビニル化合物共重合体(II)0.1〜10重量部を含有するバイオディーゼル燃料容器用材料であって、エチレン−ビニル化合物共重合体(II)は、エチレン(A)と特定の一般式で示されるビニル化合物(B)との共重合体であって、(A)と(B)との和に対する(B)の割合が0.001〜2.0モル%であり、該共重合体の温度190℃、荷重2.16kgにて測定されるメルトフローレートが0.1〜200g/10分であるバイオディーゼル燃料容器用材料により提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオディーゼル燃料容器用材料及び成形品に関するもので、さらに詳しくは、バイオディーゼル燃料と直接又は間接に接触する燃料容器などに成形したとき、長期耐久性、耐溶出性、機械的強度等の諸特性に優れたバイオディーゼル燃料容器用材料、及びその材料を用いて製造された成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、二酸化炭素の増加によると考えられる地球温暖化を防止するため、二酸化炭素排出量を規制する動きが加速しつつある。そのような中で、二酸化炭素排出量を軽減する方策として、石油燃料の代わりに、バイオマスを燃料として用いることが注目されている。バイオマスは、二酸化炭素と水から太陽エネルギーによって光合成された有機化合物であり、これを燃料として利用することにより、二酸化炭素の増加を抑制できると考えられている。
【0003】
このような状況下、ディーゼル車に、バイオマス燃料であるバイオディーゼル燃料(BDF)を用いることが積極的に推進されつつある。バイオディーゼル燃料とは、植物油のメチルエステル(脂肪酸メチルエステル)を主成分とするものであり、菜種油、ひまわり油、大豆油、コーン油や、これらの廃食用油を原料油としてメタノールでエステル化し、副生するグリセリンを分離除去して、動粘度を軽油の2倍程度まで下げた液体燃料が代表的なものである。廃食用油等は、入手しやすいが、粘度が高い等、物性的な理由から、そのままではディーゼル自動車用燃料としては使用できない。
【0004】
バイオディーゼル燃料は、通常、軽油に混合して使用されるが、バイオディーゼル燃料中には、メタノール、トリグリセライド、酸等が微量含まれており、これらの物質の悪影響を受けにくい容器材料が求められている。また、バイオディーゼル燃料自体が、軽油に比べて、樹脂等の材質を劣化させやすいという性質を有している。
このようなバイオディーゼル燃料と直接又は間接に接触する燃料容器及び容器部品においては、バイオディーゼル燃料に対して、優れた耐燃料油性(以下、耐バイオディーゼル燃料性という)が要求される。
例えば、耐バイオディーゼル燃料性に係る材料として、特開2004−059720号公報(特許文献1)には、ポリオキシメチレン100重量部、酸化防止剤0.01〜2.0重量部、ヒンダードアミン系光安定剤0.01〜2.0重量部及び/又は特定の化学式で表されるハイドロタルサイト類の少なくとも1種0.01〜2.0重量部を配合してなるポリオキシメチレン樹脂組成物及びその成形部品が提案されている。
しかしながら、上記組成物は、ポリオキシメチレンを用いるため、成形性や価格といった面で必ずしも満足できるものではない。
【0005】
また、特表2001−527109号公報(特許文献2)には、植物油エステルの貯蔵、移送用プラスチック製品及び成形品を製造するための、立体障害アミン又はそのN−ヒドロキシもしくはN−オキシル誘導体により安定化されたエチレンホモポリマー及びコポリマーの使用、植物油エステル、特に植物油メチルエステルを貯蔵し、移送するためのプラスチック製品が提案され、その使用のために適した化合物として、特定構造式の化合物が例示されている。
しかしながら、特許文献2に例示された立体障害アミン又はそのN−ヒドロキシもしくはN−オキシル誘導体化合物のすべてが、ポリエチレンとの適合性において各種性能を十分満足するとは言えず、特に、最終的な成形品とした場合の実用性能を優れたレベルで十分に発揮できるとは限らない。即ち、ポリエチレンとの親和性に乏しいアミン系化合物を用いると、長期間が経過すると該化合物がブリードアウトしたり、得られた成形品の耐衝撃性が低下するという問題が発生し、このような材料を用いたとしても、長期耐久性、耐溶出性、機械的強度等の諸特性について、必ずしも好適な成形品が得られるというわけではない。
【0006】
一方、特開平04−080215号公報(特許文献3)には、分子側鎖にヒンダードアミン基を有する特定構造のポリマーであり、それ自体あるいは他の高分子材料にブレンドした場合に光安定効果が優れ、フィルムに成形したときの透明性、成膜性及び外観などが極めて良好な材料が提案され、エチレンと特定の化学式で示されるビニル化合物とのエチレン共重合体が記載されている。
しかしながら、当該エチレン共重合体は、バイオディーゼル燃料と直接又は間接に接触する成形品としたとき、長期耐久性、耐溶出性、機械的強度等の諸特性を改善できるかどうかについて、何ら記載や示唆がなされておらず、当該用途分野における有用性は明らかでない。
また、特開平05−170931号公報(特許文献4)には、ポリエチレンに、エチレンとヒンダードアミンを有するビニル化合物とからなるエチレン系共重合体を配合した樹脂組成物が記載されている。
しかしながら、当該樹脂組成物は、給排水移送管の材料として用いられ、バイオディーゼル燃料と直接又は間接に接触する成形品に用いたときに、長期耐久性、耐溶出性、機械的強度等の諸特性を改善できるかどうかについて、何ら記載も示唆もされておらず、当該用途分野における有用性は明らかでない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−059720号公報
【特許文献2】特表2001−527109号公報
【特許文献3】特開平04−080215号公報
【特許文献4】特開平05−170931号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題点を解決し、といった面で満足でき、しかも、バイオディーゼル燃料と直接又は間接に接触する成形品への成形性が良く、低価格でありながら、成形品の長期耐久性、耐溶出性、機械的強度等の諸特性に優れたバイオディーゼル燃料容器用材料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、バイオディーゼル燃料容器用材料として、特定のポリエチレン及び主鎖にエチレン単位を有しかつ特定構造のビニル化合物単位を共重合させたエチレン−ビニル化合物共重合体を含有する材料を用いることにより、長期耐久性、耐溶出性、機械的強度等の諸特性に優れたバイオディーゼル燃料容器が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明の第1の発明によれば、密度が0.920〜0.970g/cm、メルトフローレート(HLMFR;温度190℃、荷重21.6kgにて測定)が0.1〜100g/10分であるポリエチレン(I)100重量部に対して、エチレン−ビニル化合物共重合体(II)0.1〜10重量部を含有するバイオディーゼル燃料容器用材料であって、エチレン−ビニル化合物共重合体(II)は、エチレン(A)と下記一般式で示されるビニル化合物(B)との共重合体であって、(A)と(B)との和に対する(B)の割合が0.001〜2.0モル%であり、該共重合体の温度190℃、荷重2.16kgにて測定されるメルトフローレート(MFR)が0.1〜200g/10分であることを特徴とするバイオディーゼル燃料容器用材料が提供される。
【0011】
【化1】

【0012】
(式中、R及びRは水素原子又はメチル基であり、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。)
【0013】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、エチレン−ビニル化合物共重合体(II)は、共重合体中に、ビニル化合物(B)が2個以上連続せず孤立して存在し、その割合が、ビニル化合物(B)の総量に対して83%以上であることを特徴とするバイオディーゼル燃料容器用材料が提供される。
また、本発明の第3の発明によれば、第1又は2の発明において、ビニル化合物(B)は、4−アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−アクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、4−アクリロイルオキシ−1−エチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−アクリロイルオキシ−1−プロピル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、及び4−アクリロイルオキシ−1−ブチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンからなる群から選択される化合物であることを特徴とするバイオディーゼル燃料容器用材料が提供される。
また、本発明の第4の発明によれば、第1〜3のいずれかの発明において、ビニル化合物(B)単位の割合が、ポリエチレン(I)及びエチレン−ビニル化合物共重合体(II)の総量に対して、10〜5000ppmであることを特徴とするバイオディーゼル燃料容器用材料が提供される。
さらに、本発明の第5の発明によれば、第1〜4のいずれかの発明において、ポリエチレン(I)は、密度が0.930〜0.965g/cm、HLMFRが1〜10g/10分であるバイオディーゼル燃料容器用材料が提供される。
【0014】
一方、本発明の第6の発明によれば、第1〜5の発明のいずれかの材料を用いて製造されるバイオディーゼル燃料容器が提供される。
また、本発明の第7の発明によれば、第1〜5の発明のいずれかの材料を用いて製造されるバイオディーゼル燃料容器部品が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、バイオディーゼル燃料容器用材料として、特定のポリエチレン及び主鎖にエチレン単位を有しかつ特定構造のビニル化合物単位を共重合させたエチレン−ビニル化合物共重合体を用いるので、成形性が良く低価格であり、しかも、バイオディーゼル燃料と直接又は間接に接触する燃料容器などの成形品としたとき、長期耐久性、耐溶出性、機械的強度等の諸特性に優れたものとなる。また、バイオディーゼル燃料容器だけではなく、その材料特性により各種容器分野をはじめ広範囲の分野で利用できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明のバイオディーゼル燃料容器用材料は、密度が0.920〜0.970g/cm、メルトフローレート(HLMFR;温度190℃、荷重21.6kgにて測定)が0.1〜100g/10分であるポリエチレン(I)100重量部に対して、エチレン−ビニル化合物共重合体(II)0.1〜10重量部を含有するものであり、エチレン−ビニル化合物共重合体(II)が、エチレン(A)と下記一般式で示されるビニル化合物(B)との共重合体であって、(A)と(B)との和に対する(B)の割合が0.001〜2.0モル%であり、該共重合体の温度190℃、荷重2.16kgにて測定されるメルトフローレート(MFR)が0.1〜200g/10分であることを特徴とする。
【0017】
【化2】

【0018】
(式中、R及びRは水素原子又はメチル基であり、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。)
【0019】
以下、本発明の材料の(I)成分、(II)成分、その他の任意成分や、成形品の成形方法、成形品特性等について、項目別に詳細に説明する。
なお、本発明において、バイオディーゼル燃料とは、前記のとおり、植物油のメチルエステル(脂肪酸メチルエステル)を主成分とするものであり、菜種油、ひまわり油、大豆油、コーン油や、これらの廃食用油を原料油としてメタノールでエステル化し、副生するグリセリンを分離除去して、動粘度を軽油の2倍程度まで下げた液体燃料である。バイオディーゼル燃料中には、メタノール、トリグリセライド、酸等が微量含まれているため、軽油に比べて、樹脂等の材質を劣化させやすいが、軽油をある程度配合することで、それを抑制することができる。本発明によれば、軽油を70容量%以下、好ましくは60容量%以下混合した場合においても、優れた耐久性等の効果を発揮することができる。
【0020】
1.バイオディーゼル燃料容器用材料
(1)ポリエチレン(I)について
本発明のバイオディーゼル燃料容器用材料を構成するポリエチレン(I)は、密度が0.920〜0.970g/cmであり、温度190℃、荷重21.6kgにて測定されるメルトフローレート(HLMFR)が0.1〜100g/10分のポリエチレンである。
【0021】
本発明において、ポリエチレン(I)の密度は、0.920〜0.970g/cm、好ましくは0.930〜0.965g/cm、更に好ましくは0.940〜0.960g/cmである。密度が0.920g/cm未満では、成形された容器の剛性が小さく、薄肉製品での強度が保たれにくくなる。一方、密度が0.970g/cmを超えるものは、実質的に製造が難しい。ここで、密度は、JIS K6922−1,2:1997に準じて測定される値である。
密度は、エチレンと共重合させるコモノマーの種類や量により変化させることにより、所望のものを得ることができる。
【0022】
また、本発明に係るポリエチレン(I)のメルトフローレート(HLMFR)は、温度190℃、荷重21.6Kgにおいて測定され、1〜100g/10分のものが好適であり、好ましくは2〜50g/10分、更に好ましくは5〜20g/10分である。HLMFRが1g/10分未満では、ブロー成形の場合、成形された容器の表面肌が荒れる傾向にあり、射出成形の場合、流動性が低下する。一方、100g/10分を超えると、ブロー成形では、パリソンがドローダウンし易くなり、ブロー成形された容器の肉厚分布を調整しにくくなり、射出成形の場合、耐衝撃性が低下する。ここで、HLMFRは、JIS K6922−2:1997「プラスチック−ポリエチレン(PE)成形用及び押出用材料−第2部:試験片の作り方及び性質の求め方」に準じて、測定される値である。
このHLMFRは、エチレン重合温度や連鎖移動剤の使用等により調整することができ、他の物性とのバランスをとりつつ所望のものを得ることができる。即ち、エチレンとα−オレフィンとの重合温度を上げることにより分子量を下げて、結果としてHLMFRを大きくすることができ、また、重合温度を下げることにより分子量を上げて結果として、HLMFRを小さくすることができる。また、チーグラー触媒を用いる場合、エチレンとα−オレフィンとの共重合反応において共存させる水素量(連鎖移動剤量)を増加させることにより分子量を下げて、結果としてHLMFRを大きくすることができ、共存させる水素量(連鎖移動剤量)を減少させることにより分子量を上げて、結果としてHLMFRを小さくすることができる。
【0023】
さらに、本発明に係るポリエチレン(I)の重量平均分子量と数平均分子量の比(Mw/Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)により測定され、好適には、5.0〜50.0であり、より好ましくは5.5〜45.0、更に好ましくは6.5〜40.0である。Mw/Mnが5.0未満の場合、ブロー成形では、押出されたパリソンにメルトフラクチャーが発生しやすくなり、特に高速成形時にメルトフラクチャーが発生しやすくなる。Mw/Mnが50.0を超えると、ブロー成形では、HLMFR値が低い場合はパリソンに肌荒れが生じやすく、ブロー成形された容器に肌荒れが発生しやすくなり、また、HLMFR値が高い場合はパリソンの表面肌が異常に光った部分が発生し、ブロー成形時にはエアー抜き性が悪くなり、成形された容器表面に肌荒れが発生する傾向がある。
GPC測定によるMw/Mnは、触媒の種類、助触媒の種類、重合温度、重合反応器内の滞留時間、重合反応器の数などで調整でき、また、仕上げ押出機の温度、圧力、剪段速度などにより、調整可能である。好ましくは、高分子量成分と低分子量成分の組成割合を調整することにより増減することができ、重合温度や連鎖移動剤量を重合反応中に変化させることにより分子量が異なる重合体成分が生成し、結果として全体の重合体の分子量分布を変化させることができる。また、重合条件の異なる重合を多段で行なうことにより分子量分布を増減させることも可能である。
【0024】
GPCの測定条件及び測定方法、並びに分子量計算方法は以下の通りである。
(i)測定条件
ーターズ社製150C型を使用して、下記の条件でGPC測定を行い、重量平均分子量(Mw)を求める。
カラム:昭和電工社製Shodex HT−G 1本、及び同・HT−806M 2本
溶媒:1,2,4−トリクロロベンゼン
温度:140℃
流量:1.0ml/分
注入量:300μl
(ii)サンプル調整
市販の4mlスクリュートップバイアル瓶に試料約3mg、及び溶媒3.0mlを量り採り、センシュー科学社製SSC−9300型攪拌機を用い、温度150℃で2時間振とうを行なう。
(iii)分子量の計算
GPCクロマトデータを1点/秒の頻度でコンピュータに取り込み、森定雄著・共立出版社発行の「サイズ排除クロマトグラフィー」第4章の記載に従ってデータ処理を行い、Mw値を計算する。
(iv)カラムの較正
カラムの較正は、昭和電工社製単分散ポリスチレン(S−7300、S−3900、S−1950、S―1460、S−1010、S−565、S−152、S−66.0、S−28.5、S−5.05)、n−エイコサン及びn−テトラコンタンの各0.2mg/l溶液を用いて、一連の単分散ポリスチレンの測定を行い、それらの溶出ピーク時間と分子量の対数の関係を4次多項式でフィットしたものを較正曲線とする。
なお、ポリスチレンの分子量は、次式を用いてポリエチレンの分子量に換算する。
PE=0.468×MPS
【0025】
本発明に係るポリエチレンとしては、具体的には、例えば、エチレンの単独重合体、エチレンと、プロピレン、1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−デセン、1−オクタデセン等の炭素数2〜18程度の他のα−オレフィン等との二元或いは三元の共重合体等、具体的には、例えば、分岐状低密度ポリエチレン、直鎖状高密度ポリエチレン等のエチレン単独重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−1−ブテン共重合体、エチレン−プロピレン−1−ブテン共重合体、エチレン−4−メチル−1−ペンテン共重合体、エチレン−1−ヘキセン共重合体、エチレン−1−ヘプテン共重合体、エチレン−1−オクテン共重合体等のエチレン系樹脂が挙げられ、これらのエチレン系重合体は2種以上が併用されていてもよい。
また、改質を目的とする場合、ジエンとの共重合も可能である。このとき使用されるジエン化合物の例としては、ブタジエン、1,4−ヘキサジエン、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン等を挙げることができる。なお、重合の際のコモノマー含有率は、任意に選択することができるが、例えば、エチレンと炭素数3〜12のα−オレフィンとの共重合の場合には、エチレン・α−オレフィン共重合体中のα−オレフィン含有量は0〜40モル%、好ましくは0〜30モル%である。
これらのエチレン系重合体は、分子量が重量平均分子量で2,000〜500,000であるものが好ましく、5,000〜450,000であるものが更に好ましく、10,000〜400,000であるものが特に好ましい。
【0026】
前記のエチレン系重合体の重合触媒は、チーグラー触媒、クロム系触媒、メタロセン触媒等の各種触媒が用いられ、いずれも使用することができる。
具体的には、固体触媒成分と有機金属化合物とからなり、水素がオレフィン重合の連鎖移動作用を示すようなスラリー法オレフィン重合に適する触媒であればいずれも使用することができる。好ましくは重合活性点が局在している不均一系触媒である。
上記固体触媒成分としては、遷移金属化合物を含有するオレフィン重合用の固体触媒として用いられるものであれば特に制限はない。遷移金属化合物としては、周期表第4族〜第10族、好ましくは第4族〜第6族の元素の化合物を使用することができ、具体例としては、Ti、Zr、Hf、V、Cr、Mo等の化合物が挙げられる。
【0027】
前記のチーグラー触媒としては、例えば、特開昭53−78287号公報、特開昭54−21483号公報、特開昭55−71707号公報、特開昭58−225105号公報などに記載された触媒系が挙げられる。
前記のクロム系触媒としては、例えば、特開2002−080521号公報、特表2006−512454号公報、WO94/13708国際公開パンフレット、特開2002−020412号公報、特開2003−096127号公報、特開2003−183287号公報、特開2003−313225号公報、特開2006−182917号公報などに記載された触媒系が挙げられる。
また、前記のメタロセン触媒とは、活性点が比較的単一な、いわゆるシングルサイト触媒と呼ばれる種類の触媒であり、代表的なものとして、遷移金属のメタロセン錯体、例えばジルコニウムやチタンのビスシクロペンタジエニル錯体に助触媒としてのメチルアルミノキサン等を反応させて得られる触媒が挙げられ、各種の錯体、助触媒、担体等を種々組み合わせた均一又は不均一触媒である。
メタロセン触媒としては、例えば、特開昭58−19309号、同59−95292号、同59−23011号、同60−35006号、同60−35007号、同60−35008号、同60−35009号、同61−130314号、特開平3−163088号公報等に記載された触媒系が挙げられる。
【0028】
前記のポリエチレンは、気相重合法、溶液重合法、スラリー重合法などの製造プロセスにより製造することができる。エチレン系重合体の重合条件のうち重合温度としては、0〜300℃の範囲から選択することができる。重合圧力は、大気圧〜約100kg/cmの範囲から選択することができる。実質的に酸素、水等を断った状態で、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環族炭化水素等から選ばれる不活性炭化水素溶媒の存在下でエチレン及びα−オレフィンの重合を行うことにより製造することができる。
上記重合において、重合器に供給される水素は、連鎖移動剤として消費され、生成するエチレン系重合体の平均分子量を決定するほか、一部は溶媒に溶解して重合器から排出される。溶媒中への水素の溶解度は、小さく、重合器内に大量の気相部が存在しない限り、触媒の重合活性点付近の水素濃度は低い。そのため、水素供給量を変化させれば、触媒の重合活性点における水素濃度が速やかに変化し、生成するエチレン系重合体の分子量は、短時間の間に水素供給量に追随して変化する。従って、短い周期で水素供給量を変化させれば、より均質な製品を製造することができる。また、水素供給量の変化の態様は、連続的に変化させるよりも不連続的に変化させる方が、分子量分布を広げる効果が得られるので、好ましい。
また、本発明に係るポリエチレンにおいては、水素供給量を変化させて重合することが重要であるが、その他の重合条件、例えば重合温度、触媒供給量、エチレンなどのオレフィンの供給量、1−ブテンなどのコモノマーの供給量、溶媒の供給量等を、適宜に水素の変化と同時に又は別個に変化させることも重要である。
【0029】
(2)エチレン−ビニル化合物共重合体(II)について
エチレンービニル化合物共重合体(II)は、エチレン(A)と下記一般式で示されるビニル化合物(B)との共重合によって得られるものである。
【0030】
【化3】

(式中、R及びRは上記と同じである。)
【0031】
エチレン−ビニル化合物共重合体(II)中の側鎖にヒンダードアミン基を有するビニル化合物(B)の濃度(公知の窒素分析にて決定する)は、エチレン(A)とビニル化合物(B)との和に対して、ビニル化合物(B)単位が0.001〜2.0モル%、好ましくは0.01〜1.5モル%である。
本共重合体は、長期耐久性効果に優れるため、ビニル化合物(B)単位が、共重合体の全構造単位(すなわち、エチレン及び側鎖にヒンダードアミン基を有するビニル化合物)に対し0.001モル%の含量にて十分な効果を発揮し、2.0モル%を超えると耐衝撃性等の機械的特性を低下させるおそれがある。
さらに、本発明に係るエチレン−ビニル化合物共重合体(II)は、GPCを用いて決定した重量平均分子量と数平均分子量との比(Mw/Mn)が3〜120の範囲にあることが望ましく、特に好ましい範囲は5〜20である。
【0032】
エチレン−ビニル化合物共重合体(II)の製造には、エチレンと下記一般式で示されるビニル化合物のモノマーが使用される。
【0033】
【化4】

【0034】
式中、R及びRは水素原子又はメチル基であり、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。また、上記一般式で示されるビニル化合物において、R及びRは水素原子が更に好適であり、Rは炭素数1〜4のアルキル基、更にはメチル基が好適である。
上記式のビニル化合物モノマーは、公知の方法、例えば特公昭47−8539号、特開昭48−65180号公報記載の方法にて合成することができる。
【0035】
上記式のビニル化合物モノマーの代表例を挙げれば下記のとおりである。
4−アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−アクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、4−アクリロイルオキシ−1−エチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−アクリロイルオキシ−1−プロピル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−アクリロイルオキシ−1−ブチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−メタクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−メタクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−メタクリロイルオキシ−1−エチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−メタクリロイルオキシ−1−ブチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−クロトノイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−クロトノイルオキシ−1−プロピル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン
上記の中でも、下記の化合物が好ましい。
4−アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−アクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、4−アクリロイルオキシ−1−エチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−アクリロイルオキシ−1−プロピル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−アクリロイルオキシ−1−ブチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン
また、更には、4−アクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、4−アクリロイルオキシ−1−エチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−アクリロイルオキシ−1−プロピル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−アクリロイルオキシ−1−ブチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンが好適である。
【0036】
エチレン−ビニル化合物共重合体(II)は、MFR(JIS−K−6760に記載の測定法による)が0.1〜200g/10分の範囲にあることが必要である。好ましい範囲は0.5〜20g/10分、より好ましくは1〜5g/10分である。MFRが0.1g/10分未満になると、市販のポリオレフィンレジン等とのなじみが悪く、ブレンド使用した場合、フィッシュアイやブツ等、可視欠点の原因になる。また、MFRが200を越えると、分子量大なる共重合体であっても、拡散透失によるブリード、ブルーム現象が生起したり、ポリオレフィン等他の高分子材料とブレンド使用した場合に、ブレンド物の強度低下の原因となる。
【0037】
また、エチレン−ビニル化合物共重合体(II)は、共重合体中にビニル化合物(B)が2個以上連続せず、特定量孤立して存在し、その存在割合が、ビニル化合物(B)の総量に対して83%以上であることが好ましい。ビニル化合物(B)の存在確認は、次のようにして行われる。
13C−NMR(例えば日本電子社製JNM−GSX270 Spectrometer)にて公知の方法に従い(例えば、化学同人発行「機器分析のてびき(1)」53〜56頁(1986)参照)、ポリアクリル酸エチル(朝倉書店発行「高分子分析ハンドブック」969頁(1985)参照)及びエチレン−アクリル酸ヒドロキシエチル共重合体(Eur.Poly.J.25巻、4号、411〜418頁(1989)参照)の化学シフトを用いて、TMS基準における32.9ppmのピークを孤立したビニル化合物(B)単位の分岐点からα位にあるメチレン基に、35.7ppmのピークを連続した二つのビニル化合物(B)単位の分岐点に挟まれたメチレン基によるものと帰属する。これら二つのシグナルを用いて、エチレン(A)とビニル化合物(B)との共重合体(II)においてビニル化合物(B)単位が孤立して存在する割合を、下記計算式によって算出することができる。
【0038】
【数1】

【0039】
上記により、側鎖にヒンダードアミン基を有するビニルモノマーが2個以上連続せず、孤立して存在する割合を見積もって、その存在割合が、共重合体中のビニル化合物(B)の総量に対して83%以上であることが好ましい。側鎖にヒンダードアミン基を有するビニル化合物単位が2個以上連続せず、孤立して有する割合が、83%未満であると、側鎖にヒンダードアミン基を有するビニル化合物単位の含量が少ない割に高い長期耐久性を有するという特徴が発揮されにくい。
【0040】
エチレン−ビニル化合物共重合体は、公知の方法、例えば特開平4−80215号公報に記載の方法にて製造することができる。
即ち、エチレン−ビニル化合物共重合体は、エチレン(A)とビニル化合物(B)とを、1000〜5000kg/cmの圧力、100〜400℃の温度でラジカル重合させることにより得られる。
【0041】
(3)ポリエチレン(I)とエチレン−ビニル化合物共重合体(II)の両成分の割合について
本発明のバイオディーゼル燃料容器用材料は、ポリエチレン(I)100重量部に対して、エチレン−ビニル化合物共重合体(II)0.1〜10重量部、好ましくは0.5〜8重量部、更に好ましくは1〜5重量部配合することが好適である。エチレン−ビニル化合物共重合体(II)が0.1重量部未満では、耐バイオディーゼル燃料性、長期耐久性が低下し、10重量部を超えると、耐衝撃性が低下する傾向がある。
【0042】
本発明のバイオディーゼル燃料容器用材料中に含まれるビニル化合物(B)単位の割合は、ポリエチレン(I)及びエチレン−ビニル化合物共重合体(II)の総量に対して、ビニル化合物(B)単位の割合が10〜5000ppmであることが好ましく、更に100〜3000ppmが好適である。ビニル化合物(B)単位の割合が上記範囲の下限値を外れると、耐バイオディーゼル燃料性、長期耐久性が低下し、上限値を外れると耐衝撃性が低下する傾向がある。
【0043】
上記のポリエチレン(I)及びエチレン−ビニル化合物共重合体(II)は、常法に従い、ペレタイザーやホモジナイザー等による機械的な溶融混合によりペレット化した後、各種成形機により成形を行って所望の成形品とすることができる。また、上記の方法により得られるバイオディーゼル燃料容器用材料には、常法に従い、他のオレフィン系重合体やゴム等のほか、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、帯電防止剤、防曇剤、ブロッキング防止剤、加工助剤、着色顔料、パール顔料、光輝材、偏光パール顔料、架橋剤、発泡剤、中和剤、熱安定剤、結晶核剤、無機又は有機充填剤、難燃剤等の公知の添加剤を配合することができる。着色方法としてはベース樹脂に必要量添加したコンパウンドでも、高濃度添加したマスターバッチを後ブレンドしてもよい。結晶核剤は、マスターバッチにてブロー成形時に添加しても差し支えない。
【0044】
また、添加剤として、例えば酸化防止剤(フェノール系、リン系、イオウ系)、滑剤、帯電防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤等を1種又は2種以上適宜併用することができる。充填材としては、炭酸カルシウム、タルク、金属粉(アルミニウム、銅、鉄、鉛など)、珪石、珪藻土、アルミナ、石膏、マイカ、クレー、アスベスト、グラファイト、カーボンブラック、酸化チタン等が使用可能である。いずれの場合でも、上記材料に、必要に応じ各種添加剤を配合し、混練押出機、バンバリーミキサー等にて混練し、成形用材料とすることができる。
【0045】
(4)曲げ弾性率
本発明のバイオディーゼル燃料容器用材料の曲げ弾性率は、JIS K6922−2:2005に準拠して測定される。本発明の材料の曲げ弾性率は、500MPa以上、好ましくは700〜3000MPa、さらに好ましくは700〜2000MPaである。曲げ弾性率が、この範囲にあれば、燃料容器を薄肉にした場合、剛性不足となることがない。曲げ弾性率は、ポリエチレン(I)の密度を変更することにより調整可能である。
【0046】
(5)低温耐衝撃性
本発明のバイオディーゼル燃料容器用材料のシャルピー衝撃強度は、JIS K−7111(2004年)に準拠し、タイプ1の試験片を作製し、打撃方向はエッジワイズ、ノッチのタイプはタイプA(0.25mm)として、ドライアイス/アルコール中、−40℃で測定される。
本発明の材料は、−40℃のシャルピー衝撃強度が7kJ/m以上、好ましくは7.5kJ/m、さらに好ましくは8kJ/mである。−40℃のシャルピー衝撃強度が7kJ/m未満では、低温衝撃強度が不足となり、落下強度が弱くなる傾向がある。低温衝撃強度は、ポリエチレン(I)の分子量を大きくすることにより上げることができ、分子量を小さくすることにより下げることができる。
【0047】
(6)長期耐久性
本発明のバイオディーゼル燃料容器用材料の長期耐久性は、下記の長期耐久性試験1及び2により評価される。
長期耐久性試験1は、JIS K6922−2:2005に準拠して、厚さ2mmの試験片を作製し、80℃の温水中で浸漬試験を実施する。さらに内径65mmφのカップに試験液を50cc注入し、開口部を温水浸漬後の試験片で封止し、バイオディーゼル燃料の片面浸漬試験を100℃で行なう。長期耐久性の評価として、燃料浸漬後の試験片の分子量をGPCにて測定する。
長期耐久性試験2は、JIS K6922−2:2005に準拠して、厚さ2mmの試験片を作製し、JIS K7350−4:1996に準拠した暴露試験を実施する。さらに内径65mmφのカップに試験液を50cc注入し、開口部を暴露試験後の試験片で封止し、バイオディーゼル燃料の片面浸漬試験を100℃で行なう。長期耐久性の評価として、燃料浸漬後の試験片の分子量をGPCにて測定する。
バイオディーゼル燃料への長期浸漬前のポリエチレンの分子量に対する、バイオディーゼル燃料への長期浸漬後のポリエチレン分子量の割合が、75%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上である。バイオディーゼル燃料への長期浸漬前のポリエチレンの分子量に対する、バイオディーゼル燃料への長期浸漬後の分子量の割合が70%未満であると衝撃強度や引張強度が低下し、燃料容器としての性能を保持できなくなる。
【0048】
2.バイオディーゼル燃料容器、容器部品について
本発明の前記バイオディーゼル燃料容器用材料は、好ましくは、ブロー成形法によりブロー成形品、特にダイレクトブロー成形機、ロータリーブロー成形機、多層ブロー成形機でブロー成形品を製造して、燃料容器(以下、中空プラスチック成形品容器ともいう)、容器部品(燃料パイプ、燃料ポンプなど)とすることができる。また、ホットパリソン法延伸ブロー成形機、コールドパリソン法延伸ブロー成形機やインジェクションブロー成形等でも可能である。
容器の大きさは特に限定されないが、10mlから2000ml程度が望ましい。また、容器の形状は、特に限定されない。得られた容器は、耐バイオディーゼル燃料性があり、長期耐久性に優れたプラスチック成形品であり、また、成形性のみならず、肌触り等に優れ、取り扱い性、落下衝撃強度、耐衝撃性等の物性に優れ、容器に外力が加わり変形した場合に白化等の問題が生じない等、バイオディーゼル燃料容器等として好適に用いることができる。
本発明において、容器部品とは、燃料容器に取り付ける部品であって、蓋(キャップ)、内溶液供給口、取り出し口等の部品、バルブ、パイプ、取っ手、燃料ポンプ、補強部品、インレット、開口部ライナーのような各種部品等が挙げられる。この部品は、燃料容器に溶着、ウェルドすることによって容器に一体に取り付けることができる。
【0049】
中空プラスチック成形品容器は、ポリエチレン系樹脂を少なくとも1層有する構造であり、好ましくは多層構造のものであるが、ポリエチレン系樹脂からなる単層構造のものであってもよい。
中空プラスチック成形品容器が多層構造の場合、浸透低減遮断層を有するのが好ましく、浸透低減遮断層には、通常バリアー層が用いられる。
中空プラスチック成形品容器の層構造が2層以上であるとき、最内層と最外層がポリエチレン系樹脂からなるのが好ましい。
中空プラスチック成形品容器は、少なくとも1層のバリアー層を存在させて、揮発性物質の浸透を減らし且つ該バリアー層が極性の遮断ポリマーから構成されている浸透低減遮断層を含む多層構造が好ましい。例えば、プラスチック燃料容器(タンク)の壁を多層構造とすると、バリアー層(それ単独では成形性及び機械強度が十分ではない)を、ポリエチレン系樹脂からなる2層の間に固定化できるという利点がある。結果として、特に共押出ブロー成形中に、ポリエチレン系樹脂を2層以上有する材料の成形性は、主としてポリエチレン系樹脂の改良された成形性の影響を受けて改善される。また、中空プラスチック成形品容器においては、フッ素化、表面被覆又はプラズマ重合等の処理により、本ポリエチレン系樹脂層の表面に基層を被覆するようにしてもよい。
【0050】
中空プラスチック成形品容器の特に好ましい実施形態は、内側から外側にかけて以下の層を含む4種6層構造のものである。すなわち、ポリエチレン系樹脂層、接着層、バリアー層、接着層、再生材層、ポリエチレン系樹脂層である。
以下に、上記態様における各層の構成、層構成比について詳細に説明する。
【0051】
(1)中空プラスチック成形品容器の層構成
(a)最外層
中空プラスチック成形品容器の最外層を構成する樹脂(a)は、上記所定要件を満たすポリエチレン系樹脂である。
【0052】
(b)最内層
中空プラスチック成形品容器の最内層を構成する樹脂(b)は、上記所定要件を満たすポリエチレン系樹脂であり、上記樹脂(a)と同じであってもよいし、また異なるものであってもよい。
【0053】
(c)バリアー層
中空プラスチック成形品容器のバリアー層を形成する樹脂(c)は、エチレンビニルアルコール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂等から選ばれるものであるが、特にエチレンビニルアルコール樹脂からなることが好ましい。エチレンビニルアルコール樹脂は、ケン化度が93%以上、望ましくは96%以上で、エチレン含量が25〜50モル%であることがより好ましい。
【0054】
(d)接着層
中空プラスチック成形品容器の接着層を形成する樹脂(d)は、不飽和カルボン酸又はその誘導体によりグラフト変性した高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン等から選ばれるものであるが、特に不飽和カルボン酸又はその誘導体によりグラフト変性した高密度ポリエチレンからなることが好ましい。
不飽和カルボン酸又はその誘導体の含有量は、0.01〜5重量%であり、好ましくは0.01〜3重量%、さらに好ましくは0.01〜1重量%である。グラフト変性量が0.01重量%未満であると十分な接着性能が発現せず、5重量%を超えると接着性に寄与しない不飽和カルボン酸が接着性に悪影響を与える。
【0055】
(e)再生材層
中空プラスチック成形品容器の再生材層を形成する樹脂は、最外層を形成するポリエチレン系樹脂(a)、最内層を形成するポリエチレン系樹脂(b)、バリアー層を形成する樹脂(c)及び接着層を形成する樹脂(d)を含む組成物である。各成分の配合量は(a)成分10〜30重量%、(b)成分30〜50重量%、(c)成分1〜15重量%、(d)成分1〜15重量%であるのが望ましい。
(a)〜(d)の各成分としては、新品を使用することもできるが、(a)〜(d)成分からなる各層を含む多層積層体のスクラップ、バリ等の不要部分を回収、再利用してこのようなリサイクル品を各成分の成分原料とすることもできる。例えば、一旦成形され、使用されて利用済みの中空プラスチック成形品(自動車用燃料タンク製品等)を粉砕してなるリグラインド樹脂が用いられる。リサイクル品を使用する場合、(a)〜(d)のすべての成分を全量リサイクル品から供給することもできるし、新品と混合して使用することもできる。
多層積層体を作製する際に発生した成形バリや未使用パリソンをリサイクル材として使用する場合、各種成分の相溶性が低下することがあるので、相溶化剤や接着層を構成する樹脂をさらに混合してもよい。
【0056】
(f)中空プラスチック成形品容器の層構成比
中空プラスチック成形品容器の各層の厚み構成は、厚み比で最外層が10〜30%、最内層が20〜50%、バリアー層が1〜15%、接着層が1〜15%、及び再生材層が30〜60%(ただし、全ての層厚み構成比の合計が100%)である。
最外層の層構成比は10〜30%、好ましくは10〜25%、より好ましくは10〜20%である。最外層の層構成比が10%未満であると、衝撃性能が不足し、30%を超えると中空プラスチック成形品容器の成形安定性が損なわれる。
最内層の層構成比は、20〜50%、好ましくは35〜50%、より好ましくは40〜50%である。最外層の層構成比が20%未満であると、中空プラスチック成形品の剛性不足が顕在化し、50%を超えると中空プラスチック成形品の成形安定性が損なわれる。
バリアー層の層構成比は、1〜15%、好ましくは1〜10%、より好ましくは1〜5%である。バリアー層の層構成比が1%未満であると、バリアー性能が不十分であり、15%を超えると衝撃性能が不足する。
接着層の層構成比は、1〜15%、好ましくは1〜10%、より好ましくは1〜5%である。接着層の層構成比が1%未満であると、接着性能が不満足であり、15%を超えると中空プラスチック成形品の剛性不足が顕在化する。
再生材層の構成比は、30〜60%、好ましくは35〜50%、より好ましくは35〜45%である。再生材層の層構成比が30%未満であると、中空プラスチック成形品の成形安定性が損なわれ、60%を超えると衝撃性能が不足する。
【0057】
中空プラスチック成形品容器は、外側から最外層、再生材層、接着層、バリアー層、接着層、最内層の順に積層されている4種6層の中空プラスチック成形品であることが好ましい。バリアー層を接着層で挟むことにより、高度なバリアー性が発揮される。最外層と接着層の間に再生材層を有することにより、原材料費の削減によるコストダウン及び中空プラスチック成形品容器の剛性の保持という効果が発揮される。
【0058】
(2)中空プラスチック成形品容器、容器部品の製造
中空プラスチック成形品容器の製造方法は、特に限定されず、従来からの公知の多層中空成形機を用いて押出ブロー成形法により製造することができる。例えば、複数の押出機で各層の構成樹脂を加熱溶融させた後、多層のダイにより溶融パリソンを押出し、次いでこのパリソンを金型で挟み、パリソンの内部に空気を吹き込むことにより、多層の中空プラスチック成形品が製造される。容器部品である燃料パイプは、押出し成形又は射出成形などにより成形できる。また、他の容器部品も、中空成形、射出成形、押出し成形等により成形することができる。
さらに、中空プラスチック成形品容器、容器部品には、必要に応じて目的を損なわない範囲で、帯電防止剤、酸化防止剤、中和剤、滑剤、抗ブロッキング剤、防曇剤、有機あるいは無機系顔料、充填剤、無機フィラー、紫外線防止剤、分散剤、耐候剤、架橋剤、発泡剤、難燃剤などの公知の添加剤を添加することができる。
【実施例】
【0059】
以下に実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、これらの実施例に制約されるものではない。なお、実施例で用いた測定方法は以下の通りである。
【0060】
(1)密度:JIS K6922−1及び2:1997に準じて測定した。
(2)温度190℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレート(MFR):JIS K6922−2:1997に準拠して測定した。
(3)温度190℃、荷重21.6kgにおけるメルトフローレート(HLMFR):JIS K6922−2:1997に準拠して測定した。
(4)GPCの測定条件及び測定方法並びに分子量計算方法:
(i)測定条件
ーターズ社製150C型を使用して、下記の条件でGPC測定を行い、重量平均分子量(Mw)を求めた。
カラム:昭和電工社製Shodex HT−G 1本、及び同・HT−806M 2本
溶媒:1,2,4−トリクロロベンゼン
温度:140℃
流量:1.0ml/分
注入量:300μl
(ii)サンプル調整
市販の4mlスクリュートップバイアル瓶に試料約3mg、及び溶媒3.0mlを量り採り、センシュー科学社製SSC−9300型攪拌機を用い、温度150℃で2時間振とうを行なった。
(iii)分子量の計算
GPCクロマトデータを1点/秒の頻度でコンピュータに取り込み、森定雄著・共立出版社発行の「サイズ排除クロマトグラフィー」第4章の記載に従ってデータ処理を行い、Mw値を計算した。
(iv)カラムの較正
カラムの較正は、昭和電工社製単分散ポリスチレン(S−7300、S−3900、S−1950、S―1460、S−1010、S−565、S−152、S−66.0、S−28.5、S−5.05)、n−エイコサン及びn−テトラコンタンの各0.2mg/l溶液を用いて、一連の単分散ポリスチレンの測定を行い、それらの溶出ピーク時間と分子量の対数の関係を4次多項式でフィットしたものを較正曲線とした。
なお、ポリスチレンの分子量は、次式を用いてポリエチレンの分子量に換算した。
PE=0.468×MPS
(5)曲げ弾性率:JIS K6922−2:2005に準拠して測定した。
(6)シャルピー衝撃強度:JIS K−7111(2004年)に準拠し、タイプ1の
試験片を作製し、打撃方向はエッジワイズ、ノッチのタイプはタイプA(0.25mm)
として、ドライアイス/アルコール中、−40℃で測定した。
(7)長期耐久性試験1:JIS K6922−2:2005に準拠して、厚さ2mmの試験片を作製し、80℃の温水中で浸漬試験を実施した。さらに内径65mmφのカップに試験液を50cc注入し、開口部を温水浸漬後の試験片で封止し、バイオディーゼル燃料の片面浸漬試験を100℃で行なった。長期耐久性の評価として、燃料浸漬後の試験片の分子量をGPCにて測定した。バイオディーゼル燃料への浸漬前のポリエチレンの分子量に対する、バイオディーゼル燃料への504時間浸漬後のポリエチレン分子量の割合(分子量保持率)が、75%以上のものを○、75%未満のものを×とした。
【0061】
(11)長期耐久性試験2:JIS K6922−2:2005に準拠して、厚さ2mmの試験を作成し、JIS K7350−4:1996に準拠した暴露試験を実施した。さらに内径65mmφのカップに試験液を50cc注入し開口部を暴露試験後の試験片で封止し、バイオディーゼル燃料への片面浸漬試験を100℃で行なった。長期耐久性の評価として、燃料浸漬後の試験片の分子量をGPCにて測定した。バイオディーゼル燃料への浸漬前のポリエチレンの分子量に対する、バイオディーゼル燃料への504時間浸漬後のポリエチレン分子量の割合(分子量保持率)が、75%以上のものを○、75%未満のものを×とした。
【0062】
使用樹脂
(1)ポリエチレン(I)
以下のものを使用した。
日本ポリエチレン社製高密度ポリエチレンHB111R(密度=0.945g/cm、HLMFR=6g/10分)
日本ポリエチレン社製高密度ポリエチレンHJ221(密度=0.949g/cm、HLMFR=13g/10分)
バゼル社製高密度ポリエチレン4261AG(密度=0.945g/cm、HLMFR=6g/10分)
(2)エチレン−ビニル化合物共重合体(II)
攪拌式オートクレーブ型連続反応器を用いて、エチレン及び酢酸エチルに溶解させた4−アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン及び触媒としてノルマルヘキサンに溶解させたターシャリーブチルパーオキシピバレートを連続的に供給し、重合圧力2000kg/cm、重合温度200℃で共重合させた。得られた共重合体のメルトフローレートは2.7g/10分、4−アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン単位の含量は5.0重量%(0.69モル%)であり、そのものが孤立して存在している割合は、13C−NMRによる測定にて85%であった。このエチレン−ビニル化合物共重合体を「共重合体(a)」として用いた。
【0063】
使用試験液
長期耐久性試験1及び2の試験液として、以下の試験液(A)又は(B)を用いた。
試験液(A)は、バイオディーゼル燃料として、DIESTER INDUSTRIE社製のVegetable oil methyl ester(CAS No.68990−52−3)を用いた。
試験液(B)は、バイオディーゼル燃料として、DIESTER INDUSTRIE社製のVegetable oil methyl ester(CAS No.68990−52−3)30容量%、軽油として、新日本石油社製のENEOSプレミアム軽油70容量%との混合物を用いた。
【0064】
[実施例1]
材料として、表1に示したものを使用し、試験片を作製し、各種性能評価を行った。その結果を表1に示した。
【0065】
[実施例2〜3]
表1に示す条件以外は、実施例1と同様に試験片を作製し、各種性能評価を行った。その結果を表1に示した。
【0066】
[比較例1〜7]
表1に示す条件以外は、実施例1と同様に行った。
比較例1は、実施例1のエチレン−ビニル化合物共重合体(II)の代わりに、FLEXSYS社製のポリマー化された2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン(Flectol TMQ、CAS Reg.No.26780−96−1、分子量約500)を用い、比較例2及び3は、実施例1のエチレン−ビニル化合物共重合体(II)の代わりに、チバスペシャリティーケミカル社製のCHIMASSORB 944を用いた。その結果を表1に示した。
【0067】
[実施例4〜6]
表2に示すように、試験液(A)を試験液(B)に代えた以外は、それぞれ実施例1〜3と同様に行った。その結果を表2に示した。
【0068】
【表1】

【0069】
【表2】

【0070】
「評価」
本願発明の要件を満足する実施例1〜3は、バイオディーゼル燃料を用いた長期耐久性試験の結果、重量平均分子量が変化しにくく、酸化劣化等に起因すると考えられる分子切断等が起こりにくいことがわかる。
これに対して、比較例1は、特表2001−527109号公報(特許文献2)の実施例13に相当する、ポリマー化された2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリンを用いたものであり、長期耐久性が実施例よりも劣ることがわかる。また、比較例2及び3は、実施例1のエチレン−ビニル化合物共重合体(II)の代わりに、CHIMASSORB 944を用いたもので、これも長期耐久性が実施例よりも劣ることがわかる。比較例4〜6は、エチレン−ビニル化合物共重合体(II)を使用しておらず、長期耐久性が実施例よりも劣ることがわかる。比較例7は、エチレン−ビニル化合物共重合体(II)をポリエチレン(I)100重量部に対して10重量部を超えた量を使用したもので、耐衝撃性が低下する結果となった。
また、実施例4〜6に示したように、本発明の樹脂材料は、バイオディーゼル燃料と軽油との混合物に対しても重量平均分子量が変化しにくく、酸化劣化等に起因すると考えられる分子切断等が起こりにくいことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明のバイオディーゼル燃料容器用材料は、バイオディーゼル燃料と直接又は間接に接触する成形品の製造に適用でき、長期耐久性、耐溶出性、機械的強度等の諸特性に優れた燃料容器及び燃料容器部品を得ることができる。また、その特性により各種容器分野をはじめとする広範囲の分野で利用できるので、産業上の有用性は非常に高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
密度が0.920〜0.970g/cm、メルトフローレート(HLMFR;温度190℃、荷重21.6kgにて測定)が0.1〜100g/10分であるポリエチレン(I)100重量部に対して、エチレン−ビニル化合物共重合体(II)0.1〜10重量部を含有するバイオディーゼル燃料容器用材料であって、
エチレン−ビニル化合物共重合体(II)は、エチレン(A)と下記一般式で示されるビニル化合物(B)との共重合体であって、(A)と(B)との和に対する(B)の割合が0.001〜2.0モル%であり、該共重合体の温度190℃、荷重2.16kgにて測定されるメルトフローレート(MFR)が0.1〜200g/10分であることを特徴とするバイオディーゼル燃料容器用材料。
【化1】

(式中、R及びRは水素原子又はメチル基であり、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。)
【請求項2】
エチレン−ビニル化合物共重合体(II)は、共重合体中に、ビニル化合物(B)が2個以上連続せず孤立して存在し、その割合が、ビニル化合物(B)の総量に対して83%以上であることを特徴とする請求項1に記載のバイオディーゼル燃料容器用材料。
【請求項3】
ビニル化合物(B)は、4−アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−アクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、4−アクリロイルオキシ−1−エチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−アクリロイルオキシ−1−プロピル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、及び4−アクリロイルオキシ−1−ブチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンからなる群から選択される化合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載のバイオディーゼル燃料容器用材料。
【請求項4】
ビニル化合物(B)単位の割合が、ポリエチレン(I)及びエチレン−ビニル化合物共重合体(II)の総量に対して、10〜5000ppmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のバイオディーゼル燃料容器用材料。
【請求項5】
ポリエチレン(I)は、密度が0.930〜0.965g/cm、HLMFRが1〜50g/10分であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のバイオディーゼル燃料容器用材料。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の材料を用いて製造されるバイオディーゼル燃料容器。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の材料を用いて製造されるバイオディーゼル燃料容器部品。

【公開番号】特開2011−132329(P2011−132329A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−292096(P2009−292096)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(303060664)日本ポリエチレン株式会社 (233)
【Fターム(参考)】