説明

バイオマスの区画化併行複発酵

酵素の最終産物阻害の軽減をもたらす糖化プロセスおよび発酵プロセスの区画化を提供する、バイオマスの併行複発酵のための方法および装置が開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、バイオマス糖化および生成された糖類の発酵の分野に関する。具体的には、酵素の最終産物阻害の軽減をもたらす糖化プロセスおよび発酵プロセスの区画化を提供する、バイオマスの併行複発酵のための方法および装置が開示される。
【背景技術】
【0002】
バイオマス(セルロース系およびリグノセルロース系)供給原料および廃棄物(例えば、農業残渣、木材、林業廃棄物、製紙スラッジ、ならびに都市および産業の固形廃棄物)は、化学物質、プラスチック、燃料および飼料の生成のための、潜在的に多量の再生可能な供給原料を提供する。セルロース系およびリグノセルロース系の供給原料ならびに廃棄物は、セルロース、ヘミセルロースおよびペクチンを含む炭水化物ポリマーからなり、一般に、様々な化学的手段、機械的手段および酵素による手段(酵素糖化)により処理されて、主としてヘキソースおよびペントース糖類を放出し、次いで、微生物によって有用な生成物に変換され得る。
【0003】
バイオマスの酵素糖化は、糖化容器中のセロビオースおよびグルコースの蓄積をもたらし、これが、エキソセルラーゼの最終産物阻害を生じ、セルロース加水分解を減速させる。キシラナーゼのフィードバック阻害を生じてヘミセルロース加水分解を減速させるキシロビオースも生成される。グルカンおよびキシランの加水分解の減速は、より高濃度の酵素の添加により部分的に緩和され得るが、この解決策は、このプロセスのコストを増加させる。
【0004】
酵素糖化の間の最終産物阻害に対処するためのこれまでの方法は、糖化および発酵の2つの工程が合わされた平行複発酵(simultaneous saccharification and fermentation)(SSF;非特許文献1)の使用を含む。
【0005】
バイオ燃料生産の間にSSFにおいてこれらの2つのプロセス工程を合わせることは、より低い資本コストを有し、バイオ燃料生成物の存在が、発酵汚染(fermentation contamination)の危険性を低下させる(非特許文献2)。さらに、この方法では、形成されたグルコースは発酵微生物によって消費され、β−グルコシダーゼおよびセロビオヒドロラーゼの両酵素の最終産物阻害を緩和する。これにより、セルロースからのセロビオースの形成、およびそのグルコースへの加水分解が加速され、セルロースからグルコースへの変換の速度を上昇させる。グルコースからフルクトースへおよびキシロースからキシルロースへの可逆的な変換が最終産物阻害を部分的に緩和する、グルコース最終産物阻害を緩和することへの別のアプローチが、特許文献1に記載された。
【0006】
Kleiら(非特許文献3)は、酵素反応器として使用される中空糸限外濾過膜カートリッジ中にアスペルギッルス・ポエニキス(Aspergillus phoenicis)由来の固定化β−グルコシダーゼを使用し、これによりセロビオースの加水分解を行うことを検討した。この系は、セルロースの糖化の間のトリコデルマ・レエセイ(Trichoderma reesei)由来のセルラーゼの循環のためにも使用された。中空糸膜の利用は、セルロースの連続処理を可能にし、セルラーゼ所要量を著しく減少させる。
【0007】
特許文献2では、併行複発酵は、固体支持体に吸着された再使用可能なエンドグルカナーゼおよびセロビオヒドロラーゼ酵素によって行われた。
【0008】
特許文献3は、中空糸膜反応器中の、蒸気爆砕された藁からのアセトンおよびブタノールの製造のための、合わされた酵素加水分解および連続発酵を記載している。藁の酵素加水分解のために使用されるセルラーゼ酵素は、高効率および低コストのためにこの膜反応器を使用して再利用され得ることが示された。
【0009】
上記の方法は、それぞれ糖化プロセスを部分的に改善したものであり、糖化の間の最終産物阻害を、ごく僅かにしか緩和しなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2006/101832号パンフレット
【特許文献2】米国特許第4,220,721号明細書
【特許文献3】中国公告特許第101173306号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Takagi,Mら,Process Bioconversion Symposium,1977中,551−571
【非特許文献2】Wyman,C.E.ら,Biomass Bioenergy,3:301−307,1992
【非特許文献3】Biotechnol.Bioeng.Symp.(1981)11 Symp.Biotechnol.Energy Prod.Conserve.,3rd,593−601
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
当該技術分野において開示された方法があるにもかかわらず、併行複発酵の間の酵素糖化の最終産物阻害という問題に対処するために、より効率的な方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本開示は、ある特定のオリゴ糖加水分解酵素が隔離されている中空糸循環ループを使用する、前処理バイオマスの区画化併行複発酵のための方法および装置を提供することにより、上記の問題を解決する。当該方法および装置は、前処理バイオマスの糖化の間に糖化酵素のフィードバック阻害を引き起こし得るバイオマス成分の除去をもたらして、糖化の間の発酵性糖類の放出を改善し、かつ糖化効率の上昇によって標的生成物の収率を上昇させる。
【0014】
本発明の1つの態様は、糖化容器および別個の発酵容器を含む前処理バイオマスを処理するための装置であって、前記容器同士は、2つの外部循環ループとこれらの2つの外部循環ループを連結しかつ半透膜を含む中空糸循環ループとによって連結されており、前記装置は、前処理バイオマスの区画化併行複発酵を提供する、装置に関する。
【0015】
別の態様において、図2に従う装置が提供され、前記装置は、第1の外部循環ループ(2)に連結された糖化容器(1)を含み、前記第1の外部循環ループ(2)は、中空糸循環ループ(3)の第1の半透膜(10)の外部にありかつその第1の半透膜(10)に連結されており;前記中空糸循環ループ(3)は、この中空糸循環ループ(3)の第2の半透膜(11)の外部にありかつその第2の半透膜(11)に連結されている第2の外部循環ループ(4)に連結されており;前記第2の外部循環ループ(4)は、標的生成物のための排出口(6)を有する発酵容器(5)に連結されている。この装置は、第1の外部循環ループ(2)のための第1の循環ポンプ(7)と、第2の外部循環ループ(4)のための第2の循環ポンプ(8)と、内部中空糸ループ(3)のための第3の循環ポンプ(9)とを含む一連の循環ポンプをさらに含み得る。
【0016】
別の態様において、前処理バイオマスを処理する方法が提供され、前記方法は、
(a)図2に記載される本発明の装置を供給する工程と、
(b)前処理されたバルクバイオマスと糖化酵素集合体との混合物を前記装置の糖化容器(1)に供給する工程であって、前記混合物は、糖化によって高分子量成分および低分子量成分の両方を生成する工程と、
(c)少なくとも1種の隔離された酵素を中空糸循環ループ(3)中に供給する工程と、
(d)ある量の(b)の混合物を、第1の循環ループを通して、第1の中空糸半透膜(10)上に送達する工程であって、これにより、(b)の混合物の前記高分子量成分は前記膜を通って拡散せず、当該混合物の前記低分子量成分は前記膜を通って中空糸循環ループ(3)中へと拡散する工程と、
(e)(d)において当該中空糸循環ループ(3)中へと拡散する低分子量成分を、前記中空糸循環ループ中で前記少なくとも1種の隔離された酵素によって加水分解する工程であって、これにより、発酵性糖類を含む加水分解生成物が形成される工程と、
(f)発酵性糖類を含む加水分解生成物を第2の半透膜(11)を通って第2の循環ループ(4)中および発酵容器(5)へと送達する工程と
を包含し、前処理バイオマス成分は循環ポンプによって当該装置全体にわたって循環される。別の態様において、(f)の発酵容器へと送達される(e)の発酵性糖類は、少なくとも1種の微生物によって少なくとも1種の標的生成物に変換される。
【0017】
上記の方法の別の態様において、第1および第2の半透膜の存在が、前記糖化容器および発酵容器中への1種以上の隔離された酵素の拡散を妨げることにより、その酵素の減少を防止する。
【0018】
上記の方法の別の態様において、バイオマスに対する前記隔離された酵素の作用によって形成された加水分解生成物は、前記発酵容器へと送達され、糖化容器中での最終産物フィードバック阻害を緩和する。
【0019】
上記の方法の別の態様において、前記第1および第2の半透膜の分子量透過性は、約10〜約30キロダルトンである。
【0020】
本発明の別の態様において、前処理バイオマスの区画化併行複発酵のための方法が提供され、前記方法は、(a)前処理バイオマスおよび糖化酵素集合体を糖化容器に供給する工程であって、これにより糖化生成物が形成され、1つ以上の半透膜を通って移動され、1種以上のさらなる隔離された酵素を含む少なくとも1つの区画を通過し、これにより発酵性糖類を含む加水分解生成物が形成される工程と、(b)前記加水分解生成物を、標的生成物への発酵のための別個の発酵容器へと送達する工程とを包含する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1A】様々な糖化酵素比での、酸/塩基で前処理されたサトウキビバガスからのモノマーグルコースの理論収量に対するパーセントとして表される、0〜120hの糖化の時間的経過を図示している。糖化は、50mM クエン酸ナトリウム(NaCitrate)(pH4.6)、1%Tween 20(w/v)および0.01%NaN(w/v)の存在下で、11%の固形分配合量で行われた。酵素比(mgタンパク質/gセルロース)は、それぞれ、Spezyme(登録商標)CPセルラーゼ、Multifect(登録商標)キシラナーゼ、およびNovozyme 188の酵素について、4:3:8、8:3:4、6:3:6、6:6:12、12:6:1.2および12:6:12であった。
【図1B】その様々な酵素比についての図1Aからの120hにおけるモノマーグルコース収率の比較を図示している。
【図2】別個の糖化容器および発酵容器が2つの外部循環ループおよび中空糸循環ループによって連結されている、区画化併行複発酵装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
出願人らは、引用した参考文献すべての全内容を本開示に明確に援用する。別段の記載がない限り、百分率、部、比などは全て、重量による。商標は大文字で示される。さらに、量、濃度、または他の値もしくはパラメータが、ある範囲、好ましい範囲、または上方の好ましい値および下方の好ましい値の列記として与えられる場合、これは、範囲が別個に開示されているか否かに関わらず、任意の上方の範囲限界または好ましい値と、任意の下方の範囲限界または好ましい値との任意の対から形成される全ての範囲を具体的に開示するものと理解されるべきである。本明細書にある数値範囲が記載される場合、別段の記載がない限り、その範囲は、その端点、ならびにその範囲内の全ての整数および有理数を含むことが意図される。本発明の範囲が、範囲を定義する際に記載される具体的な値に限定されることは意図されていない。
【0023】
本発明の装置および方法は、中空糸半透膜と、別個の糖化容器および発酵容器を連結するための中空糸循環ループとを使用することにより、区画化併行複発酵(CSSF)の間の酵素糖化の最終産物阻害の緩和を提供する。
【0024】
定義
明確にするために、本明細書で使用される用語は、本明細書に記載されるとおりに、またはかかる用語が本発明の当業者により理解されるであろうとおりに、理解されるべきである。本明細書で使用されるある特定の用語の追加的な説明が、以下に与えられる。
【0025】
「グルコース」は、C1にアルデヒド(ヘミアセタール)官能基を有する、化学式C12を有する6個の炭素原子を含有する単糖である。
【0026】
「グルカン」は、グリコシド結合によって結合された、β−1,4−結合したD−グルコースモノマーの多糖をいう。
【0027】
「アラビノース」は、アルデヒド官能基を含む5個の炭素原子を含有する単糖である。
【0028】
「キシロース」は、C1にアルデヒド(ヘミアセタール)官能基を有する、化学式C10を有する5個の炭素原子を含有する単糖である。
【0029】
「セロビオース」は、β(1,4)グリコシド結合で結合した2つのグルコース分子の縮合から誘導される二糖である。
【0030】
「セロビオヒドロラーゼ」は、還元末端および非還元末端でセルロースからセロビオース単位を切断する酵素をいう。
【0031】
「キシロビオース」は、キシロースモノマーの間にβ−1,4グリコシド結合を有する、キシロースモノマーの二糖である。
【0032】
「β−キシロシダーゼ」は、β−グリコシド結合によって結合されたキシロース含有オリゴマー(例えば、キシロビオース)を切断する酵素群をいう。
【0033】
「β−キシロビオシダーゼ(xylobiosidase)」は、キシロビオースをキシロースへと加水分解する酵素である。
【0034】
「キシラン」は、β−1,4−結合したD−キシロース単位から主として構成される直鎖状の多糖をいい、これは、他の糖類(例えば、L−アラビノースおよびD−キシロース)による分岐を含有し得る。
【0035】
「キシラナーゼ」は、直鎖状の多糖およびオリゴ糖であるβ−1,4−キシランをキシロースおよびキシロースオリゴマーへと分解する酵素をいう。一部のキシラナーゼは、キシロースの分岐鎖オリゴマーに対して作用する。
【0036】
「β−グルコシダーゼ」は、2つのグルコース分子またはグルコース置換分子を結合するβ1−>4結合(すなわち、二糖セロビオース)に対して作用する酵素である。β−グルコシダーゼは、グルコースの放出を伴うβ−D−グルコシド中の末端の非還元性残基の加水分解を触媒する。
【0037】
「アラビノフラノシダーゼ」は、アラビノース含有キシラン中の末端の非還元性のα−L−アラビノフラノシド残基を加水分解する酵素をいう。
【0038】
「エキソセルラーゼ」は、セルロースの還元末端および非還元末端からセロビオースを放出する酵素をいう。
【0039】
「分岐鎖キシロースオリゴマー」は、アラビノースおよびキシロースの分岐があるオリゴキシロース主鎖をいう。
【0040】
「分岐鎖キシロースオリゴマー加水分解酵素」は、分岐鎖キシロースオリゴマーを加水分解するキシラナーゼをいう。
【0041】
「半透膜」および「半透膜フィルター」は、本明細書において相互交換可能に使用され、ある特定の大きさ、形状または特性までの物質のみの通過を可能にする物理的障壁として機能する膜をいう。本方法において有用な半透膜の例としては、ポリスルホン、ヒドロキシル化ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ヒドロキシル化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、およびポリエーテルイミドのうちの1つ以上から作製される膜が挙げられる。
【0042】
「中空糸半透膜」および「中空糸半透膜フィルター」は、中空で半透性の繊維から作製される半透膜の一種である。中空糸半透膜は、大きい表面対容積比を有する。
【0043】
「第1の半透膜」は、バイオマスの糖化の結果生じた特定の成分の、糖化容器から中空糸循環ループへの移動を可能にする中空糸半透膜をいう。
【0044】
「第2の半透膜」は、中空糸循環ループ中の隔離された酵素によって生成される糖類の、第2の外部循環ループへの移動を可能にする中空糸半透膜をいう。この第1および第2の中空糸半透膜はともに、類似の材料(例えば、上に示された材料)から作製される。
【0045】
「標的生成物の選択的除去」または「選択的に除去される標的生成物」は、発酵容器内のいずれの他の成分も除去することなく、標的生成物を除去することを意味する。
【0046】
「区画化併行複発酵(compartmentalized simultaneous saccharification and fermentation:CSSF)」は、この文脈において、1種以上の糖類の発酵および前処理バイオマスの糖化が、少なくとも1つの循環ループによって連結された別個の容器中で同時に行われるプロセスをいう。
【0047】
「発酵」は、微生物を使用して化学基質を(好気性プロセスまたは嫌気性プロセスのいずれかを介して)標的生成物に変換することを意味する。
【0048】
「発酵容器」は、微生物による基質の標的生成物への発酵に適するような、本発明における使用に適した任意の容器を意味する。
【0049】
「加水分解生成物」は、バイオマスの糖化の結果生じる生成物をいう。加水分解生成物中の糖化生成物は、加水分解を行う糖化酵素の違いおよび加水分解を行う時間の長さの違いによって異なるであろう。効果的な糖化は、発酵性糖類を含有する加水分解生成物を生成する。
【0050】
「発酵性糖類」は、1種もしくは複数種の標的生成物を生成するための発酵プロセスにおいて微生物によって炭素源として使用され得る単糖を主として含む(一部の二糖が依然として存在し得る)糖内容物をいう。
【0051】
「循環ポンプ」は、種々の循環ループ中の液状懸濁物が、装置中を循環し、移動するようにするポンプをいう。
【0052】
「標的生成物」は、発酵によって生成される化学物質、燃料、または化学的構成単位をいう。生成物は、広い意味で使用され、タンパク質(例えば、ペプチド、酵素および抗体を含む)などの分子を包含する。また、エタノールおよびブタノールも、この標的生成物の定義の範囲内で企図される。
【0053】
「バイオマス」は、セルロース系およびヘミセルロース系物質を含む、任意のリグノセルロース系物質(例えば、バイオエネルギー作物、農業残渣、都市固形廃棄物、産業固形廃棄物、庭ゴミ、木材、林業廃棄物およびこれらの組み合わせ、ならびにさらに後述されるもの)をいう。このバイオマスは、多糖およびオリゴ糖を含む炭水化物内容物を有し、リグニン、タンパク質および脂質などのさらなる成分も含み得る。
【0054】
「前処理バイオマス」は、酵素糖化を促進する任意の手段によって処理されたバイオマスである。
【0055】
「糖化」または「酵素糖化」は、加水分解酵素の作用による多糖からの発酵性糖類の生成をいう。前処理バイオマスからの発酵性糖類の生成は、セルロース分解酵素およびヘミセルロース分解酵素による酵素糖化によって起こる。
【0056】
「糖化容器」は、バイオマスの糖化のための、本発明における使用に適した任意の容器を意味する。酵素糖化が行われる糖化容器は、前処理バイオマスを含み得る。
【0057】
「酵素集合体」または「糖化酵素集合体」は、加水分解酵素の集まりである。これらの酵素は、典型的に、微生物によって分泌される。この糖化酵素集合体は、典型的に、1つ以上のセルラーゼ、キシラナーゼ、グリコシダーゼ、およびエステラーゼを含むであろう。本発明において、糖化容器に加えられる糖化酵素集合体は、β−キシロシダーゼ、β−グルコシダーゼおよびアラビノフラノシダーゼを含む必要はない。なぜなら、これらは中空糸循環ループ中に含まれるからである。
【0058】
「隔離された酵素」は、本明細書で使用される場合、中空糸循環ループ内に隔離された酵素であって、バイオマスのグルコースオリゴマーならびに直鎖および分岐鎖キシロースオリゴマーを加水分解することができるもの(例えば、β−グルコシダーゼ、β−キシロシダーゼ、ならびにアラビノフラノシダーゼおよびキシラナーゼ)をいう。
【0059】
「最終産物フィードバック阻害」は、酵素反応の生成物の蓄積が最終産物の形成につながる反応を阻害する状況をいう。本開示において、例えば、エキソセルラーゼは、セロビオースによって、およびある程度まではグルコースによって、フィードバック阻害され、キシラナーゼは、キシロビオースによって、およびある程度まではキシロースによって、フィードバック阻害される。β−グルコシダーゼは、その生成物であるグルコースによってフィードバック阻害される。β−キシロビオシダーゼは、その生成物であるキシロースによって阻害される。
【0060】
「循環ループ」は、糖化容器または発酵容器のいずれかの内容物が、それぞれ、中空糸循環ループに隣接した第1または第2の半透膜の外面上を循環するようにする液体循環ループをいう。
【0061】
「第1の外部循環ループ」は、糖化容器からのバイオマスおよび糖化酵素集合体が、中空糸循環ループの第1の半透膜の外面上を通るようにする流体循環ループである。
【0062】
「第2の外部循環ループ」は、発酵容器の内容物が、中空糸循環ループの第2の半透膜の外面上を通るようにする流体循環ループであり、その膜を横切って拡散するグルコース、キシロースおよびアラビノースを捕えて、それらを発酵容器へと送達する。
【0063】
「中空糸循環ループ」は、第1および第2の半透膜フィルターおよび1種以上の隔離された酵素を含む流体循環ループをいい、そこで酵素加水分解が行われ、生成物は、糖化容器と発酵容器との間を第1および第2の外部循環ループを介してその第1および第2の半透膜を通って輸送される。
【0064】
「ある特定の成分の選択的送達」は、糖化されたバイオマスのある特定の大きさの成分(例えば、オリゴ糖(例えば、セロビオース、キシロビオースおよび分岐鎖キシロースオリゴマー))の、糖化容器から第1の半透膜フィルターを通って中空糸循環ループへの、および第2の半透膜フィルターを通って発酵容器への送達をいう。
【0065】
「高分子量成分」は、中空糸ループの半透膜フィルターを通って拡散し得ない、30KDよりも大きい分子量を有するバイオマスの成分をいう。
【0066】
「低分子量成分」は、中空糸ループの半透膜フィルターを通って拡散し得る、30KD未満の分子量を有するバイオマスの成分をいう。
【0067】
バイオマス
本明細書に記載される方法に適したバイオマスとしては、バイオエネルギー作物、農業残渣、都市固形廃棄物、産業固形廃棄物、製紙スラッジ、庭ゴミ、木材および林業廃棄物が挙げられるが、これらに限定されない。バイオマスの例としては、トウモロコシの穂軸、作物残渣(例えば、トウモロコシの皮、トウモロコシの茎葉)、草、小麦、麦藁、大麦、大麦藁、干し草、稲藁、スイッチグラス、古紙、サトウキビバガス、モロコシ、大豆、粉砕により得られる成分(穀物、木、枝、根、葉、木材チップ、おがくず、低木および灌木のもの)、野菜、果実、花ならびに動物糞尿が挙げられるが、これらに限定されない。
【0068】
バイオマスは、単一の供給源に由来しても良いし、または2つ以上の供給源に由来する混合物を含むこともできる。例えば、バイオマスは、トウモロコシの穂軸とトウモロコシの茎葉との混合物、または茎もしくは柄と葉との混合物を含み得る。
【0069】
1つの実施形態において、本発明にとって有用なバイオマスは、比較的高い炭水化物含有量を有し、比較的密度が高く、かつ/または収集、輸送、貯蔵および/もしくは取扱いが比較的容易である。別の実施形態において、バイオマスは、農業残渣(例えば、トウモロコシの茎葉、麦藁、大麦藁、燕麦藁、稲藁、キャノーラ藁、および大豆の茎葉);草(例えば、スイッチグラス、茅、コードグラス、およびクサヨシ);繊維処理残渣(例えば、トウモロコシ繊維、ビートパルプ、パルプ工場微繊維(pulp mill fines)および廃棄物(rejects)ならびにサトウキビバガス);モロコシ;林業廃棄物(例えば、アスペン材、他の硬木材、軟木材およびおがくず);および使用済み古紙製品;ならびに他の作物または十分に豊富なリグノセルロース系物質を包含し得る。さらに別の実施形態において、有用なバイオマスは、トウモロコシの穂軸、トウモロコシの茎葉、サトウキビバガスおよびスイッチグラスを含む。
【0070】
糖化に先立つバイオマスの前処理
バイオマスにおいて、結晶性のセルロースフィブリルは、ヘミセルロースマトリクス中に埋め込まれており、次にこのヘミセルロースマトリクスは、外側のリグニン層に囲まれている。バイオマスの前処理には、後の酵素糖化プロセスをより効果的にするために、通常、このリグニン障壁を変性することが求められる。バイオマスを前処理してそれを糖化に向けて調製する方法は、当該技術分野においてよく知られている(例えば、Hsu,T.−A.,1996,「Pretreatment of Biomass(バイオマスの前処理)」,Handbook on Bioethanol:Production and Utilization(バイオエタノールに関するハンドブック:製造および利用),Wyman,C.E.編,Taylor & Francis,Washington,D.C.中,179−212;Ghosh,P.,Singh,A.,1993および米国特許第7,503,981号明細書、米国特許第7,504,245号明細書、米国特許第7,4138,82号明細書、国際公開第2008/112291号パンフレット)。前処理方法には、例えば、希酸加水分解(T.A.LloydおよびC.E Wyman,Bioresource Technol.,96:1967,2005)、アンモニア繊維爆砕(Ammonia Fiber Explosion:AFEX)技術(F.Teymouriら,Bioresource Technol.,96:2014,2005),pH制御液熱水処理(pH Controlled liquid hot water treatment)(N.Mosierら,Bioresource Technol.,96:1986,2005)、アンモニア水再利用法(aqueous ammonia recycle process:ARP)(T.H.KimおよびY.Y.Lee,Bioresource Technol.,96:2007,2005)、石灰前処理(S.KimおよびM.T.Holzapple,Bioresource Technol.,96:1994,2005)およびイオン液体前処理(米国特許出願公開第2008/0227162号明細書)がある。
【0071】
バイオマス前処理のために、前処理の温度、pH、時間および反応物の濃度、1種以上の付加的な試薬の濃度、バイオマス濃度、バイオマスの種類および粒径が関連している。したがって、これらの可変因子は、前処理プロセスを最適化するために、バイオマスの種類ごとに必要に応じて調整され得る。
【0072】
本発明の方法のバイオマスは、上記の方法のいずれかによって前処理され得る。あるいは、1つの実施形態においては、糖化に向けて本発明の方法のバイオマスを調製するために、バイオマスは、最初に100mM HSOで121℃にて1時間にわたり前処理され、そして水で洗浄され得る。
【0073】
1つの実施形態において、望ましくない分解生成物およびリグニン断片を除去するために、バイオマス残渣は、さらに、2.9%NaOH(w/v)を含有する69%EtOH(v/v)中に懸濁され、そしてステンレス鋼製圧力容器(19mL容量)中で、175℃の温度にて140分間にわたり加熱され、室温まで冷却され、濾過され、69%EtOHで洗浄され得る。別の実施形態において、前処理バイオマスは、風乾され得る。乾燥は、従来の手段(例えば、周囲温度での真空へのもしくは大気圧の気流への曝露、および/またはオーブンもしくは真空オーブン中での加熱)によって行われ得る。
【0074】
乾燥された前処理バイオマスは、次いで、グルカン、キシランおよび酸不溶性リグニンの濃度を測定するために、当該技術分野においてよく知られた分析手段を用いて分析され得る。乾燥された前処理バイオマスのグルカンおよびキシランの含有量は、糖化プロセスでの所要酵素配合量を決定するために使用される。
【0075】
糖化
前処理バイオマスは、糖化酵素集合体の存在下で加水分解され、オリゴ糖および/または単糖を加水分解生成物として放出し得る。糖化プロセスを改善するために、Tween 20もしくはTween 80またはポリオキシエチレン(例えば、PEG 2000、4000または8000)などの界面活性剤が加えられ得る。他の界面活性剤(例えば、参照により本明細書に援用される、米国特許第7,354,743B2号明細書に記載されているもの)も使用され得る。バイオマス処理のための糖化酵素および方法は、Lynd,L.R.ら(Microbiol.Mol.Biol.Rev.,66:506−577,2002)において概説されている。糖化酵素集合体は、1つ以上のグリコシダーゼを含み得る。このグリコシダーゼは、セルロース加水分解グリコシダーゼ、ヘミセルロース加水分解グリコシダーゼ、およびデンプン加水分解グリコシダーゼからなる群から選択され得る。糖化酵素集合体中の他の酵素としては、ペプチダーゼ、リパーゼ、リグニナーゼ、ならびにアセチルおよびフェルロイルエステラーゼが挙げられ得る。
【0076】
糖化酵素集合体は、二糖、オリゴ糖、および多糖のグリコシド結合を加水分解しかつ一般群「ヒドロラーゼ」(EC 3.)の酵素分類EC 3.2.1.x(Enzyme Nomenclature(酵素命名法)1992,Academic Press,San Diego,CA,補遺1(1993),補遺2(1994),補遺3(1995),補遺4(1997)および補遺5付き[それぞれ、Eur.J.Biochem.,223:1−5,1994;Eur.J.Biochem.,232:1−6,1995;Eur.J.Biochem.,237:1−5,1996;Eur.J.Biochem.,250:1−6,1997;およびEur.J.Biochem.,264:610−650,1999にある])中に見出される群「グリコシダーゼ」から主として(しかし限定的にではなく)選択される1つ以上の酵素を含む。本発明の方法において有用なグリコシダーゼは、グリコシダーゼが加水分解するバイオマス成分によって分類され得る。本発明の方法にとって有用なグリコシダーゼとしては、セルロース加水分解グリコシダーゼ(例えば、セルラーゼ、エンドグルカナーゼ、エキソグルカナーゼ、セロビオヒドロラーゼ、β−グルコシダーゼ)、ヘミセルロース加水分解グリコシダーゼ(例えば、キシラナーゼ、エンドキシラナーゼ、エキソキシラナーゼ、β−キシロシダーゼ、アラビノフラノシダーゼ、マンナーゼ、ガラクターゼ、ペクチナーゼ、グルクロニダーゼ)、およびデンプン加水分解グリコシダーゼ(例えば、アミラーゼ、α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、グルコアミラーゼ、α−グルコシダーゼ、イソアミラーゼ)が挙げられる。分岐鎖キシロースオリゴマー加水分解酵素(例えば、L−α−アラビノフラノシダーゼ)は、キシロースおよびアラビノースを含有する分岐鎖オリゴマーを加水分解する。
【0077】
さらに、ペプチダーゼ(EC 3.4.x.y)、リパーゼ(EC 3.1.1.xおよび3.1.4.x)、リグニナーゼ(EC 1.11.1.x)、およびアセチル(EC 3.1.1.6)およびフェルロイル(EC 3.1.1.73)エステラーゼなどの他の活性を糖化酵素集合体に加えてバイオマスの他の成分からの多糖の放出を助けることは、有用であり得る。多糖加水分解酵素を産生する微生物は、多くの場合に、異なる基質特異性を有するいくつかの酵素、または酵素群によって触媒される活性(例えば、セルロース分解)を示すということは当該技術分野においてよく知られている。したがって、微生物由来の「セルラーゼ」は、全ての酵素がセルロース加水分解活性に寄与し得る酵素群を含み得る。市販されている酵素調製物または市販されていない酵素調製物(例えば、セルラーゼ)は、その酵素を得るために利用された精製方法に応じて多くの酵素を含み得る。したがって、本発明の方法の糖化酵素集合体は「セルラーゼ」のような酵素活性を含み得るが、この活性は2つ以上の酵素によって触媒され得るものであることが認識される。
【0078】
上に示したように、本発明において、糖化容器に加えられる糖化酵素集合体は、β−キシロシダーゼ、β−グルコシダーゼおよびアラビノフラノシダーゼを含有する必要はない。これらの酵素のうちの1種以上が、中空糸循環ループ内で隔離されることになる。ポリマー状およびオリゴマー状の両方のキシロースに作用するキシラナーゼ酵素は、糖化容器の中の糖化酵素集合体中に含まれてもよく、さらに中空糸循環ループ内に隔離されてもよい。
【0079】
糖化酵素は、Spezyme(登録商標)CPセルラーゼ(Genencor International,Rochester,NY)およびMultifect(登録商標)キシラナーゼ(Genencor)など、単離された形態で商業的に入手され得る。また、糖化酵素は、未精製であり得、一種の細胞抽出物または全細胞調製物として提供され得る。酵素は、複数種の糖化酵素を発現するように操作された組換え微生物を使用して生成され得る。当業者であれば、集合体において使用する酵素の有効量を決定し、最適な酵素活性が得られるように条件を調整する方法を知っているであろう。また、当業者であれば、選択された条件下で、所与の前処理生成物の最適な糖化を得るために集合体内に必要とされる酵素活性のクラスを最適化する方法も知っているであろう。
【0080】
好ましくは、糖化反応は、糖化酵素についての温度最適条件およびpH最適条件で、またはその付近で行われる。本発明の方法において糖化酵素集合体とともに使用される温度最適条件は、約15℃〜約100℃の範囲である。別の実施形態において、温度最適条件は、約20℃〜約80℃の範囲、最も典型的には45〜50℃の範囲である。pH最適条件は、約2〜約11の範囲であり得る。別の実施形態においては、本発明の方法において糖化酵素集合体とともに使用されるpH最適条件は、約4〜約5.5の範囲である。
【0081】
糖化は、約数分〜約120時間、好ましくは約数分〜約48時間の時間にわたって行われ得る。反応の時間は、酵素の濃度および比活性、ならびに使用される基質、その濃度(すなわち、固形分配合量)、ならびに環境条件(例えば、温度およびpH)によって決まる。当業者は、特定の基質および糖化酵素集合体とともに使用されるべき温度、pHおよび時間の最適条件を容易に決定し得る。
【0082】
糖化は、回分式でまたは連続プロセスとして行われ得る。また、糖化は、1つの工程でまたは多くの工程で行われ得る。例えば、糖化のために必要とされる種々の酵素は、異なるpHまたは温度最適条件を示し得る。一次処理が、ある温度およびpHで1種もしくは複数種の酵素を用いて行われ、続いて、二次または三次(または、より高次)の処理が、異なる温度および/またはpHで異なる1種もしくは複数種の酵素を用いて行われ得る。また、逐次的な工程で異なる酵素を用いる処理は、同じpHおよび/もしくは温度で行われるか、または異なるpHおよび温度で、例えば、より高いpHおよび温度で安定かつより活性なヘミセルラーゼを用い、続いてより低いpHおよび温度で活性なセルラーゼを用いて行われ得る。
【0083】
糖化に続くバイオマスからの糖類の可溶化の程度は、単糖およびオリゴ糖の放出を測定することによってモニタリングされ得る。単糖およびオリゴ糖を測定する方法は、当該技術分野においてよく知られている。例えば、還元糖類の濃度は、1,3−ジニトロサリチル(DNS)酸アッセイ(Miller,G.L.,Anal.Chem.,31:426−428,1959)を用いて測定され得る。あるいは、糖類は、後述するように、適切なカラムを用いてHPLCで測定され得る。
【0084】
区画化SSF
本発明の方法において、区画化SSF(CSSF)は、前処理バイオマスの糖化の間の、糖化酵素集合体中に典型的に存在する糖化酵素のうちのいくつかの酵素のフィードバック阻害を除去するために開発された。場合によっては、生成物フィードバック阻害は、より多くの酵素を糖化容器に加え、その結果、糖化の間のフィードバック阻害に起因する酵素活性の減少を小さくすることによって、ある程度は克服され得る。しかしながら、より多くの酵素を糖化プロセスに加えることは、加水分解反応を促進する一方で、費用がかかり、プロセスの総コストを増加させる。糖化酵素のその最終産物によるフィードバック阻害という問題を解消するためには、最終産物を絶えず除去して、その蓄積を回避する必要がある。
【0085】
本例においては、糖化酵素のフィードバック阻害は、CSSFを適用し、加水分解酵素のうちのいくつかを別個の区画(例えば、中空糸循環ループ)中に隔離することを通して緩和される。糖化容器から第1の半透膜フィルターを介して別個の酵素含有区画中への酵素の基質の拡散は、糖化容器中のその基質の濃度を低下させ、それにより、糖化酵素集合体酵素のそれらの生成物によるフィードバック阻害の可能性を除去する。酵素含有区画中の隔離された酵素(例えば、β−キシロシダーゼ、β−グルコシダーゼ、およびアラビノフラノシダーゼ)は、それらの基質を所望の単糖生成物へと加水分解する。この生成物は第2の半透膜を通って移動し、この第2の半透膜から発酵容器中へと拡散する。第1および第2の半透膜はともに、10〜約30kDaの分子量カットオフを有しており、小分子(すなわち、低分子分岐鎖キシロースオリゴマーを含む、可溶性オリゴ糖)の透過のみを可能にするであろう。隔離された酵素は、第1または第2の半透膜を透過することができないため、その別個の区画中に留まる。二糖のその単糖への加水分解、およびそれらの標的生成物への変換は、糖化容器中の酵素の最終産物阻害を減少させる。酵素を中空糸循環ループ中に隔離することは、酵素回収プロセスを必要とすることなく、糖化の間のそれらの反復使用を可能にする。別個の糖化容器および発酵容器を有することは、それらの容器が異なる温度で運転されることを可能にし、そしてまた、消化されていないバイオマスに発酵細胞が付着するのを防ぐ。
【0086】
中空糸半透膜
1つの実施形態において、半透膜は、中空糸半透膜である。中空糸半透膜は、高い膜充填密度、高い表面/容積比、衛生的な設計という独特の利点を提供し、その構造的完全性および構造ゆえに、中空糸半透膜は、透過液逆圧(permeate backpressure)に耐えることができ、したがって、システムの設計および操作における柔軟性を可能にする。
【0087】
中空糸半透膜は、ある特定の大きさ、形状または特性までの物質のみの通過を可能にする物理的障壁として機能するものであり、当該技術分野においてよく知られている(例えば、Hollow fiber manufacture and application(中空糸の製造および利用),Chem.Technol,Rev.,第194巻,J.Scott編,1981,Noyes Data Corp.,Park Ridge,NJ.およびSynthetic membranes(合成膜),M.B.Chenweth編,p.63,1986,Harwood Academic Press,NY,NYおよびLeeper,S.A.,Membrane separation in the recovery of biofuels and biochemiclas:an update review(バイオ燃料および生化学物質の回収における膜分離:最新報告),Sep.Purif.Technol.,pp.99−194,1992)。中空糸半透膜の2つの基本的な形態は、「等方性」および「異方性」の形態である。膜分離は、これらの形態を使用することによって達成される。
【0088】
「異方性」の構成は、支持する多孔性構造物の上にできた緻密な、半透性の、極めて薄いスキン層を含有する。「等方性」の微孔性ポリスルホン半透膜は、キャスティング液(casting solution)および沈殿液(precipitation solution)の配合とキャスティング条件との特定の組み合わせを用いることにより調製され得る。中空糸膜も平膜も、このようにして調製され得る。等方性膜は、スキン層がなく、膜全体にわたる均一な多孔性によって特徴づけられる。本明細書に開示される方法の目的のために、両方の種類の中空糸半透膜が使用され得る。
【0089】
中空糸濾過プロセスにおいては、相変化は関与せず、潜熱は必要とされないので、中空糸半透膜システムは、エネルギー要求が大きくない。さらに、中空糸半透膜は、モジュール容積当りの膜表面が大きい。したがって、中空糸半透膜の大きさが他の種類の膜より小さくなり得る一方で、中空糸半透膜は、より高い性能を提供することができる。
【0090】
中空糸半透膜には柔軟性があり、中空糸半透膜は「インサイド・アウト」または「アウドサイド・イン」プロセスによって濾過を行い得る。さらに、中空糸半透膜は、他の種類の単位操作と比べて低い運転費を有する。中空糸半透膜バイオリアクターは当該技術分野において知られている(国際公開第2007/004170号パンフレットおよび国際公開第2008/006494号パンフレットおよび国際公開第2007/120449号パンフレットおよび米国特許出願公開第2002/0164731号明細書)および(Engasser,J.M.ら,Chem.Eng.Sci.,35:99−105,1980ならびにKitano,H.およびIse,N.,Treands in Biotechnol.,2:5−7,1984)。中空糸半透膜バイオリアクターは連続的に操作され得、高い表面対容積比という利点を有し得る。これらの系では、生体触媒(酵素および/または微生物)は、「遊離」しているかまたは「固定化」されているかのいずれかで使用され得る。
【0091】
中空糸半透膜は、任意の種類の意図された用途に種々の細孔径で利用できる。本発明の方法のために、半透膜は10〜約30kDaの分子量カットオフを有しており、小分子(すなわち、低分子分岐鎖キシロースオリゴマーを含む可溶性オリゴ糖)の通過のみを可能にするであろうから、中空糸循環ループの領域内に隔離された嵩高い酵素が糖化容器および発酵容器の中に漏入するのを防ぎ、糖化容器中の前処理バイオマスを中空糸循環ループの酵素および発酵容器から隔離する。
【0092】
本発明の方法において使用される中空糸半透膜は、ポリスルホン(PSf)、ヒドロキシル化ポリスルホン(OHPSf)、ポリエーテルスルホン(PES)、ヒドロキシル化ポリエーテルスルホン(OHPES)、スルホン化ポリスルホン、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、またはこれらの任意の組み合わせなどの材料から作製され得る。
【0093】
糖化を促進しかつ酵素阻害を防止するための中空糸循環ループの利用
1つの実施形態において、本発明の方法は、2つの中空糸半透膜を有する少なくとも1種のオリゴ糖加水分解酵素が隔離された中空糸循環ループを介して一緒に結合された、別個の糖化容器および発酵容器における、前処理バイオマスの糖化および結果として生じる糖類の望ましい標的生成物への発酵のための、CSSFの利用を可能にする。
【0094】
前処理バイオマスは、前処理バイオマスが作用を受けて高分子量成分および低分子量成分を生成する糖化容器に、糖化酵素集合体とともに加えられる。糖化されたバイオマスの成分は、第1の循環ループを通って第1の中空糸半透膜フィルターへと送達される。半透膜は、前処理バイオマスの高分子量成分の拡散を妨げるが、可溶性の低分子量成分(30kDa未満)の拡散を可能にする。この分子量の成分は、半透膜を透過して、少なくとも1種の隔離された糖化酵素を含有する中空糸循環ループに入る。
【0095】
中空糸循環ループ内の隔離された酵素は、中空糸循環ループにおいて拡散した1種以上の低分子量オリゴ糖に作用し、これにより、少なくとも1種の糖生成物が形成される。次いで、こうして形成された生成物は、第2の半透膜フィルターを通って第2の循環ループ中および発酵容器へと送達され、この発酵容器において、その生成物は、適切な微生物によって標的生成物へと発酵される。
【0096】
1つの実施形態において、隔離された酵素は、β−キシロシダーゼ、キシラナーゼ、β−グルコシダーゼおよびアラビノフラノシダーゼを含み得る。糖化されたバイオマスのセロビオース、キシロビオースおよび分岐鎖キシロースオリゴマーは、第1の中空糸半透膜を通って拡散し、中空糸循環ループに入り、そこで、それらは、β−グルコシダーゼ、β−キシロビオシダーゼおよび分岐鎖キシロースオリゴマー加水分解酵素によって、それぞれグルコース、キシロースおよびアラビノースへと加水分解される。隔離された酵素(例えば、β−グルコシダーゼ、β−キシロシダーゼ、キシラナーゼおよびアラビノフラノシダーゼ)に対するグルコース、キシロースおよびアラビノースのいずれのフィードバック阻害も、第2の半透膜を通って第2の循環ループおよび発酵容器中への生成物の移動によって緩和され、この発酵容器において、その生成物は、発酵で生体触媒により消費される。次いで、隔離された酵素は再利用されて、第1の外部循環ループを介して糖化容器からのより多くの基質に作用する。この系は、糖化容器および中空糸循環ループの両方において酵素の最終産物フィードバック阻害を緩和しつつ、隔離された酵素の費用効果の高い再使用を可能にする。また、隔離された酵素は固定化されて、中空糸循環ループの内容物がその固定化酵素を含有するマトリクス上を通るようにもし得る。このような固定化は、(例えば、熱変性に対する)酵素のさらなる安定化をもたらし得る。別個の容器を使用することにより、糖化および発酵の異なる温度要求に付随する問題は解消される。発酵容器中で生じるまたは容器間を輸送される熱は、ヒートポンプを使用することによって糖化容器へと送達され得る。また、発酵容器中の微生物は、消化されていないバイオマスとは直接接触しておらず、バイオマスへの細胞吸着による発酵能力の低下の可能性も解消される。標的生成物の除去も、消化されていないまたは不完全に消化されたバイオマスの不存在下で行われる。
【0097】
CSSFのための装置およびプロセス
1つの実施形態において、糖化容器および別個の発酵容器を含む前処理バイオマスを処理するための装置であって、前記容器同士は、2つの外部循環ループとこれらの2つの外部循環ループを連結しかつ半透膜を含む中空糸循環ループとによって連結されており、前記装置は、前処理バイオマスの区画化併行複発酵を提供するものである、装置において、CSSFは行われる。
【0098】
本発明の装置の1つの実施形態が図2に示される。この図は、次のとおりの、糖化および発酵のための別個の容器が2つの外部循環ループおよび中空糸循環ループを介して連結されている、前処理バイオマスのCSSFのための装置のブロック図を図示している。糖化容器(1);第1の外部循環ループ(2);中空糸循環ループ(3);第2の外部循環ループ(4);発酵容器(5);標的生成物のための排出口(6);第1の外部循環ループのための第1の循環ポンプ(7);第2の外部循環ループのための第2の循環ポンプ(8);中空糸ループのための第3の循環ポンプ(9);中空糸循環ループの第1の半透膜(10)および中空糸循環ループ(3)の第2の半透膜(11)。
【0099】
1つの実施形態において、図2の装置を用いる方法は次のとおりである。典型的には35℃〜55℃の温度および4〜約6のpHで維持される糖化容器(1)は、セロビオース、キシロビオース、キシロースオリゴマーを含有する部分的に糖化されたバイオマスと、糖化酵素集合体とを含有する。第1の外部循環ループ(2)は、バイオマスおよび糖化酵素集合体が、糖化容器から第1の中空糸半透膜(10)の外側上を通るようにするものであり、この第1の中空糸半透膜(10)の内側は、中空糸循環ループ(3)の一部である。バイオマスの多糖および糖化集合体の酵素は、それらの分子サイズが大きいため、中空糸半透膜を透過して中空糸循環ループに入ることから排除されるが、セロビオース、キシロビオースおよび分岐鎖キシロースオリゴマーなどのより小さい分子はこの膜を透過し得る。β−グルコシダーゼ、β−キシロシダーゼ、キシラナーゼおよび分岐鎖キシロースオリゴマー加水分解酵素は、中空糸循環ループ内に隔離されている。β−グルコシダーゼは、第1の半透膜(10)を透過し得る小さい可溶性の基質(セロビオース)に作用する。β−キシロビオシダーゼ、β−キシロシダーゼ型の酵素は、同じく第1の半透膜を透過し得るキシロビオースをキシロースに変換する。分岐鎖キシロースオリゴマー加水分解酵素は、キシロースおよびアラビノースへと加水分解されるべき、第1の半透膜を透過し得る分岐鎖キシロースオリゴマー(例えば、α−1,2結合を介してキシロースオリゴマー主鎖に結合したL−アラビノース)を変換する。こうして中空糸循環ループ中で生成されたグルコース、キシロースおよびアラビノースは、第2の半透膜(11)および第2の外部循環ループ(4)を介して発酵容器(5)へと送達され、そこで、それらは、微生物によって1種もしくは複数種の標的生成物に変換される。中空糸ループ中の第2のポンプ(9)は、隔離された酵素を連続的に再循環させ、それらの酵素のそれぞれの反応における反復使用を可能にする。酵素の反復使用、および当該プロセスのために必要とされる酵素の全体量の減少は、著しい全体的なコスト節減をもたらす。さらに、この開示される方法は、リグノセルロース系基質および発酵微生物が同じ容器中にある必要性を回避し、したがって、温度の両立不能性などの課題を克服する独特のCSSFプロセスである。発酵容器(6)中の標的生成物の除去は、プロセス全体を完結に導く助けとなる。第1および第3の外部ループポンプ(7)および(8)は、糖化容器、発酵容器および中空糸循環ループの間の種々の成分の再循環を可能にする。
【0100】
本方法においては、微生物は消化されていないバイオマスと直接接触していないので、バイオマスへの細胞吸着による発酵能力の低下の可能性が解消される。
【0101】
発酵容器からの(例えば、蒸留、選択透過膜、パーベーパレーションまたは他の適切な方法による)標的生成物の除去もまた、消化されていないバイオマスの存在によって妨げられない。
【0102】
糖化容器および発酵容器は当該技術分野においてよく知られており、当業者は、それらの利用に関して精通している。
【0103】
標的生成物への発酵
適切な微生物を用いた種々の発酵方法が、前処理された糖化されたバイオマスから放出される発酵性糖類を変換して標的生成物を生成するために使用され得る。本発明の方法には、流加回分発酵系または連続発酵系が使用され得る。これらの方法は当該技術分野においてよく知られており、当業者は、それらの利用に関して精通している。「流加回分」発酵プロセスは、発酵が進行するにつれて基質が添加されるということを除いて典型的な回分系を含む。回分発酵および流加回分発酵は一般的であり、当該技術分野においてよく知られている。例は、参照により本明細書に援用される、Thomas D.Brock,Biotechnology:A Textbook of Industrial Microbiology(バイオテクノロジー:工業微生物学のテキスト),第2版(1989)Sinauer Associates,Inc.,Sunderland,MA.中、またはDeshpande,Mukund V.,Appl.Biochem.Biotechnol.,36:227,(1992)において見出され得る。本発明の方法は、「連続」発酵方法にも適合可能であると予想される。連続発酵は、発酵培地がバイオリアクターに連続的に添加され、同時に等しい量の馴化培地が処理のために除去される開放系である。
【0104】
様々な種類の増殖培地が、本発明において使用され得る。このような増殖培地には、例えば、酵母抽出物、特定のアミノ酸、ホスフェート、窒素源、塩、および微量元素が補充され得る。特定の生体触媒によって作製される特定の生成物の生成のために必要とされる成分(例えば、プラスミドを維持するための抗生物質または酵素触媒反応において必要とされる補因子)もまた含まれ得る。さらなる糖類もまた、全糖濃度を高めるために含まれ得る。
【0105】
温度および/またはヘッドスペースガスも、1種もしくは複数種の発酵微生物にとって有用な条件に応じて調整され得る。発酵は、好気性または嫌気性の発酵であり得る。本明細書に記載される方法によれば、1種以上の糖類の発酵および糖化は、同時に行われるが、別個の区画において行われ、区画化併行複発酵(CSSF)と定義される。
【0106】
糖類の標的生成物への発酵は、1種以上の適切な微生物(例えば、細菌、糸状菌および酵母)によって行われ得る。野生型微生物および組換え微生物の両方が、使用され得る。このような微生物としては、エスケリキア(Escherichia)、ジュモモナス(Zymomonas)、サッカロミュセス(Saccharomyces)、Candida(カンディダ)、ピキア(Pichia)、ストレプトミュセス(Streptomyces)、バキッルス(Bacillus)、ラクトバキッルス(Lactobacillus)、およびクロストリディウム(Clostridium)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0107】
標的生成物としては、アルコール(例えば、アラビニトール、ブタノール、エタノール、グリセリン、メタノール、1,3−プロパンジオール、ソルビトール、およびキシリトール);有機酸(例えば、酢酸、アセトン酸、アジピン酸、アスコルビン酸、クエン酸、2,5−ジケト−D−グルコン酸、ギ酸、フマル酸、グルカル酸、グルコン酸、グルクロン酸、グルタル酸、3−ヒドロキシプロピオン酸、イタコン酸、乳酸、リンゴ酸、マロン酸、シュウ酸、プロピオン酸、コハク酸、およびキシロン酸);ケトン(例えば、アセトン);アミノ酸(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン、リジン、セリン、およびトレオニン);ガス(例えば、メタン、水素(H)、二酸化炭素(CO)、および一酸化炭素(CO))が挙げられるが、これらに限定されない。
【0108】
発酵プロセスはまた、消費用アルコール産業(例えば、ビールおよびワイン)、乳製品産業(例えば、発酵乳製品)、皮革工業、およびタバコ産業において使用されるプロセスも包含する。
【0109】
上記のものに加えて、さらなる一般製品(例えば、有機生成物、化学物質、燃料、汎用化学品および特殊化学品(例えば、キシロース、アセトン、アセテート、グリシン、リジン、有機酸(例えば、乳酸)、1,3−プロパンジオール、ブタンジオール、グリセリン、エチレングリコール、フルフラール、ポリヒドロキシアルカノエート、シス,シス−ムコン酸)、ならびに動物飼料)(Lynd,L.R.,Wyman,C.E.,およびGerngross,T.U.,Biocommodity engineering,Biotechnol.Prog.,15:777−793,1999;ならびにPhilippidis,G.P.,Cellulose bioconversion technology(セルロースのバイオコンバージョン技術),Handbook on Bioethanol:Production and Utilization(バイオエタノールに関するハンドブック:製造および利用),Wyman,C.E.編,Taylor & Francis,Washington,D.C.,1996中,179−212;ならびにRyu,D.D.Y.,およびMandels,M.,Cellulases:biosynthesis and applications(セルラーゼ:生合成および利用),Enz.Microb.Technol.,2:91−102,1980)が、本発明の方法を使用して製造され得る。
【0110】
潜在的な副産物(例えば、発酵性炭水化物からの種々の有機生成物)もまた、生成され得る。糖化および発酵の後に残る、リグニンを多量に含有する残渣は、リグニン由来の化学物質、化学的構成単位に変換されるか、または動力生産(power production)のために使用され得る。
【0111】
標的生成物は、本明細書に記載されるとおりの、中空糸含有循環ループを通って発酵容器への、前処理された糖化されたバイオマスのある特定の成分の移動に続いて生成され得る。
【0112】
標的生成物は、蒸留のような方法により、選択透過膜、もしくはパーベーパレーションを使用して、または回分式のもしくは連続的な発酵ブロスの補給によって非選択的に、発酵容器から除去され得る。標的生成物の除去は、反応全体を完結に導く助けとなる。
【実施例】
【0113】
本発明を、以下の実施例においてさらに定義する。これらの実施例は本発明の好ましい実施形態を示すものであるが、あくまでも例示として与えられるものと理解されるべきである。上記の検討およびこれらの実施例から、当業者は、本発明の本質的な特徴を確認し得、その精神および範囲から逸脱することなく本発明に様々な変更および修正を加えて、本発明を様々な使用および条件に適合させ得る。
【0114】
材料
糖化酵素は次の供給源から入手した。Spezyme(登録商標)CPおよびMultifect(登録商標)キシラナーゼ(Genencor International,Palo Alto,CA)ならびにNovozyme 188(Novozymes,2880 Bagsvaerd,Denmark)。
【0115】
サトウキビバガスは、Wileyナイフミルで粉砕して1mm篩に通したものを、本明細書において使用した。
【0116】
実施例において使用される略語
次の略語を、実施例において使用する。「℃」は摂氏またはセ氏であり、「%」はパーセントであり、「mL」はミリリットルであり、「h」は時間であり、「rpm」は毎分回転数であり、「EtOH」はエタノールであり、「mg/mL」は1ミリリットル当りのミリグラム数であり、「g/100mL」は100ミリリットル当りのグラム数であり、「N」は規定濃度であり、「g」はグラムであり、「NaOH」は水酸化ナトリウムであり、「v/v」は容量に対する容量であり、「mm」はミリメートルであり、「mL/min」は毎分当りのミリリットル数であり、「min」は分であり、「mM」はミリモルであり、「mgタンパク質/gセルロース」はセルロース1g当りのタンパク質のミリグラム数を表し、「kDa」はキロダルトンを表す。
【0117】
実施例1
β−グルコシダーゼ濃度の増加はバイオマス糖化の間の最終産物阻害を軽減することによりセルラーゼの所要量を減少させる
糖化のためのバイオマスを調製するために、最初にバイオマスを、本明細書に記載されるとおりに前処理した。ナイフミルで粉砕したサトウキビバガス(2g)を、15mLの100mM HSO中に懸濁させ、この懸濁液を、121℃にて1時間にわたり密封ガラスバイアル中でオートクレーブにかけた。内容物を冷却し、焼結プラスチックフィルター(fritted plastic filter)を含有する2つの使い捨てクロマトグラフィーカラムカートリッジに入れ、これを15mLの円錐チューブに入れ、RC−5B Sorvall遠心分離機(Thermo Fisher Scientific,Waltham,MA)中のHS−4スイング型バケットローター(swinging bucket rotor)を用い、3000rpmで室温にて遠心分離して、前処理バイオマスを洗浄した。各カラムを5mLのHOで3回洗浄した後、各々を、NaOH(5mg/1.75mL)およびアントラキノン(1mg/1.75mL)を加えたHO中69%(v/v)EtOH 2.5mLで2回洗浄した。3.8g(乾燥分1.4g)の重さであった湿潤前処理バイオマス残渣を、さらなる4.6gの洗浄液中に懸濁させた。この懸濁液をステンレス鋼圧力容器(19mL内容積)に入れ、蓋締めし、175℃にて140分間加熱した。この圧力容器を室温まで冷却し、内容物を、上記のとおりに2つのクロマトグラフィーカラムカートリッジ中で遠心分離した。各カラム中の前処理バイオマスをHO中69%(v/v)EtOH 1.5mLで4回洗浄した。次いで、この前処理バイオマス残渣を風乾した(乾燥バイオマス 約92%)。
【0118】
この風乾された前処理バイオマス試料(78.7%グルカン、5.5%キシラン)を、50mM クエン酸ナトリウム緩衝液(pH4.6)中に、約11%の固形分配合量で懸濁させた。Spezyme(登録商標)CPセルラーゼ、Multifect(登録商標)キシラナーゼ、およびNovozyme 188を、異なる比および異なるセルロース1g当り濃度で加えた。これらの比(mgタンパク質/gセルロース)は、4:3:8、8:3:4、6:3:6、6:6:12、12:6:1.2および12:6:12であった。さらに、1%Tween 20(w/v)および0.01%(w/v)NaNを加えた。約0.5mLの試料容量を、2個のガラスビーズ(3mm)を含有する6mLのねじ蓋バイアルに加え、回転振盪器(250rpm)上で46℃にてインキュベートした。インキュベーションの開始から4時間後および開始後24時間毎にアリコートを取り出し、分析のために0.01N HSOで41.25倍に希釈した。試料をSpin−Xフィルター(Corning.Inc.,Corning,NY)に通して濾過し、その濾液をHPLC(Agilentシリーズ1100/1200,Agilent,Palo Alto,CA)で分析した。BioRad HPX−87H Aminexカラム(BioRad,Hercules,CA)を使用し、0.01N HSOを移動相として用いて、放出される糖類を分画した。このカラムを60℃で維持し、流量を0.6mL/minで維持した。55℃で維持した屈折率検出器を使用して、溶出した糖類を検出した。
【0119】
図1Aは、様々な酵素配合量でのバイオマスの糖化の時間的経過を、糖化についてのみのパーセント理論収量として表わされるモノマーグルコースの収率に関して示している。図1Bは、様々な酵素比についての図1Aからの120時間でのモノマーグルコースの収率の比較を示している。セルロース1g当り[6:3:6]、[6:6:12]および[12:6:1.2]のSpezyme(登録商標)CP:Multifect(登録商標)キシラナーゼ:Novozyme 188の配合量を使用した酵素糖化実験は、120時間のインキュベーションでほぼ同じ収率を示した。これらの結果は、Spezyme(登録商標)CP酵素の配合量の低下が、Novozyme 188(ほとんどβ−グルコシダーゼ)の配合量の増加により相殺され得ることを示している。これらの結果に基づけば、β−グルコシダーゼが安定で再使用可能であるならば、そのβ−グルコシダーゼの再使用可能性およびセルラーゼのいくらかに取って代わるその能力は、生成されたモノマー糖の量当りのセルラーゼ酵素のコスト削減をもたらし得る。
【0120】
実施例2(予測的)
二重中空糸循環ループがβ−グルコシダーゼおよびβ−キシロビオシダーゼ酵素を閉じ込めて最終産物阻害を緩和しそれらの再利用を可能にする
実施例1に開示された結果に基づけば、バイオマス糖化生成物が除去され、かつβ−グルコシダーゼおよびβ−キシロビオシダーゼ酵素が再利用されるプロセスは、発酵性糖類の生成について著しいコスト節減をもたらし得る。
【0121】
図2に、半透性中空糸循環ループにより結合された糖化および発酵のための別個の容器を使用する連続SSF装置の略図を示す。糖化容器(1)は、46℃およびpH5で維持される。前処理バイオマスを、セルラーゼおよびキシラナーゼと一緒にこの糖化容器に加える。酵素糖化反応により生成される低分子のヘキソースおよびペントースオリゴマー(セロビオースおよびキシロビオースを含む)を、第1の外部循環ループ(2)を介して第1の半透性中空糸膜(10)まで移動させ、ここでそれらのオリゴマーはその膜を透過して中空糸循環ループ(3)に入る。この中空糸循環ループは、隔離されたβ−グルコシダーゼおよびβ−キシロビオシダーゼ酵素を含有する。これらの酵素は、30kDaの分子量カットオフを有するその中空糸膜を通って拡散し得ない大きい分子である。しかしながら、この半透膜は、小分子の反応物(セロビオースおよびキシロビオース)およびこれらの反応物の生成物(グルコースおよびキシロース)を透過させ得る。β−グルコシダーゼおよびβキシロビオシダーゼ酵素は、セロビオースおよびキシロビオースを、グルコースおよびキシロースへと加水分解する。こうして形成されたグルコースおよびキシロースを第2の半透膜(11)まで移動させ、そしてその膜を通して第2の外部循環ループ(4)および発酵容器(5)中に移動させる。この発酵容器は、30〜33℃およびpH5.8で維持され得、標的生成物(例えば、エタノールまたはブタノール)の生成に必要な増殖培地および適切な1種もしくは複数種の微生物を含有する。発酵の間、その標的生成物は、排出口(6)を介してこの発酵容器から除去され得る。発酵容器からの生成物の(例えば、スパージングによる、または選択透過膜を介した、もしくはパーベーパレーションによる)除去は、反応を完結に導く助けとなる。循環ループ(2)は、セロビオースおよびキシロビオースが部分的に消耗したバイオマスを糖化容器に戻す。第1および第3の循環ポンプ(7)および(8)は、それぞれ第1および第2の外部ループの内容物を循環させる。第2の循環ポンプ(9)は、内部中空糸循環ループの内容物(β−グルコシダーゼおよびβキシロビオシダーゼ酵素を含む)を、さらなる一連の反応のために循環させる。こうして、糖化容器中のエキソセルラーゼおよびキシラナーゼの最終産物阻害が、内部中空糸ループ内に含まれているβ−グルコシダーゼおよびβ−キシロビオシダーゼ酵素により緩和され、これにより、反応全体が完結に導かれ、バイオマスの標的生成物への変換のためのより経済的なプロセスがもたらされる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖化容器および別個の発酵容器を含む前処理バイオマスを処理するための装置であって、該容器同士が、2つの外部循環ループと、該2つの外部循環ループを連結しかつ半透膜を含む中空糸循環ループとによって連結されており、該装置が、前処理バイオマスの区画化併行複発酵を提供する、装置。
【請求項2】
前記装置が、第1の外部循環ループ(2)に連結された糖化容器(1)を含み、ここで前記第1の外部循環ループ(2)は、中空糸循環ループ(3)の第1の半透膜(10)の外部にありかつ該第1の半透膜(10)に連結されており;該中空糸循環ループ(3)は、中空糸循環ループ(3)の第2の半透膜(11)の外部にありかつ該第2の半透膜(11)に連結されている第2の外部循環ループ(4)に連結されており;そして該第2の外部循環ループ(4)は、標的生成物のための排出口(6)を有する発酵容器(5)に連結されている、図2に従う、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
第1の外部循環ループ(2)のための第1の循環ポンプ(7)と、第2の外部循環ループ(4)のための第2の循環ポンプ(8)と、内部中空糸ループ(3)のための第3の循環ポンプ(9)とを含む一連の循環ポンプをさらに含む、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
半透膜が、ポリスルホン、ヒドロキシル化ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ヒドロキシル化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、およびポリエーテルイミドからなる群から選択される材料から作製される、請求項1または2に記載の装置。
【請求項5】
半透膜が、約10〜約30キロダルトンの分子量透過性を有する、請求項1または2に記載の装置。
【請求項6】
中空糸循環ループ(3)が、隔離された糖化酵素を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前処理バイオマスを処理する方法であって、
(a)請求項3に記載の装置を備える工程と;
(b)前処理バイオマスと糖化酵素集合体との混合物を該装置の糖化容器(1)に供給する工程であって、該混合物が、糖化によって高分子量成分および低分子量成分の両方を生成する、工程と;
(c)少なくとも1つの隔離された酵素を中空糸循環ループ(3)中に供給する工程と;
(d)ある量の(b)の混合物を、第1の循環ループを通して、第1の中空糸半透膜(10)上に送達する工程であって、これにより、(b)の混合物の上記高分子量成分は上記膜を通して拡散せず、混合物の上記低分子量成分は該膜を通して上記中空糸循環ループ(3)中に拡散する、工程と;
(e)(d)の中空糸循環ループ(3)中に拡散する該低分子量成分を、該中空糸循環ループ中で上記少なくとも1つの隔離された酵素によって加水分解する工程であって、これにより、発酵性糖類を含む加水分解物が形成される、工程と;
(f)発酵性糖類を含む加水分解物を第2の半透膜(11)を通して第2の循環ループ(4)中および発酵容器(5)に送達する工程と;
を包含し、前処理バイオマス成分は循環ポンプによって前記装置全体にわたって循環され、前処理バイオマスが処理される、上記方法。
【請求項8】
(b)の前記糖化酵素集合体は、セルラーゼ、キシラナーゼ、グリコシダーゼ、リグニナーゼおよびエステラーゼからなる群から選択される酵素を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
(c)の隔離された酵素は、可溶性分岐鎖キシロースオリゴマーを加水分解し得る、β−グルコシダーゼ β−キシロシダーゼおよびキシラナーゼからなる群から選択される酵素を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
(f)の発酵容器に送達される(e)の発酵性糖類が、少なくとも1つの微生物によって少なくとも1つの標的生成物に変換される、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
標的生成物が、前記発酵容器から選択的に取り出される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
バイオマスに対する前記隔離された酵素の作用によって形成された加水分解物が、前記発酵容器に送達される、請求項7に記載の方法。
【請求項13】
(c)の前記隔離された酵素は、複数回再利用される、請求項7に記載の方法。
【請求項14】
前記第1の半透膜および前記第2の半透膜は、各々、ポリスルホン、ヒドロキシル化ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ヒドロキシル化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、およびポリエーテルイミドからなる群から選択される材料から作製される、請求項7に記載の方法。
【請求項15】
前処理バイオマスの区画化併行複発酵のための方法であって、(a)前処理バイオマスおよび糖化酵素集合体を糖化容器に供給する工程であって、これにより糖化生成物が形成され、1つまたはそれより多い半透膜を通して移動し、1つまたはそれより多いさらなる隔離された酵素を含む少なくとも1つの区画を通過し、これにより発酵性糖類を含む加水分解物が形成される工程と;(b)該加水分解物を、標的生成物への発酵のための別個の発酵容器に送達する工程と;を包含する、上記方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−504339(P2013−504339A)
【公表日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−529859(P2012−529859)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【国際出願番号】PCT/US2010/048851
【国際公開番号】WO2011/034871
【国際公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】