説明

バッテリパック内のセルの監視しバランスさせるための方法及びシステム

1つ又は複数のバッテリパック内のエネルギー伝送デバイスをバランスさせ、バッテリパックの絶縁式監視を行うためのシステムは、直列に電気的に接続された少なくとも1つのエネルギー伝送デバイスグループを含む。エネルギー伝送デバイスの各グループについて、本システムはエネルギー伝送デバイスの隣り合うペア毎にバランス回路を含む。バランス回路は、ペアの両エネルギー伝送デバイス内に蓄積される電荷が実質的に等しく、かつ各エネルギー伝送デバイス内に蓄積される電荷がしきい値を越えるように保持するように、ペアの各エネルギー伝送デバイス内に蓄積される電荷を調整する。本システムはまた、各エネルギー伝送デバイスを順次選択し、選択されたデバイスに関連づけられる電圧を出力ポートにおいて供給するための電圧監視モジュールを含む。電圧監視モジュールは、低いオン抵抗の差動マルチプレクサを用いて各エネルギー伝送デバイスを選択する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッテリパックを動作させるための方法及びシステムに関し、特に、電気自動車へのアプリケーションにおけるディープサイクルのバッテリパックを性能、寿命及び安全性を高めるように動作させることに関する。
【背景技術】
【0002】
上記分野においてバッテリパックが動作される方法は、バッテリパックの性能、寿命及び安全性に著しく影響する可能性がある。この懸念は、特に電気自動車における使用等の過酷なアプリケーションに関連している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
例として、互いに直列に接続された複数のリチウムセルから形成されるバッテリパックについて考察されたい。リチウムバッテリパックの寿命は、当該バッテリパックの複数のセルのうちの1つの電圧が放電中に所定のしきい値(典型的には、3ボルト。)を下回って降下したとき、又は充電中に所定のしきい値(典型的には、4.2ボルト。)を越えて上昇したときに劇的に低減する。このため、セル電圧を注意深く監視しセル電圧を所定の範囲内に保持するための措置を講じることが極めて重要である。
【0004】
さらに問題を複雑にすることには、セルの中には、リチウムセルの製造時の欠陥に起因して、外見的には同一の他のセルほど電荷を蓄積しないセルがある。これに起因して、複数のリチウムセルが互いに直列に接続されるとき、欠陥のあるセルは他のセルより速く放電し、よって放電中に最初に上述の下限値に達する。このような欠陥セルは、充電中もやはり最初に上限値に達する場合が多い。セル間のこのアンバランスは、バッテリパックの動作中に電荷が再びバランスされない限り、バッテリパックの有効な動作範囲を制限する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、1つ又は複数のバッテリパックのセルの電圧を監視し、パック内のセルをバランスさせるための方法とシステムに関する。このような機能性は、既存の外部の制御システムとインタフェースし、同時に外部の制御システムを、監視されバランスされるバッテリセルから絶縁するように適合化された単一の監視及びバランスシステムにおいて、簡便に提供されてもよい。例えば、プリント配線基板である単一の機器構成要素を用いる監視及びバランスは、電気システム内において必要とされる相互接続の数を減らす。
【0006】
本発明の一態様によれば、例えばリチウムセルである複数のセルの直列接続から形成されるバッテリパックを、アナログ入力部及びデジタル入力部が利用可能なメインシステムコントローラを用いて監視しバランスさせる方法が提供されている。ある実施形態では、このようなコントローラは、電気自動車において既に利用されているメインシステムコントローラを含む。
【0007】
一般に、2個のセルを有するバッテリパックを、n個のデジタル制御信号を用いることによって単一のアナログ入力部上で監視することができる。これは、n個のデジタル入力信号によって制御されるマルチプレクサを用いて、2個のセル電圧の各々をチャネリングすることによって達成されてもよい。同様に、追加のバッテリパックを、各追加のバッテリパック毎にシステムコントローラ上にフリーなアナログ入力部を追加することによって監視することができる。
【0008】
ある実施形態では、各セルの温度を示す信号もまたシステムコントローラに提供される。ある例示的な実施形態では、サーミスタを用いて温度に依存する信号が発生されるが、技術上既知である他の温度−電気変換器を用いてもよい。複数のセルからの温度信号は、車両コントローラ上の単一のアナログ入力部上で、例えば時分割多重を用いて伝達されてもよい。
【0009】
説明されている実施形態では、車両のメインシステムコントローラとバッテリパックとの間に直接的な非絶縁の接続は必要とされない。
【0010】
ある例示的な実施形態によれば、直列にストリング状に配列された複数のセルの複数のブロックから形成されたバッテリパックのためのバッテリセルをバランスさせる絶縁された監視システムが提供されている。本システムの監視側の各チャンネルは、例えば8個のセルブロックを監視し、分圧(スプリット)電源で動作する低いオン抵抗の差動マルチプレクサと、抵抗分圧器と、絶縁増幅器と、絶縁されたDC/DC変換器と、インピーダンス整合のための出力演算増幅器とで構成される。各バランスブロックは、500mAまでの電流のシャッフリングを許容しながら、直列接続された2つのセルブロックにバランス処理を実行し、2つのツェナーダイオードと、1つの演算増幅器と、2つのトランジスタと、4つの抵抗器とを有する。
【0011】
実施形態によっては、本監視システムは、制御ユニットをバッテリの接地に接続することなくセル電圧を外部制御ユニットに安全に送ることができるように、バッテリパックから絶縁される。このような絶縁は、例えば、光学的なアイソレータ、フォトトランジスタ又は改善された精度及び直線性のための電流ベースの絶縁増幅器又はこれらの組合せによって達成されてもよい。
【0012】
実施形態によっては、セルバランス回路は切断されたセルに近接するセルの放電を阻止するように構成され、一般に過充電及び過放電からの保護を提供する。
【0013】
実施形態によっては、本監視システムは、短絡したセル又は切断されたセルを迅速に識別するために、電圧を監視しセルからセルへの迅速な監視の移行を可能にする正確な手段として低いオン抵抗の差動マルチプレクサを含む。
【0014】
実施形態によっては、本システムは、臨界温度を監視できるようにサーミスタからの入力信号を含む。
【0015】
実施形態によっては、本システムはまた、温度監視に用いられるマルチプレクサのみならずセル電圧の監視に用いられる差動マルチプレクサのための選択信号を発生するオンボードのタイマ回路を含む。
【0016】
ある態様においては、本システムは、1つ又は複数のバッテリパック内のエネルギー伝送デバイスをバランスさせるためのシステムである。本システムは、直列に電気的に接続されたN個のエネルギー伝送デバイスにてなる少なくとも1つのグループを含み、Nは2以上の整数である。N個のエネルギー伝送デバイスにてなる各グループについて、本システムは、エネルギー伝送デバイスの隣り合うペア毎に1つのバランス回路を含む。バランス回路は、(i)ペアの第1のエネルギー伝送デバイスに蓄積される電荷がペアの第2のエネルギー伝送デバイスに実質的に等しく、かつ(ii)各エネルギー伝送デバイスに蓄積される電荷が所定のしきい値を越えるように保持するように、隣り合うペアの各エネルギー伝送デバイスに蓄積される電荷を調整する。
【0017】
ある実施形態では、バランス回路は、各エネルギー伝送デバイスに蓄積される電荷を所定のしきい値を越えるように保持するための少なくとも1つのツェナーダイオードを含む。他の実施形態は、ツェナーダイオードの電圧基準の特性及び関連する特性を提供するための技術上既知である代替の構成要素を用いてもよい。別の実施形態では、バランス回路は、各エネルギー伝送デバイスに蓄積される電荷を保持するための、バックツーバック構成で設けられたツェナーダイオードのペアを含む。
【0018】
別の実施形態はさらに、各エネルギー伝送デバイスを順次選択し、選択されたエネルギー伝送デバイスに関連づけられる電圧を出力ポートにおいて供給するための電圧監視モジュールを含む。電圧監視モジュールは、低いオン抵抗の差動マルチプレクサを用いて各エネルギー伝送デバイスを選択し、関連する電圧を供給する。
【0019】
別の実施形態では、差動マルチプレクサは分圧電源回路によって電力を供給される。さらに別の実施形態では、電圧監視モジュールは、エネルギー伝送デバイスと出力ポートとの間を絶縁する。さらに別の実施形態では、絶縁することは、マルチプレクサのための選択信号を光学的なアイソレータを通過させることと、選択されたエネルギー伝送デバイスに関連づけられる電圧を絶縁増幅器を通過させることを含む。
【0020】
ある実施形態はさらに、バッテリパック及び1つ又は複数の他のバッテリパックに関連づけられる温度を示す信号を受信し、受信された信号のうちの1つを出力ポートにおいて選択的に供給するための温度監視モジュールを含む。
【0021】
別の実施形態では、バランス回路と電圧監視モジュールとは単一のプリント配線基板内で接続される。さらに別の実施形態では、各エネルギー伝送デバイスはリチウムセルである。
【0022】
別の態様において、1つ又は複数のバッテリパックの絶縁された監視を提供し、1つ又は複数のバッテリパック内のエネルギー伝送デバイスをバランスさせるためのシステムは、直列に電気的に接続されたN個のエネルギー伝送デバイスにてなる少なくとも1つのグループを含む。但し、Nは2以上の整数である。N個のエネルギー伝送デバイスにてなる各グループについて、本システムは、バランスモジュールと電圧監視モジュールとを含む。バランスモジュールは、エネルギー伝送デバイスの隣り合うペア毎に1つのバランス回路を含む。バランス回路は、(i)ペアの第1のエネルギー伝送デバイスに蓄積される電荷がペアの第2のエネルギー伝送デバイスに実質的に等しく、かつ(ii)各エネルギー伝送デバイスに蓄積される電荷が所定のしきい値を越えるように保持するように、隣り合うペアの各エネルギー伝送デバイスに蓄積される電荷を調整する。電圧監視モジュールは、分圧電源上で動作し、複数の入力ポートに供給される各エネルギー伝送デバイスを順次選択し、選択されたエネルギー伝送デバイスに関連づけられる電圧を出力ポートにおいて供給するための差動マルチプレクサを含み、上記差動マルチプレクサは、複数の入力ポートから出力ポートまでの低いオン抵抗の経路を特徴としている。電圧監視モジュールはまた、選択されたエネルギー伝送デバイスに関連づけられる電圧をスケーリングしてスケーリングされた電圧を生成する抵抗分圧器を含む。電圧監視モジュールはさらに、絶縁されたバージョンのスケーリングされた電圧を供給するための絶縁増幅器と、絶縁増幅器の入力側に電力を供給するための絶縁されたDC/DC変換器と、スケーリングされた電圧をシステムコントローラへインピーダンス整合するための出力演算増幅器とを含む。
【0023】
ある実施形態では、バランス回路は、各エネルギー伝送デバイスに蓄積される電荷を保持するための、バックツーバック構成で設けられたツェナーダイオードのペアを含む。
【0024】
ある実施形態はさらに、エネルギー伝送デバイスの隣り合うペア間の電荷のアンバランスのレベルを決定し、この電荷のアンバランスのレベルに対応するエラー信号を生成するための演算増幅器と、エラー信号に従って、エネルギー伝送デバイスの隣り合うペアの電荷を再分配するように設けられたスタックされたトランジスタペアとを含む。別の実施形態では、差動マルチプレクサは分圧電源回路によって電力を供給される。
【0025】
別の実施形態はさらに、バッテリパック及び1つ又は複数の他のバッテリモジュールに関連づけられる温度を示す信号を受信し、受信された信号のうちの1つを出力ポートにおいて選択的に供給するための温度監視モジュールを含む。さらに別の実施形態では、各エネルギー伝送デバイスはリチウムセルである。
【0026】
別の態様は、バッテリパック内のエネルギー伝送デバイスをバランスさせる方法を含み、上記バッテリパックは直列に電気的に接続されたN個のエネルギー伝送デバイスにてなる1つのグループを含む。但し、Nは2以上の整数である。本方法は、バッテリパック内のエネルギー伝送デバイスの隣り合う各ペアについて、ペアのエネルギー伝送デバイスに蓄積される電荷が実質的に等しくなるように、隣り合うペアの各エネルギー伝送デバイスに蓄積される電荷を調整することを含む。本方法はさらに、各エネルギー伝送デバイスに蓄積される電荷を所定のしきい値を越えるように保持することを含む。
【0027】
別の実施形態はさらに、エネルギー伝送デバイスの隣り合うペア間の電荷を再分配回路を用いて再分配することを含む。再分配回路は、各エネルギー伝送デバイスに蓄積される電荷を所定のしきい値を越えるように保持するための、バックツーバック構成で設けられたツェナーダイオードのペアを含む。
【0028】
ある実施形態はさらに、各エネルギー伝送デバイスを低いオン抵抗の差動マルチプレクサを用いて順次選択することと、選択されたエネルギー伝送デバイスに関連づけられる電圧を供給することを含む。別の実施形態はさらに、分圧電源回路から差動マルチプレクサに電力を供給することを含む。
【0029】
本発明そのもののみならず、本発明の上述した目的及び他の目的及び本発明の様々な特徴は、添付の図面とともに以下の説明を読むことによって、より十分に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】説明されている実施形態のうちの1つ又はそれ以上によって提供される一般的な機能を示すブロック図である。
【図2】図1の電圧監視モジュールの一実施形態を示す。
【図3】差動マルチプレクサに電力を供給するための分圧電源回路の詳細を示す。
【図4】選択されたラインのうちの2つがマルチプレクサから絶縁される方法の詳細を示す。
【図5】調整回路及び絶縁増幅器の例示的な実施形態を示す。
【図6】バランスモジュールのバランス回路の詳細を示す。
【図7】バッテリ監視及びバランスシステムの一実施形態の温度検出部の構成を示す。
【図8】説明されている実施形態の機能及びモジュールが単一のシステムに統合される一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の実施形態は、バッテリセルを監視すること、バッテリセルをバランスさせること又はバッテリセルの温度を監視すること、もしくはこれらの組合せを提供するように適合化される。説明されている実施形態は、受信される情報に基づいてセーフティクリティカルな決定を行うことができる外部の絶縁された車両のコントローラに対して、セーフティクリティカルシステムの電圧及び温度を安全に送ることができるように必要とされる信号調整を行う。
【0032】
図1は、本明細書において説明されているバッテリパックを監視しバランスさせるためのシステム及び方法の実施形態のうちの1つ又はそれ以上によって提供される一般的な機能を示すブロック図である。バッテリパック102は、直列に接続された2つ以上のエネルギー伝送デバイス104(例えば、リチウムセル。)を含む。
【0033】
電圧監視モジュール106は、各エネルギー伝送デバイス104に関連づけられる電圧の情報を受信し、電圧の情報を調整して絶縁し、電圧の情報を出力ポートを介してシステムコントローラ108に提供する。システムコントローラ108は、充電及び放電中に各エネルギー伝送デバイス104を評価し、個々のエネルギー伝送デバイス104の何れかが損傷状態にある可能性があるかどうかを決定する。例えば、充電中に、全体的なパックの電圧がまだ安全レベル内より下にあるとしても、各セルが安全電圧レベルに達している又はこれを越えている場合がある。同様に、放電中に、バッテリパック全体の電圧がまだその安全な最低のしきい値を越えているとしても、各セルの電圧が安全な最低のしきい値より降下する場合がある。システムコントローラ108は、望ましくない値にある個々のセル電圧を検出すると、バッテリパック102の充電又は放電を中断する。
【0034】
バランスモジュール110は、隣り合うセルペアの相対的な電圧レベルを評価し、隣り合うセル間の電荷を再分配してペアのセル電圧の差を緩和する。さらに詳細後述するように、バランスモジュール110は、セルペアにおける一方のセルが取り外される、もしくは切断された場合に、他方のセルの過剰なセル放電を防止するための機能を含む。
【0035】
温度監視モジュール112は、バッテリパック102の温度に対応する情報を受信する。温度情報は、一般にバッテリパック内に位置づけられる変換器(トランスデューサ)によって生成される電気信号の形式であるが、温度情報は技術上既知である他の形式であってもよい。温度監視モジュール112は、温度情報をシステムコントローラ108に提供する。温度監視モジュールは他のバッテリパック(図示せず。)からも温度情報を受信し、複数のバッテリパックからの温度情報をシステムコントローラ108に提供してもよい。
【0036】
以下、図1に示す構成要素について説明する。
【0037】
I.セル電圧の監視.
図2は、8個のセルを有するバッテリパック102のセル電圧を測定する電圧監視モジュール106の一実施形態を示す。但し、これは単に例示的な実施形態であり、本明細書に記述している概念を他のサイズのバッテリパックに用いてもよいことは理解されるべきである。
【0038】
電圧監視モジュール106は、8チャンネルの差動マルチプレクサ120と、分圧電源回路122と、選択信号発生タイマ回路124と、信号調整回路126と、絶縁増幅器128とを含む。
【0039】
差動マルチプレクサ120は、バッテリパック102内の8つのセル104のうちの1つにおける電圧をそれぞれ表す8つの信号ペア130を受信する。明確を期して、図2では信号ペア130及びセル104は2つしか参照数字で示されていない。差動マルチプレクサ120は、デバイス製造プロセスのバラツキに起因する較正の必要性を減じるだけでなく、セル電圧測定の精度を高める、入力部から出力部への確実に低いオン抵抗を提供する。低いオン抵抗のマルチプレクサの使用によってもたらされる高められた精度は、先行技術のシステムに比較して迅速な、短絡又は切断セルの絶縁を可能にする。説明されている実施形態では、差動マルチプレクサ120はDG 407 CMOSアナログマルチプレクサデバイスである。これは、複数の企業によって、例えばカリフォルニア州ミルピタスのインターシル(Intersil)によって製造されている。
【0040】
差動マルチプレクサ120は、図3にその詳細を示す分圧電源回路122から分圧電源電圧を受信する。分圧電源を使用することによって、シングルエンドの電源で動作するときに比較してマルチプレクサ120の精度が改善されるので、分圧電源を使用する。分圧電源は、バッテリパック102内の8個のセル104の直列ストリングにおける電圧降下を用いる。バッテリパック102の電圧のほぼ半分であるツェナー電圧を有するツェナーダイオードは、端子Bにおける電圧を端子Aにおける電圧と端子Cにおける電圧との中間で固定する。従って、端子Aはマルチプレクサ120の正の電圧の制限値(レール)を提供し、端子Cはマルチプレクサ120の負の制限値を提供し、端子Bはマルチプレクサ120の接地基準を提供する。記述しているこの例示的な実施形態は、32ボルトの合計のパック電圧のために、4ボルトの電圧をそれぞれ有する直列に接続された8個のセルのバッテリパックを有する。16ボルトのツェナーダイオードは、端子Aと端子Bとの間の電圧を16ボルトに固定し、端子Bと端子Cとの間の電圧を16ボルトに固定する。
【0041】
選択信号発生タイマ回路124(SGTC(select generating timer circuitry))は、複数の選択信号136をマルチプレクサ120に供給する。選択信号136は、選択信号入力部132への可能な全ての入力値の繰り返しシーケンスを表し、これにより、バッテリパック102のセルからの各信号ペア130を、マルチプレクサ120の出力部134に周期的に方向づける。ある実施形態では、SGTC124は、一般的な555タイマ装置の出力信号を少なくとも3ビットを有するリップルキャリー(桁上げ伝搬加)算器に方向づけることによって、選択信号を発生する。SGTC124はまた、どのセル104が監視されているかに関連してシステムコントローラ108が同期をとられるように、選択信号136をシステムコントローラ108に供給する。
【0042】
バッテリパック102の不適合な(かつ有害な可能性がある)電圧をシステムコントローラ138から電気的に絶縁するために、SGTC124は、光学的なアイソレータを用いて選択信号136を調整する。図4は、SGTC124からの選択されたラインのうちの2つ(SEL0及びSEL1。)がマルチプレクサ120から絶縁される方法の詳細を示す。電気的な絶縁を行うための技術上既知である他の技術もまた用いられてもよい。
【0043】
マルチプレクサ120は、マルチプレクサの出力部134において、選択されたセル電圧を供給する。選択されたセル電圧は、絶縁増幅器128に供給される前に信号調整回路126を通過する。信号調整回路126は、セル電圧を絶縁増幅器128の入力部に適合するようにスケーリングする分圧器ネットワークから成る。図5は、調整回路126及び絶縁増幅器128の例示的な実施形態を示す。この実施形態における絶縁増幅器128は、典型的には電動機の駆動装置において電流検出に用いられるタイプである。説明されている実施形態では、絶縁増幅器128は2つの別々の電源によって電力を供給される。絶縁増幅器の入力側は、選択されたセル電圧の負極側を基準とする供給電圧であって、絶縁されたDC/DC変換器によって生成された供給電圧によって電力を供給される。絶縁増幅器の出力側は、システムコントローラの接地を基準とする供給電圧によって電力を供給される。
【0044】
図5に示す電流ベースの絶縁増幅器128は、典型的には先行技術のシステムに用いられる線形の光カプラの技術では欠如する線形性、安定性及び精度を提供する。絶縁増幅器128の出力信号は、メインシステムコントローラの制御ユニット108と同一の接地に参照される。絶縁増幅器128の出力信号は、インピーダンス整合を実行する演算増幅器回路140に進み、セル電圧信号の振幅をシステムコントローラ108に適するレベルまで増大する大きな利得を提供する。直列に接続された8個のセルから成る各ブロックは、バッテリパック内の各セルに順次対応する1つの比例する出力電圧を生成する。出力電圧はバッテリパック102から絶縁され、制御ユニット108によって安全に読み取られかつ処理されることが可能である。
【0045】
II.セルバランス.
セルをバランスさせることは、バックツーバックツェナーダイオード構成の後の比較器を用いて達成される。フルバランス技術の例示的な実施形態を図6に示す。一般に、バランスモジュール110は、1つのセルペアをそれぞれバランスさせる複数のバランス回路111から成る。図6は、複数のバランス回路111のうちの1つを示す。
【0046】
一般に、バランスモジュール110内の各バランス回路は等しい抵抗器150のペアを用いて「2分の1の」分圧器を形成し、分圧器は、セルN及びN+1のペアの合計電圧の2分の1である基準電圧152を生成する。汎用の演算増幅器741は、基準電圧152をセルN及びN+1のペア間の実際の中間電圧154と比較し、生成される結果的なエラー信号156を用いてスタックされたトランジスタペア158を駆動する。エラー信号156は、中間電圧154が基準電圧152に等しくなければゼロではない。エラー信号156がゼロでなければ、エラー信号はトランジスタペアのうちの1つを導通するように駆動する。アクティブなトランジスタは、中間電圧がセルペアの合計電圧の2分の1に等しくなるまでセルペアのうちの一方における電荷を調整し、これによって、エラー信号はゼロまで下がり、アクティブなトランジスタはオフにされる。
【0047】
比較器に基づく従来の多くのバランスシステムに伴う1つの問題点は、セルがバランス回路から切断されるときに生じる。切断されたセルは、通常、当該切断されたセルに対してバランスされるセルの放電を引き起こす。そして、この放電は、直列ストリング内の次のセルの放電、等々に繋がる。よって、従来のバランサのストリングがパックに接続されていれば、切断されたセルから上流のセルが全てゼロボルトまで放電する連鎖反応が発生し、劇的な電圧低下をひきおこす。
【0048】
説明されている実施形態におけるセルバランス装置は、両方のセルが接続されている場合にのみ電流を流すことを許容するバックツーバック構成で設けられた戦略的に選択されるツェナーダイオード160を組み込むことによってこの問題に対処する。何れかのセルが切断状態になれば、(どのセルが切断されているかに依存して。)一方のツェナーダイオード160は、切断されていないセルからの電流の流れを遮断する。
【0049】
ツェナーダイオード160のツェナー電圧値は、一方のセルが切断されている場合に、切断されていない方のセルがどの程度の低電圧まで放電できるかを決定する。従って、バランス回路のために選択される所定のツェナーダイオードは、バッテリパック102において用いられる所定のタイプのセル(即ち、この所定のセル技術の最低の安全電圧。)に依存する。従って、ツェナーダイオードは、バッテリパック102の各セル104に蓄積される電荷が所定のしきい値より降下することを防ぎ、上記しきい値はツェナーダイオード160の値によって決定される。
【0050】
III.温度の監視.
温度の検出は、特に、バッテリパック102内にリチウムセルが用いられる場合に有益である。リチウムセルは、その推奨される温度範囲以外の温度にさらされると劣化する可能性があり、過剰な温度は不安定な又は危険なシナリオを生む可能性がある。そのため、バッテリパックの温度はしばしば綿密に監視され、温度しきい値を越えたときにバッテリパックの使用が中断される。
【0051】
図7は、バッテリのバランス及び監視システムの一実施形態の温度検出構成を示す。この実施形態は、バッテリパック内に戦略的に搭載されたサーミスタを用いてサーミスタの直近の周囲温度を電気信号に変換するが、技術上既知である他の温度−電気信号変換器が用いられてもよい。
【0052】
図7は、複数のサーミスタ入力部172から1つを選択するためのアナログマルチプレクサ170を示す。明確を期して、バッテリパック102に関連づけられるサーミスタ174のみマルチプレクサ170の第1の入力部に接続されて示されているが、一般に、他のバッテリパックに関連づけられるサーミスタもマルチプレクサ170の他の入力部に接続される。
【0053】
サーミスタ174は、マルチプレクサ170の入力部が抵抗分圧器の中点になるように、固定のプルアップ抵抗器を用いてマルチプレクサ入力部172に結合される。サーミスタの抵抗はサーミスタの温度に伴って変わるので、マルチプレクサの入力部における電圧もサーミスタの温度に伴って変わる。
【0054】
選択信号176は、マルチプレクサ出力部178に導かれるべきマルチプレクサ170の所定のサーミスタ入力を選択する。一般に、システムコントローラは選択入力信号を提供するが、実施形態の中には、システムコントローラが接続されたバッテリパックからの温度情報を所定のシーケンスで観察するように、単にマルチプレクサの選択入力部に繰り返しカウント値を提供する回路を単に含んでもよいものがある。
【0055】
電圧フォロワ180は、マルチプレクサ出力178から信号を受信する。電圧フォロワ180は信号をバッファし、バッファされた信号をシステムコントローラへ供給する。
【0056】
IV.システムの統合.
図8は、直列に接続された8個のセルを有するバッテリパックと相互に接続するための、例えばプリント配線基板上に存在する単一のシステム190に統合される本明細書で説明されている実施形態の機能及びモジュールの一例を示す。本明細書で記述しているように、これは単に例示的な実施形態であり、8個より多い又は少ないセルを有するバッテリパックが用いられてもよい。
【0057】
従って、これまでに述べた実施形態及び例から、バッテリセルの電圧及び温度を監視し、性能、寿命及び安全性を目的として充電及び放電動作の間にセルをバランスさせる方法が説明されていることが分かるであろう。
【0058】
本発明は、本発明の精神又は本質的特性から逸脱することなく、他の特有の形式で具現されてもよい。従って、これらの実施形態は例示的であって限定的でないという観点から考察されるべきものであり、本発明の範囲は、これまでの明細書本文ではなく添付の請求の範囲によって指示され、よって請求の範囲と同等の意味及び範囲に包含される全ての変更は本発明に包含されることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ又は複数のバッテリパック内のエネルギー伝送デバイスをバランスさせるためのシステムにおいて、
直列に電気的に接続されたN個のエネルギー伝送デバイスにてなる少なくとも1つのグループを備え、Nは2以上の整数であり、
上記システムは、N個のエネルギー伝送デバイスにてなる各グループについて、エネルギー伝送デバイスの隣り合うペア毎に1つのバランス回路を備え、
上記バランス回路は、(i)上記ペアの第1のエネルギー伝送デバイスに蓄積される電荷が上記ペアの第2のエネルギー伝送デバイスに実質的に等しく、かつ(ii)各エネルギー伝送デバイスに蓄積される電荷が所定のしきい値を越えるように保持するように、上記隣り合うペアの各エネルギー伝送デバイスに蓄積される電荷を調整するシステム。
【請求項2】
上記バランス回路は、各エネルギー伝送デバイスに蓄積される電荷を所定のしきい値を越えるように保持するための少なくとも1つのツェナーダイオードを含む請求項1記載のシステム。
【請求項3】
上記バランス回路は、各エネルギー伝送デバイスに蓄積される電荷を保持するための、バックツーバック構成で設けられたツェナーダイオードのペアを含む請求項1記載のシステム。
【請求項4】
上記各エネルギー伝送デバイスを順次選択し、上記選択されたエネルギー伝送デバイスに関連づけられる電圧を出力ポートにおいて供給するための電圧監視モジュールをさらに含み、
上記電圧監視モジュールは、低いオン抵抗の差動マルチプレクサを用いて上記各エネルギー伝送デバイスを選択し、上記関連する電圧を供給する請求項1記載のシステム。
【請求項5】
上記差動マルチプレクサは分圧電源回路によって電力を供給される請求項4記載のシステム。
【請求項6】
上記電圧監視モジュールは、上記エネルギー伝送デバイスと上記出力ポートとの間を絶縁する請求項4記載のシステム。
【請求項7】
上記絶縁することは、上記マルチプレクサのための選択信号を光学的なアイソレータを通過させることと、上記選択されたエネルギー伝送デバイスに関連づけられる電圧を絶縁増幅器を通過させることとを含む請求項6記載のシステム。
【請求項8】
上記バッテリパック及び1つ又は複数の他のバッテリパックに関連づけられる温度を示す信号を受信し、上記受信された信号のうちの1つを出力ポートにおいて選択的に供給するための温度監視モジュールをさらに含む請求項1記載のシステム。
【請求項9】
上記バランス回路と上記電圧監視モジュールとは単一のプリント配線基板内で接続される請求項4記載のシステム。
【請求項10】
各エネルギー伝送デバイスはリチウムセルである請求項1記載のシステム。
【請求項11】
1つ又は複数のバッテリパックの絶縁された監視を提供し、上記1つ又は複数のバッテリパック内のエネルギー伝送デバイスをバランスさせるためのシステムにおいて、
直列に電気的に接続されたN個のエネルギー伝送デバイスにてなる少なくとも1つのグループを備え、Nは2以上の整数であり、
上記システムは、N個のエネルギー伝送デバイスにてなる各グループについて、バランスモジュールと電圧監視モジュールとを備え、
上記バランスモジュールは、エネルギー伝送デバイスの隣り合うペア毎に1つのバランス回路を含み、
上記バランス回路は、(i)上記ペアの第1のエネルギー伝送デバイスに蓄積される電荷が上記ペアの第2のエネルギー伝送デバイスに実質的に等しく、かつ(ii)各エネルギー伝送デバイスに蓄積される電荷が所定のしきい値を越えるように保持するように、上記隣り合うペアの各エネルギー伝送デバイスに蓄積される電荷を調整し、
上記電圧監視モジュールは、
(i)分圧電源で動作し、複数の入力ポートに供給される上記各エネルギー伝送デバイスを順次選択し、上記選択されたエネルギー伝送デバイスに関連づけられる電圧を出力ポートにおいて供給するための差動マルチプレクサと、
(ii)上記選択されたエネルギー伝送デバイスに関連づけられる電圧をスケーリングしてスケーリングされた電圧を生成する抵抗分圧器と、
(iii)絶縁されたバージョンの上記スケーリングされた電圧を供給するための絶縁増幅器と、
(iv)上記絶縁増幅器の入力側に電力を供給するための絶縁されたDC/DC変換器と、
(v)上記スケーリングされた電圧をシステムコントローラへインピーダンス整合するための出力演算増幅器とを含み、
上記差動マルチプレクサは、上記複数の入力ポートから上記出力ポートまでの低いオン抵抗の経路を特徴としているシステム。
【請求項12】
上記バランス回路は、各エネルギー伝送デバイスに蓄積される電荷を保持するための、バックツーバック構成で設けられたツェナーダイオードのペアを含む請求項11記載のシステム。
【請求項13】
(i)上記エネルギー伝送デバイスの隣り合うペア間の電荷のアンバランスのレベルを決定し、上記電荷のアンバランスのレベルに対応するエラー信号を生成するための演算増幅器と、(ii)上記エラー信号に従って、上記エネルギー伝送デバイスの隣り合うペアの電荷を再分配するように設けられたスタックされたトランジスタペアとをさらに含む請求項12記載のシステム。
【請求項14】
上記差動マルチプレクサは分圧電源回路によって電力を供給される請求項11記載のシステム。
【請求項15】
上記バッテリパック及び1つ又は複数の他のバッテリモジュールに関連づけられる温度を示す信号を受信し、上記受信された信号のうちの1つを出力ポートにおいて選択的に供給するための温度監視モジュールをさらに含む請求項11記載のシステム。
【請求項16】
各エネルギー伝送デバイスはリチウムセルである請求項11記載のシステム。
【請求項17】
バッテリパック内のエネルギー伝送デバイスをバランスさせる方法において、
上記バッテリパックは直列に電気的に接続されたN個のエネルギー伝送デバイスにてなる1つのグループを含み、Nは2以上の整数であり、
上記方法は、
上記バッテリパック内のエネルギー伝送デバイスの隣り合う各ペアについて、上記ペアのエネルギー伝送デバイスに蓄積される電荷が実質的に等しくなるように、上記隣り合うペアの各エネルギー伝送デバイスに蓄積される電荷を調整することと、
各エネルギー伝送デバイスに蓄積される電荷を所定のしきい値を越えるように保持することとを含む方法。
【請求項18】
上記エネルギー伝送デバイスの隣り合うペア間の電荷を再分配回路を用いて再分配することをさらに含み、上記再分配回路は、各エネルギー伝送デバイスに蓄積される電荷を所定のしきい値を越えるように保持するための、バックツーバック構成で設けられたツェナーダイオードのペアを含む請求項17記載の方法。
【請求項19】
上記各エネルギー伝送デバイスを低いオン抵抗の差動マルチプレクサを用いて順次選択することと、上記選択されたエネルギー伝送デバイスに関連づけられる電圧を供給することとをさらに含む請求項17記載の方法。
【請求項20】
分圧電源回路から上記差動マルチプレクサに電力を供給することをさらに含む請求項17記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2009−544272(P2009−544272A)
【公表日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−520835(P2009−520835)
【出願日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際出願番号】PCT/US2007/016356
【国際公開番号】WO2008/011095
【国際公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願人】(505239219)エイ 123 システムズ,インク. (24)
【Fターム(参考)】