説明

バッテリ状態管理装置

【課題】バッテリ内の減水を容易に検出する。
【解決手段】バッテリ21の満充電状態の累計時間とバッテリ21内の減水量との相関関係の情報を予めROMに保有し、電流検出部11や電圧検出部13を用いてバッテリ21の満充電の状態についての経時的な累計時間を検知して、上記の相関関係に基づいてバッテリ21の減水量を導出する。専用の液量検出センサーを設置しなくても、バッテリ21の減水に伴う劣化や容量の減少を未然に防止することが可能となる。そして、減水量の導出結果を報知部17で報知することにより、ユーザーはバッテリ21の減水を容易に知って保水を行うことができ、便利である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のバッテリの状態を管理するバッテリ状態管理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車においては、図4の如く、エンジン1が回転しているときに、発電機3によってエンジン1の回転力を電流エネルギーに変換し、ここで発生した電力を各種の負荷5に供給するとともに、余剰の電力を用いてバッテリ7の充電を図る。
【0003】
自動車に使用されるバッテリ7としては、一般に鉛蓄電池が用いられる。この鉛蓄電池は、負極活物質として鉛(Pb)、正極活物質として二酸化鉛(PbO2)が用いられ、電解液として希硫酸(H2SO4)が用いられる。
【0004】
ところで、自動車のエンジン1は、スタータ9の駆動により始動する。このスタータ9が駆動する際には、突入電流による大きな電圧降下を伴うため、バッテリ7から充分な始動電圧が供給される必要がある。したがって、スタータ9を駆動してエンジン1を始動させることが可能な状態を維持する必要があり、そのためには、バッテリ7の劣化を可及的に防止することが重要となる(例えば、特許文献1)。
【0005】
【特許文献1】特開平05−292652号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、バッテリの満充電付近、特に過充電の状態では、正極から酸素ガス、負極から水素ガスがそれぞれ発生し、電解液である希硫酸の水が電気分解されて減少する(以下「減水」と称す)。そうすると、減水した分だけ硫酸濃度が上昇し、極板の痛み、即ち、バッテリ7の劣化が進行する。
【0007】
また、電解液の量が少なくなると、極板が空気中に露出し、その分だけ有効極板面積が減って、バッテリ7の容量が減少する。
【0008】
しかも、極板が空気中に露出した部分は、付着した酸に冒されて腐食し、元の鉛に戻らなくなる。
【0009】
したがって、減水の進んだバッテリ7を使用している場合は、速やかにバッテリ7の保水を行うことが望ましい。
【0010】
ここで、バッテリ7内に液量検出センサー等の専用の部品を用いれば、バッテリ21内の減水を検出することが可能である。しかしながら、この場合は、専用の液量検出センサーを設置する必要があるため、部品コストが増大する不利がある。
【0011】
そこで、本発明の課題は、専用の液量検出センサーを設置しなくても、バッテリ内の減水を容易に検出し得るバッテリ状態管理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決すべく、請求項1に記載の発明は、自動車のバッテリの状態を管理するバッテリ状態管理装置であって、バッテリの満充電状態の累計時間と前記バッテリ内の減水量との相関関係の情報を予め保有し、前記バッテリの満充電の状態についての経時的な累計時間を検知して、前記相関関係に基づいて前記バッテリの減水量を導出するものである。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のバッテリ状態管理装置であって、バッテリの満充電状態の累計時間と前記バッテリ内の減水量との相関関係の情報を予め保有し、前記バッテリの満充電の状態についての経時的な累計時間を検知して、前記相関関係に基づいて前記バッテリの減水量を導出する判定手段と、前記判定手段での前記減水量の導出結果を報知する報知部とを備えるものである。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載の発明のバッテリ状態管理装置は、バッテリの満充電状態の累計時間とバッテリ内の減水量との相関関係の情報を予め保有し、バッテリの満充電の状態についての経時的な累計時間を検知して、相関関係に基づいてバッテリの減水量を導出するので、例えばバッテリ内に液量検出センサー等の専用の部品を用いなくても、バッテリの減水に伴う劣化や容量の減少を未然に防止することが可能となる。
【0015】
請求項2に記載の発明のバッテリ状態管理装置は、減水量の導出結果を報知部で報知するので、ユーザーはバッテリの減水を容易に知って保水を行うことができ、便利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
<原理>
一般に、バッテリの減水量、即ちバッテリ内の電解液の減少量は、満充電の状態が維持されている時間(満充電累計時間)との間で所定の相関関係にあると推測される。かかる点に着目し、本発明に係るバッテリ状態管理装置では、バッテリの満充電の状態を検出し、この満充電の状態が維持されている時間(満充電累計時間)を測定するこで、予め求めておいた相関関係により、バッテリの減水量を推定する。
【0017】
<構成>
図1は本発明の一の実施の形態に係るバッテリ状態管理装置を示すブロック図である。このバッテリ状態管理装置は、図1の如く、電流検出部11、電圧検出部13及び検知処理部(判定手段)15、報知部17を備えて構成されており、車両に搭載されたバッテリ21の状態を管理するものである。
【0018】
電流検出部11は、負荷(図示省略)に対する電源経路22においてバッテリ21から出力される電流を検出する電流センサであり、例えばシャント抵抗が使用される。電圧検出部13は、バッテリ21の電源経路22に対する出力電圧を検出する電圧センサである。検知処理部15は、ROM、RAM及びCPU等を備えて構成されたコンピューティング装置の機能を有した電子制御ユニットであり、バッテリ21の管理のために各種の情報処理動作(制御動作も含む)を行い、内部のROMには、この検知処理部15が行う各種の情報処理動作に必要なソフトウェアプログラム及びデータ等の情報が記憶されている。
【0019】
そして、検知処理部15は、電流検出部11及び電圧検出部13で得られた情報に基づいてバッテリ21内の減水を検出する機能を備える。
【0020】
具体的に、検知処理部15は、電圧検出部13に基づいて実質的にバッテリ21からの放電が行われていない状態での当該バッテリ21の出力電圧の値(以下「開放電圧値」と称す)と実質的にバッテリ21からの放電が行われている状態での当該バッテリ21の出力電圧の値(以下「放電時電圧値」と称す)とを検知する第1の機能と、この開放電圧値及び放電時電圧値に基づいてバッテリ21が満充電か否かを判断する第2の機能と、バッテリ21が満充電である状態が維持されている累積的な時間(以下「満充電累計時間」)を計測する第3の機能と、その満充電累計時間に基づいてバッテリ21の減水量を推定する第4の機能とを有する。
【0021】
検知処理部15の第1の機能は、車両のエンジン始動前、即ち、スタータ(図示省略)の駆動前の時点で、電圧検出部13を介して開放電圧値を検知するとともに、スタータの駆動後に種々の負荷に放電が行われている状態での放電時電圧値を電圧検出部13を介して検出する。
【0022】
そして、検知処理部15の第2の機能により、開放電圧値及び放電時電圧値に基づいてバッテリ21が満充電か否かを判断する。
【0023】
ここで、図2は、バッテリ21の劣化度に応じて、開放電圧値と放電時電圧値とが変化する様子を示した図であり、その横軸は各放電試験におけるエンジン始動時放電開始前のバッテリ21の開放電圧値に対応し、縦軸は各放電試験におけるエンジン始動時放電中のバッテリ21の放電時電圧値に対応している。また、図2中の曲線G1は新品のバッテリ21についての測定結果に基づいて描いたものであり、曲線G2〜G4は使用されてある程度劣化したバッテリ21についての測定結果に基づいて描いたものである。曲線G1〜G4は互いに劣化状況が異なったバッテリ21に対する試験の結果得られたものであって、通常の使用状態に近い態様で充放電が繰り替えされたバッテリ21に対応し、各曲線G2,G3,G4の順にバッテリ21の使用期間が長くなり劣化が進んでいる。
【0024】
この図2のように、バッテリ21の開放電圧値及び放電時電圧値の関係は、そのバッテリ21の劣化度によって大きく異なる。しかしながら、バッテリ21が満充電または満充電に近い状態(図2中の符号F)では、バッテリ21の劣化度に拘わらず、開放電圧値及び放電時電圧値のいずれも比較的ばらつきのない近似した値を示す。したがって、開放電圧値及び放電時電圧値のいずれを使用しても、バッテリ21が満充電であるか否かについての判断を行うことが可能である。具体的には、開放電圧値及び放電時電圧値のそれぞれについて、所定の電圧閾値を予め用意しておき、その電圧閾値に対して検出された開放電圧値及び放電時電圧値のそれぞれを比較判断することで、バッテリ21が満充電であるか否かを容易に判断することができる。
【0025】
また、検知処理部15の第3の機能は、一定時間(例えば1〜数秒)毎に繰り返しバッテリ21が満充電であるか否かを判断するとともに、一定時間(例えば1〜数秒)毎に電流検出部11を介してバッテリ21に対する充放電に係る電流を検知し、バッテリ21に対する電流の入出力を検出することで、バッテリ21の満充電が継続しているか否か、また過充電であるか否かを判断する。そして、バッテリ21の満充電が継続していたり過充電が継続して行われていたりすることを判断した場合には、その累積的な時間である満充電累計時間を更新的に記録する。かかる満充電累計時間は、例えば、検知処理部15内のRAM等に記録される。
【0026】
検知処理部15の第4の機能は、例えば図3に示すように、満充電累計時間とバッテリ21内の減水量との相関関係を意味するテーブルデータまたは関数式を予め保有しておき、第3の機能で得られた満充電累計時間を、その相関関係に当てはめて、バッテリ21の減水量を導出する。ここで、図3では、満充電累計時間と減水量とが一次式の相関関係を有するものとして描かれているが、これは一例であり、曲線であってもよい。かかる相関関係は、実験等により予め求められて、例えば、検知処理部15内のROM等内に格納しておく。尚、かかる相関関係は、所定の方法を用いてバッテリ21の劣化度や温度等を測定し、その劣化度や温度等によって補正を行っても良い。そして、この第4の機能は、バッテリ21内の減水量が、所定の基準量に至った時点で、その旨の信号を報知部17に出力する。
【0027】
報知部17は、例えばインストルメント・パネルの所定の位置に形成された所定の警告報知装置(例えば表示パネルでの表示、音声出力、または警告ランプの点灯、等)であり、検知処理部15からの信号に基づいて、バッテリ21の減水量の警告報知を行うものである。
【0028】
<動作>
上記構成のバッテリ状態管理装置の動作を説明する。
【0029】
まず検知処理部15は、車両のエンジン始動前、即ち、スタータ(図示省略)の駆動前の時点で、電圧検出部13を介して開放電圧値を検知する。また、スタータの駆動後には、種々の負荷に放電が行われている状態で、バッテリ21の放電時電圧値を電圧検出部13を介して検出する。
【0030】
次に、検知処理部15は、開放電圧値及び放電時電圧値のそれぞれについて、所定の電圧閾値との比較を行い、バッテリ21が満充電であるか(開放電圧値及び放電時電圧値がそれぞれ所定の電圧閾値より大きいか)否かを判断する。
【0031】
そして、検知処理部15は、一定時間(例えば1〜数秒)毎に繰り返しバッテリ21が満充電であるか否かを判断するとともに、一定時間(例えば1〜数秒)毎に電流検出部11を介してバッテリ21に対する充放電に係る電流を検知し、バッテリ21に対する電流の入出力を検出することで、バッテリ21の満充電が継続しているか否かを判断する。例えば、バッテリ21が満充電または満充電に近い状態で、さらにバッテリ21に対する電流の流入が行われている場合等に、バッテリ21の満充電の維持またはバッテリ21の過充電を判断し、その累積的な時間(満充電累計時間)を更新的に記録する。かかる満充電累計時間は、例えば、検知処理部15内のRAM等に記録される。
【0032】
さらに検知処理部15は、当該検知処理部15内のRAM等に累積的に記録された満充電累計時間に対して、同じく検知処理部15内のROM等に記憶された満充電累計時間とバッテリ21内の減水量との相関関係(例えば図3)を参照することで、バッテリ21の減水量を導出する。
【0033】
そして、バッテリ21内の減水量が、所定の基準量に至った時点で、報知部17により警告報知(例えば表示パネルでの表示、音声出力、または警告ランプの点灯、等)を行う。ユーザーは、その警告に基づいて速やかにバッテリ21の電解液の保水を行うことができる。
【0034】
以上のように、バッテリ21内の減水を、満充電累計時間により容易に得ることができるので、例えばバッテリ21内に液量検出センサー等の専用の部品を用いなくても、バッテリ21の減水に伴う劣化や容量の減少を未然に防止することができ便利である。
【0035】
尚、上記実施の形態において説明したバッテリ21の満充電か否かの判断は一例であり、どのような方法を用いてバッテリ21が満充電か否かを判断してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一の実施の形態に係るバッテリ状態管理装置を示すブロック図である。
【図2】バッテリの開放電圧値と放電時電圧値の関係を示す図である。
【図3】本発明の一の実施の形態に係るバッテリ状態管理装置で使用される満充電累計時間とバッテリの減水量の相関関係を示す図である。
【図4】従来の自動車内の電源系統を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0037】
11 電流検出部
13 電圧検出部
15 検知処理部
17 報知部
21 バッテリ
22 電源経路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車のバッテリの状態を管理するバッテリ状態管理装置であって、
バッテリの満充電状態の累計時間と前記バッテリ内の減水量との相関関係の情報を予め保有し、前記バッテリの満充電の状態についての経時的な累計時間を検知して、前記相関関係に基づいて前記バッテリの減水量を導出することを特徴とするバッテリ状態管理装置。
【請求項2】
請求項1に記載のバッテリ状態管理装置であって、
バッテリの満充電状態の累計時間と前記バッテリ内の減水量との相関関係の情報を予め保有し、前記バッテリの満充電の状態についての経時的な累計時間を検知して、前記相関関係に基づいて前記バッテリの減水量を導出する判定手段と、
前記判定手段での前記減水量の導出結果を報知する報知部と
を備えるバッテリ状態管理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−170789(P2006−170789A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−363417(P2004−363417)
【出願日】平成16年12月15日(2004.12.15)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】