説明

バランスウエイトの鍛造金型、バランスウエイトの製造方法およびその製造装置

【課題】バランスウエイトを効率的に製造できる鍛造金型を提供する。
【解決手段】バランスウエイト2の外周面側を成形する長溝状の周型部11aを有するダイス11と、周型部の上方開口から嵌挿されバランスウエイトの上面側を成形する上型部121aを有するアッパーパンチ12と、周型部の下方開口から嵌挿されバランスウエイトの下面側を成形する下型部13aを有するロアパンチ13とからなり、周型部に収納されたバランスウエイトとなる棒状素材Wを、棒状素材の長手方向に垂直な方向から、周型部に嵌入された上型部および下型部により加圧して鍛造成形し得ることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転アンバランスを解消するために車両用ホイールに装着されるバランスウエイトを効率的に得ることができる鍛造金型とそれを用いた製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や二輪車の車輪のように高速回転する回転体に、振動原因となるアンバランスを解消するためにバランスウエイトが取り付けられる。このバランスウエイトには、両面粘着テープなどによりホイールのリム内周面に貼着される貼着式やクリップまたはフックなどの係止金具によりホイールのリム外周縁に係止される係止式などがある。いずれの場合でも、従来は鉛製のバランスウエイトが多用されていたが、最近では環境負荷の小さい金属(鉄製等)製のバランスウエイトが多用され傾向にある。これに伴いバランスウエイトの製造方法も変化しつつある。例えば係止式バランスウエイトの場合、従来なら鉛中に係止金具を鋳込んで製造されていたが、最近では鉄鋼材などを鍛造成形したものに係止金具をかしめ固定して製造されることが多くなった。このような鉄製バランスウエイトの製造方法に関する記載が、例えば、下記の特許文献1にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−164051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、次のようにして鉄製バランスウエイトを製造している。先ず、鉄系線材を所望重量に適した長さに切断する。次に、こうして得られた鉄系素材をホイールのリム形状に適応させるために曲げる。この曲げた鉄系素材を上型と下型の間に入れ、両方の金型で鉄系素材を挟み込むようにして冷間鍛造を行う。そしてその冷間鍛造時に、上型と下型の合せ面にできたバリを別の金型を用いて除去する。その後さらに、バランスウエイトの重量表示の刻印を別の金型を用いて行う。
【0005】
このように鍛造によりバランスウエイトを製造する場合、これまで多くの工程が必要とされ、しかも各工程ごとに異なる金型、装置、工具などが使用されてきた。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みて為されたものであり、鍛造成形されるバランスウエイトをより効率的に製造できる鍛造金型を提供することを目的とする。また、その鍛造金型を用いたバランスウエイトの製造方法および製造装置も併せて提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究し試行錯誤を重ねた結果、長溝状の周型部を有するダイスと、そのダイスに嵌合するパンチとからなる鍛造金型を用いて、棒状素材を鍛造することにより、所望形状のバランスウエイトを効率的に成形し得ることに成功した。本発明者はこの成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成させるに至った。
《バランスウエイトの鍛造金型》
【0008】
(1)本発明のバランスウエイトの鍛造金型は、バランスウエイトの外周面側を成形する長溝状の周型部を有するダイスと、該周型部の上方開口から嵌挿され該バランスウエイトの上面側を成形する上型部を有するアッパーパンチと、該周型部の下方開口から嵌挿され該バランスウエイトの下面側を成形する下型部を有するロアパンチとからなり、該周型部に収納され該バランスウエイトとなる棒状素材を、該棒状素材の長手方向に垂直な方向から加圧して、前記周型部、前記上型部および/または前記下型部により鍛造成形し得ることを特徴とする。
【0009】
(2)本発明の鍛造金型を用いて棒状素材をその長手方向に垂直な方向から鍛造すると、棒状素材が最終製品に近い所望形状にまで一気に成形され、いわゆるニアネットシェイプ成形が可能となる。これにより従来行われていた多数の工程を削減できる。例えば、成形キャビティの形状を工夫することにより、従来必要とされていた鍛造前の素材の曲げ工程や鍛造後のバリ取り工程等を省略しても、所望形状のバランスウエイトを一度の鍛造工程で得ることができる。このように本発明の鍛造金型を用いると、バランスウエイトを非常に効率的に製造できるようになる。
【0010】
《バランスウエイトの製造方法および製造装置》
本発明は、上述した鍛造金型としてのみならず、その鍛造金型を用いたバランスウエイトの製造方法および製造装置としても把握し得る。
(1)すなわち本発明は、上述した鍛造金型を用いたバランスウエイトの製造方法であって、前記ダイスの周型部に前記棒状素材を投入する投入工程と、該棒状素材を前記アッパーパンチおよび前記ロアパンチで加圧成形してバランスウエイトとする成形工程と、該成形工程後のバランスウエイトを該ロアパンチを上昇させて取り出す取出工程と、を備えることを特徴とするバランスウエイトの製造方法であってもよい。
【0011】
(2)また本発明は、上述した鍛造金型と、前記アッパーパンチおよび/または前記ロアパンチを駆動する駆動源と、を備えることを特徴とするバランスウエイトの製造装置であってもよい。
なおここでいう「駆動源」は、例えば、ダイスに対してアッパーパンチやロアパンチを相対的に上昇または下降させ、また、アッパーパンチまたはロアパンチに加圧力を印可する加圧手段、より具体的には油圧アクチュエータである。
【0012】
《その他》
(1)本明細書でいう棒状素材やバランスウエイトは、その材質を問わない。それらが純鉄や鉄鋼等の鉄系材料からなると環境負荷やコスト等の点で好ましい。
【0013】
(2)本明細書でいう「バランスウエイト」は係止式に限らず貼着式等でもよい。もっとも、従来多くの工程を必要としていた係止式バランスウエイトの製造を大幅に効率化できる点で、本発明は係止式バランスウエイトの製造に好適である。
なお、本明細書でいう「バランスウエイト」は、基本的にウエイト本体(錘)を意味する。ただし、適宜、そのウエイト本体に付けられる係止金具(クリップやフック等)や貼着材(両面粘着テープ等)を含めて(ホイール)バランスウエイトともいう。
【0014】
(3)本明細書でいう「上」、「下」、「アッパー」または「ロア」等は便宜的な記載であり、それらは必ずしも鉛直方向に沿った上下方向である必要はない。
【0015】
(4)アッパーパンチの上型部やロアパンチの下型部は、バランスウエイトの上面側や下面側の所望形状に応じた形状をしていればよい。そうである限り、上型部や下型部は、平坦状でも凹凸状でもよい。さらにいうと、アッパーパンチまたはロアパンチは、少なくとも一方が鍛造後のバランスウエイトをノックアウト可能であればよい。従って、それら両方が鍛造時にバランスウエイトの成形に必ずしも直接関与していなくてもよい。
【0016】
さらにアッパーパンチまたはロアパンチは、一体型である必要はなく、少なくとも2以上に分割された分割型でもよい。バランスウエイトの上面側または下面側の形状に応じた適切な型割により、アッパーパンチまたはロアパンチの割れを防止でき、またそれらの製作が容易となる。
【0017】
(5)本明細書でいう「冷間鍛造」は棒状素材の再結晶温度未満で行う鍛造をいうが、室温域で鍛造すれば、より効率的にバランスウエイトを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一形態である鍛造金型の要部を示す縦断面図である。
【図2】その鍛造金型の要部を示す横断面の部分斜視図である。
【図3】鍛造前の棒状素材の斜視図と、その鍛造金型により鍛造されたバランスウエイトの断面図である。
【図4A】バランスウエイトに係止金具を組み付けたホイールバランスウエイトの断面図である。
【図4B】そのホイールバランスウエイトの正面図である。
【符号の説明】
【0019】
1 鍛造金型
2 バランスウエイト
11 ダイス
12 アッパーパンチ
13 ロアパンチ
W 棒状素材
H ホイールバランスウエイト
【発明を実施するための形態】
【0020】
実施形態を挙げて本発明をより詳しく説明する。以下の実施形態を含め、本明細書で説明する内容は、本発明に係るバランスウエイトの鍛造金型のみならず、バランスウエイトの製造方法や製造装置にも適宜適用される。上述した本発明の構成に、以降から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成を付加することができる。いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
【0021】
《概要》
本発明に係る一実施形態である鍛造金型1を図1および図2に示した。この鍛造金型1を用いることにより、図3に示す棒状素材W(SS400、S10C等の鉄鋼材)から、同図に示すバランスウエイト2が一度の冷間鍛造で得られる。バランスウエイト2のウエイト本体(錘)としての成形は、この冷間鍛造により完了する。後は、車両用ホイールのリム外周縁(図略)に係止される係止金具であるクリップ3(SK7、S60CM等の鉄鋼材)をバランスウエイト2へ固定すれば、図4Aおよび図4Bに示すような最終製品であるホイールバランスウエイトHが得られる。以下、鍛造金型1とホイールバランスウエイトHの製造工程とについて詳述する。
【0022】
《鍛造金型》
鍛造金型1は、ダイス11と、アッパーパンチ12と、ロアパンチ13と、補強リング14と、ダイス11を支えるベース15とを備える。
【0023】
ダイス11は円柱状の金型であり、その上面側(上下は図に基づく)に周型部11aを有する。周型部11aは長溝状をしている。周型部11aの上方は広く開口しており、その中央は所望するバランスウエイト2の外郭(外周輪郭)に応じた形状をしており、その下方は小さな開口している。そして周型部11aは、上方から下方にかけて滑らかな曲面で構成されており、左右方向には車両用ホイールのリム外周縁に沿う緩やかな弓形状となっている。この周型部11aが成形キャビティの外周面を構成する。その結果、長手方向に湾曲したバランスウエイト2の外郭面が自ずと成形されて、鍛造前の棒状素材Wの曲げ工程が不要となる。またその外郭面にはバリなどが生じないので、鍛造後のバリ取り工程等も不要となる。
【0024】
アッパーパンチ12は、センターパンチ121、その左右にあるサイドパンチ122、123の3つの金型(分割型)からなる。このアッパーパンチ12はダイス11の周型部11aの上方開口から嵌挿される。周型部11aに嵌入されたアッパーパンチ12の下面12aが、前述した成形キャビティの一部である上蓋面となり、これが本発明でいう上型部に相当する。
【0025】
なお、アッパーパンチ12の下面12aは、センターパンチ121の下面121aおよびサイドパンチ122、123の下面122a、123aからなり、それらは図3に示すバランスウエイト2の上面側形状の成形に適した凹凸状をしている。これら凹凸状の部分が本発明でいう成形部に相当する。
【0026】
ロアパンチ13は、ダイス11の周型部11aの下方開口から嵌挿される。周型部11aに嵌入されたロアパンチ13の上面13aにより、前述した成形キャビティの一部である底面が構成され、これが本発明でいう下型部に相当する。ロアパンチ13の下面13aは、図3に示すバランスウエイト2の下面側形状の成形に適した形状をしている。もっともロアパンチ13は、棒状素材Wの鍛造後に得られたバランスウエイト2をノックアウトするだけでもよい。この場合、ロアパンチ13の下面13aは、必ずしも、バランスウエイト2の下面側形状に適合したものでなくてもよい。但し、バランスウエイト2の下面にその重量等を示す刻印(バランスウエイトの特徴を示す記号)を付す場合、ロアパンチ13の下面13aをその刻印に適合した凹凸状(刻印部、成形部)としてもよい。
【0027】
補強リング14は、筒状の補強型であり、その内部にダイス11が圧入される。補強リング14に圧入されたダイス11の外周側には圧縮応力が作用した状態となる。この圧縮応力が、鍛造時にその外周側に生じる引張応力を軽減し、ダイス11の割れや周型部11aの寸法精度の低下を抑制する。
【0028】
《バランスウエイト》
バランスウエイト2は次のようにして得られる。先ず、鉄鋼線材を所定長さに切断して、所望重量の棒状素材Wを得る。これを上述した鍛造金型1の周型部11aへ入れる(投入工程)。ロアパンチ13の上面13aと周型部11aの底面とを面一状態とし、その状態のまま駆動源である油圧アクチュエータ(図略)を作動させてアッパーパンチ12を下降させ、棒状素材Wをその長手方向に対して垂直な方向から加圧する(成形工程)。この後、別の油圧アクチュエータ(図略)を作動させてロアパンチ13を上昇させ、鍛造成形されたバランスウエイト2を取り出す(取出工程)。こうして図3に示すように、棒状素材Wかバランスウエイト2が得られる。
ところでバランスウエイト2は、車両用ホイールのリム外周縁形状に応じた緩やかな弓形状をしている。その上面側には、中央に成形された固定溝24と、固定溝24の中央底部から隆起した突起21と、固定溝24の左右端から隆起した爪22、23とが成形されている。なお、爪22、23は本発明でいう突起の一つでもある。
【0029】
《ホイールバランスウエイト》
ホイールバランスウエイトHは、バランスウエイト2にクリップ3をかしめ固定してなる。クリップ3は、バランスウエイト2の固定溝24にかしめ固定される固定部31と、車両用ホイールのリム外周縁に係止されるU字状の係止部32とからなる。固定部31の中央には貫通孔311が形成されている。このクリップ3の貫通孔311をバランスウエイト2の突起21へ嵌挿しつつ、クリップ3の固定部31をバランスウエイト2の固定溝24に配置する。この状態でバランスウエイト2の突起21をかしめ、さらに爪22、23を突起21側へ折り曲げるようにかしめる。こうしてクリップ3は、かしめ部21’、22’、23’によりバランスウエイト2へ固定された状態となり、ホイールバランスウエイトHが完成する。なお、ホイールバランスウエイトHの防錆や意匠性を向上させるために、その外表面に塗装やメッキ等が適宜なされる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バランスウエイトの外周面側を成形する長溝状の周型部を有するダイスと、
該周型部の上方開口から嵌挿され該バランスウエイトの上面側を成形する上型部を有するアッパーパンチと、
該周型部の下方開口から嵌挿され該バランスウエイトの下面側を成形する下型部を有するロアパンチとからなり、
該周型部に収納され該バランスウエイトとなる棒状素材を、該棒状素材の長手方向に垂直な方向から加圧して、前記周型部、前記上型部および/または前記下型部により鍛造成形し得ることを特徴とするバランスウエイトの鍛造金型。
【請求項2】
前記アッパーパンチおよび/または前記ロアパンチは、少なくとも2以上に分割された分割型からなる請求項1に記載のバランスウエイトの鍛造金型。
【請求項3】
さらに、前記ダイスが圧入され該ダイスを補強する補強型を備える請求項1または2に記載のバランスウエイトの鍛造金型。
【請求項4】
前記上型部または前記下型部は、車両用ホイールのリム外周縁に係止されるクリップをかしめ固定するための突起を成形する成形部を有する請求項1または3に記載のバランスウエイトの鍛造金型。
【請求項5】
前記上型部または前記下型部は、前記バランスウエイトの特徴を示す記号を刻印部を有する請求項1または4に記載のバランスウエイトの鍛造金型。
【請求項6】
請求項1に記載の鍛造金型を用いたバランスウエイトの製造方法であって、
前記ダイスの周型部に前記棒状素材を投入する投入工程と、
該棒状素材を前記アッパーパンチおよび前記ロアパンチで加圧成形してバランスウエイトとする成形工程と、
該成形工程後のバランスウエイトを該ロアパンチを上昇させて取り出す取出工程と、
を備えることを特徴とするバランスウエイトの製造方法。
【請求項7】
請求項1に記載の鍛造金型と、
前記アッパーパンチおよび/または前記ロアパンチを駆動する駆動源と、
を備えることを特徴とするバランスウエイトの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【公開番号】特開2012−76112(P2012−76112A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−223476(P2010−223476)
【出願日】平成22年10月1日(2010.10.1)
【出願人】(309022822)東豊工業株式会社 (6)
【Fターム(参考)】