説明

バリア性積層フィルム及びその製造方法

【課題】 ガスバリア性及び耐熱水性に優れており、ボイル処理及びレトルト処理後にも優れたガスバリア性を保持する積層フィルムを提供する。
【解決手段】 熱可塑性樹脂の基材フィルムの少なくとも片面に無機薄膜層を介して複合ポリマー層を有し、前記複合ポリマー層が、アルコキシシラン又はその加水分解物と、ポリビニルアルコール及び/又はエチレン−ビニルアルコールコポリマーとを含有する塗工組成物を重縮合してなることを特徴とするバリア性積層フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れたガスバリア性を有する積層フィルムに関し、特にボイル処理及びレトルト処理後にも優れたガスバリア性を保持するとともに、耐熱水性にも優れた積層フィルム、並びにかかる積層フィルムの製造方法及びそれを用いた成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂フィルム、特にポリエステルフィルムは、機械的強度、耐薬品性及び透明性に優れ、さらに安価なこと等から広く用いられている。例えば、写真用ベースフィルム、磁気テープ用ベースフィルム、製図用フィルム、コンデンサ等の電気機器用フィルム、メンブレンスイッチ、タッチパネル、キーボード、ラベル等の工業用材料等に用いられている。さらに食品包装材としても用いられている。また液晶や有機EL等のディスプレイの軽量化・薄膜化・フレキシブル化が進むにつれて、従来のガラス基材に代えてフィルム(プラスチック)基材を用いることが必要になる。これらの用途に用いるためには、フィルムのガスバリア性が優れている必要があり、特に電子部品にフィルムを使用するためには、ガラス基材と同程度のガスバリア性が要求される。
【0003】
しかしながら、一般にポリエステルフィルムは、(食品包装材に用いるには)ガスバリア性が不十分である。そのため、ポリエステルフィルムの表面に無機蒸着膜(シリカ蒸着膜等)を形成することにより、ガスバリア性を向上させることが従来から行われている。例えば、ポリエステルフィルムとして汎用されているポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上にシリカ蒸着膜がない場合とある場合のPETフィルムの酸素及び水蒸気の透過性は、表1に示す通りである。
【0004】
【表1】

注:(1) フィルムの厚さは12μmであり、1気圧で24時間中にフィルムを透過した酸素ガスの量である。
(2) フィルムの厚さは12μmであり、40℃、相対湿度(RH)90%で24時間中にフィルムを透過した水蒸気の量である。
【0005】
表1から明らかなように、PETフィルムは酸素ガス及び水蒸気をよく透過し、バリア性が低いが、シリカ蒸着膜を用いることによりバリア性が著しく向上する。しかしながら、無機蒸着膜はPETフィルムとの密着性が悪いため、蒸着層にピンホールが生じやすく、物理的圧力により剥離や、ボイルやレトルトによる劣化が起こりやすく、また比較的柔軟性に欠ける等の欠点がある。このような無機蒸着フィルムの欠点を補うために、SiO2粒子と水性エマルジョンのコーティングにより蒸着層の表面に保護層を形成した積層フィルムが開示されている[特開平12-71396号(特許文献1)]。しかしながら、保護層の効果はバリア性低下を抑制するに留まり、それによりバリア性が向上することはなかった。
【0006】
【特許文献1】特開平12-71396号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って本発明の目的は、ガスバリア性及び耐熱水性に優れており、ボイル処理及びレトルト処理後にも優れたガスバリア性を保持する積層フィルムを提供することである。
本発明のもう1つの目的は、かかるバリア性積層フィルムの製造方法を提供することである。
本発明のさらにもう1つの目的は、かかるバリア性積層フィルムからなる成形体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者らは、熱可塑性樹脂の基材フィルムの少なくとも片面に無機薄膜層を形成した後、アルコキシシラン又はその加水分解物と、ポリビニルアルコール及び/又はエチレン−ビニルアルコールコポリマーとを含有する塗工液を塗布し、熱処理することにより、無機薄膜層の表面に強固に密着した複合ポリマー層が形成され、もってガスバリア性及び耐熱水性に優れた積層フィルムが得られることを発見し、本発明に想到した。
【0009】
すなわち、本発明は具体的に以下の手段により達成することができる。
(1) 熱可塑性樹脂の基材フィルムの少なくとも片面に無機薄膜層を介して複合ポリマー層を有し、前記複合ポリマー層が、アルコキシシラン又はその加水分解物と、ポリビニルアルコール及び/又はエチレン−ビニルアルコールコポリマーとを含有する塗工組成物を重縮合してなることを特徴とするバリア性積層フィルム。
(2) 上記(1) に記載のバリア性積層フィルムにおいて、前記塗工組成物にさらにシランカップリング剤が含まれていることを特徴とするバリア性積層フィルム。
(3) 上記(1) 又は(2) に記載のバリア性積層フィルムにおいて、前記無機薄膜層が無機蒸着膜及び/又はゾル−ゲル法による緻密な無機コーティング膜及び/又はLPD法(液相析出法;Liquid-Phase-Deposition)による緻密な無機コーティング膜であることを特徴とするバリア性積層フィルム。
(4) 上記(1) 〜(3) のいずれかに記載のバリア性積層フィルムにおいて、前記複合ポリマー層は、アルコキシシラン及び/又はシランカップリング剤又はその加水分解物からなるポリシロキサンにポリビニルアルコール及び/又はエチレン−ビニルアルコールコポリマーが脱水結合した構造を有することを特徴とするバリア性積層フィルム。
(5) 上記(1) 〜(4) のいずれかに記載のバリア性積層フィルムにおいて、前記塗工組成物がさらにアルコキシシラン以外の金属アルコキシド又はその加水分解物を1種以上含有することを特徴とするバリア性積層フィルム。
(6) (a) 熱可塑性樹脂の基材フィルムの少なくとも片面に無機薄膜層を形成し、(b) アルコキシシラン及び/又はシランカップリング剤又はその加水分解物と、ポリビニルアルコール及び/又はエチレン−ビニルアルコールコポリマーとを含有する塗工液(少なくとも部分的に重縮合している)を前記無機薄膜層に塗布し、(c) 80〜150℃でかつ前記熱可塑性樹脂の融点未満の温度に加熱することにより、前記無機薄膜層の表面に結合した複合ポリマー層を形成することを特徴とするバリア性積層フィルムの製造方法。
(7) 上記(6) に記載のバリア性積層フィルムの製造方法において、前記無機薄膜層が無機蒸着膜及び/又はゾル−ゲル法による緻密な無機コーティング膜及び/又はLPD法による緻密な無機コーティング膜からなる群から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする方法。
(8) 上記(6) 又は(7) に記載のバリア性積層フィルムの製造方法において、前記塗工液がさらにアルコキシシラン以外の金属アルコキシド又はその加水分解物を含有することを特徴とする方法。
(9) 上記(1) 〜(5) のいずれかに記載のバリア性積層フィルムからなる成形体。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、ガスバリア性及び耐熱水性に優れ、特にボイル処理及びレトルト処理後にも優れたガスバリア性を保持する積層フィルム、及びかかる積層フィルムからなる成形体が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
[1] バリア性積層フィルム
(1) 基材フィルム
基材フィルムに用いる熱可塑性樹脂は特に限定されないが、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミド等、又はこれらの二種以上を溶融混合したものが好ましい。中でもポリエステルは十分な耐熱性及び機械的強度を有するため好適であり、ポリエチレンテレフタレート(PET)が特に好適である。基材フィルムは未延伸フィルムでも、一軸又は二軸延伸フィルムでもよい。また基材フィルムを二枚以上積層したものを用いてもよい。
【0012】
(2) 無機薄膜層
基材フィルムに形成する無機薄膜層は、シリカ、ジルコニア、アルミナ等からなるのが好ましい。無機薄膜層の厚さは0.001〜10μmであるのが好ましく、0.01〜1μmであるのが特に好ましい。また複数の無機薄膜層を積層することにより、さらなるガスバリア性の向上が可能である。
【0013】
(3) 複合ポリマー層
(i) 塗工組成物
複合ポリマー層の形成に用いる塗工組成物は、アルコキシシラン又はその加水分解物、及びポリビニルアルコール及び/又はエチレン−ビニルアルコールコポリマーを必須成分とし、任意成分としてシランカップリング剤、アルコキシシラン以外の金属アルコキシド等を含有する。
【0014】
(a) アルコキシシラン及び他の金属アルコキシド
アルコキシシランは、Si(OR1)4(ただしR1は炭素数1〜6の低級アルキル基である。)で表されるものが好ましい。具体的には、Si(OCH3)4 、Si(OC2H5)4が挙げられる。必要に応じて、アルコキシシランとともに、珪素以外の金属(ジルコニウム、チタン等)のアルコキシドを添加してもよい。
【0015】
ジルコニウムアルコキシドは、Zr(OR2)4(ただしR2は炭素数1〜6の低級アルキル基である。)で表されるものが好ましい。具体的には、Zr(OCH3)4 、Zr(OC2H5)4、Zr(O-iso-C3H7)4 、Zr(OC4H9)4が挙げられる。これらのジルコニウムアルコキシドを二種以上混合してもよい。ジルコニウムアルコキシドを塗工組成物に添加することにより、得られる複合ポリマー層の緻密度、及び積層フィルムの靭性、耐熱性等が向上し、延伸した積層フィルムの耐レトルト性等の低下が防げられる。
【0016】
ジルコニウムアルコキシドの含有量は、アルコキシシラン100重量部に対して10重量部以下の範囲が好ましく、1〜7重量部がより好ましく、5重量部が特に好ましい。10重量部超とすると、複合ポリマーがゲル化しやすくなり、脆性が大きくなるため、複合ポリマー層が無機薄膜層から剥離しやすくなる。
【0017】
チタンアルコキシドは、Ti(OR3)4(ただしR3は炭素数1〜6の低級アルキル基である。)で表されるものが好ましい。具体的には、Ti(OCH3)4 、Ti(OC2H5)4、Ti(OC3H7)4、Ti(OC4H9)4が挙げられる。これらのチタンアルコキシドを二種以上混合してもよい。チタンアルコキシドを塗工組成物に添加することにより、得られる複合ポリマー層の熱伝導率が低くなり、積層フィルムの耐熱性が著しく向上する。
【0018】
チタンアルコキシドの含有量は、アルコキシシラン100重量部に対して5重量部以下の範囲が好ましく、0.1〜4重量部がより好ましく、3重量部が特に好ましい。チタンアルコキシドが5重量部超とすると、形成される複合ポリマー層の脆性が大きすぎ、複合ポリマー層が無機薄膜層から剥離しやすくなる。
【0019】
(b) ポリビニルアルコール
ポリビニルアルコールは高結晶性を持つポリマーであり、分子間の隙間が小さく、ガスとの親和性が小さいためガスバリア性が良い。ガスに対する吸着性、拡散性及び脱着性の作用の大きい極性基を有しており、その分子構造は対称性を有しているため、良好なガスバリア性を有する。
【0020】
ポリビニルアルコールの含有量はアルコキシシラン(他の金属アルコキシドも含有する場合には、アルコキシシラン+他の金属アルコキシドの固形分)100重量部に対して10〜200重量部であるのが好ましく、33重量部であるのが特に好ましい。ポリビニルアルコールが200重量部超とすると、形成される複合ポリマー層の脆性が大きすぎ、また耐水性が低すぎる。10重量部未満であると十分なガスバリア性能が得られない。
【0021】
(c) エチレン−ビニルアルコールコポリマー
エチレン−ビニルアルコールコポリマーはエチレンとビニルアルコールとのランダムコポリマーであり、エチレン/ビニルアルコールのモル比率は20/80〜50/50であるのが好ましい。エチレン−ビニルアルコールコポリマーの添加により、複合ポリマー層のガスバリア性、耐水性、耐侯性、耐熱水性及び熱水処理(ボイル・レトルト処理)後のガスバリア性が向上する。
【0022】
複合ポリマー中におけるエチレン−ビニルアルコールコポリマーの含有量は、アルコキシシラン(他の金属アルコキシドも含有する場合には、アルコキシシラン+他の金属アルコキシドの固形分)100重量部に対して、1〜100重量部であるのが好ましく、5〜25重量部であるのがより好ましい。エチレン−ビニルアルコールコポリマーが100重量部超とすると、形成される複合ポリマーの脆性が大きくなり、積層フィルムは十分なガスバリア性が得られない。
【0023】
(d) シランカップリング剤
シランカップリング剤は、一分子中に有機官能基と加水分解基を有し、無機物と有機樹脂との接着性を向上させ、それにより複合ポリマー層のガスバリア性、耐熱水性を高めることができる。シランカップリング剤は組成式:(Y)nSiX4-n(式中、Xは加水分解性基を表し、Yは有機官能基を表す。nは0〜3の整数である。)で表される。特にエポキシ基を有するオルガノアルコキシシラン、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等が好ましい。このようなシランカップリング剤は2種以上を混合して用いてもよい。シランカップリング剤の使用量は、アルコキシシラン(他の金属アルコキシドを含有する場合には、アルコキシシラン+他の金属アルコキシド)100重量部に対して1〜20重量部であるのが好ましい。20重量部超のシランカップリング剤を使用すると、形成される複合ポリマーの剛性と脆性が大きくなり、複合ポリマー層の絶縁性及び加工性が低下する。
【0024】
(ii) 厚さ及び特性
複合ポリマー層の中の珪素原子は無機薄膜層中の金属原子と酸素を介して結合しているため、接着強度は十分に大きい。このような複合ポリマー層の厚さは0.1〜10μm程度、特に0.2〜5μm程度であるのが好ましい。複合ポリマー層は単層でも良いが、複合ポリマー層の厚さが大きすぎると乾燥時又は加熱時に無機薄膜層から剥離するおそれがあるため、膜厚を大きくしたい場合には、複数の複合ポリマー層を積層するのが好ましい。
【0025】
[2] バリア性積層フィルムの製造方法
(1) 無機薄膜層の形成
基材フィルム上に蒸着法(真空蒸着法、スパッタリング法等)、ゾル−ゲル法及びLPD法(液相析出法;Liquid Phase Deposition)等により無機薄膜層を形成する。ゾル−ゲル法は、アルコキシシランや他の金属アルコキシドを加水分解・重縮合し、得られた塗工液を基材フィルム又は成形体に塗布する方法である。LPD法は、例えば水溶液中で金属フルオロ錯体の加水分解平衡反応系(配位子置換反応)に、フッ化物イオンと容易に反応してより安定な化合物を生成するホウ酸(フッ化物イオン捕捉剤)を添加することにより、系中の遊離のフッ化物イオンとより安定な錯イオンを形成させ、上記平衡反応系を酸化物析出側ヘシフトさせて、反応水溶液に浸漬した基板上に酸化物薄膜を析出させる方法である。
【0026】
(2) 複合ポリマー層の形成
アルコキシシラン又はその加水分解物、及びポリビニルアルコール及び/又はエチレン−ビニルアルコールコポリマーを必須成分とし、任意成分としてシランカップリング剤、アルコキシシラン以外の金属アルコキシド等を含有する塗工組成物及び触媒を、水及び有機溶媒に溶解することにより塗工液とする。
【0027】
(a) ゾル−ゲル触媒
ゾル−ゲル触媒は酸触媒及びアルカリ触媒のいずれでも良い。酸触媒としては、塩酸、硫酸、硝酸等の鉱酸、及び酢酸、酒石酸等の有機酸が好ましい。酸の使用量は、アルコキシシラン(他の金属アルコキシドも含有する場合には、アルコキシシラン+他の金属アルコキシド)1モル当たり、0.001〜0.05モルであるのが好ましく、0.01モルであるのがより好ましい。
【0028】
アルカリ触媒としては、水に実質的に不溶で有機溶媒に可溶な第三アミンが好ましい。例えば、N,N-ジメチルベンジルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン等があり、特にN,N-ジメチルベンジルアミンが好適である。第三アミンの使用量は、金属アルコキシド(他の金属アルコキシドを含有する場合には、アルコキシシラン+他の金属アルコキシド)100重量部当たり、0.001〜1重量部であるのが好ましく、0.001〜0.1重量部であるのがより好ましく、0.005重量部であるのが特に好ましい。
【0029】
酸触媒とアルカリ触媒は組合せて使用することができる。その場合、まず酸触媒によりアルコキシシランを加水分解させ、次いでアルカリ触媒により重縮合させるのが好ましい。
【0030】
(b) 溶媒
溶媒としては、水と金属アルコキシドが可溶な有機溶媒との混合溶媒が好ましい。水の添加量は、アルコキシシラン(他の金属アルコキシドも含有する場合には、アルコキシシラン+他の金属アルコキシド)1モルに対して0.8〜2モルが好ましく、1.5モルがより好ましい。この範囲内の水の添加量では、金属アルコキシドは実質的に直鎖状で非晶質のポリマーになる。さらに、得られるポリマー分子内に極性基(OH基)が部分的に存在し、分子の凝集エネルギーが高い。水の添加量が2モルを超すと、金属アルコキシドから得られるポリマーが球状粒子となり、さらに球状粒子同士が三次元的に架橋して低密度の多孔性ポリマーとなり、基材フィルムのガスバリア性を改善することができない。水の添加量が0.8モル未満であると、加水分解反応が進行しにくい。
【0031】
金属アルコキシドが可溶な有機溶媒としては、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール等のアルコール類が好ましい。エチレン−ビニルアルコールコポリマーとの相溶性の観点から、n-プロピルアルコール及びイソプロピルアルコールが特に好ましい。有機溶媒の添加量は、アルコキシシラン(他の金属アルコキシドも含有する場合には、アルコキシシラン+他の金属アルコキシド)、ポリビニルアルコール及びエチレン−ビニルアルコールコポリマーの合計100重量部当たり、30〜100重量部であるのが好ましい。
【0032】
(c) 塗布
塗工液を無機薄膜層の表面に塗布する。アルコキシシラン(又はアルコキシシラン及び他の金属アルコキシド)は触媒の作用により加水分解する。生成した加水分解生成物の水酸基からプロトンが奪取されることにより、加水分解生成物同士が脱水重縮合するとともに、加水分解生成物の水酸基とポリビニルアルコール及びエチレン−ビニルアルコールコポリマーの水酸基とも脱水縮合し[式(1) 及び(2) ]、Si-O-Si、Si-O-Zr、Si-O-Ti等の結合からなる無機質部分と、ポリビニルアルコール及びエチレン−ビニルアルコールコポリマーとが結合した三次元網目構造の重縮合物(例えば式(3) に示す直鎖状複合ポリマー)が生成する。これらの反応は常温で進行し、それにより塗工液の粘度は増大する。
【0033】
式(1) は、アルコキシシランの重縮合ポリマーとポリビニルアルコールとが重縮合する反応機構を示す。式(2) は、アルコキシシランの重縮合ポリマーとエチレン・ビニルアルコールコポリマーとが重縮合する反応機構を示す。式(3) は、アルコキシシランの重縮合ポリマーとポリビニルアルコール及びエチレン・ビニルアルコールコポリマーとの直鎖状複合ポリマーを示す。式(1) 〜(3) において、R及びR'は水素原子又はアルキル基を表し、m1、m2及びm3はそれぞれ1以上の整数を表す。
【0034】
【化1】

【0035】
【化2】

【0036】
【化3】

【0037】
得られたフィルムを80〜150℃でかつ基材フィルムの融点未満の温度(例えばPETフィルムの場合には約120℃)で30秒〜10分間加熱すると、重縮合反応が完結し、透明な複合ポリマー層が無機薄膜層に形成されたバリア性積層フィルムが得られる。なお乾燥工程と加熱工程を分けて行っても良いが、通常は上記温度に保持すると、乾燥と同時に重縮合反応が進む。複数の複合ポリマー層を積層させる場合、一層ごとに加熱処理を施すのが好ましい。
【0038】
図1に示すように、基材フィルムに形成された無機薄膜層(シリカ薄膜層を例示)の表面の水酸基と加水分解生成物の水酸基とは脱水縮合し、Si-O-Siの結合を形成するため、基材フィルムに形成されたシリカ蒸着層と複合ポリマー層との接着は強固である。またシリカ蒸着フィルムの欠点であるピンホールや微細な割れ又は剥がれ等があっても、それらに複合ポリマーが充填される。従って、得られた積層フィルムのガスバリア性は非常に高い。さらに複合ポリマーは柔軟性を有するため、屈曲等によっても積層フィルムにクラック等が入るおそれはない。
【0039】
[3] ガスバリア性成形体
本発明のガスバリア性成形体は、熱可塑性樹脂からなる基材フィルムの少なくとも片面に無機薄膜層を形成し、さらに少なくとも1層の複合ポリマー層を形成した後、得られた積層フィルムを必要に応じて加熱下で適当な成形手段により所望の形状に成形したものである。あるいは予め基材フィルムを成形した後、基材フィルムの少なくとも片面に無機薄膜層を形成し、さらに少なくとも1層の複合ポリマー層を形成したものでも良い。このようにして得られる本発明の成形体は、ガスバリア性及び耐熱水性等に優れている。
【実施例】
【0040】
本発明を以下の実施例によってさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0041】
実施例1
表2の配合表に従って、エチレン−ビニルアルコールコポリマー(EVOH、エチレン共重合比率29モル%)をイソプロピルアルコール及びイオン交換水の混合溶媒に溶解してEVOH溶液(組成a)を作製し、下記式(4):
【化4】

により表されるテトラエトキシシランの加水分解生成物[エチルシリケート40、(株)コルコート製]、イソプロピルアルコール、アセチルアセトンアルミニウム及びイオン交換水からなる溶液(組成b)を加えて攪拌し、さらにポリビニルアルコール水溶液(濃度10重量%)、シランカップリング剤(エポキシシリカSH6040)、酢酸、イソプロピルアルコール及びイオン交換水からなる混合液(組成c)を加えて攪拌し、無色透明の塗工液を得た。
【0042】
シリカ蒸着した厚さ12μmのPETフィルムのシリカ蒸着面に上記塗工液をアプリケータにより塗布し、送風乾燥炉内で100℃で30秒間加熱した。その結果、膜厚0.4μmの無色透明かつ光沢のある複合ポリマー層が形成されたバリア性積層フィルムが得られた。
【0043】
このバリア性積層フィルムの酸素透過率は、酸素透過率測定装置(OX-TRAN2/20)を用いて23℃、90%RHの条件下で測定したところ、0.01 cc/m2/24 hであった。また透湿度は、透湿度測定装置(PERMATRAN-W3/31)を用いて40℃、90%RHの条件下で測定したところ、0.6 g/m2/24 hであった。
【0044】
このバリア性積層フィルムを沸騰水(約95℃)で30分間ボイル処理したところ、ボイル処理前と変化なく無色透明膜のままでありガスバリア性能の低下は見られなかった。また132℃、2気圧下でレトルト処理したところ、処理前と同様に良好なガスバリア性が得られた。
【0045】
【表2】

【0046】
実施例2
表3の配合表に従って、実施例1と同様に塗工液を作製した。得られた塗工液は無色透明だった。シリカ蒸着した厚さ12μmのPETフィルムのシリカ蒸着面に上記塗工液をアプリケータにより塗布し、送風乾燥炉内で100℃に30秒間加熱することにより、膜厚0.8μmの複合ポリマー層が形成された無色透明かつ高光沢のバリア性積層フィルムを得た。
【0047】
このバリア性積層フィルムの酸素透過率及び透湿度を実施例1と同様に測定したところ、酸素透過率は0.01 cc/m2/24 hであり、透湿度は0.1 g/m2/24 hであった。このバリア性積層フィルムを沸騰水(約95℃)で30分間ボイル処理したところ、ボイル処理前と変化なく無色透明膜のままでありガスバリア性能の低下は見られなかった。また132℃、2気圧下でレトルト処理したところ、処理前と同様に良好なガスバリア性が得られた。
【0048】
【表3】

【0049】
実施例3
(1) 無機薄膜層の形成
表4の配合表に従って、エチルシリケート40及びn-プロピルアルコールを50℃で混合し、塩酸及びイオン交換水を攪拌中に点滴した後、N,N-ジメチルベンジルアミンを加えて30分間攪拌して、加水分解・重縮合反応を進行させ、15重量%になるようにn-プロピルアルコールを加えて、シリカコーティング液を得た。
【0050】
シリカコーティング液をPET基材フィルム(厚さ:12μm)の片面に塗工し、送風乾燥炉内で100℃に30秒間加熱し、膜厚0.2μmの無機薄膜層を得た。この無機薄膜層は、クラックがなく、蒸着により作製した場合に劣らず、高い密度の均一性及び透明性を示した。
【0051】
【表4】

【0052】
(2) 複合ポリマー層の形成
得られた無機薄膜層の上に実施例1と同じ方法で複合ポリマー層を塗工し、加熱することにより、バリア性積層フィルムを得た。複合ポリマー層の膜厚は0.4μmであり、バリア性積層フィルムは無色透明で光沢があった。このバリア性積層フィルムの酸素透過率及び透湿度を実施例1と同様に測定したところ、酸素透過率は0.01 cc/m2/24 hであり、透湿度は0.1 g/m2/24 hであった。
【0053】
このバリア性積層フィルムを沸騰水(約95℃)で30分間ボイル処理したところ、ボイル処理前と変化なく無色透明膜のままでありガスバリア性能の低下は見られなかった。また132℃、2気圧下でレトルト処理したところ、処理前と同様に良好なガスバリア性が得られた。
【0054】
実施例4
(1) 無機薄膜層の形成
表5の配合表に従って、ケイフッ化アンモニウムの水溶液を常温で調整し、ホウ酸を添加することによりシリカコーティング液を得た。このシリカコーティング液をPETフィルム(厚さ:12μm)に塗布し、60℃に調節しながらLPD法により二酸化珪素を生成させた。得られた膜を送風乾燥炉内で100℃に30秒間加熱し、膜厚0.4μmの無機薄膜層を得た。この無機薄膜層は、クラックがなく緻密な薄膜であり、優れた形状追随性及びガスバリア性を示した。
【0055】
【表5】

【0056】
(2) 複合ポリマー層の形成
得られた無機薄膜層の上に実施例1と同じ方法で複合ポリマー層を塗工し、加熱することにより、バリア性積層フィルムを得た。複合ポリマー層の膜厚は0.1μmであり、バリア性積層フィルムは無色透明で光沢があった。このバリア性積層フィルムの酸素透過率及び透湿度を実施例1と同様に測定したところ、酸素透過率は0.01 cc/m2/24 hであり、透湿度は0.05 g/m2/24 hであった。
【0057】
このバリア性積層フィルムを沸騰水(約95℃)で30分間ボイル処理したところ、処理前と変化なく無色透明膜のままでありガスバリア性能の低下は見られなかった。また132℃、2気圧下でレトルト処理したところ、処理前と同様に良好なガスバリア性が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】複合ポリマーとシリカ薄膜層との結合モデルを示す概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂の基材フィルムの少なくとも片面に無機薄膜層を介して複合ポリマー層を有し、前記複合ポリマー層が、アルコキシシラン又はその加水分解物と、ポリビニルアルコール及び/又はエチレン−ビニルアルコールコポリマーとを含有する塗工組成物を重縮合してなることを特徴とするバリア性積層フィルム。
【請求項2】
請求項1に記載のバリア性積層フィルムにおいて、前記塗工組成物にさらにシランカップリング剤が含まれていることを特徴とするバリア性積層フィルム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のバリア性積層フィルムにおいて、前記無機薄膜層が無機蒸着膜及び/又はゾル−ゲル法による緻密な無機コーティング膜及び/又はLPD法(液相析出法;Liquid-Phase-Deposition)による緻密な無機コーティング膜であることを特徴とするバリア性積層フィルム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のバリア性積層フィルムにおいて、前記複合ポリマー層は、アルコキシシラン及び/又はシランカップリング剤又はその加水分解物からなるポリシロキサンにポリビニルアルコール及び/又はエチレン−ビニルアルコールコポリマーが脱水結合した構造を有することを特徴とするバリア性積層フィルム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のバリア性積層フィルムにおいて、前記塗工組成物がさらにアルコキシシラン以外の金属アルコキシド又はその加水分解物を1種以上含有することを特徴とするバリア性積層フィルム。
【請求項6】
(a) 熱可塑性樹脂の基材フィルムの少なくとも片面に無機薄膜層を形成し、(b) アルコキシシラン及び/又はシランカップリング剤又はその加水分解物と、ポリビニルアルコール及び/又はエチレン−ビニルアルコールコポリマーとを含有する塗工液(少なくとも部分的に重縮合している)を前記無機薄膜層に塗布し、(c) 80〜150℃でかつ前記熱可塑性樹脂の融点未満の温度に加熱することにより、前記無機薄膜層の表面に結合した複合ポリマー層を形成することを特徴とするバリア性積層フィルムの製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載のバリア性積層フィルムの製造方法において、前記無機薄膜層が無機蒸着膜及び/又はゾル−ゲル法による緻密な無機コーティング膜及び/又はLPD法による緻密な無機コーティング膜からなる群から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項6又は7に記載のバリア性積層フィルムの製造方法において、前記塗工液がさらにアルコキシシラン以外の金属アルコキシド又はその加水分解物を含有することを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれかに記載のバリア性積層フィルムからなる成形体。

【図1】
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【公開番号】特開2006−82239(P2006−82239A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−266470(P2004−266470)
【出願日】平成16年9月14日(2004.9.14)
【出願人】(000150246)株式会社中戸研究所 (9)
【Fターム(参考)】