説明

バリア性積層体、バリア性フィルム基板、デバイスおよび光学部材

【課題】水蒸気透過率が低くて、密着性の良好な有機無機積層型のバリア性フィルム基板を提供する。
【解決手段】少なくとも1層の有機層と、少なくとも1層の無機層とを有し、前記有機層を構成する硬化性樹脂の水分膨潤率が0.8%未満であることを特徴とするバリア性積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機層と無機層の密着性に優れ、且つ、水蒸気透過率の低いバリア性積層体に関し、特に、該バリア性積層体をプラスチックフィルム上に設けたバリア性フィルム基板に関する。さらに、このバリア性積層体またはバリア性フィルム基板を用いたデバイス、特に、電子デバイス、さらには、有機EL素子(有機電界発光素子)に関するものである。また、バリア性フィルム基板を用いた光学部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プラスチックフィルムの表面に、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化珪素等の金属酸化物薄膜を形成したバリア性フィルムは、水蒸気や酸素など各種ガスの遮断を必要とする物品の包装や、食品、工業用品および医薬品等の変質を防止するための包装用途に広く用いられている。
【0003】
近年、液晶表示素子や有機EL素子等の分野においては、重くて割れやすいガラス基板に代わって、プラスチックフィルムが基板として採用され始めている。プラスチックフィルムはロールトゥロール(Roll to Roll)方式に適用可能であることから、コストの点でも有利である。しかし、プラスチックフィルムはガラス基板と比較して水蒸気バリア性に劣るという問題がある。このため、プラスチックフィルムを液晶表示素子に用いると、水蒸気が液晶セル内に侵入し、表示欠陥が発生する。
【0004】
この問題を解決するために、プラスチックフィルム上に水蒸気バリア性積層体を形成したバリア性フィルム基板を用いることが知られている。バリア性フィルム基板としては、プラスチックフィルム上に酸化珪素を蒸着したもの(例えば、特許文献1参照)や、酸化アルミニウムを蒸着したもの(例えば、特許文献2参照)が知られており、これらはいずれも水蒸気透過能が1g/m2/day程度となるバリア性を有する。
【0005】
しかし、有機EL素子等のデバイスに用いるための基板にはさらに高い水蒸気バリア性が要求される。かかる要求に応えるための手段として、有機層と無機層の積層体をバリア性積層体とするいわゆる有機無機積層型のバリア性積層体を採用することにより、水蒸気透過率として0.1g/m2/day未満を実現する技術(例えば、特許文献3および特許文献4参照)や、さらに優れた0.01g/m2/day未満を実現する技術(特許文献5)が報告されている。
【0006】
【特許文献1】特公昭53−12953号公報(第1頁〜第3頁)
【特許文献2】特開昭58−217344号公報(第1頁〜第4頁)
【特許文献3】特開2003−335880号公報
【特許文献4】特開2003−335820号公報
【特許文献5】米国特許第6,413,645号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ここで開示された有機無機積層型のバリア性フィルム基板について、本発明者らが検討したところ、(1)有機EL素子等のデバイスに用いるためにはバリア性が必ずしも十分ではないこと、(2)有機層と無機層が力学的な応力や有機EL素子等のデバイスに用いる際に必要なパターニングや洗浄等の前処理における有機層の体積変化(膨張、収縮など)によって無機層が破壊されたり、有機層と無機層との間で剥離しやすいこと、等の問題点を有していることが分かった。このため、水蒸気透過率が十分に低く、且つ、密着性の良好な有機無機積層型のバリア性積層体や、バリア性フィルムフィルム基板、およびこれらを用いたデバイス等の開発が望まれていた。
【0008】
本発明の第1の目的は、水蒸気透過率が十分に低く、且つ、洗浄等前処理工程後においてもバリア性が低下しない有機無機積層型のバリア性フィルム基板を提供することである。本発明の第2の目的は、前記バリア性フィルム基板を用いた耐久性の高いデバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、有機層の体積変化が無機層のバリア性能を大きく低下させることを明らかにし、有機層と無機層を有するバリア性積層体において、有機層を形成するために用いる重合体製造用のモノマーとして、吸水率が低いアクリレートやメタクリレートを主として用いることにより、形成される有機層の膨潤によるバリア性の低下が抑制されることを見出し、以下に記載される本発明を提供するに至った。
【0010】
(1)少なくとも1層の有機層と、少なくとも1層の無機層とを有し、前記有機層を構成する硬化性樹脂の水分膨潤率が0.8%未満であることを特徴とするバリア性積層体。
(2)前記硬化性樹脂は、アクリレートおよび/またはメタクリレートの硬化物であることを特徴とする、(1)に記載のバリア性積層体。
(3)少なくとも1層の有機層と、少なくとも1層の無機層とを有し、前記有機層を構成する硬化性樹脂が吸水率1%未満のアクリレートおよび/またはメタクリレートの硬化物であることを特徴とする、バリア性積層体。
(4)少なくとも1層の有機層と、少なくとも1層の無機層とを有し、前記有機層を構成する硬化性樹脂が吸水率0.5%未満のアクリレートおよび/またはメタクリレートの硬化物であることを特徴とする、バリア性積層体。
(5)前記アクリレートおよび/またはメタクリレートがポリフルオロアルカンジオールジアクリレートまたはポリフルオロアルカンジオールジメタクリレートであることを特徴とする、(2)〜(4)のいずれか1項に記載のバリア性積層体。
(6)前記無機層の密度が2.0以上であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれか1項に記載のバリア性積層体。
(7)前記無機層の密度が2.5以上であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれか1項に記載のバリア性積層体。
(8)プラスチックフィルム上に、(1)〜(7)のいずれか1項に記載のバリア性積層体を設けたバリア性フィルム基板。
(9)(8)に記載のバリア性フィルム基板を基板に用いたデバイス。
(10)(8)に記載のバリア性フィルム基板を用いて封止したデバイス。
(11)(1)〜(7)のいずれか1項に記載のバリア性積層体を用いて封止したデバイス。
(12)前記デバイスが、電子デバイスである、(9)〜(11)のいずれか1項に記載のデバイス。
(13)前記デバイスが、有機EL素子である、(9)〜(11)のいずれか1項に記載のデバイス。
(14)(8)に記載のバリア性フィルム基板を基板に用いた光学部材。
【発明の効果】
【0011】
本発明のバリア性積層体は、有機層と無機層の密着性が高く、水蒸気透過率が低いバリア性フィルム基板を提供可能である。また、本発明のバリア性フィルム基板等を用いたデバイスは、耐久性が高いという特徴を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明のバリア性積層体、バリア性フィルム基板、デバイスおよび光学部材について詳細に説明する。以下に記載する説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0013】
<バリア性積層体>
本発明のバリア性積層体は、少なくとも1層の有機層と、少なくとも1層の無機層とを有し、かつ、有機層を構成する硬化性樹脂の水分膨潤率が0.8%未満であるか、有機層を構成する硬化性樹脂が吸水率1%未満のアクリレートおよび/またはメタクリレートの硬化物であることを特徴とする。特に、有機層を構成する硬化性樹脂の水分膨潤率が0.8%未満であり、かつ、有機層を構成する硬化性樹脂が吸水率1%未満のアクリレートおよび/またはメタクリレートの硬化物である場合が好ましい。本発明では、かかる手段を採用することにより、無機層のクラック発生を抑止することが可能になり、バリア性を向上させることができる。
【0014】
本発明における有機層の膨潤率とは、有機層の25℃、50%RH(定常状態)における膜の体積(膜厚)に対して、40℃、90%に24時間放置したときの体積増加率(膜厚増加率)を表す。有機層の膨潤率を測定する手段としては、基板に成膜された定常状態におけるある一定膜厚の有機層を40℃、90%RHの条件下に24時間放置し、それぞれの膜厚を段差計もしくは光学的に測定して、その増加率を以下の(式1)に従い算出することで得ることができる。
(式1)
膨潤率(%)=[(24時間放置後の膜厚−定常状態の膜厚)/定常状態の膜厚]×100
本発明における膨潤率は、0.8%以下であることが好ましく、0.5%以下であることがより好ましい。
【0015】
また、本発明における有機層の吸水率とは、初期乾燥後の試料の含水量に対する調湿後の変化量を百分率で表したものであり、それぞれの含水量はカールフィッシャー測定法等に評価することができる。
有機層の膨潤を抑えるには、吸水率が低く、吸湿による膜の膨潤が小さいものが好ましい。本発明で用いられる硬化性モノマーは、硬化後の吸水率が1%未満であるものが好ましく、0.8%未満であるものがより好ましく0.5%未満であるものが特に好ましい。
【0016】
また、本発明のバリア性積層体においては、有機層とこれに隣接する無機層の密着性が、JIS(日本工業規格)K5600−5−6(ISO2409)に準拠したクロスカット剥離法で、40℃、90%RHで24時間保存した場合において、80〜100%であることが好ましく、85〜100%であることがより好ましい。
【0017】
(無機層)
無機層は、通常、金属化合物からなる薄膜の層である。無機層の形成方法は、目的の薄膜を形成できる方法であればいかなる方法でも用いることができる。例えば、塗布法、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、プラズマCVD法などが適しており、具体的には特許第3400324号、特開2002−322561号、特開2002−361774号各公報記載の形成方法を採用することができる。
前記無機層に含まれる成分は、上記性能を満たすものであれば特に限定されないが、例えば、Si、Al、In、Sn、Zn、Ti、Cu、Ce、またはTa等から選ばれる1種以上の金属を含む酸化物、窒化物もしくは酸化窒化物などを用いることができる。これらの中でも、Si、Al、In、Sn、Zn、Tiから選ばれる金属の酸化物、窒化物もしくは酸化窒化物が好ましく、特にSiまたはAlの金属酸化物、窒化物もしくは酸化窒化物が好ましい。これらは、副次的な成分として他の元素を含有してもよい。
前記無機層の厚みに関しては特に限定されないが、5nm〜500nmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは10nm〜200nmであり、さらに好ましくは50nm〜150nmである。無機層が厚すぎると無機層の応力により有機層界面との密着低下や、バリア性積層体をプラスチックフィルム上に設けた場合のカールの原因となりやすく、逆に薄すぎるとバリア性能を十分に発揮するだけの効果が得られにくい。
本発明における無機層の密度に関しては特に限定されないが、好ましくは、2.0以上であり、より好ましくは2.5以上であり、さらに好ましくは3.0以上である。2.0以上とすることにより、バリア性がより向上する。従来からバリア性を向上させるために、膜密度を高くすることは行われていたが、本発明者が検討したところ、無機層の膜密度を高くすると、無機層が緻密になり外部応力による影響を受けやすくなり、すなわち、無機層が有機層の膨潤率に左右されやすくなることを見出した。そして、有機層の膨潤によって、無機層にクラックが発生したり、有機層と無機層の界面での剥離を引き起こしやすくしていることを見出した。本発明では、有機層の膨潤率と無機層の膜密度の条件を詳細に検討することにより、上記問題点をより回避することが可能になった。
また、膜密度の上限値は特に定めるものではないが、例えば、4.0以下とすることができる。
なお無機層の膜密度は、後述する実施例で詳細に説明するとおり、X線反射率測定法により評価することができる。
前記無機層は2層以上の無機層を積層してもよい。この場合、各層が同じ組成であっても異なる組成であってもよい。
【0018】
(有機層)
有機層を構成するポリマーは、アクリレートまたはメタクリレートを主成分とするモノマー混合物を重合することにより製造することが好ましい。ここで、主成分とするとは、有機層を構成するポリマーの原料のうち、最も含量が多い成分をいい、通常、モノマー成分の80質量%以上を占めることをいう。
本発明では、有機層を構成する硬化性樹脂の水分膨潤率が0.8%未満であるか、有機層を構成する硬化性樹脂が吸水率1%未満のアクリレートおよび/またはメタクリレートの硬化物であることが必要であり、この範囲を逸脱すると、有機層と隣接する無機層との界面で剥離が生じたり、無機層のクラック発生の原因となり、バリア性が大幅に低下する恐れがある。
【0019】
上記の条件を満たすモノマーとしては、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールジアクリレート、ジメチロールジシクロデカンジアクリレート、ビスフェノールAのEO付加物ジアクリレート、ビスフェノールAのEO付加物ジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、イソボルニルアクリレート、ポリフルオロアルカンジオールジアクリレート、ポリフルオロアルカンジオールジメタクリレート等の化合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらのうちポリフルオロアルカンジオールジアクリレート、ポリフルオロアルカンジオールジメタクリレートは吸水率が低く特に好ましい。ポリフルオロアルカンジオールジアクリレート、ポリフルオロアルカンジオールジメタクリレートの具体例としては下記の化合物が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
【0020】
【化1】

【0021】
有機層を構成する硬化性モノマーは単一のモノマーでも複数種のモノマーの混合物でもよい。もちろん、上記以外のモノマーを含んでいてもよく、このようなモノマーの割合は、1〜80質量%であり、5〜60質量%であるのが好ましく、10〜30質量%であることがさらに好ましい。混合できるモノマーの種類としては、単官能(メタ)アクリレート、多官能(メタ)アクリレートが挙げられ、3〜6官能の(メタ)アクリレートが好ましい。ここで、(メタ)アクリレートとは、アクリレートおよびメタアクリレートの両方または一方を意味する。さらに、トリスアクリロイルオキシエチルホスフェートなどのリン酸エステル基もしくはリン酸基含有モノマーは無機層との密着改良にもなるため好適である。
【0022】
その他、有機層には、一般式(1)で表される構造単位を有する(メタ)アクリレートの硬化物が混合されていてもよい。
一般式(1)
(Z−COO)n−L
一般式(1)において、Zは下記の(a)または(b)で表され、該構造中のR2およびR3は各々独立に水素原子またはメチル基を表し、*は一般式(1)のカルボニル基と結合する位置を表し、Lはn価の連結基を表す。nは2〜6の整数である。n個のZは互いに同一であっても異なっていてもよいが、少なくとも1つのZは下記の(a)で表される。
【化2】

【0023】
Lの炭素数は、好ましくは3〜18、より好ましくは4〜17、さらに好ましくは5〜16、特に好ましくは6〜15である。
nが2の場合、Lは2価の連結基を表すが、そのような2価の連結基の例として、アルキレン基(例えば1,3−プロピレン基、2,2−ジメチル−1,3−プロピレン基、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロピレン基、1,6−ヘキシレン基、1,9−ノニレン基、1,12−ドデシレン基、1,16−ヘキサデシレン基等)、エーテル基、イミノ基、カルボニル基、およびこれらの2価基が複数個直列に結合した2価残基(例えばポリエチレンオキシ基、ポリプロピレンオキシ基、プロピオニルオキシエチレン基、ブチロイルオキシプロピレン基、カプロイルオキシエチレン基、カプロイルオキシブチレン基等)を挙げることができる。
これらの中ではアルキレン基が好ましい。
【0024】
Lは置換基を有してもよく、Lを置換することのできる置換基の例としては、アルキル基(例えばメチル基、エチル基、ブチル基等)、アリール基(例えばフェニル基等)、アミノ基(例えばアミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等)、アルコキシ基(例えばメトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基、2−エチルヘキシロキシ基等)、アシル基(例えばアセチル基、ベンゾイル基、ホルミル基、ピバロイル基等)、アルコキシカルボニル基(例えばメトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等)、ヒドロキシ基、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、シアノ基などが挙げられる。置換基として好ましくは、含酸素官能基を持たない基が後述の理由から好ましく、特にアルキル基である。
すなわち、nが2の場合、Lは含酸素官能基を持たないアルキレン基が最も好ましい。このような基を採用することにより、水蒸気透過率をより低くすることが可能になる。
【0025】
nが3の場合、Lは3価の連結基を表すが、そのような3価の連結基の例として、前述の2価の連結基から任意の水素原子を1個除いて得られる3価残基、または、前述の2価の連結基から任意の水素原子を1個除き、ここにアルキレン基、エーテル基、カルボニル基、およびこれらを直列に結合した2価基を置換した3価残基を挙げることができる。このうち、アルキレン基から任意の水素原子を1個除いて得られる、含酸素官能基を含まない3価残基が好ましい。このような基を採用することにより、水蒸気透過率をより低くすることが可能になる。
nが4以上の場合、Lは4価以上の連結基を表すが、そのような4価以上の連結基の例も、同様に挙げられる。好ましい例も同様に挙げられる。特に、アルキレン基から任意の水素原子を2個除いて得られる、含酸素官能基を含まない4価残基が好ましい。このような基を採用することにより、水蒸気透過率をより低くすることが可能になる。
【0026】
このようなポリマーを混合することにより、有機層膜質の改良を容易に行えるという利点がある。
また、それ以外のポリマーの例としては、ポリエステル、メタクリル酸−マレイン酸共重合体、ポリスチレン、透明フッ素樹脂、ポリイミド、フッ素化ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、セルロースアシレート、ポリウレタン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、脂環式ポリオレフィン、ポリアリレート、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、フルオレン環変性ポリカーボネート、脂環変性ポリカーボネート、フルオレン環変性ポリエステル等が挙げられる。有機層における、一般式(1)で表される構造単位を有しないポリマーの含有量は、5〜50質量%であることが好ましく、10〜40質量%であることがより好ましく、20〜35質量%であることがさらに好ましい。
【0027】
有機層の形成方法としては、通常の溶液塗布法や真空成膜法等を挙げることができる。溶液塗布法としては、例えば、ディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法、スライドコート法、或いは、米国特許第2,681,294号明細書に記載のホッパーを使用するエクストルージョンコート法により塗布することができる。溶液塗布法は有機層成分の調製が容易で、使用できる硬化性材料の幅も広いため、密着改良や平滑化などの付加価値を付与しやすい。
真空成膜法としては、特に制限はないが、米国特許第4,842,893号、同第4,954,371号、同第5,032,461号等の各明細書に記載のフラッシュ蒸着法が好ましい。真空成膜法は蒸着できる化合物が限定されるので溶液塗布法に比べ多様性はないが、同一処方であれば溶液塗布法より吸水率の低い膜が得られるため、本発明における効果である無機層のクラック発生低減に好適である。
【0028】
モノマー重合法としては特に限定は無いが、加熱重合、光(紫外線、可視光線)重合、電子ビーム重合、プラズマ重合、あるいはこれらの組み合わせが好ましく用いられる。これらのうち、光重合が特に好ましい。光重合を行う場合は、光重合開始剤を併用する。光重合開始剤の例としてはチバ・スペシャルティー・ケミカルズ社から市販されているイルガキュアー(Irgacure)シリーズ(例えば、イルガキュアー651、イルガキュアー754、イルガキュアー184、イルガキュアー2959イルガキュアー907、イルガキュアー369、イルガキュアー379、イルガキュアー819など)、ダロキュア(Darocure))シリーズ(例えばダロキュアTPO、ダロキュア1173など)、クオンタキュア(Quantacure)PDO、サートマー(Sartomer))社から市販されているエザキュア(Esacure)シリーズ(例えばエザキュアTZM、エザキュアTZTなど)等が挙げられる。モノマーの重合は、支持体上にモノマー混合物を配置した後に行うことが好ましい。
【0029】
照射する光は、通常、高圧水銀灯もしくは低圧水銀灯による紫外線である。照射エネルギーは0.5J/cm2以上が好ましく、2J/cm2以上がより好ましい。アクリレート、メタクリレートは、空気中の酸素によって重合阻害を受けるため、重合時の酸素濃度もしくは酸素分圧を低くすることが好ましい。窒素置換法によって重合時の酸素濃度を低下させる場合、酸素濃度は2%以下が好ましく、0.5%以下がより好ましい。減圧法により重合時の酸素分圧を低下させる場合、全圧が1000Pa以下であることが好ましく、100Pa以下であることがより好ましい。また、100Pa以下の減圧条件下で2J/cm2以上のエネルギーを照射して紫外線重合を行うのが特に好ましい。
有機層の膜厚については特に限定はないが、薄すぎると膜厚の均一性を得ることが困難になるし、厚すぎると外力によりクラックを発生してバリア性が低下しやすくなる。かかる観点から、有機層の厚みは100nm〜3000nmが好ましく、500nm〜2000nmがより好ましい。有機層の厚さは、厚いほど水蒸気の伝播を遅らせることができるが、厚すぎると吸湿時の体積膨張も大きくなるため無機層のクラック発生や界面での剥離につながりやすくなる。
本発明では特に、無機層の膜厚を好ましくは10nm〜200nm、より好ましくは50nm〜150nmとし、かつ、有機層の膜厚を上記範囲とすることにより、上記効果がより顕著に発揮される傾向にあり好ましい。
【0030】
(有機層と無機層の積層)
有機層と無機層の積層は、所望の層構成に応じて有機層と無機層を順次繰り返し成膜することにより行うことができる。無機層を、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、プラズマCVD法などの真空成膜法で形成する場合、有機層も前記フラッシュ蒸着法のような真空成膜法で形成することが好ましい。バリア性積層体を成膜する間、途中で大気圧に戻すことなく、常に100Pa以下の真空中で有機層と無機層を積層することが好ましい。圧力は、10Pa以下であることがより好ましく、1Pa以下であることがさらに好ましい。有機層と無機層を積層する際は、支持体側にまず有機層を成膜しても無機層を成膜してもよいが、支持体側にまず有機層を成膜することが好ましい。
【0031】
(バリア性積層体の構成)
バリア性積層体はプラスチックフィルムのどちらの面に設置してもよいが、プラスチックフィルムがマット剤層を有する場合は該マット剤層の反対側の面に設置するのが好ましい。バリア性積層体は、プラスチックフィルム側から無機層、有機層の順に積層していてもよいし、有機層、無機層の順に積層していてもよい。バリア性積層体の最上層は無機層でも有機層でもよい。バリア性積層体の上にさらに機能性層を有してもよい。
【0032】
バリア性積層体の用途
本発明のバリア性積層体は、通常、支持体の上に設けるが、この支持体を選択することによって、様々な用途に用いることができる。支持体としては、プラスチックフィルムのほか、各種のデバイス、光学部材等が含まれる。具体的には、本発明のバリア性積層体はバリア性フィルム基板のバリア層として用いることができる。また、本発明のバリア性積層体およびバリア性フィルム基板は、ガスバリア性を要求するデバイスの封止に用いることができる。本発明のバリア性積層体およびバリア性フィルム基板は、光学部材にも適用することができる。以下、これらについて詳細に説明する。
【0033】
<バリア性フィルム基板>
バリア性フィルム基板は、プラスチックフィルムと、該プラスチックフィルム上に形成されたバリア性積層体とを有する。バリア性フィルム基板において、本発明のバリア性積層体は、プラスチックフィルムの片面にのみ設けられていてもよいし、両面に設けられていてもよい。本発明のバリア性積層体は、プラスチックフィルム側から無機層、有機層の順に積層していてもよいし、有機層、無機層の順に積層していてもよい。本発明の積層体の最上層は無機層でも有機層でもよい。
また、本発明におけるバリア性フィルム基板は大気中の酸素、水分、窒素酸化物、硫黄酸化物、オゾン等を遮断する機能を有するバリア層を有するフィルム基板である。
バリア性フィルム基板を構成する層数に関しては特に制限はないが、典型的には2層〜30層が好ましく、3層〜20層がさらに好ましい。
バリア性フィルム基板はバリア性積層体、プラスチックフィルム以外の構成成分(例えば、易接着層等の機能性層)を有しても良い。機能性層はバリア性積層体の上、バリア性積層体とプラスチックフィルムの間、プラスチックフィルム上のバリア性積層体が設置されていない側(裏面)のいずれに設置してもよい。
【0034】
(プラスチックフィルム)
本発明におけるバリア性フィルム基板は、通常、基材フィルムとして、プラスチックフィルムを用いる。用いられるプラスチックフィルムは、有機層、無機層等の積層体を保持できるフィルムであれば材質、厚み等に特に制限はなく、使用目的等に応じて適宜選択することができる。前記プラスチックフィルムとしては、具体的には、金属支持体(アルミニウム、銅、ステンレス等)ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、メタクリル酸−マレイン酸共重合体、ポリスチレン樹脂、透明フッ素樹脂、ポリイミド、フッ素化ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、セルロースアシレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリカーボネート樹脂、脂環式ポリオレフィン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂、シクロオレフィルンコポリマー、フルオレン環変性ポリカーボネート樹脂、脂環変性ポリカーボネート樹脂、フルオレン環変性ポリエステル樹脂、アクリロイル化合物などの熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0035】
本発明のバリア性フィルム基板を後述する有機EL素子等のデバイスの基板として使用する場合は、プラスチックフィルムは耐熱性を有する素材からなることが好ましい。具体的には、ガラス転移温度(Tg)が100℃以上および/または線熱膨張係数が40ppm/℃以下で耐熱性の高い透明な素材からなることが好ましい。Tgや線膨張係数は、添加剤などによって調整することができる。このような熱可塑性樹脂として、例えば、ポリエチレンナフタレート(PEN:120℃)、ポリカーボネート(PC:140℃)、脂環式ポリオレフィン(例えば日本ゼオン(株)製 ゼオノア1600:160℃)、ポリアリレート(PAr:210℃)、ポリエーテルスルホン(PES:220℃)、ポリスルホン(PSF:190℃)、シクロオレフィンコポリマー(COC:特開2001−150584号公報の化合物:162℃)、ポリイミド(例えば三菱ガス化学(株)ネオプリム:260℃)、フルオレン環変性ポリカーボネート(BCF−PC:特開2000−227603号公報の化合物:225℃)、脂環変性ポリカーボネート(IP−PC:特開2000−227603号公報の化合物:205℃)、アクリロイル化合物(特開2002−80616号公報の化合物:300℃以上)が挙げられる(括弧内はTgを示す)。特に、透明性を求める場合には脂環式ポレオレフィン等を使用するのが好ましい。
【0036】
本発明のバリア性フィルム基板は有機EL素子等のデバイスとして利用されることから、プラスチックフィルムは透明であること、すなわち、光線透過率が通常80%以上、好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上である。光線透過率は、JIS−K7105に記載された方法、すなわち積分球式光線透過率測定装置を用いて全光線透過率および散乱光量を測定し、全光線透過率から拡散透過率を引いて算出することができる。
本発明のバリア性フィルム基板をディスプレイ用途に用いる場合であっても、観察側に設置しない場合などは必ずしも透明性が要求されない。したがって、このような場合は、プラスチックフィルムとして不透明な材料を用いることもできる。不透明な材料としては、例えばポリイミド、ポリアクリロニトリル、公知の液晶ポリマーなどが挙げられる。
本発明のバリア性フィルム基板に用いられるプラスチックフィルムの厚みは、用途によって適宜選択されるので特に制限がないが、典型的には1〜800μmであり、好ましくは10〜200μmである。これらのプラスチックフィルムは、透明導電層、プライマー層等の機能層を有していても良い。機能層については、特開2006−289627号公報の段落番号0036〜0038に詳しく記載されている。これら以外の機能層の例としてはマット剤層、保護層、帯電防止層、平滑化層、密着改良層、遮光層、反射防止層、ハードコート層、応力緩和層、防曇層、防汚層、被印刷層、易接着層等が挙げられる。
【0037】
(マット剤層)
本発明のバリア性フィルム基板には、マット剤層を形成することができる。本発明のバリア性フィルム基板は、プラスチックフィルムの少なくとも一方の面にバリア性積層体を有し、その反対側の面にマット剤層を有するものが好ましい。また、本発明のバリア性フィルム基板は、プラスチックフィルムの一方の面に少なくとも1層のバリア性積層体を有し、さらにその上にマット剤層を有するものであってもよい。このとき、もう一方の面にもバリア性積層体を有することが好ましい。
本発明で用いられるマット剤は、無機または有機の微粒子であることが好ましく、具体的には二酸化ケイ素(SiO2)、二酸化チタン(TiO2)、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムなどの無機微粒子、あるいは、ポリメチルメタクリレート、セルロースアセテートプロピオネート、ポリスチレンなどの有機微粒子などを挙げることができる。マット剤層の形成法は特に制限されないが、例えばディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法、スライドコート法などで塗布することにより形成することができる。マット剤層とその反対側の面に設けるバリア性積層体の形成順序は特に制限されないが、まず反対側の面のバリア性積層体を形成した後にマット剤層を形成することが好ましい。例えば、プラスチックフィルムの一方の面にバリア性積層体を形成し、さらにその上にマット剤層を形成した後に、もう一方の面にバリア性積層体を形成する工程を好ましい工程として例示することができる。マット剤層の厚みは100nm〜800nmが好ましく、200nm〜500nmがより好ましい。
【0038】
本発明のバリア性フィルム基板の40℃・相対湿度90%における水蒸気透過率は、0.01g/m2・day以下であることが好ましく、0.005g/m2・day以下であることがより好ましく、0.001g/m2・day以下であることが特に好ましい。
【0039】
<デバイス>
本発明のバリア性積層体およびバリア性フィルム基板は空気中の化学成分(酸素、水、窒素酸化物、硫黄酸化物、オゾン等)によって性能が劣化するデバイスに好ましく用いることができる。前記デバイスの例としては、例えば、有機EL素子、液晶表示素子、薄膜トランジスタ、タッチパネル、電子ペーパー、太陽電池等)等の電子デバイスを挙げることができ有機EL素子に好ましく用いられる。
【0040】
本発明のバリア性積層体は、また、デバイスの膜封止に用いることができる。すなわち、デバイス自体を支持体として、その表面に本発明のバリア性積層体を設ける方法である。バリア性積層体を設ける前にデバイスを保護層で覆ってもよい。
【0041】
本発明のバリア性フィルム基板は、デバイスの基板や固体封止法による封止のためのフィルムとしても用いることができる。固体封止法とはデバイスの上に保護層を形成した後、接着剤層、バリア性フィルム基板を重ねて硬化する方法である。接着剤は特に制限はないが、熱硬化性エポキシ樹脂、光硬化性アクリレート樹脂等が例示される。
【0042】
(有機EL素子)
バリア性フィルム基板用いた有機EL素子の例は、特開2007−30387号公報に詳しく記載されている。
【0043】
(液晶表示素子)
反射型液晶表示装置は、下から順に、下基板、反射電極、下配向膜、液晶層、上配向膜、透明電極、上基板、λ/4板、そして偏光膜からなる構成を有する。本発明におけるバリア性フィルム基板は、前記透明電極基板および上基板として使用することができる。カラー表示の場合には、さらにカラーフィルター層を反射電極と下配向膜との間、または上配向膜と透明電極との間に設けることが好ましい。透過型液晶表示装置は、下から順に、バックライト、偏光板、λ/4板、下透明電極、下配向膜、液晶層、上配向膜、上透明電極、上基板、λ/4板および偏光膜からなる構成を有する。このうち本発明の基板は、前記上透明電極および上基板として使用することができる。カラー表示の場合には、さらにカラーフィルター層を下透明電極と下配向膜との間、または上配向膜と透明電極との間に設けることが好ましい。液晶セルの種類は特に限定されないが、より好ましくはTN(Twisted Nematic)型、STN(Super Twisted Nematic)型またはHAN(Hybrid Aligned Nematic)型、VA(Vertically Alignment)型、ECB型(Electrically Controlled Birefringence)、OCB型(Optically Compensated Bend)、CPA型(Continuous Pinwheel Alignment) 、 IPS型(In-Plane Switching)であることが好ましい。
【0044】
(その他)
その他の適用例としては、特表平10−512104号公報に記載の薄膜トランジスタ、特開平5-127822号公報、特開2002-48913号公報等に記載のタッチパネル、特開2000−98326号公報に記載の電子ペーパー、特願平7−160334号公報に記載の太陽電池等が挙げられる。
【0045】
<光学部材>
本発明のバリア性フィルム基板を用いる光学部材の例としては円偏光板等が挙げられる。
【0046】
本発明のバリア性フィルム基板を円偏光板と組み合わせて使用する場合、バリア性フィルム基板のバリア層面(少なくとも1層の無機層と少なくとも1層の有機層を含む積層体を形成した面)がセルの内側に向くようにし、最も内側に(素子に隣接して)配置することが好ましい。このとき円偏光板よりセルの内側にバリア性フィルム基板が配置されることになるため、バリア性フィルム基板のレターデーション値が重要になる。このような態様でのバリア性フィルム基板の使用形態は、(1)レターデーション値が10nm以下の基材フィルムを用いたバリア性フィルム基板と円偏光板(1/4波長板+(1/2波長板)+直線偏光板)を積層して使用するか、(2)あるいは1/4波長板として使用可能な、レターデーション値が100nm〜180nmの基材フィルムを用いたバリア性フィルム基板に直線偏光板を組み合わせて用いるのが好ましい。
【0047】
レターデーションが10nm以下の基材フィルムとしてはセルローストリアセテート(富士フイルム(株):富士タック)、ポリカーボネート(帝人化成(株):ピュアエース、(株)カネカ:エルメック)、シクロオレフィンポリマー(JSR(株):アートン、日本ゼオン(株):ゼオノア)、シクロオレフィンコポリマー(三井化学(株):アペル(ペレット)、ポリプラスチック(株):トパス(ペレット))ポリアリレート(ユニチカ(株):U100(ペレット))、透明ポリイミド(三菱ガス化学(株):ネオプリム)等を挙げることができる。
また1/4波長板としては、上記のフィルムを適宜延伸することで所望のレターデーション値に調整したフィルムを用いることができる。
【実施例】
【0048】
以下に実施例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0049】
1.有機層の膨潤率測定
疎水化ガラス上に表1に示す各モノマー20gと紫外線重合開始剤(チバ・スペシャルティー・ケミカルズ社製、商品名:Cibaイルガキュアー907)0.6gの混合物をワイヤーバーを用いて塗布し、窒素置換法により酸素濃度が0.45%となったチャンバー内にて高圧水銀ランプの紫外線を照射(積算照射量約2J/cm2)して硬化させることによりおよそ6μm厚の有機層を成膜した。この有機層を25℃、50%RHの調湿条件下に24時間保存した後に、有機層厚を段差計にて測定した。さらにこれを40℃、90%RHの恒温、恒湿条件下に24時間放置し、その後の有機層厚を段差計にて測定し、上述した式1に従い有機層厚増加率を算出し、その値を膨潤率とした。
【0050】
2.有機層の吸水率測定
疎水化ガラス上に表1に示す各モノマー20gと紫外線重合開始剤(チバ・スペシャルティー・ケミカルズ社製、商品名:Cibaイルガキュアー907)0.6gの混合物をワイヤーバーを用いて塗布し、窒素置換法により酸素濃度が0.45%となったチャンバー内にて高圧水銀ランプの紫外線を照射(積算照射量約2J/cm2)して硬化させることにより膜厚約20μmの有機層を成膜した。硬化した有機層をガラスからはがし、3cm×10cmの大きさに切り取り、1×10-3torrの真空デシケーター内で一晩乾燥させた状態の含水量と、25℃、60%RHにて3日間調湿したときの含水量をカールフィッシャー法にて測定し、各有機層の吸水率を算出した。各試料の吸水率は表1に示した。尚、カールフィッシャー法については、JIS(日本工業規格)K0113の記載に従った。
【0051】
3.バリア性フィルム基板の作製(1)
ポリエチレンナフタレートフィルム(帝人デュポン社製、商品名:テオネックスQ65FA)を20cm角に裁断し、その平滑面側に以下の手順でバリア性積層体を形成して本発明のバリア性フィルム基板である試料1〜4、および比較例のバリア性フィルム基板である試料5〜7を作製し、評価した。
【0052】
(1−1)第1有機層の形成
ポリエチレンナフタレートフィルムの平滑面上に、表1に示す各モノマー(20g)、紫外線重合開始剤(チバ・スペシャルティー・ケミカルズ社製、商品名:Cibaイルガキュアー907)0.6g、2−ブタノン90gの混合溶液を液厚が15μmとなるようにワイヤーバーを用いて塗布した。室温にて2時間乾燥した後、窒素置換法により酸素濃度が0.45%となったチャンバー内にて高圧水銀ランプの紫外線を照射(積算照射量約2J/cm2)して有機層を硬化させた。このとき膜厚はいずれも1500nm±200nmであった。
【0053】
(1−2)第1無機層の形成
スパッタリング装置を用いて、プラスチックフィルム上に形成した第1有機層の上に第1無機層(酸化アルミニウム)を形成した。ターゲットとしてアルミニウムを、放電ガスとしてアルゴンを、反応ガスとして酸素を用いた。成膜圧力は0.1Pa、到達膜厚は100nmであった。また、成膜した無機膜の膜密度をX線反射率測定法により測定したところ3.1であった。
【0054】
(1−3)密着性の測定
JIS(日本工業規格)K5600−5−6(ISO2409)に準拠したクロスカット剥離法で、40℃、90%RHで24時間保存したバリア性フィルム基板の有機層と無機層の密着性を調べた。評価値は膜破壊の起きなかった面積の比率(百分率)で表し、表1に示した。評価値が大きいほど密着性が高いことを表す。
【0055】
(1−4)水蒸気透過率の測定
上記バリア性フィルム基板上に金属Caを蒸着し、蒸着面が内側になるように該フィルムとガラス基板を市販の有機EL用封止材で封止して測定試料を作製した。次に該測定試料を40℃、90%の温湿度条件下で保持し、バリア性フィルム基板上の金属Caの光学濃度変化(Caの水酸化あるいは酸化により金属光沢が減少し退色)から水蒸気透過率を求めた。結果を表1に示した。
【0056】
(1−5)評価
本発明のバリア性フィルム基板である試料1〜試料4は、有機層の膨潤率が低かった。一方、比較例のバリア性フィルム基板である試料5〜7は、有機層の膨潤率が本発明の有機層よりも高かった。バリア性フィルム基板の有機層と無機層の密着性を比べてみると、高湿状態におかれた状態でも本発明のバリア性フィルム基板は密着性に優れており、水蒸気透過率も比較例に比べて低い結果となった。
【0057】
【表1】

【0058】
モノマー(A)
【化3】

【0059】
4.バリア性フィルム基板の作製(2)
上記(1)で使用したポリエチレンナフタレートフィルムに代えて各種の基材フィルムを用いて、(1)と同様に有機層と無機層を1層ずつ有するバリア性フィルム基板を作製し、バリア性を評価した。使用した基材フィルムは以下の通りである。シクロオレフィンポリマーフィルム(COPフィルム、日本ゼオン社製、商品名:ゼオノアZF-16)、透明ポリイミドフィルム(PIフィルム、三菱ガス化学社製、商品名:ネオプリム)、ポリカーボネートフィルム(帝人化成社製、商品名:ピュアエースT-138(1/4波長板)、パンライトD-92)。なお、有機層の原料としては、本発明の試料3で使用したモノマーを用いた。結果を表2に示した。
【0060】
各試料の水蒸気透過率測定の結果、いずれの基材フィルムを用いても本発明のバリア性フィルム基板は良好なバリア性を有していることが確認された。
【0061】
【表2】

【0062】
5.バリア性フィルム基板の作製(3)
上記本発明の試料3および上記比較例の試料5において、無機層を酸化アルミニウムから酸化珪素に変更したほかは上記(1−2)と同様の方法で無機層を成膜し、上記(1−4)と同様の方法で水蒸気透過率を測定した。なお、酸化珪素膜の密度はX線反射率測定法により測定したところ2.3であった。結果を表3に示した。
【0063】
各試料の水蒸気透過率測定の結果、酸化珪素膜によるバリア膜よりも酸化アルミニウムによるバリア膜の方が下地有機層の膨潤率による影響が大きいことが確認された。すなわち、本発明の条件を満たすアクリレートを用いて製造したバリア性フィルム基板は、無機膜の密度が高くなるほど効果が顕著になることが確認された。
【0064】
【表3】

【0065】
6.有機EL素子の作製と評価
(1)有機EL素子の作製
ITO膜を有する導電性のガラス基板(表面抵抗値10Ω/□)を2−プロパノールで洗浄した後、10分間UV−オゾン処理を行った。この基板(陽極)上に真空蒸着法にて以下の有機化合物層を順次蒸着した。
(第1正孔輸送層)
銅フタロシアニン 膜厚10nm
(第2正孔輸送層)
N,N’−ジフェニル−N,N’−ジナフチルベンジジン 膜厚40nm
(発光層兼電子輸送層)
トリス(8−ヒドロキシキノリナト)アルミニウム 膜厚60nm
最後にフッ化リチウムを1nm、金属アルミニウムを100nm順次蒸着して陰極とし、その上に厚さ5μmの窒化珪素膜を平行平板CVD法によって付け、有機EL素子を作製した。
【0066】
(2)有機EL素子上へのガスバリア性積層体の設置(1)
(1)で作製した有機EL素子を、熱硬化型の接着剤(ダイゾーニチモリ(株)製、エポテック310)を用い、バリア性フィルム基板の試料3、試料3−1または、試料5(封止フィルム)と貼り合せ、65℃で3時間加熱して接着剤を硬化させた。このようにして封止された有機EL素子(BOEL−1〜3)を得た。
【0067】
(3)有機EL素子上へのガスバリア性積層体の設置(2)
(1)で作製した有機EL素子を有機無機積層成膜装置(ヴァイテックス・システムズ社製、Guardian200)を用いて、バリア性積層体(有機−無機積層膜)による封止を行った。Guardian200は有機無機積層型のバリア性積層体を作製できる装置である。有機層と無 機層を真空一貫成膜するため、バリア性積層体が完成するまで大気に開放されることが無い。同装 置の有機層成膜法は内圧3Paでのフラッシュ蒸着であり、重合のための紫外線の照射エネルギー は2J/cm2とした。有機層の原料として、試料3で使用したアクリレートモノマー95gと紫外線重合開始剤(ESACURE−TZT、5g)の混合溶液を用いた。無機成膜はアルミニウムをターゲットとする直流パルスによる反応性スパッタ法(反応性ガスは酸素)による酸化アルミニウム成膜により作成した。得られた有機層の膜厚は1500nm、無機層(酸化アルミニウム)の膜厚は100nmであり、膜密度は2.8であった。このようにしてバリア性積層体で封止した有機EL素子BOEL−4を得た。
【0068】
【表4】

【0069】
(4)有機EL素子発光面状の評価
作製直後の有機EL素子(BOEL−1〜4)を電流電圧発生器(Keithley社製、SMU2400型ソースメジャーユニット)を用いて7Vの電圧を印加して発光させた。顕微鏡を用いて発光面状を観察したところ、いずれの素子もダークスポットの無い均一な発光を与えることが確認された。
次に各素子を40℃/相対湿度90%の暗い室内に60日間静置した後、発光面状を観察した。保存前の発光面積に対する保存後の発光面積の割合はBOEL−1が96%、BOEL−2が95%、BOEL−3が85%、BOEL−4は90%であった。
【0070】
本発明のバリア性フィルム基板を用いて封止した有機EL素子あるいはバリア性積層体で封止した有機EL素子は湿熱耐久性に優れていることが確認された。
【0071】
また、上記有機EL素子の作製おいて、ガラス基板に代えて、試料3のバリア性フィルム基板を用い、さらに得られた有機EL素子上へガスバリア性積層体を設置したフレキシブル有機EL素子を作製し、上記と同様にして、有機EL素子発光面状の評価を行ったところ、保存前の発光面積に対する保存後の発光面積の割合は80%であった。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明のバリア性フィルム基板は、有機層と無機層との密着性が高くて、水蒸気透過率が低い。このため、本発明のバリア性フィルム基板は、封止フィルムや、従来のガラス基板の代替品として有用であり、有機EL素子を始めとする幅広い工業製品(デバイスや光学部材)に応用しうる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1層の有機層と、少なくとも1層の無機層とを有し、前記有機層を構成する硬化性樹脂の水分膨潤率が0.8%未満であることを特徴とするバリア性積層体。
【請求項2】
前記硬化性樹脂は、アクリレートおよび/またはメタクリレートの硬化物であることを特徴とする、請求項1に記載のバリア性積層体。
【請求項3】
少なくとも1層の有機層と、少なくとも1層の無機層とを有し、前記有機層を構成する硬化性樹脂が吸水率1%未満のアクリレートおよび/またはメタクリレートの硬化物であることを特徴とする、バリア性積層体。
【請求項4】
少なくとも1層の有機層と、少なくとも1層の無機層とを有し、前記有機層を構成する硬化性樹脂が吸水率0.5%未満のアクリレートおよび/またはメタクリレートの硬化物であることを特徴とする、バリア性積層体。
【請求項5】
前記アクリレートおよび/またはメタクリレートがポリフルオロアルカンジオールジアクリレートまたはポリフルオロアルカンジオールジメタクリレートであることを特徴とする、請求項2〜4のいずれか1項に記載のバリア性積層体。
【請求項6】
前記無機層の密度が2.0以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のバリア性積層体。
【請求項7】
前記無機層の密度が2.5以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のバリア性積層体。
【請求項8】
プラスチックフィルム上に、請求項1〜7のいずれか1項に記載のバリア性積層体を設けたバリア性フィルム基板。
【請求項9】
請求項8に記載のバリア性フィルム基板を基板に用いたデバイス。
【請求項10】
請求項8に記載のバリア性フィルム基板を用いて封止したデバイス。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のバリア性積層体を用いて封止したデバイス。
【請求項12】
前記デバイスが、電子デバイスである、請求項9〜11のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項13】
前記デバイスが、有機EL素子である、請求項9〜11のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項14】
請求項8に記載のバリア性フィルム基板を基板に用いた光学部材。

【公開番号】特開2009−172991(P2009−172991A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−43378(P2008−43378)
【出願日】平成20年2月25日(2008.2.25)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】