説明

バリア性電極シート及び色素増感太陽電池

【課題】バリア性が高く、フレキシブルで、電極や電解液を外部環境から保護し、発電効率を長期維持できる、バリア性電極シート及び色素増感太陽電池を提供する。
【解決手段】透明樹脂基材の少なくとも一方の面にバリア性薄膜層、耐溶剤性薄膜層、導電性薄膜層が積層され、前記バリア性薄膜層が無機酸化物、無機窒化物、無機酸窒化物のいずれか、または混合物から選択される少なくとも1層以上の積層体であり、前記耐溶剤性薄膜層が無機酸化物、無機窒化物、無機酸窒化物、高分子樹脂薄膜のいずれか、または混合物から選択される少なくとも1層以上の積層体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池モジュール等の製造工程で太陽電池セルを作製するために使用される電極シート及び電極シートを用いた色素増感太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光を利用するクリーンな発電技術として、太陽電池が近年注目を集めている。太陽電池には、結晶シリコン、非晶シリコン、CIGS(Copper Indium Gallium DiSelenide)、色素増感、有機色素等、多様な方式が存在する。
【0003】
このような太陽電池を構成する材料には、長期使用に耐え得る高い耐候性が求められており、前面ガラス、封止材、バックシート及び光電変換セルなどからなる。近年では、太陽電池のフレキシブル化も検討されている。
【0004】
フレキシブルの太陽電池としては、非晶シリコン、CIGS、色素増感太陽電池などが検討されている。これらフレキシブル太陽電池には、前面ガラスを代替するバリア性の高いフレキシブル基材が必要とされている。
【0005】
特に、色素増感太陽電池は、一般的には電解液を用いるため、高いバリア性が必要であり、また同時に、電極としての導電性も求められている。
【0006】
色素増感太陽電池に用いられる前面電極基材としては、耐溶剤性を高めた導電性フィルムが提案されている。しかしながら、従来技術に示される組成では、電極は保護できても、電解液を外部環境から保護する性能が低く、発電効率を長期維持することは難しい(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−277234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記のような従来技術の課題を解決しようとするものであり、バリア性が高く、フレキシブルで、電極や電解液を外部環境から保護し、発電効率を長期維持できる、バリア性電極シート及び色素増感太陽電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するための手段として、請求項1に記載の発明は、透明樹脂基材の少なくとも一方の面にバリア性薄膜層、耐溶剤性薄膜層、導電性薄膜層が積層されていることを特徴とするバリア性電極シートである。
【0010】
また、請求項2に記載の発明は、前記バリア性薄膜層が無機酸化物、無機窒化物、無機酸窒化物のいずれか、または混合物から選択される少なくとも1層以上の積層体であることを特徴とする請求項1に記載のバリア性電極シートである。
【0011】
また、請求項3に記載の発明は、前記耐溶剤性薄膜層が無機酸化物、無機窒化物、無機酸窒化物、高分子樹脂薄膜のいずれか、または混合物から選択される少なくとも1層以上の積層体であることを特徴とする請求項1または2に記載のバリア性電極シートである。
【0012】
また、請求項4に記載の発明は、前記バリア性薄膜層が酸化ケイ素薄膜を少なくとも一層は含み、ケイ素と酸素の元素構成比が、1:1.5〜1.8であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のバリア性電極シートである。
【0013】
また、請求項5に記載の発明は、前記耐溶剤性薄膜層が酸化ケイ素薄膜であり、ケイ素と酸素の元素構成比が、1:1.9〜2.0であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のバリア性電極シートである。
【0014】
また、請求項6に記載の発明は、請求項1から5のいずれか一項に記載のバリア性電極シートを電極基材に用いることを特徴とする色素増感太陽電池である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、透明樹脂基材の少なくとも一方の面にバリア性薄膜層、耐溶剤性薄膜層、導電性薄膜層を順次積層することで、電極に水蒸気バリア性と耐溶剤性を付加し
バリア性が高く、フレキシブルで、電極や電解液を外部環境から保護し、太陽電池の発電効率を長期維持できるバリア性電極シート及び色素増感太陽電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態にかかわるバリア性電極シート5の断面図
【図2】比較例1の形態にかかわる電極シート6の断面図
【図3】表面電極基材7、裏面電極基材10としてバリア性電極シート5を使用した実施例、比較例にかかわる色素増感太陽電池の断面図である。
【図4】表面電極基材7、裏面電極基材10として電極シート6を使用した比較例1にかかわる色素増感太陽電池の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下本発明を実施するための形態を、図面を用いて詳細に説明する。本発明の実施の形態に係るバリア性電極シート5は、主材となる透明樹脂基材1、バリア性薄膜層2、耐溶剤性薄膜層3、導電性薄膜層4からなる。
【0018】
本発明の実施の形態に係るバリア性電極シート5は、水蒸気バリア性、耐溶剤性に優れ、色素増感太陽電池における電解液の劣化を低減し、発電効率の低下を抑制することができる。
【0019】
前記透明樹脂基材1の材料としては、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル;ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド;ポリイミド;ポリアリレート;ポリカーボネート;ポリアクリレート;ポリエーテルサルフォン、ポリサルフォン、フッ素樹脂、これらの共重合体の無延伸あるいは延伸されたプラスチックフィルムを用いることが出来る。また、透明性の高い他のプラスチックフィルムを用いることもできる。その厚さは基材の可撓性を考慮し、10〜200μm程度のものが用いられる。
【0020】
バリア性薄膜層2を形成する材料としては、無機酸化物、無機窒化物、無機酸窒化物のいずれか、または混合物を用いることができる。無機材料としては、ケイ素、アルミニウム、インジウム、スズ、ガリウム等を用いることができ、好ましくはケイ素の酸化物が用いられる。より好ましくはケイ素と酸素の元素構成比が1:1.5〜1.8の範囲にあるものが用いられる。酸素の構成比が1.5以下では、光吸収による着色が見られ、1.8
以上では良好な水蒸気バリア性が得られない。
【0021】
バリア性薄膜層2の厚みは、5〜100nmが好ましい。5nm以下では、バリア性を発現する均一な膜の形成が困難であり、100nm以上では、応力による膜のクラックや膜の着色が発生する。
【0022】
また、透明樹脂基材1とバリア性薄膜層2の間には、密着性、耐候性を高めるためのアンカーコート層を設けても良い。
【0023】
耐溶剤性薄膜層3を形成する材料としては、無機酸化物、無機窒化物、無機酸窒化物、高分子樹脂薄膜のいずれか、または混合物を用いることができる。無機材料としては、ケイ素、アルミニウム、インジウム、スズ、ガリウム等を用いることができ、高分子樹脂としてはポリカーボネート樹脂、アクリル系樹脂、フッ素系アクリル樹脂、シリコーン系アクリル樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、シクロオレフィンポリマー、メチルスチレン樹脂、フルオレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート等を用いることができる。好ましくはケイ素の酸化物が用いられる。より好ましくはケイ素と酸素の元素構成比が1:1.9〜2.0の範囲にある酸化ケイ素が用いられる。酸化度が高いほど溶剤に対する耐性が向上し、特に好ましくは2.0であるものが用いられる。
【0024】
導電性薄膜層4を形成する材料としては、酸化インジウム、酸化鈴、酸化亜鉛、またはこれらの混合物を用いることが出来る。このうち酸化インジウムと酸化鈴の混合酸化物が特に好ましく用いられる。
【0025】
導電性薄膜層4の導電性材料には、必要に応じて、Al、Zr、Ga、Ge、Si、Ti、W等の添加物を含有させることができる。
【0026】
前記透明樹脂基材1には、必要におじて、ハードコート層、UV遮断層、防汚層を塗布形成しても構わない。
【0027】
本発明のバリア性薄膜層2、耐溶剤性薄膜層3及び導電性薄膜層4の製造方法について特に限定はないが、スパッタリング法、蒸着法、イオンプレーティング法、CVD法等の真空成膜法を用いて好ましく製造することができる。
【0028】
本発明の実施に係る太陽電池モジュール11は、表面電極基材7、光電変換層8、電解液層9、裏面電極基材10からなる。
【0029】
表面電極基材7の材料としては、バリア性電極シート5、ITOフィルム、FTOフィルム等の透明導電性基材が用いられる。
【0030】
光電変換層8の材料としては、酸化チタン等の酸化物半導体粒子に増感色素を修飾したものが好適に用いられる。増感色素としては、ルテニウム錯体、ポルフィリン系色素、シアニン系色素等が用いられる。
【0031】
光電変換層8の形成方法としては、表面電極基材7に半導体粒子をコーティングした後に焼結法、プレス法で固め、増感色素の溶液に浸漬するなどの方法を用いることができる。
【0032】
電解液層9の材料としては、リチウム、塩素、ヨウ素、臭素などを電解質とする電解液が用いられる。電解液を形成する溶媒としては、アセトニトリル、3−メトキシプロピオニトリル等の二トリル系溶媒が好適に用いられる。
【0033】
裏面電極基材10としては、バリア性電極シート5、透明導電性フィルム、金属蒸着フィルム、金属箔等が用いられる。
【0034】
太陽電池モジュール11の製造方法としては、光電変換層8を形成した表面電極基材7と裏面電極基材10とを重ねあわせ、その間に電解液9を含浸させる方法を用いることができる。また、ロールツーロールなどの方法を用いてもよい。
【0035】
なお、本発明にあたってはバリア性薄膜層及び耐溶剤性薄膜層としてケイ素の酸化物を用いた場合には、該ケイ素の酸化物の元素構成比はX線光電子分光分析法(XPS)による深さ方向分析により求めることができる。
【実施例1】
【0036】
バリア性電極シート5は、50μmのETFE樹脂からなる透明樹脂基材1上に、真空蒸着法を用いて30nmの厚みでケイ素:酸素=1:1.5の酸化ケイ素膜をバリア性薄膜2として、スパッタリング法を用いて20nmの厚みでケイ素:酸素=1:2.0の酸化ケイ素膜を耐溶剤性薄膜層3として、スパッタリング法を用いて50nmの厚みで酸化インジウム−酸化スズ複合酸化膜を導電性薄膜層4として順次積層して作製し、表面電極基材7、裏面電極基材10とした。
【0037】
表面電極基材7の導電面に酸化チタンペーストを塗布し、150℃で焼成し、4,4’−dicarboxy−2,2’−bipyridineを表面に吸着させ、ヨウ素のアセトニトリルとエチレンカーボネート混合溶液を電解液層9として表裏電極間に含浸させ、端部をシリコーン樹脂で封止して実施例1の太陽電池11とした。
【実施例2】
【0038】
バリア性薄膜層2の酸化ケイ素膜がケイ素:酸素=1:1.8であること以外は実施例1と同様に作製し、表面電極基材7、裏面電極基材10とした。同様に表面電極基材7の導電面に酸化チタンペーストを塗布し、150℃で焼成し、4,4’−dicarboxy−2,2’−bipyridineを表面に吸着させ、ヨウ素のアセトニトリルとエチレンカーボネート混合溶液を電解液層9として表裏電極間に含浸させ、端部をシリコーン樹脂で封止して実施例2の太陽電池11とした。
【実施例3】
【0039】
耐溶剤性薄膜層3の酸化ケイ素膜がケイ素:酸素1:1.9であること以外は実施例1と同様にし、表面電極基材7、裏面電極基材10を作製した。同様に表面電極基材7の導電面に酸化チタンペーストを塗布し、150℃で焼成し、4,4’−dicarboxy−2,2’−bipyridineを表面に吸着させ、ヨウ素のアセトニトリルとエチレンカーボネート混合溶液を電解液層9として表裏電極間に含浸させ、端部をシリコーン樹脂で封止して実施例3の太陽電池11とした。
【実施例4】
【0040】
バリア性薄膜層2の酸化ケイ素膜がケイ素:酸素=1:2.0であること以外は実施例1と同様にして作製し、表面電極基材7、裏面電極基材10とした。同様に表面電極基材7の導電面に酸化チタンペーストを塗布し、150℃で焼成し、4,4’−dicarboxy−2,2’−bipyridineを表面に吸着させ、ヨウ素のアセトニトリルとエチレンカーボネート混合溶液を電解液層9として表裏電極間に含浸させ、端部をシリコーン樹脂で封止して実施例4の太陽電池11とした。
【実施例5】
【0041】
耐溶剤性薄膜層3の酸化ケイ素膜がケイ素:酸素1:1.7であること以外は実施例1と同様にして作製し、表面電極基材7、裏面電極基材10とした。同様に表面電極基材7の導電面に酸化チタンペーストを塗布し、150℃で焼成し、4,4’−dicarboxy−2,2’−bipyridineを表面に吸着させ、ヨウ素のアセトニトリルとエチレンカーボネート混合溶液を電解液層9として表裏電極間に含浸させ、端部をシリコーン樹脂で封止して実施例5の太陽電池11とした。
【0042】
<比較例1>
比較例1の電極シート6は、50μmのETFE樹脂からなる透明樹脂基材1上に、スパッタリング法を用いて50nmの厚みで酸化インジウム−酸化スズ複合酸化膜を導電性薄膜層4として積層し手作製し、表面電極基材7、裏面電極基材10とした。同様に表面電極基材7の導電面に酸化チタンペーストを塗布し、150℃で焼成し、4,4’−dicarboxy−2,2’−bipyridineを表面に吸着させ、ヨウ素のアセトニトリルとエチレンカーボネート混合溶液を電解液層9として表裏電極間に含浸させ、端部をシリコーン樹脂で封止して比較例1の太陽電池11とした。
【0043】
以上の実施例および比較例について、水蒸気透過性、耐湿熱試験後の発電効率の低下率について評価を行った。
【0044】
<水蒸気透過性>
実施例及び比較例のバリア電極シートの水蒸気透過性は、モコン社製パーマトランを用いて、40℃90%RHの条件にて測定を行った。
【0045】
<耐湿熱試験>
実施例及び比較例のバリア電極シートを用いて作製した太陽電池モジュール85℃85%RHの環境試験機に投入し、500時間放置後取り出した。試験投入前後の発電効率を測定し、発電効率の低下率を式1にて算出した。
【0046】
<式1>
発電効率(%)=(耐湿熱試験後の発電効率−初期発電効率)/初期発電効率×100
実施例及び比較例のバリア電極を用いた太陽電池モジュールに、山下電装製ソーラーシミュレータの擬似太陽光を照射し、光起電力をデジタルマルチメーターでモニターし、発電効率を求めた。
【0047】
各評価結果を下の表1に示す。
【0048】
【表1】

バリア性薄膜層及び耐溶剤性薄膜層を設けた(実施例1)〜(実施例5)のバリア性電極シートにあっては、バリア性薄膜層及び耐溶剤性薄膜層を設けなかった<比較例1>のバリア性電極シートと比較して、水蒸気バリア性が向上し、発電効率の低下を抑制している様子が確認された。特に、透明樹脂基板上にケイ素と酸素の元素構成比が、1:1.9〜2.0である酸化ケイ素薄膜からなる耐溶剤性薄膜層、導電性薄膜層からなるバリア性電極シートを用いることで、発電効率を長期維持したバリア性電極シートを提供することができ、発電効率の低下を抑制した色素増感太陽電池11を作製することができることが確認された。
【符号の説明】
【0049】
1・・・透明樹脂基材
2・・・バリア性薄膜層
3・・・耐溶剤性薄膜層
4・・・導電性薄膜層
5・・・バリア性電極シート
6・・・電極シート
7・・・表面電極基材
8・・・光電変換層
9・・・電解液層
10・・・裏面電極基材
11・・・色素増感太陽電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明樹脂基材の少なくとも一方の面にバリア性薄膜層、耐溶剤性薄膜層、導電性薄膜層が積層されていることを特徴とするバリア性電極シート。
【請求項2】
前記バリア性薄膜層が無機酸化物、無機窒化物、無機酸窒化物のいずれか、または混合物から選択される少なくとも1層以上の積層体であることを特徴とする請求項1に記載のバリア性電極シート。
【請求項3】
前記耐溶剤性薄膜層が無機酸化物、無機窒化物、無機酸窒化物、高分子樹脂薄膜のいずれか、または混合物から選択される少なくとも1層以上の積層体であることを特徴とする請求項1または2に記載のバリア性電極シート。
【請求項4】
前記バリア性薄膜層が酸化ケイ素薄膜を少なくとも一層は含み、ケイ素と酸素の元素構成比が、1:1.5〜1.8であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のバリア性電極シート。
【請求項5】
前記耐溶剤性薄膜層が酸化ケイ素薄膜であり、ケイ素と酸素の元素構成比が、1:1.9〜2.0であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のバリア性電極シート。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載のバリア性電極シートを電極基材に用いたことを特徴とする色素増感太陽電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−186037(P2012−186037A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−48681(P2011−48681)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】