説明

バルブユニット及び流体噴射装置

【課題】流体噴射ヘッドへの流体の供給圧力の調整を安定して行うことが可能なバルブユニット及び流体噴射装置を提供する。
【解決手段】プリンタに備えられるバルブユニット23は、連通孔40及び流出路52を有する圧力室36と、連通孔40を開閉する弁体41と、弁体41を常には閉弁状態となる方向に付勢するコイルばね47と、圧力室36の壁面の一部を構成し、圧力室36内の圧力変動に基づいて変位するフィルム部材35と、フィルム部材35の変位に伴って変位することでコイルばね47の付勢力に抗して弁体41を開弁状態となる方向に押圧する作動レバー54とを備える。そして、コイルばね47は、弁体41の重心を通る直線上において弁体41に点接触している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばインクジェット式プリンタなどの流体噴射装置及び該流体噴射装置に備えられるバルブユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
流体噴射ヘッドから流体をターゲットに対して噴射する流体噴射装置として、例えば、インクジェット式プリンタ(以下、単に「プリンタ」と言う)が知られている。このプリンタは、インクを記録ヘッド(流体噴射ヘッド)のノズルから記録媒体(ターゲット)に噴射することで印刷を行っている。
【0003】
こうしたプリンタにあっては、印刷品質向上の観点から、インクを記録ヘッドに安定して供給することが望ましい。そこで、こうした要望に応えるために、従来から記録ヘッドへのインクの供給圧を調整するためのバルブユニットを備えたプリンタが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
すなわち、特許文献1のプリンタに備えられたバルブユニットは、その一面に溝状流路が凹み形成された定形性を有する流路形成部材と、該流路形成部材の溝状流路の開口を密封するフィルム(可撓性部材)と、該フィルムと溝状流路とで囲み形成された圧力室へのインクの導入口(流入孔)を開閉する弁体と、圧力室内に設けられた作動レバー(作動部材)とを備えている。なお、弁体は、常時コイルばね(付勢部材)によって導入口を閉塞する閉弁位置に付勢されている。
【0005】
そして、ノズルからインクが噴射されて圧力室の導出口(流出孔)からインクが記録ヘッド側へ流出すると、圧力室内に負圧が生じて、フィルムが圧力室の内方へ変位し、このフィルムの変位に伴い作動レバーがフィルムに押圧されて傾動する途中で弁体を開弁方向へ押圧するようになっている。その結果、この作動レバーを介して弁体がコイルばねの付勢力に抗して導入口から離間する開弁位置に移動され、導入口から圧力室内に新たなインクが供給されるようになっている。そして、その後、圧力室内にインクが供給されて圧力室内の負圧が解消されると、再び弁体がコイルばねの付勢力によって導入口を閉塞する閉塞位置に移動され、圧力室内へのインクの供給が停止されるようになっている。
【特許文献1】特開2005−343123号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1のキャリッジにおいては、弁体に対してコイルばねの円環状をなす端部がコイルばねの軸線を中心とする同心円上で線接触しているため、組み立て方によっては、弁体におけるコイルばねとの接触部分に対してコイルばねの付勢力が均一に付与されなくなるおそれがあった。このため、閉弁位置における弁体の導入口に対するシール性が低下して、記録ヘッドへのインクの供給圧力の調整を安定して行うことができなくなってしまうおそれがあるという問題があった。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、流体噴射ヘッドへの流体の供給圧力の調整を安定して行うことが可能なバルブユニット及び流体噴射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明のバルブユニットは、流体を流入させるための流入孔及び流体を流出させるための流出孔を有する圧力室と、閉弁状態となることにより前記流入孔を閉鎖するとともに、開弁状態となることにより前記流入孔を開放する弁体と、該弁体を常には閉弁状態となる方向に付勢する付勢部材と、前記圧力室の壁面の一部を構成し、その圧力室内の圧力変動に基づいて変位する可撓性部材と、該可撓性部材の変位に伴って変位することで、前記付勢部材の付勢力に抗して前記弁体を開弁状態となる方向に押圧する作動部材とを備え、前記付勢部材は、該付勢部材における前記弁体側の端部が前記弁体に対して点接触している。
【0009】
この構成によれば、付勢部材が弁体に対して点接触しているため、閉弁状態の弁体における付勢部材との接触部分に対して付勢部材からの付勢力が均一に与えられる。このため、閉弁状態における弁体の流入孔に対するシール性が向上するので、流体噴射ヘッドへの流体の供給圧力の調整を安定して行うことが可能となる。
【0010】
本発明のバルブユニットにおいて、前記付勢部材は、前記弁体の重心を通る直線上において前記弁体に対して点接触している。
この構成によれば、付勢部材が弁体の重心を通る直線上において弁体に点接触しているため、閉弁状態における弁体に対して付勢部材からの付勢力がバランスよく与えられる。このため、閉弁状態における弁体の流入孔に対するシール性が向上するので、流体噴射ヘッドへの流体の供給圧力の調整を安定して行うことが可能となる。
【0011】
本発明のバルブユニットにおいて、前記付勢部材は前記弁体を付勢する方向に延びる突出部を備えるとともに、前記弁体は前記付勢部材による付勢方向を深さ方向とする凹部を備えており、前記突出部の先端は前記凹部内の底部に当接している。
【0012】
この構成によれば、付勢部材の突出部を弁体の凹部に挿入することで、付勢部材が弁体に対して点接触した状態となる。
本発明のバルブユニットにおいて、前記弁体の凹部は、その底部の中心が最も深く且つ前記弁体の重心を通る直線上に位置している。
【0013】
この構成によれば、付勢部材の突出部を弁体の凹部の最奥部まで挿入することで、付勢部材を弁体に対して最適に点接触した状態に位置決めすることが可能となる。
本発明のバルブユニットにおいて、前記弁体の凹部は、その内面形状が円錐面形状又は角錐面形状をなしている。
【0014】
この構成によれば、付勢部材の突出部を弁体の凹部に挿入する際に、突出部の先端を凹部の底部の中心に案内することが可能となる。
本発明の流体噴射装置は、流体を噴射する流体噴射ヘッドと、上記構成のバルブユニットとを備えた。
【0015】
この構成によれば、上記したバルブユニットと同様の作用効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明をインクジェット式プリンタ(以下、単にプリンタという)に具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、本実施形態の流体噴射装置としてのプリンタ11は、略矩形箱状をなす本体ケース12を備えるとともに、この本体ケース12内の前方下部には、プラテン13が主走査方向となる本体ケース12の長手方向(図1において左右方向)に沿って架設されている。プラテン13は、記録用紙Pを支持する支持台であって、このプラテン13上には、図示しない紙送り機構により記録用紙Pが主走査方向と直交する副走査方向に沿って給送されるようになっている。
【0017】
本体ケース12内においてプラテン13の後部上方には、主走査方向に沿って棒状のガイド軸14が架設され、このガイド軸14にはキャリッジ15が移動可能に支持されている。また、本体ケース12内の後方側面においてガイド軸14の両端部と対応する位置には、駆動プーリ16及び従動プーリ17が回転自在に支持されている。駆動プーリ16にはキャリッジモータ18が連結されるとともに、一対のプーリ16,17間にはキャリッジ15を支持した無端状のタイミングベルト19が掛装されている。したがって、キャリッジ15は、キャリッジモータ18の駆動により、ガイド軸14に沿って主走査方向に往復移動可能となっている。
【0018】
本体ケース12内の一端側(図1では右端側)には箱形のカートリッジホルダ20が設けられている。カートリッジホルダ20には、インクカートリッジ21が流体としてのインクの色毎に複数個(本実施形態においては4個)、着脱可能に装着されている。
【0019】
各インクカートリッジ21はカートリッジホルダ20に装着された場合にインク供給チューブ22の上流端に接続されるようになっている。また、各インク供給チューブ22の下流端は、キャリッジ15上に搭載されたバルブユニット23の上流側と接続されるとともに、バルブユニット23の下流側はキャリッジ15の下面側に設けられた流体噴射ヘッドとしての記録ヘッド24に接続されている。そして、記録ヘッド24の下面にて構成されるノズル形成面(図示略)には、複数のノズル開口(図示略)が形成されている。
【0020】
なお、バルブユニット23は、インクカートリッジ21から記録ヘッド24にインクを安定して供給するために設けられた弁機構であり、常には閉弁状態となっているが、印刷などを行う際にノズル開口(図示略)から所定量のインクが記録用紙Pに向けて噴射された場合には、開弁状態となって記録ヘッド24側へインクを補給するようになっている。
【0021】
カートリッジホルダ20とプラテン13との間、すなわち、記録用紙Pが至らない非印刷領域は、プリンタ11の電源オフ時や記録ヘッド24をメンテナンスする場合にキャリッジ15の待機場所となるホームポジションHPになっている。また、キャリッジ15がホームポジションHPに配置されたときの下方となる位置には、記録ヘッド24のメンテナンスを行うためのメンテナンスユニット25がキャップ26及び吸引ポンプ(図示略)等を構成要素として備えられている。そして、記録ヘッド24のメンテナンス時などには、キャップ26が記録ヘッド24に対してノズル開口(図示略)を囲うように当接し、その状態において吸引ポンプ(図示略)が駆動されることにより、インク供給チューブ22内及び記録ヘッド24内にあるインクや気泡などが吸引排出されるようになっている。
【0022】
カートリッジホルダ20の上側には、加圧ユニット27が載置されている。加圧ユニット27は加圧ポンプ28を備え、加圧ポンプ28の駆動によって生成された加圧空気は空気供給路29を介してインクカートリッジ21内に圧送されるようになっている。なお、加圧ユニット27において、加圧ポンプ28の下流側の空気供給路29には圧力検出器30及び大気開放弁31が接続されている。
【0023】
空気供給路29は、大気開放弁31の下流側に配設された分配器32を境にインクカートリッジ21の個数と同数に分岐されている。そして、分岐された各空気供給路29は、それぞれの下流端が各々対応するインクカートリッジ21に接続されている。
【0024】
各インクカートリッジ21は、内部が加圧室(図示略)となっており、この加圧室の上側に空気供給路29の下流端が接続されている。また、各インクカートリッジ21の加圧室内には可撓性のフィルムによって袋状に形成されたインクパック(図示略)が収容されている。したがって、加圧ポンプ28が駆動された場合には、加圧ポンプ28から圧送された加圧空気が空気供給路29を介してインクカートリッジ21内に導入され、加圧空気の空気圧によってインクパックが押し潰されることにより、インクパック内に収容されたインクが記録ヘッド24側に供給されるようになっている。
【0025】
次に、バルブユニット23の構成について詳述する。
図2及び図3に示すように、バルブユニット23は、外形が略直方体形状をなす金属材料又は樹脂材料からなる定形性の流路形成部材33を備えており、この流路形成部材33の平面状をなす上面には複数(本実施形態では4つ)の平面視長方形状の上面側凹部34が形成されている。そして、各上面側凹部34の上端開口部を封止するように可撓性部材としてのフィルム部材35が溶着されることにより、各上面側凹部34とフィルム部材35とによって複数(本実施形態では4つ)の圧力室36が囲み形成されている。なお、図2はフィルム部材35を省略して描いている。
【0026】
図3及び図4に示すように、流路形成部材33の平面状をなす下面には、各上面側凹部34の下方において後寄りの位置に、平断面円形状の下面側凹部37が各々形成されている。そして、各下面側凹部37の下端開口部に円板状の保持部材38が各々密嵌されることにより、下面側凹部37と保持部材38とによってインク供給室39が各々囲み形成されている。この場合、流路形成部材33の下面と保持部材38の下面とは面一になっている。
【0027】
また、互いに対応する圧力室36とインク供給室39とは、流入孔としての連通孔40を介してそれぞれ連通されており、該連通孔40によりインク供給室39から圧力室36内にインクを流入させることが可能となっている。圧力室36内及びインク供給室39内には、これら両室36,39を跨ぐように弁体41が収容されている。この弁体41は、連通孔40に挿通された円柱状のバルブ軸42と、インク供給室39内においてバルブ軸42の下端部に設けられた該バルブ軸42の外径よりも大きい外径を持つ円板状の鍔部43とを備えている。
【0028】
この場合、バルブ軸42は鍔部43の中心を貫通しており、バルブ軸42の下端部は鍔部43よりも下側に突出している。鍔部43の外径は、連通孔40の内径よりも大きく、且つインク供給室39の内径よりも小さくなっている。鍔部43の上面には、該上面の周縁に沿って円環状の可撓性材料よりなるシール部材44がバルブ軸42を囲むように固着されている。シール部材44の外径は、鍔部43の外径と同じになっている。
【0029】
鍔部43の下面には、上下方向を深さ方向とする内面形状が円錐面形状をなす凹部としての付勢凹部46が設けられている。すなわち、付勢凹部46は、その底部46a(図4では上側)の中心が最も深く、その開口から底部46aの中心へ向かうほど内径が小さくなっている。そして、付勢凹部46の底部46aの中心は、弁体41(バルブ軸42)の軸線上に位置している。この場合、弁体41の軸線と該弁体41の重心を通る直線とは、一致している。
【0030】
インク供給室39内における弁体41の下側には、付勢部材としての円錐台状のコイルばね47が配置されている。すなわち、コイルばね47は、線材を円錐台状に巻き回して構成されており、その外径が上側に向かうほど小さくなっている。コイルばね47は、その軸線が弁体41の軸線と一致しており、その上端部は該軸線上において上方へ延びる突出部48とされている。この突出部48の先端(図4では上端)は、弁体41の付勢凹部46内に挿入されて該付勢凹部46の底部46aの中心に点接触した状態で当接している。
【0031】
一方、コイルばね47の下端部は、該コイルばね47の軸線上において下方へ延びる支持突出部49とされている。この支持突出部49は、コイルばね47を構成する線材の下端部によって構成されている。そして、支持突出部49は、保持部材38の上面における中心部に設けられた支持部としての支持凹部50内に挿入されるとともに、その先端(図4では下端)は支持凹部50内の底面に当接している。
【0032】
そして、コイルばね47は、弁体41を常には閉弁状態となる方向である上方に向かって付勢するようになっている。そして、この弁体41の閉弁状態では、シール部材44が連通孔40を囲んだ状態でインク供給室39内の上壁面に密着して連通孔40が閉鎖された状態、すなわち圧力室36とインク供給室39とが非連通状態になっている。
【0033】
また、流路形成部材33には、下面側凹部37の側面に下流端が開口するとともに、上流端がインク供給チューブ22(図1参照)の下流端に接続された流入路51が下面側凹部37毎に貫通形成されている。さらに、流路形成部材33には、上面側凹部34の下方におけるインク供給室39よりも前方側の位置に、上面側凹部34の底面に上流端が開口するとともに、下流端が記録ヘッド24に接続された流出孔としての流出路52が上面側凹部34毎に貫通形成されている。この流出路52は、圧力室36内からインクを記録ヘッド24側へ流出させるためのものである。
【0034】
流路形成部材33の上面における各上面側凹部34の後側には、該各上面側凹部34と隣接するように段差部53がそれぞれ設けられている。各段差部53上には前後方向に長い作動部材としての矩形薄板状の作動レバー54の後端部が固定されるとともに、作動レバー54の前端部は上面側凹部34内の前端部における流出路52の真上まで達している。なお、作動レバー54は、適度な弾力性を持つ金属からなっており、その前端部は固定されない自由端となっている。
【0035】
また、作動レバー54は、フィルム部材35の内面に沿って延びており、その後端部寄りの位置における下面には弁体41のバルブ軸42の上端が当接している。そして、圧力室36内の圧力が低下してフィルム部材35が圧力室36側(下側)に撓んで変位した場合には、このフィルム部材35の変位に伴って作動レバー54が該作動レバー54の後端部を支点として下方に向かって屈曲するように弾性変形する。
【0036】
この作動レバー54の弾性変形により、該作動レバー54によってバルブ軸42がコイルばね47の付勢力に抗して下方に押し下げられてシール部材44がインク供給室39内の上壁面から離間することで、弁体41が開弁されるようになっている。そして、弁体41が開弁状態にある場合には、連通孔40が開放された状態、すなわち圧力室36とインク供給室39とが連通状態になっている。
【0037】
次に、上記のように構成されたバルブユニット23の作用について説明する。
さて、記録ヘッド24のノズル開口(図示略)からインクを噴射して記録用紙Pの印刷を行うと、圧力室36内のインクが流出路52を介して記録ヘッド24側に流出して減少するため、圧力室36内に負圧が生じる。圧力室36内に負圧が発生するとフィルム部材35が大気圧によって下側(圧力室36の内方)に撓むことで、作動レバー54が下方に押圧される。すると、作動レバー54は、段差部53に固定された後端部を支点、バルブ軸42の上端が当接している部分を作用点、自由端である前端側を力点とした梃子の原理により、フィルム部材35からの下方への押圧力を倍力してバルブ軸42に伝達する。
【0038】
これにより、バルブ軸42がコイルばね47の付勢力に抗して下方に押し下げられることで、弁体41が開弁状態となり、圧力室36とインク供給室39とが連通孔40を介して連通され、インク供給室39内のインクが連通孔40を通じて圧力室36内に補充される。すると、圧力室36内のインクが増加して該圧力室36内に発生していた負圧が解消される。
【0039】
これにより、下側に撓んでいたフィルム部材35が自らの弾性復元力により上側に変位することで、作動レバー54を介したフィルム部材35によるバルブ軸42への下方への押圧力が失われる。このため、弁体41がコイルばね47の付勢力によって閉弁状態となり、インク供給室39内から圧力室36内へのインクの補充が絶たれる。
【0040】
このとき、コイルばね47は該コイルばね47の上端部を構成する突出部48の先端が弁体41の重心を通る直線上に位置する付勢凹部46の底部46aの中心に点接触した状態で弁体41を付勢しているため、コイルばね47の付勢力はシール部材44に対して均一に加わる。このため、シール部材44とインク供給室39内の上壁面との密着性が高まり、連通孔40が確実に弁体41によって閉鎖される。したがって、弁体41の閉弁状態において、インク供給室39内から圧力室36内へのインクの漏れが確実に遮断されるので、圧力室36内の圧力が好適に調整され、記録ヘッド24へのインクの供給圧力が安定する。
【0041】
このように、プリンタ11の印刷時には、バルブユニット23の弁体41が開閉動作を繰り返すことにより、ノズルから噴射されるインクの量に応じて、適切な量のインクが安定して記録ヘッド24に供給される。このため、プリンタ11の印刷品質が向上される。
【0042】
因みに、コイルばね47の上端部が弁体41に対して円弧状に線接触する構成である場合、すなわちコイルばね47の上端部が環状をなして弁体41の鍔部43の下面に接触する構成である場合には、コイルばね47の組み付け位置が少しでもずれると、弁体41に対してコイルばね47の付勢力が偏って作用してしまう。このため、コイルばね47の付勢力がシール部材44に対して均一に加わらなくなり、シール部材44とインク供給室39内の上壁面との密着性が低下する。この結果、弁体41の閉弁状態においても連通孔40が確実に弁体41によって閉鎖されなくなり、記録ヘッド24へのインクの供給圧力が不安定になってしまう。
【0043】
以上、詳述した実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)コイルばね47は該コイルばね47を構成する線材の先端が弁体41に点接触した状態で弁体41を付勢しているため、コイルばね47の付勢力をシール部材44に対して均一に加えることができる。このため、閉弁状態における弁体41の連通孔40に対するシール性を向上することができ、記録ヘッド24へのインクの供給圧力の調整を安定して行うことができる。
【0044】
(2)コイルばね47は、弁体41の重心を通る直線上において該弁体41に対して点接触しているため、閉弁状態における弁体41に対してコイルばね47からの付勢力をバランスよく与えることができる。このため、閉弁状態における弁体41の連通孔40に対するシール性をより一層向上することができ、記録ヘッド24へのインクの供給圧力の調整を精度よく安定して行うことができる。
【0045】
(3)バルブユニット23においては、コイルばね47の突出部48を付勢凹部46内に挿入して突出部48の先端を付勢凹部46の底部46aに当接させることにより、簡単にコイルばね47を弁体41に対して点接触した状態にすることできる。
【0046】
(4)弁体41の付勢凹部46は、底部46aの中心が最も深く且つ底部46aの中心は弁体41の重心を通る直線(弁体の軸線に一致する)上に位置しているため、コイルばね47の突出部48を付勢凹部46の最奥部まで挿入することで、コイルばね47を弁体41に対して最適に点接触した状態に位置決めすることができる。
【0047】
(5)弁体41の付勢凹部46は、底部46aに向かうほど内径が小さくなっている。すなわち、弁体41の付勢凹部46は、その内面形状が円錐面形状をなしているため、コイルばね47の突出部48を付勢凹部46に挿入する際には、突出部48の先端を付勢凹部46の底部46aの中心に容易に案内することができる。
【0048】
(6)コイルばね47の下端部を構成する支持突出部49は、保持部材38の支持凹部50内に挿入されるとともに、その先端が支持凹部50内の底面に当接している。このため、コイルばね47の下端部を位置決め状態で支持することができるので、コイルばね47が上下方向に対して傾くことを抑制することができる。
【0049】
(7)通常、弁体41による連通孔40のシール性を確保するためには、シール部材44の径をコイルばね47の弁体41に対する接触部分の径よりも大きくする必要がある。この点、本実施形態ではコイルばね47の弁体41に対する接触部分の径が線材の径(弁体41に点接触するコイルばね47の突出部48の先端の径)であるため、シール部材44の径を線材の径にぎりぎりまで近づけることができ、バルブユニット23の小型化に寄与することができる。
(変更例)
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
【0050】
・図5に示すように、付勢凹部46の深さを底部46aがシール部材44よりも上側に位置する程度まで深くするとともに付勢凹部46の内径を一定にしてもよい。この場合、付勢凹部46に挿入されるコイルばね47の突出部48の長さは、付勢凹部46の深さとほぼ同じになるように設定する必要がある。このようにすれば、弁体41とコイルばね47との相対的な位置決めを効果的に行うことができるとともに、流路形成部材33に対する弁体41及びコイルばね47の組み付け性を向上することができる。
【0051】
・図6に示すように、コイルばね47の代わりに、蛇行状に湾曲した線材よりなるばね60を用いてもよい。さらに、このばね60を板材で構成してもよい。但し、ばね60を板材で構成する場合には、少なくとも突出部48となる部分は先端を弁体41に対して点接触し得る形状(尖鋭状など)にする必要がある。
【0052】
・図7に示すように、コイルばね47の代わりに、蛇行状に屈曲した線材よりなるばね61を用いてもよい。さらに、このばね61を板材で構成してもよい。但し、ばね61を板材で構成する場合には、少なくとも突出部48となる部分は先端を弁体41に対して点接触し得る形状(尖鋭状など)にする必要がある。
【0053】
・弁体41の付勢凹部46は省略してもよい。すなわち、コイルばね47の突出部48の先端が弁体41における鍔部43の下面の中心に点接触する構成であってもよい。
・シール部材44は、インク供給室39内の上壁面に連通孔40を囲うように設けてもよい。
【0054】
・コイルばね47の支持突出部49と支持凹部50とを省略し、コイルばね47の下端部を円環状に形成し、保持部材38の上面に対して円環状に線接触させてもよい。
・付勢凹部46の内径は、一定であってもよい。
【0055】
・付勢凹部46は、内面形状が円錐面形状でなく、角錐面形状であってもよい。
・付勢凹部46は、その下端の開口から底部46aに至る途中までの内径が一定であるとともに、その途中から底部46aの中心に向かって円錐面形状または角錐面形状をなすように形成したものであってもよい。
【0056】
・付勢凹部46の底部46aは、球面状であってもよい。
・支持凹部50の内面形状を円錐面形状または角錐面形状にしてもよい。このようにすれば、弁体41の位置精度をより一層向上させることができるので、記録ヘッド24へのインクの供給圧力をさらに安定させることができる。
【0057】
・コイルばね47は、軸方向において径が一定の円筒状にしてもよい。
・上記実施形態において、流体噴射装置を、記録用紙Pの搬送方向(前後方向)と交差する方向において記録ヘッド24が記録用紙Pの幅方向(左右方向)の長さに対応した全体形状をなす、いわゆるフルラインタイプ(ラインヘッド方式)のプリンタに具体化してもよい。
【0058】
・上記実施形態では、流体噴射装置をインクジェット式プリンタ11に具体化したが、この限りではなく、インク以外の他の流体(液体や、機能材料の粒子が液体に分散又は混合されてなる液状体、ゲルのような流状体を含む)を噴射したり吐出したりする流体噴射装置に具体化することもできる。例えば、液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ及び面発光ディスプレイの製造などに用いられる電極材や色材(画素材料)などの材料を分散または溶解のかたちで含む液状体を噴射する液状体噴射装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する液体噴射装置、精密ピペットとして用いられ試料となる液体を噴射する液体噴射装置であってもよい。さらに、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する液体噴射装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する液体噴射装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する液体噴射装置、ゲル(例えば物理ゲル)などの流状体を噴射する流状体噴射装置であってもよい。そして、これらのうちいずれか一種の流体噴射装置に本発明を適用することができる。なお、本明細書において「流体」とは、気体のみからなる流体を含まない概念であり、流体には、例えば液体(無機溶剤、有機溶剤、溶液、液状樹脂、液状金属(金属融液)等を含む)、液状体、流状体などが含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】実施形態におけるインクジェット式プリンタの概略平面図。
【図2】実施形態におけるバルブユニットの平面図。
【図3】図2における3−3線矢視断面図。
【図4】実施形態におけるバルブユニットの要部拡大断面図。
【図5】変更例におけるバルブユニットの要部拡大断面図。
【図6】変更例におけるバルブユニットの要部拡大簡略断面図。
【図7】変更例におけるバルブユニットの要部拡大簡略断面図。
【符号の説明】
【0060】
11…流体噴射装置としてのプリンタ、23…バルブユニット、24…流体噴射ヘッドとしての記録ヘッド、35…可撓性部材としてのフィルム部材、36…圧力室、40…流入孔としての連通孔、41…弁体、46…凹部としての付勢凹部、46a…付勢凹部の底部、47…付勢部材としてのコイルばね、48…突出部、52…流出孔としての流出路、54…作動部材としての作動レバー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を流入させるための流入孔及び流体を流出させるための流出孔を有する圧力室と、
閉弁状態となることにより前記流入孔を閉鎖するとともに、開弁状態となることにより前記流入孔を開放する弁体と、
該弁体を常には閉弁状態となる方向に付勢する付勢部材と、
前記圧力室の壁面の一部を構成し、その圧力室内の圧力変動に基づいて変位する可撓性部材と、
該可撓性部材の変位に伴って変位することで、前記付勢部材の付勢力に抗して前記弁体を開弁状態となる方向に押圧する作動部材とを備え、
前記付勢部材は、該付勢部材における前記弁体側の端部が前記弁体に対して点接触していることを特徴とするバルブユニット。
【請求項2】
前記付勢部材は、前記弁体の重心を通る直線上において前記弁体に対して点接触していることを特徴とする請求項1に記載のバルブユニット。
【請求項3】
前記付勢部材は前記弁体を付勢する方向に延びる突出部を備えるとともに、前記弁体は前記付勢部材による付勢方向を深さ方向とする凹部を備えており、
前記突出部の先端は前記凹部内の底部に当接していることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のバルブユニット。
【請求項4】
前記弁体の凹部は、その底部の中心が最も深く且つ前記弁体の重心を通る直線上に位置していることを特徴とする請求項3に記載のバルブユニット。
【請求項5】
前記弁体の凹部は、その内面形状が円錐面形状又は角錐面形状をなしていることを特徴とする請求項4に記載のバルブユニット。
【請求項6】
流体を噴射する流体噴射ヘッドと、請求項1〜請求項5のうちいずれか一項に記載のバルブユニットとを備えたことを特徴とする流体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−238465(P2008−238465A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−79296(P2007−79296)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】