説明

バルブ及び送液装置

【課題】バルブの複数回に渡る開閉による弁体のシール性能の劣化を抑制して弁体の長寿命化を図る。
【解決手段】本体部2の流体入口をなす孔4の縁にはテーパ状の弁体接触部4aが設けられている。駆動部8の先端に装着された弁体12の先端面の径d3は孔4の内径d1より大きく、弁体接触部4の縁の径d2よりも小さくなっている。弁体12の先端側外周面12aはテーパ状となっており、そのテーパ角θ2は弁体接触部4aのテーパ角よりも小さい。これにより、駆動部8を本体部2内部へ押し込む方向に移動させていくと、弁体12の先端外周部が弁体接触部4aに接触する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ツマミ部を回すことにより開閉する方式のバルブ及びそのバルブを用いた送液装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば液体クロマトグラフの分析流路に分析用移動相を供給するような送液装置では、一般的に、分析流路への流路から分岐した分岐流路が設けられ、分岐流路上に圧力センサや送液の圧力変動を抑制するダンパ及び分岐流路の開閉を行なうドレインバルブが設けられている。ドレインバルブは通常は閉じられているが、圧力センサが送液圧力の異常を検出した場合や送液装置の流路内に残った液体を排出する際に開放される。
【0003】
上記のドレインバルブとして用いられているバルブの構造の一例を図4に示す。
このバルブは、本体部16と駆動部22により構成されている。本体部16は内部に駆動部22の軸部22aを収容するための空間をもち、その空間内の奥壁に流体入口をなす孔18を備え、その側壁に流体出口をなす孔20を備えている。本体部16の内周面にネジが切られた螺合部16aが設けられている。
【0004】
駆動部22は本体部16内に収容される軸部22aと軸部22aの上部のツマミ部22bにより構成されている。軸部22aの上部外周面に螺合部22cが設けられ本体部16内周面の螺合部16aと螺合している。螺合部16aと22cの螺合により、ツマミ部22bを本体部16に対して相対的に回転させると軸部22aがそれに従って回転し、駆動部22が本体部16とは相対的に軸部22aの軸線方向へ移動する。軸部22aの先端の孔18に対向した位置に弁体24が取り付けられている。ツマミ部22bを回転させて軸部22aを本体部16内の奥側へ移動させると、弁体24が孔18を塞ぐとともに弁体24先端面の周縁部が孔18の縁の周囲の面と密着することにより孔18を封止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特願2009−150487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図4のバルブでは、弁体24の先端面の周縁部が流体入口である孔18の周囲の面に密着して孔18を封止するシール部となるため、弁体24の先端面を平坦にする必要がある。例えば、弁体24を切削加工で制作したときの旋盤目が先端面に存在していると弁体24と孔18との間のシール性が悪くなり、流体の漏れが発生することがある。
【0007】
また、一般的に弁体24の材質は本体部16よりも軟質な樹脂などであるが、弁体24が孔18側に強く押し付けられたときに弁体24の先端面の孔18の縁の周囲に押し付けられたシール部が変形して凹み、弁体24の先端面に凹凸が形成されることがある。弁体24の先端面に凹凸が形成された後でバルブを閉じる際に弁体24の孔18を塞ぐ位置が弁体24先端表面の凸部分が孔18の周囲の面に接するような位置にずれてしまうと、弁体24の先端表面と孔18の縁の周囲の密着性が悪くなり、漏れが発生する。そのため、従来のバルブでは、バルブの開閉の繰り返しや弁体24の孔18側への強い押し付けによりシール性能が劣化するという問題があった。
【0008】
そこで本発明は、弁体のシール性能の劣化を抑制して弁体の長寿命化を図ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のバルブは、内部空間の奥の壁面に流体入口となる孔を有するとともに内部空間の内壁にネジが切られた螺合部を有し、孔の開口部が内部空間側が広くなったテーパ状の弁体接触部となっている本体部と、外周面に螺合部と螺合するネジが切られた軸部及び軸部の先端に設けられた弁体保持部からなり、弁体保持部が本体部の内部空間内に挿入され、軸部が本体部に対して相対的に回転することにより軸部外周面と螺合部との螺合によって弁体保持部を孔側へ接近させ又は離間させる駆動部と、弁体保持部の孔に対向する位置に装着され、弁体接触部よりも軟質の材料で構成され、先端部の径が孔の内径よりも大きく孔の開口部の最大径よりも小さく、先端外周部が弁体接触部に密着するシール部となっている弁体と、を備えたものである。
【0010】
本発明では、流体入口となる孔の開口部をテーパ状にして弁体接触部を設け、その弁体接触部に弁体の先端外周部を密着させて孔を封止する。このため、弁体先端面が孔の縁に強く押し付けられることがなくなり、弁体先端面に凹凸が形成されない。また、弁体は弁体接触部よりも軟質なので弁体を孔側へ押し付けることにより先端外周部がテーパ状の弁体接触部に沿って変形して密着するため、製造時に高精度の加工を行なう必要がない。
【0011】
なお、弁体の先端外周面は弁体接触部よりも小さいテーパ角を有するテーパ状周面となっていることが好ましい。そうすれば、弁体の先端外周面の傾きが孔の縁の弁体接触部の傾きに近くなるため、弁体の先端外周部が弁体接触部に沿って変形したときのシール部の面積が大きくなる。なお、孔の縁の弁体接触部の「テーパ角」とは、孔の中心での縦断面における弁体接触部のテーパ形状の広がりの角度を意味し、弁体の先端外周面の「テーパ角」とは、弁体の中心での縦断面における先端外周面のテーパ形状の広がりの角度を意味する。
【0012】
駆動部の弁体保持部が軸部とは独立して回転可能であることが好ましい。この構造は特許文献1において提案されているものであり、弁体保持部が軸部とは独立して回転可能であるため、弁体が弁体接触部に接触しているときに軸部が回転しても弁体が回転しなくなり、弁体の脱落や弁体の先端表面の摩耗を防止できる。この構造により、弁体のさらなる長寿命化を図ることができる。
【0013】
本発明の送液装置は、送液ポンプ、送液ポンプの出口に接続された送液流路及び送液流路から分岐し必要に応じてバルブにより開閉される分岐流路を備え、分岐流路の開閉を行なうバルブが本発明のバルブとなっているものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明のバルブでは、流体入口となる孔の開口部を内部空間側が広くなったテーパ状にして弁体接触部を設け、その弁体接触部に弁体の先端外周部を密着させて孔を封止する構造のため、弁体先端面に凹凸が形成されず、バルブの開閉の繰り返しや弁体の孔側への強い押し付けによる弁体のシール性能の劣化を抑制することができる。また、これらにより、従来のバルブに比べて弁体の長寿命化を図ることができる。さらに、弁体先端外周部を弁体接触部に沿って変形させ密着させることにより、従来技術と比較してシール性能が向上するため、より高い圧力がバルブにかかる用途にも使用することができる。
【0015】
本発明の送液装置は長期間シール性能を維持することができる本発明のバルブをドレインバルブとして用いているので、送液精度の長期間の安定化を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】バルブの一実施例を概略的に示す図であり、(A)はバルブ全体の断面図、(B)は(A)の弁体及び弁体接触部を拡大して示す断面図である。
【図2】バルブを閉じたときの状態を示す断面図である。
【図3】送液装置の一実施例を示す流路構成図である。
【図4】従来のバルブの一例を概略的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のバルブの一実施例を図1を用いて説明する。
図1(A)に示されているように、この実施例のバルブは、本体部2と駆動部8により構成されている。本体部2の内部に駆動部8の軸部8a及び弁体保持部8cを収容する空間が設けられている。本体部2の内部空間の奥壁には流体入口をなす孔4が設けられ、側壁の最奥部に流体出口をなす孔6が設けられている。本体部2の内周面にネジが切られた螺合部2aが設けられている。
【0018】
駆動部8は軸部8a、ツマミ部8b及び弁体保持部8cにより構成されている。軸部8a及び弁体保持部8cは本体部2の内部に収容される。弁体保持部8cは軸部8aの先端にスリップリング8fを挟んで取り付けられている。軸部8aの内部に貫通穴が設けられており、その貫通穴を先端にネジが切られたネジ部材8eが貫通し、ネジ部材8e先端のネジ部に弁体保持部8cが保持されている。ネジ部材8eの頭は軸部8a内部の貫通穴の内径よりも大きく、軸部8aの内部壁面と係合している。ネジ部材8eは軸部8aとは独立して回転可能であり、ネジ部材8eの先端に固定されている弁体保持部8cも軸部8aとは独立して回転可能である。弁体保持部8cの周縁にリングシール8gが設けられており、弁体保持部8cの外周面と本体部2の内壁との間の隙間からの液漏れを防止している。
【0019】
弁体保持部8cの先端に弁体12が取り付けられている。弁体12は本体部2(金属製)よりも軟質の材料、例えば非熱可塑性ポリイミド樹脂(例えばベスペル(登録商標、デュポン社の製品))やPEEK(Poly Ether Ether Ketone)樹脂などの樹脂により形成されている。軸部8aの基端部外周面はネジが切られた螺合部8dとなっており、本体部2の螺合部2aと螺合している。軸部8aの基端部にツマミ部8bが取り付けられており、ツマミ部8bを回すことにより軸部8aを回転させて駆動部8を本体部2に対して相対的にその軸線方向へ移動させることができる。
【0020】
バルブを閉じる際は、ツマミ部8bを回して駆動部8を本体部2の内部奥側へ移動させ、弁体12の先端を孔4の開口部に接触させて孔4を塞ぐ。弁体保持部8c及び弁体12は、弁体12が孔4の開口部に接触するまでは軸部8aとともに回転するが、弁体保持部8cが軸部8aとは独立して回転可能であるため、弁体12が孔4の開口部に接触すると軸部8aの回転に拘わらず回転しなくなる。
【0021】
図1(B)に示されているように、本体部2内部の孔4の縁にはテーパ状の弁体接触部4aが形成されている。弁体12の先端側外周面12aもテーパ状に形成されている。弁体12の先端側外周面12aのテーパ角θ2は孔6の縁のテーパ角θ1よりも小さくなっている。弁体12の先端面の径d3は、孔4の内径よりも大きいが弁体接触部4aの縁の径d2よりも小さくなっている。
【0022】
上記の寸法関係により、ツマミ部8bを回して駆動部8を本体部2内部奥側へ移動させていくと、弁体12の先端外周部が弁体接触部4aに接触し、その状態からさらにツマミ部8bを回して弁体12を孔4側へ押し付けると、図2に示されているように、弁体12の先端外周部が弁体接触部4aに沿って変形する。これにより、弁体12の先端面の平坦性に関係なく、弁体12と弁体接触部4aとの密着性が高まり、孔4を封止することができる。弁体12の先端外周部を弁体接触部4aに沿って変形させる必要があるため、軸部8aの基端部から弁体12の先端部までの長さは本体部2の内部空間の奥行きよりも長く、螺合部2aと8dとが螺合可能部分の長さは、弁体12の先端外周部が弁体接触部4aに接触した後も軸部8a及び弁体保持部8cを本体部2の奥側へ駆動可能な長さである。
【0023】
なお、この実施例では弁体12の先端外周部が弁体接触部4aに沿って変形しやすくなるように弁体12の先端側外周面12aをテーパ状にしているが、本発明はこれに限定されるものではなく、弁体12が円柱形状であってもよい。
弁体接触部4aのテーパ角θ1は、弁体12の先端外周部を弁体接触部4aに押し付けたときに、弁体12が変形して弁体12の先端表面が孔4の縁部(弁体接触部4aの底部)に到達しない角度である。弁体12の先端表面が孔4の縁部に到達してしまうと弁体12の先端表面に凹凸が形成される虞があるからである。テーパ角θ1の一例は40°であり、そのときのテーパ角θ2の一例は35°である。
【0024】
次に、図3を用いて本発明の送液装置の一実施例を説明する。
この送液装置30は、液体クロマトグラフの分析流路40に接続されている。分析流路40は試料を注入するためのインジェクションポート42、分析カラム44及び検出器46を備えた流路である。送液装置30は送液ポンプとしてシリンジポンプ32を備えている。シリンジポンプ32のプランジャ32aを吸引側へ駆動したときは弁34aが開いて弁34bが閉じ、移動相供給流路36から移動相が吸引され、逆にプランジャ32aを吐出側へ駆動したときは弁34bが開いて弁34aが閉じ、吸引した移動相が分析流路40に通じる送液流路38へ押し出されるように構成されている。
【0025】
送液流路38は分析流路40の上流側で分岐流路50と分岐している。分岐流路50上には圧力センサ52、ダンパ54及びドレインバルブ56が設けられている。ドレインバルブ56は図1及び図2で説明したような本発明のバルブである。通常時、ドレインバルブ56は閉じられており、分岐流路50は袋小路となっている。圧力センサ52はシリンジポンプ32による送液圧力をモニタしており、圧力センサ52が異常圧力を検出したときや送液流路38中の液体を排出するときにドレインバルブ56が開けられる。
【符号の説明】
【0026】
2 本体部
2a 本体部内周面側螺合部
4 孔(流体入口)
4a 弁体接触部
6 孔(流体出口)
8 駆動部
8a 軸部
8b ツマミ部
8c 弁体保持部
8d 軸部外周面側螺合部
12 弁体
12a 弁体先端側外周面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部空間の奥の壁面に流体入口となる孔を有するとともに前記内部空間の内壁にネジが切られた螺合部を有し、前記孔の開口部が前記内部空間側が広くなったテーパ状の弁体接触部となっている本体部と、
外周面に前記螺合部と螺合するネジが切られた軸部及び前記軸部の先端に設けられた弁体保持部からなり、前記弁体保持部が前記本体部の前記内部空間内に挿入され、前記軸部が前記本体部に対して相対的に回転することにより前記軸部外周面と前記螺合部との螺合によって前記弁体保持部を前記孔側へ接近させ又は離間させる駆動部と、
前記弁体保持部の前記孔に対向する位置に装着され、前記弁体接触部よりも軟質の材料で構成され、先端部の径が前記孔の内径よりも大きく前記孔の開口部の最大径よりも小さく、先端外周部が前記弁体接触部に密着するシール部となっている弁体と、を備えたバルブ。
【請求項2】
前記弁体の先端外周面は前記弁体接触部よりも小さいテーパ角を有するテーパ状周面となっている請求項1に記載のバルブ。
【請求項3】
前記弁体保持部は前記軸部とは独立して回転可能である請求項1又は2に記載のバルブ。
【請求項4】
送液ポンプ、前記送液ポンプの出口に接続された送液流路及び前記送液流路から分岐し必要に応じてバルブにより開閉される分岐流路を備えた送液装置において、
前記分岐流路の開閉を行なう前記バルブが請求項1から3のいずれか一項に記載のバルブである送液装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−7638(P2012−7638A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−142153(P2010−142153)
【出願日】平成22年6月23日(2010.6.23)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】