説明

パターニング装置および薄膜除去工具

【課題】高い形成精度の薄膜を効率良く形成することのできるパターニング装置、および同装置に用いて好適な薄膜除去工具を提供する。
【解決手段】パターニング装置は、薄膜の一部をツール30によって除去することにより、薄膜太陽電池の一部をなす所定形状の薄膜を形成する。ツール30は、その先端部分の断面形状が二つの凸部34とそれら凸部34の間に形成された凹部35とにより構成される形状に形成される。凸部34の突端が鋭角をなす形状に形成されるとともに、凹部35の内面には粗面加工が施される。凸部34および凹部35が円形状で延びる形状に形成される。パターニング装置はツール30を回転させるツール回転機構を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜太陽電池の製造過程において素材の表面に所定形状の薄膜を形成するパターニング装置、および同装置に設けられて薄膜の一部を除去する作業に用いられる薄膜除去工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常、例えばCIGS(Copper Indium Gallium DiSelenide)薄膜を有する太陽電池などの薄膜太陽電池は、材質や形状の異なる複数の薄膜を平板形状の素材の上に積層することによって製造される。各薄膜の形成は次のような手順で行われる。すなわち、蒸着法などによって素材の表面に薄膜を形成した後に同薄膜の一部を除去することにより、素材の表面に予め定められた所定形状の薄膜が形成される。
【0003】
従来、このようにして薄膜の一部を除去する作業を薄膜除去用の工具を用いて行うことが提案されている(例えば特許文献1参照)。特許文献1に記載の装置では、薄膜除去工具としてスクレイパーが用いられる。そして、このスクレイパーの移動位置を制御することにより、同スクレイパーによって薄膜の不要な部分が剥離および除去されて、所定形状の薄膜が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−315809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記装置では、スクレイパーによって薄膜の不要な部分を除去する際に、当然のことながら、その加工部分(詳しくは、スクレイパーと薄膜との接触部分)に、いわゆるカスが生じる。こうしたカスが加工部分に溜まると、これがスクレイパーによる薄膜の適正な除去を妨げる等して、同薄膜の形成精度を低下させるおそれがある。
【0006】
そうした形成精度の低下を回避するためには、スクレイパーの動作を一時的に停止させたうえで加工部分に溜まったカスを取り除くといったクリーニング作業を定期的に行えばよい。ただし、こうしたクリーニング作業を行うと、その分だけ各薄膜の形成に要する時間が長くなるために、これが各薄膜の形成効率、ひいては太陽電池の製造効率の低下を招く一因となってしまう。
【0007】
本発明は、そうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、高い形成精度の薄膜を効率良く形成することのできるパターニング装置、および同装置に用いて好適な薄膜除去工具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について説明する。
(手段)
請求項1に記載の発明は、素材の表面に予め形成された薄膜の一部を薄膜除去工具によって除去することにより、薄膜太陽電池の一部をなす所定形状の薄膜を形成するパターニング装置において、前記薄膜除去工具は、その先端部分の断面形状が二つの凸部とそれら凸部の間に形成された凹部とからなる形状をなし、且つ前記凸部の突端が鋭角をなす形状に形成されるとともに前記凹部の内面に粗面加工が施されてなり、且つ前記凸部および前記凹部が円弧形状で延びる形状に形成されてなり、前記装置は、前記円弧形状の中心を回転軸に前記薄膜除去工具を回転させる回転機構を有してなることをその要旨とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のパターニング装置において、前記凹部は、その内面が断面C字形状で延びる形状に形成されてなることをその要旨とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載のパターニング装置において、前記薄膜除去工具は、前記二つの凸部および前記凹部が円形状で延びる形状に形成されてなることをその要旨とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載のパターニング装置において、前記薄膜除去工具は、円板形状に形成されてなるとともに、その外周の全周にわたって延びる形状で前記二つの凸部および前記凹部が形成されてなることをその要旨とする。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載のパターニング装置において、前記回転機構は、前記薄膜除去工具による前記薄膜の除去に際して同薄膜除去工具を回転させるものであることをその要旨とする。
【0012】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載のパターニング装置において、当該装置は、前記予め形成された薄膜の複数箇所を連続して加工するものであり、前記回転機構は、前記薄膜除去工具による前記薄膜の除去に際して同薄膜除去工具の回転を停止させるものであり、特定箇所の薄膜の除去が完了した後に他の箇所の薄膜を除去するべく前記薄膜除去工具を移動させる際に、同薄膜除去工具を所定角度だけ回転させるものであることをその要旨とする。
【0013】
請求項7に記載の発明は、薄膜太陽電池の一部をなす所定形状の薄膜を形成するべく、素材の表面に予め形成された薄膜の一部を除去する薄膜除去工具において、先端部分の断面形状が二つの凸部とそれら凸部の間に形成された凹部とからなる形状をなし、且つ前記凸部の突端が鋭角をなす形状に形成されるとともに前記凹部の内面に粗面加工が施されてなり、且つ前記凸部および前記凹部が円弧形状で延びる形状に形成されてなることをその要旨とする。
【0014】
請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の薄膜除去工具において、前記凹部は、その内面が断面C字形状で延びる形状に形成されてなることをその要旨とする。
請求項9に記載の発明は、請求項7または8に記載の薄膜除去工具において、前記二つの凸部および前記凹部は円形状で延びる形状に形成されてなることをその要旨とする。
【0015】
請求項10に記載の発明は、請求項7〜9のいずれか一項に記載の薄膜除去工具において、当該工具は、円板形状に形成されてなるとともに、その外周の全周にわたって延びる形状で前記二つの凸部および前記凹部が形成されてなることをその要旨とする。
(作用効果)
請求項1または7に記載の発明の構成によれば、薄膜に食い込ませた状態での薄膜除去工具の移動を通じて、薄膜の除去するべき部分の両端を二つの凸部の突端によって切断するとともにそれら凸部間の薄膜を凹部の内面(粗面)に付着させることにより、薄膜の予め定められた部分を精度よく除去することができる。そして、薄膜除去工具による薄膜の除去を行う際に同薄膜除去工具を回転させることにより、薄膜除去工具の一部位のみを用いるのではなく多数の部位を用いて薄膜の除去を行うことができるようになる。そのため、加工に際して生じるカスによる影響を小さく抑えたうえで薄膜除去工具による薄膜の除去を行うことができるようになり、所定形状の薄膜を高い形成精度で形成することができるようになる。しかも、カスの除去のために薄膜の除去を一時的に停止させるとの作業の実行頻度を低くする、あるいは同作業そのものを省略することができる。そのため、所定形状の薄膜の形成にかかる作業時間の短縮を図ることができ、同薄膜を効率良く形成することができる。
【0016】
請求項2または8に記載の発明の構成によれば、薄膜除去工具の凹部における上記凸部に隣接する部分を薄膜に食い込ませつつ同凸部による薄膜の切断を行うことができる。そのため、薄膜の除去するべき部分の両端が凹部の内面に引っ掛かり易くなり、同部分を凹部の内面に付着させて除去するとの作業を好適に行うことができるようになる。
【0017】
請求項3または9に記載の発明の構成によれば、薄膜除去工具において薄膜の除去に用いることのできる部位をごく多くすることができる。しかも、回転させた状態で実行される加工を通じて薄膜除去工具の凸部および凹部を形成することができ、同薄膜除去工具の製造を容易に行うことができる。
【0018】
請求項4または10に記載の発明の構成によれば、回転させた状態で行われる加工を通じて薄膜除去工具の全体を形成することができ、その製造をより容易に行うことができる。
【0019】
請求項5に記載の発明の構成によれば、加工部分(薄膜除去工具が薄膜に食い込む部分)から前記カスを取り除きつつ薄膜除去工具による薄膜の除去を行うことができ、カスによる影響を小さく抑えたうえで薄膜除去工具による薄膜の除去を行うことができる。
【0020】
請求項6に記載の発明の構成によれば、予め形成された薄膜の複数箇所を薄膜除去工具の異なる部分を用いてそれぞれ除去することができるようになる。そのため、薄膜除去工具の一部分のみを用いて複数箇所の薄膜を除去する構成と比較して、前記カスによる影響を小さく抑えたうえで薄膜除去工具による薄膜の除去を行うことができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、高い形成精度の薄膜を効率良く形成することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】[a]および[b]本発明を具体化した一実施の形態にかかるパターニング装置の概略構成を示す略図。
【図2】[a]〜[e]薄膜太陽電池の各製造工程を示す略図。
【図3】パターニングの一例を示す平面図。
【図4】[a]および[b]ツールの側面図。
【図5】第3工程における加工部分の断面図。
【図6】クリーンアップ部の配設態様を示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明にかかるパターニング装置および薄膜除去工具を具体化した一実施の形態について説明する。
ここでは先ず、本実施の形態にかかるパターニング装置の概略構成について説明する。
【0024】
図1[a]および[b]に、本実施の形態にかかるパターニング装置の側面構造を示す。なお図1[b]は、同図[a]における矢印A方向から見たパターニング装置の側面構造を示している。
【0025】
同図1に示すように、ベース部11には移動テーブル12が設けられている。この移動テーブル12には加工対象物(ワークW)が固定される。この移動テーブル12はリニアモータ13を介してベース部11に取り付けられている。本実施の形態にかかる装置は、このリニアモータ13の作動制御を通じて、移動テーブル12(およびこれに固定されたワークW)を上記ベース部11に対して所定の方向(同図[b]中にY軸で示す方向)に移動させることの可能な構造になっている。
【0026】
そして本実施の形態にかかる装置による加工に際しては、リニアモータ13の作動制御を通じて移動テーブル12を移動させることにより、ワークWの表面にツール30の先端が食い込んだ状態で同ツール30が移動するようになって、ワークWの表面に所定の方向(上記Y軸方向)において直線状に延びる溝が形成される。
【0027】
ベース部11には装置本体14が設けられており、同装置本体14には複数(本実施の形態では五つ)のツールユニット15が設けられている。
それらツールユニット15のヘッド部15aには、ワークWを加工するためのツール30や、同ツール30を回転させるための回転モータを有するツール回転機構16、該ツール30を清掃するためのクリーンアップ部17などが設けられている。
【0028】
また各ツールユニット15のアーム部15bは共用のツール駆動部18を介して装置本体14に取り付けられている。ツール駆動部18は、各ツールユニット15を装置本体14に対して第1の方向(同図[a]にX軸で示す方向)に移動させるためのリニアモータ18aと第2の方向(同図[a]にZ軸で示す方向)に移動させるためのリニアモータ18bとを備えている。本実施の形態にかかる装置は、このツール駆動部18(詳しくは、そのリニアモータ18a,18b)の作動制御を通じて、各ツールユニット15を装置本体14に対して二方向(第1の方向および第2の方向)にそれぞれ移動させることの可能な構造になっている。
【0029】
そして本実施の形態にかかる装置による加工に際しては、各ツール30による上記溝の形成に先立って、それらツール30の先端が予め定められた所望の位置でワークWの表面に食い込んだ状態になるように、ツール駆動部18の作動制御を通じて各ツールユニット15を移動させる。これにより、その後のリニアモータ13の作動制御を通じた移動テーブル12の移動に伴って、ワークWの表面の所定の位置に溝が形成されるようになる。
【0030】
なお、各ツールユニット15のアーム部15bにはダンパユニット19が設けられている。本実施の形態にかかる装置では、このダンパユニット19の作動制御を通じて、ワークWに対するツール30の接触圧力が同ワークWの加工に適した範囲内に収まるように調節される。
【0031】
本実施の形態にかかる装置は、例えばマイクロコンピュータを備えて構成される電子制御ユニット20を備えており、この電子制御ユニット20にはリニアモータ13やツール回転機構16、ツール駆動部18、ダンパユニット19などが接続されている。そして、電子制御ユニット20は、それらリニアモータ13、ツール回転機構16、ツール駆動部18およびダンパユニット19の作動制御を統括して実行する。
【0032】
次に、本実施の形態にかかる装置を用いて製造される薄膜太陽電池の製造手順について説明する。
図2は、薄膜太陽電池の製造過程における各工程を示している。
【0033】
なお図2にあっては、理解を容易にするために薄膜太陽電池を構成する各層の形状を単純化して示しており、各層の形状は実際のものとは異なる。
薄膜太陽電池の製造に際しては先ず、その第1工程において、図2[a]に示すように、ガラス基板41の一方の面全体を覆うように裏面電極層42(モリブデン[Mo]の膜)が形成される。この裏面電極層42はスパッタリング加工などによって形成される。そして、レーザ加工によって裏面電極層42の一部を除去することによって同裏面電極層42を所定の形状に形成するといった、いわゆるパターニングが行われる。なお、このレーザ加工によるパターニングは本実施の形態にかかる装置以外の装置を用いて行われる。
【0034】
その後の第2工程においては、図2[b]に示すように、ガラス基板41における上記裏面電極層42が形成された側の面を覆うように光吸収層43(CIGSの膜)が形成されるとともに、同光吸収層43を覆うようにバッファ層44(硫化カドニウム[CdS]を主成分とする膜)が形成される。なお上記光吸収層43はセレン化法や多元蒸着法などを用いて形成され、バッファ層44はスパッタリング加工や化学析出法によって形成される。
【0035】
その後の第3工程では、図2[c]に示すように、光吸収層43およびバッファ層44の一部を除去することによってそれら光吸収層43およびバッファ層44を所定の形状に形成するといったパターニングが行われる。なお、このパターニングは本実施の形態にかかる装置を用いて行われる。本実施の形態にかかる装置によるパターニングの詳細については後述する。
【0036】
その後の第4工程においては、図2[d]に示すように、ガラス基板41における上記光吸収層43やバッファ層44が形成された側の面を覆うように透明電極層45(酸化亜鉛[ZnO]を主成分とする膜)が形成される。なお、この透明電極層45はスパッタリング加工や化学気相成長法などにより形成される。
【0037】
その後の第5工程では、図2[e]に示すように、光吸収層43、バッファ層44、および透明電極層45の一部を除去することによって各層43,44,45を所定の形状に形成するといったパターニングが行われる。なお、このパターニングについても本実施の形態にかかる装置が用いられる。また、レーザ加工により、裏面電極層42、光吸収層43、バッファ層44、および透明電極層45の一部を除去することによって各層42,43,44,45を所定の形状に形成するとのパターニングが行われる。このレーザ加工によるパターニングは、本実施の形態にかかる装置以外の装置を用いて行われる。
【0038】
上述した各工程におけるパターニングでは、図3に一例を示すように、ワークWの薄膜を所定の形状に形成するべく、同ワークWの表面において平行に延びる複数の溝Bが形成される。そして本実施の形態にかかる装置によるパターニングでは、そうした溝Bの形成が前記ツール30(図1参照)を用いて行われる。
【0039】
以下、本実施の形態の装置にかかるツール30について詳細に説明する。
図4[a]および[b]は共にツール30の側面構造を示しており、同図[a]は同図[b]における矢印C方向から見たツール30の側面構造を示している。
【0040】
図4に示すように、ツール30の本体部31は円板形状に形成されており、同本体部31の中央部分には貫通孔32が形成されている。この貫通孔32はツール30をツールユニット15(図1参照)に取り付ける際に用いられる。
【0041】
ツール30には、その周囲の全周にわたって延びる円形状の加工部33が形成されている。この加工部33は、図4[b]の一部を拡大して示すように、先端部分の断面形状が所定間隔(例えば数十μm〜百数十μm)をおいた位置に形成される二つの凸部34とそれら凸部34の間に形成された凹部35とにより構成される形状となるように形成されている。この加工部33の各凸部34はその突端が鋭角になる形状にそれぞれ形成されており、上記凹部35はその底面の断面が所定の深さ(例えば数μm)のC字形状になる形状に形成されている。また、凹部35の内面にはワイヤ放電加工法などを用いて粗面加工が施されている。
【0042】
そして本実施の形態では、前記した第3工程と第5工程(図2参照)におけるパターニングが次のようにして実行される。すなわち、ツール駆動部18(図1)の作動制御を通じて各ツールユニット15を所望の位置に移動させた後に、リニアモータ13の作動制御を通じて、ツール30の先端をワークWに食い込ませた状態で前記移動テーブル12をワークWともども同ツール30の径方向(図1[b]におけるY軸方向)に移動させるとの作業が繰り返し実行される。これにより、ワークWの表面に平行に延びる複数の溝B(図3参照)が形成されるようになる。
【0043】
以下、上記ツール30よる加工態様について説明する。
図5は、そうした加工態様の一例として、前記第3工程における加工部分(ツール30の先端がワークWに食い込む部分)の断面構造を示している。
【0044】
同図5から明らかなように、ツール30が移動すると各凸部34の突端により、素材としてのワークWの表面に形成された薄膜(第3工程では光吸収層43およびバッファ層44)の除去するべき部分D(具体的には、前記溝B[図3参照]になる部分)の両端が切断される。そして、そのように切断された部分に挟まれた部分をツール30の凹部35の内面に引っ掛けたり同ツール30の移動に伴って引っ張ったりして裏面電極層42から剥ぎ取ることによってワークWから除去する。このように本実施の形態では、薄膜の除去するべき部分Dの両端を切断しつつその間の部分を除去するといったように薄膜の除去を行うことができ、同部分Dを精度よく除去することができる。
【0045】
なお、こうしたツール30による薄膜の除去に際しては、前記ダンパユニット19(図1参照)の作動制御を通じて、同ツール30の各凸部34によって裏面電極層42を傷つけることなく薄膜のみが切断されるようにツール30とワークWとの接触圧力が調節される。
【0046】
また本実施の形態では、ツール30の凹部35の内面が断面C字形状で延びる形状に形成されている。これにより、ツール30の凸部34による薄膜の切断を、凹部35における凸部34に隣接した部分を薄膜に食い込ませつつ行うことができるようになる。そのため、薄膜の除去するべき部分Dの両端が凹部35の内面に引っ掛かり易くなり、同部分Dを凹部35の内面に付着させて除去するとの作業を好適に行うことができるようになる。
【0047】
さらに本実施の形態では、ツール30による薄膜の除去が、円板形状のツール30の中心を回転軸として同ツール30を前記ツール回転機構16によって回転させた状態で行われる。このツール30の回転方向としては、図6に示すように、同ツール30の移動方向における前方側の部分が上方に移動するようになる回転方向(同図中に矢印Eで示す方向)が設定されている。そのためツール30による加工によって生じるカスが同ツール30の回転によって順次上方に持ち上げられるようになり、同カスを、ツール30の凹部35(図5)と裏面電極層42との間を通過させることなく加工部分から適切に排除することができるようになる。しかも、薄膜の除去に、ツール30の加工部33の一部位のみが用いられるのではなく多数の部位が用いられるようになる。そのため、ツール30による加工に際してカスが凹部35に付着するとはいえ、その付着による影響を小さく抑えたうえで同ツール30による薄膜の除去を行うことができる。したがって、所定形状の薄膜を高い形成精度で形成することができるようになる。
【0048】
ツール30が円板形状に形成されるとともにその周囲の全周にわたって加工部33が形成されているために、薄膜の除去に用いることの可能な部分をごく多くすることができ、同ツール30を使いやすいものにすることができる。また、ツール30による薄膜の除去に際して加工部33への単位面積当たりのカスの付着量を少なくすることができ、これによりカスによる影響が小さくなるためにツール30を長い期間にわたり連続して使用することができるようになる。さらには、各凸部34や凹部35を備えたツール30自体を、回転させた状態で実行される加工を通じて形成することができ、同ツール30の製造を容易に行うことができる。
【0049】
また本実施の形態では、ツールユニット15(図1参照)の内部に前記クリーンアップ部17(図6)が設けられており、このクリーンアップ部17はツール30の上方において同ツール30と接するように設けられている。クリーンアップ部17は、ツール30の加工部33に付着したカスを払い落とすためのブラシ(図示略)と同カスを吸引するための吸引ダクト21とを備えている。そして、ツール30の加工部33に付着したカスは、上記クリーンアップ部17を通過する際に除去される。
【0050】
このように本実施の形態では、ツール30に付着したカスが同ツール30の回転に伴ってクリーンアップ部17を通過する際に順次除去される。そのため、ツール30の加工部33に付着したカスの除去のために同ツール30による薄膜の除去を一時的に停止させるとの作業を行う必要がなく、そうした作業が必要になる装置と比較して所定形状の薄膜の形成にかかる作業時間の短縮を図ることができ、同薄膜を効率良く形成することができる。
【0051】
また、円板形状のツール30を回転させた状態で同ツール30による薄膜の除去が行われるために、ツール30によって薄膜を除去する部分(加工部分)と異なる位置において同ツール30に付着したカスを取り除くことができる。そのため、そうしたカスを取り除くための装置(本実施の形態では、クリーンアップ部17)の形状や配設位置についての自由度を高くすることができる。
【0052】
以上説明したように、本実施の形態によれば、以下に記載する効果が得られるようになる。
(1)ツール30の凸部34の突端によって薄膜の除去するべき部分の両端を切断するとともにそれら凸部34間の薄膜を凹部35の内面に付着させることにより、薄膜の予め定められた部分を精度よく除去することができる。そして、ツール30による薄膜の除去を行う際に同ツール30を回転させることにより、ツール30の一部位のみを用いるのではなく多数の部位を用いて薄膜の除去を行うことができる。そのため、加工に際して生じるカスによる影響を小さく抑えたうえでツール30による薄膜の除去を行うことができるようになり、所定形状の薄膜を高い形成精度で形成することができるようになる。しかも、ツール30の加工部33に付着したカスの除去のために同ツール30による薄膜の除去を一時的に停止させるとの作業を行う必要がなく、そうした作業が必要になる装置と比較して所定形状の薄膜の形成にかかる作業時間の短縮を図ることができ、同薄膜を効率良く形成することができる。
【0053】
(2)ツール30の凹部35を、その内面が断面C字形状で延びる形状に形成した。そのため、ツール30の凹部35における上記凸部34に隣接する部分を薄膜に食い込ませつつ、同凸部34による薄膜の切断を行うことができる。そのため、薄膜の除去するべき部分の両端が凹部35の内面に引っ掛かり易くなり、薄膜の除去するべき部分を凹部35の内面に付着させて除去するとの作業を好適に行うことができる。
【0054】
(3)ツール30の二つの凸部34および凹部35を円形状で延びる形状に形成した。そのため、ツール30において薄膜の除去に用いることのできる部位をごく多くすることができる。しかも、回転させた状態で実行される加工を通じてツール30の凸部34および凹部35を形成することができ、同ツール30の製造を容易に行うことができる。
【0055】
(4)ツール30の本体部31を円板形状に形成するとともに、その外周の全周にわたって延びる形状で二つの凸部34および凹部35を形成した。そのため、回転させた状態で行われる加工を通じてツール30の全体を形成することができ、その製造をより容易に行うことができる。
【0056】
(5)ツール30による薄膜の除去に際して同ツール30をツール回転機構16によって回転させるようにした。そのため、ツール30の先端が薄膜に食い込んだ部分(加工部分)からカスを取り除きつつ同ツール30による薄膜の除去を行うことができ、カスによる影響を小さく抑えたうえでツール30による薄膜の除去を行うことができる。
【0057】
なお、上記実施の形態は、以下のように変更して実施してもよい。
・クリーンアップ部17に代えて、ツール30の加工部33に付着したカスを適正に取り除くことができるものであれば、例えばツール30の加工部33に付着したカスを粘着テープに付着させて取り除くものなど、任意の構成のものを採用することができる。
【0058】
・ツール30の凹部35の内面を粗面にするための加工方法としては、ワイヤ放電加工法に限らず、例えばコーティング加工法など、任意の加工方法を採用することができる。
・ツール30によって薄膜を除去するときにおける同ツール30の回転態様は任意に変更することができる。例えば、ツール30の移動方向における後方側の部分が下方に移動するようになる回転方向に同ツール30を回転させるようにしてもよい。こうした構成によれば、加工によって生じたカスをツール30の進行方向における後方側に排除することができる。また同構成において、ワークWの表面を転がるようにツール30を回転させるようにしてもよい。こうした構成では、ツール30の凸部34によって裏面電極層42が擦られることがなくなり、同裏面電極層42に傷が付くことを抑えることができる。
【0059】
・ツール30の回転を停止させた状態で同ツール30による薄膜の除去を行うようにしてもよい。この場合には、特定箇所の薄膜の除去が完了した後に他の箇所の薄膜を除去するべくツール30を移動させる際に、ツール回転機構16によって同ツール30を所定角度(例えば数十度)だけ回転させるようにすればよい。こうした構成によれば、複数箇所の薄膜をツール30の異なる部分を用いてそれぞれ除去することができるようになる。そのため、ツール30の一部分のみを用いて複数箇所の薄膜を除去する構成と比較して、加工部分に付着するカスの量を少なくすることができ、カスによる影響を小さく抑えたうえでツール30による薄膜の除去を行うことができる。
【0060】
・ツール30の凹部35の形状は、薄膜を適正に除去することのできる形状であれば、その内面が断面C字形状で延びる形状に限らず、任意に変更することができる。例えば幅方向における中央部分の深さが他の部分より浅い形状の凹部を形成したり、延設方向に沿って延びる複数の突起を底部に備えた凹部を形成したりすることができる。
【0061】
・円板形状の素材の外周に二つの凸部34および凹部35を形成することによってツール30を形成することの他、外周の先端が鋭角をなす形状に形成された二枚の円板と外周に粗面加工が施された円板とを各別に形成するとともにそれら円板を互いに貼り付けるなどして一体化することによってツール30を形成することもできる。
【0062】
・ツール30として円板形状のものを採用することに限らず、例えば半円形状のものや扇形状のものなど、外面の一部が円弧をなす他の形状のものを採用してもよい。この場合、外面における円弧形状の部分に凸部および凹部を形成すればよい。こうした構成によっても、上記(1)、(2)、(5)に準じた効果を得ることができる。
【0063】
・本発明は、薄膜の除去に際してワークともども移動テーブルを移動させる装置に限らず、ツールユニットや装置本体を移動させる装置にも適用することができる。また、薄膜の除去に先立ってワークに対するツールユニットの移動位置を予め定められた位置に変更する際に、ツールユニットを移動させる装置に限らず、移動テーブルを移動させる装置にも、本発明は適用可能である。
【0064】
・本発明は、実施の形態に記載した薄膜太陽電池以外の薄膜太陽電池の製造に用いられる装置にも適用することができる。
【符号の説明】
【0065】
11…ベース部、12…移動テーブル、13…リニアモータ、14…装置本体、15…ツールユニット、15a…ヘッド部、15b…アーム部、16…ツール回転機構、17…クリーンアップ部、18…ツール駆動部、18a,18b…リニアモータ、19…ダンパユニット、20…電子制御ユニット、21…吸引ダクト、30…ツール(薄膜除去工具)、31…本体部、32…貫通孔、33…加工部、34…凸部、35…凹部、41…ガラス基板、42…裏面電極層、43…光吸収層、44…バッファ層、45…透明電極層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
素材の表面に予め形成された薄膜の一部を薄膜除去工具によって除去することにより、薄膜太陽電池の一部をなす所定形状の薄膜を形成するパターニング装置において、
前記薄膜除去工具は、その先端部分の断面形状が二つの凸部とそれら凸部の間に形成された凹部とからなる形状をなし、且つ前記凸部の突端が鋭角をなす形状に形成されるとともに前記凹部の内面に粗面加工が施されてなり、且つ前記凸部および前記凹部が円弧形状で延びる形状に形成されてなり、
前記装置は、前記円弧形状の中心を回転軸に前記薄膜除去工具を回転させる回転機構を有してなる
ことを特徴とするパターニング装置。
【請求項2】
請求項1に記載のパターニング装置において、
前記凹部は、その内面が断面C字形状で延びる形状に形成されてなる
ことを特徴とするパターニング装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のパターニング装置において、
前記薄膜除去工具は、前記二つの凸部および前記凹部が円形状で延びる形状に形成されてなる
ことを特徴とするパターニング装置。
【請求項4】
請求項3に記載のパターニング装置において、
前記薄膜除去工具は、円板形状に形成されてなるとともに、その外周の全周にわたって延びる形状で前記二つの凸部および前記凹部が形成されてなる
ことを特徴とするパターニング装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のパターニング装置において、
前記回転機構は、前記薄膜除去工具による前記薄膜の除去に際して同薄膜除去工具を回転させるものである
ことを特徴とするパターニング装置。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のパターニング装置において、
当該装置は、前記予め形成された薄膜の複数箇所を連続して加工するものであり、
前記回転機構は、前記薄膜除去工具による前記薄膜の除去に際して同薄膜除去工具の回転を停止させるものであり、特定箇所の薄膜の除去が完了した後に他の箇所の薄膜を除去するべく前記薄膜除去工具を移動させる際に、同薄膜除去工具を所定角度だけ回転させるものである
ことを特徴とするパターニング装置。
【請求項7】
薄膜太陽電池の一部をなす所定形状の薄膜を形成するべく、素材の表面に予め形成された薄膜の一部を除去する薄膜除去工具において、
先端部分の断面形状が二つの凸部とそれら凸部の間に形成された凹部とからなる形状をなし、且つ前記凸部の突端が鋭角をなす形状に形成されるとともに前記凹部の内面に粗面加工が施されてなり、且つ前記凸部および前記凹部が円弧形状で延びる形状に形成されてなる
ことを特徴とする薄膜除去工具。
【請求項8】
請求項7に記載の薄膜除去工具において、
前記凹部は、その内面が断面C字形状で延びる形状に形成されてなる
ことを特徴とする薄膜除去工具。
【請求項9】
請求項7または8に記載の薄膜除去工具において、
前記二つの凸部および前記凹部は円形状で延びる形状に形成されてなる
ことを特徴とする薄膜除去工具。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれか一項に記載の薄膜除去工具において、
当該工具は、円板形状に形成されてなるとともに、その外周の全周にわたって延びる形状で前記二つの凸部および前記凹部が形成されてなる
ことを特徴とする薄膜除去工具。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate