説明

パターン基板およびその製造方法

【課題】親水性表面と疎水性表面とからなるパターン基板であって、親水性表面を有する部位が光触媒機能および親水性回復機能を発揮可能であり、優れた耐久性を有し、高精細なパターンを実現可能であり、印刷版やマイクロチップ等に用いて好適なパターン基板を提供する。
【解決手段】基材(1)の表面に、親水性を有する光触媒機能層(3)が設けられているとともに、光触媒機能層(3)の表面に所定のパターンに対応した形状を有する遮光材(9a)が設けられており、その遮光材(9a)の上に、疎水性の化合物層(10)が被覆されており、該疎水性の層(10)と親水性の酸化層(3)とにより所定のパターンが形成されたパターン基板(12)、およびその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はパターン基板の製造方法に関し、とくに、優れた耐久性を有し、高精細なパターンを実現可能であり、親水性表面を有する部位において光触媒機能による親水性の回復が容易に可能であり、印刷版やマイクロチップ等に用いて好適な、親水性表面と疎水性表面からなるパターン基板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
親水性表面と疎水性表面とからなるパターン基板、とくに、親水性を有する部位が光触媒機能を発揮可能なパターン基板が、近年活発に研究されている。例えば、特許文献1では、上述の光触媒機能を発揮可能なパターン基板の応用技術として、光触媒機能を利用して印刷用の版を作製する技術が開示されている。この特許文献1に開示されている技術は、基材の表面に直接または中間層を介し、酸化チタン光触媒のバンドギャップエネルギよりも高いエネルギを持つ波長の光、すなわち活性光を照射することにより水酸基が予め形成されている酸化チタン光触媒を含むコート層と、該コート層上に上記活性光を照射することで分解可能な化合物からなる塗布層を備えた印刷用版材を用いる技術である。この塗布層の表面は疎水性を示し、塗布層に向けて所定のパターンで活性光を照射することにより、活性光が照射された部分の塗布層をコート層の光触媒機能により分解除去してコート層表面を現出させるとともにその露出したコート層表面部分を親水性表面に変換し、活性光が照射されず分解されなかった塗布層部分を疎水性表面をもつ部分として残すことにより、疎水性表面部分と親水性表面部分とが目標とする印刷パターンに区画された印刷用版が形成される。この印刷用版の疎水性表面をもつ部分を、印刷の際に印刷用インクが塗布され被印刷物に転写される、所定の印刷用パターンとして用いる。
【0003】
このような光触媒機能を利用して印刷用版を形成することによって、デジタルデータに対応した光照射を行うことによりデジタルデータから直接版を作製することが可能になる。また、印刷に使用した後の印刷用版に、さらに活性光を照射して印刷パターンを形成していた塗布層を除去し、全面に現れた酸化チタン光触媒を含むコート層上に再び塗布層を設ければ、版材の再生が可能であり、再利用が可能になる。したがって、デジタル化への対応と、版材の再生が可能になり、高精細な印刷と、使用版材の低コスト化が可能になる。
【特許文献1】特許第3495605号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に開示された印刷用版材の作製技術は原理的には優れた技術であるが、実際の印刷に適用する場合には、以下のような基本的な問題がある。すなわち、酸化チタン等のような親水性を有し光触媒機能を発揮可能な酸化物は、暗所放置等により徐々に親水性が低下することが知られており、印刷用版材において親水性を有する材質として酸化チタンを適用した場合、親水性の低下につれて印刷精度が劣化してしまうという懸念がある。
【0005】
上述のような、酸化チタンにおける親水性の低下は一時的なものであり、光照射を行って酸化チタンに光触媒機能を発揮させることにより親水性を回復させることが可能である。しかしながら、上記特許文献1に開示された印刷用版材においては、親水性を有し光触媒機能を発揮可能な酸化チタン層の表面に、光触媒機能により分解可能な疎水性化合物からなる被覆層が塗布されて所定の印刷パターンが形成されているので、光照射を行って酸化チタンの光触媒機能を発現させた場合、酸化チタンの親水性の回復だけでなく被覆層の分解が引き起こされ、印刷パターンが所望の精度を維持できなくなってしまうおそれがある。
【0006】
また、上述のような疎水性被覆層の分解は、明示的に光照射を行った場合だけでなく、光触媒機能を発現可能な波長の光が照射され得る場所に上記の印刷用版材を放置した場合にも引き起こされる可能性がある。このため、上記の印刷用版材を、所定の印刷パターンを維持しつつ長期間保管する場合は、光が照射されるおそれのない暗所に置くなど、細心の注意を払う必要がある。
【0007】
したがって、上記特許文献1に開示された印刷用版材は、版材の再生が可能であり、印刷パターンの変更が容易であるという点においては優れているが、所定の印刷パターンを印刷精度を維持しつつ長期間使用する、という用途においては必ずしも好適ではない。このことは、とくに、大量印刷を目的とする商業印刷において問題となり得る場合がある。
【0008】
そこで本発明の課題は、親水性表面と疎水性表面とからなるパターン基板であって、親水性表面を有する部位が光触媒機能および親水性回復機能を発揮可能であり、優れた耐久性を有し、高精細なパターンを実現可能であり、印刷版やマイクロチップ等に用いて好適なパターン基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に係るパターン基板は、基材上に光触媒機能を発揮可能な光触媒機能層を有し、
該光触媒機能層の表面に形成され、該光触媒機能層表面への光照射により予め定められた所定パターン部のみに部分的に親水性が付与された親水性露出表面部と、
前記光触媒機能層上の前記所定パターン部以外の部位に固着された遮光層上に被覆された疎水性の化合物層によって形成され、前記所定パターン部以外の部位のみに部分的に疎水性が付与された疎水性露出表面部と、を有し、
前記親水性露出表面部と疎水性露出表面部とが所定パターンに区画されていることを特徴とするものからなる。
【0010】
本発明に係るパターン基板において、疎水性露出表面部を形成する疎水性の化合物層は、光触媒機能層上の所定パターン部以外の部位に固着された遮光層上にのみ設けられており、所定パターン部において親水性露出表面部を形成する光触媒機能層と直に接する部位を一切有していない。すなわち、疎水性の化合物層は遮光層によって光触媒機能層から隔離されているため、光触媒機能層の光触媒機能が疎水性の化合物層へ作用することはない。この結果、疎水性の化合物層が光触媒機能層の光触媒機能により分解され得る化合物からなる場合においても、パターン基板表面への光照射によって疎水性の化合物層が影響を受けることはなく、疎水性表面露出部の平面形状は照射前と同様に維持される。したがって、本発明に係るパターン基板は、暗所保管を行うことなく長期間にわたるパターン保持を実現することが可能であり、優れた形状安定性、耐久性、および光反応耐性を有している。
【0011】
本発明における光触媒機能層の材質は、親水性を有しており光触媒機能を発揮可能であれば、とくに限定されるものではない。光触媒機能層の材質としては、代表的には酸化チタンを適用可能であるが、酸化チタン以外に、例えば、ジルコニウム、タンタル、ニオブ、モリブデン、タングステン等の酸化物も適用可能である。上記に挙げた材質の中では、親水性および光触媒機能に優れた光触媒機能層を低コストで実現可能であることから、酸化チタンを光触媒機能層の材質として適用することが好ましい。
【0012】
なお、本発明において光触媒機能層の材質として酸化チタンを適用した場合、パターン基板表面への光照射によって親水性露出表面部の親水性を回復させることが可能である。前述の如く、酸化チタンは光触媒機能を発揮させることにより親水性を回復可能な材質であり、また、疎水性露出表面部を形成する疎水性の化合物層は遮光層によって光触媒機能層から隔離されているため、パターン基板表面へ光照射を行った場合、酸化チタンからなる光触媒機能層の露出表面部においては光触媒機能が発揮され、該当部位の親水性が回復する一方で、疎水性の化合物層は光照射による影響を一切受けない。したがって、光触媒機能層を酸化チタンによって形成することにより、親水性の回復機能を有する、耐久性に優れたパターン基板を実現することが可能である。
【0013】
本発明における遮光層は、とくに限定されるものではないが、光触媒機能層への固着処理、例えば、焼成処理が施されていることが好ましい。これにより、遮光層の耐久性が向上し、遮光層と光触媒機能層との密着性を向上させることができ、耐久性に優れたパターン基板を実現することが可能となる。
【0014】
また、上記焼成処理を実施可能な遮光層の材質としては、とくに限定されるものではないが、ベーマイトを用いることが好ましい。遮光層の材質としてベーマイトを用いた場合、焼成処理によりベーマイトをγアルミナに変化させることができ、化学的安定性および熱的安定性に優れた遮光層を得ることが可能である。しかしながら、遮光層の材質は、光触媒機能層の光触媒機能に対応した波長の光を遮断可能であればとくに限定されるものではなく、例えば樹脂なども適用可能である。
【0015】
本発明において、疎水性露出表面部を形成する疎水性の化合物層は、とくに限定されないが、自己組織化撥水性有機単分子層からなることが好ましい。自己組織化撥水性有機単分子層は撥水性に優れており、親水性露出表面部と疎水性露出表面部との親水性の差が大きい高精細なパターンを実現可能である。このような自己組織化撥水性有機単分子層を形成可能な疎水性の化合物としては、例えば、オクタデシルホスホン酸やオクタデシルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0016】
本発明におけるパターン基板は、とくに限定されるものではないが、例えば、疎水性部位を印刷パターン面として機能させることにより、印刷版として構成することが可能である。本発明におけるパターン基板を印刷版として構成する場合、その全体形状はとくに限定されず、例えば、板形態、とくに平版形態に構成することができる。平版形態であれば、このパターン基板を印刷版として形成した後、直ちに平版印刷、例えばオフセット印刷に使用できる。
【0017】
また、本発明におけるパターン基板は、マイクロチップとして構成することも可能である。遮光層および疎水性の化合物層は、光触媒機能層上の所定パターン部以外の部位に積層されており、ある程度の厚みを有する層として光触媒機能層上に設けられているので、この疎水性の化合物層を区画壁とし、親水性を有する光触媒機能層の露出部分(所定パターン部)を試薬等の流路とすることにより、本発明に係るパターン基板をマイクロチップとして構成し、微小な反応容器をパターン基板上に形成することができる。このようなマイクロチップは、例えば、化学分析、化学合成、DNA解析等の用途に適用可能である。
【0018】
上述のような、本発明に係るパターン基板の製造方法は、
基材の表面に、親水性を有し光触媒機能を発揮可能な酸化層を設け、
該酸化層の表面に、疎水性の化合物を含み前記光触媒機能により分解可能な第一の層を被覆し、
該第一の層上に所定パターンのマスクを施した後、
該第一の層への光照射によって非マスク部に対応する部位の第一の層を透過する光により前記酸化層に光触媒機能を発揮させて該部位における第一の層を分解除去し、
該分解除去により露出した前記非マスク部に対応する酸化層の表面に遮光材をコーティングし、かつ、前記第一の層における所定パターンのマスクを除去した後、
前記マスク部に対応する部位の第一の層を除去し、
前記遮光材の表面上および露出された酸化層の表面上に、疎水性の化合物を含み光触媒機能により分解可能な第二の層を被覆し、
前記第二の層への光照射によって前記マスク部に対応する部位の第二の層を透過する光により前記酸化層に光触媒機能を発揮させて該部位における第二の層を分解除去し、
該分解除去により露出された前記マスク部に対応する酸化層の表面に親水性を発現させるとともに、残存している前記第二の層の疎水性を維持することにより、親水性表面と疎水性表面とからなるパターン基板を形成することを特徴とする製造方法からなる。この製造方法によれば、光触媒機能層が光触媒機能を発揮可能な酸化層からなり、遮光層が、前述の酸化層の非マスク部に対応する部位(所定パターン部以外の部位)にコーティングされた遮光材からなり、疎水性の化合物層が、酸化層の光触媒機能により分解可能な化合物からなる第二の層として遮光層の上に設けられているパターン基板を得ることができる。
【0019】
上記の製造方法により製造されたパターン基板において、第二の層(疎水性の化合物層)は酸化層(光触媒機能層)の光触媒機能により分解可能であるが、本発明における第二の層は上述の如く遮光層によって光触媒機能層から隔離されており、酸化層の光触媒機能による作用を受けることがない。したがって、上記の製造方法により製造されたパターン基板は、暗所保管を行うことなく長期間にわたるパターン保持を実現することが可能であり、優れた光反応耐性、形状安定性および耐久性を有している。
【0020】
なお、第二の層は上述の如く優れた耐久性を有しているが、必要な場合、例えば基板の洗浄を行う時などは、第二の層を一旦除去した後、マスク部(所定パターン部)のみに部分的に親水性が付与された親水性露出表面部と、非マスク部(所定パターン部以外)のみに部分的に疎水性が付与された疎水性露出表面部とからなるパターンを再生することも容易に可能である。すなわち、上記の第二の層の除去処理後、パターン基板表面のマスク部には光触媒機能を発揮可能な酸化層が露出し、非マスク部には遮光層がコーティングされているので、パターン基板の表面全体に光触媒機能により分解可能な疎水性の化合物からなる層を被覆し、その被覆層に光を照射することにより、マスク部において酸化層の光触媒機能が発揮されて該当部位の被覆層が分解除去される。その結果、マスク部においては親水性を有する酸化層が露出して親水性表面が形成され、非マスク部においては遮光層の上に被覆層が残存して疎水性表面が形成され、親水性露出表面部と疎水性露出表面部からなるパターンが再生される。
【0021】
上記の製造方法において、第一の層における所定パターンのマスクを除去する方法はとくに限定されず、要は、マスク部に対応する部位の第一の層が除去可能な状態となっていればよい。
【0022】
また、上記の製造方法において、マスク部に対応する部位の第一の層を除去する方法は、該当部位における第一の層が除去されて酸化層の表面が露出される処理であれば、とくに限定されない。例えば、光照射によって第一の層を分解除去してもよいし、高熱を加えることによって第一の層を除去してもよい。
【0023】
上記のパターン基板の製造方法における遮光材は、非マスク部に対応する酸化層の表面に単にコーティングするだけでもよいが、酸化層の表面への固着処理、例えば焼成処理を加えることも可能である。ここで固着処理とは、遮光材の耐久性を向上させる効果、または遮光材と酸化層との密着性を向上させる効果の、少なくとも一方を達成可能であればどのような処理であってもよい。このような固着処理を遮光材に加えることにより、上述のようなパターン再生処理が容易に可能となり、パターン基板の耐久性、再利用性が向上する。この固着処理は、遮光材のコーティング後、第二の層をパターン基板表面へ被覆する前であれば、いつ実施してもよい。例えば、固着処理はマスク部に対応する部位の第一の層を除去する前に実施してもよいし、第一の層の除去処理後に実施してもよい。また、固着処理として焼成処理をパターン基板表面に加えることにより、遮光材を酸化層の表面に焼き付けつつ、同時にマスク部に残存している第一の層を除去してもよい。
【0024】
光触媒機能を有する酸化層の表面にその光触媒機能を発揮させるには、光活性を発揮させ得る光の照射が必要であり、光活性を発揮させ得る光としては、所定の波長範囲の紫外線、例えば300〜500nmの波長の紫外線を挙げることができる。このような光照射により、酸化層の表面に光触媒機能を発揮させることができ、上述の如く親水性表面を有する部位の親水性を回復させたり、所定パターンのマスクを施した後に光照射を行い、疎水性の化合物からなる層の非マスク部に対応する部位を分解、除去して、所定のパターンを形成したりすることが可能である。所定パターンのマスクを施す方法としては、例えば、後述するように、フォトマスクを使用する方法や、疎水性の化合物を含み光触媒機能により分解可能な層に遮光パターン形成用の遮光インクを塗布する方法が挙げられる。
【0025】
本発明における酸化層の材質は、親水性を有しており光触媒機能を発揮可能であれば、とくに限定されるものではない。酸化層の材質としては、代表的には酸化チタンを適用可能であるが、酸化チタン以外に、例えば、ジルコニウム、タンタル、ニオブ、モリブデン、タングステン等の酸化物も適用可能である。上記に挙げた材質の中では、親水性および光触媒機能に優れた酸化層を低コストで実現可能であることから、酸化チタンを酸化層の材質として適用することが好ましい。
【0026】
また、本発明のパターン基板の製造方法において、上記第一の層および第二の層としては、上記光触媒機能を有する酸化層の光触媒機能により分解可能な層であればとくに限定されないが、これらの層に含まれる、上記光触媒により分解可能な疎水性の化合物としては、オクタデシルホスホン酸やオクタデシルトリメトキシシランを用いることが好ましい。これらの化合物を用いることにより、分解効率、所定パターン部として残される第一の層上への遮光パターン形成用の遮光インクの塗布性、およびパターン形成後の除去性に優れた被覆層を得ることが可能である。ただし、後述するように、本発明における疎水性化合物として、酸化層の光触媒機能により分解可能な上記以外の化合物を用いても差し支えない。なお、上記第一の層および第二の層に含まれる疎水性化合物は、それぞれ異なる種類の化合物を使用してもよいし、同じ種類の化合物を使用してもよい。
【0027】
また、上述の製造方法における遮光材の材質は、酸化層の光触媒機能に対応する波長の光が遮断可能であれば、とくに限定されない。このような材質としては、代表的にはベーマイトを適用可能であるが、ベーマイト以外に、例えば樹脂なども適用可能である。これらの材質の中では、上述の如く焼成処理によりγアルミナに変化させることが可能であることから、ベーマイトを適用することが好ましい。なお、パターンとして遮光材の表面に設けられる第二の層として自己組織化撥水性有機単分子層(例えば、オクタデシルホスホン酸やオクタデシルトリメトキシシラン等)を適用した場合、その単分子膜の撥水性は単分子膜が設けられる遮光材の表面粗さによって変化するため、例えば、適切な粒子径のベーマイトを遮光材として適用することにより、単分子膜の撥水性を向上させることが可能である。
【0028】
本発明における基材は、表面に酸化層を形成可能であれば、材質はとくに限定されるものではなく、例えば、シリコン、珪酸化合物、ガラス、石英、アルミニウム等を基材の材質として適用可能である。これらの材質を適用することにより、化学的安定性、熱的安定性、および強度に優れる基材を低コストで実現することが可能である。
【0029】
また、上記基材の材質として、酸化により光触媒機能を発揮可能な材質を適用し、その基材の表面を酸化することにより、基材上に光触媒機能を発揮可能な親水性の酸化層を設けることも可能である。このような材質としては、代表的にはチタンを適用可能であるが、チタン以外に、例えば、ジルコニウム、タンタル、ニオブ、モリブデン、タングステン等も適用可能である。このように基材自体の表層が酸化層に改質された場合、酸化層とその下の基材層は、もともと同一の材質の一体層として構成されていたものであるから、改質された酸化層とその下の基材層との間の密着性は、酸化層が別の層として付加されていた場合に比べ、格段に高い。したがって、基材の材質としてこのような材質を適用することにより、耐久性に優れたパターン基板を実現することが可能となる。
【0030】
上記光触媒機能により分解可能な第一の層は、このパターン基板を作製する際には、所定のパターン部以外の部位が最初に光触媒機能により分解除去され(パターニングが施され)、それ以外の部分、すなわち所定パターン部に残存する第一の層は、遮光材のコーティング後に光触媒機能により分解除去される。したがって、最初に光触媒機能により分解、除去される際には、所定パターン部に対しては遮光して光触媒機能により分解しないようにし、それ以外の部分に対しては光を照射して光触媒機能により分解、除去できるようにする必要がある、そのために、この光触媒機能により分解可能な第一の層上へのマスクは、遮光パターン形成用のマスクに、遮光インクを用いることができ、第一の層が表面にこの遮光インクを塗布可能な層に形成されていることが好ましい。塗布の容易性、印刷用パターン形成後の除去の容易性の面から、この遮光パターン形成用の遮光インクは水性インクであることが好ましい。
【0031】
本発明における製造方法により製造されたパターン基板は、上述の如く、印刷版として構成することが可能である。本発明におけるパターン基板を印刷版として構成する場合、その全体形状はとくに限定されず、例えば、板形態、とくに平版形態に構成することができる。平版形態であれば、このパターン基板を印刷版として形成した後、直ちに平版印刷、例えばオフセット印刷に使用できる。
【0032】
また、本発明における製造方法により製造されたパターン基板は、上述の如く、マイクロチップとして構成することも可能である。遮光層および疎水性の化合物層は、光触媒機能層上の所定パターン部以外の部位に積層されており、ある程度の厚みを有する層として光触媒機能層上に設けられているので、この疎水性の化合物層を区画壁とし、親水性を有する光触媒機能層の露出部分(所定パターン部)を試薬等の流路とすることにより、本発明に係るパターン基板をマイクロチップとして構成し、微小な反応容器をパターン基板上に形成することができる。このようなマイクロチップは、例えば、化学分析、化学合成、DNA解析等の用途に適用可能である。
【発明の効果】
【0033】
本発明に係るパターン基板およびその製造方法によれば、光触媒機能層の所定パターン部のみに部分的に親水性が付与された親水性露出表面部を設け、かつ、光触媒機能層上の所定パターン部以外の部位に遮光層を固着させ、その遮光層上に疎水性の化合物層を被覆させ、所定パターン部以外の部位のみに部分的に疎水性が付与された疎水性露出表面部を設けることにより、親水性露出表面部と疎水性露出表面部とが所定パターンに区画されているパターン基板を構成したので、疎水性の化合物層は遮光層により光触媒機能層から隔離されており、耐久性および光反応耐性において優れている。本発明に係るパターン基板は、パターン保持にあたって暗所保管を行う必要がなく、疎水性表面と親水性表面からなる高精細なパターンを長期間にわたって維持することができる。このパターン基板は、光触媒機能層を酸化チタンで形成することにより、優れた親水性回復機能を付与することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下に、本発明の望ましい実施の形態を、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るパターン基板とその製造方法を、一実施例として例示しており、とくに、コーティングされた遮光材を酸化層の表面へ固着させる処理として、パターン基板表面に焼成処理が加えられた場合の製造方法を例示している。図1において、1はパターン基板の基材を示しており、本実施例ではSi基板を使用している。この図1(A)に示された基材1の片側表面がチタン化合物溶液によりdipコートされ、図1(B)に示すように、基材1の表面にチタン層2が設けられた後、チタン層2を加熱処理(焼成処理:calcination)することにより、図1(C)に示すように、親水性を有し光触媒機能を発揮可能な酸化層としての酸化チタン層3が基材1の表面に形成される。本実施例では、チタン化合物溶液としてTi(iso−OC)溶液(NDH−510C、日本曹達株式会社製)を使用し、2.5mm/secの速度でdipコート処理を行った。焼成処理としては、大気中において500℃で30分の加熱処理を行った。
【0035】
上記酸化層3の表面に、疎水性の化合物を含み光触媒機能により分解可能な第一の層、例えば、自己組織化撥水性有機単分子層4が被覆される。本実施例では、オクタデシルトリメトキシシラン(ODS)を120℃、3時間の条件で化学蒸着法にて蒸着することにより、自己組織化撥水性有機単分子層4が被覆されている。この自己組織化撥水性有機単分子層4が被覆された直後の状態を図1(D)に示す。
【0036】
第一の層4および第二の層10を形成する撥水性薄膜層としては、疎水性を有する膜成分により構成される薄膜であればとくに限定されるものではなく、吸着膜、堆積膜、自己組織化撥水性有機単分子層など、パターン基板の使用態様に応じて適宜選択することができる。例えば、パターン基板を平版印刷版として構成する場合、光触媒機能を有する上記酸化層3と酸素分子との接触可能性を担保する点、撥水性薄膜層の撥水性を向上させる点、および後述の遮光インクにより微細なパターン形成を可能とする点から、撥水性薄膜層としては、疎水性基を有する化合物により形成される自己組織化撥水性有機単分子層を採用することが好ましい。
【0037】
疎水性基を有する化合物を用いて撥水性薄膜層を形成する場合、疎水性基を有する化合物と光触媒機能を有する上記酸化層3との結合様式はとくに限定されるものではなく、共有結合、配位結合、水素結合、ファンデルワールス結合等が挙げられる。ただし、経時的に安定な自己組織化撥水性有機単分子層を形成するという観点からは、上記結合様式は共有結合であることが好ましい。
【0038】
疎水性基を有する化合物としては、疎水性基と、光触媒機能を有する上記酸化層3への結合を達成できる化合物であれば、とくに限定されるものではない。ただし、例えばマイクロチップや平版印刷版の製造において、光触媒機能層の光触媒作用により容易に分解除去される化合物であるという点、および光触媒機能層との結合性の観点から、下記一般式(1)および(2)で表される化合物の少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0039】
SiX4−n ・・・(1)
−PO ・・・(2)
[上記一般式中、RおよびRはそれぞれ独立に水素原子の一部または全部がフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜20の炭化水素基を示し、Xは加水分解性基を示し、nは1〜3の整数を示す。]
【0040】
ここで、上記一般式(1)におけるXの具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、sec−ブトキシ基、t−ブトキシ基等のアルコキシ基;ビニロキシ基、2−プロペノキシ基等のアルケノキシ基;4−メチルフェノキシ基等のフェノキシ基;アセトキシ基等のアシロキシ基;ブタノキシム基等のオキシム基;アミノ基等が挙げられる。これらの中でも、炭素数1〜5のアルコキシ基が好ましく、特に加水分解、縮合時の制御のし易さから、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、およびブトキシ基が好ましい。
【0041】
また、上記一般式(1)で表される化合物において、隣接して存在する当該化合物のケイ素原子がシロキサン結合を形成することにより、撥水性薄膜層の安定性をより向上させることができるという観点から、nは1または2であることが好ましく、1であることがより好ましい。上記一般式(1)または(2)で表される化合物の好ましい具体例としては、オクタデシルホスホン酸およびオクタデシルトリメトキシシランが挙げられる。
【0042】
図1(D)の状態において、自己組織化撥水性有機単分子層4に所定パターンの遮光用マスク6を施した後、自己組織化撥水性有機単分子層4の表面全体に光5aを照射することにより、マスク6により遮光されている部位(マスク部)7の自己組織化撥水性有機単分子層4が維持されつつ、マスク6により遮光されていない部位(非マスク部)8の自己組織化撥水性有機単分子層4のみが分解除去され、該当部位における酸化層3が露出される。すなわち、マスク部7に対応する部位の自己組織化撥水性有機単分子層4は遮光されるため、該当部位における酸化層3の光触媒機能が活性化されず、被覆層がそのまま維持される。一方、非マスク部8に対応する部位においては、自己組織化撥水性有機単分子層4を透過する光によって酸化層3の光触媒機能が発揮されるため、該当部位の自己組織化撥水性有機単分子層4が分解除去され、非マスク部8に対応する部位の酸化層3の表面が露出される。
【0043】
上述の如く、自己組織化撥水性有機単分子層4に所定パターンのマスク6を施す方法として、本実施例では、あらかじめ所定パターンが形成されたフォトマスク6を通して光照射を行う方法を採用しており、光照射処理としては、紫外光強度27mW/cmの紫外線5aの照射を、フォトマスク6を通して7分間実施している。上記光照射処理後は、図1(E)に示すように、非マスク部8に対応する部位の酸化層3が露出される一方で、マスク部7に対応する部位の自己組織化撥水性有機単分子層4は維持される。
【0044】
なお、図1(D)〜(E)に示したような、第一の層のうち所定パターンに該当する部位を光触媒機能により分解、除去する工程は、上述のフォトマスクを用いる方法の他にも、例えば図2に示すような工程によって実施することが可能である。まず、図2(K)に示すように、印刷パターンに応じた形状にて、遮光インク13が上記第一の層4の表面に塗布される。遮光インク13が塗布された部位は前述のマスク部7に相当し、それ以外の部分は前述の非マスク部8に相当する。この遮光インク13は、例えば平版印刷原版の撥水性薄膜層上に遮光パターンを形成する際に用いられるものである。遮光インク13による遮光パターンは、例えばインクジェット方式で形成することができ、それによってCTP等のデジタル化にも対応できるようになる。
【0045】
この遮光インク13としては、光触媒機能を有する酸化層3の光触媒活性を発揮させることが可能な所定の波長域の光に対して高い吸収能を有するものであれば、とくに限定されるものではない。好適な具体例としては、300〜500nmの波長の紫外光に対して高い吸収能を有する水溶性染料を含有するインク(水性インク)が挙げられる。
【0046】
300〜500nmの波長域の光に対して高い吸収能を有する水溶性染料としては、水中での吸収スペクトルにおいて300〜500nmの波長域に高い吸収があり、かつ水に対する溶解度が5質量%以上、好ましくは7質量%以上であるものを適宜選択すればよい。このような染料の具体例としては、水溶性の銅フタロシアニン染料、黄色染料、褐色染料等が挙げられる。これらの水溶性染料は2種以上併用してもよい。
【0047】
遮光インクは、水を媒体として調製することができる。水溶性染料は、この遮光インク中に5〜20質量%、好ましくは5〜15質量%含有される。この遮光インクは、必要に応じて、水溶性有機溶剤を少量含有してもよい。この水溶性有機溶剤は、染料溶解剤、感想防止剤(湿潤剤)、粘度調整剤、浸透促進剤、表面張力調整剤、消泡剤等として使用される。また、遮光インクは、防腐防黴剤、pH調整剤、キレート試薬、防錆剤、紫外線吸収剤、粘度調整剤、染料溶解剤、表面張力調整剤、消泡剤、分散剤等の公知の添加剤を含有していてもよい。水溶性有機溶剤の含有量は、遮光インク全体に対して0〜60質量%が好ましく、0〜50質量%がより好ましい。その他の添加剤の含有量は、遮光インク全体に対して0〜25質量%が好ましく、0〜20質量%がより好ましい。上記以外の残部は水である。
【0048】
遮光インク13が所定のパターンにて第一の層4の表面に塗布された後、図2(L)に示すように、例えば、上記のような所定の範囲内の波長の紫外光5dが照射され、遮光インク13により除去されていない部位、すなわち非マスク部8に対応する部位の第一の層4は、光触媒機能を有する酸化層3の光触媒活性により分解、除去されて、酸化層3の表面が、第一の層4を持たず親水性を有する部位8として露出される。
【0049】
一方、遮光インク13により遮光されていた部位、すなわちマスク部7に該当する部位における第一の層4は、光触媒活性によっては分解、除去されないので、遮光インク13の塗布パターンと同一平面形状のまま残される。
【0050】
次に、図2(E)に示すように、上記遮光インク13が除去され、マスク部7に対応する平面形状で残されていた被覆層部分4が疎水性を有する層として残される。遮光インク13が水性インクからなる場合には、水洗により容易に遮光インク13が除去される。
【0051】
上述のフォトマスクを用いる方法や遮光インクを用いる方法等により、非マスク部8に対応する部位の酸化層3が露出された後、露出された酸化層3の表面に、非マスク部8と同一の平面形状を有する遮光材9からなる層が設けられる。本実施例では、非マスク部8に対応する部位の酸化層3の表面を、遮光材9としてのベーマイトを含む水溶液を用いて5mm/secの速度でdipコートし、該当部位の酸化層3の表面に、遮光材9としてのベーマイトをコーティングした。上記コーティング処理実施後の状態を図1(F)に示す。
【0052】
上記コーティング処理後、フォトマスクを除去し、酸化層3の表面全体に光5bを照射することにより、酸化層3の表面に残存していた自己組織化撥水性有機単分子層4が分解除去され、マスク部7に対応する部位の酸化層3が露出される。すなわち、図1(F)の状態において酸化層3の表面全体に光5bを照射した場合、マスク部7に対応する部位においては、自己組織化撥水性有機単分子層4を透過する光によって該当部位における酸化層3の光触媒機能が発揮され、該当部位の自己組織化撥水性有機単分子層4が分解除去されることにより、マスク部7に対応する部位の酸化層3が露出される。一方、非マスク部8に対応する部位においては、酸化層3の表面に遮光材9からなる層が設けられているため、酸化層3の光触媒機能が活性化されることはなく、遮光材9からなる層がそのまま維持される。本実施例では、光照射処理として、紫外光強度27mW/cmの紫外線5bを酸化層3の表面へ10分間照射し、酸化層3の表面に残存していた自己組織化撥水性有機単分子層4の分解除去を行った。光5b照射後の状態を図1(G)に示す。
【0053】
図1(G)の酸化層3の表面に対して焼成処理を行うことにより、非マスク部8と同一の平面形状を有する遮光材9が酸化層3の表面に焼き付けられ、焼き付けられた遮光材9aとなり、酸化層3の表面に設けられる。本実施例では、上記の焼成処理として900℃の加熱処理を3時間実施することにより、非マスク部8と同一の平面形状を有する遮光材9として酸化層3の表面にコーティングしたベーマイトがγアルミナ9aへと変化し、酸化層3の表面に焼き付けられた。焼成処理実施後の状態を図1(H)に示す。
【0054】
図1(H)の状態において、酸化層3の表面に、疎水性の化合物を含み光触媒機能により分解可能な第二の層、例えば、自己組織化撥水性有機単分子層10が被覆される。本実施例では、オクタデシルトリメトキシシラン(ODS)を120℃、3時間の条件で化学蒸着法にて蒸着することにより、マスク部7に対応する部位における焼き付けられた遮光材9aの表面、および非マスク部8に対応する部位における酸化層3bの表面に、自己組織化撥水性有機単分子層10が被覆された。この自己組織化撥水性有機単分子層10が被覆された直後の状態を図1(I)に示す。
【0055】
上記自己組織化撥水性有機単分子層10の表面全体に光5cを照射することにより、マスク部7に対応する部位の自己組織化撥水性有機単分子層10が分解、除去され、該当部位の酸化層3bが露出される。すなわち、自己組織化撥水性有機単分子層10の表面全体に光5cを照射した場合、マスク部7に対応する部位には遮蔽材がなく、光5cが自己組織化撥水性有機単分子層10を透過可能であるため、単分子膜10を透過した光5cにより酸化層3の光触媒機能が発揮され、光が透過した部位の自己組織化撥水性有機単分子層10が光触媒機能により分解、除去され、その結果、マスク部7に対応する部位の酸化層3が露出される。この露出された酸化層3の表面には、さらに光5cが照射され、その表面が親水性化される。
【0056】
一方、非マスク部8に対応する部位においては、酸化層3の表面に遮光材9aが焼き付けられており、酸化層3の光触媒機能が発揮されないため、該当部位の自己組織化撥水性有機単分子層10は光照射後も維持され、パターン11を形成する層として形成される。このようにして形成されたパターン基板12において、被覆層部分10の表面は疎水性を示し、それ以外の部分、つまり上述の露出された部位であるマスク部7に対応する部位の酸化層3は親水性を示す。そこで、例えば、この親水性部位を流路とし、疎水性部位を区画壁として構成することにより、マスク部7を流路とするマイクロチップを作製することが可能である。また、例えば、疎水性部位を印刷パターン面として機能させることにより、パターン基板を印刷版、例えば、オフセット印刷用の平版印刷用版として構成することも可能である。
【0057】
上述の光照射方法として、本実施例では、自己組織化撥水性有機単分子層10の表面全体に紫外光強度1mW/cmの紫外線5cの照射を3時間実行した。それによって、マスク部7に対応する部位の自己組織化撥水性有機単分子層10が分解除去され、該当部位において露出した酸化層3bが親水性化され、図1(J)に示すパターン基板12が作製された。
【0058】
上記パターン基板12の性能、とくに、パターン基板を印刷版として構成した場合における高精細な印刷のための性能は、印刷パターンとしてのパターン11を形成する層として残された被覆層10の疎水性と、光触媒機能の発現により親水性化された、被覆層10が分解除去され表面が露出された酸化層3の親水性との差の程度に依存する。また、所定パターンの印刷を繰り返し大量に実行する場合、パターン11が長期間に渡って維持可能であるかどうか、および、マスク部7の酸化層に対し親水性回復処理を多数回実施した場合においても、印刷版としてのパターン基板12の印刷性能を維持可能であるかどうかが、印刷版の生産性を左右する。
【0059】
そこで本発明に係るパターン基板の印刷版としての利用可能性について、まず、パターン基板の疎水性部分と親水性部分の親水性の差、およびパターン11の耐久性を確認するため、以下の試験を行った。図1(I)の基板に1mW/cmの強度で紫外光を10日間(240h)照射して、図1(J)に示したパターン基板12へと変化させた場合の、親水性部位であるマスク部7、および疎水性部位である非マスク部8のそれぞれについて、照射時間と水の接触角の推移との関係を測定した。この水の接触角は該当部位の撥水性を示しており、水接触角が大きいほど撥水性が高くなり、水接触角が小さいほど親水性が高くなって表面が濡れやすくなる。なお、一般的に、水接触角5°以下の状態を超親水性、水接触角150°以上の状態を超撥水性と呼ぶ。試験結果を図3〜5に示す。
【0060】
図3は、図1(I)における親水性部位であるマスク部7(Si/TiO/ODS)、および図1(I)における疎水性部位である非マスク部8(Si/TiO2/boehmite/ODS)のそれぞれについて、1mW/cmの強度の紫外線を240h(10日間)照射したときの接触角の推移を示している。親水性部位における、紫外線照射時間0h、3h、および240h経過時点の接触角の測定結果を図4(1)〜(3)に示す。
【0061】
親水性部位における接触角の変化を見ると、図4(1)における照射時間0hの時点では、接触角は105.8°と高い撥水性を示している。これは、光照射が行われていないためパターン基板が図5(1)の状態となっており、親水性部位であるマスク部7に対応する部位の酸化層3の表面に、疎水性の化合物であるODSからなる第二の層10が残存していることを示している。一方、紫外線照射を3時間行った後では、親水性部位の接触角は図4(2)に示すように5.0°となって超親水性を示している。すなわち、図5(1)の基板表面へ光が照射されることにより、酸化層3の光触媒機能が発揮されて第二の層10が分解除去され、図5(2)の状態へと変化していることが分かる。なお、図4(3)は紫外線照射を10日間実施した後における親水性部位の接触角の測定図を示しているが、接触角は図4(2)とほぼ同様の4.8°となっており、超親水性が維持されている。このときの親水性部位におけるパターン基板表面の模式図を図5(3)に示す。
【0062】
一方、疎水性部位である非マスク部8(Si/TiO2/boehmite/ODS)の接触角の推移を観察すると、図3、および図4(4)〜(6)から分かるように、疎水性部位においては、照射時間0hの時点ですでに接触角が166.1°に達して超撥水性を示しており、10日間にわたって紫外線を照射した後においても、接触角は165.7°と超撥水性が維持されている。このような疎水性部位における変化の模式図を図5(4)〜(6)に示す。図5(4)〜(6)に示すように、本発明に係る印刷版においては、パターン11を形成している被覆層10と酸化層3との間に遮光材9aからなる層が設けられているので、光照射によるパターン11の分解が効果的に防止されており、疎水性化合物からなる印刷パターンを酸化層の表面に直接設ける従来技術と比較して、パターン11の光反応耐性が飛躍的に向上している。
【0063】
また、本実施例におけるパターン基板12では、図4(2)、および(5)から分かる通り、親水性部分の接触角と疎水性部分の接触角との角度差は160°以上にも達している。そして、この接触角の角度差は紫外線照射時間が10日間に達した時点(図4(3)、および(6))においても保たれている。すなわち、本発明に係るパターン基板を印刷版として構成した場合、印刷性能に優れ、高精細な印刷を実現可能であり、かつ、耐久性に優れた印刷版を製造可能であることが、この実験結果によって示されている。
【0064】
次に、マスク部7の酸化層3に対し親水性回復処理を多数回実施した場合においてもパターン基板12のパターンを維持可能であるかどうか確認するため、以下の試験を行った。まず、図1(I)の基板に1mW/cmの強度で紫外光を3時間照射し、図1(J)のパターン基板12へと変化させた。続いて、そのパターン基板12を24時間暗所放置した後、1mW/cmの強度で紫外光を1時間照射する、という合計25時間の工程を1サイクルとして、パターン基板12に対して7サイクルの工程を実施し、パターン基板12の親水性部分および疎水性部分における水接触角の変化を測定した。試験結果を図6に示す。
【0065】
図6に示すように、24時間の暗所放置によってパターン基板12の親水性部分(Si/TiO/ODS)における水接触角は20°程度まで上昇するが、この水接触角の上昇は回復可能であり、紫外光照射を1時間行うことによって超親水性(水接触角5°以下)を発揮可能な程度に回復する。この回復機能は繰り返し発揮可能であり、暗所放置後に紫外光照射を行う、というサイクルを7回繰り返した後でも、回復機能の低下は見られない。さらに、これらの工程を実施した場合においても、パターン基板12の疎水性部分(Si/TiO/boemite/ODS)における撥水性は、水接触角160°以上の超撥水性を常時示しており、パターン基板12の疎水性部分、すなわちパターン11が光化学的に非常に安定であることが示されている。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明に係るパターン基板およびその製造方法は、耐久性に優れる高精細なパターンが求められ、パターン精度の維持に優れた生産性が要求されるあらゆる用途に適用可能であり、とくに、高精細なパターンの長期維持が求められる用途に好適なものである。このような用途としては、例えば、化学反応やDNA解析等に応用可能なマイクロチップの製造プロセス、オフセット印刷の印刷版、半導体分野の微細配線パターンなどが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の一実施態様に係るパターン基板とその製造方法の工程を例示した説明図である。
【図2】本発明におけるパターン基板の製造方法の一部の工程において、図1と異なる工程を例示した説明図である。
【図3】本発明におけるパターン基板についての試験における、光照射時間と接触角との関係図である。
【図4】図3の代表的な測定点における、接触角の測定図である。
【図5】図3におけるパターン基板表面の変化を示した模式図である。
【図6】本発明におけるパターン基板の親水性回復試験における、光照射時間と接触角との関係図である。
【符号の説明】
【0068】
1 基材
2 チタン層
3 酸化層
4 第一の層
5a、5b、5c、5d 光
6 フォトマスク
7 マスク部
8 非マスク部
9 遮光材
9a 焼き付けられた遮光材
10 第二の層
11 パターン
12 パターン基板
13 遮光インク


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に光触媒機能を発揮可能な光触媒機能層を有し、
該光触媒機能層の表面に形成され、該光触媒機能層表面への光照射により予め定められた所定パターン部のみに部分的に親水性が付与された親水性露出表面部と、
前記光触媒機能層上の前記所定パターン部以外の部位に固着された遮光層上に被覆された疎水性の化合物層によって形成され、前記所定パターン部以外の部位のみに部分的に疎水性が付与された疎水性露出表面部と、を有し、
前記親水性露出表面部と疎水性露出表面部とが所定パターンに区画されていることを特徴とするパターン基板。
【請求項2】
前記光触媒機能層が、酸化チタンを含む層からなる、請求項1に記載のパターン基板。
【請求項3】
前記遮光層がベーマイトを焼成処理することにより生成したアルミナから成る、請求項1または2に記載のパターン基板。
【請求項4】
前記疎水性の化合物層が、オクタデシルホスホン酸またはオクタデシルトリメトキシシランなどの自己組織化撥水性有機単分子層からなる、請求項1〜3のいずれかに記載のパターン基板。
【請求項5】
印刷版として構成されている、請求項1〜4のいずれかに記載のパターン基板。
【請求項6】
前記印刷版が平版形態として形成されている、請求項5に記載のパターン基板。
【請求項7】
マイクロチップとして構成されている、請求項1〜4のいずれかに記載のパターン基板。
【請求項8】
基材の表面に、親水性を有し光触媒機能を発揮可能な酸化層を設け、
該酸化層の表面に、疎水性の化合物を含み前記光触媒機能により分解可能な第一の層を被覆し、
該第一の層上に所定パターンのマスクを施した後、
該第一の層への光照射によって非マスク部に対応する部位の第一の層を透過する光により前記酸化層に光触媒機能を発揮させて該部位における第一の層を分解除去し、
該分解除去により露出した前記非マスク部に対応する酸化層の表面に遮光材をコーティングし、かつ、前記第一の層における所定パターンのマスクを除去した後、
前記マスク部に対応する部位の第一の層を除去し、
前記遮光材の表面上および露出された酸化層の表面上に、疎水性の化合物を含み光触媒機能により分解可能な第二の層を被覆し、
前記第二の層への光照射によって前記マスク部に対応する部位の第二の層を透過する光により前記酸化層に光触媒機能を発揮させて該部位における第二の層を分解除去し、
該分解除去により露出された前記マスク部に対応する酸化層の表面に親水性を発現させるとともに、残存している前記第二の層の疎水性を維持することにより、親水性表面と疎水性表面とからなるパターンを形成することを特徴とする、パターン基板の製造方法。
【請求項9】
前記遮光材のコーティング後、第二の層の被覆前に、前記遮光材を酸化層表面へ固着させる、請求項8に記載のパターン基板の製造方法。
【請求項10】
前記遮光材を焼成させることにより酸化層表面へ固着させる、請求項9に記載のパターン基板の製造方法。
【請求項11】
前記酸化層が、酸化チタンを含む層からなる、請求項8〜10のいずれかに記載のパターン基板の製造方法。
【請求項12】
前記光触媒機能により分解可能な第一の層に含まれる疎水性の化合物として、オクタデシルホスホン酸またはオクタデシルトリメトキシシランを用いる、請求項8〜11のいずれかに記載のパターン基板の製造方法。
【請求項13】
前記光触媒機能により分解可能な第二の層に含まれる疎水性の化合物として、オクタデシルホスホン酸またはオクタデシルトリメトキシシランを用いる、請求項8〜12のいずれかに記載のパターン基板の製造方法。
【請求項14】
前記遮光材がベーマイトからなる、請求項8〜13のいずれかに記載のパターン基板の製造方法。
【請求項15】
前記基材がシリコン、珪酸化合物、ガラス、石英、アルミニウム、チタンのいずれかの材質からなる、請求項8〜14のいずれかに記載のパターン基板の製造方法。
【請求項16】
前記第一の層上へのマスクを、遮光インクの塗布により施す、請求項8〜15のいずれかに記載のパターン基板の製造方法。
【請求項17】
前記遮光インクとして水性インクを用いる、請求項16に記載のパターン基板の製造方法。
【請求項18】
前記パターン基板を印刷版として構成する、請求項8〜17のいずれかに記載のパターン基板の製造方法。
【請求項19】
前記印刷版を平版形態に形成する、請求項18に記載のパターン基板の製造方法。
【請求項20】
前記パターン基板をマイクロチップとして構成する、請求項8〜17のいずれかに記載のパターン基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−61001(P2010−61001A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−228332(P2008−228332)
【出願日】平成20年9月5日(2008.9.5)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年3月12日 社団法人日本化学会発行の「日本化学会第88春季年会(2008)講演予稿集I」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年7月3日 財団法人神奈川科学技術アカデミー主催の「平成20年度KAST研究報告会」において文書をもって発表
【出願人】(591243103)財団法人神奈川科学技術アカデミー (271)
【出願人】(592218300)学校法人神奈川大学 (243)
【Fターム(参考)】