説明

パターン基板,パターン基板の製造方法、微細金型および磁気記録用パターン媒体

【課題】高分子ブロック共重合体の自己組織化現象により、基板表面全面に欠陥やグレイン構造なく、表面の高さが均一なパターンを基板表面全面にパターニングした基板およびその製造方法を提供する。また、ナノインプリント用の微細金型、さらに磁気記録用パターン媒体を提供する。
【解決手段】基板表面に凹形状部を作成し、凹形状部内部を含む基板表面全面に高分子ブロック共重合体の薄膜を製膜した後に、高分子ブロック共重合体の薄膜中にミクロ相分離構造を形成させる。しかる方法をとると、凹形状部内部のみならず、基板表面全面に略規則的なミクロ相分離構造を欠陥やグレイン構造なく形成でき、そのパターンを利用した基板や微細金型あるいは磁気記録用パターン媒体を提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自己組織化現象を利用し微細なパターンを形成させた基板およびその製造方法に関する。本発明で得られる基板はそのまま微細で規則性の高い構造を有する基板として用いることもできるが、これをマスクや鋳型として利用し、微細で規則性の高い構造を他の基板や物質に転写して用いることもできる。また、本発明はナノインプリント等に適用される微細金型や記録密度の高い磁気記録装置用媒体等の製造に適用されうる。
【背景技術】
【0002】
電子デバイス,エネルギー貯蔵デバイス,センサー等の小型化・高性能化に伴い、数ナノメートル〜数百ナノメートルのサイズの微細な構造を有する基板への要求が高まっており、特に低コストでこれらの構造を製造できるプロセスの確立が求められている。このようなデバイスの一例として、磁気記録装置の記録密度を飛躍的に向上させるパターン媒体の技術が、例えば、特許文献1に開示されている。
【0003】
一般的に微細な構造の加工には、リソグラフィーに代表されるトップダウン的手法、すなわちバルク材料を微細に刻むことにより形状を付与する方法が一般に用いられている。LSIの製造等の半導体微細加工に用いられる光リソグラフィーはこの代表例である。
【0004】
しかしながら、加工寸法が微細になるに従い、トップダウン的手法では装置・プロセス両面から困難さが増してくる。特に、加工寸法が数十ナノメートルに迫ると、パターニングに電子線や深紫外線を用いる必要があり装置に莫大な投資が必要となる。また、マスクの適用が難しくなり直接描画法を適用する必要が生じ、加工スループットが十分ではないという問題を回避することも困難である。
【0005】
このような状況のもと、物質が自然に構造を形成する現象、いわゆる自己組織化現象を応用したプロセスが注目を集めている。特に高分子ブロック共重合体の自己組織化現象、いわゆるミクロ相分離現象を応用したプロセスは簡便な塗布プロセスにより数十ナノメートル〜数百ナノメートルの種々の形状を有する微細規則構造を形成できる点で優れたプロセスである。高分子ブロック共重合体が形成する自己組織的な相分離構造、すなわちミクロ相分離構造を利用して基板に規則配列構造を形成した例としては、ポリスチレンとポリブタジエン、ポリスチレンとポリイソプレン,ポリスチレンとポリメタクリル酸メチルなどの組み合わせからなる高分子ブロック共重合体薄膜をエッチングマスクとして用い、孔やラインアンドスペースなどの構造を基板上に形成した例が知られている。
【0006】
高分子ブロック共重合体のミクロ相分離構造を応用し、基板上に自己組織化形状を配列させる方法では、高分子ブロック共重合体を形成する各高分子鎖が形成するナノサイズのミクロドメインが規則的に配列し構造性の高い構造をとっている場合が多く、ミクロには自己組織化形状が規則的に配列した構造が得られる。しかしながら、マクロに見れば、ミクロドメインの配列方向や配列の規則性が異なる領域(以下、グレインと称する)が多数存在し、またそのグレイン内においても、ミクロドメインの配列に点欠陥や線欠陥が存在する。そのため、大面積にわたり高度な規則性が要求される用途、たとえば磁気記録用パターン媒体の加工等にはそのままでは適用することができない。
【0007】
この問題を解決する方法として、図1に模式的に示すように、基板表面に微細な溝11をトップダウン的手法により形成し、その溝11の内部、すなわち拘束された空間内でミクロ相分離構造を形成することにより、欠陥・グレイン・粒界等を減少させる試みが報告されている(例えば、非特許文献1)。この手法は、溝の壁に沿ってミクロ相分離構造が配列する現象を応用したものであり、この手法を用いて磁気記録用パターン媒体を製造する方法についてもすでに報告がなされている(例えば、特許文献1)。しかしながら、この手法ではミクロ相分離構造により得られた微細なパターンに加えて、欠陥やグレイン構造等を減少させる目的で形成した溝に由来する形状が残存することになる。すなわち、基板全面に目的とする微細なパターンを形成することはできない。これは、たとえば磁気記録用パターン媒体に適用した場合、溝に由来する形状の面積分、記録密度が減少することになり望ましくない。
【0008】
また、図2に模式的に示したプロセス、すなわち上記した方法により溝11中で高分子ブロック共重合体のミクロ相分離構造を形成し、その片側相をエネルギー線等により分解し、得られた膜をマスクとして基板を加工する方法が開示されている(例えば、特許文献2)。しかしながら、本方法では溝底部においてのみ微細で略規則的な凸凹形状が加工されるため、得られる基板表面は図2(C)に示すように、目的とする微細で略規則的な凸凹20が溝11の底部のみに存在する形状となる。すなわち、微細で略規則的な凸凹20とその周辺部分21の表面高さが同一ではなく、例えば、本製造方法を磁気記録用パターン媒体に適用した場合、磁気記録用ヘッドの円滑な駆動を阻害することとなるため望ましくない。
【0009】
高分子ブロック共重合体を用い、溝形状を残すことなく基板全面を欠陥・グレイン・粒界なくパターニングする方法としては、高分子ブロック共重合体を構成する高分子ブロック鎖それぞれと親和性を有するように基板表面を化学的にパターニングする方法が開示されている(例えば、非特許文献2)。しかしながら、この方法によると、高分子ブロック共重合体が形成するミクロ層分離構造と同等の寸法を有する化学的パターンをトップダウン的手法により基板表面に作成する必要があり、現実的な手法ではない。
【0010】
【特許文献1】特開2002−279616号公報
【特許文献2】特開2003−155365号公報
【非特許文献1】Chengら、Adv. Mater. 15 (2003) 1599
【非特許文献2】Kimら、Nature 424 (2003) 411
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述したように高分子ブロック共重合体のミクロ相分離を応用したパターニング手法は簡便で低コストな手法であるが、従来の方法に従えば、基板の表面全面に微細な構造を欠陥やグレイン構造なくパターニングすることはできない。また、従来技術により作製したパターン基板をマスクとして用いて基板を加工した場合、微細な凸凹を有する部分とその周辺部分では表面の高さに不均一が生じる問題がある。
【0012】
本発明の目的は、上記課題を解決し、高分子ブロック共重合体のミクロ相分離を用い、簡便・低コストに基板の表面をパターニングする方法を提供することにある。また、微細な形状を形成した基板、ナノインプリント用の微細金型、さらに磁気記録用パターン媒体およびそれらの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、略規則的なミクロ相分離構造を有する高分子ブロック共重合体の薄膜をベース基板表面に有するパターン基板において、前記ベース基板表面が凸凹形状を有し、かつ、前記高分子ブロック共重合体の薄膜が前記ベース基板の凹形状部分及び凸形状部分の表面に形成されていることを特徴とする、パターン基板である。
【0014】
このパターン基板において略規則的ミクロ相分離構造を構成するミクロドメインの最近接ミクロドメイン間距離をaとした場合、凹形状部分の深さが0.5a以上1.5a以下であることが望ましい。
【0015】
また、ミクロドメインの最近接ミクロドメイン間距離aは10ナノメートル以上200ナノメートル以下であることが望ましい。また、基板の凸形状部分の幅は1.0a以上
50.0a 以下であり、凹形状部分の幅は1.0a 以上25.0a 以下であり、さらに、ミクロ相分離構造を有する薄膜の厚みが、基板の凸形状部分表面において0.5a 以上
1.5a 以下であることが望ましい。さらに、ミクロ相分離構造を構成するミクロドメインの構造が球状またはシリンダー状であることが望ましい。
【0016】
また、本発明は、ベース基板の表面に凹凸形状を有し、高分子ブロック共重合体の薄膜が、凹形状部分の溝内に形成され、連続相中にミクロドメインが一列配列した層と、凸形状部分の表面に形成され、連続相中にミクロドメインが一列配列した層の2層構造であることを特徴とするパターン基板である。
【0017】
また、本発明は、平滑な表面を有する基板の表面の一部に凹形状を形成する工程と、前記凹形状内部を充填しかつ基板表面を被覆するように高分子ブロック共重合体薄膜を形成する工程と、前記高分子ブロック共重合体薄膜中にミクロ相分離構造を形成させる工程を有することを特徴とするパターン基板の製造方法である。
【0018】
また、前記ミクロ相分離構造から1つの高分子相を選択的に除去する工程を有することを特徴とするパターン基板の製造方法である。
【0019】
また、前記ミクロ相分離構造から1つの高分子相を選択的に除去した後、残存した他の高分子相をマスクとして基板を加工することにより前記ミクロ相分離構造を基板表面に転写する工程を有することを特徴とするパターン基板の製造方法である。
【0020】
さらに、前記ミクロ相分離構造から1つの高分子相を選択的に除去し、残存した他の高分子相に被転写体を密着させてミクロ相分離構造を被転写体に転写する工程を有することを特徴とするパターン基板の製造方法である。
【0021】
また、本発明は前記4種の製造方法を含む工程を用いて製造したナノインプリント等に用いる微細金型および磁気記録用パターン媒体である。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、簡便で低コストな微細パターン形成方法である高分子ブロック共重合体のミクロ相分離を応用し、基板の表面全面に微細な構造を欠陥やグレイン構造なくパターニングした基板、およびその製造方法を提供できるようになった。また、微細金型および磁気記録用パターン媒体を提供できるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明のパターン基板およびその製造方法を従来技術と対比して説明する。
【0024】
従来の技術を用いて、高分子ブロック共重合体のミクロ相分離構造を利用し、欠陥・グレイン・粒界なく微細なパターンを基板上に形成した基板の模式的断面図を図1に示す。従来の技術では、ミクロ相分離構造が有する欠陥やグレイン構造を、ミクロ相分離構造を拘束された空間、すなわち溝11内部で形成することにより低減する方法が用いられていた。これは、ミクロドメインのサイズに対して数倍〜数十倍のサイズの拘束された空間中では、ミクロ相分離の自由度が減少する。これにより、ミクロ相分離構造を構成するミクロドメインが壁面に沿って配向し、欠陥数やグレイン構造の数が減少する効果を活用したものである。しかしながら、この方法では、図1から明らかなように、溝周辺部分14にはパターンを形成することができない。これは、たとえば磁気記録用パターン媒体に適用した場合、溝周辺部分14の面積分,記録密度が減少することになり望ましくないことは前記したとおりである。
【0025】
また、図2に示すように、溝11の中で高分子ブロック共重合体のミクロ相分離構造を形成し、その片側相をエネルギー線等により分解し、得られた膜をマスクとして基板を加工する方法により表面に微細な凸凹を加工することができる。しかしながら、図2より明らかなように、従来の技術により形成することができる構造は、微細で略規則的な凸凹
20とその周辺部分21の表面高さが均一ではなく、例えば、本製造方法を磁気記録用パターン媒体に適用した場合、磁気記録用ヘッドの円滑な駆動を阻害することとなるため望ましくないことは前記したとおりである。
【0026】
本発明者らは、これらの問題を解決するために鋭意検討を行い、従来の技術において適用されていた拘束空間を用いてミクロ相分離構造を制御する概念とは異なった概念に基づく制御方法を発明するに至った。本発明の原理を模式的に図3に示す。すなわち、本発明では基板表面に凹部32を作成し、その内部を含む基板の表面全面に高分子ブロック共重合体の薄膜を製膜した後に、高分子ブロック共重合体の薄膜中にミクロ相分離構造を形成させる。本発明者らは、しかる方法をとると、凹部32の内部のみならず、凹部32の周辺すなわち、基板表面の凸部31を含めて、基板表面全面にミクロ相分離構造を欠陥やグレイン構造なく形成できることを見出した。本発明において、凹部32は、ミクロ相分離構造の欠陥やグレイン構造を低減するための拘束空間として作用しているのではなく、基板表面全体の自由な空間中で発現するミクロ相分離構造の基点となっていると考えることができる。本発明を用いることで、基板表面全面に欠陥やグレイン構造の極めて少ないミクロ相分離構造を形成することが可能となった。なお、本発明は、必ずしも、基板の表面全面へのミクロ相分離構造の形成を行う必要はなく、目的とする領域のみに欠陥やグレイン構造の極めて少ないミクロ相分離構造の形成を行うことを排除するものではない。
【0027】
以下、本発明のパターン基板およびその製造方法の詳細を説明する。
【0028】
本発明に用いる高分子ブロック共重合体にはミクロ相分離構造を形成した後にミクロ相分離構造を構成する複数のミクロドメインうち、目的とするミクロドメインを選択的に除去できるものを用いる。この場合、各ミクロドメイン間でのリアクティブイオンエッチング(RIE)またはその他のエッチング手法に対するエッチングレートの差を利用することが好ましい。例えば、ポリスチレンとポリブタジエンからなる高分子ブロック共重合体を用いた場合には、オゾン処理によりポリスチレンブロックからなるミクロドメインのみを残すように現像処理が可能である。ポリスチレンとポリメチルメタクリレートからなる高分子ブロック共重合体では、ポリスチレンの方がポリメチルメタクリレートより酸素やCF4 をエッチャントとして用いるRIEに対するエッチング耐性が高い。このため、
RIEによりポリメチルメタクリレートからなるミクロドメインのみを選択的に除去することが可能である。
【0029】
このような高分子ブロック共重合体としては例えばポリブタジエン−ポリジメチルシロキサン、ポリブタジエン−4−ビニルピリジン、ポリブタジエン−メチルメタクリレート、ポリブタジエン−ポリ−t−ブチルメタクリレート、ポリブタジエン−t−ブチルアクリレート、ポリ−t−ブチルメタクリレート−ポリ−4−ビニルピリジン、ポリエチレン−ポリメチルメタクリレート、ポリ−t−ブチルメタクリレート−ポリ−2−ビニルピリジン、ポリエチレン−ポリ−2−ビニルピリジン、ポリエチレン−ポリ−4−ビニルピリジン、ポリイソプレンーポリー2−ビニルピリジン、ポリメチルメタクリレート−ポリスチレン、ポリ−t−ブチルメタクリレート−ポリスチレン、ポリメチルアクリレート−ポリスチレン、ポリブタジエンーポリスチレン、ポリイソプレン−ポリスチレン、ポリスチレン−ポリ−2−ビニルピリジン、ポリスチレン−ポリ−4−ビニルピリジン、ポリスチレン−ポリジメチルシロキサン、ポリスチレン−ポリ−N,N−ジメチルアクリルアミド、ポリブタジエン−ポリアクリル酸ナトリウム、ポリブタジエン−ポリエチレンオキシド、ポリ−t−ブチルメタクリレート−ポリエチレンオキシド、ポリスチレン−ポリアクリル酸、ポリスチレン−ポリメタクリル酸等がある。
【0030】
上記した高分子ブロック共重合体はA高分子鎖とB高分子鎖の2種類の高分子鎖が結合した構造を有するAB型高分子ジブロック共重合体の例であるが、ABA型高分子トリブロック共重合体であってもよいし、あるいは三種以上の高分子からなるABC型高分子ブロック共重合体であってもよい。さらに、各ブロックが直列した高分子ブロック共重合体のほか、例えば各ブロックが1点で結合したスター型の高分子ブロック共重合体を用いることもできる。これは、目的とするミクロ相分離構造の形状を得る上で最適なものを選択すればよい。
【0031】
また、ミクロドメインを金属原子等によりドープすることによりエッチングの選択性を向上させることも可能である。例えばポリスチレンとポリブタジエンからなる高分子ブロック共重合体の場合、ポリブタジエンからなるミクロドメインはポリスチレンからなるミクロドメインと比較してよりオスミウムにドープされやすい。この効果を利用して、ポリブタジエンからなるドメインのエッチング耐性を向上させることが可能である。
【0032】
高分子ブロック共重合体は適当な方法で合成すればよいが、ミクロ相分離構造の規則性を向上するためにはできる限り分子量分布が小さくなるような合成手法、例えばリビング重合法を用いることが望ましい。
【0033】
高分子ブロック共重合体は、基板表面において球状またはシリンダ状のミクロドメインが連続相中に規則的に配列した構造を形成するよう、高分子ブロック共重合体を構成する各ブロックを構成する高分子鎖の分子量比を設定することが望ましい。これにより、互いに分離され微細パターンを形成することが可能となる。一般的に高分子ジブロック共重合体の場合、各ブロックを構成する高分子の分子量の比が1:1近傍の場合はラメラ状のミクロドメイン構造を形成し、組成比が1:1からずれるに従い、シリンダー状,球状の構造へと変化する。
【0034】
高分子ブロック共重合体の分子量は、目的とするパターンのサイズに応じて選択する必要がある。本発明の目的は従来のトップダウン的手法では作成が困難な数ナノメートル〜数百ナノメートルの構造を形成することにある。そのため、高分子ブロック共重合体が形成するミクロ相分離構造の最近接ミクロドメイン間距離が10ナノメートル以上200ナノメートル以下になるように高分子ブロック共重合体を構成する各ブロックの分子量を調整すればよい。
【0035】
なお、ミクロ相分離構造を構成するミクロドメインの形状およびサイズは、上記した高分子ブロック共重合体を構成する各ブロックの分子量を調整する方法に加えて、高分子ブロック共重合体に、高分子ブロック共重合体を構成する高分子鎖と同じ化学構造からなるホモポリマーをブレンドすることにより調整することも可能である。この方法は、ミクロドメインの形状およびサイズを簡便に制御することができる点で優れている。
【0036】
本発明に用いる基板の材質は特に限定されないが、表面が平滑な基板、例えばシリコンウエハやガラスを用いるのが望ましい。基板表面に微細な溝や凹部を形成する手法も特に限定されるものではないが、定法である光リソグラフィー法を適用することができる。基板にシリコンウエハを用いた場合の加工法の一例を以下に示す。まず、シリコンウエハ上に微細な凹部の深さ相当分の厚みを有するSiO2 薄膜をCVD法により製膜し、その表面にレジスト層を製膜する。ついで、レジスト膜を凹部の形状に相当するパターンを有するマスクを用いて露光・現像することによりパターニングする。その後にパターニングしたレジスト膜をマスクとしてドライエッチングによりSiO2 膜をエッチングしパターンを基板表面に転写するとよい。レジストのパターニングには電子ビームによる直接描画方法等を適用することも可能である。また、リソグラフィー法を用いることなく収束イオンビーム等により基板を直接加工することも可能である。また、ガラス基板を用いた場合にも、公知の手法を用いて微細な溝や凹部を形成すれば良い。
【0037】
高分子ブロック共重合体の薄膜は以下の方法で基板表面に製膜することができる。すなわち、高分子ブロック共重合体を溶媒に溶解し、基板表面にスピンコート法,ディップコート法,溶媒キャスト法等の方法により基板表面に製膜する。その際、高分子ブロック共重合体層の厚みが所定の値となるように、高分子ブロック共重合体の濃度やスピンコートにおける回転数や時間、ディップコート法における引き上げ速度等を調整することが必要である。また、用いる溶媒は高分子ブロック共重合体を構成する各高分子鎖に対して良溶媒であることが望ましい。
【0038】
上記方法で得られた高分子ブロック共重合体薄膜はそのままの状態ではミクロ相分離が十分に進行せず規則性の低い非平衡構造である場合が多い。そのため、ミクロ相分離を十分に進行させ規則性の高いより平衡に近い構造に変化させるために熱処理を行うのが適当である。熱処理は高分子ブロック共重合体の酸化を防止するために真空や窒素あるいはアルゴン雰囲気下において、高分子ブロック共重合体を構成する各高分子鎖のガラス転移温度以上に加熱することにより行うとよい。
【0039】
図3に球状のミクロドメイン34が連続相33中に略規則的に配列したミクロ相分離構造を有する場合における本発明のパターン基板の断面および表面の模式図を示す。本発明における基板30はその表面に凸凹形状を有している。凸凹形状は溝状で基板表面に周期的に形成されていることが基板表面に形成する高分子ブロック共重合体のミクロ相分離構造の欠陥やグレイン構造を低減する上で望ましいが、凹部32の形状が方形や円形であってもよいし、また、凹部32の基板表面上での配置が均等である必要もない。
【0040】
本発明においては、基板表面に存在する凹部32の内部で発現するミクロ相分離を基点として基板表面全体に欠陥やグレイン構造が極めて少ないミクロ相分離構造を有する薄膜を形成する。そのため基板表面の凹部32の深さを以下に示すようにすることが望ましい。すなわち、基板表面に形成するミクロ相分離構造のミクロドメインの最近接ミクロドメイン間距離35をaとした場合、凹部32の深さは0.5a以上1.5a以下が望ましい。これは、凹部内部で発現した略規則的なミクロ相分離構造が、基板表面全体においてもミクロ相分離構造の周期を一定に保った上で連続的に形成可能であるからである。また、凹部32の深さを0.5a以上1.5a以下とすることで、凹部の溝内にミクロ相分離構造の一層が存在し、その上層が凸部表面に歪なく配列した構造とすることができる。
【0041】
また、基板表面の凹部32および凸部31はその内部および表面においてミクロ相分離構造が歪なく形成できる幅である必要がある。また、本発明によれば、凸部表面に規則性の高いミクロ相分離構造を形成できることから、できるだけ凸部31の面積を大きく、凹部32の面積を小さくすることが望ましく、その意味において凸部31の幅は広いほうが望ましく、凹部32の幅は小さい方が望ましい。他方、凸部31の幅が広くなると、凸部31表面でミクロドメインがグレイン構造をとりやすくなり好ましくない。また、凹部
32の幅が小さくなると凸部31表面部におけるミクロドメインの配列を制御する能力が小さくなり、凸部31表面でミクロドメインがグレイン構造をとりやすくなり好ましくない。本発明者らは凸部31と凹部32の幅を変化させた検討を実施した結果、凸部31および凹部32の幅はそれぞれ、最近接ミクロドメイン間距離35の1.0倍以上50.0倍以下、および1.0倍以上25.0倍以下であることが望ましいことを見出した。
【0042】
なお、基板30の表面に形成するミクロ相分離構造の層数は基板30上に製膜する高分子ブロック共重合体層の厚みにより変化するが、ミクロ相分離構造が球状のミクロドメインや、基板に対して平行に配向したシリンダー構造からなる場合は、その層数が基板の凸部31表面において1層であることが得られたパターン基板を活用する上で望ましい。そのためには、塗布する高分子ブロック共重合体層の厚みは基板の凸部31表面において
0.5a以上1.5a以下とすることが望ましい。
【0043】
本発明では、最近接ミクロドメイン間距離aに対して、凹部の深さ,幅,凸部の高さ,幅,高分子ブロック共重合体薄膜の厚さを所定の範囲とすることによって、凹凸表面に対してミクロ相分離構造を歪なく配列させ、欠陥やグレイン構造のない高分子ブロック共重合体薄膜を基板の表面全面に形成することができる。
【0044】
以上、本発明を高分子ブロック共重合体が形成するミクロ相分離構造が球状のミクロドメインが連続相中で略規則的に配列している状態を例として詳述した。しかしながら、ミクロドメインの形状は球状である必要はなく、目的に応じて選択されるべきものである。ミクロドメインの形状がシリンダー状でありかつシリンダー状のミクロドメインが基板に垂直方向に配列した場合の本発明の模式図を図4に、シリンダー状のミクロドメインが基板表面に平行方向に配列した場合の本発明の模式図を図5に示す。また、ミクロドメインの形状がラメラ状であり、かつそのラメラ状ミクロドメインが基板表面に垂直方向に配列した本発明の模式図を図6に示す。これらのミクロ相分離構造においても、最近接ミクロドメイン間距離aと凹部の深さ,幅,凸部の高さ,幅,高分子ブロック共重合体薄膜の厚さとの関係は同様である。また、最近接ミクロドメイン間距離aは、図4〜図6で示した距離35,43,53,63となる。
【0045】
次に、上述したパターン基板を用いて、表面に略規則的な凸凹形状を有するパターン基板を作成するための3種類の製造方法を詳述する。以下の説明では、AとBの2種類の高分子鎖からなるABジブロック共重合体を用い、A相が球状のミクロドメインを形成する場合を例とするが、ミクロドメインがシリンダー状やラメラ状等他の構造である場合や、用いる高分子ブロック共重合体がトリブロック等、他の種類である場合においても同等の製造方法を適用することができる。
【0046】
表面に微細な略規則的な凸凹形状を有するパターン基板の第1の製造方法を図7(A)〜(D)に示した模式的工程図を用いて説明する。本製造方法では、まず、基板の表面に公知の手法により所定のパターンの凹部32を形成する(図7(A))。次に、凹部32が形成された基板の表面に上述した方法により高分子ブロック共重合体薄膜70を製膜する(図7(b))。次に、高分子ブロック共重合体薄膜70を上述した方法により基板表面全体に球状のミクロドメイン71が連続相72中に略規則的に配列したミクロ相分離構造を有する高分子ブロック共重合体の薄膜を形成する(図7(C))。次に、このミクロ相分離構造を構成する球状ミクロドメイン71と連続相72のうち、連続相72を酸素プラズマによる反応性イオンエッチング(RIE)法やその他のエッチング法により選択的に除去する(図7(D))。この際、球状ミクロドメイン71がマスクとなり、連続相
72のうち球状ミクロドメイン71と基板30の間に存在する領域はエッチングされない。以上の工程により、球状ミクロドメインに相当する微細凸形状73が略規則的に表面全面に配列した構造を有する基板74を形成することができる。なお、上記説明では図7
(D)に示す工程において連続相72をエッチングする方法を示したが、逆に球状ミクロドメイン71をエッチングすることも可能である。この場合、基板74の表面には球状ドメイン71に相当するポアが略規則的に表面全面に配列した構造が形成される。従って、目的とするパターン形状に応じて、球状ミクロドメイン71と連続相72のうち片側の相を選択的に除去すれば良い。
【0047】
次に、表面に微細な略規則的な凸凹形状を有する第2の製造方法について図7(A)〜(E)を用いて説明する。まず、表面に微細な略規則的な凸凹形状を有するパターン基板の第1の製造方法に従い、図7(A)〜(D)に示す工程に基づき、微細凸形状73が略規則的に表面全面に配列した構造を有する基板74を作成する。次に、微細凸形状73をマスクとして、RIEやプラズマエッチング法により基板30をエッチング加工することにより、基板30に略規則的なミクロ相分離構造と同等なパターンを転写する(図7(E))。本製造方法に従って製造した基板の表面の高さは基板全面で均一となる。
【0048】
次に、表面に微細な略規則的な凸凹形状を有するパターン基板の第3の製造方法を図8に示した模式的工程図を用いて説明する。まず、表面に微細な略規則的な凸凹形状を有するパターン基板の第1の製造方法に従い、微細凸形状73が略規則的に表面全面に配列した構造を有する基板74を作成する(図8(A)〜(D))。次に、基板74の表面全体に、金属,無機物質またはその他の材質からなる薄膜80を製膜する(図8(E))。その後、薄膜80を基板から剥離することにより、基板74表面の形状のレプリカ形状を有するパターン基板(薄膜81)を製造する(図8(F))。この際、薄膜80の材質は、金属であればニッケル,白金,金等、無機材料であればガラスやチタニア等、製造するパターン基板の用途に応じて選択すればよい。薄膜80が金属の場合、その製膜にはスパッタや蒸着、あるいはめっき法およびその組み合わせを用いることが可能である。また、薄膜80が無機物質の場合は、スパッタやCVD法のほか、例えばゾルゲル法を用いることができる。ここで、めっきやゾルゲル法はミクロ相分離構造に由来する数十ナノメートルの微細な凸凹構造を正確に転写することが可能であり、非真空プロセスであることからくる低コストである点と合わせて望ましい。
【0049】
本製造方法により得られるパターン基板の表面には、図8(F)に示すようにミクロ相分離構造の規則性を向上する目的で用いた凹部32に由来する形状が存在せず、基板表面全体に高さの均一な微細な略規則的な凸凹パターンを有する。
【0050】
以上、上記3種類の方法により製造される略規則的な凸凹パターンを表面に有する基板は、その略規則的な微細構造を応用した種々の用途に直接適用することができる。また、上記方法により製造したパターン基板を原版として利用し、ナノインプリント法等によりその表面構造を他の物質に繰り返し転写することにより大量に複製し、複製物を用途に供することも可能である。
【0051】
ナノインプリント法により原版のパターンを他の基板に転写する方法としては以下の2種類の方法を用いることができる。第一の方法は原版を用いて直接、目的とする基板をインプリント成型する方法である。この方法は、目的とする基板が直接インプリント可能な材質からなる場合に適する。例えばポリスチレンに代表される熱可塑性樹脂からなる基板の場合、その樹脂のガラス転移温度以上の温度で原版を樹脂基板に押し当て、ガラス転移温度以下まで冷却した後に原版を樹脂基板表面から離型することより、原版の形状を樹脂基板表面に転写することができる。また、基板の材質が光硬化性樹脂である場合には、原版をガラス等からなる光透過性を有する材質とし、光硬化性の樹脂に原版を押し当てた後、原版を通して光を照射することにより樹脂を硬化させた後に、原版を離型することにより原版の形状を樹脂基板の表面に転写することができる。
【0052】
目的とする基板がガラスや金属等、直接インプリント加工することが困難な場合は、以下に述べる第2の方法を適用すればよい。すなわち、目的とする基板の表面に、直接インプリントできる材質からなる薄層を製膜して、その薄層に原版の形状をインプリント加工により転写する。次に原版の形状を転写した薄層をマスクとして、プラズマやイオンビーム等により目的とする基板をエッチング加工するとよい。
【0053】
本発明による略規則的な凸凹構造を有する基板を適用した事例として磁気記録用のパターン基板が挙げられる。パターン媒体では、磁性記録層を微細な領域に切断して領域間を磁気的に分断し、各領域を記録ピットとすることにより、記録密度を向上している。そのため、基板表面上に規則的に配列した微細な磁性記録領域を高密度に作製する必要がある。例えば、記録密度が1テラビット/平方インチの記録媒体を構成するためには、磁性記録領域の周期が25ナノメートルになるようにする必要がある。本目的を達成するために本発明のパターン基板およびその製造方法を適用することが望ましい。
【0054】
パターン媒体用の基板にはガラスやアルミニウムを用いることができる。ガラスやアルミニウム等の基板表面を図7に示した工程に従い表面に略規則的な微細凸凹パターンを加工した後、スパッタ等の方法を用いて磁気記録層を形成することによりパターン媒体を製造することができる。また、コストや生産性の観点から、図7または図8の方法で加工した表面に略規則的な凸凹パターンを有する基板を原版として、ナノインプリント法により、パターン媒体用基板、あるいは磁性膜を製膜したパターン媒体用基板を加工することが望ましい。
【実施例1】
【0055】
以下、図7(A)〜(D)に示す工程に従い、高分子共重合体が形成する球状ミクロドメインを活用して、表面全面に略規則的な微細凹凸形状を有するパターン基板を形成した例を示す。
【0056】
まず、図7(A)に示すように、表面に溝32を有する基板30を作製した。ここで溝32の幅(L)は200nm、深さ(d)は40nm、隣接する溝の間隔(t)は300nmとし、各溝は平行になるように基板表面に配置した。溝の加工には以下の方法を用いた。すなわち、シリコン基板上に厚さ40nmのSiO2 薄膜をプラズマCVDにより積層し、その後に定法のフォトリソプロセスを用いドライエッチングによりSiO2 薄膜をエッチングすることにより溝を加工した。
【0057】
次に、得られた基板30を濃硫酸と過酸化水素水の3:1混合溶液(ピラニア溶液)に60℃で10分間浸漬することにより表面を十分に洗浄した。
【0058】
上記方法で得られた基板30の表面にブロック共重合体溶液をスピンコートすることにより高分子ブロック共重合体の薄膜70を基板表面に製膜した(図7(B))。高分子共重合体溶液にはポリメチルメタクリル酸(PMMA)とポリスチレン(PS)からなるジブロック共重合体(PS−b−PMMA)に、組成を調整する目的でホモPMMAをブレンドし、トルエンに溶解したサンプルを用いた。溶液の濃度は1.0 重量%とした。ここで
PS−b−PMMAを構成するPSの数平均分子量Mnは10,000 、PMMAのMnは33,000であり、ホモPMMAのMnは11,500であった。また、PSからなる球状ミクロドメインがPMMAからなる連続相中に配列したミクロ相分離構造を形成させるために、高分子ブロック共重合体薄膜70中においてPS相の体積分率が20%になるようにPS−b−PMMAとホモPMMAの混合量を調整した。スピンコートは回転数
3500rpm で基板を回転し、その中心部にブロック共重合体溶液を滴下し、30秒間回転する方法で実施した。なお、高分子ブロック共重合体薄膜70中にはPMMA−b−
PSとホモPSがブレンドされた状態で存在するが、以後、簡便に高分子ブロック共重合体薄膜と称する。
【0059】
得られた高分子ブロック共重合体薄膜70の表面を原子間力顕微鏡で観察したところ、その表面は均一であり、基板30の凸凹形状に由来する形状は認められなかった。すなわち、溝32を含めて基板表面全面が均一に高分子ブロック共重合体により被覆されていることが判明した。基板の凸部31表面における高分子ブロック共重合体薄膜70の厚みを、高分子ブロック共重合体薄膜70を鋭利な刃で一部剥離し原子間力顕微鏡で高分子ブロック共重合体薄膜70が存在する部分と剥離した部分の段差を測定することにより評価した。その結果、高分子ブロック共重合体薄膜70の凸部31の表面からの厚みは40nmであった。
【0060】
次に、高分子ブロック共重合体薄膜70を製膜した基板30を窒素雰囲気下、230℃で4時間アニールすることにより高分子ブロック共重合体薄膜70中にミクロ相分離構造を発現させた(図7(C))。ここで、得られたミクロ相分離構造は、球状のPSミクロドメイン71が、PMMAの連続相72中に存在したものである。
【0061】
次に、得られた基板の表面を酸素RIEによりエッチングし、PMMA相を除去した。ここで酸素のガス圧力は1Pa、エッチング時間は60秒であった。得られた基板表面を原子間力顕微鏡により観察した結果を模式的に図9(A)に示す。基板の表面にはPMMA相が分解された後に、PSミクロドメイン71に由来する微細凸形状73が配列した状態が観察された。ここで、微細凸形状73は基板全面に六方最密充填構造をとり三画格子を形成しほぼ欠陥なく略規則的に配列した状態が観察された。また、観察範囲内においてグレイン構造やグレイン間の界面等は観察されなかった。さらに、溝32に由来する形状は認められなかった。なお、微細凸形状73の直径は25nmであり微細凸形状73の中心間の距離は40nmであった。
【0062】
次に、全面が平滑な表面を有する基板を用いて、上記プロセスと同様な工程で表面に微細凸形状73を作製した。ここで、用いた基板は、シリコン基板上に厚さ40nmの
SiO2 薄膜をプラズマCVDにより全面に積層することにより作成した。基板の凹凸加工は施さずに、図7(B)〜(D)の工程を経て得られた基板表面を原子間力顕微鏡により観察した結果を模式的に図9(B)に示す。微視的には微細凸形状73が六方最密充填構造をとり三画格子形成した状態が観察されたが、巨視的にみれば三画格子の配列方向が異なるグレイン状の領域が多数集まったポリグレイン構造となっていることが判明した。また、各グレイン内部においても、微細凸形状73が欠如した点欠陥や、配列が一部乱れた線欠陥が多数認められた。
【実施例2】
【0063】
高分子ブロック共重合体溶液を以下に説明するものに変えた以外は実施例1に記載の工程に従い実験を行った。
【0064】
高分子共重合体溶液には、PSの数平均分子量Mnが35,500 、PMMAのMnが12,200 である、PS−b−PMMAに、組成を調整する目的でホモPSをブレンドし、トルエンに溶解したサンプルを用いた。ここで、PMMAからなる球状ミクロドメインがPSからなる連続相中に配列したミクロ相分離構造を形成するために、PS−b−
PMMAとホモPSは高分子ブロック共重合体薄膜70中においてPMMA相の体積分率が20%になるように調整した。
【0065】
実施例1と同様に図7(A)〜(D)に図示した工程を経て、得られた基板の表面の表面を原子間力顕微鏡により観察した。その結果、基板30の表面にはPMMA相が分解されてできた微細なポアが、基板全面に六方最密充填構造をとり三画格子を形成して、ほぼ欠陥なく略規則的に配列した状態が観察された。また、観察範囲内においてグレインやグレイン間の界面等は観察されなかった。さらに、溝32に由来する形状は認められなかった。なお、微細ポアの直径は25nmであり微細ポアの中心間の距離は40nmであった。
【実施例3】
【0066】
溝32の深さ(d)を変化させた一連の実験の結果を説明する。本実験では溝の深さ
(d)を表1に記載した値にした以外は実施例1と同一の材料,工程,条件を用いた。本実験には実施例1と同一の高分子ブロック共重合体溶液を用いたため、高分子ブロック共重合体薄膜中に発現したミクロ相分離構造はPSからなる直径25nmの球状ドメインがドメイン中心間の距離、すなわち球状ミクロドメインの最近接ミクロドメイン間距離aを
40nmとしてPMMAからなる連続相中に分散したものとなった。
【0067】
表1に結果を示す。溝の深さ(d)が球状ミクロドメインの最近接ミクロドメイン間距離aの0.5 倍以上,1.5 倍以下の条件においては、図7(D)の工程において酸素
RIEによりPMMA相をエッチングした後に原子間力顕微鏡により観察した結果、基板表面には微細凸形状73が配列した状態が観察された。ここで、微細凸形状73は基板全面に六方構造をとって、ほぼ欠陥なく略規則的に配列した状態が観察された。また、観察範囲内においてグレインやグレイン間の界面等は観察されなかった。さらに、溝32に由来する形状は認められなかった。
【0068】
それに対して、溝の深さ(d)が球状ミクロドメインの最近接ミクロドメイン間距離aの0.5 倍より小さい場合は、図7(C)の工程において高分子ブロック共重合体薄膜を形成しミクロ相分離構造を発現させた状態でその表面を原子間力顕微鏡で観察したところ、その表面は平滑ではなく、溝32の上部表面がその周辺部31の上部表面に比べて隆起した状態となった。一方、溝の深さ(d)を球状ミクロドメインの最近接ミクロドメイン間距離aの1.5 倍より大きくした場合には、溝32の上部表面部分がその周辺部31の上部表面に比べて陥没した状態となった。
【0069】
次に、これらのサンプルを、図7(D)の工程において酸素RIEによりPMMA相をエッチングした後に原子間力顕微鏡により観察したところ、図9(C)に図示するように、溝32表面では微細凸形状73が六方最密充填し三角格子をとって配列した状態を示したが、溝周辺部分31表面では、微細凸形状73の配列方向が異なる多数のグレインからなり、また欠陥を多数有する構造となった。
【0070】
以上の結果より、基板全体に欠陥・グレイン・粒界なく高分子ブロック共重合体を用いたパターニングを行うためには、溝32の深さは高分子ブロック共重合体を構成するミクロドメインの最近接ミクロドメイン間距離をaとした場合、0.5a以上1.5a以下であることが望ましいことが判明した。
【0071】
【表1】

【実施例4】
【0072】
溝32の幅(L)を変化させた一連の実験の結果を説明する。本実験には溝の幅(L)を表2に示す値とした以外は実施例1と同一の材料,工程,条件を用いた。本実験には実施例1と同一の高分子ブロック共重合体溶液を用いたため、高分子ブロック共重合体薄膜中に発現したミクロ相分離構造はPSからなる直径25nmの球状ドメインがドメイン中心間の距離、すなわち球状ミクロドメインの最近接ミクロドメイン間距離aを40nmとしてPMMAからなる連続相中に分散したものとなった。
【0073】
表2に結果を示す。溝の幅(L)が球状ミクロドメインの最近接ミクロドメイン間距離aの1.0 倍以上である基板を用いた場合、図7(D)の工程において酸素RIEによりPMMA相をエッチングした後に原子間力顕微鏡により観察した結果、基板表面全面に
PSの球状ミクロドメイン71に由来する微細凸形状73が配列した状態が観察された。ここで、微細凸形状73は基板全面に六方最密重点構造をとって三角格子を形成し、ほぼ欠陥なく略規則的に配列した状態が観察された。また、観察範囲内においてグレインやグレイン間の界面等は観察されなかった。さらに、溝32に由来する形状は認められなかった。
【0074】
それに対して、溝の幅(L)が球状ミクロドメインの最近接ミクロドメイン間距離aの1.0 倍より小さい基板を用いた場合は、図7(D)の工程において酸素RIEにより
PMMA相をエッチングした後の状態を原子間力顕微鏡により観察したところ、基板表面全体が微細凸形状73の配列方向が異なる多数のグレインからなる構造となった。
【0075】
以上の結果より、基板全体に欠陥・グレイン・粒界なく高分子ブロック共重合体を用いたパターニングを行うためには、溝32の幅(L)は高分子ブロック共重合体を構成するミクロドメインの最近接ミクロドメイン間距離をaとした場合、1.0a 以上であることが必要と判明した。
【0076】
【表2】

【実施例5】
【0077】
基板30が有する溝と溝の間隔(t)、すなわち図7(A)における基板凸部31の幅を変化させた一連の実験の結果を説明する。本実験では間隔(t)を表3に記載した値とした以外は実施例1と同一の材料,工程,条件を用いた。本実験には実施例1と同一の高分子ブロック共重合体溶液を用いたため、高分子ブロック共重合体薄膜中に発現したミクロ相分離構造はPSからなる直径25nmの球状ドメインがドメイン中心間の距離、すなわち球状ミクロドメインの最近接ミクロドメイン間距離aを40nmとしてPMMAからなる連続相中に分散したものとなった。
【0078】
表3に結果を示す。間隔(t)が間隔(t)が球状ミクロドメインの最近接ミクロドメイン間距離aの50.0 倍以下である基板を用いた場合、図7(D)の工程において酸素RIEによりPMMA相をエッチングした後に原子間力顕微鏡により観察した結果、基板表面全面にPSの球状ミクロドメイン71に由来する微細凸形状73が配列した状態が観察された。ここで、微細凸形状73は基板全面に六方構造をとって、ほぼ欠陥なく略規則的に配列した状態が観察された。また、観察範囲内においてグレインやグレイン間の界面等は観察されなかった。さらに、基板30表面に加工した溝32に由来する形状は認められなかった。
【0079】
それに対して、間隔(t)が球状ミクロドメインの最近接ミクロドメイン間距離aの
50.0 倍より大きい基板を用いた場合は、図7(D)の工程において酸素RIEによりPMMA相をエッチングした後の状態を原子間力顕微鏡により観察したところ、図9(C)に模式的に示した像が得られた。溝32の表面部分では球状ミクロドメインが六方最密充填構造をとって三角格子を形成し配列した状態を示したが、溝と溝の間の部分、すなわち基板表面の凸部31表面部分では微細凸形状73の配列方向が異なる多数のグレインからなり、また欠陥を多数有する構造となった。
【0080】
以上の結果より、基板全体に欠陥・グレイン・粒界なく高分子ブロック共重合体を用いたパターニングを行うためには、溝32の間隔(t)は高分子ブロック共重合体を構成するミクロドメインの最近接ミクロドメイン間距離をaとした場合、50.0a 以下であることが必要と判明した。
【0081】
【表3】

【実施例6】
【0082】
次に、実施例1と同一の基板および工程を用いて、基板表面に塗布する高分子ブロック共重合体薄膜70の厚みを変化させた一連の実験の結果を表4にまとめた。高分子ブロック共重合体薄膜70の厚みは、高分子ブロック共重合体溶液の濃度およびスピンコートの際の回転数を変化させることにより制御した。本実験には実施例1と同様に、PMMA−b−PSとホモPSを、PS相の体積分率が20%になるように調整したサンプルを用いたため、高分子ブロック共重合体薄膜中に発現したミクロ相分離構造はPSからなる直径25nmの球状ドメインがドメイン中心間の距離、すなわち球状ミクロドメインの最近接ミクロドメイン間距離aを40nmとしてPMMAからなる連続相中に分散したものとなった。
【0083】
高分子ブロック共重合体薄膜70の厚みが、基板の凸部31表面において球状ミクロドメインの最近接ミクロドメイン間距離aの0.5倍以上,1.5倍以下の場合、図7(C)の工程においてミクロ相分離構造を発現させた状態において、高分子ブロック共重合体薄膜70の表面を原子間力顕微鏡で観察したところ、その表面は平滑で、基板の凸部31および凹部32の表面を均一に被覆できていることが判明した。次に、これらのサンプルの表面を、図7(D)の工程においてRIEでエッチングした後に原子間力顕微鏡により観察したところ、基板表面全面に、PSからなる球状ミクロドメイン71に由来する微細凸形状73が配列した状態が観察された。ここで、微細凸形状73は基板全面に六方構造をとって、ほぼ欠陥なく略規則的に配列した状態が観察された。また、観察範囲内においてグレインやグレイン間の海面等は観察されなかった。さらに、基板30表面に加工した溝32に由来する形状は認められなかった。なお、球状ドメインの直径は25nmでありドメイン中心間の距離、すなわち球状ミクロドメインの最近接ミクロドメイン間距離aは
40nmであった。
【0084】
次に、高分子ブロック共重合体薄膜70の厚みが、基板の凸部31表面において、球状ミクロドメインの最近接ミクロドメイン間距離aの0.5倍 より小さい条件で実施した実験の結果を説明する。この条件においては、図7(C)の工程において、高分子ブロック共重合体薄膜70を製膜した基板を窒素雰囲気下、230℃で4時間アニールした後に高分子ブロック共重合体薄膜70表面を原子間力顕微鏡で観察したところ、高分子ブロック共重合体薄膜70の厚みに不均一性が生じていることが確認された。すなわち、高分子ブロック共重合体薄膜70が基板30の表面全面を均一に被覆するのではなく、基板30の表面が露出している円形状の領域が多数認められた。このサンプルを用いて、図7(D)の工程においてRIEでエッチングした後に原子間力顕微鏡により観察したところ、微細凸形状73は円形状の領域には存在しないことが判明した。
【0085】
次に、高分子ブロック共重合体薄膜70の厚みが、基板の凸部31表面において、球状ミクロドメインの最近接ミクロドメイン間距離aの1.5 倍より大きい条件で実施した実験の結果を説明する。この条件においても、図7(C)の工程において、高分子ブロック共重合体薄膜70を製膜した基板を窒素雰囲気下、230℃で4時間アニールした後に高分子ブロック共重合体薄膜70表面を原子間力顕微鏡で観察したところ、高分子ブロック共重合体薄膜70の厚みに不均一性が生じていることが確認された。すなわち、高分子ブロック共重合体薄膜70が基板30の表面全面を均一に被覆しているのではなく、高分子ブロック共重合体薄膜70表面に円形状の厚みが厚い領域が多数認められた。このサンプルを用いて、図7(D)の工程においてRIEでエッチングした後に原子間力顕微鏡により観察したところ、円形状の領域外では微細凸形状73が規則的に配列しているが、円形状の領域内では、球状ドメインが2層以上堆積した状態にあることが判明した。
【0086】
以上より、基板表面全面に微細凸形状73をほぼ欠陥なく略規則的に配列するためには、高分子ブロック共重合体薄膜70の厚みが、基板の凸部表面において、球状ミクロドメインの最近接ミクロドメイン間距離aの0.5倍以上,1.5倍以下にする必要があることが判明した。
【0087】
【表4】

【実施例7】
【0088】
実施例1と同等な工程を用い、基板表面全体にPSからなるシリンダー状のミクロドメインがPMMAの連続相中に、基板の表面に平行に配列した構造からなるミクロ相分離構造を形成し、PMMA相をRIEにより分解することによりパターン基板を作製した。
【0089】
基板には、平滑な表面に深さ(d)40nm、幅(L)200nmの溝を間隔(t)を300nmとして100列、各溝が平行になるよう配置したものを用いた。
【0090】
高分子共重合体溶液には、ポリメチルメタクリル酸(PMMA)とポリスチレン(PS)からなるジブロック共重合体(PMMA−b−PS)に、ミクロドメインがシリンダー状になるように組成を調整する目的でホモPMMAをブレンドし、トルエンに溶解したサンプルを用いた。溶液の濃度は1.0重量%とした。ここでPMMA−b−PSを構成するPMMAの数平均分子量Mnは12,200、PSのMnは35,500であり、ホモの
PMMAのMnは11,500 であった。ミクロ相分離構造を構成するドメインを球状とするため、PMMA−b−PSとホモPMMAは高分子ブロック共重合体薄膜70中の
PMMAの体積分率が30%になるように調整した。
【0091】
得られた基板の表面に厚さ約5ÅのPtを蒸着し、走査型電子顕微鏡で表面構造を観察したところ、基板表面全面に幅25nm直線状の構造が直線の中心間距離を45nmとして平行にほぼ欠陥なく形成されていることが判明した。
【実施例8】
【0092】
実施例1記載の方法で基板の表面に作製したPSからなる微細凸形状73をマスクとして、基板をドライエッチングにより加工した事例を、図10を用いて説明する。
【0093】
まず、シリコン基板90上に厚さ40nmのSiO2 薄膜91をプラズマCVDにより積層し、その後に定法のフォトリソプロセスを用いドライエッチングにより、溝92を加工することにより、表面に複数の溝92を有する基板93を作製した。ここで、溝92の幅は200nm、深さは40nm、隣接する溝の間隔は300nmとし、各溝は平行になるように基板表面に配置した。
【0094】
次に、実施例1記載の方法に従い、図10(B)〜図10(D)に図示した工程を経て、基板の表面全面に微細凸形状73を略規則的に配列させた(図10(D))。本実験には実施例1と同一の高分子ブロック共重合体溶液を用いたため、図10(C)に示す工程において、高分子ブロック共重合体薄膜中に発現したミクロ相分離構造はPSからなる直径25nmの球状ミクロドメイン71がドメイン中心間の距離、すなわち球状ミクロドメインの最近接ミクロドメイン間距離aを40nmとしてPMMAからなる連続相72中に分散したものとなった。また、図10(D)に示す工程において、基板表面を原子間力顕微鏡で観察したところ、基板表面全面に、微細凸形状73が配列した状態が観察された。ここで、微細凸形状73は基板全面に六方最密重点構造をとって三角格子を構成した状態でほぼ欠陥なく略規則的に配列した状態が観察された。また、観察範囲内においてグレインやグレイン間の海面等は観察されなかった。さらに、溝92に由来する形状は認められなかった。なお、微細凸形状73の直径は25nmであり、微細凸形状73の中心間の距離は40nmであった。
【0095】
次に、微細凸形状73をマスクとして、基板93表面のSiO2 薄膜91をC26ガスによるRIE法によりドライエッチングした。エッチング条件は出力150W,ガス圧1Pa、エッチング時間は60秒とした。SiO2 層のエッチングの後、基板表面に残存しているブロック共重合体を酸素プラズマ(30W,1Pa,120秒)処理により除去し、図7(E)に示したシリコン基板表面にSiO2 からなる円柱の構造体94を形成した。ここで、得られた基板を、表面に厚さ約5ÅのPtを蒸着することにより走査型電子顕微鏡で観察したところ、SiO2 からなる円柱の構造体94はその直径が25nmであり、それらが最近接中心間距離を40nmとして六法最密重点構造をとり三角格子を形成してほぼ規則的に配列している状態が観察された。また、基板を収束イオンビームにより加工し、走査型電子顕微鏡を用いて、基板の断面構造を観察したところ、SiO2 からなる円柱の構造体94の高さは40nmで均一であることが判明した。
【実施例9】
【0096】
図8を用いて実施例1記載の方法で作製した、微細凸形状が略規則的に表面全面に配列した基板74(以下パターン基板と称する)の表面構造を反転転写したレプリカ構造を有するニッケル膜をめっき手法により作製する方法を説明する。まず、図8(A)〜図8
(D)に示す工程に従い、実施例1と同一の高分子ブロック共重合体溶液、同一の基板
30および同一の工程により表面全体にPSの球状ミクロドメイン71に由来する微細凸形状73が配列したパターン基板74を作製した。
【0097】
次に、表面全体に微細凸形状73が配列したパターン基板74の表面に無電解ニッケルめっきを施した。さらに、無電解ニッケルめっき層を給電層として電気ニッケルめっきを施し、厚さ20μmのニッケル膜80を基板表面に形成した(図8(E))。
【0098】
無電解ニッケルめっきは以下の方法を適用した。まず、パターン基板74表面を無電解めっき用触媒の付与を促進するためのクリーナー溶液(アトテックジャパン製セキュリガント902)に30℃において5分間浸漬した。得られたパターン基板を純水で十分に洗浄し、触媒液の汚染を防止する目的でプレディップ溶液(アトテックジャパン社製ネオガントB)に室温で1分間浸漬した。しかる後にパターン基板74を触媒溶液(アトテックジャパン社製ネオガント834)液に40℃において5分間浸漬した。ここで用いた触媒はパラジウム錯体分子が溶液中に溶解したタイプである。触媒付与後、パターン基板74を純水に浸漬することにより洗浄し、アトテックジャパン社製ネオガントW液を用いて付与したパラジウムを核として活性化した。最後に、得られたパターン基板を純水で洗浄することにより、無電解めっき析出用の触媒層を有するパターン基板を得た。次に、触媒の付与を行ったパターン基板74を無電解ニッケルめっき液に30秒間浸漬することにより、パターン基板74表面全体にニッケルめっき膜を析出させた。ここで用いた無電解ニッケルめっき液の組成およびめっき条件を表5に示す。なお、めっき液のpHはアンモニア水溶液を用いて調整した。
【0099】
【表5】

電気ニッケルめっきは以下に示す手順により実施した。すなわち、無電解ニッケルめっきによりパターン基板74表面全体を被覆するように析出させたニッケルめっき膜の周辺部から導電テープによりリードを取り、ニッケル板を対極として、日本化学産業社製のスルファミン酸Niめっき液を用いて電気ニッケルめっきを施した。めっき液の組成およびめっき条件を表6に示す。
【0100】
【表6】

最後に、上記方法で得られたニッケル膜80を、パターン基板74から剥離することにより微細なポアを有するニッケル膜81を得た(図8(F))。得られたニッケル膜81の表面構造を操作型電子顕微鏡で観察したところ、直径25nmの微細なポアが、ポア中心間の際近接距離を40nmとして、ニッケル膜表面全面に、欠陥・グレイン・粒界なくほぼ規則的な状態で六方方向に配列した状態で存在することが明らかとなった。
【実施例10】
【0101】
本実施例では、実施例9に開示した方法と同等な工程により作成した、表面に略規則的な微細凸凹形状を有するニッケル膜をナノインプリント法のスタンパとして用いた例を説明する。
【0102】
まず、図11(A)に試作したニッケルスタンパ1001の模式図を示す。ニッケルスタンパ1001の外寸は4インチφ、厚みは25マイクロメートルであった。スタンパ
1001の中心部2.5cm 四方の領域1002には直径25nm,深さ40nmの微細ポア1003が六方状にほぼ規則的に配列している。中心部2.5cm 四方の領域1002の拡大図を図11(B)に示す。なお、ニッケルスタンパ1001は、実施例8と同等の手法により作成した。
【0103】
図12にナノインプリント装置の模式図を示す。図12(A)はスタンパ1001の表面に剥離層を形成するための装置である。図12(B)は基板にスタンパ1001表面の微細ポア構造を転写するための装置である。
【0104】
ここで、プロセス手順を説明する。まず、図12(A)を用いてスタンパ1001の表面に、樹脂成形時に、離型を容易にするために剥離剤をコートする過程を説明する。表面が平滑なガラス基板1114にシリコーン(ポリジメチルシロキサン)系剥離剤1113をスピンコートし200ナノメートル厚みに塗布した。この剥離剤付き基板をステージ
1108上に置き、真空チャックで固定した。さらにこの上にスタンパ1001と緩衝材1112(5インチφ厚さ3mm)とを配した。加圧機構1110を用いて2MPaの圧力でプレスすることによりスタンプ表面1101に剥離剤層を形成した。緩衝材1112はガラス基板1114のうねりにスタンパを沿わせるために用いたものである。次に、圧力を解放し、ステージを下降させることにより表面が剥離剤でコートされたスタンパ1001を得た。
【0105】
次に、剥離剤をコートしたスタンパ1001を用いた樹脂の成形プロセスを図12(b)を用いて説明する。まず、シリコン基板1121(4インチφ厚さ0.5mm )にポリスチレン樹脂1122(ポリスチレン679,エイアンドエム製)を厚さ600nmになるようにスピンコートした。剥離剤でコートされたスタンパ1101を位置決めして組み合わせた後、ステージ1118上にセットした。図12(B)の微細構造転写装置は図12
(A)の剥離材形成装置と異なり、真空チャンバ1117を有し、ステージ1118は加熱機構を備えている。これを、0.1Torr 以下に減圧し、250℃に加熱した上で、12MPaで10分間保持して加圧した。次に、100℃以下になるまで放冷後、大気解放を行った。室温にてスタンパ裏面に剥離治具を接着固定し、0.1mm/s で鉛直方向に引き上げたところ、ポリスチレン樹脂表面にスタンパ表面の形状が転写された。
【0106】
次に、同一の剥離剤でコートされたスタンパ1101を用いて上記樹脂成形プロセスを100回繰り返し、スタンパ表面の形状が転写された樹脂成形体を100個得た。得られた樹脂成型体の中心部表面を原子間力顕微鏡で観察したところ、すべてのポリスチレン樹脂成型体について、柱状の突起が六方構造をとって、ほぼ欠陥なく略規則的に配列した状態が観察された。なお、柱状の突起物の直径は25nmであり、柱状の突起物中心間の距離40nmであった。以上から、スタンパの表面形状をポリスチレン樹脂表面に正確に転写することができたことを確認した。
【実施例11】
【0107】
本発明を用いて、磁気記録用パターン媒体を作成した方法を説明する。本方法は、パターン媒体のパターンの原版を高分子ブロック共重合体の自己組織化により作成する工程と、原版のニッケルめっきレプリカをめっきにより作成する工程と、ニッケルめっきレプリカをスタンパとしてパターン媒体となるガラス基板表面にマスクを成型する工程と、得られたマスクを用いてガラス基板表面に磁性膜を製膜する工程からなる。
【0108】
まず、パターン媒体を構成するパターンの原版を高分子ブロック共重合体の自己組織化により作成する工程を説明する。
【0109】
2.5 インチのシリコン基板の表面に厚さ30nmのSiO2 層をCVD法により製膜した。次に、定法のフォトリソグラフィープロセスを適用することによりSiO2 層をエッチングすることにより、基板表面に深さ30nm,幅200nmの同心円状の溝を1000nm間隔で形成した。
【0110】
次に、実施例1に記載の工程に従い、PSからなる微小凸形状物が規則的に配列した基板を作成した。この際、高分子ブロック共重合体にはPSとPMMAからなるジブロック共重合体PS−b−PMMAを用いた。PS−b−PMMAを構成するPSブロックと
PMMAブロックの数平均分子量Mnはそれぞれ、7,000と25,000であった。得られた基板表面を原子間力顕微鏡により観察した結果、微視的には基板表面に直径20
nm,高さ25nmのPSからなる微小な凸形状物が最近接中心間距離30nmで六法最密充填構造をとり三角格子を形成して、ほぼ欠陥なく規則的に配列している状況が観察された。また、原子間力顕微鏡観察の倍率を下げて巨視的な観察を行ったところ、PSからなる微小な凸形状物が形成している規則構造は、基板の中心を中心とする同心円状にほぼ欠陥なく配列していることが判明した。
【0111】
次に、実施例8に記載した方法に従い、PSからなる微小凸形状物が規則的に配列した基板表面にニッケルめっきを施し、その表面構造を反転転写したレプリカ形状を有する厚さ25μmニッケル膜からなるナノインプリント用スタンパを作成した。得られたスタンパの表面を走査型電子顕微鏡で観察したところ、ニッケル膜表面に直径20nmの微小なポアが規則的に形成できていることが確認できた。
【0112】
直径が2.5インチで中心に直径0.5 インチの穴が開いたドーナッツ状のガラス基板の表面に、厚さが約30nmのPd下地層と厚さが約30nmのCoCrPt層を製膜することにより磁性層を作成した。次に磁性層の表面に厚さ10nmのPS層をスピンコート法により製膜した。ここで用いたPSの分子量Mnは5,000 であった。磁性層表面のPS薄膜を、上記方法で得たスタンパを用いて実施例10記載の方法と同等な手法によりナノインプリント加工した。得られた磁性層表面のPS薄膜を原子間力顕微鏡で観察したところ、PS薄膜に直径20nmの微小な凸状形状物が規則的に形成できていることが確認できた。ここで、微小な凸状形状物の形状およびその配置はスタンパ表面の微小なポアの形状をおよび配置が反転転写されたものであった。また、微小な凸状形状物の断面を詳細に原子間力顕微鏡を用いて測定したところ、微小凸状形状物の高さは20nmであった。
【0113】
次に、磁性層表面に作成したPSからなる微小凸状形状物をマスクとして磁性層表面の磁性層をArイオンミリングによりエッチングした。この過程で、PS薄膜はすべて消失した。得られたガラス基板の表面を原子間力顕微鏡により詳細に観察したところ、その表面には、微視的には基板表面に直径20nm,高さ15nmの微小な凸状の磁性層が、最近接中心間距離30nmで六法最密充填構造をとり三角格子を形成して、ほぼ欠陥なく規則的に配列している状況が観察された。また、原子間力顕微鏡観察の倍率を下げて巨視的な観察を行ったところ、微小な凸状の磁性層が形成している規則構造は、基板の中心を中心とする同心円状にほぼ欠陥なく配列していることが判明した。
【0114】
最後に、得られた基板表面全面に厚さ30nmのSiO2 層を製膜し、得られた表面をCMP法により研磨し平坦化した。その後、得られた基板表面全面にカーボン層をCVD法により製膜して保護膜を形成し磁気記録用パターン基板を得た。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】基板表面の凹形状内部のみに略規則的ミクロ相分離構造を形成させた従来技術によるパターン基板の断面および表面の模式図。
【図2】従来技術により略規則的ミクロ相分離構造を用いて基板を加工する工程を示した模式図。
【図3】球状のミクロドメインからなる略規則的ミクロ相分離構造を有する本発明のパターン基板の断面および表面の模式図。
【図4】シリンダー状のミクロドメインが基板表面に垂直方向に配列した略規則的ミクロ相分離構造を有する本発明のパターン基板の断面および表面の模式図。
【図5】シリンダー状のミクロドメインが基板表面に平行方向に配列した略規則的ミクロ相分離構造を有する本発明のパターン基板の断面および表面の模式図。
【図6】ラメラ状のミクロドメインが基板表面に垂直方向に配列した略規則的ミクロ相分離構造を有する本発明のパターン基板の断面および表面の模式図。
【図7】パターン基板の製造方法の工程を示した模式図。
【図8】パターン基板の製造方法の工程を示した模式図。
【図9】パターン基板表面の原子間力顕微鏡により観察した模式図。
【図10】パターン基板の製造方法の工程を示した模式図。
【図11】スタンパの模式図。
【図12】ナノインプリント装置。
【符号の説明】
【0116】
10,30…基板、11,92…溝、12…高分子ブロック共重合体薄膜中のミクロ相分離構造の連続相、13…高分子ブロック共重合体薄膜中のミクロ相分離構造の球状ミクロドメイン、14,21…溝周辺部分、20…微細で略規則的な凸凹、31…基板表面の凸部、または溝周辺部分、32…基板表面の凹部、または溝、33…高分子ブロック共重合体薄膜中のミクロ相分離構造の連続相、34…高分子ブロック共重合体薄膜中のミクロ相分離構造の球状ミクロドメイン、35…球状ミクロドメイン間の最近接ミクロドメイン間距離a、41…高分子ブロック共重合体薄膜中のミクロ相分離構造の連続相、42…高分子ブロック共重合体薄膜中のミクロ相分離構造のシリンダー状ミクロドメイン、43…シリンダー状ミクロドメインの最近接ミクロドメイン間距離a、61…高分子ブロック共重合体薄膜中のミクロ相分離構造のラメラ状ミクロドメインA、62…高分子ブロック共重合体薄膜中のミクロ相分離構造のラメラ状ミクロドメインB、63…ラメラ状ミクロドメインの最近接ミクロドメイン間距離a、70…高分子ブロック共重合体薄膜、71…球状ミクロドメイン、72…連続相、73…微細凸形状、74…微細凸形状が略規則的に表面全面に配列した基板、80…金属,無機物質またはその他の材質からなる薄膜、81…微細凸凹または微細孔を有する薄膜、またはニッケル膜、90,1121…シリコン基板、91…SiO2薄膜、93…表面に溝を有する基板、94…SiO2からなる円柱の構造体、1001…ニッケルスタンパ、1002…ポアを有する領域の一部分を拡大した図、
1003…微細ポア、1106,1115…フレーム、1107…ヘッド、1108,
1118…ステージ、1109,1119…支持体、1110,1123…加圧機構、
1112…緩衝材、1113…剥離剤、1114…ガラス基板、1117…真空チャンバ、1120…剥離層、1122…ポリスチレン樹脂。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミクロ相分離構造を有する高分子ブロック共重合体の薄膜をベース基板の表面に有するパターン基板において、
前記ベース基板表面に凸凹形状を有し、該凹形状部分の深さが前記ミクロ相分離構造を構成するミクロドメインの最近接ミクロドメイン間距離aに対して、0.5a以上1.5a以下であり、前記高分子ブロック共重合体の薄膜が前記ベース基板の凹形状部分及び凸形状部分の表面に形成されていることを特徴とするパターン基板。
【請求項2】
請求項1に記載のパターン基板において、
前記最近接ミクロドメイン間距離aが10ナノメートル以上200ナノメートル以下であることを特徴とするパターン基板。
【請求項3】
請求項1に記載のパターン基板において、
前記ミクロ相分離構造を構成するミクロドメインの最近接ミクロドメイン間距離をaとした場合、
基板表面の凸形状部分の幅が1.0a以上50.0a以下であり、凹形状部分の幅が
1.0a以上25.0a以下であることを特徴とするパターン基板。
【請求項4】
請求項1に記載のパターン基板において、
前記最近接ミクロドメイン間距離aに対して、前記高分子ブロック共重合体の薄膜の凸形状部分表面からの厚みが0.5a以上1.5a以下であることを特徴とするパターン基板。
【請求項5】
請求項1に記載のパターン基板において、
前記ミクロ相分離構造が球状あるいはシリンダー状のミクロドメインからなることを特徴とするパターン基板。
【請求項6】
請求項1に記載のパターン基板において、前記高分子ブロック共重合体がポリスチレンとポリメチルメタクリレートからなるジブロック共重合体であることを特徴とするパターン基板。
【請求項7】
ミクロ相分離構造を有する高分子ブロック共重合体の薄膜をベース基板の表面に有するパターン基板において、
前記ベース基板の表面に凹凸形状を有し、前記高分子ブロック共重合体の薄膜が、前記凹形状部分の溝内に形成され、連続相中にミクロドメインが一列配列した層と、凸形状部分の表面に形成され、連続相中にミクロドメインが一列配列した層の2層構造であることを特徴とするパターン基板。
【請求項8】
請求項7に記載のパターン基板において、
前記ミクロ相分離構造を構成するミクロドメインの最近接ミクロドメイン間距離をaとした場合、
基板表面の凸形状部分の幅が1.0a以上50.0a以下であり、凹形状部分の幅が
1.0a以上25.0a以下であることを特徴とするパターン基板。
【請求項9】
請求項7に記載のパターン基板において、
前記ミクロ相分離構造を構成するミクロドメインの最近接ミクロドメイン間距離をaとした場合、
凹形状部分の深さが0.5a以上1.5a以下であり、前記高分子ブロック共重合体の薄膜の凸形状部分表面からの厚みが0.5a以上1.5a以下であることを特徴とするパターン基板。
【請求項10】
請求項7に記載のパターン基板において、前記高分子ブロック共重合体がポリスチレンとポリメチルメタクリレートからなるジブロック共重合体であることを特徴とするパターン基板。
【請求項11】
基板の表面の一部に凹形状を形成する工程と、
前記凹形状内部を充填し、かつ基板表面を被覆するように高分子ブロック共重合体薄膜を形成する工程と、
前記高分子ブロック共重合体薄膜中にミクロ相分離構造を形成する工程と、
を有することを特徴とするパターン基板の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載のパターン基板の製造方法において、前記ミクロ相分離構造から1つの高分子相を選択的に除去する工程を有することを特徴とするパターン基板の製造方法。
【請求項13】
請求項12に記載のパターン基板の製造方法において、前記ミクロ相分離構造から1つの高分子相を選択的に除去した後、残存した他の高分子相をマスクとして基板を加工することにより前記ミクロ相分離構造を基板表面に転写する工程
を有することを特徴とするパターン基板の製造方法。
【請求項14】
請求項12に記載のパターン基板の製造方法において、前記ミクロ相分離構造から1つの高分子相を選択的に除去した後、残存した他の高分子相に非転写体を密着させて前記ミクロ相分離構造を被転写体に転写する工程を有することを特徴とするパターン基板の製造方法。
【請求項15】
請求項11に記載のパターン基板の製造方法において、
前記ミクロ相分離構造を構成するミクロドメインの最近接ミクロドメイン間距離aが
10ナノメートル以上200ナノメートル以下であることを特徴とするパターン基板の製造方法。
【請求項16】
請求項11に記載のパターン基板の製造方法において、
前記ミクロ相分離構造を構成するミクロドメインの最近接ミクロドメイン間距離をaとした場合、
基板表面の凹形状部分の幅が1.0a以上25.0a以下であり、隣接する凹形状部分の間隔が1.0a以上50.0a以下であることを特徴とするパターン基板の製造方法。
【請求項17】
請求項11に記載のパターン基板の製造方法において、
前記ミクロ相分離構造を構成するミクロドメインの最近接ミクロドメイン間距離をaとした場合、
凹部分の深さが0.5a以上1.5a以下であることを特徴とするパターン基板の製造方法。
【請求項18】
請求項11に記載のパターン基板の製造方法において、
前記ミクロ相分離構造を構成するミクロドメインの最近接ミクロドメイン間距離をaとした場合、
前記高分子ブロック共重合体薄膜の前記基板の表面からの厚みが0.5a以上1.5a以下であることを特徴とするパターン基板の製造方法。
【請求項19】
請求項11に記載のパターン基板の製造方法を含む工程を用いて製造した微細金型。
【請求項20】
請求項11に記載のパターン基板の製造方法を含む工程を用いて製造した磁気記録用パターン媒体。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−125699(P2007−125699A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−317857(P2005−317857)
【出願日】平成17年11月1日(2005.11.1)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】