説明

パターン検査装置およびパターン検査方法

【目的】結像光学系における空気揺らぎを抑制し、検査精度を向上させるパターン検査装置およびパターン検査方法を提供する。
【構成】被検査試料に形成されたパターンを検査するパターン検査装置であって、ダウンフロー機構を有するチャンバと、チャンバ内に設けられる光源と、チャンバ内に設けられ、光源から射出される検査光を被検査試料に照射する照明光学系と、チャンバ内に設けられ、防風カバーで覆われ、被検査試料に照射された検査光を光学像として結像させる結像光学系と、チャンバ内に設けられ、光学像を取得する検出センサを備え、結像光学系内に、光学部品を移動するために、静止時電流を動作時電流より低減可能なステッピングモータを有することを特徴とするパターン検査装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検査試料のパターンを検査するパターン検査装置およびパターン検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大規模集積回路(LSI)の高集積化及び大容量化に伴い、半導体素子に要求される回路線幅はますます狭くなってきている。これらの半導体素子は、回路パターンが形成された原画パターン(マスク、フォトマスク或いはレチクルともいう。以下、マスクと総称する)を用いて、いわゆるステッパと呼ばれる縮小投影露光装置でウェハ上にパターンを露光転写して回路形成することにより製造される。
【0003】
そして、多大なコストのかかるLSIの製造にとって、歩留まりの向上は欠かせない。歩留まりを低下させる大きな要因の一つとして、半導体ウェハ上に超微細パターンを露光、転写する際に使用されるマスクのパターン欠陥があげられる。
【0004】
近年、半導体ウェハ上に形成されるLSIパターン寸法の微細化に伴って、パターン欠陥として検出しなければならない寸法も極めて小さいものとなっている。そのため、LSI製造に使用される転写用マスクの欠陥を検査するパターン検査装置の高精度化が必要とされている。
【0005】
パターン検査装置の高精度化を阻害する要因として、装置内の空気の揺らぎによって生じる画像揺らぎがある。装置内の空気揺らぎの要因としては、チャンバ内の防塵のためのダウンフローで生ずる乱流や、部品の発熱による対流等がある。
【0006】
特許文献1には、モータの励磁電流を制御して、モータの熱影響を抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−123686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
パターン検査装置において、光源から被検査試料までの光路に配置される照明光学系は、光の照射エネルギーが大きく、光学部品の劣化を防止するため、パージボックスに収められるなど雰囲気に対する対策がなされる場合が多い。これに対し、被検査試料から検出センサまでの光路に配置される結像光学系の雰囲気の制御については、光の照射エネルギーが小さいため、光学部品の劣化の懸念が少なく、あまり配慮がなされていなかった。
【0009】
本発明は、上記事情を考慮してなされたもので、その目的とするところは、結像光学系における空気揺らぎを抑制し、検査精度を向上させるパターン検査装置およびパターン検査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様のパターン検査装置は、被検査試料に形成されたパターンを検査するパターン検査装置であって、ダウンフロー機構を有するチャンバと、前記チャンバ内に設けられる光源と、前記チャンバ内に設けられ、光源から射出される検査光を前記被検査試料に照射する照明光学系と、前記チャンバ内に設けられ、防風カバーで覆われ、前記被検査試料に照射された前記検査光を光学像として結像させる結像光学系と、前記チャンバ内に設けられ、前記光学像を取得する検出センサを備え、前記結像光学系内に、光学部品を移動するために、静止時電流を動作時電流より低減可能なステッピングモータを有することを特徴とする。
【0011】
上記態様のパターン検査装置において、前記ステッピングモータの温度をモニタ可能な第1の温度計と、前記第1の温度計の温度をモニタし、前記ステッピングモータの温度を前記静止時電流を変化させることで制御する制御機構を有することが望ましい。
【0012】
上記態様のパターン検査装置において、前記防風カバー内の雰囲気温度をモニタ可能な第2の温度計と、前記防風カバー外の雰囲気温度をモニタ可能な第3の温度計とを備え、前記制御機構が、前記第2および第3の温度計の温度をモニタし、前記防風カバー外の雰囲気温度と、前記防風カバー内の雰囲気温度との差が所定の値以下となるよう制御することが望ましい。
【0013】
上記態様のパターン検査装置において、前記防風カバー内を減圧雰囲気に制御する減圧機構を備えることが望ましい。
【0014】
上記態様のパターン検査装置において、前記制御機構が前記ステッピングモータを静止状態から動作状態に移行させる際に、電流値が静止時電流の値から動作時電流の値へと移行後にパルスのカウントを行うよう制御する機能を有することが望ましい。
【0015】
本発明の一態様のパターン検査方法は、被検査試料に形成されたパターンを検査するパターン検査装置であって、ダウンフロー機構を有するチャンバと、前記チャンバ内に設けられる光源と、前記チャンバ内に設けられ、光源から射出される検査光を前記被検査試料に照射する照明光学系と、前記チャンバ内に設けられ、防風カバーで覆われ、前記被検査試料に照射された前記検査光を光学像として結像させる結像光学系と、前記チャンバ内に設けられ、前記光学像を取得する検出センサを備え、前記結像光学系内に、光学部品を移動するために、静止時電流を動作時電流より低減可能なステッピングモータを有するパターン検査装置を用いた検査方法であって、前記被検査試料の光学画像の取得中は前記ステッピングモータを静止し、前記ステッピングモータに流す静止時電流を動作時電流よりも低減させることを特徴とする。
【0016】
上記態様のパターン検査方法において、前記ステッピングモータを静止状態から動作状態に移行する場合、前記ステッピングモータの電流が動作電流に達した後、パルスのカウントを始めることが望ましい。
【0017】
上記態様のパターン検査方法において、前記静止時電流を前記動作時電流の25%以下にすることが望ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、結像光学系における空気揺らぎを抑制し、検査精度を向上させるパターン検査装置およびパターン検査方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】第1の実施の形態のパターン検査装置の検出系を含む要部のブロック図である。
【図2】第1の実施の形態のパターン検査装置の構成を示すブロック図である。
【図3】第1の実施の形態の光学画像の取得手順を説明するための図である。
【図4】第1の実施の形態のカレントダウン率と画像揺らぎの関係を示すグラフである。
【図5】第2の実施の形態のパターン検査装置の検出系を含む要部のブロック図である。
【図6】第3の実施の形態のパターン検査装置の検出系を含む要部のブロック図である。
【図7】第4の実施の形態のパターン検査装置の検出系を含む要部のブロック図である。
【図8】第5の実施の形態のステッピングモータのカレントダウン率を時間に対して表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、本明細書中、対物レンズ、結像光学系、および検出センサで構成される部分を検出系と称する。
【0021】
(第1の実施の形態)
第1の実施の形態のパターン検査装置は、被検査試料に形成されたパターンを検査するパターン検査装置である。そして、ダウンフロー機構を有するチャンバと、チャンバ内に設けられる光源と、チャンバ内に設けられ、光源から射出される検査光を被検査試料に照射する照明光学系と、チャンバ内に設けられ、防風カバーで覆われ、被検査試料に照射された検査光を光学像として結像させる結像光学系と、チャンバ内に設けられ、光学像を取得する検出センサを備えている。そして、結像光学系内に、光学部品を移動するために、静止時電流を動作時電流より低減可能なステッピングモータを有する。
【0022】
以下、パターン検査装置として、半導体装置の製造で用いられるマスクの欠陥を検査するマスク検査装置を例に説明する。もっとも、本発明はマスク検査装置以外にも、例えば、半導体ウェハ上のパターンの欠陥を検査するウェハ検査装置等のパターン検査装置に適用しても同様の作用・効果を得ることができる。
【0023】
上記構成を備えることにより、本実施の形態のパターン検査装置は、ダウンフローによって生ずる結像光学系での空気揺らぎを抑制することが可能になる。また、防風カバーで覆われた結像光学系内のステッピングモータの温度上昇に伴う空気揺らぎも抑制することが可能となる。
【0024】
図2は、第1の実施の形態のパターン検査装置の構成を示すブロック図である。図2において、パターンが形成された露光用マスクを試料として、かかる試料の欠陥を検査するパターン検査装置100は、光学画像取得部150と制御系回路160を備えている。
【0025】
光学画像取得部150は、チャンバ180、XYθテーブル102、光源103、照明光学系170、結像光学系104、検出センサであるイメージセンサ105、センサ回路106、レーザ測長システム122、オートローダ130、を備えている。XYθテーブル102、光源103、照明光学系170、対物レンズ(図示せず)、結像光学系104、検出センサであるイメージセンサ105は、防塵のため、ダウンフロー機構を有するチャンバ180内に収納されている。
【0026】
制御系回路160では、コンピュータである制御計算機110が、データ伝送路となるバス120を介して、位置回路107、比較回路108、展開回路111、参照回路112、オートローダ制御回路113、テーブル制御回路114、磁気ディスク装置109、磁気テープ装置115、フレシキブルディスク装置(FD)116、CRT117、パターンモニタ118、プリンタ119に接続されている。また、XYθテーブル102は、X軸モータ、Y軸モータ、θ軸モータにより駆動される。
【0027】
図2では、本実施の形態を説明する上で必要な構成部分以外については記載を省略している。パターン検査装置100にとって、通常、必要なその他の構成が含まれることは言うまでもない。
【0028】
以下、パターン検査装置100の動作について図2を参照しつつ説明する。まず、光学画像取得部150は、設計データに基づいてパターンが形成された試料となるマスク101の光学画像を取得する。具体的には、光学画像は、以下のように取得される。
【0029】
被検査試料となるマスク101は、XYθ各軸のモータによって水平方向及び回転方向に移動可能に設けられたXYθテーブル102上に載置される。そして、マスク101に形成されたパターンには、XYθテーブル102の上方に配置されている適切な光源103によって光が照射される。光源103から照射される光束は、照明光学系170を介してマスク101を照射する。マスク101の下方には、結像光学系104、イメージセンサ105及びセンサ回路106が配置されており、マスク101を透過した光は結像光学系104を介して、イメージセンサ105に光学像として結像し、入射する。結像光学系104は、図示しない自動焦点機構により自動的に焦点調整がなされていてもよい。
【0030】
図3は、光学画像の取得手順を説明するための図である。被検査領域は、図3に示すように、Y方向に向かって、スキャン幅Wの短冊状の複数の検査ストライプに仮想的に分割され、更にその分割された各検査ストライプが連続的に走査されるようにXYθテーブル102の動作が制御され、X方向に移動しながら光学画像が取得される。
【0031】
イメージセンサ105(図2)では、図3に示されるようなスキャン幅Wの画像を連続的に入力する。そして、第1の検査ストライプにおける画像を取得した後、第2の検査ストライプにおける画像を今度は逆方向に移動しながら同様にスキャン幅Wの画像を連続的に入力する。そして、第3の検査ストライプにおける画像を取得する場合には、第2の検査ストライプにおける画像を取得する方向とは逆方向、すなわち、第1の検査ストライプにおける画像を取得した方向に移動しながら画像を取得する。このように、連続的に画像を取得していくことで、無駄な処理時間を短縮することができる。
【0032】
イメージセンサ105上に結像されたパターンの像は、イメージセンサ105によって光電変換され、更にセンサ回路106によってA/D(アナログデジタル)変換される。イメージセンサ105には、例えば、フォトダイオードアレイのTDI(タイムディレイ&インテグレーション)センサのようなセンサが設置されている。ステージとなるXYθテーブル102をX軸方向に連続的に移動させることにより、TDIセンサは試料となるマスク101のパターンを撮像する。これらの光源103、結像光学系104、イメージセンサ105、センサ回路106により高倍率の検査光学系が構成されている。イメージセンサ105としては、フォトダイオードアレイ以外にも、CMOSセンサ、CCDセンサ等を適用することが可能である。
【0033】
XYθテーブル102は、制御計算機110の制御の下にテーブル制御回路114により駆動される。X方向、Y方向、θ方向に駆動する3軸(X−Y−θ)モータの様な駆動系によって移動可能となっている。これらの、X軸モータ、Y軸モータ、θ軸モータは、例えばステッピングモータを用いることができる。そして、XYθテーブル102の移動位置はレーザ測長システム122により測定され、位置回路107に供給される。また、XYθテーブル102上のマスク101はオートローダ制御回路113により駆動されるオートローダ130から自動的に搬送され、検査終了後に自動的に排出されるものとなっている。
【0034】
センサ回路106から出力された測定データ(被検査パターン画像データ:光学画像)は、位置回路107から出力されたXYθテーブル102上におけるマスク101の位置を示すデータとともに比較回路108に送られる。測定データは例えば8ビットの符号なしデータであり、各画素の明るさの階調を表現している。測定データは、例えば、512画素×512画素の画像データ毎に比較される。
【0035】
一方、マスク101のパターン形成時に用いた設計データは、記憶装置の一例である磁気ディスク装置109に記憶される。そして、設計データ入力工程として、磁気ディスク装置109から制御計算機110を通して展開回路111に読み出される。そして、展開工程として、展開回路111は、読み出された被検査試料となるマスク101の設計図形データを2値ないしは多値のイメージデータに変換して、このイメージデータが参照回路112に送られる。
【0036】
ここで、設計データは長方形や三角形を基本図形としたもので、例えば、図形の2つの頂点位置における座標(x、y)や、長方形や三角形等の図形種を区別する識別子となる図形コードといった情報で各パターン図形の形、大きさ、位置等を定義した図形データが格納されている。かかる図形データとなる設計データが展開回路111に入力されると、図形ごとのデータにまで展開される。そして、その図形データの図形形状を示す図形コード、図形寸法などを解釈する。そして、所定の量子化寸法のグリッドを単位とするマス目内に配置されるパターンとして2値ないしは多値の図形パターンデータに展開される。
【0037】
言い換えれば、設計データを読み込み、検査領域を所定の寸法を単位とするマス目として仮想分割してできたマス目毎に設計データにおける図形データが示す図形が占める占有率を演算し、nビットの占有率データが生成され、内部のパターンメモリに出力される。例えば、1つのマス目を1画素として設定すると好適である。そして、1画素に1/2(=1/256)の分解能を持たせるとすると、画素内に配置されている図形の領域分だけ1/256の小領域を割り付けて画素内の占有率を演算する。そして、8ビットの占有率データとして生成され、内部のパターンメモリに格納される。
【0038】
そして、参照回路112は、展開回路111から送られてきた図形のイメージデータから測定データと比較するための参照データ(検査基準パターン画像データ)を作成する。比較対象となる参照データは、測定データと同様、例えば、512画素×512画素の画像データとして作成される。
【0039】
ここでは、「die to database検査」を行うために設計データに基づいて参照データを作成しているが、これに限るものではない。「die to die検査」を行うこともできる。その場合には、比較対象となる別の測定データ(光学画像)に基づいて参照データを作成すればよい。そして、参照データは、比較回路108に送られる。
【0040】
比較回路108では、参照データと測定データを取り込む。そして、参照データと測定データとを所定のアルゴリズムに従って比較し、マスクの欠陥の有無を判定する。
【0041】
なお、ここではマスクを透過した透過光を用いてマスク検査する場合を例に説明したが、本実施の形態のマスク検査装置は、マスクで反射する反射光を用いてマスク検査する構成であっても構わない。
【0042】
図1は、本実施の形態のパターン検査装置の検出系を含む要部のブロック図である。検出系には、対物レンズ10、結像光学系104、およびイメージセンサ105が含まれる。
【0043】
対物レンズ10、結像光学系104は、防風カバー12で覆われている。結像光学系104内には、倍率切替機構14と焦点距離調整機構16とを備えている。また、防風カバー12は、検査光を防風カバー12内に導入するための透明な光通過窓60を備えている。イメージセンサ105は、防風カバー12外壁に取り付けられている。そして、イメージセンサ105に、結像光学系104を通った光が入射するように構成されている。
【0044】
倍率切替機構14は、光学部品としてレンズユニット18を備えている。レンズユニット18は、例えば、低倍レンズ18a、中倍レンズ18b、高倍レンズ18cを備えている。そして、倍率切替機構14は、レンズユニット18を水平方向に移動するために第1のステッピングモータ20を備えている。
【0045】
ステッピングモータは、段階的に回転可能である。第1のステッピングモータ20は、所望の倍率を得るためにレンズユニット18を水平方向に移動し、低倍レンズ18a、中倍レンズ18b、または高倍レンズ18cを光軸22に合致させるよう切り替えることが可能である。そして、第1のステッピングモータ20は静止時電流を動作時電流より低減可能なモータとして構成されている。
【0046】
焦点距離調整機構16は、レンズユニット18を垂直方向に移動するために第2のステッピングモータ26を備えている。この第2のステッピングモータ26を動作させることで、レンズユニット18を上下に動かし、レンズの倍率を切り替えるたびに焦点距離を調整することが可能になる。第2のステッピングモータ26も静止時電流を動作時電流より低減可能なモータとして構成されている。
【0047】
本実施の形態のように、防塵のためにダウンフロー機構を有するパターン検査装置の場合、ダウンフローで生ずる空気の流れが装置の構成部品で乱され乱流が発生する場合がある。この乱流に起因して、結像光学系の光路で空気揺らぎが生ずる。また、チャンバ内で生ずる熱対流による空気揺らぎも生ずる。これらの空気揺らぎにより、検査画像に生ずる画像揺らぎが検査精度を劣化させることが問題となる。
【0048】
本実施の形態のパターン検査装置の場合、結像光学系を含む検出系を防風カバーで覆うことにより、ダウンフローで生ずる空気揺らぎ、チャンバ内の熱対流による空気揺らぎを防止することが可能になる。
【0049】
そして、検出系内には、例えば、上述のようにレンズユニット18のような光学部品を移動するためのステッピングモータが配置される。光学部品の移動機構は、例えばエアシリンダのようにステッピングモータを用いずとも構成可能である。しかし、コヒーレント光を光源とするパターン検査装置は、光軸やスポット径などの微妙な変化により、光路長の微妙な調整や変更が必要となる場合がある。このような、微調整や変更は、エアシリンダでは困難である。また、エアシリンダはサイズが大きいため、装置の小型化にも不向きである。よって、光学部品の移動機構としてはステッピングモータのような機構を用いることが装置の高精度化、小型化の観点から望ましい。
【0050】
もっとも、ステッピングモータには発熱による熱対流の発生という問題がある。特に、本実施の形態のよう防風カバーに検出系を入れた場合、その防風カバー内部に設けられたステッピングモータの発熱による空気揺らぎの問題が深刻化する。
【0051】
ここで、ステッピングモータの静止時は、モータ動作時に対して電流を低減することが可能である。すなわち、例えば、倍率切替のためにレンズユニット18を水平方向に移動させる時の電流(動作時電流)に対し、パターン検査中のレンズユニット18を固定した状態の電流(静止時電流)を低減させることが可能である。これは、レンズユニット18を固定し、安定化するためにステッピングモータに必要とされるトルクが、レンズユニット18を移動させる場合に必要とされるトルクに対して小さいからである。
【0052】
そして、パターン検査装置の場合、光学画像の取得中にステッピングモータを動作させることはないため、動作時の発熱の影響はほとんどない。逆に、静止時のステッピングモータの発熱による画像揺らぎが問題となる。
【0053】
本実施の形態では、静止時電流を動作時の電流に対して低減させることが可能なステッピングモータを備えることにより、ステッピングモータの静止時の発熱による画像揺らぎを抑制する。表1に、ステッピングモータのカレントダウン率とモータ温度との関係の一例を示す。ここでカレントダウン率とは、静止時電流の動作時電流に対する割合である。
【0054】
【表1】

【0055】
表1に示すように、モータ温度はカレントダウン率に依存し、25%以下にすることで温度上昇が1℃以下、10%以下にすることで0.1℃以下となる。ステッピングモータの温度上昇が1℃以下であれば、モータ温度の上昇によって生ずる空気揺らぎが効果的に抑制できる。また、0.1℃以下であれば一層空気揺らぎが効果的に抑制できる。したがって、本実施のパターン検査装置でマスクを検査する場合、マスクの光学画像の取得中は、ステッピングモータを静止し、静止時電流を動作時電流の25%以下にすることが望ましく、10%以下にすることがより望ましい。
【0056】
図4は、図1の構成のパターン検査装置での、カレントダウン率と画像揺らぎの関係を示すグラフである。カレントダウン率が50%を下回ると画像揺らぎ抑制の効果が顕著に現われはじめ、特に、カレントダウン率が10%以下の時に、画像揺らぎがカレント100%の時の20%以下になり、実用上、十分な画像揺らぎにまで抑え込むことができる。なお、ここで画像揺らぎとは、単位時間当たりの画像の位置ずれの最大値を意味する。
【0057】
本実施の形態のパターン検査装置は、第1のステッピングモータ20および第2のステッピングモータ26について、静止時電流を動作時電流より低減可能なモータとして構成する。したがって、ステッピングモータ静止時の発熱を抑え、画像揺らぎを抑制することが可能となる。
【0058】
なお、ここでは光学部品を移動するためのステッピングモータを2つ設ける形態について説明したが、ステッピングモータが1つあるいは、3つ以上となる構成であっても構わない。また、光学部品について、倍率切替用のレンズを例に説明したが、例えば、光路変更のためのハーフミラーやプリズム、あるいは絞り等であっても構わない。
【0059】
また、ここでは対物レンズ10、結像光学系104、イメージセンサ105の光入射部を防風カバー12で覆う形態について説明した。光学画像の揺らぎを抑制する観点からはこのように検出系の光路全体を防風カバーで覆うことが望ましいが、例えば結像光学系のみを覆う形態としても一定の空気揺らぎ抑制効果を得ることが可能である。
【0060】
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態のパターン検査装置は、ステッピングモータの温度をモニタ可能な第1の温度計と、この第1の温度計の温度をモニタし、ステッピングモータの温度を、静止時電流を変化させることで制御する制御機構を有すること以外は第1の実施の形態と同様である。したがって、第1の実施の形態と重複する内容については、記載を省略する。
【0061】
図5は、本実施の形態のパターン検査装置の検出系を含む要部のブロック図である。図に示すように、第1の実施の形態の構成に加え、第1のステッピングモータ20の温度をモニタ可能な第1の温度計24、および、第2のステッピングモータ26の温度をモニタ可能な第2の温度計28が設けられている。さらに、第1の温度計24の温度をモニタし、第1のステッピングモータ20の温度を、静止時電流を変化させることで制御する制御機構30を備えている。また、この制御機構30は、第2の温度計28の温度をモニタし、第2のステッピングモータ26の温度を、静止時電流を変化させることで制御することもできるよう構成されている。制御機構30は、ハードウェア、ソフトウェアあるいはその組み合わせ等で実現される。
【0062】
上述のように、ステッピングモータの温度はカレントダウン率の関数となるが、モータ温度の絶対値は、モータの使用年数、モータの周囲の環境等で必ずしも一定とならない恐れがある。本実施の形態では、ステッピングモータの温度をモニタし、その温度を、静止時電流を変化させることで所望の値に制御する。
【0063】
したがって、空気揺らぎを抑制しつつ、電子部品の固定時(停止時)のモータトルクを十分確保することが可能となる。すなわち、不必要に、静止時電流を削減してトルクを減少させ電子部品の固定を不安定にすることがなくなる。また、逆に、意図せぬステッピングモータの温度上昇も防ぐことが可能となる。
【0064】
(第3の実施の形態)
第3の実施の形態のパターン検査装置は、防風カバー内の雰囲気温度をモニタ可能な温度計と、防風カバー外の雰囲気温度をモニタ可能な別の温度計とを備える。そして、制御機構が、これらの温度計の温度をモニタし、防風カバー外の雰囲気温度と、防風カバー内の雰囲気温度との差が所定の値以下となるよう制御する機能を備えている。この構成以外は、第2の実施の形態と同様である。したがって、第2の実施の形態と重複する記載については記述を省略する。
【0065】
図6は、本実施の形態のパターン検査装置の検出系を含む要部のブロック図である。このパターン検査装置は、防風カバー12に納められた、結像光学系104を含む検出系内の雰囲気温度をモニタ可能な第3の温度計32と、検出系外の雰囲気温度をモニタ可能な第4の温度計34とを備えている。そして、これらの温度計32、34の温度をモニタし、検出系外の温度と、検出系内の温度との差が所定の値以下となるよう制御することが可能な制御機構40を有している。
【0066】
上記のように、防風カバー12内部のステッピングモータの発熱に伴う、熱対流による空気揺らぎはステッピングモータの静止時電流を削減することで、低減が可能である。しかし、防風カバー12外部と内部の温度差が大きい場合、例えば、1℃以上あるような場合には、防風カバーの熱伝導により、防風カバー内部に熱対流が生じ、画像揺らぎの原因となるおそれがある。
【0067】
本実施の形態のパターン検査装置では、防風カバーの内外に温度計32、34を設置して検出系内外(防風カバー内外)の温度差をモニタし、ステッピングモータ24、28の静止時電流を、検出系外の温度と検出系内の温度との差が所定の値以下となるよう制御機構40により制御する。例えば、検出系内の温度の方が高い場合には、静止時電流を削減して検出系内の温度を下げるようにする。また、例えば、検出系外の温度の方が高い場合には、静止時電流を増加して検出系内の温度を上げるようにする。
【0068】
このように、本実施の形態によれば、第2の実施の形態の作用・効果に加えて、検出系内外の温度差による画像揺らぎに対する対策が可能となる。ステッピングモータの発熱と、検出系内外の温度差のバランスについては、例えば、あらかじめ取得されている実験結果やシミュレーション結果に基づき、最適なバランスを決定するよう静止時電流を制御すればよい。例えば、ステッピングモータのカレントダウン率が0〜20%までの範囲で、画像揺らぎが実用に耐えられることがあらかじめわかっている場合、検出系内の温度制御に対して、カレントダウン率0〜20%の範囲内でモータの発熱を積極的に利用できる。このような情報は、シミュレーションや実験結果によってあらかじめ、データとして取得し制御機構に組み込まれている必要がある。
【0069】
(第4の実施の形態)
第4の実施の形態のパターン検査装置は、防風カバー内の雰囲気を減圧雰囲気にすることを可能にする減圧機構を有すること以外は、第2の実施の形態と同様である。したがって、第2の実施の形態と、重複する記載については記述を省略する。
【0070】
図7は、本実施の形態のパターン検査装置の検出系を含む要部のブロック図である。このパターン検査装置は、防風カバー12が機密性を有し、防風カバー12内の雰囲気を減圧雰囲気にする減圧機構50として、例えば真空ポンプを備えている。
【0071】
検出系の雰囲気を減圧雰囲気にすることで、雰囲気密度自体が低下するため、熱対流等が生じた場合でも空気揺らぎを低減することが可能になる。したがって、本実施の形態によれば、第2の実施の形態に比較して更に高精度のパターン検査装置を実現することが可能となる。
【0072】
(第5の実施の形態)
第5の実施の形態のパターン検査装置は、図1の制御機構がステッピングモータを静止状態から動作状態に移行させる際に、電流値が静止時電流の値から動作時電流の値へと移行後にパルスのカウントを行うよう制御する機能を有する。この構成以外は第1の実施の形態と同様である。したがって、第2の実施の形態と重複する記載については記述を省略する。
【0073】
ステッピングモータのトルクは駆動電流の大きさに依存するため、駆動電流減衰時にステッピングモータが回転する場合は、低いトルク状態でステッピングモータが回転することになる。このため、重い光学部品を動かす場合などには、ステッピングモータのパルスが脱調する可能性がある。
【0074】
そのため、本実施の形態のパターン検査装置では、図5における制御機構30のモータ制御プログラムを、ステッピングモータの電流が100%になった後、すなわち動作時電流に達した後、パルスのカウントをはじめ回転するようにプログラミングしている。
【0075】
そして、パターン検査の際は、ステッピングモータを静止状態から動作状態に移行する場合、ステッピングモータの電流が動作電流に達した後、パルスのカウントを始める。
【0076】
図8は、ステッピングモータのカレントダウン率を時間に対して表したグラフである。図8は、静止時のカレントダウン率を動作時の20%とする場合である。このモータでは、モータに動作信号が指令されると、およそ10msecで電流が100%にまで達する。そのため、例えば、ステッピングモータは、動作信号指令後、10msec後にパルスのカウントをはじめ、モータ回転が始まるようにする。このようにして、重い電子部品を用いた場合でも、モータ回転初期状態の過渡期にパルスが脱調することなく、電子部品を移動させることが可能である。
【0077】
したがって、本実施の形態によれば、第2の実施の形態に比較して更に動作の安定したパターン検査装置を実現することが可能となる。
【0078】
以上、具体例を参照しつつ実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。
【0079】
また、装置構成や制御手法等、本発明の説明に直接必要しない部分等については記載を省略したが、必要とされる装置構成や制御手法を適宜選択して用いることができる。その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全てのパターン検査装置は、本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0080】
10 対物レンズ
12 防風カバー
14 倍率切替機構
16 焦点距離調整機構
18 レンズユニット
20 第1のステッピングモータ
22 光軸
24 第1の温度計
26 第2のステッピングモータ
28 第2の温度計
30 制御機構
32 第3の温度計
34 第4の温度計
40 制御機構
50 真空ポンプ
60 光透過窓
100 マスク検査装置
103 光源
104 結像光学系
105 イメージセンサ
150 チャンバ
170 照明光学系

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検査試料に形成されたパターンを検査するパターン検査装置であって、
ダウンフロー機構を有するチャンバと、
前記チャンバ内に設けられる光源と、
前記チャンバ内に設けられ、光源から射出される検査光を前記被検査試料に照射する照明光学系と、
前記チャンバ内に設けられ、防風カバーで覆われ、前記被検査試料に照射された前記検査光を光学像として結像させる結像光学系と、
前記チャンバ内に設けられ、前記光学像を取得する検出センサを備え、
前記結像光学系内に、光学部品を移動するために、静止時電流を動作時電流より低減可能なステッピングモータを有することを特徴とするパターン検査装置。
【請求項2】
前記ステッピングモータの温度をモニタ可能な第1の温度計と、
前記第1の温度計の温度をモニタし、前記ステッピングモータの温度を前記静止時電流を変化させることで制御する制御機構を有することを特徴とする請求項1記載のパターン検査装置。
【請求項3】
前記防風カバー内の雰囲気温度をモニタ可能な第2の温度計と、
前記防風カバー外の雰囲気温度をモニタ可能な第3の温度計とを備え、
前記制御機構が、前記第2および第3の温度計の温度をモニタし、前記防風カバー外の雰囲気温度と、前記防風カバー内の雰囲気温度との差が所定の値以下となるよう制御することを特徴とする請求項2記載のパターン検査装置。
【請求項4】
前記防風カバー内を減圧雰囲気に制御する減圧機構を備えることを特徴とする請求項1ないし請求項3いずれか一項に記載のパターン検査装置。
【請求項5】
前記制御機構が前記ステッピングモータを静止状態から動作状態に移行させる際に、電流値が静止時電流の値から動作時電流の値へと移行後にパルスのカウントを行うよう制御する機能を有することを特徴とする請求項1ないし請求項4いずれか一項に記載のパターン検査装置。
【請求項6】
被検査試料に形成されたパターンを検査するパターン検査装置であって、
ダウンフロー機構を有するチャンバと、
前記チャンバ内に設けられる光源と、
前記チャンバ内に設けられ、光源から射出される検査光を前記被検査試料に照射する照明光学系と、
前記チャンバ内に設けられ、防風カバーで覆われ、前記被検査試料に照射された前記検査光を光学像として結像させる結像光学系と、
前記チャンバ内に設けられ、前記光学像を取得する検出センサを備え、
前記結像光学系内に、光学部品を移動するために、静止時電流を動作時電流より低減可能なステッピングモータを有するパターン検査装置を用いた検査方法であって、
前記被検査試料の光学画像の取得中は前記ステッピングモータを静止し、前記ステッピングモータに流す静止時電流を動作時電流よりも低減させることを特徴とするパターン検査方法。
【請求項7】
前記ステッピングモータを静止状態から動作状態に移行する場合、前記ステッピングモータの電流が動作電流に達した後、パルスのカウントを始めることを特徴とする請求項6記載のパターン検査方法。
【請求項8】
前記静止時電流を前記動作時電流の25%以下にすることを特徴とする請求項6または請求項7記載のパターン検査方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−237048(P2010−237048A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−85647(P2009−85647)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(305008983)アドバンスド・マスク・インスペクション・テクノロジー株式会社 (105)
【Fターム(参考)】