説明

パック化粧料

【課題】 皮膚表面に形成される皮膜の収縮・変形が起り難く、しかも皮膜を剥がしたときの肌残りが極めて生じ難いパック化粧料の提供。
【解決手段】 アルギン酸水溶性塩、水溶性カルシウム塩及び分子量が1,000〜1,000,000ポリペプチドを必須成分とするパック化粧料。好適には、分子量が1,000〜1,000,000のポリペプチドをアルギン酸水溶性塩に対して0.5〜10重量%含有する。また、好適には、アルギン酸水溶性塩と分子量が1,000〜1,000,000のポリペプチドとを含む一剤と、水溶性カルシウム塩を含む二剤とからなる剤形態にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はパック化粧料に関し、詳しくは、ピールオフタイプのパック化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
パック化粧料は肌の手入れに使用される。すなわち、パック化粧料は、これを皮膚に塗布することで一時的に外界と皮膚を遮断して、パック剤に含まれる水分および皮下からもたらされる水分を角質層に保水させて角質層を柔軟にし、さらにパック剤除去時に皮膚(肌)に付着した汚巧を除去して清浄にする等の目的で使用される。
【0003】
近年、使用の便利さ、効果等の点から、ピールオフタイプのパック化粧料が多く使用されており、該ピールオフタイプのパック化粧料に属するものの一つとして、アルギン酸塩(水溶性塩)と二価以上の金属塩との反応を利用したものが知られている。例えば、アルギン酸水溶性塩と該塩類と反応する二価以上の金属塩とを配合した粉末を使用時に水と混合してペースト状にして使用するパック化粧料(特許文献1、特許文献2)、アルギン酸水溶性塩を含有するゲル状パーツと、該アルギン酸水溶性塩と反応しうる二価以上の金属塩及び該反応の遅延剤を含有する粉末パーツとからなり、使用直前に混合して肌に塗布するパック化粧料(特許文献3、特許文献4)及びアルギン酸塩および/またはアルギン酸塩を含む海藻抽出物を用い、皮膜形成を行うに当たって硬化剤として水溶性カルシウム塩を用いるパック化粧料(特許文献5)等が知られている。しかしながら、これら公知のアルギン酸塩(水溶性塩)を含むパック化粧料は、長時間パックを行うと皮膜の収縮・変形が生じて不快感を生じる場合や、該皮膜を剥がしたときに肌残りが生じる場合があるという欠点がある。
【特許文献1】特開昭52−10426号公報
【特許文献2】特開昭58−39608号公報
【特許文献3】特開平6-179614号公報
【特許文献4】特開平7-173032号公報
【特許文献5】特開平11-302124号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記の事情に鑑み成されたもので、その解決しようとする課題は、皮膚表面に形成される皮膜の収縮・変形が起り難く、しかも皮膜を剥がしたときの肌残りが極めて生じ難いパック化粧料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、アルギン酸水溶性塩と反応しうる二価以上の金属塩として水溶性カルシウム塩を使用し、かつ、特定分子量のポリペプチドをアルギン酸水溶性塩に対して特定量使用することで、皮膜性状が良好で、皮膜の収縮、変形等による不快感が少なくなり、しかも皮膜を剥がしたときの肌残りが極めて少ないパック化粧料が得られることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、
(1)アルギン酸水溶性塩、水溶性カルシウム塩及び分子量が1,000〜1,000,000のポリペプチドを含むパック化粧料、
(2)分子量が1,000〜1,000,000のポリペプチドをアルギン酸水溶性塩に対して0.5〜10重量%含有する、上記(1)記載のパック化粧料、及び
(3)アルギン酸水溶性塩と分子量が1,000〜1,000,000のポリペプチドを含む一剤と、水溶性カルシウム塩を含む二剤とからなる、上記(1)または(2)記載のパック化粧料、に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、従来では達成困難であった、長時間使用しても皮膜の収縮・変形が殆ど起らず、しかも、皮膚から皮膜を剥がしたときの皮膜の肌残りも殆どない、優れたパック化粧料を実現できる。また、本発明のパック化粧料は、かかる優れた特性に加え、性状の均一性の高い皮膜を形成できるものであり、安定した角質層への保水及び汚巧の除去効果が得られ、優れた美肌・整肌効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のパック化粧料は、アルギン酸水溶性塩、水溶性カルシウム塩及びポリペプチドを必須成分とするピールオフタイプのパック化粧料であり、水の存在下、アルギン酸水溶性塩と水溶性カルシウム塩とが硬化反応を起して、皮膜形成能を有するアルギン酸カルシウムとなって、その塗布面(皮膚面)に、アルギン酸カルシウム及びポリペプチドを含む皮膜を生成する。
【0008】
アルギン酸水溶性塩には、従来からこの種のパック化粧料に使用されている公知のものを制限なく使用できるが、カルボキシル基の対イオンが一価の陽イオンであるものが好ましく、具体的には、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。このうち特にナトリウム塩が好ましい。また、水溶性カルシウム塩としては、例えば、塩化カルシウム、乳酸カルシウム、クエン酸カルシウム、硫酸カルシウム等が挙げられ、このうち塩化カルシウム、乳酸カルシウムが好ましく、塩化カルシウムが特に好ましい。なお、アルギン酸水溶性塩及び水溶性カルシウム塩はそれぞれ1種を用いても、2種以上を用いてもよい。
【0009】
本発明に用いられるポリペプチドは、分子を構成する最小単位のアミノ酸がペプチド結合によって通常10以上連結したポリマーであり、例えば、ポリグルタミン酸またはその塩、ポリアスパラギン酸またはその塩、ポリリジン、水溶性コラーゲン、加水分解セリシン、加水分解大豆タンパク等のポリマーが挙げられる。当該ポリペプチドは1種又は2種以上を使用できる。なお、ポリグルタミン酸塩及びポリアスパラギン酸塩の塩基成分としては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオールなどの有機アミン、アンモニア等の無機アミン、リジン、オルニチン、アルギニンなどの塩基性アミノ酸等が挙げられるが、好ましくはアルカリ金属、特に好ましくはナトリウムである。
【0010】
本発明に用いられるポリペプチドは分子量が1,000〜1,000,000の範囲にあることが重要であり、好ましくは分子量が10,000〜800,000である。分子量が1,000未満では、形成される皮膜の収縮・変形を十分に抑制することが困難になり、また、皮膜を剥がしたときの肌残りを生じやすい傾向となる。一方、分子量が1,000,000を超える場合、皮膜にムラ等が生じやすく、また、水への溶解性が低いため、化粧料への配合が困難になる場合がある。当該分子量が1,000〜1,000,000の範囲のポリペプチドは定法に従って合成したものや、定法に従って採取(抽出)した天然物由来のものを使用しても、市販品をそのまま使用してもよい。
【0011】
なお、本発明におけるポリペプチドの「分子量」とは、「重量平均分子量」のことであり、後述の測定方法による測定値である。
【0012】
本発明のパック化粧料において、上記ポリペプチドの含有量は、アルギン酸水溶性塩に対して0.5〜10重量%が好ましく、より好ましくは1.0〜5重量%である。0.5重量%未満では、皮膜の収縮・変形を十分に抑制することが困難になり、また、皮膜を剥がしたときの肌残りが生じやすくなる。一方、10重量%を超える場合、皮膜にムラ等が生じやすく、また、水への溶解性が低いため、化粧料への配合が困難になる場合がある
【0013】
本発明のパック化粧料は、皮膜の形成のし易さ(作業性)及び皮膜性状の均一性の点から、アルギン酸水溶性塩とポリペプチドを含む一剤と、水溶性カルシウム塩を含む二剤とからなる製品形態にして使用するのが好ましく、通常、該一剤は、アルギン酸水溶性塩とポリペプチドと後述の通常の化粧料に使用される原料(成分)とを含む水性溶液に調製し、該二剤は水溶性カルシウム塩を含む水性溶液に調製する。このような一剤と二剤からなる製品形態にすることで、一剤をパックする皮膚表面に適量塗布した後、二剤を適量噴霧あるいは塗布するという簡単な作業で皮膚表面に皮膜を形成することができる。
なお、ここでの「水性溶液」とは、溶媒に水または水と親水性溶剤(例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のモノアルコール類;エチレングリコール、グリセリン等のジオール及びポリオール類等)を使用した溶液を指す。
【0014】
一剤中の水溶性アルギン酸塩の含有量は、一剤全量に対して0.3〜20重量%が好ましく、より好ましくは1.0〜10重量%である。また、一剤中のポリペプチドの含有量は、アルギン酸水溶性塩に対して0.5〜10重量%が好ましく、より好ましくは1.0〜5重量%である。一方、二剤中の水溶性カルシウム塩の含有量としては、二剤全量に対して1〜40重量%が好ましく、より好ましくは2〜30重量%である。また、一剤に対する二剤の使用量は、一剤中のアルギン酸水溶性塩(重量)に対して二剤中の水溶性カルシウム塩(重量)が1/5000〜1/200倍となる量で使用するのが好ましい。該使用量が1/5000倍未満の場合、皮膜が形成されにくい傾向となり、1/200倍を超える場合、経済的に不利になる。
【0015】
本発明のパック化粧料を、上記のようなアルギン酸水溶性塩を含む一剤と、水溶性カルシウム塩を含む二剤とで構成する場合、ポリペプチドは必ずしも一剤中に含有させる必要はなく、一剤と二剤の両方に、或いは、二剤中に含有させることも可能である。ただし、化粧料の保存安定性の面から一剤中に含有させるのが好ましい。なお、ポリペプチドを一剤と二剤の両方に、或いは、二剤中に含有させる場合も、その含有量は上記の一剤中に含有させる場合のアルギン酸水溶性塩に対する好適量が踏襲される。
【0016】
本発明のパック化粧料は、皮膜形成が可能であれば、上記の一剤と二剤からなる製品形態(使用方法)に限定されず、種々の製品形態(使用方法)を採ることができる。
【0017】
本発明のパック化粧料には、上記の必須成分のほか、通常の化粧料に使用される原料(成分)、例えば、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、ソルビトール、マルチトール、キシリトールなどの水溶性多価アルコール(保湿成分);オリーブ油、パーム油、ヤシ油等の動植物油、流動パラフィン、スクワラン等の炭化水素油、オレイン酸、イソステアリン酸等の高級脂肪酸、オレイルアルコール、イソステアリルアルコール等の高級脂肪族アルコール、イソステアリルミリステート、セチルオクタネート等のエステル油などの油性成分;酸化チタン、カオリン、セリサイト、亜鉛華、シリカ、マイカ等の顔料;ベントナイト、モンモリオナイト、サポナイト、ヘクトライト等の水膨潤性粘度鉱物;その他界面活性剤、防腐剤、殺菌剤、色材、香料、薬効剤、前記以外の水溶性高分子等を本発明の効果を損なわない範囲で適宜配合することができる。なお、本発明のパック化粧料を前記の一剤と二剤とからなる製品形態とする場合、これらの化粧料原料は通常一剤に含有させるが、必要に応じて二剤にも含有させてもよい。
【実施例】
【0018】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。
表1、2に示す組成のパック剤を調製し、それらの1)皮膜の性状、2)皮膜の収縮・変形のしにくさ、3)剥がしたときのパックの肌残りについて、評価した。なお、パック剤は、表に示すように、アルギン酸水溶性塩およびポリペプチドを含む水性溶液からなる一剤と、水溶性カルシウム塩を含む水性溶液からなる二剤とに調製した。また、ポリペプチドの平均分子量(重量平均分子量)を以下の方法で測定した。
【0019】
<ポリペプチドの平均分子量(重量平均分子量)の測定方法>
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により下記測定条件で測定した。
カラム:内径7.8mm、長さ30mmのステンレス管に平均粒径5μmの球状オクタデシルシリル化シリカゲルを充填。
移動相:50mMリン酸緩衝液(pH6.5)
カラム温度:40℃
流量:0.5mL/min
検出器:紫外線吸光光度計
【0020】
<皮膜の評価方法>
表1、2における一剤1mLを前腕内側部に直径約5cmの円状に均一に塗布した。その後、30mLミスト容器[(株)シービーテクノ製、吐出量:0.15mL/回]に充填した二剤を塗布した一剤に対し3回噴霧した。30分経過後、1)皮膜の性状、2)皮膜の収縮・変形のしにくさ、3)剥がしたときのパックの肌残りについて目視により下記の判定基準で評価し、◎および○を合格と判断した。
【0021】
1)皮膜の性状
◎:ムラなく均一な皮膜が形成した。
○:形成した皮膜にややムラが生じた。
△:形成した皮膜に多くのムラが生じた。
×:皮膜が形成されなかった。
2)皮膜の収縮・変形のしにくさ
◎:30分経過後の皮膜の収縮やしわ・ヨレ等の変形はほとんど認められなかった。
○:30分経過後の皮膜直径の収縮が最大で2mm以上5mm未満であるか、またはシワ・ヨレ等の変形をわずかに生じていた。
△:30分経過後の皮膜直径の収縮が最大で5mm以上10mm未満であるか、またはシワ・ヨレ等の変形が明らかに生じていた。
×:30分経過後の皮膜直径の収縮が最大で10mm以上であり、またはシワ・ヨレ等の変形が著しかった。
3)剥がしたときのパックの肌残り
◎:はがしたとき、パックは全く残存していなかった。
○:はがしたとき、パックがわずかに残存していた。
△:はがしたとき、パックが明らかに残存していた。
×:はがしたとき、パックが著しく残存していた。
【0022】
【表1】

【0023】
【表2】

【0024】
表1から、本発明の実施例1〜5の組成物は、皮膜の収縮・変形が起こりにくく、また剥がしたときにパックの後残り(肌残り)が生じることなく、さらにほとんどムラのない均一な皮膜が形成されていることが明らかであった。
一方、表2の比較例1では、ポリペプチドではなくアミノ酸を使用しているため皮膜にムラが生じ、パックの肌残りも生じていた。また、比較例2では、分子量100万以上のポリペプチドを使用しているため他の成分との相溶性が悪く析出を生じ、結果的に皮膜にムラが生じていた。また、比較例3および4ではポリペプチドを使用していないため、皮膜の収縮・変形やパックの肌残りが生じるという点で性能的に不充分であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルギン酸水溶性塩、水溶性カルシウム塩及び分子量が1,000〜1,000,000のポリペプチドを含むパック化粧料。
【請求項2】
分子量が1,000〜1,000,000のポリペプチドをアルギン酸水溶性塩に対して0.5〜10重量%含有する、請求項1記載のパック化粧料。
【請求項3】
アルギン酸水溶性塩と分子量が1,000〜1,000,000のポリペプチドとを含む一剤と、水溶性カルシウム塩を含む二剤とからなる、請求項1または2記載のパック化粧料。











【公開番号】特開2006−137714(P2006−137714A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−329592(P2004−329592)
【出願日】平成16年11月12日(2004.11.12)
【出願人】(000004341)日本油脂株式会社 (896)
【Fターム(参考)】