説明

パッシブセンサの製造方法、無線式センサシステムによる計測方法、パッシブセンサ、無線式センサシステム

【課題】センサ素子の製造バラツキ等により個体差があっても、高い計測精度が得られるパッシブセンサおよび該パッシブセンサの製造方法を提供する。
【解決手段】パッシブセンサ10は、アンテナ11とSAW共振子12とから構成される。パッシブセンサ10の共振周波数fscは、SAW共振子12の共振周波数fsawがアンテナ11とSAW共振子12とのインピーダンスの差に準じたシフト量だけ周波数シフトした値となる。これを利用し、SAW共振子12を共振周波数fsawに基づいて識別グループGrに分類する。識別グループGr毎に異なるインピーダンスのアンテナモジュール100A−100Eを形成し、識別グループGrを基準にSAW共振子12と組み合わせてパッシブセンサ10を形成する。これにより、SAW共振子12に個体差があっても、所定の周波数誤差幅Δfsc内にパッシブセンサ10の共振周波数が収まる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物理量に応じて共振周波数が変化する共振子を備えたパッシブセンサおよび該パッシブセンサの製造方法、さらには当該パッシブセンサを用いた無線式センサシステムおよび該無線式センサシステムによる計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、所定の物理量(温度、圧力等)を計測するパッシブセンサとして、特許文献1に示すように、SAW共振子等のセンサ素子と該センサ素子に接続するアンテナとを用いたパッシブセンサがある。このようなパッシブセンサは、SAW共振子が温度や圧力により共振周波数が変化することを利用しており、計測結果をアンテナから親機に送信している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2003−508739号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、SAW共振子等のセンサ素子の共振周波数は、当該センサ素子の形状に依存するため、このようなセンサ素子を用いたパッシブセンサでは、センサ素子の形成精度に計測精度が大きく依存する。
【0005】
ところが、要求される計測精度が高い場合、当該計測精度を満足するような製造バラツキの範囲内で、センサ素子を製造することは容易ではない。
【0006】
したがって、本発明の目的は、センサ素子の製造バラツキ等により個体差があっても、高い計測精度が得られるパッシブセンサおよび該パッシブセンサの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、外部からの励起信号によって感知する物理量に応じた周波数の共振信号を出力するセンサ素子と、センサ素子に接続されており、励起信号および共振信号に基づく通信信号を送受波するアンテナと、を備えるパッシブセンサの製造方法に関する。この製造方法は、センサ素子選別工程、アンテナモジュール形成工程、パッシブセンサ形成工程を有する。センサ素子選別工程は、センサ素子を、励起信号による共振周波数で複数のグループに選別する。アンテナモジュール形成工程は、グループ毎に異なる形状のアンテナを備えるアンテナモジュールを形成する。パッシブセンサ形成工程は、センサ素子のグループに応じて、アンテナモジュールとセンサ素子とを組合せてパッシブセンサを形成する。このような製造工程の上で、アンテナモジュール形成工程は、センサ素子の共振周波数を、パッシブセンサの所望共振周波数にシフトさせる形状にアンテナを形成している。
【0008】
この製造方法では、センサ素子の共振周波数に応じたグループ単位でアンテナの形状を適宜設定している。これにより、センサ素子の製造バラツキによる共振周波数の個体差があっても、パッシブセンサとして送信(出力)する通信信号の共振周波数は一定になる。言い換えれば、センサ素子の個体差に影響されることなく、所望の計測精度が得られるような通信信号を出力可能なパッシブセンサを構成できる。
【0009】
また、この発明のパッシブセンサの製造方法では、センサ素子はSAW共振子により形成されている。アンテナモジュール形成工程では、アンテナのインピーダンスにより共振周波数をシフトさせる形状にアンテナを形成する。
【0010】
この製造方法では、センサ素子として具体的にSAW共振子を用い、当該SAW共振子を用いた場合のアンテナの具体的な形状の設定方法を示している。
【0011】
また、この発明のパッシブセンサの製造方法では、センサ素子は水晶振動子により形成されている。アンテナモジュール形成工程は、アンテナのインピーダンスに含まれるインダクタンスにより共振周波数をシフトさせる形状にアンテナを形成する。
【0012】
この製造方法では、センサ素子として具体的に水晶振動子を用い、当該水晶振動子を用いた場合のアンテナの具体的な形状の設定方法を示している。
【0013】
また、この発明のパッシブセンサの製造方法におけるアンテナモジュール形成工程では、アンテナを放射電極部と配線電極部とからなるダイポールアンテナで形成する。そして、アンテナモジュール形成工程では、放射電極部の開口角により、インピーダンスを調整する。
【0014】
この製造方法では、アンテナとして具体的にダイポールアンテナを用いること、および当該ダイポールアンテナを用いた場合のインピーダンス調整方法について示している。
【0015】
また、この発明のパッシブセンサの製造方法におけるアンテナモジュール形成工程では、アンテナを巻回形電極部と配線電極部とからなる電磁結合型アンテナで形成する。そして、アンテナモジュール形成工程では、巻回形電極部の巻回数または/および開口面積により、インピーダンスを調整する。
【0016】
この製造方法では、アンテナとして具体的に電磁結合型アンテナを用いること、および当該電磁結合型アンテナを用いた場合のインピーダンス調整方法について示している。
【0017】
また、この発明のパッシブセンサの製造方法におけるパッシブセンサ形成工程は、アンテナの配線電極部に対する前記センサ素子の接続位置により、インピーダンスを調整する。
【0018】
この製造方法では、上述の形状によるものとは異なるアンテナに対する別のインピーダンスの調整方法を示している。この製造方法では、アンテナの配線電極部に対するセンサ素子の位置、すなわち、放射電極部や巻回形電極部とセンサ素子とを接続する配線電極部の電極長により、インピーダンスを調整している。
【0019】
また、この発明は、センサ素子を備えるパッシブセンサから送信される通信信号の共振周波数に基づいて、センサ素子の感知した物理量を、パッシブセンサと無線通信接続された親機で計測する無線式センサシステムの計測方法に関する。この無線式センサシステムによる計測方法では、上述のパッシブセンサの製造方法によって、パッシブセンサを製造するパッシブセンサ製造工程を含むとともに、物理量検知工程、物理量算出工程を有する。物理量検知工程は、上述のように製造されたパッシブセンサを用いて物理量を検知し、通信信号を生成する。物理量算出工程は、親機を用いて、通信信号の共振周波数を解析し、該解析した共振周波数に基づいて物理量を算出する。
【0020】
この計測方法では、通信信号の共振周波数にセンサ素子の個体差が影響されないので、当該通信信号の共振周波数を用いて計測を行う親機では、高精度で物理量を計測することができる。
【発明の効果】
【0021】
この発明によれば、センサ素子の個体差による計測誤差を抑圧し、高い計測精度が得られるパッシブセンサを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】第1の実施形態に係るパッシブセンサ10の構成を示す外観斜視図である。
【図2】第1の実施形態のパッシブセンサの形成概念、および、パッシブセンサの形成概念を示す図である。
【図3】第1の実施形態に係るパッシブセンサ10を製造する前段階処理を示すフローチャート、および、パッシブセンサ10の製造工程を示すフローチャートである。
【図4】第1の実施形態に係るアンテナモジュール110A−110Eの構成をそれぞれに示す平面図である。
【図5】第1の実施形態の無線式センサシステム1の構成を示すブロック図である。
【図6】第2の実施形態に係るパッシブセンサ30の外観斜視図である。
【図7】第2の実施形態に係るアンテナモジュール310A−310Eの構成をそれぞれに示す平面図である。
【図8】水晶振動子12Aの共振時における親機20A側から見た計測系の等価回路である。
【図9】第3の実施形態に係る複数のパッシブセンサの構造例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の第1の実施形態に係るパッシブセンサ、パッシブセンサの製造方法、無線式センサシステム、計測方法について図を参照して説明する。図1は本実施形態のパッシブセンサ10の外観斜視図である。
【0024】
無線式センサシステム1は、パッシブセンサ10と親機20とを備える。パッシブセンサ10と親機20とは、電磁界結合もしくは電波の送受信による通信を行う。なお、通信様式は、電磁界結合に限らず、電磁誘導や電波の放射によるものであってもよい。
【0025】
パッシブセンサ10は、機能的にはダイポールアンテナからなるアンテナ11、SAW共振子12を備える。
【0026】
パッシブセンサ10は、平板状で絶縁性を有するPET等からなるベース基板100を備える。該ベース基板100の表面には、放射用電極111と配線用電極112とが形成されている。配線用電極112は、互いに平行に配置され、所定方向に沿って所定長さで延びる形状の電極パターンである。放射用電極111は、配線用電極112の一方端から、これら配線用電極112に対して所定角を成す方向へ延びる形状からなる。この際、一対の放射用電極111は、配線用電極112を基準にして対称となる方向へ延びる形状で形成されている。さらに、一対の放射用電極111は、それぞれが通信信号の波長λの略1/4波長(λ/4)の長さとなり、全体として略λ/2の長さとなるように形成されている。この形状により、放射用電極111と配線用電極112とならなるアンテナ11は、ダイポールアンテナとして機能する。
【0027】
SAW共振子12は、圧電基板上にIDT電極を形成したものであり、当該IDT電極に接続する外部接続端子を有する。SAW共振子12は、ベース基板100の表面における配線用電極112の所定位置に実装されている。例えば、図1に示すように、SAW共振子12は、配線用電極112の放射用電極111と反対側の端部付近に実装されている。SAW共振子12と配線用電極112は電気的にも接続されている。
【0028】
このような構成により、アンテナ11がSAW共振子12に接続された、電池を要さない簡素な構造のパッシブセンサ10が実現される。そして、このようなパッシブセンサ10が、アンテナ11により、外部(後述の親機20)からパルス状励起信号を受信すると、当該励起信号は、SAW共振子12へ印加される。SAW共振子12は、励起信号により、感知した物理量(例えば磁気強度)に応じた共振周波数で、残響共振し、所定の時間長に亘り、当該共振周波数fsawの共振信号を出力する。このSAW共振子12により共振信号は、SAW共振子12とアンテナ11とのインピーダンスマッチング状態に応じて共振周波数がシフトする。アンテナ11は、当該周波数シフトした共振周波数fscの信号を放射(送信)する。この周波数シフトした共振周波数の信号が「通信信号」となる。
【0029】
なお、詳細は後述するが、親機20は、パッシブセンサ10からの通信信号を受信し、当該通信信号の周波数解析を行うことで共振周波数を検出し、検出した共振周波数fscに基づいて、物理量(例えば磁気強度)を算出する。
【0030】
ここで、SAW共振子12は、IDT電極のパターン幅、長さ、厚み等のプロセス条件により、特性すなわち共振周波数fsawに製造バラツキを有する。したがって、アンテナ11の形状が一種類であり、親機20側で共振周波数と物理量との関係を一意に記憶して参照している場合、SAW共振子12の製造バラツキにより、物理量の計測結果にもバラツキが生じてしまう。そこで、本願では、次に示す方法で、SAW共振子12の製造バラツキによる計測精度の低下を抑制する。
【0031】
<パッシブセンサ10の形成概念>
図2(A)は本実施形態のパッシブセンサの形成概念を示し、図2(B)は従来のパッシブセンサの形成概念を示す。また、図3(A)はパッシブセンサ10を製造する前段階処理を示すフローチャートであり、図3(B)はパッシブセンサ10の製造工程を示すフローチャートである。
【0032】
<パッシブセンサ10を製造する前段階処理>
まず、感知する磁気強度範囲に対応するSAW共振子を形成する。この際、無線通信可能な共振周波数、例えば具体的には950MHzを設計周波数、すなわち基準周波数Foとするように、SAW共振子12を設計して形成する。これと同時に、SAW共振子12とアンテナ11とからなるパッシブセンサ10の基準共振周波数Fscを設定する(図3(A):S901)。
【0033】
次に、要求される磁気強度の計測誤差ΔERと、SAW共振子12の理論上の磁気強度−周波数特性とから、図2(A)に示すようなパッシブセンサ10としての周波数誤差幅Δfscを算出する(図3:S902)。これにより、パッシブセンサ10としての計測誤差ΔERの仕様に準じた周波数誤差幅Δfscを設定することができる。
【0034】
パッシブセンサ10としての周波数誤差幅Δfscに基づいて、図2(A)に示すようなSAW共振子12をグループ分類するための周波数誤差幅Δfqを設定する(図3(A):S903)。
【0035】
次に、図2(A)に示すように、SAW共振子12の基準周波数Foを基準(例えばグループ分類される全周波数帯域の中心周波数)にして、周波数誤差幅Δfqの周波数帯域毎に識別グループGrを設定する(図3(A):S904)。
【0036】
具体的には、図2(A)に示すように、基準周波数Foを含む周波数誤差幅Δfqの帯域を識別グループGrCとし、当該識別グループGrCの高域側に近接する周波数誤差幅Δfqの帯域を識別グループBとし、さらに高域側に近接する周波数誤差幅Δfqの帯域を識別グループAとする。また、当該識別グループGrCの低域側に近接する周波数誤差幅Δfqの帯域を識別グループDとし、さらに低域側に近接する周波数誤差幅Δfqの帯域を識別グループEとする。
【0037】
そして、基準周波数Foと周波数誤差Δfqとに基づいて、識別グループGrA,GrB,GrC,GrD,GrE毎に上限周波数および下限周波数、すなわち閾値周波数Thfを設定する(図3(A):S905)。これにより、SAW共振子12を識別グループGr毎に分類するための準備が完了する。
【0038】
このようなグループ分類とは別工程で、識別グループGr毎に異なるアンテナ形状からなるアンテナモジュール110A−110Eを形成する(図3(A):S911)。ここで示すアンテナモジュール110A−110Eとは、ベース基板100の表面にアンテナ11のみが形成され、SAW共振子12が実装されていない状態のモジュールである。
【0039】
図4は、本実施形態に係るアンテナモジュール110A−110Eの構成をそれぞれに示す平面図である。図4(A)−図4(E)のそれぞれに示すアンテナモジュール110A−110Eは、アンテナ11を構成する配線用電極112は同じ形状であるが、放射用電極111の形状が異なる。
【0040】
アンテナモジュール110Aの放射用電極111A、アンテナモジュール110Bの放射用電極111B、アンテナモジュール110Cの放射用電極111C、アンテナモジュール110Dの放射用電極111D、およびアンテナモジュール110Eの放射用電極111Eは、放射用電極の電極長が同じであって、それぞれに開口角が異なる。具体的には、放射用電極111Aの開口角はθ1(例えば図4(A)に示すように180°)であり、放射用電極111Bの開口角はθ2(<θ1)である。放射用電極111Cの開口角はθ3(<θ2)であり、放射用電極111Dの開口角はθ4(<θ3)である。放射用電極111Eの開口角はθ5(<θ4)である。すなわち、各アンテナモジュール110A,110B,110C,110D,110Eの開口角θ1,θ2,θ3,θ4,θ5は、次式の関係になる。
【0041】
θ1>θ2>θ3>θ4>θ5
これにより、アンテナモジュール110A,110B,110C,110D,110EのインピーダンスZanA,ZanB,ZanC,ZanD,ZanEは、次式の関係になる。
【0042】
ZanA>ZanB>ZanC>ZanD>ZanE
ここで、インピーダンスZanA,ZanB,ZanC,ZanD,ZanEすなわち開口角θ1,θ2,θ3,θ4,θ5は、各識別グループGrA,GrB,GrC,Grd,GrEのSAW共振子の周波数fsawが、SAW共振子12とアンテナ11とのミスマッチングより、パッシブセンサ10としての周波数fscに周波数シフトした場合に、上述の基準周波数Fscを中心とする周波数誤差幅Δfsc内の周波数へ収まるように、設定されている。
【0043】
具体的な個別例として、識別グループGrCであれば、識別グループGrCに属するSAW共振子12に対して、開口角θ3、インピーダンスZanCからなるアンテナモジュール110Cを組み合わせる。これにより、パッシブセンサ10としての共振周波数fscは、SAW共振子12の共振周波数fsawに対して、識別グループGrCの周波数帯域と基準周波数Fscを中心とする周波数誤差幅Δfscの周波数帯域との周波数差に応じたインピーダンスZanC分シフトした周波数となる。この結果、パッシブセンサ10としての周波数fscは、基準周波数Fscを中心とする周波数誤差幅Δfsc内の周波数へ確実に収まる。
【0044】
このようなSAW共振子12のグループ分類基準と、識別グループGr毎のアンテナモジュール110A−110Eを用意し、次に示すようにパッシブセンサ10を製造する。
【0045】
まず、SAW共振子12に対して、個別に励起信号を印加し、それぞれの共振周波数fsawを計測する(図3(B):S101)。この際、SAW共振子12の共振周波数fsawは、製造バラツキにより、各個体で異なるものとなる。
【0046】
次に、SAW共振子12毎に計測した共振周波数fsawと、グループ分類用の閾値周波数Thfとを比較し、各SAW共振子12を識別グループGrA,GrB,GrC,Grd,GrEのいずれかに分類し、関連付けする(図3(B):S102)。
【0047】
次に、SAW共振子12が属する識別グループGrA−GrE毎に、アンテナモジュール110A−110Eを選択する。そして、選択したアンテナモジュール110A−110Eに対してSAW共振子12を実装し、パッシブセンサ10を完成させる(図3(B):S103)。例えば、SAW共振子12が識別グループGrAに属していれば、アンテナモジュール110Aを選択し、アンテナモジュール110AにSAW共振子12を実装することでパッシブセンサ10を形成する。また、例えば、SAW共振子12が識別グループGrDに属していれば、アンテナモジュール110Dを選択し、アンテナモジュール110DにSAW共振子12を実装することでパッシブセンサ10を形成する。
【0048】
このように、SAW共振子12の属する識別グループGr毎にインピーダンスが異なるアンテナモジュール110を選択し、SAW共振子12を実装することで、SAW共振子12としての共振周波数fsawに大きなバラツキがあっても、パッシブセンサ10としての共振周波数fscのバラツキを小さくすることができる。そして、パッシブセンサ10としての周波数誤差幅Δfscを、要求された仕様の計測誤差範囲ΔERに準じて設定することで、SAW共振子12の共振周波数fsawが、計測誤差範囲ΔERに対応する周波数誤差よりも大きくばらついても、パッシブセンサ10としての共振周波数fscは、当該計測誤差範囲ΔERに対応する周波数誤差に確実に収まる。この結果、要求された計測誤差精度に準じた物理量(磁気強度等)の計測が可能になる。
【0049】
なお、従来のようにグループ分類を行わなければ、図2(B)に示すように、計測誤差範囲Δfscpは、SAW共振子12の周波数誤差範囲Δfqpがそのまま反映され、当該誤差範囲よりも高い計測精度が要求された場合に、対応することができない。しかしながら、本実施形態の構成、方法を用いれば、SAW共振子12の周波数誤差範囲よりも高い計測精度が要求されても、確実に対応することができる。
【0050】
このような製造方法によって形成されたパッシブセンサ10は、図5に示すような無線式センサシステム1に適用することができる。図5は本実施形態の無線式センサシステム1の構成を示すブロック図である。
【0051】
無線式センサシステム1は、パッシブセンサ10と親機20とを備える。パッシブセンサ10は、アンテナ11およびSAW共振子12を備え、上述のように製造される。
【0052】
親機20は、制御部21、送信信号生成部22、送受信部23、親機側アンテナ24、計測部25、表示部26、および操作部27を備える。
【0053】
制御部21は、親機20の全体制御を行う。また、制御部21は、操作部27からの操作入力に応じて各種の制御処理を実行する。例えば、操作部27から磁気強度測定の操作入力を受けると、送信信号生成部22へパルス状励起信号SpLの生成制御を行う。
【0054】
送信信号生成部22は、パルス状励起信号SpLの生成制御を受けて、所定周波数の搬送波からなるパルス状励起信号SpLを生成し、送受信部23へ与える。このパルス状励起信号SpLの搬送波周波数は、水晶振動子110の共振周波数に近い周波数、具体的には、親機側アンテナ24と、パッシブセンサ10のアンテナ11との通信周波数帯域内の所定周波数に設定されている。
【0055】
送信時には、送受信部23は、パルス状励起信号SpLを親機側アンテナ24に出力する。親機側アンテナ24は、パッシブセンサ10のアンテナ11と同様のダイポールアンテナからなり、所定の指向性でパルス状励起信号SpLを放射する。
【0056】
パッシブセンサ10のアンテナ11は、パルス状励起信号SpLを受信して、SAW共振子12へ与える。SAW共振子12は、パルス状励起信号SpLで励振し、残響共振する。この際、SAW共振子12は、感知した磁気強度PPに応じた共振周波数fsawで共振し、共振信号を出力する。共振信号は、アンテナ11に伝送される間に、アンテナ11とSAW共振子12とのミスマッチングにより、共振周波数がシフトする。これにより、アンテナ11からは、共振周波数がシフトした通信信号Sfpが放射される。
【0057】
親機20に戻り、受信時には、親機側アンテナ24は、パッシブセンサ10のアンテナ11から放射された通信信号Sfp(パッシブセンサ10の共振周波数fscの信号)を受信し、送受信部23へ出力する。送受信部23は、通信信号Sfpを計測部25へ出力する。
【0058】
計測部25は、周波数変換部251、物理用検出部252、および記憶部253を備える。周波数変換部251は、FFT処理等により、時間軸の通信信号Sfpから周波数スペクトルを取得する。記憶部253には、入力信号すなわち通信信号Sfpの周波数と磁気強度との関係が予め記憶されている。物理量検出部252は、入力された共振信号Sfpの周波数スペクトルピークを検出し、当該ピーク周波数に関連付けられた磁気強度を記憶部253から読み出すことで、磁気強度を算出する。算出された磁気強度は、表示部26等へ出力される。表示部26は磁気強度検出結果を表示する。
【0059】
そして、上述のように、周波数バラツキの小さなパッシブセンサ10を用いることで、当然に、無線式センサシステムとしての計測精度も向上させることができる。
【0060】
次に、第2の実施形態に係るパッシブセンサ、およびパッシブセンサの製造方法について、図を参照して説明する。上述の第1の実施形態では、ダイポールアンテナを用いて電波でパッシブセンサ10と親機20とを無線通信する例を示したが、本実施形態では、電磁界結合によりパッシブセンサ30と親機20A(図示せず)とを無線通信する場合を示す。
【0061】
また、上述の第1の実施形態では、センサ素子としてSAW共振子12を用いて磁気強度を計測する例を示したが、本実施形態では、センサ素子として例えば13.56MHzが共振周波数である水晶振動子12Aを用いて温度を計測する場合を示す。
【0062】
図6は本実施形態に係るパッシブセンサ30の外観斜視図である。パッシブセンサ30は、平板状で絶縁性を有するPET等からなるベース基板300を備える。ベース基板300の表面には、平面視して所定の巻数からなる巻回形電極311が形成されている。巻回形電極311の両端には、配線用電極312が接続されている。配線用電極312上の巻回形電極311と反対側の所定位置には、水晶振動子12Aが実装されている。これにより、パッシブセンサ30が形成される。
【0063】
このような電磁界結合によるパッシブセンサ30を用いる場合において、上述の第1の実施形態に示したように、水晶振動子12Aを共振周波数を基準にしてグループ分類し、識別グループGrに応じたアンテナモジュール310A,310B,310C,310D,310Eを選択し、パッシブセンサ30を形成する。図7は、本実施形態に係るアンテナモジュール310A−310Eの構成をそれぞれに示す平面図である。アンテナモジュール310A−310Eは、それぞれに巻回形電極311A,311B,311C,311D,311Eの電極長、巻回数、中央の開口面積が異なり、外形形状は略同じである。
【0064】
そして、電磁界結合型の場合、各アンテナモジュール310A−310Eは、次に示す概念に基づいて設定される。図8は、水晶振動子12Aの共振時における親機20A側から見た計測系の等価回路である。図8に示すように、水晶振動子12Aが共振子、親機20Aとパッシブセンサ30が電磁界結合している状態で、親機20Aから計測系を見ると、親機側は、回路キャパシタ(キャパシタンスCp)、回路抵抗(抵抗値Rp)、アンテナコイル(インダクタンスLp)が、計測回路の両端子間に直列接続された回路構成となる。また、パッシブセンサ30は、アンテナコイル(インダクタンスLsc)、配線抵抗(抵抗値Rsc)、水晶振動子12Aからなる直列接続閉ループが形成された回路構成となる。このような場合において、水晶振動子12AのインピーダンスZqをZq=Rq+jXqとする。これにより、計測回路からパッシブセンサ12A側を見たインピーダンスZは、次式で表すことができる。
【0065】
【数1】

【0066】
ここで、kはパッシブセンサ30のアンテナ31と、親機20Aの親機側アンテナ24との結合係数を示す。また、ωは通信信号の角周波数である。
【0067】
(式1)に示すように、計測回路からパッシブセンサ12A側を見たインピーダンスZのリアクタンス成分は、水晶振動子12Aのリアクタンス成分XqとアンテナコイルのインダクタンスLscに依存し、パッシブセンサ30の共振周波数がアンテナコイルのインダクタンスLscに依存することが分かる。
【0068】
したがって、図7に示すように、各アンテナモジュール310A−310Eの巻回形電極311A−311Eの巻回数、電極長、開口面積を変化させることで、それぞれに異なるインダクタンスのアンテナを実現できる。そして、各アンテナモジュール310A−310Eのインダクタンスを、上述の第1の実施形態に示したように、識別グループGr毎に設定する。すなわち、水晶振動子12Aとアンテナ31とのミスマッチングによる周波数シフトで得られるパッシブセンサ30の共振周波数が、いずれの識別グループGrの水晶振動子12Aを用いても、計測精度に準じた所定の周波数誤差幅Δfsc内に入るように、巻回形電極の巻回数、電極長、開口面積等を調整してインダクタンスLscを設定する。なお、この際、巻回数、電極長、開口面積の少なくとも一要素を調整して、インダクタンスLscを設定すればよい。
【0069】
このように、水晶振動子12Aを識別グループGrA−GrEに識別し、識別グループGrA−GrEに応じてアンテナモジュール310A−310Eを選択してパッシブセンサ30を製造すれば、第1の実施形態と同様に、水晶振動子12Aの個体差に影響されることなく、要求された計測精度に応じたパッシブセンサおよび無線式センサシステムを実現することができる。さらに、本実施形態に示すように、インダクタンスのみで共振周波数の調整を行うことが可能である。これにより、アンテナモジュールの設計負荷を軽減することができる。
【0070】
次に、第3の実施形態に示すパッシブセンサおよびパッシブセンサの製造方法について、図を参照して説明する。図9は本実施形態に係る複数のパッシブセンサの構造例を示す平面図である。
【0071】
図9に示すように、本実施形態のパッシブセンサ40A,40B,40Cは、放射用電極411、配線用電極412の形状は同じである。すなわち、アンテナモジュールの形状は同じであり、第1の実施形態と同様にダイポールアンテナを用いている。しかしながら、パッシブセンサ40A,40B,40Cでは、SAW共振子12の配線用電極412に対する実装位置が異なる。具体的には、パッシブセンサ40Aは、配線用電極412に沿って、放射用電極411から長さDLaの位置にSAW共振子12が実装されている。パッシブセンサ40Bは、放射用電極411から長さDLb(<DLa)の位置にSAW共振子12が実装されている。パッシブセンサ40Cは、放射用電極411から長さDLc(<DLb)の位置にSAW共振子12が実装されている。このように、放射用電極411の形状を同じにして、配線用電極412に対するSAW共振子12の実装位置を変化させても、インピーダンスを異ならせることができ、共振周波数のシフト量を調整することができる。さらに、この製造方法であれば、アンテナモジュールを一種類だけ形成すればよく、アンテナモジュールの製造負荷を低減できる。
【0072】
なお、上述の実施形態では、センサ素子として、SAW共振子、水晶振動子を用いた例に説明したが、感知する所定の物理量に応じて共振周波数が変化する素子であれば、圧電共振子、音叉型共振子等の素子を用いることができる。また、物理量として磁気強度もしくは温度を計測する例を示したが、他の共振型のセンサ素子で検知可能な他の物理量であっても、計測対象とすることができる。
【0073】
また、第1、第3の実施形態では、ダイポールアンテナによる電波を用いた無線通信の例を示し、第2の実施形態では、電磁界結合による無線通信の例を示したが、電波式、電磁界結合式等の方式やアンテナの形状は、通信に利用する周波数やパッシブセンサの形状仕様に応じて適宜設定すればよい。この際、インピーダンスやインダクタンスが容易に調整可能な構造であれば、より良い。
【符号の説明】
【0074】
10,30,40A,40B,40C−パッシブセンサ、11−アンテナ部、12−SAW共振子、12A−水晶振動子、20,20A−親機、21−制御部、22−送信信号生成部、23−送受信部、24−親機側アンテナ、25−計測部、26−表示部、27−操作部、100,300−ベース基板、110,110A,110B,110C,110D,110E−アンテナモジュール、111A,111B,111C,111D,111E,411−放射用電極、112,312,412−配線用電極、311−巻回形電極、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部からの励起信号により、感知する物理量に応じた周波数の共振信号を出力するセンサ素子と、
前記センサ素子に接続されており、前記励起信号、および前記共振信号に基づく通信信号を送受波するアンテナと、を備えるパッシブセンサの製造方法であって、
センサ素子を、前記励起信号による共振周波数で複数のグループに選別するセンサ素子選別工程と、
グループ毎に異なる形状のアンテナを備えるアンテナモジュールを形成するアンテナモジュール形成工程と、
前記センサ素子のグループに応じて、前記アンテナモジュールと前記センサ素子とを組合せてパッシブセンサを形成するパッシブセンサ形成工程と、を有し、
前記アンテナモジュール形成工程は、前記センサ素子の共振周波数を、パッシブセンサの所望共振周波数にシフトさせる形状に前記アンテナを形成する工程である、パッシブセンサの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のパッシブセンサの製造方法であって、
前記センサ素子はSAW共振子により形成されており、
前記アンテナモジュール形成工程は、前記アンテナのインピーダンスにより共振周波数をシフトさせる形状に前記アンテナを形成する工程である、パッシブセンサの製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載のパッシブセンサの製造方法であって、
前記センサ素子は水晶振動子により形成されており、
前記アンテナモジュール形成工程は、前記アンテナのインピーダンスに含まれるインダクタンスにより共振周波数をシフトさせる形状に前記アンテナを形成する工程である、パッシブセンサの製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のパッシブセンサの製造方法であって、
前記アンテナモジュール形成工程は、
前記アンテナを放射電極部と配線電極部とからなるダイポールアンテナで形成し、
前記放射電極部の開口角により、前記インピーダンスを調整する工程である、パッシブセンサの製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のパッシブセンサの製造方法であって、
前記アンテナモジュール形成工程は、
前記アンテナを巻回形電極部と配線電極部とからなる電磁結合型アンテナで形成し、
前記巻回形電極部の巻回数または/および開口面積により、前記インピーダンスを調整する工程である、パッシブセンサの製造方法。
【請求項6】
請求項4または請求項5のいずれか一項に記載のパッシブセンサの製造方法であって、
前記パッシブセンサ形成工程は、前記アンテナの前記配線電極部に対する前記センサ素子の接続位置により、前記インピーダンスを調整する工程である、パッシブセンサの製造方法。
【請求項7】
センサ素子を備えるパッシブセンサから送信される通信信号の共振周波数に基づいて、前記センサ素子の感知した物理量を、前記パッシブセンサと無線通信接続された親機で計測する無線式センサシステムの計測方法であって、
請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載のパッシブセンサの製造方法によって、パッシブセンサを製造するパッシブセンサ製造工程と、
製造されたパッシブセンサを用いて前記物理量を検知し、前記通信信号を生成する物理量検知工程と、
前記親機を用いて、前記通信信号の共振周波数を解析し、該解析した共振周波数に基づいて前記物理量を算出する、物理量算出工程と、を有する無線式センサシステムの計測方法。
【請求項8】
外部からの励起信号により、感知する物理量に応じた周波数の共振信号を出力するセンサ素子と、
前記センサ素子に接続されており、前記励起信号、および前記共振信号に基づく通信信号を送受波するアンテナと、を備えるパッシブセンサであって、
前記アンテナは、前記センサ素子の共振周波数に基づいて、前記アンテナから送信される通信信号の周波数がパッシブセンサとしての所望の共振周波数になるインピーダンスを有する形状からなる、パッシブセンサ。
【請求項9】
請求項8に記載のパッシブセンサであって、
前記アンテナは、放射電極部と、該放射電極部を前記センサ素子に接続する配線電極部とからなるダイポールアンテナであり、
前記放射電極部は、前記インピーダンスに応じた開口角からなる、パッシブセンサ。
【請求項10】
請求項8に記載のパッシブセンサであって、
前記前記アンテナは、巻回形電極部と、該巻回形電極部を前記センサ素子に接続する配線電極部とからなる電磁結合型アンテナであり、
前記巻回形電極部は、前記インピーダンスに応じた巻回数または/および開口面積からなる、パッシブセンサ。
【請求項11】
請求項8乃至請求項10のいずれか一項に記載のパッシブセンサであって、
前記配線電極部は、前記インピーダンスに応じた長さからなる、パッシブセンサ。
【請求項12】
請求項8乃至請求項11のいずれか一項に記載のパッシブセンサであって、
前記センサ素子は、SAW共振子である、パッシブセンサ。
【請求項13】
請求項8乃至請求項11のいずれか一項に記載のパッシブセンサであって、
前記センサ素子は、水晶振動子である、パッシブセンサ。
【請求項14】
請求項8乃至請求項13のいずれか一項に記載のパッシブセンサであって、
前記アンテナは、前記インピーダンスに含まれるインダクタンスによって形状が決定されている、パッシブセンサ。
【請求項15】
請求項8乃至請求項14のいずれかに一項に記載のパッシブセンサと、
前記パッシブセンサに対して、前記励起信号を送信するとともに、前記通信信号を受信し、前記通信信号の共振周波数に基づいて前記物理量を算出する親機と、を備えた無線式センサシステム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図8】
image rotate

【図4】
image rotate

【図7】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−8749(P2012−8749A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−143275(P2010−143275)
【出願日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】