説明

パッシブレーダ装置

【課題】演算負荷の増加やコスト高を招くことなく、直接波の相互相関成分を十分に抑圧して、精度よく目標を探知することができるようにする。
【解決手段】REF系DFT処理部16により算出された周波数スペクトルzref(f)を用いて、受信信号ベクトル形成部17により形成された受信信号ベクトルxに含まれている直接波の相互相関成分α0Da0を抑圧し、直接波抑圧後の受信信号ベクトルxnullを出力する直接波抑圧部18とを設け、IDFT処理部19が、直接波抑圧部18から出力された直接波抑圧後の受信信号ベクトルxnullをIDFTして、間接波の相互相関成分ynullを算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自らは電波を送信せずに、動作的な協調関係がない送信局から送信された電波を受信して、目標の探知を行うパッシブレーダ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パッシブレーダ装置は、自らは電波を送信せずに、動作的な協調関係がない送信局から送信された電波を受信して、目標の探知を行う装置であるが、電波の送信源(送信局)としては、例えば、ラジオ放送やテレビ放送の電波塔などが考えられ、その電波塔から空間に放射される放送波を送信信号として用いることがある。
パッシブレーダ装置は、送信局から送信信号が空間に放射されたのち、航空機や船舶等の目標に反射することなく、送信局から直接伝搬してきた送信信号の直接波と、目標に反射して伝搬してきた送信信号の間接波とを受信し、その直接波と間接波の相互相関を求めて、目標信号の探知を行うものである。
【0003】
ここで、パッシブレーダ装置は、一般的に、直接波の受信処理を行うREF系受信処理部と、間接波の受信処理を行うSUR系受信処理部と、REF系受信処理部の出力信号とSUR系受信処理部の出力信号を用いて、目標の探知処理を行う信号処理部とから構成されている。
パッシブレーダ装置により受信される直接波の電力は、通常、間接波の電力(目標信号の電力)と比べて十分に大きいため、REF系受信処理部では、比較的低利得のアンテナを用いて、直接波のみを選択的に受信できるように設計されている。
一方、SUR系受信処理部では、微弱な目標信号の電力を受信できるように比較的高利得のアンテナが用いられ、また、目標探知能力の劣化を避けるために、直接波の受信電力が抑圧されるように設計されている。
【0004】
上記のように設計されていても、SUR系受信処理部で直接波が受信される場合には、直接波の相互相関成分が相互相関出力に含まれている。
したがって、直接波の相互相関成分を抑圧する必要があるが、直接波の相互相関成分の抑圧が十分でない場合、微弱な目標信号の相互相関成分が直接波の相互相関成分に埋もれてしまって、目標の探知能力が劣化してしまう問題がある。
【0005】
この問題を解決する方法として、アダプティブフィルタを用いて、直接波を抑圧する方法がある。
例えば、以下の非特許文献1に開示されている方法は、SUR系受信処理部のアンテナに対する直接波の到来時間と、REF系受信処理部のアンテナに対する直接波の到来時間との差分である直接波伝搬時間差(遅延時間)は未知のままで、SUR系受信処理部の出力信号の最大化の規範によって、直接波の電力の最小化を行うものである。
具体的には、SUR系受信処理部の受信信号の周波数スペクトル及びREF系受信処理部の受信信号の周波数スペクトルを算出して、それらの周波数スペクトルに含まれている直接波の相互相関成分を抑圧し、直接波の相互相関成分抑圧後の周波数スペクトルを逆離散フーリエ変換することで、間接波の相互相関成分を求めている。
【0006】
直接波の相互相関成分の抑圧は、同成分の相関行列と、その相関行列の逆行列とを用いて行われている。
いずれの行列も正方行列であり、それらの行列の次元数は、周波数スペクトル成分のサンプル数に一致するものであり、非特許文献1に開示されている例では、数千点にも及んでいる。
【0007】
相関行列は、複数のスナップショットに亘って観測された直接波の周波数スペクトル成分より推定するものであるから、スナップショットの数が多い程、相関行列及びその逆行列の推定精度が高くなる。
特に、既知の相関行列を用いて達成する出力SNRと比べた平均損失を3dB以内にする場合には、行列次元数の2倍以上のスナップショット数を用いることが望ましいことが知られている。
例えば、周波数スペクトル成分のサンプル数及び行列次元数が1024の場合、スナップショット数が2048以上であることが望ましいことになる。
【0008】
ところが、放送波の周波数スペクトルは、放送内容に依存して変化するため、多数のスナップショット数を取得している間に周波数スペクトルが変化してしまって、相関行列の推定精度が高まらない問題が考えられる。
仮に、この問題を解決することができても、数千次元の逆行列を求めるには、高い演算負荷が予想され、特にリアルタイム処理が必要となるパッシブレーダ装置では、実装上の問題になると考えられる。
【0009】
アダプティブフィルタを用いて、直接波を抑圧する方法の他に、SUR系受信処理部のアンテナにおいて、直接波が到来する方向にヌルを形成する方法がある。
例えば、SUR系受信処理部のアンテナとして、ディジタルビーム形成アンテナを用いる場合、直接波の到来方向にヌルを適応的に形成することが可能なアダプティブアレーを実現することができる。
しかし、実際のアダプティブアレーでは、受信チャネル間の特性のばらつき等の誤差要因によって、直接波を十分に抑圧できない場合がある。
また、ディジタルビーム形成アンテナを用いる場合、SUR系受信処理部のアンテナを構成する素子、あるいは、サブアレーアンテナに複数の受信機を接続する必要があり、コスト高になる問題がある。
したがって、パッシブレーダ装置では、アダプティブフィルタ及びアダプティブアレーの双方を用いて、直接波の抑圧を行うこともある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】J. Asada,I. Sasase,“Target detection with MSN algorithm for the bistatic radar using digital terrestrial broadcasting signals,”IEICE Trans. Commun.,vol.E94-B,no.2,Feb.,2011.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来のパッシブレーダ装置は以上のように構成されているので、アダプティブフィルタを用いて、直接波を抑圧する場合、多数のスナップショット数を取得している間に周波数スペクトルが変化してしまって、相関行列の推定精度が高まらず、直接波を十分に抑圧することができないことがある。また、数千次元の逆行列を求める必要がある場合、演算負荷が大きくなり、リアルタイム処理が困難になるなどの課題があった。
また、SUR系受信処理部のアンテナとしてアダプティブアレーを使用し、直接波が到来する方向にヌルを形成することで直接波を抑圧する場合、アダプティブアレーにおける受信チャネル間の特性のばらつき等の誤差要因によって、直接波を十分に抑圧できない場合がある。また、ディジタルビーム形成アンテナを用いる場合、SUR系受信処理部のアンテナを構成する素子、あるいは、サブアレーアンテナに複数の受信機を接続する必要があり、コスト高になるなどの課題があった。
【0012】
この発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、演算負荷の増加やコスト高を招くことなく、直接波の相互相関成分を十分に抑圧して、精度よく目標を探知することができるパッシブレーダ装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明に係るパッシブレーダ装置は、送信局から送信信号が空間に放射されたのち、目標に反射することなく送信局から直接伝搬してきた上記送信信号の直接波及び上記目標に反射して伝搬してきた上記送信信号の間接波を受信する第1のアンテナと、第1のアンテナの受信信号を離散フーリエ変換して、その受信信号の周波数スペクトルを算出する第1の周波数スペクトル算出手段と、目標に反射することなく送信局から直接伝搬してきた上記送信信号の直接波を受信する第2のアンテナと、第2のアンテナの受信信号を離散フーリエ変換して、その受信信号の周波数スペクトルを算出する第2の周波数スペクトル算出手段と、第1及び第2の周波数スペクトル算出手段により算出された周波数スペクトルから受信信号ベクトルを形成する受信信号ベクトル形成手段と、第2の周波数スペクトル算出手段により算出された周波数スペクトルを用いて、受信信号ベクトル形成手段により形成された受信信号ベクトルに含まれている直接波の相互相関成分を抑圧し、直接波抑圧後の受信信号ベクトルを出力する直接波抑圧手段とを設け、間接波相互相関成分算出手段が、直接波抑圧手段から出力された直接波抑圧後の受信信号ベクトルを逆離散フーリエ変換して、間接波の相互相関成分を算出するようにしたものである。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、送信局から送信信号が空間に放射されたのち、目標に反射することなく送信局から直接伝搬してきた上記送信信号の直接波及び上記目標に反射して伝搬してきた上記送信信号の間接波を受信する第1のアンテナと、第1のアンテナの受信信号を離散フーリエ変換して、その受信信号の周波数スペクトルを算出する第1の周波数スペクトル算出手段と、目標に反射することなく送信局から直接伝搬してきた上記送信信号の直接波を受信する第2のアンテナと、第2のアンテナの受信信号を離散フーリエ変換して、その受信信号の周波数スペクトルを算出する第2の周波数スペクトル算出手段と、第1及び第2の周波数スペクトル算出手段により算出された周波数スペクトルから受信信号ベクトルを形成する受信信号ベクトル形成手段と、第2の周波数スペクトル算出手段により算出された周波数スペクトルを用いて、受信信号ベクトル形成手段により形成された受信信号ベクトルに含まれている直接波の相互相関成分を抑圧し、直接波抑圧後の受信信号ベクトルを出力する直接波抑圧手段とを設け、間接波相互相関成分算出手段が、直接波抑圧手段から出力された直接波抑圧後の受信信号ベクトルを逆離散フーリエ変換して、間接波の相互相関成分を算出するように構成したので、演算負荷の増加やコスト高を招くことなく、直接波の相互相関成分を十分に抑圧して、精度よく目標を探知することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明の実施の形態1によるパッシブレーダ装置を示す構成図である。
【図2】この発明の実施の形態1によるパッシブレーダ装置の直接波抑圧部18を示す構成図である。
【図3】この発明の実施の形態2によるパッシブレーダ装置の直接波抑圧部18を示す構成図である。
【図4】この発明の実施の形態3によるパッシブレーダ装置の直接波抑圧部18を示す構成図である。
【図5】この発明の実施の形態4によるパッシブレーダ装置の直接波抑圧部18を示す構成図である。
【図6】この発明の実施の形態5によるパッシブレーダ装置を示す構成図である。
【図7】この発明の実施の形態5によるパッシブレーダ装置の直接波抑圧部50を示す構成図である。
【図8】この発明の実施の形態6によるパッシブレーダ装置の直接波抑圧部50を示す構成図である。
【図9】この発明の実施の形態7によるパッシブレーダ装置の直接波抑圧部50を示す構成図である。
【図10】この発明の実施の形態8によるパッシブレーダ装置の直接波抑圧部50を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1によるパッシブレーダ装置を示す構成図である。
この実施の形態1のパッシブレーダ装置は、後述するSUR系の受信チャネル数が1である場合でも適用可能であり、シングルスナップショットで良好に動作し、かつ、演算負荷が小さく、さらにアダプティブアレーとの併用も可能な方法で直接波抑圧を行うものである。
図1において、送信局1はパッシブレーダ装置3と動作的な協調関係無しに、送信アンテナ2から送信信号を空間に放射する送信源であり、例えば、ラジオ放送やテレビ放送の電波塔などが該当する。
【0017】
パッシブレーダ装置3のSUR系アンテナ11は送信アンテナ2から送信信号が空間に放射されたのち、例えば、航空機や艦船等の目標に反射することなく送信アンテナ2から直接伝搬してきた上記送信信号の直接波を受信するとともに、その目標に反射して伝搬してきた上記送信信号の間接波を受信して、その直接波と間接波の双方を含む受信信号をSUR系受信機12に出力する。なお、SUR系アンテナ11は第1のアンテナを構成している。
【0018】
SUR系受信機12はSUR系アンテナ11の受信信号の周波数を変換する処理や、その受信信号をアナログ信号からディジタル信号に変換するAD変換処理などを実施して、ディジタルの受信信号をSUR系DFT処理部13に出力する処理を実施する。
SUR系DFT処理部13は例えばCPUを実装している半導体集積回路、あるいは、ワンチップマイコンなどから構成されており、SUR系受信機12から出力されたディジタルの受信信号を離散フーリエ変換して、その受信信号の周波数スペクトルを算出する処理を実施する。なお、SUR系DFT処理部13は第1の周波数スペクトル算出手段を構成している。
【0019】
REF系アンテナ14は送信アンテナ2から送信信号が空間に放射されたのち、目標に反射することなく送信アンテナ2から直接伝搬してきた上記送信信号の直接波を受信して、その直接波を含む受信信号をREF系受信機15に出力する。なお、REF系アンテナ14は第2のアンテナを構成している。
【0020】
REF系受信機15はREF系アンテナ14の受信信号の周波数を変換する処理や、その受信信号をアナログ信号からディジタル信号に変換するAD変換処理などを実施して、ディジタルの受信信号をREF系DFT処理部16に出力する処理を実施する。
REF系DFT処理部16は例えばCPUを実装している半導体集積回路、あるいは、ワンチップマイコンなどから構成されており、REF系受信機15から出力されたディジタルの受信信号を離散フーリエ変換して、その受信信号の周波数スペクトルを算出する処理を実施する。なお、REF系DFT処理部16は第2の周波数スペクトル算出手段を構成している。
【0021】
受信信号ベクトル形成部17は例えばCPUを実装している半導体集積回路、あるいは、ワンチップマイコンなどから構成されており、SUR系DFT処理部13により算出された周波数スペクトルとREF系DFT処理部16により算出された周波数スペクトルから受信信号ベクトルを形成する処理を実施する。なお、受信信号ベクトル形成部17は受信信号ベクトル形成手段を構成している。
【0022】
直接波抑圧部18は例えばCPUを実装している半導体集積回路、あるいは、ワンチップマイコンなどから構成されており、REF系DFT処理部16により算出された周波数スペクトルを用いて、受信信号ベクトル形成部17により形成された受信信号ベクトルに含まれている直接波の相互相関成分を抑圧し、直接波抑圧後の受信信号ベクトルをIDFT処理部19に出力する処理を実施する。なお、直接波抑圧部18は直接波抑圧手段を構成している。
【0023】
IDFT処理部19は例えばCPUを実装している半導体集積回路、あるいは、ワンチップマイコンなどから構成されており、直接波抑圧部18から出力された直接波抑圧後の受信信号ベクトルを逆離散フーリエ変換して、目標信号として間接波の相互相関成分を算出する処理を実施する。なお、IDFT処理部19は間接波相互相関成分算出手段を構成している。
【0024】
図2はこの発明の実施の形態1によるパッシブレーダ装置の直接波抑圧部18を示す構成図である。
図2において、電力スペクトル算出部21はREF系DFT処理部16により算出された周波数スペクトルから、REF系アンテナ14の受信信号の電力スペクトルを算出する処理を実施する。なお、電力スペクトル算出部21は電力スペクトル算出手段を構成している。
直接波遅延時間推定部22は受信信号ベクトル形成部17により形成された受信信号ベクトルを参照して、SUR系アンテナ11に対する直接波の到来時間とREF系アンテナ14に対する直接波の到来時間との差分である遅延時間を推定し、その遅延時間から位相回転行列を算出する処理を実施する。なお、直接波遅延時間推定部22は遅延時間推定手段を構成している。
【0025】
直交射影行列算出部23は電力スペクトル算出部21により算出された電力スペクトルと直接波遅延時間推定部22により算出された位相回転行列から、直接波の相互相関成分の抑圧に用いる直交射影行列を算出する処理を実施する。なお、直交射影行列算出部23は直交射影行列算出手段を構成している。
直交射影部24は受信信号ベクトル形成部17により形成された受信信号ベクトルに対して、直交射影行列算出部23により算出された直交射影行列を乗算して、その受信信号ベクトルに含まれている直接波の相互相関成分を抑圧し、直接波抑圧後の受信信号ベクトルをIDFT処理部19に出力する処理を実施する。なお、直交射影部24は直交射影手段を構成している。
【0026】
図1の例では、パッシブレーダ装置の構成要素であるSUR系アンテナ11、SUR系受信機12、SUR系DFT処理部13、REF系アンテナ14、REF系受信機15、REF系DFT処理部16、受信信号ベクトル形成部17、直接波抑圧部18及びIDFT処理部19のそれぞれが専用のハードウェアで構成されているものを示したが、パッシブレーダ装置の全部又は一部がコンピュータで構成されていてもよい。
例えば、SUR系アンテナ11とREF系アンテナ14を除く部分をコンピュータで構成する場合、SUR系受信機12、SUR系DFT処理部13、REF系受信機15、REF系DFT処理部16、受信信号ベクトル形成部17、直接波抑圧部18及びIDFT処理部19の処理内容を記述しているプログラムをコンピュータのメモリに格納し、当該コンピュータのCPUが当該メモリに格納されているプログラムを実行するようにすればよい。
なお、図1の例では、送信局1及び送信アンテナ2がパッシブレーダ装置3の外部に設置されているものを示しているが、送信局1及び送信アンテナ2がパッシブレーダ装置3の内部に設置されていてもよい。
【0027】
次に動作について説明する。
最初に、パッシブレーダ装置における直接波抑圧法の理論を述べてから、図1のパッシブレーダ装置の各処理部の内容を説明する。
まず、SUR系におけるマルチパス波も含む直接波bsur(t)と、REF系におけるマルチパス波も含む直接波bref(t)は、下記のように表される。



ただし、b(t)は送信アンテナ2から空間に放射される送信信号、hsur(t)はSUR系におけるマルチパス波も含む直接波の伝搬(以降、「マルチパスフェージング」と称する)によるインパルス応答、href(t)はREF系におけるマルチパスフェージングによるインパルス応答である。
【0028】
ここでは、SUR系において、送信信号b(t)に対するK個の時間遅れtk(k=1,2,・・・,K)を伴う目標信号と、時間遅れt0+を伴うマルチパスフェージング環境下の直接波とを含む受信信号zsur(t)が、下記の式(3)のように与えられるものとする。


ただし、α0,αk(<<α0)はそれぞれの距離等による減衰係数であり、nsur(t)は受信機雑音である。
また、b(t−tk)に対するドップラ変調exp(j2πftk)は無視できるものとする。
【0029】
また、REF系において、時間遅れt0を伴うマルチパスフェージング環境下の直接波を含む受信信号zref(t)が、下記の式(4)のように与えられるものとする。ここでは、直接波と比べて微弱な目標信号は無視できるものとしている。


【0030】
直接波の時間遅れt0+,t0の間には、以下の関係があるものとする。なお、t0+は送信信号b(t)が送信アンテナ2から空間に放射されてからSUR系に到達するまでの伝搬時間であり、t0は送信信号b(t)が送信アンテナ2から空間に放射されてからREF系に到達するまでの伝搬時間である。



ここで、REF系では、直接波と比べて受信機雑音は無視できるものとし、以降では、下記の式(6)のように扱うものとする。


【0031】
以下、「相互相関」は、SUR系での受信信号zsur(t)と、REF系での受信信号zref(t)との相関処理(マッチドフィルタ)を示すものであり、相互相関出力y(t)は、下記の式(7)で与えられる。



ただし、Tcは相互相関の計算範囲を示している。
【0032】
式(7)の演算は、高速化を図るために、時間ドメインではなく、周波数ドメインで実施する場合が多い。
これは、式(7)のフーリエ変換は、下記の式(8)に示すように、SUR系での受信信号zsur(t)の周波数スペクトルzsur(f)と、REF系での受信信号zref(t)の周波数スペクトルの複素共役zref*(f)との積に等しいという相関定理に基づくものである。


【0033】
これにより、SUR系とREF系の受信信号をDFT(離散フーリエ変換)することで周波数スペクトルzsur(f),zref(f)を求め、その周波数スペクトルzsur(f)と、その周波数スペクトルzref(f)の複素共役zref*(f)との積をIDFT(逆離散フーリエ変換)することで相互相関出力y(t)を求めることができる。
ここで、式(3)及び式(6)より、周波数スペクトルzsur(f),zref(f)は、それぞれ以下のように表わされる。



ただし、B(f)は送信信号b(t)の周波数スペクトル、Bsur(f)は直接波bsur(t)の周波数スペクトル、Bref(f)は直接波bref(t)の周波数スペクトルである。
【0034】
よって、スペクトル乗算値X(f)は、下記の式(11)のように表される。



ただし、τkは、下記の式(12)のようなREF系における直接波と、SUR系における間接波との到来時間差である。


【0035】
相互相関出力y(t)は、式(11)をIDFTしたものとなる。
なお、以降の議論のため、Bsur(f),Bref(f)に関する関係式を以下の式(13)、式(14)のように記述する。


【0036】
いま、周波数スペクトルがM点のサンプルにより構成されているものとし、下記の式(15)に示すようなシングルスナップショットの受信信号ベクトルxを定義する。



式(15)に式(11)を代入すると、式(15)は、下記の式(16)のように変形することができる。ただし、以降の議論に関係のないβ0*は省略している(β0*=1としている)。
【0037】


【0038】
ただし、akは第k番目の到来時間差に対するステアリングベクトル、Aはステアリングベクトルaを列ベクトルとする行列、sは振幅ベクトル、a0は直接波との到来時間差Δt0に対するステアリングベクトル、nは受信機雑音ベクトルである。


【0039】
さらに、Dは下記の式(22)に示すように、直接波のSUR系とREF系での遅延時間差Δt0に基づく位相回転量を有する対角行列である。



特に、式(17)は第k番目の到来時間差τkに対してステアリングベクトルakが一意に定まることを示すものである。
ステアリングベクトルakの要素である位相成分は周波数fmにおける到来時間差τkに対応する伝搬位相である。振幅成分はリファレンス信号の周波数fmにおける振幅であるが、到来時間差τkには無関係である。
【0040】
続いて、相互相関出力を得るために受信信号ベクトルxに対するIDFTを行う。
IDFTの第m番目の係数ベクトルをwmとすると、相互相関yは、下記の式(23)のように求まる。


【0041】
ここまでの検討で、SUR系における受信信号ベクトルxは、式(16)の通りであることを示している。
抑圧したい直接波は、式(16)の最終行の右辺第2項であるα0Da0である。
そこで、α0Da0を抑圧するために、以下のような直接波のステアリングベクトルa0と、位相回転行列Dで与えられる直交射影行列Pnullを定義する。


【0042】
この直交射影行列Pnullを受信信号ベクトルxに乗じると、下記の式(27)のようになり、α0Da0がキャンセルされた直接波抑圧後の受信信号ベクトルxnullを得ることができる。


このとき、相互相関出力ynullは、下記の式(28)のように求まる。


【0043】
次に、直交射影行列Pnullを求めるために必要なステアリングベクトルa0と位相回転行列Dの与え方を説明する。
マルチパスフェージング環境下において、SUR系とREF系における直接波伝搬系のインパルス応答が一致する場合、もしくは、一致すると見なせる場合について考える。
即ち、下記の式(29)が成立する場合について考える。


なお、マルチパスがない場合のインパルス応答は、以下の通りであるため、式に表わされている。


【0044】
このとき、直接波のステアリングベクトルa0は、下記の式(32)のように表わされる。



また、Bref(f)は式(10)より、下記の式(33)のように表わされる。


【0045】
よって、直接波ステアリングベクトルは、REF系の電力スペクトルより求められる。
位相回転行列Dは、式(23)に示す通常の相互相関出力を振幅検波した波形の最大値に対応する遅延時間より求めればよい。
したがって、直交射影行列Pnullが求められ、α0Da0の推定が可能となる。
以上がパッシブレーダ装置における直接波抑圧法の理論である。なお、SUR系とREF系におけるマルチパスフェージングのインパルス応答が異なる場合については、実施の形態2で説明する。
【0046】
次に、図1のパッシブレーダ装置の各処理部の内容を説明する。
パッシブレーダ装置3と非協調に動作する送信局1が送信信号b(t)を生成し、送信アンテナ2から送信局1により生成された送信信号b(t)が空間に放射される。
これにより、K個の目標に反射して伝搬されてきた送信信号b(t)の間接波がSUR系アンテナ11に受信され、目標に反射することなく送信アンテナ2から直接伝搬されてきた送信信号b(t)の直接波がSUR系アンテナ11及びREF系アンテナ14に受信される。
【0047】
SUR系受信機12は、SUR系アンテナ11の受信信号の周波数を変換する処理や、その受信信号をアナログ信号からディジタル信号に変換するAD変換処理などを実施して、ディジタルの受信信号zsur(t)をSUR系DFT処理部13に出力する。
このとき、SUR系DFT処理部13に出力される受信信号zsur(t)は、上記の式(3)のように表される。
【0048】
REF系受信機15は、REF系アンテナ14の受信信号の周波数を変換する処理や、その受信信号をアナログ信号からディジタル信号に変換するAD変換処理などを実施して、ディジタルの受信信号zref(t)をREF系DFT処理部16に出力する。
このとき、REF系DFT処理部16に出力される受信信号zref(t)は、上記の式(6)のように表される。
【0049】
SUR系DFT処理部13は、SUR系受信機12から受信信号zsur(t)を受けると、その受信信号zsur(t)をDFTして、その受信信号の周波数スペクトルzsur(f)を算出する。
SUR系DFT処理部13により算出される周波数スペクトルzsur(f)は、上記の式(9)のように表される。
【0050】
REF系DFT処理部16は、REF系受信機15から受信信号zref(t)を受けると、その受信信号zref(t)をDFTして、その受信信号の周波数スペクトルzref(f)を算出する。
REF系DFT処理部16により算出される周波数スペクトルzref(f)は、上記の式(10)のように表される。
【0051】
受信信号ベクトル形成部17は、SUR系DFT処理部13が周波数スペクトルzsur(f)を算出し、REF系DFT処理部16が周波数スペクトルzref(f)を算出すると、その周波数スペクトルzsur(f)と周波数スペクトルzref(f)から、M次元の受信信号ベクトルxを形成する。
受信信号ベクトル形成部17により形成されるM次元の受信信号ベクトルxは、上記の式(15)のように表される。
【0052】
直接波抑圧部18は、受信信号ベクトル形成部17がM次元の受信信号ベクトルxを形成すると、REF系DFT処理部16により算出された周波数スペクトルzref(f)を用いて、その受信信号ベクトルxに含まれている直接波の相互相関成分α0Da0を抑圧し、直接波抑圧後の受信信号ベクトルxnullをIDFT処理部19に出力する。
具体的には、以下のようにして、直接波の相互相関成分α0Da0を抑圧して、直接波抑圧後の受信信号ベクトルxnullをIDFT処理部19に出力する。
【0053】
直接波抑圧部18の電力スペクトル算出部21は、REF系DFT処理部16により算出された周波数スペクトルzref(f)を入力すると、その周波数スペクトルzref(f)を上記の式(33)に代入することで、直接波bref(t)の周波数スペクトルBref(f)を算出する。
そして、電力スペクトル算出部21は、その周波数スペクトルBref(f)を上記の式(32)に代入することで、ステアリングベクトルa0である電力スペクトルを算出する。
【0054】
直接波遅延時間推定部22は、受信信号ベクトル形成部17により形成されたM次元の受信信号ベクトルxを参照して、SUR系アンテナ11に対する直接波bsur(t)の到来時間とREF系アンテナ14に対する直接波bref(t)の到来時間との差分である遅延時間Δt0を推定する。
即ち、直接波遅延時間推定部22は、上記の式(23)に示す通常の相互相関出力yを振幅検波した波形の最大値に対応する遅延時間を遅延時間Δt0として推定し、その遅延時間Δt0を上記の式(22)に代入して位相回転行列Dを算出する。
【0055】
直交射影行列算出部23は、電力スペクトル算出部21がステアリングベクトルa0である電力スペクトルを算出し、直接波遅延時間推定部22が位相回転行列Dを算出すると、そのステアリングベクトルa0と位相回転行列Dを上記の式(26)に代入して直交射影行列Pnullを算出する。
ここでは、直接波遅延時間推定部22が遅延時間Δt0から位相回転行列Dを算出し、直交射影行列算出部23が直接波遅延時間推定部22により算出された位相回転行列Dを用いて、直交射影行列Pnullを算出しているが、直交射影行列算出部23が直接波遅延時間推定部22により算出された遅延時間Δt0から位相回転行列Dを算出し、その位相回転行列Dを用いて、直交射影行列Pnullを算出するようにしてもよい。
【0056】
直交射影部24は、直交射影行列算出部23が直交射影行列Pnullを算出すると、上記の式(27)に示すように、受信信号ベクトル形成部17により形成されたM次元の受信信号ベクトルxに対して、その直交射影行列Pnullを乗算して、その受信信号ベクトルxに含まれている直接波の相互相関成分α0Da0を抑圧し、直接波抑圧後の受信信号ベクトルxnullをIDFT処理部19に出力する。
【0057】
IDFT処理部19は、直接波抑圧部18から直接波抑圧後の受信信号ベクトルxnullを受けると、式(28)に示すように、直接波抑圧後の受信信号ベクトルxnullをIDFTすることで、目標信号として間接波の相互相関成分ynullを算出する。
【0058】
以上で明らかなように、この実施の形態1によれば、送信局1から送信信号b(t)が空間に放射されたのち、目標に反射することなく送信局1から直接伝搬してきた送信信号b(t)の直接波及び目標に反射して伝搬してきた送信信号b(t)の間接波を受信するSUR系アンテナ11と、SUR系アンテナ11の受信信号zsur(t)をDFTして、その受信信号の周波数スペクトルzsur(f)を算出するSUR系DFT処理部13と、目標に反射することなく送信局1から直接伝搬してきた送信信号b(t)の直接波を受信するREF系アンテナ14と、REF系アンテナ14の受信信号zref(t)をDFTして、その受信信号の周波数スペクトルzref(f)を算出するREF系DFT処理部16と、SUR系DFT処理部13により算出された周波数スペクトルzsur(f)とREF系DFT処理部16により算出された周波数スペクトルzref(f)から受信信号ベクトルxを形成する受信信号ベクトル形成部17と、REF系DFT処理部16により算出された周波数スペクトルzref(f)を用いて、受信信号ベクトル形成部17により形成された受信信号ベクトルxに含まれている直接波の相互相関成分α0Da0を抑圧し、直接波抑圧後の受信信号ベクトルxnullを出力する直接波抑圧部18とを設け、IDFT処理部19が、直接波抑圧部18から出力された直接波抑圧後の受信信号ベクトルxnullをIDFTして、間接波の相互相関成分ynullを算出するように構成したので、演算負荷の増加やコスト高を招くことなく、直接波の相互相関成分α0Da0を十分に抑圧して、精度よく目標を探知することができる効果を奏する。
【0059】
即ち、この実施の形態1のパッシブレーダ装置は、SUR系の受信チャネル数が1である場合も適用可能であり、シングルスナップショットで求めた直交射影行列Pnullにより直接波を抑圧することが可能であるという効果がある。
また、逆行列演算を用いないため、演算負荷を小さくできるという効果がある。加えて、直接波の到来角に依存する振幅や位相を用いないため、アダプティブアレーとの併用も可能であるという効果がある。
【0060】
実施の形態2.
上記実施の形態1の方式では、SUR系とREF系におけるマルチパスフェージングのインパルス応答が異なる場合、直接波の抑圧能力が劣化することがある。
この実施の形態2は、SUR系とREF系におけるマルチパスフェージングのインパルス応答が異なる場合でも、直接波の抑圧能力の劣化を回避できる方式を提供するものである。
【0061】
この実施の形態2の場合も、パッシブレーダ装置の全体構成は上記実施の形態1と同様であり、図1の構成となる。
図3はこの発明の実施の形態2によるパッシブレーダ装置の直接波抑圧部18を示す構成図であり、図において、図2と同一符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。
受信信号ベクトル分割部31は受信信号ベクトル形成部17により形成された受信信号ベクトルxを複数のサブバンドに分割して、サブバンド分割後の受信信号ベクトルx(ch)を出力する処理を実施する。なお、受信信号ベクトル分割部31は受信信号ベクトル分割手段を構成している。
【0062】
直交射影行列算出部32は電力スペクトル算出部21により算出されたステアリングベクトルa0である電力スペクトルと直接波遅延時間推定部22により算出された位相回転行列Dから、直接波の相互相関成分α0Da0の抑圧に用いるサブバンド毎の直交射影行列Pnull(ch)を算出する処理を実施する。なお、直交射影行列算出部32は直交射影行列算出手段を構成している。
【0063】
直交射影部33は受信信号ベクトル分割部31から出力されたサブバンド分割後の受信信号ベクトルx(ch)に対して、直交射影行列算出部32により算出されたサブバンド毎の直交射影行列Pnull(ch)を乗算して、その受信信号ベクトルx(ch)に含まれている直接波の相互相関成分α0Da0(ch)を抑圧し、直接波抑圧後の受信信号ベクトルxnull(ch)をIDFT処理部19に出力する処理を実施する。なお、直交射影部33は直交射影手段を構成している。
【0064】
次に動作について説明する。
最初に、パッシブレーダ装置における直接波抑圧法の理論を述べる。即ち、SUR系とREF系におけるマルチパスフェージングのインパルス応答が異なる場合の直接波抑圧法の理論を述べる。
SUR系とREF系におけるマルチパスフェージングのインパルス応答が互いに異なるのは、例えば、SUR系アンテナ11とREF系アンテナ14が異なる位置に設置されて、伝搬パス数等が異なることによるものである。
また、SUR系アンテナ11とREF系アンテナ14が同じ位置に設置されて伝搬パスを一致されている場合でも、アンテナパターンが互いに異なれば、各伝搬パスでの受信電力が異なるため、インパルス応答に差異が発生する。
SUR系とREF系におけるマルチパスフェージングのインパルス応答が異なる場合、下記の式(34)が成立する。


【0065】
この場合の直接波のステアリングベクトルa0は、上記の式(20)そのものとなる。
式(20)の中のBref(f)は、上記の式(33)のように、REF系の周波数スペクトルzref(f)より求めることが可能である。
また、式(20)の中のBsur(f)は、下記の式(35)のようになる。


【0066】
しかし、式(35)の右辺には、未知である目標の反射波に関するパラメータが含まれているため、Bsur(f)を求めることは困難であり、このままでは直交射影行列Pnullも求めることが出来ない。
そこで、SUR系及びREF系の受信信号の周波数スペクトルを複数のサブバンドに分割し、サブバンド毎に直接波の抑圧を行うようにする。
各サブバンドでSUR系とREF系のインパルス応答の差異が無視できる程度にサブバンド分割を行うことにより、各サブバンドで直接波を十分抑圧した受信信号を求めてIDFTにより相互相関出力を得るものである。
【0067】
次に、パッシブレーダ装置における図3の直接波抑圧部18の各処理部の内容を説明する。
直接波抑圧部18の電力スペクトル算出部21は、REF系DFT処理部16により算出された周波数スペクトルzref(f)を入力すると、上記実施の形態1と同様に、その周波数スペクトルzref(f)を上記の式(33)に代入することで、直接波bref(t)の周波数スペクトルBref(f)を算出する。
また、電力スペクトル算出部21は、その周波数スペクトルBref(f)を上記の式(32)に代入することで、ステアリングベクトルa0である電力スペクトルを算出する。
直接波遅延時間推定部22は、上記実施の形態1と同様の方法で、遅延時間Δt0を推定し、その遅延時間Δt0を上記の式(22)に代入して位相回転行列Dを算出する。
【0068】
受信信号ベクトル分割部31は、受信信号ベクトル形成部17により形成された受信信号ベクトルxを複数のサブバンドに分割して、サブバンド分割後の受信信号ベクトルx(ch)を出力する。
受信信号ベクトル分割部31から出力されるサブバンド分割後の受信信号ベクトルx(ch)は、下記の式(36)を満たすものである。ただし、ch=1,2,・・・,CH(<M)であり、CHはサブバンド分割数である。


【0069】
直交射影行列算出部32は、電力スペクトル算出部21がステアリングベクトルa0である電力スペクトルを算出し、直接波遅延時間推定部22が位相回転行列Dを算出すると、下記の式(37)が成立するサブバンド毎の電力スペクトルa0(ch)を算出するとともに、下記の式(38)が成立するサブバンド毎の位相回転行列D(ch)を算出する。


【0070】
直交射影行列算出部32は、サブバンド毎の電力スペクトルa0(ch)とサブバンド毎の位相回転行列D(ch)を算出すると、その電力スペクトルa0(ch)と位相回転行列D(ch)を上記の式(26)に代入して、サブバンド毎の直交射影行列Pnull(ch)を算出する。
ここでは、直接波遅延時間推定部22が遅延時間Δt0から位相回転行列Dを算出し、直交射影行列算出部32が直接波遅延時間推定部22により算出された位相回転行列Dを用いて、サブバンド毎の位相回転行列D(ch)を算出しているが、直交射影行列算出部32が直接波遅延時間推定部22により算出された遅延時間Δt0から位相回転行列Dを算出し、その位相回転行列Dを用いて、サブバンド毎の位相回転行列D(ch)を算出するようにしてもよい。
【0071】
直交射影部33は、直交射影行列算出部32がサブバンド毎の直交射影行列Pnull(ch)を算出すると、上記の式(27)と同様に、受信信号ベクトル分割部31から出力されたサブバンド分割後の受信信号ベクトルx(ch)に対して、サブバンド毎の直交射影行列Pnull(ch)を乗算して、その受信信号ベクトルx(ch)に含まれている直接波の相互相関成分α0Da0(ch)を抑圧し、直接波抑圧後の受信信号ベクトルxnull(ch)をIDFT処理部19に出力する。
【0072】
IDFT処理部19は、直接波抑圧部18からサブバンド毎の直接波抑圧後の受信信号ベクトルxnull(ch)を受けると、これらの受信信号ベクトルxnull(ch)を並べることで、サブバンドに分割されていない直接波抑圧後の受信信号ベクトルxnullを求め、式(28)に示すように、直接波抑圧後の受信信号ベクトルxnullをIDFTすることで、目標信号として間接波の相互相関成分ynullを算出する。
【0073】
以上で明らかなように、この実施の形態2によれば、受信信号ベクトル形成部17により形成された受信信号ベクトルxを複数のサブバンドに分割して、サブバンド分割後の受信信号ベクトルx(ch)を出力する受信信号ベクトル分割部31と、電力スペクトル算出部21により算出されたステアリングベクトルa0である電力スペクトルと直接波遅延時間推定部22により算出された位相回転行列Dから、直接波の相互相関成分α0Da0の抑圧に用いるサブバンド毎の直交射影行列Pnull(ch)を算出する直交射影行列算出部32と、受信信号ベクトル分割部31から出力されたサブバンド分割後の受信信号ベクトルx(ch)に対して、直交射影行列算出部32により算出されたサブバンド毎の直交射影行列Pnull(ch)を乗算して、その受信信号ベクトルx(ch)に含まれている直接波の相互相関成分α0Da0(ch)を抑圧し、直接波抑圧後の受信信号ベクトルxnull(ch)をIDFT処理部19に出力する直交射影部33とを設けているので、SUR系とREF系におけるマルチパスフェージングのインパルス応答が異なる場合でも、直接波の抑圧能力の劣化を回避して、精度よく目標を探知することができる効果を奏する。
【0074】
即ち、この実施の形態2のパッシブレーダ装置は、サブバンド毎に直接波の抑圧を行うため、SUR系とREF系のインパルス応答が異なるようなマルチパスフェージング環境下において、より高性能な直接波の抑圧が可能であるという効果がある。
また、上記実施の形態1と同様に、SUR系の受信チャネル数が1である場合も適用可能であり、シングルスナップショットで求めた直交射影行列Pnullにより直接波を抑圧することが可能であるという効果がある。
また、逆行列演算を用いないため、演算負荷を小さくできるという効果がある。加えて、直接波の到来角に依存する振幅や位相を用いないため、アダプティブアレーとの併用も可能であるという効果がある。
【0075】
実施の形態3.
上記実施の形態1では、受信信号ベクトルxの次元数が大きい場合、演算負荷が大きくなることがあるが、この実施の形態3は、受信信号ベクトルxの次元数が大きい場合でも、演算負荷が大きくならないようにしている。
【0076】
この実施の形態3の場合も、パッシブレーダ装置の全体構成は上記実施の形態1と同様であり、図1の構成となる。
図4はこの発明の実施の形態3によるパッシブレーダ装置の直接波抑圧部18を示す構成図であり、図において、図2と同一符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。
REF系次元数低減部41はREF系DFT処理部16により算出されたM’次元(M’>M)の周波数スペクトルzref'(f)の次元数を低減して、M次元の周波数スペクトルzref(f)を電力スペクトル算出部21に出力する処理を実施する。なお、REF系次元数低減部41は周波数スペクトル次元数低減手段を構成している。
【0077】
受信信号ベクトル次元数低減部42は受信信号ベクトル形成部17により形成されたM’次元(M’>M)の受信信号ベクトルx’の次元数を低減して、M次元の受信信号ベクトルxを直接波遅延時間推定部22及び直交射影部24に出力する処理を実施する。なお、受信信号ベクトル次元数低減部42は受信信号ベクトル次元数低減手段を構成している。
【0078】
次元数復元部43は直交射影部24から出力された直接波抑圧後の受信信号ベクトルxnullの次元数をM’次元に上げて、M’次元の直接波抑圧後の受信信号ベクトルx’nullをIDFT処理部19に出力する処理を実施する。なお、次元数復元部43は次元数復元手段を構成している。
【0079】
次に動作について説明する。
SUR系DFT処理部13、REF系DFT処理部16及び受信信号ベクトル形成部17の処理内容は、上記実施の形態1と同様であるが、ここでは説明の便宜上、REF系DFT処理部16によりM’次元の周波数スペクトルzref'(f)が算出され、受信信号ベクトル形成部17によりM’次元の受信信号ベクトルx’が算出されるものとする。
【0080】
受信信号ベクトル次元数低減部42は、受信信号ベクトル形成部17がM’次元の受信信号ベクトルx’を算出すると、下記の式(39)に示すように、(M’×M)行列である次元低減化行列Tを用いて、M’次元の受信信号ベクトルx’をM次元に低減し、M次元の受信信号ベクトルxを直接波遅延時間推定部22及び直交射影部24に出力する。


【0081】
REF系次元数低減部41は、REF系DFT処理部16がM’次元の周波数スペクトルzref'(f)を算出すると、受信信号ベクトル次元数低減部42と同様に、(M’×M)行列である次元低減化行列Tを用いて、M’次元の周波数スペクトルzref'(f)の次元数を低減して、M次元の周波数スペクトルzref(f)を電力スペクトル算出部21に出力する。
【0082】
電力スペクトル算出部21は、REF系次元数低減部41からM次元の周波数スペクトルzref(f)を受けると、上記実施の形態1と同様に、その周波数スペクトルzref(f)を上記の式(33)に代入することで、直接波bref(t)の周波数スペクトルBref(f)を算出し、その周波数スペクトルBref(f)を上記の式(32)に代入することで、ステアリングベクトルa0である電力スペクトルを算出する。
直接波遅延時間推定部22は、上記実施の形態1と同様の方法で、遅延時間Δt0を推定し、その遅延時間Δt0を上記の式(22)に代入して位相回転行列Dを算出する。
【0083】
直交射影行列算出部23は、電力スペクトル算出部21がステアリングベクトルa0である電力スペクトルを算出し、直接波遅延時間推定部22が位相回転行列Dを算出すると、上記実施の形態1と同様に、その電力スペクトルa0と位相回転行列Dを上記の式(26)に代入して直交射影行列Pnullを算出する。
直交射影部24は、直交射影行列算出部23が直交射影行列Pnullを算出すると、上記実施の形態1と同様に、受信信号ベクトル次元数低減部42から出力されたM次元の受信信号ベクトルxに対して、その直交射影行列Pnullを乗算して、その受信信号ベクトルxに含まれている直接波の相互相関成分α0Da0を抑圧し、直接波抑圧後の受信信号ベクトルxnullを次元数復元部43に出力する。
【0084】
次元数復元部43は、直交射影部24から直接波抑圧後の受信信号ベクトルxnullを受けると、下記の式(40)に示すように、M次元の受信信号ベクトルxnullの次元数をM’次元に上げて、M’次元の直接波抑圧後の受信信号ベクトルx’nullをIDFT処理部19に出力する。


【0085】
以上で明らかなように、この実施の形態3によれば、REF系DFT処理部16により算出されたM’次元(M’>M)の周波数スペクトルzref'(f)の次元数を低減して、M次元の周波数スペクトルzref(f)を電力スペクトル算出部21に出力するREF系次元数低減部41と、受信信号ベクトル形成部17により形成されたM’次元(M’>M)の受信信号ベクトルx’の次元数を低減して、M次元の受信信号ベクトルxを直接波遅延時間推定部22及び直交射影部24に出力する受信信号ベクトル次元数低減部42とを設けているので、次元数が小さい受信信号ベクトルxと周波数スペクトルzref(f)から直交射影行列Pnullを算出することができるようになり、その結果、受信信号ベクトルxの次元数が大きい場合でも、演算負荷を少なくすることができる効果を奏する。
【0086】
実施の形態4.
上記実施の形態3では、REF系次元数低減部41、受信信号ベクトル次元数低減部42及び次元数復元部43を上記実施の形態1のパッシブレーダ装置に適用するものを示したが、REF系次元数低減部41、受信信号ベクトル次元数低減部42及び次元数復元部43を上記実施の形態2のパッシブレーダ装置に適用するようにしてもよい。
図5はこの発明の実施の形態4によるパッシブレーダ装置の直接波抑圧部18を示す構成図である。
【0087】
REF系次元数低減部41、受信信号ベクトル次元数低減部42及び次元数復元部43を上記実施の形態2のパッシブレーダ装置に適用する場合、上記実施の形態2と同様に、SUR系とREF系におけるマルチパスフェージングのインパルス応答が異なる場合でも、直接波の抑圧能力の劣化を回避して、精度よく目標を探知することができる効果を奏する。
また、REF系次元数低減部41、受信信号ベクトル次元数低減部42及び次元数復元部43を設けていることで、上記実施の形態3と同様に、受信信号ベクトルxの次元数が大きい場合でも、演算負荷を少なくすることができる効果を奏する。
【0088】
実施の形態5.
この実施の形態5のパッシブレーダ装置は、SUR系の受信チャネル数が1である場合でも適用可能であり、周波数スペクトル成分のサンプル数と比べて極めて小さいスナップショット数で良好に動作し、かつ、演算負荷が小さく、さらにアダプティブアレーとの併用も可能な方法で直接波抑圧を行うものである。
図6はこの発明の実施の形態5によるパッシブレーダ装置を示す構成図であり、図において、図1と同一符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。
【0089】
直接波抑圧部50は例えばCPUを実装している半導体集積回路、あるいは、ワンチップマイコンなどから構成されており、受信信号ベクトル形成部17により形成されたN個のスナップショットの受信信号ベクトルx(n)(n=1,2,・・・,N)に含まれている直接波の相互相関成分を抑圧し、直接波抑圧後の受信信号ベクトルxnullをIDFT処理部19に出力する処理を実施する。なお、直接波抑圧部50は直接波抑圧手段を構成している。
【0090】
図7はこの発明の実施の形態5によるパッシブレーダ装置の直接波抑圧部50を示す構成図であり、図において、図2と同一符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。
相関行列算出部51は受信信号ベクトル形成部17により形成されたN個のスナップショットの受信信号ベクトルx(n)を用いて、相関行列の推定値Rxを算出する処理を実施する。なお、相関行列算出部51は相関行列算出手段を構成している。
【0091】
直交射影行列算出部52は相関行列算出部51により算出された相関行列の推定値Rxの固有値・固有ベクトル解析を行い、最大固有値に対応する固有ベクトルe1を用いて、直交射影行列Pnullを算出する処理を実施する。なお、直交射影行列算出部52は直交射影行列算出手段を構成している。
【0092】
図6の例では、パッシブレーダ装置の構成要素であるSUR系アンテナ11、SUR系受信機12、SUR系DFT処理部13、REF系アンテナ14、REF系受信機15、REF系DFT処理部16、受信信号ベクトル形成部17、直接波抑圧部50及びIDFT処理部19のそれぞれが専用のハードウェアで構成されているものを示したが、パッシブレーダ装置の全部又は一部がコンピュータで構成されていてもよい。
例えば、SUR系アンテナ11とREF系アンテナ14を除く部分をコンピュータで構成する場合、SUR系受信機12、SUR系DFT処理部13、REF系受信機15、REF系DFT処理部16、受信信号ベクトル形成部17、直接波抑圧部50及びIDFT処理部19の処理内容を記述しているプログラムをコンピュータのメモリに格納し、当該コンピュータのCPUが当該メモリに格納されているプログラムを実行するようにすればよい。
【0093】
次に動作について説明する。
パッシブレーダ装置3と非協調に動作する送信局1が送信信号b(t)を生成し、送信アンテナ2から送信局1により生成された送信信号b(t)が空間に放射される。
これにより、K個の目標に反射して伝搬されてきた送信信号b(t)の間接波がSUR系アンテナ11に受信され、目標に反射することなく送信アンテナ2から直接伝搬されてきた送信信号b(t)の直接波がSUR系アンテナ11及びREF系アンテナ14に受信される。
【0094】
SUR系受信機12は、SUR系アンテナ11の受信信号の周波数を変換する処理や、その受信信号をアナログ信号からディジタル信号に変換するAD変換処理などを実施して、ディジタルの受信信号zsur(t)をSUR系DFT処理部13に出力する。
このとき、SUR系DFT処理部13に出力される受信信号zsur(t)は、上記の式(3)のように表される。
【0095】
REF系受信機15は、REF系アンテナ14の受信信号の周波数を変換する処理や、その受信信号をアナログ信号からディジタル信号に変換するAD変換処理などを実施して、ディジタルの受信信号zref(t)をREF系DFT処理部16に出力する。
このとき、REF系DFT処理部16に出力される受信信号zref(t)は、上記の式(6)のように表される。
【0096】
SUR系DFT処理部13は、SUR系受信機12から受信信号zsur(t)を受けると、その受信信号zsur(t)をDFTして、その受信信号の周波数スペクトルzsur(f)を算出する。
SUR系DFT処理部13により算出される周波数スペクトルzsur(f)は、上記の式(9)のように表される。
【0097】
REF系DFT処理部16は、REF系受信機15から受信信号zref(t)を受けると、その受信信号zref(t)をDFTして、その受信信号の周波数スペクトルzref(f)を算出する。
REF系DFT処理部16により算出される周波数スペクトルzref(f)は、上記の式(10)のように表される。
【0098】
受信信号ベクトル形成部17は、SUR系DFT処理部13が周波数スペクトルzsur(f)を算出し、REF系DFT処理部16が周波数スペクトルzref(f)を算出すると、その周波数スペクトルzsur(f)と周波数スペクトルzref(f)から、M次元の受信信号ベクトルxを形成する。
受信信号ベクトル形成部17により形成されるM次元の受信信号ベクトルxは、上記の式(15)のように表される。
【0099】
直接波抑圧部50は、受信信号ベクトル形成部17がN個のスナップショットの受信信号ベクトルx(n)(n=1,2,・・・,N)を形成すると、N個のスナップショットの受信信号ベクトルx(n)に含まれている直接波の相互相関成分α0Da0を抑圧し、直接波抑圧後の受信信号ベクトルxnullをIDFT処理部19に出力する。
具体的には、以下のようにして、直接波の相互相関成分α0Da0を抑圧して、直接波抑圧後の受信信号ベクトルxnullをIDFT処理部19に出力する。
ここでは、説明の便宜上、スナップショットの数をN個とし、スナップショット番号に合わせて受信信号ベクトルをx(n)のように表記している。
【0100】
直接波抑圧部50の相関行列算出部51は、受信信号ベクトル形成部17がN個のスナップショットの受信信号ベクトルx(n)を形成すると、下記の式(41)に示すように、N個のスナップショットの受信信号ベクトルx(n)を用いて、相関行列の推定値Rxを算出する。


【0101】
直交射影行列算出部52は、相関行列算出部51が相関行列の推定値Rxを算出すると、その相関行列の推定値Rxの固有値・固有ベクトル解析を行い、下記の式(42)に示すように、最大固有値に対応する固有ベクトルe1を用いて、直交射影行列Pnullを算出する。


【0102】
ここで、相関行列のランクに相当する信号固有値を高精度に求めるために必要なスナップショットは一般にランクの2倍以上とされる。
パッシブレーダ装置における信号固有値は、直接波、目標、ならびにクラッタ等であり、多くとも数十個である。例えば、信号固有値が8個であれば、必要なスナップショットの数は16以上となる。
したがって、周波数スペクトル成分のサンプル数Mと比べると、極めて小さいスナップショット数で直接波の抑圧のための直交射影行列Pnullを算出することができる。
逆行列を用いる場合に必要なスナップショット数が2M以上になることと比べると、大幅なスナップショット数の低減である。
【0103】
直交射影部24は、直交射影行列算出部52が直交射影行列Pnullを算出すると、上記の式(27)に示すように、受信信号ベクトル形成部17により形成されたM次元の受信信号ベクトルxに対して、その直交射影行列Pnullを乗算して、その受信信号ベクトルxに含まれている直接波の相互相関成分α0Da0を抑圧し、直接波抑圧後の受信信号ベクトルxnullをIDFT処理部19に出力する。
【0104】
IDFT処理部19は、直接波抑圧部50から直接波抑圧後の受信信号ベクトルxnullを受けると、式(28)に示すように、直接波抑圧後の受信信号ベクトルxnullをIDFTすることで、目標信号として間接波の相互相関成分ynullを算出する。
【0105】
以上で明らかなように、この実施の形態5によれば、送信局1から送信信号b(t)が空間に放射されたのち、目標に反射することなく送信局1から直接伝搬してきた送信信号b(t)の直接波及び目標に反射して伝搬してきた送信信号b(t)の間接波を受信するSUR系アンテナ11と、SUR系アンテナ11の受信信号zsur(t)をDFTして、その受信信号の周波数スペクトルzsur(f)を算出するSUR系DFT処理部13と、目標に反射することなく送信局1から直接伝搬してきた送信信号b(t)の直接波を受信するREF系アンテナ14と、REF系アンテナ14の受信信号zref(t)をDFTして、その受信信号の周波数スペクトルzref(f)を算出するREF系DFT処理部16と、SUR系DFT処理部13により算出された周波数スペクトルzsur(f)とREF系DFT処理部16により算出された周波数スペクトルzref(f)から受信信号ベクトルxを形成する受信信号ベクトル形成部17と、受信信号ベクトル形成部17により形成されたN個のスナップショットの受信信号ベクトルx(n)に含まれている直接波の相互相関成分を抑圧し、直接波抑圧後の受信信号ベクトルxnullをIDFT処理部19に出力する直接波抑圧部50とを設け、IDFT処理部19が、直接波抑圧部50から出力された直接波抑圧後の受信信号ベクトルxnullをIDFTして、間接波の相互相関成分ynullを算出するように構成したので、演算負荷の増加やコスト高を招くことなく、直接波の相互相関成分α0Da0を十分に抑圧して、精度よく目標を探知することができる効果を奏する。
【0106】
即ち、この実施の形態5のパッシブレーダ装置は、SUR系の受信チャネル数が1である場合も適用可能であり、周波数スペクトル成分のサンプル数と比べて極めて小さいスナップショット数より求めた直交射影行列Pnullにより直接波を抑圧することが可能であるという効果がある。
また、逆行列演算を用いないため、演算負荷を小さくできるという効果がある。加えて、直接波の到来角に依存する振幅や位相を用いないため、アダプティブアレーとの併用も可能であるという効果がある。
【0107】
実施の形態6.
上記実施の形態5の方式では、SUR系とREF系におけるマルチパスフェージングのインパルス応答が異なる場合、直接波の抑圧能力が劣化することがある。
この実施の形態6は、SUR系とREF系におけるマルチパスフェージングのインパルス応答が異なる場合でも、直接波の抑圧能力の劣化を回避できる方式を提供するものである。
【0108】
この実施の形態6の場合も、パッシブレーダ装置の全体構成は上記実施の形態5と同様であり、図6の構成となる。
図8はこの発明の実施の形態6によるパッシブレーダ装置の直接波抑圧部50を示す構成図であり、図において、図3と同一符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。
受信信号ベクトル分割部61は受信信号ベクトル形成部17により形成されたN個のスナップショットの受信信号ベクトルx(n)を複数のサブバンドに分割して、サブバンド分割後の受信信号ベクトルx(ch)(n)を出力する処理を実施する。なお、受信信号ベクトル分割部61は受信信号ベクトル分割手段を構成している。
【0109】
相関行列算出部62は受信信号ベクトル分割部61から出力されたN個のスナップショットのサブバンド分割後の受信信号ベクトルx(ch)(n)を用いて、サブバンド毎の相関行列の推定値Rx(ch)を算出する処理を実施する。なお、相関行列算出部62は相関行列算出手段を構成している。
直交射影行列算出部63は相関行列算出部62により算出されたサブバンド毎の相関行列の推定値Rx(ch)の固有値・固有ベクトル解析を行い、最大固有値に対応する固有ベクトルe1を用いて、サブバンド毎の直交射影行列Pnull(ch)を算出する処理を実施する。なお、直交射影行列算出部63は直交射影行列算出手段を構成している。
【0110】
次に動作について説明する。
直接波抑圧部18の受信信号ベクトル分割部61は、受信信号ベクトル形成部17が上記実施の形態5と同様にして、N個のスナップショットの受信信号ベクトルx(n)を形成すると、その受信信号ベクトルx(n)を複数のサブバンドに分割して、サブバンド分割後の受信信号ベクトルx(ch)(n)を出力する。
受信信号ベクトル分割部61から出力されるサブバンド分割後の受信信号ベクトルx(ch)(n)は、上記の式(36)を満たすものである。
【0111】
相関行列算出部62は、受信信号ベクトル分割部61からサブバンド分割後の受信信号ベクトルx(ch)(n)を受けると、上記の式(41)に示すように、サブバンド分割後の受信信号ベクトルx(ch)(n)を用いて、サブバンド毎の相関行列の推定値Rx(ch)を算出する。
直交射影行列算出部63は、相関行列算出部62がサブバンド毎の相関行列の推定値Rx(ch)を算出すると、サブバンド毎の相関行列の推定値Rx(ch)の固有値・固有ベクトル解析を行い、上記の式(42)に示すように、最大固有値に対応する固有ベクトルe1を用いて、サブバンド毎の直交射影行列Pnull(ch)を算出する。
【0112】
直交射影部33は、直交射影行列算出部63がサブバンド毎の直交射影行列Pnull(ch)を算出すると、上記の式(27)と同様に、受信信号ベクトル分割部61から出力されたサブバンド分割後の受信信号ベクトルx(ch)(n)に対して、サブバンド毎の直交射影行列Pnull(ch)を乗算して、その受信信号ベクトルx(ch)(n)に含まれている直接波の相互相関成分α0Da0(ch)を抑圧し、直接波抑圧後の受信信号ベクトルxnull(ch)をIDFT処理部19に出力する。
【0113】
IDFT処理部19は、直接波抑圧部50からサブバンド毎の直接波抑圧後の受信信号ベクトルxnull(ch)を受けると、これらの受信信号ベクトルxnull(ch)を並べることで、サブバンドに分割されていない直接波抑圧後の受信信号ベクトルxnullを求め、式(28)に示すように、直接波抑圧後の受信信号ベクトルxnullをIDFTすることで、目標信号として間接波の相互相関成分ynullを算出する。
【0114】
以上で明らかなように、この実施の形態6によれば、受信信号ベクトル形成部17により形成されたN個のスナップショットの受信信号ベクトルx(n)を複数のサブバンドに分割して、サブバンド分割後の受信信号ベクトルx(ch)(n)を出力する受信信号ベクトル分割部61と、受信信号ベクトル分割部61から出力されたN個のスナップショットのサブバンド分割後の受信信号ベクトルx(ch)(n)を用いて、サブバンド毎の相関行列の推定値Rx(ch)を算出する相関行列算出部62と、相関行列算出部62により算出されたサブバンド毎の相関行列の推定値Rx(ch)の固有値・固有ベクトル解析を行い、最大固有値に対応する固有ベクトルe1を用いて、サブバンド毎の直交射影行列Pnull(ch)を算出する直交射影行列算出部63とを設け、直交射影部33が、受信信号ベクトル分割部61から出力されたサブバンド分割後の受信信号ベクトルx(ch)(n)に対して、サブバンド毎の直交射影行列Pnull(ch)を乗算して、その受信信号ベクトルx(ch)(n)に含まれている直接波の相互相関成分α0Da0(ch)を抑圧し、直接波抑圧後の受信信号ベクトルxnull(ch)をIDFT処理部19に出力するように構成したので、SUR系とREF系におけるマルチパスフェージングのインパルス応答が異なる場合でも、直接波の抑圧能力の劣化を回避して、精度よく目標を探知することができる効果を奏する。
【0115】
即ち、この実施の形態6のパッシブレーダ装置は、サブバンド毎に直接波の抑圧を行うため、SUR系とREF系のインパルス応答が異なるようなマルチパスフェージング環境下において、より高性能な直接波の抑圧が可能であるという効果がある。
また、上記実施の形態5と同様に、SUR系の受信チャネル数が1である場合も適用可能であり、周波数スペクトル成分のサンプル数と比べて極めて小さいスナップショット数より求めた直交射影行列Pnullにより直接波を抑圧することが可能であるという効果がある。
また、逆行列演算を用いないため、演算負荷を小さくできるという効果がある。加えて、直接波の到来角に依存する振幅や位相を用いないため、アダプティブアレーとの併用も可能であるという効果がある。
【0116】
実施の形態7.
上記実施の形態5では、受信信号ベクトルxの次元数が大きい場合、演算負荷が大きくなることがあるが、この実施の形態7は、受信信号ベクトルxの次元数が大きい場合でも、演算負荷が大きくならないようにしている。
【0117】
この実施の形態7の場合も、パッシブレーダ装置の全体構成は上記実施の形態5と同様であり、図6の構成となる。
図9はこの発明の実施の形態7によるパッシブレーダ装置の直接波抑圧部50を示す構成図であり、図において、図7と同一符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。
受信信号ベクトル次元数低減部71は受信信号ベクトル形成部17により形成されたN個のスナップショットのM’次元(M’>M)の受信信号ベクトルx’(n)の次元数を低減して、M次元の受信信号ベクトルx(n)を相関行列算出部51及び直交射影部24に出力する処理を実施する。なお、受信信号ベクトル次元数低減部71は受信信号ベクトル次元数低減手段を構成している。
【0118】
次元数復元部72は直交射影部24から出力された直接波抑圧後の受信信号ベクトルxnullの次元数をM’次元に上げて、M’次元の直接波抑圧後の受信信号ベクトルx’nullをIDFT処理部19に出力する処理を実施する。なお、次元数復元部72は次元数復元手段を構成している。
【0119】
次に動作について説明する。
SUR系DFT処理部13、REF系DFT処理部16及び受信信号ベクトル形成部17の処理内容は、上記実施の形態5と同様であるが、ここでは説明の便宜上、REF系DFT処理部16によりM’次元の周波数スペクトルzref'(f)が算出され、受信信号ベクトル形成部17によりN個のスナップショットのM’次元の受信信号ベクトルx’(n)が算出されるものとする。
【0120】
直接波抑圧部50の受信信号ベクトル次元数低減部71は、受信信号ベクトル形成部17がN個のスナップショットのM’次元(M’>M)の受信信号ベクトルx’(n)を算出すると、上記の式(39)に示すように、(M’×M)行列である次元低減化行列Tを用いて、M’次元の受信信号ベクトルx’(n)をM次元に低減し、M次元の受信信号ベクトルx(n)を相関行列算出部51及び直交射影部24に出力する。
【0121】
相関行列算出部51は、受信信号ベクトル次元数低減部71により次元数がM次元に低減されたN個のスナップショットの受信信号ベクトルx(n)を受けると、上記の式(41)に示すように、N個のスナップショットの受信信号ベクトルx(n)を用いて、相関行列の推定値Rxを算出する。
直交射影行列算出部52は、相関行列算出部51が相関行列の推定値Rxを算出すると、その相関行列の推定値Rxの固有値・固有ベクトル解析を行い、上記の式(42)に示すように、最大固有値に対応する固有ベクトルe1を用いて、直交射影行列Pnullを算出する。
【0122】
直交射影部24は、直交射影行列算出部52が直交射影行列Pnullを算出すると、上記の式(27)に示すように、受信信号ベクトル次元数低減部71から出力されたM次元の受信信号ベクトルxに対して、その直交射影行列Pnullを乗算して、その受信信号ベクトルxに含まれている直接波の相互相関成分α0Da0を抑圧し、直接波抑圧後の受信信号ベクトルxnullを次元数復元部72に出力する。
【0123】
次元数復元部72は、直交射影部24から直接波抑圧後の受信信号ベクトルxnullを受けると、上記の式(40)に示すように、M次元の受信信号ベクトルxnullの次元数をM’次元に上げて、M’次元の直接波抑圧後の受信信号ベクトルx’nullをIDFT処理部19に出力する。
【0124】
以上で明らかなように、この実施の形態7によれば、受信信号ベクトル形成部17により形成されたN個のスナップショットのM’次元(M’>M)の受信信号ベクトルx’(n)の次元数を低減して、M次元の受信信号ベクトルx(n)を相関行列算出部51及び直交射影部24に出力する受信信号ベクトル次元数低減部71を設けているので、次元数が小さいN個のスナップショットの受信信号ベクトルx(n)から直交射影行列Pnullを算出することができるようになり、その結果、受信信号ベクトルx(n)の次元数が大きい場合でも、演算負荷を少なくすることができる効果を奏する。
【0125】
実施の形態8.
上記実施の形態7では、受信信号ベクトル次元数低減部71及び次元数復元部72を上記実施の形態5のパッシブレーダ装置に適用するものを示したが、受信信号ベクトル次元数低減部71及び次元数復元部72を上記実施の形態6のパッシブレーダ装置に適用するようにしてもよい。
図10はこの発明の実施の形態8によるパッシブレーダ装置の直接波抑圧部50を示す構成図である。
【0126】
受信信号ベクトル次元数低減部71及び次元数復元部72を上記実施の形態6のパッシブレーダ装置に適用する場合、上記実施の形態6と同様に、SUR系とREF系におけるマルチパスフェージングのインパルス応答が異なる場合でも、直接波の抑圧能力の劣化を回避して、精度よく目標を探知することができる効果を奏する。
また、受信信号ベクトル次元数低減部71及び次元数復元部72を設けていることで、上記実施の形態7と同様に、受信信号ベクトルx(n)の次元数が大きい場合でも、演算負荷を少なくすることができる効果を奏する。
【0127】
なお、本願発明はその発明の範囲内において、各実施の形態の自由な組み合わせ、あるいは各実施の形態の任意の構成要素の変形、もしくは各実施の形態において任意の構成要素の省略が可能である。
【符号の説明】
【0128】
1 送信局、2 送信アンテナ、3 パッシブレーダ装置、11 SUR系アンテナ(第1のアンテナ)、12 SUR系受信機、13 SUR系DFT処理部(第1の周波数スペクトル算出手段)、14 REF系アンテナ(第2のアンテナ)、15 REF系受信機、16 REF系DFT処理部(第2の周波数スペクトル算出手段)、17 受信信号ベクトル形成部(受信信号ベクトル形成手段)、18 直接波抑圧部(直接波抑圧手段)、19 IDFT処理部(間接波相互相関成分算出手段)、21 電力スペクトル算出部(電力スペクトル算出手段)、22 直接波遅延時間推定部(遅延時間推定手段)、23 直交射影行列算出部(直交射影行列算出手段)、24 直交射影部(直交射影手段)、31 受信信号ベクトル分割部(受信信号ベクトル分割手段)、32 直交射影行列算出部(直交射影行列算出手段)、33 直交射影部(直交射影手段)、41 REF系次元数低減部(周波数スペクトル次元数低減手段)、42 受信信号ベクトル次元数低減部(受信信号ベクトル次元数低減手段)、43 次元数復元部(次元数復元手段)、50 直接波抑圧部(直接波抑圧手段)、51 相関行列算出部(相関行列算出手段)、52 直交射影行列算出部(直交射影行列算出手段)、61 受信信号ベクトル分割部(受信信号ベクトル分割手段)、62 相関行列算出部(相関行列算出手段)、63 直交射影行列算出部(直交射影行列算出手段)、71 受信信号ベクトル次元数低減部(受信信号ベクトル次元数低減手段)、72 次元数復元部(次元数復元手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信局から送信信号が空間に放射されたのち、目標に反射することなく上記送信局から直接伝搬してきた上記送信信号の直接波及び上記目標に反射して伝搬してきた上記送信信号の間接波を受信する第1のアンテナと、上記第1のアンテナの受信信号を離散フーリエ変換して、上記受信信号の周波数スペクトルを算出する第1の周波数スペクトル算出手段と、上記目標に反射することなく上記送信局から直接伝搬してきた上記送信信号の直接波を受信する第2のアンテナと、上記第2のアンテナの受信信号を離散フーリエ変換して、上記受信信号の周波数スペクトルを算出する第2の周波数スペクトル算出手段と、上記第1及び第2の周波数スペクトル算出手段により算出された周波数スペクトルから受信信号ベクトルを形成する受信信号ベクトル形成手段と、上記第2の周波数スペクトル算出手段により算出された周波数スペクトルを用いて、上記受信信号ベクトル形成手段により形成された受信信号ベクトルに含まれている直接波の相互相関成分を抑圧し、直接波抑圧後の受信信号ベクトルを出力する直接波抑圧手段と、上記直接波抑圧手段から出力された直接波抑圧後の受信信号ベクトルを逆離散フーリエ変換して、上記間接波の相互相関成分を算出する間接波相互相関成分算出手段とを備えたパッシブレーダ装置。
【請求項2】
直接波抑圧手段は、
第2の周波数スペクトル算出手段により算出された周波数スペクトルから第2のアンテナの受信信号の電力スペクトルを算出する電力スペクトル算出手段と、
受信信号ベクトル形成手段により形成された受信信号ベクトルから、第1のアンテナに対する直接波の到来時間と第2のアンテナに対する直接波の到来時間との差分である遅延時間を推定する遅延時間推定手段と、
上記電力スペクトル算出手段により算出された電力スペクトルと上記遅延時間推定手段により推定された遅延時間から、直接波の相互相関成分の抑圧に用いる直交射影行列を算出する直交射影行列算出手段と、
上記受信信号ベクトル形成手段により形成された受信信号ベクトルに対して、上記直交射影行列算出手段により算出された直交射影行列を乗算して、上記受信信号ベクトルに含まれている直接波の相互相関成分を抑圧し、直接波抑圧後の受信信号ベクトルを出力する直交射影手段と
から構成されていることを特徴とする請求項1記載のパッシブレーダ装置。
【請求項3】
直接波抑圧手段は、
第2の周波数スペクトル算出手段により算出された周波数スペクトルから第2のアンテナの受信信号の電力スペクトルを算出する電力スペクトル算出手段と、
受信信号ベクトル形成手段により形成された受信信号ベクトルから、第1のアンテナに対する直接波の到来時間と第2のアンテナに対する直接波の到来時間との差分である遅延時間を推定する遅延時間推定手段と、
上記受信信号ベクトル形成手段により形成された受信信号ベクトルを複数のサブバンドに分割して、サブバンド分割後の受信信号ベクトルを出力する受信信号ベクトル分割手段と、
上記電力スペクトル算出手段により算出された電力スペクトルと上記遅延時間推定手段により推定された遅延時間から、直接波の相互相関成分の抑圧に用いるサブバンド毎の直交射影行列を算出する直交射影行列算出手段と、
上記受信信号ベクトル分割手段から出力されたサブバンド分割後の受信信号ベクトルに対して、上記直交射影行列算出手段により算出されたサブバンド毎の直交射影行列を乗算して、当該受信信号ベクトルに含まれている直接波の相互相関成分を抑圧し、直接波抑圧後の受信信号ベクトルを出力する直交射影手段と
から構成されていることを特徴とする請求項1記載のパッシブレーダ装置。
【請求項4】
直接波抑圧手段は、
第2の周波数スペクトル算出手段により算出された周波数スペクトルの次元数を低減する周波数スペクトル次元数低減手段と、
上記周波数スペクトル次元数低減手段により次元数が低減された周波数スペクトルから第2のアンテナの受信信号の電力スペクトルを算出する電力スペクトル算出手段と、
受信信号ベクトル形成手段により形成された受信信号ベクトルの次元数を低減する受信信号ベクトル次元数低減手段と、
上記受信信号ベクトル次元数低減手段により次元数が低減された受信信号ベクトルから、第1のアンテナに対する直接波の到来時間と第2のアンテナに対する直接波の到来時間との差分である遅延時間を推定する遅延時間推定手段と、
上記電力スペクトル算出手段により算出された電力スペクトルと上記遅延時間推定手段により推定された遅延時間から、直接波の相互相関成分の抑圧に用いる直交射影行列を算出する直交射影行列算出手段と、
上記受信信号ベクトル次元数低減手段により次元数が低減された受信信号ベクトルに対して、上記直交射影行列算出手段により算出された直交射影行列を乗算して、上記受信信号ベクトルに含まれている直接波の相互相関成分を抑圧し、直接波抑圧後の受信信号ベクトルを出力する直交射影手段と、
上記直交射影手段から出力された直接波抑圧後の受信信号ベクトルの次元数を、上記受信信号ベクトル形成手段により形成された受信信号ベクトルの次元数まで上げる次元数復元手段と
から構成されていることを特徴とする請求項1記載のパッシブレーダ装置。
【請求項5】
直接波抑圧手段は、
第2の周波数スペクトル算出手段により算出された周波数スペクトルの次元数を低減する周波数スペクトル次元数低減手段と、
上記周波数スペクトル次元数低減手段により次元数が低減された周波数スペクトルから第2のアンテナの受信信号の電力スペクトルを算出する電力スペクトル算出手段と、
受信信号ベクトル形成手段により形成された受信信号ベクトルの次元数を低減する受信信号ベクトル次元数低減手段と、
上記受信信号ベクトル次元数低減手段により次元数が低減された受信信号ベクトルから、第1のアンテナに対する直接波の到来時間と第2のアンテナに対する直接波の到来時間との差分である遅延時間を推定する遅延時間推定手段と、
上記受信信号ベクトル次元数低減手段により次元数が低減された受信信号ベクトルを複数のサブバンドに分割して、サブバンド分割後の受信信号ベクトルを出力する受信信号ベクトル分割手段と、
上記電力スペクトル算出手段により算出された電力スペクトルと上記遅延時間推定手段により推定された遅延時間から、直接波の相互相関成分の抑圧に用いるサブバンド毎の直交射影行列を算出する直交射影行列算出手段と、
上記受信信号ベクトル分割手段から出力されたサブバンド分割後の受信信号ベクトルに対して、上記直交射影行列算出手段により算出されたサブバンド毎の直交射影行列を乗算して、当該受信信号ベクトルに含まれている直接波の相互相関成分を抑圧し、直接波抑圧後の受信信号ベクトルを出力する直交射影手段と
上記直交射影手段から出力された直接波抑圧後の受信信号ベクトルの次元数を、上記受信信号ベクトル形成手段により形成された受信信号ベクトルの次元数まで上げる次元数復元手段と
から構成されていることを特徴とする請求項1記載のパッシブレーダ装置。
【請求項6】
送信局から送信信号が空間に放射されたのち、目標に反射することなく上記送信局から直接伝搬してきた上記送信信号の直接波及び上記目標に反射して伝搬してきた上記送信信号の間接波を受信する第1のアンテナと、上記第1のアンテナの受信信号を離散フーリエ変換して、上記受信信号の周波数スペクトルを算出する第1の周波数スペクトル算出手段と、上記目標に反射することなく上記送信局から直接伝搬してきた上記送信信号の直接波を受信する第2のアンテナと、上記第2のアンテナの受信信号を離散フーリエ変換して、上記受信信号の周波数スペクトルを算出する第2の周波数スペクトル算出手段と、上記第1及び第2の周波数スペクトル算出手段により算出された周波数スペクトルから受信信号ベクトルを形成する受信信号ベクトル形成手段と、上記受信信号ベクトル形成手段により形成された複数のスナップショットの受信信号ベクトルに含まれている直接波の相互相関成分を抑圧し、直接波抑圧後の受信信号ベクトルを出力する直接波抑圧手段と、上記直接波抑圧手段から出力された直接波抑圧後の受信信号ベクトルを逆離散フーリエ変換して、上記間接波の相互相関成分を算出する間接波相互相関成分算出手段とを備えたパッシブレーダ装置。
【請求項7】
直接波抑圧手段は、
受信信号ベクトル形成手段により形成された複数のスナップショットの受信信号ベクトルを用いて、相関行列を算出する相関行列算出手段と、
上記相関行列算出手段により算出された相関行列から、直接波の相互相関成分の抑圧に用いる直交射影行列を算出する直交射影行列算出手段と、
上記受信信号ベクトル形成手段により形成された受信信号ベクトルに対して、上記直交射影行列算出手段により算出された直交射影行列を乗算して、上記受信信号ベクトルに含まれている直接波の相互相関成分を抑圧し、直接波抑圧後の受信信号ベクトルを出力する直交射影手段と
から構成されていることを特徴とする請求項6記載のパッシブレーダ装置。
【請求項8】
直接波抑圧手段は、
受信信号ベクトル形成手段により形成された複数のスナップショットの受信信号ベクトルを複数のサブバンドに分割して、サブバンド分割後の受信信号ベクトルを出力する受信信号ベクトル分割手段と、
上記受信信号ベクトル分割手段から出力された複数のスナップショットのサブバンド分割後の受信信号ベクトルを用いて、サブバンド毎の相関行列を算出する相関行列算出手段と、
上記相関行列算出手段により算出されたサブバンド毎の相関行列から、直接波の相互相関成分の抑圧に用いるサブバンド毎の直交射影行列を算出する直交射影行列算出手段と、
上記受信信号ベクトル分割手段から出力されたサブバンド分割後の受信信号ベクトルに対して、上記直交射影行列算出手段により算出されたサブバンド毎の直交射影行列を乗算して、当該受信信号ベクトルに含まれている直接波の相互相関成分を抑圧し、直接波抑圧後の受信信号ベクトルを出力する直交射影手段と
から構成されていることを特徴とする請求項6記載のパッシブレーダ装置。
【請求項9】
直接波抑圧手段は、
受信信号ベクトル形成手段により形成された複数のスナップショットの受信信号ベクトルの次元数を低減する受信信号ベクトル次元数低減手段と、
上記受信信号ベクトル次元数低減手段により次元数が低減された複数のスナップショットの受信信号ベクトルを用いて、相関行列を算出する相関行列算出手段と、
上記相関行列算出手段により算出された相関行列から、直接波の相互相関成分の抑圧に用いる直交射影行列を算出する直交射影行列算出手段と、
上記受信信号ベクトル次元数低減手段により次元数が低減された受信信号ベクトルに対して、上記直交射影行列算出手段により算出された直交射影行列を乗算して、上記受信信号ベクトルに含まれている直接波の相互相関成分を抑圧し、直接波抑圧後の受信信号ベクトルを出力する直交射影手段と、
上記直交射影手段から出力された直接波抑圧後の受信信号ベクトルの次元数を、上記受信信号ベクトル形成手段により形成された受信信号ベクトルの次元数まで上げる次元数復元手段と
から構成されていることを特徴とする請求項6記載のパッシブレーダ装置。
【請求項10】
直接波抑圧手段は、
受信信号ベクトル形成手段により形成された複数のスナップショットの受信信号ベクトルの次元数を低減する受信信号ベクトル次元数低減手段と、
上記受信信号ベクトル次元数低減手段により次元数が低減された複数のスナップショットの受信信号ベクトルを複数のサブバンドに分割して、サブバンド分割後の受信信号ベクトルを出力する受信信号ベクトル分割手段と、
上記受信信号ベクトル分割手段から出力された複数のスナップショットのサブバンド分割後の受信信号ベクトルを用いて、サブバンド毎の相関行列を算出する相関行列算出手段と、
上記相関行列算出手段により算出されたサブバンド毎の相関行列から、直接波の相互相関成分の抑圧に用いるサブバンド毎の直交射影行列を算出する直交射影行列算出手段と、
上記受信信号ベクトル分割手段から出力されたサブバンド分割後の受信信号ベクトルに対して、上記直交射影行列算出手段により算出されたサブバンド毎の直交射影行列を乗算して、当該受信信号ベクトルに含まれている直接波の相互相関成分を抑圧し、直接波抑圧後の受信信号ベクトルを出力する直交射影手段と、
上記直交射影手段から出力された直接波抑圧後の受信信号ベクトルの次元数を、上記受信信号ベクトル形成手段により形成された受信信号ベクトルの次元数まで上げる次元数復元手段と
から構成されていることを特徴とする請求項6記載のパッシブレーダ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2013−44642(P2013−44642A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182542(P2011−182542)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】