説明

パッションフルーツの抽出物を用いる炎症障害の治療方法

【課題】高血圧自然発症ラット(SHR)の収縮期血圧を下げ、またiNOS由来の一酸化窒素産生を減少させ、よってSHRにおける内皮機能不全を改良する。また、高血圧及び高血圧に伴う疾患、喘息、変形性関節症に対して治療効果を示し、肝臓保護効果も有するパッションフルーツ抽出物を提供すること、又は少なくとも有用な選択肢の提供。
【解決手段】パッションフルーツの果皮若しくはピールの抽出物を調製する。哺乳動物における炎症障害の症状を改善するための組成物であって、パッションフルーツ抽出物の有効量を含む組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、米国特許出願第11/098,101号(2005年4月4日出願)の一部継続出願である。
発明の背景
本発明は一般的に植物抽出物に関し、さらに詳しくはパッションフルーツ(トケイソウ科、Passiflora sp.)の抽出物、特にパッションフルーツの果皮の抽出物、並びに該抽出物の食品、栄養補助食品、及び医学用への使用に関する。
【0002】
高血圧、すなわち140/90mmHgより高い血圧は、心臓血管及び脳血管疾患の発病及び死亡の最も一般的なリスク因子である。米国では高血圧による死亡は年間40,000例あるが、高血圧は脳卒中については最も修正可能なリスク因子である。高血圧は米国では成人4人に約1人、又は約5000万人が罹患している。
【0003】
フラミンガム研究(Framingham study)によれば、ヒトが30歳から65歳に年を取ると、彼らの血圧は収縮期で平均20mmHg、拡張期で平均10mmHg上昇し、収縮期血圧は90歳まで上昇し続けるということが示されている。
【0004】
血圧が高いほど心臓血管イベントの可能性が増大するのに、高血圧はうまく管理されていないことが多く、適切に治療されている患者は極めて少ない。疫学研究の予測によれば、全身血圧を主要臨床試験で通常達成される量だけ低下させると、心臓血管イベントが42%、心臓イベントが24%削減できるということである。
【0005】
高血圧は非特異的に治療されることが多いため、多数の軽微な副作用がもたらされ、適切でない即ち不適切な治療の割合も比較的高い。従って、高血圧の新規治療法の模索は今も継続中である。
【0006】
天然産物由来の療法はよく知られている。ある種のフラボノイドは高血圧に有益効果があることが確立されている。例えば、フランス海岸松(Pinus pinaster)の樹皮抽出物はフラボノイドの混合物を含有しており、軽度の高血圧患者が経口摂取すると収縮期血圧を下げる。
【0007】
一酸化窒素は血圧の重要な分子レギュレータである。一酸化窒素は強力な血管拡張剤である。一酸化窒素は、血小板活性化を抑制し、白血球の血管内皮への接着を制限し、心筋収縮を調節する。一酸化窒素合成酵素(NOS)によって触媒される一酸化窒素の合成は血管内皮で起こるが、誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)が関与する一酸化窒素の産生は免疫機能と関連している。しかし、別のNOS、血管内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)によって産生される少量の一酸化窒素は、細胞保護効果及び心臓血管系に対する血管拡張作用を有する。
【0008】
ペルオキシナイトライトは一酸化窒素から形成される、潜在的に損傷性のオキシダントである(NO+O2→ONOO-)。ペルオキシナイトライトは、脂質過酸化、タンパク質のニトロ化、DNA一本鎖切断、及びグアニジンのニトロ化を起こしうる。
【0009】
フラボノイドのケルセチン及びケンフェロール(kaempferol)は、高血圧自然発症ラット(SHR)の細胞におけるNOLA依存性自然大動脈輪収縮をインビトロで阻害することが示されている。NOLAは一酸化窒素合成酵素阻害剤である。大量アセチルコリン誘導性血管収縮も、ケルセチン、ケンフェロール、ルチン、及びエスクレチンのような抗酸化性フラボノイドによって阻害できる。血管平滑筋収縮の阻害は血圧の低下をもたらすはずである。
【0010】
また、免疫機能に対するフラボノイドの効果には意見が分かれる。カテキンはリンパ球の増殖と抗体産生を増強するが、高濃度では阻害効果を及ぼす。ある研究はフラボノイドのNK細胞活性増強を示しているが、他の研究はフラボノイドに効果がないことを示している。ケルセチンは非特異的免疫応答を阻害するとみられ、抗炎症作用を発揮する。
【0011】
喘息は、非常に一般的な疾患であり、合衆国人口の4〜5%が罹患しており、発生率は急速に増大しつつある。喘息は、慢性好酸球増加性気管支炎と肺におけるメディエーター推進炎症プロセスを含むと認識されている。これらの薬剤は、強力な気管支収縮、気道浮腫を生じる内皮膜透過性増強、及び濃厚な粘液分泌上昇をもたらす(Wenzel SE. Arachidonic acid metabolites: Mediators of inflammation in asthma. Pharmacotherapy 1997;17(1 Pt2):3S-12S)。広範囲に及ぶ気道狭窄は、喘息を発現する。これは、自発的に又は治療の結果として軽減することができ、臨床的に、呼吸困難、咳及び喘鳴の発作によって定義される。喘息は散発的な疾患であり:無症状期間を挿んで、急性悪化が生ずる。オキシダント、有機ダスト、空中アレルゲン、化学物質、冷気、及びウイルス感染が、喘息発作を誘発しうる。大抵の発作は、短期間であり、数分間から数時間持続するが、その後、臨床的に、患者は完全に回復する。
【0012】
喘息は主として気道の疾患であるが、実際には、急性発作中に、呼吸機能のあらゆる面が危険にさらされる。患者が治療を要するときに、努力肺活量(FVC)は、正常の50%未満である傾向がある。1秒間呼気量(FEV1)は、平均すると、健康人の30%以下であり、最大及び最小中間呼気流量は、予測値の20%以下まで低下する。急激に具合が悪くなった患者では、残気量(RV)が、しばしば、正常値の400%に達し、機能的残気量(functional residual capacity)は倍になる。患者の通常の報告によれば、RVがその予測値の200%にまで低下し、FEV1が予測値の50%に達したときに、発作は臨床的に終了した(American Thoracic Society: Lung function testing: Selection of reference values and interpretative strategies. Am Rev Respir Dis 1991;144:1202-1218)。
【0013】
喘息の診断は、可逆的な気道閉塞を実証することによって確立される。可逆性は、β−アドレナリン作用薬の2パフ後に、FEV1の15%以上の増加として伝統的に定義される。該診断がひと度確認されたならば、該疾病の経過と治療効果は、家庭ではピーク呼気流量の測定によって又は検査室若しくは検査室と家庭の両方ではFEV1の測定によってモニターすることができる。喘息治療の成功は、早期にはβ−作用薬の使用によって達成され、後期には、例えばグルココルチコイド(気道の過敏感応性を減ずる)のような抗炎症薬によって炎症の軽減が達成される。
【0014】
1500万人を超えるアメリカ人が、リウマチ様関節炎と変形性関節症に罹患している。成人能力障害の最も一般的な原因は、膝の変形性関節症によるものである。研究が報告していることによれば、45〜64歳の女性のそれぞれ12%と6%が、放射線学による膝変形性関節症と症候性変形性関節症に罹患している。膝変形性関節症の年齢−及び性別−標準化発生率(age-and-sex standardized incidence rate)は、年間10万人につき約240人であることも報告されている。
【0015】
変形関節症は炎症性疾患と見なされないが、典型的に炎症に関連したメディエーターが、繰り返された機械的傷害の結果として生じる軟骨損傷を永続化する。重要な病的特徴であり、関節機能不全の主要な原因である軟骨破壊は、2つの別個の経路:軟骨細胞が細胞外マトリックス分解の原因である内因性経路;及び例えば炎症を起した滑膜、パンヌス組織及び炎症細胞のような、軟骨細胞以外の細胞と組織が、滑液を介して細胞外マトリックスに影響を及ぼす外因性経路によって仲介される。
【0016】
細胞外マトリックス・ターンオーバーに関与する主要なタンパク質分解酵素であるマトリックス・メタロプロテイナーゼ(MMPs)は、変形性関節症軟骨に発現されて、組織傷害に寄与する。他の疑わしい組織傷害メディエーターは、例えばIL−1β及びTNF−αのような前炎症性サイトカインに対して軟骨細胞によって産生される主要な異化因子である一酸化窒素(NO)である。非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)は、関節炎に対して最も一般的に用いられる医薬品であるが、非潰瘍性消化不良、症候性胃潰瘍と十二指腸潰瘍、潰瘍性出血と穿孔を含めた、重大な合併症を臨床的に付随する。これらの経済的影響は、年間100,000件の入院を包含し、これは16億ドルの費用を要し、17,000件の死亡を伴っている。米国人口の高齢化と共にNSAIDsの合併症は増加しており、心臓病予防のためのアスピリンの使用を高めている。したがって、変形性関節症患者における不利なイベントを最少にするための効果的で安全な治療法を開発する必要性は増大しつつある。
【0017】
パッションフルーツ(Passiflora edulis)は、20フィートにも成長する旺盛なつる性の亜熱帯又は熱帯性植物である。紫色のパッションフルーツは南ブラジルからパラグアイを経て北アルゼンチンの原産である。その果実は、1.5〜3インチ幅のほぼ円形又は卵形で、堅くてなめらかなろう状の外皮を持つ。
【0018】
パッションフルーツの生物活性成分を調査する中で、今回驚くべきことに、パッションフルーツ抽出物が高血圧自然発症ラット(SHR)の収縮期血圧を下げ、またiNOS由来の一酸化窒素産生を減少させ、よってSHRにおける内皮機能不全を改良することを見出した。従って、パッションフルーツ抽出物は抗酸化特性を示すことも予想される。
【0019】
そこで本発明の目的は、高血圧、及び高血圧に伴う疾患、喘息、変形性関節症に対して治療効果を示し、肝臓保護効果も有するパッションフルーツ抽出物を提供すること、又は少なくとも有用な選択肢を提供することである。
発明の要旨
第一の態様において、本発明は、哺乳動物に有効量のパッションフルーツ抽出物を投与することを含む、哺乳動物における血圧の低下法を提供する。
【0020】
別の態様において、本発明は、哺乳動物に有効量のパッションフルーツ抽出物を投与することを含む、血圧を下げることが望ましい哺乳動物の疾患又は障害の予防又は治療法を提供する。
【0021】
また、哺乳動物に有効量のパッションフルーツ抽出物を投与することを含む、哺乳動物における血清中一酸化窒素濃度の低下法も提供する。
本発明はさらに、哺乳動物に有効量のパッションフルーツ抽出物を投与することを含む、哺乳動物における肝機能関連疾患又は障害の治療法も提供する。
【0022】
従って、本発明は、高血圧並びに高血圧に伴ういずれかその他の疾患又は障害の治療法を提供する。本発明はさらに、哺乳動物における肝臓保護法、並びに肝機能関連の何らかの疾患又は障害の治療法も提供する。
【0023】
本発明はさらに、パッションフルーツ抽出物の抗酸化剤としての使用、即ちフリーラジカルによる損傷を阻害し、血清中の脂質過酸化を削減し、そして健康な組織中抗酸化ビタミン濃度を維持するための抗酸化剤としての使用も提供する。
【0024】
本発明はまた、炎症性障害の症状の治療法としてのパッションフルーツ抽出物の使用を提供する。
本発明はさらに、喘息及び変形性関節症の炎症性障害の症状の治療法としてのパッションフルーツ抽出物の使用を提供する。
【0025】
本発明のパッションフルーツ抽出物は、非限定的に、ケルセチン、シアニジン配糖体、カテキン、エピカテキン、ルテオリン、フェニルピルビン酸、単離され本明細書中に記載されている新規なエデュリル酸(edulilic acid)、及びそれらのいずれかの配糖体から選ばれる一つ以上のグループを含む。
【0026】
好ましくは、パッションフルーツ抽出物は、下記工程:好ましくは、パッションフルーツを小片に切り分けて表面積を増加させる工程;該パッションフルーツ小片を水と接触させて水性抽出物と固体残渣とを得る工程;該水性抽出物を該固体残渣から分離する工程;該水性抽出物を高分子マトリックスと接触させて抽出物の一つ以上の成分をマトリックスに吸着させる工程;該マトリックスを水で洗浄する工程;そして有機溶媒又は有機溶媒の混合物を用いて一つ以上の成分を該マトリックスから溶出する工程を含む方法によって製造される。
【0027】
任意に、パッションフルーツの果皮を果肉から分離して抽出工程に使用する。
有機溶媒は、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、1−プロパノール、又はアセトンが好適である。
【0028】
本発明はまた、パッションフルーツ抽出物を含有する組成物も提供する。
該組成物は食物又は食品でありうる。該組成物は、栄養補助食品又はその他の栄養組成物のようなサプリメントであってもよい。
【0029】
あるいは、該組成物は、前述の抽出物を一つ以上の製薬学的に許容しうる賦形剤と混合して含む医薬組成物であってもよい。
更なる態様において、本発明は、サプリメントのような栄養補助食品として、又は医学的もしくは機能性食品及び飲料の製造における有効成分としてのパッションフルーツ果皮抽出物の使用を提供する。
詳細な説明
本明細書中に記載されている“パッションフルーツ”は、一般的に果皮及び食用果肉の両方を含む果実を意味する。“パッションフルーツ果皮”という用語は、内部の食用果肉を取り除いた後の残りの果実部分を意味するために使用される。“パッションフルーツ抽出物”、“PFP”、及び“PFP抽出物”なる用語は、本発明の好ましい実施態様の実施例に記載する方法によって製造されるパッションフルーツ抽出物を意味するために用いられる。HPLC分析によれば、本発明のパッションフルーツ抽出物は、ケルセチン、ケルセチンガラクトシド、ケルセチングルコシド、ルテオリン、ルテオリングルコシド、シアニジン−3−グルコシド、カテキン及びエピカテキンを含むいくつかのフラボノイドを含有することが示されている(図1)。
【0030】
該抽出物のフラボノイド及びシアニジン成分は、スーパーオキシドの形成及びiNOSによる一酸化窒素産生を阻害するので、内皮機能不全を改良し血圧を低下させる。ケルセチンは、iNOS mRNAと一酸化窒素産生を阻害することが示されている。
【0031】
ヒト本態性高血圧は、酸化的ストレスによる内皮依存性血管拡張の障害を特徴とする。本発明の抽出物は抗高血圧効果を有する。さらに、該抽出物のフラボノイド成分は、血圧を低下させ、LDLの酸化を阻害し、血小板凝集を阻害することによって心臓血管保護作用を発揮する。該抽出物の成分は、抗高血圧活性を有することで知られている化合物であるケルセチンを含むが、該抽出物に含有される量は約1〜5%未満で、該抽出物の抗高血圧活性を実質的に説明するには充分でないことが、注目される。実際、該抽出物のこれまでに知られている成分のいずれも、観察された効果を単独で提供するに足る量で存在していない。
【0032】
また、インビトロのデータに基づいて、該抽出物は抗酸化特性を持つであろうことも予想される。
高血圧自然発症ラット(SHR)を用いた研究で、出願人らは、50mg/kgの該抽出物を補給した食餌はSHRの血圧を下げ、加齢による正常の血圧上昇を遅らせることを見出した。収縮期血圧は、50mg/kgの該抽出物を与えたラットでは、対照群と比べて12.3mmHg低かった(P<0.01)(図2)。
【0033】
さらに、一酸化窒素濃度は、10mg/kgの該抽出物を与えたラットでは18.82μmol/Lであり、該抽出物を与えないラットより40%低かった。一酸化窒素濃度は、50mg/kgの該抽出物を与えたラットでは11.07μmol/Lで、該抽出物を与えないラットより65%低かった(図3)。これによって、一酸化窒素の過産生と、それに続く心臓血管系に有害なペルオキシナイトライトの形成反応が予防されることになる。
【0034】
出願人らはまた、ラット肝臓の研究で、パッションフルーツ抽出物が肝臓保護性であることも見出している。精密カットしたラット肝スライスを20μg/mLのパッションフルーツ抽出物とインキュベートした。9及び24時間のインキュベーション時点で、生存の指標である該スライス中のカリウム濃度は対照スライスと有意に異なってはいなかった。
【0035】
次に、肝毒物である1mMのクロロホルムの存在下又は不在下で、該抽出物を精密カットしたラット肝スライスと共にインキュベートした。6時間のインキュベーション及び9時間のインキュベーション時点で、パッションフルーツ抽出物はクロロホルム傷害に対して顕著な肝臓保護を示していた。この研究で抽出物の毒性は認められなかった。
【0036】
インビトロ研究では、該抽出物がヒト赤血球膜結合Na−K ATPアーゼ及びCa ATPアーゼ活性を増大することも示されている。RBC膜結合Na−KポンプATPアーゼは、0.25mg/mL(102%増)、1mg/mL(107%増)、又は25mg/mL(170%増)のいずれかの該抽出物と共に培養した場合に、対照群よりもかなり高い活性を有した(図4)。1mg/mL及び2.5mg/mLの濃度の抽出物は、膜結合Ca ATPアーゼ活性を平均で78%及び41%増大した。
【0037】
出願人らはヒトの研究も実施した(図5)。図5は、プラセボ又はパッションフルーツ抽出物(2mg/ポンド/日、最大400mg/日)を4週間投与された高血圧患者におけるSBP(収縮期血圧)及びDBP(拡張期血圧)の変化を示している。パッションフルーツ抽出物又はプラセボピルは、これらの患者に無作為化二重盲検並行群形式で投与された。彼らの平均収縮期血圧は176.60±4.90mmHg(平均±SEM)であった。パッションフルーツによる治療で収縮期血圧は、プラセボ群と比べて145.67±4.44mmHg(平均±SEM)に有意に低下した(p<0.001)。データはまた、パッションフルーツ抽出物の補給が、平均拡張期血圧103.27±2.30mmHg(平均±SEM)を有する高血圧患者の拡張期血圧を78.67±2.78mmHg(平均±SEM)に有意に低下させる(p<0.001)ことも実証した。研究に参加した患者で4週間の治療後に心電図の変化を示した者は一人もいなかった。
【0038】
上記活性のため、パッションフルーツ抽出物は、心臓病及び高血圧だけでなく、関節炎、喘息及びアレルギーといった炎症関連疾患を有する患者にも有益であることが期待される。その上、本願に記載の研究では該抽出物の非常に大量の摂取又は量を使用したにもかかわらず、該抽出物の毒性は、ヒト、ラット、マウス又は培養中の細胞に認められなかった。
【0039】
当業者であれば、該抽出物が患者に経口投与又は注射を含む様々な経路で投与できることは理解されるであろう。投与される抽出物の量は、患者及び治療される疾患の性質及び程度に依存して広く変動することになろう。典型的には、該抽出物は静脈内投与又は経口摂取による投与ができる組成物として製剤化される。該組成物は、血圧の低下、及び/又は喘息及び/若しくは変形性関節症の症状の改善、及び/又は免疫機能の増大に適切な、いずれかの用量レベル及び投与頻度で摂取又は静脈内投与されうる。
【0040】
本発明の組成物は、栄養補助食品(これに限定されない)を含む食品であってもよい。
医薬組成物の場合、該抽出物は、固体又は液体製剤、例えば錠剤、カプセル、散剤、溶液、懸濁液及び分散液に製剤化することができる。液体形は、水及びエタノールのようなキャリヤーを、製薬学的に受容される界面活性剤又は懸濁化剤のような、他の作用剤と共に又はそれら無しで含む。
【0041】
本発明を以下の実施例を参照しながらさらに説明する。しかし、本発明がこれらの実施例に限定されないことは理解するべきである。
実施例
実施例1:パッションフルーツ抽出物の製造
パッションフルーツ(Passiflora edulis)を半分にカットし、果汁の多い果肉を除去して中身のないパッションフルーツ果皮の殻を得た。この殻を切り刻んで長さ10mm未満の小片にし、容器に入れた。熱水(65〜75℃)を該容器に加え、刻んだ殻を完全に浸した。該混合物を最初の1時間は時々撹拌し、その後一晩浸漬放置した。該混合物をろ過し、ろ液を非イオン性高分子樹脂のカラムに通し、フェノール性及びその他の有機化合物を吸収させた。蒸留水をカラムに通し、糖及びその他の極性成分を洗い流した。次に吸収された化合物を、メタノールを用いてカラムから溶出し、溶出液を減圧下で濃縮して暗色の濃縮物を得た。該濃縮液を凍結乾燥し、パッションフルーツ抽出物を暗赤色粉末として得た。メタノールを溶離剤として使用したが、エタノール、イソプロピルアルコール、1−プロパノール又はアセトンも使用されることが可能であった。
実施例2:パッションフルーツ抽出物の成分の決定
該抽出物の成分はHPLCによって決定した。実験は、DAD検出器及び30℃に保たれたLiChrospher 100RP−18(um)カラム(125×4)を備えたHewlett Packard 1100装置で実施した。溶媒プログラムは、溶媒A(水中2%HOAc)中3.6%のB(アセトニトリル中2%HOAc)で開始し、20分で12%のB、30分で20%のB、そして45分で50%のBまで上げていった。流速はmL/分にセットし、化合物は、フェノール酸については280nm、フラボノイドについては350nm及びアントシアニンについては520nmにセットされたUV吸収によってモニターした。化合物の同定は、保持時間及びUV/可視スペクトルを標準材料と比較することによって確認した。
実施例3:赤血球膜の調製とATPアーゼアッセイ
赤血球膜は既報の通りに調製した(Farrance,ML.,& Vincenzi,FF.(1977)Biochem Biophys Acta 471:49−58)。手短に言えば、血液は健常人から採取した。赤血球を生理食塩水で洗浄し、EGTA(100mM、Sigma)及びPMSF(10mM、Sigma)入りの低張イミダゾール緩衝液(pH7.4、20mM、Sigma)中で溶解した。膜を、EGTA及びPMSF含有イミダゾール緩衝液(20mM)、EGTA含有イミダゾール緩衝液、及びイミダゾール緩衝液のみで各1回ずつ順に洗浄した。最後の洗浄は40mMのヒスチジン−イミダゾール緩衝液(pH7.4)中で行い、膜を窒素下で冷蔵庫(4〜8℃)に保管した。アッセイに先立ち、RBC膜(0.75mg/mL)を30分間37℃で、0、0.25、1、2.5mg/mLのパッションフルーツ果皮抽出物と最終量1mLに達するために充分な生理食塩水と共にインキュベートした。インキュベーション及び遠心分離の後、上清を除去し、膜を生理食塩水中に再懸濁させ1mLとした。その後、膜ATPアーゼ活性をマルチウェルプレートで同時に測定した。典型的なアッセイ混合物は、RBC膜(75μg/mL)、18mMのヒスチジン−イミダゾール(pH7.1、Sigma)、3mMのMgCl2、80mMのNaCl、15mMのKCl、0.2mMのCaCl2、0.1mMのEGTA、0.1mMのウワバイン(Sigma)及び30nMのCaM(CaM−活性化Ca2+ポンプについてのみ、Sigma)を含有していた。37℃で15分間の予備インキュベーション後、5%のSDS(Sigma)を対照群に加えた。酵素反応は3mMのATPで開始した。37℃での60分間後、反応を5%SDSで停止し;放出された無機ホスフェートをモリブデン酸アンモニウム/アスコルビン酸混合物を用いて測定し、Microplate Autoreader(Bio−Tek Instruments,EL31 1.USA)によって吸収を波長820nmで測定した。さらなる正確さのために、BCAアッセイを実施して各アッセイ終了時における管内のタンパク質の最終濃度を決定した。上記実験からの膜(25μl)、25μlのddH2O及び1mLのカラー試薬を管に加え、次いで30分間37℃でインキュベートした。その間、異なる濃度の標準タンパク質(アルブミン、Sigma)をインキュベートした。インキュベーション後、各管を室温に冷却した。分光光度計(Beckman Coulter,DU640)によりX=562nmで吸光度を測定した。膜のタンパク質濃度を標準曲線から読み取った。
ATPアーゼの活性は下記式によって算出した。
【0042】
ATPアーゼ活性=N(P1)×0.2778×タンパク質濃度/初期タンパク質濃度(0.75mg/mL)
実施例4:動物と食餌−SHR研究
6週齢の高血圧自然発症ラット(SHR)は、実験中、22〜20℃及び湿度50%に維持した。24匹のSHRを各群8匹ずつの3群に分けた。動物には以下の食餌:すなわち、基本食、50mg/kgのパッションフルーツ抽出物を補給した基本食、又は10mg/kgのパッションフルーツ抽出物を補給した基本食を与えた(表1)。摂取した食餌の量、体重及び収縮期血圧を週1回記録した。収縮期血圧はテイルカフ(tail cuff)法(Softron,Co.Ltd,東京、日本)によって測定した。8週間の給餌後、全ラットをネンブタール(Nembutal)(0.1mg/100g体重、Wako,Co.Ltd.,日本)での麻酔下で犠死させた。胸腺、脾臓、肝臓及び心臓を摘出し、重量測定した。毒性は観察されなかった。
実施例5:一酸化窒素測定
一酸化窒素の測定は既報通りに実施した(Rockett,KA.,Awburn,MM.,Cowden,WB.& Clark,JA.(1991)Infect.Immun.59:3280−3)。一酸化窒素は容易に亜硝酸塩に転化する。一酸化窒素を求めるために硝酸塩を測定した。NaNO2(BDH;Wako,Co.Ltd.,日本)と試験化合物の希釈液を蒸留水中、96穴平底プレートに製造し、最終量50ulとした。20マイクロリットルのNH4Clホウ酸塩緩衝液を一酸化窒素/亜硝酸塩の分析を必要とする全てのウェルに加えた。次に50マイクロリットルのGriess試薬[2MのH2SO4中、1%のスルファニルアミド+0.1%のN−(1−ナフチル)エチレンジアミン二塩酸塩(Wako,Co.Ltd.,日本)]を一酸化窒素/亜硝酸塩について分析されるウェルに加えた。プレートを540nm(試験)で読み、一酸化窒素と亜硝酸塩濃度を亜硝酸塩標準曲線から直接読み取った。
実施例6:ヒトの高血圧研究
高血圧患者、すなわち57.0±14.48歳(平均±SD)の男性14人と57.56±12.75歳(平均±SD)の女性16人を研究に含めた。患者は、高血圧の検出、評価、及び治療に関する米国合同委員会(Joint National Committee on Detection, Evaluation, and Treatment of High Blood Pressure)のガイドラインによればステージ1及び2の高血圧を有していた。反復血圧測定で、彼らの収縮期血圧(SBP)は144〜210mmHg、拡張期血圧(DBP)は80〜120mmHgであった。除外基準は、腎疾患又は心疾患保有者、経口避妊薬服用者、喫煙及び飲酒、又は1日1個のマルチビタミン錠剤以外の何らかのビタミン補填剤の服用者を包含した。研究に含めた被験者はいずれも、利尿薬、β遮断薬及びACE阻害薬を含む抗高血圧薬併用療法を受けていた。100人を上回る人をふるいにかけて30人の参加者を選択した、この参加者のうち研究中の脱落者は一人もいなかった。
【0043】
研究開始時には、パッションフルーツ群とプラセボ群の平均血圧(SBP、176.60±4.90 vs.179.67±3.79mmHg、DBP、103.27±2.30 vs.104.33±2.06mmHg)、年齢、性別、身長、体重、心拍数、及び高血圧に対する前処置投薬又はECGのパターンに違いはなかった。
【0044】
研究はMashhad大学のヒト被験者委員会の承認を受けた。インフォームドコンセントの提供と、それまでの何らかの抗高血圧薬治療(2人の被験者におけるトリアムテレン−Hを除く)の1週間の離脱の後、適格患者は4週間の二重盲検、プラセボ対照、並行群試験に入った。患者は試験期間中、副作用を評価する経過観察のために毎週受診するよう要請された。さらに、血圧と心拍数の測定も実施した。最初の受診時に完全な病歴と心電図を含む身体検査を実施した。血圧は被験者を座位で10分間安静にした後、登録看護師が測定した。コロトコフ音のI及びVをそれぞれ収縮期及び拡張期血圧とみなした。受診ごとに2分間隔で合計3回の座位測定の読みを繰り返し取った。所与の受診時における反復測定の平均を記録した。2回目の受診時に血圧及び心拍数を再評価して患者を無作為化し、1日2回投与の2mg/ポンド/日(最大400mg/日)の統計的処方(statistical formula)のパッションフルーツピル又は類似外観のプラセボを4週間投与した。第1週及び第0週のデータを合わせてベースライン値とした。最後の受診時、各患者に対してECGを実施し、試験薬を回収した。ベースライン及び経過観察受診時に、併用投薬及び臨床有害事象におけるあらゆる変化は、自発的に申し出たものであれ質問によって引き出されたものであれ、記録されたが、何の報告もなかった。
【0045】
コンプライアンスは錠剤を数えることによって評価した。4週間の処置期間中、被験者は全員、盲検式に提供されたピルを100%摂取していた。全ての試験は、ピルを最後に摂取後2〜4時間に行った。
実施例7:パッションフルーツ果皮抽出物からのエデュリル酸の単離
実施例1に従って製造されたパッションフルーツ果皮抽出物を50%のエタノール水溶液に溶解し、Sephadex LH20カラム上で処理し、50%エタノール水溶液で溶離した。クロマトグラフィーのフラクションを20ml管にフラクションコレクターを用いて回収した。フラクションは、セルロースTLCを用いる薄層クロマトグラフィー(6%酢酸水溶液で展開)によってモニターし、UV下で可視化した。この条件下で新規化合物(Rf 0.8)が有色アントシアニンフラクション(Rf 0.4〜0.5)と共溶出した。このフラクションを回収し、濃縮して、Mitsubishi Chemical Industries Ltdから購入したMCI GEL CHP 20Pのカラム上で再度クロマトグラフィーにかけた。15%メタノール水溶液を溶離溶媒として用いた。フラクションを回収し、セルロースTLC(ターシャリーBuOH−AcOH−H2O(3/1/1 v/v)で展開)によってモニターした。新規化合物(この溶媒でRf 0.9)含有フラクションを回収し、溶媒を蒸発させ、残渣を凍結乾燥した。
【0046】
ニュージーランド・ウェリントンのビクトリア大学のMARINER Biospectrometry Workstationにおいて、陰イオンモードで作用する、エデュリル酸の高分解エレクトロスプレーイオン化質量分析を実施し、(M−H)-1のピークを301.09691に得た。これはC13188の分子式に一致した。様々なNMR試験(1H、13C、COSY、HMQC、HMBC及びNOSEY)及び質量分析をエデュリル酸に対して実施した。表1にNMR試験のデータを示す。
【0047】
【表1】

【0048】
これに基づくと、エデュリル酸の化学構造は以下に示すとおりである。アノマー性プロトンのJ−カップリングマグニチュードが大きいため(J=7.3Hz)、グルコース残基はベータ結合となっている。
【0049】
【化1】

【0050】
分子の図は、ACD/ChemSketch Softwareを用いて作成した、これは、(2E)−シクロペンタ−2−エン−1−イリデン((3,4,5−トリヒドロキシ−6−(ヒドロキシメチル)テトラヒドロ−2H−ピラン−2−イル)オキシ)酢酸のIUPAC名が与えられた。該化合物は、本明細書全体を通じて“エデュリル酸”として同定されており、元はパッションフルーツ(Passiflora edulis)の果実から発見されたものである。上図のエデュリル酸の構造はE若しくはトランス異性体である。エデュリル酸は、シス/トランスエノール化を受けてZ若しくはシス形になり、また戻ると考えられる。電子シフトはC−2プロトンから酢酸部分を通り、又は酢酸部分から反対方向に移動して同じシス/トランスに帰結することができる。
【0051】
2O中のエデュリル酸のNOESYスペクトルは、糖のアノマー性プロトンとC−1(先に示した構造中に番号付けしてある)上のメチレンプロトンとに何らかの相互作用があることを示している(図6a及び6b)。これは、カルボン酸部分がシクロペンテン環の二重結合側にある場合にのみ可能である。エデュリル酸のDreidingモデルを用いた更なる研究では、シクロペンテン環に対して最も少ない込み合いを提供する糖部分の配向によって、アノマー性プロトンが確かにC−1上のメチレンプロトンに密接して配置されていることを示している。
実施例8:パッションフルーツ果肉中のエデュリル酸の検出
パッションフルーツ果肉の水性抽出物を、果皮に関して実施例1に記載したのと同様に調製し、その化学的特徴を、HPLCを用いて調べた。アセトニトリルの代わりにメタノールを用いる、異なるHPLC溶媒プログラムを用いて、エデュリル酸とプルナシン(prunasin)のピークの分解に成功した。またUV検出の代わりに、プルナシンのような弱UV吸収性化合物をよりよく検出するために蒸発光散乱検出(Evaporative Light Scattering Detection)(ELSD)を使用した。図7a及び7bに、そのような条件下で得られた果皮及び果肉の抽出物のHPLCクロマトグラムをそれぞれ示す。果皮及び果肉の抽出物は、それらのHPLCの特徴によって明らかに区別可能であったが、エデュリル酸及びプルナシンは両方とも、どちらの抽出物中にも存在していたことも明らかとなった。
実施例9:ヒト喘息の研究
材料と方法 Mashhad Universityのヒト被験者委員会は、該研究を承認した。喘息に関する米国胸郭学会基準を満たし、研究参加基準を満たす患者を、該研究に含めた。これらの患者は、喘息であり、年齢18〜60歳であり、予測標準値の30〜75%である1秒間ベースライン努力呼気流量(FEB1)を有し、β−アドレナリン作動薬の2パフ後に処置前値を15%より大きく超えるFEV1の増加を示した。慢性閉塞性肺疾患、腎臓、肝臓、心臓の問題、内分泌疾患、高血圧又は妊娠の臨床徴候を有する参加志願者は除外した。被験者には、グルココルチコイド、ロイコトリエン拮抗薬、マルチビタミン、アスピリン又は何らかのNSAIDSを除く、彼らの通常の医薬品の摂取を認めた。
【0052】
研究設計 インフォームドコンセントの提供後に、適格患者は4週間の二重盲検、プラセボ対照、並行群試験に入った。登録受診時に、総合的身体検査を行い、ベースライン肺活量値を測定した。肺活量測定は、各後続受診時に行なった。症状の重症度は、4点スケール:喘息の軽度症状:喘息症状の自覚及び/又は容易に耐えられる徴候(スコア1=救急薬のみを必要とする、スコア2=毎日の投薬を必要とする)、中程度の症状及び毎日投薬への依存性(スコア3)、重度な症状及び毎日投薬への依存性(スコア4)で評価した。喘息患者をこの研究に含めた。除外基準は、腎疾患又は心疾患保有者、経口避妊薬服用者、喫煙及び飲酒、又は1日1個のマルチビタミン錠剤以外の何らかのビタミン補填剤の服用者を包含した。100人を上回る人をふるいにかけて参加者を選択した。
【0053】
患者は試験期間中、副作用を評価する経過観察のために毎週受診するよう要請された。最初の受診時に完全な病歴と、皮膚プリックテスト及び肝機能テストを含む身体検査を実施した。血圧は被験者を座位で10分間安静にした後、登録看護師が測定した。2回目の受診時に、吸気と呼気及び息切れを再評価して、患者を無作為化し、PFP抽出物ピル150mg/日又は類似外観のプラセボピルを4週間投与した。ピルは、午前中に服用させた。第1週及び第0週のデータを合わせてベースライン値とした。最後の受診時、各患者に対してECGを実施し、該試験抽出物を回収した。ベースライン及び経過観察受診時に、併用投薬及び臨床有害事象におけるあらゆる変化は、自発的に申し出たものであれ質問によって引き出されたものであれ、記録されたが、何の報告もなかった。コンプライアンスは錠剤を数えることによって評価した。4週間の処置期間中、被験者は全員、盲検式に提供されたピルを95%摂取していた。全ての試験は、ピルを最後に摂取後2〜4時間に行った。
【0054】
統計 一次効力変数は、喘息症状スコア及び肺機能テストにおけるベースラインからの変化であった(FEV1予測値の%、FEV1/FVC)。二次効力変数は、Th1とTh2サイトカイン(IL−2とIL−4)の血清濃度を包含した。各被験者及び各パラメータに対するPFP抽出物療法の効果は、1対の両側t検定を用いて評価した。0.05未満の確率は有意と見なし、ノンパラメトリック検定法、ランク別のフリードマン測定値分散分析(Friedman Measures Analysis of Variance on Ranks)で確認した。このテストは、被験群の少なくとも一つが、他の群と異なっているかどうかを示した。実験群間の統計的有意差は、一般化推定方程式法(ソフトウエアStataを用いる)とスチューデントt検定(ソフトウエアSPSSを用いる)によって分析した。
【0055】
結果 人口統計的特性は、プラセボ投与、女性13人と男性6人、及びPFP抽出物ピル摂取、女性16人と男性8人の被験者であった。参加した患者44人のうち、42人が試験を完了し、2人が脱落した。彼らの平均年齢は34歳であった。
【0056】
さらに、身長、体重、及び喘息に対する処置前投薬に有意差はなかった(データ示さず)。喘息患者に、PFP抽出物又はプラセボのピルを無作為化二重盲検並行群方式で、4週間投与した。彼らは、130/70mmHg(平均±120/70)の平均血圧を有した。
【0057】
臨床症状として喘鳴を有した患者のうち、20%のみがPFPによる処置後にまだ喘鳴を有したが、プラセボ群では80%が喘鳴を有した(図8)。同様に、咳を有する患者はPFP処置中に85%減少したが、プラセボ群では45%減少したにすぎなかった(図9)。息切れは、PFP処置前には患者の90%に見出されたが、処置後には10%のみに存在するにすぎなかった(図10)。プラセボ処置被験者では、処置前には80%が息切れを有したが、処置後には38%が息切れを有し、これは小さい、有意でない減少であった(図10)。FEV1は、PFP及びプラセボ処置被験者において増加した(図11)。しかし、この増加はPFP群においてのみ統計的に有意であった。努力肺活量はPFP処置被験者では増加したが、プラセボ処置被験者では減少した(図12)。ピーク呼気流量は、PFP処置によって有意に増加したが、プラセボは効果を有さなかった(図13)。
【0058】
考察 このパイロット研究の結果によると、PFP抽出物は慢性的喘息症状の管理に貴重な食事補助成分でありうることが示された。本研究の主要な所見は、(A)PFP抽出物は、患者に4週間補給した後に喘息症状の臨床的及び統計的に有意な軽減を生じたことと(B)努力呼気流量及びピーク呼気流量を増加させたことある。これらの観察は、PFPとその強い抗酸化特性が抗炎症性作用を有したことを示し、PFPがヒトと動物における重度な高血圧を軽減したという最近の研究をサポートする。被験者はPFP抽出物を4週間摂取したにすぎないので、さらに長期間の処置はその有益効果を増強する可能性がある。
【0059】
実施例10:ヒト変形性関節症研究
材料と方法 Mashhad Universityのヒト被験者委員会は、該研究を承認した。原発性膝変形性関節症(1度及び2度)の米国リウマチ学会基準を満たし、研究参加基準を満たす患者を、該研究に含めた。これらの患者には、25〜65歳であり、ベースラインにおいて少なくとも20の“WOMAC”(Western Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index)痛覚サブスケール・インデックスを有し、最後の3か月間の少なくとも50%の時間に標的膝に間欠的若しくは常時の痛覚を有し、大抵の日にNSAIDs若しくは選択的COX−2阻害剤の形での医療処置を必要とした患者が包含された。除外基準は、先立つ6か月間内の標的膝の既知障害、関節鏡検査、手術若しくは関節内注射による二次変形性関節症の存在、膝関節交換の前歴、何らかの重篤な全身疾患を有すること、又は何らかの他の慢性炎症性疾患を有することであった。
【0060】
研究設計 インフォームドコンセントの提供後に、適格患者は1か月間の無作為化二重盲検、プラセボ対照、並行群試験に入った。最初の受診時に、総合的身体検査及びX線評価を行なった。第2回(ベースライン)受診時に、患者はWOMAC用紙(WOMAC form)を完成し、PFP抽出物(50mg、1日3回)又は対応プラセボのいずれかに割り当てられた。試験被験者のベースライン特性を表2に記載する。
【0061】
【表2】

【0062】
ベースライン受診後1か月に行なわれた最後の受診時に、関節痛覚、硬直、及び身体機能の限界を、WOMACインデックスを用いて評価した。
統計 統計解析を、SPSSバージョン11.5を用いて行なった。PFP群から得られた数値を、スチューデントt検定を用いて、プラセボ群と比較した。正規性と等分散性の検定に失敗した場合には、匹敵するノンパラメトリック検定(クラスカル−ウォリス・順位和検定)を代わりに用いた。
【0063】
結果 PFP抽出物ピル又は類似のプラセボを患者に4週間投与して、各受診時にピルを数えることによって、コンプライアンスを評価した。WOMACインデックス値を記録し、平均化し、痛覚、硬直、身体機能及び複合スコアを含めた試験パラメータの各々に関して、統計的評価を行なった。図14は、パッションフルーツ抽出物(150mg/日)で4週間処置した患者に、ベースライン及びプラセボと対比して、痛覚サブスケールの統計的に有意な(P<0.05)低下が生じたことを示す。硬直サブスケール・パラメータは、パッションフルーツ抽出物群には、ベースラインに対比して、硬直の統計的に有意な低下が生じるが、プラセボでは生じないことを示す(図15)。パッションフルーツ抽出物群には、ベースライン及びプラセボに対比して、身体機能の統計的に有意な改善(P<0.05)が生じた(図16)。WOMAC身体機能サブスケジュール値の低下は、身体機能の改善を実証する。パッションフルーツ抽出物150mg/日での4週間処置後に、パッションフルーツ抽出物群では、ベースライン及びプラセボと対比して、複合WOMACスコア(痛覚、硬直及び身体機能の複合)も統計的に改善された(P<0.05)(図17)。
【0064】
考察 変形性関節症パイロット試験データは、パッションフルーツ抽出物がヒトにおける変形性関節症の影響の軽減に活性を有することを示す。WOMACインデックスは、変形性関節症パラメータの有効な尺度であり、医療専門家において充分に考慮されている。変形性関節症に関連した症状に対するパッションフルーツ抽出物の活性は、抗炎症性及び抗酸化性効果による可能性が最も高い。パッションフルーツ抽出物は、NSAIDsの代替え療法を望む又は総合健康を増進するように彼らの食事を補助することを望むと考えられる変形性関節症患者に対して、食事補助成分として投与することができる。
【0065】
上記説明及び図面は本発明の例示的実施態様を含む。本明細書中に記載の前述の態様及び方法は、当業者の能力、経験及び好みによって変動しうる。方法の工程をある順序でリストするだけでは、その方法の工程の順序に対して何らかの制限を構成することにはならない。前述の記載及び図面は単に本発明を説明及び図示するにすぎず、特許請求の範囲がそのように制限している場合を除いて、本発明はそれに制限されない。本開示を前にした当業者は、本発明の範囲から離れることなく、その中で変更及び変形を為すことが可能であろう。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】図1a〜cは、本発明に従って製造されたパッションフルーツ抽出物のHPLCトレースを示す図である。
【図2】図2は、パッションフルーツ抽出物を投与された高血圧自然発症ラット群における血圧の低下を示すデータのダイヤグラム表示である。
【図3】パッションフルーツ抽出物を投与されたラット群における血清中一酸化窒素濃度の低下を示すデータのダイヤグラム表示である。
【図4】図4aは、パッションフルーツ抽出物によるインビボのNa−K ATPアーゼ活性の増大を示すデータのダイヤグラム表示である。
【0067】
図4bは、パッションフルーツ抽出物によるインビボのCa ATPアーゼ活性の増大を示すデータのダイヤグラム表示である。
【図5】図5aは、パッションフルーツ抽出物を投与されたヒト群における収縮期血圧の低下を示すデータのダイヤグラム表示である。
【0068】
図5bは、パッションフルーツ抽出物を投与されたヒト群における拡張期血圧の低下を示すデータのダイヤグラム表示である。
【図6】図6aは、H−1メチレンプロトンと、糖部分のH−1’及びH−2’との相互作用を示す図である。
【0069】
図6bは、H−1メチレンプロトンと、糖部分のH−1’及びH−2’との相互作用を示す図である。
【図7】図7aは、同一条件下で得られたパッションフルーツ果皮抽出物のHPLC−ELSDクロマトグラムを示す図である。
【0070】
図7bは、同一条件下で得られたパッションフルーツ果肉抽出物のHPLC−ELSDクロマトグラムを示す図である。
【図8】図8は、処置の前後の喘鳴、喘息症状を有する患者の割合に対するパッションフルーツ抽出物の効果のグラフ表示であり;喘息患者はプラセボ若しくはパッションフルーツ抽出物(150mg/日)を4週間摂取した;データは平均±SEMとして示す。*プラセボ群と比較してP<0.05.
【図9】図9は、処置の前後の咳、喘息症状を有する患者の割合に対するパッションフルーツ抽出物の効果のグラフ表示であり;喘息患者はプラセボ若しくはパッションフルーツ抽出物(150mg/日)を4週間摂取した;データは平均±SEMとして示す。*プラセボ群と比較してP<0.001.
【図10】図10は、処置の前後の息切れ、喘息症状を有する患者の割合に対するパッションフルーツ抽出物の効果のグラフ表示であり;喘息患者はプラセボ若しくはPFP抽出物(150mg/日)を4週間摂取した;データは平均±SEMとして示す。*プラセボ群と比較してP<0.005.
【図11】図11は、プラセボ若しくはパッションフルーツ抽出物(150mg/日)を4週間摂取した喘息患者における処置の前後の最初の1秒間の努力呼気量(予測値の%)に対するパッションフルーツ抽出物の効果のグラフ表示であり;データは平均±SEMとして示す。
【図12】図12は、プラセボ若しくはパッションフルーツ抽出物(150mg/日)を4週間摂取した喘息患者における処置の前後の努力肺活量(予測値の%)に対するパッションフルーツ抽出物の効果のグラフ表示であり;データは平均±SEMとして示す。
【図13】図13は、プラセボ若しくはパッションフルーツ抽出物(150mg/日)を4週間摂取した喘息患者における処置の前後のピーク呼気流量(L/分)に対するパッションフルーツ抽出物の効果のグラフ表示であり;データは平均±SEMとして示す。*プラセボ群と比較してP<0.05.
【図14】図14は、プラセボ若しくはパッションフルーツ抽出物(150mg/日)を1か月間摂取した変形性関節症患者における処置の前後のWOMAC痛覚サブスケールに対するパッションフルーツ抽出物の効果のグラフ表示である。
【図15】図15は、プラセボ若しくはパッションフルーツ抽出物(150mg/日)を1か月間摂取した変形性関節症患者における処置の前後のWOMAC硬直サブスケールに対するパッションフルーツ抽出物の効果のグラフ表示である。
【図16】図16は、プラセボ若しくはパッションフルーツ抽出物(150mg/日)を1か月間摂取した変形性関節症患者における処置の前後のWOMAC身体機能サブスケールに対するパッションフルーツ抽出物の効果のグラフ表示である。
【図17】図17は、プラセボ若しくはパッションフルーツ抽出物(150mg/日)を1か月間摂取した変形性関節症患者における処置の前後のWOMAC複合サブスケールに対するパッションフルーツ抽出物の効果のグラフ表示である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物における炎症障害の症状を改善するための組成物であって、パッションフルーツ抽出物の有効量を含む組成物。
【請求項2】
該炎症障害が喘息である、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
該量が、哺乳動物の体重1ポンドにつき1日当たり約0.1〜5mgである、請求項2記載の組成物。
【請求項4】
該哺乳動物がヒトである、請求項2記載の組成物。
【請求項5】
該量が、1日当たり約2mg〜約1000mgである、請求項4記載の組成物。
【請求項6】
該症状が、喘鳴、咳、息切れ、努力呼気量の低下、努力肺活量の低下、及びピーク呼気流量の低下から成る群から選択される、請求項2記載の組成物。
【請求項7】
該炎症障害が、変形性関節症である、請求項1記載の組成物。
【請求項8】
該量が、哺乳動物の体重1ポンドにつき1日当たり約0.1〜5mgである、請求項7記載の組成物。
【請求項9】
該哺乳動物がヒトである、請求項7記載の組成物。
【請求項10】
該量が、1日当たり約2mg〜約1000mgである、請求項9記載の組成物。
【請求項11】
該症状が、痛覚、硬直及び身体機能から成る群から選択される、請求項7記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2007−302659(P2007−302659A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−122715(P2007−122715)
【出願日】平成19年5月7日(2007.5.7)
【出願人】(506332030)インダストリアル・リサーチ・リミテッド (3)
【出願人】(506332203)サウスウエスト・サイエンティフィック・エディティング・アンド・コンサルティング・エルエルシー (2)
【Fターム(参考)】