説明

パッチアンテナ

【課題】パッチアンテナにおける放射パターンの歪みを抑制しつつアイソレーション特性を向上させる。
【解決手段】誘電体基板1上に複数のアンテナエレメント2が併設されたパッチアンテナAであって、アンテナエレメント2間に設けられた金属板4と、該金属板4の両面に設けられた電波吸収体5,5とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パッチアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
パッチアンテナは、周知のように誘電体基板の片面(表面)にアンテナエレメント(導電体薄膜)を設け、また誘電体基板の裏面に接地用の導電体薄膜を設けたものであり、マイクロストリップアンテナ(Microstrip Antenna)とも呼ばれている。下記非特許文献1,2には、誘電体基板上に2つのアンテナエレメントを併設した場合、つまり2つのアンテナを同一の誘電体基板に設けた場合において、両アンテナのアイソレーション特性(相互結合特性)を向上させる技術が記載されている。すなわち、この技術は、2つのアンテナエレメント間に金属板を設けたり、あるいは接地用の導電体薄膜にスリットを形成することによりアイソレーション特性の向上を図るものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】小野田倫之他,2つのアンテナ間における相互結合量低減の基礎的検討,信学総大,p.235,Mar.2009
【非特許文献2】山根貴宏他,IMT−2000ブースタ装置用アンテナにおける相互結合量低減法,信学技報,AP2004-49,pp.49-54,July 2004.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような従来技術において、アンテナエレメント間に金属板を設ける技術には、各アンテナの放射パターンに歪みが生じる、つまりアンテナエレメントに垂直な放射方向を放射中心とした場合に左右の放射パターンの対称性が崩れるという問題がある。また、接地用の導電体薄膜にスリットを形成する技術については、特定の周波数帯域においてはアイソレーション特性を向上させる効果があるものの、十分な効果が得られない周波数帯域(例えば8〜9GHz帯)が存在するという問題がある。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、パッチアンテナにおける放射パターンの歪みを抑制しつつアイソレーション特性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明では、第1の解決手段として、誘電体基板上に複数のアンテナエレメントが併設されたパッチアンテナであって、アンテナエレメント間に設けられた導電体と、該導電体の周りに接触状態で設けられた電波吸収体とを具備する、という手段を採用する。
【0007】
また、第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、各アンテナエレメントは、同一の矩形状、かつ各辺が互いに平行対峙する状態で誘電体基板上に設けられており、導電体は、互いに平行対峙する各辺間の中間位置に各辺に平行に設けられる板材であり、電波吸収体は、板材の両面に設けられる、という手段を採用する。
【0008】
第3の解決手段として、上記第1または第2の解決手段において、電波吸収体は、炭化ケイ素繊維FRP(Fiber Reinforced Plastics)である、という手段を採用する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、アンテナエレメント間に設けられた導電体と該導電体の周りに接触状態で設けられた電波吸収体とを具備するので、パッチアンテナにおける放射パターンの歪みを抑制しつつアイソレーション特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態に係るパッチアンテナAの構成を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係るパッチアンテナAの反射特性(a)、アイソレーション特性(b)及び磁界面の放射特性(c)を示す特性図である。
【図3】本発明の実施形態において電波吸収体5の高さを変更した場合の反射特性を示す図である。
【図4】本発明の実施形態において電波吸収体5の幅を変更した場合の放射パターンを示す図である。
【図5】本発明の実施形態における数値解析モデルの形状を示す斜視図である。
【図6】本発明の実施形態における数値解析モデルのアイソレーション特性(a)及び放射特性(b)を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
本実施形態に係るパッチアンテナAは、図1に示すように、誘電体基板1、2つのアンテナエレメント2、グラントパターン3、金属板4(導電体)、2つの電波吸収体5及び2本の給電線6から構成されている。
【0012】
誘電体基板1は、図示するように円形基板であり、所定の誘電率を有する絶縁体からなる。この誘電体基板1は、直径30mm、厚さ1.27mm、また誘電率10.2、誘電正接0.0023である。2つのアンテナエレメント2は、矩形状かつ互いに同一サイズの導電体薄膜(例えば銅箔)であり、一定距離を隔てた状態で上記誘電体基板1の片面(表面)上に併設されている。より詳細には、矩形状の各アンテナエレメント2は、円形な誘電体基板1の中心に対して点対称な状態、つまり互いに対峙する各辺が平行かつ中心から等距離な状態で配置されている。例えば、2つのアンテナエレメント2は、4.51mm×6.17mmの矩形状、また互いの間隔は例えば9.1mmである。
【0013】
グラントパターン3は、上記誘電体基板1の裏面を覆うように設けられた導電体薄膜(例えば銅箔)である。このグラントパターン3は、給電線6の構成要素であるグランド線を介して接地される。
【0014】
金属板4は、アルミニウム製の矩形板であり、誘電体基板1の中心に上記誘電体基板1に垂直な状態かつ各アンテナエレメント2と平行な状態で設けられている。この金属板4は、例えば高さ12mm、幅12mmの正方形である。
【0015】
2つの電波吸収体5は、電波吸収性能を有する炭化ケイ素繊維FRP(Fiber Reinforced Plastics)からなり、上記金属板4の周りに接触状態で設けられた誘電損失材である。すなわち、各電波吸収体5は、上記金属板4の各表面を覆うように設けられた直方体形状の炭化ケイ素繊維FRPである。このような各電波吸収体5の形状は、高さ12mm、幅12mmであり、また厚さが例えば3.5mmである。また、このような各電波吸収体5は、複素比誘電率21.0−j5.7であり、8.5GHz付近で、20dB程度の吸収量を示す。
【0016】
2つの給電線6は、2つのアンテナエレメント2に対応して設けられており、各アンテナエレメント2に個別に電力を給電するためのものである。各給電線6は、図示するように一端が誘電体基板1の裏面側に位置するように設けられており、誘電体基板1及びグラントパターン3に孔を形成することにより各々の芯線がアンテナエレメント2に接続されると共に、各々のグランド線がグラントパターン3にそれぞれ接続されている。
【0017】
なお、このような各給電線6の他端は送信回路や受信回路に接続され、一方のアンテナエレメント2を送信アンテナとして、また他方のアンテナエレメント2を受信アンテナとして機能させることができる。
【0018】
次に、このようなパッチアンテナAの性能について図2を参照して説明する。
図2は、7〜10GHz帯における各アンテナエレメント2の反射特性(a)、アイソレーション特性(b)及び磁界面の放射特性(c)の実測値と解析値を示す特性図である。なお、この図2では、各アンテナエレメント2の場合(本発明)に加えて、パッチアンテナAから2つの電波吸収体5を除去した場合(従来)の実測値と解析値を比較例として示している。
【0019】
これら実測値と解析値とを比較すると、実測値と解析値とが良好に一致していることがわかる。また、電波吸収体5の設置は反射特性に殆ど影響を与えないと共に、電波吸収体5の追加設置によってアイソレーション特性の大幅な改善が図れることがわかる。すなわち、反射特性(a)及び放射特性(c)について電波吸収体5の有無を比較すると、何れも大きな差はなく、また電波吸収体5を追加設置しても放射パターンが殆ど歪まないことがわかる。一方、アイソレーション特性(b)について電波吸収体5の有無を比較すると、8.5GHzにおいて約10dBのアイソレーション特性の改善が認められる。
【0020】
なお、図3は、電波吸収体5の高さ(h)を変更した場合の反射特性であり、上述した12mmの高さにおいて特性が最も良好であることがわかる。また、図4は、電波吸収体5の幅を変更した場合の放射パターンであり、電波吸収体5の幅が小さいほど歪みの少ない良好な放射パターンとなり、上述した12mmの幅において十分に良好な放射パターンであることがわかる。
【0021】
このような本実施形態によれば、金属板4の両面に電波吸収体5を配置することにより、各アンテナエレメント2の放射パターンを歪ませることなく、各アンテナエレメント2間のアイソレーション特性を向上させることができる。このような電波吸収体5の設置効果は、電波吸収体5が金属板4のようにマイクロ波を反射するのではなくマイクロ波を吸収するので、各アンテナエレメント2間での相互結合が抑制されるためと考えられる。
【0022】
このような本実施形態に係るパッチアンテナAは、例えばCWドップラセンサ用のアンテナに用いることが考えられる。周知のように、CWドップラセンサは、電波(送信波)を移動体に放射して得られる反射波のドップラシフト量(周波数変移量)に基づいて移動体の速度を検出する装置である。このようなCWドップラセンサでは、通常、単一のアンテナを送信用と受信用とに共用しており、このような構成を採用するが故に高周波用のサーキュレータ(方向性結合器)を部品として備える必要がある。この高周波用のサーキュレータには、送信波の受信側への漏れ量が少ないものを使用する必要がある。
【0023】
本実施形態に係るパッチアンテナAによれば、CWドップラセンサに適用した場合に、部品としての高周波用のサーキュレータを削除することができるので、コスト削減を実現することが可能であり、かつ、送信用のアンテナエレメント2から受信用のアンテナエレメント2に送信波の一部が漏れ込む量を従来よりも低減することが可能なので、外乱ノイズの少ないより測定精度の高いCWドップラセンサを実現することができる。
【0024】
続いて、このようなパッチアンテナAの設計に先立って行ったシミュレーション検討について、図5及び図6を参照して説明する。なお、このシミュレーション検討は、上述した電波吸収体5の効果を確認するために予備的に行ったものである。
【0025】
図5は、このシミュレーション検討で用いた数値解析モデルの形状を示す斜視図である。この図に示すように、この数値解析モデルは、誘電体基板S1、2つのアンテナエレメントS2、グラントパターンS3、金属板S4、2つの電波吸収体S5及び2本の給電線S6から構成されている。なお、この数値解析モデルでは、上述したパッチアンテナAの構成要素と同一の構成要素には同一名称を付しており、詳細な説明を省略するが、図示するように同一構成要素であっても形状や寸法がパッチアンテナAとは若干異なっている。
【0026】
すなわち、この数値解析モデルにおける誘電体基板S1は、29.92mm×27.57mmの矩形状である。各アンテナエレメントS2は、4.15mm×7.57mmの矩形状であり、また各アンテナエレメントS2の間隔は6.7mmである。グラントパターンS3は、上記矩形状の誘電体基板S1の裏面全体に設けられている。金属板S4は、高さ8.00mm、幅27.57mmである。各電波吸収体S5は、この金属板S4と同様に高さ8.00mm、幅27.57mm、また厚さ2.30mmである。
【0027】
図6は、このような数値解析モデルのアイソレーション特性(a)及び放射特性(b)である。なお、この図6では、数値解析モデルの解析値(モデル)に加えて、数値解析モデルから2つの電波吸収体S5を除去した場合の解析値(S5レス)、また電波吸収体S5に加えて金属板S4をも除去した場合の解析値(ノーマル)、さらには従来技術と同様にグラントパターンS3にスリットを形成した場合の解析値(スリット)を比較例として示している。
【0028】
このような図6のアイソレーション特性(a)において、8.5GHzに着目すると、数値解析モデルの解析値(モデル)は、金属板S4及び電波吸収体S5を配置しない解析値(ノーマル)及びグラントパターンS3にスリットを形成した解析値(スリット)に対して約15dBの改善が認められる。同じく8.5GHzについてみると、金属板S4のみを配置した解析値(S5レス)は、金属板S4及び電波吸収体S5を配置しない解析値(ノーマル)及びグラントパターンS3にスリットを形成した解析値(スリット)に対して約10dBの改善が認められる。したがって、金属板S4及び電波吸収体S5を配置する数値解析モデルは、金属板S4のみを配置する解析値(S5レス)よりもアイソレーション特性の改善効果が高いことが確認された。
【0029】
また、図6の放射特性(b)を見ると、金属板S4のみを配置する解析値(S5レス)では、0度(各アンテナエレメントS2の表面に垂直な方向)を中心として左右の放射電解強度の対象性が崩れるが、金属板S4及び電波吸収体S5を配置する数値解析モデルでは、対象性の崩れが殆どないことが確認された。
【0030】
このようなシミュレーション検討によって、電波吸収体S5を配置することにより各アンテナエレメントS2の放射パターンを歪ませることなく各アンテナエレメントS2間のアイソレーション特性を向上させることが可能なことが確認された。
【0031】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されることなく、例えば以下のような変形例が考えられる。
(1)上記実施形態では、パッチアンテナAを構成する各構成要素の形状及び寸法等を具体的に規定したが、本発明はこれに限定されない。例えば、誘電体基板1の形状は円形に限定されず、矩形や三角形等の多角形でもよい。また、アンテナエレメント2の形状も矩形に限定されず、他の多角形や円形であってもよい。さらに、金属板4や電波吸収体5の形状も矩形や直方体に限定されない。
【0032】
このようなパッチアンテナAを設計する場合、アンテナとして要求される仕様に基づいて誘電体基板1の形状や大きさ及び誘電率並びに各アンテナエレメント2の形状や大きさ及び配置等が先に決定され、このように先行決定された誘電体基板1や各アンテナエレメント2に応じて金属板4及び誘電体基板1の形状や大きさが最適設定される。
【0033】
(2)上記実施形態では、金属板4を誘電体基板1の中心に垂直かつ各アンテナエレメント2の各辺に平行な状態で設け、このような金属板4の両面に電波吸収体5をそれぞれ設けたが、本発明はこれに限定されない。例えば、図1に示す電波吸収体5の下面つまり誘電体基板1の表面に、誘電体基板1と電波吸収体5とによって完全に挟まれる状態で配置してもよい。
【0034】
(3)上記実施形態では、電波吸収体5の材料として炭化ケイ素繊維FRP(Fiber Reinforced Plastics)を採用したが、本発明はこれに限定されない。炭化ケイ素繊維FRPと同等の電波吸収性能を有する材料であれば、他の材料を採用しても良い。
【0035】
(4)さらには、上記実施形態では、誘電体基板1上に2つのアンテナエレメント2を設けたが、本発明はこれに限定されない。3つ以上のアンテナエレメント2を設けてもよく、この場合には隣り合うアンテナエレメント2の間に金属板4及び電波吸収体5をそれぞれ設ける必要がある。
【符号の説明】
【0036】
A…パッチアンテナ、1…誘電体基板、2…アンテナエレメント、3…グラントパターン、4…金属板(導電体)、5…電波吸収体、6…給電線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体基板上に複数のアンテナエレメントが併設されたパッチアンテナであって、
アンテナエレメント間に設けられた導電体と、
該導電体の周りに接触状態で設けられた電波吸収体と
を具備することを特徴とするパッチアンテナ。
【請求項2】
各アンテナエレメントは、同一の矩形状、かつ各辺が互いに平行対峙する状態で誘電体基板上に設けられており、
導電体は、互いに平行対峙する各辺間の中間位置に各辺に平行に設けられる板材であり、
電波吸収体は、板材の両面に設けられることを特徴とする請求項1記載のパッチアンテナ。
【請求項3】
電波吸収体は、炭化ケイ素繊維FRP(Fiber Reinforced Plastics)であることを特徴とする請求項1または2記載のパッチアンテナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−182550(P2012−182550A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−42589(P2011−42589)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年8月31日 社団法人電子情報通信学会発行の「電子情報通信学会 2010年ソサイエティ大会講演論文集(DVD−ROM)」に発表
【出願人】(000232357)横河電子機器株式会社 (109)
【Fターム(参考)】