説明

パッチュリからのセスキテルペン合成酵素

本発明はパッチュリ(Pogostemon cablin)植物からのセスキテルペン合成酵素及びその製造方法及び使用に関する。一実施態様において、本発明は、本願に記載される少なくとも1つのセスキテルペン合成酵素をコードするヌクレオチド配列を有する核酸を提供する。更なる一実施態様において、本発明はまたセスキテルペン合成酵素及びこれらの酵素の製造方法及び使用方法を提供する。例えば本発明のセスキテルペン合成酵素はファルネシルピロリン酸を、パッチュロール、γ−クルクメン及びその他のゲルマクラン型セスキテルペンを含む様々なセスキテルペンに変換するために使用されてよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はパッチュリ(Pogostemon cablin)植物からのセスキテルペン合成酵素及びその製造方法及び使用方法に関する。一実施態様において、本発明は、本願に記載される少なくとも1つのセスキテルペン合成酵素をコードするヌクレオチド配列を有する核酸を提供する。更なる一実施態様において、本発明はまたセスキテルペン合成酵素及びこれらの酵素の製造方法及び使用方法を提供する。例えば、本発明のセスキテルペン合成酵素はファルネシルピロリン酸を、パッチュロール(patchoulol)、γ−クルクメン及びその他のゲルマクラン型セスキテルペンを含む様々なセスキテルペンに変換するために使用されてよい。
【0002】
発明の背景
テルペノイド又はテルペンは大抵の生物(細菌、菌類、動物、植物)に見出される天然産物の族である。テルペノイドはイソプレン単位と呼ばれる炭素5つの単位からなる。前記テルペノイドはこの構造中に存在するイソプレン単位の数により分類される:モノテルペン(C10)、セスキテルペン(C15)、ジテルペン(C20)、トリテルペン(C30)、テトラテルペン(C40)、及びポリテルペン(Cn)。植物界は非常に多様なモノテルペン及びセスキテルペンを有している。
【0003】
前記モノテルペン及びセスキテルペンは構造的に最も多様なイソプレノイドである。これらは通常は揮発性化合物でありかつ大抵は植物中で見出され、そこで病原体及び草食動物の攻撃に対する防御、花粉媒介者誘引及び植物−植物交信において役立つ。
【0004】
芳香性植物又はエッセンシャルオイル植物として既知である植物の幾つかは、モノテルペン及びセスキテルペンを大量にその葉に蓄積する。これら植物では、テルペンはしばしば、この葉及び茎表面に局在する、特殊な解剖学的構造、腺毛又は分泌腔中で合成されかつ蓄積される。前記植物の典型例は、シソ科、例えばラベンダー、ミント、セージ、バジル及びパッチュリからの種類である。
【0005】
モノテルペン及びセスキテルペンを蓄積する植物は、そのフレーバー及びフレグランス特性、及びその美容的、医薬的及び抗細菌性の効果のために数千年もの間関心が持たれていた。前記植物に蓄積するテルペンはいわゆるエッセンシャルオイルを含有する濃縮テルペンを製造する様々な手段、例えば水蒸気蒸留により抽出されてよい。この天然植物抽出物は、フレーバー及び香料産業にとって重要な成分である。
【0006】
多くのセスキテルペン化合物は香料に使用され(例えばパッチュロール、ノオトカトン、サンタロール、ベチボン、シネンサール)、そして多くは植物から抽出される。前記植物天然抽出物の価格及び入手可能性は、前記植物の存在量、前記油の収量及び地理的な起源に依存する。前記化合物の構造の複雑さのために、化学的合成による個々のテルペン分子の製造は前記方法のコストによりしばしば制限され、必ずしも化学的に又は経済的に実行可能ではない。植物中のテルペン生合成の理解における最近の進展及び現代のバイオテクノロジー技術の使用は、テルペン分子の製造の新しい機会を開放した。テルペンの製造のための生体触媒の使用は、テルペンの生合成の明白な理解と特定の生合成段階に関連する酵素をコードする遺伝子の単離とを必要とする。
【0007】
植物中のテルペンの生合成は幅広く研究されている。全てのテルペンに共通する炭素5つの前駆体は、イソペンテニルピロリン酸(IPP)である。IPPを生じる段階を触媒する酵素のほとんどはクローニングされ特性決定されてきた。IPP生合成のための2つの異なる経路が前記植物中では共存する。メバロン酸経路は、細胞質及び小胞体中で見出され、非メバロン酸経路(又はデオキシキシルロース(DXP)経路)はプラスチドで見出される。その次の段階においてIPPはプレニルトランスフェラーゼにより繰り返し縮合し、テルペンの各分類のための、非環式プレニルピロリン酸テルペン前駆体、例えばモノテルペンのためのゲラニルピロリン酸(GPP)、セスキテルペンのためのファルネシルピロリン酸(FPP)、ジテルペンのためのゲラニルゲラニルピロリン酸(GGPP)を生じる。これら前駆体は、前記テルペン合成酵素又はシクラーゼのための基質として働き、これらは各分類のテルペン、例えばモノテルペン、セスキテルペン、又はジテルペンの合成酵素に特異的である。テルペン合成酵素は、複雑な多段階環化を触媒し、前記テルペン化合物の炭素骨格の大きな多様性を生じる。前記反応は、アリルカチオンを生じる前記二リン酸基のイオン化で始まる。この基質は次に、前記酵素の活性部位により制御される異性化及び転位を経る。この生成物は非環式、又は1つ以上の環を有する環式であってよい。この反応はこのカルボカチオンの脱プロトンにより又は水分子による捕集により停止し、テルペン炭化水素又はアルコールが遊離する。幾つかのテルペン合成酵素は単一の生成物を産生するが、多くは複数の生成物を産生する。前記酵素は極めて多数のテルペン骨格に関係する。最後に、テルペノイド生合成の最終段階では、前記テルペン分子は第二の酵素による変換、例えばヒドロキシル化、異性化、酸化還元又はアシル化の複数の段階を経て、数万個もの様々なテルペン分子を生じる。
【0008】
本発明はセスキテルペン合成酵素をコードする核酸の単離に関する。前記セスキテルペン合成酵素はファルネシルピロリン酸を、様々なセスキテルペン骨格に変換する。300を超えるセスキテルペン炭化水素及び3000を超えるセスキテルペノイドが既に同定され(Joulain,D.and Koenig,W.A.The Atlas of Spectral Data of Sesquiterpene Hydrocarbons,EB Verlag, Hamburg, 1998; Connolly,J.D.,Hill R.A.Dictionary of Terpenoids, 1巻,Chapman and Hall(発行元),1991)、多数の新規の構造が毎年同定されている。植物界にはほぼ無限のセスキテルペン合成酵素が存在し、これら全てが同一の基質を使用するが、異なる生成物特色を有する。
【0009】
幾つかのセスキテルペン合成酵素をコードするcDNA又は遺伝子は種々の植物源からクローニングされており、かつ特性決定されていて、例えば5−エピ−アリストロチェン(5−epi−aristolochene)合成酵素はタバコ(Facchini, P.J. and Chappell, J.(1992) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 89.11088-11092.)及びトウガラシ(Back, K., et al. (1998) Plant Cell Physiol. 39 (9), 899-904)から、ベチスピラジエン(vetispiradiene)合成酵素はヒヨスシアムス・ムチクス(Hyoscyamus muticus)(Back, K. and Chappell, J. (1995) J. Biol. Chem. 270 (13), 7375-7381.)から、(E)−β−ファルネセン合成酵素はセイヨウハッカ及びユズ(Crock, J., et al. (1997) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 94 (24), 12833-12838.; Maruyama et al (2001) Biol. Pharm. Bull. 24 (10), 1171-1175)から、δ−セリネン合成酵素及びγ−フムレン合成酵素はグランドファー(Steele, C.L., et al. (1998) J. Biol. Chem. 273 (4), 2078-2089)から、δ−カジネン合成酵素はキダチワタ(Chen, X.Y., et al. (1995) Arch. Biochem. Biophys. 324 (2), 255-266; Chen, X.Y., et al. (1996) J. Nat Prod. 59, 944-951)から、E−α−ビサボレン合成酵素はグランドファー(Bohlmann, J., et al. (1998) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 95 (12), 6756-6761.)から、ゲルマクレンC合成酵素はトマト(Colby, S.M., et al. (1998) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 95 (5), 2216-2221.)から、エピ−セドロール合成酵素及びアモルファ−4,11−ジエン合成酵素はクソニンジン(Mercke, P., et al. (1999) Arch. Biochem. Biophys. 369 (2), 213-222; Mercke, P., et al. (2000) Arch. Biochem. Biophys. 381 (2), 173-180.)から、ゲルマクレンD合成酵素はトマト(van der Hoeven, R. S., Monforte, A. J. , Breeden D., Tanksley, S. D. , and Steffens J. C. (2000) The Plan cell 12, 2283-2294)から、及びゲルマクレンA合成酵素はレタス、チコリー及びソリダゴ・カナデンシス(Bennett, M.H., et al. (2002) Phytochem. 60, 255-261; Bouwmeester, H.J., et al. (2002) Plant Physiol. 129 (1) 134-144, Prosserl, et al. (2000) Phytochem. 60, 691-702)からである。
【0010】
本発明の一実施態様はセスキテルペン合成酵素をコードする核酸のパッチュリ植物からの単離に関する。パッチュリ油は、植物、Pogostemon cablin(パッチュリ)(シソ科、熱帯地域で成長する)からの葉の水蒸気蒸留により得られた重要な賦香性原材料である。前記油は、ウッディ、アーシー及び樟脳様のノートを有する持続性の快い香りを有し、主として香料に使用される。パッチュリ植物中では前記油の生合成及び貯蔵は、解剖学的に特別な構造:葉表面に見出される腺構造及び前記植物全体で見出される内部構造と関連する。前記油の生合成は葉の発達の初期段階に起こる(Henderson, W. , Hart, J. W. , How, P, and Judge J. (1969) Phytochem. 9, 1219-1228)。前記油はセスキテルペンが豊富である。前記セスキテルペンパッチュロール(図1)は主構成要素(5〜40%)であり、この典型的なノートに相当に寄与する。
【0011】
パッチュリ(Pogostemon cablin)葉におけるパッチュロールの生合成は、研究されかつ解明されてきた。Croteau及び共同研究者は、パッチュリ葉抽出物を用いてパッチュロールの生合成の機構を研究し、パッチュロール合成酵素の精製及び特性決定を達成した(Croteau et al (1987) Arch. Biochem. Biophys. 256(1), 56-68; Munck and Croteau (1990) Arch. Biochem. Biophys. 282(1), 55-64)。単一のセスキテルペン合成酵素がファルネシルピロリン酸からのパッチュロールの生合成を担う。パッチュリからの前記パッチュロール合成酵素は、主生成物としてパッチュロールを、かつα−ブルネセン(bulnesene)、α−グアイエン、α−パッチュレン(patchoulene)、β−パッチュレン(図1)を含む複数の二次生成物を合成する多重産生酵素である(Croteau et al (1987) Arch. Biochem. Biophys. 256(1), 56-68; Munck and Croteau (1990) Arch. Biochem. Biophys. 282(1), 55-64)。パッチュロール及び構造的に関連する化合物の化学的合成は多数の段階を伴うものであり、これまでには商業的に関心をひく化学的方法は存在しない。従って、パッチュロール産生のための生化学経路は関心を大いにひくものとなる。パッチュロール産生のための生化学経路の操作は、前記パッチュロール合成酵素をコードする遺伝子の単離を必要とする。
【0012】
本発明の一実施態様は、パッチュリ葉より単離され、かつセスキテルペン合成酵素をコードする核酸を提供する。本発明のその他の実施態様は本発明の単離された核酸での細菌の形質転換に関し、これには生じる組み換えセスキテルペン合成酵素の産生を含む。例えば、本発明の一実施態様は、パッチュロール(patchoulol)が主産物であるセスキテルペンの混合物を産生するための、組み換えセスキテルペン合成酵素の使用に関する。本発明のその他の実施態様は、γ−クルクメンを主産物として産生するためのその他の組み換えセスキテルペン合成酵素の使用、及びゲルマクラン型セスキテルペン(図1)を産生するためのその他のセスキテルペン合成酵素の使用に関する。本発明の更なる一実施態様は、少なくとも1つのテルペノイド、例えばパッチュロールを産生するための、in vivoでのセスキテルペン合成酵素の使用に関する。
【0013】
発明の要旨
一実施態様では、本発明はセスキテルペン合成酵素をコードする単離された核酸に関する。本発明で使用される場合には、セスキテルペン合成酵素は、前記酵素が非環式ピロリン酸テルペン前駆体、例えばファルネシルピロリン酸と接触することで少なくとも1つの化合物が生成されることと参照されてもよい。一実施態様では、主産物が生成される。例えば、パッチュロールをその産物の1つとして、例えば、主産物として生成可能であるセスキテルペン合成酵素は、パッチュロール合成酵素として参照されてよい。この規則を用いて、本発明の核酸の例は以下のcDNA、γ−クルクメン合成酵素(PatTpsA)(配列番号1);(−)−ゲルマクレンD合成酵素(PatTpsBF2)(配列番号2);(+)−ゲルマクレンA合成酵素(PatTpsCF2)(配列番号3);その他の(−)−ゲルマクレンD合成酵素(PatTpsB15)(配列番号4)及びパッチュロール合成酵素(PatTps177)(配列番号5)をコードするcDNAを含む。
【0014】
一実施態様では、本発明はパッチュロール合成酵素をコードする単離された核酸を提供する。
【0015】
その他の実施態様では、γ−クルクメン合成酵素をコードする単離された核酸を提供する。
【0016】
一実施態様では、本発明は、(a)配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4又は配列番号5に実質的に示されたヌクレオチド配列を有する核酸、(b)配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9又は配列番号10に実質的に示されたポリペプチドをコードする核酸並びに(c)低ストリンジェンシー条件下で(a)又は(b)の核酸にハイブリダイズする核酸から選択され、その際前記核酸によってコードされるポリペプチドがセスキテルペン合成酵素活性を有する単離された核酸を提供する。一実施態様では、この規定の条件は中程度のストリンジェンシー条件であり、そして更なる一実施態様ではこの規定の条件は高ストリンジェンシー条件である。その他の実施態様は以下を含む:本発明の核酸によってコードされるポリペプチド、又は改善したセスキテルペン合成酵素をコードする核酸の製造方法により得られるポリペプチド;本発明の核酸を有する宿主細胞;本発明の核酸を有すべく改変された非ヒト生物並びに本発明の宿主細胞を培養することを含むポリペプチドの製造方法。
【0017】
一実施態様では、本発明は単離されたパッチュロール合成酵素を提供する。その他の実施態様では、本発明は単離されたγ−クルクメン合成酵素を提供する。
【0018】
更なる一実施態様では、本発明は本発明による核酸少なくとも1つを有するベクターを提供する。
また更なる実施態様では、本発明は改善したセスキテルペン合成酵素をコードする核酸の製造方法を提供する。
【0019】
その他の実施態様は、本発明のベクターを宿主細胞に導入することを含む組み換え宿主細胞の製造方法を含む。
【0020】
一実施態様では、本発明は少なくとも1つのセスキテルペン合成酵素の製造方法であって、少なくとも1つの核酸配列を有すべく改変された宿主を、前記の少なくとも1つのセスキテルペン合成酵素の製造に寄与する条件下で培養することを含み、その際前記の少なくとも1つの核酸が本発明による核酸である方法を提供する。
【0021】
その他の実施態様では、本発明は少なくとも1つのテルペノイドの製造方法であって、A)少なくとも1つの非環式ピロリン酸テルペン前駆体と、本発明による核酸によってコードされる少なくとも1つのポリペプチドとを接触させ、かつB)場合により、A)で産生された少なくとも1つのテルペノイドを単離することを含む方法を提供する。一実施態様では、この方法はin vivoで実施される。例えば、少なくとも1つの合成酵素がin vivoで、例えば、少なくとも1つの非環式ピロリン酸テルペン前駆体を有する微生物又は植物中で産生される。有利には、このテルペノイドの少なくとも1つはセスキテルペンから選択される。有利には、非環式ピロリン酸テルペン前駆体の少なくとも1つはファルネシルピロリン酸である。本発明の方法により産生されるセスキテルペンは、パッチュロール、γ−クルクメン及びその他のゲルマクラン型セスキテルペン(図1)を含むがこれらに限定されない。一実施態様では、このテルペノイドの少なくとも1つは、γ−クルクメン及び/又はパッチュロールから選択されるセスキテルペンである。
【0022】
前記の一般的記載と以下の詳細な説明の両者は、例示しかつ説明するだけのものであって、請求した本発明を制限するものではないと理解すべきである。ここで本発明の例示的実施態様を詳細に言及する。
【0023】
図面の簡単な説明
図1:本文中に引用したセスキテルペン分子の構造。
【0024】
図2:2つのグループのセスキテルペン合成酵素のアミノ酸配列(配列番号13〜24、それぞれ登場順に)のアラインメントの中心部分であり、前記セスキテルペン合成酵素特異的なデジェネレートプライマー(配列番号25〜30、それぞれ登場順に)を設計するために使用した。各アラインメントの下にある矢印は各プライマーの設計に使用したアラインメントの領域とその方向を示している。
【0025】
図3:3’RACE産物から導かれるアミノ酸配列(配列番号31〜33、それぞれ登場順に)のアラインメント。黒地に白字及び灰色地に黒字はそれぞれ、これらの3つの配列のうち2つの配列で同一の又は類似する部分を示す。
【0026】
図4:5’RACE産物から導かれるアミノ酸配列(配列番号34〜36、それぞれ登場順に)のアラインメント。
黒地に白字及び灰色地に黒字はそれぞれ、これらの3つの配列のうち2つの配列で同一の又は類似する部分を示す。
【0027】
図5:本願において単離されたcDNAから導かれるアミノ酸配列(配列番号37〜42、それぞれ登場順に)のアラインメント。黒地に白字及び灰色地に黒字はそれぞれ、これらの6つの配列のうち4つの配列で同一の又は類似する部分を示す。
【0028】
図6:本願において単離されたcDNAのオープンリーディングフレームのヌクレオチド配列(配列番号43〜48、それぞれ登場順に)のアラインメント。黒地に白字は、これらの6つの配列のうち4つの配列で保存されたヌクレオチドを示す。デジェネレートプライマーを設計するために使用した領域は、アラインメントの下にある矢印で印して、かつこのプライマーの名前を示した。
【0029】
図7:PatTpsA(配列番号6)により産生されたセスキテルペンのガスクロマトグラフ−質量分析(GC−MS)による組み合わせ分析。A.トータルイオンクロマトグラム。ファルネソールのピーク(保持時間16.15)は、粗タンパク質抽出物中に存在する大腸菌アルカリフォスファターゼによるFPPの加水分解のためである。ピーク1を除く全てのピークは、インキュベーション媒体から又は抽出のために使用した溶媒からの汚染である。B.ピーク1に対する質量スペクトル及び計算した保持指標。
【0030】
図8:PatTpsBF2(配列番号7)により産生されたセスキテルペンのガスクロマトグラフ−質量分析(GC−MS)による組み合わせ分析。A.トータルイオンクロマトグラム。ファルネソールのピーク(保持時間16.16)は、粗タンパク質抽出物中に存在する大腸菌アルカリフォスファターゼによるFPPの加水分解のためである。ピーク1を除く全てのピークは、インキュベーション媒体から又は抽出のために使用した溶媒からの汚染である。B.ピーク1に対する質量スペクトル及び計算した保持指標。
【0031】
図9:PatTpsCF2(配列番号8)により産生されたセスキテルペンのガスクロマトグラフ−質量分析(GC−MS)による組み合わせ分析。A.トータルイオンクロマトグラム。ファルネソールのピーク(保持時間16.16)は、粗タンパク質抽出物中に存在する大腸菌アルカリフォスファターゼによるFPPの加水分解のためである。数値で印したピークはセスキテルペンである。B、C、D、E.同定されたセスキテルペンのピークの質量スペクトル及び計算した保持指標。ピーク5はセスキテルペン炭化水素、ピーク6はセスキテルペンアルコール。これら分子の構造に関しては図1を参照。
【0032】
図10:PatTpsB−15(配列番号9)により産生されたセスキテルペンのガスクロマトグラフ−質量分析(GC−MS)による組み合わせ分析。A.トータルイオンクロマトグラム。数値で印したピークはセスキテルペンである。B、C、D、E、F、G.同定されたセスキテルペンのピークの質量スペクトル及び計算した保持指標。ピーク4、5、7、8、9及び12はセスキテルペン炭化水素である。ピーク13及び14はセスキテルペンアルコールである。これら分子の構造に関しては図1を参照。
【0033】
図11:PatTps177(配列番号10)により産生されたセスキテルペンのガスクロマトグラフ−質量分析(GC−MS)による組み合わせ分析。このトータルイオンクロマトグラムを示した。数値で印したピークはセスキテルペンである。マークしたピークのうち、ピーク3、4、11、13及び17を除く全てのセスキテルペンが同定された。
【0034】
図12:PatTps177(配列番号10)により産生されたセスキテルペンのガスクロマトグラフ−質量分析(GC−MS)による組み合わせ分析から選択したピークの質量スペクトル。この質量スペクトル、化合物の名称及び計算した保持指標を、セスキテルペンが同定された各ピークに対して示した。(−)−パッチュロール(パッチュリ油から精製)の基準スタンダードの質量スペクトルも示した。これら分子の構造に関しては図1を参照。
【0035】
図13:PatTpsA、γ−クルクメン合成酵素のDNA配列(配列番号1)及びアミノ酸配列(配列番号6)。
【0036】
図14:PatTpsBF2、(−)−ゲルマクレンD合成酵素のDNA配列(配列番号2)及びアミノ酸配列(配列番号7)。
【0037】
図15:PatTpsCF2、(+)−ゲルマクレンA合成酵素のDNA配列(配列番号3)及びアミノ酸配列(配列番号8)。
【0038】
図16:PatTpsB15、別の(−)−ゲルマクレンD合成酵素のDNA配列(配列番号4)及びアミノ酸配列(配列番号9)。
【0039】
図17:PatTps177、パッチュロール合成酵素のDNA配列(配列番号5)及びアミノ酸配列(配列番号10)。
【0040】
図18:PatTpsC16、セスキテルペン合成酵素の部分DNA配列(配列番号11)及びアミノ酸配列(配列番号12)。
【0041】
使用した略語
bp 塩基対。
【0042】
DNA デオキシリボ核酸。
【0043】
cDNA 相補的DNA。
【0044】
DTT ジチオトレイトール。
【0045】
EDTA エチレンジアミノ四酢酸。
【0046】
FPP ファルネシルピロリン酸。
【0047】
IPP イソペンテニルピロリン酸。
【0048】
IPTG イソプロピル−D−チオガラクト−ピラノシド。
【0049】
PCR ポリメラーゼ連鎖反応。
【0050】
RT−PCR 逆転写ポリメラーゼ連鎖反応。
【0051】
3’−RACE/5’−RACE 3’のcDNA末端の迅速増幅及び5’のcDNA末端の迅速増幅。
【0052】
RNA リボ核酸。
【0053】
mRNA メッセンジャーリボ核酸。
【0054】
SDS−PAGE SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動。
【0055】
発明の記載
テルペンは、非環式又は環式であってよいイソプレン単位(C)を基礎とする不飽和炭化水素である。テルペン誘導体は、カンファー、メントール、テルピネオール及びボルネオール、ゲラニオール、ノオトカトン、セドロール及びパッチュロールを含むがこれらに制限されない。本願で使用されるテルペン又はテルペノイドは、1段階以上の官能化工程、例えばヒドロキシル化、異性化、酸化還元又はアシル化がなされた化合物を含むテルペン及びテルペン誘導体を含む。本発明で使用される場合に、セスキテルペンはC15構造を基礎とするテルペンであり、かつ、1段階以上の官能化工程、例えばヒドロキシル化、異性体化、酸化還元又はアシル化がなされた化合物を含むセスキテルペン及びセスキテルペン誘導体を含む。
【0056】
本願で使用される場合には、誘導体は公知の又は仮想的な化合物から得られ、かつこの親物質の必須要素を有する任意の化合物である。
【0057】
本願で使用される場合には、セスキテルペン合成酵素はセスキテルペンの合成を触媒する任意の酵素である。
【0058】
”同一”、”実質的に同一”、又は”実質的に示される”との用語は、関連する配列が少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、92%、95%、96%、97%、98%又は99%、所定の配列と同一であることを意味する。例えば、かかる配列はアレル変異体、様々な種から得られた配列であるか、又はこれらの配列は所定の配列から短縮、欠失、アミノ酸置換又は付加によって得てよい。ポリペプチドに関しては、比較配列の長さは一般に少なくとも20アミノ酸、30アミノ酸、50アミノ酸、100アミノ酸又はそれ以上のアミノ酸である。核酸に関しては、比較配列の長さは一般に少なくとも50ヌクレオチド、100ヌクレオチド、150ヌクレオチド、300ヌクレオチド又はそれ以上のヌクレオチドである。2つの配列間の同一性のパーセンテージは標準的なアラインメントアルゴリズム、例えばAltschul et al.(1990) J.Mol.Biol., 215:403-410に記載されるBasic Local Alignment Tool(BLAST)、Needleman et al.(1970) J.Mol.Biol., 48:444-453のアルゴリズム又はMeyers et al.(1988年) Comput.Appl.Biosci., 4:11-17のアルゴリズムによって決定される。
【0059】
このように本発明は、一実施態様では、(a)配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4又は配列番号5に実質的に示されるヌクレオチド配列を有する核酸、(b)配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9又は配列番号10に実質的に示されるポリペプチドをコードする核酸並びに(c)低ストリンジェンシー条件下で(a)又は(b)の核酸にハイブリダイズする核酸から選択され、その際前記核酸によってコードされるポリペプチドがセスキテルペン合成酵素活性を有する単離された核酸を提供する。一実施態様において、規定の条件は中程度なストリンジェンシー条件であり、そして更なる一実施態様では規定の条件は高ストリンジェンシー条件である。
【0060】
本発明で使用される場合には、本発明の核酸によってコードされるポリペプチドがセスキテルペン合成酵素活性を有するかどうかは、本願の実施例に記載される酵素特性決定アッセイによって測定される。
【0061】
本願で使用される場合に、一定の条件下でハイブリダイゼーション又はハイブリダイズするとの用語は、互いに著しい同一性又は相同性を示すヌクレオチド配列が互いに結合したままである、ハイブリダイゼーション及び洗浄のための条件を説明することを意図している。前記条件は、少なくとも約70%、例えば少なくとも約80%、例えば少なくとも約85〜90%の同一性を示す配列が互いに結合したままである条件であってよい。低ストリンジェンシー、中程度のストリンジェンシー及び高ストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件の定義は本願で提供されている。
【0062】
適切なハイブリダイゼーション条件は最低限の実験、例えばAusubel et al.(1995), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, 第2節、第4節及び第6節に例示される実験により当業者によって選択できる。更に、ストリンジェンシー条件は、Sambrook et al.(1989) Molecular Cloning: A Laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbor Press、第7章、第9章及び第11章に記載されている。本願で使用される場合に、低ストリンジェンシーの規定の条件は以下のとおりである。DNAを含有するフィルタを、35%のホルムアミド、5×SSC、50mMのトリス塩酸(pH7.5)、5mMのEDTA、0.1%のPVP、0.1%のフィコール、1%のBSA及び500μg/mlの変性サケ精子DNAを含有する溶液中で40℃で6時間前処理する。ハイブリダイゼーションを、以下の変更を加えて同溶液中で実施する:0.02%のPVP、0.02%のフィコール、0.2%のBSA、100μg/mlのサケ精子DNA、10%(質量/容量)のデキストラン硫酸及び5〜20×106の32P標識されたプローブを使用する。フィルタをハイブリダイゼーション混合物中で18〜20時間40℃でインキュベートし、次いで2×SSC、25mMのトリス塩酸(pH7.4)、5mMのEDTA及び0.1%のSDSを含有する溶液中で1.5時間55℃で洗浄する。前記洗浄溶液を新鮮な溶液と取り替え、そして更に60℃で1.5時間インキュベートする。フィルタをブロットドライし、そしてオートラジオグラフィーのために露出する。
【0063】
本願で使用される場合に、中程度のストリンジェンシーの規定の条件は以下のとおりである。DNAを含有するフィルタを、35%のホルムアミド、5×SSC、50mMのトリス塩酸(pH7.5)、5mMのEDTA、0.1%のPVP、0.1%のフィコール、1%のBSA及び500μg/mlの変性サケ精子DNAを含有する溶液中で50℃で7時間前処理する。ハイブリダイゼーションは、以下の変更を加えて同溶液中で実施する:0.02%のPVP、0.02%のフィコール、0.2%のBSA、100μg/mlのサケ精子DNA、10%(質量/容量)のデキストラン硫酸及び5〜20×106の32P標識されたプローブを使用する。フィルタをハイブリダイゼーション混合物中で30時間50℃でインキュベートし、次いで2×SSC、25mMのトリス塩酸(pH7.4)、5mMのEDTA及び0.1%のSDSを含有する溶液中で1.5時間55℃で洗浄する。前記洗浄溶液を新鮮な溶液と取り替え、そして更に60℃で1.5時間インキュベートする。フィルタをブロットドライし、そしてオートラジオグラフィーのために露出する。
【0064】
本願で使用される場合に、高ストリンジェンシーの規定の条件は以下のとおりである。DNAを含有するフィルタのプレハイブリダイゼーションを、6×SSC、50mMのトリス塩酸(pH7.5)、1mMのEDTA、0.02%のPVP、0.02%のフィコール、0.02%のBSA及び500μg/mlの変性サケ精子DNAから構成される緩衝液中で65℃で8時間から一晩実施する。フィルタを、100μg/mlの変性サケ精子DNA及び5〜20×106cpmの32P標識されたプローブを含有するプレハイブリダイゼーション混合物中で65℃で48時間ハイブリダイズさせる。フィルタの洗浄は、2×SSC、0.01%のPVP、0.01%のフィコール及び0.01%のBSAを含有する溶液中で37℃で1時間実施する。これに引き続き0.1×SSC中で50℃で45分間洗浄する。この分野でよく知られる低ストリンジェンシー、中程度のストリンジェンシー及び高ストリンジェンシーの他の条件(例えば種間ハイブリダイゼーションについて使用される場合)は、前記の条件が不適切であれば使用してよい。
【0065】
本発明の核酸の一実施態様では、前記核酸は、(a)配列番号5に実質的に示されるヌクレオチド配列を有する核酸、(b)配列番号10に実質的に示されるポリペプチドをコードする核酸並びに(c)低ストリンジェンシー条件下で(a)又は(b)の核酸にハイブリダイズする核酸から選択され、その際前記核酸によってコードされるポリペプチドがセスキテルペン合成酵素活性を有する。
【0066】
本発明の核酸の一実施態様では、前記核酸は、(a)配列番号1に実質的に示されるヌクレオチド配列を有する核酸、(b)配列番号6に実質的に示されるポリペプチドをコードする核酸並びに(c)低ストリンジェンシー条件下で(a)又は(b)の核酸にハイブリダイズする核酸から選択され、その際前記核酸によってコードされるポリペプチドはセスキテルペン合成酵素活性を有する。
【0067】
一実施態様では、前記核酸は少なくとも70%、少なくとも85%、少なくとも90%、又は少なくとも95%、配列番号5及び/又は配列番号1のヌクレオチドと同一である。有利には(c)手段の核酸は、中程度のストリンジェンシー条件下で、より有利には高ストリンジェンシー条件下で、上記の(a)又は(b)の核酸にハイブリダイズする。
【0068】
有利には、本発明の核酸及び/又はポリペプチドは、パッチュリ(Pogostemon cablin)から単離される。一実施態様では、前記核酸はパッチュリ葉から単離される。
【0069】
有利には、本発明による核酸は配列番号5を含有する。有利には、前記核酸は配列番号10を含有する。
【0070】
特定の一実施態様では、本発明は一定の単離されたヌクレオチド配列、内在不純物質を実質的に含まない単離されたヌクレオチド配列を含む単離されたヌクレオチド配列に関する。用語”核酸”又は”核酸分子”は、一本鎖又は二本鎖の形のデオキシリボヌクレオチド又はリボヌクレオチドのポリマーを示し、そして特に限定がなければ、天然のヌクレオチドと同様に機能しうる天然ヌクレオチドの公知のアナログを含む。また”ヌクレオチド配列”は、個々の断片の形の又はより大きな核酸の構成要素としてのポリヌクレオチド分子又はオリゴヌクレオチド分子も示す。前記ヌクレオチド配列又は分子は、”ヌクレオチドプローブ”とも呼ばれる。幾つかの本発明の核酸分子は、実質的に純粋な形でかつ標準的な生化学的手法によりそのヌクレオチド配列成分の同定、操作及び回収が可能な量又は濃度で、少なくとも一回単離されたDNA又はRNAから誘導される。かかる方法、本願で使用できるPCRプロトコルを含む方法のための例は、Sambrook et al.、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY (1989)、F.A. Ausubel et al.により編集されたCurrent Protocols in Molecular Biology, John Wiley and Sons, Inc. (1987)、及びInnis, M et al.編、PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications, Academic Press(1990)に開示されている。
【0071】
本願で記載される場合には、本発明の核酸分子は、一本鎖又は二本鎖の両者の形のDNA並びにそれらの相補的RNAを含む。DNAは、例えばcDNA、ゲノムDNA、化学合成DNA、PCRによって増幅されたDNA及びその組合せを含む。ゲノムDNAは翻訳される領域、非翻訳領域及び調節領域を含み、慣用の技術によって、例えば本発明の任意のcDNAの1つ又はその適した断片をプローブとして用いて単離して、ゲノムDNAの一部を同定し、次いで通常この分野で知られる方法を用いてクローニングできる。一般に本発明の範囲内での核酸分子は、本発明の配列に、上記のハイブリダイゼーション及び洗浄条件下で、及び本発明の配列のDNA対の溶融温度の5℃未満、10℃未満、15℃未満、20℃未満、25℃未満又は30℃未満であって、これらの範囲内に包含される任意の範囲の条件を含む、ハイブリダイゼーション及び洗浄条件下でハイブリダイズする配列を含む。
【0072】
別の一実施態様では、本発明の核酸は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4又は配列番号5に実質的に示される配列を含む。一実施態様では、前記核酸は少なくとも70%、少なくとも85%、少なくとも90%、又は少なくとも95%、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4又は配列番号5のヌクレオチドと同一である。一実施態様では、前記核酸は、ヌクレオチド配列 配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4又は配列番号5を含む。更なる一実施態様では、前記核酸はセスキテルペン合成酵素活性を有するタンパク質をコードし、これは例えば実施例に記載した酵素活性アッセイで測定されている。異種間で保存された領域を有する核酸も提供される。
【0073】
また別の実施態様では、前記核酸は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4又は配列番号5の、連続したヌクレオチドの少なくとも50、100、250、500又は750の連続した広がりを有する。前記ヌクレオチドのこのような連続した断片は、少なくとも1つの突然変異を、前記突然変異配列が元々の配列の機能性を維持し、かつ低ストリンジェンシー又は高ストリンジェンシー条件下で、例えば中程度のストリンジェンシー又は高ストリンジェンシー条件下で、前記ヌクレオチドにハイブリダイズする能力を維持する限りは有してもよい。かかる断片は、例えば配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4又は配列番号5のヌクレオチド(nt)200〜nt1600、nt800〜nt1600、nt1000〜nt1600、nt200〜nt1000、nt200〜nt800、nt400〜nt1600又はnt400〜nt1000から得てよい。
【0074】
上記のように、本発明の核酸によってコードされるポリペプチドは本発明に含まれる。本発明の単離された核酸は、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9又は配列番号10に実質的に示されたポリペプチドをコードする核酸から選択されてよい。一実施態様では、前記ポリペプチドは少なくとも70%、少なくとも85%、少なくとも90%、又は少なくとも95%、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9又は配列番号10と同一である。
【0075】
一実施態様では、本発明のポリペプチドは配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9又は配列番号10に示したアミノ酸配列を有する。別の一実施態様では、前記ポリペプチドは、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9又は配列番号10に実質的に示されたアミノ酸配列を有する。また別の実施態様では、前記ポリペプチドは少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%又は少なくとも95%、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9又は配列番号10と同一であるアミノ酸配列を有する。一実施態様では、前記ポリペプチドはセスキテルペン合成酵素活性を有し、これは例えば以下に記載した酵素アッセイで測定した。
【0076】
有利には前記ポリペプチドは、配列番号6及び/又は配列番号10に実質的に示されるポリペプチドである。より有利には、前記ポリペプチドは、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%又は少なくとも95%、少なくとも97%、又は完全に、配列番号6及び/又は配列番号10のアミノ酸配列に相当するアミノ酸配列を有する。
【0077】
1つ以上のコドンが同じアミノ酸をコードする遺伝暗号の縮重のために、複数のDNA配列は同じポリペプチドをコードできる。このようなDNA配列変異体は遺伝的浮動又は人工的な操作から生じる(例えばPCR増幅中に、又は本来の配列の故意の突然変異誘発の産物として生じる)。このように本発明は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4又は配列番号5又はその変異体から得られるタンパク質コードしうる任意の核酸を含む。
【0078】
本来の配列の故意の突然変異誘発は、この分野でよく知られる多数の技術を用いて実施できる。例えば、オリゴヌクレオチドによる部位特異的突然変異誘発手法を使用でき、その際特に遺伝子を、予め決められた制限ヌクレオチド又はコドンが置換、欠失又は挿入によって改変されるように突然変異させることが望ましい。かかる改変をもたらす例示的な方法は、Walder et al.(Gene 42: 133,1986);Bauer et al.(Gene 37: 73, 1985);Craik(BioTechniques, January 12-19, 1985);Smith et al. (Genetic Engineering: Principles and Methods, Plenum Press, 1981) ;Kunkel(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82:488, 1985);Kunkel et al.(Methods in Enzymol. 154: 367, 1987);及び米国特許第4,518,584号及び同第4,737,462号によって開示されている。
【0079】
一実施態様では、本発明は単離されたポリペプチドを提供している。本願で使用される場合には、用語“ポリペプチド”は、本発明で同定されるアミノ酸配列を包含するポリペプチド又はペプチド断片並びにより小さい断片の類を示す。選択的に、ポリペプチドは本発明の核酸配列によってコードされる任意のペプチドに対する抗原関連性の点で定義することができる。このように一実施態様では、本発明の範囲内でのポリペプチドは、本発明の核酸配列によってコードされる任意のペプチドと共通する線状又は三次元のエピトープを含むアミノ酸配列として定義される。選択的に、本発明の範囲内でのポリペプチドは、本発明の核酸配列によってコードされる任意のペプチドを特異的に認識する抗体によって認識される。抗体は、これらが本発明のポリペプチドと約10−1以上のK、例えば10−1以上のKで結合する場合に特異的な結合であると定義される。
【0080】
本願で呼称されるポリペプチド”変異体”とは、本来のポリペプチドと実質的に相同であるが、1つ以上の欠失、挿入又は置換のため本発明の任意の核酸配列によってコードされる配列とは異なるアミノ酸配列を有するポリペプチドを意味する。
【0081】
変異体は、保存的に置換された配列を含むことがあり、これは所定のアミノ酸残基が類似の生理化学的特徴を有する残基によって交換されていることを意味する。保存的置換の例は、ある脂肪族残基を別の脂肪族残基に置換すること、例えばIle、Val、Leu又はAlaを別の1つに置換すること、又はある極性残基を別の極性残基に置換すること、例えばLysとArg;GluとAsp;又はGlnとAsnの間での置換を含む。Zubay, Biochemistry, Addison-Wesley Pub.Co .,(1983)を参照。かかる置換の効果は、Altschul(J. Mol. Biol. 219: 555-65, 1991)で議論されるPAM−120、PAM−200及びPAM−250のような置換スコア行列を用いて計算できる。他のかかる保存的置換、例えば類似の疎水特性を有する全領域の置換はよく知られている。
【0082】
天然に存在するペプチド変異体も本発明に含まれる。かかる変異体の例は、選択的なmRNAスプライシング事象又は本願に記載されるポリペプチドのタンパク質分解から得られるタンパク質である。タンパク質分解を原因とする変異は、例えば異なる種類の宿主細胞型で発現されることによるN末端又はC末端における差異を含み、これは1つ以上の末端アミノ酸が本発明の配列によってコードされるポリペプチドからタンパク質分解により除去されることによるものである。
【0083】
本発明のセスキテルペン合成酵素変異体を用いることで、所望の増強された又は減衰された酵素活性、変更された位置化学性又は立体化学性又は改変された基質利用性又は生成物分布を達成することができる。更に、変異体は少なくとも1つの変更された特性、例えばこの基質に対する増加した親和性、1つ以上の所望の化合物の製造のための改善した特異性、様々な生成物分布、様々な酵素活性、前記酵素反応速度の上昇、特定の環境(pH、温度、溶媒その他)中でのより高い活性又は安定性、又は所望の発現系中での改善した発現レベルを有するように調整されてよい。変異体又は部位特異的突然変異体は、任意の公知技術により製造されてよい。前記のとおり、本発明は組み換え及び非組み換えの、単離及び精製されたポリペプチド、例えばパッチュリ植物からのポリペプチドを提供する。本来のポリペプチドの変異体及び誘導体は、天然に存在する変異体を単離するか、又は変異体のヌクレオチド配列、他のもしくは同じ植物株又は植物種のヌクレオチド配列を単離することによって、又は本来のパッチュリポリペプチドをコードするヌクレオチド配列の人工的にプログラムされた突然変異によって得ることができる。本来のアミノ酸配列の改変は、多くの任意の慣用の方法によって達成できる。
【0084】
従って、本発明は機能的セスキテルペン合成酵素変異体の製造方法であって、以下の工程、(a)配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4又は配列番号5からなるグループから任意の核酸の選択、(b)前記核酸配列を、核酸突然変異体の集団(polulation)を得るために改変、(c)宿主細胞を前記核酸突然変異体で、ポリペプチドを発現させるために形質転換、及び(d)少なくとも1つの変更した特性を有する機能的ポリペプチドのために前記ポリペプチドをスクリーニングすることを含む方法を提供する。前記変更した特性は、任意の所望の特性、例えば前述した特性であってよい。前記の選択した核酸の改変は、例えば無作為な突然変異、部位特異的突然変異、又はDNAシャッフリングにより実施されてよい。前記改変は少なくとも1つの点突然変異、欠失又は挿入であってよい。例えば、配列番号1〜5のいずれか少なくとも1つに伴い、シャッフリング技術により得られた核酸によってコードされるアミノ酸配列を有するポリペプチドは、やはり本発明により包含される。本発明の前記実施態様による方法の工程、例えば機能的ポリペプチドのためのポリペプチドのスクリーニングは当業者に公知であり、当業者は所望した特定の変更された特性に、既知のプロトコルを慣用的に適応するものである。
【0085】
例えば、制限部位に隣接しこの本来の配列の断片に連結できる、突然変異配列を含有するオリゴヌクレオチドを合成することで、突然変異をある特定の座に導入可能である。連結後、この生じる再構築された配列は、所望のアミノ酸挿入、置換又は欠失を有するアナログをコードする。選択的に、オリゴヌクレオチドによる部位特異的突然変異誘発の手法を用いて、予め決められたコドンが置換、欠失又は挿入によって改変されていてよい改変された遺伝子が提供される。本発明はまた、本発明の核酸の改変により得られる核酸、例えば変異体ポリペプチドを得るため改変により得られた核酸をも包含する。
【0086】
一実施態様では、本発明は本発明の核酸を有するベクターを考慮している。例えば、ベクターは、(a)配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4又は配列番号5に実質的に示されたヌクレオチド配列を有する核酸、(b)配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9又は配列番号10に実質的に示されたポリペプチドをコードする核酸並びに(c)低ストリンジェンシー条件下で(a)又は(b)の核酸にハイブリダイズする核酸から選択された核酸少なくとも1つを有し、その際前記核酸によってコードされるポリペプチドはセスキテルペン合成酵素活性を有する。
【0087】
本願で使用されるベクターは、任意の組み換えベクター、制限されないがウイルスベクター、バクテリオファージ及びプラスミドを含む。
【0088】
本発明の核酸配列を有する組み換え発現ベクターは、よく知られた方法を用いて調製できる。一実施態様では、発現ベクターは、適した転写調節ヌクレオチド配列又は翻訳調節ヌクレオチド配列、例えば哺乳動物、微生物、ウイルス、植物又は昆虫の遺伝子から得られたものに機能的に結合されたポリペプチドをコードするcDNA配列を含む。調節配列の例は、転写プロモーター、オペレーター又はエンハンサー、mRNAリボソーム結合部位、及び転写と翻訳の開始及び終結を調節する適切な配列を含む。ヌクレオチド配列は、調節配列が本発明のcDNA配列に機能的に対応づけられている場合に“機能的に結合”されている。このように、前記プロモーターヌクレオチド配列が前記cDNA配列の転写を調節する場合に、プロモーターヌクレオチド配列は機能的にcDNA配列に結合している。所望の宿主細胞中での複製能力(これは通常は複製起点により付与される)及び形質転換体を同定する選択遺伝子を、付加的に前記発現ベクター中に組み込んでよい。
【0089】
付加的に、本発明のポリペプチドと本来関連がない好適なシグナルペプチドをコードする配列を発現ベクターに導入してもよい。例えばシグナルペプチド(分泌リーダー)のためのDNA配列を枠内で本発明のヌクレオチド配列に融合してよく、結果として本発明のポリペプチドはまず前記シグナルペプチドを有する融合タンパク質として翻訳される。意図される宿主細胞中で機能的であるシグナルペプチドは、発現されるポリペプチドの細胞外分泌を促進する。前記シグナルペプチドは、細胞からの分泌後にポリペプチドから分解されうる。又は、前記シグナルペプチドはポリペプチドを細胞内局所に、例えば特定の細胞区画又はオルガネラ中に配向するのに適していてよい。
【0090】
付加的なペプチド配列の本発明のポリペプチドのアミノ末端及びカルボキシル末端での融合は、所望の環境内又は発現系内での前記ポリペプチドの発現の促進、タンパク質の精製の補助、又は前記ポリペプチドの酵素活性の改善のために使用されてよい。
【0091】
一実施態様では、本発明は、本発明の核酸を有する宿主細胞を含む。本発明の別の実施態様は、本発明のベクターを宿主細胞に導入することを含む組み換え宿主細胞の製造方法である。更なる一実施態様では、本発明の宿主細胞をポリペプチド産生条件下に培養することを含むポリペプチドの製造方法を考慮している。一実施態様ではそのポリペプチドが回収される。本発明の方法は、少なくとも1つの本発明のセスキテルペン合成酵素の製造方法であって、本発明の核酸を有する宿主細胞を培養し、そして蓄積されたセスキテルペン合成酵素を回収することを含む方法である。
【0092】
本発明のポリペプチドの発現のために適した宿主細胞は、原核生物、酵母又は高等真核細胞を含む。例えば、適した宿主細胞は植物細胞である。細菌宿主、菌類宿主、酵母宿主及び哺乳動物細胞宿主で使用するために好適なクローニングベクター及び発現ベクターは、例えば、Pouwels et al.、Cloning Vectors: A Laboratory Manual, Elsevier, New York, (1985)に記載されている。無細胞翻訳系を用い、本願に開示されるDNA作成物から得られるRNAを使用して開示されたポリペプチドを製造することもできる。
【0093】
原核生物は、グラム陰性又はグラム陽性の生物、例えば大腸菌又は桿菌を含む。形質転換のために適当な原核性宿主細胞は、例えば大腸菌、バシラス・サチリス、サルモネラ・チフィムリウム及び、シュードモナス属、ストレプトマイセス属及びスタフィロコッカス属内の他の種々の種である。原核性宿主細胞、例えば大腸菌では、ポリペプチドは原核性宿主細胞における組み換えポリペプチドの発現を促すためにN−末端メチオニン残基を含んでよい。前記N−末端メチオニンは、発現された組み換えポリペプチドから切断してよい。
【0094】
原核性宿主細胞のために有用な発現ベクターの例は、商業的に入手可能なプラスミド、例えばクローニングベクターpETプラスミド(ノバジェン社、マジソン、WI、米国)又はpBR322(ATCC37017)から誘導されるベクターを含む。pBR322は、アンピシリン耐性及びテトラサイクリン耐性のための遺伝子を有し、従って形質転換された細胞の同定のための簡単な手段を提供する。pBR322を用いて発現ベクターを作成するために、適切なプロモーターと1つ以上の本発明のポリペプチドをコードするDNA配列をpBR322ベクターに挿入する。他の商業的に入手可能なベクターは、例えばpKK223−3(ファルマシアファインケミカル社、Uppsala、スウェーデン)及びpGEM−1(プロメガバイオテック社、マジソン、WI、米国)を含む。他の商業的に入手可能なベクターは、タンパク質の発現のために特別に設計されたベクターを含み、これらは、例えばマルトース結合タンパク質に融合されたタンパク質の発現に使用されるpMAL−p2及びpMAL−c2ベクター(ニューイングランドバイオラボ社、Beverly、MA、米国)を含む。
【0095】
組み換え原核性宿主細胞発現ベクターに通常使用されるプロモーター配列は、バクテリオファージT7プロモーター(Studier F.W. and Moffatt B.A., J.Mol.Biol. 189: 113, 1986)、β−ラクタマーゼ(ペニシリナーゼ)、ラクトースプロモーター系(Chang et al.、Nature 275: 615, 1978;及びGoeddel et al.、Nature 281: 544, 1979)、トリプトファン(trp)プロモーター系(Goeddel et al.、Nucl.Acids Res. 8:4057, 1980及びEP−A36776号)及びtacプロモーター(Maniatis, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, p.412, 1982)を含む。特に有用な原核性宿主細胞発現系は、ファージλPLプロモーター及びcl857ts易熱性リプレッサー配列を使用する。American Type Culture Collection(“ATCC”)から入手できるPLプロモーターの誘導体を導入するプラスミドベクターは、プラスミドpHUB2(大腸菌株JMB9(ATCC37092)に内在)及びpPLc28(大腸菌RR1(ATCC53082)に内在)を含む。
【0096】
本発明のポリペプチドは、酵母宿主細胞、有利にはサッカロマイセス属(例えばS.セレビシエ)からの宿主細胞において発現させてもよい。他の酵母の属、例えばピチア又はクルイベロマイセス(例えばK.ラクティス)を使用してもよい。酵母ベクターはしばしば、2μ酵母プラスミドからの複製起点配列、自律複製配列(ARS)、プロモーター領域、ポリアデニル化のための配列、転写終結のための配列及び選択可能なマーカー遺伝子を有する。酵母ベクターのために好適なプロモーター配列は、なかでも、メタロチオニン、3−ホスホグリセリン酸キナーゼ(Hitzeman et al.、J.Biol.Chem. 255: 2073, 1980)又は他の解糖系酵素(Hess et al.、J.Adv. Enzyme Reg. 7: 149, 1968;及びHolland et al., Biochem. 17: 4900, 1978)、例えばエノラーゼ、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ、ヘキソキナーゼ、ピルビン酸デカルボキシラーゼ、ホスホフルクトキナーゼ、グルコース−6−リン酸イソメラーゼ、3−ホスホグリセリン酸ムターゼ、ピルビン酸キナーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、ホスホグルコースイソメラーゼ、及びグルコキナーゼのためのプロモーターを含む。酵母発現において使用するために適した他のベクター及びプロモーターは、更にHitzemanのEP−A−73,657号又はFleer et al.、Gene, 107: 285-195 (1991);及びvan den Berg et al.、Bio/Technology, 8: 135-139 (1990)に記載されている。他の選択肢は、グルコース抑制性ADH2プロモーターでありRussell et al.(J. Biol. Chem. 258: 2674,1982)及びBeier et al.(Nature 300: 724,1982)により記載されている。酵母及び大腸菌の両方で複製可能なシャトルベクターは、大腸菌中での選別及び複製のためのpBR322からのDNA配列(Ampr遺伝子及び複製起点)の前記酵母ベクター中への挿入により作成されてよい。
【0097】
本発明の一実施態様は、本発明の核酸を有すべく改変された非ヒト生物である。非ヒト生物及び/又は宿主細胞は、遺伝子導入のためにこの分野で知られる任意の方法、例えば輸送措置、例えば脂質及びウイルスベクター、裸のDNAの使用、エレクトロポレーション、化学的方法及び粒子媒介遺伝子導入の使用を含む方法によって改変してよい。一実施態様では、非ヒト生物は、植物、昆虫又は微生物である。
【0098】
例えば一実施態様では、本発明は、少なくとも1つのセスキテルペン合成酵素の製造方法であって、少なくとも1つの核酸を有すべく改変された宿主を、前記の少なくとも1つのセスキテルペン合成酵素の製造に寄与する条件下で培養させることを含み、その際前記の少なくとも1つの核酸が、(a)配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4又は配列番号5に実質的に示されたヌクレオチド配列を有する核酸、(b)配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4又は配列番号5に実質的に示されたポリペプチドをコードする核酸並びに(c)低ストリンジェンシー条件下で(a)又は(b)の核酸にハイブリダイズする核酸から選択された少なくとも1つの核酸を有し、その際前記核酸によってコードされるポリペプチドはセスキテルペン合成酵素活性を有する方法を提供する。
【0099】
更なる一実施態様では、前記宿主は、植物、例えばタバコ又はパッチュリ、動物又は微生物、また制限されないが細菌細胞、酵母細胞、植物細胞及び動物細胞を含む。本願で使用される場合に、植物細胞及び動物細胞は、植物及び動物を宿主として使用することを含む。例えば本発明の幾つかの実施態様では、発現は遺伝子改変された非ヒト生物において行われる。
【0100】
例えば、哺乳動物又は昆虫の宿主細胞培養系を使用して、本発明の組み換えポリペプチドを発現させる。前記宿主細胞培養系、また同様に哺乳動物又は昆虫細胞中へのDNAの導入方法は、当業者に公知である。
【0101】
同様に、哺乳動物宿主細胞発現ベクターのための転写調節配列及び翻訳調節配列は幅広く報告されている。これらは例えばウィルスゲノムから切り取られてよい。
【0102】
トランスジェニック植物の作成についてこの分野で知られる幾つかの方法が存在する。これらは、制限されないが:植物プロトプラストのエレクトロポレーション、リポソーム媒介形質転換、アグロバクテリウム媒介形質転換、ポリエチレングリコール媒介形質転換、植物細胞のマイクロインジェクション及びウイルスを用いる形質転換を含む。一実施態様では、粒子撃ち込みによる直接的な遺伝子導入が用いられる。他の実施態様では、アグロバクテリウム媒介形質転換が利用される。
【0103】
粒子撃ち込みによる直接的な遺伝子導入は、植物組織の形質転換についての例を提供する。この技術では、DNAで被覆された粒子又は微小発射体が細胞の物理的障壁を通して打ち込まれる。粒子撃ち込みを用いて、DNA被覆粒子により貫通可能な任意の標的組織中にDNAを導入できるが、安定な形質転換のためには、再生可能な細胞を使用することが必須である。一般に、その粒子は金又はタングステンからなる。前記粒子は、通常この分野で知られるCaCl2又はエタノール沈殿法のいずれかを用いてDNAで被覆される。
【0104】
DNA被覆粒子はパーティクルガンから打ち込まれる。適したパーティクルガンは、バイオラドラボラトリーズ社(Hercules,CA)から入手できる。粒子貫通は、種々のパラメータ、例えば爆発強度、粒径又は粒子が標的組織に到達するまでに経由せねばならない距離によって制御される。
【0105】
粒子の被覆のために使用されるDNAは、前記遺伝子に機能的に結合されたプロモーターを有する前記遺伝子の発現を駆動するのに適当な発現カセットを有してよい。
【0106】
粒子撃ち込みによる直接的な遺伝子導入を実施する方法は、Tomes et al.に対する米国特許第5,990,387号に開示されている。
【0107】
一実施態様では、本発明のcDNAは、センスRNA又はアンチセンスRNAのいずれかを産生するように発現させてよい。アンチセンスRNAは、遺伝子によってコードされるmRNA(センスRNA)の逆相補である配列を有するRNAである。アンチセンスRNAの発現を駆動するベクターは、cDNAがプロモーターに関して“逆方向”で配置され、その結果、非コーディング鎖(コーディング鎖ではなく)が転写されるベクターである。アンチセンスRNAの発現を用いて、アンチセンスRNAに相補的なmRNAによってコードされるタンパク質の発現を下方調節することができる。アンチセンスRNAを産生するベクターを用いて、前記のようにトランスジェニック植物を作成できる。
【0108】
一実施態様では、トランスフェクションされたDNAを非ヒト生物の染色体に組み込み、その結果、安定な組み換え系が得られる。この分野で公知の任意の染色体組み込み方法、制限されないが例えば、レコンビナーゼ媒介カセット交換(RMCE)、ウイルス部位特異的染色体挿入、アデノウイルスと前核注入を本発明の実施において使用してよい。
【0109】
本発明の更なる実施態様は、テルペノイド及びセスキテルペン化合物を、本発明のヌクレオチド及びポリペプチドを用いて製造する方法を含む。少なくとも1つのテルペノイドを製造する例は、少なくとも1つの非環式ピロリン酸テルペン前駆体と、本発明による核酸によってコードされる少なくとも1つのポリペプチドとを接触させる事を含む。有利には前記核酸は、(a)配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4又は配列番号5に実質的に示されたヌクレオチド配列を有する核酸、(b)配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9又は配列番号10に実質的に示されたポリペプチドをコードする核酸並びに(c)低ストリンジェンシー条件下で(a)又は(b)の核酸にハイブリダイズする核酸から選択され、その際前記核酸によってコードされるポリペプチドはセスキテルペン合成酵素活性を有し、そして産生された少なくとも1つのテルペノイドを単離する。もう一つの例としては、少なくとも1つのテルペノイドの製造方法であって、少なくとも1つの非環式ピロリン酸テルペン前駆体と、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9又は配列番号10に実質的に示された少なくとも1つのポリペプチドとを接触させ、そして産生された少なくとも1つのテルペノイドを単離することを含む方法がある。
【0110】
本願で使用される場合には、非環式ピロリン酸テルペン前駆体は、制限されないがゲラニルピロリン酸(GPP)、ファルネシルピロリン酸(FPP)及びゲラニルゲラニルピロリン酸(GGPP)を含む、少なくとも1つのテルペンの産生の前駆体である任意の非環式ピロリン酸化合物である。
【0111】
一実施態様では、前記の少なくとも1つのテルペノイドはセスキテルペンから選択される。一実施態様では、少なくとも1つの非環式ピロリン酸テルペン前駆体はファルネシルピロリン酸である。更なる一実施態様では少なくとも1つのセスキテルペンは、即製の図1〜12に示した、パッチュロール、γ−クルクメン及びその他のゲルマクラン型セスキテルペンから選択される。本発明のテルペノイドは、この分野で使用される任意の方法により単離されてよく、クロマトグラフィー、抽出及び蒸留を含むがこれに限定されるものではない。
【0112】
一実施態様では、生成物の分布又は形成される実際上の生成物を、前記合成酵素が非環式ピロリン酸テルペン前駆体、例えばファルネシルピロリン酸に接触する際のpHを変化させることによって改変してよい。一実施態様では、前記pHは7である。更なる一実施態様では、前記pHは7未満、例えば6、5、4及び3である。
【0113】
また本発明の実施内には、セスキテルペン合成酵素の基質(例えばFPP)の高レベルの産生のための及び本発明の核酸を生物に導入するための基盤を作成するために使用される生物(例えば微生物又は植物)がある。例えば、セスキテルペン合成酵素をコードする本発明の少なくとも1つの核酸を、FPPを産生する非ヒト生物に組み込み、これによりFPPのセスキテルペンへの変換、そして引き続くセスキテルペンの代謝による産生に影響を及ぼす。一実施態様では、これによりセスキテルペンの高レベルの産生のための基盤が生じる。
【0114】
一実施態様では、本発明の核酸を使用して、セスキテルペン合成酵素をコードする他の核酸を作成できる。例えば本発明は、セスキテルペン合成酵素を同定する方法であって、本発明の核酸を用いてDNAライブラリーを作成し、少なくとも1つのセスキテルペン合成酵素をコードする核酸について前記ライブラリーをスクリーニングすることを含む方法を提供する。本発明の核酸を使用するDNAライブラリーは、この分野で公知の任意の方法によって作成してよく、その際、DNA配列は、出発点として本発明の核酸を用いて、例えば制限されないがDNAシャッフリングで創製される。かかる方法において、前記ライブラリーをセスキテルペン合成酵素について機能的アッセイを用いてスクリーニングして、セスキテルペン合成酵素をコードする標的核酸を見出してよい。セスキテルペン合成酵素の活性は、例えば本願に記載の方法を用いて分析してよい。一実施態様では、高処理量スクリーニングを用いて、コードされるポリペプチドの活性を分析する。
【0115】
本願で使用される場合には、”ヌクレオチドプローブ”は、相補配列の標的核酸に1つ以上の化学結合を介して、相補塩基対又は水素結合形成を介して、結合可能なオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドとして定義される。前記のように、このオリゴヌクレオチドプローブは天然の塩基(すなわちA、G、C又はT)又は修飾塩基(7−デアザグアノシン、イノシンなど)を含んでいてよい。付加的にヌクレオチドプローブ中の塩基を、ホスホジエステル結合以外の結合によって、それがハイブリダイゼーションを抑制しない限りは結合させてよい。このようにオリゴヌクレオチドプローブは、ホスホジエステル結合ではなくペプチド結合によって結合された構成塩基を有してよい。
【0116】
本願の“標的核酸”は、ヌクレオチドプローブ又は分子が特異的にハイブリダイズできる核酸を示している。前記プローブは、標的核酸の存在又は不在及び標的核酸の量を測定するように設計される。前記標的核酸は、その標的に向けられる相応のプローブの核酸配列に相補的な配列を有する。当業者に理解されるように、プローブはまた、標的に特異的にハイブリダイズしなくてよい付加的な核酸又は他の成分、例えば標識を有してもよい。核酸という用語は、プローブが向けられる大きな核酸の特定のヌクレオチド配列又は全配列(例えば遺伝子又はmRNA)を示してよい。当業者は、種々の条件下での完全な有用性を理解するはずである。
【0117】
実施例又はそれ以外の指示を別として、成分、反応条件の量、及び明細書及び特許請求の範囲で使用されるその他の量を表す全ての数は、全ての場合に“約”という用語によって変更されると解されるべきである。従って、これに反する指示がない限り、明細書及び特許請求の範囲に示される数的パラメータは近似値であり、これは本発明によって得ることが求められる所望の特性に依存して変更してよい。少なくとも、かつ特許請求の範囲の均等理論の適用の制限を試みることとしてではなく、各々の数的パラメータは有効数字数の見方及び通常の丸めの手法で解釈すべきである。
【0118】
本発明の広い範囲で示される数的範囲及び数的パラメータは近似値であるが、特定の実施例に示される数値はできる限り正確なものとして報告される。しかしながら任意の数値は本質的に、そのそれぞれの試験測定で見られる標準偏差から必然的に生ずる一定の誤差を含む。以下の実施例は本発明を説明することを意図するもので、結果としてその範囲を制限するものではない。パーセンテージは質量に対するものである。
【0119】
定義されていなければ、本願で使用される全ての技術的及び理学的用語は、本発明の属する分野の通常のいかなる当業者によっても一般的に理解されるのと同様の意味合いを有する。本願で説明されたのと同様又は均等である任意の方法及び材料が本発明の実施において使用されてもよいが、例示した方法及び材料は、例証する目的で記載されたものである。本願で挙げた全ての刊行物は、前記刊行物を引用した方法及び/又は材料との関連で、方法及び/又は材料の開示及び説明のために参照により組み込まれる。
【0120】
付加的に、本願で取り上げる刊行物は本願の出願前の開示のためだけに提供される。ここでは、本願が先行発明のために前記刊行物に遡る資格がないとの容認として認識してはならない。更に、示した刊行物の日付は独立して確認されるべき実際の刊行日とは異なっている可能性がある。
【0121】
本願で及び付加した特許請求の範囲で使用されるように、単数形”a”、”an”及び”the”とはこの文脈が他に明確に指示していなければ複数形の指示対象も含む。従って、例えば”テルペン”との言及は前記テルペンの複数を含み、”ベクター”との言及は、1つ以上のベクター及び当業者に公知であるその均等物の言及を含む。
【0122】
本発明の実施において使用されてよい方法、技術、及び/又はプロトコル(まとめて”方法”)は、本明細書を通して言及される手法の特定の例に限定されないで同様の目的のためにこの分野で知られている任意の手法を包含する。例えば、宿主細胞中のDNA配列の発現方法に関して、本発明は本願で言及したプロトコルに限定せずに当業者に知られている使用可能な任意の、宿主細胞中でDNA配列を発現するための方法を含む。
【0123】
以下の実施例は本発明を説明することを意図するもので、結果としてその範囲を制限するものではない。
【0124】
実施例
材料
本実施例で使用されるPogostemon Cablin(パッチュリ)植物を、地元の生産者、Le Jardin des Senteurs(Neuchatel,スイス国)から得て、Centre d’Horticulture de Lullier (Jussy,スイス国)の中の温室で成育し挿し木により繁殖させた。パッチュリ植物の他に入手可能な供給源を以下の実施例で使用してよい。前記植物からの葉のGC−MS分析は、全ての大きさの葉で高パッチュロール含量を示した。全RNA及びmRNAを、前記パッチュリ植物から新たに回収した様々な大きさの葉の混合から抽出した。
【0125】
実施例1:全RNA及びmRNAの単離
パッチュリ植物から葉を回収し、すぐさま液体窒素中で凍結させ、乳鉢と乳棒を用いて破砕した。全RNAを、製造者の指示に従ってインビトロジェン社からのConcert TM Plant RNA Reagentを用いて抽出した。概して、平均200μgの全RNAを破砕組織1gから得た。RNAの濃度を260nmでのODから見積もった。RNAの完全性を、アガロースゲル上でリボソームRNAバンドの完全性の検査により評価した。このmRNAを、製造者の指示に従ってFast Track(R) 2.0mRNA isolation Kit (インビトロジェン社)を用いたオリゴdT−セルロースアフィニティクロマトグラフィーにより全RNAから精製した。
【0126】
実施例2:逆転写(RT)−PCR
RT−PCRを、キアゲン社製のOneStep RT−PCR Kitとエッペンドルフ社製のマスターサイクラーグラジエント型のサーマルサイクラーを用いて実施した。典型的な反応混合物は、10μlの5×キアゲン社製OneStep RT−PCR緩衝液、400μMの各dNTP、400nMの各プライマー、2μlのキアゲン社製のOneStep RT−PCR酵素ミックス、1μlのRNasin(R)リボヌクレアーゼ阻害剤(プロメガ社)及び1μgの全RNAを最終容量50μl中に有していた。このサーマルサイクラー条件は:50℃で30分間(逆転写):95℃で15分間(DNAポリメラーゼ活性化);94℃で45秒間、42℃で10秒間及び72℃で45秒間の40サイクル;最後に72℃で10分間である。
【0127】
PCR産物のサイズを1%のアガロースゲル上で評価した。期待されたサイズに相当するバンドをゲルから切り出し、QIAquick(R) Gel Extraction Kit(キアゲン社)を用いて精製し、そしてpCR(R)2.1−TOPOベクター中にTOPO TA cloning Kit(インビトロジェン社)を用いてクローニングした。挿入したDNA断片を次にDNA配列決定にかけ、前記配列をBLASTXアルゴリズム(Altschul, S. F. , Gish, W., Miller, W. , Myers, E. W. ,及びLipman, D. J. (1990) Basic local alignment search tool. J. Mol.Biol. 215,403-410)を用いてGenBank non−redundant protein database(NCBI)と比較した。
【0128】
実施例3:3′−RACE及び5′−RACE
cDNA末端の3′及び5′の迅速増幅(RACE)のために、製造者のプロトコルに従ってMarathonTM cDNA Amplification Kit (クローンテック社)を用いて、アダプターが連結した二本鎖cDNAをパッチュリ葉のmRNAから調整した。特定のcDNAの3′末端又は5′末端をアドバンテージ(Advantage)(R)2ポリメラーゼミックスにより遺伝子特異的なオリゴヌクレオチドとアダプター特異的なオリゴヌクレオチドとの組合せを用いて増幅させた。典型的なRACE反応混合物は、50μlの最終容量中に、5μlの10×PCR反応緩衝液(クローンテック社)、200nMの各dNTP、1μlのアドバンテージ(Advantage)(R)2ポリメラーゼミックス、200μMのアダプター特異的なプライマー(クローンテック社)、200μMの遺伝子特異的なプライマー及び50〜250倍に希釈したcDNA5μlを有する。増幅は、エッペンドルフ社製のマスターサイクラーグラジエント型のサーマルサイクラーで実施した。前記サーマルサイクラー条件は以下のようである:94℃で1分間、94℃で30秒間及び72℃で2〜4分間の5サイクル、94℃で30秒間及び70℃で2〜4分間の5サイクル、94℃で20秒間及び68℃で2〜4分間の20サイクル。ネステッドアダプター特異的プライマー(クローンテック社)及びネステッド遺伝子特異的プライマーを用いた第二周目の増幅を繰り返して実施する。前記増幅産物を評価し、サブクローニングし、この配列を上記のように分析した。
【0129】
PCR産物のサイズを1%のアガロースゲル上で評価した。期待されたサイズに相当するバンドをゲルから切り出し、QIAquick(R)Gel Extraction Kit(キアゲン社)を用いて精製し、そしてpCR(R)2.1−TOPOベクターにTOPO TA cloning Kit(インビトロジェン社)を用いてクローニングした。挿入したDNA断片を次にDNA配列決定にかけた。この配列をまず、BLASTXアルゴリズム(Altschul, S. F. , Gish, W., Miller, W. , Myers, E. W. ,及びLipman, D. J. (1990) Basic local alignment search tool. J. Mol.Biol. 215,403-410)を用いてGenBank non−redundant protein database(NCBI)と比較し、次に重要なDNA配列重複が得られているかを確認するために初期DNA配列と比較した。
【0130】
実施例4:発現プラスミドの作成
前記セスキテルペン合成酵素の機能的発現のために、このcDNAをpET11a(ノバゲン社)、pET101(インビトロジェン社)、又はpET102(インビトロジェン社)の発現プラスミド中でサブクローニングした。前記プラスミド中で前記cDNAを、大腸菌細胞で前記組み換えタンパク質の発現を調整するT7プロモーターの下流に配置した。大腸菌細胞の形質転換後に、前記タンパク質の発現をイソプロピル−ベータ−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)により誘導してもよい。
【0131】
pET11aでのインサートの連結は、Ndel及びBamHI制限エンドヌクレアーゼの使用を必要とする。開始コドン直前及び停止コドン直後に好適な制限酵素認識部位(Ndel及びBamHI)を導入すべく設計されたプライマーとしてのオリゴヌクレオチドを用いてPCRによりインサートを増幅した。この増幅したcDNAを精製し、好適な制限酵素で消化し、かつ同様の酵素で消化したpET11aに連結した。作成物を消化及びDNA配列決定により確認した。
【0132】
PatTpsAのpET11aへの連結のために、Ndel制限部位を開始コドンの直前、及びBamHI制限部位を停止コドンの直後に導入すべく、PatTpsA Nde及びPatTpsA Bam(表1)プライマーを用いて、このcDNAをPCRにより増幅した。
【0133】
pET101及びpET102プラスミドを、pET Directional TOPO(R) Expression Kit(インビトロジェン社)と共に使用して、制限部位を導入する必要なしにPCR産物の定方向クローニングを可能にした(前記cDNAが、コーディング領域にサブクローニングに必要な制限部位を有する場合に有用性がある)。前記2つのプラスミドでのcDNAの連結のために、インサートをPCRにより、前記cDNAを前記開始コドン及び停止コドンを含めて増幅すべく設計されたオリゴヌクレオチドをプライマーとして使用して増幅した。連結を製造者のプロトコルに従って実施した。作成物をDNA配列決定により確認した。
【0134】
pET102でのPatTpsAの連結のために、このcDNAをプライマー、PatTpsA topo及びPatTpsA Stop(表1)を用いて増幅した。pET101及びpET102へのPatTpsBF2の連結のために、このcDNAをPCRによりプライマー、PatTpsBF2.1 topo及びPatTpsBF2.1 stop(表1)を用いて増幅した。pET101での連結のためのPatTpsCF2の増幅のために、プライマー、PatTpsCF2 topo及びPatTpsCF2 stop(表1)を用いた。pET101での連結のためのPatTpsB15及びPatTps177の増幅のために、プライマー対、PatTpsB15 topo−PatTpsB15 stop及びPatTps177 topo−PatTps177 stopをそれぞれ用いた。
【0135】
発現のためのcDNAの全ての増幅を、50μlの最終容量中に、5μlのPfu DNAポリメラーゼ10×緩衝液、200μM各dNTP、0.4μMの各フォワードプライマー及びリバースプライマー、2.9ユニットのPfuDNAポリメラーゼ及び5μlの100倍希釈したcDNA(MarathonTM cDNA Amplification Kit(クローンテック社)を用いて本願で前記したように調整された)を有する、Pfu DNAポリメラーゼ(プロメガ社)を用いて実施した。この熱周期条件は以下のとおりである:95℃で2分間;95℃で30秒間、52℃で30秒間及び72℃で4分間を25周期;及び72℃で10分間。このPCR産物をアガロースゲル上で精製し、QIAquick(R)Gel Extraction Kit(キアゲン社)を用いて溶出させた。
【0136】
実施例5:セスキテルペン合成酵素発現
標準的なタンパク質発現実験で、セスキテルペン合成酵素cDNAを含有する発現プラスミドと空のプラスミド(ネガティブコントロールのため)とを、BL21(DE3)又はBL21 StarTM(DE3)の大腸菌細胞(ノバゲン社)に形質転換した。形質転換した大腸菌の単一コロニーを用いて、5mlのLB培地に接種した。37℃で5〜6時間インキュベートした後に、その培養を20℃のインキュベーターに移し、そして平衡化のために1時間置いた。次にタンパク質の発現を、次いで0.5mMのIPTG添加により誘導し、この培養を一晩20℃でインキュベーションした。翌日、この細胞を遠心分離により回収し、0.5mlの抽出緩衝液(50mMのMOPSO、pH7、5mMのDTT、10%のグリセロール)中に再懸濁し、30秒間3回超音波処理した。この細胞片を18000gで30分間遠心分離して沈殿させ、可溶性タンパク質を含有する上清を回収した。セスキテルペン合成酵素の発現を、SDS−PAGEでのタンパク質抽出物の分離、クーマシーブルー染色、及び空のプラスミドで形質転換された細胞から得られたタンパク質抽出物との比較により評価した。
【0137】
実施例6:酵素アッセイ
酵素アッセイをテフロン密封したガラス試験管中で、15mMのMgCl及び100〜250μMのFPP(シグマ社)を加えた抽出緩衝液の最終容量1ml中のタンパク質抽出物50〜100μlを用いて行った。この媒体を1mlのペンタンで成層し、試験管を30℃で一晩インキュベートした。前記ペンタン相はセスキテルペンを含有し、これを回収し、そして媒体抽出物を第二容量のペンタンで抽出した。合したペンタン画分を窒素下で濃縮し、ガスクロマトグラフィーによってヒューレット−パッカード社6890シリーズのGCシステムにおいて0.25mmの内径の30mのSPB−1(スペルコ社)キャピラリーカラムを用いて分析した。キャリヤーガスはHeであり、1.6ml/分の一定流であった。注入をスプリットレスモードで、インジェクター温度を200℃に設定して行い、オーブンを7.5℃/分で100℃(0分固定)にしてから200℃(0分固定)にし、引き続き20℃/分で280℃(2分固定)にするようにプログラムした。検出は火炎イオン化検出器で行った。化合物の同定は、利用できれば基準スタンダードとの保持時間の一致に基づくものである。生成物の同一性の確認のために、試料を、0.25mmの内径の30mのSPB−1(スペルコ社)キャピラリーカラムを備えたヒューレット−パッカード社6890シリーズのGC−四極質量選択的検出システムを用いて組み合わされたキャピラリーGC−MSによって分析した。オーブンは、1.5ml/分の一定流のHeで80℃(0分固定)から7℃/分で280℃になるようにプログラムした。スペクトルを70eVで2200Vの電子倍増管電圧を用いて記録した。前記酵素産物の保持時間を、基準スタンダードの保持時間と比較するか又はKovatsの保持指標を計算し、刊行データ(Joulain, D. , and Koenig, W. A. The Atlas of Spectral Data of Sesquiterpene Hydrocarbons, EB Verlag, Hamburg, 1998)と比較した。
【0138】
実施例7:セスキテルペン合成酵素のcDNAのRT−PCRを用いた単離
植物のセスキテルペン合成酵素の導かれたアミノ酸配列のアラインメントを行い、保存された領域を同定し、そして植物のセスキテルペン合成酵素特異的なオリゴヌクレオチドを設計した。より良好な配列相同性を得るために、これらの配列を2つの群に分けた(図2)。第1の群は、トマト、栽培品種VFNT cherryからのゲルマクレンC合成酵素(Colby, S.M., et al. (1998)Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 95 (5), 2216-2221.)、セイヨウハッカからの(E)−β−ファルネセン合成酵素(Crock, J. , et al. (1997) Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 94(24), 12833-12838)、グランドファーからのδ−セリネン合成酵素(Steele, C. L., et al. (1998) J.Biol. Chem. 273 (4), 2078-2089)、ユズからのセスキテルペン合成酵素(GenBank 受入番号AF288465)、タバコから(Facchini, P. J. and Chappell, J. (1992) Proc.Natl. Acad. Sci. U. S. A. 89, 11088-11092)の及びトウガラシから(Back, K. , et al. (1998) Plant Cell Physio. 39 (9), 899-904)の5−エピ−アリストロチェン合成酵素、ジャガイモ及びヒヨスシアムス・ムチクス(Hyoscyamus muticus)からのベチスピラジエン合成酵素(Back, K. and Chappell, J. (1995) J.Biol. Chem. 270 (13), 7375-7381)の配列を含む。第2の群は、キダチワタからの(+)−δ−カジネン合成酵素(Chen, X. Y. et al.(1995) Arch. Biochem. Biophys. 324 (2), 255-266)、クソニンジンからのアモルファ−4,11−ジエン合成酵素(Mercke, P. et al.(2000) Arch. Biochem. Biophys. 381 (2), 173-180)及びエピ−セドロール合成酵素(Mercke, P. et al.(1999) Arch. Biochem. Biophys. 369 (2),213-222)及びグランドファーからのγ−フムレン合成酵素(Steele, C. L. et al.(1998) J.Biol. Chem. 273 (4), 2078-2089)の配列を含有する。最も高い配列相同性はこれら配列の中央部に見出された。十分に保存されたアミノ酸を有する3つの領域を選択し、そしてこれらの領域に特異的なデジェネレートオリゴヌクレオチドを設計した(即ち4つのフォワードプライマー(TpsVF1、TpsVF2、TpsCF1、TpCF2)と2つのリバースプライマー(TpsVR3、TpsCR3)を導いた)(図2)。
【0139】
パッチュリ葉からの全RNAを、前記オリゴヌクレオチドの幾つかの組み合わせを用いてRT−PCR(逆転写ポリメラーゼ連鎖反応)を実施するために使用した。TpsCF1及びTpsCR3のプライマー組み合わせを用いる増幅により、期待したサイズ(180bp)のアンプリコン(Pat5と命名)を得た。この断片を精製し、同様のプライマーで再増幅した。この180bpのアンプリコン(Pat5−10)を精製し、pCR(R)2.1−TOPOプラスミド(インビトロジェン社)中でサブクローニングし、5つのクローンを配列決定した。その内で、1つのクローン、Pat5−10−4はセスキテルペン合成酵素の配列類似性を有し、PatTpsAと名付けた。
【0140】
同様に、前記Pat5断片をプライマー、TpsCF2及びTpsCR3で再増幅した。これにより3つのクローン(120bpインサート)、Pat−8−1−1、Pat−8−1−6、及びPat−8−1−7を得て、これらはセスキテルペン合成酵素と配列類似性を有する。Pat−8−1−6及びPat−8−1−7は、前もって得たクローンPat−5−10−4(PatTpsA)と同じDNA配列を有した。Pat−8−1−1は異なるDNA配列を有し、PatTpsCと名付けた。
【0141】
その他の実験において、プライマー、TpsVF2及びTpsCR3を用いて120bpのDNA断片(Pat8−10−2)を得、前記断片はセスキテルペン合成酵素と配列類似性を示し、2つの前もって得たクローンとの著しい差異を有した。このクローンをPatTpsBと名付けた。
【0142】
実施例8:セスキテルペン合成酵素cDNAの5′/3′−RACEを用いた単離
前記セスキテルペン合成酵素の完全長配列を単離すべく、5′/3′−RACE(cDNA末端の迅速増幅)のアプローチをまず使用した。前記の3つの同定したセスキテルペン合成酵素配列に特異的なフォワードプライマーを設計(表1)し、3′RACEを実施した。期待したサイズを有する断片を3つの全てのクローンに対して得た。配列解析により、3つの異なるクローンから3′の半分のcDNAが同定され、PatA−14、PatB−15及びPat−C16(図3)と名付けた。
【0143】
このクローンのもう半分(5′末端)を得るために、前記の3つの配列に基づいてリバースプライマーを設計した(各クローンに対して2つのプライマー;表1)。5′RACEを実施し、3つの異なるセスキテルペン合成酵素の5′末端の半分長を得た:PatAF2、PatBF2及びPatCF2(図4)。3′RACE産物及び5′RACE産物の配列比較は、配列重複(54bp)が、PatA−14とPatAF2との間に100%の同一性で存在することを示し、これによりPatTpsAの完全長配列が得られた(図5)ことを確認する。しかしながら、その他4つのRACE産物に関しては重複がなく、この2つの3′RACE産物及びこの2つの5′RACE産物が異なるクローンからであることを意味する。
この段階で、1つの完全長cDNA(PatTpsA)、2つの3′末端の半分のcDNA、及び2つの5′末端の半分のcDNAを得た。これら残りのクローンの完全長cDNAを得るために、特異的なプライマーを設計した。まず、PatBF2及びPatCF2に特異的なフォワードプライマーを設計(表1)し、3′RACEを実施した。得られた3′RACE産物の配列を分析するとセスキテルペン合成酵素類似性が示された。PatBF2及びPatCF2との比較は十分な配列重複を示し、PatTpsBF2及びPatTpsCF2と名付けた2つのセスキテルペン合成酵素に対するcDNAの完全長配列が得られたことを結論づける(図5)。同様にして、PatB−15及びPatC−16に特異的な新規のリバースプライマーを設計した(表1)。前記配列のうち、前もって得たクローンとの最も大きな差異を有する配列中の領域を、PatB−15及びPatC−16のcDNAの増幅に有利であるように選択した。PatB−15に5′RACEを行うことで、PatTpsB−15の完全長cDNA配列を得た(図5)。PatC−16関しては、5′RACEは期待したDNA断片を産生せず、前記クローンは不完全なままであった。
【0144】
セスキテルペン合成酵素をコードする新規のcDNAを単離するために、オリゴヌクレオチドをパッチュリ葉から既に単離されたcDNAをコードする前記4つのセスキテルペン合成酵素のDNA配列に基づいて設計した。PatTpsA、PatTpsBF2、PatTpsCF2及びPatTpsB15からのDNA配列をアラインメントし、保存された領域を探索した。4つの領域を選択(図6)し、2つのフォワードデジェネレートオリゴヌクレオチドと2つのリバースデジェネレートオリゴヌクレオチドを設計した(表1)。この4つの”パッチュリセスキテルペン合成酵素特異的”なプライマーを、鋳型cDNAとしてパッチュリ葉から調整したmRNAを用いてPCRで使用した(Marathon Kit、クローンテック社)。このアプローチにより得られた様々なクローンからのDNA配列分析は、予期できたように、大抵が既に単離されたcDNAの断片であった。しかし2つのクローン、FID177及びFID178(これは同一である)は、新規のセスキテルペン合成酵素からであった。この特異的プライマー、Pat177−5R1及びPat177−5R2(表1)を用いた3′RACE、及び特異的なプライマー、Pat177−3R1及びPat177−3R2(表1)を用いた5′RACEにより、このcDNAの完全長配列が生じ、これをPatTps177と名付けた。
【0145】
前記の5つの完全長セスキテルペン合成酵素cDNA及び1つの部分セスキテルペン合成酵素cDNAから導かれるアミノ酸配列のアラインメントを、図5に示した。前記cDNAのヌクレオチド配列のアラインメントを図6に示し、前記実験で前記セスキテルペン合成酵素から得られたDNA及びアミノ酸配列を図13〜18に示した。
【0146】
表1:前記作業で使用したオリゴヌクレオチドの名称、配列及び説明。配列番号49〜88をそれぞれ登場順に表1に示した。
(V=A+C+G、D=A+T+G、B=T+C+G、H=A+T+C、W=A+T、S=C+G、K=T+G、M=A+C、Y=C+T、R=A+G)。
【0147】
表1
【0148】
【表1】

【0149】
【表2】

【0150】
【表3】

【0151】
実施例9:異種発現及び酵素活性の特性決定
完全長cDNAが単離されたセスキテルペン合成酵素の生化学的な特性決定のために前記cDNAを適切な発現プラスミドに連結した。前記プラスミドを、大腸菌細胞を形質転換するために使用し、組み換えタンパク質の発現後、前記大腸菌のタンパク質を抽出し、FPPからセスキテルペン化合物への生化学的変換を評価するために使用した(実施例5及び6参照)。
【0152】
PatTpsA:PatTpsAのcDNAをpET11a発現プラスミドに連結した(実施例5及び6)。市販の大腸菌株BL21(DE3)中での異種発現は、機能的可溶性組み換えタンパク質を少量のみ、不溶性タンパク質を大量に産生した(セスキテルペン合成酵素は可溶性タンパク質であり不溶性タンパク質は封入体として沈殿する不活性タンパク質を反映する)。可溶性セスキテルペン合成酵素タンパク質画分を向上させるべく、正確な折りたたみを容易にするためにタンパク質合成を減速することによる幾つかの試みを行った(低温培養、低濃度の誘導物質)。著しい向上は観察されなかった。
【0153】
PatTpsAをやはりpET102プラスミドに連結し、これによりチオレドキシンタンパク質を有する融合タンパク質としてのセスキテルペン合成酵素の発現を可能にした。チオレドキシンはタンパク質折りたたみの間のジスルフィド結合の形成を促進する。この種の融合は、発現タンパク質の正確な折りたたみ及び可溶化を向上させることが示されている。この系を用いたPatTpsAの発現は、機能的タンパク質の発現を向上させなかった。
【0154】
結果として、PatTpsAに関しては前記組み換え大腸菌タンパク質抽出物中で見出された酵素活性は低く、しかしながら少量のセスキテルペンの生合成が検出された。GC−MS分析及び保持指標(KI)の計算により、産生された主分セスキテルペンとしてγ−クルクメンの同定が可能であった(図7)。幾つかの副分セスキテルペンの産生は排除できなかったが、低い活性のために同定できなかった。
【0155】
これは、γ−クルクメン合成酵素をコードするcDNAのクローニングの最初の報告を構成するものである。γ−クルクメンはパッチュリ油中では検出されなかった。前記化合物が極めて低い濃度で存在するか、又はその他の化合物に変換されている可能性がある。
【0156】
PatTpsBF2:PatBF2 cDNAをpET101プラスミドに連結した(実施例4)。BL21 StarTM (DE3)大腸菌細胞(インビトロジェン社)の形質転換及び発現の誘導後、可溶性組み換えタンパク質は極めて少量しか検出されなかった。PatTpsAに関しては、pET102プラスミドを用いた発現(チオレドキシンタンパク質への融合体としての発現)は機能的タンパク質の発現を向上させなかった。セスキテルペン合成酵素活性はPatTpsBF2タンパク質を発現する大腸菌からの粗タンパク質抽出物で検出され得た(図8)。ただ1つのセスキテルペン産物、(−)−ゲルマクレンDが同定され得た(質量スペクトル及び保持指標により確認された)。ゲルマクレンDはパッチュリ油中で検出されたことはなく、痕跡量成分として存在するか、又は植物中で他の化合物に変換される可能性がある。ゲルマクレンD合成酵素のcDNAは以前にトマトから単離されている(van der Hoeven, R. S. , Monforte, A. J. , Breeden D.,Tanksley, S. D. , and Steffens J. C. (2000) The Plan cell 12,2283-2294)が、全ての副産物を含めると、その全体的な産物特性は異なるようである。
【0157】
PatTpsCF2:PatTpsCF2 cDNAをpET101プラスミドに連結し、BL21 Star TM(DE3)の大腸菌細胞をこの作成物で形質転換した。比較的多量の組み換えタンパク質が得られ、このセスキテルペン合成酵素活性は容易に検出された。ファルネシルピロリン酸でのインキュベーション後、幾つかのセスキテルペンはGC−MSにより分離され得た(図9)。この主なピークは(−)−β−エレメントとして同定できた。この化合物は、前記GCの熱いインジェクター中で(+)−ゲルマクレンAの熱による転位(コープ転位)により形成される。このようにしてPatTpsCF2は、主な化合物として(+)−ゲルマクレンAを産生するセスキテルペン合成酵素である。他の副分セスキテルペンもまた検出され、そのうちの幾つか、例えば4,5−ジ−エピ−アリストロチェン、(−)−エレモフィレン(eremophilene)及びα−セリネンが暫定的に同定された(図9)。(−)−β−エレメントは副成分として同じパッチュリ油分析において検出され、(+)−ゲルマクレンAがこの油中に存在することを意味する。ゲルマクレンAは、植物種に比較的遍在するセスキテルペンである。ゲルマクレン合成酵素をコードするcDNAは、レタス、チコリー及びアキノキリンソウを含む幾つかの植物種から単離されている(Bennett, M. H. et al.(2002) Phytochem. 60,255-261 ; Bouwmeester, H. J. et al.(2002) Plant Physio. 129 (1), 134-144; ProsserI et al.(2002) Phytochem. 60,691-702)。
【0158】
PatTspB15:PatTpsB15 cDNAをpET101プラスミドに連結し、BL21 Star TM(DE3)大腸菌細胞を形質転換した。この組み換えセスキテルペン合成酵素の発現誘導後に抽出した粗大腸菌タンパク質での酵素アッセイは、FPPの比較的良好な代謝を示した。複数のセスキテルペンがGC−MSにより検出された(図10)。この主成分は(−)−ゲルマクレンDとして同定された(質量スペクトル及び保持指標による)。δ−エレメント、(−)−β−エレメント(それぞれ、ゲルマクレンC及び(+)−ゲルマクレンAの熱による転位産物)、β−イランゲン、(E,E)−β−ファルネセン及び(E,E)−α−ファルネセンもまた、前記組み換えPatTpsB15により形成された副産物のうちに同定され得た。少なくとも8つのその他のセスキテルペンを産生したが、この構造は明確には決定され得なかった。PatTpsB15セスキテルペン合成酵素は、PatTpsBF2の活性に類似の活性を有し、その形成された主産物は(−)−ゲルマクレンDである。しかし形成された全ての産物を含めると、これら2つの酵素の触媒活性は著しく異なっているようである。
【0159】
PatTps177:PatTps177 cDNAをpET101プラスミドに連結し、BL21 Star TM(DE3)大腸菌細胞を形質転換し、この組み換えセスキテルペン合成酵素の発現を誘導した。この粗タンパク質抽出物及び基質としてFPPを用いた酵素アッセイは、PatTps177がパッチュロール合成酵素であることを示した。前記酵素は主産物として(−)−パッチュロール及び少なくとも18のその他のセスキテルペンを産生した(図11及び12)。前記酵素により産生された大抵のセスキテルペンはGC−MSにより同定され、GC(火炎イオン化検出)によりこの量を見積もることが可能であった:(−)−パッチュロール(39.1%)、β−パッチュレン(2.1%)、(+)−ゲルマクレンA(熱による転位産物β−エレメントとして検出)(1.6%)、trans−β−カリオフィレン(4.5%)、α−グアイエン(14%)、セイケレン(seychellene)(4%)、trans−β−ファルネセン(3%)、α−フムレン(1.1%)、α−パッチュレン(8.9%)、(Z,E)−α−ファルネセン(1.35%)、γ−パッチュレン(2.5%)、(trans)−α−ファルネセン(3%)及びα−ブルネセン(8.6%)。前記組み換えパッチュロール合成酵素により産生された全てのセスキテルペンは、パッチュリ油の分析において、ファルネセンセスキテルペンを除くとほぼ同割合で見出された。前記組み換えパッチュロール合成酵素の産物特性は、単独のセスキテルペン合成酵素が、パッチュリ植物で見出される、主でありかつ最も特徴的なセスキテルペンの産生を担うことを示した。
【0160】
実施例10:パッチュロールのin vivo生合成
細菌はDXP経路を、機能、例えばtRNAプレニル化、及びキノン及びドリコールの生合成に必須であるイソプレノイド産生のために使用する。このようにして、大腸菌細胞中でFPPはそのままで及び中間体として存在し、このプールの少なくとも一部は前記細胞中に発現したセスキテルペン合成酵素により使用可能であるものである。
【0161】
実験を大腸菌を用いて実施し、前記パッチュロール合成酵素のin vivoでのこの内因性FPPプールからのセスキテルペンの合成能力を試験した。in vivoセスキテルペン産生の評価のための典型的な実験を以下のように実施した。セスキテルペン合成酵素cDNAを有する発現プラスミドをBL21(DE3)大腸菌細胞に形質転換した。形質転換細胞の単一コロニーを使用して、適切な抗生物質を加えた5mlのLB培地に接種した。37℃での5〜6時間のインキュベーション後、この培養を使用して適切な抗生物質を加えた100mlのTB媒体を接種し、この培養を20℃で2時間、250mlの振盪フラスコ中でインキュベーションした。2時間のインキュベーション後、このタンパク質の発現を1mMのIPTG添加により誘導した。この培養を24時間放置し、次いで1容量のペンタンで2回直接的に抽出した。この2つの溶媒画分を回収し、一緒にして、GC−MS分析前に0.5mlに濃縮した。in vivoセスキテルペン産生アッセイで、前記パッチュロール合成酵素を発現する大腸菌細胞(実施例9に説明したとおり)はパッチュロールを産生した。パッチュロールは前記培養抽出物のGC分析によって明らかに検出され、空のプラスミドで形質転換した細胞ではパッチュロールは検出されなかった。前記産物の同定はGC−MSにより確認したが、産生されたセスキテルペンの量は比較的少なく、この定量測定は可能でなかった。
【0162】
前記実験により、パッチュロール合成酵素が内因性のFPPを利用可能であり、かつin vivoでパッチュロールを産生することを証明した。前記パッチュロール合成酵素をコードするcDNAはこうして、生物にパッチュロールのin vivo産生をさせるべく操作するために使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0163】
【図1】図1は本文中に引用したセスキテルペン分子の構造を示す図である。
【図2】図2は2つのグループのセスキテルペン合成酵素のアミノ酸配列(配列番号13〜24、それぞれ登場順に)のアラインメントの中心部分を示す図である。
【図3】図3は3’RACE産物から導かれるアミノ酸配列(配列番号31〜33、それぞれ登場順に)のアラインメントを示す図である。
【図4】図4は5’RACE産物から導かれるアミノ酸配列(配列番号34〜36、それぞれ登場順に)のアラインメントを示す図である。
【図5】図5は単離されたcDNAから導かれるアミノ酸配列(配列番号37〜42、それぞれ登場順に)のアラインメントを示す図である。
【図6】図6は単離されたcDNAのオープンリーディングフレームのヌクレオチド配列(配列番号43〜48、それぞれ登場順に)のアラインメントを示す図である。
【図7】図7はPatTpsA(配列番号6)により産生されたセスキテルペンのガスクロマトグラフ−質量分析(GC−MS)による組み合わせ分析を示す図である。
【図8】図8はPatTpsBF2(配列番号7)により産生されたセスキテルペンのガスクロマトグラフ−質量分析(GC−MS)による組み合わせ分析を示す図である。
【図9】図9はPatTpsCF2(配列番号8)により産生されたセスキテルペンのガスクロマトグラフ−質量分析(GC−MS)による組み合わせ分析を示す図である。
【図10】図10はPatTpsB−15(配列番号9)により産生されたセスキテルペンのガスクロマトグラフ−質量分析(GC−MS)による組み合わせ分析を示す図である。
【図11】図11はPatTps177(配列番号10)により産生されたセスキテルペンのガスクロマトグラフ−質量分析(GC−MS)による組み合わせ分析を示す図である。
【図12】図12はPatTps177(配列番号10)により産生されたセスキテルペンのガスクロマトグラフ−質量分析(GC−MS)による組み合わせ分析からの選択したピークの質量スペクトルを示す図である。
【図13】図13はPatTpsA、γ−クルクメン合成酵素のDNA配列(配列番号1)及びアミノ酸配列(配列番号6)を示す図である。
【図14】図14はPatTpsBF2、(−)−ゲルマクレンD合成酵素のDNA配列(配列番号2)及びアミノ酸配列(配列番号7)を示す図である。
【図15】図15はPatTpsCF2、(+)−ゲルマクレンA合成酵素のDNA配列(配列番号3)及びアミノ酸配列(配列番号8)を示す図である。
【図16】図16はPatTpsB15、別の(−)−ゲルマクレンD合成酵素のDNA配列(配列番号4)及びアミノ酸配列(配列番号9)を示す図である。
【図17】図17はPatTps177、パッチュロール合成酵素のDNA配列(配列番号5)及びアミノ酸配列(配列番号10)を示す図である。
【図18】図18はPatTpsC16、セスキテルペン合成酵素の部分DNA配列(配列番号11)及びアミノ酸配列(配列番号12)を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パッチュロール合成酵素をコードする単離された核酸。
【請求項2】
γ−クルクメン合成酵素をコードする単離された核酸。
【請求項3】
(a)配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4又は配列番号5に実質的に示されたヌクレオチド配列を有する核酸、
(b)配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9又は配列番号10に実質的に示されたポリペプチドをコードする核酸並びに
(c)低ストリンジェンシー条件下に(a)又は(b)の核酸にハイブリダイズする核酸から選択され、その際前記核酸によってコードされるポリペプチドがセスキテルペン合成酵素活性を有する単離された核酸。
【請求項4】
ヌクレオチド配列が、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4又は配列番号5と少なくとも70%同一であり、その際前記核酸によってコードされるポリペプチドがセスキテルペン合成酵素活性を有する請求項1から3までのいずれか1項記載の単離された核酸。
【請求項5】
単離された核酸は、
(a)配列番号5に実質的に示されるヌクレオチド配列を有する核酸、
(b)配列番号10に実質的に示されるポリペプチドをコードする核酸並びに
(c)低ストリンジェンシー条件下で(a)又は(b)の核酸にハイブリダイズする核酸
から選択され、その際前記核酸によってコードされるポリペプチドがセスキテルペン合成酵素活性を有する請求項1から4までのいずれか1項記載の単離された核酸。
【請求項6】
核酸がパッチュリ葉から単離される、請求項1から5までのいずれか1項記載の単離された核酸。
【請求項7】
機能的セスキテルペン合成酵素変異体の製造方法であって、以下の工程、
(a)配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4又は配列番号5からなるグループから任意の核酸の選択、
(b)前記の選択した核酸配列を、核酸突然変異体の集団を得るために改変、
(c)宿主細胞を前記核酸突然変異体で、ポリペプチドを発現させるために形質転換、及び
(d)少なくとも1つの変更した特性を有する機能的ポリペプチドのために前記ポリペプチドをスクリーニングすること
を含む方法。
【請求項8】
単離されたパッチュロール合成酵素。
【請求項9】
単離されたγ−クルクメン合成酵素。
【請求項10】
請求項1から6までのいずれか1項記載の核酸によってコードされるポリペプチド又は請求項7記載の方法により得られた核酸によってコードされるポリペプチド。
【請求項11】
配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9又は配列番号10に実質的に示されたアミノ酸配列を有する単離されたポリペプチド。
【請求項12】
アミノ酸配列が配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9又は配列番号10と少なくとも80%同一である、請求項11記載のポリペプチド。
【請求項13】
請求項1から6までのいずれか1項記載の核酸を有するベクター。
【請求項14】
請求項1から6までのいずれか1項記載の核酸を有する宿主細胞。
【請求項15】
請求項1から6までのいずれか1項記載の核酸を有すべく改変された非ヒト生物。
【請求項16】
請求項13記載のベクターを宿主細胞に導入することを含む組み換え宿主細胞の製造方法。
【請求項17】
少なくとも1つのセスキテルペン合成酵素の製造方法であって、少なくとも1つの核酸配列を有すべく改変された宿主を、前記の少なくとも1つのセスキテルペン合成酵素の製造に寄与する条件下で培養することを含み、その際前記の少なくとも1つの核酸が請求項1から6までのいずれか1項記載の核酸である方法。
【請求項18】
少なくとも1つのテルペノイドの製造方法であって、
A)少なくとも1つの非環式ピロリン酸テルペン前駆体と、請求項1から6までのいずれか1項記載の核酸によってコードされる少なくとも1つのポリペプチドとを接触させ、かつ
B)場合により、A)で産生された少なくとも1つのテルペノイドを単離することを含む方法。
【請求項19】
前記テルペノイドがin vivoで産生される、請求項18記載の方法。
【請求項20】
前記の少なくとも1つのテルペノイドが、γ−クルクメン及び/又はパッチュロールから選択されたセスキテルペンである、請求項18記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13−1】
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【図13−2】
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【図14−1】
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【図14−2】
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【図15−1】
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【図15−2】
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【図16−1】
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【図16−2】
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【図17−1】
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【図17−2】
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【図18】
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【公表番号】特表2007−514416(P2007−514416A)
【公表日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−540658(P2006−540658)
【出願日】平成16年11月19日(2004.11.19)
【国際出願番号】PCT/IB2004/003836
【国際公開番号】WO2005/052163
【国際公開日】平成17年6月9日(2005.6.9)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(390009287)フイルメニツヒ ソシエテ アノニム (146)
【氏名又は名称原語表記】FIRMENICH SA
【住所又は居所原語表記】1、route des Jeunes、 CH−1211 Geneve 8、 Switzerland
【Fターム(参考)】