説明

パラジウムをベースとする触媒の新規な調製方法、および選択的水素化における前記触媒の使用

【課題】凝集体を形成する金属酸化物のナノ粒子から担持型触媒の調製方法を提供する。
【解決手段】担持金属触媒の新規な調製方法であって、金属相が、金属酸化物のナノ粒子の凝集体の形態で沈着させられ、担体の表面に微細な厚さの層を形成する、方法。触媒の調製方法は、金属酸化物のナノ粒子の凝集体のコロイド懸濁液を水性相中で調製し、次いでこの懸濁液を多孔性担体上に沈着させ、得られた触媒前駆体を乾燥させ、場合により、前駆体をあらゆる還元化合物によって焼成・還元することを含む。前記方法によって得られた触媒、および不飽和有機化合物の転換のための反応におけるこれらの触媒の使用。精製分野に適用され、特に、水蒸気分解および/または接触分解によって得られたガソリンの処理に適用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、担持型金属触媒の新規な調製方法であって、金属相が、金属酸化物のナノ粒子の凝集体の形態で沈着させられ、担体の表面に微細な厚さの層を形成する、方法に関する。本発明はまた、この方法によって得られた触媒、および不飽和有機化合物の転換のための反応におけるこれらの触媒の使用に関する。本発明は、精製分野に適用され、特に、水蒸気分解および/または接触分解によって得られたガソリン(dripolene)の処理に適用される。
【背景技術】
【0002】
一価不飽和有機化合物、例えばエチレンやプロピレン等は、ポリマー、プラスチック材料、および付加価値を伴うその他の化学製品の製造の起始部にある。これらの化合物は、天然ガス、ナフサ、またはディーゼルから得られ、これらは水蒸気分解または接触分解方法によって処理される。これらの方法は、高温で操作され、所望の一価不飽和化合物に加えて、多価不飽和有機化合物、例えば、アセチレン、プロパジエン、およびメチルアセチレン(またはプロピン)、ブタ−1,2−ジエン、およびブタ−1,3−ジエン、ビニルアセチレン、およびエチルアセチレン、ならびに沸点がC5ガソリンフラクション(5個を越える炭素原子を有する炭化水素化合物を含むガソリン)に相当する他の多価不飽和化合物をも生じる。これらの多価不飽和化合物は非常に活性であり、重合装置内に寄生反応をもたらす。従って、多価不飽和化合物を取り除いた後に、一価不飽和有機化合物を含む留分を有用に用いることが必要である。
【0003】
従って、例えば、水蒸気分解C2留分(2個の炭素原子を有する炭化水素化合物を含むガソリン)は、以下の平均体積組成であり得る:アセチレン1.2重量%、エチレン83.5重量%、およびエタン15.3重量%。この留分が重合装置のためのアセチレンの濃度レベルに関する規格を満たす場合、すなわち、アセチレンの濃度が2重量ppm(ppm:parts per million(百万分率))未満である場合、この留分は重合装置内で用いられ得る。このことは、C3留分およびC4留分またはその他の留分についても同じであり、これらの留分についても、重合装置内でのこれらの使用についての規格は非常に厳格である。
【0004】
選択的水素化は、dripolenesから、あるいは、主にモノオレフィンを含む接触分解ガソリンから、不所望の多価不飽和化合物を特に取り除くために開発された主な処理である。これにより、多価不飽和化合物を対応するアルケンまたは芳香族化合物へ転化させることが可能となると同時に、完全な飽和が回避され、従って対応するアルカンの形成が回避される。従って、C2留分において、選択的水素化処理後、アセチレン含有量が減少する一方で、エチレン含有量が増加することとなり、またエタン含有量は実質的に変化しない。
【0005】
選択的水素化触媒は一般的に、元素周期律表の第VIII族金属、好ましくはパラジウムまたはニッケルをベースとする。触媒の活性相は、担体上に沈着させられた金属小粒子の形態であり、担体は、ボール、押出物、三葉状物または他の幾何学的形状を含む形態の耐火性酸化物であり得る。担体中の金属の割合、金属の粒子のサイズ、および活性相の分布は、これらの触媒の活性および選択性の観点で重要性を有する基準の一部である。
【0006】
担持された金属粒子の平均サイズは、1〜5nmであり得る。このサイズは、選択的水素化反応の要件に一致する。実際、多価不飽和分子、例えばジオレフィン化合物またはアセチレン化合物の水素化反応の速さは、金属粒子のサイズに依存する。この結果は一般的に、表現「構造に対する感受性」で説明される。最適条件は一般的に、3〜4nm程度のサイズで観測され、この値は、特に反応物質の分子の質量に依存して可変である(非特許文献1および2)。
【0007】
選択的水素化触媒内の活性相の分布は、それらの活性および選択性に関し、決定的な役割を果たす。耐火性酸化物タイプの担体上のイオン性パラジウム前駆体の溶液の含浸により、活性種が担体の中心部に拡散する。担体の中心部中の金属相のこのような分布は、選択的水素化の場合のように、不利であり、特に反応物質の分散によって制御される反応の場合、不利となる。このことは、触媒の低いレベルの活性および低いレベルの選択性を暗示する。これは不所望の二次反応がその時起こるためである。水素化触媒が良好な触媒特性を有するためには、金属粒子が、担体の表面に厚さの薄い層の形態で沈着させられることが好ましい。粒子がこのような方法で分布させられる場合、これは外殻沈着(crust deposit)および/またはシェル触媒と称される。この層の厚さが微細であるほど、活性の欠陥および選択性の喪失に至る可能性のある内部粒子(intragranular)材料の移動のより多くの問題が回避される。
【0008】
金属粒子または金属酸化物粒子のコロイド溶液を使用することにより、サイズおよび金属粒子分布が部分的に前記基準に対応する触媒を製造することが可能となる。特許文献1には、金属酸化物の水性相中のコロイド懸濁液の担体上への含浸による選択的水素化触媒の調製が記載されている。
【0009】
担持型触媒の製造方法における、金属酸化物の金属ナノ粒子(単数または複数)のコロイド溶液の使用については、近年、開発が進んでいる。しかし、この手順は、多くの不利な点を抱えている。実際、コロイド溶液は、熱的に安定でない。ナノ粒子は、凝集・合体する(coalesce, agglomerate)傾向があり、その結果、溶液中にそれらが沈澱する。このような凝集効果は通常、ナノ粒子の活性の喪失を伴う。ナノ粒子を安定化させ、それ故に、溶液中に微細に分散させられているというナノ粒子の特徴を維持することは、ナノ粒子の合成および担体上の沈着において、基本的な工程である。ナノ粒子の安定化は、安定化剤を用いることにより達成される。これらの安定化剤により、ナノ粒子の成長に際し、ナノ粒子のサイズの制御が可能となる。安定化剤により、溶液中に分散しかつ均一なサイズを有するナノ粒子を得ることが可能となる。安定化剤により、従って、ナノ粒子が水溶液中で凝集および沈澱することが防止される。このような安定化剤の使用については、以下の文献に記載されている。特許文献2には、0.5〜5nmのサイズの金属酸化物のナノ粒子の安定なコロイド溶液を得るための方法が記載されている。Klasovskyらによる研究(非特許文献3)では、パラジウム酸化物のナノ粒子のコロイド溶液の含浸による、パラジウムをベースとする選択的水素化触媒の調製が研究されており、このパラジウム酸化物は、異なる有機または無機塩基を有する溶液中のHPdClの加水分解に由来するポリマー(ポリビニルピロリドン:polyvinylpyrrolidone−PVP)によって安定化させられている。最後に、特許文献3から、遷移金属ベースの触媒を調製する方法であって、触媒成形後に、固体のマクロ細孔中の金属相の選択的分布を可能にする有機ポリマーが加えられた溶液に当該遷移金属の前駆体を溶解させることによる、方法も知られている。上記方法において、安定化剤の存在下、溶液中に安定化かつ分散させられた金属ナノ粒子は、次いで、還元剤によって還元された後に担体上に沈着させられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】欧州特許出願公開第0979673号明細書
【特許文献2】国際公開第00/29332号パンフレット
【特許文献3】欧州特許出願公開第0653243号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】エム・ボウダート(M. Boudart)、ダブリュー・シー・チェン(W. C. Cheng)著、「J. Catal.」、1987年、第106巻、p.134
【非特許文献2】エス・ハブ(S. Hub)、エル・ヒライエ(L. Hilaire)、アール・トウロウデ(R. Touroude)著、「Appl. Catal.」、1992年、第36巻、p.307
【非特許文献3】クレソブスキー(Klasovsky)ら著、「トピック・イン・キャタリシス(Topic in Catalysis)」、2009年、第52巻、p.412−423)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
全く驚くべき方法で、かつ、先行技術の方法に反して、出願人は、少なくとも1種の凝集剤の存在下、凝集体を形成する金属酸化物のナノ粒子から担持型触媒が調製され得ることを見出した。本発明は、以下の利点を享受している:
− 金属酸化物のナノ粒子の凝集体のコロイド溶液により、ナノ粒子の安定性の問題を克服することが可能となるので、担持型触媒の調製が、単純化される。
【0013】
− 本発明の方法に従って得られた触媒は、担体の表面に集中した金属相を有する。このことにより、触媒は外殻の形態で沈着させられた活性相を有する。
【0014】
− 本発明の方法に従って得られた触媒は、公知の触媒と比較して、向上した触媒特性を有する。
【0015】
以下、化学元素の群は、CAS分類(CRC Handbook of Chemistry and Physics, editor CRC press, editor-in-chief D.R. Lide, 81st edition, 2000-2001)に従って特定される。例えばCAS分類に従った第VIII族は、新IUPAC分類に従った第8、9、および10列(column)の金属に対応する。
【0016】
表現「金属性酸化物のナノ粒子(nanoparticles of metallic oxide)」、「金属酸化物のナノ粒子(nanoparticles of metal oxide)」、または「ナノ粒子」は、本発明により、金属酸化物の多結晶粒子を示すように用いられる。ナノ粒子のサイズは1〜10nmである。好ましくはナノ粒子のサイズは、1〜5nmである。
【0017】
表現「凝集体」は、本発明により、ファンデルワールスタイプの弱い相互作用または静電相互作用の効果の下に一体となり凝集体(agglomerate、aggregate)を形成する金属酸化物のナノ粒子の集合体を示すように用いられる。凝集体を形成するナノ粒子は、共有結合によって化学的に結合させられていない。凝集体のサイズは、20〜200nm、好ましくは20〜150nm、より一層好ましくは20〜100nmである。
【0018】
表現「コロイド水性懸濁液(colloidal aqueous suspension)」または「水性コロイド懸濁液(aqueous colloidal suspension)」は、本発明により、金属酸化物のナノ粒子および/または金属酸化物のナノ粒子の凝集体を、水溶液中に懸濁させ、かつ沈澱または堆積することなく均質な混合物を形成して含む水溶液を示すように用いられる。
【0019】
表現「HSV」は、本発明により、処理されるべき装入材料の体積流れと反応器内に装填された触媒の体積との間の比として定義される毎時空間速度を示すように用いられる。毎時空間速度は、h−1で表される。
【0020】
表現「ゼロ電荷点(zero charge point)」は、本発明により、中性の電気ポテンシャルで固体が存在する水溶液のpHを示すように用いられる。
【0021】
本発明の第1の主題は、触媒の調製方法であって、金属酸化物のナノ粒子の凝集体のコロイド懸濁液が水性相中に調製され、次いで、その懸濁液が、多孔性担体上に沈着させられ、得られた触媒前駆体が乾燥させられ、場合によりその前駆体は焼成され、および任意の還元化合物によって還元される、方法に関する。本発明による調製方法において、金属酸化物のナノ粒子の凝集体のコロイド懸濁液は、還元剤の非存在下かつ有機溶媒の非存在下で、水溶液中に調製される。金属酸化物を金属に還元する工程は、凝集体のコロイド懸濁液を担体上に沈着させた後、行われる。
【0022】
溶液中に安定化かつ分散させられたナノ粒子の形態の活性相の沈着を試みた先行技術の手順に反して、本出願人は、金属相が金属酸化物のナノ粒子の凝集体の形態で多孔性担体上に沈着させられ得ることを見出した。驚くべきことに、凝集体の形態での金属相の沈着により、触媒の触媒性能が向上する。このような凝集体の使用により、触媒の金属相を非常に薄い層の形態で、担体の表面に沈着させることが可能となる。金属酸化物のナノ粒子の凝集体のサイズによって、担体の中心部への凝集体の分散は、大きく制限されているのがわかる。それらは、従って、担体の表面に留まって、その表面に活性相の薄い層を形成する。層の厚さは、触媒上に存在する金属の量に依存することとなる。金属酸化物のナノ粒子の凝集体の形態での金属相の沈着により、ナノ粒子が触媒の表面に集中することが可能となる。金属がパラジウムである場合、担持されたパラジウムの少なくとも80%が表面層の内部に含まれ、その厚さは80μmを越えない。
【0023】
本発明による触媒の調製方法は、複数の工程:
(a)金属酸化物のナノ粒子の凝集体の水性コロイド懸濁液を調製する工程;
(b)工程(a)で得られた凝集体の前記水性コロイド懸濁液を、多孔性担体上に沈着させる工程;
(c)工程(b)で得られた生成物を乾燥させる工程;
を含むが、場合によっては、以下の工程の少なくとも1つが続けられる:
(d)工程(c)で得られた生成物を焼成する工程;および
(e)工程(c)または工程(d)で得られた生成物を還元する工程。
【0024】
金属酸化物のナノ粒子の凝集体のコロイド懸濁液は、少なくとも1種の凝集剤の存在下に金属酸化物の金属前駆体の少なくとも1種の塩を水溶液中で加水分解することによって得られる。酸性pHまたは塩基性pHにおける金属前駆体の塩の加水分解により、懸濁液中に金属酸化物または金属水酸化物のナノ粒子が形成されるに至る。凝集剤の存在下、金属酸化物のナノ粒子が沈澱することなく一体となり凝集体を形成し、そのサイズは20〜200nmである。
【0025】
本方法の好ましい変形例において、加水分解は、例えば、少なくとも1種の無機塩基、例えばアンモニアまたはアルカリ金属の水酸化物による中和によって行われ得る。好ましくは、無機塩基は、アンモニア、水酸化ナトリウム、および水酸化カリウムによって形成された群より選択される。
【0026】
加水分解が、酸性pHにおいて、無機塩基による中和によって行われる場合、無機塩基の溶液が金属前駆体塩の溶液中に注がれる。
【0027】
加水分解が、塩基性pHにおいて、無機塩基による中和によって行われる場合、金属前駆体塩の溶液が無機塩基の溶液中に注がれる。
【0028】
金属前駆体の塩の金属は、第VIII族金属である。好ましくは、第VIII族金属は、パラジウム、白金、コバルト、およびニッケルによって形成された群より選択される。より好ましくは、この金属は、ニッケルおよびパラジウムによって形成された群より選択される。非常に好ましくは、この金属はパラジウムである。
【0029】
第VIII族金属の前駆体の塩は、金属の酸化の程度が0より高くかつ水溶液に可溶な当該金属の前駆体の塩であり得る。第VIII族金属の前駆体の塩は、金属のハロゲン化物、酸化物、水酸化物、硝酸塩、および硫酸塩によって形成された群より選択され得る。
【0030】
より好ましくは、金属前駆体の塩は、塩化パラジウム、臭化パラジウム、ヨウ化パラジウム、ヘキサクロロパラジウム酸カリウム、テトラブロモパラジウム酸カリウム、テトラクロロパラジウム酸カリウム、ヘキサクロロパラジウム酸ナトリウム、テトラクロロパラジウム酸ナトリウム、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム、酢酸パラジウム、塩化白金、臭化白金、ヨウ化白金、ヘキサクロロ白金酸カリウム、テトラブロモ白金酸カリウム、テトラクロロ白金酸カリウム、ヘキサクロロ白金酸ナトリウム、テトラクロロ白金酸ナトリウム、硝酸白金、硫酸白金、酢酸白金、塩化ニッケル、臭化ニッケル、ヨウ化ニッケル、硝酸ニッケル、硫酸ニッケル、酢酸ニッケル、塩化コバルト、臭化コバルト、ヨウ化コバルト、硝酸コバルト、硫酸コバルト、および酢酸コバルトによって形成された群より選択され得る。
【0031】
非常に好ましくは、パラジウム前駆体塩は、塩化パラジウム、硝酸パラジウム、および硫酸パラジウムによって形成された群より選択される。非常に好ましくは、パラジウム前駆体塩は、硝酸パラジウムである。
【0032】
非常に好ましくは、ニッケル前駆体塩は、塩化ニッケル、硝酸ニッケル、および硫酸ニッケルによって形成された群より選択される。
【0033】
第VIII族金属の前駆体の塩の水溶液の濃度は、触媒に対する金属の所望の質量割合に従って調整される。担体の質量に対する第VIII族金属の質量割合は、0.01〜20重量%であり、好ましくは0.05〜10重量%である。
【0034】
第VIII族金属がパラジウムである場合、パラジウム前駆体塩の水溶液の濃度は、触媒に対するパラジウムの所望の質量割合に従って調整される。担体の質量に対するパラジウムの質量割合は、0.01〜2重量%であり、好ましくは0.05〜1重量%である。
【0035】
第VIII族金属がニッケルである場合、ニッケル前駆体塩の水溶液の濃度は、触媒に対するニッケルの所望の質量割合に従って調整される。担体の質量に対するニッケルの質量割合は、1〜20重量%であり、好ましくは2〜15重量%である。
【0036】
凝集剤は、
式(R)−X
(式中、
− nは、1または4に等しい整数であり、
− Xは、イオン性基であり、および
− Rは、nが4に等しい場合、同一または異なり得る疎水性基である)
の有機化合物である。
【0037】
イオン性基Xは、アニオンまたはカチオンであり得る。疎水性基Rは、2〜20個の炭素原子を含む炭化水素鎖によって形成される。炭素鎖は、直鎖および/または分枝鎖であり得、および/または、少なくとも1つの芳香族を含み得る。凝集剤は、カチオン性またはアニオン性の界面活性剤であってもよい。
【0038】
水溶液中で、金属酸化物のナノ粒子の表面が荷電させられる。これらのナノ粒子の表面の荷電は、水溶液のpHおよび金属酸化物のゼロ電荷点に依存する。水溶液のpHが金属酸化物のゼロ電荷点より高い場合、ナノ粒子の表面は負に荷電させられる。他方で、水溶液のpHが金属酸化物のゼロ電荷点より低い場合、ナノ粒子の表面は正に荷電させられる。凝集剤は、コロイド水溶液のpHに応じて選択される。それは、ナノ粒子の表面電荷と反対の電荷である。従って、コロイド溶液のpHが金属酸化物のゼロ電荷点より高い場合、選択される凝集剤は、正に荷電させられる。本明細書中の以降において、カチオン性凝集剤またはアニオン性凝集剤について説明されることとなる。凝集剤の複数の分子は、反対の電気的サインである、ナノ粒子の表面の電荷と、静電結合を生み出す。凝集剤の分子は、溶液中のナノ粒子を安定化させる対イオンを置換する。凝集剤の基Rの疎水性により、凝集剤分子が一体となり、従って、凝集剤によって捕捉されたナノ粒子が一体となる。20〜200nmのサイズの金属酸化物のナノ粒子の凝集体は、このように形成される。
【0039】
凝集剤の添加は、金属前駆体の塩の溶解と同時に、または塩が完全に溶解させられた後に行われ得る。凝集剤はまた、無機塩基を含有する溶液に添加されてもよい。
【0040】
凝集剤は、コロイド水溶液のpHおよび金属酸化物のゼロ電荷点に応じて選択される。
【0041】
コロイド水溶液のpHが金属酸化物のゼロ電荷点より高い場合、凝集剤は、
式(R)−X
(式中、
− Xはカチオンであり、
− nは4に等しく、かつ、
− Rは、2〜5個の炭素原子を含む直鎖または分枝アルキルである)
のカチオン性凝集剤である。
【0042】
基Rは、互いに同一または異なり得る。好ましくは、基Rは全て同一である。
【0043】
Xは、好ましくはホスホニウム基またはアンモニウム基によって形成された群より選択され、非常に好ましくはアンモニウム基である。
【0044】
好ましくは、Rは、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、イソペンチル、sec−ペンチル、およびtert−ペンチルによって形成された群より選択される。好ましくは、Rは、2〜5個の炭素原子を含む直鎖アルキルである。
【0045】
好ましくは、カチオン性凝集剤は、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、テトラペンチルアンモニウム、テトラエチルホスホニウム、テトラプロピルホスホニウム、テトラブチルホスホニウム、およびテトラペンチルホスホニウムによって形成された群より選択される。
【0046】
カチオン性凝集剤は、対イオンが水酸化物である塩の形態で、金属前駆体溶液に添加される。
【0047】
金属前駆体の塩の加水分解が無機塩基による中和によって行われる本方法の変形例に従ってコロイド溶液が得られる場合、カチオン性凝集剤は、対イオンが使用無機塩基の対イオンと同じである塩または塩基の対イオンとは異なる対イオンの形態で添加される。凝集剤の対イオンは、ヒドロキシド、ブロミド、クロリド、フルオリド、ヨージド、ハイドロジェンスルファート、テトラフルオロボラート、およびアセタートによって形成された群より選択される。好ましくは、対イオンはヒドロキシドである。非常に好ましくは、カチオン性凝集剤は、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、およびテトラエチルアンモニウムヒドロキシドによって形成された群より選択される。
【0048】
コロイド溶液のpHが金属酸化物のゼロ電荷点より低い場合、凝集剤は、
式(R)−X
(式中、
− Xは、アニオンであり、
− nは、1に等しく、かつ
− Rは、式(B)−(A)−>の基
(式中、
・ mは、0または1に等しい整数であり、
・ pは、0または1に等しい整数であり、
・ Aは、置換または無置換芳香族であり、
・ Bは、5〜14個の炭素原子を含む直鎖または分枝鎖の炭化水素鎖であり、
・ −>は、共有結合による、基RのXへの結合を示す)
である)
のアニオン性凝集剤である。
【0049】
好ましくは、Aは、フェニル、メチルフェニル、およびジメチルフェニルによって形成された群より選択される。
【0050】
p=0でありかつm=1である場合、Aは、メチルフェニル、ジメチルフェニル、およびフェニルによって形成された群より選択される。
【0051】
p=1でありかつm=0である場合、Bは、5〜12個の炭素原子を含む分枝鎖または直鎖である。
【0052】
p=1でありかつm=1である場合、Aはフェニルであり、Bは5〜12個の炭素原子を含有する分枝鎖または直鎖である。
【0053】
好ましくは、アニオンは、カルボキシラート基またはスルホナート基である。
【0054】
アニオン性凝集剤は、対イオンがナトリウムである塩の形態で、金属前駆体溶液に添加される。好ましくは、塩の形態のアニオン性凝集剤は、ドデシル硫酸ナトリウム、ドデカンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ベンゼンスルホン酸ナトリウム、トルエンスルホン酸ナトリウム、キシレンスルホン酸ナトリウム、オクタン酸ナトリウム、ノナン酸ナトリウム、デカン酸ナトリウム、ウンデカン酸ナトリウム、ドデカン酸ナトリウム、およびトリデカン酸ナトリウムによって形成された群より選択され得る。非常に好ましくは、アニオン性凝集剤は、ドデシル硫酸ナトリウム、およびドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムによって形成された群より選択される。
【0055】
金属前駆体塩の加水分解が無機塩基による中和によって行われる本方法の変形例に従ってコロイド溶液が得られる場合、アニオン性凝集剤は、対イオンが無機塩基の対イオンと同じである塩または塩基の対イオンとは異なる対イオンの形態で添加される。アニオン性凝集剤の対イオンは、リチウム、ナトリウム、およびカリウムによって形成された群より選択される。好ましくは、対イオンはナトリウムである。好ましくは、塩の形態のアニオン性凝集剤は、ドデシル硫酸ナトリウム、ドデシル硫酸リチウム、ドデカンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ベンゼンスルホン酸ナトリウム、トルエンスルホン酸ナトリウム、キシレンスルホン酸ナトリウム、オクタン酸ナトリウム、ノナン酸ナトリウム、デカン酸ナトリウム、ウンデカン酸ナトリウム、ドデカン酸ナトリウム、およびトリデカン酸ナトリウムによって形成された群より選択され得る。非常に好ましくは、アニオン性凝集剤は、ドデシル硫酸ナトリウムおよびドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムによって形成された群より選択される。
【0056】
アニオン性またはカチオン性の凝集剤は、当業者に周知の任意の有機合成手順によって合成され得る。
【0057】
アニオン性またはカチオン性の凝集剤と金属前駆体の塩との間のモル比は0.001〜100、好ましくは0.01〜50、非常に好ましくは0.02〜10である。
【0058】
前記コロイド懸濁液の調製は、10〜50℃、好ましくは15〜30℃の温度で、かつ、通常の圧力条件(大気圧)下で行われる。
【0059】
このような方法で調製される凝集体のコロイド懸濁液は、金属酸化物のナノ粒子の数で少なくとも20%が10〜200nmのサイズの凝集体の形態であり、好ましくは金属酸化物のナノ粒子の数で少なくとも30%が10〜200nmのサイズの凝集体の形態であり、非常に好ましくは金属酸化物のナノ粒子の数で少なくとも50%が10〜200nmのサイズの凝集体の形態であるようにされる。好ましくは、上記方法で調製される凝集体のコロイド懸濁液は、金属酸化物のナノ粒子の数で20〜95%が凝集体の形態であり、好ましくは金属酸化物のナノ粒子の数で30〜90%が凝集体の形態であり、非常に好ましくは金属酸化物のナノ粒子の数で50〜90%が凝集体の形態であるようにされる。
【0060】
凝集体のサイズは、透過電子顕微鏡法(transmission electron microscopy:TEM)によって測定され得る。凝集体の形態および分離された粒子の形態の金属酸化物のナノ粒子の数による分布は、TEM画像上での計数作業により得られる。計数作業は、画像の実際の数を基礎に行われ、200〜1000個の粒子を計数する。次いで、画像が集められ、これを、凝集体の形態で存在する粒子と分離された粒子とを区別して計数するように処理する。これら2つの値の比により、凝集体の形態の金属酸化物のナノ粒子の数による割合が得られる。
【0061】
凝集体のコロイド懸濁液は、多孔性担体上に沈着させられる。この懸濁液の沈着は、当業者に公知のあらゆる手順を用いて行われ得る。担体の含浸は、静的または動的様式での、過剰または不充分の乾式含浸によって行われ得る。乾式含浸が好ましい。含浸は、1回以上の連続する含浸操作において行われ得る。
【0062】
好ましくは、含浸は、溶液の体積が担体の細孔体積にほぼ相当する条件下に行われる。好ましくは、凝集体のコロイド懸濁液が多孔性担体上に注がれる。この手順は、非連続的あるいは連続的のいずれかで行われ得る。非連続的とは、すなわち、コロイド懸濁液の調製工程が担体上の含浸工程に先行し、コロイド懸濁液の必須部分が含浸工程に向けた1回の作業に送られることである。連続的とは、すなわち、第1の工程で得られた生成物が第2の工程へと直接移されることである。
【0063】
担体は、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、トリウム、または、チタンの酸化物によって形成された群より選択される少なくとも1種の耐火性酸化物を単独で、または互いにあるいは周期律表の他の酸化物を混合して含み得る(シリカ−アルミナ)。好ましくは、担体は、酸化アルミニウム(アルミナ)またはシリカである。担体はまた、炭素、シリコアルミン酸塩、粘土、または担体として用いられるのが公知のあらゆる他の化合物であり得る。担体は、好ましくはBET表面積が5〜300m/gであり、より有利には10〜200m/gである。BET比表面積は、窒素による物理吸着によって計測される。担体の全細孔容積は、一般的に0.1〜1.5cm/gである。全細孔容積は、濡れ角が140°であるASTM D4284-92基準による水銀ポロシメトリによって、例えばブランドMicromeriticsの装置モデルAutopore IIIによって計測される。
【0064】
担体は、ボール、押出物、三葉状物、ペレット、または不規則かつ非球状の凝集体の形態とされ得、この特定の形状は粉砕工程またはモノリスから得られ得る。有利には、担体はボールまたは押出物の形態である。
【0065】
含浸触媒は次いで、好ましくは50〜250℃、より好ましくは70〜200℃の温度で乾燥させられ、含浸作業において導入された水の全てまたは一部が除去される。乾燥は、空気中または不活性雰囲気中(例えば、窒素)で行われる。
【0066】
場合によっては、乾燥した触媒は、5〜100℃、好ましくは15〜50℃の温度で洗浄され、好ましくはこの洗浄工程で用いられる液体は水またはエタノールである。第2の乾燥工程が次いで、本明細書中上記したように行われる。
【0067】
触媒は次いで、好ましくは空気、水素、窒素、またはこれらのガスの少なくとも2種の混合物のガス流中、100〜5000h−1のHSVで焼成される。焼成温度は、一般的に150〜900℃、好ましくは約200〜500℃である。焼成時間は、一般的に0.5〜24時間、好ましくは1〜12時間である。焼成工程は、規定された最大目標温度に達するまで昇温段階を用いて行われ得る。
【0068】
触媒は一般的に還元される。この工程は、好ましくは、現場(in situ)で、すなわち接触転換が行われる反応器内で、25〜100容積%の水素、好ましくは100容積%の水素を含む還元ガスの存在下に行われる。この場合、還元ガスは水素である。この工程は、好ましくは50〜400℃、より好ましくは80〜160℃の温度で行われる。
【0069】
触媒調製工程の終わりに、担体の質量に対する第VIII族金属の質量による含有量は、0.01〜20重量%、好ましくは0.05〜10重量%である。第VIII族金属がパラジウムである場合、担体の質量に対するパラジウムの質量による割合は、0.01〜2重量%、好ましくは0.05〜1重量%である。
【0070】
触媒の調製のための変形例によると、触媒は数多くの含浸操作において調製される。2回の含浸操作で調製される触媒については、その順序は以下のようなものであり得る:
− 第1回含浸−乾燥−第2回含浸−乾燥−焼成。
【0071】
− 第1回含浸−乾燥−焼成−第2回含浸−乾燥−焼成。
【0072】
本発明はまた、上記の調製方法から得られた触媒に関する。
【0073】
本発明の別の主題は、有機化合物の転換のための反応における、上記方法によって得られた触媒の使用である。従って、本発明の方法に従って得られた触媒は、炭素−炭素結合の切断または形成に伴う反応において用いられ得る。本発明の方法に従って得られた触媒によって、アセチレン基、ジエン基、オレフィン基、芳香族基、ケトン基、アルデヒド基、酸基および/またはニトロ基を含む化合物の選択的水素化が可能となる。本発明の方法により得られた触媒はまた、一酸化炭素のメタノールまたはアルキル鎖の増加後のC1−C6を有するアルコールへの水素化のために用いられ得る。それはまた、メタノールの2個の分子の縮合によるジメチルエーテルの形成のために用いられ得る。最後に、本発明の方法で得られた触媒はまた、炭化水素化合物の、異性化または水素化異性化、ならびに水素化分解のための反応のために用いられ得る。好ましくは、本発明の方法で得られた触媒は、少なくとも1つのジエン基および/またはアセチレン基を含む化合物の選択的水素化のための反応のために用いられ得る。
【0074】
これらの反応のために用いられる操作条件は以下のとおりである:温度:0〜500℃、好ましくは25〜350℃、圧力:0.1〜20MPa、好ましくは0.1〜10MPa、毎時空間速度(hourly space velocity:HSV):液体装入材料について 0.1〜50h−1、好ましくは0.5〜30h−1;ガス装入材料について 500〜30,000h−1、好ましくは500〜15,000h−1。水素が存在する場合、水素対装入材料の体積比は、1〜500リットル/リットル、好ましくは10〜250リットル/リットルである。
【0075】
本発明の方法に従って調製される触媒の使用およびその使用の条件は、使用者が、用いられる反応および技術に適合させることとする。一般的に、実施は、処理されるべき炭化水素装入材料および水素を、触媒を含有する少なくとも1つの反応器に注入することにより行われ、反応器は、固定床反応器、移動床反応器、または沸騰床反応器であり、好ましくは固定床反応器である。装入材料は全て、好ましくは、選択的水素化が起こる反応器の取入口で注入される。しかし、場合によっては、装入材料の一部または全てを、反応器内の連続する2つの触媒床の間に注入することが有利であり得る。この実施方法により、特に、反応器の取出口が、装入材料中に存在するポリマー、粒子、またはゴム状物の沈着物で塞がれている場合でさえ、反応器を作動させ続けることが可能となる。
【0076】
選択的水素化方法は、少なくとも1種の多価不飽和化合物を含む炭化水素装入材料を、上記方法で得られた触媒と接触させる工程を含む。
【0077】
炭化水素装入材料は、少なくとも1種の多価不飽和化合物を含み、接触分解に由来する留分、水蒸気分解C2留分、水蒸気分解C3留分、水蒸気分解C4留分、水蒸気分解C5留分、および「dripolenes」とも称される水蒸気分解ガソリンによって形成された群より選択される。水蒸気分解C5留分およびdripolenesは、本明細書の以降において、C5留分と称される。
【0078】
C2、C3、C4、およびC5留分の選択的水素化は、気相または液相中で、好ましくは液相中で、行われ得る。実際、液相反応によって、エネルギーコストの低減と、触媒のサイクル耐用期間の増大が可能となる。液相反応では、圧力は一般的に1〜3MPaであり、温度は2〜50℃であり、(水素)/(水素化されるべき多価不飽和化合物)モル比は0.1〜4、好ましくは1〜2である。HSVは10〜50h−1である。
【0079】
気相水素化反応では、圧力は一般的に1〜3MPaであり、温度は40〜120℃であり、(水素)/(水素化されるべき多価不飽和化合物)モル比は0.1〜4、好ましくは1〜2であり、HSV(触媒の体積当たりの装入材料流量)は500〜5000h−1である。
【0080】
dripoleneの選択的水素化の場合、(水素)/(水素化されるべき多価不飽和化合物)モル比は一般的に1〜2であり、温度は一般的に40〜200℃、好ましくは50〜180℃であり、HSVは一般的に0.5〜10h−1、好ましくは1〜5h−1であり、圧力は一般的に1.0〜6.5MPa、好ましくは2.0〜3.5MPaである。水素の流量は、理論上全ての多価不飽和化合物を水素化しかつ反応器出口で過剰の水素を維持するために十分な水素量を有するように調整される。反応器内の温度勾配を制限するために、流出物の一部を反応器の取入口および/または中間部分に再循環させることが有利であり得る。dripoleneは、沸点が一般的に0〜250℃、好ましくは10〜220℃である留分に相当する。この装入材料は、一般的にC5−C12留分と共に痕跡量のC3、C4、C13、C14、C15化合物(例えばこれらの留分のそれぞれについて0.1〜3重量%)を含む。例えば、dripoleneによって形成される装入材料は、一般的に、重量%で表される以下の組成:8〜12重量%のパラフィン、58〜62重量%の芳香族化合物、8〜10重量%のモノオレフィン、18〜22重量%のジオレフィン、および20〜300重量ppm(parts per million)の硫黄を有し、化合物の全量は100%を形成する。
【発明を実施するための形態】
【0081】
本発明は、以下の実施例によって説明されるが、これらの実施例はいかなる場合も本発明を限定するものではない。
【0082】
(実施例)
(実施例1:触媒A(本発明に合致しない))
硝酸パラジウムPd(NOの水溶液の調製を、10重量%の硝酸パラジウムおよび10重量%の硝酸(Aldrich)を含有する硝酸パラジウムPd(NOの水溶液10.88gを鉱質除去水により担体の細孔容積に相当する体積まで希釈することによって行った。この溶液のpHは、0.74であった。酸化パラジウム粒子は、透過電子顕微鏡法によって認められなかった。
【0083】
次いで、この溶液を、比表面積が140m/gであり、細孔容積が1.02mL/gであるアルミナ100g上に含浸させた。このアルミナは、平均径3mmのボールの形態であった。
【0084】
得られた触媒Aを、空気中120℃で乾燥させ、次いで2時間にわたり450℃で空気流中500h−1のHSVで焼成した。触媒Aは、担体の重量に対して0.5重量%のPdを含有していた。
【0085】
(実施例2:触媒B(本発明に合致しない))
15mLの鉱質除去水中に0.57gの水酸化ナトリウム(Prolabo)を含有する溶液を、10重量%の硝酸パラジウムと10重量%の硝酸(Aldrich)を含有する硝酸パラジウムPd(NOの水溶液10.88g中に加えた。次いで、この溶液を、鉱質除去水で担体の細孔容積に相当する体積まで希釈した。この溶液のpHは1.4であった。透過電子顕微鏡法を用いると、径1〜3nmの酸化パラジウムナノ粒子の20〜100nmの凝集体と、径1〜3nmの互いに分離された酸化パラジウムナノ粒子とが認められた。粒子の10%未満が凝集体の形態であった。
【0086】
次いで、この溶液を、比表面積が140m/gであり、細孔容積が1.02mL/gであるアルミナ100g上に含浸させた。このアルミナは、平均径が3mmであるボールの形態であった。
【0087】
得られた触媒Bを、空気中120℃で乾燥させ、次いで、2時間にわたり150℃、次いで2時間にわたり200℃、次いで2時間にわたり300℃、次いで2時間にわたり450℃で、25体積%の空気と75体積%の窒素を含む混合物の流れ中2000h−1のHSVで焼成した。触媒Bは、担体の重量に対して0.5重量%のPdを含有していた。
【0088】
(実施例3:触媒C)
40重量%のテトラブチルアンモニウムヒドロキシド(tetrabutylammonium hydroxide:TBAOH、Aldrich)を含有する水溶液0.31gを、10重量%の硝酸パラジウムと10重量%の硝酸(Aldrich)を含有する硝酸パラジウムPd(NOの水溶液10.88g中に撹拌しながら添加した。この溶液を、1.11gの水酸化ナトリウム(Prolabo)を事前に溶解させた鉱質除去水で担体の細孔容積に相当する体積まで希釈した。含浸溶液中のTBAOH/Pdモル比は、0.1に等しかった。溶液のpHは11.2であった。透過電子顕微鏡法を用いると、径1〜3nmの酸化パラジウムナノ粒子の20〜100nmの凝集体と、径1〜3nmの互いに分離された酸化パラジウムナノ粒子とが認められた。粒子の60%超が凝集体の形態であった。
【0089】
次いで、この溶液を、比表面積が140m/gであり、細孔容積が1.02mL/gであるアルミナ100g上に含浸させた。このアルミナは、平均径が3mmであるボールの形態であった。
【0090】
得られた触媒Cを、空気中120℃で乾燥させ、次いで、2時間にわたり150℃、次いで2時間にわたり200℃、次いで2時間にわたり300℃、次いで2時間にわたり450℃で、25体積%の空気と75体積%の窒素を含む混合物の流れ中2000h−1のHSVで焼成した。触媒Cは、担体の重量に対して0.5重量%のPdを含有していた。
【0091】
(実施例4:触媒D)
10重量%の硝酸パラジウムと10重量%の硝酸(Aldrich)を含有する硝酸パラジウムPd(NOの水溶液10.88gを、40重量%のテトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAOH、Aldrich)を含有する水溶液18.29g中に撹拌しながら添加した。この溶液を、鉱質除去水で、担体の細孔容積に相当する体積まで希釈した。含浸溶液中のTBAOH/Pdモル比は、6に等しかった。溶液のpHは8.2であった。透過電子顕微鏡法を用いると、径2〜3nmの酸化パラジウムナノ粒子の20〜100nmの凝集体と、径1〜3nmの互いに分離された酸化パラジウムナノ粒子とが認められた。粒子の90%超が凝集体の形態であった。
【0092】
次いで、この溶液を、比表面積が140m/gであり、細孔容積が1.02mL/gであるアルミナ100g上に含浸させた。このアルミナは、平均径が3mmであるボールの形態であった。
【0093】
得られた触媒Dを、空気中120℃で乾燥させ、次いで、2時間にわたり150℃、次いで2時間にわたり200℃、次いで2時間にわたり300℃、次いで2時間にわたり450℃で、25体積%の空気と75体積%の窒素を含む混合物の流れ中2000h−1のHSVで焼成した。触媒Dは、担体の重量に対して0.5重量%のPdを含有していた。
【0094】
(実施例5:触媒E)
10重量%の硝酸パラジウムと10重量%の硝酸(Aldrich)を含有する硝酸パラジウムPd(NOの水溶液2.18gを、40重量%のテトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAOH、Aldrich)を含む水溶液3.66g中に撹拌しながら添加した。この溶液を、鉱質除去水で担体の細孔容積に相当する体積まで希釈した。含浸溶液中のTBAOH/Pdモル比は、6に等しかった。溶液のpHは10.1であった。透過電子顕微鏡法を用いると、径2〜3nmの酸化パラジウムナノ粒子の20〜100nmの凝集体と、径1〜3nmで互いに分離された酸化パラジウムナノ粒子とが認められた。粒子の80%超が凝集体の形態であった。
【0095】
次いで、この溶液を、比表面積が140m/gであり、細孔容積が1.02mL/gであるアルミナ100g上に含浸させた。このアルミナは、平均径が3mmであるボールの形態であった。
【0096】
得られた触媒Eを、空気中120℃で乾燥させ、次いで、2時間にわたり150℃、次いで2時間にわたり200℃、次いで2時間にわたり300℃、次いで2時間にわたり450℃で、25体積%の空気と75体積%の窒素を含む混合物の流れ中2000h−1のHSVで焼成した。触媒Eは、担体の重量に対して0.1重量%のPdを含有していた。
【0097】
(実施例6:触媒F)
10重量%の硝酸パラジウムと10重量%の硝酸(Aldrich)を含有する硝酸パラジウムPd(NOの水溶液10.88gを、20重量%のテトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAOH、Aldrich)を含む水溶液20.76g中に撹拌しながら添加した。この溶液を、鉱質除去水で担体の細孔容積に相当する体積まで希釈した。含浸溶液中のTBAOH/Pdモル比は、6に等しかった。溶液のpHは10.6であった。透過電子顕微鏡法を用いると、径2〜3nmの酸化パラジウムナノ粒子の20〜100nmの凝集体と、径1〜3nmで互いに分離された酸化パラジウムナノ粒子とが認められた。粒子の90%超が凝集体の形態であった。
【0098】
次いで、この溶液を、比表面積が140m/gであり、細孔容積が1.02mL/gであるアルミナ100g上に含浸させた。このアルミナは、平均径が3mmであるボールの形態であった。
【0099】
得られた触媒Fを、空気中120℃で乾燥させ、次いで、2時間にわたり150℃、次いで2時間にわたり200℃、次いで2時間にわたり300℃、次いで2時間にわたり450℃で、25体積%の空気と75体積%の窒素を含む混合物の流れ中2000h−1のHSVで焼成した。触媒Fは、担体の重量に対して0.5重量%のPdを含有していた。
【0100】
(実施例7:触媒G)
15mLの鉱質除去水中に0.81gの水酸化ナトリウム(Prolabo)と0.68gのドデシル硫酸ナトリウム(sodium dodecyl sulphate:DS、Aldrich)を含有する溶液を、10重量%の硝酸パラジウムと10重量%の硝酸(Aldrich)を含有する硝酸パラジウムPd(NOの水溶液10.88g中に加えた。次いで、この溶液を、鉱質除去水で担体の細孔容積に相当する体積まで希釈した。含浸溶液中のDS/Pdモル比は、0.5に等しかった。この溶液のpHは1.71であった。透過電子顕微鏡法を用いると、径1〜3nmの酸化パラジウムナノ粒子の20〜100nmの凝集体と、径1〜3nmで互いに分離された酸化パラジウムナノ粒子とが認められた。粒子の70%超が凝集体の形態であった。
【0101】
次いで、この溶液を、比表面積が140m/gであり、細孔容積が1.02mL/gであるアルミナ100g上に含浸させた。このアルミナは、平均径が3mmであるボールの形態であった。
【0102】
得られた触媒Gを、空気中120℃で乾燥させ、次いで、2時間にわたり150℃、次いで2時間にわたり200℃、次いで2時間にわたり300℃、次いで2時間にわたり450℃で、25体積%の空気と75体積%の窒素を含む混合物の流れ中2000h−1のHSVで焼成した。触媒Gは、担体の重量に対して0.5重量%のPdを含有していた。
【0103】
(実施例8:触媒H)
15mLの鉱質除去水中に0.81gの水酸化ナトリウム(Prolabo)と0.82gのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(sodium dodecylbenzene sulphonate:DBS、Aldrich)を含有する溶液を、10重量%の硝酸パラジウムと10重量%の硝酸(Aldrich)を含有する硝酸パラジウムPd(NOの水溶液10.88g中に加えた。次いで、この溶液を、鉱質除去水で担体の細孔容積に相当する体積まで希釈した。含浸溶液中のDBS/Pdモル比は、0.5に等しかった。この溶液のpHは1.74であった。透過電子顕微鏡法を用いると、径1〜3nmの酸化パラジウムナノ粒子の20〜100nmの凝集体と、径1〜3nmで互いに分離された酸化パラジウムナノ粒子とが認められた。粒子の70%超が凝集体の形態であった。
【0104】
次いで、この溶液を、比表面積が140m/gであり、細孔容積が1.02mL/gであるアルミナ100g上に含浸させた。このアルミナは、平均径が3mmであるボールの形態であった。
【0105】
得られた触媒Hを、空気中120℃で乾燥させ、次いで、2時間にわたり150℃、次いで2時間にわたり200℃、次いで2時間にわたり300℃、次いで2時間にわたり450℃で、25体積%の空気と75体積%の窒素を含む混合物の流れ中2000h−1のHSVで焼成した。触媒Hは、担体の重量に対して0.5重量%のPdを含有していた。
【0106】
(実施例9:スチレン・イソプレン混合物の水素化に関する触媒試験)
触媒試験の前に、触媒A、B、C、D、E、F、G、およびHを、水素流中500h−1のHSVで300℃/時間の昇温および、150℃の最終温度での2時間にわたる維持で処理した。
【0107】
次いで、触媒を、完全に撹拌された「Grignard」型不連続反応器において水素化試験に付した。これを行うために、4mLの還元触媒ボールを、可動撹拌部材の周囲に設けられた環状バスケット内に空気を避けて固定した。反応器内で用いられたバスケットは、Robinson Mahonnayタイプのものであった。
【0108】
水素化を液相中で行った。
【0109】
装入材料の組成は以下のとおりであった:スチレン8重量%、イソプレン8重量%、およびn−ヘプタン74重量%。
【0110】
3.5MPaの一定の水素の圧力、45℃の温度で、試験を行った。
【0111】
反応の生成物を、気相クロマトグラフィーによって分析した。
【0112】
触媒活性を、分当たりかつパラジウムの重量(グラム)当たりの消費されたHのモルとして表した。これを、表1に示す。
【0113】
【表1】

【0114】
本発明による触媒C、D、E、F、G、およびHは、本発明に合致しない触媒AおよびBより約1.5〜6倍活性であった。
【0115】
(実施例10:担体上の金属相の分布)
担体上の金属相の分布を分析するために、外殻厚さをキャスタン・マイクロプローブ(Castaing microprobe)(または電子線プローブマイクロアナライザ(electron probe microanalyser))により測定した。用いた装置は、4種の元素の同時分析を可能とする4種のモノクロメータ結晶を備えたCAMECA XS100であった。キャスタン・マイクロプローブ分析手順は、高エネルギー電子ビームによるその元素の励起後に固体により放出されるX線の検出を伴う。この特徴化のために、触媒ボールを、エポキシ樹脂ブロック内に入れた。それらを、切断部(cut)がボールの径に達するまで研磨して、次いで金属製エバポレータ内での炭素の沈着によって金属化した。電子プローブを5つのボールの径に沿って掃引させ、固体を構成する元素の平均分布プロファイルを得た。
【0116】
パラジウム粒子の大部分にとって重要である外殻厚さを測定するために、外殻厚さは、あるいは、パラジウムの80重量%を含有する粒の縁までの距離として定義され得る。キャスタン・マイクロプローブによって得られた分布プロファイル(“c(x)”)を基礎に、半径「r」の粒の縁までの距離「y」に応じて、粒中のPdの蓄積量を計算することが可能である。
【0117】
ボールでは:
【0118】
【数1】

【0119】
である。
【0120】
Q(r)は、従って粒中のPdの全量に相当する。Yに関して以下の等式の数値を求めて、パラジウムの80重量%での外殻厚さを得た:
【0121】
【数2】

【0122】
異なる触媒の外殻厚さを表2に示す。
【0123】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む触媒の調製方法:
(a)金属酸化物のナノ粒子の凝集体の水性コロイド懸濁液を調製する工程、
(b)工程(a)で得られた凝集体の水性コロイド懸濁液を、多孔性担体上に沈着させる工程、および
(c)工程(b)で得られた生成物を乾燥させる工程。
【請求項2】
工程(c)の後に、工程(c)で得られた生成物の焼成のための少なくとも1回の工程(d)を更に含む、請求項1に記載の調製方法。
【請求項3】
工程(c)または(d)のいずれかの後に、工程(c)または(d)で得られた生成物の還元のための少なくとも1回の工程を更に含む、請求項1または2に記載の調製方法。
【請求項4】
水性コロイド懸濁液は、少なくとも1種の凝集剤の存在下に金属前駆体の少なくとも1種の塩を水溶液中で加水分解することによって得られる、請求項1〜3のいずれか1つに記載の調製方法。
【請求項5】
前記金属前駆体塩の金属は、第VIII族金属から選択される、請求項4に記載の調製方法。
【請求項6】
前記金属前駆体塩は、金属のハロゲン化物、酸化物、水酸化物、硝酸塩、および硫酸塩によって形成された群より選択される、請求項4または5に記載の調製方法。
【請求項7】
凝集剤と金属前駆体の塩のモル比は、0.001〜100、好ましくは0.01〜50、より一層好ましくは0.02〜10である、請求項4〜6のいずれか1つに記載の調製方法。
【請求項8】
請求項4〜7のいずれか1つに記載の調製方法であって、コロイド水溶液のpHが、金属酸化物のゼロ電荷点より高い場合、凝集剤は、
式(R)−X
(式中、
− Xはカチオンであり、
− nは4に等しく、
− Rは、同一または異なって、2〜5個の炭素原子を含む直鎖または分枝鎖のアルキルである)
のカチオン性凝集剤である、方法。
【請求項9】
請求項4〜7のいずれか1つに記載の調製方法であって、コロイド溶液のpHが金属酸化物のゼロ電荷点より低い場合、凝集剤は、
式(R)−X
(式中、
− Xはアニオンであり、
− nは1に等しく、
− Rは、式(B)−(A)−>の基
(式中、
・ mは、0または1に等しい整数であり、
・ pは、0または1に等しい整数であり、
・ Aは、置換または無置換芳香族であり、
・ Bは、5〜14個の炭素原子を含む直鎖または分枝鎖の炭化水素鎖であり、
・ −>は、共有結合による、基RのXへの結合を示す)
である)
のアニオン性凝集剤である、方法。
【請求項10】
加水分解操作は、少なくとも1種の無機酸による中和によって行われる、請求項4〜9のいずれか1つに記載の調製方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1つに記載の方法によって得られた触媒。
【請求項12】
有機化合物の転換のための反応のための、請求項1〜11のいずれか1つに記載の方法によって得られた触媒の使用。
【請求項13】
反応は、炭素−炭素結合の切断または形成のための反応である、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
反応は、アセチレン基、ジエン基、オレフィン基、芳香族基、アルデヒド基、酸基、およびニトロ基によって形成された群より選択される少なくとも1種の基を含む化合物の選択的水素化のための反応である、請求項12に記載の使用。
【請求項15】
反応は、少なくとも1種のジエン基および/またはアセチレン基を含む化合物の選択的水素化のための反応である、請求項12に記載の使用。

【公開番号】特開2012−148270(P2012−148270A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−272863(P2011−272863)
【出願日】平成23年12月14日(2011.12.14)
【出願人】(591007826)イエフペ エネルジ ヌヴェル (261)
【氏名又は名称原語表記】IFP ENERGIES NOUVELLES
【Fターム(参考)】