パラレルメカニズム装置、パラレルメカニズム装置のキャリブレーション方法、キャリブレーションプログラム、及び記録媒体
【課題】既知の位置に位置決めしてエンドエフェクタの絶対位置を規定するデータを取得し、微小運動学を用いず、運動学を記述する関係式を直接用いることにより、機構パラメータを正確に同定する。
【解決手段】取得部114は、パラレルメカニズム工作機械1の基準座標系6とすべく当該パラレルメカニズム工作機械1の機械テーブル3上に予め設定された基準座標系6におけるエンドエフェクタ20の位置座標及び姿勢角度座標の全部又は一部と、当該位置座標及び姿勢角度座標の全部又は一部とから逆運動学を用いて算出された駆動軸座標とを所定の測定方法を用いることにより取得する。算出部113は、これらの座標を用いて、パラレルメカニズム機構4の順運動学及び逆運動学のいずれか一方の運動学を記述する関係式を直接用いることにより機構パラメータを算出する。
【解決手段】取得部114は、パラレルメカニズム工作機械1の基準座標系6とすべく当該パラレルメカニズム工作機械1の機械テーブル3上に予め設定された基準座標系6におけるエンドエフェクタ20の位置座標及び姿勢角度座標の全部又は一部と、当該位置座標及び姿勢角度座標の全部又は一部とから逆運動学を用いて算出された駆動軸座標とを所定の測定方法を用いることにより取得する。算出部113は、これらの座標を用いて、パラレルメカニズム機構4の順運動学及び逆運動学のいずれか一方の運動学を記述する関係式を直接用いることにより機構パラメータを算出する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラレルメカニズム装置及びパラレルメカニズム装置における機構パラメータを同定するキャリブレーションの技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ベースとエンドエフェクタとが複数の駆動軸によって並列に接続されているパラレルメカニズム機構は、片持ち梁を有する機構に比較して剛性が高く、位置決めを高精度に行えるなどの特徴を有している。その中でも、直線状の駆動軸(ストラット)が伸縮することによってエンドエフェクタの位置及び姿勢を制御する構成であるスチュワートプラットフォームは、最も代表的な形態である。しかしながら、高精度の位置決めを行うためには、ストラットの長さや、ストラットとベースあるいはエンドエフェクタとの結合部であるジョイントの座標などの機構パラメータを正確に求める必要がある。この作業がパラレルメカニズム機構のキャリブレーションであり、産官学の様々な機関で研究され、その成果が発表されている。
【0003】
一般に、このキャリブレーションを行うためには、機構パラメータと同数の多元連立方程式を解く必要がある。そのためには、エンドエフェクタの位置及び姿勢を固定し、その状態で得られる位置座標(X,Y,Z)と姿勢角度座標(A,B,C)の全部又は一部を決定しなければならない。
【0004】
この位置座標と姿勢角度座標とを決定する方法として、例えば特許文献1には、ダブルボールバー(DBB)型の距離計を用いて、エンドエフェクタを任意の姿勢で円運動させたときの円運動軌跡の半径誤差を測定し、この測定値から機構パラメータを求める技術が開示されている。また、特許文献2には、前述の多元連立方程式をエンドエフェクタの位置と機構パラメータとの関係を表す11組以上の方程式と、姿勢と機構パラメータとの関係を表す1組の方程式とに分離し、当該方程式から機構パラメータを推定してキャリブレーションを行う技術が開示されている。
【0005】
また、いずれの特許文献に係る技術においても、機構パラメータを同定する際に微小運動学を用いている。運動学問題、特に順運動学問題は解析的に解くことは困難である。微小運動学(微分運動学、変位運動学ともいう。)は、この問題を解決する演算手法に関する学問の一分野である。微小運動学においては、順運動学を記述する非線形の関係式を各機構パラメータで微分して、機構パラメータの誤差(微小変位)と位置座標の誤差(微小変位)との間に成り立つ線形の関係式を求め、当該関係式を解析的に解く。つまり、ある数値の誤差と他の数値の誤差との関係を取り扱うのが微小運動学である。
【特許文献1】特開2002−91522号公報
【特許文献2】特開2003−200367号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されている技術によれば、少なくとも1つの機構パラメータは同定することができないことが示唆されている。また、特許文献1と同様に、特許文献2に開示されている技術においても、機構パラメータを同定するためには位置決め後の測定が必要とされており、特に測定が困難な姿勢を少なくとも1組は測定しなければならない。さらに、いずれの特許文献に係る技術においても用いられている微小運動学は、そこから得られる微小変位の関係式で扱う数値の誤差に弱い。そのため、特に大型の工作機械において重力変形等が無視できない場合には、数値的に機構パラメータを同定する際の収束性が悪く、機構パラメータを正確に同定できないなどの課題を有する。
【0007】
本発明は以上の問題点に鑑みてなされたものであり、運動学の基本式をそのまま扱うことにより、数値の誤差に強く、かつすべての機構パラメータを正確に同定することが可能なパラレルメカニズム装置、パラレルメカニズム装置のキャリブレーション方法、キャリブレーションプログラム、及び記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の発明は、パラレルメカニズム装置であって、所定の架台に支持されたベースと、エンドエフェクタと、複数の駆動軸を含み、前記ベースに前記エンドエフェクタを保持するパラレルリンク機構と、で構成されるパラレルメカニズム機構と、前記パラレルメカニズム機構の運動学に基づいて前記駆動軸を駆動することで、前記エンドエフェクタの位置及び姿勢を制御する数値制御装置と、を少なくとも備えたパラレルメカニズム装置であって、前記パラレルメカニズム機構の外部に予め設定された基準座標系において、前記エンドエフェクタと主軸を一致させて取り付けられた調整用工具を所定の測定方法に基づいて既知の位置に位置決めする位置決め手段と、前記位置決め手段により前記調整用工具が位置決めされたときに、当該位置決め手段で用いられた測定方法を指定する測定方法選択コードに応じた形式を有するデータであって、前記パラレルメカニズム機構の運動学に必要な機構パラメータと前記基準座標系との相関関係を規定するデータである取得データを取得する取得手段と、前記取得データを用いて、前記パラレルメカニズム機構の順運動学を記述する関係式を直接用いることにより少なくとも前記機構パラメータを算出する算出手段と、を備えることを特徴とする。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のパラレルメカニズム装置であって、前記測定方法選択コードを選択する測定方法選択手段と、前記測定方法選択手段により選択された前記測定方法選択コードにより指定され、かつ前記取得データを評価する関数であって、前記パラレルメカニズム機構の順運動学を記述する関係式としての誤差評価関数を少なくとも1つ記憶する誤差評価関数記憶手段と、をさらに備え、前記算出手段は、前記誤差評価関数記憶手段に記憶されている誤差評価関数の中から、前記測定方法選択コードにより指定される誤差評価関数を抽出して使用することで、前記機構パラメータを同定するために充分な組数に亘る前記誤差評価関数の和を最小にする機構パラメータを算出することを特徴とする。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項2記載のパラレルメカニズム装置であって、前記算出手段は、前記機構パラメータを同定するために充分な組数に亘る前記誤差評価関数の和を各機構パラメータにより偏微分した値をゼロとして得られる非線形連立方程式の解として当該算出手段に最初に与えられた機構パラメータを初期値とし、漸近法を用いて得られた前記非線形連立方程式の解を算出すべき機構パラメータとして得ることを特徴とする。
【0011】
請求項4記載の発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載のパラレルメカニズム装置であって、前記取得手段は前記取得データとして、前記基準座標系における前記エンドエフェクタの位置及び姿勢の少なくとも一部を規定するエンドエフェクタ位置規定情報と、位置決めされた前記エンドエフェクタの位置と前記機構パラメータとの相関関係を規定する駆動軸取得座標と、を取得することを特徴とする。
【0012】
請求項5記載の発明は、請求項4記載のパラレルメカニズム装置であって、前記調整用工具は、座標調整部と姿勢調整部とを備えており、前記位置決め手段は、前記基準座標系の所定の位置に形成され、穴中心軸に垂直な基準平面と穴中心軸を中心軸とする円筒形状の側面とを有する基準穴と前記座標調整部による測定値とから前記調整用工具の前記基準座標系での位置決め位置が特定できる位置まで前記調整用工具を位置決めすることにより位置座標を固定し、前記姿勢調整部を主軸中心線回りに回転させ、前記姿勢調整部の回転面と前記基準平面との相対関係から前記エンドエフェクタの姿勢のうち前記主軸中心線の傾きを表す2つの姿勢角度座標を前記基準座標系において特定できる姿勢位置まで前記調整用工具を位置決めすることにより前記エンドエフェクタの前記2つの姿勢角度座標を固定し、前記取得手段は、前記エンドエフェクタ位置規定情報として、当該位置決め位置における前記エンドエフェクタの前記基準座標系での位置座標及び前記2つの姿勢角度座標を取得することを特徴とする。
【0013】
請求項6記載の発明は、請求項4又は5に記載のパラレルメカニズム装置であって、前記誤差評価関数は、前記エンドエフェクタ位置規定情報である前記エンドエフェクタの前記基準座標系での位置座標及び姿勢角度座標のうちの少なくとも一部の座標と、前記駆動軸取得座標に基づき順運動学により算出された位置座標及び姿勢角度座標のうちの少なくとも一部の座標との差であって、対応する座標同士の差である位置決め誤差により規定されることを特徴とする。
【0014】
請求項7記載の発明は、請求項6記載のパラレルメカニズム装置であって、前記誤差評価関数は、前記位置決め誤差に対して、座標ごとに所定の誤差評価係数を掛けることを特徴とする。
【0015】
請求項8記載の発明は、請求項4記載のパラレルメカニズム装置であって、前記調整用工具は、少なくとも先端球半径と工具長とが既知の球形プローブを備えて構成され、前記位置決め手段は、前記基準座標系において、位置座標及び形状特定情報が既知である基準形状物に前記球形プローブを接触させることにより位置決めし、前記取得手段は、前記エンドエフェクタ位置規定情報として、前記基準形状物の位置座標及び形状特定情報を取得し、前記誤差評価関数は、前記基準形状物の位置座標及び形状特定情報で規定される当該基準形状物の表面と前記駆動軸取得座標に基づき順運動学により算出された前記球形プローブの先端球の中心座標を中心とし球形プローブの半径を半径とする球との距離である位置決め誤差により規定されることを特徴とする。
【0016】
請求項9記載の発明は、請求項4記載のパラレルメカニズム装置であって、前記位置決め手段は、前記基準座標系において、固定側球の中心の位置座標が既知であり、当該基準座標系の所定の位置に設置された相対距離測長器の可動側球の中心に一致するように固定された前記調整用工具の先端を前記相対距離測長器の計測可能範囲に位置決めし、前記取得手段は、前記エンドエフェクタ位置規定情報として、前記可動側球の中心と前記固定側球の中心との距離から一定量の誤差である原点オフセット量を除いた距離であり前記相対距離測長器により求められる測長値及び前記固定側球の中心の位置座標を取得することを特徴とする。
【0017】
請求項10記載の発明は、請求項9記載のパラレルメカニズム装置であって、前記誤差評価関数は、前記駆動軸取得座標に基づき順運動学により算出された前記調整用工具の先端の位置座標が示す点と前記相対距離測長器の前記固定側球の中心の位置座標が示す点との距離と、前記測長値と前記原点オフセット量との和で表される距離との差である位置決め誤差により規定され、前記算出手段は前記機構パラメータに加え当該誤差評価関数において当該位置決め誤差の算出に必要である前記原点オフセット量を算出することを特徴とする。
【0018】
請求項11記載の発明は、請求項4乃至10のいずれかに記載のパラレルメカニズム装置であって、前記駆動軸取得座標は前記数値制御装置が保持する駆動軸座標であることを特徴とする。
【0019】
請求項12記載の発明は、請求項4乃至10のいずれかに記載のパラレルメカニズム装置であって、前記駆動軸取得座標は前記数値制御装置が保持する位置決め指令値であり、前記算出手段は、前記数値制御装置に設定されている機構パラメータに基づく逆運動学により当該位置決め指令値を駆動軸座標に変換した後、当該駆動軸座標を用いて、少なくとも前記機構パラメータを算出することを特徴とする。
【0020】
請求項13記載の発明は、パラレルメカニズム装置のキャリブレーション方法であって、所定の架台に支持されたベースと、エンドエフェクタと、複数の駆動軸を含み、前記ベースに前記エンドエフェクタを保持するパラレルリンク機構と、で構成されるパラレルメカニズム機構と、前記パラレルメカニズム機構の運動学に基づいて前記駆動軸を駆動することで、前記エンドエフェクタの位置及び姿勢を制御する数値制御装置と、を少なくとも備えたパラレルメカニズム装置のキャリブレーション方法であって、前記パラレルメカニズム機構の外部に予め設定された基準座標系において、前記エンドエフェクタと主軸を一致させて取り付けられた調整用工具を所定の測定方法に基づいて既知の位置に位置決めする位置決め工程と、前記位置決め手段により前記調整用工具が位置決めされたときに、当該位置決め手段で用いられた測定方法を指定する測定方法選択コードに応じた形式を有するデータであって、前記パラレルメカニズム機構の運動学に必要な機構パラメータと前記基準座標系との相関関係を規定するデータである取得データを取得する取得工程と、前記取得データを用いて、前記パラレルメカニズム機構の順運動学を記述する関係式を直接用いることにより少なくとも前記機構パラメータを算出する算出工程と、を備えることを特徴とする。
【0021】
請求項14記載の発明は、パラレルメカニズム装置のキャリブレーションプログラムであって、所定の架台に支持されたベースと、エンドエフェクタと、複数の駆動軸を含み、前記ベースに前記エンドエフェクタを保持するパラレルリンク機構と、で構成されるパラレルメカニズム機構と、前記パラレルメカニズム機構の運動学に基づいて前記駆動軸を駆動することで、前記エンドエフェクタの位置及び姿勢を制御する数値制御装置と、を少なくとも備えたパラレルメカニズム装置のキャリブレーションプログラムであって、前記パラレルメカニズム機構の外部に予め設定された基準座標系において、前記エンドエフェクタと主軸を一致させて取り付けられた調整用工具が所定の測定方法に基づいて既知の位置に位置決めされたときに取得され、当該位置決め手段で用いられた測定方法を指定する測定方法選択コードに応じた形式を有するデータであって、かつ前記パラレルメカニズム機構の運動学に必要な機構パラメータと前記基準座標系との相関関係を規定するデータである取得データを取り込み、当該取得データを用いて、前記パラレルメカニズム機構の順運動学を記述する関係式を直接用いることにより少なくとも前記機構パラメータを算出する算出工程としてコンピュータを機能させることを特徴とする。
【0022】
請求項15記載の発明は、所定の架台に支持されたベースと、エンドエフェクタと、複数の駆動軸を含み、前記ベースに前記エンドエフェクタを保持するパラレルリンク機構と、で構成されるパラレルメカニズム機構と、前記パラレルメカニズム機構の運動学に基づいて前記駆動軸を駆動することで、前記エンドエフェクタの位置及び姿勢を制御する数値制御装置と、を少なくとも備えたパラレルメカニズム装置のキャリブレーションプログラムであって、前記パラレルメカニズム機構の外部に予め設定された基準座標系において、前記エンドエフェクタと主軸を一致させて取り付けられた調整用工具が所定の測定方法に基づいて既知の位置に位置決めされたときに取得され、当該位置決め手段で用いられた測定方法を指定する測定方法選択コードに応じた形式を有するデータであって、かつ前記パラレルメカニズム機構の運動学に必要な機構パラメータと前記基準座標系との相関関係を規定するデータである取得データを取り込み、当該取得データを用いて、前記パラレルメカニズム機構の順運動学を記述する関係式を直接用いることにより少なくとも前記機構パラメータを算出する算出工程をコンピュータに実行させるためのキャリブレーションプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、既知の位置に位置決めするために、基準座標系でのエンドエフェクタの絶対位置を規定するデータを容易に取得できる。また、運動学の基本式をそのまま扱うことにより、数値の誤差に強く、かつすべての機構パラメータを正確に同定することが可能なパラレルメカニズム装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明に係る一実施形態について、図面を参照しながら説明する。以下の実施形態においては、パラレルメカニズム装置の一例として、6×6パラレルメカニズム工作機械(エンドエフェクタのジョイント数が6個、ベースのジョイント数が6個)について説明する。さらに、駆動軸として直動型アクチュエータ、つまりストラットを備えるスチュワートプラットフォームを取り上げて説明する。尚、各図において同一の符号を付した構成又は処理は、同一の構成又は処理であることを示し、その詳しい説明を省略する。
【0025】
図1は、本発明の一実施形態に係るパラレルメカニズム工作機械の機械的構成を示す斜視図である。パラレルメカニズム工作機械(以下、工作機械と略す。)1は、所定の架台2に支持されたベース10上に6個のジョイント(結合部)11〜16を有している。そして、このジョイント11〜16にはそれぞれ1本ずつ、計6本のストラット31〜36が接続されている。このストラット31〜36が数値制御装置(NC装置)の制御のもとに独立して伸縮することで、ジョイント21〜26を介してエンドエフェクタ20を間接的に動かし、機械テーブル3上の対象物に加工等の処理を行う構成となっている。つまり、エンドエフェクタ20は、ベース10上のジョイント11〜16と、複数のストラット31〜36と、エンドエフェクタ20と、エンドエフェクタのジョイント21〜26とで構成されるパラレルリンク機構を介してベース10に保持されている。そして、ベース10と当該パラレルリンク機構とエンドエフェクタ20とでパラレルメカニズム機構4を構成している。また、機械テーブル3は、精密に加工された機械テーブル上面である基準面5を有する。キャリブレーション時には、さらに、エンドエフェクタ20には、当該エンドエフェクタと主軸を一致させて調整用工具50が取り付けられている。
【0026】
以下、本明細書においては、工作機械1及びパラレルメカニズム機構4において、ストラット31〜36の長さからエンドエフェクタ20の位置座標と姿勢角度座標とを求めることを「順運動学」という。それに対して、エンドエフェクタ20の位置座標と姿勢角度座標とからストラット31〜36の長さを求めることを「逆運動学」という。ここで、位置座標とはXYZ軸における位置を表す座標値(X,Y,Z)であり、姿勢角度座標とはそれぞれX軸、Y軸、主軸中心線を回転中心軸とする回転方向の姿勢(回転角度)を表す座標値(A,B,C)である。
【0027】
図2は、本発明の一実施形態に係る概略の機能構成を示すブロック図である。尚、本図の各ブロックは、データ取得及び当該データの解析における各プロセスをイメージ化したものであり、必ずしもパラレルメカニズム工作機械の機能と一致するとは限らない。例えば、実際の工作機械では、座標駆動制御部121と方位駆動制御部122とはいずれも数値制御装置100内の逆運動学を介して実行される。
【0028】
工作機械1は、所定の架台2に支持されたベース10と、エンドエフェクタ20と、ベース10及びエンドエフェクタ20にそれぞれ複数個ずつ備えられたジョイントを介して当該ベース10及びエンドエフェクタ20を連結する6本のストラット31〜36と、機械テーブル3とを備えている。さらに、工作機械1は数値制御装置100を備えており、数値制御装置100は、ストラット(駆動軸の一形態)31〜36の長さであるストラット軸座標(駆動軸座標の一形態)を調節し運動学に基づいてエンドエフェクタ20の位置及び姿勢を制御し、あるいはエンドエフェクタ20の位置及び姿勢から逆運動学に基づいてストラット軸座標を制御する。
【0029】
通常の数値制御装置100は、ストラット軸座標及び位置決め指令値を保持する。ここで、位置決め指令値とは、数値制御装置100が把握しているエンドエフェクタ20の姿勢を含む位置であり、ストラット軸座標及び位置決め指令値は、数値制御装置100に設定されている機構パラメータに基づく運動学で密接に関連付けられている。例えば、数値制御装置100が保持している位置決め指令値を数値制御装置100に設定されている機構パラメータに基づく逆運動学で変換したストラット軸座標と、数値制御装置100が保持しているストラット軸座標とは一致する。
【0030】
また、数値制御装置100は、ドライブ500を介して種々の情報が記録された記録媒体から必要なプログラムをインストールし、当該プログラムが有する機能を実行することができる。本発明に係るキャリブレーション技術の各工程を実行するプログラム及び必要な演算式やテーブル等は、例えば磁気ディスク501、光磁気ディスク502、光ディスク503、半導体メモリ504等の記録媒体に記憶されている。
【0031】
また、座標駆動制御部121及び方位駆動制御部122は、キャリブレーション時に、エンドエフェクタ20と主軸を一致させて取り付けられた調整用工具50の位置あるいは姿勢をそれぞれ制御する。また、数値制御装置100に設定されている機構パラメータが不正確な場合、数値制御装置100が運動学で扱うエンドエフェクタの位置の座標を表現する座標系は正確ではなく、工作機械1の座標系としては不適切である。そのため、キャリブレーションに先駆け、工作機械1の基準座標系6として、基準面5に平行なX軸及びY軸を有するXYZ右手直交座標系である基準座標系6を、パラレルメカニズム機構4とは関係なく、機械テーブル3上の所定の位置に確立している。
【0032】
座標駆動制御部121及び方位駆動制御部122は、基準座標系6上の既知の位置に設置された形状が既知の基準形状物をもとにして、エンドエフェクタ20を基準形状物との位置関係が規定できる位置へ位置決めする位置決め工程を実行する。この場合、基準形状物との位置関係が規定できる位置とは、基準形状物の設置位置に限定されず、基準形状物との相対差を計測可能な位置を含む。基準形状物としては、基準平面、基準穴、基準ピン、基準球等が使用できる。また、DBB装置を使用することも可能である。エンドエフェクタ20の姿勢角度をも精密に位置決めする場合は、精密に加工された上面を持つ基準穴、精密に加工された底面に垂直に設置した基準ピンを使用する。
【0033】
測定方法選択部(測定方法選択手段)131は、データを取得する際に用いる測定方法(つまり、どの基準形状物に基づいて位置決めするか)を指定する測定方法選択コード(type)をユーザが入力可能(手動操作の場合)となっていて、当該測定方法選択コードを取得部114に送出する。それに対して、自動操作の場合には、データの取得手順を記述したプログラム内に測定方法選択コードが記されており、測定方法選択部131は当該測定方法選択コードを読み取ると取得部114に送出する。以下の実施形態においては、手動操作によりデータを取得する形態のみを説明する。
【0034】
誤差評価関数記憶部(誤差評価関数記憶手段)132は、測定方法選択部131により選択された測定方法選択コードにより指定され、かつ後述する取得データを評価する関数であって、工作機械1のパラレルメカニズム機構4の順運動学を記述する関係式としての誤差評価関数を少なくとも1つ記憶している。
【0035】
取得部(取得手段の一部)114は、位置決め工程により調整用工具50が位置決めされたときに、当該位置決め工程で用いられた測定方法を指定する測定方法選択コードに応じた形式を有するデータであって、パラレルメカニズム機構4の運動学に必要な機構パラメータと基準座標系6との相関関係を規定するデータである取得データを取得する取得工程を実行する。ここで取得データは、測定方法選択コードを含む基準座標系6におけるエンドエフェクタ20の位置及び姿勢の少なくとも一部を規定するエンドエフェクタ位置規定情報と、位置決めされたエンドエフェクタ20の位置と機構パラメータとの相関関係を規定する駆動軸取得座標とからなる。そして、取得部114は、取得した取得データを算出部113に送出する。取得工程で取得する取得データは、機構パラメータを同定するために充分な数の互いに独立な関係式を規定するものでなくてはならない。そのため、時にはエンドエフェクタ20の姿勢を変えるなどして取得データを取得することも必要となる。
【0036】
ここで、駆動軸取得座標とは、ストラット軸座標又は位置決め指令値のいずれかである。ただし、以下の実施形態においては、駆動軸取得座標としてストラット軸座標を取得する形態についてのみ説明する。位置決め指令値を取得する場合も、数値制御装置100に設定されている機構パラメータに基づく逆運動学によりストラット軸座標に変換すれば同様である。
【0037】
算出部(算出手段)113は、例えばコンピュータ等からなり、所定個の異なる位置に対して位置決め工程が行われ、当該位置決め工程ごとに取得工程が行われると、取得工程により得られた取得データに基づいて、パラレルメカニズム機構4の運動学に必要な機構パラメータを算出する算出工程を実行する。
【0038】
この算出工程を実行する際に算出部113は、機構パラメータを同定するために充分な組数以上の取得データを使用し、誤差評価関数記憶部132に記憶されている誤差評価関数の和を最小にすることで機構パラメータを算出する。その際、算出部113は、誤差評価関数記憶部132に記憶されている誤差評価関数群の中から、各取得データの測定方法選択コードにより指定される誤差評価関数を抽出して使用する。
【0039】
図3は、本発明に係る工作機械の一形態である6自由度を有する6×6スチュワートプラットフォームの構成を示す概略図である。Oは基準座標系6の原点である。一方、O’はエンドエフェクタに固定された座標系であるエンドエフェクタ座標系の原点である。
【0040】
ベース10は、Oを始点とする基準座標系6上の位置ベクトルN[j](j=1, 2, 3, 4, 5, 6)で表される6個のジョイント(結合部)11〜16を有している。つまり、例えば、j=1であるN[1]はジョイント11の位置ベクトルを表す。また、エンドエフェクタ20は、エンドエフェクタ座標系上の原点を始点とする位置ベクトルT[j](j=1, 2, 3, 4, 5, 6)で表される6個のジョイント(結合部)21〜26を有している。また、各ストラットの原点41〜46は、ベース10のジョイント位置を始点として、ベクトルo[j](j=1, 2, 3, 4, 5, 6)で表わされる。このベクトルo[j]のことを、以後、原点オフセットともいう。以上のN[j],T[j],o[j]がパラレルメカニズム工作機械の機構パラメータであり、以下、必要に応じてこれらのうちの全部又は一部をまとめてx[j](j=1, 2, 3, ・・・, n)と表す。ここでnは、求めるべき機構パラメータの数を示す。
【0041】
一方、エンドエフェクタを位置決めしたときのエンドエフェクタのジョイント位置を基準座標系6の原点を始点とする位置ベクトルt[j](j=1, 2, 3, 4, 5, 6)で表し、各ストラットの原点41〜46を始点とするエンドエフェクタ20のジョイント21〜26までのベクトルをs[j](j=1, 2, 3, 4, 5, 6)と表す。このとき、機構パラメータが正確でかつ重力変形やバックラッシュなどのメカ的な誤差要因がなければ、位置ベクトルN[j]とt[j]との距離と、s[j]+o[j]とは一致する。
【0042】
また、キャリブレーション時、エンドエフェクタ20には、当該エンドエフェクタと主軸を一致させて調整用工具50が取り付けられている。そして、この調整用工具50の先端の基準座標系6上の座標を表す位置ベクトルをp[1],p[2],p[3](それぞれX、Y、Z座標値)とし、姿勢角度座標をp[4],p[5],p[6](それぞれX軸、Y軸、主軸中心線を回転軸とする回転軸A、B、Cの角度)とする。そして、エンドエフェクタ20においては、当該エンドエフェクタ20の主軸中心線回りの基準位置を決めるために1つの側面が図4(b)に示す基準側面として形成されている。
【0043】
キャリブレーション時には、基準座標系6の所定の位置に図略の基準穴、基準ピン、基準球、基準平面、DBB装置(の固定側球)等の基準形状物を設置して、これらの基準形状物に基づいて調整用工具50を位置決めすることにより、エンドエフェクタ20を位置決めする構成となっている。また、精密に加工された平面を有し、その平面に垂直に精密加工された基準穴を複数個有する治具を用いると、エンドエフェクタ20の姿勢角度をも規定する位置決めができるので実用的である。
【0044】
以下では、基準座標系6として、この機械テーブル3に垂直な方向をZ軸の正の方向とし、機械テーブル3の所定の面(図3における基準面5)に含まれる鉛直上向き方向をY軸の正の方向とする。そして、X軸は、機械テーブル3の基準面に含まれ、かつ当該Y軸及びZ軸のいずれにも直交し、X,Y,Z軸が右手直交座標系を構成するように決める。また、X軸,Y軸,主軸中心線回りの回転軸をそれぞれA,B,C軸とする。このとき、例えば、X軸の正の方向に向かって時計回りの方向をA軸の正の方向とする。また、B,C軸の正の方向も、それぞれY軸回り、主軸中心線回りに関して同様に定義される。
【0045】
以下、この調整用工具50として、まずダイヤルゲージを用いて、精密に加工された上面を持つ基準穴に基づいて姿勢角度を含めて手動位置決めを行う形態(実施形態1)について説明する。続いて、調整用工具50として計測プローブを用い、直接基準面に接触させる形態(実施形態2)、基準穴の円筒側面に接触させる形態(実施形態3)、基準球に接触させる形態(実施形態4)、及びDBB装置を使用する形態(実施形態5)について説明する。
【0046】
尚、いずれの実施形態においても、調整用工具50の正確な工具長を数値制御装置100に設定しておくことはいうまでもない。ここで、工具長とは、実施形態2,3,4,5の場合は、計測プローブの先端球あるいはDBB装置の可動側球の中心までの長さを示す。
【0047】
また、実施形態1では、パラレルメカニズム機構4の全機構パラメータ(以下全機構パラメータと記す)のうち一部の機構パラメータを既知として固定し、固定したものを除く機構パラメータを求める実施形態を説明するが、その説明の中の算出部113の説明では、一般性を失わないとして、全機構パラメータを同定する演算方法を説明する。当該説明を、一部の機構パラメータを既知として固定する場合に当てはめるには、機構パラメータX[]を、全機構パラメータから既知として固定した機構パラメータを除いた算出すべき機構パラメータ、続いて、既知として固定した機構パラメータの順に並べた全機構パラメータの配列とし、運動学の機構パラメータとして記述している箇所での機構パラメータX[](単に機構パラメータと記述する場合も含む)を全機構パラメータと解釈し、算出部113の算出対象として記述する箇所での機構パラメータX[]を算出すべき機構パラメータと解釈すればよい。尚、機構パラメータで偏微分するといった表現も算出部113の算出対象として記述された箇所に該当するものとする。さらに、実施形態1での算出部113の説明は、機構パラメータ以外の未知数を算出すべき機構パラメータと共に同時に算出する実施形態での説明をも兼ねる。当該実施形態においては、機構パラメータX[](単に機構パラメータと記述する場合も含む)は、機構パラメータ以外の未知数をも含む配列であり、算出すべき機構パラメータ、機構パラメータ以外の未知数、既知として固定した機構パラメータの順に並べた配列であり、機構パラメータX[](単に機構パラメータと記述する場合も含む)は、運動学の機構パラメータとして記述する場合においては、全機構パラメータを指し、算出する対象として記述する場合においては算出すべき機構パラメータと機構パラメータ以外の未知数を指すものと解釈すればよい。
【0048】
[実施形態1]
本実施形態は、エンドエフェクタ20のジョイント位置を3次元測定機などを使って求めておき、機構パラメータのうち当該ジョイント位置を固定して他の機構パラメータを算出する形態である。そして、本実施形態においては、ダイヤルゲージを用いて、精密に加工された上面を持つ基準穴に基づいて姿勢角度を含めて手動ハンドル操作による精密位置決めを行うデータ取得方法を用いている。この方法においては、数値制御装置100に設定されている機構パラメータでの座標系の原点と、基準座標系6の原点とは大きく異なっていてもよい。この方法は、XYZABCの各軸をすべて手動でハンドル操作し、エンドエフェクタ20を治具70の基準穴71へ位置決めしていく。本実施形態では、エンドエフェクタのジョイントの位置ベクトルT[j](j=1, 2, 3, 4, 5, 6)は既知として、これを除く機構パラメータを算出するとして説明する。この手動ハンドル操作による位置決め方法は、通常の5軸機での調整作業に似ているため、機械調整者が馴染みやすいという特徴がある。また、既に設置されている既存の工作機械に対しても、新たな改造を必要とせず実施できるという特徴を有する。
【0049】
工作機械1は、手動ハンドルモードを選択する押しボタンあるいは切り替えスイッチを有する。さらに、手動ハンドルの対象軸をXYZABCの各軸と、6本のストラット軸の合計12軸の中から選択するための切り替えスイッチを有する。そして、工作機械1は選択された軸を回転操作させることで駆動する正負の移動パルスを発生させる手動ハンドルと、手動ハンドルの回りに刻印された目盛りの1目盛りあたりの移動量の単位を選択する切り替えスイッチとを備える。さらに、工作機械1は、発生させた移動パルスを選択した軸の移動指令として検出し、現在の座標に加算して移動後の座標値を算出し、エンドエフェクタ20の姿勢を変える数値制御機能を有している。尚。本実施形態においては、エンドエフェクタ20の位置を変えるXYZ軸と、姿勢を変えるABC軸とを選択するのみであり、ストラット軸は選択しない。
【0050】
図4は、本発明に係る実施形態1のデータ取得方法を説明するための模式図であり、(a)は位置XYZ軸と姿勢角度のうちAB軸の位置決め工程を示し、(b)は姿勢角度のうちC軸の位置決め工程をそれぞれ表す。尚、C軸は基準姿勢になるように位置決めする。本実施形態においては、まず、精密に加工された平面である基準上面73を共通の基準穴上面75とする基準穴71が、所定の位置に形成されている治具70を基準座標系6上の既知の位置に正確に設置する。ここで、基準穴上面とは基準穴の上面を示すもので、基準穴の円筒側面の中心軸に垂直な平面のことである。また、基準穴の円筒側面の中心軸と基準穴上面との交点を基準穴の中心座標と表現する。
【0051】
さらに、「正確に設置する」とは、治具70に形成されている基準穴71の基準穴上面75が基準座標系6のXY平面に平行になるように、かつ基準座標系6での基準穴71の中心座標が確定できる位置に設置するということである。ここでは基準穴71の中心座標を(x0,y0,z0)とする。また、基準穴71は、この図に限定されず、その他の所定の位置に所定の個数分形成されている。また、本実施形態においては、図4(a)に示すダイヤルゲージ56,57を装着した基準工具55を調整用工具50として使用する。
【0052】
また、図4(b)に示したように、エンドエフェクタ20の基準側面には、C軸の基準姿勢を決めるための水準器53が備えられている。つまり、本実施形態におけるC軸の基準姿勢を決める一形態としては、ベース10の法線方向が鉛直方向と直交するような、横型の工作機械1を想定している。そして、C軸の基準姿勢は、エンドエフェクタ20の基準側面が水平となるように調整することで決定する。
【0053】
本実施形態は治具70上の基準穴71と基準穴上面75とに基づいてエンドエフェクタを位置決めするので、ユーザはキャリブレーションを行う前に、測定方法選択部131を操作して、測定方法の形式として表1に示したようにtype=1を選択しておく。ただし、実施形態1の測定対象の欄に「基準穴」とあるが、これは基準穴の基準穴上面を含むものを意味する。これにより、算出部113は、機構パラメータの算出を行う際に、誤差評価関数記憶部132からtype=1の誤差評価関数(式(4)又は式(9))を抽出して使用する。
【0054】
図5は、本発明に係る実施形態1のデータ取得の流れを説明するためのフローチャートである。まず、工作機械1の操作者が所定の切り替えスイッチにより手動ハンドルモードを選択すると(ステップS301)、完了フラグが「1」となる(ステップS302)。続いて、操作者が所定の切り替えスイッチにより対象軸をXYZABC軸の中から選択した後、目盛りの単位を選択し(ステップS303)、手動ハンドルを回転させる(ステップS304)。
【0055】
数値制御装置100は、選択された目盛りの単位と手動ハンドルが回転させられた目盛り数とを検出し、それらに基づいて移動量を算出する。そして、エンドエフェクタ20への増分指令として、現在のエンドエフェクタ20の位置に加算した移動後の位置を求める。数値制御装置100は、この位置を元に逆運動学を用いてストラット軸座標を算出し、ストラット軸を駆動してエンドエフェクタ20を移動させる(ステップS305)。このとき、A,B,Cの姿勢変化は基準工具55の工具先端を支点として動作する。
【0056】
次に、操作者は主軸を空転にし、基準工具55を360度手動回転させ(ステップS306)、そのときのダイヤルゲージ56,57の目盛りの目視による相対変位が許容誤差範囲内か否かを判定する(ステップS307)。このとき、ダイヤルゲージ56,57は、主軸を回転するたびに基準穴71の円筒側面及び基準穴上面75に接触させ、ゼロ点を切るものとする。さらに、XY、AB共に変位量の絶対値の取得は不要である。そして判定の結果、相対変位が許容誤差範囲外であると判定された場合には(ステップS307でNO)、ステップS303に戻る。それと異なり、相対変位が許容誤差範囲内であると判定された場合には(ステップS307でYES)、引き続きZ方向の位置決めに移る。
【0057】
本実施形態においては、厚さが既知であるブロックゲージ72を用い、これを治具70の基準面と基準工具55の先端との間に挿入し、Z方向の位置決めを行う(ステップS308)。引き続き、C軸回りの基準位置決めを行う。
【0058】
C軸回りの基準位置決めにおいては、まず、エンドエフェクタ20の基準側面に置かれた水準器53により、当該基準側面の傾きΔcを検出する(ステップS309)。その結果、|Δc|>eaである場合には(ステップS310でYES)、C軸回りに−Δcだけ回転させ(ステップS311)、完了フラグを「0」にする(ステップS312)。それと異なり、ステップS310でNOの場合には完了フラグは「1」のままであり、C軸の基準姿勢への位置決めは終了したものとなる。
【0059】
そして、引き続き完了フラグが「1」か否かが判定される(ステップS313)。その結果「0」であると判定されると(ステップS313でNO)、ステップS311及びステップS312を通過している、つまり、C軸の位置を変更させており、C軸位置の変更でX,Y,Z,A,Bの位置が少しだけずれるのでステップS302に戻り、再度位置座標の設定からやり直す。それと異なり、完了フラグが「1」であると判定されると(ステップS313でYES)、XYZ軸及びABC軸のすべての設定が完了したことになる。また、以上の姿勢角度座標の位置決めは、方位駆動制御部122の制御のもとに行われる。
【0060】
そこで、精密位置決め位置等の確定を行う。そのために、まず、基準工具55の工具先端位置補正量wとして、ブロックゲージ72の厚さそのものを当てはめる。(ステップS314)。これで、精密位置決め位置が(x0,y0,z0+w)と確定する。さらに、姿勢角度を(0,0,0)に確定する(ステップS315)。以上で精密位置決め位置等の確定が終了したので、取得部114は、得られた位置座標及び姿勢角度座標及び測定方法選択コード(type=1)をエンドエフェクタ位置規定情報として算出部113に送出する。さらに、取得部114は、数値制御装置100が保持するストラット軸座標を読み取り(ステップS316)、それを駆動軸取得座標として算出部113に送出する。これにより、工作機械1の機構パラメータ算出に必要なデータの取得工程を終了する。
【0061】
以上説明したように、本実施形態においてはC軸の基準姿勢への位置決めまで行うとして説明したがそれに限られず、水準器53等を用いず、C軸の基準姿勢への位置決めを行わない形態でもよい。つまり、本実施形態においては、少なくともXYZ軸及びAB軸の設定が行われていれば、正確な機構パラメータを算出することが可能である。つまり、エンドエフェクタ位置規定情報として、位置決め位置におけるエンドエフェクタ20の基準座標系6での位置座標(X,Y,Z)及び2つの姿勢角度座標(A,B)を取得すればよい。また、本実施形態は1種類の基準形状物(つまり、1つの測定方法)でデータを取得する形態について説明しているが、例えば、以下に示す他の実施形態で取得される取得データとの併用も可能である。
【0062】
続いて、上記した取得工程により取得されたデータを用いて、工作機械1のキャリブレーションを行う処理について説明する。以下、本実施形態及び他の実施形態においては、パラレルメカニズム機構4における順運動学を記述する関係式に基づいてキャリブレーションを行うとして説明するが、逆運動学を記述する関係式に基づいたキャリブレーションも可能であることは当然である。ただし、この逆運動学関係式に基づくキャリブレーションでは、本実施形態での取得データのみが使用でき、他の実施形態での取得データの併用はできない。ここで、順運動学及び逆運動学を記述する関係式とは、それぞれ次の式(1),(2)のことである。
【0063】
【数1】
【0064】
つまり、順運動学においては、ストラット軸座標s[]と機構パラメータx[]とを用いて、順運動学を記述する関数gにより位置座標及び姿勢角度座標p[]を算出する。同様に、逆運動学においては、位置座標及び姿勢角度座標p[]と機構パラメータx[]とを用いて、逆運動学を記述する関数fによりストラット軸座標s[]を算出する。尚、一般に逆運動学を記述する関数fの関数形はわかるが、順運動学を記述する関数gの関数形は露わにはわからない。
【0065】
図6は、本発明に係るキャリブレーションの流れを説明するためのフローチャートである。まず、図5に示したフローチャートにしたがって、算出部113は、取得部114から送出される姿勢を含む位置決め位置、つまり位置座標及び姿勢角度座標p[idx][](ステップS315で取得されたもの)及び当該測定方法のtype[idx]と、ストラット軸座標s[idx][] (ステップS316で取得されたもの)とを受け取る(ステップS151)。尚、type[idx]は、本実施形態では常に「1」である。このtype[idx]は他の実施形態の取得データをあわせて使用するときに意味を持つ。ここで[]には1〜6の数字が入り、[1], [2], [3]はそれぞれYXZ座標を表し、[4], [5], [6]はそれぞれABC座標(姿勢角度座標)を表す。また、「idx」はデータの組を指定するためのインデックスであり、idx=1, 2, 3, ・・・, n(nは取得データの必要組数)である。
【0066】
例えば、エンドエフェクタ20の6個のジョイント位置は3次元測定機での測定値を使用するので、取得データで規定する関係式は、これ以外の求めるべき機構パラメータの個数と同数個必要であり、ベース10の6個のジョイント位置の18個(3×6個)、さらにストラット軸の原点オフセット量6個の計24個必要となる。一方、1つの位置に位置決めした際に、XYZABC軸の座標をすべて取得した場合には、1組の取得データから6個の関係式が得られる。したがって、取得データは4組以上必要である。また、エンドエフェクタ20の6個のジョイント位置を含めた全機構パラメータを同定する場合には、計42個の関係式が必要となる。したがって、この場合、取得データは7組以上必要である。
【0067】
尚、ここでいう関係式の個数とは、互いに独立した関係式の個数のことである。取得したデータから得る関係式が従属関係にある場合には、適切な位置でのさらなる取得データを取得しなければならない。
【0068】
次に、算出部113は、誤差評価関数dの必要データ組数以上に亘る和を最小にする機構パラメータx[]を算出する(ステップS152)。
【0069】
【数2】
【0070】
誤差評価関数dは、位置座標や姿勢角度座標等のデータを取得する際に用いられた基準形状物の種類、つまり、測定方法に応じた形式を有している。また、この誤差評価関数は、工作機械1の順運動学を記述する関係式としての意味を持つ。つまり、誤差評価関数は、順運動学を記述する関係式から直接導出される関係式である。誤差評価関数の具体例を、測定対象別に表1に示す。
【0071】
【表1】
【0072】
例えば、本実施形態では、当該測定方法はtype[idx]=1である。これにより、算出部113は、誤差評価関数記憶部132からtype=1の誤差評価関数を抽出し、当該誤差評価関数(次の式(4)の{ }内)に基づいて算出処理を行う。つまり、算出部113は、取得データを用いて、パラレルメカニズム機構4の順運動学を記述する関係式(1)を直接用いることにより、前記機構パラメータを算出する。
【0073】
【数3】
【0074】
ここで、g(s[],x[])[i]は、gのi番目の値を示す。式(4)は、機構パラメータが正確でかつ重力変形やバックラッシュなどのメカ的な誤差要因がなければ、式(1)に示した順運動学の基本式に基づいて、エンドエフェクタ20の位置座標(及び姿勢角度座標)p[]と、g(s[], x[] )とが等しくなることに基づいている。上記の式(4)を最小にする解x[]は、式(4)を各機構パラメータにより偏微分して得られる次の非線形連立方程式を満たす。
【0075】
【数4】
【0076】
ここで、mは機構パラメータの数を表す。この式(5)の非線形方程式は解析的には解けないので、例えばニュートン−ラプソン法等の漸近法を用いて解く。ここで、順運動学を記述する関数gの関数形は露わにはわからないので解析的には解くことは困難である。しかしながら、関数形が露わにはわからなくても、gの値、gの各機構パラメータでの一次微分値及び二次微分値さえ求めることができれば、漸近法を使用することができる。
【0077】
まず、x[]の初期値x0[]を設定する。この初期値としては、例えば現在数値制御装置100に設定されている機構パラメータを採用すればよい。その上で、漸近解を求める。この漸近解の算出は、Fの機構パラメータx[i]による一次偏微分のx[]=x0[]における値c[i]と、当該一次偏微分をさらに機構パラメータx[j]により偏微分して得るFの二次偏微分のx[]=x0[]における値a[i] [j]を求め、これらを係数とする線形連立方程式(以下の式(6))を解くことに帰着される。
【0078】
【数5】
【0079】
さらに、式(6)を解いて得られた漸近解(漸近法を用いて得られた非線形連立方程式(5)の解)を新たにx0[]とおき、この値が収束するまで繰り返す。ただし、a[i][j]を求めるためには、gの(機構パラメータによる)一次偏微分及び二次偏微分を求めることが必要となる。これは一次偏微分に関しては、例えば、x1[i] =x0[i] - e/2(eは所定の微小量), x1[j] =x0[j](j≠i), x2[i] =x0[i] + e/2, x2[j] =x0[j](j≠i)として、次の式で近似的に求めることができる。
【0080】
【数6】
【0081】
ここで、「二重の波線」は左辺と右辺とがほぼ等しいことを意味し、g(s[], x1[] )はx[] =x1[]におけるg( s[], x[] )の値である。また、二次偏微分に関しても同様に、例えば、x1[j] =x0[j] - e/2, x1[k] =x0[k](k≠j), x2[j] =x0[j] + e/2, x2[k] =x0[k] (k≠j )として、次の式で近似的に求めることができる。
【0082】
【数7】
【0083】
以上説明した、漸近法により式(4)の値を最小にするためのアルゴリズムはあくまでも一例であり、上記以外の最小化アルゴリズムを採用することも可能である。また、以上の手法により、従来は複雑であるとされてきたキャリブレーションアルゴリズムを単なる最小値問題に置き換えることが可能となる。すなわち、本発明は、複雑なものとされてきた従来の手法に代えて、必要組数に亘る取得データを用いて、エンドエフェクタの位置XYZ及び姿勢角度ABCのすべてについての式(4)を最小にする機構パラメータを算出するものである。
【0084】
また、式(4)を下記の式(9)に変更することを考える。
【0085】
【数8】
【0086】
この式(9)を最小にする解x[]は、前述の式(4)を最小にするための手法(式(5)〜式(8))と同様にして求めることができる。ここで、式(9)中のu[idx][i]は、取得データp[idx][i]の誤差評価係数と呼ばれるものである。この誤差評価係数は、位置座標及び姿勢角度座標ごとに掛けられる所定の重み付け係数である。例えば、p[idx][i]の一部が取得されていない場合には、その取得されていない座標に対する誤差評価係数を「0(ゼロ)」とし、取得されたデータに対しては適宜相応しい誤差評価係数を掛ける(乗算する)ことができる。これは例えば、本実施形態における水準器53を設けず、C軸に係る姿勢角度座標を除いたXYZAB軸における座標値のみでキャリブレーションを行うときにC軸を使わない目的、あるいは以下の実施形態で出現する一部の座標値のみを使用し、他の座標値を無視する目的などに使用する。
【0087】
具体的には、idx1番目のデータがX軸方向の位置座標のみである場合、u[idx1][1] = 1, u[idx1][i] = 0 (i = 2, 3,・・・)と指定すればよい。また、例えば、idx2番目のデータがXYZ軸方向それぞれの位置座標のみである場合、u[idx2][1] = 1 (i = 1, 2, 3), u[idx2][i] = 0 (i = 4, 5, 6)と指定すればよい。これにより、キャリブレーションのためのデータを取得するとき、複数の軸における座標を同時に測定する必要がなくなるので、軸ごとに個別に測定を行うことが可能となる。
【0088】
また、誤差評価係数は、上記の用途以外にも、位置座標である(X,Y,Z)と姿勢角度座標である(A,B,C)とに対する重み付けを変えることにより、これらの単位の調整にも用いることができる。さらに、ユーザは、基準となる取得データの全軸に対する誤差評価係数の値を例えば「1000」などとし、それ以外の取得データに対する誤差評価係数の値を通常のように「1」などとすることにより、大きく重み付けされた基準位置に対する位置決め精度を高めたキャリブレーションを確実に行うことができる。
【0089】
以上説明した本実施形態によれば、基準穴71に基づいて位置決めした位置座標及び姿勢角度座標のうちの少なくとも一部の座標(少なくともXYZAB座標)と、取得されたストラット軸座標sに基づき、式(1)の順運動学により算出される位置座標及び姿勢角度座標のうちの少なくとも一部の座標g[s[] , x[] ]とは、機構パラメータが正確でかつ重力変形等の誤差要因がなければそれぞれ一致する。つまり、位置座標及び姿勢角度座標の対応する座標同士(例えば、基準穴71のX座標と順運動学で算出されたX座標等)の差が位置決め誤差であり、type=1の誤差評価関数は当該位置決め誤差により規定されるものである。言い換えれば、誤差評価関数は位置決め誤差を露わに含んでおり、当該位置決め誤差を評価するために用いられる関数である。これは、以下の他の実施形態においても同様である。
【0090】
続いて、算出部113は、前述の式(4)の誤差評価関数dとして、表1に示したtype=1の全取得データに亘る誤差評価関数の総和を最小にする機構パラメータxを算出する。
【0091】
ここで、本実施形態及び以下の他の実施形態において、ストラット軸座標に換えて位置決め指令値を用いる場合には、算出部113が数値制御装置100に設定されている機構パラメータに基づく逆運動学により当該位置決め指令値をストラット軸座標に変換した後、当該ストラット軸座標を用いて機構パラメータを算出すればよい。
【0092】
[実施形態2]
図7は、本発明に係る実施形態2のデータ取得方法を説明するための模式図であり、(a)は取得工程実行時における調整用工具の先端部付近の模式図、(b)はY軸方向から見た側面図をそれぞれ表す。本実施形態は、平面上の1点と面直ベクトルとで規定される基準平面が基準形状物として所定の位置に形成されている、大きさ(形状特定情報の一形態)が既知の直方体ブロック610を使用する。
【0093】
まず、精密に加工された直方体ブロック610を基準座標系6上の既知の位置に正確に設置する。ここで、「正確に設置する」とは、後述の計測プローブと直方体ブロック610の上面又は側面である基準平面との接触位置において、当該接触位置が載っている当該基準平面上の1点の座標値と、当該基準平面に垂直な方向ベクトルとの正確な値が確定するように設置するということである。
【0094】
続いて、調整用工具50として、先端球半径rと工具長Lとが既知の計測プローブ520(球形プローブの一形態)を、当該計測プローブ520の長さ方向の主軸とエンドエフェクタ20の主軸とを一致させて、エンドエフェクタ20に取り付ける。
【0095】
ここで、計測プローブ520とは、タッチセンサを内蔵し、外部の物体と接触した場合にそれを感知することが可能な工具である。また、計測プローブ520と同様の形状を有するが、タッチセンサを内蔵していない工具は「ボールバー(球形プローブの一形態)」と呼ばれる。したがって、計測プローブ520は自動計測が可能であり、ボールバーは手動計測のみに用いられる。本実施形態及び以下の他の実施形態においては、計測プローブ520を用いた自動計測を行うとして説明するが、データ取得の手順やそれらを用いたキャリブレーションの方法などはボールバーを用いた手動計測にもそのまま当てはまる。
【0096】
本実施形態においては直方体ブロック610の上面又は側面である基準平面を測定対象としているので、ユーザはキャリブレーションを行う前に、まず測定方法選択部131を操作して、測定方法の形式として表1に示したようにtype=2を選択しておく。ただし、直方体ブロック610の各面の法線ベクトルがX軸、Y軸及びZ軸とそれぞれ平行の場合は、type=1(すなわち、X,Y,Zの各座標値を規定する形態)とし、各取得データの該当する軸の誤差評価係数を「1」に、他の軸の誤差評価係数を「0(ゼロ)」にしてもよい。これにより、算出部113は、機構パラメータの算出を行う際に、誤差評価関数記憶部132からtype=2の誤差評価関数を抽出して使用する。ただし、本実施形態及び以下の実施形態に関して、表1に示した誤差評価関数では、簡単のために計測プローブ520の先端球半径rを「0(ゼロ)」として省略してある。
【0097】
次に、図7(a)に示すように、エンドエフェクタ20を自動で動作させ、直方体ブロック610の1つの基準平面に計測プローブ520を接触させる。この状態で、取得データとして、数値制御装置100が保持するストラット軸座標sを取得する。取得部114は、この取得したストラット軸座標を駆動軸取得座標とし、また当該基準平面上の1点の座標値と基準平面の面直ベクトルと測定方法選択コード(type=2)とを、エンドエフェクタ位置規定情報として算出部113に送出する。以降、取得データが機構パラメータを同定するために充分な組数に達するまで、エンドエフェクタ20の姿勢又は直方体ブロック610の基準平面や測定箇所を変えてこのデータ取得処理を続ける。
【0098】
計測プローブ520を接触させた基準平面上の一点のX,Y,Z座標値をそれぞれp[1],p[2],p[3]とし、当該基準平面の法線(単位)ベクトルのX,Y,Z成分をそれぞれp[4] , p[5] , p[6] とする。このp[]で表される平面と、取得されたストラット軸座標sと機構パラメータxとから式(1)の順運動学で算出される位置座標g[ s[] , x[] ](計測プローブ520の先端球の中心の位置座標(以下、本明細書おいては、先端球の中心座標という))で表される点との距離は、機構パラメータが正確でかつ重力変形等の誤差要因がなければ計測プローブ520の先端球の半径rと一致する。つまり、直方体ブロックの位置座標及び大きさで規定される当該直方体ブロックの表面である基準平面と、数値制御装置100が保持するストラット軸座標に基づき順運動学により算出された計測プローブ520の先端球の中心座標を中心とし計測プローブ520の先端球の半径を半径とする球との距離が位置決め誤差であり、type=2の誤差評価関数は当該位置決め誤差により規定されるものである。そして、算出部113は、前述の式(3)の誤差評価関数dとして、表1に示したtype=2の全取得データに亘る誤差評価関数の総和を最小にする機構パラメータxを算出する。これにより、正確な機構パラメータが得られる。
【0099】
以上説明した本実施形態においては、直方体ブロック610の上面と側面とを基準平面として用いたが、測定対象物は直方体である必要はなく、計測プローブ520を接触させる当該基準平面上の1点の座標値と、当該基準平面に垂直な方向ベクトルとの正確な値が既知であり、少なくとも互いに平行でない3つ以上の基準平面を有していればよい。また、本実施形態は、他の実施形態との併用でより効果を発揮する。
【0100】
[実施形態3]
図8は、本発明に係る実施形態3のデータ取得方法を説明するための模式図であり、(a)は取得工程実行時における調整用工具の先端部付近の模式図、(b)は(a)をX軸に平行な面で縦断した断面図、(c)はZ軸方向から見た上面図をそれぞれ表す。まず、半径(形状特定情報の一形態)Rが既知である基準円筒面(基準形状物の一形態であり、当該基準円筒面の側面は基準形状物の表面の一形態である)630のいくつかが所定の位置に形成されている治具611を基準座標系6上の既知の位置に正確に設置する。ここで、「正確に設置する」とは、基準円筒面630の中心線上の1点の座標(Xc,Yc,Zc)(以下、当該中心線上の1点の座標を基準円筒面630の中心座標として用いる。また、当該中心座標は、基準形状物の位置座標としての意味を持つ。)と、当該基準円筒面630の中心線方向の単位ベクトルとの正確な値が確定するように設置するということである。
【0101】
続いて、先端球半径rと工具長Lとが既知の計測プローブ520(調整用工具50)を、当該計測プローブ520の長さ方向の主軸とエンドエフェクタ20の主軸とを一致させて、エンドエフェクタ20に取り付ける。
【0102】
本実施形態においては基準円筒面630を基準形状物として使用している(つまり、測定対象としている)ので、ユーザはキャリブレーションを行う前に、測定方法選択部131を操作して、測定方法の形式として表1に示したようにtype=3を選択しておく。これにより、算出部113は、機構パラメータの算出を行う際に、誤差評価関数記憶部132からtype=3の誤差評価関数を抽出して使用する。
【0103】
次に、図8(a)及び(b)に示すように、エンドエフェクタ20を自動で動作させ、基準円筒面630の内部に挿入して当該基準円筒面630を構成している円筒側面(表面)に、当該基準円筒側面の中心線に垂直に近い任意の方向に計測プローブ520を移動させて、接触させる。この状態で、取得データとして、数値制御装置100が保持するストラット軸座標sを取得する。取得部114は、この取得したストラット軸座標を駆動軸取得座標とし、また基準円筒面630の中心座標、半径及び中心線方向の単位ベクトルと測定方法選択コード(type=3)とを、エンドエフェクタ位置規定情報として算出部113に送出する。以降、取得データが機構パラメータを同定するために充分な組数に達するまで、エンドエフェクタ20の姿勢を変え、基準円筒面630を変え、接触させる移動方向を変えて、このデータ取得処理を続ける。
【0104】
ここで、基準円筒面630の中心のX,Y,Z座標をそれぞれp[1] , p[2], p[3]とし、基準円筒面630の中心線方向の単位ベクトルをそれぞれp[4] , p[5], p[6]とする。さらに、基準円筒面630と先端球との半径の差をp[7]とする。
【0105】
この基準円筒面630と先端球との半径の差(R−r)と、取得されたストラット軸座標sと機構パラメータxとから式(1)の順運動学で算出される先端球の中心座標で示される位置から基準円筒面630の円筒中心線へ下ろした垂線の足の長さとは、機構パラメータが正確でかつ重力変形等の誤差要因がなければ一致する。つまり、基準円筒面630の中心座標及び半径から算出される当該基準円筒面630の側面と数値制御装置100が保持するストラット軸座標に基づき順運動学により算出された計測プローブ520の先端球との距離が位置決め誤差であり、type=3の誤差評価関数は当該位置決め誤差により規定されるものである。そして、算出部113は、前述の式(3)の誤差評価関数dとして、表1に示したtype=3の全取得データに亘る誤差評価関数の総和を最小にする機構パラメータxを算出する。これにより、正確な機構パラメータが算出されることとなる。
【0106】
本実施形態では、基準座標系6上に基準円筒面630を設ける構成について説明したが、同様のことは基準円筒面630に代えて基準ピン(基準形状物の他の一形態)を設ける場合についても成り立つ。図9は、本発明に係る実施形態3の他の例におけるデータ取得方法を説明するための模式図であり、(a)は取得工程実行時における調整用工具の先端部付近の模式図、(b)は(a)の拡大図をそれぞれ表す。この形態では、基準座標系6上の既知の位置に円柱形の基準ピン640が設けられている。基準円筒面630の場合には、基準円筒面630と先端球との半径の差(R−r)がポイントとなっていたが、基準ピン640の場合には、それが基準ピン640と先端球との半径の和(R+r)に置き換わることが異なるのみである。したがって、前述の表1の実施形態3の欄に示したtype=3の誤差評価関数を最小にする機構パラメータxを算出すれば、それが正確な機構パラメータとなる。尚、本実施形態は、他の実施形態との併用が可能である。
【0107】
[実施形態4]
図10は、本発明に係る実施形態4のデータ取得方法を説明するための模式図であり、(a)は取得工程実行時における調整用工具の先端部付近の模式図、(b)は(a)の拡大図をそれぞれ表す。まず、所定の位置に半径(形状特定情報の一形態)Rが既知である基準球(基準形状物の一形態)650が所定の位置に形成された治具613を基準座標系6上の既知の位置に正確に設置する。ここで、「正確に設置する」とは、基準座標系6における基準球650の中心座標(Xc,Yc,Zc)の正確な値が確定するように設置するということである。
【0108】
続いて、先端球半径rと工具長Lとが既知の計測プローブ520を、当該計測プローブ520(調整用工具50)の長さ方向の主軸とエンドエフェクタ20の主軸とを一致させて、エンドエフェクタ20に取り付ける。
【0109】
本実施形態においては基準球650を測定対象としているので、ユーザはキャリブレーションを行う前に、測定方法選択部131を操作して、使用する基準形状物の種類、つまり測定方法の形式として表1に示したようにtype=4を選択しておく。これにより、算出部113は、機構パラメータの算出を行う際に、誤差評価関数記憶部132からtype=4の誤差評価関数を抽出して使用する。
【0110】
次に、図10(a)及び(b)に示すように、エンドエフェクタ20を自動で動作させ、基準球650の外部に計測プローブ520を接触させる。この状態で、取得データとして、数値制御装置100が保持するストラット軸座標sを取得する。取得部114は、この取得したストラット軸座標を駆動軸取得座標とし、また基準球650の中心座標及び半径と測定方法選択コード(type=4)とを、エンドエフェクタ位置規定情報として算出部113に送出する。以降、接触位置を変え、エンドエフェクタの姿勢を変え、基準球650の位置を変えて、取得データが機構パラメータを同定するために充分な組数に達するまで、このデータ取得処理を続ける。
【0111】
ここで、基準球650の中心のX,Y,Z座標をそれぞれp[1] , p[2], p[3]とし、基準球650の半径Rと先端球の半径rとの和をp[4]とする。
【0112】
これらの半径の和(R+r)と、基準球650の中心と取得されたストラット軸座標sと機構パラメータxとから式(1)の順運動学で算出される先端球の中心座標で示される位置との距離とは、機構パラメータが正確でかつ重力変形等の誤差要因がなければ一致する。つまり、基準球650の中心座標及び半径により規定される当該基準球650の表面と数値制御装置100が保持するストラット軸座標に基づき順運動学により算出された計測プローブ520の先端球の中心を中心とし計測プローブ520の半径を半径とする球との距離が位置決め誤差であり、type=4の誤差評価関数は当該位置決め誤差により規定されるものである。そして、数値制御装置100は、前述の式(3)の誤差評価関数dとして、表1に示したtype=4の全取得データに亘る誤差評価関数の総和を最小にする機構パラメータxを算出する。これにより、正確な機構パラメータが得られる。尚、本実施形態は、他の実施形態との併用が可能である。
【0113】
[実施形態5]
図11は、本発明に係る実施形態5のデータ取得方法を説明するための模式図であり、(a)は取得工程実行時における調整用工具の先端部付近の模式図、(b)はDBB装置の拡大図をそれぞれ表す。まず、基準座標系6上の既知の位置に、DBB装置(相対距離測長器の一形態)660を設置する。このとき、DBB装置660の固定側球662の中心座標の正確な値が確定するように設置する。また、この図11においては、治具614の面上にDBB装置660を設置する形態を示してある。
【0114】
続いて、工具長Lが既知の調整用工具664を、当該調整用工具664の長さ方向の主軸とエンドエフェクタ20の主軸とを一致させて、エンドエフェクタ20に取り付ける。そして、エンドエフェクタ20に取り付けられた調整用工具664の先端と、DBB装置660の可動側球663の中心とが一致するように、調整用工具664とDBB装置660とを固定する。
【0115】
本実施形態においてはDBB装置660を使用しているので、ユーザはキャリブレーションを行う前に、測定方法選択部131を操作して、測定方法の形式として表1に示したようにtype=5を選択しておく。これにより、算出部113は、機構パラメータの算出を行う際に、誤差評価関数記憶部132からtype=5の誤差評価関数を抽出して使用する。尚、表1に示したtype=5の誤差評価関数中の「off」は、後述する原点オフセット量を表す。ただし、この原点オフセット量はデータ取得時には未知であるために、算出部113は、当該誤差評価関数の必要データ組数に亘る和を最小にする機構パラメータ及び原点オフセット量をともに算出する。
【0116】
次に、図11(a)及び(b)に示すように、DBB装置660の計測可能範囲において、固定側球662を中心として所定の半径Rを保ったままで、調整用工具664が固定された可動側球663を球面上を様々な経路で移動させる。以後、これを「球面運動」という。また、このとき、エンドエフェクタ20の姿勢を変化させることも重要である。さらに、本実施形態においては、当該球面運動をさせ、データ取得位置に位置決めすることを調整用工具664を既知の位置に位置決めするという。ここで、DBB装置660により求められる測長値は、可動側球663の中心と固定側球662の中心との距離である半径Rから一定量の誤差である原点オフセット量を除いた距離である。
【0117】
上述したように、調整用工具664を位置決めして、取得データとして、数値制御装置100が保持するストラット軸座標sを取得する。取得部114は、この取得したストラット軸座標を駆動軸取得座標とし、また固定側球の中心座標及び測長値と測定方法選択コード(type=5)とを、エンドエフェクタ位置規定情報として算出部113に送出する。以降、エンドエフェクタ20の姿勢を含めて位置決め位置を変え、さらにDBB装置660を合計で少なくとも3箇所以上に設置して、取得データが機構パラメータを同定するために充分な組数に達するまで、このデータ取得処理を続ける。ここで、基準球650の中心のX,Y,Z座標をそれぞれp[1] , p[2], p[3]とし、DBB装置660により求められる測長値をp[4]とする。
【0118】
この固定側球662の中心と、取得されたストラット軸座標と機構パラメータとから順運動学で算出される可動側球663の中心との距離と、DBB装置660の原点オフセット量と測長値との和である半径Rとは、機構パラメータが正確でかつ重力変形等の誤差要因がなければ一致する。つまり、数値制御装置100が保持するストラット軸座標に基づき順運動学により算出された計測プローブ520の先端球の中心座標(可動側球の中心座標)が示す点と固定側球662の中心座標が示す点との距離と、測長値と原点オフセット量との和で表される距離との差が位置決め誤差であり、type=5の誤差評価関数は当該位置決め誤差により規定されるものである。そして、数値制御装置100は、前述の式(3)の誤差評価関数dとして、表1に示したtype=5の全取得データに亘る誤差評価関数の総和を最小にする機構パラメータx及び原点オフセット量をともに算出する。これにより、正確な機構パラメータ及び原点オフセット量が得られる。
【0119】
DBB装置660を3箇所以上に設置するのは、基準座標系6と機構パラメータとの相関関係を完全に規定するのに必要だからである。仮に1箇所にのみ設置して取得したデータのみを使用する場合には、基準座標系6と機構パラメータとの相関関係のうち、回転軸方向の規定が充分ではない。そのため、解が無数に存在し、機構パラメータを同定することはできない。何故ならば、DBB装置の固定側球662を中心として基準座標系6を回転して見ても、取得されるデータは全く同じだからである。このような場合、通常、冗長パラメータを含むと表現される。以上の説明は、DBB装置660を2箇所に設置する場合でも同様である。
【0120】
[他の好ましい実施形態]
(A)以上説明した実施形態においては、6×6パラレルメカニズム工作機械(エンドエフェクタのジョイント数が6個、ベースのジョイント数が6個)について説明したが、本発明の実施形態はそれに限られず、ロボットやマニュピレータ、さらには計測装置等であってパラレルメカニズム機構を備えた装置全般に適用可能である。また、工作機械においても、6×6パラレルメカニズム工作機械のみならず、例えば、図12に示す3×3パラレルメカニズム工作機械(エンドエフェクタのジョイント数が3個、ベースのジョイント数が3個)についても適用可能である。
【0121】
(B)以上説明した実施形態においては、主に直線状の駆動軸であるストラットが伸縮することでエンドエフェクタの位置及び姿勢を制御する形態(いわゆる伸縮型)の一例として、スチュワートプラットフォームを取り上げて説明した。しかしながら、本発明に係る実施形態はそれに限られず、例えば、複数の駆動軸が関節を介して連結されており、当該駆動軸の関節の角度や当該複数の駆動軸の回転角度を制御することでエンドエフェクタの位置及び姿勢を制御する形態(いわゆる回転型)や、駆動軸の一端であってエンドエフェクタと連結された側とは反対の一端を、レール上に配置された直動スライダにより駆動することでエンドエフェクタの位置及び姿勢を制御する形態(いわゆる直動型)を有するパラレルメカニズム装置等にも適用することができる。さらに、自由度が6自由度未満であっても、運動学と逆運動学とを定義する非線形連立方程式で規定されるパラレルメカニズム装置すべてに適用可能である。
【0122】
(C)以上説明した実施形態においては、機械テーブル3の基準面5が基準座標系6のXY平面に平行として説明したが、本発明に係る実施形態はそれに限られず、基準座標系6は機械テーブル3の基準面5に対して任意の姿勢をとってもよい。
【0123】
(D)以上説明した実施形態1においては、基準座標系6のXY平面に平行な基準上面73を共通の基準穴上面75とする基準穴71が形成されている治具70を使用するとして説明した。しかしながら、本発明に係る実施形態はそれに限られず、傾斜角度が既知である傾斜面を基準穴上面75とする基準穴71が形成されている傾斜面治具プレートに位置決めする形態であってもよい。図13は、平面治具プレート及び傾斜面治具プレートを示す模式図であり、(a)は平面治具プレートをエンドエフェクタ20側から見た図、(b)は(a)の側面図、(c)は傾斜面治具プレートをエンドエフェクタ20側から見た図、(d)は(c)の側面図である。
【0124】
平面治具プレートでは、エンドエフェクタ20の姿勢角度のABは、基準姿勢である0度に規定したデータしか取得できない。この場合、ベースのジョイントとエンドエフェクタのジョイントとの位置関係が平行に近い状態で配置されているパラレルメカニズム装置においては、いかに多くのデータを取得しても、取得データで規定できる関係式が一次従属の関係となる。そのため、機構パラメータの全てを正確に求めることはできない。したがって実施形態1では、エンドエフェクタのジョイント位置を3次元測定機などを使って求めておき、これを固定して他の機構パラメータを算出する形態としている。
【0125】
それに対して、傾斜面治具プレートを使用する場合には、傾斜角度を変えた傾斜面を基準穴上面とする基準穴を使用することにより、エンドエフェクタ20の姿勢角度座標(A,B)を変化させた取得データを取得できる。(C軸の基準姿勢への位置決めは水準器の使用ができないので実施できないが、誤差評価係数を使用してC軸の位置決め位置は無視し、機構パラメータの同定ができる。)したがってこの場合には、姿勢角度をいろいろと変えた各取得データから、互いに独立となる関係式が得やすくなるため、エンドエフェクタのジョイント位置を含む全機構パラメータを正確に同定することができる。
【0126】
(E)以上説明した実施形態1及び他の好ましい実施形態(D)においては、基準穴と基準穴上面とを使用して、少なくともエンドエフェクタの基準座標系6での位置座標及び姿勢座標のうちXYZAB軸座標を同時に取得する方法について説明した。この場合は、精密に加工された基準上面とそれに垂直な中心軸を有する円筒側面を備えた基準穴が形成された治具を必要とする。しかしながら、本発明の実施形態はそれに限られず、エンドエフェクタの基準座標系6での位置座標及び姿勢座標を各軸個別に取得してもよい。つまり、実施形態1のデータ取得においても、エンドエフェクタの基準座標系6での姿勢座標を位置座標とは切り離して取得してもよい。
【0127】
このことは、穴のない基準平面を有する治具とダイヤルゲージとを使用して、エンドエフェクタの基準座標系6での姿勢座標のみを規定する取得データの取得が可能なことを示している。この場合、XYZ位置はおおよその位置に設置され、傾斜角度のみが正確に設置された治具を使用し、調整用工具の中心軸を当該治具の基準平面に垂直になるようにAB軸を調整移動させて取得データを取得する。そして、各座標軸に対する誤差評価係数を例えば(0,0,0,1,1,0)として、当該基準平面の傾斜で決まるAB軸のみを規定すればよい(つまり、XYZC軸は規定しない、すなわち無視する。)。このAB軸のみを規定する取得データは、他の実施形態と併用する場合に、特にその効果を発揮する。
【0128】
例えば、実施形態1の取得データに当該取得データをあわせて使用することで、エンドエフェクタのジョイント位置を含む全機構パラメータの同定ができる。また、前述の様々な実施形態での取得データで機構パラメータを求めたときに、重力変形等の誤差要因が影響し位置及び姿勢の位置決め誤差がいくらかは残る。この位置決め誤差のうち少なくとも基準となる位置での姿勢誤差を「0(ゼロ)」に近づける目的で、XY平面に平行な基準平面を用いて、基準位置近傍での当該取得データを取得し、その誤差評価係数を例えば(0,0,0,1000,1000,0)のように大きな値にして加えることにより、基準となる位置での姿勢角度をより正確に規定する機構パラメータを求めることができる。
【0129】
(F)以上説明した実施形態2乃至4においては、調整用工具50として計測プローブを用いる自動計測の形態について説明したが、ボールバーを用いた手動計測は、その値が信用できない初期の機構パラメータの同定に特に有効である。例えば、機構パラメータが数百mm程度違っていても、手動ハンドル操作で位置決めし、位置座標及び姿勢角度座標を取得できるので、機構パラメータを正確に同定することができる。
【0130】
(G)以上説明した実施形態1乃至5は、他の実施形態に係る取得方法と組み合わせることも可能である。一般に取得方法によっては位置座標等を取得できない領域が存在するが、実施形態3はそのような領域のデータ取得に有効である。例えば、実施形態2では、その領域内の寸法を押さえたい場所に直方体ブロックを設置する。そして、当該直方体ブロックを測定対象として位置座標等を取得することで、絶対位置決め誤差をも配慮した機構パラメータを同定することができる。また、例えば、機械テーブル3に基準溝を精密に加工しておき、その基準溝の側面を基準形状物の一形態基準平面として実施形態2のデータ取得方法を使用することで、広範囲の稼働域でのエンドエフェクタの位置の絶対位置情報を考慮した機構パラメータを求めることができる。尚、様々な実施形態を併用する場合、取得する取得データは、当該取得データ全体で機構パラメータを同定するのに充分なデータであればよい。
【0131】
(H)以上説明した実施形態では、基準形状物を基準座標系6上の既知の位置に正確に設置するとして説明したが、必ずしも正確に設置しなくてもよい。おおよその位置に基準形状物を設置した場合には、その設置位置をも未知数として、機構パラメータとともに同定することもできる。ただし、この場合は、必要な取得データ数は多くなる。また、実施形態5では、少なくとも3箇所以上にDBB装置を設置してデータ取得しなければばらないとして説明したが、他の実施形態と併用する場合は1箇所であっても構わない。例えば、1台のDBB装置をおおよその位置に設置する。そして、実施形態1での取得データ3組以上と併用する場合には、DBB装置の設置位置をも未知数として機構パラメータとともに同定することで、真円度誤差をも考慮した機構パラメータの同定ができる。
【0132】
(I)以上説明した実施形態における位置決めの方法は、あくまでも一例であり、ここに示された方法以外であっても、機構パラメータを同定するために必要なデータが取得できる方法であれば構わない。例えば、実施形態1であれば、半径が既知であるスタイラスを備えたトレーサヘッドやレーザ測長器等を用いる形態を例示することができる。また、以上の実施形態においては、実施形態ごとに決まった1つの測定方法で位置決めするとして説明したがそれに限られず、いくつかの位置決めの方法を併用する形態であってもよい。その場合、取得されたデータの形式に応じて、それぞれ対応する誤差評価関数を用いて機構パラメータの算出を行えばよい。
【図面の簡単な説明】
【0133】
【図1】本発明の一実施形態に係るパラレルメカニズム工作機械の機械的構成を示す斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る概略の機能構成を示すブロック図である。
【図3】本発明に係る工作機械の一形態である6自由度を有する6×6スチュワートプラットフォームの構成を示す概略図である。
【図4】本発明に係る実施形態1のデータ取得方法を説明するための模式図である。
【図5】本発明に係る実施形態1のデータ取得の流れを説明するためのフローチャートである。
【図6】本発明に係るキャリブレーションの流れを説明するためのフローチャートである。
【図7】本発明に係る実施形態2のデータ取得方法を説明するための模式図であり、(a)は取得工程実行時における調整用工具の先端部付近の模式図、(b)はY軸方向から見た側面図をそれぞれ表す。
【図8】本発明に係る実施形態3のデータ取得方法を説明するための模式図であり、(a)は取得工程実行時における調整用工具の先端部付近の模式図、(b)は(a)をX軸に平行な面で縦断した断面図、(c)はZ軸方向から見た上面図をそれぞれ表す。
【図9】本発明に係る実施形態3の他の例におけるデータ取得方法を説明するための模式図であり、(a)は取得工程実行時における調整用工具の先端部付近の模式図、(b)は(a)の拡大図をそれぞれ表す。
【図10】本発明に係る実施形態4のデータ取得方法を説明するための模式図であり、(a)は取得工程実行時における調整用工具の先端部付近の模式図、(b)は(a)の拡大図をそれぞれ表す。
【図11】本発明に係る実施形態5のデータ取得方法を説明するための模式図であり、(a)は取得工程実行時における調整用工具の先端部付近の模式図、(b)はDBB装置の拡大図をそれぞれ表す。
【図12】本発明に係る工作機械の一形態である6自由度を有する3×3スチュワートプラットフォームの構成を示す概略図である。
【図13】平面治具プレート及び傾斜面治具プレートを示す模式図であり、(a)は平面治具プレートをエンドエフェクタ20側から見た図、(b)は(a)の側面図、(c)は傾斜面治具プレートをエンドエフェクタ20側から見た図、(d)は(c)の側面図である。
【符号の説明】
【0134】
1 パラレルメカニズム工作機械
10 ベース
20 エンドエフェクタ
31〜36 ストラット
3 機械テーブル
50 調整用工具
70 治具
71 基準穴
100 数値制御装置
113 算出部
114 取得部
121 座標駆動制御部
122 方位駆動制御部
131 測定方法選択部
132 誤差評価関数記憶部
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラレルメカニズム装置及びパラレルメカニズム装置における機構パラメータを同定するキャリブレーションの技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ベースとエンドエフェクタとが複数の駆動軸によって並列に接続されているパラレルメカニズム機構は、片持ち梁を有する機構に比較して剛性が高く、位置決めを高精度に行えるなどの特徴を有している。その中でも、直線状の駆動軸(ストラット)が伸縮することによってエンドエフェクタの位置及び姿勢を制御する構成であるスチュワートプラットフォームは、最も代表的な形態である。しかしながら、高精度の位置決めを行うためには、ストラットの長さや、ストラットとベースあるいはエンドエフェクタとの結合部であるジョイントの座標などの機構パラメータを正確に求める必要がある。この作業がパラレルメカニズム機構のキャリブレーションであり、産官学の様々な機関で研究され、その成果が発表されている。
【0003】
一般に、このキャリブレーションを行うためには、機構パラメータと同数の多元連立方程式を解く必要がある。そのためには、エンドエフェクタの位置及び姿勢を固定し、その状態で得られる位置座標(X,Y,Z)と姿勢角度座標(A,B,C)の全部又は一部を決定しなければならない。
【0004】
この位置座標と姿勢角度座標とを決定する方法として、例えば特許文献1には、ダブルボールバー(DBB)型の距離計を用いて、エンドエフェクタを任意の姿勢で円運動させたときの円運動軌跡の半径誤差を測定し、この測定値から機構パラメータを求める技術が開示されている。また、特許文献2には、前述の多元連立方程式をエンドエフェクタの位置と機構パラメータとの関係を表す11組以上の方程式と、姿勢と機構パラメータとの関係を表す1組の方程式とに分離し、当該方程式から機構パラメータを推定してキャリブレーションを行う技術が開示されている。
【0005】
また、いずれの特許文献に係る技術においても、機構パラメータを同定する際に微小運動学を用いている。運動学問題、特に順運動学問題は解析的に解くことは困難である。微小運動学(微分運動学、変位運動学ともいう。)は、この問題を解決する演算手法に関する学問の一分野である。微小運動学においては、順運動学を記述する非線形の関係式を各機構パラメータで微分して、機構パラメータの誤差(微小変位)と位置座標の誤差(微小変位)との間に成り立つ線形の関係式を求め、当該関係式を解析的に解く。つまり、ある数値の誤差と他の数値の誤差との関係を取り扱うのが微小運動学である。
【特許文献1】特開2002−91522号公報
【特許文献2】特開2003−200367号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されている技術によれば、少なくとも1つの機構パラメータは同定することができないことが示唆されている。また、特許文献1と同様に、特許文献2に開示されている技術においても、機構パラメータを同定するためには位置決め後の測定が必要とされており、特に測定が困難な姿勢を少なくとも1組は測定しなければならない。さらに、いずれの特許文献に係る技術においても用いられている微小運動学は、そこから得られる微小変位の関係式で扱う数値の誤差に弱い。そのため、特に大型の工作機械において重力変形等が無視できない場合には、数値的に機構パラメータを同定する際の収束性が悪く、機構パラメータを正確に同定できないなどの課題を有する。
【0007】
本発明は以上の問題点に鑑みてなされたものであり、運動学の基本式をそのまま扱うことにより、数値の誤差に強く、かつすべての機構パラメータを正確に同定することが可能なパラレルメカニズム装置、パラレルメカニズム装置のキャリブレーション方法、キャリブレーションプログラム、及び記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の発明は、パラレルメカニズム装置であって、所定の架台に支持されたベースと、エンドエフェクタと、複数の駆動軸を含み、前記ベースに前記エンドエフェクタを保持するパラレルリンク機構と、で構成されるパラレルメカニズム機構と、前記パラレルメカニズム機構の運動学に基づいて前記駆動軸を駆動することで、前記エンドエフェクタの位置及び姿勢を制御する数値制御装置と、を少なくとも備えたパラレルメカニズム装置であって、前記パラレルメカニズム機構の外部に予め設定された基準座標系において、前記エンドエフェクタと主軸を一致させて取り付けられた調整用工具を所定の測定方法に基づいて既知の位置に位置決めする位置決め手段と、前記位置決め手段により前記調整用工具が位置決めされたときに、当該位置決め手段で用いられた測定方法を指定する測定方法選択コードに応じた形式を有するデータであって、前記パラレルメカニズム機構の運動学に必要な機構パラメータと前記基準座標系との相関関係を規定するデータである取得データを取得する取得手段と、前記取得データを用いて、前記パラレルメカニズム機構の順運動学を記述する関係式を直接用いることにより少なくとも前記機構パラメータを算出する算出手段と、を備えることを特徴とする。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のパラレルメカニズム装置であって、前記測定方法選択コードを選択する測定方法選択手段と、前記測定方法選択手段により選択された前記測定方法選択コードにより指定され、かつ前記取得データを評価する関数であって、前記パラレルメカニズム機構の順運動学を記述する関係式としての誤差評価関数を少なくとも1つ記憶する誤差評価関数記憶手段と、をさらに備え、前記算出手段は、前記誤差評価関数記憶手段に記憶されている誤差評価関数の中から、前記測定方法選択コードにより指定される誤差評価関数を抽出して使用することで、前記機構パラメータを同定するために充分な組数に亘る前記誤差評価関数の和を最小にする機構パラメータを算出することを特徴とする。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項2記載のパラレルメカニズム装置であって、前記算出手段は、前記機構パラメータを同定するために充分な組数に亘る前記誤差評価関数の和を各機構パラメータにより偏微分した値をゼロとして得られる非線形連立方程式の解として当該算出手段に最初に与えられた機構パラメータを初期値とし、漸近法を用いて得られた前記非線形連立方程式の解を算出すべき機構パラメータとして得ることを特徴とする。
【0011】
請求項4記載の発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載のパラレルメカニズム装置であって、前記取得手段は前記取得データとして、前記基準座標系における前記エンドエフェクタの位置及び姿勢の少なくとも一部を規定するエンドエフェクタ位置規定情報と、位置決めされた前記エンドエフェクタの位置と前記機構パラメータとの相関関係を規定する駆動軸取得座標と、を取得することを特徴とする。
【0012】
請求項5記載の発明は、請求項4記載のパラレルメカニズム装置であって、前記調整用工具は、座標調整部と姿勢調整部とを備えており、前記位置決め手段は、前記基準座標系の所定の位置に形成され、穴中心軸に垂直な基準平面と穴中心軸を中心軸とする円筒形状の側面とを有する基準穴と前記座標調整部による測定値とから前記調整用工具の前記基準座標系での位置決め位置が特定できる位置まで前記調整用工具を位置決めすることにより位置座標を固定し、前記姿勢調整部を主軸中心線回りに回転させ、前記姿勢調整部の回転面と前記基準平面との相対関係から前記エンドエフェクタの姿勢のうち前記主軸中心線の傾きを表す2つの姿勢角度座標を前記基準座標系において特定できる姿勢位置まで前記調整用工具を位置決めすることにより前記エンドエフェクタの前記2つの姿勢角度座標を固定し、前記取得手段は、前記エンドエフェクタ位置規定情報として、当該位置決め位置における前記エンドエフェクタの前記基準座標系での位置座標及び前記2つの姿勢角度座標を取得することを特徴とする。
【0013】
請求項6記載の発明は、請求項4又は5に記載のパラレルメカニズム装置であって、前記誤差評価関数は、前記エンドエフェクタ位置規定情報である前記エンドエフェクタの前記基準座標系での位置座標及び姿勢角度座標のうちの少なくとも一部の座標と、前記駆動軸取得座標に基づき順運動学により算出された位置座標及び姿勢角度座標のうちの少なくとも一部の座標との差であって、対応する座標同士の差である位置決め誤差により規定されることを特徴とする。
【0014】
請求項7記載の発明は、請求項6記載のパラレルメカニズム装置であって、前記誤差評価関数は、前記位置決め誤差に対して、座標ごとに所定の誤差評価係数を掛けることを特徴とする。
【0015】
請求項8記載の発明は、請求項4記載のパラレルメカニズム装置であって、前記調整用工具は、少なくとも先端球半径と工具長とが既知の球形プローブを備えて構成され、前記位置決め手段は、前記基準座標系において、位置座標及び形状特定情報が既知である基準形状物に前記球形プローブを接触させることにより位置決めし、前記取得手段は、前記エンドエフェクタ位置規定情報として、前記基準形状物の位置座標及び形状特定情報を取得し、前記誤差評価関数は、前記基準形状物の位置座標及び形状特定情報で規定される当該基準形状物の表面と前記駆動軸取得座標に基づき順運動学により算出された前記球形プローブの先端球の中心座標を中心とし球形プローブの半径を半径とする球との距離である位置決め誤差により規定されることを特徴とする。
【0016】
請求項9記載の発明は、請求項4記載のパラレルメカニズム装置であって、前記位置決め手段は、前記基準座標系において、固定側球の中心の位置座標が既知であり、当該基準座標系の所定の位置に設置された相対距離測長器の可動側球の中心に一致するように固定された前記調整用工具の先端を前記相対距離測長器の計測可能範囲に位置決めし、前記取得手段は、前記エンドエフェクタ位置規定情報として、前記可動側球の中心と前記固定側球の中心との距離から一定量の誤差である原点オフセット量を除いた距離であり前記相対距離測長器により求められる測長値及び前記固定側球の中心の位置座標を取得することを特徴とする。
【0017】
請求項10記載の発明は、請求項9記載のパラレルメカニズム装置であって、前記誤差評価関数は、前記駆動軸取得座標に基づき順運動学により算出された前記調整用工具の先端の位置座標が示す点と前記相対距離測長器の前記固定側球の中心の位置座標が示す点との距離と、前記測長値と前記原点オフセット量との和で表される距離との差である位置決め誤差により規定され、前記算出手段は前記機構パラメータに加え当該誤差評価関数において当該位置決め誤差の算出に必要である前記原点オフセット量を算出することを特徴とする。
【0018】
請求項11記載の発明は、請求項4乃至10のいずれかに記載のパラレルメカニズム装置であって、前記駆動軸取得座標は前記数値制御装置が保持する駆動軸座標であることを特徴とする。
【0019】
請求項12記載の発明は、請求項4乃至10のいずれかに記載のパラレルメカニズム装置であって、前記駆動軸取得座標は前記数値制御装置が保持する位置決め指令値であり、前記算出手段は、前記数値制御装置に設定されている機構パラメータに基づく逆運動学により当該位置決め指令値を駆動軸座標に変換した後、当該駆動軸座標を用いて、少なくとも前記機構パラメータを算出することを特徴とする。
【0020】
請求項13記載の発明は、パラレルメカニズム装置のキャリブレーション方法であって、所定の架台に支持されたベースと、エンドエフェクタと、複数の駆動軸を含み、前記ベースに前記エンドエフェクタを保持するパラレルリンク機構と、で構成されるパラレルメカニズム機構と、前記パラレルメカニズム機構の運動学に基づいて前記駆動軸を駆動することで、前記エンドエフェクタの位置及び姿勢を制御する数値制御装置と、を少なくとも備えたパラレルメカニズム装置のキャリブレーション方法であって、前記パラレルメカニズム機構の外部に予め設定された基準座標系において、前記エンドエフェクタと主軸を一致させて取り付けられた調整用工具を所定の測定方法に基づいて既知の位置に位置決めする位置決め工程と、前記位置決め手段により前記調整用工具が位置決めされたときに、当該位置決め手段で用いられた測定方法を指定する測定方法選択コードに応じた形式を有するデータであって、前記パラレルメカニズム機構の運動学に必要な機構パラメータと前記基準座標系との相関関係を規定するデータである取得データを取得する取得工程と、前記取得データを用いて、前記パラレルメカニズム機構の順運動学を記述する関係式を直接用いることにより少なくとも前記機構パラメータを算出する算出工程と、を備えることを特徴とする。
【0021】
請求項14記載の発明は、パラレルメカニズム装置のキャリブレーションプログラムであって、所定の架台に支持されたベースと、エンドエフェクタと、複数の駆動軸を含み、前記ベースに前記エンドエフェクタを保持するパラレルリンク機構と、で構成されるパラレルメカニズム機構と、前記パラレルメカニズム機構の運動学に基づいて前記駆動軸を駆動することで、前記エンドエフェクタの位置及び姿勢を制御する数値制御装置と、を少なくとも備えたパラレルメカニズム装置のキャリブレーションプログラムであって、前記パラレルメカニズム機構の外部に予め設定された基準座標系において、前記エンドエフェクタと主軸を一致させて取り付けられた調整用工具が所定の測定方法に基づいて既知の位置に位置決めされたときに取得され、当該位置決め手段で用いられた測定方法を指定する測定方法選択コードに応じた形式を有するデータであって、かつ前記パラレルメカニズム機構の運動学に必要な機構パラメータと前記基準座標系との相関関係を規定するデータである取得データを取り込み、当該取得データを用いて、前記パラレルメカニズム機構の順運動学を記述する関係式を直接用いることにより少なくとも前記機構パラメータを算出する算出工程としてコンピュータを機能させることを特徴とする。
【0022】
請求項15記載の発明は、所定の架台に支持されたベースと、エンドエフェクタと、複数の駆動軸を含み、前記ベースに前記エンドエフェクタを保持するパラレルリンク機構と、で構成されるパラレルメカニズム機構と、前記パラレルメカニズム機構の運動学に基づいて前記駆動軸を駆動することで、前記エンドエフェクタの位置及び姿勢を制御する数値制御装置と、を少なくとも備えたパラレルメカニズム装置のキャリブレーションプログラムであって、前記パラレルメカニズム機構の外部に予め設定された基準座標系において、前記エンドエフェクタと主軸を一致させて取り付けられた調整用工具が所定の測定方法に基づいて既知の位置に位置決めされたときに取得され、当該位置決め手段で用いられた測定方法を指定する測定方法選択コードに応じた形式を有するデータであって、かつ前記パラレルメカニズム機構の運動学に必要な機構パラメータと前記基準座標系との相関関係を規定するデータである取得データを取り込み、当該取得データを用いて、前記パラレルメカニズム機構の順運動学を記述する関係式を直接用いることにより少なくとも前記機構パラメータを算出する算出工程をコンピュータに実行させるためのキャリブレーションプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、既知の位置に位置決めするために、基準座標系でのエンドエフェクタの絶対位置を規定するデータを容易に取得できる。また、運動学の基本式をそのまま扱うことにより、数値の誤差に強く、かつすべての機構パラメータを正確に同定することが可能なパラレルメカニズム装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明に係る一実施形態について、図面を参照しながら説明する。以下の実施形態においては、パラレルメカニズム装置の一例として、6×6パラレルメカニズム工作機械(エンドエフェクタのジョイント数が6個、ベースのジョイント数が6個)について説明する。さらに、駆動軸として直動型アクチュエータ、つまりストラットを備えるスチュワートプラットフォームを取り上げて説明する。尚、各図において同一の符号を付した構成又は処理は、同一の構成又は処理であることを示し、その詳しい説明を省略する。
【0025】
図1は、本発明の一実施形態に係るパラレルメカニズム工作機械の機械的構成を示す斜視図である。パラレルメカニズム工作機械(以下、工作機械と略す。)1は、所定の架台2に支持されたベース10上に6個のジョイント(結合部)11〜16を有している。そして、このジョイント11〜16にはそれぞれ1本ずつ、計6本のストラット31〜36が接続されている。このストラット31〜36が数値制御装置(NC装置)の制御のもとに独立して伸縮することで、ジョイント21〜26を介してエンドエフェクタ20を間接的に動かし、機械テーブル3上の対象物に加工等の処理を行う構成となっている。つまり、エンドエフェクタ20は、ベース10上のジョイント11〜16と、複数のストラット31〜36と、エンドエフェクタ20と、エンドエフェクタのジョイント21〜26とで構成されるパラレルリンク機構を介してベース10に保持されている。そして、ベース10と当該パラレルリンク機構とエンドエフェクタ20とでパラレルメカニズム機構4を構成している。また、機械テーブル3は、精密に加工された機械テーブル上面である基準面5を有する。キャリブレーション時には、さらに、エンドエフェクタ20には、当該エンドエフェクタと主軸を一致させて調整用工具50が取り付けられている。
【0026】
以下、本明細書においては、工作機械1及びパラレルメカニズム機構4において、ストラット31〜36の長さからエンドエフェクタ20の位置座標と姿勢角度座標とを求めることを「順運動学」という。それに対して、エンドエフェクタ20の位置座標と姿勢角度座標とからストラット31〜36の長さを求めることを「逆運動学」という。ここで、位置座標とはXYZ軸における位置を表す座標値(X,Y,Z)であり、姿勢角度座標とはそれぞれX軸、Y軸、主軸中心線を回転中心軸とする回転方向の姿勢(回転角度)を表す座標値(A,B,C)である。
【0027】
図2は、本発明の一実施形態に係る概略の機能構成を示すブロック図である。尚、本図の各ブロックは、データ取得及び当該データの解析における各プロセスをイメージ化したものであり、必ずしもパラレルメカニズム工作機械の機能と一致するとは限らない。例えば、実際の工作機械では、座標駆動制御部121と方位駆動制御部122とはいずれも数値制御装置100内の逆運動学を介して実行される。
【0028】
工作機械1は、所定の架台2に支持されたベース10と、エンドエフェクタ20と、ベース10及びエンドエフェクタ20にそれぞれ複数個ずつ備えられたジョイントを介して当該ベース10及びエンドエフェクタ20を連結する6本のストラット31〜36と、機械テーブル3とを備えている。さらに、工作機械1は数値制御装置100を備えており、数値制御装置100は、ストラット(駆動軸の一形態)31〜36の長さであるストラット軸座標(駆動軸座標の一形態)を調節し運動学に基づいてエンドエフェクタ20の位置及び姿勢を制御し、あるいはエンドエフェクタ20の位置及び姿勢から逆運動学に基づいてストラット軸座標を制御する。
【0029】
通常の数値制御装置100は、ストラット軸座標及び位置決め指令値を保持する。ここで、位置決め指令値とは、数値制御装置100が把握しているエンドエフェクタ20の姿勢を含む位置であり、ストラット軸座標及び位置決め指令値は、数値制御装置100に設定されている機構パラメータに基づく運動学で密接に関連付けられている。例えば、数値制御装置100が保持している位置決め指令値を数値制御装置100に設定されている機構パラメータに基づく逆運動学で変換したストラット軸座標と、数値制御装置100が保持しているストラット軸座標とは一致する。
【0030】
また、数値制御装置100は、ドライブ500を介して種々の情報が記録された記録媒体から必要なプログラムをインストールし、当該プログラムが有する機能を実行することができる。本発明に係るキャリブレーション技術の各工程を実行するプログラム及び必要な演算式やテーブル等は、例えば磁気ディスク501、光磁気ディスク502、光ディスク503、半導体メモリ504等の記録媒体に記憶されている。
【0031】
また、座標駆動制御部121及び方位駆動制御部122は、キャリブレーション時に、エンドエフェクタ20と主軸を一致させて取り付けられた調整用工具50の位置あるいは姿勢をそれぞれ制御する。また、数値制御装置100に設定されている機構パラメータが不正確な場合、数値制御装置100が運動学で扱うエンドエフェクタの位置の座標を表現する座標系は正確ではなく、工作機械1の座標系としては不適切である。そのため、キャリブレーションに先駆け、工作機械1の基準座標系6として、基準面5に平行なX軸及びY軸を有するXYZ右手直交座標系である基準座標系6を、パラレルメカニズム機構4とは関係なく、機械テーブル3上の所定の位置に確立している。
【0032】
座標駆動制御部121及び方位駆動制御部122は、基準座標系6上の既知の位置に設置された形状が既知の基準形状物をもとにして、エンドエフェクタ20を基準形状物との位置関係が規定できる位置へ位置決めする位置決め工程を実行する。この場合、基準形状物との位置関係が規定できる位置とは、基準形状物の設置位置に限定されず、基準形状物との相対差を計測可能な位置を含む。基準形状物としては、基準平面、基準穴、基準ピン、基準球等が使用できる。また、DBB装置を使用することも可能である。エンドエフェクタ20の姿勢角度をも精密に位置決めする場合は、精密に加工された上面を持つ基準穴、精密に加工された底面に垂直に設置した基準ピンを使用する。
【0033】
測定方法選択部(測定方法選択手段)131は、データを取得する際に用いる測定方法(つまり、どの基準形状物に基づいて位置決めするか)を指定する測定方法選択コード(type)をユーザが入力可能(手動操作の場合)となっていて、当該測定方法選択コードを取得部114に送出する。それに対して、自動操作の場合には、データの取得手順を記述したプログラム内に測定方法選択コードが記されており、測定方法選択部131は当該測定方法選択コードを読み取ると取得部114に送出する。以下の実施形態においては、手動操作によりデータを取得する形態のみを説明する。
【0034】
誤差評価関数記憶部(誤差評価関数記憶手段)132は、測定方法選択部131により選択された測定方法選択コードにより指定され、かつ後述する取得データを評価する関数であって、工作機械1のパラレルメカニズム機構4の順運動学を記述する関係式としての誤差評価関数を少なくとも1つ記憶している。
【0035】
取得部(取得手段の一部)114は、位置決め工程により調整用工具50が位置決めされたときに、当該位置決め工程で用いられた測定方法を指定する測定方法選択コードに応じた形式を有するデータであって、パラレルメカニズム機構4の運動学に必要な機構パラメータと基準座標系6との相関関係を規定するデータである取得データを取得する取得工程を実行する。ここで取得データは、測定方法選択コードを含む基準座標系6におけるエンドエフェクタ20の位置及び姿勢の少なくとも一部を規定するエンドエフェクタ位置規定情報と、位置決めされたエンドエフェクタ20の位置と機構パラメータとの相関関係を規定する駆動軸取得座標とからなる。そして、取得部114は、取得した取得データを算出部113に送出する。取得工程で取得する取得データは、機構パラメータを同定するために充分な数の互いに独立な関係式を規定するものでなくてはならない。そのため、時にはエンドエフェクタ20の姿勢を変えるなどして取得データを取得することも必要となる。
【0036】
ここで、駆動軸取得座標とは、ストラット軸座標又は位置決め指令値のいずれかである。ただし、以下の実施形態においては、駆動軸取得座標としてストラット軸座標を取得する形態についてのみ説明する。位置決め指令値を取得する場合も、数値制御装置100に設定されている機構パラメータに基づく逆運動学によりストラット軸座標に変換すれば同様である。
【0037】
算出部(算出手段)113は、例えばコンピュータ等からなり、所定個の異なる位置に対して位置決め工程が行われ、当該位置決め工程ごとに取得工程が行われると、取得工程により得られた取得データに基づいて、パラレルメカニズム機構4の運動学に必要な機構パラメータを算出する算出工程を実行する。
【0038】
この算出工程を実行する際に算出部113は、機構パラメータを同定するために充分な組数以上の取得データを使用し、誤差評価関数記憶部132に記憶されている誤差評価関数の和を最小にすることで機構パラメータを算出する。その際、算出部113は、誤差評価関数記憶部132に記憶されている誤差評価関数群の中から、各取得データの測定方法選択コードにより指定される誤差評価関数を抽出して使用する。
【0039】
図3は、本発明に係る工作機械の一形態である6自由度を有する6×6スチュワートプラットフォームの構成を示す概略図である。Oは基準座標系6の原点である。一方、O’はエンドエフェクタに固定された座標系であるエンドエフェクタ座標系の原点である。
【0040】
ベース10は、Oを始点とする基準座標系6上の位置ベクトルN[j](j=1, 2, 3, 4, 5, 6)で表される6個のジョイント(結合部)11〜16を有している。つまり、例えば、j=1であるN[1]はジョイント11の位置ベクトルを表す。また、エンドエフェクタ20は、エンドエフェクタ座標系上の原点を始点とする位置ベクトルT[j](j=1, 2, 3, 4, 5, 6)で表される6個のジョイント(結合部)21〜26を有している。また、各ストラットの原点41〜46は、ベース10のジョイント位置を始点として、ベクトルo[j](j=1, 2, 3, 4, 5, 6)で表わされる。このベクトルo[j]のことを、以後、原点オフセットともいう。以上のN[j],T[j],o[j]がパラレルメカニズム工作機械の機構パラメータであり、以下、必要に応じてこれらのうちの全部又は一部をまとめてx[j](j=1, 2, 3, ・・・, n)と表す。ここでnは、求めるべき機構パラメータの数を示す。
【0041】
一方、エンドエフェクタを位置決めしたときのエンドエフェクタのジョイント位置を基準座標系6の原点を始点とする位置ベクトルt[j](j=1, 2, 3, 4, 5, 6)で表し、各ストラットの原点41〜46を始点とするエンドエフェクタ20のジョイント21〜26までのベクトルをs[j](j=1, 2, 3, 4, 5, 6)と表す。このとき、機構パラメータが正確でかつ重力変形やバックラッシュなどのメカ的な誤差要因がなければ、位置ベクトルN[j]とt[j]との距離と、s[j]+o[j]とは一致する。
【0042】
また、キャリブレーション時、エンドエフェクタ20には、当該エンドエフェクタと主軸を一致させて調整用工具50が取り付けられている。そして、この調整用工具50の先端の基準座標系6上の座標を表す位置ベクトルをp[1],p[2],p[3](それぞれX、Y、Z座標値)とし、姿勢角度座標をp[4],p[5],p[6](それぞれX軸、Y軸、主軸中心線を回転軸とする回転軸A、B、Cの角度)とする。そして、エンドエフェクタ20においては、当該エンドエフェクタ20の主軸中心線回りの基準位置を決めるために1つの側面が図4(b)に示す基準側面として形成されている。
【0043】
キャリブレーション時には、基準座標系6の所定の位置に図略の基準穴、基準ピン、基準球、基準平面、DBB装置(の固定側球)等の基準形状物を設置して、これらの基準形状物に基づいて調整用工具50を位置決めすることにより、エンドエフェクタ20を位置決めする構成となっている。また、精密に加工された平面を有し、その平面に垂直に精密加工された基準穴を複数個有する治具を用いると、エンドエフェクタ20の姿勢角度をも規定する位置決めができるので実用的である。
【0044】
以下では、基準座標系6として、この機械テーブル3に垂直な方向をZ軸の正の方向とし、機械テーブル3の所定の面(図3における基準面5)に含まれる鉛直上向き方向をY軸の正の方向とする。そして、X軸は、機械テーブル3の基準面に含まれ、かつ当該Y軸及びZ軸のいずれにも直交し、X,Y,Z軸が右手直交座標系を構成するように決める。また、X軸,Y軸,主軸中心線回りの回転軸をそれぞれA,B,C軸とする。このとき、例えば、X軸の正の方向に向かって時計回りの方向をA軸の正の方向とする。また、B,C軸の正の方向も、それぞれY軸回り、主軸中心線回りに関して同様に定義される。
【0045】
以下、この調整用工具50として、まずダイヤルゲージを用いて、精密に加工された上面を持つ基準穴に基づいて姿勢角度を含めて手動位置決めを行う形態(実施形態1)について説明する。続いて、調整用工具50として計測プローブを用い、直接基準面に接触させる形態(実施形態2)、基準穴の円筒側面に接触させる形態(実施形態3)、基準球に接触させる形態(実施形態4)、及びDBB装置を使用する形態(実施形態5)について説明する。
【0046】
尚、いずれの実施形態においても、調整用工具50の正確な工具長を数値制御装置100に設定しておくことはいうまでもない。ここで、工具長とは、実施形態2,3,4,5の場合は、計測プローブの先端球あるいはDBB装置の可動側球の中心までの長さを示す。
【0047】
また、実施形態1では、パラレルメカニズム機構4の全機構パラメータ(以下全機構パラメータと記す)のうち一部の機構パラメータを既知として固定し、固定したものを除く機構パラメータを求める実施形態を説明するが、その説明の中の算出部113の説明では、一般性を失わないとして、全機構パラメータを同定する演算方法を説明する。当該説明を、一部の機構パラメータを既知として固定する場合に当てはめるには、機構パラメータX[]を、全機構パラメータから既知として固定した機構パラメータを除いた算出すべき機構パラメータ、続いて、既知として固定した機構パラメータの順に並べた全機構パラメータの配列とし、運動学の機構パラメータとして記述している箇所での機構パラメータX[](単に機構パラメータと記述する場合も含む)を全機構パラメータと解釈し、算出部113の算出対象として記述する箇所での機構パラメータX[]を算出すべき機構パラメータと解釈すればよい。尚、機構パラメータで偏微分するといった表現も算出部113の算出対象として記述された箇所に該当するものとする。さらに、実施形態1での算出部113の説明は、機構パラメータ以外の未知数を算出すべき機構パラメータと共に同時に算出する実施形態での説明をも兼ねる。当該実施形態においては、機構パラメータX[](単に機構パラメータと記述する場合も含む)は、機構パラメータ以外の未知数をも含む配列であり、算出すべき機構パラメータ、機構パラメータ以外の未知数、既知として固定した機構パラメータの順に並べた配列であり、機構パラメータX[](単に機構パラメータと記述する場合も含む)は、運動学の機構パラメータとして記述する場合においては、全機構パラメータを指し、算出する対象として記述する場合においては算出すべき機構パラメータと機構パラメータ以外の未知数を指すものと解釈すればよい。
【0048】
[実施形態1]
本実施形態は、エンドエフェクタ20のジョイント位置を3次元測定機などを使って求めておき、機構パラメータのうち当該ジョイント位置を固定して他の機構パラメータを算出する形態である。そして、本実施形態においては、ダイヤルゲージを用いて、精密に加工された上面を持つ基準穴に基づいて姿勢角度を含めて手動ハンドル操作による精密位置決めを行うデータ取得方法を用いている。この方法においては、数値制御装置100に設定されている機構パラメータでの座標系の原点と、基準座標系6の原点とは大きく異なっていてもよい。この方法は、XYZABCの各軸をすべて手動でハンドル操作し、エンドエフェクタ20を治具70の基準穴71へ位置決めしていく。本実施形態では、エンドエフェクタのジョイントの位置ベクトルT[j](j=1, 2, 3, 4, 5, 6)は既知として、これを除く機構パラメータを算出するとして説明する。この手動ハンドル操作による位置決め方法は、通常の5軸機での調整作業に似ているため、機械調整者が馴染みやすいという特徴がある。また、既に設置されている既存の工作機械に対しても、新たな改造を必要とせず実施できるという特徴を有する。
【0049】
工作機械1は、手動ハンドルモードを選択する押しボタンあるいは切り替えスイッチを有する。さらに、手動ハンドルの対象軸をXYZABCの各軸と、6本のストラット軸の合計12軸の中から選択するための切り替えスイッチを有する。そして、工作機械1は選択された軸を回転操作させることで駆動する正負の移動パルスを発生させる手動ハンドルと、手動ハンドルの回りに刻印された目盛りの1目盛りあたりの移動量の単位を選択する切り替えスイッチとを備える。さらに、工作機械1は、発生させた移動パルスを選択した軸の移動指令として検出し、現在の座標に加算して移動後の座標値を算出し、エンドエフェクタ20の姿勢を変える数値制御機能を有している。尚。本実施形態においては、エンドエフェクタ20の位置を変えるXYZ軸と、姿勢を変えるABC軸とを選択するのみであり、ストラット軸は選択しない。
【0050】
図4は、本発明に係る実施形態1のデータ取得方法を説明するための模式図であり、(a)は位置XYZ軸と姿勢角度のうちAB軸の位置決め工程を示し、(b)は姿勢角度のうちC軸の位置決め工程をそれぞれ表す。尚、C軸は基準姿勢になるように位置決めする。本実施形態においては、まず、精密に加工された平面である基準上面73を共通の基準穴上面75とする基準穴71が、所定の位置に形成されている治具70を基準座標系6上の既知の位置に正確に設置する。ここで、基準穴上面とは基準穴の上面を示すもので、基準穴の円筒側面の中心軸に垂直な平面のことである。また、基準穴の円筒側面の中心軸と基準穴上面との交点を基準穴の中心座標と表現する。
【0051】
さらに、「正確に設置する」とは、治具70に形成されている基準穴71の基準穴上面75が基準座標系6のXY平面に平行になるように、かつ基準座標系6での基準穴71の中心座標が確定できる位置に設置するということである。ここでは基準穴71の中心座標を(x0,y0,z0)とする。また、基準穴71は、この図に限定されず、その他の所定の位置に所定の個数分形成されている。また、本実施形態においては、図4(a)に示すダイヤルゲージ56,57を装着した基準工具55を調整用工具50として使用する。
【0052】
また、図4(b)に示したように、エンドエフェクタ20の基準側面には、C軸の基準姿勢を決めるための水準器53が備えられている。つまり、本実施形態におけるC軸の基準姿勢を決める一形態としては、ベース10の法線方向が鉛直方向と直交するような、横型の工作機械1を想定している。そして、C軸の基準姿勢は、エンドエフェクタ20の基準側面が水平となるように調整することで決定する。
【0053】
本実施形態は治具70上の基準穴71と基準穴上面75とに基づいてエンドエフェクタを位置決めするので、ユーザはキャリブレーションを行う前に、測定方法選択部131を操作して、測定方法の形式として表1に示したようにtype=1を選択しておく。ただし、実施形態1の測定対象の欄に「基準穴」とあるが、これは基準穴の基準穴上面を含むものを意味する。これにより、算出部113は、機構パラメータの算出を行う際に、誤差評価関数記憶部132からtype=1の誤差評価関数(式(4)又は式(9))を抽出して使用する。
【0054】
図5は、本発明に係る実施形態1のデータ取得の流れを説明するためのフローチャートである。まず、工作機械1の操作者が所定の切り替えスイッチにより手動ハンドルモードを選択すると(ステップS301)、完了フラグが「1」となる(ステップS302)。続いて、操作者が所定の切り替えスイッチにより対象軸をXYZABC軸の中から選択した後、目盛りの単位を選択し(ステップS303)、手動ハンドルを回転させる(ステップS304)。
【0055】
数値制御装置100は、選択された目盛りの単位と手動ハンドルが回転させられた目盛り数とを検出し、それらに基づいて移動量を算出する。そして、エンドエフェクタ20への増分指令として、現在のエンドエフェクタ20の位置に加算した移動後の位置を求める。数値制御装置100は、この位置を元に逆運動学を用いてストラット軸座標を算出し、ストラット軸を駆動してエンドエフェクタ20を移動させる(ステップS305)。このとき、A,B,Cの姿勢変化は基準工具55の工具先端を支点として動作する。
【0056】
次に、操作者は主軸を空転にし、基準工具55を360度手動回転させ(ステップS306)、そのときのダイヤルゲージ56,57の目盛りの目視による相対変位が許容誤差範囲内か否かを判定する(ステップS307)。このとき、ダイヤルゲージ56,57は、主軸を回転するたびに基準穴71の円筒側面及び基準穴上面75に接触させ、ゼロ点を切るものとする。さらに、XY、AB共に変位量の絶対値の取得は不要である。そして判定の結果、相対変位が許容誤差範囲外であると判定された場合には(ステップS307でNO)、ステップS303に戻る。それと異なり、相対変位が許容誤差範囲内であると判定された場合には(ステップS307でYES)、引き続きZ方向の位置決めに移る。
【0057】
本実施形態においては、厚さが既知であるブロックゲージ72を用い、これを治具70の基準面と基準工具55の先端との間に挿入し、Z方向の位置決めを行う(ステップS308)。引き続き、C軸回りの基準位置決めを行う。
【0058】
C軸回りの基準位置決めにおいては、まず、エンドエフェクタ20の基準側面に置かれた水準器53により、当該基準側面の傾きΔcを検出する(ステップS309)。その結果、|Δc|>eaである場合には(ステップS310でYES)、C軸回りに−Δcだけ回転させ(ステップS311)、完了フラグを「0」にする(ステップS312)。それと異なり、ステップS310でNOの場合には完了フラグは「1」のままであり、C軸の基準姿勢への位置決めは終了したものとなる。
【0059】
そして、引き続き完了フラグが「1」か否かが判定される(ステップS313)。その結果「0」であると判定されると(ステップS313でNO)、ステップS311及びステップS312を通過している、つまり、C軸の位置を変更させており、C軸位置の変更でX,Y,Z,A,Bの位置が少しだけずれるのでステップS302に戻り、再度位置座標の設定からやり直す。それと異なり、完了フラグが「1」であると判定されると(ステップS313でYES)、XYZ軸及びABC軸のすべての設定が完了したことになる。また、以上の姿勢角度座標の位置決めは、方位駆動制御部122の制御のもとに行われる。
【0060】
そこで、精密位置決め位置等の確定を行う。そのために、まず、基準工具55の工具先端位置補正量wとして、ブロックゲージ72の厚さそのものを当てはめる。(ステップS314)。これで、精密位置決め位置が(x0,y0,z0+w)と確定する。さらに、姿勢角度を(0,0,0)に確定する(ステップS315)。以上で精密位置決め位置等の確定が終了したので、取得部114は、得られた位置座標及び姿勢角度座標及び測定方法選択コード(type=1)をエンドエフェクタ位置規定情報として算出部113に送出する。さらに、取得部114は、数値制御装置100が保持するストラット軸座標を読み取り(ステップS316)、それを駆動軸取得座標として算出部113に送出する。これにより、工作機械1の機構パラメータ算出に必要なデータの取得工程を終了する。
【0061】
以上説明したように、本実施形態においてはC軸の基準姿勢への位置決めまで行うとして説明したがそれに限られず、水準器53等を用いず、C軸の基準姿勢への位置決めを行わない形態でもよい。つまり、本実施形態においては、少なくともXYZ軸及びAB軸の設定が行われていれば、正確な機構パラメータを算出することが可能である。つまり、エンドエフェクタ位置規定情報として、位置決め位置におけるエンドエフェクタ20の基準座標系6での位置座標(X,Y,Z)及び2つの姿勢角度座標(A,B)を取得すればよい。また、本実施形態は1種類の基準形状物(つまり、1つの測定方法)でデータを取得する形態について説明しているが、例えば、以下に示す他の実施形態で取得される取得データとの併用も可能である。
【0062】
続いて、上記した取得工程により取得されたデータを用いて、工作機械1のキャリブレーションを行う処理について説明する。以下、本実施形態及び他の実施形態においては、パラレルメカニズム機構4における順運動学を記述する関係式に基づいてキャリブレーションを行うとして説明するが、逆運動学を記述する関係式に基づいたキャリブレーションも可能であることは当然である。ただし、この逆運動学関係式に基づくキャリブレーションでは、本実施形態での取得データのみが使用でき、他の実施形態での取得データの併用はできない。ここで、順運動学及び逆運動学を記述する関係式とは、それぞれ次の式(1),(2)のことである。
【0063】
【数1】
【0064】
つまり、順運動学においては、ストラット軸座標s[]と機構パラメータx[]とを用いて、順運動学を記述する関数gにより位置座標及び姿勢角度座標p[]を算出する。同様に、逆運動学においては、位置座標及び姿勢角度座標p[]と機構パラメータx[]とを用いて、逆運動学を記述する関数fによりストラット軸座標s[]を算出する。尚、一般に逆運動学を記述する関数fの関数形はわかるが、順運動学を記述する関数gの関数形は露わにはわからない。
【0065】
図6は、本発明に係るキャリブレーションの流れを説明するためのフローチャートである。まず、図5に示したフローチャートにしたがって、算出部113は、取得部114から送出される姿勢を含む位置決め位置、つまり位置座標及び姿勢角度座標p[idx][](ステップS315で取得されたもの)及び当該測定方法のtype[idx]と、ストラット軸座標s[idx][] (ステップS316で取得されたもの)とを受け取る(ステップS151)。尚、type[idx]は、本実施形態では常に「1」である。このtype[idx]は他の実施形態の取得データをあわせて使用するときに意味を持つ。ここで[]には1〜6の数字が入り、[1], [2], [3]はそれぞれYXZ座標を表し、[4], [5], [6]はそれぞれABC座標(姿勢角度座標)を表す。また、「idx」はデータの組を指定するためのインデックスであり、idx=1, 2, 3, ・・・, n(nは取得データの必要組数)である。
【0066】
例えば、エンドエフェクタ20の6個のジョイント位置は3次元測定機での測定値を使用するので、取得データで規定する関係式は、これ以外の求めるべき機構パラメータの個数と同数個必要であり、ベース10の6個のジョイント位置の18個(3×6個)、さらにストラット軸の原点オフセット量6個の計24個必要となる。一方、1つの位置に位置決めした際に、XYZABC軸の座標をすべて取得した場合には、1組の取得データから6個の関係式が得られる。したがって、取得データは4組以上必要である。また、エンドエフェクタ20の6個のジョイント位置を含めた全機構パラメータを同定する場合には、計42個の関係式が必要となる。したがって、この場合、取得データは7組以上必要である。
【0067】
尚、ここでいう関係式の個数とは、互いに独立した関係式の個数のことである。取得したデータから得る関係式が従属関係にある場合には、適切な位置でのさらなる取得データを取得しなければならない。
【0068】
次に、算出部113は、誤差評価関数dの必要データ組数以上に亘る和を最小にする機構パラメータx[]を算出する(ステップS152)。
【0069】
【数2】
【0070】
誤差評価関数dは、位置座標や姿勢角度座標等のデータを取得する際に用いられた基準形状物の種類、つまり、測定方法に応じた形式を有している。また、この誤差評価関数は、工作機械1の順運動学を記述する関係式としての意味を持つ。つまり、誤差評価関数は、順運動学を記述する関係式から直接導出される関係式である。誤差評価関数の具体例を、測定対象別に表1に示す。
【0071】
【表1】
【0072】
例えば、本実施形態では、当該測定方法はtype[idx]=1である。これにより、算出部113は、誤差評価関数記憶部132からtype=1の誤差評価関数を抽出し、当該誤差評価関数(次の式(4)の{ }内)に基づいて算出処理を行う。つまり、算出部113は、取得データを用いて、パラレルメカニズム機構4の順運動学を記述する関係式(1)を直接用いることにより、前記機構パラメータを算出する。
【0073】
【数3】
【0074】
ここで、g(s[],x[])[i]は、gのi番目の値を示す。式(4)は、機構パラメータが正確でかつ重力変形やバックラッシュなどのメカ的な誤差要因がなければ、式(1)に示した順運動学の基本式に基づいて、エンドエフェクタ20の位置座標(及び姿勢角度座標)p[]と、g(s[], x[] )とが等しくなることに基づいている。上記の式(4)を最小にする解x[]は、式(4)を各機構パラメータにより偏微分して得られる次の非線形連立方程式を満たす。
【0075】
【数4】
【0076】
ここで、mは機構パラメータの数を表す。この式(5)の非線形方程式は解析的には解けないので、例えばニュートン−ラプソン法等の漸近法を用いて解く。ここで、順運動学を記述する関数gの関数形は露わにはわからないので解析的には解くことは困難である。しかしながら、関数形が露わにはわからなくても、gの値、gの各機構パラメータでの一次微分値及び二次微分値さえ求めることができれば、漸近法を使用することができる。
【0077】
まず、x[]の初期値x0[]を設定する。この初期値としては、例えば現在数値制御装置100に設定されている機構パラメータを採用すればよい。その上で、漸近解を求める。この漸近解の算出は、Fの機構パラメータx[i]による一次偏微分のx[]=x0[]における値c[i]と、当該一次偏微分をさらに機構パラメータx[j]により偏微分して得るFの二次偏微分のx[]=x0[]における値a[i] [j]を求め、これらを係数とする線形連立方程式(以下の式(6))を解くことに帰着される。
【0078】
【数5】
【0079】
さらに、式(6)を解いて得られた漸近解(漸近法を用いて得られた非線形連立方程式(5)の解)を新たにx0[]とおき、この値が収束するまで繰り返す。ただし、a[i][j]を求めるためには、gの(機構パラメータによる)一次偏微分及び二次偏微分を求めることが必要となる。これは一次偏微分に関しては、例えば、x1[i] =x0[i] - e/2(eは所定の微小量), x1[j] =x0[j](j≠i), x2[i] =x0[i] + e/2, x2[j] =x0[j](j≠i)として、次の式で近似的に求めることができる。
【0080】
【数6】
【0081】
ここで、「二重の波線」は左辺と右辺とがほぼ等しいことを意味し、g(s[], x1[] )はx[] =x1[]におけるg( s[], x[] )の値である。また、二次偏微分に関しても同様に、例えば、x1[j] =x0[j] - e/2, x1[k] =x0[k](k≠j), x2[j] =x0[j] + e/2, x2[k] =x0[k] (k≠j )として、次の式で近似的に求めることができる。
【0082】
【数7】
【0083】
以上説明した、漸近法により式(4)の値を最小にするためのアルゴリズムはあくまでも一例であり、上記以外の最小化アルゴリズムを採用することも可能である。また、以上の手法により、従来は複雑であるとされてきたキャリブレーションアルゴリズムを単なる最小値問題に置き換えることが可能となる。すなわち、本発明は、複雑なものとされてきた従来の手法に代えて、必要組数に亘る取得データを用いて、エンドエフェクタの位置XYZ及び姿勢角度ABCのすべてについての式(4)を最小にする機構パラメータを算出するものである。
【0084】
また、式(4)を下記の式(9)に変更することを考える。
【0085】
【数8】
【0086】
この式(9)を最小にする解x[]は、前述の式(4)を最小にするための手法(式(5)〜式(8))と同様にして求めることができる。ここで、式(9)中のu[idx][i]は、取得データp[idx][i]の誤差評価係数と呼ばれるものである。この誤差評価係数は、位置座標及び姿勢角度座標ごとに掛けられる所定の重み付け係数である。例えば、p[idx][i]の一部が取得されていない場合には、その取得されていない座標に対する誤差評価係数を「0(ゼロ)」とし、取得されたデータに対しては適宜相応しい誤差評価係数を掛ける(乗算する)ことができる。これは例えば、本実施形態における水準器53を設けず、C軸に係る姿勢角度座標を除いたXYZAB軸における座標値のみでキャリブレーションを行うときにC軸を使わない目的、あるいは以下の実施形態で出現する一部の座標値のみを使用し、他の座標値を無視する目的などに使用する。
【0087】
具体的には、idx1番目のデータがX軸方向の位置座標のみである場合、u[idx1][1] = 1, u[idx1][i] = 0 (i = 2, 3,・・・)と指定すればよい。また、例えば、idx2番目のデータがXYZ軸方向それぞれの位置座標のみである場合、u[idx2][1] = 1 (i = 1, 2, 3), u[idx2][i] = 0 (i = 4, 5, 6)と指定すればよい。これにより、キャリブレーションのためのデータを取得するとき、複数の軸における座標を同時に測定する必要がなくなるので、軸ごとに個別に測定を行うことが可能となる。
【0088】
また、誤差評価係数は、上記の用途以外にも、位置座標である(X,Y,Z)と姿勢角度座標である(A,B,C)とに対する重み付けを変えることにより、これらの単位の調整にも用いることができる。さらに、ユーザは、基準となる取得データの全軸に対する誤差評価係数の値を例えば「1000」などとし、それ以外の取得データに対する誤差評価係数の値を通常のように「1」などとすることにより、大きく重み付けされた基準位置に対する位置決め精度を高めたキャリブレーションを確実に行うことができる。
【0089】
以上説明した本実施形態によれば、基準穴71に基づいて位置決めした位置座標及び姿勢角度座標のうちの少なくとも一部の座標(少なくともXYZAB座標)と、取得されたストラット軸座標sに基づき、式(1)の順運動学により算出される位置座標及び姿勢角度座標のうちの少なくとも一部の座標g[s[] , x[] ]とは、機構パラメータが正確でかつ重力変形等の誤差要因がなければそれぞれ一致する。つまり、位置座標及び姿勢角度座標の対応する座標同士(例えば、基準穴71のX座標と順運動学で算出されたX座標等)の差が位置決め誤差であり、type=1の誤差評価関数は当該位置決め誤差により規定されるものである。言い換えれば、誤差評価関数は位置決め誤差を露わに含んでおり、当該位置決め誤差を評価するために用いられる関数である。これは、以下の他の実施形態においても同様である。
【0090】
続いて、算出部113は、前述の式(4)の誤差評価関数dとして、表1に示したtype=1の全取得データに亘る誤差評価関数の総和を最小にする機構パラメータxを算出する。
【0091】
ここで、本実施形態及び以下の他の実施形態において、ストラット軸座標に換えて位置決め指令値を用いる場合には、算出部113が数値制御装置100に設定されている機構パラメータに基づく逆運動学により当該位置決め指令値をストラット軸座標に変換した後、当該ストラット軸座標を用いて機構パラメータを算出すればよい。
【0092】
[実施形態2]
図7は、本発明に係る実施形態2のデータ取得方法を説明するための模式図であり、(a)は取得工程実行時における調整用工具の先端部付近の模式図、(b)はY軸方向から見た側面図をそれぞれ表す。本実施形態は、平面上の1点と面直ベクトルとで規定される基準平面が基準形状物として所定の位置に形成されている、大きさ(形状特定情報の一形態)が既知の直方体ブロック610を使用する。
【0093】
まず、精密に加工された直方体ブロック610を基準座標系6上の既知の位置に正確に設置する。ここで、「正確に設置する」とは、後述の計測プローブと直方体ブロック610の上面又は側面である基準平面との接触位置において、当該接触位置が載っている当該基準平面上の1点の座標値と、当該基準平面に垂直な方向ベクトルとの正確な値が確定するように設置するということである。
【0094】
続いて、調整用工具50として、先端球半径rと工具長Lとが既知の計測プローブ520(球形プローブの一形態)を、当該計測プローブ520の長さ方向の主軸とエンドエフェクタ20の主軸とを一致させて、エンドエフェクタ20に取り付ける。
【0095】
ここで、計測プローブ520とは、タッチセンサを内蔵し、外部の物体と接触した場合にそれを感知することが可能な工具である。また、計測プローブ520と同様の形状を有するが、タッチセンサを内蔵していない工具は「ボールバー(球形プローブの一形態)」と呼ばれる。したがって、計測プローブ520は自動計測が可能であり、ボールバーは手動計測のみに用いられる。本実施形態及び以下の他の実施形態においては、計測プローブ520を用いた自動計測を行うとして説明するが、データ取得の手順やそれらを用いたキャリブレーションの方法などはボールバーを用いた手動計測にもそのまま当てはまる。
【0096】
本実施形態においては直方体ブロック610の上面又は側面である基準平面を測定対象としているので、ユーザはキャリブレーションを行う前に、まず測定方法選択部131を操作して、測定方法の形式として表1に示したようにtype=2を選択しておく。ただし、直方体ブロック610の各面の法線ベクトルがX軸、Y軸及びZ軸とそれぞれ平行の場合は、type=1(すなわち、X,Y,Zの各座標値を規定する形態)とし、各取得データの該当する軸の誤差評価係数を「1」に、他の軸の誤差評価係数を「0(ゼロ)」にしてもよい。これにより、算出部113は、機構パラメータの算出を行う際に、誤差評価関数記憶部132からtype=2の誤差評価関数を抽出して使用する。ただし、本実施形態及び以下の実施形態に関して、表1に示した誤差評価関数では、簡単のために計測プローブ520の先端球半径rを「0(ゼロ)」として省略してある。
【0097】
次に、図7(a)に示すように、エンドエフェクタ20を自動で動作させ、直方体ブロック610の1つの基準平面に計測プローブ520を接触させる。この状態で、取得データとして、数値制御装置100が保持するストラット軸座標sを取得する。取得部114は、この取得したストラット軸座標を駆動軸取得座標とし、また当該基準平面上の1点の座標値と基準平面の面直ベクトルと測定方法選択コード(type=2)とを、エンドエフェクタ位置規定情報として算出部113に送出する。以降、取得データが機構パラメータを同定するために充分な組数に達するまで、エンドエフェクタ20の姿勢又は直方体ブロック610の基準平面や測定箇所を変えてこのデータ取得処理を続ける。
【0098】
計測プローブ520を接触させた基準平面上の一点のX,Y,Z座標値をそれぞれp[1],p[2],p[3]とし、当該基準平面の法線(単位)ベクトルのX,Y,Z成分をそれぞれp[4] , p[5] , p[6] とする。このp[]で表される平面と、取得されたストラット軸座標sと機構パラメータxとから式(1)の順運動学で算出される位置座標g[ s[] , x[] ](計測プローブ520の先端球の中心の位置座標(以下、本明細書おいては、先端球の中心座標という))で表される点との距離は、機構パラメータが正確でかつ重力変形等の誤差要因がなければ計測プローブ520の先端球の半径rと一致する。つまり、直方体ブロックの位置座標及び大きさで規定される当該直方体ブロックの表面である基準平面と、数値制御装置100が保持するストラット軸座標に基づき順運動学により算出された計測プローブ520の先端球の中心座標を中心とし計測プローブ520の先端球の半径を半径とする球との距離が位置決め誤差であり、type=2の誤差評価関数は当該位置決め誤差により規定されるものである。そして、算出部113は、前述の式(3)の誤差評価関数dとして、表1に示したtype=2の全取得データに亘る誤差評価関数の総和を最小にする機構パラメータxを算出する。これにより、正確な機構パラメータが得られる。
【0099】
以上説明した本実施形態においては、直方体ブロック610の上面と側面とを基準平面として用いたが、測定対象物は直方体である必要はなく、計測プローブ520を接触させる当該基準平面上の1点の座標値と、当該基準平面に垂直な方向ベクトルとの正確な値が既知であり、少なくとも互いに平行でない3つ以上の基準平面を有していればよい。また、本実施形態は、他の実施形態との併用でより効果を発揮する。
【0100】
[実施形態3]
図8は、本発明に係る実施形態3のデータ取得方法を説明するための模式図であり、(a)は取得工程実行時における調整用工具の先端部付近の模式図、(b)は(a)をX軸に平行な面で縦断した断面図、(c)はZ軸方向から見た上面図をそれぞれ表す。まず、半径(形状特定情報の一形態)Rが既知である基準円筒面(基準形状物の一形態であり、当該基準円筒面の側面は基準形状物の表面の一形態である)630のいくつかが所定の位置に形成されている治具611を基準座標系6上の既知の位置に正確に設置する。ここで、「正確に設置する」とは、基準円筒面630の中心線上の1点の座標(Xc,Yc,Zc)(以下、当該中心線上の1点の座標を基準円筒面630の中心座標として用いる。また、当該中心座標は、基準形状物の位置座標としての意味を持つ。)と、当該基準円筒面630の中心線方向の単位ベクトルとの正確な値が確定するように設置するということである。
【0101】
続いて、先端球半径rと工具長Lとが既知の計測プローブ520(調整用工具50)を、当該計測プローブ520の長さ方向の主軸とエンドエフェクタ20の主軸とを一致させて、エンドエフェクタ20に取り付ける。
【0102】
本実施形態においては基準円筒面630を基準形状物として使用している(つまり、測定対象としている)ので、ユーザはキャリブレーションを行う前に、測定方法選択部131を操作して、測定方法の形式として表1に示したようにtype=3を選択しておく。これにより、算出部113は、機構パラメータの算出を行う際に、誤差評価関数記憶部132からtype=3の誤差評価関数を抽出して使用する。
【0103】
次に、図8(a)及び(b)に示すように、エンドエフェクタ20を自動で動作させ、基準円筒面630の内部に挿入して当該基準円筒面630を構成している円筒側面(表面)に、当該基準円筒側面の中心線に垂直に近い任意の方向に計測プローブ520を移動させて、接触させる。この状態で、取得データとして、数値制御装置100が保持するストラット軸座標sを取得する。取得部114は、この取得したストラット軸座標を駆動軸取得座標とし、また基準円筒面630の中心座標、半径及び中心線方向の単位ベクトルと測定方法選択コード(type=3)とを、エンドエフェクタ位置規定情報として算出部113に送出する。以降、取得データが機構パラメータを同定するために充分な組数に達するまで、エンドエフェクタ20の姿勢を変え、基準円筒面630を変え、接触させる移動方向を変えて、このデータ取得処理を続ける。
【0104】
ここで、基準円筒面630の中心のX,Y,Z座標をそれぞれp[1] , p[2], p[3]とし、基準円筒面630の中心線方向の単位ベクトルをそれぞれp[4] , p[5], p[6]とする。さらに、基準円筒面630と先端球との半径の差をp[7]とする。
【0105】
この基準円筒面630と先端球との半径の差(R−r)と、取得されたストラット軸座標sと機構パラメータxとから式(1)の順運動学で算出される先端球の中心座標で示される位置から基準円筒面630の円筒中心線へ下ろした垂線の足の長さとは、機構パラメータが正確でかつ重力変形等の誤差要因がなければ一致する。つまり、基準円筒面630の中心座標及び半径から算出される当該基準円筒面630の側面と数値制御装置100が保持するストラット軸座標に基づき順運動学により算出された計測プローブ520の先端球との距離が位置決め誤差であり、type=3の誤差評価関数は当該位置決め誤差により規定されるものである。そして、算出部113は、前述の式(3)の誤差評価関数dとして、表1に示したtype=3の全取得データに亘る誤差評価関数の総和を最小にする機構パラメータxを算出する。これにより、正確な機構パラメータが算出されることとなる。
【0106】
本実施形態では、基準座標系6上に基準円筒面630を設ける構成について説明したが、同様のことは基準円筒面630に代えて基準ピン(基準形状物の他の一形態)を設ける場合についても成り立つ。図9は、本発明に係る実施形態3の他の例におけるデータ取得方法を説明するための模式図であり、(a)は取得工程実行時における調整用工具の先端部付近の模式図、(b)は(a)の拡大図をそれぞれ表す。この形態では、基準座標系6上の既知の位置に円柱形の基準ピン640が設けられている。基準円筒面630の場合には、基準円筒面630と先端球との半径の差(R−r)がポイントとなっていたが、基準ピン640の場合には、それが基準ピン640と先端球との半径の和(R+r)に置き換わることが異なるのみである。したがって、前述の表1の実施形態3の欄に示したtype=3の誤差評価関数を最小にする機構パラメータxを算出すれば、それが正確な機構パラメータとなる。尚、本実施形態は、他の実施形態との併用が可能である。
【0107】
[実施形態4]
図10は、本発明に係る実施形態4のデータ取得方法を説明するための模式図であり、(a)は取得工程実行時における調整用工具の先端部付近の模式図、(b)は(a)の拡大図をそれぞれ表す。まず、所定の位置に半径(形状特定情報の一形態)Rが既知である基準球(基準形状物の一形態)650が所定の位置に形成された治具613を基準座標系6上の既知の位置に正確に設置する。ここで、「正確に設置する」とは、基準座標系6における基準球650の中心座標(Xc,Yc,Zc)の正確な値が確定するように設置するということである。
【0108】
続いて、先端球半径rと工具長Lとが既知の計測プローブ520を、当該計測プローブ520(調整用工具50)の長さ方向の主軸とエンドエフェクタ20の主軸とを一致させて、エンドエフェクタ20に取り付ける。
【0109】
本実施形態においては基準球650を測定対象としているので、ユーザはキャリブレーションを行う前に、測定方法選択部131を操作して、使用する基準形状物の種類、つまり測定方法の形式として表1に示したようにtype=4を選択しておく。これにより、算出部113は、機構パラメータの算出を行う際に、誤差評価関数記憶部132からtype=4の誤差評価関数を抽出して使用する。
【0110】
次に、図10(a)及び(b)に示すように、エンドエフェクタ20を自動で動作させ、基準球650の外部に計測プローブ520を接触させる。この状態で、取得データとして、数値制御装置100が保持するストラット軸座標sを取得する。取得部114は、この取得したストラット軸座標を駆動軸取得座標とし、また基準球650の中心座標及び半径と測定方法選択コード(type=4)とを、エンドエフェクタ位置規定情報として算出部113に送出する。以降、接触位置を変え、エンドエフェクタの姿勢を変え、基準球650の位置を変えて、取得データが機構パラメータを同定するために充分な組数に達するまで、このデータ取得処理を続ける。
【0111】
ここで、基準球650の中心のX,Y,Z座標をそれぞれp[1] , p[2], p[3]とし、基準球650の半径Rと先端球の半径rとの和をp[4]とする。
【0112】
これらの半径の和(R+r)と、基準球650の中心と取得されたストラット軸座標sと機構パラメータxとから式(1)の順運動学で算出される先端球の中心座標で示される位置との距離とは、機構パラメータが正確でかつ重力変形等の誤差要因がなければ一致する。つまり、基準球650の中心座標及び半径により規定される当該基準球650の表面と数値制御装置100が保持するストラット軸座標に基づき順運動学により算出された計測プローブ520の先端球の中心を中心とし計測プローブ520の半径を半径とする球との距離が位置決め誤差であり、type=4の誤差評価関数は当該位置決め誤差により規定されるものである。そして、数値制御装置100は、前述の式(3)の誤差評価関数dとして、表1に示したtype=4の全取得データに亘る誤差評価関数の総和を最小にする機構パラメータxを算出する。これにより、正確な機構パラメータが得られる。尚、本実施形態は、他の実施形態との併用が可能である。
【0113】
[実施形態5]
図11は、本発明に係る実施形態5のデータ取得方法を説明するための模式図であり、(a)は取得工程実行時における調整用工具の先端部付近の模式図、(b)はDBB装置の拡大図をそれぞれ表す。まず、基準座標系6上の既知の位置に、DBB装置(相対距離測長器の一形態)660を設置する。このとき、DBB装置660の固定側球662の中心座標の正確な値が確定するように設置する。また、この図11においては、治具614の面上にDBB装置660を設置する形態を示してある。
【0114】
続いて、工具長Lが既知の調整用工具664を、当該調整用工具664の長さ方向の主軸とエンドエフェクタ20の主軸とを一致させて、エンドエフェクタ20に取り付ける。そして、エンドエフェクタ20に取り付けられた調整用工具664の先端と、DBB装置660の可動側球663の中心とが一致するように、調整用工具664とDBB装置660とを固定する。
【0115】
本実施形態においてはDBB装置660を使用しているので、ユーザはキャリブレーションを行う前に、測定方法選択部131を操作して、測定方法の形式として表1に示したようにtype=5を選択しておく。これにより、算出部113は、機構パラメータの算出を行う際に、誤差評価関数記憶部132からtype=5の誤差評価関数を抽出して使用する。尚、表1に示したtype=5の誤差評価関数中の「off」は、後述する原点オフセット量を表す。ただし、この原点オフセット量はデータ取得時には未知であるために、算出部113は、当該誤差評価関数の必要データ組数に亘る和を最小にする機構パラメータ及び原点オフセット量をともに算出する。
【0116】
次に、図11(a)及び(b)に示すように、DBB装置660の計測可能範囲において、固定側球662を中心として所定の半径Rを保ったままで、調整用工具664が固定された可動側球663を球面上を様々な経路で移動させる。以後、これを「球面運動」という。また、このとき、エンドエフェクタ20の姿勢を変化させることも重要である。さらに、本実施形態においては、当該球面運動をさせ、データ取得位置に位置決めすることを調整用工具664を既知の位置に位置決めするという。ここで、DBB装置660により求められる測長値は、可動側球663の中心と固定側球662の中心との距離である半径Rから一定量の誤差である原点オフセット量を除いた距離である。
【0117】
上述したように、調整用工具664を位置決めして、取得データとして、数値制御装置100が保持するストラット軸座標sを取得する。取得部114は、この取得したストラット軸座標を駆動軸取得座標とし、また固定側球の中心座標及び測長値と測定方法選択コード(type=5)とを、エンドエフェクタ位置規定情報として算出部113に送出する。以降、エンドエフェクタ20の姿勢を含めて位置決め位置を変え、さらにDBB装置660を合計で少なくとも3箇所以上に設置して、取得データが機構パラメータを同定するために充分な組数に達するまで、このデータ取得処理を続ける。ここで、基準球650の中心のX,Y,Z座標をそれぞれp[1] , p[2], p[3]とし、DBB装置660により求められる測長値をp[4]とする。
【0118】
この固定側球662の中心と、取得されたストラット軸座標と機構パラメータとから順運動学で算出される可動側球663の中心との距離と、DBB装置660の原点オフセット量と測長値との和である半径Rとは、機構パラメータが正確でかつ重力変形等の誤差要因がなければ一致する。つまり、数値制御装置100が保持するストラット軸座標に基づき順運動学により算出された計測プローブ520の先端球の中心座標(可動側球の中心座標)が示す点と固定側球662の中心座標が示す点との距離と、測長値と原点オフセット量との和で表される距離との差が位置決め誤差であり、type=5の誤差評価関数は当該位置決め誤差により規定されるものである。そして、数値制御装置100は、前述の式(3)の誤差評価関数dとして、表1に示したtype=5の全取得データに亘る誤差評価関数の総和を最小にする機構パラメータx及び原点オフセット量をともに算出する。これにより、正確な機構パラメータ及び原点オフセット量が得られる。
【0119】
DBB装置660を3箇所以上に設置するのは、基準座標系6と機構パラメータとの相関関係を完全に規定するのに必要だからである。仮に1箇所にのみ設置して取得したデータのみを使用する場合には、基準座標系6と機構パラメータとの相関関係のうち、回転軸方向の規定が充分ではない。そのため、解が無数に存在し、機構パラメータを同定することはできない。何故ならば、DBB装置の固定側球662を中心として基準座標系6を回転して見ても、取得されるデータは全く同じだからである。このような場合、通常、冗長パラメータを含むと表現される。以上の説明は、DBB装置660を2箇所に設置する場合でも同様である。
【0120】
[他の好ましい実施形態]
(A)以上説明した実施形態においては、6×6パラレルメカニズム工作機械(エンドエフェクタのジョイント数が6個、ベースのジョイント数が6個)について説明したが、本発明の実施形態はそれに限られず、ロボットやマニュピレータ、さらには計測装置等であってパラレルメカニズム機構を備えた装置全般に適用可能である。また、工作機械においても、6×6パラレルメカニズム工作機械のみならず、例えば、図12に示す3×3パラレルメカニズム工作機械(エンドエフェクタのジョイント数が3個、ベースのジョイント数が3個)についても適用可能である。
【0121】
(B)以上説明した実施形態においては、主に直線状の駆動軸であるストラットが伸縮することでエンドエフェクタの位置及び姿勢を制御する形態(いわゆる伸縮型)の一例として、スチュワートプラットフォームを取り上げて説明した。しかしながら、本発明に係る実施形態はそれに限られず、例えば、複数の駆動軸が関節を介して連結されており、当該駆動軸の関節の角度や当該複数の駆動軸の回転角度を制御することでエンドエフェクタの位置及び姿勢を制御する形態(いわゆる回転型)や、駆動軸の一端であってエンドエフェクタと連結された側とは反対の一端を、レール上に配置された直動スライダにより駆動することでエンドエフェクタの位置及び姿勢を制御する形態(いわゆる直動型)を有するパラレルメカニズム装置等にも適用することができる。さらに、自由度が6自由度未満であっても、運動学と逆運動学とを定義する非線形連立方程式で規定されるパラレルメカニズム装置すべてに適用可能である。
【0122】
(C)以上説明した実施形態においては、機械テーブル3の基準面5が基準座標系6のXY平面に平行として説明したが、本発明に係る実施形態はそれに限られず、基準座標系6は機械テーブル3の基準面5に対して任意の姿勢をとってもよい。
【0123】
(D)以上説明した実施形態1においては、基準座標系6のXY平面に平行な基準上面73を共通の基準穴上面75とする基準穴71が形成されている治具70を使用するとして説明した。しかしながら、本発明に係る実施形態はそれに限られず、傾斜角度が既知である傾斜面を基準穴上面75とする基準穴71が形成されている傾斜面治具プレートに位置決めする形態であってもよい。図13は、平面治具プレート及び傾斜面治具プレートを示す模式図であり、(a)は平面治具プレートをエンドエフェクタ20側から見た図、(b)は(a)の側面図、(c)は傾斜面治具プレートをエンドエフェクタ20側から見た図、(d)は(c)の側面図である。
【0124】
平面治具プレートでは、エンドエフェクタ20の姿勢角度のABは、基準姿勢である0度に規定したデータしか取得できない。この場合、ベースのジョイントとエンドエフェクタのジョイントとの位置関係が平行に近い状態で配置されているパラレルメカニズム装置においては、いかに多くのデータを取得しても、取得データで規定できる関係式が一次従属の関係となる。そのため、機構パラメータの全てを正確に求めることはできない。したがって実施形態1では、エンドエフェクタのジョイント位置を3次元測定機などを使って求めておき、これを固定して他の機構パラメータを算出する形態としている。
【0125】
それに対して、傾斜面治具プレートを使用する場合には、傾斜角度を変えた傾斜面を基準穴上面とする基準穴を使用することにより、エンドエフェクタ20の姿勢角度座標(A,B)を変化させた取得データを取得できる。(C軸の基準姿勢への位置決めは水準器の使用ができないので実施できないが、誤差評価係数を使用してC軸の位置決め位置は無視し、機構パラメータの同定ができる。)したがってこの場合には、姿勢角度をいろいろと変えた各取得データから、互いに独立となる関係式が得やすくなるため、エンドエフェクタのジョイント位置を含む全機構パラメータを正確に同定することができる。
【0126】
(E)以上説明した実施形態1及び他の好ましい実施形態(D)においては、基準穴と基準穴上面とを使用して、少なくともエンドエフェクタの基準座標系6での位置座標及び姿勢座標のうちXYZAB軸座標を同時に取得する方法について説明した。この場合は、精密に加工された基準上面とそれに垂直な中心軸を有する円筒側面を備えた基準穴が形成された治具を必要とする。しかしながら、本発明の実施形態はそれに限られず、エンドエフェクタの基準座標系6での位置座標及び姿勢座標を各軸個別に取得してもよい。つまり、実施形態1のデータ取得においても、エンドエフェクタの基準座標系6での姿勢座標を位置座標とは切り離して取得してもよい。
【0127】
このことは、穴のない基準平面を有する治具とダイヤルゲージとを使用して、エンドエフェクタの基準座標系6での姿勢座標のみを規定する取得データの取得が可能なことを示している。この場合、XYZ位置はおおよその位置に設置され、傾斜角度のみが正確に設置された治具を使用し、調整用工具の中心軸を当該治具の基準平面に垂直になるようにAB軸を調整移動させて取得データを取得する。そして、各座標軸に対する誤差評価係数を例えば(0,0,0,1,1,0)として、当該基準平面の傾斜で決まるAB軸のみを規定すればよい(つまり、XYZC軸は規定しない、すなわち無視する。)。このAB軸のみを規定する取得データは、他の実施形態と併用する場合に、特にその効果を発揮する。
【0128】
例えば、実施形態1の取得データに当該取得データをあわせて使用することで、エンドエフェクタのジョイント位置を含む全機構パラメータの同定ができる。また、前述の様々な実施形態での取得データで機構パラメータを求めたときに、重力変形等の誤差要因が影響し位置及び姿勢の位置決め誤差がいくらかは残る。この位置決め誤差のうち少なくとも基準となる位置での姿勢誤差を「0(ゼロ)」に近づける目的で、XY平面に平行な基準平面を用いて、基準位置近傍での当該取得データを取得し、その誤差評価係数を例えば(0,0,0,1000,1000,0)のように大きな値にして加えることにより、基準となる位置での姿勢角度をより正確に規定する機構パラメータを求めることができる。
【0129】
(F)以上説明した実施形態2乃至4においては、調整用工具50として計測プローブを用いる自動計測の形態について説明したが、ボールバーを用いた手動計測は、その値が信用できない初期の機構パラメータの同定に特に有効である。例えば、機構パラメータが数百mm程度違っていても、手動ハンドル操作で位置決めし、位置座標及び姿勢角度座標を取得できるので、機構パラメータを正確に同定することができる。
【0130】
(G)以上説明した実施形態1乃至5は、他の実施形態に係る取得方法と組み合わせることも可能である。一般に取得方法によっては位置座標等を取得できない領域が存在するが、実施形態3はそのような領域のデータ取得に有効である。例えば、実施形態2では、その領域内の寸法を押さえたい場所に直方体ブロックを設置する。そして、当該直方体ブロックを測定対象として位置座標等を取得することで、絶対位置決め誤差をも配慮した機構パラメータを同定することができる。また、例えば、機械テーブル3に基準溝を精密に加工しておき、その基準溝の側面を基準形状物の一形態基準平面として実施形態2のデータ取得方法を使用することで、広範囲の稼働域でのエンドエフェクタの位置の絶対位置情報を考慮した機構パラメータを求めることができる。尚、様々な実施形態を併用する場合、取得する取得データは、当該取得データ全体で機構パラメータを同定するのに充分なデータであればよい。
【0131】
(H)以上説明した実施形態では、基準形状物を基準座標系6上の既知の位置に正確に設置するとして説明したが、必ずしも正確に設置しなくてもよい。おおよその位置に基準形状物を設置した場合には、その設置位置をも未知数として、機構パラメータとともに同定することもできる。ただし、この場合は、必要な取得データ数は多くなる。また、実施形態5では、少なくとも3箇所以上にDBB装置を設置してデータ取得しなければばらないとして説明したが、他の実施形態と併用する場合は1箇所であっても構わない。例えば、1台のDBB装置をおおよその位置に設置する。そして、実施形態1での取得データ3組以上と併用する場合には、DBB装置の設置位置をも未知数として機構パラメータとともに同定することで、真円度誤差をも考慮した機構パラメータの同定ができる。
【0132】
(I)以上説明した実施形態における位置決めの方法は、あくまでも一例であり、ここに示された方法以外であっても、機構パラメータを同定するために必要なデータが取得できる方法であれば構わない。例えば、実施形態1であれば、半径が既知であるスタイラスを備えたトレーサヘッドやレーザ測長器等を用いる形態を例示することができる。また、以上の実施形態においては、実施形態ごとに決まった1つの測定方法で位置決めするとして説明したがそれに限られず、いくつかの位置決めの方法を併用する形態であってもよい。その場合、取得されたデータの形式に応じて、それぞれ対応する誤差評価関数を用いて機構パラメータの算出を行えばよい。
【図面の簡単な説明】
【0133】
【図1】本発明の一実施形態に係るパラレルメカニズム工作機械の機械的構成を示す斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る概略の機能構成を示すブロック図である。
【図3】本発明に係る工作機械の一形態である6自由度を有する6×6スチュワートプラットフォームの構成を示す概略図である。
【図4】本発明に係る実施形態1のデータ取得方法を説明するための模式図である。
【図5】本発明に係る実施形態1のデータ取得の流れを説明するためのフローチャートである。
【図6】本発明に係るキャリブレーションの流れを説明するためのフローチャートである。
【図7】本発明に係る実施形態2のデータ取得方法を説明するための模式図であり、(a)は取得工程実行時における調整用工具の先端部付近の模式図、(b)はY軸方向から見た側面図をそれぞれ表す。
【図8】本発明に係る実施形態3のデータ取得方法を説明するための模式図であり、(a)は取得工程実行時における調整用工具の先端部付近の模式図、(b)は(a)をX軸に平行な面で縦断した断面図、(c)はZ軸方向から見た上面図をそれぞれ表す。
【図9】本発明に係る実施形態3の他の例におけるデータ取得方法を説明するための模式図であり、(a)は取得工程実行時における調整用工具の先端部付近の模式図、(b)は(a)の拡大図をそれぞれ表す。
【図10】本発明に係る実施形態4のデータ取得方法を説明するための模式図であり、(a)は取得工程実行時における調整用工具の先端部付近の模式図、(b)は(a)の拡大図をそれぞれ表す。
【図11】本発明に係る実施形態5のデータ取得方法を説明するための模式図であり、(a)は取得工程実行時における調整用工具の先端部付近の模式図、(b)はDBB装置の拡大図をそれぞれ表す。
【図12】本発明に係る工作機械の一形態である6自由度を有する3×3スチュワートプラットフォームの構成を示す概略図である。
【図13】平面治具プレート及び傾斜面治具プレートを示す模式図であり、(a)は平面治具プレートをエンドエフェクタ20側から見た図、(b)は(a)の側面図、(c)は傾斜面治具プレートをエンドエフェクタ20側から見た図、(d)は(c)の側面図である。
【符号の説明】
【0134】
1 パラレルメカニズム工作機械
10 ベース
20 エンドエフェクタ
31〜36 ストラット
3 機械テーブル
50 調整用工具
70 治具
71 基準穴
100 数値制御装置
113 算出部
114 取得部
121 座標駆動制御部
122 方位駆動制御部
131 測定方法選択部
132 誤差評価関数記憶部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の架台に支持されたベースと、
エンドエフェクタと、
複数の駆動軸を含み、前記ベースに前記エンドエフェクタを保持するパラレルリンク機構と、
で構成されるパラレルメカニズム機構と、
前記パラレルメカニズム機構の運動学に基づいて前記駆動軸を駆動することで、前記エンドエフェクタの位置及び姿勢を制御する数値制御装置と、
を少なくとも備えたパラレルメカニズム装置であって、
前記パラレルメカニズム機構の外部に予め設定された基準座標系において、前記エンドエフェクタと主軸を一致させて取り付けられた調整用工具を所定の測定方法に基づいて既知の位置に位置決めする位置決め手段と、
前記位置決め手段により前記調整用工具が位置決めされたときに、当該位置決め手段で用いられた測定方法を指定する測定方法選択コードに応じた形式を有するデータであって、前記パラレルメカニズム機構の運動学に必要な機構パラメータと前記基準座標系との相関関係を規定するデータである取得データを取得する取得手段と、
前記取得データを用いて、前記パラレルメカニズム機構の順運動学を記述する関係式を直接用いることにより少なくとも前記機構パラメータを算出する算出手段と、
を備えることを特徴とするパラレルメカニズム装置。
【請求項2】
前記測定方法選択コードを選択する測定方法選択手段と、
前記測定方法選択手段により選択された前記測定方法選択コードにより指定され、かつ前記取得データを評価する関数であって、前記パラレルメカニズム機構の順運動学を記述する関係式としての誤差評価関数を少なくとも1つ記憶する誤差評価関数記憶手段と、
をさらに備え、
前記算出手段は、前記誤差評価関数記憶手段に記憶されている誤差評価関数の中から、前記測定方法選択コードにより指定される誤差評価関数を抽出して使用することで、前記機構パラメータを同定するために充分な組数に亘る前記誤差評価関数の和を最小にする機構パラメータを算出することを特徴とする請求項1記載のパラレルメカニズム装置。
【請求項3】
前記算出手段は、前記機構パラメータを同定するために充分な組数に亘る前記誤差評価関数の和を各機構パラメータにより偏微分した値をゼロとして得られる非線形連立方程式の解として当該算出手段に最初に与えられた機構パラメータを初期値とし、漸近法を用いて得られた前記非線形連立方程式の解を算出すべき機構パラメータとして得ることを特徴とする請求項2記載のパラレルメカニズム装置。
【請求項4】
前記取得手段は前記取得データとして、
前記基準座標系における前記エンドエフェクタの位置及び姿勢の少なくとも一部を規定するエンドエフェクタ位置規定情報と、
位置決めされた前記エンドエフェクタの位置と前記機構パラメータとの相関関係を規定する駆動軸取得座標と、
を取得することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のパラレルメカニズム装置。
【請求項5】
前記調整用工具は、座標調整部と姿勢調整部とを備えており、
前記位置決め手段は、前記基準座標系の所定の位置に形成され、穴中心軸に垂直な基準平面と穴中心軸を中心軸とする円筒形状の側面とを有する基準穴と前記座標調整部による測定値とから前記調整用工具の前記基準座標系での位置決め位置が特定できる位置まで前記調整用工具を位置決めすることにより位置座標を固定し、前記姿勢調整部を主軸中心線回りに回転させ、前記姿勢調整部の回転面と前記基準平面との相対関係から前記エンドエフェクタの姿勢のうち前記主軸中心線の傾きを表す2つの姿勢角度座標を前記基準座標系において特定できる姿勢位置まで前記調整用工具を位置決めすることにより前記エンドエフェクタの前記2つの姿勢角度座標を固定し、
前記取得手段は、前記エンドエフェクタ位置規定情報として、当該位置決め位置における前記エンドエフェクタの前記基準座標系での位置座標及び前記2つの姿勢角度座標を取得することを特徴とする請求項4記載のパラレルメカニズム装置。
【請求項6】
前記誤差評価関数は、前記エンドエフェクタ位置規定情報である前記エンドエフェクタの前記基準座標系での位置座標及び姿勢角度座標のうちの少なくとも一部の座標と、前記駆動軸取得座標に基づき順運動学により算出された位置座標及び姿勢角度座標のうちの少なくとも一部の座標との差であって、対応する座標同士の差である位置決め誤差により規定されることを特徴とする請求項4又は5に記載のパラレルメカニズム装置。
【請求項7】
前記誤差評価関数は、前記位置決め誤差に対して、座標ごとに所定の誤差評価係数を掛けることを特徴とする請求項6記載のパラレルメカニズム装置。
【請求項8】
前記調整用工具は、少なくとも先端球半径と工具長とが既知の球形プローブを備えて構成され、
前記位置決め手段は、前記基準座標系において、位置座標及び形状特定情報が既知である基準形状物に前記球形プローブを接触させることにより位置決めし、
前記取得手段は、前記エンドエフェクタ位置規定情報として、前記基準形状物の位置座標及び形状特定情報を取得し、
前記誤差評価関数は、前記基準形状物の位置座標及び形状特定情報で規定される当該基準形状物の表面と前記駆動軸取得座標に基づき順運動学により算出された前記球形プローブの先端球の中心座標を中心とし球形プローブの半径を半径とする球との距離である位置決め誤差により規定されることを特徴とする請求項4記載のパラレルメカニズム装置。
【請求項9】
前記位置決め手段は、前記基準座標系において、固定側球の中心の位置座標が既知であり、当該基準座標系の所定の位置に設置された相対距離測長器の可動側球の中心に一致するように固定された前記調整用工具の先端を前記相対距離測長器の計測可能範囲に位置決めし、
前記取得手段は、前記エンドエフェクタ位置規定情報として、前記可動側球の中心と前記固定側球の中心との距離から一定量の誤差である原点オフセット量を除いた距離であり前記相対距離測長器により求められる測長値及び前記固定側球の中心の位置座標を取得することを特徴とする請求項4記載のパラレルメカニズム装置。
【請求項10】
前記誤差評価関数は、前記駆動軸取得座標に基づき順運動学により算出された前記調整用工具の先端の位置座標が示す点と前記相対距離測長器の前記固定側球の中心の位置座標が示す点との距離と、前記測長値と前記原点オフセット量との和で表される距離との差である位置決め誤差により規定され、前記算出手段は前記機構パラメータに加え当該誤差評価関数において当該位置決め誤差の算出に必要である前記原点オフセット量を算出することを特徴とする請求項9記載のパラレルメカニズム装置。
【請求項11】
前記駆動軸取得座標は前記数値制御装置が保持する駆動軸座標であることを特徴とする請求項4乃至10のいずれかに記載のパラレルメカニズム装置。
【請求項12】
前記駆動軸取得座標は前記数値制御装置が保持する位置決め指令値であり、
前記算出手段は、前記数値制御装置に設定されている機構パラメータに基づく逆運動学により当該位置決め指令値を駆動軸座標に変換した後、当該駆動軸座標を用いて、少なくとも前記機構パラメータを算出することを特徴とする請求項4乃至10のいずれかに記載のパラレルメカニズム装置。
【請求項13】
所定の架台に支持されたベースと、
エンドエフェクタと、
複数の駆動軸を含み、前記ベースに前記エンドエフェクタを保持するパラレルリンク機構と、
で構成されるパラレルメカニズム機構と、
前記パラレルメカニズム機構の運動学に基づいて前記駆動軸を駆動することで、前記エンドエフェクタの位置及び姿勢を制御する数値制御装置と、
を少なくとも備えたパラレルメカニズム装置のキャリブレーション方法であって、
前記パラレルメカニズム機構の外部に予め設定された基準座標系において、前記エンドエフェクタと主軸を一致させて取り付けられた調整用工具を所定の測定方法に基づいて既知の位置に位置決めする位置決め工程と、
前記位置決め手段により前記調整用工具が位置決めされたときに、当該位置決め手段で用いられた測定方法を指定する測定方法選択コードに応じた形式を有するデータであって、前記パラレルメカニズム機構の運動学に必要な機構パラメータと前記基準座標系との相関関係を規定するデータである取得データを取得する取得工程と、
前記取得データを用いて、前記パラレルメカニズム機構の順運動学を記述する関係式を直接用いることにより少なくとも前記機構パラメータを算出する算出工程と、
を備えることを特徴とするパラレルメカニズム装置のキャリブレーション方法。
【請求項14】
所定の架台に支持されたベースと、
エンドエフェクタと、
複数の駆動軸を含み、前記ベースに前記エンドエフェクタを保持するパラレルリンク機構と、
で構成されるパラレルメカニズム機構と、
前記パラレルメカニズム機構の運動学に基づいて前記駆動軸を駆動することで、前記エンドエフェクタの位置及び姿勢を制御する数値制御装置と、
を少なくとも備えたパラレルメカニズム装置のキャリブレーションプログラムであって、
前記パラレルメカニズム機構の外部に予め設定された基準座標系において、前記エンドエフェクタと主軸を一致させて取り付けられた調整用工具が所定の測定方法に基づいて既知の位置に位置決めされたときに取得され、当該位置決め手段で用いられた測定方法を指定する測定方法選択コードに応じた形式を有するデータであって、かつ前記パラレルメカニズム機構の運動学に必要な機構パラメータと前記基準座標系との相関関係を規定するデータである取得データを取り込み、当該取得データを用いて、前記パラレルメカニズム機構の順運動学を記述する関係式を直接用いることにより少なくとも前記機構パラメータを算出する算出工程としてコンピュータを機能させることを特徴とするパラレルメカニズム装置のキャリブレーションプログラム。
【請求項15】
所定の架台に支持されたベースと、
エンドエフェクタと、
複数の駆動軸を含み、前記ベースに前記エンドエフェクタを保持するパラレルリンク機構と、
で構成されるパラレルメカニズム機構と、
前記パラレルメカニズム機構の運動学に基づいて前記駆動軸を駆動することで、前記エンドエフェクタの位置及び姿勢を制御する数値制御装置と、
を少なくとも備えたパラレルメカニズム装置のキャリブレーションプログラムであって、
前記パラレルメカニズム機構の外部に予め設定された基準座標系において、前記エンドエフェクタと主軸を一致させて取り付けられた調整用工具が所定の測定方法に基づいて既知の位置に位置決めされたときに取得され、当該位置決め手段で用いられた測定方法を指定する測定方法選択コードに応じた形式を有するデータであって、かつ前記パラレルメカニズム機構の運動学に必要な機構パラメータと前記基準座標系との相関関係を規定するデータである取得データを取り込み、当該取得データを用いて、前記パラレルメカニズム機構の順運動学を記述する関係式を直接用いることにより少なくとも前記機構パラメータを算出する算出工程をコンピュータに実行させるためのキャリブレーションプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【請求項1】
所定の架台に支持されたベースと、
エンドエフェクタと、
複数の駆動軸を含み、前記ベースに前記エンドエフェクタを保持するパラレルリンク機構と、
で構成されるパラレルメカニズム機構と、
前記パラレルメカニズム機構の運動学に基づいて前記駆動軸を駆動することで、前記エンドエフェクタの位置及び姿勢を制御する数値制御装置と、
を少なくとも備えたパラレルメカニズム装置であって、
前記パラレルメカニズム機構の外部に予め設定された基準座標系において、前記エンドエフェクタと主軸を一致させて取り付けられた調整用工具を所定の測定方法に基づいて既知の位置に位置決めする位置決め手段と、
前記位置決め手段により前記調整用工具が位置決めされたときに、当該位置決め手段で用いられた測定方法を指定する測定方法選択コードに応じた形式を有するデータであって、前記パラレルメカニズム機構の運動学に必要な機構パラメータと前記基準座標系との相関関係を規定するデータである取得データを取得する取得手段と、
前記取得データを用いて、前記パラレルメカニズム機構の順運動学を記述する関係式を直接用いることにより少なくとも前記機構パラメータを算出する算出手段と、
を備えることを特徴とするパラレルメカニズム装置。
【請求項2】
前記測定方法選択コードを選択する測定方法選択手段と、
前記測定方法選択手段により選択された前記測定方法選択コードにより指定され、かつ前記取得データを評価する関数であって、前記パラレルメカニズム機構の順運動学を記述する関係式としての誤差評価関数を少なくとも1つ記憶する誤差評価関数記憶手段と、
をさらに備え、
前記算出手段は、前記誤差評価関数記憶手段に記憶されている誤差評価関数の中から、前記測定方法選択コードにより指定される誤差評価関数を抽出して使用することで、前記機構パラメータを同定するために充分な組数に亘る前記誤差評価関数の和を最小にする機構パラメータを算出することを特徴とする請求項1記載のパラレルメカニズム装置。
【請求項3】
前記算出手段は、前記機構パラメータを同定するために充分な組数に亘る前記誤差評価関数の和を各機構パラメータにより偏微分した値をゼロとして得られる非線形連立方程式の解として当該算出手段に最初に与えられた機構パラメータを初期値とし、漸近法を用いて得られた前記非線形連立方程式の解を算出すべき機構パラメータとして得ることを特徴とする請求項2記載のパラレルメカニズム装置。
【請求項4】
前記取得手段は前記取得データとして、
前記基準座標系における前記エンドエフェクタの位置及び姿勢の少なくとも一部を規定するエンドエフェクタ位置規定情報と、
位置決めされた前記エンドエフェクタの位置と前記機構パラメータとの相関関係を規定する駆動軸取得座標と、
を取得することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のパラレルメカニズム装置。
【請求項5】
前記調整用工具は、座標調整部と姿勢調整部とを備えており、
前記位置決め手段は、前記基準座標系の所定の位置に形成され、穴中心軸に垂直な基準平面と穴中心軸を中心軸とする円筒形状の側面とを有する基準穴と前記座標調整部による測定値とから前記調整用工具の前記基準座標系での位置決め位置が特定できる位置まで前記調整用工具を位置決めすることにより位置座標を固定し、前記姿勢調整部を主軸中心線回りに回転させ、前記姿勢調整部の回転面と前記基準平面との相対関係から前記エンドエフェクタの姿勢のうち前記主軸中心線の傾きを表す2つの姿勢角度座標を前記基準座標系において特定できる姿勢位置まで前記調整用工具を位置決めすることにより前記エンドエフェクタの前記2つの姿勢角度座標を固定し、
前記取得手段は、前記エンドエフェクタ位置規定情報として、当該位置決め位置における前記エンドエフェクタの前記基準座標系での位置座標及び前記2つの姿勢角度座標を取得することを特徴とする請求項4記載のパラレルメカニズム装置。
【請求項6】
前記誤差評価関数は、前記エンドエフェクタ位置規定情報である前記エンドエフェクタの前記基準座標系での位置座標及び姿勢角度座標のうちの少なくとも一部の座標と、前記駆動軸取得座標に基づき順運動学により算出された位置座標及び姿勢角度座標のうちの少なくとも一部の座標との差であって、対応する座標同士の差である位置決め誤差により規定されることを特徴とする請求項4又は5に記載のパラレルメカニズム装置。
【請求項7】
前記誤差評価関数は、前記位置決め誤差に対して、座標ごとに所定の誤差評価係数を掛けることを特徴とする請求項6記載のパラレルメカニズム装置。
【請求項8】
前記調整用工具は、少なくとも先端球半径と工具長とが既知の球形プローブを備えて構成され、
前記位置決め手段は、前記基準座標系において、位置座標及び形状特定情報が既知である基準形状物に前記球形プローブを接触させることにより位置決めし、
前記取得手段は、前記エンドエフェクタ位置規定情報として、前記基準形状物の位置座標及び形状特定情報を取得し、
前記誤差評価関数は、前記基準形状物の位置座標及び形状特定情報で規定される当該基準形状物の表面と前記駆動軸取得座標に基づき順運動学により算出された前記球形プローブの先端球の中心座標を中心とし球形プローブの半径を半径とする球との距離である位置決め誤差により規定されることを特徴とする請求項4記載のパラレルメカニズム装置。
【請求項9】
前記位置決め手段は、前記基準座標系において、固定側球の中心の位置座標が既知であり、当該基準座標系の所定の位置に設置された相対距離測長器の可動側球の中心に一致するように固定された前記調整用工具の先端を前記相対距離測長器の計測可能範囲に位置決めし、
前記取得手段は、前記エンドエフェクタ位置規定情報として、前記可動側球の中心と前記固定側球の中心との距離から一定量の誤差である原点オフセット量を除いた距離であり前記相対距離測長器により求められる測長値及び前記固定側球の中心の位置座標を取得することを特徴とする請求項4記載のパラレルメカニズム装置。
【請求項10】
前記誤差評価関数は、前記駆動軸取得座標に基づき順運動学により算出された前記調整用工具の先端の位置座標が示す点と前記相対距離測長器の前記固定側球の中心の位置座標が示す点との距離と、前記測長値と前記原点オフセット量との和で表される距離との差である位置決め誤差により規定され、前記算出手段は前記機構パラメータに加え当該誤差評価関数において当該位置決め誤差の算出に必要である前記原点オフセット量を算出することを特徴とする請求項9記載のパラレルメカニズム装置。
【請求項11】
前記駆動軸取得座標は前記数値制御装置が保持する駆動軸座標であることを特徴とする請求項4乃至10のいずれかに記載のパラレルメカニズム装置。
【請求項12】
前記駆動軸取得座標は前記数値制御装置が保持する位置決め指令値であり、
前記算出手段は、前記数値制御装置に設定されている機構パラメータに基づく逆運動学により当該位置決め指令値を駆動軸座標に変換した後、当該駆動軸座標を用いて、少なくとも前記機構パラメータを算出することを特徴とする請求項4乃至10のいずれかに記載のパラレルメカニズム装置。
【請求項13】
所定の架台に支持されたベースと、
エンドエフェクタと、
複数の駆動軸を含み、前記ベースに前記エンドエフェクタを保持するパラレルリンク機構と、
で構成されるパラレルメカニズム機構と、
前記パラレルメカニズム機構の運動学に基づいて前記駆動軸を駆動することで、前記エンドエフェクタの位置及び姿勢を制御する数値制御装置と、
を少なくとも備えたパラレルメカニズム装置のキャリブレーション方法であって、
前記パラレルメカニズム機構の外部に予め設定された基準座標系において、前記エンドエフェクタと主軸を一致させて取り付けられた調整用工具を所定の測定方法に基づいて既知の位置に位置決めする位置決め工程と、
前記位置決め手段により前記調整用工具が位置決めされたときに、当該位置決め手段で用いられた測定方法を指定する測定方法選択コードに応じた形式を有するデータであって、前記パラレルメカニズム機構の運動学に必要な機構パラメータと前記基準座標系との相関関係を規定するデータである取得データを取得する取得工程と、
前記取得データを用いて、前記パラレルメカニズム機構の順運動学を記述する関係式を直接用いることにより少なくとも前記機構パラメータを算出する算出工程と、
を備えることを特徴とするパラレルメカニズム装置のキャリブレーション方法。
【請求項14】
所定の架台に支持されたベースと、
エンドエフェクタと、
複数の駆動軸を含み、前記ベースに前記エンドエフェクタを保持するパラレルリンク機構と、
で構成されるパラレルメカニズム機構と、
前記パラレルメカニズム機構の運動学に基づいて前記駆動軸を駆動することで、前記エンドエフェクタの位置及び姿勢を制御する数値制御装置と、
を少なくとも備えたパラレルメカニズム装置のキャリブレーションプログラムであって、
前記パラレルメカニズム機構の外部に予め設定された基準座標系において、前記エンドエフェクタと主軸を一致させて取り付けられた調整用工具が所定の測定方法に基づいて既知の位置に位置決めされたときに取得され、当該位置決め手段で用いられた測定方法を指定する測定方法選択コードに応じた形式を有するデータであって、かつ前記パラレルメカニズム機構の運動学に必要な機構パラメータと前記基準座標系との相関関係を規定するデータである取得データを取り込み、当該取得データを用いて、前記パラレルメカニズム機構の順運動学を記述する関係式を直接用いることにより少なくとも前記機構パラメータを算出する算出工程としてコンピュータを機能させることを特徴とするパラレルメカニズム装置のキャリブレーションプログラム。
【請求項15】
所定の架台に支持されたベースと、
エンドエフェクタと、
複数の駆動軸を含み、前記ベースに前記エンドエフェクタを保持するパラレルリンク機構と、
で構成されるパラレルメカニズム機構と、
前記パラレルメカニズム機構の運動学に基づいて前記駆動軸を駆動することで、前記エンドエフェクタの位置及び姿勢を制御する数値制御装置と、
を少なくとも備えたパラレルメカニズム装置のキャリブレーションプログラムであって、
前記パラレルメカニズム機構の外部に予め設定された基準座標系において、前記エンドエフェクタと主軸を一致させて取り付けられた調整用工具が所定の測定方法に基づいて既知の位置に位置決めされたときに取得され、当該位置決め手段で用いられた測定方法を指定する測定方法選択コードに応じた形式を有するデータであって、かつ前記パラレルメカニズム機構の運動学に必要な機構パラメータと前記基準座標系との相関関係を規定するデータである取得データを取り込み、当該取得データを用いて、前記パラレルメカニズム機構の順運動学を記述する関係式を直接用いることにより少なくとも前記機構パラメータを算出する算出工程をコンピュータに実行させるためのキャリブレーションプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2007−140575(P2007−140575A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−322294(P2005−322294)
【出願日】平成17年11月7日(2005.11.7)
【出願人】(000191180)新日本工機株式会社 (51)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年11月7日(2005.11.7)
【出願人】(000191180)新日本工機株式会社 (51)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]