説明

パルスポジション変調雑音秘匿通信方式

【課題】 本発明は,比較的簡易な構成により高い秘匿性を有するパルスポジション変調装置,及びそれを用いた通信システムを提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明は,基本的には,パルス位置変調を効果的に用いることができるように人為的に雑音を加え,さらにデコイパルスを含めるなど共通鍵量子暗号システムをカスタマイズすることで,秘匿性の高いパルス位置変調を達成できる。本発明のパルスポジション変調装置1は,情報が入力される入力部2と,ランダム符号Eを発生するためのランダム符号発生器3と,ランダム符号化信号取得部4と,鍵情報Kiを用いて多値ランニング鍵Rを得るための多値ランニング鍵取得部5と,多値信号Sを得るための多値信号取得部6と,パルス位置変調器7とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,秘匿性の高いパルスポジション変調装置,及びそれを用いた通信システムなどに関する。
【背景技術】
【0002】
光通信システムにおいて,情報の秘匿性や安全性は重要である。近年,この要望を満たすため,共通鍵量子暗号を用いた光通信システムが提唱された(下記特許文献1及び2)。共通鍵量子暗号は,2値の送信データを搬送する光信号を基底とよばれる1つのセットとする。そして,この通信システムは,複数個の基底を用意し,どの基底を用いるかを暗号鍵に従う擬似乱数によって不規則に決める。そして,この通信システムでは,信号間距離が,量子ゆらぎにより識別できない程度に短く設計される。このため,盗聴者は,信号を識別できず,情報を読み取ることができない。一方,正規の受信者は,信号間距離の大きな2値の信号を判定すればよい。このため,正規の受信者は,信号に量子ゆらぎが存在しても,データを正確に読み取ることができる。
【0003】
共通鍵量子暗号を用いたシステムとして,たとえば,広田修ら著「解読不可能なY−00方式超高速量子暗号」OPTRONICS第9巻125頁2005年には,安全かつ高速な光通信であるYuenプロトコル(Y−00)が解説されている。光通信量子暗号Y−00を用いた通信システムは,量子ゆらぎを効果的に用いるために多値変調を行う。基底の数をMとすると,この通信システムは,擬似乱数発生器の出力乱数系列をlogMビットごとのブロックに分け,そのブロックをランニング鍵(M通り)としてM個の基底の1つを選択する。
【0004】
また,P.KumarやH.YuenらのNorthwestern大学が非特許文献2により光位相変調方式を用いた共通鍵量子暗号システムを発表した。また、玉川大学グループが非特許文献3により光強度変調方式を用いた共通鍵量子暗号システムを発表した。
【0005】
Y−00を採用した通信システムは,位相変調方式,及び強度変調方式のいずれを採用する場合も,コヒーレント光のもつ揺らぎ(ランダムネス)を利用し,隣接する変調値に対して非直交状態識別限界が保証する誤り率を利用するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−75299号公報
【特許文献2】特開2008−245053号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】広田修ら著「解読不可能なY−00方式超高速量子暗号」OPTRONICS第9巻125頁2005年
【非特許文献2】G.A.Barbosa, E.Corndorf, P.Kumar, H.P.Yuen, “Secure communication using mesoscopic coherent state,” Phys. Rev. Lett. vol−90, 228901, (2003)
【非特許文献3】O.Hirota, K.Kato, M.Sohma, T.Usuda, K.Harasawa, “Quantum stream cipher based on optical communication” SPIE Proc. on Quantum Communications and Quantum Imaging vol−5551, (2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のとおりY−00を採用した通信システムは,送信側(アリス)から送信された情報を,盗聴者(イヴ)が解読できないようにするため,量子雑音を利用する。このため,Y−00を実装する送信機は,量子雑音レベルを制御するために高い制御能力を有する必要がある。また,Y−00は,盗聴者(イヴ)による多値識別時の誤りを大きくすることができるものの,盗聴者(イヴ)に情報を解読される危険性が残る。
【0009】
そこで本発明は,比較的簡易な構成により高い秘匿性を有するパルスポジション変調装置,及びそれを用いた通信システムを提供することを目的とする。
【0010】
さらに,Y−00を採用した通信システムは,錯乱信号(デコイ信号)を含ませるために,受信者側で誤り訂正を行う必要がある。このため,Y−00を採用した通信システムでは,容易にデコイ信号を含ませることができない。
【0011】
そこで本発明は,デコイパルスを送信パルスに含めることができ,これにより秘匿性を高めることができるパルスポジション変調装置,及びそれを用いた通信システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は,基本的には,パルス位置変調を効果的に用いることができるように人為的に雑音を加え,共通鍵量子暗号システムをカスタマイズすることで,秘匿性の高いパルス位置変調を達成できるという知見に基づくものである。さらに,本発明は,パルス位置変調方式に基づく共通鍵量子暗号技術であれば,デコイパルスを効果的に含めることができるため,より秘匿性の高い通信システムを提供できるという知見に基づくものである。
【0013】
本発明のパルスポジション変調装置1は,情報が入力される入力部2と,ランダム符号Eを発生するためのランダム符号発生器3と,ランダム符号化信号取得部4と,鍵情報Kiを用いて多値ランニング鍵Rを得るための多値ランニング鍵取得部5と,多値信号Sを得るための多値信号取得部6と,パルス位置変調器7とを有する。そして,ランダム符号化信号取得部4は,ランダム符号Eを用いて,入力部2から入力された情報を符号化し,ランダム符号化信号を取得する。また,多値信号取得部6は,多値ランニング鍵取得部5により得られた多値ランニング鍵Rとランダム符号化信号を用いて,多値信号Sを得る。パルス位置変調器7は,多値信号Sに基づいてパルス位置変調信号を得る。本発明は,このようにランダム符号発生器3により発声したランダム符合Eを人為的雑音として付加することで,パルス位置変調方式に基づく共通鍵量子暗号技術を達成できる。
【0014】
本発明のパルスポジション変調装置1の好ましいものは,パルス位置変調器が発生するパルスが,隣接するパルス間の距離が受信機のジッタ時間よりも短いものである。このように,隣接するパルス間の距離が受信機のジッタ時間よりも短いため,盗聴者が信号を受信した場合に,パルスの位置を把握しにくくすることができる。
【0015】
本発明のパルスポジション変調装置1の好ましいものは,パルス位置変調器が発生するパルスが,測定誤り率が50%以上となるように,隣接するパルスとオーバーラップするものである。このように,隣接するパルスが重なり合うため,盗聴者が信号を受信した場合に,パルスの位置を把握しにくくすることができる。
【0016】
本発明のパルスポジション変調装置1の好ましいものは,パルス位置変調器の出力強度が,1フォトン以上数フォトン以下である。この場合,たとえば,非直交な偏光変調を施すことで,BB84などで確立された方法と同様にして,盗聴者の有無を確認することができる。
【0017】
本発明のパルスポジション変調装置1の好ましいものは,デコイ信号を生成するデコイ信号生成部8をさらに有するものである。そして,デコイ信号生成部8が生成したデコイ信号に基づくデコイパルスは,パルス位置変調信号に重畳されるものである。信号ペアに干渉しない位置にデコイパルスが重畳されるため,正規受信者はデコイパルスを無視できる。一方,盗聴者は,デコイパルスにより信号の判別がより困難となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のパルスポジション変調装置1による変調信号は,量子雑音ではなく,人為的な雑音により秘匿性を高める。このため,受信機における復号器は,量子雑音レベルの制御能力を有する必要がない。よって,本発明のパルスポジション変調装置1を用いれば,比較的簡易な構成により高い秘匿性を有するパルスポジション変調装置,及びそれを用いた通信システムを提供できる。
【0019】
本発明のパルスポジション変調装置1によれば,信号ペアに干渉しない位置にデコイパルスが重畳されるため,正規受信者はデコイパルスを無視できる。このため,デコイパルスを重畳した信号を送信しても,受信機側に特別な構成を必要としない。よって,本発明によれば,デコイパルスを送信パルスに含めることができ,これにより秘匿性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は,本発明のパルスポジション変調装置の例を示すブロック図である。
【図2】図2は,本発明の通信システムの例を示すブロック図である。
【図3】図3は,パルス位置変調の概念を説明するための図である。
【図4】図4は,本発明によるパルスポジション変調信号の例を示す図である。図4(a)は,送信機から送信される変調信号を示す。図4(b)は正規の受信機が変調信号を検出する様子を示す。
【図5】図5は,デコイパルスを含む変調信号の例を示す図である。図5(a)は,送信機から送信される変調信号を示す。図5(b)は正規の受信機が変調信号を検出する様子を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下,図面を参照しつつ,本発明を実施するための形態について説明する。図1に示されるように,本発明のパルスポジション変調装置1は,情報が入力される入力部2と,ランダム符号Eを発生するためのランダム符号発生器3と,ランダム符号化信号取得部4と,鍵情報Kiを用いて多値ランニング鍵Rを得るための多値ランニング鍵取得部5と,多値信号Sを得るための多値信号取得部6と,パルス位置変調器7と,デコイパルス生成部8とを有する。
【0022】
パルスポジション変調装置1は,周期的パルス信号の位置をビット情報に対応して時間的にシフトさせることで情報を変調して送信するための装置である。パルスポジション変調装置は,たとえば,特開2008−193801号公報,特開平10−84338号工法既に知られている。本発明においては,既に知られているパルスポジション変調装置の構成を適宜採用することができる。本発明のパルスポジション変調装置1は,共通鍵量子暗号技術やデコイ信号を用いて通信の秘匿性を高めたものである。また,本発明のパルスポジション変調装置1は,特開2009−75299号公報及び特開2008−245053号公報に開示された光通信量子暗号通信装置における構成を適宜採用することができる。
【0023】
ランダム符号発生器3は,ランダム符号Eを発生するための装置である。ランダム符号発生器は,共通鍵量子暗号技術を用いた通信システムにおいて採用されているものを適宜採用できる。具体的なランダム符号発生器は,パルスポジション変調装置1内のクロック発生器により発生されるクロックと同期してランダム符号Eを生成するものである。このランダム符号が暗号鍵又は鍵データとして機能する。
【0024】
ランダム符号化信号取得部4は,ランダム符号Eを用いて入力情報を符号化し,ランダム符号化信号を取得するための装置である。具体的には,ランダム符号化信号取得部4は,入力情報である2値(0,1信号)にランダム符号Eをかける処理を行う。ランダム符号Eを用いた情報の符号化は,公知のものを適宜採用すればよい。このように,このようにランダム符号化信号取得部を有する場合,本発明の通信システムはランダム符号Eにより人為的な雑音を付加することができる。従来の共通鍵量子暗号システムでは,量子雑音により盗聴者の解読を困難にしていた。このため,受信機側の検出系も量子雑音に対応したものとする必要があった。本発明のこの通信システムは,ランダム符号Eにより人為的な雑音を付加するため,受信機側の検出系への要求レベルを引き下げることができる。なお,ランダム符号Eを用いない場合であっても秘匿性がある程度確保された通信を行うことが一応できる。この場合,ランダム符号Eを用いず多値ランニング鍵を用いて光量子符号化した信号を送受信すればよい。
【0025】
多値ランニング鍵取得部5は,鍵情報Kiを用いて多値ランニング鍵Rを得るための装置である。鍵情報Kiは,初期ランニング鍵や初期暗号ともよばれ,多値ランニング鍵を得るために用いられる値である。多値ランニング鍵は,Running鍵ともよばれ,送信データを多値変調するために用いられる値である。鍵情報Ki及び多値ランニング鍵Rについては,たとえば,特開2008−245053号公報に開示されたものを適宜用いることができる。多値ランニング鍵取得部5の例は,M個のアレイ型ランニング鍵発生器である。
【0026】
多値信号取得部6は,多値信号Sを得るための装置である。多値信号取得部6は,多値ランニング鍵Rと入力信号(ランダム符号化信号)を用いて多値信号Sを得る。たとえば,多値信号取得部6は,多値ランニング鍵Rと入力信号(ランダム符号化信号)を足し合わせて多値信号Sを得ればよい。多値ランニング鍵Rを用いて多値信号Sを得る方法は,たとえば,特開2008−245053号公報に開示されたものを適宜用いることができる。
【0027】
パルス位置変調器7は,周期的パルス信号の位置をビット情報に対応して時間的にシフトさせることで情報を変調して送信するための装置である。パルス位置変調器(PPM)は,既に知られている。本発明のパルス位置変調器7として公知のものを適宜用いることができる。
【0028】
デコイ信号生成部8は,デコイ信号を生成するための装置である。デコイ信号は,デコイパルスを生成するために用いられる。デコイパルスは,錯乱信号(デコイ信号)として機能するパルスである。つまり,デコイパルスは,本来のパルス位置変調信号の信号パルスペアの間に付加されるダミーパルスである。デコイパルスが,パルス位置変調信号に重畳されるため,盗聴者は,いずれのパルスが信号であるかますます判別できないこととなる。デコイパルスは,本来のパルス位置変調信号の信号パルスペアに干渉しない位置に設けられるため,デコイ信号生成部8は本来のパルスペアの時間位置を把握し,その間にデコイパルスを設けることができるようにデコイ信号を発生する。
【0029】
本発明では,上記の多値信号Sが,デコイ信号を反映したものであることが好ましい。このデコイ信号を反映した多値信号Sを用いてパルス位置変調を行うと,通常のパルス位置変調の場合に比べ,本来の信号パルス間にデコイパルスが発生することとなる。また,デコイ信号生成部8は,多値信号Sを用いて得られたパルス位置変調信号にデコイパルスを付加するものであってもよい。この場合,デコイ信号生成部8にパルス位置変調信号が入力され,本来の信号パルス間にデコイパルスを付加する。
【0030】
本発明では,上記の多値信号Sの値に従って,パルス位置変調器7で多値光信号に変調する。そして,変調された光信号は,通信路へと送出される。通信路の例は,光ファイバ又は空間である。
【0031】
図2は,本発明の通信システムの例を示すブロック図である。図2に示されるように,本発明の通信システム11は,送信機12と受信機13とを含む。本発明の通信システムは,PPM通信方式を採用する。PPM通信方式は,光空間通信による長距離伝達に優れる。本発明の通信システムは,このPPM通信にさらに秘匿性を付加できる。よって,本発明の通信システムの例は,衛星通信である。
【0032】
送信機12の例は,先に説明したパルスポジション変調装置1である。受信機13は,基本的には,送信機12と対照的な構成を有するものである。もっとも,本発明の通信システムでは,デコイパルスを取り除くことなく受信信号を復号化できる。このため,本発明の受信機13は,デコイ信号生成部8により発生したデコイ信号を取り除くための構成は不要である。
【0033】
図2に示されるように,受信機13は,光検出器21,第2の多値信号取得部22,第2の多値ランニング鍵取得部23,復号器24,及び出力部25を有する。
【0034】
次に,本発明の本発明のパルスポジション変調原理について説明する。図3は,パルス位置変調の概念を説明するための図である。図3に示されるように,パルス位置変調では,0又は1を示す信号が所定の時間あけた位置に出力され,これにより情報が0又は1に変調される。図3中符号31は,0を示すパルスであり,符号32は1を示すパルスである。また,0を示すパルスの下に存在する矢印は,パルスのジッタ(パルスタイミングジッター)を示す。また,2つのパルス31,32の下部に存在する矢印は,2つのパルスがペア信号であることを示す。受信機側は,このペア信号の間隔を把握できるので,0を示すパルス31又は1を示すパルス32の存在する領域のみを検出するだけで,0又は1に関する情報を測定できる。
【0035】
図4は,本発明によるパルスポジション変調信号の例を示す図である。図4(a)は,送信機から送信される変調信号を示す。図4(b)は正規の受信機が変調信号を検出する様子を示す。図4中,符号41はスタートパルスを示す。
【0036】
図4(a)に示されるように,本発明の変調信号は,スタートパルス41と,0又は1を示すパルス31,32を含む。図4(a)では,a1とb1のパルスペア,及びa2とb2のパルスペアのみが示されている。しかし,パルスペアはより多く存在する。なお,パルスペアの時間間隔は,変更でき,さらにランダム化することもできる。パルスペアの時間間隔に関する情報を,送信機から受信機へ伝える。すると,正規の受信機は,この情報を用いて,パルスペアの時間間隔を把握でき,これにより送信機から送信された情報を復号化できる。このパルスペアの時間間隔に関する情報は,たとえば多値ランニング鍵Rを用いて解読できるようにされていることが好ましい。
【0037】
図4(a)に示す例では,隣接するパルス間の距離が受信機のジッタ時間よりも短いものである。換言すると,この例では,パルスポジションをパルスタイミングジッターより蜜に配置し,測定誤り率が50%以上(60%以上,又は65%以上でもよい)となるように隣接するパルスがオーバーラップするようにしている。このように,隣接するパルス間の距離が受信機のジッタ時間よりも短いため,盗聴者が信号を受信した場合に,パルスの位置を把握しにくくすることができる。なお,タイミングジッターは,公知の測定装置を用いて測定することができる。また,タイミングジッターを測定する技術として,特許第3843316号に開示された技術があげられる。パルス間の距離を制御するためには,パルス列の時間間隔を調整すればよい。本発明では,タイミングジッターを意図的に発生させるため,好ましくはランダム符号発生器3により乱数を発生させる。
【0038】
送信機と正規の受信機は,パルスペアの出力順序情報をあらかじめ共有している。たとえば,送信機がa1とb1のパルスペアを用いて変調信号を作成する場合を考える。この場合,受信機はa1とb1のパルスペアが存在する時間領域のみ測定すればよい。このため,図4(b)に示されるように,隣接するパルスがオーバーラップし,通常であれば測定誤り率が高くなる状況であっても,正規の受信機は,変調信号を容易に復号化できる。
【0039】
一方,盗聴者は,図4(a)に示される変調信号を受け取り,これを解読しようとする。しかし,盗聴者は,パルスペアの時間間隔やどのパルスペアが選ばれたかなどといった情報を知らない。このため,盗聴者は変調信号を容易には解読できない。
【0040】
図5は,デコイパルスを含む変調信号の例を示す図である。図5(a)は,送信機から送信される変調信号を示す。図5(b)は正規の受信機が変調信号を検出する様子を示す。図5(a)に示されるように,デコイパルス51,52,53が変調信号に重畳的に含まれている。
【0041】
送信機と正規の受信機は,パルスペアの出力順序情報をあらかじめ共有している。たとえば,送信機がa1とb1のパルスペアを用いて変調信号を作成する場合を考える。この場合,受信機はa1とb1のパルスペアが存在する時間領域のみ測定すればよい。このため,図5(b)に示されるように,隣接するパルスがオーバーラップし,さらに,デコイパルスが変調信号に重畳されている場合であっても,正規の受信機は変調信号を容易に復号化できる。つまり,デコイパルス51,52,53は,ペアパルス(この例ではa1とb1)と干渉しない位置に設けられる。このため,正規の受信機は,デコイパルスを含まない領域を分析する。換言すると,あらかじめ送信機と共有していたペアパルスの存在するタイミングのみ検出器をアクティブにすればよい。よって,正規の受信者は,デコイパルスの存在を無視することができる。
【0042】
一方,盗聴者は,デコイパルス51,52,53が存在するため,パルスの解読が困難になる。また,図4(a)の場合と同様,ペアパルスの位置を把握できたとしても,隣接するパルスがそのパルスにオーバーラップされているので,0又は1を判別することが困難である。図4に示される変調信号では,ある程度信号の位置に規則性がある。このため,盗聴者にパルスの時間間隔を分析される恐れがある。一方,図5(a)に示されるように,デコイパルス51,52,53を含む場合,パルスの周期が乱れる。よって,この通信システムは,盗聴者が変調信号を解読する事態を効果的に防止できることとなる。デコイパルスの強度は,変調信号の平均強度と同じでもよいし,異なってもよい。また,あえてパルスペアの強度を他の変調信号と変化させてもよい。そのようにすることで,盗聴者は,変調情報を有するパルスを,デコイパルスであると勘違いする可能性がある。
【0043】
なお,図5(a)では,デコイパルスがペアパルス(この例ではa1とb1)の間に飲み存在している。しかし,デコイパルスはペアパルスと干渉しない位置に設けられればよいため,スタートパルス41とペアパルスの一方の領域や,ペアパルスの間以外の時間領域にデコイパルスが設けられてもよい。
【0044】
本発明のパルスポジション変調装置1の好ましいものは,パルス位置変調器の出力強度は,1フォトン以上数フォトン以下である。この場合,たとえば,非直交な偏光変調を施すことで,BB84などで確立された方法と同様にして,盗聴者の有無を確認することができる。そして,基底照合及び誤り率測定を行うことで,盗聴者の有無を確認できる。この態様のパルスポジション変調装置は,たとえば,特開2009−65299号に開示された構成を適宜採用することで実現できる。また,このパルスポジション変調装置は,QKD技術に応用できる。QKDステーションを用いた量子暗号通信は,たとえば特表2006−513678号公報に開示されている。よって,本発明のパルスポジション変調装置1をQKD技術へ応用する際には,既に知られた構成を適宜採用すればよい。
【0045】
次に,本発明の通信システムを用いた通信方法の例を説明する。入力部2に受信機へ向けて送信したい情報Pが入力される。すると,本発明では,この情報を符号化し,光信号として受信機へ向けて送信する。
【0046】
ランダム符号発生器3は,ランダム符号Eを発生する。このランダム符号Eは,別途受信機13に送信される。ランダム符号化信号取得部4が,ランダム符号Eを用いて,入力された情報を符号化し,ランダム符号化信号を取得する。具体的には,ランダム符号化信号取得部4が,ランダム符号Eを入力された情報(1,0)にかける。このように入力信号に対し擬似乱数を用いて雑音を印加することで,パルスタイミングジッターを制御でき,パルスポジション間隔をパルス到達時間の揺らぎ(パルスタイミングジッター)よりも蜜に制御できる。パルスタイミングジッターの例は,50p秒である。パルスタイミングジッターの範囲は,たとえば,1p秒以上100p秒以下である。
【0047】
多値ランニング鍵取得部5が鍵情報Kiを用いて多値ランニング鍵Rを得る。この鍵情報Kiは,あらかじめ送信機に記憶されている。そして,送信機は,鍵情報Kiを読み出して,多値ランニング鍵Rを得る。一方,受信機は,あらかじめこの鍵情報Kiを記憶している。
【0048】
多値信号取得部6は,多値ランニング鍵Rとランダム符号化信号を用いて,多値信号Sを得る。多値信号取得部6は,たとえば,多値ランニング鍵Rとランダム符号化信号を加算して,多値信号Sを得る。
【0049】
一方,デコイ信号生成部8は,パルス位置変調器7において発生するパルス位置変調信号における信号の位置を把握する。そして,デコイ信号生成部8は,ペア信号に干渉しない位置にデコイパルスが形成されるように,デコイ信号を生成する。このデコイ信号は,多値信号Sと合わさり,新たな多値信号Sとされる。
【0050】
次に,パルス位置変調器7は,多値信号Sに基づいてパルス位置変調を行い,パルス位置変調信号を得る。得られたパルス位置変調信号は,受信機13へ向けて送信される。換言すると,多値信号Sは時間間隔a,b〜a,bで構成されるパルスポジション(図4を参照)にマッピングされ,光通信路より伝送される。
【0051】
受信機13の光検出器21は,送信機12から送信されたパルス位置変調信号を受信し,電気信号に変換する。第2の多値信号取得部22は,電気信号に変換されたパルス位置変調信号を解析し,多値信号を取得する。一方,第2の多値ランニング鍵取得部23は,あらかじめ受信機13に記憶された鍵情報Kiを用いて多値ランニング鍵Rを生成する。又は,受信機13は,多値ランニング鍵Rをあらかじめ記憶しておいてもよい。
【0052】
復号器24は,パルス位置変調信号を復号できる復号器である。このため,復号器24は,多値ランニング鍵Rより適切な閾値を選択して多値信号Sを識別する。そして,出力部25では,ランダム符号Eを用いて,送信対象であった情報Pを復元する。
【0053】
一方,図3に示す様に,盗聴者は鍵情報Kiまたは多値ランニング鍵Rを共有していない。このため盗聴者は,Rを基にした時間窓を区切った識別をおこなうことができず,パルス到達時間を正確に計測する必要がある。さらに,本発明では,パルス間隔を光パルス発生器もしくは受光素子が有するタイミングジッターレベルに接近させるか,パルスタイミングにランダムな揺らぎを印加し,識別誤り確率を50%付近になるまでパルス間距離を密にしている。本発明では,更に閾値判定に関係のない時間にデコイパルスを含ませる。これにより盗聴者の取得する暗号文に含まれる誤り率を高くし解読を困難とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明によれば,光空間通信で長距離伝送に適しているPPM通信技術に高秘匿性を付加できる。このため,本発明の通信システムは,高い安全性を保証できる。具体的には,本発明の通信システムは,例えば銀行間でのデータ通信,映画のネットを利用した配信を含む高秘匿が必要な通信に効果的に利用されうる。また本発明の光通信ユニットを衛星に搭載した場合,高秘匿を保障できる衛星通信技術として利用されうる。
【符号の説明】
【0055】
1 パルスポジション変調装置
2 入力部
3 ランダム符号発生器
4 ランダム符号化信号取得部
5 多値ランニング鍵取得部
6 多値信号取得部
7 パルス位置変調器
8 デコイ信号生成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
情報が入力される入力部(2)と,ランダム符号Eを発生するためのランダム符号発生器(3)と,ランダム符号化信号取得部(4)と,鍵情報Kiを用いて多値ランニング鍵Rを得るための多値ランニング鍵取得部(5)と,多値信号Sを得るための多値信号取得部(6)と,パルス位置変調器(7)とを有する,パルスポジション変調装置(1)であって,

前記ランダム符号化信号取得部(4)は,
前記ランダム符号発生器(3)により発生された前記ランダム符号Eを用いて,前記入力部(2)から入力された情報を符号化し,ランダム符号化信号を取得するためのものであり,

前記多値信号取得部(6)は,
前記多値ランニング鍵取得部(5)により得られた多値ランニング鍵Rと前記ランダム符号化信号を用いて,多値信号Sを得るためのものであり,

前記パルス位置変調器(7)は,
前記多値信号Sに基づいてパルス位置変調信号を得るためのものである,

パルスポジション変調装置。

【請求項2】
前記パルス位置変調器が発生するパルスは,隣接するパルス間の距離が受信機のジッタ時間よりも短い,
請求項1に記載のパルスポジション変調装置。

【請求項3】
前記パルス位置変調器が発生するパルスは,測定誤り率が50%以上となるように隣接するパルスとオーバーラップする,
請求項1に記載のパルスポジション変調装置。

【請求項4】
前記パルス位置変調器の出力強度は,1フォトン以上数フォトン以下である,
請求項1に記載のパルスポジション変調装置。

【請求項5】
デコイ信号を生成するデコイ信号生成部(8)をさらに有し,

前記デコイ信号生成部(8)が生成したデコイ信号に基づくデコイパルスは,前記パルス位置変調信号に重畳される,

請求項1に記載のパルスポジション変調装置。

【請求項6】
情報が入力される入力部(2)と,鍵情報Kiを用いて多値ランニング鍵Rを得るための多値ランニング鍵取得部(5)と,多値信号Sを得るための多値信号取得部(6)と,パルス位置変調器(7)とを有する,パルスポジション変調装置(1)であって,

前記多値信号取得部(6)は,
前記多値ランニング鍵取得部(5)により得られた多値ランニング鍵Rと前記入力部(2)に入力された情報を用いて,多値信号Sを得るためのものであり,

前記パルス位置変調器(7)は,
前記多値信号Sに基づいてパルス位置変調信号を得るためのものである,

パルスポジション変調装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−61292(P2011−61292A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−205857(P2009−205857)
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【出願人】(301022471)独立行政法人情報通信研究機構 (1,071)
【Fターム(参考)】