説明

パルプ繊維強化樹脂の製造方法

【課題】高い曲げ弾性率を得るために扁平状の充填材を加えたパルプ繊維複合PP(ポリプロピレン)は、繊維表面のフィブリル化した微細繊維に残存する空気が射出成形時に分離して成形品に気泡として残留して意匠性を著しく低下させる。このため、パルプ繊維にエラストマーなどの希薄溶液を付与後に絞液して付着させる手段などによって対処していたが、反面、衝撃強度の低下をもたらしていた。
【解決手段】この発明に係るパルプ繊維強化樹脂の製造方法は、攪拌槽内で凝集したパルプ繊維を対流する状態下で界面活性剤を吹き付けて含浸させた後、界面活性剤を用いて水分散させた低弾性エラストマーの希薄液を吹き付けた後に、パルプ繊維が湿潤状態を維持して成る状態で扁平状の無機物を投入し、パルプ繊維の解繊と充填材を分散させて成る充填材が、熱可塑性樹脂と混練して複合化されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、回収古紙を解繊するなどして得られたパルプ繊維を主体とする充填材を用いた熱可塑性樹脂の複合体に関し、意匠性の悪化と脆性の増加を緩和するとともに、曲げ応力に対する靱性を向上させるパルプ繊維強化樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭酸ガス排出量の抑制と資源の有効利用を目的とした天然素材の活用が進められ、PP(ポリプロピレン)などの汎用樹脂の使用量削減を目的に、回収紙を繊維状に粉砕して得たパルプ繊維を混入することによる前記目的を達成する手段が注目されつつある。
【0003】
例えば、パルプ繊維との複合体について、粉砕によって得た解繊状の古紙とPP(ポリプロピレン)とを混合したものを溶融混合する手段が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、嵩高な植物繊維の取扱いを容易にするため、融点200℃以下の可塑剤またはセルロース疎水化剤を用いて植物繊維の分散を促進出来る状態の塊状物またはペレットを用いてPP(ポリプロピレン)と混練することによって、樹脂への分散性を向上する手段が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
しかし、パルプ繊維の表面にあって部分的にフィブリル化して成る微細繊維は、パルプ繊維と樹脂の混合に伴う絡みを促す作用を呈することから、繊維と樹脂とが直接的に強固な接合を備えた複合化の態様を得ることが困難である。この結果、パルプ繊維を複合化したPP(ポリプロピレン)は剛性と耐熱性に優れる反面、衝撃強度や引っ張り伸び量の低下をもたらすなどの脆性が増して、複合化の向上効果を損なわせることになる。さらに、前記微細繊維間にある空気が残留し易く、単純な混練では容易に排出されずに射出成形などの高圧下の流動過程で分離し、成形品に気泡として残留して意匠性を低下させるという課題を備える。
【0006】
この課題を解決するために、パルプ繊維の表面を樹脂被覆する手段として、オレフィン系の熱可塑性樹脂を溶剤に分散させた液状態で吹き付けるなどして繊維表面に被覆させた後にマトリックスである樹脂と混合して一体化させたことによって、機械強度を改善する手段が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0007】
また、フィブリル化した繊維表面に弾性樹脂溶液を付与後に絞液して付着させたことによって、繊維本体にフィブリル化した繊維を固着させるようにして用いることで、白化を防止する手段が提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【0008】
また、回収紙を解繊して得たパルプ繊維を用いて複合化した熱可塑性樹脂は、射出成形時の流動性の低下が著しいことから、ファンなどの曲げ応力による変形を抑止する必要のある部品への適用を困難としていた。
【0009】
これに対し、射出成形が可能な弾性率の向上手段として、有機長繊維に扁平状の無機充填材のタルクを併用したオレフィン系樹脂との長繊維強化複合樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平05−320367号公報
【特許文献2】特開平06−073231号公報
【特許文献3】特開平08−020021号公報
【特許文献4】特開平09−228250号公報
【特許文献5】特開2009−13330号公報
【特許文献6】特開平11−5203号公報
【特許文献7】特開2003−169978号公報
【特許文献8】特開平08−252557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
これら手段によれば、繊維表面にあるフィブリル化した微細繊維が成す隙間に残存する空気が樹脂成形品の表面に移行して白化を来すのを防止するため、上記樹脂溶液が侵入してパルプ繊維とマトリックスを成す樹脂との一体化を達成する。しかし、この改質に伴う脆性増加が強度や弾性率の上昇を促す反面、衝撃強度の大幅な低下を来すことになる。
【0012】
しかし、パルプの繊維状充填材は極めて凝集しやすく、押出機などによる樹脂との溶融混練によって容易に解繊できないことから、繊維間の空隙にある空気が排出されて分散するので、得られた複合体のペレットを用いた射出成形によって得た成形品の表面には,残存空気による気泡に起因した流動方向に筋状の白化が散在するという課題を残すことになる。
【0013】
同様に、凝集しやすいパルプの繊維状充填材にタルクなどの曲げ弾性率向上に寄与する扁平状の充填材を加えても、熱可塑性樹脂との溶融混練による複合化において、均一分散を達成することが困難である。
【0014】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、パルプ繊維の表面に、粘着性のある低分子オレフィン系エラストマーの水分散液を界面活性剤とともに保持させ、微細繊維間に残留する空気を排除するとともに粘性に富む低分子オレフィン系エラストマーの緩衝作用を得て、成形品表面の白化形成と衝撃強度の低下抑制を達成した複合体を得ることができるパルプ繊維強化樹脂の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この発明に係るパルプ繊維強化樹脂の製造方法は、攪拌槽内で凝集したパルプ繊維を対流する状態下で界面活性剤を吹き付けて含浸させた後に界面活性剤を用いて水分散させた低弾性エラストマーの希薄液を吹き付け、パルプ繊維が湿潤状態を維持して成る状態で扁平状の無機物を投入し、パルプ繊維の解繊と充填材を分散させて成る充填材が、熱可塑性樹脂と混練して複合化されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
この発明に係るパルプ繊維強化樹脂の製造方法は、パルプ繊維の表面に、粘着性のある低分子オレフィン系エラストマーの水分散液を界面活性剤とともに保持させたので、微細繊維間に残留する空気を排除するとともに粘性に富む低分子オレフィン系エラストマーの緩衝作用を成すので、成形品表面の白化形成と衝撃強度の低下抑制を達成した複合体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施の形態1を示す図で、パルプ繊維と複合化したPP(ポリプロピレン)を成形材料として射出成形した試験片を用いて、一般物性を測定した結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
実施の形態1.
<概要>
回収紙などを解繊して得たパルプ繊維は、熱可塑性樹脂と溶融混練による複合化することによって、成形材料の製造に係る炭酸ガス排出量を削減することができる。加えて、その繊維長に応じて衝撃強度をはじめとする各種物性が向上するなど、成形品特性に大きな有効性を付与する。反面、成形樹脂への適用には、繊維表面が部分的にフィブリル化して成る微細繊維を備えるので、互いが絡み易いという課題がある。
【0019】
これは、成形材料を得るための溶融混練におけるせん断応力を受けても、繊維同士が綿状に凝集して絡み合った状態を解消することができず、得られた複合体樹脂に分散できない,という課題を生む。更に、繊維の微細繊維間に残留した空気が十分に排除できないことから、成形品に賦型する射出成形時の金型内で、高圧下での流動時に微細気泡が分離し、成形品を部分的に白化させて意匠性の悪化を招く原因を生む。
【0020】
パルプ繊維の不均一な分散状態で、曲げ応力に対する剛性向上を目的に鱗片状の補強材であるマイカ微粉末やタルクなどの扁平状の充填剤を添加した場合、これらの充填材が均一分散しないことのほか、パルプ繊維との相互作用による補強効果が十分に発現できない、ことになる。
【0021】
本発明は、表面に微細繊維を備えた長繊維を、相互に絡みにくくしてマイカなどの扁平状充填材とともに均一な分散状態を確保する手段に関するもので、タルクやマイカなどの扁平形状の微粉粒をパルプ繊維表面に保持させて絡み合いを阻害してパルプ長繊維の凝集を抑制、これら充填剤を複合樹脂に均一分散させることを特徴とする成形原料の調整手段に関する。
【0022】
<先行技術>
パルプ繊維の表面を樹脂被覆する手段は、特許文献3(特開平08−020021号公報)によれば、オレフィン系の熱可塑性樹脂を溶剤に分散させた液状態で吹き付けるなどして繊維表面に被覆させることによって機械強度を改善する事例がある。
【0023】
また、特許文献4(特開平09−228250号公報)には、フィブリル化した繊維表面に弾性樹脂溶液を付与後に絞液して付着させたものを用いることによって、白化を防止する手段が記載されている。
【0024】
パルプ繊維との複合体については、特許文献1(特開平05−320367号公報)において、粉砕によって得た解繊状の古紙とPP(ポリプロピレン)とを混合したものを溶融混合する手段が紹介されている。
【0025】
また、特許文献2(特開平06−073231号公報)において、融点200℃以下の可塑剤またはセルロース疎水化剤を用いて、植物繊維の分散を促進させたものをPP(ポリプロピレン)と混練することによって分散性を向上する手段が開示されている。
【0026】
一方、パルプ繊維の樹脂複合体に関する先行文献は、特許文献6(特開平11−5203号公報)に古紙原料を乾式解繊後に接着剤を添加して熱可塑性樹脂を添加空いた成形材料を用いて所定の温度で加熱加圧成形を行う手段が紹介されている。
【0027】
また、特許文献7(特開2003−169978号公報)では、撹拌によって浮遊した球状綿の表面にバインダー液を吹付けるクッション材の製造方法が示されている。
【0028】
さらに、特許文献8(特開平08−252557号公報)には、古紙パルプと熱可塑性微細繊維を加熱処理前に均一に混合して古紙ボードを製造する手段が開示されている。
【0029】
<先行技術との相違>
本発明は、パルプ繊維表面のフィブリル化した微細繊維が備える空間内にある空気の排除を容易とするため、疎水基と親水基を併せ持つ界面活性剤の希薄溶液を用いたことにより、前記微細繊維と親和性に優れた親水基を備える界面活性剤が容易に含浸して繊維本体収束した状態を確保した後、樹脂との親和性に優れる疎水基の作用によって、希薄溶液に分散した粘性に優れるエラストマーを強固に被覆できる。
【0030】
一方で、粘性に優れた樹脂を表面部分に被覆したことにより、PP(ポリプロピレン)との混練によって相互が一体化し、両材料の界面部分における緩衝効果を増し、衝撃強度の向上に寄与できる。
【0031】
また、パルプ繊維と樹脂との複合体の形成において、繊維を凝集状態から解放後に再度の凝集を抑止する手段に関する記述が先行技術文献には無く、本発明の技術上の特徴を捕捉するに至らない。
【0032】
<効果(進歩性)>
パルプ長繊維の表面にPP(ポリプロピレン)との相溶性に優れるオレフィン系エラストマー(PIB(ポリイソブチレン))の微粒子を付着させたことによって、表面にある微細繊維間に含まれる空気を排除したうえでマイカやタルクなどの扁平状の充填材を保持したので、繊維同士の絡み合いを抑制して均一分散するので、強度の向上を促進するとともに、射出成形時に気泡の排出に起因した白化を抑止して意匠性を改善できる。
【0033】
また、低融点で粘性に富むPIB(ポリイソブチレン)を繊維表面に備えたので、成形時の流動性向上とPP(ポリプロピレン)とパルプ繊維の複合化を強固にしたことに加え、応力負荷に伴う破壊の開始点となる残留気泡を排除したことによる強度、特に界面に粘性を付与したことによる無機充填材の添加に伴う衝撃強度の低下を抑制した。
【0034】
PIB(ポリイソブチレン)の希薄水分散液を塗布して改質したパルプ繊維にマイカを併用した充填材とPP(ポリプロピレン)とを混練して得る複合樹脂の製造方法について、以下に詳述する。
【0035】
まず、低弾性エラストマーであるPIB(ポリイソブチレン)は高温で界面活性剤を備えた水中で高速攪拌することによって、エマルジョン(水に乳化、分散させたもの)の状態になるまで分散させた。ただし、分子量が100K(Kは×1000を意味し、100K=100000である。以下同じ。)以上のものは、溶剤を用いて膨潤または溶解させるなどして粘度を低下させ、分散を容易化することが好ましい。反面、120K以上のものは分散に要する濃度が5%以下のものしか得られないので不適である。
【0036】
一方のパルプ繊維は、回収紙などで酸や塩素などの変色や変質を促す残留薬品が無いものを選択し、これを対向する2枚の異なる方向に回転するディスク間に設けた間隙内に投入するなどしてせん断力を付与することによって解繊したものを用いる。
【0037】
パルプ繊維の改質は、上記パルプ繊維をヘンシェルミキサーなどの高速回転する羽根を備えた混合機中で攪拌しながら浮遊させた状態で、界面活性剤の希薄水溶液を霧状で吹き付ける。添加する界面活性剤の量は、パルプ繊維に対して0.5〜2.0%、吹付ける水溶液はパルプ繊維と同量〜倍量とすることが好ましい。
【0038】
また、用いる界面活性剤は、エチレンオキサイドを主体とする親水基と直鎖状アルキル基から成る疎水基を併せ持つことを特徴とし、疎水性のPP(ポリプロピレン)と親水性のパルプ繊維との親和と、該界面活性剤とその後に添加するPIB(ポリイソブチレン)の親和を促すことが出来る。
【0039】
次に、界面活性剤の水溶液を含有して湿潤状態のパルプ繊維が混合機内で浮遊する状態を維持しながら、PIB(ポリイソブチレン)の希薄水分散液を吹付ける。PIB(ポリイソブチレン)は極めて微細な粒子状で水中に均一分散しており、パルプ繊維が含んでいる界面活性剤との優れた親和性によって、繊維間への侵入が容易となる。ここで用いたPIB(ポリイソブチレン)は、常温で高い粘着性を呈する分子量80K程度のものを5wt%の希薄分散液とし、パルプ繊維100部に対して2.5部が被覆するように吹付けた。
【0040】
もし、PIB(ポリイソブチレン)の水分散液を噴霧せずに直接投入をした場合は均質な塗布状態が得られず、部分的に過度な湿潤状態を形成し、該部分がパルプ繊維の表面に備える微細繊維が収束するため、十分な強度向上の効果を得ることができない、という問題を有することになる。
【0041】
上述したPIB(ポリイソブチレン)のパルプ繊維への塗布により、過度な湿潤状態を成した場合は、混合機内でパルプ繊維が浮遊し難くなり、壁面に付着して継続したPIB(ポリイソブチレン)の均一な塗布を阻害する状態に陥る。この予測された場合、各原料の噴霧を停止し、混合機内に乾燥空気を投入してパルプ繊維の乾燥を促すことが好ましい。
【0042】
次に、上記の処理を完了したパルプ繊維にマイカ(扁平状の無機物)粉末を加えて、同様に混合する。マイカ粉末の添加は、上述したパルプ繊維へのPIB(ポリイソブチレン)塗布による表面処理に継続して行い、所定量を投入して達成する。混合機内では、パルプ繊維が高速回転する羽根から受けたせん断力によって凝集することなく、解繊状態を維持して成る。この状態下でマイカ粉末を投入し、両材料が気中に浮遊した状態で均一混合を呈した状態を得た段階で撹拌を停止する。
【0043】
ここで用いたPP(ポリプロピレン)粉末は、パルプ繊維との複合化による射出成形時の流動性低下を勘案し、低粘度のものを適用する。本実施の形態では、MI(メルトフローインデックス)が40g/10minのものを選択し、溶融混練時にパルプ繊維は繊維長が1.0mmと2.5mmのものを各々用い、に塗布したPIB(ポリイソブチレン)の添加量は過度に溶出せずに適度に残存する塗布量を得ており、パルプ繊維の含有量は流動性喪失を抑制するように30wt%、マイカ粉末は曲げ弾性率の向上に寄与する20wt%、を投入して成る。
【0044】
撹拌の停止によって攪拌機の槽内下部で均一混合した状態を滞留したことにより、パルプ繊維に接触したマイカ粉末が繊維表面を覆うように、粘着性に優れたPIB(ポリイソブチレン)を介して保持されて、パルプ繊維同士の凝集が抑止された粉末流体として扱うことが可能な混合物となった。
【0045】
以上の粉末流体の特性を得て連続投入が可能になった上記混合物は、押出機を用いてPP(ポリプロピレン)との溶融混練を行った。このときの押出機のシリンダー温度を調整して、樹脂温度が190℃、好ましくは180℃を越えないように設定したうえで溶融混練を行うことが好ましい。混練が完了したPP(ポリプロピレン)とパルプ繊維の複合体は、押出機から吐出されたストランドを空冷で固化し、これを適度に裁断してペレット化した。
【0046】
以下に、上述手段によってパルプ繊維およびマイカ粉末と複合化したPP(ポリプロピレン)を成形材料として射出成形した試験片を用い、一般物性(MI、曲げ強度、曲げ弾性率、衝撃強度、表面外観)を測定した結果を図1に示す。
【0047】
図1は実施の形態1を示す図で、パルプ繊維と複合化したPP(ポリプロピレン)を成形材料として射出成形した試験片を用いて、一般物性を測定した結果を示す図である。
【0048】
本実施の形態の手段に依らない比較例として、比較例1−1はパルプ繊維に界面活性時のみを塗布した後にマイカ粉末を混合し、押出機による溶融混練とペレット化を行った成形材料、比較例1−2は無処理で凝集した状態のパルプ繊維にマイカ粉末を直接混合した後に押出機を用いて溶融混練およびペレット化した成形材料であり、各々、射出成形によって得た試験片の各種物性を併記した。
【0049】
本実施の形態によるパルプ繊維複合PP(ポリプロピレン)は、PIB(ポリイソブチレン)をパルプ繊維表面の微細繊維間に保持させたことによって、PIB(ポリイソブチレン)を保持しないものと比較して、流動性(MI)、耐衝撃性および表面意匠性に有意に優れている。界面活性剤のみを含浸させたパルプ繊維は、湿潤状態を保持した状態で、マイカ粉末とともに攪拌機の槽内で高速回転する羽根による撹拌状態で受けるせん断力による分散を来たし、押出機における溶融混練時に繊維が保持するPIB(ポリイソブチレン)がPP(ポリプロピレン)に先行して溶融して混練される際に、繊維間にある空気が排除され易く、射出成形時の金型内で受ける高圧によって排除されることがないので、白化を来すことがない。
【0050】
これに対し、PIB(ポリイソブチレン)を保持せずに界面活性剤のみを含浸させたパルプ繊維(比較例1−1)は、湿潤状態を保持した状態でPP(ポリプロピレン)粉末とともに攪拌機内で高速回転する羽根によって受けるせん断力で分散を来す反面、PIB(ポリイソブチレン)を表面に保持しないので、押出機による溶融混練時に繊維間の空気を十分に排除できず、射出成形時の金型内で受ける高い圧力で排出されて、僅かながらも白化として視認されることになる。
【0051】
一方、界面活性剤とPIB(ポリイソブチレン)を用いた処理を行うこと無しに、攪拌機の槽内で高速回転させたPP(ポリプロピレン)とともに撹拌混合したものを押出機よる溶融混練して得たペレット(比較例1−2)は、パルプ繊維では、パルプ繊維と繊維間に保持する空気をPP(ポリプロピレン)の溶融時に受ける高いせん断力を受けても完全に排除できない。その結果、射出成形時の金型内で受ける高圧下での射出流動時に微細な気泡が排出され、これが成形品表面におけるパルプ繊維の凝集した状態を成す部位で、0.1〜3mm程度の白化点が成形品表面に視認できた。
【0052】
また、界面活性剤およびPIB(ポリイソブチレン)を含まない何れの試験片とも、パルプ繊維の表面に付着したPIB(ポリイソブチレン)の高い粘性による緩衝作用を受けることなく衝撃応力を吸収することになるので、破壊しやすくなり、衝撃強度が優位に低下している。併せて、パルプ繊維にマイカ粉末を保持できず、押出機への投入が不均一であることに起因して、複合化した樹脂内での前記マイカ粉末の分散が不十分であった。特に、界面活性剤をも用いてない比較例1−2は、パルプ繊維が解繊すること無しに凝集した状態にあり、この結果、応力の分散も不十分であったことから、衝撃強度の低下が顕著であった。
【0053】
このことから、本実施の形態によるパルプ繊維強化の手段は、得られたペレットが前記パルプ繊維における空気の残存が抑止されるとともに、比較例に比較して優位に優れた分散性が得られたことに伴って、繊維の凝集に伴う繊維間に保持することもないので白化の発生を抑制できた。また、PIB(ポリイソブチレン)の高粘性による衝撃吸収性と充填材の優れた分散状態を受けて、高い衝撃強度を発現することも確認できた。
【0054】
この発明の実施の形態に係るパルプ繊維強化樹脂の製造方法は、繊維表面にある微細繊維が成す隙間に残存する空気が樹脂成形品表面に移行して白化を来すのを防止するため、高速回転する羽根を備えた攪拌槽内に凝集したパルプ繊維を投入して解繊させた後、パルプ繊維との親和性に優れる親水性と疎水性の官能基を共存させた界面活性剤を含浸させた後、粘性と粘着性に優れるオレフィン系のエラストマーを前記界面活性剤の存在下で水に微細粒子状に分散させた希薄水分散液を付着させ、粘着性が付与された表面に扁平状の充填材であるマイカやタルクを投入する。
【0055】
この状態で、前記扁平状の充填材との衝突によるせん断力を受けて凝集したパルプ繊維が解繊し、相互が均一分散した状態が確保できる。これを攪拌機の回転を停止させて槽内底部に静置すると、パルプ繊維の表面に塗布したPIB(ポリイソブチレン)の粘着力によって前記充填材が付着するので、パルプ繊維が再度に凝集することを抑止できる。
【0056】
これによって、高速で回転する羽根などで微細繊維によるパルプ繊維同士の凝集が阻害される。従って、上記処理を施したパルプ繊維をPP(ポリプロピレン)などの熱可塑性樹脂とともに押出機などを用いて安定した分散状態を得て、160〜190℃の溶融状態での混練を行った。
【0057】
この発明の実施の形態に係るパルプ繊維強化樹脂の製造方法は、混合機の槽内で浮遊した状態で混合したPIB(ポリイソブチレン)を塗布したパルプ繊維と扁平状無機物の混合物は、静置後に前記扁平状無機物が前記パルプ繊維の備える微細繊維上のPIB(ポリイソブチレン)を介して保持されるので、パルプ繊維が前記微細繊維に起因した凝集を呈さないので、扱いが容易なうえ、複合化による樹脂への分散性に優れる。
【0058】
パルプ繊維が熱可塑性樹脂との複合化における優れた分散性を呈したことによって各種強度の向上効果が得られ、特に、パルプ繊維表面に高粘性のエラストマーを付着させたことによる複合化に伴う脆性向上に伴う衝撃強度の低下を抑制できた。
【0059】
併せて、微細繊維間および表面にオレフィン系エラストマーを付着させたので、PP(ポリプロピレン)などの熱可塑性樹脂と溶融混練を行ってペレットを製造する際に、PIB(ポリイソブチレン)が前記熱可塑性樹脂に先行して溶融して容易に空気を排出してペレット内に残留するのを抑制、射出成形の高圧による排出に起因した成形品表面部分に発生する白化の発生を抑制する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
攪拌槽内で凝集したパルプ繊維を対流する状態下で界面活性剤を吹き付けて含浸させた後、前記界面活性剤を用いて水分散させた低弾性エラストマーの希薄液を吹き付けた後に、前記パルプ繊維が湿潤状態を維持して成る状態で扁平状の無機物を投入し、前記パルプ繊維の解繊と充填材を分散させて成る充填材が、熱可塑性樹脂と混練して複合化されることを特徴とするパルプ繊維強化樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記低弾性エラストマーが、分子量120K以下のポリイソブチレンであることを特徴とする請求項1に記載のパルプ繊維強化樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記低弾性エラストマーが、エチレンオキサイドを主体とする親水基と直鎖状アルキル基から成る疎水基を併せ持つ前記界面活性剤を用いて水に分散したものであることを特徴とする請求項1に記載のパルプ繊維強化樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記扁平状の無機物が、マイカであることを特徴とする請求項1に記載のパルプ繊維強化樹脂の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−102161(P2012−102161A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−249065(P2010−249065)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【特許番号】特許第4799683号(P4799683)
【特許公報発行日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】