説明

パワーエレクトロニクス機器

【課題】結合係数の温度依存性を低減しつつ、外部磁束に起因するノイズとしての影響を軽減するとともに、低圧側と高圧側とを電気的に絶縁しながら信号の授受を行うことが可能なパワーエレクトロニクス機器を提供する。
【解決手段】車体筐体に接地される制御回路1側と、高圧となる上アーム2側および下アーム3側との間には、空芯型絶縁トランスTU1〜TU3、TD1〜TD3がそれぞれ介挿され、空芯型絶縁トランスTU1〜TU3、TD1〜TD3の2次巻線には、2次巻線を鎖交する外部磁束による起電圧を打ち消し合うとともに、2次巻線を鎖交する信号磁束を強め合うよう構成された複数の巻線を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はパワーエレクトロニクス機器に関し、特に、空芯型絶縁トランスを介してスイッチング素子に信号を伝送する方法に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
近年の車両機器では、高効率化および省エネ対策を図るために、駆動力を生む電動機の駆動システムに昇降圧コンバータおよびインバータを搭載することが行われている。
図11は、従来の昇降圧コンバータを用いた車両駆動システムの概略構成を示すブロック図である。
図11において、車両駆動システムには、昇降圧コンバータ102に電力を供給する電源101、電圧の昇降圧を行う昇降圧コンバータ102、昇降圧コンバータ102から出力された電圧を3相電圧に変換するインバータ103および車両を駆動する電動機104が設けられている。なお、電源101は、架線からの給電電圧または直列接続されたバッテリーから構成することができる。
【0003】
そして、車両駆動時には、昇降圧コンバータ102は、電源101の電圧(例:280V)を電動機104の駆動に適した電圧(例:750V)に昇圧し、インバータ103に供給する。そして、スイッチング素子をオン/オフ制御することにより、昇降圧コンバータ102にて昇圧された電圧を3相電圧に変換して、電動機104の各相に電流を流し、スイッチング周波数を制御することで車両の速度を変化させることができる。
【0004】
一方、車両の制動時には、インバータ103は、電動機104の各相に生じる電圧に同期してスイッチング素子をオン/オフ制御することにより、整流動作を行い、直流電圧に変換してから、昇降圧コンバータ102に供給する。そして、昇降圧コンバータ102は、電動機104から生じる電圧(例:750V)を電源101の電圧(例:280V)に降圧して電力の回生動作を行うことができる。
【0005】
図12は、図11の昇降圧コンバータの概略構成を示すブロック図である。
図12において、昇降圧コンバータ102には、エネルギーの蓄積を行うリアクトルL、電荷の蓄積を行うコンデンサC、インバータ103に流入する電流を通電および遮断するスイッチング素子SW1、SW2、スイッチング素子SW1、SW2の導通および非導通を指示する制御信号をそれぞれ生成する制御回路111、112が設けられている。
【0006】
そして、スイッチング素子SW1、SW2は直列に接続されるとともに、スイッチング素子SW1、SW2の接続点には、リアクトルLを介して電源101が接続されている。ここで、スイッチング素子SW1には、制御回路111からの制御信号に従ってスイッチング動作を行うIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)105が設けられ、IGBT105に流れる電流と逆方向に電流を流すフライホイールダイオードD1がIGBT105に並列に接続されている。
【0007】
また、スイッチング素子SW2には、制御回路112からの制御信号に従ってスイッチング動作を行うIGBT106が設けられ、IGBT106に流れる電流と逆方向に電流を流すフライホイールダイオードD2がIGBT106に並列に接続されている。そして、IGBT106のコレクタは、コンデンサCおよびインバータ103の双方に接続されている。
【0008】
図13は、昇圧動作時に図12のリアクトルLに流れる電流の波形を示す図である。
図13において、昇圧動作では、スイッチング素子SW1のIGBT105がオン(導通)すると、IGBT105を介してリアクトルLに電流Iが流れ、LI2/2のエネルギーがリアクトルLに蓄積される。
次に、スイッチング素子SW1のIGBT105がオフ(非導通)すると、スイッチング素子SW2のフライホイールダイオードD2に電流が流れ、リアクトルLに蓄えられたエネルギーがコンデンサCに送られる。
【0009】
一方、降圧動作では、スイッチング素子SW2のIGBT106がオン(導通)するとIGBT106を介してリアクトルLに電流Iが流れ、LI2/2のエネルギーがリアクトルLに蓄積される。
次に、スイッチング素子SW2のIGBT106がオフ(非導通)すると、スイッチング素子SW1のフライホイールダイオードD1に電流が流れ、リアクトルLに蓄えられたエネルギーが電源101へ回生される。
【0010】
ここで、スイッチング素子のオン時間(ON Duty)を変更することで、昇降圧の電圧を調整することが可能であり、概略の電圧値は以下の(1)式にて求めることができる。
L/VH=ON Duty(%) (1)
ただし、VLは電源電圧、VHは昇降圧後の電圧、ON Dutyはスイッチング素子SW1、SW2のスイッチング周期に対する導通期間の割合である。
【0011】
ここで、実際には負荷の変動、電源電圧VLの変動などがあるので、昇降圧後の電圧VHを監視し、昇降圧後の電圧VHが目標値となるように、スイッチング素子SW1、SW2のオン時間(ON Duty)の制御が行われている。
また、車体筐体に接地される制御回路111、112側は低圧であり、スイッチング素子SW1、SW2に接続されるアーム側は高圧となる。このため、スイッチング素子SW1、SW2の破壊などの事故が発生しても、人体が危険に晒されることがないようにするために、アーム側とは、信号伝送用絶縁トランスを用いて制御回路111、112と電気的に絶縁しながら信号の授受が行われる。
【0012】
図14は、従来の信号伝送用絶縁トランスの概略構成を示す平面図である。
図14において、絶縁トランスには、磁気コアMCが設けられ、磁気コアMCには1次巻線M1および2次巻線M2が巻かれている。なお、磁気コアMCは、フェライトやパーマロイなどの強磁性体にて構成することができる。そして、1次巻線M1に印加された電流により生成された磁束φは磁気コアMCにて集束され、磁気コアMC内を通過して第2次巻線M2を鎖交し、2次巻線M2の両端にdφ/dTなる電圧が発生する。ここで、磁気コアMCを用いることにより閉磁路を形成することができ、外部磁界の影響を軽減しつつ、1次巻線M1と2次巻線M2との間の結合係数を高くすることができる。
【0013】
図15は、従来の信号伝送用絶縁トランスを用いた信号伝送回路の概略構成を示すブロック図である。
図15において、絶縁トランスTの1次巻線の一端は抵抗R1を介して電界効果型トランジスタM1のドレインに接続され、絶縁トランスTの2次巻線の一端は復調回路203に接続されている。そして、変調回路202には、局部発振回路201にて生成された局部発振信号が入力される。そして、PWM信号SPが変調回路202に入力されると、局部発振信号がPWM信号SPにて変調され、電界効果型トランジスタM1の制御信号として電界効果型トランジスタM1のゲートに入力される。そして、電界効果型トランジスタM1のゲートに制御信号が入力されると、高周波で変調された変調信号が絶縁トランスTを介して復調回路203に伝送され、復調回路203にてPWM信号SPが復調される。
【0014】
また、特許文献1には、バスを介して相互接続された第1の装置と第2の装置の間に配置されたアイソレーション・バリヤからなるインターフェースを介してNRZデータ信号を伝送する方法において、アイソレーション・バリヤとしてパルス変成器を用いる方法が開示されている。
また、特許文献2には、第1基板上に形成されたドライバと、第2基板上に形成されたレシバーとを、コイルを用いた磁気結合によって接続する方法が開示されている。
【0015】
また、特許文献3には、入力回路と出力回路とを分離するためのロジック分離回路として、リンク結合変成器体を用いる方法が開示されている。
【特許文献1】特許第3399950号公報
【特許文献2】特表2001−521160号公報
【特許文献3】特表2001−513276号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、信号伝送用絶縁トランスとしてコア付きトランスを用いる方法では、磁性体の透磁率の温度特性の影響を受け、結合係数の温度依存性が大きい上に、低価格化および小型化が困難であるという問題があった。また、コア付きトランスを介してPWM信号自体を直接送ることができず、高周波で変調した変調信号を2次巻線で受信してから復調する必要があるので、回路規模が大きくなるという問題があった。
【0017】
一方、信号伝送用絶縁トランスとして空芯トランスを用いる方法では、磁気コアを用いていないので、低価格化および小型化は可能だが、磁気回路が閉じていないため、外部磁束がノイズとして2次巻線に重畳し易く、誤動作を招く危険性があった。
そこで、本発明の目的は、結合係数の温度依存性を低減しつつ、外部磁束に起因するノイズとしての影響を軽減するとともに、低圧側と高圧側とを電気的に絶縁しながら信号の授受を行うことが可能なパワーエレクトロニクス機器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上述した課題を解決するために、請求項1記載のパワーエレクトロニクス機器によれば、負荷へ流入する電流を通電および遮断するスイッチング素子と、前記スイッチング素子の導通および非導通を指示する制御信号を生成する制御回路と、前記制御信号に基づいて前記スイッチング素子の制御端子を駆動する駆動回路と、前記制御回路と前記駆動回路とが絶縁されるように送信側の1次巻線および受信側の2次巻線が設けられた空芯型絶縁トランスとを備え、前記空芯型絶縁トランスの2次巻線には、前記2次巻線を鎖交する外部磁束による起電圧を打ち消し合うとともに、前記2次巻線を鎖交する信号磁束による起電圧を強め合うよう構成された複数の巻線が少なくとも設けられていることを特徴とする。
【0019】
これにより、2次巻線として複数の巻線を設けることで、2次巻線に鎖交する外部磁束による起電圧を打ち消し合わせることができ、磁気コアを用いることなく、外部磁束がノイズとして2次巻線に重畳することを低減することができる。このため、誤動作を招く危険性を回避しつつ、制御回路側とスイッチング素子側とを電気的に絶縁しながら信号の授受を行わせることが可能となるとともに、パワーエレクトロニクス機器の低価格化および小型化を図ることができる。
【0020】
また、請求項2記載のパワーエレクトロニクス機器によれば、前記2次巻線には、巻き方向が互いに異なるとともに隣接配置された第1巻線と第2巻線とが設けられ、前記1次巻線と前記2次巻線の第1巻線とは同軸状に配置されるとともに、前記第1巻線の終端が前記第2巻線の始端に接続されているか、または前記第1巻線の始端が前記第2巻線の終端に接続されていることを特徴とする。
【0021】
これにより、2次巻線に設けられた複数の巻線の巻き方向を互いに異ならせることで、2次巻線に鎖交する外部磁束による起電圧を打ち消し合わせることができる。このため、信号伝送用絶縁トランスとして空芯トランスを用いた場合においても、外部磁束がノイズとして2次巻線に重畳することを低減することができ、誤動作を招く危険性を回避しつつ、パワーエレクトロニクス機器の低価格化および小型化を図ることができる。
【0022】
また、請求項3記載のパワーエレクトロニクス機器によれば、前記2次巻線には、巻き方向が同一であるとともに隣接配置された第1巻線と第2巻線とが設けられ、前記1次巻線と前記2次巻線の第1巻線とは同軸状に配置されるとともに、前記第1巻線の始端が前記第2巻線の始端に接続されているか、または前記第1巻線の終端が前記第2巻線の終端に接続されていることを特徴とする。
【0023】
これにより、2次巻線に設けられた複数の巻線の巻き方向が同一である場合においても、2次巻線に設けられた複数の巻線の結線方法を変えることで、2次巻線に鎖交する外部磁束による起電圧を打ち消し合わせることができる。このため、信号伝送用絶縁トランスとして空芯トランスを用いた場合においても、外部磁束がノイズとして2次巻線に重畳することを低減することができ、誤動作を招く危険性を回避しつつ、パワーエレクトロニクス機器の低価格化および小型化を図ることができる。
【0024】
また、請求項4記載のパワーエレクトロニクス機器によれば、負荷へ流入する電流を通電および遮断するスイッチング素子と、前記スイッチング素子の導通および非導通を指示する制御信号を生成する制御回路と、前記制御信号に基づいて前記スイッチング素子の制御端子を駆動する駆動回路と、前記制御回路と前記駆動回路とが絶縁されるように送信側の1次巻線および受信側の2次巻線が設けられた空芯型絶縁トランスとを備え、前記空芯型絶縁トランスの1次巻線には、前記2次巻線を鎖交する信号磁束による起電圧を高くするように構成された複数の巻線が少なくとも設けられ、前記空芯型絶縁トランスの2次巻線には、前記2次巻線を鎖交する外部磁束による起電圧を打ち消し合うとともに、前記2次巻線を鎖交する信号磁束による起電圧を高めるよう構成された複数の巻線が少なくとも設けられていることを特徴とする。
【0025】
これにより、1次巻線および2次巻線として複数の巻線をそれぞれ設けることで、1次巻線および2次巻線に鎖交する外部磁束をそれぞれ打ち消し合わせることができ、磁気コアを用いることなく、外部磁束がノイズとして1次巻線および2次巻線に重畳することを低減することができる。このため、誤動作を招く危険性を回避しつつ、制御回路側とスイッチング素子側とを電気的に絶縁しながら信号の授受を行わせることが可能となるとともに、パワーエレクトロニクス機器の低価格化および小型化を図ることができる。
【0026】
また、請求項5記載のパワーエレクトロニクス機器によれば、前記1次巻線および前記2次巻線には、巻き方向が互いに異なる第1巻線と第2巻線とがそれぞれ設けられ、各第1巻線同士および各第2巻き線同士は同軸状に配置されるとともに、前記1次巻線および前記2次巻線の第1巻線と第2巻線とはそれぞれ隣接するように配置され、第1巻線の終端が第2巻線の始端にそれぞれ接続されているか、または第1巻線の始端が第2巻線の終端にそれぞれ接続されていることを特徴とする。
【0027】
これにより、1次巻線および2次巻線にそれぞれ設けられた複数の巻線の巻き方向を互いに異ならせることで、1次巻線および2次巻線に鎖交する外部磁束による起電圧を打ち消し合わせることができる。このため、信号伝送用絶縁トランスとして空芯トランスを用いた場合においても、外部磁束がノイズとして1次巻線および2次巻線に重畳することを低減することができ、誤動作を招く危険性を回避しつつ、パワーエレクトロニクス機器の低価格化および小型化を図ることができる。
【0028】
また、請求項6記載のパワーエレクトロニクス機器によれば、前記1次巻線および前記2次巻線には、巻き方向が同一の第1巻線と第2巻線とがそれぞれ設けられ、各第1巻線同士および各第2巻き線同士は同軸状に配置されるとともに、前記1次巻線および前記2次巻線の第1巻線と第2巻線とはそれぞれ隣接するように配置され、前記第1巻線の始端が前記第2巻線の始端にそれぞれ接続されているか、または前記第1巻線の終端が前記第2巻線の終端にそれぞれ接続されていることを特徴とする。
【0029】
これにより、1次巻線および2次巻線にそれぞれ設けられた複数の巻線の巻き方向が同一である場合においても、1次巻線および2次巻線に設けられた複数の巻線の結線方法をそれぞれ変えることで、1次巻線および2次巻線に鎖交する外部磁束による起電圧を打ち消し合わせることができる。このため、信号伝送用絶縁トランスとして空芯トランスを用いた場合においても、外部磁束がノイズとして1次巻線および2次巻線に重畳することを低減することができ、誤動作を招く危険性を回避しつつ、パワーエレクトロニクス機器の低価格化および小型化を図ることができる。
【0030】
また、請求項7記載のパワーエレクトロニクス機器によれば、前記2次巻線の第1巻線と第2巻線の巻数が概ね同一で有ることを特徴とする。
これにより、2次巻線の第1巻線と第2巻線にそれぞれ鎖交する外部磁束を概ね同一とすることができ、2次巻線に鎖交する外部磁束をほぼ完全に打ち消し合すことができる。
また、請求項8記載のパワーエレクトロニクス機器によれば、前記空芯型絶縁トランスが微細加工技術によって形成されていることを特徴とする。
【0031】
これにより、1次巻線および2次巻線の巻径を小さくすることが可能となるとともに、1次巻線と2次巻線との間隔を小さくすることができる。このため、1次巻線と2次巻線との結合係数を高めつつ、外部磁束が1次巻線および2次巻線に鎖交した場合においてもノイズとしての影響を低減することができ、S/N比を向上させることができる。
【発明の効果】
【0032】
以上説明したように、本発明によれば、2次巻線に鎖交する外部磁束による起電圧を打ち消し合わせることができ、信号伝送用絶縁トランスとして空芯トランスを用いた場合においても、外部磁束がノイズとして2次巻線に重畳することを低減し、誤動作を招く危険性を回避することが可能となるとともに、パワーエレクトロニクス機器の低価格化および小型化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明の実施形態に係るパワーエレクトロニクス機器について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るパワーエレクトロニクス機器が適用される昇降圧コンバータ用インテリジェントパワーモジュール(IPM:Inteligent Power Module)の概略構成を示すブロック図である。
【0034】
図1において、昇降圧コンバータ用インテリジェントパワーモジュールには、負荷へ流入する電流を通電および遮断するスイッチング素子SWU、SWDおよびスイッチング素子SWU、SWDの導通および非導通を指示する制御信号をそれぞれ生成する制御回路1が設けられている。ここで、制御回路1は、CPU4または論理IC、あるいは論理ICとCPUが搭載されたシステムLSIなどで構成することができる。
【0035】
また、スイッチング素子SWU、SWDはそれぞれ上アーム2用および下アーム3用として動作するように直列に接続されている。そして、スイッチング素子SWUには、ゲート信号SU4に従ってスイッチング動作を行うIGBT6が設けられ、IGBT6に流れる電流と逆方向に電流を流すフライホイールダイオードDU1がIGBT6に並列に接続されている。また、IGBT6が形成されたチップには、チップ温度変化に起因するダイオードDU2のVF変化を測定原理として用いた温度センサ、および抵抗RU1、RU2を介してIGBT6のエミッタ電流を分流して主回路電流を検出する電流センサが設けられている。
【0036】
また、スイッチング素子SWDには、ゲート信号SD4に従ってスイッチング動作を行うIGBT5が設けられ、IGBT5に流れる電流と逆方向に電流を流すフライホイールダイオードDD1がIGBT5に並列に接続されている。また、IGBT5が形成されたチップには、チップ温度変化に起因するダイオードDD2のVF変化を測定原理として用いた温度センサ、およびIGBT5のエミッタ電流を抵抗RD1、RD2を介して分流して主回路電流を検出する電流センサが設けられている。
【0037】
そして、上アーム2側には、温度センサからの過熱検知信号SU6および電流センサからの過電流検知信号SU5を監視しながら、IGBT6の制御端子を駆動するためのゲート信号SU4を生成する保護機能付きゲートドライバIC8が設けられるとともに、IGBT6の温度に対応したPWM信号を生成するアナログPWM変換器CUが設けられている。
【0038】
また、下アーム3側には、温度センサからの過熱検知信号SD6および電流センサからの過電流検知信号SD5を監視しながら、IGBT5の制御端子を駆動するためのゲート信号SD4を生成する保護機能付きゲートドライバIC7が設けられるとともに、IGBT5の温度に対応したPWM信号を生成するアナログPWM変換器CDが設けられている。
【0039】
また、車体筐体に接地される制御回路1側と、高圧となる上アーム2側および下アーム3側との間には、空芯型絶縁トランスTU1〜TU3、TD1〜TD3がそれぞれ介挿され、制御回路1では、空芯型絶縁トランスTU1〜TU3、TD1〜TD3を用いて上アーム2側および下アーム3側と電気的に絶縁しながら信号の授受が行われる。
すなわち、上アーム2側において、CPU4から出力されたゲートドライブ用PMW信号SU1は、空芯型絶縁トランスTU1を介して保護機能付きゲートドライバIC8に入力される。また、保護機能付きゲートドライバIC8から出力されたアラーム信号SU2は、空芯型絶縁トランスTU2を介してCPU4に入力される。また、アナログPWM変換器CUから出力されたIGBTチップ温度PMW信号SU3は、空芯型絶縁トランスTU3を介してCPU4に入力される。
【0040】
一方、下アーム3側において、CPU4から出力されたゲートドライブ用PMW信号SD1は、空芯型絶縁トランスTD1を介して保護機能付きゲートドライバIC7に入力される。また、保護機能付きゲートドライバIC7から出力されたアラーム信号SD2は、空芯型絶縁トランスTD2を介してCPU4に入力される。また、アナログPWM変換器CDから出力されたIGBTチップ温度PMW信号SD3は、空芯型絶縁トランスTD3を介してCPU4に入力される。
【0041】
ここで、空芯型絶縁トランスTU1〜TU3、TD1〜TD3には、送信側の1次巻線および受信側の2次巻線がそれぞれ設けられている。そして、空芯型絶縁トランスTU1〜TU3、TD1〜TD3の2次巻線には、2次巻線を鎖交する外部磁束による起電圧を打ち消し合うとともに、2次巻線を鎖交する信号磁束による起電圧を強め合うよう構成された複数の巻線が設けられている。
【0042】
そして、CPU4は、IGBT5、6の導通または非導通をそれぞれ指示するゲートドライブ用PMW信号SD1、SU1を生成し、このゲートドライブ用PMW信号SD1、SU1を空芯型絶縁トランスTD1、TU1をそれぞれ介して保護機能付きゲートドライバIC7、8にそれぞれ絶縁伝送する。そして、保護機能付きゲートドライバIC7、8は、ゲートドライブ用PMW信号SD1、SU1にそれぞれ基づいてゲート信号SD4、SU4を生成し、IGBT5、6の制御端子を駆動することにより、IGBT5、6をスイッチング動作させる。
【0043】
ここで、温度センサから出力された過熱検知信号SD6、SU6が保護機能付きゲートドライバIC7、8にそれぞれ入力されるとともに、電流センサから出力された過電流検知信号SD5、SU5が保護機能付きゲートドライバIC7、8にそれぞれ入力される。そして、保護機能付きゲートドライバIC7、8は、IGBT5、6が破壊しない閾値を超過した場合には、空芯型絶縁トランスTD2、TU2をそれぞれ介してCPU4にアラーム信号SD2、SU2を伝送する。そして、CPU4は、保護機能付きゲートドライバIC7、8からアラーム信号SD2、SU2をそれぞれ受け取ると、ゲートドライブ用PMW信号SD1、SU1の生成をそれぞれ停止することにより、IGBT5、6に流れる電流を遮断する。
【0044】
なお、保護機能付きゲートドライバIC7、8は、温度センサから出力された過熱検知信号SD6、SU6および電流センサから出力された過電流検知信号SD5、SU5に基づいて、IGBTが破壊しない閾値を下回ったと判断した場合、一定の時間が経過した後にアラーム信号SD2、SU2を解除する。
さらに、細かい監視を行う場合には、温度センサから出力された過熱検知信号SD6、SU6がアナログPWM変換器CD、CUにそれぞれ入力される。そして、アナログPWM変換器CD、CUは、過熱検知信号SD6、SU6のアナログ値をデジタル信号にそれぞれ変換することにより、IGBTチップ温度PMW信号SD3、SU3をそれぞれ生成し、空芯型絶縁トランスTD3、TU3をそれぞれ介してCPU4にIGBTチップ温度PMW信号SD3、SU3を伝送する。そして、CPU4は、IGBTチップ温度PMW信号SD3、SU3からIGBT5、6のチップ温度をそれぞれ算出し、予め設けられた数段階の閾値に応じて、IGBT5、6のスイッチング周波数の段階的な低下を行ったり、スイッチング停止を行ったりすることができる。
【0045】
ここで、空芯型絶縁トランスTU1〜TU3、TD1〜TD3の2次巻線として複数の巻線を設けることで、2次巻線に鎖交する外部磁束による起電圧を打ち消し合わせることができ、磁気コアを用いることなく、外部磁束がノイズとして2次巻線に重畳することを低減することができる。このため、誤動作を招く危険性を回避しつつ、制御回路1側と上アーム2側および下アーム3側とを電気的に絶縁しながら信号の授受を行わせることが可能となるとともに、昇降圧コンバータ用インテリジェントパワーモジュールの低価格化および小型化を図ることができる。
【0046】
図2は、本発明の第1実施形態に係る空芯型絶縁トランスの概略構成を示す外観図である。
図2において、図1の空芯型絶縁トランスTU1〜TU3、TD1〜TD3には、送信側の役割を担う1次巻線M11を設けるとともに、受信側の役割を担う2次巻線の第1巻線M21および第2巻線M22を設けることができる。ここで、2次巻線の第1巻線M21および第2巻線M22は、2次巻線を鎖交する外部磁束による起電圧を打ち消し合うとともに、2次巻線を鎖交する信号磁束を強め合うよう構成することができる。
【0047】
例えば、2次巻線の第1巻線M21と第2巻線M22の巻き方向を互いに異ならせるとともに、2次巻線の第1巻線M21と第2巻線M22とを近接して配置することができる。さらに、1次巻線M11と2次巻線の第1巻線M21とは同軸状に配置するとともに、1次巻線M11と2次巻線の第1巻線M21の巻き方向は同一とすることができる。また、2次巻線の第1巻線M21の終端を第2巻線M22の始端に接続するか、または2次巻線の第1巻線M21の始端を第2巻線M22の終端に接続することができる。なお、2次巻線の第1巻線M21と第2巻線M22の巻数は概ね同一とすることが好ましい。
【0048】
これにより、2次巻線に設けられた第1巻線M21と第2巻線M22の巻き方向を互いに異ならせることで、2次巻線に鎖交する外部磁束による起電圧を打ち消し合わせることができる。このため、信号伝送用絶縁トランスとして空芯型絶縁トランスTU1〜TU3、TD1〜TD3を用いた場合においても、外部磁束がノイズとして2次巻線に重畳することを低減することができ、誤動作を招く危険性を回避しつつ、昇降圧コンバータ用インテリジェントパワーモジュールの低価格化および小型化を図ることができる。
【0049】
図3は、図2の空芯型絶縁トランスにおける外部磁束の鎖交状態を示す図である。
図3において、外部磁束Joは、2次巻線の第1巻線M21および第2巻線M22の双方に同一方向から概ね均等に鎖交する。
図4は、図2の空芯型絶縁トランスにおける信号磁束の鎖交状態を示す図である。
図4において、1次巻線M11に流れた信号電流によって形成される信号磁束Jsは、1次巻線M11の軸を中心として周回するように形成され、1次巻線M11の同軸上に配置された2次巻線の第1巻線M21に大部分が鎖交し、2次巻線の第2巻線M22には一部分が鎖交する。
なお、周回する巻線に鎖交する磁束が変化する場合、巻線の両端の発生電圧は下記のファラデーの法則にて表すことができる。
【0050】
【数1】

【0051】
ただし、この(2)式での太字はベクトルを表現している。この(2)式から判るように、磁束変化によって生じる電圧の符号に影響を与える因子は、巻線の巻方向(dS)および磁束の向き(B)である。主回路電流によって発生される外部磁束Joによる起電圧は、2次巻線の第1巻線M21と第2巻線M22で巻き方向が異なるため、符号が異なる同等値の起電圧となり、お互いに打ち消し合うことができる。この起電圧の打ち消し合いは、2次巻線の第1巻線M21と第2巻線M22の巻数が概ね等しい場合に最も効果的である。
【0052】
一方、信号磁束Jsに対しては、2次巻線の第1巻線M21および第2巻線M22ともに同一方向に起電圧が発生し、起電圧レベルは大きくなる。以上のような構成を用いることにより、信号磁束Jsによる起電圧レベルを高くし、主回路電流の外部磁束Joによる起電圧レベルを抑制することができ、図1の空芯型絶縁トランスTU1〜TU3、TD1〜TD3を用いた場合においても、信号のS/N比を高めることが可能となる。
【0053】
なお、上述した実施形態では、2次巻線の第1巻線M21と第2巻線M22の巻き方向を互いに異ならせるとともに、2次巻線の第1巻線M21の終端を第2巻線M22の始端に接続するか、または2次巻線の第1巻線M21の始端を第2巻線M22の終端に接続する方法について説明したが、2次巻線の第1巻線M21と第2巻線M22の巻き方向を同一とするとともに、2次巻線の第1巻線M21の始端を第2巻線M22の始端に接続するか、または2次巻線の第1巻線M21の終端を第2巻線M22の終端に接続するようにしてもよい。
【0054】
また、上述した実施形態では、1次巻線M11と、2次巻線の第1巻線M21の巻き方向を同一としたが、これらの巻線の巻き方向が逆でも良く、この場合には信号磁束Jsによる出力電圧の符号が変わるのみで、外部磁束Joの影響を抑制する効果は変わらない。
また、図2において示した巻線は縦方向に形成されているが、微細加工技術によって形成される平面型コイルを用いるようにしてもよい。
【0055】
図5(a)は、本発明の第2実施形態に係る絶縁トランスの概略構成を示す断面図、図5(b)は、図5(a)の絶縁トランスの概略構成を示す平面図である。
図5において、基板11には引き出し配線層12が埋め込まれるとともに、基板11上には1次コイルパターン14が形成されている。そして、1次コイルパターン14は引き出し部13を介して引き出し配線層12に接続されている。そして、1次コイルパターン14上には平坦化膜15が形成され、平坦化膜15上には、絶縁層16を介して2次コイルパターン17が形成され、2次コイルパターン17は保護膜18にて覆われている。
【0056】
一方、基板21には引き出し配線層22が埋め込まれるとともに、基板21上には2次コイルパターン24が形成されている。そして、2次コイルパターン24は引き出し部23を介して引き出し配線層22に接続されている。そして、2次コイルパターン24は保護膜25にて覆われている。
ここで、1次コイルパターン14および2次コイルパターン17は巻き方向を時計回りに設定するとともに、2次コイルパターン24は巻き方向を反時計回りに設定し、2次コイルパターン17、24は互いに近接して配置することができる。さらに、2次コイルパターン17の終端を2次コイルパターン24の始端に接続するか、または2次コイルパターン17の始端を2次コイルパターン24の終端に接続することができる。
【0057】
この場合、外部磁束Joは、2次コイルパターン17、24の双方に同一方向から概ね均等に鎖交する。一方、1次コイルパターン14に流れた信号電流によって形成される信号磁束Jsは、1次コイルパターン14の軸を中心として周回するように形成され、1次コイルパターン14の同軸上に配置された2次コイルパターン17に大部分が鎖交し、2次コイルパターン24には一部分が鎖交する。このため、信号磁束Jsによる起電圧レベルを高くし、主回路電流の外部磁束Joによる起電圧レベルを抑制することができ、信号のS/N比を高めることが可能となる。
【0058】
また、1次コイルパターン14および2次コイルパターン17、24の巻径を小さくすることが可能となるとともに、1次コイルパターン14と2次コイルパターン17との間隔を小さくすることができる。このため、1次コイルパターン14と2次コイルパターン17との結合係数を高めつつ、外部磁束Joによるノイズとしての影響を低減することができ、S/N比を向上させることができる。
【0059】
図6は、本発明の第3実施形態に係る空芯型絶縁トランスの概略構成を示す外観図である。
図6において、図1の空芯型絶縁トランスTU1〜TU3、TD1〜TD3には、送信側の役割を担う1次巻線の第1巻線M111および第2巻線M112を設けるとともに、受信側の役割を担う2次巻線の第1巻線M121および第2巻線M122を設けることができる。ここで、1次巻線の第1巻線M111および第2巻線M112は、2次巻線を鎖交する信号磁束を強めるよう構成することができる。また、2次巻線の第1巻線M121および第2巻線M122は、2次巻線を鎖交する外部磁束による起電圧を打ち消し合うとともに、2次巻線を鎖交する信号磁束を多くするように構成することができる。
【0060】
例えば、1次巻線の第1巻線M111と第2巻線M112の巻き方向を互いに異ならせるとともに、1次巻線の第1巻線M111と第2巻線M112とを近接して配置することができる。また、2次巻線の第1巻線M121と第2巻線M122の巻き方向を互いに異ならせるとともに、2次巻線の第1巻線M121と第2巻線M122とを近接して配置することができる。さらに、1次巻線の第1巻線M111と2次巻線の第1巻線M121とは同軸状に配置するとともに、1次巻線の第2巻線M112と2次巻線の第2巻線M122とは同軸状に配置することができる。また、1次巻線の第1巻線M111の終端を第2巻線M112の始端に接続するか、または1次巻線の第1巻線M111の始端を第2巻線M112の終端に接続することができる。さらに、2次巻線の第1巻線M121の終端を第2巻線M122の始端に接続するか、または2次巻線の第1巻線M121の始端を第2巻線M122の終端に接続することができる。
【0061】
このような構成では、図2に示した構成に対して、2次巻線の第2巻線M122に対しても、信号磁束を確実に鎖交させることができ、S/N比をより改善することが可能となる。
なお、図6の第3実施形態では、1次巻線の第1巻線M111と第2巻線M112の巻き方向を互いに異ならせるとともに、2次巻線の第1巻線M121と第2巻線M122の巻き方向を互いに異ならせ、1次巻線の第1巻線M111の終端を第2巻線M112の始端に接続するか、または1次巻線の第1巻線M111の始端を第2巻線M112の終端に接続し、2次巻線の第1巻線M121の終端を第2巻線M122の始端に接続するか、または2次巻線の第1巻線M121の始端を第2巻線M122の終端に接続する方法について説明したが、1次巻線の第1巻線M111と第2巻線M112の巻き方向を同一とするとともに、2次巻線の第1巻線M121と第2巻線M122の巻き方向を同一とし、1次巻線の第1巻線M111の始端を第2巻線M112の始端に接続するか、または1次巻線の第1巻線M111の終端を第2巻線M112の終端に接続し、2次巻線の第1巻線M121の始端を第2巻線M122の始端に接続するか、または2次巻線の第1巻線M121の終端を第2巻線M122の終端に接続するようにしてもよい。
【0062】
図7(a)は、本発明の第4実施形態に係る絶縁トランスの概略構成を示す断面図、図7(b)は、図7(a)の絶縁トランスの概略構成を示す平面図である。
図7において、基板31には引き出し配線層32が埋め込まれるとともに、基板31上には1次コイルパターン34が形成されている。そして、1次コイルパターン34は引き出し部33を介して引き出し配線層32に接続されている。そして、1次コイルパターン34上には平坦化膜35が形成され、平坦化膜35上には、絶縁層36を介して2次コイルパターン37が形成され、2次コイルパターン37は保護膜38にて覆われている。
【0063】
一方、基板41には引き出し配線層42が埋め込まれるとともに、基板41上には1次コイルパターン44が形成されている。そして、1次コイルパターン44は引き出し部43を介して引き出し配線層42に接続されている。そして、1次コイルパターン44上には平坦化膜45が形成され、平坦化膜45上には、絶縁層46を介して2次コイルパターン47が形成され、2次コイルパターン47は保護膜48にて覆われている。
【0064】
ここで、1次コイルパターン34および2次コイルパターン37は巻き方向を時計回りに設定するとともに、1次コイルパターン44および2次コイルパターン47は巻き方向を反時計回りに設定し、1次コイルパターン34、44は互いに近接して配置するとともに、2次コイルパターン47、47は互いに近接して配置することができる。また、1次コイルパターン34の終端を1次コイルパターン44の始端に接続するか、または1次コイルパターン34の始端を1次コイルパターン44の終端に接続することができる。さらに、2次コイルパターン37の終端を2次コイルパターン47の始端に接続するか、または2次コイルパターン37の始端を2次コイルパターン47の終端に接続することができる。
【0065】
この場合、外部磁束Joは、2次コイルパターン37、47の双方に同一方向から概ね均等に鎖交する。一方、1次コイルパターン34、44に流れた信号電流によって形成される信号磁束Jsは、1次コイルパターン34、44の軸を中心として周回するように形成され、1次コイルパターン34、44の同軸上にそれぞれ配置された2次コイルパターン37、47に大部分が鎖交する。このため、信号磁束Jsによる起電圧レベルを高くし、主回路電流の外部磁束Joによる起電圧レベルを抑制することができ、信号のS/N比を高めることが可能となる。
【0066】
図8および図9は、本発明の第5実施形態に係る絶縁トランスの製造方法を示す断面図である。
図8(a)において、As、P、Bなどの不純物を半導体基板51内に選択的に注入することにより、1次コイルパターン55aの中心からの引き出しを行うための引き出し拡散52を半導体基板51に形成する。なお、半導体基板51の材質としては、例えば、Si、Ge、SiGe、SiC、SiSn、PbS、GaAs、InP、GaP、GaNまたはZnSeなどの中から選択することができる。
【0067】
次に、図8(b)に示すように、引き出し拡散52が形成された半導体基板51上にプラズマCVDなどの方法にて絶縁層53を形成する。なお、絶縁層53の材質としては、例えば、シリコン酸化膜またはシリコン窒化膜などを用いることができる。
次に、図8(c)に示すように、フォトリソグラフィー技術を用いることにより、1次コイルパターン55aの中心からの引き出し部分に対応して開口部54aが設けられたレジストパターン54を絶縁層53上に形成する。
【0068】
次に、図8(d)に示すように、開口部54aが形成されたレジストパターン54をマスクとして絶縁層53をエッチングすることにより、1次コイルパターン55aの中心からの引き出し部分に対応した開口部53aを絶縁層53に形成する。
次に、図8(e)に示すように、レジストパターン54を薬品により絶縁層53から剥離する。
【0069】
次に、図8(f)に示すように、スパッタや蒸着などの方法により、導電膜55を絶縁層53上に形成する。なお、導電膜55の材質としては、AlやCuなどの金属を用いることができる。
次に、図8(g)に示すように、フォトリソグラフィー技術を用いることにより、1次コイルパターン55aに対応したレジストパターン56を形成する。
【0070】
次に、図8(h)に示すように、レジストパターン56をマスクとして導電膜55をエッチングすることにより、1次コイルパターン55aを絶縁層53上に形成する。
次に、図8(i)に示すように、レジストパターン56を薬品により1次コイルパターン55aから剥離する。
次に、図8(j)に示すように、1次コイルパターン55aが形成された絶縁層53上にプラズマCVDなどの方法にて平坦化膜57を形成する。なお、平坦化膜57の材質としては、例えば、シリコン酸化膜またはシリコン窒化膜などを用いることができる。
【0071】
次に、図8(k)に示すように、斜めエッチングあるいはCMP(Chemical Mechanical Polishing)などの方法により、平坦化膜57を平坦化し、平坦化層57の表面の凹凸を除去する。
次に、図8(l)に示すように、フォトリソグラフィー技術を用いることにより、2次コイルパターン55aの外端の配線取出し部分に対応して開口部58aが設けられたレジストパターン58を平坦化膜57上に形成する。
【0072】
次に、図9(a)に示すように、開口部58aが設けられたレジストパターン58をマスクとして平坦化膜57をエッチングすることにより、2次コイルパターン55aの外端の配線取出し部分に対応した開口部57aを平坦化膜57に形成する。
次に、図9(b)に示すように、レジストパターン58を薬品により平坦化膜57から剥離する。
【0073】
次に、図9(c)に示すように、1次コイルパターン55aと2次コイルパターン55aとの分離層59を平坦化膜57上に形成する。なお、分離層59の形成方法としては、ポリイミド層を平坦化膜57上に塗布する方法などを用いることができる。
次に、図9(d)に示すように、スパッタや蒸着などの方法により、導電膜60を分離層59上に形成する。なお、導電膜60の材質としては、AlやCuなどの金属を用いることができる。
【0074】
次に、図9(e)に示すように、フォトリソグラフィー技術を用いることにより、2次コイルパターン60aに対応したレジストパターン61を形成する。
次に、図9(f)に示すように、レジストパターン61をマスクとして導電膜60をエッチングすることにより、2次コイルパターン60aを分離層59上に形成する。
次に、図9(g)に示すように、レジストパターン61を薬品により2次コイルパターン60aから剥離する。
【0075】
次に、図9(h)に示すように、2次コイルパターン60aが形成された分離層59上にプラズマCVDなどの方法にて保護膜62を形成する。なお、保護膜62の材質としては、例えば、シリコン酸化膜またはシリコン窒化膜などを用いることができる。そして、フォトリソグラフィー技術およびエッチング技術を用いて保護膜62をパターニングすることにより、2次コイルパターン60aの端部および中央部を露出させる。
【0076】
これにより、微細加工技術によって1次コイルパターン55a上に2次コイルパターン60aを積層することができ、1次コイルパターン55aおよび2次コイルパターン60aの巻径を小さくすることが可能となるとともに、1次コイルパターン55aと2次コイルパターン60aとの間隔を小さくすることができる。
図10は、本発明の第6実施形態に係る昇降圧コンバータ用インテリジェントパワーモジュールの実装状態を示す断面図である。
【0077】
図10において、放熱の役割を行う銅ベース71上には、絶縁用セラミックス基板72を介して、IGBTチップ73aおよびFWDチップ73bが実装されている。そして、IGBTチップ73aおよびFWDチップ73bは、ボンディングワイヤ74a〜74cを介して互いに接続されるとともに、主回路電流の取り出しを行う主端子77に接続されている。また、IGBTチップ73aおよびFWDチップ73b上には、IGBTのゲート駆動および監視を行う回路基板75が配置され、IGBTチップ73a、FWDチップ73bおよび回路基板75はモールド樹脂76にて封止されている。ここで、IGBTチップ73aおよびFWDチップ73bは、負荷へ流入する電流を通電および遮断するスイッチング素子を構成することができ、上アーム用および下アーム用として動作するようにスイッチング素子を直列に接続することができる。また、回路基板75には、スイッチング素子の導通および非導通を指示する制御信号を生成する制御回路を設けることができる。
【0078】
そして、主回路電流は、主端子77のみならず、主端子77とIGBTチップ73aおよびFWDチップ73bを接続するボンディングワイヤ74a〜74cにも流れるが、ボンディングワイヤ74a〜74cは回路基板75の直近に配置されるので、ボンディングワイヤ74a〜74cを流れる主回路電流で生成される磁界による影響の方が大きい。この主回路電流は、通常の運転時には、最高でも250A程度であるが、例えば発進時あるいは、空転後の負荷等では、900A以上流れる場合が有る。
【0079】
ここで、車体筐体に接地される制御回路側と、高圧となる上アーム側および下アーム側との間には、空芯型絶縁トランスがそれぞれ介挿され、制御回路では、空芯型絶縁トランスを用いて上アーム側および下アーム側と電気的に絶縁しながら信号の授受が行われる。そして、空芯型絶縁トランスの2次巻線には、2次巻線を鎖交する外部磁束による起電圧を打ち消し合うとともに、2次巻線を鎖交する信号磁束による起電圧を強め合うよう構成された複数の巻線を設けることができる。
【0080】
これにより、IGBTチップ73a、FWDチップ73bおよび主端子77を電気的に接続するボンディングワイヤ74a〜74cに主回路の大電流が流れた場合でも、空芯型絶縁トランスの受信側である2次巻線の出力電圧における信号レベルを主回路電流によるノイズレベルに対して十分大きくすることが可能となり、空芯型絶縁トランスを用いた場合においても、誤動作の無い信号伝達が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の一実施形態に係るパワーエレクトロニクス機器が適用される昇降圧コンバータ用インテリジェントパワーモジュールの概略構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る空芯型絶縁トランスの概略構成を示す外観図である。
【図3】図2の空芯型絶縁トランスにおける外部磁束の鎖交状態を示す図である。
【図4】図2の空芯型絶縁トランスにおける信号磁束の鎖交状態を示す図である。
【図5】図5(a)は、本発明の第2実施形態に係る絶縁トランスの概略構成を示す断面図、図5(b)は、図5(a)の絶縁トランスの概略構成を示す平面図である。
【図6】本発明の第3実施形態に係る空芯型絶縁トランスの概略構成を示す外観図である。
【図7】図7(a)は、本発明の第4実施形態に係る絶縁トランスの概略構成を示す断面図、図7(b)は、図7(a)の絶縁トランスの概略構成を示す平面図である。
【図8】本発明の第5実施形態に係る絶縁トランスの製造方法を示す断面図である。
【図9】本発明の第5実施形態に係る絶縁トランスの製造方法を示す断面図である。
【図10】本発明の第6実施形態に係る昇降圧コンバータ用インテリジェントパワーモジュールの実装状態を示す断面図である。
【図11】従来の昇降圧コンバータを用いた車両駆動システムの概略構成を示すブロック図である。
【図12】図11の昇降圧コンバータの概略構成を示すブロック図である。
【図13】昇圧動作時に図12のリアクトルに流れる電流の波形を示す図である。
【図14】従来の信号伝送用絶縁トランスの概略構成を示す平面図である。
【図15】従来の信号伝送用絶縁トランスを用いた信号伝送回路の概略構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0082】
1 制御回路
2 上アーム
3 下アーム
4 CPU
5、6 IGBT
7、8 ゲートドライバIC
TU1〜TU3、TD1〜TD3 空芯型絶縁トランス
DU1、DU2、DD1、DD2 ダイオード
RU1、RU2、RD1、RD2 抵抗
CU、CD PWM変換器
M11、M111 1次巻線
M111 1次巻線の第1巻線
M112 1次巻線の第2巻線
M21、M121 2次巻線の第1巻線
M22、M122 2次巻線の第2巻線
11、21、31、41 基板
12、22、32、42 引き出し配線層
13、23、33、43 引き出し部
14、34、44、55a 1次コイルパターン
15、35、45、57 平坦化膜
16、36、46、53 絶縁層
17、24、37、47、60a 2次コイルパターン
18、25、38、48、62 保護膜
51 半導体基板
52 引き出し拡散層
54、56、58、61 レジストパターン
54a、57a、58a 開口部
55、60 導電膜
59 分離層
71 銅ベース
72 絶縁用セラミックス基板
73a IGBTチップ
73b FWDチップ
74a〜74c ボンディングワイヤ
75 回路基板
76 モールド樹脂
77 主端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負荷へ流入する電流を通電および遮断するスイッチング素子と、
前記スイッチング素子の導通および非導通を指示する制御信号を生成する制御回路と、
前記制御信号に基づいて前記スイッチング素子の制御端子を駆動する駆動回路と、
前記制御回路と前記駆動回路とが絶縁されるように送信側の1次巻線および受信側の2次巻線が設けられた空芯型絶縁トランスとを備え、
前記空芯型絶縁トランスの2次巻線には、前記2次巻線を鎖交する外部磁束による起電圧を打ち消し合うとともに、前記2次巻線を鎖交する信号磁束による起電圧を強め合うよう構成された複数の巻線が少なくとも設けられていることを特徴とするパワーエレクトロニクス機器。
【請求項2】
前記2次巻線には、巻き方向が互いに異なるとともに隣接配置された第1巻線と第2巻線とが設けられ、前記1次巻線と前記2次巻線の第1巻線とは同軸状に配置されるとともに、前記第1巻線の終端が前記第2巻線の始端に接続されているか、または前記第1巻線の始端が前記第2巻線の終端に接続されていることを特徴とする請求項1記載のパワーエレクトロニクス機器。
【請求項3】
前記2次巻線には、巻き方向が同一であるとともに隣接配置された第1巻線と第2巻線とが設けられ、前記1次巻線と前記2次巻線の第1巻線とは同軸状に配置されるとともに、前記第1巻線の始端が前記第2巻線の始端に接続されているか、または前記第1巻線の終端が前記第2巻線の終端に接続されていることを特徴とする請求項1記載のパワーエレクトロニクス機器。
【請求項4】
負荷へ流入する電流を通電および遮断するスイッチング素子と、
前記スイッチング素子の導通および非導通を指示する制御信号を生成する制御回路と、
前記制御信号に基づいて前記スイッチング素子の制御端子を駆動する駆動回路と、
前記制御回路と前記駆動回路とが絶縁されるように送信側の1次巻線および受信側の2次巻線が設けられた空芯型絶縁トランスとを備え、
前記空芯型絶縁トランスの1次巻線には、前記2次巻線を鎖交する信号磁束による起電圧を高くするように構成された複数の巻線が少なくとも設けられ、
前記空芯型絶縁トランスの2次巻線には、前記2次巻線を鎖交する外部磁束による起電圧を打ち消し合うとともに、前記2次巻線を鎖交する信号磁束による起電圧を高めるよう構成された複数の巻線が少なくとも設けられていることを特徴とするパワーエレクトロニクス機器。
【請求項5】
前記1次巻線および前記2次巻線には、巻き方向が互いに異なる第1巻線と第2巻線とがそれぞれ設けられ、各第1巻線同士および各第2巻き線同士は同軸状に配置されるとともに、前記1次巻線および前記2次巻線の第1巻線と第2巻線とはそれぞれ隣接するように配置され、第1巻線の終端が第2巻線の始端にそれぞれ接続されているか、または第1巻線の始端が第2巻線の終端にそれぞれ接続されていることを特徴とする請求項4記載のパワーエレクトロニクス機器。
【請求項6】
前記1次巻線および前記2次巻線には、巻き方向が同一の第1巻線と第2巻線とがそれぞれ設けられ、各第1巻線同士および各第2巻き線同士は同軸状に配置されるとともに、前記1次巻線および前記2次巻線の第1巻線と第2巻線とはそれぞれ隣接するように配置され、前記第1巻線の始端が前記第2巻線の始端にそれぞれ接続されているか、または前記第1巻線の終端が前記第2巻線の終端にそれぞれ接続されていることを特徴とする請求項4記載のパワーエレクトロニクス機器。
【請求項7】
前記2次巻線の第1巻線と第2巻線の巻数が概ね同一で有ることを特徴とする請求項2、3、5、6のいずれか1項記載のパワーエレクトロニクス機器。
【請求項8】
前記空芯型絶縁トランスが微細加工技術によって形成されていることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項記載のパワーエレクトロニクス機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2007−250891(P2007−250891A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−73165(P2006−73165)
【出願日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【出願人】(503361248)富士電機デバイステクノロジー株式会社 (1,023)
【Fターム(参考)】