パワーモジュール
【課題】信頼性向上を図ることができるパワーモジュールの提供。
【解決手段】パワーモジュールは、半導体チップ156,328が搭載された導体板315,318を、導体板315,318の放熱面が露出するように樹脂で封止した一次封止体302と、放熱面と対向するように配置された放熱部307A,307Bと、一次封止体302と放熱部307A,307Bとの間に配置された絶縁層333と、を備え、絶縁層333は、含浸用樹脂が含浸されたセラミックス溶射膜333Aおよび良熱伝導性のフィラーが混入された接着用樹脂層333Bを積層したものであって、放熱部307A,307Bおよび少なくとも放熱面の全域と接するように設けられている積層体と、積層体の端部を全周にわたって覆うように、放熱部307A,307Bと一次封止体302との隙間に設けられた応力緩和用樹脂部333Cとを有する。
【解決手段】パワーモジュールは、半導体チップ156,328が搭載された導体板315,318を、導体板315,318の放熱面が露出するように樹脂で封止した一次封止体302と、放熱面と対向するように配置された放熱部307A,307Bと、一次封止体302と放熱部307A,307Bとの間に配置された絶縁層333と、を備え、絶縁層333は、含浸用樹脂が含浸されたセラミックス溶射膜333Aおよび良熱伝導性のフィラーが混入された接着用樹脂層333Bを積層したものであって、放熱部307A,307Bおよび少なくとも放熱面の全域と接するように設けられている積層体と、積層体の端部を全周にわたって覆うように、放熱部307A,307Bと一次封止体302との隙間に設けられた応力緩和用樹脂部333Cとを有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放熱性および信頼性に優れたパワーモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
省エネルギーの観点から、自動車には高燃費化が求められ、モータで駆動する電気自動車や、モータ駆動とエンジン駆動を組み合わせたハイブリッドカーが注目されている。自動車に用いる大容量の車載用モータは、バッテリの直流電圧では駆動や制御が困難であり、昇圧し交流制御するためパワー半導体素子のスイッチングを利用した電力変換装置が不可欠である。また、パワー半導体素子は通電により発熱するため、パワー半導体素子を搭載するパワーモジュールには、高い放熱能力を持つ絶縁層が求められる。
【0003】
例えば、このようなパワーモジュールとしては、パワー半導体チップ、パワー半導体チップを搭載する導体板、導体板を搭載する金属ベース板、および導体板と金属ベース板とを絶縁するセラミックス板からなる積層体を樹脂ケースでパッケージングして構造体とし、その構造体を冷却体へ取付ける構造が知られている。低コスト化を目的に例えば、特許文献1に記載の発明では、樹脂封止した導体板の放熱面側に対してセラミックス溶射膜を形成し、絶縁層として用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4023397号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した特許文献1に記載の絶縁層である溶射膜は、膜中に気孔が存在するため溶射後の状態ではパワーモジュールに必要な絶縁性能が不足し厚く形成する必要がある。また、膜中の気孔は熱伝導性能の劣化を引き起こす。そこで、樹脂を孔内へ含浸し絶縁性能と熱伝導性能を向上することが有効である。さらに、含浸樹脂により放熱冷却用の金属ベース板に接着すれば、グリスを介した取り付け方式に比較して優れた放熱性を付与できる。しかしながら、金属製の導体板や金属ベース板との熱膨張係数差に起因した熱応力によって絶縁層の周囲端部において亀裂や剥離が生じるという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るパワーモジュールは、半導体チップが搭載された導体板を、導体板の放熱面が露出するように樹脂で封止した封止体と、放熱面と対向するように配置された放熱部材と、封止体と放熱部材との間に配置された絶縁層と、を備え、絶縁層は、含浸用樹脂が含浸されたセラミックス溶射膜および良熱伝導性のフィラーが混入された接着用樹脂層を積層したものであって、放熱部材および少なくとも放熱面の全域と接するように設けられている積層体と、積層体の端部を全周にわたって覆うように、放熱部材と封止体との隙間に設けられた応力緩和用樹脂部とを有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、応力緩和用樹脂部を設けたことにより絶縁層の端部における応力を緩和することができ、パワーモジュールの信頼性向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に係るパワーモジュールの一実施の形態を示す図であり、パワーモジュールの外観斜視図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】パワーモジュール構造体3000を示す図である。
【図4】パワーモジュール300の回路図である。
【図5】一次封止体302の製造工程を示す図である。
【図6】一次封止体302の製造工程を示す図であり、図5の次の工程を示す図である。
【図7】一次封止体302の製造工程を示す図であり、図6の次の工程を示す図である。
【図8】一次封止体302の製造工程を示す図であり、封止樹脂348による封止後の状態を示す。
【図9】封止樹脂348のトランスファーモールド工程を説明する図である。
【図10】一次封止体302の斜視図である。
【図11】補助モールド体600を示す図である。
【図12】パワーモジュール構造体3000のモジュールケース304への封入を説明する図である。
【図13】図2の符号Bで示した部分の拡大図である。
【図14】溶射膜333Aが形成される前の一次封止体302を示す断面図である。
【図15】溶射膜333Aの形成工程を説明する図である。
【図16】溶射膜333Aの形成工程を説明する図であり、図16に続く工程を示す。
【図17】含浸作業後の一次封止体302を示す図である。
【図18】第2の実施の形態のパワーモジュールを示す断面図である。
【図19】パワーモジュールの組み立て工程を説明する図である。
【図20】絶縁層333が形成されたモジュールケース304に一次封止体302を挿入した状態を示す図である。
【図21】絶縁層333が形成された放熱部307Bを示す図である。
【図22】第3の実施の形態を説明する図である。
【図23】積層体の第1の形成方法を説明する図である。
【図24】積層体の他の形成方法を説明する図である。
【図25】第1の変形例を示す図である。
【図26】第2の変形例を示す図である。
【図27】樹脂封止型の片面冷却パワーモジュール300の構成を説明する図である。
【図28】放熱部307への接着を説明する図である。
【図29】一次封止体302を一対の放熱部307Dで挟持する構成のパワーモジュール300を示す図である。
【図30】第5の実施の形態を説明する図であり、樹脂が含浸された溶射膜333Aと樹脂層333Bとの積層体の周方向端部を示す拡大図である。
【図31】絶縁層333の絶縁性能(絶縁破壊電圧)を説明する図である。
【図32】絶縁層333の絶縁性能(部分放電電圧)を説明する図である。
【図33】絶縁層の構成に関する比較例を示す図である。
【図34】比較例と本発明の熱伝導率を説明する図である。
【図35】ハイブリッド自動車の制御ブロックを示す図である。
【図36】インバータ部の電気回路構成を説明する。
【図37】電力変換装置200の設置場所を説明するための分解斜視図を示す。
【図38】電力変換装置200の分解斜視図である。
【図39】流路19を有する冷却ジャケット12の下面図である。
【図40】コンデンサモジュール500の分解斜視図である。
【図41】冷却ジャケット12にパワーモジュールとコンデンサモジュールとバスバーモジュールを組み付けた外観斜視図である。
【図42】パワーモジュールとコンデンサモジュールを組み付けた冷却ジャケット12とバスバーモジュール800の分解斜視図である。
【図43】保持部材803を除いたバスバーモジュール800の外観斜視図である。
【図44】パワーモジュールとコンデンサモジュールとバスバーモジュール800と補機用パワーモジュール350を組み付けた冷却ジャケット12の外観斜視図である。
【図45】制御回路基板20と金属ベース板11を分離した電力変換装置200の分割斜視図である。
【図46】電力変換装置200を図45のC方向から見た断面図である。
【図47】溶射膜333Aを放熱部307B側に形成した場合の段差構造を示す図である。
【図48】溶射膜333Aを一次封止体302側に形成した場合の段差構造を示す図である。
【図49】第6の実施の形態を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態について説明する。
−第1の実施の形態−
図1〜17は、本発明によるパワーモジュールの第1の実施の形態を示す図である。図1はパワーモジュールの外観斜視図である。図2は、図1のA−A断面図である。パワーモジュール300は、スイッチング素子を含みトランスファーモールドされたパワー半導体ユニットを、モジュールケース304内に収納したものである。パワーモジュール300は、例えば、電気自動車やハイブリッド自動車等の電気車両に搭載される電力変換装置に用いられる。
【0010】
図2に示すように、パワーモジュール300は、図3に示すパワーモジュール構造体3000をCAN型冷却器であるモジュールケース304の内部に収納したものである。ここで、CAN型冷却器とは、一面に挿入口306と他面に底を有する筒形状をした冷却器である。モジュールケース304は、電気伝導性を有する部材、例えばCu、Cu合金、Cu−C、Cu−CuOなどの複合材、あるいはAl、Al合金、AlSiC、Al−Cなどの複合材などから形成されている。また、溶接など防水性の高い接合法で、あるいは鍛造、鋳造法などにより、つなぎ目の無い状態でケース状に一体成形されている。
【0011】
モジュールケース304は、挿入口306以外に開口を設けない扁平状のケースであり、扁平状ケースの挿入口306にはフランジ304Bが設けられている。扁平状ケースの面積の広い対向する2つの面の一方には放熱部307Aが設けられ、他方の面には放熱部307Bが設けられている。放熱部307Aおよび放熱部307Bはモジュールケース304の放熱壁として機能するものであり、それらの外周面には複数のフィン305が均一に形成されている。放熱部307Aおよび放熱部307Bを囲む周囲の面は、厚さが極端に薄く容易に塑性変形可能な薄肉部304Aとなっている。薄肉部304Aを極端に薄くすることで、放熱部307Aおよび放熱部307Bをケース内側方向に加圧した際に、容易に変形することができる。なお、モジュールケース304の形状は、正確な直方体である必要がなく、図1に示すように角が曲面を形成していても良い。
【0012】
図3は、モジュールケース304に収納されるパワーモジュール構造体3000を示す図である。図3(a)はパワーモジュール構造体3000の斜視図であり、図3(b)はC−C断面図である。なお、C−C断面は、図1のA−A断面と同一の部分の断面である。パワーモジュール構造体3000は、一次封止体302と補助モールド体600とから成る。一次封止体302と補助モールド体600とは接続部370において接続されている。接続部370における金属接合には、たとえばTIG溶接などを用いることができる。補助モールド体600に設けられた配線絶縁部608を、図1に示すようにネジ309によってモジュールケース304のフランジ304Bに固定することにより、モジュールケース304内においてパワーモジュール構造体3000が位置決めされる。
【0013】
(一次封止体302の説明)
次に、図4〜11を用いて、一次封止体302の構成を説明する。図4は、パワーモジュール300の回路図である。図5〜11は一次封止体302の製造工程を示す図である。パワーモジュール300は、上アーム用IGBT328と下アーム用IGBT330とを直列したものであり、半導体素子としては、IGBT328,330およびダイオード156,166を備えている。これらの半導体素子のチップ(以下では半導体チップと呼ぶ)は図5に示すように板状であって、半導体チップの表裏面に電極が形成されている。
【0014】
上アーム用IGBT328のコレクタ電極と上アーム用ダイオード156のカソード電極は導体板315に接続され、IGBT328のエミッタ電極とダイオード156のアノード電極は導体板318に接続されている。下アーム用IGBT330のコレクタ電極と下アーム用ダイオード166カソード電極は導体板320に接続され、IGBT330のエミッタ電極とダイオード166のアノード電極は導体板319に接続されている。導体板318と導体板320とは、中間電極159を介して接続されている。中間電極159により上アーム回路と下アーム回路とが電気的に接続され、図4に示すような上下アーム直列回路が形成される。なお、導体板315,318,319,320としては、Cu,Al,Ni,Au,Ag,Mo,Fe,Coなどの金属、それらの合金、複合体が用いられる。
【0015】
図5に示すように、直流正極側の導体板315および交流出力側の導体板320と、上アーム用信号接続端子327Uおよび下アーム用信号接続端子327Lとは、共通のタイバー372に繋がれた状態で、これらが略同一平面状の配置となるように一体的に加工される。上アーム用信号接続端子327Uには、IGBT328の制御電極328Aがボンディングワイヤにより接続される。下アーム用信号接続端子327Lには、IGBT330の制御電極330Aがボンディングワイヤにより接続される。導体板315,320の半導体チップ(IGBT328,330、ダイオード156,166)が接合される部分には凸状のチップ固着部322がそれぞれ形成されている。各半導体チップは、それらのチップ固着部322の上に金属接合材160によって接合される。金属接合材160には、例えば、はんだ材や銀シート及び微細金属粒子を含んだ低温焼結接合材等が用いられる。また、金属接合材160には錫を主成分としたハンダを用いる事が望ましいが、金、銀、銅のいずれかを主成分としたものやロウ材やペースト等を用いることもできる。
【0016】
IGBT328,330およびダイオード155,166の上には、金属接合材160を介して導体板318と導体板319が略同一平面状に配置され、金属接合される。図4に示したように、導体板318には、上アーム側のIGBT328のエミッタ電極と上アーム側のダイオード156のアノード電極が接合される。導体板319には、下アーム側のIGBT330のエミッタ電極と下アーム側のダイオード166のアノード電極が接合される。導体板315には直流正極接続端子315Dが形成されている。導体板320には交流接続端子320Dが形成されている。導体板319には直流負極接続端子319Dが形成されている。
【0017】
上述したように、導体板315と導体板318の間にIGBT328及びダイオード156を挟み込むと共に、導体板320と導体板319の間にIGBT330及びダイオード166を挟み込み、導体板320と導体板318とを中間電極329により接続すると、図6に示す状態となる。さらに、IGBT328の制御電極328Aと信号接続端子327Uとをボンディングワイヤ371により接続すると共に、IGBT330の制御電極330Aと信号接続端子327Lとをボンディングワイヤ371により接続すると、図7に示す状態となる。
【0018】
図7に示す状態に組み立てた後、半導体チップ(IGBT328,330、ダイオード156,166)およびボンディングワイヤ371を含む部分を封止樹脂348により封止する。この封止はトランスファーモールドにより行われる。図9に示すように、符号373で示す部分(金型押圧面)を上下からトランスファーモールド用金型で押さえ、封止樹脂348を金型内に充填して成形を行う。
【0019】
図9はトランスファーモールド工程を説明するための図である。図9において、(a)は型締め前の縦断面図を示しており、(b)は型締め後の縦断面図を示している。図9(a)に示すように、図7に示した封止前の一次封止体302は、上側金型374Aと下側金型374Bの間に設置される。上側金型374Aおよび下側金型374Bが一次封止体302を上下から金型押圧面373において挟み込んで型締めすることで、図9(b)に示すように金型空間375が金型内に形成される。この金型空間375に封止樹脂348を充填して成形することで、一次封止体302において半導体チップ(IGBT328,330およびダイオード155,166)が封止樹脂348により封止される。
【0020】
封止樹脂348としては、例えばノボラック系、多官能系、ビフェニル系のエポキシ樹脂系を基とした樹脂を用いることができ、SiO2,Al2O3,AlN,BNなどのセラミックスやゲル、ゴムなどを含有させ、熱膨張係数を導体板315,320,318,319に近づける。これにより、部材間の熱膨張係数差を低減でき、使用環境時の温度上昇にともない発生する熱応力が大幅に低下するため、パワーモジュールの寿命をのばすことが可能となる。
【0021】
なお、図8に示したように、金型押圧面373では、直流正極接続端子315D、直流負極接続端子319D、交流接続端子320D、信号接続端子327Uおよび信号接続端子327Lが一列に並べて配置されている。こうした端子配置とすることで、上側金型374Aおよび下側金型374Bを用いて、各端子と半導体チップとの接続部において余分な応力を発生させずに、かつ隙間なく型締めを行うことができる。したがって、半導体チップとの破損を招いたり、あるいは封止樹脂348が隙間から漏出したりすることなく、半導体チップとの封止を行うことができる。また、封止樹脂348の一方の表面には導体板318,319の表面(放熱面)が露出し、反対側の面には、導体板315,320の表面(放熱面)が露出している。
【0022】
図8に示すように封止樹脂348により封止した後、タイバー372を切除して、直流正極接続端子315D、交流接続端子320D、信号接続端子327U、327Lをそれぞれ分離する。そして、一次封止体302の一辺側に一列に並べられている直流正極接続端子315D、直流負極接続端子319D、交流接続端子320D、信号接続端子327U、327Lの各端部を、図10のようにそれぞれ同一方向に折り曲げる。これにより、接続部370において一次封止体302と補助モールド体600とを金属接合する際の作業を容易化して生産性を向上すると共に、金属接合の信頼性を向上することができる。
【0023】
図11は補助モールド体600を示す図であり、(a)は斜視図、(b)はD−D断面図である。補助モールド体600は、直流正極配線315A、直流負極配線319A、交流配線320A、信号配線324Uおよび信号配線324Lを備えている。直流正極配線315A、直流負極配線319A、交流配線320A、信号配線324Uおよび信号配線324Lは、樹脂材料で成形された配線絶縁部608によって、相互に絶縁された状態で一体に成型されている。配線絶縁部608は各配線を支持するための支持部材としても作用し、配線絶縁部608に用いる樹脂材料には、絶縁性を有する熱硬化性樹脂かあるいは熱可塑性樹脂が適している。これにより、直流正極配線315A、直流負極配線319A、交流配線320A、信号配線324Uおよび信号配線324Lの間の絶縁性を確保でき、高密度配線が可能となる。
【0024】
直流正極配線315Aの上端には直流正極端子315Bが形成され、下端には、直流正極接続端子315Cが直角に折れ曲がるように形成されている。直流負極配線319Aの上端には直流負極端子319Bが形成され、下端には、直流負極接続端子319Cが直流正極接続端子315Cと同方向に折れ曲がるように形成されている。交流配線320Aの上端には交流端子320Bが形成され、下端には、交流接続端子320Cが直流正極接続端子315Cと同方向に折れ曲がるように形成されている。信号配線324U、324Lの上端には、それぞれ信号端子325U、325Lが形成されている。一方、信号配線324U、324Lの下端には、信号接続端子326Uおよび信号接続端子326Lが直流正極接続端子315Cと同方向に折れ曲がるように形成されている。
【0025】
このように、補助モールド体600側の接続部370を構成するする直流正極接続端子315C、直流負極接続端子319C、交流接続端子320C、信号接続端子326Uおよび信号接続端子326Lは、図11(a)に示すように一列に並べて配置されている。そして、補助モールド体600側の接続部370(326U,315C,319C,326L,320C)は、図10に示すように一列に並べて配置されている一次封止体302側の接続部370(327U,315D,319D,327L,320D)と接続される。接続には、例えば、TIG溶接などを用いることができる。
【0026】
図3に示すようなパワーモジュール構造体3000が完成したならば、図12(a)に示すようにパワーモジュール構造体3000をモジュールケース304に挿入し、補助モールド体600の配線絶縁部608をモジュールケース304のフランジ304Bに固定する。その挿入の際に、パワーモジュール構造体3000の一次封止体302とモジュールケース304の放熱部307A,307Bとの間に、電気的な絶縁を図るための絶縁層333が配設される。絶縁層333の詳細については後述する。そして、図12(b)の矢印で示すように放熱部307A,307Bをケース内側に加圧して薄肉部304Aを変形させ、放熱部307A,307Bを一次封止体302に密着させる。その後、モジュールケース304内に封止樹脂351を充填して封止することで、接続部370とモジュールケース304との間で必要な絶縁距離を安定的に確保することができる。
【0027】
封止樹脂351としては、例えばノボラック系、多官能系、ビフェニル系のエポキシ樹脂系を基とした樹脂を用いることができる。また、エポキシ樹脂に対してはSiO2,Al2O3,AlN,BNなどのセラミックスやゲル、ゴムなどを含有させ、熱膨張係数をモジュールケース304や導体板315,320,318,319に近づける。これにより、部材間の熱膨張係数差を低減でき、使用環境時の温度上昇にともない発生する熱応力が大幅に低下するため、パワーモジュールの寿命をのばすことが可能となる。
【0028】
(絶縁層333の説明)
図13は絶縁層333の構造を説明する図である。図13は、図2の符号Bで示した部分の拡大図である。一次封止体302と放熱部307Bとによって挟まれるように絶縁層333が設けられている。絶縁層333は、絶縁性の酸化物やセラミックスの粉体を溶射して形成された溶射膜333Aの層と、絶縁性の樹脂層333Bと、溶射膜333Aと樹脂層333Bの積層体の周囲端部(縁の部分)に設けられた絶縁性の樹脂部333Cとを備えている。樹脂部333Cは、積層体の側面周囲の全周に設けられている。溶射膜333Aは一次封止体302側に形成されており、溶射膜333Aと放熱部307Bとの間に樹脂層333Bが形成されている。
【0029】
溶射膜333Aに形成される空孔3330には絶縁性の樹脂が含浸されている。図13に示す例では、含浸用樹脂には樹脂部333Cと同じ樹脂が用いられている。また、樹脂層333Bを構成する樹脂には、熱伝導性能を高めるためにフィラーが混入されている。溶射膜333Aと樹脂層333Bとの積層体の周囲端部に設けられた樹脂部333Cは、積層体の周囲端部が露出しないように封止樹脂348と放熱部307Bとの隙間に形成されている。溶射膜333Aの表面は凹凸面となっており、溶射膜333Aの内部には多数の空孔3330が形成される。樹脂層333Bは、その一部が溶射膜333Aの凹凸面に入り込むように設けられている。
【0030】
図14〜17は絶縁層333の形成工程を説明する図である。図14は、一次封止体302への溶射膜333Aの形成を説明する図であり、溶射膜333Aが形成される前の一次封止体302を示す断面図である。上述したように、対向配置された一対の導体板315,318と一対の導体板320,319は、図14の紙面に垂直な方向に並ぶように配置されている。導体板315,318に挟まれるようにIGBT328およびダイオード156が配置され、導体板320,319に挟まれるようにIGBT330およびダイオード166が配置されている。これらは封止樹脂348によって封止されているが、導体板315,318,319,320の放熱面315a,318a,319a,320a(半導体チップが接合されている面と反対側の面)は封止樹脂348から露出している。図14の断面図は図3のC−C断面と同一部分を断面したものであって、導体板315,318の部分の断面図である。
【0031】
〈溶射膜333Aの形成〉
図13に示したような絶縁層333を形成するために、まず、図15(a)に示すように一次封止体302の両面に溶射膜333Aを形成する。図15(b)は、図15(a)の符号Eで示す部の拡大図である。溶射膜333Aは、放熱面315a,318a,319a,320aの領域が含まれるように形成され、溶射膜333Aの縁の部分は封止樹脂348上に形成されている。溶射膜333Aは絶縁体であり、酸化物やセラミックスの粉体を溶射して作製する。本実施の形態ではプラズマ溶射法によりセラミックスの溶射膜333Aを形成しているが、他の溶射法、例えばアーク溶射法、高速フレーム溶射法等を用いても良い。
【0032】
溶射による導体板315,318,319,320の温度上昇は、例えばろう材を用いて導体板とセラミックス板を接合するよりもはるかに小さく、溶融、熱劣化、反りなどの熱変形も小さい。例えば、溶射膜333Aをプラズマ溶射法により形成する場合には、一次封止体302の温度上昇は100〜180℃程度となる、そのため、封止樹脂348、金属接合材160、IGBT328,330およびダイオード156,166の熱劣化を防止できる。金属接合材160による半導体素子の接合は220〜300℃程度の温度範囲でなされるので、この接合後に溶射膜333Aを形成しても問題ない。
【0033】
一方、導体板315に溶射膜333Aを形成してから半導体素子を接合するような逆の手順で行なった場合には、半導体素子の接合温度が220〜300℃程度と溶射膜形成時の温度上昇より高いため、熱膨張係数の小さい溶射膜333Aと熱膨張係数の大きな導体板315,318,319,320との積層部に発生する熱応力が溶射時よりも大きくなる。すなわち、半導体素子を接合してから溶射膜333Aを形成する手順の方が、熱応力は低減される。
【0034】
また、導体板315,318,319,320の溶射膜333Aが形成される面(放熱面)を、サンドブラストやエッチングなどにより粗化加工することによって、導体板315,318,319,320と溶射膜333Aとの間の接合強度を向上させることができる。さらに、図15(a)に示すように、一次封止体302は封止樹脂348によって封止されているため、溶射処理時に半導体チップ(IGBT328,330およびダイオード156,166)やボンディングワイヤ371などへの物理的、化学的な影響を、封止樹脂348によって防止することができる。そのため、溶射のための複雑なマスキングを施す必要がなく、生産性に優れている。
【0035】
上述したサンドブラストやエッチングなどの粗化処理は、以下のような利点を有している。トランスファーモールドを行った際に、導体板315,318,319,320の放熱面の一部が封止樹脂348により被覆される場合があるが、上述したサンドブラストによる粗化を行うことで、放射面上の封止樹脂348を除去することができる。封止樹脂348は導体板よりも熱伝導率が低いため、放熱面から除去できることで放熱性が向上する。
【0036】
また、封止樹脂348の除去や一次封止体302の平面度向上のために、導体板の放熱面の部分を研削したり研磨したりする場合がある。そのような加工を行った場合、加工条件によっては(例えば、加工時間短縮のために切削、研磨の速度を上げた場合)導体板上の表面粗さが過大となったり、導体板と封止樹脂348との境界にバリが形成されたりして電界集中のおそれがある。しかし、溶射膜前処理にサンドブラストやエッチングをすることにより、これらの欠陥を除去することができ、絶縁信頼性の向上を図ることができる。
【0037】
溶射膜333Aを形成するための粉末としては、アルミナ,シリカ,マグネシア,ベリリアなどの酸化物、窒化アルミ,窒化珪素,窒化硼素などの窒化物、シリコンカーバイドなどの炭化物といった高熱伝導なセラミックスの粉体から選ぶのが好ましい。また、これら単体組成に限らず、単体組成や酸化物と窒化物あるいは炭化物との複合組成、あるいは混合粉末を用いても良い。
【0038】
ところで、導体板315,318,319,320および封止樹脂348上に形成される溶射膜333Aは、図15(b)に示すように、上述のセラミックスが凝固し形成された扁平体3331の集合体状になっており、扁平体3331が層を成すように堆積している。このように、プラズマ溶射法などにより、セラミックスの粉末を部分的あるいは完全溶融状態で基材(導体板315,318,319,320および封止樹脂348)に衝突させると、セラミックスは基材表面に扁平形状で溶着し、溶着して凝固した扁平体3331の上にもさらに溶着することになる。
【0039】
これにより、三次元的には扁平体3331同士や、扁平体3331と導体板315,318,319,320および封止樹脂348内のセラミックスフィラーや樹脂に対して、その当接している界面で溶着面を形成し強固に接合している。そのため、一次封止体302に溶射膜333Aを形成した後に、前述のように接続部370において一次封止体302と補助モモジュール600とをTIG溶接等により金属接合する際に(図3参照)、溶射膜333Aに剥離や欠けなどが生じにくくなる。なお、マスキングをすれば部分的に溶射膜333Aを形成できるので、一次封止体302と補助モールド体600とを金属接合した後に、溶射膜333Aを形成するようにしても良い。なお、前述したように、導体板315,318,319,320としては、Cu,Al,Ni,Au,Ag,Mo,Fe,Coなどの金属、それらの合金、複合体が用いられる。
【0040】
〈樹脂層333Bの形成〉
次に、図16を用いて、絶縁層を構成する樹脂層333Bの形成について説明する。図15に示すように一次封止体302の両面に溶射膜333Aを形成したならば、その溶射膜333Aの上に、樹脂層333Bを形成する。図16(b)は、E部の拡大図である。なお、この段階では、溶射膜333A上に形成された樹脂層333Bの表面には保護フィルム352が設けられている。
【0041】
樹脂層333Bは、一次封止体302の溶射膜333Aが形成されている面をモジュールケース304の放熱部307A,307Bに接着するものであって、樹脂層333Bには充分な接着性と高い熱伝導性が要求される。そのため、樹脂層333Bを構成する樹脂には、接着性のあるフェノール系,アクリル系,ポリイミド系,ポリアミドイミド系,エポキシ系,シリコン系,ビスマレイミドトリアジン系,シアネートエッセル系を基にした樹脂等が用いられる。特に、接着性が高いビスマレイミドトリアジン系,ポリアミドイミド系,ポリイミド系,シアネートエッセル系,エポキシ系,フェノール系を基にした樹脂を用いるのが好ましく、接着後に剥離し難くパワーモジュールの寿命が高まる。
【0042】
また、半導体素子(IGBT328,330およびダイオード156,166)から発生する熱をモジュールケース304の放熱部307A,307Bに効率良く伝えるため、樹脂層333Bには高い熱伝導率が要求される。そのため、上記樹脂に熱伝導性向上のための良熱伝導性のフィラーを混入したものが、樹脂層333Bに用いられる。樹脂層333Bに混入させるフィラーは絶縁性を有したものが良く、アルミナ,シリカ,マグネシア,ベリリアなどの酸化物、窒化アルミ,窒化珪素,窒化硼素などの窒化物、シリコンカーバイドなど炭化物などの高熱伝導なセラミックスのフィラーがより好ましいが、樹脂を含浸した333Aで絶縁できるため、銀や銅やはんだやカーボンなど電気伝導性を有するフィラーも用いることが可能である。
【0043】
溶射膜333A上に樹脂層333Bを形成する場合には、先ず、フィラーが混入された上記樹脂から成る樹脂シート3332を用意する(図16(a)参照)。樹脂シート3332は、取り扱いが容易なように表裏両面に保護フィルム352が設けられている。保護フィルム352には、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレンテレフタレート、テフロン(登録商標)など、後述する仮圧着後に容易に剥離できるものを用いれば良い。
【0044】
図16(c)に示すように、樹脂シート3332の片面の保護フィルム352を剥がし、矢印で示すように樹脂シート3332を溶射膜333A上に仮圧着することで、溶射膜333A上に樹脂層333Bが形成される。仮圧着された樹脂層333Bは、後述する工程において一次封止体302をモジュールケース304に収納した後、樹脂層333Bと放熱部307A,307Bとの接着のために最終的な圧着作業が行われる。そのため、図16に示す工程での仮圧着においては、樹脂成分が半硬化以下の状態(例えば、樹脂成分の硬化度が約80%以下である状態)となるように圧着時の温度条件および加圧条件を設定する。
【0045】
この仮圧着により、樹脂シート3332の一部が、溶射膜333Aの表面凹凸部や表面付近の空孔内に入り込む。なお、樹脂シート3332に混入されているフィラーの粒径分布は、樹脂とともに溶射膜333Aの凹凸部に入り込める程度に設定される。その結果、図16(b)に示すような樹脂層333Bが形成される。このように樹脂層333Bの一部が溶射膜333Aの凹凸部に入り込むことで、アンカー効果による接着強度の向上と放熱性の向上とを図ることができる。
【0046】
樹脂層333Bの形成範囲については、導体板315,318の放熱面315a,318a(図14)の面積よりも広い範囲で行うと、放熱性を最も高くできる。ただし、封止樹脂348の熱伝導率が導体板315,318,319,320よりも十分小さいため、熱伝導率が高い樹脂層333Bの形成範囲は、図16(a)に示すように導体板よりもやや広い範囲で十分である。なお、後述する溶射膜333Aの空孔3330への樹脂の含浸作業を考慮して、本実施形態では、樹脂層333Bの形成範囲は溶射膜333Aの面積よりも小さくする必要がある。図16(b)ではYで示す空白範囲が含浸作業領域を示している。
【0047】
なお、図16(c)に示した例では、樹脂シート3332を溶射膜333Aに圧着して樹脂層333Bを形成したが、溶射膜333Aの表面にフィラーを混入させた樹脂を塗布して樹脂層333Bを形成しても良い。その場合、マスクを設置して所定領域のみに塗布されるようにする。すなわち、樹脂を含浸させるために利用する溶射膜333Aの外周領域にマスクを設置する。
【0048】
〈樹脂の含浸〉
図16に示すように溶射膜333Aの上に樹脂層333Bを形成したならば、溶射膜333Aの空孔3330に樹脂を含浸させる。ところで、溶射膜333Aは、セラミックス充填率で最大95%程度まで充填することができる。しかし、図13に示すように三次元的な貫通孔(空孔3330)が形成されているため、樹脂が含浸される前の溶射膜333Aの絶縁特性や熱伝導率は空孔3330の影響によって低下する。また、溶射膜333A内に三次元的な貫通孔が形成されているため、そのままでは温度昇降に伴う熱応力での割れ感受性が高いという問題がある。
【0049】
そこで、絶縁、放熱および熱サイクル耐性を向上できるように、溶射膜333A内の空孔3330に樹脂を含浸する。ここで、含浸用の樹脂は、樹脂層333Bに用いられる樹脂と同一にする方が、硬化時の親和性が高く接着性を高めることができるので好ましい。また、含浸を行う際には、溶射膜333Aの空孔3330とそこに含浸する樹脂との密着性を高めるために、空孔3330にエッチング処理やカップリング処理を施すのが好ましい。
【0050】
さらに、パワーモジュールは求められる機能に必要な部材で構成されるため、図13に示すように、金属の導体板315、樹脂が含浸されたセラミックス溶射膜333A、樹脂層333Bおよび金属の放熱部307Bのように様々な熱膨張係数の部材を積層した構造となる。このように、様々な熱膨張係数の部材を接合や接着すると、応力が積層体の端部に集中し端部から剥離が発生、進展していくことになる。例えば、導体板315にCuを用いた場合にはその熱膨張係数αは17程度となり、モジュールケース304にAlを用いた場合には放熱部307Bの熱膨張係数αは23程度となる。この熱膨張係数の違いにより、全体の温度が上昇すると積層体に剥離や割れ等が発生しやすくなる。
【0051】
本実施の形態では、このような端部の応力集中を緩和するために、図13に示すように、フィラーを含む樹脂層333Bと溶射膜333Aとの積層体の端部周囲に樹脂部333Cを形成するようにした。図13に示す例では、樹脂部333Cは、樹脂層333Bおよび溶射膜333Aの端部を覆うとともに、それらの外周方向に延在している。本実施の形態では、樹脂部333Cは、含浸用樹脂と同一の樹脂が用いられており、樹脂が含浸された溶射膜333Aは勿論のことフィラーを含む樹脂層333Bに比べて弾性係数が小さい、または接着強度が高い。そのため、この樹脂部333Cを設けることによって、端部の応力緩和や応力集中する端部の剥離発生や進展を抑制することが可能となる。なお、この周囲の樹脂部333Cは封止樹脂348と放熱部307Bとの間に配置されるものなので、絶縁層333のその部分の熱伝導率が低くても、パワーモジュールの放熱性に対する影響はほとんど無い。
【0052】
樹脂の溶射膜333Aへの含浸を行う場合には、図16に示した含浸作業領域Yから溶射膜333Aに樹脂(樹脂部333Cと同じ樹脂)を含浸する。図17は、含浸作業後の一次封止体302を示す図である。含浸作業領域Yに対して樹脂の含浸を行うと、毛細管現象により、樹脂層333Bと導体板315との間の溶射膜333Aの空孔3330にも樹脂が含浸される。そして、この含浸作業時に、含浸に用いる樹脂を用いて上述した樹脂部333Cを形成する。
【0053】
図17に示すように、空孔3330に樹脂が含浸されることにより、溶射膜333Aの絶縁、放熱および熱サイクル耐性が向上する。また、溶射膜333Aの樹脂層333Bが接着された箇所においては、樹脂層333Bと溶射膜333Aの表面凹凸部との間は密着していて、含浸用樹脂は入り込むことはできない。そのため、樹脂の含浸によって溶射膜333Aと樹脂層333Bとの間の熱伝導性が影響を受けることはない。
【0054】
なお、減圧状態にして含浸作業を行うことにより、空孔3330内の残留ガスが含浸用樹脂内に巻き込まれてボイドが発生したり、未充填領域が発生したりするのを防止することができる。また、ディスペンサーなどを用いて含浸作業領域Yの1箇所あるいは1辺から注入することにより、注入された含浸用樹脂が樹脂層333Bと導体板315との間を流れて、他の辺から溢れ出る。その際に、空孔3330内の残留ガスは、樹脂に押し流されるように他辺から排出される。その結果、残留ガス巻き込みによるボイドの発生を防止できる。この溢れ出た含浸用樹脂は、上述した応力緩和用の樹脂部333Cを形成する。すなわち、樹脂含浸時に積層体端部の樹脂部333Cも形成する。なお、含浸用樹脂が他の辺から溢れ出ることにより、含浸用樹脂が樹脂層333Bと導体板315との間の空孔3330に充填されたことを、容易に確認することができる。なお、注入は常圧で行い、注入後に減圧状態にして樹脂中のガスを放出させるようにしても良い。
【0055】
含浸用樹脂は粘度が低い方が好ましいので、本実施の形態では粘度を低くするためにフィラーは混入させていない。セラミックスの溶射膜333Aは、空孔3330を樹脂によって含浸すれば充分な熱伝導性が得られるので、含浸用樹脂にはフィラーを混入させなくても良い。ただし、供給時の粘度調整のために、含浸可能な粘度範囲であればフィラーを混入させても良い。さらに、弾性係数が小さいあるいは接着力を樹脂層333Bよりも向上できるように、樹脂層333B内に存在するフィラー含有率よりも小さい範囲にする。また、含浸用樹脂の粘度を低くするために溶剤成分を増加しても良い。含浸用樹脂は樹脂層333Bに用いられる樹脂と同一でも良いし、異なる樹脂でも良い。
【0056】
なお、含浸プロセスやその後の溶剤の除去時に加熱する際は、樹脂層333Bが半硬化状態よりも硬化進行度が進行しない温度や時間とする。また、図17に示すように、仮付けした樹脂層333Bに保護フィルム352を設けておくと、樹脂層333Bの表面(放熱部307Bに対向する面)に熱伝導率を下げる樹脂(充填用樹脂)の付着を防止できるため、生産性の向上が図れる。
【0057】
〈一次封止体302のモジュールケース304への封入〉
図17に示すように溶射膜333Aに樹脂を含浸したならば、その一次封止体302をモジュールケース304内に封入する。まず、一次封止体302の樹脂層333Bの表面に貼り付けられていた保護フィルム352(図16(b)参照)を剥がし、図12(a)のように、一次封止体302をモジュールケース304内に挿入する。そして、所定の温度条件および加圧条件で図12(b)の矢印方向に放熱部307A,307Bを加圧して、放熱部307A,307Bを樹脂層333Bに接着させる。その後、モジュールケース304内に封止樹脂351を充填して封止する。
【0058】
このように、溶射膜333Aと放熱部307Bとの間に樹脂層333Bを設けることにより、一次封止体302の放熱部307Bと接触する面(接着面)が平坦化され、一次封止体302と放熱部307Bとの間におけるボイド発生を防止することができる。
【0059】
なお、溶射膜333Aと放熱部307Bとの間に設けられた樹脂層333Bの厚さは、薄いほど熱抵抗が減少し絶縁層333の放熱性が向上する。しかし、仮付けした樹脂層333Bの厚さが薄すぎると、放熱部307B内面の表面粗さを吸収できない。そのため、溶射膜333Aに仮付けした樹脂層333Bの最小厚さは、放熱部307B内面の最大表面粗さRmaxを吸収できる範囲よりも大きくすることが望ましい。この厚さ調整は、樹脂シート3332の厚さを調整することで容易にできる。仮付けされた状態における樹脂層333Bの最大厚さは、例えば10〜50μmの範囲で調整され、好ましくは10〜30μmの範囲となる。
【0060】
接着用樹脂層333Bに混入しているフィラーの体積率は、5〜80%の範囲とする。ただし、体積率が大きいほど熱伝導率が高くなり放熱性が向上するが、接着強度が劣化するため、好ましくは30〜60%の範囲がよい。また、接着面となる放熱部307B側にサンドブラストやディンプルなどの物理的な粗化処理、エッチング、陽極酸化、化成処理などの化学的な粗化処理を施したり、樹脂に対し接着性の高い層とめっきやスパッタやカップリング処理で設けたりすることで相対的に接着強度を向上できる。そのため、樹脂層333Bに混入させるフィラーの体積率をより増加させることが可能となる。
【0061】
−第2の実施の形態−
図18〜21は、第2の実施の形態を示す図である。図18はパワーモジュールの断面図である。なお、一次封止体302の補助モールド体600については図示を省略した。第1の実施の形態ではモジュールケース304を一体形成していたが、第2の実施の形態では、モジュールケース304はケース枠体と一対のケース側面部とで構成されている。ケース枠体は、肉厚のフランジ304Bと枠部304Dとから成る。一対のケース側面部304Cの一方(図示左側)は、フィン305が形成された放熱部307Aと、その周囲を囲む薄肉部304Aとから成る。他方のケース側面部304Cは、フィン305が形成された放熱部307Aと、その周囲を囲む薄肉部304Aとから成る。薄肉部304Aをケース枠体に金属接続することにより、モジュールケース304が形成されている。
【0062】
本実施の形態では、放熱部307A,307B側に溶射膜333Aが形成され、導体板315,318側に樹脂層333Bが形成されている。溶射膜333Aには樹脂が含浸されている。また、樹脂が含浸された溶射膜333Aと樹脂層333Bで構成される積層体の周囲端部には端部を覆うように樹脂部333Cが設けられている。
【0063】
図19〜21は、パワーモジュールの組み立て工程を説明する図である。図19(a)に示す工程では、ケース枠体に金属接合する前のケース側面部304Cを用意し、その放熱部307Bのケース内周面側に溶射膜333Aを形成する。溶射膜333Aの形成方法は第1の実施の形態の場合と同様である。上述したように、溶射時の被溶射体の温度上昇は100〜200℃程度であるため、図19(a)に示すように放熱部307Bにフィン305や薄肉部304Aが形成された状態で溶射処理することができる。なお、薄肉部304Aに溶射膜333Aが形成されないようにマスキング処理が施される。
【0064】
放熱部307A,307Bにフィン305および薄肉部304Aが形成されたケース側面部304Cは、鋳造や鍛造や機械加工にて作製できる。材質には、Cu、Cu合金、Cu−C、Cu−CuOなどの複合材、あるいはAl、Al合金、AlSiC、Al−Cなどの複合材などが用いられる。
【0065】
次いで、第1の実施の形態の場合と同様に樹脂シート3332を溶射膜333A上に仮付け(仮固着)して、樹脂層333Bを形成する(図19(b))。その後、溶射膜333Aに樹脂を含浸すると共に、その含浸用樹脂により、溶射膜333Aと樹脂層333Bとの積層体の周囲端部に樹脂部333Cを形成する(図19(c))。図19(c)までの工程を、放熱部307Aが形成されたケース側面部304Cと、放熱部307Bが形成されたケース側面部304Cとの両方に関して行う。
【0066】
なお、樹脂層333Bの形成方法としては、上述した樹脂シート3332を用いる方法の他に、液状のフィラーが混入された樹脂を塗布、噴霧、ディップする手法を用いても良い。樹脂層333Bは溶射膜333Aの範囲よりも狭い範囲に形成されるので、溶射膜範囲の縁の部分にマスキングを施して樹脂層333Bを形成する。マスキングにより樹脂層333Bが形成されなかった領域から、溶射膜333Aに対して樹脂を含浸する。また、樹脂シート3332を用いる場合と同様に、樹脂層333Bの表面に保護フィルム352を設置することで、含浸作業が容易となる。
【0067】
その後、図20に示すように、樹脂が含浸された溶射膜333A,樹脂層333Bおよび樹脂部333Cがそれぞれ形成された一対のケース側面部304Cを、フランジ304Bおよび枠部304Dから成るケース枠体に金属接合してモジュールケース304を形成する。金属接合は、樹脂部333Cから離れた薄肉部304Aの縁部分をレーザ溶接、摩擦攪拌接合など熱影響領域が小さい手法を用いてなされる。熱影響部が小さい手法を選択することで、樹脂層333Bや溶射膜に含浸された樹脂や樹脂部333Cの硬化進行度が維持できる。
【0068】
次いで、モジュールケース304内に一次封止体302を挿入するように固定する。そして、放熱部307A,307Bをケース内側方向に加圧しながら加熱して、放熱部307A,307Bをの内周面を樹脂層333Bに接着する。その後、モジュールケース304内に封止樹脂351を充填することで、図18に示すパワーモジュールが完成する。
【0069】
なお、図19,20に示した例では、肉厚部である放熱部307A,307Bを薄肉部304Aよりもケース外側に突出するように形成したが、図21に示すように、放熱部307A,307Bを薄肉部304Aよりもケース内側に突出するように構成しても構わない。また、溶射膜333Aを、肉厚部である放熱部307A,307Bと同一面積にしてもよい。
【0070】
このように、第2の実施の形態では、別々に形成されたモジュールケースをケース枠部とケース側面部304Cとを、金属接合して一体のモジュールケース304を形成する構成としているため、放熱部307A,307Bの内周面側に溶射膜333Aを容易に形成することができる。
【0071】
導体板315,318にCuやCu合金を用い、モジュールケース304にAlSiCやAlCなどの複合材を用いる場合、導体板315,318の方がモジュールケースよりも熱膨張係数が大きくなる。このような場合、絶縁層333を構成する部材の熱膨張係数が、導体板315側から放熱部307Bにかけて減少するような構成とすることで、使用中の温度変化で積層体の端部に発生する熱応力を小さくすることができる。そのために、熱膨張係数のより小さな溶射膜333Aを放熱部307Bに形成し、樹脂を含浸することで含浸樹脂と溶射膜333Aとを合わせた全体の熱膨張係数を放熱部307Bの熱膨張係数に近づける。一方、樹脂層333Bに関しては、熱膨張係数の大きな樹脂を選択するとともにフィラーの混入量を調整して、樹脂層333Bの熱膨張係数を導体板315の熱膨張係数に近づけるようにする。
【0072】
なお、絶縁層333を、樹脂が含浸された溶射膜333Aとフィラーが混入された樹脂層333Bとの積層体とすることで、導体板315と放熱部307との間の熱伝導性能が向上する点については、第1の実施の形態と同様である。さらに樹脂部333Cを設けたことで、積層体端部における熱応力の増加を緩和できる点についても第1の実施の形態と同様である。
【0073】
−第3の実施の形態−
図22は、第3の実施の形態を説明する図である。上述した第2の実施のように、溶射膜333Aおよび樹脂層333Bから成る積層体の周囲端部により弾性係数の低い、あるいは接着力の大きい樹脂部333Cを設けることにより、応力が端部に集中して端部から剥離が発生、進展していくのを防止するようにした。第3の実施の形態では、この樹脂部333Cを構成する樹脂の量を多くすることによって、応力集中の緩和効果をより高めた。
【0074】
図22に示す例では、含浸用の樹脂(樹脂部333Cと同じ樹脂)の溢れ出る量が多くなって、フィレット(隙間からはみ出した部分)333Fを形成している。第1の実施の形態に説明した積層体の形成方法では、溶射膜333Aに含浸する際の樹脂量を多くして積層体の周囲方向に大きく溢れ出させるようにする。以下では、樹脂を積層体の周囲方向に大きく溢れ出させる他の方法について説明する。以下に説明する積層体形成方法では、樹脂層333Bと放熱部または導体板とを接着する際の加圧を利用して、溢れた樹脂によりフィレット333Fを形成させるものである。
【0075】
図23は、第1の形成方法を説明する図である。図23(a)は放熱部307Bを一次封止体302方向に加圧して樹脂層333Bに接着する前の状態を示した図である。放熱部307B上には溶射膜333Aが形成されており、その溶射膜333A内には樹脂333Dが含浸されている。ただし、ここでは含浸させるための樹脂333Dの量を増やすことで、溶射膜333Aの上面側および側面側にも樹脂333Dが設けられている。
【0076】
図23(a)に示す段階では、樹脂333Dは硬化させない状態とする。ここでは、樹脂層333Bに用いられる樹脂シート3332と樹脂333Dとは異なる樹脂が用いられる。そして、樹脂シート3332を熱可塑性樹脂を主成分とした樹脂とし、加熱硬化する部位を有する組成物とする。樹脂333Dには室温から150℃の温度域での粘度が樹脂333Bよりも低い含浸性に優れる熱硬化性樹脂を選定する。図23(a)の状態にするには、樹脂シート3332を半硬化状態で一次封止体302に取り付け、その後樹脂333Dを塗布、噴霧、ディップすることで樹脂333Dを溶射膜333Aに塗布する手法や、樹脂333Dを溶射膜333Aに塗布し含浸させ樹脂シート3332を半硬化状態で取り付けた一次封止体302を搭載してもよい。
【0077】
図23(b)に示す工程では、放熱部307Bを一次封止体302方向へ加圧する。その結果、溶射膜333Aと樹脂層333Bとの間の樹脂333Dは、溶射膜333Aおよび樹脂層333Bの側方(図示左右方向)に押し出され、図23(b)に示すように溶射膜333Aおよび樹脂層333Bから成る積層体の周方向端部に集まる。そして、この状態で樹脂333Dおよび樹脂層333Bを硬化させる。樹脂333Dを周方向端部に排出するためには、加圧する温度において、樹脂シート3332の粘度が樹脂層333Dよりも十分大きい状態(例えば、50倍以上)で加圧する必要があり、樹脂シート3332を熱可塑性樹脂を主成分とした樹脂とし、加熱硬化する部位を有する組成物とする。樹脂333Dには室温から150℃の温度域での粘度が樹脂333Bよりも低い含浸性に優れる熱硬化性樹脂を選定することで、加圧により排出可能な加熱温度が広く存在するため、生産安定性が向上するという効果が得られる。樹脂333Dを排出することで溶射膜333Aの凹部に樹脂333Bに混入するフィラーを設置でき、絶縁層333の放熱性を向上できる。図22に示す例では、樹脂層333Bにはフィラーが混入され、樹脂333Dにはフィラーは混入されないが、排出のための粘度が増加しない範囲であれば、樹脂333Dにフィラーを混入しても良い。圧着温度での樹脂層333Bの弾性係数が著しく大きい場合は、樹脂333Dにフィラーを入れることで、溶射膜333Aの凹部にフィラーを設置できる。また、樹脂シート3332にガラス転移温度が高い樹脂を用い、樹脂333Dにガラス転移温度が樹脂シート3332よりも低い樹脂を用いると、熱可塑性樹脂同士あるいは熱硬化性樹脂同士を用いても作製が可能である。この場合は、樹脂シート3332のガラス転移温度よりも低い温度で樹脂333Dを加圧し外部に排出する。
【0078】
図24は、積層体の他の形成方法を説明する図である。先ず、図24(a)に示すように、放熱部307B上に溶射膜333Aを形成し、溶射膜333Aの上に樹脂シート3332を配置する。この樹脂シート3332の量は、形成される樹脂層333Bの量よりも多く設定される。次いで、図24(b)に示すように、放熱部307Bを一次封止体302方向に加圧して、樹脂シート3332を一次封止体302に圧着し樹脂層333Bを形成する。この圧着の際に、樹脂シート3332は樹脂層333Bの厚さまで加圧されるため、樹脂シート3332の樹脂成分は溶射膜333Aの空孔3330に含浸されるとともに、溶射膜333Aの周囲に溢れ出る。その結果、積層体の周囲に溢れ出た樹脂成分が樹脂部333Cおよびフィレット333Fを形成する。
【0079】
例えば、樹脂シート3332はフィラーの混入量が20vol%であるとする。そして、フィラーの大きさは、溶射膜333Aの表面凹部の大きさよりも小さく、溶射膜333A内の空孔3330よりも大きく設定されている。樹脂シート3332の樹脂成分が溶射膜333A内の空孔3330に含浸されるとともに、周方向端部に樹脂が流れ出るように加圧し、樹脂層333Bの樹脂成分が半分に減ったとすると、樹脂層333Bのフィラー混入率は約40vol%程度まで増加することになる。なお、樹脂シート3332の一部が周方向に流れ出る場合を考えると、樹脂部333Cやフィレット333Fにもフィラーが混入されることになる。また、樹脂シートでなく、フィラーを混入させた樹脂を塗布、ディップしても作製可能である。
【0080】
図25、26は変形例を示す図である。図25に示す変形例では、封止樹脂348の外周部の一部あるいは全周に凹部348aや段差348bを形成し、周方向に溢れ出た樹脂333Dが凹部348aや段差348bに入り込むことにより、フィレット333Fの樹脂量がより大きくなるようにした。その結果、積層体端部における応力緩和を向上させることができる。さらに、単に応力緩和に関与する樹脂の量が増えただけでなく、凹部348aや段差348bに入り込むことによるアンカー効果により、接着力が大きくなる。
【0081】
図26は、モジュールケース側(放熱部307A、307B)に凹部304eや段差304fを形成した場合を示す。なお、凹部304eや段差304fに代えて、放熱部307A、307Bの角部を面取りしてテーパー形状としても良い。図25、26に示すように、モジュールケース304の挿入口306側の封止樹脂348や放熱部307A,307Bに段差を設けた場合、溶射膜333Aの端部における隙間が増加する。そのため、溶射膜333Aと一次封止体302または放熱部307A,307Bとを接着した状態で、増加した隙間部分から樹脂の含浸を行うことが容易となる。
【0082】
−第4の実施の形態−
上述した実施の形態では、CAN型のモジュールケース304内に一次封止体302を挿入して樹脂封止したパワーモジュールについて説明したが、第4の実施の形態では、その他の構造のパワーモジュールについても積層体および樹脂部333C等の構造を適用できることを説明する。
【0083】
図27,28を用いてインバータ部140に使用される樹脂封止型の片面冷却パワーモジュール300の構成を説明する。図27は、図4の回路を実現する半導体チップと導体板の配置を示している。この配置では、導体板318、320が同電位となり一枚の導体板で形成できる(以下、導体板318と称す)。IGBT328,330およびダイオード156,166の表面主電極は、複数の金属ワイヤあるいは金属リボンにより接続され、さらに導体板318,319に接続される。ワイヤやリボンの材質は、Al,Al合金、Cu,Cu合金の単体および複合材である。IGBT328およびダイオード156の裏面電極は、金属接合材160により導体板315に金属接合される。導体板315,318と放熱部307は、絶縁層333を介して接合される。IGBT330およびダイオード166の裏面電極は、金属接合材160により導体板318に金属接合される。導体板315,318,319と放熱部307は、絶縁層333を介して接合される。
【0084】
図28(a)は、図27の破線で示した部分の断面図である。半導体チップから発熱した熱が導体板315、絶縁層333、放熱部307を通り効率良く外部に放熱される。ここでは、放熱部307側に溶射膜333Aを設け、導体板315,318,319側を樹脂層333Bで接合した例を示したが、導体板315,318,319側に溶射膜333Aを設け、放熱部307に樹脂層333Bを設けてもよい。
【0085】
高熱伝導なフィラーを分散した樹脂層333Bは、絶縁層333と当接する導体板315,318,319の底面積よりも大きく、溶射膜333Aの面積よりも小さい面積とし、放熱部307に仮付けする。その後、樹脂層333Bが仮付けされていない溶射膜333Aの余白部を利用して樹脂を含浸する。なお、積層体の周方向端部に樹脂部333Cが形成されるように樹脂の含浸を行う。含浸後、図28(b)に示すように、圧着して一体化する。
【0086】
パワー半導体素子裏面の導体板への接合とワイヤやリボンを用いた表面電極への接合した後に、封止樹脂348により封止することで、導体板と放熱部接着時の加圧力による機械的な損傷を防止することができる。また、この例では、放熱部307側に溶射膜333Aを形成したが、導体板315,318,319側に溶射膜333Aを形成する場合には、溶射工程での機械的な損傷を防止することができる。
【0087】
このように、片面冷却パワーモジュール300においても、導体板と放熱部307との間に配置される絶縁層333の構成を、樹脂が含浸された溶射膜333Aとフィラーが混入された樹脂層333Bとの積層体としたことにより、パワー半導体から放熱部307への放熱性能の向上を図ることができる。さらに、積層体の周方向端部に樹脂部333Cを設けたので、積層体端部における応力を緩和することができる。
【0088】
図29は、一次封止体302を一対の放熱部307Dで挟持する構成のパワーモジュール300を示す図である。放熱部307D内には冷媒流路3070が形成されていて、ここを冷媒が流れる。放熱部307Dの片面に樹脂が含浸された溶射膜333Aが形成され、その溶射膜333Aに積層するように樹脂層333Bが形成されている。積層体の周方向端部には樹脂部333Cが設けられている。なお、溶射膜333Aを一次封止体302側に形成するようにしても良い。
【0089】
−第5の実施の形態−
図30は第5の実施の形態を説明する図であり、樹脂が含浸された溶射膜333Aと樹脂層333Bとの積層体の周方向端部を示す拡大図である。ここでは、上述した第3の実施のように、溶射膜333Aおよび樹脂層333Bから成る積層体の周囲端部により弾性係数の低い、あるいは接着力の大きい樹脂部333Cを設けることにより、応力が端部に集中して端部から剥離が発生、進展していくのを防止するようにした。第5の実施の形態では、この樹脂部333Cを構成する樹脂の量を多くすることによって、応力集中の緩和効果をより高めるための放熱部307Bや一次封止体302に形成する溶射膜333Aの厚さについて説明する。
【0090】
図30に示す例では、放熱部307側に溶射膜333Aを形成した場合を示す。樹脂層333Bの領域は放熱部307の放熱面領域よりも大きく、さらに、溶射膜333Aの領域は樹脂層333Bの領域よりも大きく設定されている。そのため、溶射膜333Aの縁の部分には樹脂層333Bが形成されない領域3337がある。領域3337は、導体板315直下にある溶射膜Aの厚さよりも薄くなっており、応力が大きくなる外周部の樹脂333Bや樹脂333Cの厚さを大きくすることができる(図30は樹脂333Cの厚さが大きくなる例を示している)。
【0091】
また、パワーモジュールの絶縁層333の放熱性を決定する箇所は、樹脂層333Bの熱伝導率や厚さ、ならびに樹脂層333B、樹脂含浸した溶射膜333Aの熱伝導率や厚さである。特に、熱伝導率の低い樹脂層333Bの厚さを薄くした方が放熱性を向上できる。樹脂層333Bの厚さは、溶射膜333Aが形成された放熱部307Bや一次封止体302の反りや傾きから決まる。これらの値が最も大きくなるのは、積層体の外周部である。
【0092】
よって、放熱部307Bの端(図示右側)が図示上側に反り返るように傾いていた場合を考える。溶射膜333Aの厚さが端まで一定の場合、溶射膜333Aが樹脂部333Cや樹脂層333Bから露出しないようにすると、樹脂層333Bの厚さが周辺と中央とで異なることになる。一方、図30のように、領域3337の溶射膜333Aの厚さを樹脂層333Bと対向する領域の溶射膜333Aの厚さよりも薄くすることで、全体の厚さばらつきを低減することができる。図30のように溶射膜333Aの外周部を薄くする構成は、溶射ガンの走査範囲を制御したり、走査速度を調整したり、マスクを設置することで容易に作製することができる。
【0093】
あるいは、図47に示すように領域3337の直下の放熱部307Bに段差を設け、放熱部307Bの表面高さ減らすことで、同じ厚さの溶射膜333Aを形成した場合でも、樹脂層333Cの厚さを増加させることが可能になる。段差の深さhは、形成する溶射膜膜厚よりも小さくする。また、段差の角度θは、45°よりも小さい角度にした方が溶射膜333Aと基材(この場合には放熱部307B)との接着力を確保する点で好ましい。図48は、溶射膜333Aを一次封止体302側に形成した場合の段差構造を示したものである。
【0094】
−第6の実施の形態−
図49は第6の実施の形態を説明する図であり、樹脂が含浸された溶射膜333Aと樹脂層333Bとの積層体の周方向端部を示す拡大図である。ここでは、パワーモジュールの絶縁層333の生産性を向上させるための放熱部307Bや一次封止体302に形成する応力緩和層333Cに対する溢れ防止用の凸部307Dについて説明する。図49に示すように333Cの外周部に枠形状の凸部307Dを設けることによって、供給樹脂量が大きくなリすぎた場合に、含浸や接着時に溢れ出す樹脂成分が付着することを防止するためのマスクを省略でき生産性が向上する。なお、凸部307Dは放熱部307Bと一体に形成しても良いし、別個に形成しても良い。また、溶射膜333Aが一次封止体302側に形成される場合には、凸部307Dは一次封止体302側に形成される。
【0095】
図31と図32を用いて本発明に用いられる絶縁層333の絶縁性能を説明する。図31の横軸は放熱部307A,307Bに溶射膜333Aを形成した際の膜厚であり、縦軸は100μm厚の溶射膜単体の絶縁破壊電圧を1とした場合の規格化絶縁破壊電圧である。図32の横軸は放熱部307A,307Bに溶射膜333Aを形成した際の膜厚であり、縦軸は100μm厚の溶射膜単体のコロナ放電開始電圧を1とした場合の規格化部分放電開始電圧である。部分放電開始電圧は、部分放電測定システムを用いて、Al板に溶射膜単体あるいは樹脂を含浸した溶射膜上にAl電極を設けて、交流電圧を0Vから引火し、電圧を100V/sの速度で上昇させ、部分放電が開始する電圧を測定した。ここで、部分電圧開始の閾値は2pcとした。
【0096】
図31,32に示すように、溶射膜単体では膜中に空孔を有しているため絶縁性能に劣るが、樹脂が含浸されることで絶縁破壊電圧とコロナ放電開始電圧が向上する。特に、コロナ放電開始電圧は著しく向上する。このように、樹脂を含浸した溶射膜333Aとフィラーを混入させた樹脂層333Bとの積層体から成る絶縁層333は、溶射膜単体よりも絶縁性能に優れており、それをパワーモジュールに適用する際に、絶縁に必要な厚さを薄くできる。絶縁層333の厚さを薄くできることで、絶縁層333の熱抵抗が低下し、パワーモジュールの放熱性を向上できる。
【0097】
(比較例1)
図33は絶縁層の構成に関する比較例である。ここでは、厚さ2mmの150mm角のAl板をアルミナを用いてサンドブラスト処理した後、粒径10〜30μmのアルミナ粒子を出力40kWにてプラズマ溶射して溶射膜を形成した。この時、Al板に形成する溶射膜の気孔率を抑制し、冷却時の溶射膜の割れを防止するために、溶射されるAl板は180℃に予熱した。
【0098】
比較する絶縁層の構成は、樹脂含浸無しのアルミナ溶射膜単体(比較例A)と、空孔内にエポキシ樹脂を含浸したアルミナ溶射膜(比較例B)である。作製した溶射膜は気孔率が10%のもので厚さが1mmである。比較例Aおよび比較例Bに対して、Al板をエッチングで除去しアルミナ溶射膜単体とした。密度計による密度の測定,レーザフラッシュ法による熱拡散率の測定、示差走査熱量測定による比熱容量の測定をそれぞれ行い、アルミナ溶射膜単体の熱伝導率を算出した。
【0099】
比較例A,Bとは別に、以下のようにして比較例Cを作成した。アルミナを用いてサンドブラスト処理した厚さ2mmの150mm角のAl板を180℃に予熱し、粒径10〜30μmのアルミナ粒子を用いてプラズマ溶射し、100μmの溶射膜を形成した。次に、アルミナ溶射膜へのエポキシ樹脂を含浸し、それを厚さ2mm,100mm角のAlへ接着した。
【0100】
一方、比較例Dは、厚さ2mm,100mm角のAlへの接着を、アルミナフィラーを混合したエポキシ樹脂層を用いて行った点が比較例Cと異なり、その他の構成は比較例Cと同じである。ここで,比較例Dでは,アルミナ溶射膜の凹部にフィラーが入らないように,フィラー粒径を溶射膜の凹凸よりも大きくして作製した。
【0101】
なお、比較例C,Dのいずれの場合も、接着樹脂の厚さが25μmとなるように、スペーサを挿入して接着を行った。接着後に,超音波探傷にて樹脂接着層にボイドや未接合部がない10mm角の領域を選定し、その領域を切り出して熱抵抗を測定した。また、実際のAl板、絶縁層内の溶射膜、接着樹脂層の厚さは,測定後に絶縁層に対し垂直方向に切り出した断面を走査型電子顕微鏡で観察し,測長して確認した。これにより接合体全体の熱抵抗値から絶縁層自体の熱伝導率を算出した。図33の縦軸は、樹脂含浸無しの溶射膜単体の熱伝導率(W/m・K)を1と規格化した熱伝導率であり、溶射膜の気孔率は10%である。
【0102】
図34を参照して、本実施の形態の絶縁層333の放熱特性を説明する。上述した比較例の場合と同様に、厚さ2mmの150mm角のAl板をアルミナを用いてサンドブラスト処理した後、粒径10〜30μmのアルミナ粒子をプラズマ溶射し100μmの溶射膜を形成した。その後、アルミナフィラー40vol%を混入した30μm厚のエポキシ樹脂シートを110℃、加圧2MPa、1分で仮付けした。その後、減圧下でエポキシ樹脂をアルミナ溶射膜中に含浸させた。次に、スペーサを挿入して厚さ2mm,100mm角のAl板を接着した。なお、フィラーの粒径を1〜5μmとして溶射膜の凹部にもフィラーが配置できるようにした。さらに、接着時に加圧し樹脂層厚が25μmとなるようにした。接着後に,超音波探傷にて樹脂接着層にボイドや未接合部がない10mm角の領域を選定し、その領域を切り出して熱抵抗を測定した。また,実際のAl板、絶縁層内の溶射膜、接着樹脂層の厚さは、測定後に絶縁層に対し垂直方向に切り出した断面を走査型電子顕微鏡で観察し、測長して確認した。これにより接合体全体の熱抵抗値から絶縁層自体の熱伝導率を算出した。
【0103】
図44に示すように、比較例A、Bを比べると,溶射膜単体に樹脂を含浸することで5倍以上熱伝導率が向上することがわかった。これは,溶射膜孔内に存在する空気よりも含浸したエポキシ樹脂の方が,熱伝導率が大きいためである。しかし,比較例Cに示すように,フィラーがない樹脂層が層状に複合化されると、絶縁層の熱伝導率が大きく低下することがわかる。さらに,比較例Dに示すように、溶射膜凹部にもフィラーを設置しないと樹脂濃縮層が島状に形成しても熱伝導率が低下することがわかった。このように、樹脂含浸した溶射膜を接合する際には接着する樹脂領域を減少することが重要となる。
【0104】
これに対し、溶射膜凹部にフィラーを配置した場合は、樹脂領域を減少することができ比較例C、Dを上回る熱伝導率を発現することがわかった。なお、比較しやすいように樹脂層333Bの厚さを25μmとしたが、スペーサを挿入しないで接合することで混入する最大フィラー径近くまで薄くすることが可能である。また、溶射膜の組成として、アルミナよりも熱伝導率が高い窒化アルミなどを溶射原料粉末に混合すれば、樹脂含浸後の溶射膜の熱伝導率をより高めることができる。同様に、樹脂接着層に混在するフィラーについても、アルミナよりも熱伝導率が高いセラミックスを用いれば絶縁層333の熱伝導率を向上させることが可能となる。
【0105】
以上の説明はあくまで一例であり、本発明は上記実施形態の構成に何ら限定されるものではない。例えば、樹脂層333Bの代わりに高熱伝導なグリスを用いてもよいし、接着性のない弾性シートを用いてもよい。溶射膜333Aに樹脂を含浸させる代わりに、ガラスを含浸させるようにしてもよい。また、以上の説明で用いた弾性係数とは、硬化後のヤング率のことを意味しており、動的粘弾性試験にて周波数10Hz、昇温速度が3℃/minで測定した貯蔵弾性率のことである。接着力は、JISK6850で測定した値である。樹脂の硬化度は、示差走査熱量測定(Differential Scanning Calorimetry)にて、未反応の樹脂を加熱した際に検出した熱量の面積を基準とし、面積比で規定する。なお、測定の加熱速度は10℃/minとする。樹脂の粘度は、パラレルプレート型粘度計を用いて、ずり速度10s−1で測定した値とする。樹脂のガラス転移温度は、動的粘弾性試験にて周波数10Hz、昇温速度が3℃/minで測定した際のtanδのピーク温度とする。ここで、tanδは損失正接(=(損失弾性率)/(貯蔵弾性率))である。
【0106】
上述したパワーモジュールは、例えば、ハイブリッド自動車や電気自動車に搭載される電力変換装置、電車や船舶、航空機などの電力変換装置、さらに工場の設備を駆動する電動機の制御装置として用いられる産業用電力変換装置、或いは家庭の太陽光発電システムや家庭の電化製品を駆動する電動機の制御装置に用いられたりする家庭用電力変換装置に適用可能である。以下では、図35〜46を用いてハイブリッド自動車の電力変換装置に適用した場合を例に説明する。
【0107】
図35は、ハイブリッド自動車の制御ブロックを示す図である。図35において、ハイブリッド電気自動車(以下、「HEV」と記述する)110は1つの電動車両であり、2つの車両駆動用システムを備えている。その1つは、内燃機関であるエンジン120を動力源としたエンジンシステムである。エンジンシステムは、主としてHEVの駆動源として用いられる。もう1つは、モータジェネレータ192,194を動力源とした車載電機システムである。車載電機システムは、主としてHEVの駆動源及びHEVの電力発生源として用いられる。モータジェネレータ192,194は例えば同期機あるいは誘導機であり、運転方法によりモータとしても発電機としても動作するので、ここではモータジェネレータと記す。
【0108】
車体のフロント部には前輪車軸114が回転可能に軸支され、前輪車軸114の両端には1対の前輪112が設けられている。車体のリア部には後輪車軸が回転可能に軸支され、後輪車軸の両端には1対の後輪が設けられている(図示省略)。本実施形態のHEVでは、いわゆる前輪駆動方式を採用しているが、この逆、すなわち後輪駆動方式を採用しても構わない。前輪車軸114の中央部には前輪側デファレンシャルギア(以下、「前輪側DEF」と記述する)116が設けられている。前輪側DEF116の入力側にはトランスミッション118の出力軸が機械的に接続されている。トランスミッション118の入力側にはモータジェネレータ192の出力側が機械的に接続されている。モータジェネレータ192の入力側には動力分配機構122を介してエンジン120の出力側及びモータジェネレータ194の出力側が機械的に接続されている。
【0109】
インバータ部140,142は、直流コネクタ138を介してバッテリ136と電気的に接続される。バッテリ136とインバータ部140,142との相互において電力の授受が可能である。本実施形態では、モータジェネレータ192及びインバータ部140からなる第1電動発電ユニットと、モータジェネレータ194及びインバータ部142からなる第2電動発電ユニットとの2つを備え、運転状態に応じてそれらを使い分けている。なお、本実施形態では、バッテリ136の電力によって第1電動発電ユニットを電動ユニットとして作動させることにより、モータジェネレータ192の動力のみによって車両の駆動ができる。さらに、本実施形態では、第1電動発電ユニット又は第2電動発電ユニットを発電ユニットとしてエンジン120の動力或いは車輪からの動力によって作動させて発電させることにより、バッテリ136の充電ができる。
【0110】
バッテリ136はさらに補機用のモータ195を駆動するための電源としても使用される。補機としては例えば、エアコンディショナーのコンプレッサを駆動するモータ、あるいは制御用の油圧ポンプを駆動するモータである。バッテリ136からインバータ部43に直流電力が供給され、インバータ部43で交流の電力に変換されてモータ195に供給される。インバータ部43は、インバータ部140や142と同様の機能を持ち、モータ195に供給する交流の位相や周波数、電力を制御する。モータ195の容量がモータジェネレータ192や194の容量より小さいので、インバータ部43の最大変換電力がインバータ部140や142より小さいが、インバータ部43の回路構成は基本的にインバータ部140や142の回路構成と同じである。なお、電力変換装置200は、インバータ部140、インバータ部142、インバータ部43に供給される直流電流を平滑化するためのコンデンサモジュール500を備えている。
【0111】
図36を用いてインバータ部140やインバータ部142あるいはインバータ部43の電気回路構成を説明する。なお、図36では、代表例としてインバータ部140の説明を行う。
【0112】
インバータ回路144は、上アームとして動作するIGBT328及びダイオード156と、下アームとして動作するIGBT330及びダイオード166と、からなる上下アーム直列回路150をモータジェネレータ192の電機子巻線の各相巻線に対応して3相(U相、V相、W相)分を設けている。それぞれの上下アーム直列回路150は、その中点部分(中間電極329)から交流端子159及び交流コネクタ188を通してモータジェネレータ192への交流電力線(交流バスバー)186と接続する。
【0113】
上アームのIGBT328のコレクタ電極153は正極端子(P端子)167を介してコンデンサモジュール500の正極側のコンデンサの電極に、下アームのIGBT330のエミッタ電極は負極端子(N端子)168を介してコンデンサモジュール500の負極側にコンデンサ電極にそれぞれ電気的に接続されている。
【0114】
制御部170は、インバータ回路144を駆動制御するドライバ回路174と、ドライバ回路174へ信号線176を介して制御信号を供給する制御回路172と、を有している。IGBT328やIGBT330は、制御部170から出力された駆動信号を受けて動作し、バッテリ136から供給された直流電力を三相交流電力に変換する。この変換された電力は、モータジェネレータ192の電機子巻線に供給される。
【0115】
IGBT328は、コレクタ電極153と、信号用エミッタ電極151と、ゲート電極154を備えている。また、IGBT330は、コレクタ電極163と、信号用のエミッタ電極165と、ゲート電極164を備えている。ダイオード156が、IGBT328と電気的に並列に接続されている。また、ダイオード158が、IGBT330と電気的に並列に接続されている。スイッチング用パワー半導体素子としてはMOSFET(金属酸化物半導体型電界効果トランジスタ)を用いてもよいが、この場合はダイオード156やダイオード158は不要となる。コンデンサモジュール500は、正極側コンデンサ端子506と負極側コンデンサ端子504と直流コネクタ138を介して電気的に接続されている。なお、インバータ部140は、直流正極端子314を介して正極側コンデンサ端子506と接続され、かつ直流負極端子316を介して負極側コンデンサ端子504と接続される。
【0116】
制御回路172は、IGBT328及びIGBT330のスイッチングタイミングを演算処理するためのマイクロコンピュータ(以下、「マイコン」と記述する)を備えている。マイコンには入力情報として、モータジェネレータ192に対して要求される目標トルク値、上下アーム直列回路150からモータジェネレータ192の電機子巻線に供給される電流値、及びモータジェネレータ192の回転子の磁極位置が入力されている。目標トルク値は、不図示の上位の制御装置から出力された指令信号に基づくものである。電流値は、電流センサ180から信号線182を介して出力された検出信号に基づいて検出されたものである。磁極位置は、モータジェネレータ192に設けられた回転磁極センサ(不図示)から出力された検出信号に基づいて検出されたものである。本実施形態では3相の電流値を検出する場合を例に挙げて説明するが、2相分の電流値を検出するようにしても構わない。
【0117】
制御回路172内のマイコンは、目標トルク値に基づいてモータジェネレータ192のd,q軸の電流指令値を演算し、この演算されたd,q軸の電流指令値と、検出されたd,q軸の電流値との差分に基づいてd,q軸の電圧指令値を演算し、この演算されたd,q軸の電圧指令値を、検出された磁極位置に基づいてU相、V相、W相の電圧指令値に変換する。そして、マイコンは、U相、V相、W相の電圧指令値に基づく基本波(正弦波)と搬送波(三角波)との比較に基づいてパルス状の変調波を生成し、この生成された変調波をPWM(パルス幅変調)信号として、信号線176を介してドライバ回路174に出力する。
【0118】
ドライバ回路174は、下アームを駆動する場合、PWM信号を増幅したドライブ信号を、対応する下アームのIGBT330のゲート電極に出力する。また、ドライバ回路174は、上アームを駆動する場合、PWM信号の基準電位のレベルを上アームの基準電位のレベルにシフトしてからPWM信号を増幅し、これをドライブ信号として、対応する上アームのIGBT328のゲート電極にそれぞれ出力する。
【0119】
また、制御部170は、異常検知(過電流、過電圧、過温度など)を行い、上下アーム直列回路150を保護している。このため、制御部170にはセンシング情報が入力されている。例えば各アームの信号用エミッタ電極151及び信号用エミッタ電極165からは各IGBT328とIGBT330のエミッタ電極に流れる電流の情報が、対応する駆動部(IC)に入力されている。これにより、各駆動部(IC)は過電流検知を行い、過電流が検知された場合には対応するIGBT328,IGBT330のスイッチング動作を停止させ、対応するIGBT328,IGBT330を過電流から保護する。上下アーム直列回路150に設けられた温度センサ(不図示)からは上下アーム直列回路150の温度の情報がマイコンに入力されている。また、マイコンには上下アーム直列回路150の直流正極側の電圧の情報が入力されている。マイコンは、それらの情報に基づいて過温度検知及び過電圧検知を行い、過温度或いは過電圧が検知された場合には全てのIGBT328,IGBT330のスイッチング動作を停止させる。
【0120】
なお、図36におけるゲート電極154および信号用エミッタ電極155は図1の信号端子325Uに対応し、ゲート電極164およびエミッタ電極165は図1の信号端子325Lに対応する。また、正極端子157は図1の直流正極端子315Bと同一のものであり、負極端子158は図1の直流負極端子319Bと同一のものである。また、交流端子159は、図1の交流端子320Bと同じものである。
【0121】
図37は、電力変換装置200の設置場所を説明するための分解斜視図を示す。電力変換装置200は、トランスミッション118を収納するためのAlまたはAl合金製の筐体119に固定される。電力変換装置200は、底面及び上面の形状を略長方形としたことで、車両への取り付けが容易となり、また生産し易いという効果がある。冷却ジャケット12は、後述するパワーモジュール300及びコンデンサモジュール500を保持するとともに、冷却媒体によって冷却する。また、冷却ジャケット12は、筐体119に固定され、かつ筐体119との対向面に入口配管13と出口配管14が形成されている。入口配管13と出口配管14が筐体119に形成された配管と接続されることにより、トランスミッション118を冷却するための冷却媒体が、冷却ジャケット12に流入及び流出する。
【0122】
ケース10は、電力変換装置200を覆って、かつ筐体119側に固定される。ケース10の底は、制御回路172を実装した制御回路基板20と対向するように構成される。またケース10は、ケース10の底から外部に繋がる第1開口202と第2開口204を、ケース10の底面に形成する。コネクタ21は、制御回路基板20に接続されており、外部からの各種信号を当該制御回路基板20に伝送する。バッテリ負極側接続端子部510とバッテリ正極側接続端子部512は、バッテリ136とコンデンサモジュール500とを電気的に接続する。
【0123】
コネクタ21とバッテリ負極側接続端子部510とバッテリ正極側接続端子部512は、ケース10の底面に向かって延ばされ、コネクタ21は第1開口202から突出し、かつバッテリ負極側接続端子部510及びバッテリ正極側接続端子部512は第2開口204から突出する。ケース10には、その内壁の第1開口202及び第2開口204の周りにシール部材(不図示)が設けられる。
【0124】
コネクタ21等の端子の勘合面の向きは、車種により種々の方向となるが、特に小型車両に搭載しようとした場合、エンジンルーム内の大きさの制約や組立性の観点から勘合面を上向きにして出すことが好ましい。特に、本実施形態のように、電力変換装置200が、トランスミッション118の上方に配置される場合には、トランスミッション118の配置側とは反対側に向かって突出させることにより、作業性が向上する。また、コネクタ21は外部の雰囲気からシールする必要があるが、コネクタ21に対してケース10を上方向から組付ける構成となることで、ケース10が筐体119に組付けられたときに、ケース10と接触するシール部材がコネクタ21を押し付けることができ、気密性が向上する。
【0125】
図38は、電力変換装置200の分解斜視図である。冷却ジャケット12には、流路19が設けられ、該流路19の上面には、開口部400a〜400cが冷媒の流れ方向418に沿って形成され、かつ開口部402a〜402cが冷媒の流れ方向422に沿って形成される。開口部400a〜400cがパワーモジュール300a〜300cによって塞がれるように、かつ開口部402a〜402cがパワーモジュール301a〜301cによって塞がれる。
【0126】
また、冷却ジャケット12には、コンデンサモジュール500を収納するための収納空間405が形成される。コンデンサモジュール500は、収納空間405に収納されることにより、流路19内に流れる冷媒によって冷却されることになる。コンデンサモジュール500は、冷媒の流れ方向418を形成するための流路19と、冷媒の流れ方向422を形成するための流路19に挟まれるため、効率良く冷却することができる。
【0127】
冷却ジャケット12には、入口配管13と出口配管14と対向する位置に突出部407が形成される。突出部407は、冷却ジャケット12と一体に形成される。補機用パワーモジュール350は、突出部407に固定され、流路19内に流れる冷媒によって冷やされることになる。補機用パワーモジュール350の側部には、バスバーモジュール800が配置される。バスバーモジュール800は、交流バスバー186や電流センサ180等により構成される。
【0128】
このように冷却ジャケット12の中央部にコンデンサモジュール500の収納空間405を設け、その収納空間405を挟むように流路19を設け、それぞれの流路19に車両駆動用のパワーモジュール300a〜300c及びパワーモジュール301a〜301cを配置し、さらに冷却ジャケット12の上面に補機用パワーモジュール350を配置することで、小さい空間で効率良く冷却でき、電力変換装置全体の小型化が可能となる。また冷却ジャケット12の流路19の主構造を冷却ジャケット12と一体にAlまたはAl合金材の鋳造で作ることにより、流路19は冷却効果に加え機械的強度を強くする効果がある。またAl鋳造で作ることで冷却ジャケット12と流路19とが一体構造となり、熱伝達が良くなり冷却効率が向上する。
【0129】
なお、パワーモジュール300a〜300cとパワーモジュール301a〜301cを流路19に固定することで流路19を完成させ、水路の水漏れ試験を行う。水漏れ試験に合格した場合に、次にコンデンサモジュール500や補機用パワーモジュール350や基板を取り付ける作業を行うことができる。このように、電力変換装置200の底部に冷却ジャケット12を配置し、次にコンデンサモジュール500、補機用パワーモジュール350、バスバーモジュール800、基板等の必要な部品を固定する作業を上から順次行えるように構成されており、生産性と信頼性が向上する。
【0130】
ドライバ回路基板22は、補機用パワーモジュール350及びバスバーモジュール800の上方に配置される。また、ドライバ回路基板22と制御回路基板20の間には金属ベース板11が配置される。金属ベース板11は、ドライバ回路基板22及び制御回路基板20に搭載される回路群の電磁シールドの機能を奏すると共にドライバ回路基板22と制御回路基板20とが発生する熱を逃がし、冷却する作用を有している。
【0131】
図39は、流路19を有する冷却ジャケット12の下面図である。冷却ジャケット12と当該冷却ジャケット12の内部に設けられた流路19は、一体に鋳造されている。冷却ジャケット12に下面には、1つに繋がった開口部404が形成されている。開口部404は、中央部に開口を有する下カバー420によって塞がれる。下カバー420と冷却ジャケット12の間には、シール部材409a及びシール部材409bが設けられ気密性を保っている。
【0132】
下カバー420には、一方の端辺の近傍であって当該端辺に沿って、入口配管13を挿入するための入口孔401と、出口配管14を挿入するための出口孔403が形成される。また下カバー420には、トランスミッション118の配置方向に向かって突出する凸部406が形成される。凸部406は、パワーモジュール300a〜300c及びパワーモジュール301a〜301c毎に設けられる。
【0133】
冷媒は、流れ方向417のように、入口孔401を通って、冷却ジャケット12の短手方向の辺に沿って形成された第1流路部19aに向かって流れる。そして冷媒は、流れ方向418のように、冷却ジャケット12の長手方向の辺に沿って形成された第2流路部19bを流れる。また冷媒は、流れ方向421のように、冷却ジャケット12の短手方向の辺に沿って形成された第3流路部19cを流れる。第3流路部19cは折り返し流路を形成する。また、冷媒は、流れ方向422のように、冷却ジャケット12の長手方向の辺に沿って形成された第4流路部19dを流れる。第4流路部19dは、コンデンサモジュール500を挟んで第2流路部19bと対向する位置に設けられる。さらに、冷媒は、流れ方向423のように、冷却ジャケット12の短手方向の辺に沿って形成された第5流路部19e及び出口孔403を通って出口配管14に流出する。
【0134】
第1流路部19a、第2流路部19b、第3流路部19c、第4流路部19d及び第5流路部19eは、いずれも幅方向より深さ方向が大きく形成される。パワーモジュール300a〜300cが、冷却ジャケット12の上面側に形成された開口部400a〜400cから挿入され(図4参照)、第2流路部19b内の収納空間に収納される。なお、パワーモジュール300aの収納空間とパワーモジュール300bの収納空間との間には、冷媒の流れを澱ませないための中間部材408aが形成される。同様に、パワーモジュール300bの収納空間とパワーモジュール300cの収納空間との間には、冷媒の流れを澱ませないための中間部材408bが形成される。中間部材408a及び中間部材408bは、その主面が冷媒の流れ方向に沿うように形成される。第4流路部19dも第2流路部19bと同様にパワーモジュール301a〜301cの収納空間及び中間部材を形成する。また、冷却ジャケット12は、開口部404と開口部400a〜400c及び402a〜402cとが対向するように形成されているので、アルミ鋳造により製造し易い構成になっている。
【0135】
下カバー420には、筐体119と当接し、電力変換装置200を支持するための支持部410a及び支持部410bが設けられる。支持部410aは下カバー420の一方の端辺に近づけて設けられ、支持部410bは下カバー420の他方の端辺に近づけて設けられる。これにより、電力変換装置200を、トランスミッション118やモータジェネレータ192の円柱形状に合わせて形成された筐体119の側壁に強固に固定することができる。
【0136】
また、支持部410bは、抵抗器450を支持するように構成されている。この抵抗器450は、乗員保護やメンテナンス時における安全面に配慮して、コンデンサセルに帯電した電荷を放電するためのものである。抵抗器450は、高電圧の電気を継続的に放電できるように構成されているが、万が一抵抗器もしくは放電機構に何らかの異常があった場合でも、車両に対するダメージを最小限にするように配慮した構成とする必要がある。つまり、抵抗器450がパワーモジュールやコンデンサモジュールやドライバ回路基板等の周辺に配置されている場合、万が一抵抗器450が発熱、発火等の不具合を発生した場合に主要部品近傍で延焼する可能性が考えられる。
【0137】
そこで、パワーモジュール300a〜300cやパワーモジュール301a〜301cやコンデンサモジュール500は、冷却ジャケット12を挟んで、トランスミッション118を収納した筐体119とは反対側に配置され、かつ抵抗器450は、冷却ジャケット12と筐体119との間の空間に配置される。これにより、抵抗器450が金属で形成された冷却ジャケット12及び筐体119で囲まれた閉空間に配置されることになる。なお、コンデンサモジュール500内のコンデンサセルに貯まった電荷は、図38に示されたドライバ回路基板22に搭載されたスイッチング手段のスイッチング動作によって、冷却ジャケット12の側部を通る配線を介して抵抗器450に放電制御される。本実施形態では、スイッチング手段によって高速に放電するように制御される。放電を制御するドライバ回路基板22と抵抗器450の間に、冷却ジャケット12が設けられているので、ドライバ回路基板22を抵抗器450から保護することができる。また、抵抗器450は下カバー420に固定されているので、流路19と熱的に非常に近い位置に設けられているので、抵抗器450の異常な発熱を抑制することができる。
【0138】
図40は、コンデンサモジュール500の分解斜視図である。積層導体板501は、薄板状の幅広導体で形成された負極導体板505及び正極導体板507、さらに負極導体板505と正極導体板507に挟まれた絶縁シート517により構成されているので、低インダクタンス化が図られている。積層導体板501は、略長方形形状を成す。バッテリ負極側端子508及びバッテリ負極側端子509は、積層導体板501の短手方向の一方の辺から立ち上げられた状態で形成される。
【0139】
コンデンサ端子503a〜503cは、積層導体板501の長手方向の一方の辺から立ち上げられた状態で形成される。また、コンデンサ端子503d〜503fは、積層導体板501の長手方向の他方の辺から立ち上げられた状態で形成される。なお、コンデンサ端子503a〜503fは、積層導体板501の主面を横切る方向に立ち上げられている。コンデンサ端子503a〜503cは、パワーモジュール300a〜300cとそれぞれ接続される。コンデンサ端子503d〜503fは、パワーモジュール301a〜301cとそれぞれ接続される。コンデンサ端子503aを構成する負極側コンデンサ端子504aと正極側コンデンサ端子506aとの間には、絶縁シート517の一部が設けられ、絶縁が確保されている。他のコンデンサ端子503b〜503fも同様である。なお、本実施形態では、負極導体板505、正極導体板507、バッテリ負極側端子508、バッテリ負極側端子509、コンデンサ端子503a〜503fは、一体に成形された金属製板で構成され、インダクタンス低減及び生産性の向上を図っている。
【0140】
コンデンサセル514は、積層導体板501の下方に複数個設けられる。本実施形態では、8つのコンデンサセル514が積層導体板501の長手方向の一方の辺に沿って一列に並べられ、かつさらに別の8つのコンデンサセル514が積層導体板501の長手方向の他方の辺に沿って一列に並べられ、合計16個のコンデンサセルが設けられる。積層導体板501の長手方向のそれぞれの辺に沿って並べられたコンデンサセル514は、図40に示される破線部AAを境に対称に並べられる。これにより、コンデンサセル514によって平滑化された直流電流をパワーモジュール300a〜300c及びパワーモジュール301a〜301cに供給する場合に、コンデンサ端子503a〜503cとコンデンサ端子503d〜503fとの間の電流バランスが均一化され、積層導体板501のインダクタンス低減を図ることができる。また、電流が積層導体板501にて局所的に流れることを防止できるので、熱バランスが均一化されて耐熱性も向上させることができる。
【0141】
また、バッテリ負極側端子508とバッテリ負極側端子509も、図40に示される点線AAを境にて対称に並べられる。同様に、コンデンサ端子503a〜503cとコンデンサ端子503d〜503fとの間の電流バランスが均一化されて積層導体板501のインダクタンス低減を図ることができ、かつ熱バランスが均一化されて耐熱性も向上させることができる。
【0142】
本実施形態のコンデンサセル514は、コンデンサモジュール500の蓄電部の単位構造体であり、片面にAlなどの金属を蒸着したフィルムを2枚積層し巻回して、2枚の金属の各々を正極、負極としたフィルムコンデンサを用いる。コンデンサセル514の電極は、巻回した軸面がそれぞれ、正極、負極電極となり、Snなどの導電体を吹き付けて製造される。セル端子516及びセル端子518は、正極電極及び負極電極に接続され、かつ積層導体板501の開口部を通ってコンデンサセル514配置側とは反対側まで延ばされ、正極導体板507及び負極導体板505とはんだあるいは溶接により接続される。
【0143】
本実施形態のコンデンサセル514は、コンデンサモジュール500の蓄電部の単位構造体であり、片面にAlなどの金属を蒸着したフィルムを2枚積層し巻回して、2枚の金属の各々を正極、負極としたフィルムコンデンサを用いる。コンデンサセル514の電極は、巻回した軸面がそれぞれ、正極、負極電極となり、Snなどの導電体を吹き付けて製造される。セル端子516及びセル端子518は、正極電極及び負極電極に接続され、かつ積層導体板501の開口部を通ってコンデンサセル514配置側とは反対側まで延ばされ、正極導体板507及び負極導体板505とはんだあるいは溶接により接続される。
【0144】
収納部511の底面部513は、円筒形のコンデンサセル514の表面形状に合わせるように、なめらかな凹凸形状若しくは波形形状を成している。これにより、積層導体板501とコンデンサセル514が接続されたモジュールをコンデンサケース502に位置決めさることが容易になる。また、積層導体板501とコンデンサセル514がコンデンサケース502に収納された後に、コンデンサ端子503a〜503fとバッテリ負極側端子508及びバッテリ負極側端子509を除いて、積層導体板501が覆われるようにコンデンサケース502内に充填材(図示せず)が充填される。底面部513がコンデンサセル514の形状に合わせて波形形状となっていることにより、充填材がコンデンサケース502内に充填される際に、コンデンサセル514が所定位置からずれることを防止できる。
【0145】
また、コンデンサセル514は、スイッチング時のリップル電流により、内部のフィルム上に蒸着された金属薄膜、内部導体の電気抵抗により発熱する。そこで、コンデンサセル514の熱をコンデンサケース502に逃がし易くするために、コンデンサセル514を充填材でモールドする。さらに樹脂製の充填材を用いることにより、コンデンサセル514の耐湿も向上させることができる。
【0146】
さらに、本実施形態では、コンデンサモジュール500は、収納部511の長手方向の辺を形成する側壁が流路19に挟まれように配置されているので、コンデンサモジュール500を効率良く冷やすことができる。また、コンデンサセル514は、当該コンデンサセル514の電極面の一方が収納部511の長手方向の辺を形成する内壁と対向するように配置されている。これにより、フィルムの巻回軸の方向に熱が伝達し易いので、熱がコンデンサセル514の電極面を介してコンデンサケース502に逃げやすくなっている。
【0147】
図41(a)は、冷却ジャケット12にパワーモジュールとコンデンサモジュールとバスバーモジュールを組み付けた外観斜視図である。図41(b)は、図41(a)の破線囲み部の拡大図である。
【0148】
図41(b)に示されるように、直流負極端子315B、直流正極端子319b、交流端子321及び第2封止部601bは、コンデンサケース502の貫通孔519を通って、フランジ515aの上方まで延びている。直流負極端子317b及び直流正極端子319bの電流経路の面積は、積層導体板501の電流経路の面積より非常に小さい。そのため、電流が積層導体板501から直流負極端子317b及び直流正極端子319bに流れる際には、電流経路の面積が大きく変化することになる。つまり、電流が直流負極端子317b及び直流正極端子319bに集中することになる。また、直流負極端子317b及び直流正極端子319bが積層導体板501を横切る方向に突出する場合、言い換えると、直流負極端子317b及び直流正極端子319bが積層導体板501とねじれの関係にある場合、新たな接続用導体が必要になり生産性低下やコスト増大の問題が生じる。
【0149】
そこで、負極側コンデンサ端子504aは、積層導体板501から立ち上がっている立ち上がり部540と、当該立ち上がり部540と接続されかつU字状に屈曲した折返し部541と、当該折返し部541と接続されかつ立ち上がり部540とは反対側の面が直流負極端子319bの主面と対向する接続部542とにより構成される。また、正極側コンデンサ端子506aは、積層導体板501から立ち上がっている立ち上がり部543と、折返し部544と、当該折返し部544と接続されかつ立ち上がり部543とは反対側の面が直流負極端子317bの主面と対向する接続部545と、により構成される。特に、折返し部544は、立ち上がり部543と略直角に接続されかつ負極側コンデンサ端子504aと直流負極端子317bと直流正極端子319bの側部を跨ぐように構成される。さらに、立ち上がり部540の主面と立ち上がり部543の主面は絶縁シート517を介して対向する。同様に、折返し部541の主面と折返し部544の主面は絶縁シート517を介して対向する。
【0150】
これにより、コンデンサ端子503aが接続部542の直前まで絶縁シート517を介した積層構造を成すため、電流が集中する当該コンデンサ端子503aの配線インダクタンスを低減することができる。また、折返し部544が負極側コンデンサ端子504aと直流負極端子317bと直流正極端子319bの側部を跨ぐように構成される。さらに、直流正極端子319bの先端と接続部542の側辺とは溶接により接続され、同様に直流負極端子317bの先端と接続部545の側辺とは溶接により接続される。
【0151】
これにより、直流正極端子319b及び直流負極端子317bの溶接接続するための作業方向と折返し部544とが干渉することがなくなるので、低インダクタンスを図りながら生産性を向上させることができる。
【0152】
また、交流端子321の先端は交流バスバー802aの先端とは溶接により接続される。溶接をするための生産設備において、溶接機械を溶接対象に対して複数方向に可動出来るように作ることは、生産設備を複雑化させることにつながり生産性及びコスト的な観点から好ましくない。そこで、本実施形態では、交流端子321の溶接箇所と直流正極端子319bの溶接箇所は、冷却ジャケット12の長手方向の辺に沿って一直線状に配置される。これにより、溶接機械を一方向に可動する間に、複数の溶接を行うことができ、生産性が向上する。
【0153】
さらに、図38及び図41(a)に示されるように、複数のパワーモジュール300a〜300cは、冷却ジャケット12の長手方向の辺に沿って一直線状に配置される。これにより、複数のパワーモジュール300a〜300cを溶接する際に、更に生産性を向上させることができる。
【0154】
図42は、パワーモジュールとコンデンサモジュールを組み付けた冷却ジャケット12とバスバーモジュール800の分解斜視図である。図43は、保持部材803を除いたバスバーモジュール800の外観斜視図である。
【0155】
図42及び図43に示されるように、第1交流バスバー802a〜802fは、電流センサ180a又は電流センサ180bの設置箇所まで、当該第1交流バスバー802a〜802fの主面がコンデンサモジュール500の積層導体板501の主面と略垂直になるように形成される。また、第1交流バスバー802a〜802fは、電流センサ180aの貫通孔又は電流センサ180bの貫通孔の直前で略直角に折り曲げられる。これにより、電流センサ180a又は電流センサ180bを貫通する第1交流バスバー802a〜802fの部分は、その主面が積層導体板501の主面と略平行になる。そして、第1交流バスバー802a〜802fの端部には、第2交流バスバー804a〜804fと接続する為の接続部805a〜805fが形成される(接続部805d〜805fは図示せず)。
【0156】
第2交流バスバー804a〜804fは、接続部805a〜805fの近傍で、コンデンサモジュール500側に向かって略直角に折り曲げられる。これにより、第2交流バスバー804a〜804fの主面がコンデンサモジュール500の積層導体板501の主面と略垂直になるように形成される。さらに第2交流バスバー804a〜804fは、電流センサ180a又は電流センサ180bの近傍から、図43に示された冷却ジャケット12の短手方向の一方の辺12aに向かって延ばされ、当該辺12aを横切るように形成される。つまり、複数の第2交流バスバー804a〜804fの主面が向かい合った状態で、当該第2交流バスバー804a〜804fが辺12aを横切るように形成される。
【0157】
これにより、装置全体を大型化させることなく、冷却ジャケット12の短い辺側から複数の板状交流バスバーを外部に突出させることができる。そして、冷却ジャケット12の一面側から複数の交流バスバーを突出させることで、電力変換装置200の外部での配線の取り回しが容易になり、生産性が向上する。
【0158】
図42に示されるように、第1交流バスバー802a〜802f、電流センサ180a〜180b及び第2交流バスバー804a〜804fは、樹脂で構成された保持部材803によって、保持及び絶縁されている。この保持部材803により、第2交流バスバー804a〜804fが金属製の冷却ジャケット12及び筐体119との間の絶縁性を向上させる。また保持部材803が冷却ジャケット12に熱的に接触又は直接接触することにより、トランスミッション118側から第2交流バスバー804a〜804fに伝わる熱を、冷却ジャケット12に逃がすことができるので、電流センサ180a〜180bの信頼性を向上させることができる。
【0159】
図42に示されるように、保持部材803は、図36に示されたドライバ回路基板22を支持するための支持部材807a及び支持部材807bを設ける。支持部材807aは、複数設けられ、かつ冷却ジャケット12の長手方向の一方の辺に沿って一列に並べて形成される。また、支持部材807bは、複数設けられ、かつ冷却ジャケット12の長手方向の他方の辺に沿って一列に並べて形成される。支持部材807a及び支持部材807bの先端部には、ドライバ回路基板22を固定するための螺子穴が形成されている。
【0160】
さらに、保持部材803は、電流センサ180a及び電流センサ180bが配置された箇所から上方に向かって延びる突起部806a及び突起部806bを設ける。突起部806a及び突起部806bは、それぞれ電流センサ180a及び電流センサ180bを貫通するように構成される。図42に示されるように、電流センサ180a及び電流センサ180bは、ドライバ回路基板22の配置方向に向かって延びる信号線182a及び信号線182bを設ける。信号線182a及び信号線182bは、ドライバ回路基板22の配線パターンとはんだによって接合される。本実施形態では、保持部材803、支持部材807a〜807b及び突起部806a〜806bは、樹脂で一体に形成される。
【0161】
これにより、保持部材803が電流センサ180とドライバ回路基板22との位置決め機能を備えることになるので、信号線182aとドライバ回路基板22との間の組み付け及びはんだ接続作業が容易になる。また、電流センサ180とドライバ回路基板22を保持する機構を保持部材803に設けることで、電力変換装置全体としての部品点数を削減できる。
【0162】
電力変換装置200はトランスミッション118を収納した筐体119に固定されるので、トランスミッション118からの振動の影響を大きく受ける。そこで、保持部材803は、ドライバ回路基板22の中央部の近傍を指示するための支持部材808を設けて、ドライバ回路基板22に加わる振動の影響を低減している。なお、保持部材803は、冷却ジャケット12に螺子により固定される。
【0163】
また、保持部材803は、補機用パワーモジュール350の一方の端部を固定するためのブラケット809を設ける。また図38に示されるように、補機用パワーモジュール350は突出部407に配置されることにより、当該補機用パワーモジュール350の他方の端部が当該突出部407に固定される。これにより、補機用パワーモジュール350に加わる振動の影響を低減するとともに、固定用の部品点数を削減することができる。
【0164】
図44は、パワーモジュールとコンデンサモジュールとバスバーモジュール800と補機用パワーモジュール350を組み付けた冷却ジャケット12の外観斜視図である。電流センサ180は、約100℃の耐熱温度以上に熱せられると破壊するおそれがある。特に車載用の電力変換装置では、使用される環境の温度が非常に高温になるため、電流センサ180を熱から保護することが重要になる。特に、本実施形態に係る電力変換装置200はトランスミッション118に搭載されるので、当該トランスミッション118から発せられる熱から保護することが重要になる。
【0165】
そこで、電流センサ180a及び電流センサ180bは、冷却ジャケット12を挟んでトランスミッション118とは反対側に配置される。これにより、トランスミッション118が発する熱が電流センサに伝達し難くなり、電流センサの温度上昇を抑えられる。さらに、第2交流バスバー804a〜804fは、図39に示された第3流路19cを流れる冷媒の流れ方向810を横切るように形成される。そして、電流センサ180a及び電流センサ180bは、第3流路部19cを横切る第2交流バスバー804a〜804fの部分よりもパワーモジュールの交流端子321に近い側に配置される。これにより、第2交流バスバー804a〜804fが冷媒によって間接的に冷却され、交流バスバーから電流センサ、更にはパワーモジュール内の半導体チップに伝わる熱を和らげることができるため、信頼性が向上する。
【0166】
図44に示される流れ方向811は、図39にて示された第4流路19dを流れる冷媒の流れ方向を示す。同様に、流れ方向812は、図39にて示された第2流路19bを流れる冷媒の流れ方向を示す。本実施形態に係る電流センサ180a及び電流センサ180bは、電力変換装置200の上方から投影したときに、電流センサ180a及び電流センサ180bの投影部が流路19の投影部に囲まれるように配置される。これにより電流センサをトランスミッション118からの熱から更に保護することができる。
【0167】
図45は、制御回路基板20と金属ベース板11を分離した電力変換装置200の分割斜視図である。図44にて示されたように、電流センサ180は、コンデンサモジュール500の上方に配置される。ドライバ回路基板22は、電流センサ180の上方に配置され、かつ図8に示されたバスバーモジュール800に設けられる支持部材807a及び807bによって支持される。金属ベース板11は、ドライバ回路基板22の上方に配置され、かつ冷却ジャケット12から立設された複数の支持部材15によって支持される。制御回路基板20は、金属ベース板11の上方に配置され、かつ金属ベース板11に固定される。
【0168】
電流センサ180とドライバ回路基板22と制御回路基板20が高さ方向に一列に階層的に配置され、かつ制御回路基板20が強電系のパワーモジュール300及び301から最も遠い場所に配置されるので、スイッチングノイズ等が混入することを抑制することができる。さらに、金属ベース板11は、グランドに電気的に接続された冷却ジャケット12に電気的に接続されている。この金属ベース板11によって、ドライバ回路基板22から制御回路基板20に混入するノイズを低減している。
【0169】
流路19に流れる冷媒の冷却対象が主に駆動用のパワーモジュール300及び301であるので、当該パワーモジュール300及び301は流路19内に収納されて直接と冷媒と接触して冷却される。一方、補機用パワーモジュール350も、駆動用パワーモジュールほどではないが冷却することが求められる。
【0170】
そこで、補機用パワーモジュール350の金属ベースで形成された放熱面が、流路19を介して、入口配管13及び出口配管14と対向するように形成される。特に、補機用パワーモジュール350を固定する突出部407が入口配管13の上方に形成されているので、下方から流入する冷媒が突出部407の内壁に衝突して、効率良く補機用パワーモジュール350から熱を奪うことができる。さらに、突出部407の内部には、流路19と繋がる空間を形成している。この突出部407内部の空間によって、入口配管13及び出口配管14近傍の流路19の深さが大きくなっており、突出部407内部の空間に液溜りが生じることになる。この液溜りにより効率良く補機用パワーモジュール350を冷却することができる。
【0171】
電流センサ180とドライバ回路基板22を電気的に繋ぐ際に、配線コネクタを用いると接続工程の増大や、接続ミスの危険性を招くことになる。
【0172】
そこで、図45に示されるように、本実施形態のドライバ回路基板22には、当該ドライバ回路基板22を貫通する第1孔24及び第2孔26が形成される。また第1孔24にはパワーモジュール300の信号端子325U及び信号端子325Lが挿入され、信号端子325U及び信号端子325Lはドライバ回路基板22の配線パターンと半田により接合される。さらに第2孔26には電流センサ180の信号線182が挿入され、信号線182はドライバ回路基板22の配線パターンとはんだにより接合される。なお、冷却ジャケット12との対向面とは反対側のドライバ回路基板22の面側からはんだ接合が行われる。
【0173】
これにより、配線コネクタを用いることなく信号線が接続できるので生産性を向上させることができる。また、パワーモジュール300の信号端子325と電流センサ180の信号線182を、同一方向からはんだにより接合されることにより、生産性を更に向上させることができる。また、ドライバ回路基板22に、信号端子325を貫通させるための第1孔24や、信号線182を貫通させるための第2孔26をそれぞれ設けることにより接続ミスの危険性を少なくすることができる。
【0174】
また、ドライバ回路基板22は、冷却ジャケット12と対向する面側に、ドライバICチップ等の駆動回路(図示せず)を実装している。これにより、はんだ接合の熱がドライバICチップ等に伝わることを抑制して、はんだ接合によるドライバICチップ等の損傷を防止している。また、ドライバ回路基板22に搭載されているトランスのような高背部品が、コンデンサモジュール500とドライバ回路基板22との間の空間に配置されるので、電力変換装置200全体を低背化することが可能となる。
【0175】
図46は、図45のB面で切り取った電力変換装置200をC方向から見た断面図である。モジュールケース304に設けられたフランジ304Bは、コンデンサケース502に設けれたフランジ515a又はフランジ515bによって冷却ジャケット12に押し付けられる。つまり、コンデンサセル514を収納したコンデンサケース502の自重を利用して、冷却ジャケット12にモジュールケース304を押しつけることにより、流路19の気密性を向上させることができる。
【0176】
パワーモジュール300の冷却効率を向上させるために、流路19内の冷媒をフィン305が形成された領域に流すようにする必要がある。モジュールケース304は薄肉部304Aならびに304A’のスペースを確保するために、モジュールケース304の下部にはフィン305が形成されていない。そこで下カバー420は、モジュールケース304の下部が、当該下カバー420に形成された凹部430に勘合されるように形成される。これにより、冷却フィンが形成されていない空間に冷媒が流れ込むことを防止することができる。
【0177】
図46に示されるように、パワーモジュール300とコンデンサモジュール500とパワーモジュール301の配列方向は、制御回路基板20とドライバ回路基板22とトランスミッション118の配列方向を横切るように並べて配置されている。特に、パワーモジュール300とコンデンサモジュール500とパワーモジュール301は、電力変換装置200の中では、最下層に並べて配置されている。これにより、電力変換装置200全体の低背化が可能となるとともに、トランスミッション118からの振動の影響を低減することができる。
【0178】
上述した実施の形態の作用効果をまとめると以下のようになる。
(1)図13に示すように、パワーモジュールは、一次封止体302と放熱部307Bとの間に配置され、放熱部307Bおよび少なくとも導体板315の放熱面の全域と接するように設けられた絶縁層333とを備える。そして、絶縁層333は、樹脂が含浸されたセラミックス溶射膜333Aおよび良熱伝導性のフィラーが混入された樹脂層333Bを積層した積層体と、その積層体の周囲端部を覆うように放熱部307Bと一次封止体32との隙間に設けられた樹脂部333Cとを有する。
【0179】
このように、空孔3330に樹脂を含浸した溶射膜333Aは、高熱伝導な絶縁シートのフィラー充填率よりも高い充填率(70〜97%)であるため熱伝導性に優れる。その結果、絶縁特性および熱伝導特性に優れた溶射膜333Aが得られ、絶縁特性および熱伝導特性を溶射膜333Aで確保することで、接着用樹脂としての樹脂層333Bを薄くすることができる。また、樹脂層333Bにフィラーを混入させることで、樹脂層333Bの熱伝導性能への影響を抑えることができる。
【0180】
さらに、図16に示すように、積層体の面積を導体板315,318の放熱面の面積よりも大きく設定して、積層体が少なくとも放熱面の全域と接するように設けられていることにより、半導体チップで発生した熱を導体板315,318から放熱部307A,307Bへと効果的に放熱することができる。なお、図16に示す例では、溶射膜333Aの面積を接着用樹脂層333Bよりも大きく設定しているが、いずれが大きくても良いし、同じ大きさでも構わない。さらに、樹脂部333Cを樹脂含浸のときに同時に形成しているが、積層体を形成した後に形成しても良い。
【0181】
樹脂層333Bによる接着温度や溶射による温度上昇は、従来のろう材を用いたセラミックス板の接合温度よりもはるかに低いため、モジュール作製時の熱応力を低減できる。また、溶射膜333Aの厚さを、従来の絶縁シートの厚さと同等にまで薄くでき、パワーモジュール絶縁部の放熱性を向上できる。また、溶射膜333Aはセラミックス粒子同士が溶着し一定の強度を有しているため、放熱部307Bと樹脂層333Bとを接着させる際の加圧力を増加することができ、ボイドの少ない樹脂層333Bにすることができる。加圧力を増加すると樹脂層333Bの厚さ変化が大きくなり薄くなるが、樹脂を含浸した溶射膜333Aにより絶縁性能を確保することができる。
【0182】
ところで、導体板315と放熱部307Bとの間の熱膨張係数差に起因して発生する積層体の熱応力は、接着面の外周部で大きくなる。特に、パワーモジュールの場合には、半導体チップに大電流が流れるため導体板315は発生熱で加熱され、熱膨張量の差が大きくなりやすい。しかしながら、積層体の周囲端部にそれらを覆うように樹脂部333Cを設けたので、積層体周囲端部における熱応力を緩和することができる。その場合、樹脂部333Cに使用される樹脂の弾性率を樹脂層333Bに使用される樹脂の弾性率よりも小さくすることで、応力緩和の効果をより高めることができる。また、樹脂部333Cにフィラーを混入させる場合には、樹脂部333Cのフィラー充填率を樹脂層333Bよりも小さくすることで弾性率の低下が小さくなり、同様の効果が得られるとともに、接着力が大きくなるため、剥離の発生や進展に対する耐性が向上する。
【0183】
(2)さらに、図25,26に示すように、一次封止体302や放熱部307B,307Aに凹凸部(凹部304e,348a、段差304f,348b)を形成し、その凹凸部に樹脂部333Cの樹脂が充填されるようにすることで、積層体周囲の樹脂量が増加し、上述した応力緩和効果をより高めることができる。さらに、凹凸部に樹脂が入り込むことによるアンカー効果により、応力の緩和効果がより大きくなる。
【0184】
(3)樹脂シート333Bに使用される樹脂を熱可塑性樹脂を主成分とした樹脂とし、加熱硬化する部位を有する組成物とし、樹脂333Dには室温から150℃の温度域での粘度が樹脂333Bよりも低い含浸性に優れる熱硬化性樹脂を選定することで、加圧する温度において、樹脂シート3332の粘度が樹脂層333Dよりも十分大きい状態となる加熱温度が広くとれ生産性が向上する。図23のように放熱部307Bと樹脂層333Bとを接着させる際の加圧力によって、溶射膜333Aと樹脂層333Bとの間の樹脂333Dが溶射膜333A内や積層体周方向に押し流される。その結果、溶射膜333Aの凹凸部に樹脂層333Bのフィラーが入り込み境界領域での熱伝導性能の低下を防止することができ、積層体の熱伝導性能の向上を図ることができる。これは、樹脂シート333Bに使用される樹脂をガラス温度が高い樹脂とし、樹脂333Dに樹脂シート333Bよりもガラス転移温度が低い樹脂を用いることで、樹脂シート333Bのガラス転移温度よりも低い温度で加熱すれば同様の効果を得ることができる。
【0185】
(4)空孔3330の大きさが溶射膜表面の凹凸の大きさよりも小さくなるように溶射膜333Aを形成し、樹脂層333Bに混入されているフィラーの大きさを溶射膜表面の凹凸の大きさよりも小さく、かつ、空孔3330の大きさよりも大きく設定する。そうすることで、樹脂層333Bのフィラーを空孔3330に入れずに溶射膜表面の凹部に入り込ませることができる。その結果、溶射膜333Aと樹脂層333Bとの界面における熱伝導性能を向上させることができる。樹脂はセラミックスや金属に比較して著しく熱伝導率が小さく、放熱経路に樹脂の濃化層(フィラーが少ない層)が存在するとモジュール全体の放熱性が低下する。そのため、上述のように設定して、溶射膜333Aの凹部に存在する樹脂層333B内にフィラーを存在させることが重要となる。なお、溶射膜333Aの表面凹凸の制御は、溶射条件である、溶射温度、基材の予熱温度、噴射速度、雰囲気、粉末粒径により制御できる。また、必要に応じて溶射後に研削や研磨やレーザ照射などの表面加工を施しても良い。
【0186】
(5)放熱部307Bの熱膨張係数が導体板315の熱膨張係数よりも大きい場合、例えば導体板315をAlやAl合金(AlSiCやAlCとAlの複合材など)とし、放熱部307BをCuやCu合金で形成した場合には、導体板315に熱膨張係数の大きな樹脂層333Bが配置され、放熱部307B側に熱膨張係数の小さな溶射膜333Aが配置されるように積層体を構成する。その結果、放熱部307Bから導体板315にかけて熱応力が傾斜され、積層体周囲端部における熱応力が緩和される。逆に、導体板315の熱膨張係数が放熱部307Bの熱膨張係数よりも大きい場合には、導体板側の熱膨張係数が放熱部側の熱膨張係数よりも大きくなるように積層体を構成すれば良い。樹脂層333Bの熱膨張係数は、フィラー充填量や樹脂の膨張係数を調整することで変化させることができる。溶射膜333Aの熱膨張係数は、含浸させる樹脂の熱膨張係数を調整することで変化させることができる。
【0187】
上述した各実施形態はそれぞれ単独に、あるいは組み合わせて用いても良い。それぞれの実施形態での効果を単独あるいは相乗して奏することができるからである。また、本発明の特徴を損なわない限り、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではない。
【符号の説明】
【0188】
156,166:ダイオード、300:パワーモジュール、302:一次封止体、304:モジュールケース、304A:薄肉部、306:挿入口、307,307A,307B、307D:放熱部、315,318,319,320:導体板、315a,318a,319a,320a:放熱面、328,330:IGBT、333:絶縁層、333A:溶射膜、333B:樹脂層、333C:樹脂部、333D:樹脂、333F:フィレット、348,351:封止樹脂、600:補助モールド体、3000:モジュール構造体、3330:空孔、3331:扁平体、3332:樹脂シート
【技術分野】
【0001】
本発明は、放熱性および信頼性に優れたパワーモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
省エネルギーの観点から、自動車には高燃費化が求められ、モータで駆動する電気自動車や、モータ駆動とエンジン駆動を組み合わせたハイブリッドカーが注目されている。自動車に用いる大容量の車載用モータは、バッテリの直流電圧では駆動や制御が困難であり、昇圧し交流制御するためパワー半導体素子のスイッチングを利用した電力変換装置が不可欠である。また、パワー半導体素子は通電により発熱するため、パワー半導体素子を搭載するパワーモジュールには、高い放熱能力を持つ絶縁層が求められる。
【0003】
例えば、このようなパワーモジュールとしては、パワー半導体チップ、パワー半導体チップを搭載する導体板、導体板を搭載する金属ベース板、および導体板と金属ベース板とを絶縁するセラミックス板からなる積層体を樹脂ケースでパッケージングして構造体とし、その構造体を冷却体へ取付ける構造が知られている。低コスト化を目的に例えば、特許文献1に記載の発明では、樹脂封止した導体板の放熱面側に対してセラミックス溶射膜を形成し、絶縁層として用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4023397号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した特許文献1に記載の絶縁層である溶射膜は、膜中に気孔が存在するため溶射後の状態ではパワーモジュールに必要な絶縁性能が不足し厚く形成する必要がある。また、膜中の気孔は熱伝導性能の劣化を引き起こす。そこで、樹脂を孔内へ含浸し絶縁性能と熱伝導性能を向上することが有効である。さらに、含浸樹脂により放熱冷却用の金属ベース板に接着すれば、グリスを介した取り付け方式に比較して優れた放熱性を付与できる。しかしながら、金属製の導体板や金属ベース板との熱膨張係数差に起因した熱応力によって絶縁層の周囲端部において亀裂や剥離が生じるという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るパワーモジュールは、半導体チップが搭載された導体板を、導体板の放熱面が露出するように樹脂で封止した封止体と、放熱面と対向するように配置された放熱部材と、封止体と放熱部材との間に配置された絶縁層と、を備え、絶縁層は、含浸用樹脂が含浸されたセラミックス溶射膜および良熱伝導性のフィラーが混入された接着用樹脂層を積層したものであって、放熱部材および少なくとも放熱面の全域と接するように設けられている積層体と、積層体の端部を全周にわたって覆うように、放熱部材と封止体との隙間に設けられた応力緩和用樹脂部とを有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、応力緩和用樹脂部を設けたことにより絶縁層の端部における応力を緩和することができ、パワーモジュールの信頼性向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に係るパワーモジュールの一実施の形態を示す図であり、パワーモジュールの外観斜視図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】パワーモジュール構造体3000を示す図である。
【図4】パワーモジュール300の回路図である。
【図5】一次封止体302の製造工程を示す図である。
【図6】一次封止体302の製造工程を示す図であり、図5の次の工程を示す図である。
【図7】一次封止体302の製造工程を示す図であり、図6の次の工程を示す図である。
【図8】一次封止体302の製造工程を示す図であり、封止樹脂348による封止後の状態を示す。
【図9】封止樹脂348のトランスファーモールド工程を説明する図である。
【図10】一次封止体302の斜視図である。
【図11】補助モールド体600を示す図である。
【図12】パワーモジュール構造体3000のモジュールケース304への封入を説明する図である。
【図13】図2の符号Bで示した部分の拡大図である。
【図14】溶射膜333Aが形成される前の一次封止体302を示す断面図である。
【図15】溶射膜333Aの形成工程を説明する図である。
【図16】溶射膜333Aの形成工程を説明する図であり、図16に続く工程を示す。
【図17】含浸作業後の一次封止体302を示す図である。
【図18】第2の実施の形態のパワーモジュールを示す断面図である。
【図19】パワーモジュールの組み立て工程を説明する図である。
【図20】絶縁層333が形成されたモジュールケース304に一次封止体302を挿入した状態を示す図である。
【図21】絶縁層333が形成された放熱部307Bを示す図である。
【図22】第3の実施の形態を説明する図である。
【図23】積層体の第1の形成方法を説明する図である。
【図24】積層体の他の形成方法を説明する図である。
【図25】第1の変形例を示す図である。
【図26】第2の変形例を示す図である。
【図27】樹脂封止型の片面冷却パワーモジュール300の構成を説明する図である。
【図28】放熱部307への接着を説明する図である。
【図29】一次封止体302を一対の放熱部307Dで挟持する構成のパワーモジュール300を示す図である。
【図30】第5の実施の形態を説明する図であり、樹脂が含浸された溶射膜333Aと樹脂層333Bとの積層体の周方向端部を示す拡大図である。
【図31】絶縁層333の絶縁性能(絶縁破壊電圧)を説明する図である。
【図32】絶縁層333の絶縁性能(部分放電電圧)を説明する図である。
【図33】絶縁層の構成に関する比較例を示す図である。
【図34】比較例と本発明の熱伝導率を説明する図である。
【図35】ハイブリッド自動車の制御ブロックを示す図である。
【図36】インバータ部の電気回路構成を説明する。
【図37】電力変換装置200の設置場所を説明するための分解斜視図を示す。
【図38】電力変換装置200の分解斜視図である。
【図39】流路19を有する冷却ジャケット12の下面図である。
【図40】コンデンサモジュール500の分解斜視図である。
【図41】冷却ジャケット12にパワーモジュールとコンデンサモジュールとバスバーモジュールを組み付けた外観斜視図である。
【図42】パワーモジュールとコンデンサモジュールを組み付けた冷却ジャケット12とバスバーモジュール800の分解斜視図である。
【図43】保持部材803を除いたバスバーモジュール800の外観斜視図である。
【図44】パワーモジュールとコンデンサモジュールとバスバーモジュール800と補機用パワーモジュール350を組み付けた冷却ジャケット12の外観斜視図である。
【図45】制御回路基板20と金属ベース板11を分離した電力変換装置200の分割斜視図である。
【図46】電力変換装置200を図45のC方向から見た断面図である。
【図47】溶射膜333Aを放熱部307B側に形成した場合の段差構造を示す図である。
【図48】溶射膜333Aを一次封止体302側に形成した場合の段差構造を示す図である。
【図49】第6の実施の形態を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態について説明する。
−第1の実施の形態−
図1〜17は、本発明によるパワーモジュールの第1の実施の形態を示す図である。図1はパワーモジュールの外観斜視図である。図2は、図1のA−A断面図である。パワーモジュール300は、スイッチング素子を含みトランスファーモールドされたパワー半導体ユニットを、モジュールケース304内に収納したものである。パワーモジュール300は、例えば、電気自動車やハイブリッド自動車等の電気車両に搭載される電力変換装置に用いられる。
【0010】
図2に示すように、パワーモジュール300は、図3に示すパワーモジュール構造体3000をCAN型冷却器であるモジュールケース304の内部に収納したものである。ここで、CAN型冷却器とは、一面に挿入口306と他面に底を有する筒形状をした冷却器である。モジュールケース304は、電気伝導性を有する部材、例えばCu、Cu合金、Cu−C、Cu−CuOなどの複合材、あるいはAl、Al合金、AlSiC、Al−Cなどの複合材などから形成されている。また、溶接など防水性の高い接合法で、あるいは鍛造、鋳造法などにより、つなぎ目の無い状態でケース状に一体成形されている。
【0011】
モジュールケース304は、挿入口306以外に開口を設けない扁平状のケースであり、扁平状ケースの挿入口306にはフランジ304Bが設けられている。扁平状ケースの面積の広い対向する2つの面の一方には放熱部307Aが設けられ、他方の面には放熱部307Bが設けられている。放熱部307Aおよび放熱部307Bはモジュールケース304の放熱壁として機能するものであり、それらの外周面には複数のフィン305が均一に形成されている。放熱部307Aおよび放熱部307Bを囲む周囲の面は、厚さが極端に薄く容易に塑性変形可能な薄肉部304Aとなっている。薄肉部304Aを極端に薄くすることで、放熱部307Aおよび放熱部307Bをケース内側方向に加圧した際に、容易に変形することができる。なお、モジュールケース304の形状は、正確な直方体である必要がなく、図1に示すように角が曲面を形成していても良い。
【0012】
図3は、モジュールケース304に収納されるパワーモジュール構造体3000を示す図である。図3(a)はパワーモジュール構造体3000の斜視図であり、図3(b)はC−C断面図である。なお、C−C断面は、図1のA−A断面と同一の部分の断面である。パワーモジュール構造体3000は、一次封止体302と補助モールド体600とから成る。一次封止体302と補助モールド体600とは接続部370において接続されている。接続部370における金属接合には、たとえばTIG溶接などを用いることができる。補助モールド体600に設けられた配線絶縁部608を、図1に示すようにネジ309によってモジュールケース304のフランジ304Bに固定することにより、モジュールケース304内においてパワーモジュール構造体3000が位置決めされる。
【0013】
(一次封止体302の説明)
次に、図4〜11を用いて、一次封止体302の構成を説明する。図4は、パワーモジュール300の回路図である。図5〜11は一次封止体302の製造工程を示す図である。パワーモジュール300は、上アーム用IGBT328と下アーム用IGBT330とを直列したものであり、半導体素子としては、IGBT328,330およびダイオード156,166を備えている。これらの半導体素子のチップ(以下では半導体チップと呼ぶ)は図5に示すように板状であって、半導体チップの表裏面に電極が形成されている。
【0014】
上アーム用IGBT328のコレクタ電極と上アーム用ダイオード156のカソード電極は導体板315に接続され、IGBT328のエミッタ電極とダイオード156のアノード電極は導体板318に接続されている。下アーム用IGBT330のコレクタ電極と下アーム用ダイオード166カソード電極は導体板320に接続され、IGBT330のエミッタ電極とダイオード166のアノード電極は導体板319に接続されている。導体板318と導体板320とは、中間電極159を介して接続されている。中間電極159により上アーム回路と下アーム回路とが電気的に接続され、図4に示すような上下アーム直列回路が形成される。なお、導体板315,318,319,320としては、Cu,Al,Ni,Au,Ag,Mo,Fe,Coなどの金属、それらの合金、複合体が用いられる。
【0015】
図5に示すように、直流正極側の導体板315および交流出力側の導体板320と、上アーム用信号接続端子327Uおよび下アーム用信号接続端子327Lとは、共通のタイバー372に繋がれた状態で、これらが略同一平面状の配置となるように一体的に加工される。上アーム用信号接続端子327Uには、IGBT328の制御電極328Aがボンディングワイヤにより接続される。下アーム用信号接続端子327Lには、IGBT330の制御電極330Aがボンディングワイヤにより接続される。導体板315,320の半導体チップ(IGBT328,330、ダイオード156,166)が接合される部分には凸状のチップ固着部322がそれぞれ形成されている。各半導体チップは、それらのチップ固着部322の上に金属接合材160によって接合される。金属接合材160には、例えば、はんだ材や銀シート及び微細金属粒子を含んだ低温焼結接合材等が用いられる。また、金属接合材160には錫を主成分としたハンダを用いる事が望ましいが、金、銀、銅のいずれかを主成分としたものやロウ材やペースト等を用いることもできる。
【0016】
IGBT328,330およびダイオード155,166の上には、金属接合材160を介して導体板318と導体板319が略同一平面状に配置され、金属接合される。図4に示したように、導体板318には、上アーム側のIGBT328のエミッタ電極と上アーム側のダイオード156のアノード電極が接合される。導体板319には、下アーム側のIGBT330のエミッタ電極と下アーム側のダイオード166のアノード電極が接合される。導体板315には直流正極接続端子315Dが形成されている。導体板320には交流接続端子320Dが形成されている。導体板319には直流負極接続端子319Dが形成されている。
【0017】
上述したように、導体板315と導体板318の間にIGBT328及びダイオード156を挟み込むと共に、導体板320と導体板319の間にIGBT330及びダイオード166を挟み込み、導体板320と導体板318とを中間電極329により接続すると、図6に示す状態となる。さらに、IGBT328の制御電極328Aと信号接続端子327Uとをボンディングワイヤ371により接続すると共に、IGBT330の制御電極330Aと信号接続端子327Lとをボンディングワイヤ371により接続すると、図7に示す状態となる。
【0018】
図7に示す状態に組み立てた後、半導体チップ(IGBT328,330、ダイオード156,166)およびボンディングワイヤ371を含む部分を封止樹脂348により封止する。この封止はトランスファーモールドにより行われる。図9に示すように、符号373で示す部分(金型押圧面)を上下からトランスファーモールド用金型で押さえ、封止樹脂348を金型内に充填して成形を行う。
【0019】
図9はトランスファーモールド工程を説明するための図である。図9において、(a)は型締め前の縦断面図を示しており、(b)は型締め後の縦断面図を示している。図9(a)に示すように、図7に示した封止前の一次封止体302は、上側金型374Aと下側金型374Bの間に設置される。上側金型374Aおよび下側金型374Bが一次封止体302を上下から金型押圧面373において挟み込んで型締めすることで、図9(b)に示すように金型空間375が金型内に形成される。この金型空間375に封止樹脂348を充填して成形することで、一次封止体302において半導体チップ(IGBT328,330およびダイオード155,166)が封止樹脂348により封止される。
【0020】
封止樹脂348としては、例えばノボラック系、多官能系、ビフェニル系のエポキシ樹脂系を基とした樹脂を用いることができ、SiO2,Al2O3,AlN,BNなどのセラミックスやゲル、ゴムなどを含有させ、熱膨張係数を導体板315,320,318,319に近づける。これにより、部材間の熱膨張係数差を低減でき、使用環境時の温度上昇にともない発生する熱応力が大幅に低下するため、パワーモジュールの寿命をのばすことが可能となる。
【0021】
なお、図8に示したように、金型押圧面373では、直流正極接続端子315D、直流負極接続端子319D、交流接続端子320D、信号接続端子327Uおよび信号接続端子327Lが一列に並べて配置されている。こうした端子配置とすることで、上側金型374Aおよび下側金型374Bを用いて、各端子と半導体チップとの接続部において余分な応力を発生させずに、かつ隙間なく型締めを行うことができる。したがって、半導体チップとの破損を招いたり、あるいは封止樹脂348が隙間から漏出したりすることなく、半導体チップとの封止を行うことができる。また、封止樹脂348の一方の表面には導体板318,319の表面(放熱面)が露出し、反対側の面には、導体板315,320の表面(放熱面)が露出している。
【0022】
図8に示すように封止樹脂348により封止した後、タイバー372を切除して、直流正極接続端子315D、交流接続端子320D、信号接続端子327U、327Lをそれぞれ分離する。そして、一次封止体302の一辺側に一列に並べられている直流正極接続端子315D、直流負極接続端子319D、交流接続端子320D、信号接続端子327U、327Lの各端部を、図10のようにそれぞれ同一方向に折り曲げる。これにより、接続部370において一次封止体302と補助モールド体600とを金属接合する際の作業を容易化して生産性を向上すると共に、金属接合の信頼性を向上することができる。
【0023】
図11は補助モールド体600を示す図であり、(a)は斜視図、(b)はD−D断面図である。補助モールド体600は、直流正極配線315A、直流負極配線319A、交流配線320A、信号配線324Uおよび信号配線324Lを備えている。直流正極配線315A、直流負極配線319A、交流配線320A、信号配線324Uおよび信号配線324Lは、樹脂材料で成形された配線絶縁部608によって、相互に絶縁された状態で一体に成型されている。配線絶縁部608は各配線を支持するための支持部材としても作用し、配線絶縁部608に用いる樹脂材料には、絶縁性を有する熱硬化性樹脂かあるいは熱可塑性樹脂が適している。これにより、直流正極配線315A、直流負極配線319A、交流配線320A、信号配線324Uおよび信号配線324Lの間の絶縁性を確保でき、高密度配線が可能となる。
【0024】
直流正極配線315Aの上端には直流正極端子315Bが形成され、下端には、直流正極接続端子315Cが直角に折れ曲がるように形成されている。直流負極配線319Aの上端には直流負極端子319Bが形成され、下端には、直流負極接続端子319Cが直流正極接続端子315Cと同方向に折れ曲がるように形成されている。交流配線320Aの上端には交流端子320Bが形成され、下端には、交流接続端子320Cが直流正極接続端子315Cと同方向に折れ曲がるように形成されている。信号配線324U、324Lの上端には、それぞれ信号端子325U、325Lが形成されている。一方、信号配線324U、324Lの下端には、信号接続端子326Uおよび信号接続端子326Lが直流正極接続端子315Cと同方向に折れ曲がるように形成されている。
【0025】
このように、補助モールド体600側の接続部370を構成するする直流正極接続端子315C、直流負極接続端子319C、交流接続端子320C、信号接続端子326Uおよび信号接続端子326Lは、図11(a)に示すように一列に並べて配置されている。そして、補助モールド体600側の接続部370(326U,315C,319C,326L,320C)は、図10に示すように一列に並べて配置されている一次封止体302側の接続部370(327U,315D,319D,327L,320D)と接続される。接続には、例えば、TIG溶接などを用いることができる。
【0026】
図3に示すようなパワーモジュール構造体3000が完成したならば、図12(a)に示すようにパワーモジュール構造体3000をモジュールケース304に挿入し、補助モールド体600の配線絶縁部608をモジュールケース304のフランジ304Bに固定する。その挿入の際に、パワーモジュール構造体3000の一次封止体302とモジュールケース304の放熱部307A,307Bとの間に、電気的な絶縁を図るための絶縁層333が配設される。絶縁層333の詳細については後述する。そして、図12(b)の矢印で示すように放熱部307A,307Bをケース内側に加圧して薄肉部304Aを変形させ、放熱部307A,307Bを一次封止体302に密着させる。その後、モジュールケース304内に封止樹脂351を充填して封止することで、接続部370とモジュールケース304との間で必要な絶縁距離を安定的に確保することができる。
【0027】
封止樹脂351としては、例えばノボラック系、多官能系、ビフェニル系のエポキシ樹脂系を基とした樹脂を用いることができる。また、エポキシ樹脂に対してはSiO2,Al2O3,AlN,BNなどのセラミックスやゲル、ゴムなどを含有させ、熱膨張係数をモジュールケース304や導体板315,320,318,319に近づける。これにより、部材間の熱膨張係数差を低減でき、使用環境時の温度上昇にともない発生する熱応力が大幅に低下するため、パワーモジュールの寿命をのばすことが可能となる。
【0028】
(絶縁層333の説明)
図13は絶縁層333の構造を説明する図である。図13は、図2の符号Bで示した部分の拡大図である。一次封止体302と放熱部307Bとによって挟まれるように絶縁層333が設けられている。絶縁層333は、絶縁性の酸化物やセラミックスの粉体を溶射して形成された溶射膜333Aの層と、絶縁性の樹脂層333Bと、溶射膜333Aと樹脂層333Bの積層体の周囲端部(縁の部分)に設けられた絶縁性の樹脂部333Cとを備えている。樹脂部333Cは、積層体の側面周囲の全周に設けられている。溶射膜333Aは一次封止体302側に形成されており、溶射膜333Aと放熱部307Bとの間に樹脂層333Bが形成されている。
【0029】
溶射膜333Aに形成される空孔3330には絶縁性の樹脂が含浸されている。図13に示す例では、含浸用樹脂には樹脂部333Cと同じ樹脂が用いられている。また、樹脂層333Bを構成する樹脂には、熱伝導性能を高めるためにフィラーが混入されている。溶射膜333Aと樹脂層333Bとの積層体の周囲端部に設けられた樹脂部333Cは、積層体の周囲端部が露出しないように封止樹脂348と放熱部307Bとの隙間に形成されている。溶射膜333Aの表面は凹凸面となっており、溶射膜333Aの内部には多数の空孔3330が形成される。樹脂層333Bは、その一部が溶射膜333Aの凹凸面に入り込むように設けられている。
【0030】
図14〜17は絶縁層333の形成工程を説明する図である。図14は、一次封止体302への溶射膜333Aの形成を説明する図であり、溶射膜333Aが形成される前の一次封止体302を示す断面図である。上述したように、対向配置された一対の導体板315,318と一対の導体板320,319は、図14の紙面に垂直な方向に並ぶように配置されている。導体板315,318に挟まれるようにIGBT328およびダイオード156が配置され、導体板320,319に挟まれるようにIGBT330およびダイオード166が配置されている。これらは封止樹脂348によって封止されているが、導体板315,318,319,320の放熱面315a,318a,319a,320a(半導体チップが接合されている面と反対側の面)は封止樹脂348から露出している。図14の断面図は図3のC−C断面と同一部分を断面したものであって、導体板315,318の部分の断面図である。
【0031】
〈溶射膜333Aの形成〉
図13に示したような絶縁層333を形成するために、まず、図15(a)に示すように一次封止体302の両面に溶射膜333Aを形成する。図15(b)は、図15(a)の符号Eで示す部の拡大図である。溶射膜333Aは、放熱面315a,318a,319a,320aの領域が含まれるように形成され、溶射膜333Aの縁の部分は封止樹脂348上に形成されている。溶射膜333Aは絶縁体であり、酸化物やセラミックスの粉体を溶射して作製する。本実施の形態ではプラズマ溶射法によりセラミックスの溶射膜333Aを形成しているが、他の溶射法、例えばアーク溶射法、高速フレーム溶射法等を用いても良い。
【0032】
溶射による導体板315,318,319,320の温度上昇は、例えばろう材を用いて導体板とセラミックス板を接合するよりもはるかに小さく、溶融、熱劣化、反りなどの熱変形も小さい。例えば、溶射膜333Aをプラズマ溶射法により形成する場合には、一次封止体302の温度上昇は100〜180℃程度となる、そのため、封止樹脂348、金属接合材160、IGBT328,330およびダイオード156,166の熱劣化を防止できる。金属接合材160による半導体素子の接合は220〜300℃程度の温度範囲でなされるので、この接合後に溶射膜333Aを形成しても問題ない。
【0033】
一方、導体板315に溶射膜333Aを形成してから半導体素子を接合するような逆の手順で行なった場合には、半導体素子の接合温度が220〜300℃程度と溶射膜形成時の温度上昇より高いため、熱膨張係数の小さい溶射膜333Aと熱膨張係数の大きな導体板315,318,319,320との積層部に発生する熱応力が溶射時よりも大きくなる。すなわち、半導体素子を接合してから溶射膜333Aを形成する手順の方が、熱応力は低減される。
【0034】
また、導体板315,318,319,320の溶射膜333Aが形成される面(放熱面)を、サンドブラストやエッチングなどにより粗化加工することによって、導体板315,318,319,320と溶射膜333Aとの間の接合強度を向上させることができる。さらに、図15(a)に示すように、一次封止体302は封止樹脂348によって封止されているため、溶射処理時に半導体チップ(IGBT328,330およびダイオード156,166)やボンディングワイヤ371などへの物理的、化学的な影響を、封止樹脂348によって防止することができる。そのため、溶射のための複雑なマスキングを施す必要がなく、生産性に優れている。
【0035】
上述したサンドブラストやエッチングなどの粗化処理は、以下のような利点を有している。トランスファーモールドを行った際に、導体板315,318,319,320の放熱面の一部が封止樹脂348により被覆される場合があるが、上述したサンドブラストによる粗化を行うことで、放射面上の封止樹脂348を除去することができる。封止樹脂348は導体板よりも熱伝導率が低いため、放熱面から除去できることで放熱性が向上する。
【0036】
また、封止樹脂348の除去や一次封止体302の平面度向上のために、導体板の放熱面の部分を研削したり研磨したりする場合がある。そのような加工を行った場合、加工条件によっては(例えば、加工時間短縮のために切削、研磨の速度を上げた場合)導体板上の表面粗さが過大となったり、導体板と封止樹脂348との境界にバリが形成されたりして電界集中のおそれがある。しかし、溶射膜前処理にサンドブラストやエッチングをすることにより、これらの欠陥を除去することができ、絶縁信頼性の向上を図ることができる。
【0037】
溶射膜333Aを形成するための粉末としては、アルミナ,シリカ,マグネシア,ベリリアなどの酸化物、窒化アルミ,窒化珪素,窒化硼素などの窒化物、シリコンカーバイドなどの炭化物といった高熱伝導なセラミックスの粉体から選ぶのが好ましい。また、これら単体組成に限らず、単体組成や酸化物と窒化物あるいは炭化物との複合組成、あるいは混合粉末を用いても良い。
【0038】
ところで、導体板315,318,319,320および封止樹脂348上に形成される溶射膜333Aは、図15(b)に示すように、上述のセラミックスが凝固し形成された扁平体3331の集合体状になっており、扁平体3331が層を成すように堆積している。このように、プラズマ溶射法などにより、セラミックスの粉末を部分的あるいは完全溶融状態で基材(導体板315,318,319,320および封止樹脂348)に衝突させると、セラミックスは基材表面に扁平形状で溶着し、溶着して凝固した扁平体3331の上にもさらに溶着することになる。
【0039】
これにより、三次元的には扁平体3331同士や、扁平体3331と導体板315,318,319,320および封止樹脂348内のセラミックスフィラーや樹脂に対して、その当接している界面で溶着面を形成し強固に接合している。そのため、一次封止体302に溶射膜333Aを形成した後に、前述のように接続部370において一次封止体302と補助モモジュール600とをTIG溶接等により金属接合する際に(図3参照)、溶射膜333Aに剥離や欠けなどが生じにくくなる。なお、マスキングをすれば部分的に溶射膜333Aを形成できるので、一次封止体302と補助モールド体600とを金属接合した後に、溶射膜333Aを形成するようにしても良い。なお、前述したように、導体板315,318,319,320としては、Cu,Al,Ni,Au,Ag,Mo,Fe,Coなどの金属、それらの合金、複合体が用いられる。
【0040】
〈樹脂層333Bの形成〉
次に、図16を用いて、絶縁層を構成する樹脂層333Bの形成について説明する。図15に示すように一次封止体302の両面に溶射膜333Aを形成したならば、その溶射膜333Aの上に、樹脂層333Bを形成する。図16(b)は、E部の拡大図である。なお、この段階では、溶射膜333A上に形成された樹脂層333Bの表面には保護フィルム352が設けられている。
【0041】
樹脂層333Bは、一次封止体302の溶射膜333Aが形成されている面をモジュールケース304の放熱部307A,307Bに接着するものであって、樹脂層333Bには充分な接着性と高い熱伝導性が要求される。そのため、樹脂層333Bを構成する樹脂には、接着性のあるフェノール系,アクリル系,ポリイミド系,ポリアミドイミド系,エポキシ系,シリコン系,ビスマレイミドトリアジン系,シアネートエッセル系を基にした樹脂等が用いられる。特に、接着性が高いビスマレイミドトリアジン系,ポリアミドイミド系,ポリイミド系,シアネートエッセル系,エポキシ系,フェノール系を基にした樹脂を用いるのが好ましく、接着後に剥離し難くパワーモジュールの寿命が高まる。
【0042】
また、半導体素子(IGBT328,330およびダイオード156,166)から発生する熱をモジュールケース304の放熱部307A,307Bに効率良く伝えるため、樹脂層333Bには高い熱伝導率が要求される。そのため、上記樹脂に熱伝導性向上のための良熱伝導性のフィラーを混入したものが、樹脂層333Bに用いられる。樹脂層333Bに混入させるフィラーは絶縁性を有したものが良く、アルミナ,シリカ,マグネシア,ベリリアなどの酸化物、窒化アルミ,窒化珪素,窒化硼素などの窒化物、シリコンカーバイドなど炭化物などの高熱伝導なセラミックスのフィラーがより好ましいが、樹脂を含浸した333Aで絶縁できるため、銀や銅やはんだやカーボンなど電気伝導性を有するフィラーも用いることが可能である。
【0043】
溶射膜333A上に樹脂層333Bを形成する場合には、先ず、フィラーが混入された上記樹脂から成る樹脂シート3332を用意する(図16(a)参照)。樹脂シート3332は、取り扱いが容易なように表裏両面に保護フィルム352が設けられている。保護フィルム352には、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレンテレフタレート、テフロン(登録商標)など、後述する仮圧着後に容易に剥離できるものを用いれば良い。
【0044】
図16(c)に示すように、樹脂シート3332の片面の保護フィルム352を剥がし、矢印で示すように樹脂シート3332を溶射膜333A上に仮圧着することで、溶射膜333A上に樹脂層333Bが形成される。仮圧着された樹脂層333Bは、後述する工程において一次封止体302をモジュールケース304に収納した後、樹脂層333Bと放熱部307A,307Bとの接着のために最終的な圧着作業が行われる。そのため、図16に示す工程での仮圧着においては、樹脂成分が半硬化以下の状態(例えば、樹脂成分の硬化度が約80%以下である状態)となるように圧着時の温度条件および加圧条件を設定する。
【0045】
この仮圧着により、樹脂シート3332の一部が、溶射膜333Aの表面凹凸部や表面付近の空孔内に入り込む。なお、樹脂シート3332に混入されているフィラーの粒径分布は、樹脂とともに溶射膜333Aの凹凸部に入り込める程度に設定される。その結果、図16(b)に示すような樹脂層333Bが形成される。このように樹脂層333Bの一部が溶射膜333Aの凹凸部に入り込むことで、アンカー効果による接着強度の向上と放熱性の向上とを図ることができる。
【0046】
樹脂層333Bの形成範囲については、導体板315,318の放熱面315a,318a(図14)の面積よりも広い範囲で行うと、放熱性を最も高くできる。ただし、封止樹脂348の熱伝導率が導体板315,318,319,320よりも十分小さいため、熱伝導率が高い樹脂層333Bの形成範囲は、図16(a)に示すように導体板よりもやや広い範囲で十分である。なお、後述する溶射膜333Aの空孔3330への樹脂の含浸作業を考慮して、本実施形態では、樹脂層333Bの形成範囲は溶射膜333Aの面積よりも小さくする必要がある。図16(b)ではYで示す空白範囲が含浸作業領域を示している。
【0047】
なお、図16(c)に示した例では、樹脂シート3332を溶射膜333Aに圧着して樹脂層333Bを形成したが、溶射膜333Aの表面にフィラーを混入させた樹脂を塗布して樹脂層333Bを形成しても良い。その場合、マスクを設置して所定領域のみに塗布されるようにする。すなわち、樹脂を含浸させるために利用する溶射膜333Aの外周領域にマスクを設置する。
【0048】
〈樹脂の含浸〉
図16に示すように溶射膜333Aの上に樹脂層333Bを形成したならば、溶射膜333Aの空孔3330に樹脂を含浸させる。ところで、溶射膜333Aは、セラミックス充填率で最大95%程度まで充填することができる。しかし、図13に示すように三次元的な貫通孔(空孔3330)が形成されているため、樹脂が含浸される前の溶射膜333Aの絶縁特性や熱伝導率は空孔3330の影響によって低下する。また、溶射膜333A内に三次元的な貫通孔が形成されているため、そのままでは温度昇降に伴う熱応力での割れ感受性が高いという問題がある。
【0049】
そこで、絶縁、放熱および熱サイクル耐性を向上できるように、溶射膜333A内の空孔3330に樹脂を含浸する。ここで、含浸用の樹脂は、樹脂層333Bに用いられる樹脂と同一にする方が、硬化時の親和性が高く接着性を高めることができるので好ましい。また、含浸を行う際には、溶射膜333Aの空孔3330とそこに含浸する樹脂との密着性を高めるために、空孔3330にエッチング処理やカップリング処理を施すのが好ましい。
【0050】
さらに、パワーモジュールは求められる機能に必要な部材で構成されるため、図13に示すように、金属の導体板315、樹脂が含浸されたセラミックス溶射膜333A、樹脂層333Bおよび金属の放熱部307Bのように様々な熱膨張係数の部材を積層した構造となる。このように、様々な熱膨張係数の部材を接合や接着すると、応力が積層体の端部に集中し端部から剥離が発生、進展していくことになる。例えば、導体板315にCuを用いた場合にはその熱膨張係数αは17程度となり、モジュールケース304にAlを用いた場合には放熱部307Bの熱膨張係数αは23程度となる。この熱膨張係数の違いにより、全体の温度が上昇すると積層体に剥離や割れ等が発生しやすくなる。
【0051】
本実施の形態では、このような端部の応力集中を緩和するために、図13に示すように、フィラーを含む樹脂層333Bと溶射膜333Aとの積層体の端部周囲に樹脂部333Cを形成するようにした。図13に示す例では、樹脂部333Cは、樹脂層333Bおよび溶射膜333Aの端部を覆うとともに、それらの外周方向に延在している。本実施の形態では、樹脂部333Cは、含浸用樹脂と同一の樹脂が用いられており、樹脂が含浸された溶射膜333Aは勿論のことフィラーを含む樹脂層333Bに比べて弾性係数が小さい、または接着強度が高い。そのため、この樹脂部333Cを設けることによって、端部の応力緩和や応力集中する端部の剥離発生や進展を抑制することが可能となる。なお、この周囲の樹脂部333Cは封止樹脂348と放熱部307Bとの間に配置されるものなので、絶縁層333のその部分の熱伝導率が低くても、パワーモジュールの放熱性に対する影響はほとんど無い。
【0052】
樹脂の溶射膜333Aへの含浸を行う場合には、図16に示した含浸作業領域Yから溶射膜333Aに樹脂(樹脂部333Cと同じ樹脂)を含浸する。図17は、含浸作業後の一次封止体302を示す図である。含浸作業領域Yに対して樹脂の含浸を行うと、毛細管現象により、樹脂層333Bと導体板315との間の溶射膜333Aの空孔3330にも樹脂が含浸される。そして、この含浸作業時に、含浸に用いる樹脂を用いて上述した樹脂部333Cを形成する。
【0053】
図17に示すように、空孔3330に樹脂が含浸されることにより、溶射膜333Aの絶縁、放熱および熱サイクル耐性が向上する。また、溶射膜333Aの樹脂層333Bが接着された箇所においては、樹脂層333Bと溶射膜333Aの表面凹凸部との間は密着していて、含浸用樹脂は入り込むことはできない。そのため、樹脂の含浸によって溶射膜333Aと樹脂層333Bとの間の熱伝導性が影響を受けることはない。
【0054】
なお、減圧状態にして含浸作業を行うことにより、空孔3330内の残留ガスが含浸用樹脂内に巻き込まれてボイドが発生したり、未充填領域が発生したりするのを防止することができる。また、ディスペンサーなどを用いて含浸作業領域Yの1箇所あるいは1辺から注入することにより、注入された含浸用樹脂が樹脂層333Bと導体板315との間を流れて、他の辺から溢れ出る。その際に、空孔3330内の残留ガスは、樹脂に押し流されるように他辺から排出される。その結果、残留ガス巻き込みによるボイドの発生を防止できる。この溢れ出た含浸用樹脂は、上述した応力緩和用の樹脂部333Cを形成する。すなわち、樹脂含浸時に積層体端部の樹脂部333Cも形成する。なお、含浸用樹脂が他の辺から溢れ出ることにより、含浸用樹脂が樹脂層333Bと導体板315との間の空孔3330に充填されたことを、容易に確認することができる。なお、注入は常圧で行い、注入後に減圧状態にして樹脂中のガスを放出させるようにしても良い。
【0055】
含浸用樹脂は粘度が低い方が好ましいので、本実施の形態では粘度を低くするためにフィラーは混入させていない。セラミックスの溶射膜333Aは、空孔3330を樹脂によって含浸すれば充分な熱伝導性が得られるので、含浸用樹脂にはフィラーを混入させなくても良い。ただし、供給時の粘度調整のために、含浸可能な粘度範囲であればフィラーを混入させても良い。さらに、弾性係数が小さいあるいは接着力を樹脂層333Bよりも向上できるように、樹脂層333B内に存在するフィラー含有率よりも小さい範囲にする。また、含浸用樹脂の粘度を低くするために溶剤成分を増加しても良い。含浸用樹脂は樹脂層333Bに用いられる樹脂と同一でも良いし、異なる樹脂でも良い。
【0056】
なお、含浸プロセスやその後の溶剤の除去時に加熱する際は、樹脂層333Bが半硬化状態よりも硬化進行度が進行しない温度や時間とする。また、図17に示すように、仮付けした樹脂層333Bに保護フィルム352を設けておくと、樹脂層333Bの表面(放熱部307Bに対向する面)に熱伝導率を下げる樹脂(充填用樹脂)の付着を防止できるため、生産性の向上が図れる。
【0057】
〈一次封止体302のモジュールケース304への封入〉
図17に示すように溶射膜333Aに樹脂を含浸したならば、その一次封止体302をモジュールケース304内に封入する。まず、一次封止体302の樹脂層333Bの表面に貼り付けられていた保護フィルム352(図16(b)参照)を剥がし、図12(a)のように、一次封止体302をモジュールケース304内に挿入する。そして、所定の温度条件および加圧条件で図12(b)の矢印方向に放熱部307A,307Bを加圧して、放熱部307A,307Bを樹脂層333Bに接着させる。その後、モジュールケース304内に封止樹脂351を充填して封止する。
【0058】
このように、溶射膜333Aと放熱部307Bとの間に樹脂層333Bを設けることにより、一次封止体302の放熱部307Bと接触する面(接着面)が平坦化され、一次封止体302と放熱部307Bとの間におけるボイド発生を防止することができる。
【0059】
なお、溶射膜333Aと放熱部307Bとの間に設けられた樹脂層333Bの厚さは、薄いほど熱抵抗が減少し絶縁層333の放熱性が向上する。しかし、仮付けした樹脂層333Bの厚さが薄すぎると、放熱部307B内面の表面粗さを吸収できない。そのため、溶射膜333Aに仮付けした樹脂層333Bの最小厚さは、放熱部307B内面の最大表面粗さRmaxを吸収できる範囲よりも大きくすることが望ましい。この厚さ調整は、樹脂シート3332の厚さを調整することで容易にできる。仮付けされた状態における樹脂層333Bの最大厚さは、例えば10〜50μmの範囲で調整され、好ましくは10〜30μmの範囲となる。
【0060】
接着用樹脂層333Bに混入しているフィラーの体積率は、5〜80%の範囲とする。ただし、体積率が大きいほど熱伝導率が高くなり放熱性が向上するが、接着強度が劣化するため、好ましくは30〜60%の範囲がよい。また、接着面となる放熱部307B側にサンドブラストやディンプルなどの物理的な粗化処理、エッチング、陽極酸化、化成処理などの化学的な粗化処理を施したり、樹脂に対し接着性の高い層とめっきやスパッタやカップリング処理で設けたりすることで相対的に接着強度を向上できる。そのため、樹脂層333Bに混入させるフィラーの体積率をより増加させることが可能となる。
【0061】
−第2の実施の形態−
図18〜21は、第2の実施の形態を示す図である。図18はパワーモジュールの断面図である。なお、一次封止体302の補助モールド体600については図示を省略した。第1の実施の形態ではモジュールケース304を一体形成していたが、第2の実施の形態では、モジュールケース304はケース枠体と一対のケース側面部とで構成されている。ケース枠体は、肉厚のフランジ304Bと枠部304Dとから成る。一対のケース側面部304Cの一方(図示左側)は、フィン305が形成された放熱部307Aと、その周囲を囲む薄肉部304Aとから成る。他方のケース側面部304Cは、フィン305が形成された放熱部307Aと、その周囲を囲む薄肉部304Aとから成る。薄肉部304Aをケース枠体に金属接続することにより、モジュールケース304が形成されている。
【0062】
本実施の形態では、放熱部307A,307B側に溶射膜333Aが形成され、導体板315,318側に樹脂層333Bが形成されている。溶射膜333Aには樹脂が含浸されている。また、樹脂が含浸された溶射膜333Aと樹脂層333Bで構成される積層体の周囲端部には端部を覆うように樹脂部333Cが設けられている。
【0063】
図19〜21は、パワーモジュールの組み立て工程を説明する図である。図19(a)に示す工程では、ケース枠体に金属接合する前のケース側面部304Cを用意し、その放熱部307Bのケース内周面側に溶射膜333Aを形成する。溶射膜333Aの形成方法は第1の実施の形態の場合と同様である。上述したように、溶射時の被溶射体の温度上昇は100〜200℃程度であるため、図19(a)に示すように放熱部307Bにフィン305や薄肉部304Aが形成された状態で溶射処理することができる。なお、薄肉部304Aに溶射膜333Aが形成されないようにマスキング処理が施される。
【0064】
放熱部307A,307Bにフィン305および薄肉部304Aが形成されたケース側面部304Cは、鋳造や鍛造や機械加工にて作製できる。材質には、Cu、Cu合金、Cu−C、Cu−CuOなどの複合材、あるいはAl、Al合金、AlSiC、Al−Cなどの複合材などが用いられる。
【0065】
次いで、第1の実施の形態の場合と同様に樹脂シート3332を溶射膜333A上に仮付け(仮固着)して、樹脂層333Bを形成する(図19(b))。その後、溶射膜333Aに樹脂を含浸すると共に、その含浸用樹脂により、溶射膜333Aと樹脂層333Bとの積層体の周囲端部に樹脂部333Cを形成する(図19(c))。図19(c)までの工程を、放熱部307Aが形成されたケース側面部304Cと、放熱部307Bが形成されたケース側面部304Cとの両方に関して行う。
【0066】
なお、樹脂層333Bの形成方法としては、上述した樹脂シート3332を用いる方法の他に、液状のフィラーが混入された樹脂を塗布、噴霧、ディップする手法を用いても良い。樹脂層333Bは溶射膜333Aの範囲よりも狭い範囲に形成されるので、溶射膜範囲の縁の部分にマスキングを施して樹脂層333Bを形成する。マスキングにより樹脂層333Bが形成されなかった領域から、溶射膜333Aに対して樹脂を含浸する。また、樹脂シート3332を用いる場合と同様に、樹脂層333Bの表面に保護フィルム352を設置することで、含浸作業が容易となる。
【0067】
その後、図20に示すように、樹脂が含浸された溶射膜333A,樹脂層333Bおよび樹脂部333Cがそれぞれ形成された一対のケース側面部304Cを、フランジ304Bおよび枠部304Dから成るケース枠体に金属接合してモジュールケース304を形成する。金属接合は、樹脂部333Cから離れた薄肉部304Aの縁部分をレーザ溶接、摩擦攪拌接合など熱影響領域が小さい手法を用いてなされる。熱影響部が小さい手法を選択することで、樹脂層333Bや溶射膜に含浸された樹脂や樹脂部333Cの硬化進行度が維持できる。
【0068】
次いで、モジュールケース304内に一次封止体302を挿入するように固定する。そして、放熱部307A,307Bをケース内側方向に加圧しながら加熱して、放熱部307A,307Bをの内周面を樹脂層333Bに接着する。その後、モジュールケース304内に封止樹脂351を充填することで、図18に示すパワーモジュールが完成する。
【0069】
なお、図19,20に示した例では、肉厚部である放熱部307A,307Bを薄肉部304Aよりもケース外側に突出するように形成したが、図21に示すように、放熱部307A,307Bを薄肉部304Aよりもケース内側に突出するように構成しても構わない。また、溶射膜333Aを、肉厚部である放熱部307A,307Bと同一面積にしてもよい。
【0070】
このように、第2の実施の形態では、別々に形成されたモジュールケースをケース枠部とケース側面部304Cとを、金属接合して一体のモジュールケース304を形成する構成としているため、放熱部307A,307Bの内周面側に溶射膜333Aを容易に形成することができる。
【0071】
導体板315,318にCuやCu合金を用い、モジュールケース304にAlSiCやAlCなどの複合材を用いる場合、導体板315,318の方がモジュールケースよりも熱膨張係数が大きくなる。このような場合、絶縁層333を構成する部材の熱膨張係数が、導体板315側から放熱部307Bにかけて減少するような構成とすることで、使用中の温度変化で積層体の端部に発生する熱応力を小さくすることができる。そのために、熱膨張係数のより小さな溶射膜333Aを放熱部307Bに形成し、樹脂を含浸することで含浸樹脂と溶射膜333Aとを合わせた全体の熱膨張係数を放熱部307Bの熱膨張係数に近づける。一方、樹脂層333Bに関しては、熱膨張係数の大きな樹脂を選択するとともにフィラーの混入量を調整して、樹脂層333Bの熱膨張係数を導体板315の熱膨張係数に近づけるようにする。
【0072】
なお、絶縁層333を、樹脂が含浸された溶射膜333Aとフィラーが混入された樹脂層333Bとの積層体とすることで、導体板315と放熱部307との間の熱伝導性能が向上する点については、第1の実施の形態と同様である。さらに樹脂部333Cを設けたことで、積層体端部における熱応力の増加を緩和できる点についても第1の実施の形態と同様である。
【0073】
−第3の実施の形態−
図22は、第3の実施の形態を説明する図である。上述した第2の実施のように、溶射膜333Aおよび樹脂層333Bから成る積層体の周囲端部により弾性係数の低い、あるいは接着力の大きい樹脂部333Cを設けることにより、応力が端部に集中して端部から剥離が発生、進展していくのを防止するようにした。第3の実施の形態では、この樹脂部333Cを構成する樹脂の量を多くすることによって、応力集中の緩和効果をより高めた。
【0074】
図22に示す例では、含浸用の樹脂(樹脂部333Cと同じ樹脂)の溢れ出る量が多くなって、フィレット(隙間からはみ出した部分)333Fを形成している。第1の実施の形態に説明した積層体の形成方法では、溶射膜333Aに含浸する際の樹脂量を多くして積層体の周囲方向に大きく溢れ出させるようにする。以下では、樹脂を積層体の周囲方向に大きく溢れ出させる他の方法について説明する。以下に説明する積層体形成方法では、樹脂層333Bと放熱部または導体板とを接着する際の加圧を利用して、溢れた樹脂によりフィレット333Fを形成させるものである。
【0075】
図23は、第1の形成方法を説明する図である。図23(a)は放熱部307Bを一次封止体302方向に加圧して樹脂層333Bに接着する前の状態を示した図である。放熱部307B上には溶射膜333Aが形成されており、その溶射膜333A内には樹脂333Dが含浸されている。ただし、ここでは含浸させるための樹脂333Dの量を増やすことで、溶射膜333Aの上面側および側面側にも樹脂333Dが設けられている。
【0076】
図23(a)に示す段階では、樹脂333Dは硬化させない状態とする。ここでは、樹脂層333Bに用いられる樹脂シート3332と樹脂333Dとは異なる樹脂が用いられる。そして、樹脂シート3332を熱可塑性樹脂を主成分とした樹脂とし、加熱硬化する部位を有する組成物とする。樹脂333Dには室温から150℃の温度域での粘度が樹脂333Bよりも低い含浸性に優れる熱硬化性樹脂を選定する。図23(a)の状態にするには、樹脂シート3332を半硬化状態で一次封止体302に取り付け、その後樹脂333Dを塗布、噴霧、ディップすることで樹脂333Dを溶射膜333Aに塗布する手法や、樹脂333Dを溶射膜333Aに塗布し含浸させ樹脂シート3332を半硬化状態で取り付けた一次封止体302を搭載してもよい。
【0077】
図23(b)に示す工程では、放熱部307Bを一次封止体302方向へ加圧する。その結果、溶射膜333Aと樹脂層333Bとの間の樹脂333Dは、溶射膜333Aおよび樹脂層333Bの側方(図示左右方向)に押し出され、図23(b)に示すように溶射膜333Aおよび樹脂層333Bから成る積層体の周方向端部に集まる。そして、この状態で樹脂333Dおよび樹脂層333Bを硬化させる。樹脂333Dを周方向端部に排出するためには、加圧する温度において、樹脂シート3332の粘度が樹脂層333Dよりも十分大きい状態(例えば、50倍以上)で加圧する必要があり、樹脂シート3332を熱可塑性樹脂を主成分とした樹脂とし、加熱硬化する部位を有する組成物とする。樹脂333Dには室温から150℃の温度域での粘度が樹脂333Bよりも低い含浸性に優れる熱硬化性樹脂を選定することで、加圧により排出可能な加熱温度が広く存在するため、生産安定性が向上するという効果が得られる。樹脂333Dを排出することで溶射膜333Aの凹部に樹脂333Bに混入するフィラーを設置でき、絶縁層333の放熱性を向上できる。図22に示す例では、樹脂層333Bにはフィラーが混入され、樹脂333Dにはフィラーは混入されないが、排出のための粘度が増加しない範囲であれば、樹脂333Dにフィラーを混入しても良い。圧着温度での樹脂層333Bの弾性係数が著しく大きい場合は、樹脂333Dにフィラーを入れることで、溶射膜333Aの凹部にフィラーを設置できる。また、樹脂シート3332にガラス転移温度が高い樹脂を用い、樹脂333Dにガラス転移温度が樹脂シート3332よりも低い樹脂を用いると、熱可塑性樹脂同士あるいは熱硬化性樹脂同士を用いても作製が可能である。この場合は、樹脂シート3332のガラス転移温度よりも低い温度で樹脂333Dを加圧し外部に排出する。
【0078】
図24は、積層体の他の形成方法を説明する図である。先ず、図24(a)に示すように、放熱部307B上に溶射膜333Aを形成し、溶射膜333Aの上に樹脂シート3332を配置する。この樹脂シート3332の量は、形成される樹脂層333Bの量よりも多く設定される。次いで、図24(b)に示すように、放熱部307Bを一次封止体302方向に加圧して、樹脂シート3332を一次封止体302に圧着し樹脂層333Bを形成する。この圧着の際に、樹脂シート3332は樹脂層333Bの厚さまで加圧されるため、樹脂シート3332の樹脂成分は溶射膜333Aの空孔3330に含浸されるとともに、溶射膜333Aの周囲に溢れ出る。その結果、積層体の周囲に溢れ出た樹脂成分が樹脂部333Cおよびフィレット333Fを形成する。
【0079】
例えば、樹脂シート3332はフィラーの混入量が20vol%であるとする。そして、フィラーの大きさは、溶射膜333Aの表面凹部の大きさよりも小さく、溶射膜333A内の空孔3330よりも大きく設定されている。樹脂シート3332の樹脂成分が溶射膜333A内の空孔3330に含浸されるとともに、周方向端部に樹脂が流れ出るように加圧し、樹脂層333Bの樹脂成分が半分に減ったとすると、樹脂層333Bのフィラー混入率は約40vol%程度まで増加することになる。なお、樹脂シート3332の一部が周方向に流れ出る場合を考えると、樹脂部333Cやフィレット333Fにもフィラーが混入されることになる。また、樹脂シートでなく、フィラーを混入させた樹脂を塗布、ディップしても作製可能である。
【0080】
図25、26は変形例を示す図である。図25に示す変形例では、封止樹脂348の外周部の一部あるいは全周に凹部348aや段差348bを形成し、周方向に溢れ出た樹脂333Dが凹部348aや段差348bに入り込むことにより、フィレット333Fの樹脂量がより大きくなるようにした。その結果、積層体端部における応力緩和を向上させることができる。さらに、単に応力緩和に関与する樹脂の量が増えただけでなく、凹部348aや段差348bに入り込むことによるアンカー効果により、接着力が大きくなる。
【0081】
図26は、モジュールケース側(放熱部307A、307B)に凹部304eや段差304fを形成した場合を示す。なお、凹部304eや段差304fに代えて、放熱部307A、307Bの角部を面取りしてテーパー形状としても良い。図25、26に示すように、モジュールケース304の挿入口306側の封止樹脂348や放熱部307A,307Bに段差を設けた場合、溶射膜333Aの端部における隙間が増加する。そのため、溶射膜333Aと一次封止体302または放熱部307A,307Bとを接着した状態で、増加した隙間部分から樹脂の含浸を行うことが容易となる。
【0082】
−第4の実施の形態−
上述した実施の形態では、CAN型のモジュールケース304内に一次封止体302を挿入して樹脂封止したパワーモジュールについて説明したが、第4の実施の形態では、その他の構造のパワーモジュールについても積層体および樹脂部333C等の構造を適用できることを説明する。
【0083】
図27,28を用いてインバータ部140に使用される樹脂封止型の片面冷却パワーモジュール300の構成を説明する。図27は、図4の回路を実現する半導体チップと導体板の配置を示している。この配置では、導体板318、320が同電位となり一枚の導体板で形成できる(以下、導体板318と称す)。IGBT328,330およびダイオード156,166の表面主電極は、複数の金属ワイヤあるいは金属リボンにより接続され、さらに導体板318,319に接続される。ワイヤやリボンの材質は、Al,Al合金、Cu,Cu合金の単体および複合材である。IGBT328およびダイオード156の裏面電極は、金属接合材160により導体板315に金属接合される。導体板315,318と放熱部307は、絶縁層333を介して接合される。IGBT330およびダイオード166の裏面電極は、金属接合材160により導体板318に金属接合される。導体板315,318,319と放熱部307は、絶縁層333を介して接合される。
【0084】
図28(a)は、図27の破線で示した部分の断面図である。半導体チップから発熱した熱が導体板315、絶縁層333、放熱部307を通り効率良く外部に放熱される。ここでは、放熱部307側に溶射膜333Aを設け、導体板315,318,319側を樹脂層333Bで接合した例を示したが、導体板315,318,319側に溶射膜333Aを設け、放熱部307に樹脂層333Bを設けてもよい。
【0085】
高熱伝導なフィラーを分散した樹脂層333Bは、絶縁層333と当接する導体板315,318,319の底面積よりも大きく、溶射膜333Aの面積よりも小さい面積とし、放熱部307に仮付けする。その後、樹脂層333Bが仮付けされていない溶射膜333Aの余白部を利用して樹脂を含浸する。なお、積層体の周方向端部に樹脂部333Cが形成されるように樹脂の含浸を行う。含浸後、図28(b)に示すように、圧着して一体化する。
【0086】
パワー半導体素子裏面の導体板への接合とワイヤやリボンを用いた表面電極への接合した後に、封止樹脂348により封止することで、導体板と放熱部接着時の加圧力による機械的な損傷を防止することができる。また、この例では、放熱部307側に溶射膜333Aを形成したが、導体板315,318,319側に溶射膜333Aを形成する場合には、溶射工程での機械的な損傷を防止することができる。
【0087】
このように、片面冷却パワーモジュール300においても、導体板と放熱部307との間に配置される絶縁層333の構成を、樹脂が含浸された溶射膜333Aとフィラーが混入された樹脂層333Bとの積層体としたことにより、パワー半導体から放熱部307への放熱性能の向上を図ることができる。さらに、積層体の周方向端部に樹脂部333Cを設けたので、積層体端部における応力を緩和することができる。
【0088】
図29は、一次封止体302を一対の放熱部307Dで挟持する構成のパワーモジュール300を示す図である。放熱部307D内には冷媒流路3070が形成されていて、ここを冷媒が流れる。放熱部307Dの片面に樹脂が含浸された溶射膜333Aが形成され、その溶射膜333Aに積層するように樹脂層333Bが形成されている。積層体の周方向端部には樹脂部333Cが設けられている。なお、溶射膜333Aを一次封止体302側に形成するようにしても良い。
【0089】
−第5の実施の形態−
図30は第5の実施の形態を説明する図であり、樹脂が含浸された溶射膜333Aと樹脂層333Bとの積層体の周方向端部を示す拡大図である。ここでは、上述した第3の実施のように、溶射膜333Aおよび樹脂層333Bから成る積層体の周囲端部により弾性係数の低い、あるいは接着力の大きい樹脂部333Cを設けることにより、応力が端部に集中して端部から剥離が発生、進展していくのを防止するようにした。第5の実施の形態では、この樹脂部333Cを構成する樹脂の量を多くすることによって、応力集中の緩和効果をより高めるための放熱部307Bや一次封止体302に形成する溶射膜333Aの厚さについて説明する。
【0090】
図30に示す例では、放熱部307側に溶射膜333Aを形成した場合を示す。樹脂層333Bの領域は放熱部307の放熱面領域よりも大きく、さらに、溶射膜333Aの領域は樹脂層333Bの領域よりも大きく設定されている。そのため、溶射膜333Aの縁の部分には樹脂層333Bが形成されない領域3337がある。領域3337は、導体板315直下にある溶射膜Aの厚さよりも薄くなっており、応力が大きくなる外周部の樹脂333Bや樹脂333Cの厚さを大きくすることができる(図30は樹脂333Cの厚さが大きくなる例を示している)。
【0091】
また、パワーモジュールの絶縁層333の放熱性を決定する箇所は、樹脂層333Bの熱伝導率や厚さ、ならびに樹脂層333B、樹脂含浸した溶射膜333Aの熱伝導率や厚さである。特に、熱伝導率の低い樹脂層333Bの厚さを薄くした方が放熱性を向上できる。樹脂層333Bの厚さは、溶射膜333Aが形成された放熱部307Bや一次封止体302の反りや傾きから決まる。これらの値が最も大きくなるのは、積層体の外周部である。
【0092】
よって、放熱部307Bの端(図示右側)が図示上側に反り返るように傾いていた場合を考える。溶射膜333Aの厚さが端まで一定の場合、溶射膜333Aが樹脂部333Cや樹脂層333Bから露出しないようにすると、樹脂層333Bの厚さが周辺と中央とで異なることになる。一方、図30のように、領域3337の溶射膜333Aの厚さを樹脂層333Bと対向する領域の溶射膜333Aの厚さよりも薄くすることで、全体の厚さばらつきを低減することができる。図30のように溶射膜333Aの外周部を薄くする構成は、溶射ガンの走査範囲を制御したり、走査速度を調整したり、マスクを設置することで容易に作製することができる。
【0093】
あるいは、図47に示すように領域3337の直下の放熱部307Bに段差を設け、放熱部307Bの表面高さ減らすことで、同じ厚さの溶射膜333Aを形成した場合でも、樹脂層333Cの厚さを増加させることが可能になる。段差の深さhは、形成する溶射膜膜厚よりも小さくする。また、段差の角度θは、45°よりも小さい角度にした方が溶射膜333Aと基材(この場合には放熱部307B)との接着力を確保する点で好ましい。図48は、溶射膜333Aを一次封止体302側に形成した場合の段差構造を示したものである。
【0094】
−第6の実施の形態−
図49は第6の実施の形態を説明する図であり、樹脂が含浸された溶射膜333Aと樹脂層333Bとの積層体の周方向端部を示す拡大図である。ここでは、パワーモジュールの絶縁層333の生産性を向上させるための放熱部307Bや一次封止体302に形成する応力緩和層333Cに対する溢れ防止用の凸部307Dについて説明する。図49に示すように333Cの外周部に枠形状の凸部307Dを設けることによって、供給樹脂量が大きくなリすぎた場合に、含浸や接着時に溢れ出す樹脂成分が付着することを防止するためのマスクを省略でき生産性が向上する。なお、凸部307Dは放熱部307Bと一体に形成しても良いし、別個に形成しても良い。また、溶射膜333Aが一次封止体302側に形成される場合には、凸部307Dは一次封止体302側に形成される。
【0095】
図31と図32を用いて本発明に用いられる絶縁層333の絶縁性能を説明する。図31の横軸は放熱部307A,307Bに溶射膜333Aを形成した際の膜厚であり、縦軸は100μm厚の溶射膜単体の絶縁破壊電圧を1とした場合の規格化絶縁破壊電圧である。図32の横軸は放熱部307A,307Bに溶射膜333Aを形成した際の膜厚であり、縦軸は100μm厚の溶射膜単体のコロナ放電開始電圧を1とした場合の規格化部分放電開始電圧である。部分放電開始電圧は、部分放電測定システムを用いて、Al板に溶射膜単体あるいは樹脂を含浸した溶射膜上にAl電極を設けて、交流電圧を0Vから引火し、電圧を100V/sの速度で上昇させ、部分放電が開始する電圧を測定した。ここで、部分電圧開始の閾値は2pcとした。
【0096】
図31,32に示すように、溶射膜単体では膜中に空孔を有しているため絶縁性能に劣るが、樹脂が含浸されることで絶縁破壊電圧とコロナ放電開始電圧が向上する。特に、コロナ放電開始電圧は著しく向上する。このように、樹脂を含浸した溶射膜333Aとフィラーを混入させた樹脂層333Bとの積層体から成る絶縁層333は、溶射膜単体よりも絶縁性能に優れており、それをパワーモジュールに適用する際に、絶縁に必要な厚さを薄くできる。絶縁層333の厚さを薄くできることで、絶縁層333の熱抵抗が低下し、パワーモジュールの放熱性を向上できる。
【0097】
(比較例1)
図33は絶縁層の構成に関する比較例である。ここでは、厚さ2mmの150mm角のAl板をアルミナを用いてサンドブラスト処理した後、粒径10〜30μmのアルミナ粒子を出力40kWにてプラズマ溶射して溶射膜を形成した。この時、Al板に形成する溶射膜の気孔率を抑制し、冷却時の溶射膜の割れを防止するために、溶射されるAl板は180℃に予熱した。
【0098】
比較する絶縁層の構成は、樹脂含浸無しのアルミナ溶射膜単体(比較例A)と、空孔内にエポキシ樹脂を含浸したアルミナ溶射膜(比較例B)である。作製した溶射膜は気孔率が10%のもので厚さが1mmである。比較例Aおよび比較例Bに対して、Al板をエッチングで除去しアルミナ溶射膜単体とした。密度計による密度の測定,レーザフラッシュ法による熱拡散率の測定、示差走査熱量測定による比熱容量の測定をそれぞれ行い、アルミナ溶射膜単体の熱伝導率を算出した。
【0099】
比較例A,Bとは別に、以下のようにして比較例Cを作成した。アルミナを用いてサンドブラスト処理した厚さ2mmの150mm角のAl板を180℃に予熱し、粒径10〜30μmのアルミナ粒子を用いてプラズマ溶射し、100μmの溶射膜を形成した。次に、アルミナ溶射膜へのエポキシ樹脂を含浸し、それを厚さ2mm,100mm角のAlへ接着した。
【0100】
一方、比較例Dは、厚さ2mm,100mm角のAlへの接着を、アルミナフィラーを混合したエポキシ樹脂層を用いて行った点が比較例Cと異なり、その他の構成は比較例Cと同じである。ここで,比較例Dでは,アルミナ溶射膜の凹部にフィラーが入らないように,フィラー粒径を溶射膜の凹凸よりも大きくして作製した。
【0101】
なお、比較例C,Dのいずれの場合も、接着樹脂の厚さが25μmとなるように、スペーサを挿入して接着を行った。接着後に,超音波探傷にて樹脂接着層にボイドや未接合部がない10mm角の領域を選定し、その領域を切り出して熱抵抗を測定した。また、実際のAl板、絶縁層内の溶射膜、接着樹脂層の厚さは,測定後に絶縁層に対し垂直方向に切り出した断面を走査型電子顕微鏡で観察し,測長して確認した。これにより接合体全体の熱抵抗値から絶縁層自体の熱伝導率を算出した。図33の縦軸は、樹脂含浸無しの溶射膜単体の熱伝導率(W/m・K)を1と規格化した熱伝導率であり、溶射膜の気孔率は10%である。
【0102】
図34を参照して、本実施の形態の絶縁層333の放熱特性を説明する。上述した比較例の場合と同様に、厚さ2mmの150mm角のAl板をアルミナを用いてサンドブラスト処理した後、粒径10〜30μmのアルミナ粒子をプラズマ溶射し100μmの溶射膜を形成した。その後、アルミナフィラー40vol%を混入した30μm厚のエポキシ樹脂シートを110℃、加圧2MPa、1分で仮付けした。その後、減圧下でエポキシ樹脂をアルミナ溶射膜中に含浸させた。次に、スペーサを挿入して厚さ2mm,100mm角のAl板を接着した。なお、フィラーの粒径を1〜5μmとして溶射膜の凹部にもフィラーが配置できるようにした。さらに、接着時に加圧し樹脂層厚が25μmとなるようにした。接着後に,超音波探傷にて樹脂接着層にボイドや未接合部がない10mm角の領域を選定し、その領域を切り出して熱抵抗を測定した。また,実際のAl板、絶縁層内の溶射膜、接着樹脂層の厚さは、測定後に絶縁層に対し垂直方向に切り出した断面を走査型電子顕微鏡で観察し、測長して確認した。これにより接合体全体の熱抵抗値から絶縁層自体の熱伝導率を算出した。
【0103】
図44に示すように、比較例A、Bを比べると,溶射膜単体に樹脂を含浸することで5倍以上熱伝導率が向上することがわかった。これは,溶射膜孔内に存在する空気よりも含浸したエポキシ樹脂の方が,熱伝導率が大きいためである。しかし,比較例Cに示すように,フィラーがない樹脂層が層状に複合化されると、絶縁層の熱伝導率が大きく低下することがわかる。さらに,比較例Dに示すように、溶射膜凹部にもフィラーを設置しないと樹脂濃縮層が島状に形成しても熱伝導率が低下することがわかった。このように、樹脂含浸した溶射膜を接合する際には接着する樹脂領域を減少することが重要となる。
【0104】
これに対し、溶射膜凹部にフィラーを配置した場合は、樹脂領域を減少することができ比較例C、Dを上回る熱伝導率を発現することがわかった。なお、比較しやすいように樹脂層333Bの厚さを25μmとしたが、スペーサを挿入しないで接合することで混入する最大フィラー径近くまで薄くすることが可能である。また、溶射膜の組成として、アルミナよりも熱伝導率が高い窒化アルミなどを溶射原料粉末に混合すれば、樹脂含浸後の溶射膜の熱伝導率をより高めることができる。同様に、樹脂接着層に混在するフィラーについても、アルミナよりも熱伝導率が高いセラミックスを用いれば絶縁層333の熱伝導率を向上させることが可能となる。
【0105】
以上の説明はあくまで一例であり、本発明は上記実施形態の構成に何ら限定されるものではない。例えば、樹脂層333Bの代わりに高熱伝導なグリスを用いてもよいし、接着性のない弾性シートを用いてもよい。溶射膜333Aに樹脂を含浸させる代わりに、ガラスを含浸させるようにしてもよい。また、以上の説明で用いた弾性係数とは、硬化後のヤング率のことを意味しており、動的粘弾性試験にて周波数10Hz、昇温速度が3℃/minで測定した貯蔵弾性率のことである。接着力は、JISK6850で測定した値である。樹脂の硬化度は、示差走査熱量測定(Differential Scanning Calorimetry)にて、未反応の樹脂を加熱した際に検出した熱量の面積を基準とし、面積比で規定する。なお、測定の加熱速度は10℃/minとする。樹脂の粘度は、パラレルプレート型粘度計を用いて、ずり速度10s−1で測定した値とする。樹脂のガラス転移温度は、動的粘弾性試験にて周波数10Hz、昇温速度が3℃/minで測定した際のtanδのピーク温度とする。ここで、tanδは損失正接(=(損失弾性率)/(貯蔵弾性率))である。
【0106】
上述したパワーモジュールは、例えば、ハイブリッド自動車や電気自動車に搭載される電力変換装置、電車や船舶、航空機などの電力変換装置、さらに工場の設備を駆動する電動機の制御装置として用いられる産業用電力変換装置、或いは家庭の太陽光発電システムや家庭の電化製品を駆動する電動機の制御装置に用いられたりする家庭用電力変換装置に適用可能である。以下では、図35〜46を用いてハイブリッド自動車の電力変換装置に適用した場合を例に説明する。
【0107】
図35は、ハイブリッド自動車の制御ブロックを示す図である。図35において、ハイブリッド電気自動車(以下、「HEV」と記述する)110は1つの電動車両であり、2つの車両駆動用システムを備えている。その1つは、内燃機関であるエンジン120を動力源としたエンジンシステムである。エンジンシステムは、主としてHEVの駆動源として用いられる。もう1つは、モータジェネレータ192,194を動力源とした車載電機システムである。車載電機システムは、主としてHEVの駆動源及びHEVの電力発生源として用いられる。モータジェネレータ192,194は例えば同期機あるいは誘導機であり、運転方法によりモータとしても発電機としても動作するので、ここではモータジェネレータと記す。
【0108】
車体のフロント部には前輪車軸114が回転可能に軸支され、前輪車軸114の両端には1対の前輪112が設けられている。車体のリア部には後輪車軸が回転可能に軸支され、後輪車軸の両端には1対の後輪が設けられている(図示省略)。本実施形態のHEVでは、いわゆる前輪駆動方式を採用しているが、この逆、すなわち後輪駆動方式を採用しても構わない。前輪車軸114の中央部には前輪側デファレンシャルギア(以下、「前輪側DEF」と記述する)116が設けられている。前輪側DEF116の入力側にはトランスミッション118の出力軸が機械的に接続されている。トランスミッション118の入力側にはモータジェネレータ192の出力側が機械的に接続されている。モータジェネレータ192の入力側には動力分配機構122を介してエンジン120の出力側及びモータジェネレータ194の出力側が機械的に接続されている。
【0109】
インバータ部140,142は、直流コネクタ138を介してバッテリ136と電気的に接続される。バッテリ136とインバータ部140,142との相互において電力の授受が可能である。本実施形態では、モータジェネレータ192及びインバータ部140からなる第1電動発電ユニットと、モータジェネレータ194及びインバータ部142からなる第2電動発電ユニットとの2つを備え、運転状態に応じてそれらを使い分けている。なお、本実施形態では、バッテリ136の電力によって第1電動発電ユニットを電動ユニットとして作動させることにより、モータジェネレータ192の動力のみによって車両の駆動ができる。さらに、本実施形態では、第1電動発電ユニット又は第2電動発電ユニットを発電ユニットとしてエンジン120の動力或いは車輪からの動力によって作動させて発電させることにより、バッテリ136の充電ができる。
【0110】
バッテリ136はさらに補機用のモータ195を駆動するための電源としても使用される。補機としては例えば、エアコンディショナーのコンプレッサを駆動するモータ、あるいは制御用の油圧ポンプを駆動するモータである。バッテリ136からインバータ部43に直流電力が供給され、インバータ部43で交流の電力に変換されてモータ195に供給される。インバータ部43は、インバータ部140や142と同様の機能を持ち、モータ195に供給する交流の位相や周波数、電力を制御する。モータ195の容量がモータジェネレータ192や194の容量より小さいので、インバータ部43の最大変換電力がインバータ部140や142より小さいが、インバータ部43の回路構成は基本的にインバータ部140や142の回路構成と同じである。なお、電力変換装置200は、インバータ部140、インバータ部142、インバータ部43に供給される直流電流を平滑化するためのコンデンサモジュール500を備えている。
【0111】
図36を用いてインバータ部140やインバータ部142あるいはインバータ部43の電気回路構成を説明する。なお、図36では、代表例としてインバータ部140の説明を行う。
【0112】
インバータ回路144は、上アームとして動作するIGBT328及びダイオード156と、下アームとして動作するIGBT330及びダイオード166と、からなる上下アーム直列回路150をモータジェネレータ192の電機子巻線の各相巻線に対応して3相(U相、V相、W相)分を設けている。それぞれの上下アーム直列回路150は、その中点部分(中間電極329)から交流端子159及び交流コネクタ188を通してモータジェネレータ192への交流電力線(交流バスバー)186と接続する。
【0113】
上アームのIGBT328のコレクタ電極153は正極端子(P端子)167を介してコンデンサモジュール500の正極側のコンデンサの電極に、下アームのIGBT330のエミッタ電極は負極端子(N端子)168を介してコンデンサモジュール500の負極側にコンデンサ電極にそれぞれ電気的に接続されている。
【0114】
制御部170は、インバータ回路144を駆動制御するドライバ回路174と、ドライバ回路174へ信号線176を介して制御信号を供給する制御回路172と、を有している。IGBT328やIGBT330は、制御部170から出力された駆動信号を受けて動作し、バッテリ136から供給された直流電力を三相交流電力に変換する。この変換された電力は、モータジェネレータ192の電機子巻線に供給される。
【0115】
IGBT328は、コレクタ電極153と、信号用エミッタ電極151と、ゲート電極154を備えている。また、IGBT330は、コレクタ電極163と、信号用のエミッタ電極165と、ゲート電極164を備えている。ダイオード156が、IGBT328と電気的に並列に接続されている。また、ダイオード158が、IGBT330と電気的に並列に接続されている。スイッチング用パワー半導体素子としてはMOSFET(金属酸化物半導体型電界効果トランジスタ)を用いてもよいが、この場合はダイオード156やダイオード158は不要となる。コンデンサモジュール500は、正極側コンデンサ端子506と負極側コンデンサ端子504と直流コネクタ138を介して電気的に接続されている。なお、インバータ部140は、直流正極端子314を介して正極側コンデンサ端子506と接続され、かつ直流負極端子316を介して負極側コンデンサ端子504と接続される。
【0116】
制御回路172は、IGBT328及びIGBT330のスイッチングタイミングを演算処理するためのマイクロコンピュータ(以下、「マイコン」と記述する)を備えている。マイコンには入力情報として、モータジェネレータ192に対して要求される目標トルク値、上下アーム直列回路150からモータジェネレータ192の電機子巻線に供給される電流値、及びモータジェネレータ192の回転子の磁極位置が入力されている。目標トルク値は、不図示の上位の制御装置から出力された指令信号に基づくものである。電流値は、電流センサ180から信号線182を介して出力された検出信号に基づいて検出されたものである。磁極位置は、モータジェネレータ192に設けられた回転磁極センサ(不図示)から出力された検出信号に基づいて検出されたものである。本実施形態では3相の電流値を検出する場合を例に挙げて説明するが、2相分の電流値を検出するようにしても構わない。
【0117】
制御回路172内のマイコンは、目標トルク値に基づいてモータジェネレータ192のd,q軸の電流指令値を演算し、この演算されたd,q軸の電流指令値と、検出されたd,q軸の電流値との差分に基づいてd,q軸の電圧指令値を演算し、この演算されたd,q軸の電圧指令値を、検出された磁極位置に基づいてU相、V相、W相の電圧指令値に変換する。そして、マイコンは、U相、V相、W相の電圧指令値に基づく基本波(正弦波)と搬送波(三角波)との比較に基づいてパルス状の変調波を生成し、この生成された変調波をPWM(パルス幅変調)信号として、信号線176を介してドライバ回路174に出力する。
【0118】
ドライバ回路174は、下アームを駆動する場合、PWM信号を増幅したドライブ信号を、対応する下アームのIGBT330のゲート電極に出力する。また、ドライバ回路174は、上アームを駆動する場合、PWM信号の基準電位のレベルを上アームの基準電位のレベルにシフトしてからPWM信号を増幅し、これをドライブ信号として、対応する上アームのIGBT328のゲート電極にそれぞれ出力する。
【0119】
また、制御部170は、異常検知(過電流、過電圧、過温度など)を行い、上下アーム直列回路150を保護している。このため、制御部170にはセンシング情報が入力されている。例えば各アームの信号用エミッタ電極151及び信号用エミッタ電極165からは各IGBT328とIGBT330のエミッタ電極に流れる電流の情報が、対応する駆動部(IC)に入力されている。これにより、各駆動部(IC)は過電流検知を行い、過電流が検知された場合には対応するIGBT328,IGBT330のスイッチング動作を停止させ、対応するIGBT328,IGBT330を過電流から保護する。上下アーム直列回路150に設けられた温度センサ(不図示)からは上下アーム直列回路150の温度の情報がマイコンに入力されている。また、マイコンには上下アーム直列回路150の直流正極側の電圧の情報が入力されている。マイコンは、それらの情報に基づいて過温度検知及び過電圧検知を行い、過温度或いは過電圧が検知された場合には全てのIGBT328,IGBT330のスイッチング動作を停止させる。
【0120】
なお、図36におけるゲート電極154および信号用エミッタ電極155は図1の信号端子325Uに対応し、ゲート電極164およびエミッタ電極165は図1の信号端子325Lに対応する。また、正極端子157は図1の直流正極端子315Bと同一のものであり、負極端子158は図1の直流負極端子319Bと同一のものである。また、交流端子159は、図1の交流端子320Bと同じものである。
【0121】
図37は、電力変換装置200の設置場所を説明するための分解斜視図を示す。電力変換装置200は、トランスミッション118を収納するためのAlまたはAl合金製の筐体119に固定される。電力変換装置200は、底面及び上面の形状を略長方形としたことで、車両への取り付けが容易となり、また生産し易いという効果がある。冷却ジャケット12は、後述するパワーモジュール300及びコンデンサモジュール500を保持するとともに、冷却媒体によって冷却する。また、冷却ジャケット12は、筐体119に固定され、かつ筐体119との対向面に入口配管13と出口配管14が形成されている。入口配管13と出口配管14が筐体119に形成された配管と接続されることにより、トランスミッション118を冷却するための冷却媒体が、冷却ジャケット12に流入及び流出する。
【0122】
ケース10は、電力変換装置200を覆って、かつ筐体119側に固定される。ケース10の底は、制御回路172を実装した制御回路基板20と対向するように構成される。またケース10は、ケース10の底から外部に繋がる第1開口202と第2開口204を、ケース10の底面に形成する。コネクタ21は、制御回路基板20に接続されており、外部からの各種信号を当該制御回路基板20に伝送する。バッテリ負極側接続端子部510とバッテリ正極側接続端子部512は、バッテリ136とコンデンサモジュール500とを電気的に接続する。
【0123】
コネクタ21とバッテリ負極側接続端子部510とバッテリ正極側接続端子部512は、ケース10の底面に向かって延ばされ、コネクタ21は第1開口202から突出し、かつバッテリ負極側接続端子部510及びバッテリ正極側接続端子部512は第2開口204から突出する。ケース10には、その内壁の第1開口202及び第2開口204の周りにシール部材(不図示)が設けられる。
【0124】
コネクタ21等の端子の勘合面の向きは、車種により種々の方向となるが、特に小型車両に搭載しようとした場合、エンジンルーム内の大きさの制約や組立性の観点から勘合面を上向きにして出すことが好ましい。特に、本実施形態のように、電力変換装置200が、トランスミッション118の上方に配置される場合には、トランスミッション118の配置側とは反対側に向かって突出させることにより、作業性が向上する。また、コネクタ21は外部の雰囲気からシールする必要があるが、コネクタ21に対してケース10を上方向から組付ける構成となることで、ケース10が筐体119に組付けられたときに、ケース10と接触するシール部材がコネクタ21を押し付けることができ、気密性が向上する。
【0125】
図38は、電力変換装置200の分解斜視図である。冷却ジャケット12には、流路19が設けられ、該流路19の上面には、開口部400a〜400cが冷媒の流れ方向418に沿って形成され、かつ開口部402a〜402cが冷媒の流れ方向422に沿って形成される。開口部400a〜400cがパワーモジュール300a〜300cによって塞がれるように、かつ開口部402a〜402cがパワーモジュール301a〜301cによって塞がれる。
【0126】
また、冷却ジャケット12には、コンデンサモジュール500を収納するための収納空間405が形成される。コンデンサモジュール500は、収納空間405に収納されることにより、流路19内に流れる冷媒によって冷却されることになる。コンデンサモジュール500は、冷媒の流れ方向418を形成するための流路19と、冷媒の流れ方向422を形成するための流路19に挟まれるため、効率良く冷却することができる。
【0127】
冷却ジャケット12には、入口配管13と出口配管14と対向する位置に突出部407が形成される。突出部407は、冷却ジャケット12と一体に形成される。補機用パワーモジュール350は、突出部407に固定され、流路19内に流れる冷媒によって冷やされることになる。補機用パワーモジュール350の側部には、バスバーモジュール800が配置される。バスバーモジュール800は、交流バスバー186や電流センサ180等により構成される。
【0128】
このように冷却ジャケット12の中央部にコンデンサモジュール500の収納空間405を設け、その収納空間405を挟むように流路19を設け、それぞれの流路19に車両駆動用のパワーモジュール300a〜300c及びパワーモジュール301a〜301cを配置し、さらに冷却ジャケット12の上面に補機用パワーモジュール350を配置することで、小さい空間で効率良く冷却でき、電力変換装置全体の小型化が可能となる。また冷却ジャケット12の流路19の主構造を冷却ジャケット12と一体にAlまたはAl合金材の鋳造で作ることにより、流路19は冷却効果に加え機械的強度を強くする効果がある。またAl鋳造で作ることで冷却ジャケット12と流路19とが一体構造となり、熱伝達が良くなり冷却効率が向上する。
【0129】
なお、パワーモジュール300a〜300cとパワーモジュール301a〜301cを流路19に固定することで流路19を完成させ、水路の水漏れ試験を行う。水漏れ試験に合格した場合に、次にコンデンサモジュール500や補機用パワーモジュール350や基板を取り付ける作業を行うことができる。このように、電力変換装置200の底部に冷却ジャケット12を配置し、次にコンデンサモジュール500、補機用パワーモジュール350、バスバーモジュール800、基板等の必要な部品を固定する作業を上から順次行えるように構成されており、生産性と信頼性が向上する。
【0130】
ドライバ回路基板22は、補機用パワーモジュール350及びバスバーモジュール800の上方に配置される。また、ドライバ回路基板22と制御回路基板20の間には金属ベース板11が配置される。金属ベース板11は、ドライバ回路基板22及び制御回路基板20に搭載される回路群の電磁シールドの機能を奏すると共にドライバ回路基板22と制御回路基板20とが発生する熱を逃がし、冷却する作用を有している。
【0131】
図39は、流路19を有する冷却ジャケット12の下面図である。冷却ジャケット12と当該冷却ジャケット12の内部に設けられた流路19は、一体に鋳造されている。冷却ジャケット12に下面には、1つに繋がった開口部404が形成されている。開口部404は、中央部に開口を有する下カバー420によって塞がれる。下カバー420と冷却ジャケット12の間には、シール部材409a及びシール部材409bが設けられ気密性を保っている。
【0132】
下カバー420には、一方の端辺の近傍であって当該端辺に沿って、入口配管13を挿入するための入口孔401と、出口配管14を挿入するための出口孔403が形成される。また下カバー420には、トランスミッション118の配置方向に向かって突出する凸部406が形成される。凸部406は、パワーモジュール300a〜300c及びパワーモジュール301a〜301c毎に設けられる。
【0133】
冷媒は、流れ方向417のように、入口孔401を通って、冷却ジャケット12の短手方向の辺に沿って形成された第1流路部19aに向かって流れる。そして冷媒は、流れ方向418のように、冷却ジャケット12の長手方向の辺に沿って形成された第2流路部19bを流れる。また冷媒は、流れ方向421のように、冷却ジャケット12の短手方向の辺に沿って形成された第3流路部19cを流れる。第3流路部19cは折り返し流路を形成する。また、冷媒は、流れ方向422のように、冷却ジャケット12の長手方向の辺に沿って形成された第4流路部19dを流れる。第4流路部19dは、コンデンサモジュール500を挟んで第2流路部19bと対向する位置に設けられる。さらに、冷媒は、流れ方向423のように、冷却ジャケット12の短手方向の辺に沿って形成された第5流路部19e及び出口孔403を通って出口配管14に流出する。
【0134】
第1流路部19a、第2流路部19b、第3流路部19c、第4流路部19d及び第5流路部19eは、いずれも幅方向より深さ方向が大きく形成される。パワーモジュール300a〜300cが、冷却ジャケット12の上面側に形成された開口部400a〜400cから挿入され(図4参照)、第2流路部19b内の収納空間に収納される。なお、パワーモジュール300aの収納空間とパワーモジュール300bの収納空間との間には、冷媒の流れを澱ませないための中間部材408aが形成される。同様に、パワーモジュール300bの収納空間とパワーモジュール300cの収納空間との間には、冷媒の流れを澱ませないための中間部材408bが形成される。中間部材408a及び中間部材408bは、その主面が冷媒の流れ方向に沿うように形成される。第4流路部19dも第2流路部19bと同様にパワーモジュール301a〜301cの収納空間及び中間部材を形成する。また、冷却ジャケット12は、開口部404と開口部400a〜400c及び402a〜402cとが対向するように形成されているので、アルミ鋳造により製造し易い構成になっている。
【0135】
下カバー420には、筐体119と当接し、電力変換装置200を支持するための支持部410a及び支持部410bが設けられる。支持部410aは下カバー420の一方の端辺に近づけて設けられ、支持部410bは下カバー420の他方の端辺に近づけて設けられる。これにより、電力変換装置200を、トランスミッション118やモータジェネレータ192の円柱形状に合わせて形成された筐体119の側壁に強固に固定することができる。
【0136】
また、支持部410bは、抵抗器450を支持するように構成されている。この抵抗器450は、乗員保護やメンテナンス時における安全面に配慮して、コンデンサセルに帯電した電荷を放電するためのものである。抵抗器450は、高電圧の電気を継続的に放電できるように構成されているが、万が一抵抗器もしくは放電機構に何らかの異常があった場合でも、車両に対するダメージを最小限にするように配慮した構成とする必要がある。つまり、抵抗器450がパワーモジュールやコンデンサモジュールやドライバ回路基板等の周辺に配置されている場合、万が一抵抗器450が発熱、発火等の不具合を発生した場合に主要部品近傍で延焼する可能性が考えられる。
【0137】
そこで、パワーモジュール300a〜300cやパワーモジュール301a〜301cやコンデンサモジュール500は、冷却ジャケット12を挟んで、トランスミッション118を収納した筐体119とは反対側に配置され、かつ抵抗器450は、冷却ジャケット12と筐体119との間の空間に配置される。これにより、抵抗器450が金属で形成された冷却ジャケット12及び筐体119で囲まれた閉空間に配置されることになる。なお、コンデンサモジュール500内のコンデンサセルに貯まった電荷は、図38に示されたドライバ回路基板22に搭載されたスイッチング手段のスイッチング動作によって、冷却ジャケット12の側部を通る配線を介して抵抗器450に放電制御される。本実施形態では、スイッチング手段によって高速に放電するように制御される。放電を制御するドライバ回路基板22と抵抗器450の間に、冷却ジャケット12が設けられているので、ドライバ回路基板22を抵抗器450から保護することができる。また、抵抗器450は下カバー420に固定されているので、流路19と熱的に非常に近い位置に設けられているので、抵抗器450の異常な発熱を抑制することができる。
【0138】
図40は、コンデンサモジュール500の分解斜視図である。積層導体板501は、薄板状の幅広導体で形成された負極導体板505及び正極導体板507、さらに負極導体板505と正極導体板507に挟まれた絶縁シート517により構成されているので、低インダクタンス化が図られている。積層導体板501は、略長方形形状を成す。バッテリ負極側端子508及びバッテリ負極側端子509は、積層導体板501の短手方向の一方の辺から立ち上げられた状態で形成される。
【0139】
コンデンサ端子503a〜503cは、積層導体板501の長手方向の一方の辺から立ち上げられた状態で形成される。また、コンデンサ端子503d〜503fは、積層導体板501の長手方向の他方の辺から立ち上げられた状態で形成される。なお、コンデンサ端子503a〜503fは、積層導体板501の主面を横切る方向に立ち上げられている。コンデンサ端子503a〜503cは、パワーモジュール300a〜300cとそれぞれ接続される。コンデンサ端子503d〜503fは、パワーモジュール301a〜301cとそれぞれ接続される。コンデンサ端子503aを構成する負極側コンデンサ端子504aと正極側コンデンサ端子506aとの間には、絶縁シート517の一部が設けられ、絶縁が確保されている。他のコンデンサ端子503b〜503fも同様である。なお、本実施形態では、負極導体板505、正極導体板507、バッテリ負極側端子508、バッテリ負極側端子509、コンデンサ端子503a〜503fは、一体に成形された金属製板で構成され、インダクタンス低減及び生産性の向上を図っている。
【0140】
コンデンサセル514は、積層導体板501の下方に複数個設けられる。本実施形態では、8つのコンデンサセル514が積層導体板501の長手方向の一方の辺に沿って一列に並べられ、かつさらに別の8つのコンデンサセル514が積層導体板501の長手方向の他方の辺に沿って一列に並べられ、合計16個のコンデンサセルが設けられる。積層導体板501の長手方向のそれぞれの辺に沿って並べられたコンデンサセル514は、図40に示される破線部AAを境に対称に並べられる。これにより、コンデンサセル514によって平滑化された直流電流をパワーモジュール300a〜300c及びパワーモジュール301a〜301cに供給する場合に、コンデンサ端子503a〜503cとコンデンサ端子503d〜503fとの間の電流バランスが均一化され、積層導体板501のインダクタンス低減を図ることができる。また、電流が積層導体板501にて局所的に流れることを防止できるので、熱バランスが均一化されて耐熱性も向上させることができる。
【0141】
また、バッテリ負極側端子508とバッテリ負極側端子509も、図40に示される点線AAを境にて対称に並べられる。同様に、コンデンサ端子503a〜503cとコンデンサ端子503d〜503fとの間の電流バランスが均一化されて積層導体板501のインダクタンス低減を図ることができ、かつ熱バランスが均一化されて耐熱性も向上させることができる。
【0142】
本実施形態のコンデンサセル514は、コンデンサモジュール500の蓄電部の単位構造体であり、片面にAlなどの金属を蒸着したフィルムを2枚積層し巻回して、2枚の金属の各々を正極、負極としたフィルムコンデンサを用いる。コンデンサセル514の電極は、巻回した軸面がそれぞれ、正極、負極電極となり、Snなどの導電体を吹き付けて製造される。セル端子516及びセル端子518は、正極電極及び負極電極に接続され、かつ積層導体板501の開口部を通ってコンデンサセル514配置側とは反対側まで延ばされ、正極導体板507及び負極導体板505とはんだあるいは溶接により接続される。
【0143】
本実施形態のコンデンサセル514は、コンデンサモジュール500の蓄電部の単位構造体であり、片面にAlなどの金属を蒸着したフィルムを2枚積層し巻回して、2枚の金属の各々を正極、負極としたフィルムコンデンサを用いる。コンデンサセル514の電極は、巻回した軸面がそれぞれ、正極、負極電極となり、Snなどの導電体を吹き付けて製造される。セル端子516及びセル端子518は、正極電極及び負極電極に接続され、かつ積層導体板501の開口部を通ってコンデンサセル514配置側とは反対側まで延ばされ、正極導体板507及び負極導体板505とはんだあるいは溶接により接続される。
【0144】
収納部511の底面部513は、円筒形のコンデンサセル514の表面形状に合わせるように、なめらかな凹凸形状若しくは波形形状を成している。これにより、積層導体板501とコンデンサセル514が接続されたモジュールをコンデンサケース502に位置決めさることが容易になる。また、積層導体板501とコンデンサセル514がコンデンサケース502に収納された後に、コンデンサ端子503a〜503fとバッテリ負極側端子508及びバッテリ負極側端子509を除いて、積層導体板501が覆われるようにコンデンサケース502内に充填材(図示せず)が充填される。底面部513がコンデンサセル514の形状に合わせて波形形状となっていることにより、充填材がコンデンサケース502内に充填される際に、コンデンサセル514が所定位置からずれることを防止できる。
【0145】
また、コンデンサセル514は、スイッチング時のリップル電流により、内部のフィルム上に蒸着された金属薄膜、内部導体の電気抵抗により発熱する。そこで、コンデンサセル514の熱をコンデンサケース502に逃がし易くするために、コンデンサセル514を充填材でモールドする。さらに樹脂製の充填材を用いることにより、コンデンサセル514の耐湿も向上させることができる。
【0146】
さらに、本実施形態では、コンデンサモジュール500は、収納部511の長手方向の辺を形成する側壁が流路19に挟まれように配置されているので、コンデンサモジュール500を効率良く冷やすことができる。また、コンデンサセル514は、当該コンデンサセル514の電極面の一方が収納部511の長手方向の辺を形成する内壁と対向するように配置されている。これにより、フィルムの巻回軸の方向に熱が伝達し易いので、熱がコンデンサセル514の電極面を介してコンデンサケース502に逃げやすくなっている。
【0147】
図41(a)は、冷却ジャケット12にパワーモジュールとコンデンサモジュールとバスバーモジュールを組み付けた外観斜視図である。図41(b)は、図41(a)の破線囲み部の拡大図である。
【0148】
図41(b)に示されるように、直流負極端子315B、直流正極端子319b、交流端子321及び第2封止部601bは、コンデンサケース502の貫通孔519を通って、フランジ515aの上方まで延びている。直流負極端子317b及び直流正極端子319bの電流経路の面積は、積層導体板501の電流経路の面積より非常に小さい。そのため、電流が積層導体板501から直流負極端子317b及び直流正極端子319bに流れる際には、電流経路の面積が大きく変化することになる。つまり、電流が直流負極端子317b及び直流正極端子319bに集中することになる。また、直流負極端子317b及び直流正極端子319bが積層導体板501を横切る方向に突出する場合、言い換えると、直流負極端子317b及び直流正極端子319bが積層導体板501とねじれの関係にある場合、新たな接続用導体が必要になり生産性低下やコスト増大の問題が生じる。
【0149】
そこで、負極側コンデンサ端子504aは、積層導体板501から立ち上がっている立ち上がり部540と、当該立ち上がり部540と接続されかつU字状に屈曲した折返し部541と、当該折返し部541と接続されかつ立ち上がり部540とは反対側の面が直流負極端子319bの主面と対向する接続部542とにより構成される。また、正極側コンデンサ端子506aは、積層導体板501から立ち上がっている立ち上がり部543と、折返し部544と、当該折返し部544と接続されかつ立ち上がり部543とは反対側の面が直流負極端子317bの主面と対向する接続部545と、により構成される。特に、折返し部544は、立ち上がり部543と略直角に接続されかつ負極側コンデンサ端子504aと直流負極端子317bと直流正極端子319bの側部を跨ぐように構成される。さらに、立ち上がり部540の主面と立ち上がり部543の主面は絶縁シート517を介して対向する。同様に、折返し部541の主面と折返し部544の主面は絶縁シート517を介して対向する。
【0150】
これにより、コンデンサ端子503aが接続部542の直前まで絶縁シート517を介した積層構造を成すため、電流が集中する当該コンデンサ端子503aの配線インダクタンスを低減することができる。また、折返し部544が負極側コンデンサ端子504aと直流負極端子317bと直流正極端子319bの側部を跨ぐように構成される。さらに、直流正極端子319bの先端と接続部542の側辺とは溶接により接続され、同様に直流負極端子317bの先端と接続部545の側辺とは溶接により接続される。
【0151】
これにより、直流正極端子319b及び直流負極端子317bの溶接接続するための作業方向と折返し部544とが干渉することがなくなるので、低インダクタンスを図りながら生産性を向上させることができる。
【0152】
また、交流端子321の先端は交流バスバー802aの先端とは溶接により接続される。溶接をするための生産設備において、溶接機械を溶接対象に対して複数方向に可動出来るように作ることは、生産設備を複雑化させることにつながり生産性及びコスト的な観点から好ましくない。そこで、本実施形態では、交流端子321の溶接箇所と直流正極端子319bの溶接箇所は、冷却ジャケット12の長手方向の辺に沿って一直線状に配置される。これにより、溶接機械を一方向に可動する間に、複数の溶接を行うことができ、生産性が向上する。
【0153】
さらに、図38及び図41(a)に示されるように、複数のパワーモジュール300a〜300cは、冷却ジャケット12の長手方向の辺に沿って一直線状に配置される。これにより、複数のパワーモジュール300a〜300cを溶接する際に、更に生産性を向上させることができる。
【0154】
図42は、パワーモジュールとコンデンサモジュールを組み付けた冷却ジャケット12とバスバーモジュール800の分解斜視図である。図43は、保持部材803を除いたバスバーモジュール800の外観斜視図である。
【0155】
図42及び図43に示されるように、第1交流バスバー802a〜802fは、電流センサ180a又は電流センサ180bの設置箇所まで、当該第1交流バスバー802a〜802fの主面がコンデンサモジュール500の積層導体板501の主面と略垂直になるように形成される。また、第1交流バスバー802a〜802fは、電流センサ180aの貫通孔又は電流センサ180bの貫通孔の直前で略直角に折り曲げられる。これにより、電流センサ180a又は電流センサ180bを貫通する第1交流バスバー802a〜802fの部分は、その主面が積層導体板501の主面と略平行になる。そして、第1交流バスバー802a〜802fの端部には、第2交流バスバー804a〜804fと接続する為の接続部805a〜805fが形成される(接続部805d〜805fは図示せず)。
【0156】
第2交流バスバー804a〜804fは、接続部805a〜805fの近傍で、コンデンサモジュール500側に向かって略直角に折り曲げられる。これにより、第2交流バスバー804a〜804fの主面がコンデンサモジュール500の積層導体板501の主面と略垂直になるように形成される。さらに第2交流バスバー804a〜804fは、電流センサ180a又は電流センサ180bの近傍から、図43に示された冷却ジャケット12の短手方向の一方の辺12aに向かって延ばされ、当該辺12aを横切るように形成される。つまり、複数の第2交流バスバー804a〜804fの主面が向かい合った状態で、当該第2交流バスバー804a〜804fが辺12aを横切るように形成される。
【0157】
これにより、装置全体を大型化させることなく、冷却ジャケット12の短い辺側から複数の板状交流バスバーを外部に突出させることができる。そして、冷却ジャケット12の一面側から複数の交流バスバーを突出させることで、電力変換装置200の外部での配線の取り回しが容易になり、生産性が向上する。
【0158】
図42に示されるように、第1交流バスバー802a〜802f、電流センサ180a〜180b及び第2交流バスバー804a〜804fは、樹脂で構成された保持部材803によって、保持及び絶縁されている。この保持部材803により、第2交流バスバー804a〜804fが金属製の冷却ジャケット12及び筐体119との間の絶縁性を向上させる。また保持部材803が冷却ジャケット12に熱的に接触又は直接接触することにより、トランスミッション118側から第2交流バスバー804a〜804fに伝わる熱を、冷却ジャケット12に逃がすことができるので、電流センサ180a〜180bの信頼性を向上させることができる。
【0159】
図42に示されるように、保持部材803は、図36に示されたドライバ回路基板22を支持するための支持部材807a及び支持部材807bを設ける。支持部材807aは、複数設けられ、かつ冷却ジャケット12の長手方向の一方の辺に沿って一列に並べて形成される。また、支持部材807bは、複数設けられ、かつ冷却ジャケット12の長手方向の他方の辺に沿って一列に並べて形成される。支持部材807a及び支持部材807bの先端部には、ドライバ回路基板22を固定するための螺子穴が形成されている。
【0160】
さらに、保持部材803は、電流センサ180a及び電流センサ180bが配置された箇所から上方に向かって延びる突起部806a及び突起部806bを設ける。突起部806a及び突起部806bは、それぞれ電流センサ180a及び電流センサ180bを貫通するように構成される。図42に示されるように、電流センサ180a及び電流センサ180bは、ドライバ回路基板22の配置方向に向かって延びる信号線182a及び信号線182bを設ける。信号線182a及び信号線182bは、ドライバ回路基板22の配線パターンとはんだによって接合される。本実施形態では、保持部材803、支持部材807a〜807b及び突起部806a〜806bは、樹脂で一体に形成される。
【0161】
これにより、保持部材803が電流センサ180とドライバ回路基板22との位置決め機能を備えることになるので、信号線182aとドライバ回路基板22との間の組み付け及びはんだ接続作業が容易になる。また、電流センサ180とドライバ回路基板22を保持する機構を保持部材803に設けることで、電力変換装置全体としての部品点数を削減できる。
【0162】
電力変換装置200はトランスミッション118を収納した筐体119に固定されるので、トランスミッション118からの振動の影響を大きく受ける。そこで、保持部材803は、ドライバ回路基板22の中央部の近傍を指示するための支持部材808を設けて、ドライバ回路基板22に加わる振動の影響を低減している。なお、保持部材803は、冷却ジャケット12に螺子により固定される。
【0163】
また、保持部材803は、補機用パワーモジュール350の一方の端部を固定するためのブラケット809を設ける。また図38に示されるように、補機用パワーモジュール350は突出部407に配置されることにより、当該補機用パワーモジュール350の他方の端部が当該突出部407に固定される。これにより、補機用パワーモジュール350に加わる振動の影響を低減するとともに、固定用の部品点数を削減することができる。
【0164】
図44は、パワーモジュールとコンデンサモジュールとバスバーモジュール800と補機用パワーモジュール350を組み付けた冷却ジャケット12の外観斜視図である。電流センサ180は、約100℃の耐熱温度以上に熱せられると破壊するおそれがある。特に車載用の電力変換装置では、使用される環境の温度が非常に高温になるため、電流センサ180を熱から保護することが重要になる。特に、本実施形態に係る電力変換装置200はトランスミッション118に搭載されるので、当該トランスミッション118から発せられる熱から保護することが重要になる。
【0165】
そこで、電流センサ180a及び電流センサ180bは、冷却ジャケット12を挟んでトランスミッション118とは反対側に配置される。これにより、トランスミッション118が発する熱が電流センサに伝達し難くなり、電流センサの温度上昇を抑えられる。さらに、第2交流バスバー804a〜804fは、図39に示された第3流路19cを流れる冷媒の流れ方向810を横切るように形成される。そして、電流センサ180a及び電流センサ180bは、第3流路部19cを横切る第2交流バスバー804a〜804fの部分よりもパワーモジュールの交流端子321に近い側に配置される。これにより、第2交流バスバー804a〜804fが冷媒によって間接的に冷却され、交流バスバーから電流センサ、更にはパワーモジュール内の半導体チップに伝わる熱を和らげることができるため、信頼性が向上する。
【0166】
図44に示される流れ方向811は、図39にて示された第4流路19dを流れる冷媒の流れ方向を示す。同様に、流れ方向812は、図39にて示された第2流路19bを流れる冷媒の流れ方向を示す。本実施形態に係る電流センサ180a及び電流センサ180bは、電力変換装置200の上方から投影したときに、電流センサ180a及び電流センサ180bの投影部が流路19の投影部に囲まれるように配置される。これにより電流センサをトランスミッション118からの熱から更に保護することができる。
【0167】
図45は、制御回路基板20と金属ベース板11を分離した電力変換装置200の分割斜視図である。図44にて示されたように、電流センサ180は、コンデンサモジュール500の上方に配置される。ドライバ回路基板22は、電流センサ180の上方に配置され、かつ図8に示されたバスバーモジュール800に設けられる支持部材807a及び807bによって支持される。金属ベース板11は、ドライバ回路基板22の上方に配置され、かつ冷却ジャケット12から立設された複数の支持部材15によって支持される。制御回路基板20は、金属ベース板11の上方に配置され、かつ金属ベース板11に固定される。
【0168】
電流センサ180とドライバ回路基板22と制御回路基板20が高さ方向に一列に階層的に配置され、かつ制御回路基板20が強電系のパワーモジュール300及び301から最も遠い場所に配置されるので、スイッチングノイズ等が混入することを抑制することができる。さらに、金属ベース板11は、グランドに電気的に接続された冷却ジャケット12に電気的に接続されている。この金属ベース板11によって、ドライバ回路基板22から制御回路基板20に混入するノイズを低減している。
【0169】
流路19に流れる冷媒の冷却対象が主に駆動用のパワーモジュール300及び301であるので、当該パワーモジュール300及び301は流路19内に収納されて直接と冷媒と接触して冷却される。一方、補機用パワーモジュール350も、駆動用パワーモジュールほどではないが冷却することが求められる。
【0170】
そこで、補機用パワーモジュール350の金属ベースで形成された放熱面が、流路19を介して、入口配管13及び出口配管14と対向するように形成される。特に、補機用パワーモジュール350を固定する突出部407が入口配管13の上方に形成されているので、下方から流入する冷媒が突出部407の内壁に衝突して、効率良く補機用パワーモジュール350から熱を奪うことができる。さらに、突出部407の内部には、流路19と繋がる空間を形成している。この突出部407内部の空間によって、入口配管13及び出口配管14近傍の流路19の深さが大きくなっており、突出部407内部の空間に液溜りが生じることになる。この液溜りにより効率良く補機用パワーモジュール350を冷却することができる。
【0171】
電流センサ180とドライバ回路基板22を電気的に繋ぐ際に、配線コネクタを用いると接続工程の増大や、接続ミスの危険性を招くことになる。
【0172】
そこで、図45に示されるように、本実施形態のドライバ回路基板22には、当該ドライバ回路基板22を貫通する第1孔24及び第2孔26が形成される。また第1孔24にはパワーモジュール300の信号端子325U及び信号端子325Lが挿入され、信号端子325U及び信号端子325Lはドライバ回路基板22の配線パターンと半田により接合される。さらに第2孔26には電流センサ180の信号線182が挿入され、信号線182はドライバ回路基板22の配線パターンとはんだにより接合される。なお、冷却ジャケット12との対向面とは反対側のドライバ回路基板22の面側からはんだ接合が行われる。
【0173】
これにより、配線コネクタを用いることなく信号線が接続できるので生産性を向上させることができる。また、パワーモジュール300の信号端子325と電流センサ180の信号線182を、同一方向からはんだにより接合されることにより、生産性を更に向上させることができる。また、ドライバ回路基板22に、信号端子325を貫通させるための第1孔24や、信号線182を貫通させるための第2孔26をそれぞれ設けることにより接続ミスの危険性を少なくすることができる。
【0174】
また、ドライバ回路基板22は、冷却ジャケット12と対向する面側に、ドライバICチップ等の駆動回路(図示せず)を実装している。これにより、はんだ接合の熱がドライバICチップ等に伝わることを抑制して、はんだ接合によるドライバICチップ等の損傷を防止している。また、ドライバ回路基板22に搭載されているトランスのような高背部品が、コンデンサモジュール500とドライバ回路基板22との間の空間に配置されるので、電力変換装置200全体を低背化することが可能となる。
【0175】
図46は、図45のB面で切り取った電力変換装置200をC方向から見た断面図である。モジュールケース304に設けられたフランジ304Bは、コンデンサケース502に設けれたフランジ515a又はフランジ515bによって冷却ジャケット12に押し付けられる。つまり、コンデンサセル514を収納したコンデンサケース502の自重を利用して、冷却ジャケット12にモジュールケース304を押しつけることにより、流路19の気密性を向上させることができる。
【0176】
パワーモジュール300の冷却効率を向上させるために、流路19内の冷媒をフィン305が形成された領域に流すようにする必要がある。モジュールケース304は薄肉部304Aならびに304A’のスペースを確保するために、モジュールケース304の下部にはフィン305が形成されていない。そこで下カバー420は、モジュールケース304の下部が、当該下カバー420に形成された凹部430に勘合されるように形成される。これにより、冷却フィンが形成されていない空間に冷媒が流れ込むことを防止することができる。
【0177】
図46に示されるように、パワーモジュール300とコンデンサモジュール500とパワーモジュール301の配列方向は、制御回路基板20とドライバ回路基板22とトランスミッション118の配列方向を横切るように並べて配置されている。特に、パワーモジュール300とコンデンサモジュール500とパワーモジュール301は、電力変換装置200の中では、最下層に並べて配置されている。これにより、電力変換装置200全体の低背化が可能となるとともに、トランスミッション118からの振動の影響を低減することができる。
【0178】
上述した実施の形態の作用効果をまとめると以下のようになる。
(1)図13に示すように、パワーモジュールは、一次封止体302と放熱部307Bとの間に配置され、放熱部307Bおよび少なくとも導体板315の放熱面の全域と接するように設けられた絶縁層333とを備える。そして、絶縁層333は、樹脂が含浸されたセラミックス溶射膜333Aおよび良熱伝導性のフィラーが混入された樹脂層333Bを積層した積層体と、その積層体の周囲端部を覆うように放熱部307Bと一次封止体32との隙間に設けられた樹脂部333Cとを有する。
【0179】
このように、空孔3330に樹脂を含浸した溶射膜333Aは、高熱伝導な絶縁シートのフィラー充填率よりも高い充填率(70〜97%)であるため熱伝導性に優れる。その結果、絶縁特性および熱伝導特性に優れた溶射膜333Aが得られ、絶縁特性および熱伝導特性を溶射膜333Aで確保することで、接着用樹脂としての樹脂層333Bを薄くすることができる。また、樹脂層333Bにフィラーを混入させることで、樹脂層333Bの熱伝導性能への影響を抑えることができる。
【0180】
さらに、図16に示すように、積層体の面積を導体板315,318の放熱面の面積よりも大きく設定して、積層体が少なくとも放熱面の全域と接するように設けられていることにより、半導体チップで発生した熱を導体板315,318から放熱部307A,307Bへと効果的に放熱することができる。なお、図16に示す例では、溶射膜333Aの面積を接着用樹脂層333Bよりも大きく設定しているが、いずれが大きくても良いし、同じ大きさでも構わない。さらに、樹脂部333Cを樹脂含浸のときに同時に形成しているが、積層体を形成した後に形成しても良い。
【0181】
樹脂層333Bによる接着温度や溶射による温度上昇は、従来のろう材を用いたセラミックス板の接合温度よりもはるかに低いため、モジュール作製時の熱応力を低減できる。また、溶射膜333Aの厚さを、従来の絶縁シートの厚さと同等にまで薄くでき、パワーモジュール絶縁部の放熱性を向上できる。また、溶射膜333Aはセラミックス粒子同士が溶着し一定の強度を有しているため、放熱部307Bと樹脂層333Bとを接着させる際の加圧力を増加することができ、ボイドの少ない樹脂層333Bにすることができる。加圧力を増加すると樹脂層333Bの厚さ変化が大きくなり薄くなるが、樹脂を含浸した溶射膜333Aにより絶縁性能を確保することができる。
【0182】
ところで、導体板315と放熱部307Bとの間の熱膨張係数差に起因して発生する積層体の熱応力は、接着面の外周部で大きくなる。特に、パワーモジュールの場合には、半導体チップに大電流が流れるため導体板315は発生熱で加熱され、熱膨張量の差が大きくなりやすい。しかしながら、積層体の周囲端部にそれらを覆うように樹脂部333Cを設けたので、積層体周囲端部における熱応力を緩和することができる。その場合、樹脂部333Cに使用される樹脂の弾性率を樹脂層333Bに使用される樹脂の弾性率よりも小さくすることで、応力緩和の効果をより高めることができる。また、樹脂部333Cにフィラーを混入させる場合には、樹脂部333Cのフィラー充填率を樹脂層333Bよりも小さくすることで弾性率の低下が小さくなり、同様の効果が得られるとともに、接着力が大きくなるため、剥離の発生や進展に対する耐性が向上する。
【0183】
(2)さらに、図25,26に示すように、一次封止体302や放熱部307B,307Aに凹凸部(凹部304e,348a、段差304f,348b)を形成し、その凹凸部に樹脂部333Cの樹脂が充填されるようにすることで、積層体周囲の樹脂量が増加し、上述した応力緩和効果をより高めることができる。さらに、凹凸部に樹脂が入り込むことによるアンカー効果により、応力の緩和効果がより大きくなる。
【0184】
(3)樹脂シート333Bに使用される樹脂を熱可塑性樹脂を主成分とした樹脂とし、加熱硬化する部位を有する組成物とし、樹脂333Dには室温から150℃の温度域での粘度が樹脂333Bよりも低い含浸性に優れる熱硬化性樹脂を選定することで、加圧する温度において、樹脂シート3332の粘度が樹脂層333Dよりも十分大きい状態となる加熱温度が広くとれ生産性が向上する。図23のように放熱部307Bと樹脂層333Bとを接着させる際の加圧力によって、溶射膜333Aと樹脂層333Bとの間の樹脂333Dが溶射膜333A内や積層体周方向に押し流される。その結果、溶射膜333Aの凹凸部に樹脂層333Bのフィラーが入り込み境界領域での熱伝導性能の低下を防止することができ、積層体の熱伝導性能の向上を図ることができる。これは、樹脂シート333Bに使用される樹脂をガラス温度が高い樹脂とし、樹脂333Dに樹脂シート333Bよりもガラス転移温度が低い樹脂を用いることで、樹脂シート333Bのガラス転移温度よりも低い温度で加熱すれば同様の効果を得ることができる。
【0185】
(4)空孔3330の大きさが溶射膜表面の凹凸の大きさよりも小さくなるように溶射膜333Aを形成し、樹脂層333Bに混入されているフィラーの大きさを溶射膜表面の凹凸の大きさよりも小さく、かつ、空孔3330の大きさよりも大きく設定する。そうすることで、樹脂層333Bのフィラーを空孔3330に入れずに溶射膜表面の凹部に入り込ませることができる。その結果、溶射膜333Aと樹脂層333Bとの界面における熱伝導性能を向上させることができる。樹脂はセラミックスや金属に比較して著しく熱伝導率が小さく、放熱経路に樹脂の濃化層(フィラーが少ない層)が存在するとモジュール全体の放熱性が低下する。そのため、上述のように設定して、溶射膜333Aの凹部に存在する樹脂層333B内にフィラーを存在させることが重要となる。なお、溶射膜333Aの表面凹凸の制御は、溶射条件である、溶射温度、基材の予熱温度、噴射速度、雰囲気、粉末粒径により制御できる。また、必要に応じて溶射後に研削や研磨やレーザ照射などの表面加工を施しても良い。
【0186】
(5)放熱部307Bの熱膨張係数が導体板315の熱膨張係数よりも大きい場合、例えば導体板315をAlやAl合金(AlSiCやAlCとAlの複合材など)とし、放熱部307BをCuやCu合金で形成した場合には、導体板315に熱膨張係数の大きな樹脂層333Bが配置され、放熱部307B側に熱膨張係数の小さな溶射膜333Aが配置されるように積層体を構成する。その結果、放熱部307Bから導体板315にかけて熱応力が傾斜され、積層体周囲端部における熱応力が緩和される。逆に、導体板315の熱膨張係数が放熱部307Bの熱膨張係数よりも大きい場合には、導体板側の熱膨張係数が放熱部側の熱膨張係数よりも大きくなるように積層体を構成すれば良い。樹脂層333Bの熱膨張係数は、フィラー充填量や樹脂の膨張係数を調整することで変化させることができる。溶射膜333Aの熱膨張係数は、含浸させる樹脂の熱膨張係数を調整することで変化させることができる。
【0187】
上述した各実施形態はそれぞれ単独に、あるいは組み合わせて用いても良い。それぞれの実施形態での効果を単独あるいは相乗して奏することができるからである。また、本発明の特徴を損なわない限り、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではない。
【符号の説明】
【0188】
156,166:ダイオード、300:パワーモジュール、302:一次封止体、304:モジュールケース、304A:薄肉部、306:挿入口、307,307A,307B、307D:放熱部、315,318,319,320:導体板、315a,318a,319a,320a:放熱面、328,330:IGBT、333:絶縁層、333A:溶射膜、333B:樹脂層、333C:樹脂部、333D:樹脂、333F:フィレット、348,351:封止樹脂、600:補助モールド体、3000:モジュール構造体、3330:空孔、3331:扁平体、3332:樹脂シート
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体チップが搭載された導体板を、該導体板の放熱面が露出するように樹脂で封止した封止体と、
前記放熱面と対向するように配置された放熱部材と、
前記封止体と前記放熱部材との間に配置された絶縁層と、を備え、
前記絶縁層は、
含浸用樹脂が含浸されたセラミックス溶射膜および良熱伝導性のフィラーが混入された接着用樹脂層を積層したものであって、前記放熱部材および少なくとも前記放熱面の全域と接するように設けられている積層体と、
前記積層体の端部を全周にわたって覆うように、前記放熱部材と前記封止体との隙間に設けられた応力緩和用樹脂部とを有するパワーモジュール。
【請求項2】
請求項1に記載のパワーモジュールにおいて、
前記封止体および放熱部材の少なくとも一方の、前記積層体の外周側に位置する面に凹部を形成し、
前記応力緩和用樹脂部を構成する樹脂の一部が前記凹部に充填されていることを特徴とするパワーモジュール。
【請求項3】
請求項1に記載のパワーモジュールにおいて、
前記セラミックス溶射膜が対向する前記封止体または放熱部材部材の面に、前記応力緩和用樹脂部を囲む環状の凸部が形成されていることを特徴とするパワーモジュール。
【請求項4】
請求項1に記載のパワーモジュールにおいて、
前記セラミックス溶射膜の周縁位置における前記放熱部材と前記封止体との間隔が、前記セラミックス溶射膜の周縁よりも内側の領域における間隔よりも大きくなるように、前記セラミックス溶射膜の周縁の厚さを該周縁よりも内側の領域の厚さよりも薄くしたことを特徴とするパワーモジュール。
【請求項5】
請求項1に記載のパワーモジュールにおいて、
前記セラミックス溶射膜の周縁位置における前記放熱部材と前記封止体との間隔が、前記セラミックス溶射膜の周縁よりも内側の領域における間隔よりも大きくなるように、前記セラミックス溶射膜の周縁が接している前記封止体または前記放熱部材部材の面に段差が形成されていることを特徴とするパワーモジュール。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載のパワーモジュールにおいて、
前記応力緩和用樹脂部に使用される樹脂の弾性率が、前記接着用樹脂層に使用される樹脂の弾性率よりも小さいことを特徴とするパワーモジュール。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載のパワーモジュールにおいて、
前記応力緩和用樹脂部は、前記接着用樹脂層よりも低いフィラー充填率でフィラーが混入されていることを特徴とするパワーモジュール。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載のパワーモジュールにおいて、
前記接着用樹脂層に使用される樹脂のガラス転移温度が、前記応力緩和用樹脂部に使用される樹脂のガラス転移温度よりも高いことを特徴とするパワーモジュール。
【請求項9】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載のパワーモジュールにおいて、
前記接着用樹脂層に使用される樹脂が熱可塑性樹脂であり、前記応力緩和用樹脂部に使用される樹脂が熱硬化性樹脂であることを特徴とするパワーモジュール。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか一項に記載のパワーモジュールにおいて、
前記セラミックス溶射膜は、溶射膜内部に形成される空孔の大きさが該溶射膜の表面凹部の大きさよりも小さく、
前記接着用樹脂層に混入されているフィラーの大きさは、前記表面凹部の大きさよりも小さく、かつ、前記空孔の大きさよりも大きいことを特徴とするパワーモジュール。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか一項に記載のパワーモジュールにおいて、
前記放熱部材の熱膨張係数が前記導体板の熱膨張係数よりも大きい場合には、前記積層体は放熱部材側の熱膨張係数が導体板側の熱膨張係数よりも大きくなるように構成され、逆に、前記導体板の熱膨張係数が前記放熱部材の熱膨張係数よりも大きい場合には、前記積層体は導体板側の熱膨張係数が放熱部材側の熱膨張係数よりも大きくなるように構成されていることを特徴とするパワーモジュール。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれか一項に記載のパワーモジュールにおいて、
前記半導体チップはチップ表裏両面に電極を有し、
前記導体板は、チップ表面側に接合される表面側導体板とチップ裏面側に接合される裏面側導体板とを含み、
前記放熱部材は、前記半導体チップ、前記表面側導体板および前記裏面側導体板を樹脂で封止した前記封止体が収納されるモジュールケースであって、前記表面側導体板と対向する第1の放熱壁と、前記裏面側導体板と対向する第2の放熱壁と、前記第1及び第2の放熱壁の周囲に形成された薄肉の塑性変形可能部とを有し、
前記絶縁層は、前記表面側導体板と前記第1の放熱壁との間に配置される第1の絶縁層と、前記裏面側導体板と前記第2の放熱壁との間に配置される第2の絶縁層とを含むことを特徴とするパワーモジュール。
【請求項13】
請求項1乃至11のいずれか一項に記載のパワーモジュールにおいて、
前記半導体チップはチップ表裏両面に電極を有し、
前記導体板は、チップ表面側に接合される表面側導体板とチップ裏面側に接合される裏面側導体板とを含み、
前記放熱部材は、前記表面側導体板と対向する第1の放熱壁と、前記裏面側導体板と対向する第2の放熱壁とを含み、
前記絶縁層は、前記表面側導体板と前記第1の放熱壁との間に配置される第1の絶縁層と、前記裏面側導体板と前記第2の放熱壁との間に配置される第2の絶縁層とを含むことを特徴とするパワーモジュール。
【請求項1】
半導体チップが搭載された導体板を、該導体板の放熱面が露出するように樹脂で封止した封止体と、
前記放熱面と対向するように配置された放熱部材と、
前記封止体と前記放熱部材との間に配置された絶縁層と、を備え、
前記絶縁層は、
含浸用樹脂が含浸されたセラミックス溶射膜および良熱伝導性のフィラーが混入された接着用樹脂層を積層したものであって、前記放熱部材および少なくとも前記放熱面の全域と接するように設けられている積層体と、
前記積層体の端部を全周にわたって覆うように、前記放熱部材と前記封止体との隙間に設けられた応力緩和用樹脂部とを有するパワーモジュール。
【請求項2】
請求項1に記載のパワーモジュールにおいて、
前記封止体および放熱部材の少なくとも一方の、前記積層体の外周側に位置する面に凹部を形成し、
前記応力緩和用樹脂部を構成する樹脂の一部が前記凹部に充填されていることを特徴とするパワーモジュール。
【請求項3】
請求項1に記載のパワーモジュールにおいて、
前記セラミックス溶射膜が対向する前記封止体または放熱部材部材の面に、前記応力緩和用樹脂部を囲む環状の凸部が形成されていることを特徴とするパワーモジュール。
【請求項4】
請求項1に記載のパワーモジュールにおいて、
前記セラミックス溶射膜の周縁位置における前記放熱部材と前記封止体との間隔が、前記セラミックス溶射膜の周縁よりも内側の領域における間隔よりも大きくなるように、前記セラミックス溶射膜の周縁の厚さを該周縁よりも内側の領域の厚さよりも薄くしたことを特徴とするパワーモジュール。
【請求項5】
請求項1に記載のパワーモジュールにおいて、
前記セラミックス溶射膜の周縁位置における前記放熱部材と前記封止体との間隔が、前記セラミックス溶射膜の周縁よりも内側の領域における間隔よりも大きくなるように、前記セラミックス溶射膜の周縁が接している前記封止体または前記放熱部材部材の面に段差が形成されていることを特徴とするパワーモジュール。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載のパワーモジュールにおいて、
前記応力緩和用樹脂部に使用される樹脂の弾性率が、前記接着用樹脂層に使用される樹脂の弾性率よりも小さいことを特徴とするパワーモジュール。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載のパワーモジュールにおいて、
前記応力緩和用樹脂部は、前記接着用樹脂層よりも低いフィラー充填率でフィラーが混入されていることを特徴とするパワーモジュール。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載のパワーモジュールにおいて、
前記接着用樹脂層に使用される樹脂のガラス転移温度が、前記応力緩和用樹脂部に使用される樹脂のガラス転移温度よりも高いことを特徴とするパワーモジュール。
【請求項9】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載のパワーモジュールにおいて、
前記接着用樹脂層に使用される樹脂が熱可塑性樹脂であり、前記応力緩和用樹脂部に使用される樹脂が熱硬化性樹脂であることを特徴とするパワーモジュール。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか一項に記載のパワーモジュールにおいて、
前記セラミックス溶射膜は、溶射膜内部に形成される空孔の大きさが該溶射膜の表面凹部の大きさよりも小さく、
前記接着用樹脂層に混入されているフィラーの大きさは、前記表面凹部の大きさよりも小さく、かつ、前記空孔の大きさよりも大きいことを特徴とするパワーモジュール。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか一項に記載のパワーモジュールにおいて、
前記放熱部材の熱膨張係数が前記導体板の熱膨張係数よりも大きい場合には、前記積層体は放熱部材側の熱膨張係数が導体板側の熱膨張係数よりも大きくなるように構成され、逆に、前記導体板の熱膨張係数が前記放熱部材の熱膨張係数よりも大きい場合には、前記積層体は導体板側の熱膨張係数が放熱部材側の熱膨張係数よりも大きくなるように構成されていることを特徴とするパワーモジュール。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれか一項に記載のパワーモジュールにおいて、
前記半導体チップはチップ表裏両面に電極を有し、
前記導体板は、チップ表面側に接合される表面側導体板とチップ裏面側に接合される裏面側導体板とを含み、
前記放熱部材は、前記半導体チップ、前記表面側導体板および前記裏面側導体板を樹脂で封止した前記封止体が収納されるモジュールケースであって、前記表面側導体板と対向する第1の放熱壁と、前記裏面側導体板と対向する第2の放熱壁と、前記第1及び第2の放熱壁の周囲に形成された薄肉の塑性変形可能部とを有し、
前記絶縁層は、前記表面側導体板と前記第1の放熱壁との間に配置される第1の絶縁層と、前記裏面側導体板と前記第2の放熱壁との間に配置される第2の絶縁層とを含むことを特徴とするパワーモジュール。
【請求項13】
請求項1乃至11のいずれか一項に記載のパワーモジュールにおいて、
前記半導体チップはチップ表裏両面に電極を有し、
前記導体板は、チップ表面側に接合される表面側導体板とチップ裏面側に接合される裏面側導体板とを含み、
前記放熱部材は、前記表面側導体板と対向する第1の放熱壁と、前記裏面側導体板と対向する第2の放熱壁とを含み、
前記絶縁層は、前記表面側導体板と前記第1の放熱壁との間に配置される第1の絶縁層と、前記裏面側導体板と前記第2の放熱壁との間に配置される第2の絶縁層とを含むことを特徴とするパワーモジュール。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
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【図31】
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【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図45】
【図46】
【図47】
【図48】
【図49】
【公開番号】特開2013−73964(P2013−73964A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−209815(P2011−209815)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】
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