説明

パワー半導体システム

【課題】パワー半導体素子とドライバICが同一パッケージ内に組み込まれたパワー半導体装置を備えるパワー半導体システムの信頼性を向上させる。
【解決手段】本発明の実施形態の半導体システムは、第1のパワー半導体素子1と、ドライバIC20と、第1の温度検知素子11と、制御回路9と、過熱保護制御部40を備える。ドライバIC20は、第1のパワー半導体素子1を制御する。第1の温度検知素子11は、ドライバIC20の表面上の温度を検知する。制御回路9は、ドライバIC20に制御信号を供給する。過熱保護制御部40は、第1の温度検知素子11の出力に基づいて、定常モードの場合には第1の温度検知素子11の測定温度が定常モード温度検知レベルになると、過渡モードの場合には第1の温度検知素子11の測定温度が過渡モード温度検知レベルになると、制御回路9を制御し、第1のパワー半導体素子1を保護する過熱保護動作を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、パワー半導体システムに関する。
【背景技術】
【0002】
パソコンや家庭電気機器などの電源に用いられるDC−DCコンバータや、モータ制御などに用いられるインバータなどでは、スイッチング制御するために、制御回路、ドライバIC、パワー半導体素子などを含むパワー半導体システムが構成される。パワー半導体素子としては、例えば、高耐圧のMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)が用いられる。そして、ハイサイドMOSFETと、ローサイドMOSFETと、これらのゲート電極をON/OFFするドライバICと、が同一の樹脂パッケージ内に同梱されたMCM(Multi Chip Module)と呼ばれるパワー半導体装置が形成されることがある。このMCMと、MCM内のドライバICを制御する制御回路及びその他制御部から構成されるパワー半導体システムの一例として、DC−DCコンバータを挙げることができる。制御回路やその他制御部は、MCM内に組み込まれることもある。
【0003】
MCMでは、樹脂パッケージ内にパワー半導体素子とドライバICとが別のチップとして隣接するように配置され、それらの間に樹脂を介して離間配置されている。また、両者は、同一チップ内にモノリシックに配置され、MCMではなく単一のチップを樹脂でパッケージしたパワー半導体装置とすることもある。DC−DCコンバータの出力端には、負荷としてCPUなどの演算処理装置が接続される。CPUの負荷が急激に変化すると、DC−DCコンバータの出力として急激に電流が必要となる。この結果、DC−DCコンバータのハイサイドMOSFETには急激な温度上昇がおこり、この温度上昇によりハイサイドMOSFETが破壊温度を超えないように、パワー半導体システム内で過熱保護制御を行うことが必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−227763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の実施形態は、適切な過熱保護制御を行うことのできるパワー半導体システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態の半導体システムは、第1のパワー半導体素子と、ドライバICと、第1の温度検知素子と、制御回路と、過熱保護制御部を備える。第1のパワー半導体素子は、第1の電極、第2の電極及び制御電極を有し、制御電極が第1の電極と第2の電極との間を流れる電流を制御する。ドライバICは、第1のパワー半導体素子のオン状態とオフ状態を制御する。第1の温度検知素子は、ドライバICの温度を検知する。制御回路は、ドライバICに制御信号を供給する。過熱保護制御部は、第1の温度検知素子の出力に基づいて制御回路を制御し第1のパワー半導体素子を保護する。過熱保護制御部は、第1のパワー半導体素子が負荷急変状態になると、ドライバICの温度検知モードが、定常モードまたは過渡モードの判定をする。定常モードの場合には、第1の温度検知素子の測定温度が定常モード温度検知レベルになると、過渡モードの場合には、第1の温度検知素子の測定温度が過渡モード温度検知レベルになると、過熱保護動作を行う。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の実施例1のパワー半導体システムの主要な構成を表すブロック図。
【図2】本発明の実施例1のパワー半導体システムの主要な構成の一部分をパッケージした一例を示す平面図。
【図3】本発明の実施例1のパワー半導体システムの過熱保護制御を示すフローチャート。
【図4】本発明の実施例1のパワー半導体システムのパワー半導体装置内の動作時の温度分布を説明するためのグラフ。
【図5】本発明の実施例1のパワー半導体システムの定常状態と過渡状態での温度検知レベルを説明するためのグラフ。
【図6】本発明の実施例1のパワー半導体システムの過渡モード温度検知レベルの決定を説明するためのグラフ。
【図7】本発明の実施例2のパワー半導体システムの主要な構成を表すブロック図。
【図8】本発明の実施例2のパワー半導体システムの主要な構成の一部分をパッケージした一例を示す平面図。
【図9】本発明の実施例2のパワー半導体システムの過熱保護制御を示すフローチャート。
【図10】本発明の実施例2のパワー半導体システムの定常状態と過渡状態での温度検知レベルを説明するためのグラフ。
【図11】本発明の実施例2の変形例のパワー半導体システムの定常状態と過渡状態での温度検知レベルの決定を説明するためのグラフ。
【図12】本発明の実施例2の変形例2のパワー半導体システムの主要な構成の一部分をパッケージした一例を示す平面図。
【図13】本発明の実施例2の変形例2のパワー半導体システムの過熱保護制御を示すフローチャート。
【図14】本発明の実施例3のパワー半導体システムの主要な構成の一部分をパッケージした一例を示す平面図。
【図15】本発明の実施例3のパワー半導体システムの定常状態と過渡状態での温度検知レベルを説明するためのグラフ。
【図16】本発明の実施例3の変形例のパワー半導体システムの主要な構成の一部分をパッケージした一例を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施例について図を参照しながら説明する。実施例中の説明で使用する図は、説明を容易にするための模式的なものであり、図中の各要素の形状、寸法、大小関係などは、実際の実施においては必ずしも図に示されたとおりとは限らず、適宜変更可能である。なお、実施形態のパワー半導体システムは、その一例としてDC−DCコンバータを用いて説明するが、これに限られることなく、インバータなど、パワー半導体素子とドライバICが一体にパッケージされたパワー半導体装置を用いて構成されるシステム全般を含めて適用することができる。
【実施例1】
【0009】
図1は、本発明の実施例1のパワー半導体システムの一例であるDC−DCコンバータ100の主要な構成を表すブロック図である。
【0010】
図2は、本発明の実施例1のパワー半導体システムの一例であるDC−DCコンバータ100の主要な構成の一部分をパッケージした一例を示す平面図である。
【0011】
図3は、本発明の実施例1のDC−DCコンバータ100の過熱保護制御を示すフローチャートである。
【0012】
図1に示すように、実施例1のDC−DCコンバータ100は、第1のパワー半導体素子1、第2のパワー半導体素子2、DC−DCコンバータの入力端子3、インダクタ4、キャパシタ5、接地端子GND、DC−DCコンバータの出力端子7、ドライバIC20、制御回路9及び過熱保護制御部40、を有する。なお、パワー半導体素子の一例として、nチャネルのMOSFETを用いた場合を例に説明するが、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やその他の電力用半導体装置を用いることも可能である。これは、これ以後の全ての実施例においても同様である。
【0013】
nチャネルのハイサイドMOSFET1(第1のパワー半導体素子)と、nチャネルのローサイドMOSFET2(第2のパワー半導体素子)とは、入力端子3と接地端子GNDとの間に直列接続されている。ローサイドMOSFET2のソース電極(図示しない)は接地端子GNDに接続され、ローサイドMOSFET2のドレイン電極(図示しない)はハイサイドMOSFET1のソース電極(図示しない)に接続されている。ハイサイドMOSFET1のドレイン電極(図示しない)は入力端子3に接続している。
【0014】
ハイサイドMOSFET1のソース電極(図示しない)は、インダクタ4の一端に接続されている。インダクタ4の他端は、DC−DCコンバータの出力端子7に接続されている。インダクタ4の他端は、キャパシタ5の一端に接続されており、キャパシタ5の他端は、接地端子GNDに接続されている。
【0015】
ハイサイドMOSFETとローサイドMOSFETでは、ドレイン電極(図示しない)を第1の電極とし、ソース電極(図示しない)を第2の電極として、ドレイン電極からソース電極に流れる電流を、制御電極であるゲート電極(図示しない)が制御する。ドライバIC20がゲート信号を供給し、ハイサイドMOSFET1のゲート電極(図示しない)とローサイドMOSFET2のゲート電極(図示しない)とを同期してON/OFF制御する。ハイサイドMOSFET1がONの期間は、ローサイドMOSFET2がOFFとなり、ハイサイドMOSFET1がOFFの期間は、ローサイドMOSFET2はONとなり、また、両者が同時にONすることが無いように、ハイサイドMOSFET1のゲート電極とローサイドMOSFET2のゲート電極に対してそれぞれ、ドライバIC20がゲート信号を供給する。
【0016】
制御回路9は、PWM(Pulse Width Modulation)信号を出力信号としてドライバIC20に供給し、ドライバICから各MOSFETに供給されるゲート信号を制御する。制御回路9は、DC−DCコンバータの出力端子7の出力電圧VOUTを図示しない比較回路で検出し、VOUTが低下したときは、PWM信号のデューティ比を大きくし、VOUTが上昇したときは、PWM信号のデューティ比を小さくするように制御する。
【0017】
過熱保護制御部40は、制御回路9に出力信号を供給する。後述するようにドライバIC20は、その表面上に第1の温度検知素子であるIC部温度検知素子11を備える。IC部温度検知素子11がドライバIC20の温度を検知し、ドライバIC20がIC部温度検知素子11の検知信号を過熱保護制御部40に供給する。IC部温度検知素子11が、ハイサイドMOSFET1またはローサイドMOSFET2の電流の急激な増加によるドライバIC20部の温度を検知することで、過熱保護制御部40が、両MOSFETの温度上昇を検知する。IC部温度検知素子11で検知した温度が規定値以上になった時に、ハイサイドMOSFET1、またはローサイドMOSFET2の電流が遮断されるように、過熱保護制御部40は制御回路9に出力信号を供給する。一例としては、制御回路9からのPWM信号のデューティ比がゼロになるように、過熱保護制御部40は制御回路9に出力信号を供給する。
【0018】
このように、DC−DCコンバータ100を一例とするパワー半導体システムが動作中に、IC部温度検知素子がパワー半導体素子の異常な温度上昇を検知した時に、過熱保護制御部40は、パワー半導体素子に流れる電流を遮断するように制御回路9を制御する。このように制御することを過熱保護制御と定義し、パワー半導体素子1に流れる電流を遮断する動作を過熱保護動作と定義する。制御回路9がPWM信号を過熱保護制御部40に供給することで、過熱保護制御部40がハイサイドMOSFET1とともにローサイドMOSFET2の駆動状況を監視できる。
【0019】
本実施例のDC−DCコンバータ100では、ハイサイドMOSFET1とローサイドMOSFET2及びドライバICが、同一の樹脂パッケージ内に同梱され、パワー半導体装置50がMCMとして形成されている。図2は、パワー半導体装置50の平面図を示す。図2は、ドライバIC20、ハイサイドMOSFET1及びローサイドMOSFET2の表面上を覆っている樹脂を省略した平面図を示す。
【0020】
ドライバIC20が、ドライバIC用のダイパッド62cの上に配置されている。ハイサイドMOSFET1が形成されたチップが、ハイサイドMOSFET用のダイパッド62a上に配置されている。また、ローサイドMOSFET2のチップが、ドライバIC20とハイサイドMOSFET1とが配置された方向に平行な方向に延伸して、これらに隣接して、ローサイドMOSFET用のダイパッド62bの上に配置されている。
【0021】
ハイサイドMOSFET1は、ドレイン電極(図示しない)を介してハイサイドMOSFET用のダイパッド62aと電気的に接続され、ハイサイドMOSFET1のダイパッド62aと反対側の表面にソース電極パッド61aとゲート電極パッド18aとを備えている。詳細は省略するが、ソース電極パッド61aは、ソース電極(図示しない)と電気的に接続されており、ゲート電極パッド18aはゲート電極(図示しない)と電気的に接続されている。
【0022】
ローサイドMOSFET2は、ドレイン電極(図示しない)を介してローサイドMOSFET2用のダイパッド62bと電気的に接続され、ハイサイドMOSFET2のダイパッド62bと反対側の表面にソース電極パッド61bとゲート電極パッド18bとを備えている。ソース電極パッド61bは、ソース電極(図示しない)と電気的に接続されており、ゲート電極パッド18bはゲート電極(図示しない)と電気的に接続されている。
【0023】
入出力信号用の入出力電極パッド15が、ドライバIC20のチップ表面に設けられている。ハイサイドMOSFET1及びローサイドMOSFET2のゲート電極(図示しない)へゲート出力を供給するためのハイサイドMOSFET1用のゲート出力電極パッド17aと、ローサイドMOSFET2用のゲート出力電極パッド17bとが、さらにその表面に設けられている。
【0024】
樹脂パッケージ63が、上記3つの互いに離間分離したダイパッドの間と、ドライバIC20、ハイサイドMOSFET1及びローサイドMOSFET2の間を埋め込むように、また、ドライバIC20、ハイサイドMOSFET1及びローサイドMOSFET2をそれぞれ覆うように形成されている。
【0025】
ハイサイドMOSFET1用のダイパッド62aと一体化したリード16aが、ハイサイドMOSFET1のドレイン電極を樹脂パッケージ63の外部に引き出すために、樹脂パッケージ63から突出して設けられる。リード16aは、入力端子3に電気的に接続される。ハイサイドMOSFET1のソース電極パッド61aとローサイドMOSFET2用のダイパッド62bとが、ボンディングワイヤ19により電気的に接合されることで、ハイサイドMOSFET1のソース電極(図示しない)とローサイドMOSFET2のドレイン電極(図示しない)とが、電気的に接続されている。ローサイドMOSFET2用のダイパッド62bと一体化されたリード16b1が、樹脂パッケージ63の外部にローサイドMOSFET2のドレイン電極(図示しない)を引き出すために、樹脂パッケージ63から突出するように形成されている。リード16b1は、インダクタ4を介して出力端子7に電気的にて接続される。樹脂パッケージ63の外部にローサイドMOSFET2のソース電極(図示しない)を引き出すためのリード16b2が、ローサイドMOSFET2用ダイパッド62bと分離して、樹脂パッケージ63から突出するように形成されている。ローサイドMOSFET2のソース電極パッド61bとリード16b2とが、ボンディングワイヤ19により電気的に接続されることで、ローサイドMOSFET2のソース電極が、樹脂パッケージの外部に引き出される。リード16b2は、接地端子GNDに電気的に接続される。
【0026】
ドライバIC20の入出力信号を樹脂パッケージ63の外部に引き出すためのリード16cが、ドライバIC20用ダイパッド62cと離間分離し、樹脂パッケージから突出するように形成されている。このリード16cとドライバIC20の表面に形成された入出力電極パッド15とをそれぞれボンディングワイヤが電気的に接続することで、樹脂パッケージの外部に入出力電極が引き出されている。リード16cの一部は、制御回路9に電気的に接続され、他の一部は過熱保護制御部40に電気的に接続される。後述するIC部温度検知素子11の出力は、図示しない配線を介して入出力電極パッド15の一部に引き出され、リード16cの他の一部を介して過熱保護制御部40に供給される。または、入出力電極パッド15を介さずに、直接ボンディングワイヤでリード16cの他の一部に引き出してもよい。後述の他の実施例や変形例においても、温度検知素子の出力は、上記のように過熱保護制御部に供給することができる。ドライバIC20のゲート出力電極パッド17a及び17bが、それぞれハイサイドMOSFET1のゲート電極パッド18a及びローサイドMOSFET2のゲート電極パッド18bとボンディングワイヤ19で電気的に接続されることで、ドライバIC20がそれぞれのMOSFETにゲート信号を供給する。
【0027】
また、IC部温度検知素子11(第1の温度検知素子)が、ドライバIC部の温度を検知するためにドライバIC20の表面上にさらに設けられている。ここで用いられる温度検知素子は、例えば、ポリシリコンからなるダイオードを、ドライバIC20のチップ表面上に形成された層間絶縁膜の上に形成しておき、ダイオードの温度と電流の関係から温度を検知する方法を備えてもよい。また他の一例としては、温度検知素子は、ポリシリコンからなる抵抗をドライバIC20のチップ表面上に層間絶縁膜を介して形成しておき、抵抗値と温度の関係から温度を検知する方法を備えてもよい。その他、温度とデバイス特性の関係から温度を検知できるデバイスであれば、温度検知素子として用いることが可能である。なお、本実施例では、温度検知素子がドライバIC20のチップ表面上に形成されている。これは温度検知素子がハイサイドMOSFETなどのパワー半導体素子の表面上に形成されると、追加工程が増すことでコスト上昇をもたらすためである。
【0028】
本実施例では、図2に示したように、ハイサイドMOSFET1用ダイパッド62aとドライバIC20用ダイパッド62cとは、離間分離して設けられているが、両者は一体型となるように設けられてもよい。すなわち、ハイサイドMOSFET1とドライバIC20が、同一のダイパッド上に、互いに離間分離して形成されてもよい。または、さらにハイサイドMOSFET1とドライバIC20とが、同一チップにモノリシックに形成されていてもよい。
【0029】
次に本実施例のパワー半導体システムであるDC−DCコンバータ100の動作を図3から図5を用いて説明する。図3は、DC−DCコンバータの過熱保護制御部が実行する過熱保護制御の内容をフローチャートにして示す。図1に示したように、本実施例のDC−DCコンバータの出力端子に接続されたCPU(Central Processing Unit)などの負荷が、過負荷状態となって電流を消費すると、制御回路9は、DC−DCコンバータの出力電圧を維持するために、ドライバIC20に供給するPWM信号のデューティ比を大きくする。これにより、ハイサイドMOSFET1のOFF状態に対するON状態の比率が上がり、ハイサイドMOSFET1を流れる電流Ids1が増大する。この結果、ハイサイドMOSFET1のソース・ドレイン間電圧をVds1とすれば、ハイサイドMOSFET1での消費電力Ids1×Vds1が大きくなる。これが熱源となってハイサイドMOSFET1の温度が急激に上昇する。ハイサイドMOSFET1の素子が破壊する温度を超えないように、過熱保護制御が実行される必要がある。すなわち、本実施例の過熱保護制御部40は、ドライバIC部20の温度をIC部温度検知素子11を用いて検知し、IC部の温度が既定値以上になったときに、ハイサイドMOSFET1の電流を遮断するように保護機能を持つ。
【0030】
図4は、図2の一点鎖線A−A方向での、ハイサイドMOSFET1及びドライバIC20のチップ表面上での温度分布を示したグラフである。負荷が急激に変動することがない定常状態では、ハイサイドMOSFET1が過負荷により発熱しても、この熱が伝搬し、隣接するドライバIC20の温度上昇を引き起こす。ハイサイドMOSFET1の温度上昇が、ハイサイドMOSFET1とドライバIC20との間の熱抵抗に対して急激でなければ、図4中の実線で示したように、ハイサイドMOSFET1とドライバIC20との温度差は、ほぼ同じである。この状態を定常状態の温度分布として以後説明する。
【0031】
ハイサイドMOSFETは、破壊する温度に対して十分余裕を持たせて設定された上限管理温度以下になるように温度管理されなければならない。負荷が急激に変化(負荷急変)しない定常状態では、ハイサイドMOSFET1の温度とドライバIC部20の温度はほぼ同じなので、IC部温度検知素子11が、ハイサイドMOSFET1の上記上限管理温度と同じ温度を検知したら、過熱保護制御部40が過熱保護動作を実行する。このときのIC部温度検知素子が検知する温度を定常モード温度検知レベルTTSDとする。また、過熱保護制御部40がIC部温度検知素子により定常モード温度検知レベルを用いてドライバIC20の温度を測定することを定常モードの温度検知と定義する。
【0032】
ここで、負荷が急激に変化(負荷急変)した場合を考えると、図中一点鎖線で示したように、ハイサイドMOSFET1の部分で温度が急上昇し、ハイサイドMOSFET1の温度とドライバIC20のIC部温度測定点の温度との差は大きくなる。この状態を過渡状態と称する。過渡状態では、IC部温度測定点からハイサイドMOSFET1に向かうに従って、ドライバIC20の表面温度は徐々に上昇し、ハイサイドMOSFET1の周辺で急激に温度が上昇する。定常モードでの温度検知を行い、IC部温度検知素子11が定常モード温度検知レベルを超えたときに、過熱保護制御部40が過熱保護動作を開始したのでは、ハイサイドMOSFET1は破壊されてしまう。また、定常モードでの温度検知レベルを十分に低い値とすると、定常状態で過熱保護動作の必要がないときでも、過熱保護制御部40が過熱保護動作を行い、半導体装置50の運転率が悪くなる。パワー半導体システムとしては、効率がよく信頼性の高い過熱保護制御を実行することが望まれる。
【0033】
本実施例では、この不具合に対処するために、過熱保護制御部40は、定常状態で温度を検知する定常モードの他に、負荷急変状態での温度を検知する過渡モードを備えている。この過渡モードでの温度検知及び過熱保護動作の実行の仕方を以下に説明する。
【0034】
図5は、ハイサイドMOSFET1の温度が上限管理温度になったときに、DC−DCコンバータ100の動作が定常状態のときと過渡状態の時で、図2中の一点鎖線A−A方向での温度分布を比較したグラフである。定常状態では、前述のようにIC部温度測定点の温度がほぼハイサイドMOSFET1の温度と同じなので、IC部温度検知素子11の測定温度が定常モード温度検知レベルに達したときに、過熱保護制御部40が過熱保護動作を実行すればよい。それに対して、過渡状態では、図5中に示したようにIC部測定点の温度は、定常モード温度検知レベルTTSDよりも低い温度TALMとなっている。過渡モードの温度検知では、IC部温度検知素子11の温度がTALMとなったときに過熱保護制御部40が過熱保護動作を実行する必要がある。このときの温度TALMを過渡モード温度検知レベルと称する。
【0035】
本発明では、まずIC部温度測定点でのIC部温度検知素子の温度検知モードが、定常モードか過渡モードかの判定をし、定常モードのときは定常モード温度検知レベルに、過渡モードのときは過渡モード温度検知レベルに、IC部温度検知素子の測定温度が達したら、過熱保護制御部40が過熱保護動作を行う。温度検知モードが定常モードか過渡モードかの判定の際には、負荷急変パラメータと称するものを用いる。このパラメータは、DC−DCコンバータに接続されている負荷が急変したときに、DC−DCコンバータ内で変化するパラメータとする。例えば、負荷が急変したときには、制御回路9はPWM信号のデューティ比の変化率を大きくする。また、ハイサイドMOSFET1のソース・ドレイン電圧とソース・ドレイン電流から算出した電力値の変化率が急増する。または、負荷急変時には、図4に示したように、ドライバIC20のチップ表面では、IC部温度測定点からハイサイドMOSFET1に向かって温度が上昇する。この温度上昇も負荷急変パラメータとすることができる。その他、負荷急変に対応してDC−DCコンバータ内で変化するパラメータであれば、負荷急変パラメータとして用いることができる。本実施例では、負荷急変パラメータがPWM信号のデューティ比の変化率である場合について説明する。
【0036】
負荷急変状態の程度により、ハイサイドMOSFET1の温度とIC部温度測定点での温度差が違う。負荷急変パラメータが負荷急変状態の程度を反映する。負荷急変パラメータの値が大きいほど、負荷急変状態の程度は大きくなる。すなわち本実施例の場合は、急激に負荷がかかり消費電流が高い時は、DC−DCコンバータの出力電圧を維持するために、制御回路9はPWM信号のデューティ比を定常状態のときに比べて急激に増大しその変化率を大きくし、ハイサイドMOSFET1の温度が急上昇する。したがって、過熱保護制御部40が過熱保護動作を実行する過渡モード温度検知レベルTALMは、低い値でなければならない。負荷急変の程度が大きいほど、負荷急変パラメータであるPWM信号のデューティ比の変化率が増大し、過渡モード温度検知レベルTALMは低く設定されなくてはならない。デューティ比の変化率と過渡モード温度検知レベルTALMとの関係を図6に示した。例えば、予めMCMのパワー半導体装置50を用いて実験をして図6のデータを入手しておけば、DC−DCコンバータ100の過熱保護制御実行中に、過熱保護制御部40は、PWMのデューティ比の変化率から適宜過渡モード温度検知レベルを決定することができる。このように、過熱保護制御部40が、過渡モード温度検知レベルの値を、温度分布の状態に対応させて設定することで、不要な過熱保護動作の発生を防ぎ、効率よい過熱保護制御を可能にする。
【0037】
本実施例のDC−DCコンバータ100では、過熱保護制御部40が上述の動作を制御する。過熱保護制御部40の制御する内容を図3のフローチャートを用いて説明する。DC−DCコンバータ100が定常状態のときをスタート地点として説明する。
【0038】
まずはじめに、過熱保護制御部40は、負荷急変パラメータである、制御回路9のPWM信号のデューティ比の変化率を算出する(S10)。
【0039】
過熱保護制御部は、次に、上記デューティ比の変化率が予め決めておいた規定値以上かどうかを判断する(S20)。これは、例えば比較回路などで制御回路9の出力信号を参照電圧と比較することで可能である。ここで、デューティ比の変化率が規定値以上のときは、過熱保護制御部40は、過熱保護制御部がIC部温度測定点でIC温度検知素子11を用いて温度を検知するモードを過渡モードと判断する。そうでないときは、定常モードと判断する。
【0040】
温度検知モードが過渡モードと判断された場合は、過熱保護制御部40は、負荷急変パラメータである、PWM信号のデューティ比の変化率に応じた過渡モード温度検知レベルTALMを決定する(S30)。この際、前述のように予めPWM信号のデューティ比の変化率と過渡モード温度検知レベルを対応づける実験データを取得しておき、両者の関係式を用意することで、過渡モード温度検知レベルを決定することができる。または、過熱保護制御部40は、上記関係式の代わりに、記憶手段に予め記憶されたPWM信号のデューティ比の変化量と過渡モード温度検知レベルとの対応表に基づいて、過渡モード温度検知レベルを決定してもよい。上記過渡モード温度検知レベルの決定(S30)により、温度分布にあわせた最適な過渡モード温度検知レベルが設定され、効率のよい過熱保護制御が可能になる。適宜上記決定(S30)を実行することで、温度検知レベルが最適に見直されるので、さらに効率のよい過熱保護制御が可能になる。
【0041】
続いて、過熱保護制御部40は、IC温度検知素子11で測定した温度TICと過渡モード温度検知レベルTALMを比較する(S40)。ここで、IC温度検知素子11で測定した温度TICが過渡モード温度検知レベルTALMより高い時は、過熱保護制御部40は、ハイサイドMOSFET1の電流が遮断されるように過熱保護動作を行い(S50)、そうでないときは、過熱保護動作は不要と判断して、スタートの状態に戻る。
【0042】
PWM信号のデューティ比が既定値以上かどうかの判断(S20)において温度検知モードが定常モードと判断された場合は、過熱保護制御部40は、IC温度検知素子11で測定した温度TICと定常モード温度検知レベルTTSDを比較する(S60)。ここで、IC温度検知素子11で測定した温度TICが定常モード温度検知レベルTTSDより高い場合は、過熱保護制御部40は、過熱保護動作を実行する(S50)。そうでないときは、スタートの状態に戻る。
【0043】
以上説明した一連のステップ(S10〜S60)の制御内容を、過熱保護制御部40が実施する。過熱保護制御部40は、S10〜S60の各ステップの制御内容を実施する手段を備え、これら各手段から信号を送受信し、各手段の制御内容を規定の順に実施させる演算処理部を備えていてもよい。または、過熱保護制御部40は、上記各ステップの制御内容を、それぞれの機能として備えていてもよい。
【0044】
本実施例では、以上説明したように、まず、過熱保護制御部は、IC部温度検知素子を用いた温度検知モードが、定常モードか過渡モードかの判定をする。IC部温度検知素子の測定温度が、定常モードのときは定常モード温度検知レベルに、過渡モードのときは過渡モード温度検知レベルに達したら、過熱保護動作を行う。温度検知モードが定常モードか過渡モードかの判定には、負荷急変パラメータが用いられる。また、負荷急変パラメータの値の変化にあわせ適宜、負荷急変パラメータの値が大きいほど、過渡モード温度検知レベルは低く設定される。これにより過渡状態での温度分布の変化にあわせて、その都度過熱制御動作を行う温度検知レベルが見直されるので、過熱保護動作をしすぎることによる運転率の低下が低減される。以上のように、温度検知モードを定常モードだけで実行する場合に比べて、負荷急変パラメータにより定常モードと過渡モードを切り替えて実行すること、及び過渡モード温度検知レベルを負荷急変パラメータの値に応じて変化させることで、効率がよく信頼性の高い過熱保護制御が実現される。
【0045】
本実施例では、負荷急変パラメータは、PWM信号のデューティ比の変化率である。本実施例のDC−DCコンバータ100では、上記制御内容を過熱保護制御部40が実行することで、急激に負荷が急変するような場合でも、パワー半導体装置50を急過熱による破壊から防止することができる。
【0046】
なお、本実施例では、負荷急変パラメータとして制御回路9のPWM信号のデューティ比の変化率を用いて過熱保護制御を行っているが、例えば、過熱保護制御部40は、ハイサイドMOSFET1のソース・ドレイン電圧とソース・ドレイン電流から電力値を算出し、この電力値の変化率を、負荷急変パラメータとして用いることも可能である。過熱保護制御部40は、ハイサイドMOSFET1の実際の駆動状況を示しているパラメータを負荷急変パラメータとして用いることにより、急激に負荷が急変したときに速やかに過熱保護動作を実行することが可能となる。以上は、ハイサイドMOSFET1対して負荷急変による過熱保護制御に関して説明したが、ローサイドMOSFET2に対しても同様に考えることができる。
【実施例2】
【0047】
本発明の実施例2を、図7から図11を用いて説明する。図7は、本発明の実施例2のパワー半導体システムの一例であるDC−DCコンバータの主要な構成を表すブロック図である。図8は、本発明の実施例2のパワー半導体システムの一例であるDC−DCコンバータの主要な構成の一部分をパッケージしたパワー半導体装置51の平面図である。図9は、本発明の実施例のDC−DCコンバータ200の過熱保護制御を示すフローチャートである。なお、実施例1で説明した構成と同じ構成の部分には同じ参照番号を用いその説明は省略する。
【0048】
図7に示すように、実施例1のDC−DCコンバータ200は、第1のパワー半導体素子1、第2のパワー半導体素子2、DC−DCコンバータの入力端子3、インダクタ4、キャパシタ5、DC−DCコンバータの出力端子7、接地端子GND、ドライバIC21、制御回路9、及び過熱保護制御部41、を有する。以下、実施例1との違いを詳細に説明し、同様な箇所は説明を省略する。
【0049】
本実施例のDC−DCコンバータ200は、以下の点で実施例1のDC−DCコンバータ100と違う。
【0050】
実施例1のドライバIC20は、IC部温度検知素子11だけを温度検知素子として具備していたが、本実施例のドライバIC21は、IC部温度検知素子11の他にさらに、ハイサイドMOSFET1用の参照部温度検知素子(第2の温度検知素子)12を備えている。参照部温度検知素子12は、図8に示したように、ドライバIC21の表面上に配置され、IC部温度検知素子11とハイサイドMOSFET1との間に配置され、ドライバIC21の表面温度を測定する。好ましくは、ドライバIC21の表面上で、ハイサイドMOSFET1の近傍に配置される。参照部温度検知素子12は、ハイサイドMOSFET1に近いほど望ましい。参照部温度検知素子12は、ドライバIC21表面上でのIC部温度検知素子からハイサイドMOSFET1へ向かった温度上昇ΔTを検知するためのものである。
【0051】
ドライバIC21は、IC温度検知素子11と参照部温度検知素子12の出力をそれぞれ過熱保護制御部41へ供給する。例えば、実施例1同様に、リード16cの一部は、制御回路9に電気的に接続され、他の一部は過熱保護制御部41に電気的に接続される。IC部温度検知素子11及び参照部温度検知素子12のそれぞれの出力は、図示しない配線を介して入出力電極パッド15の一部に引き出され、リード16cの他の一部を介して過熱保護制御部41に供給される。または、入出力電極パッド15を介さずに、直接ボンディングワイヤでリード16cの他の一部に引き出してもよい。過熱保護制御部41は、IC部温度検知素子11で検知した温度TICと参照部温度検知素子12で検知した温度Tとの温度差ΔTを算出し、これを負荷急変パラメータとして用いる。すなわち本実施例では、IC部温度検知素子11で検知した温度TICと参照部温度検知素子12で検知した温度Tとの温度差ΔTが、負荷急変パラメータとして用いられる点が実施例1とは違う。実施例1で制御回路9は過熱保護制御部40にPWM信号をフィードバックしていたが、これは不要である。
【0052】
本実施例の過熱保護制御の特徴を説明する。図10に、ハイサイドMOSFET1の温度が上限管理温度となったときの、定常状態と過渡状態における、図8に示したB−B方向でのハイサイドMOSFET1からドライバIC21への温度分布を示したものである。なお、図中過渡状態(大レベル)と示した温度分布は、過渡状態(中レベル)の温度分布より、負荷の急変が大きく、ハイサイドMOSFET1の部分で急激に温度上昇をもたらしている様子を示す。両過渡状態のIC温度検知素子11と参照部温度検知素子12との温度差ΔTをそれぞれ、ΔT及びΔTとしている。定常状態では、実施例1同様に定常モード温度検知レベルは、ハイサイドMOSFET1の上限管理温度とほぼ同じ温度TTSDである。過熱保護制御部41は、過渡状態(中レベル)と過渡状態(大レベル)でそれぞれ、T及びTを過渡モード温度検知レベルに設定している。
【0053】
本実施例では、負荷急変パラメータは、IC温度検知素子11と参照部温度検知素子12との温度差ΔTである。負荷の急変状態に応じて、IC温度検知素子11と参照部温度検知素子12との温度差ΔTは変化し、実施例1の負荷急変パラメータと同様に、本実施例の負荷急変パラメータは、負荷の急変により変化する。そして、負荷急変パラメータの値が大きいほど、過渡モード温度検知レベルが小さく設定される。すなわち、IC温度検知素子11と参照部温度検知素子12との温度差ΔTが大きいほど、過渡モード温度検知レベルが小さく設定される。図11は、過渡モード温度検知レベルTALMと、IC温度検知素子11と参照部温度検知素子12との温度差ΔTと、の関係をグラフに示す。本実施例も第1の実施例同様に、予めIC温度検知素子11と参照部温度検知素子12との温度差ΔTと過渡モード温度検知レベルを対応づける実験データが取得され、両者の関係式を用意することで、過渡モード温度検知レベルが決定されることができる。或いは、上記関係式の代わりに、記憶手段に予め記憶されたIC温度検知素子11と参照部温度検知素子12との温度差ΔTと過渡モード温度検知レベルとの対応表に基づいて、過渡モード温度検知レベルが決定されることも可能である。
【0054】
ここで、上記関係式として、ほぼ以下の関係にあることがわかった。参照部温度検知素子12の測定温度とIC部温度検知素子11の測定温度との温度差をΔT、定常モード温度検知レベルをTTSD、係数をK、過渡モード温度検知レベルをTALMとしたときに、TALM=TTSD−K・ΔTに従う。そこで、過熱保護制御部41は、ドライバICから供給された参照部温度検知素子12の測定温度とIC部温度検知素子11の測定温度から、温度差ΔTを算出し、上記式から、過渡モード温度検知レベルを随時設定する。この過渡モード温度検知レベルを用いて、過熱保護制御部41は、実施例1同様に過熱保護制御を実行することができる。以下に図9のフローチャートを用いて、本実施例のDC−DCコンバータ200の過熱保護制御部41が実行する制御内容を説明する。
【0055】
DC−DCコンバータ100が定常状態のときをスタート地点として説明する。まずはじめに、過熱保護制御部41は、負荷急変パラメータである、参照部温度検知素子12の測定温度とIC部温度検知素子11の測定温度との温度差ΔTを算出する(S11)。
【0056】
次に、過熱保護制御部41は、上記温度差ΔTの変化量が予め決めておいた規定値以上かどうかを判断する(S21)。ここで、規定値以上のときは、過熱保護制御部41は、IC温度検知素子11で温度を検知するモードを過渡モードとする。そうでないときは、定常モードとする。上記温度差ΔTが既定値以上かどうかの判断は、例えば、比較記を用いて参照電圧とΔT比較することで可能である。
【0057】
温度検知モードが過渡モードと判断された場合は、負荷急変パラメータである、過熱保護制御部41は、温度差ΔTに応じた過渡モード温度検知レベルTALMを決定する(S31)。この際、前述のように予め温度差ΔTと過渡モード温度検知レベルを対応づける実験データが取得され、両者の関係式が用意されることで、過熱保護制御部41は、過渡モード温度検知レベルを決定することができる。関係式の一例としては、前述したように、参照部温度検知素子12の測定温度とIC部温度検知素子11の測定温度との温度差をΔT、定常モード温度検知レベルをTTSD、係数をK、過渡モード温度検知レベルをTALMとしたときに、TALM=TTSD−K・ΔTを用いる。或いは、上記近似式の代わりに、記憶手段に予め記憶された温度差ΔTと過渡モード温度検知レベルTALMとの対応表に基づいて、過熱保護制御部41は、過渡モード温度検知レベルを決定してもよい。上記過渡モード検知レベルの決定(S31)により、温度分布にあわせた最適な過渡モード温度検知レベルが設定され、効率のよい過熱保護制御が可能となる。さらに、適宜上記過渡モード検知レベルの決定(S31)を実行することで、適宜過渡モード温度検知レベルが最適に見直されるので、さらに効率のよい過熱保護制御が可能になる。
【0058】
続いて、IC温度検知素子11で測定した温度TICと決定した過渡モード温度検知レベルTALMとが比較される(S40)。ここで、IC温度検知素子11で測定した温度が過渡モード温度検知レベルより高い時は、過熱保護制御部41は、ハイサイドMOSFET1の電流を遮断するように過熱保護動作を行(S50)い、そうでないときは、過熱保護動作は不要と判断して、スタートの状態に戻る。
【0059】
上記温度差ΔTが既定値以上かどうかの判断(S21)において温度検知モードが定常モードと判断された場合は、IC温度検知素子11で測定した温度TICと定常モード温度検知レベルTTSDが比較される(S60)。ここで、IC温度検知素子11で測定した温度TICが定常モード温度検知レベルTTSDより高い場合は、過熱保護制御部41は、過熱保護動作を実行する(S50)。そうでないときは、スタートの状態であるステップ0に戻る。
【0060】
以上説明した一連のステップ(S11、21、31、40、50、及び60)の制御内容を、過熱保護制御部41が実行する。過熱保護制御部41は、S11、21、31、40、50、及び60の各ステップの制御内容を実行する手段を備え、これら各手段から信号を送受信し、各手段の制御内容を規定の順に実行させる演算処理部を備えていてもよい。或いは、過熱保護制御部41は、上記各ステップの制御内容を、それぞれの機能として備えていてもよい。
【0061】
以上説明したように、本実施例においても実施例1同様に、過熱保護制御部は、IC部温度測定点でのIC部温度検知素子の温度検知モードが、定常モードか過渡モードかの判定をする。IC部温度検知素子の測定温度が、定常モードのときは定常モード温度検知レベルに、過渡モードのときは過渡モード温度検知レベルに達したら、過熱保護制御部は、過熱保護動作を行う。温度検知モードが定常モードか過渡モードかの判定には、負荷急変パラメータを用いる。また、過渡モード温度検知レベルは、負荷急変パラメータの値の変化にあわせ適宜、負荷急変パラメータの値が大きいほど低く設定される。これにより過渡状態での温度分布の変化にあわせて、過熱制御動作を行う温度検知レベルが見直されるので、過熱保護動作をしすぎることによる運転率の低下が低減される。以上のように、温度検知モードを定常モードだけで行う場合に比べて、負荷急変パラメータの値に基づいて定常モードと過渡モードを切り替えて実行すること、及び過渡モード温度検知レベルを負荷急変パラメータの値に応じて変化させることで、効率がよく信頼性の高い過熱保護制御が実現される。
【0062】
本実施例では、負荷急変パラメータは、参照部温度検知素子12の測定温度とIC部温度検知素子11の測定温度との温度差ΔTである。本実施例のDC−DCコンバータ200においても、過熱保護制御部41が上記制御内容を実行することで、急激に負荷が急変するような場合でも、パワー半導体装置50を急加熱による破壊から防止することができる。また、本実施例では、ハイサイドMOSFET1に対して負荷急変による過熱保護制御を実行する例を説明したが、ローサイドMOSFET2に対しても同様に実行することが可能である。
【0063】
次に本実施例の変形例を説明する。本実施例の変形例の説明においても、実施例2に対して実施例2と違う点を詳細に説明し、同様な構成部に関しては説明を省略する。図12は、本発明の実施例2の変形例のパワー半導体システムの一例であるDC−DCコンバータの主要な構成の一部分をパッケージしたパワー半導体装置52を示す平面図である。図13は、本変形例のDC−DCコンバータ201の過熱保護制御のフローチャートである。
【0064】
本変形例のDC−DCコンバータ201は、以下の点で実施例2のDC−DCコンバータ200と違う。図12に示すように、本変形例のDC−DCコンバータ201は、ドライバIC22の表面上に、ローサイドMOSFET2とIC部温度検知素子11との間に配置されたローサイドMOSFET2用参照部温度検知素子13(第3温度検知素子)をさらに備える。すなわち、本変形例のDC−DCコンバータ201は、ドライバIC22の表面上に、IC部温度検知素子11(第1の温度検知素子)とハイサイドMOSFET1用参照部温度検知素子12(第2の温度検知素子)及びローサイドMOSFET2用参照部温度検知素子13(第3の温度検知素子)を備える。このローサイドMOSFET2用参照部温度検知素子13は、実施例2のハイサイドMOSFET1用参照部温度検知素子12同様に、ドライバIC22の表面上に配置され、IC部温度検知素子11とローサイドMOSFET2との間に配置され、ドライバIC22の表面温度を測定する。好ましくは、参照部温度検知素子13は、ドライバIC22の表面上で、ローサイドMOSFET2の近傍に配置され、ローサイドMOSFET2に近いほど望ましい。ローサイドMOSFET用参照部温度検知素子13は、ドライバIC22表面上でのIC部温度検知素子11から図12のC2−C2方向に沿ってローサイドMOSFET2へ向かった温度上昇ΔTを検知することができる。ハイサイドMOSFET1用参照部温度検知素子12は、実施例2同様に、ドライバIC22表面上でのIC部温度検知素子11から図12のC1−C1方向に沿ってハイサイドMOSFET1へ向かった温度上昇ΔTを検知することができる。
【0065】
ドライバIC22は、IC温度検知素子11とハイサイドMOSFET1用参照部温度検知素子12及びローサイドMOSFET2用参照部温度検知素子13の出力をそれぞれ過熱保護制御部42へ供給する。例えば、実施例1同様に、リード16cの一部は、制御回路9に電気的に接続され、他の一部は過熱保護制御部42に電気的に接続される。IC部温度検知素子11、ハイサイドMOSFET1用参照部温度検知素子12及びローサイドMOSFET2用参照部温度検知素子13のそれぞれの出力は、図示しない配線を介して入出力電極パッド15の一部に引き出され、リード16cの他の一部を介して過熱保護制御部42に供給される。または、入出力電極パッド15を介さずに、直接ボンディングワイヤでリード16cの他の一部に引き出してもよい。
【0066】
本変形例のDC−DCコンバータ201の過熱保護制御部42(図示せず)が行う過熱保護制御のフローチャートは、図13に示すように、以下の点で、図9に示した実施例2のフローチャートと違う。ハイサイドMOSFET1に対して参照部温度検知素子12の測定温度TRaとIC部温度検知素子11の測定温度TICとの温度差ΔTaを算出していた(S11)が、さらにローサイドMOSFET2に対しても、参照部温度検知素子13の測定温度TRbとIC部温度検知素子11の測定温度TICとの温度差ΔTを算出する(S12)。次に、ハイサイドMOSFET1に対してだけ、温度差ΔTaが既定値以上かどうかを判断(S21)していたが、さらにローサイドMOSFET2に対しても温度差ΔTbが規定値以上かどうかを判断する。この両者はそれぞれの規定値をもち、少なくともどちらかがその既定値を超えているかどうかを判断する(S22)。その後、ハイサイドMOSFET1に対してだけ過渡モード検知レベルが決定される(S31)のではなく、ハイサイドMOSFET1に対する過渡モード温度検知レベルTALM1とローサイドMOSFET2に対する過渡モード温度検知レベルTALM2とが算出される(S32)。その後、さらに、TALM1とTALM2のうち低い方が過渡モード温度検知レベルTALMと決定される(S33)。上記制御内容以外は、実施例2と同じ制御内容が実行される。
【0067】
以下、図13に示したフローチャートを参照しつつ、過熱保護制御部42が実行する過熱保護制御を説明する。DC−DCコンバータ201が定常状態のときをスタート地点として説明する。まずはじめに、過熱保護制御部42は、負荷急変パラメータである、ハイサイドMOSFET1用参照部温度検知素子12の測定温度TRaとIC部温度検知素子11の測定温度TICとの温度差ΔTを算出し、さらに、ローサイドMOSFET2用参照部温度検知素子13の測定温度TRbとIC部温度検知素子11の測定温度TICとの温度差ΔTを算出する(S12)。
【0068】
上記温度差ΔTとΔTのうち少なくともどちらかが、予め決めておいたそれぞれの規定値以上かどうかを判断する(S22)。ここで、上記温度差ΔTとΔTのどちらか規定値以上のときは、過熱保護制御部42は、IC温度検知素子で温度を検知するモードを過渡モードとする。そうでないときは、定常モードとする。
【0069】
ΔTaとΔTbのどちらかが既定値以上かどうかの判断(S22)で温度検知モードが過渡モードと判断された場合は、過熱保護制御部42は、負荷急変パラメータである、それぞれの温度差ΔTとΔTとに応じた過渡モード温度検知レベルTALM1とTALM2とを決定する(S32)。この際、実施例2の図10及び図11に示したようにハイサイドMOSFET1とローサイドMOSFET2とのそれぞれに対して、予め温度差ΔTと過渡モード温度検知レベルを対応づける実験データが取得され、両者の関係式が用意されることで、過渡モード温度検知レベルが決定されることができる。関係式の一例としては、実施例2同様に、ハイサイドMOSFET1に対しては、参照部温度検知素子12の測定温度とIC部温度検知素子11の測定温度との温度差をΔT、定常モード温度検知レベルをTTSDa、係数をK、過渡モード温度検知レベルをTALM1としたときに、TALM1=TTSDa−K・ΔTを用いる。また、ローサイドMOSFET2に対しても同様に、参照部温度検知素子13の測定温度とIC部温度検知素子11の測定温度との温度差をΔT、定常モード温度検知レベルをTTSDb、係数をK、過渡モード温度検知レベルをTALM2としたときに、TALM2=TTSDb−K・ΔTを用いる。或いは、上記関係式の代わりに、ハイサイドMOSFET1及びローサイドMOSFET2に対して、記憶手段に予め記憶されたそれぞれの温度差ΔTと過渡モード温度検知レベルとの対応表に基づいて、過渡モード温度検知レベルが決定されることも可能である。上記過渡モード温度検知レベルの決定(S32)により、過渡モード温度検知レベルが、温度分布にあわせて最適設定され、効率のよい過熱保護制御が可能になる。さらに、過熱保護制御部42が、適宜この過渡モード温度検知レベルを決定(S32)することで、適宜温度検知レベルが最適に見直されるので、さらに効率のよい過熱保護制御が可能になる。
【0070】
続いて、過熱保護制御部42は、上記決定されたハイサイドMOSFET1用の過渡モード温度検知レベルTALM1とローサイドMOSFET2用の過渡モード温度検知レベルTALM2とのうち、低いほうの値を最終的に過渡モード温度検知レベルTALMと決定する(S33)。
【0071】
続いて、過熱保護制御部42は、IC温度検知素子11で測定した温度TICとステップ33で決定した過渡モード温度検知レベルTALMとを比較する(S40)。ここで、IC温度検知素子11で測定した温度TICが過渡モード温度検知レベルTALMより高い時は、過熱保護制御部42は、ハイサイドMOSFET1の電流が遮断されるように過熱保護動作を行う(S50)を実行し、そうでないときは、過熱保護動作は不要と判断して、スタートの状態に戻る。
【0072】
温度検知モードが定常モードと判断した場合は、IC温度検知素子11で測定した温度TICは定常モード温度検知レベルTTSDと比較される(S60)。ただし、定常モード温度検知レベルTTSD値は、予め、ハイサイドMOSFET1用の定常モード温度検知レベルTTSDaとローサイドMOSFET2用の定常モード温度検知レベルTTSDbとのうち値の小さい方である。ここで、IC温度検知素子11で測定した温度TICが定常モード温度検知レベルTTSDより高い場合は、過熱保護制御部42は、過熱保護動作を実行する(S50)を実行する。そうでないときは、スタートの状態に戻る。
【0073】
過熱保護制御部42は、以上説明した一連のステップ(S12、22、32、33、40、50、及び60)の制御内容を実行する。過熱保護制御部42は、S12、22、32、33、40、50、及び60の各ステップの制御内容を実行する手段を備え、これら各手段から信号を送受信し、各手段の制御内容を規定の順に実施させる演算処理部を備えていてもよい。或いは、過熱保護制御部42は、上記各ステップの制御内容を、それぞれの機能として備えていてもよい。
【0074】
以上説明したように、本変形例においても実施例1同様に、IC部温度測定点でのIC部温度検知素子の温度検知モードが、定常モードか過渡モードかの判定をする。IC部温度検知素子の測定温度が、定常モードのときは定常モード温度検知レベルに、過渡モードのときは過渡モード温度検知レベルに達したら、過熱保護制御部は過熱保護動作を行う。温度検知モードが定常モードか過渡モードかの判定には、負荷急変パラメータ用いられる。また、過渡モード温度検知レベルは、負荷急変パラメータの値の変化にあわせ適宜、負荷急変パラメータの値が大きいほど低く設定される。これにより過渡状態での温度分布の変化にあわせて、その都度過熱制御動作を行う温度検知レベルが見直されるので、過熱保護動作をしすぎることによる運転率の低下が低減される。以上のように、温度検知モードを定常モードだけで行う場合に比べて、負荷急変パラメータにより定常モードと過渡モードを切り替えて実行すること、及び過渡モード温度検知レベルを負荷急変パラメータの値に応じて変化させることで、効率がよく信頼性の高い過熱保護制御が実現される。
【0075】
本変形例では、負荷急変パラメータは、ハイサイドMOSFET1及びローサイドMOSFET2のそれぞれに対して、参照部温度検知素子の測定温度とIC部温度検知素子11の測定温度との温度差ΔTとしている。本実施例のDC−DCコンバータ201においても、上記制御内容を過熱保護制御部42が実行することで、急激に負荷が急変するような場合でも、パワー半導体装置52を急加熱による破壊から防止することができる。
【実施例3】
【0076】
本発明の実施例3のDC−DCコンバータ300を説明する。なお、実施例1で説明した構成と同じ構成の部分には同じ参照番号を用いその説明は省略する。本発明の実施例3のパワー半導体システムの一例であるDC−DCコンバータ300は、樹脂パッケージ内に阻止が同一梱包されたMCMのパワー半導体装置53において実施例1と違う。DC−DCコンバータの構成は実施例1の図1と同じであり、過熱保護制御の流れも実施例1の図3に示したフローチャートと同じである。図14は、本実施例のパワー半導体装置53の平面図を示したものである。
【0077】
本実施例のDC−DCコンバータ300は、以下の点で実施例1のDC−DCコンバータ100と違う。本実施例では、IC部温度検知素子11が、ドライバIC23の表面上で、ハイサイドMOSFET1のゲート電極パッド18aと電気的に接続されたゲート出力電極パッド17aに隣接して配置されている点で実施例1と異なる。図15は、図14中のD−D方向に沿ったドライバIC23からハイサイドMOSFET1までの温度分布を示す。ドライバIC23は、IC温度検知素子11の出力を過熱保護制御部40へ供給する。例えば、実施例1同様に、リード16cの一部は、制御回路9に電気的に接続され、他の一部は過熱保護制御部40に電気的に接続される。IC部温度検知素子11の出力は、図示しない配線を介して入出力電極パッド15の一部に引き出され、リード16cの他の一部を介して過熱保護制御部40に供給される。または、入出力電極パッド15を介さずに、直接ボンディングワイヤでリード16cの他の一部に引き出してもよい。後述の本実施例の変形例においても同様である。
【0078】
実施例1の図5の場合に比べて、本実施例では、IC部温度検知素子11が、ハイサイドMOSFET1側に配置されている。さらに、IC部温度検知素子11がゲート出力電極パッド17aに隣接して配置されている。急激に負荷が急変して過渡状態になっても、ハイサイドMOSFET1で急激に発生した熱は、ハイサイドMOSFET1のゲート電極パッド18a、ボンディングワイヤ19、及びドライバIC23上のゲート出力電極パッド17aを通じて、ドライバIC23に伝えられる。このため、IC部温度検知素子11が測定するドライバIC23部の温度とハイサイドMOSFET1部との温度差を、実施例1に比べて小さくすることができる。この結果、過渡状態か定常状態かに関わらず、過熱保護制御部40が定常モードの温度検知モードしか備えていなくても、ハイサイドMOSFETの上限管理温度以下でDC−DCコンバータを動作させることができる。効率がよく信頼性の高い過熱保護制御が実現できる。すなわち、DC−DCコンバータは、図3に示した実施例1のS60での温度検知及びS50での過熱保護動作だけを実行するだけでよい。しかしながら、本実施例のDC−DCコンバータは、IC部温度検知素子以外は実施例1と同様な構成を備えることで、実施例1よりさらに過渡モード温度検知レベルを高く設定することができる。この結果、実施例1よりもさらに運転効率がよく信頼性の高い過熱保護制御が実現できる。
【0079】
なお、本実施例のパワー半導体装置53を実施例1の過熱保護制御を有するDC−DCコンバータ100に用いた例を説明したが、実施例2のDC−DCコンバータ200やその変形例のDC−DCコンバータ201に用いることも可能である。
【0080】
また、本実施例のIC部温度検知素子11は、ゲート出力電極パッド17aに隣接して設けられているが、後述の本実施例の変形例に示すように、ゲート出力電極パッド17aとドライバIC24の表面の間に挟まれるように設けられてもよい。
【0081】
次に本実施例の変形例について説明する。図16は、本変形例のDC−DCコンバータ301のパワー半導体装置54の平面図を示す。本変形例のDC−DCコンバータ301は、以下の点で実施例3のDC−DCコンバータ300と違う。本変形例のDC−DCコンバータ301は、ハイサイドMOSFET1の表面上にゲートパッド18aの他に、さらに金属からなる放熱パッド65(第1の金属パッド)を備えており、ドライバIC24の表面上にゲート出力パッド17aの他に、受熱パッド64(第2の金属パッド)を備えている。この放熱パッド65と受熱パッド64は、ボンディングワイヤ19により互いに電気的に接続している。ハイサイドMOSFET1から、ゲート電極パッド18a、ボンディングワイヤ19及びゲート出力電極パッド17aを経て、ドライバIC24に熱が伝達されるのと同じように、放熱パッド65、ボンディングワイヤ19及び受熱パッド64を経て、ハイサイドMOSFET1からドライバIC24へ熱が伝達される。この放熱パッド65と受熱パッド64は、それぞれ電気が流れる必要がないので、ハイサイドMOSFET1とドライバIC24の他の電極から絶縁されていてもよい。IC部温度検知素子11は、ドライバIC24の表面と、受熱パッド64の間に挟まれて配置されている。
【0082】
上記以外は、実施例3のDC−DCコンバータと同じ構成である。すなわち、実施例3同様に、DC−DCコンバータ301は、IC部温度検知素子11以外は実施例1と同様な構成を備えることで、実施例1よりさらに高い過渡モード温度検知レベルを有することができる。この結果、実施例1よりもさらに効率がよく信頼性の高い過熱保護制御が実現できる。実施例1の過熱保護制御を有するDC−DCコンバータ100が本変形例のパワー半導体装置54を有した例で説明したが、実施例2のDC−DCコンバータ200やその変形例のDC−DCコンバータ201が本変形例のパワー半導体装置54を有することも可能である。本変形例では、放熱パッド65、ボンディングワイヤ19及び受熱パッド64を経て、ハイサイドMOSFET1からドライバIC24へ熱が伝達されるので、IC部温度検知素子11が測定するドライバIC23部の温度と、ハイサイドMOSFET1部との温度差を、実施例3に比べてさらに小さくすることができる。本変形例においても実施例3同様に、過渡状態か定常状態かに関わらず、過熱保護制御部40が定常モードだけの温度検知モードしか備えていなくても、ハイサイドMOSFETの上限管理温度以下でDC−DCコンバータを動作させることができる。
【0083】
本実施例及び変形例では、ハイサイドMOSFET1に対して負荷急変による過熱保護制御を実行する例を説明したが、ローサイドMOSFET2に対しても同様に実行することが可能である。
【0084】
本発明のパワー半導体システムをDC−DCコンバータを例に実施例及び変形例を用いて説明したが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種種変形することは可能である。説明に用いたそれぞれの実施例や変形例を組み合わせることも可能である。また、前述の各実施例や各変形例において、半導体システムにおける本発明の態様の説明を容易にするために、制御回路9と過熱保護制御部40、41、及び42は、一例として、MCMである半導体装置50、51、52、53及び54の外部に設けられているとして説明した。しかしながら、設計に対応して、制御回路及び過熱保護制御部は、それぞれが、半導体装置内に同一パッケージされることも勿論可能である。或いは、制御回路及び過熱保護制御部は、それぞれ、ドライバICとモノリシックに同一チップ内に形成されることも可能である。
【符号の説明】
【0085】
1 ハイサイドMOSFET
2 ローサイドMOSFET
3 入力端子
4 インダクタ
5 キャパシタ
7 出力端子
8 負荷
9 制御回路
11 IC部温度検知素子
12 ハイサイドMOSFET1用参照部温度検知素子
13 ローサイドMOSFET2用参照部温度検知素子
15 ドライバIC部入出力電極パッド
16a、16b1、16b2、16c リード
17a、17b ゲート出力電極パッド
18a、18b ゲート電極パッド
19 ボンディングワイヤ
20、21、22、23、24 ドライバIC
40、41、42 過熱保護制御部
50、51、52、53、54 半導体装置
61a、61b ソース電極パッド
62a、62b、62c ダイパッド
63 樹脂
100、200 DC−DCコンバータ
GND 接地端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電極と第2の電極との間を流れる電流を制御電極により制御する第1のパワー半導体素子と、前記第1のパワー半導体素子のオン状態とオフ状態を制御するドライバICと、前記ドライバICの温度を検知する第1の温度検知素子と、
前記ドライバICに制御信号を供給する制御回路と、
前記第1の温度検知素子の出力に基づいて前記制御回路を制御し前記第1のパワー半導体素子を保護する過熱保護制御部と、
を備え、
前記過熱保護制御部は、
前記パワー半導体素子が負荷急変状態になると、前記ドライバICの温度検知モードが、定常モードまたは過渡モードの判定をし、
前記定常モードの場合には前記第1の温度検知素子の測定温度が定常モード温度検知レベルになると、前記過渡モードの場合には前記第1の温度検知素子の測定温度が過渡モード温度検知レベルになると、過熱保護動作を行うことを特徴とするパワー半導体システム。
【請求項2】
前記過熱保護制御部は、
前記パワー半導体素子が負荷急変状態であることを表す負荷急変パラメータを測定し、
前記負荷急変パラメータが規定値以上であるときに前記温度検知モードを前記過渡モードとし、それ以外のときは前記定常モードとし、
前記過渡モードと判断した場合には、
前記負荷急変パラメータの値に対応して変化する前記過渡モード温度検知レベルを決定し、
前記第1の温度検知素子の測定温度と、前記過渡モード温度検知レベルとを比較して、
前記測定温度が前記過渡モード温度検知レベルより高いと判断したときは、前記第1のパワー半導体素子の電流が遮断されるように過熱保護動作を行い、
前記定常モードと判断した場合は、
前記過渡モード温度検知レベルより値が大きくて前記負荷急変パラメータの値に値が依存しない前記定常モード温度検知レベルと、前記第1の温度検知素子で測定した前記測定温度とを比較し、前記測定温度が前記定常モード温度検知レベルよりも高いときは、前記過熱保護動作を行うことを特徴とする請求項1に記載のパワー半導体システム。
【請求項3】
前記ドライバICは、さらに第2の温度検知素子を備え、前記第2の温度検知素子は、前記第1の温度検知素子と前記第1のパワー半導体素子との間に配置され、前記第2の温度検知素子の測定温度と前記第1の温度検知素子の測定温度との温度差を、前記負荷急変パラメータとすることを特徴とする請求項2に記載のパワー半導体システム。
【請求項4】
前記温度差と前記過渡モード温度検知レベルと、の関係を表す関係式に従って前記過渡モード温度検知レベルを決定することを特徴とする請求項3に記載のパワー半導体システム。
【請求項5】
前記温度差をΔT、前記定常モード温度検知レベルをTTSD、係数をK、前記過渡モード温度検知レベルをTALMとしたときの関係式
ALM=TTSD−K・ΔT
に従って前記過渡モード温度検知レベルを決定することを特徴とする請求項4に記載のパワー半導体システム。
【請求項6】
記憶手段に記憶された前記第2の温度検知素子の測定温度と前記第1の温度検知素子の測定温度との前記温度差と、前記過渡モード温度検知レベルと、の対応表に基づいて、前記過渡モード温度検知レベルを決定することを特徴とする請求項3に記載のパワー半導体システム。
【請求項7】
第2のパワー半導体素子と、前記第1の温度検知素子と前記第2のパワー半導体素子との間に配置された第3の温度検知素子をさらに備え、
前記第3の温度検知素子の測定温度と前記第1の温度検知素子の測定温度との第2の温度差を第2の負荷急変パラメータとし、
前記温度差と前記第2の温度差の、いずれかが規定値以上であるときに過渡モードとし、それ以外のときは定常モードと判断し、
前記第2の温度差をΔT、係数をK2、第2の過渡モード温度検知レベルをTALM2としたときの関係式
ALM2=TTSD−K・ΔT
に従う前記第2の過渡モード温度検知レベルを決定し、
前記過渡モード温度検知レベルと前記第2の過渡モード温度検知レベルのうちの値の小さい方を、前記過渡モード温度検知レベルと決定することを特徴とする請求項5に記載のパワー半導体システム。
【請求項8】
前記負荷急変パラメータは、前記制御回路から前記ドライバICに供給される制御信号であるパルス信号のデューティ比の変化率であり、前記デューティ比の変化率と前記過渡モード温度検知レベルとの関係を表す関係式に従って前記過渡モード温度検知レベルを決定することを特徴とする請求項2に記載のパワー半導体システム。
【請求項9】
前記負荷急変パラメータは、前記制御回路から前記ドライバICに供給される制御信号であるパルス信号のデューティ比の変化率であり、記憶手段に記憶された前記デューティ比の変化率と前記過渡モード温度検知レベルとの対応表に基づいて、前記過渡モード温度検知レベルを決定することを特徴とする請求項2に記載のパワー半導体システム。
【請求項10】
前記第1のパワー半導体素子はゲート電極に接続するゲートパッドをさらに備え、前記ドライバICは前記半導体素子にゲート信号を出力するゲート出力パッドをさらに備え、前記ゲートパッドと前記ゲート出力パッドとはボンディングワイヤで互いに接続され、前記ゲート出力パッドに隣接した前記ドライバICの表面上に、または前記ゲート出力パッドと前記ドライバICの表面との間に挟まれて、前記第1の温度検知素子が配置されていることを特徴とする請求項2乃至9のいずれかに記載のパワー半導体システム。
【請求項11】
前記第1のパワー半導体素子は、第1の金属パッドと、ゲート電極に接続するゲートパッドとをさらに備え、前記ドライバICは、第2の金属パッドと、前記半導体素子にゲート信号を出力するゲート出力パッドとをさらに備え、前記ゲートパッドと前記ゲート出力パッドとは第1のボンディングワイヤで互いに接続され、前記第1の金属パッドと前記第2の金属パッドとは第2のボンディングワイヤで互いに接続され、前記第2の金属パッドに隣接した前記ドライバICの表面上に、または前記第2の金属パッドと前記ドライバICの表面との間に挟まれて、前記第1の温度検知素子が配置されていることを特徴とする請求項2乃至9のいずれかに記載のパワー半導体システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−258623(P2011−258623A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−129663(P2010−129663)
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】