説明

パンタグラフ

【課題】 アクティブ方式のパンタグラフにおいて、アクチュエータに著大な出力が働いたような場合でもトロリ線を保護できる対策を備えたパンタグラフを提供する。
【解決手段】 パンタグラフは、トロリ線に押し当てられる舟体を支持する枠組と、枠組を付勢して舟体を上昇させる主バネと、枠組を回転駆動させて、舟体のトロリ線に対する押上力を制御するアクチュエータ50と、を具備する。アクチュエータ50の先端51は、枠組に接続する連結部材53の基端が接続するブラケット60に、ピン61で回転可能に接続されている。ピン61の外周面には複数のノッチ61aが形成されており、所定の荷重を受けると破断する。アクチュエータ50の著大な出力が働くとピン61が破断し、アクチュエータ50は台枠3に設置された受部54に落下して、アクチュエータ50の作動を停止する。これにより、舟体は主バネのみで支持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パンタグラフに関し、特には、アクティブ制御方式においてフェールセーフ機構を備えたパンタグラフに関する。
【背景技術】
【0002】
現在の電気鉄道においては、トロリ線(架線)から車体の屋根に総裁されたパンタグラフを介して車両に電力を送る方式が一般的である。このようなパンタグラフは、トロリ線(架線)に押し当てられる舟体(摺り板含む)、舟体を支持する枠組、枠組に上昇力を与える主バネ等を備えている。
【0003】
トロリ線と舟体との接触力は、トロリ線の高さ変動や車両・パンタグラフの振動によって変動する。この接触力の変動が大きすぎると、パンタグラフの舟体がトロリ線から離れる離線現象が生じるおそれがある。離線が頻発すると、舟体とトロリ線との間にスパークが生じて摺り板の摩耗が進む。また、離線に至らない場合でも、パンタグラフの接触力の変動は極力小さい方がよい。
【0004】
パンタグラフの接触力の変動を小さくするための方法として、アクティブ制御方式が提案されている。この方式は、トロリ線と摺り板体との接触力を測定し、その測定値が一定となるように摺り板体をアクチュエータで制御するものである。ただし、アクティブ制御の場合、制御のフェール時(センサやコントローラの異常などにより予期しない著大な出力が働いた場合)に、アクチュエータによりパンタグラフが過度に押し上げられるおそれがある。そこで、トロリ線を破壊しないなどの安全性を保障する必要がある。
【0005】
トロリ線の安全性を保障する対策として、枠組に過大な力が作用したときに、枠組を構成する釣り合い棒の一端を支持するピンを折損させる方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。ピンが折損すると、釣り合い棒の支持点が失われ、枠組みが倒れてパンタグラフが下降する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、アクティブ方式のパンタグラフにおいて、アクチュエータに著大な出力が働いたような場合でもトロリ線を保護できる対策を備えたパンタグラフを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のパンタグラフは、 トロリ線(架線)に押し当てられる舟体と、 該舟体を支持する枠組と、 該枠組を付勢して前記舟体を上昇させる主バネと、 前記枠組を回転駆動させて、前記舟体の前記トロリ線に対する押上力を制御するアクチュエータと、を具備するパンタグラフであって、 前記アクチュエータは、基端がピンにより台枠に回転可能に接続され、先端がピンにより前記枠組に回転可能に接続されており、 前記台枠側ピン及び/又は枠組側ピンが所定の荷重を受けると破断し、前記アクチュエータを前記台枠上に落下させて該アクチュエータの制御力の伝達を断つことにより、前記舟体を前記主バネのみで上昇させて支持することを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、アクティブ制御におけるフェール時(センサやコントローラの異常によりアクチュエータに予期しない著大な出力が働いたとき)に、アクチュエータの作動を強制的に停止して、主バネのみで舟体を押し上げる。このため、フェール時においてアクチュエータによる架線の過大な押し上げ等を防止して、架線破壊などの事故を防ぐことができる。
【0009】
本発明においては、 前記台枠に、前記ピンが破断したときに前記アクチュエータが収容される受部が形成されていることが好ましい。
【0010】
例えば、枠組側のピンが破断すると、アクチュエータは台枠側のピンを中心にして回動して台枠上の受部に収容され、枠組との接続が遮断されるので、アクチュエータがパンタグラフの昇降動作に関与しなくなる。
【0011】
前記アクチュエータ受部に、該受部に前記アクチュエータが収容されたことを検知する検知部が設けられており、該検知部で前記アクチュエータが前記受部に収容されたことが検知されると異常を報知することとすれば、アクティブ制御系に異常が生じたことを検知し、報知できる。
【0012】
本発明においては、 前記トロリ線に作用する応力σが、トロリ線種別によって定まる金属疲労による基準値σlimitを超えないように前記アクチュエータの押上力を制限する。押上力の限界値Flimitを定める方法としては、例えば次式を用いる方法がある。
【数1】

ここで、Z:トロリ線の断面係数、
EI:トロリ線の曲げ剛性、
T:トロリ線の張力、
v:列車の速度、
c:トロリ線の波動伝播速度。
なお、トロリ線種別によって定まる金属疲労に対する基準値σlimitは、例えば、GT110mmのトロリ線の場合、60MPaである。
【発明の効果】
【0013】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、アクティブ制御において、センサやコントローラの異常によりアクチュエータに予期しない著大な出力が働いたときに、アクチュエータを支持するピンを破断させて、アクチュエータを台枠上に落下させてアクチュエータの作動を停止させる。そして、舟体を主バネのみで上昇させて支持する。このように、フェール時においてアクチュエータによる架線の過大な押し上げ等を防止して、架線破壊などの事故を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態に係るパンタグラフのアクチュエータ支持部の構造を説明する図であり、図1(A)は側面図、図1(B)は正面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るパンタグラフの全体の機構を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
まず、図2を参照しつつ、本実施例に係るパンタグラフの機構について説明する。
パンタグラフ1は、電車の車体屋根2上に碍子4を介して設置された台枠3に搭載されている。このパンタグラフ1は、トロリ線(架線)Tに押し当てられる舟体10と、舟体10を支持する枠組20と、枠組20を付勢して舟体10を上昇させる主バネ40と、枠組20を回転駆動させて、舟体10のトロリ線Tに対する押上力を制御するアクチュエータ50と、を備えている。
【0016】
舟体10は、車体幅方向(左右方向:図2の紙面表裏方向)に沿って延びる箱状体であり、一例でアルミニウム合金等からなる。舟体10には、微動バネ11及びダッシュポット12を介して、摺り板体13が設けられている。この摺り板体13は、一例で鉄系や銅系の焼結合金製、あるいは、カーボン系材料等からなる。この摺り板体13がトロリ線Tに直接接触する。なお、舟体10と摺り板体13とを合わせて舟体と呼称することもある。
【0017】
舟体10の下面には、支持バネ(復元バネ)16及びダッシュポット17が設けられている。これらは、枠状の舟支え15に収容されている。舟体10は、枠組20が上昇した後には、ダッシュポット17で減衰力が付与されつつ、支持バネ16の弾性力でトロリ線Tに押し付けられる。
【0018】
支持バネ16には、例えば、光ファイバ式の歪ゲージ18が取り付けられている。同歪ゲージ18の出力はコントローラ70に送られる。コントローラ70では、歪ゲージ18によって計測された支持バネ16の歪から支持バネ16の変位が求められる。
【0019】
舟体10は、枠組20により昇降可能に支持されている。枠組20は、この例では4節リンクであり、前後方向(レール長手方向)に延びる上枠21と下枠22、舟支え及び舟体を正規の姿勢に保つための舟支えリンク24、及び、釣り合い棒25を備えている。上枠21の上端は舟支え15の中央部に連結されている。上枠21の下端側は、くの字状に後方に屈曲した形状となっており、くの字屈曲部P1には下枠22の上端が連結されている。舟支えリンク24の上端は、舟支え13の下端部に連結されており、下端は、下枠22の上端からやや下方の部分に連結されている。また、上枠21の下端には釣り合い棒25の上端が連結されている。この釣り合い棒25の下端は、車体屋根2上の取付フランジ27に連結されている。
【0020】
下枠22の下端は、主軸29に連結されている。この主軸29は、台枠3上の取付フランジ31に回動可能に取り付けられている。この主軸29には、台枠3上に配置された主バネ40及びダッシュポット41の一端が連結されている。主バネ40及びダッシュポット41の他方の端部は、台枠3上の取付フランジ33に取り付けられている。主バネ40は、枠組20に上昇力を与えるバネである。
【0021】
さらに、主バネ40と並行に、制御用アクチュエータ50が配置されている。アクチュエータ50としては、エアシリンダを使用できる。制御用アクチュエータ50の出力端51は、連結部材53を介して主軸29に連結されており、基端52は取付フランジ33に連結されている。アクチュエータ50の連結方法の詳細については後述する。この制御用アクチュエータ50は、前述の、歪ゲージ18で計測される支持バネ16の変位に基づいて、舟体10・摺り板体13をトロリ線Tに押し当てる押上力を制御する。
一方、台枠3上には、パンタグラフ1の昇降用アクチュエータ57が設けられている。この昇降用アクチュエータ57は、主軸29から延びるてこ部材58に当接可能となっている。
【0022】
アクチュエータ50の下方の台枠3上には、アクチュエータ50が落下したときに収容される受部54が設けられている。詳しくは後述するが、アクチュエータ50は、出力端51と連結部材53とを連結するピンが破断した場合、基端52を中心にして下方に回動する。受部54は、その際アクチュエータ50が左右方向に過度に移動しないようにアクチュエータの両側を支持できるような形状であることが好ましい。この受部54の上面には、落下するアクチュエータ50によって作動する検知部55が設けられている。検知部55としては、空気溜め55aと、空気溜め55aの上部に形成された空気抜き弁として作用するスイッチ部55bと、空気溜め55a内の圧力を検知する圧力センサ56とを有するものを使用できる。圧力センサ56は屋根2に設置されており、検知部55と圧力センサ56とは、碍子4を通る空気配管で接続されている。スイッチ部55bに落下したアクチュエータ50が当たると、スイッチ部55bが押されて空気溜め55a内の空気が抜け、空圧が低下する。この空圧低下を圧力センサ56で検知することにより、アクチュエータ50が落下したことを検知する。圧力センサ56はコントローラ70に接続しており、アクチュエータ50の落下をコントローラ70で検知できる。
【0023】
パンタグラフ1の昇降動作について説明する。
主バネ40の付勢力により下枠22は主軸29を支点として図中U方向に起き上がり、この下枠22の動きが上枠21に伝わり、さらに上枠21が図のU方向に起き上がり、舟支え15が持ち上がる。これにより舟体10が上昇し、摺り板体13がトロリ線Tに押し当てられる。舟体10を下降させるには、昇降用アクチュエータ57によって、てこ部材58を主軸29を支点としてD方向に回転させる。すると、主軸29が前述とは逆に回転し、主バネ40が付勢力に抗して伸びるとともに、下枠22が図のD方向に下がる。そして、上枠21が図のD方向に回転し、パンタグラフ1が下降する。
【0024】
さらに、アクチュエータ50は、歪ゲージ18で計測される支持バネ16の変位や、舟体10に取り付けられた加速度計で計測される加速度に基づいて、舟体10・摺り板体13をトロリ線Tに押し当てる押上力を制御する。
【0025】
次に、図1を参照して、制御用アクチュエータ50の支持方法を説明する。ここでは、アクチュエータがシリンダの例を説明する。
アクチュエータ50の出力端(シリンダのロッド頭部)51は、ブラケット60を介して連結部材53に連結している。ブラケット60は下方が開口したコの字状の部材であり、上壁60aとその両端から下方に延びる側壁60bとを有する。連結部材53の下端は、ブラケット60の上壁60aに固定されている。アクチュエータ50の出力端51は、ブラケット60の両側壁60b間に入り、両側壁60b間を貫通するピン61により回動可能に支持されている。ピン61は、例えばステンレス鋼製である。ピン61の外周面には、図1(B)に示すように、複数個のノッチ61aが形成されており、ピン61が破壊されやすくなっている。
【0026】
このようなパンタグラフにおいては、何らかの影響により制御用アクチュエータ50が著大な出力を発生すると、すなわち、アクチュエータの出力端51が所定値以上に突き出ると、ピン61には著大な荷重がかかる。ピン61には前述のように複数のノッチ61aが形成されて破壊されやすくなっているので、このような著大な荷重がかかると折損する。すると、制御用アクチュエータ50は枠組側の支持点がなくなり、枠組20との接続が遮断されて、図1(A)の想像線で示すように、基端52(台枠側)を中心にして下方に回動する。そして、台枠3上に設置された受部54に落下して収容される。
【0027】
制御用アクチュエータ50と枠組20との接続が遮断された後、枠組20は主バネ40のみの上昇力で支持される状態を保っている。つまり、制御用アクチュエータ50によるアクティブ制御のみが無効となり、パンタグラフ1は主バネ40の上昇力でのみ支持される。このため、制御用アクチュエータ50の異常によるパンタグラフ1の過度な押し上げを防止でき、架線破壊などの事故を防止できる。
【0028】
アクチュエータ50が受部54に落下すると、受部54に設けた検知部55で検知され、この出力がコントローラ70に送られて乗車員に報知される。
【0029】
なお、この例では、ピン61を破壊されやすくするためにノッチ61aを設けた例を説明したが、他に、ピンを一部空洞化する、ピンの材料を脆弱なものに変更するなどの方法がある。
【0030】
ピン61を折損させる荷重は、通常の走行中においてアクチュエータ50の最大出力時にかかる荷重以上の荷重である。この荷重は、パンタグラフの静押上力、揚力特性や、トロリ線の断面係数や曲げ剛性、張力、列車の走行速度などによって決定される。
一例として、以下のように設定できる。
パンタグラフ静押上力Pと制御力Fの合計押上力Fが定常的に架線に作用していた場合、制御力Fを繰り返し応力によりトロリ線破断が発生しないようにするためのトロリ線種別によって定まるトロリ線応力の基準値を超えないように設定する。このトロリ線歪の基準値は、例えばGT110mmトロリ線の場合は60MPaである。
制御力の限界値を定めるためには、前記トロリ線応力とパンタグラフの押上力との関係を与える必要がある。そこで、例えば、パンタグラフの点におけるトロリ線に作用する応力σをトロリ線を弾性支床上梁としてモデル化して表現した次式を用いればよい。
【数2】

ここで、Z:トロリ線の断面係数、
EI:トロリ線の曲げ剛性、
T:トロリ線の張力、
v:列車の速度、
c:トロリ線の波動伝播速度
である。
【0031】
この例では、制御用アクチュエータ50の枠組側の出力端51に設けたピン61が破断する場合を説明したが、アクチュエータ50の基端52とフランジ33とを連結するピンを破断させてもよい。さらに、両方のピンを破断させることもできる。
【符号の説明】
【0032】
1 パンタグラフ 2 屋根
3 台枠 4 碍子
10 舟体 11 微動バネ
12 ダッシュポット 13 摺り板体
15 舟支え 16 支持バネ
17 ダッシュポット 18 歪ゲージ
20 枠組 21 上枠
22 下枠 24 舟支えリンク
25 釣り合い棒 27 フランジ
29 主軸 31 取付フランジ
33 取付フランジ 40 主バネ
41 ダッシュポット
50 アクチュエータ 51 出力端
52 基端 53 連結部材
54 受部 55 検知部
56 センサ
57 昇降用アクチュエータ 58 てこ部材
60 ブラケット 61 ピン
70 コントローラ
【先行技術文献】
【特許文献】
【0033】
【特許文献1】特開2007−189754

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トロリ線(架線)に押し当てられる舟体と、
該舟体を支持する枠組と、
該枠組を付勢して前記舟体を上昇させる主バネと、
前記枠組を回転駆動させて、前記舟体の前記トロリ線に対する押上力を制御するアクチュエータと、
を具備するパンタグラフであって、
前記アクチュエータは、基端がピンにより台枠に回転可能に接続され、先端がピンにより前記枠組に回転可能に接続されており、
前記台枠側ピン及び/又は枠組側ピンが所定の荷重を受けると破断し、前記アクチュエータを前記台枠上に落下させて該アクチュエータの制御力の伝達を断つことにより、前記舟体を前記主バネのみで上昇させて支持することを特徴とするパンタグラフ。
【請求項2】
前記台枠に、前記ピンが破断したときに前記アクチュエータが収容される受部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のパンタグラフ。
【請求項3】
前記アクチュエータ受部に、該受部に前記アクチュエータが収容されたことを検知する検知部が設けられており、該検知部で前記アクチュエータが前記受部に収容されたことが検知されると異常を報知することを特徴とする請求項2に記載のパンタグラフ。
【請求項4】
前記トロリ線に作用する応力σが、
前記トロリ線歪が、トロリ線種別によって定まる金属疲労に対する基準値を超えないように前記アクチュエータの押上力を制限することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のパンタグラフ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−220335(P2010−220335A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−62564(P2009−62564)
【出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】