説明

パンテチン含有経口液剤

【課題】 パンテチンを含有する新規な経口液剤を提供する。
【解決手段】 パンテチンを含有する溶液に特定のpH調節剤を添加し、pH4〜6に調製することにより、安定したパンテチン含有経口液剤を得ることができることを新たに見出した。本発明により、パンテチンを含有する安定した経口液剤、例えば滋養強壮剤等を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パンテチンを含有する経口液剤に関する。
【背景技術】
【0002】
パンテチンは、(1)パントテン酸欠乏症の予防および治療、(2)消耗性疾患、甲状腺機能亢進症、妊産婦、授乳婦等のパントテン酸の需要が増大し、食事からの摂取が不十分な際の補給、(3)高脂血症、弛緩性便秘、ストレプトマイシンおよびカナマイシンによる副作用の予防および治療、急・慢性湿疹、血液疾患の血小板数および出血傾向の改善のうち、パントテン酸の欠乏または代謝障害が関与すると推定される場合等に1日あたり30〜600mg(内服の場合)で用いられる有用な薬物である。(非特許文献1参照)
パンテチンは、常温で無水状態であれば無定形粉末であるが、吸湿性が高いため、粉末状態を保つことができず、飴状となる。このため、パンテチンは粘性の液体として提供され、日本薬局方におけるパンテチンは、80%のパンテチンを含む水溶液で、無色〜微黄色澄明の粘性の液である。しかしながら、この80%パンテチン液は、水溶液であるがために必ずしも保存安定性がよくないという問題点が知られていた。
【0003】
このため、従来よりパンテチンを含有する製剤は、水分の影響を受けない固形製剤がほとんどである。パンテチンの固形製剤化に際しては、80%パンテチン水溶液を用い、多量の、糖類、デンプン類、セルロース類等の賦形剤と共に混合し、乾燥した後、散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤とする等の試みがなされている。
【0004】
しかしながら、これらの固形製剤は、小児や老人等において服用が困難であるという問題点があった。このため、即効性や服用のし易さ等の点からパンテチンを含有する経口液剤あるいはシロップ剤等の開発が強く要望されていたが、現在のところ満足すべき経口液剤は存在しない。
これまでに、パンテチンを含有する液剤で、pH調節剤が添加され、かつpHが4.2〜5.2である注射剤が開示されている(非特許文献2参照)が、経口剤ではないし、服用に耐え得るものでもない。
また、パンテチンとプラバスタチンを含有する経口液剤が開示されている(特許文献1(表7)参照)が、pH調節剤や本発明の有機酸は含有されていない。
【0005】
【特許文献1】特開2002−249431号公報
【非特許文献1】財団法人日本医薬情報センター編 医療用 医薬品集2006 1708頁〜1709頁
【非特許文献2】パンテチン注10%「小林」添付文書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、服用し易く、しかも、パンテチンを安定に含有する経口液剤および経口液剤におけるパンテチンの安定化方法に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究の結果、パンテチンを含有する溶液に特定のpH調節剤を添加し、pH4〜6に調製することにより、服用し易く、しかも安定したパンテチン含有経口液剤を得ることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、
1.特定のpH調節剤を含有することを特徴とするパンテチン含有経口液剤、
2.特定のpH調節剤を含有し、pH4〜6に調製されていることを特徴とするパンテチン含有経口液剤、
3.特定のpH調節剤が、可食性酸またはその塩である1または2に記載のパンテチン含有経口液剤、
4.可食性酸またはその塩が、有機酸またはその塩である3に記載のパンテチン含有経口液剤、
5.有機酸またはその塩が、オキシ酸またはその塩である4に記載のパンテチン含有経口液剤、
6.オキシ酸またはその塩が、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸およびそれらの塩からなる群より選ばれる1種または2種以上である5に記載のパンテチン含有経口液剤、
7.パンテチンの含有量が、30〜600mgである1〜6のいずれか1に記載のパンテチン含有経口液剤、
8.pH調節剤を添加し、pH4〜6に調製することを特徴とするパンテチン含有経口液剤の安定化方法、である
【発明の効果】
【0009】
本発明により、安定したパンテチン含有経口液剤を提供することができる。例えば、パントテン酸の欠乏または代謝障害の患者等に対し、パンテチンを含有した服用し易い予防および/または治療薬を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明にかかるパンテチン((R,R)−ビス(N−パントテニル−2−アミノエチル)ジスルフィド)は、公知の化合物であり、その入手方法としては、市販品を用いてもよく、また公知の方法に基づき製造することも可能である。
【0011】
通常、本発明にかかるパンテチンの投与量は、投与する患者の性別、年齢、症状等により適宜検討すればよく、パンテチンとして1日あたりの投与量は5〜1200mgが好ましく、30〜600mgがより好ましく、60〜600mgが特に好ましい。したがって、本発明のパンテチン含有経口液剤には、パンテチンとして1日あたり好ましくは5〜1200mg、さらに好ましくは30〜600mg、特に好ましくは60〜600mgを服用できるように配合すればよく、本発明のパンテチン含有経口液剤におけるパンテチンの濃度は、特に制限はない。ただし、本発明のパンテチン含有経口液剤は、1日あたりの服用する液量として、10〜200mLが好ましく、30〜100mLがより好ましい。
【0012】
本発明にかかる特定のpH調節剤は、可食性酸またはその塩が好ましい。本発明にかかる可食性酸またはその塩としては、有機酸もしくはその塩、または無機酸もしくはその塩を挙げることができる。
【0013】
本発明にかかる有機酸としては、例えば、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、乳酸、グリコール酸等のオキシ酸、酢酸、アジピン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸等のモノまたはジカルボン酸、アスコルビン酸、エリソルビン酸またはそれらの塩等を挙げることができる。また、本発明にかかる無機酸としては、例えば、塩酸、リン酸等を挙げることができる。本発明にかかる特定のpH調節剤としては、有機酸またはその塩が好ましく、オキシ酸またはその塩がより好ましく、クエン酸、酒石酸およびはリンゴ酸からなる群から選ばれる1種または2種以上が特に好ましい。また、上記に挙げた有機酸および無機酸の塩としては、例えば、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属塩等、医薬上許容される塩を挙げることができる。これらの中でも、ナトリウム塩またはカリウム塩が好ましい。本発明にかかる特定のpH調節剤は、前記のものを単独または複数組み合わせて用いることができる。
【0014】
また、本発明のパンテチン含有経口液剤における特定のpH調節剤の含有量は、特に限定されないが、pH調節剤が可食性の酸またはその塩の場合、可食性の酸に換算して0.01〜20W/W%であることが好ましく、0.1〜5W/W%であることがより好ましい。該pH調節剤をパンテチン含有経口液剤に添加し、パンテチン含有経口液剤のpHが、好ましくは3〜7、より好ましくは4〜6に調製されることにより、パンテチン含有経口液剤を安定化することができる。
【0015】
また、パンテチンを含有する溶液のpHを4〜6に調製したものは、経口液剤の場合、えぐ味や強い酸味を感じることなく、飲み易くなるという効果もある。
【0016】
本発明のパンテチン含有経口液剤は、用途に応じて、パンテチン以外の薬効成分を加えることができる。本発明のパンテチン含有経口薬剤に加えることができる薬効成分としては、例えば、ビタミン剤、抗ヒスタミン剤、鎮咳薬、解熱鎮痛薬、交感神経興奮薬、中枢神経興奮薬、抗炎症薬、局所麻酔薬、殺菌剤、制酸剤、健胃剤、消化剤、胃粘膜修復剤、鎮痛鎮痙薬、便秘治療剤、向精神薬、潰瘍治療剤、生薬等を挙げることができるが、これらに限られるものではない。該薬効成分は、本発明の効果に影響のない範囲内において特に制限はなく、薬効成分のかわりに嗜好成分、健康食品成分、栄養補助食品成分などを配合してもよい。
【0017】
また、本発明においては、通常、経口液剤に配合される添加剤、例えば、安定化剤、抗酸化剤、着色剤、界面活性剤、芳香剤・香料、乳化剤、可溶化剤、防腐剤、甘味剤、矯味剤、保存剤、清涼化剤、溶解補助剤、溶剤、緩衝剤、懸濁化剤、粘稠剤、苦味マスキング剤等を必要に応じて配合することができる。これらの添加剤は、1種または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
本発明のパンテチン含有経口液剤の調製方法としては、特に制限はなく、公知の手段を用いて調製することができる。通常、各成分と精製水等の溶剤の一部とを混合、溶解し、残りの溶剤を加えて液量を調整する。なお、本発明の液剤に、水に難溶の成分または水に不溶の成分を含有する場合には、前記の適当な界面活性剤、可溶化剤、乳化剤、懸濁化剤等を添加することにより、可溶化、乳化、懸濁化等することができる。また、必要に応じ、溶解時に、公知の経口液剤の調製法に準じて、精製水等の溶剤を加温してもよい。前記調製の際、芳香剤・香料類は、その風味を損なわないよう、調製の最終段階で添加してもよく、調製液はろ過や殺菌処理を施してもよい。本発明は、例えばドリンク剤、シロップ剤、エキス剤、エリキシル剤、リモナーデ剤、機能性飲料等の各種飲料として使用できる。
【0019】
以下に、実施例および試験例を挙げて本発明を説明する。
【実施例】
【0020】
(試験例1)(パンテチンの安定性)
1.pH緩衝液の調製
1−1.pH1.5、2.0緩衝液の調製
0.2mol/L塩酸および0.2mol/L塩化カリウムを用いて、pH1.5、pH2.0に調節し、それぞれの緩衝液を調製した。
【0021】
1−2.pH3.0、4.0、5.0、6.0、7.0緩衝液の調製
0.1mol/Lクエン酸および0.5mol/Lリン酸水素二ナトリウムを用いて、pH3.0、pH4.0、pH5.0、pH6.0、pH7.0に調節し、それぞれの緩衝液を調製した。
【0022】
2.試料液の調製
80W/W%パンテチン液約50mgを精密に量り、これに前記のpH1.5緩衝液を加えて溶かし、さらにpH1.5緩衝液を加えて正確に100mlとした。得られた溶液のうち約20mlを20mlのアンプルに充填して熔閉し、pH1.5の試料液とした。pH2.0、pH3.0、pH4.0、pH5.0、pH6.0、pH7.0の各試料液についても同様に調製した。
【0023】
3.保存条件、保存期間およびパンテチン含有量の測定方法
各々の試料液を40℃で、7日、14日、1ヶ月、2ヶ月、6ヶ月間保存し、また、50℃で、7日、14日、1ヶ月間保存し、保存期間終了後における試料液中のパンテチンの含有量を液体クロマトグラフ法により測定した。
【0024】
試験条件
検出器 :紫外吸光光度計
カラム :内径4.6mm、長さ15cmのステンレス管に5μmの液体クロマトグラフ用オクタデシルシリル化シリカゲルを充てん。
カラム温度 :40℃付近の一定温度
移動相 :pH3.5の0.05mol/Lリン酸二水素カリウム溶液/アセトニトリル混液(6:1)
流量 :パンテチンの保持時間が約13分になるように調整。
【0025】
4.各pHの試料液におけるのパンテチンの安定性
各pHの試料液におけるパンテチンの含有量を、40℃で保存した場合を表1、50℃で保存した場合を表2に示す。
なお、パンテチンの分解は一次反応に従うことから、下記の一次反応速度式により、反応速度定数(k)を算出し、さらに反応速度定数の対数値(log(k))を算出した。
【0026】
k=2.303/t×logC/C
t:経時日数(日)
:開始時の含量(%)
C:経時後の対開始時含量(%)
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】

【0029】
ND:含量検出限界以下
k:反応速度定数
−:未測定または未計算
【0030】
5.pHプロファイル
表1および表2に記載の、試料液中のパンテチンの分解速度を表わすlogkと、試料液のpHとの関係を図1に示した。図1から、パンテチンの水溶液中での安定性はpHに依存し、最も安定なpH領域はpH4〜6であることがわかった。
【0031】
(試験例2)(官能試験)
1.試料液の調製
1)pH5.0の0.1mol/L有機酸液
(1)酢酸−酢酸ナトリウム、(2)クエン酸−クエン酸ナトリウム、(3)DL−リンゴ酸−DL−リンゴ酸ナトリウム、(4)酒石酸−酒石酸ナトリウムを用い、それぞれpH5.0の0.1mol/L有機酸液を調製した。
【0032】
2)パンテチン含有の有機酸液
80W/W%パンテチン液75mg(パンテチンとして60mg)を、前記のpH5.0の0.1mol/Lの各有機酸液に、それぞれ加えて50mlとした。
【0033】
2.試験方法
健康な成人男性2名、女性3名で、臭いおよび味について官能試験を行なった。口腔内を水でゆすいだ後、試料液を口腔内に含み、臭いおよび味について評価した。
【0034】
3.試験結果
試験結果を表3に示す。
【0035】
【表3】

【0036】
表3から、パンテチンに酢酸を加えた液剤については、酢酸臭が強く、経口液剤として好ましくないことがわかった。また、クエン酸及びリンゴ酸ではわずかな臭いを感じるが、総合判定の結果から、クエン酸、リンゴ酸および酒石酸では、経口液剤として好ましいことがわかった。以上の結果、パンテチン含有経口液剤にクエン酸、リンゴ酸または酒石酸を添加することは経口液剤として好ましいことがわかった。
【0037】
(製剤例)
下記成分、分量を取り、混合溶解することによりパンテチン経口含有液剤を得た。
80W/W%パンテチン液 75mg
(パンテチンとして 60mg)
コウジンエキス 240mg
(原生薬として 1000mg)
ゴオウチンキ 0.5mL
(原生薬として 5mg)
ハンピチンキ 0.5mL
(原生薬として 100mg)
イカリ草エキス 50mg
(原生薬として 500mg)
塩酸ピリドキシン 50mg
ニコチン酸アミド 30mg
ハチミツ 2500mg
グリセリン 800mg
粉末還元麦芽糖水アメ 2500mg
dl−リンゴ酸 80mg
クエン酸ナトリウム 適量
安息香酸ナトリウム 21mg
パラオキシ安息香酸ブチル 3.5mg
アルギン酸プロピルグリコールエステル 60mg
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60 150mg
香料 微量
精製水 全量30mL
pH 5.0
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明により、安定したパンテチン含有経口液剤を提供することができる。例えば、パントテン酸の欠乏または代謝障害の患者等に対し、服用し易い予防および/または治療用液剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】パンテチンの分解速度を表わすlogkと、パンテチン含有経口液剤のpHとの関係を示したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定のpH調節剤を含有することを特徴とするパンテチン含有経口液剤。
【請求項2】
特定のpH調節剤を含有し、pH4〜6に調製されていることを特徴とするパンテチン含有経口液剤。
【請求項3】
特定のpH調節剤が、可食性酸またはその塩である請求項1または2に記載のパンテチン含有経口液剤。
【請求項4】
可食性酸またはその塩が、有機酸またはその塩である請求項3に記載のパンテチン含有経口液剤。
【請求項5】
有機酸またはその塩が、オキシ酸またはその塩である請求項4に記載のパンテチン含有経口液剤。
【請求項6】
オキシ酸またはその塩が、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸およびそれらの塩からなる群より選ばれる1種または2種以上である請求項5に記載のパンテチン含有経口液剤。
【請求項7】
パンテチンの含有量が、30〜600mgである請求項1〜6のいずれか1項に記載のパンテチン含有経口液剤。
【請求項8】
pH調節剤を添加し、pH4〜6に調製することを特徴とするパンテチン含有経口液剤の安定化方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−269786(P2007−269786A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−55224(P2007−55224)
【出願日】平成19年3月6日(2007.3.6)
【出願人】(306014736)第一三共ヘルスケア株式会社 (176)
【Fターム(参考)】