説明

パン類の製造方法

【課題】パン生地に機械耐性がある、老化が遅い、ボリュームが大きい、食感がソフトであるなどの中種製パン法の利点を維持しながら、アルコール臭が低減され、しかも生地作製時の総加水量をストレート法(直捏法)と同程度に増やしても、作業性の低下やケーブインの発生がないなど、従来の中種製パン法が抱える課題が解決されたパン類の製造方法を提供すること。
【解決手段】パン生地の冷蔵または冷凍を行わない中種製パン法において、中種発酵の所要時間の40〜90%の時間が経過する間に、ミキシング、ロール圧延、パンチングまたはこれらの組合せにより、発酵途中の中種生地に物理的負荷を与え、この負荷の度合いは、負荷を与えた後の中種生地の容積が、負荷を与える前の中種生地の容積の20〜60%減の範囲におさまるようにし、その後、少なくとも10分間以上中種発酵を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中種製パン法の改良法に関する。詳細には、パン生地に機械耐性がある、老化が遅い、ボリュームが大きい、食感がソフトであるなどの中種製パン法の利点を維持しながら、アルコール臭が低減され、しかも生地作製時の総加水量をストレート製パン法(直捏製パン法)と同程度に増やしても、作業性の低下やケーブインの発生がないなど、従来の中種製パン法が抱える課題が解決されたパン類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製パン法のうち、中種製パン法は、使用する小麦粉および水の一部ないし全部に、イーストおよび必要に応じて他の副材料を添加して混捏して中種生地を得、これを所定の時間醗酵させた後に、残余の小麦粉、水および副材料を添加して再混捏し、さらに発酵、分割・成型、ホイロの工程を経て焼成することからなる製パン方法である。中種製パン法は、上述したように、生地が機械耐性がある、老化が遅い、ボリュームが大きい、食感がソフトであるなどの多くの利点を有することから、広く普及し、主に量産工場で採用されている。
しかし、リテイルベーカリーなどの小規模生産で用いられているストレート製パン法と比較すると、中種製パン法は“特有のアルコール臭が強い”、“生地作製時の総加水量が少ない”などの課題がある。通常、中種製パン法でパン類を量産するにあたり、生地作製時の総加水量は小麦粉100質量部に対して66〜68質量部でほぼ固定されており、当該総加水量をストレート製パン法と同程度まで増やす、具体的には小麦粉100質量部に対して3〜5質量部増やすと、生地がべたつくなどの作業性の問題が生じるだけでなく、“ケーブインと称されるパン上面の沈みやパン側面の腰折れ”などの問題が生じるおそれがある。このケーブインの発生は、採用する配合や工程(例えば、フルフレーバー法)によっても生じやすくなることがある。中種製パン法において、生地作製時の総加水量を増やすことは、その分、製造歩留まりの向上が達成される。
【0003】
一方、特許文献1には、冷蔵生地や冷凍生地を用いた製パン法において頻発する、フィッシュアイの発生や、パン体積の減少を防止することを目的として、中種生地の所要発酵時間の半分を経過した時点から本捏生地配合材料の混合前までの間のいずれかの時点で、中種生地の脱気処理を行うことが提案されている。そして特許文献1の段落〔0021〕には、「中種生地の上記した脱気処理を行う際の脱気方法としては、生地に実質的な損傷を生ずることなく生地からの脱気を行うことのできる処理方法であればいずれも採用でき、例えば、(1)真空ポンプなどを用いて生地を減圧下に吸引処理する方法、(2)生地をシーティングロールなどを用いて圧延する方法、(3)パンチングマシーンなどにより生地に穴をあけて脱気処理する方法などを挙げることができる。そして、前記した脱気方法のうちでも、真空ポンプなどを用いて生地を減圧下に吸引処理する上記(1)の方法が、生地の損傷がなく、しかも生地の硬化などを生ずることがなくて、より高品質のパン類を得ることができるので好ましい」との記載がある。すなわち、この特許文献1には、発酵した中種生地中の炭酸ガスを、生地に損傷を与えずに、十分に抜くことにより、生地のpHを上昇させて生地の膜構造を細かく且つ強くすることにより、冷蔵や冷凍耐性を向上させることが記載されている(段落〔0024〕〜〔0025〕参照)。さらに、特許文献1には、中種生地の脱気処理を、中種生地の発酵終了後から本捏生地配合材料の混合前の間に行うことが好ましいことが記載されている
しかし、生地の冷蔵や冷凍を行わない中種製パン法において、特許文献1に記載の方法を適用しても、例えば、中種生地の発酵終了後から本捏生地配合材料の混合前の間に、好ましい方法である(1)真空ポンプなどを用いて生地を減圧吸引処理して脱気処理を行っても、また、(2)生地をシーティングロールなどを用いて圧延する方法、(3)パンチングマシーンなどにより生地に穴をあけて脱気処理する方法を適用させても、上記の中種製パン法の課題は解決されないことがわかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3450555号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、パン生地の冷蔵または冷凍を行わない中種製パン法において、パン生地に機械耐性がある、老化が遅い、ボリュームが大きい、食感がソフトであるなどの中種製パン法の利点を維持しながら、アルコール臭が低減され、しかも生地作製時の総加水量をストレート製パン法(直捏製パン法)と同程度に増やしても、作業性の低下やケーブインの発生がないなど、従来の中種製パン法が抱える課題が解決されたパン類の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、パン生地の冷蔵または冷凍を行わない中種製パン法において、特許文献1の方法をそのまま適用させても上記課題が解決されなかったことを鑑み、中種発酵の途中の特定の時期に、該中種発酵生地に対して特定の方法による物理的負荷を与えること、およびその負荷の度合いを特定の範囲にコントロールすることにより、上記課題を解決しうることを知見し、本発明を完成させた。
【0007】
従って、本発明は、下記のとおりである。
(1)パン生地の冷蔵または冷凍を行わない中種製パン法において、中種発酵の所要時間の40〜90%の時間が経過する間に、ミキシング、ロール圧延、パンチングまたはこれらの組合せにより、発酵途中の中種生地に物理的負荷を与え、この負荷の度合いは、負荷を与えた後の中種生地の容積が、負荷を与える前の中種生地の容積の20〜60%減の範囲におさまるようにし、その後、少なくとも10分間以上中種発酵を行うことを特徴とする、パン類の製造方法。
(2)上記(1)に記載の方法で製造されたパン類。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、パン生地の冷蔵または冷凍を行わない中種製パン法において、パン生地に機械耐性がある、老化が遅い、ボリュームが大きい、食感がソフトであるなどの中種製パン法の利点を維持しながら、アルコール臭が低減され、しかも生地作製時の総加水量をストレート製パン法と遜色なく、総加水量を増やしても、作業性の低下やケーブインが発生しない、パン類の製造方法が提供される。この方法では、総加水量が増えることにより生産性・歩留りが向上するだけでなく、得られるパン類は、アルコール臭が低減され、優れた食味・風味を有している。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明のパン類の製造方法について、好ましい実施形態に基づき詳細に説明する。
【0010】
本発明は、中種製パン法を採用してパン類を製造する。本発明で用いられる穀粉原料としては、中種製パン法で通常用いられるものであれば、特に制限されない。例えば小麦粉としては、強力粉、準強力粉、デュラム小麦粉の他に、中力粉、薄力粉またはこれらの混合物を挙げることができる。さらに、必要に応じて、大麦粉、ライ麦粉、ライ小麦粉、オーツ粉、コーンフラワー、米粉、各種澱粉類、それらの混合粉等を配合してもよい。
【0011】
本発明では、上記穀粉原料に加えて、副原料として、通常、食パンの製造に用いられるもの、例えばサワー種、ルバン種などの各種発酵種やイースト(生イースト、ドライイーストなど);イーストフード;砂糖、ブドウ糖、果糖、転化糖、水あめ、麦芽糖、乳糖などの糖類;卵または卵粉;脱脂粉乳、全脂粉乳、チーズ粉末、ヨーグルト粉末、ホエー粉末などの乳製品;ショートニングやバター、マーガリンやその他の動植物油などの油脂類;乳化剤;膨張剤;増粘剤;アスコルビン酸;食塩などの無機塩類;モルト粉末やモルトエキス;グルコシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、アミラーゼ、リパーゼ、ヘミセルラーゼなどの酵素類;食物繊維等を適宜配合することができる。
【0012】
また、本発明では、中種製パン法で通常、量産工場等で採用されている生地作製時の総加水量、すなわち食パン等の場合には穀粉原料100質量部に対して水を66〜68質量部の割合で、菓子パン等の場合には54〜58質量部の割合で用いてもよいが、本発明では、さらに総加水量を穀粉原料100質量部に対して3〜5質量部増やしても、生地のべたつきやケーブインの問題が生じない。総加水量を上記の通り通常より増やすことで、パン類の製造歩留まりが向上するため好ましい。
【0013】
本発明で採用できる中種製パン法としては、慣用されている70%中種法のみならず、100%中種法(フルフレーバー法)、加糖中種法、オーバーナイト中種法などの中種製パン法を挙げることができる。
【0014】
本発明の製造方法は、上述した従来既知の中種製パン法により調製した中種生地を発酵させる際に、中種発酵の所要時間の40%〜90%の時間、好ましくは50〜80%の時間が経過するまでの間のいずれかの時点で、中種生地に物理的負荷を与えることが重要である。ここで、本発明でいう「中種発酵の所要時間」とは、中種発酵の開始から中種発酵の終了までに要する時間をいう。
中種発酵の所要時間の40%の時間が経過する前に、中種生地に物理的負荷を与えても、本発明の効果が得られず、また、90%の時間が経過した後に中種生地に物理的負荷を与えても、本発明の効果が得られないばかりか、中種生地に与えた負荷が回復せずに障害となり、生地がべたつくなど作業性が低下したり、得られるパンのボリュームも小さくなり、また食感も劣ったものになるため、好ましくない。
なお、具体的な中種発酵の所要時間は、中種製パン法の種類、中種生地の配合、発酵条件などによって異なるが、通常の70%中種法では4時間、100%中種法(フルフレーバー法)では2〜3時間、加糖中種法では2〜3時間、オーバーナイト中種法では12〜18時間が一般に採用されている。
【0015】
中種生地に与える物理的負荷は、ミキシング、ロール圧延、パンチングまたはこれらの組合せにより行う。その際、発酵途中の中種生地への物理的負荷の度合いは、当該負荷を与えた後の中種生地の容積が、当該負荷を与える前の中種生地の容積の20〜60%減の範囲におさまるようにする必要がある。中種生地の容積の減少率が20%未満であると、当該負荷による効果が十分でなく、60%を超えると、発酵した中種生地の網目(気泡)の構造やグルテン構造が必要以上に損傷を受けるため好ましくない。なお、物理的負荷を与える時間が中種発酵の比較的早い段階である場合、例えば中種発酵の所要時間の40〜60%程度の場合、物理的負荷の度合いは、中種発酵前の生地より容積減とならないようにする。好ましくは、中種発酵前の生地の容積を100%とした場合に、当該負荷を与えた後の中種生地の容積が、中種発酵前の生地の容積の110%を下回らないようにする。
【0016】
ミキシングは、製パン工程で慣用される通常のミキシングの手段であれば特に限定されないが、中種生地に適度に負荷が掛かり、上記したように、ミキシング後の中種生地の容積が、ミキシング前の中種生地の容積の20〜60%減の範囲におさまるようにする。ミキシングの条件としては、通常1〜30秒程度、好ましくは2〜20秒程度である。なお、ミキシングは短時間であるので、ミキシングの速度により奏される効果に顕著な差はない。
【0017】
ロール圧延は、圧延後の中種生地の容積が、圧延前の中種生地の容積の20〜60%減の範囲におさまるように、圧延回数やロールの間隙を調整するが、圧延回数は通常1〜5回、好ましくは1〜3回程度であり、ロールの間隙は生地量により変化するが、圧延後の生地厚が圧延前の生地厚の40〜80%程度になるように調整して圧延を行う。
【0018】
パンチングは、製パン工程で慣用される通常のパンチングの手段および条件であれば特に限定されないが、パンチングにより中種生地に適度に負荷が掛かり、パンチング後の中種生地の容積が、パンチング前の中種生地の容積の20〜60%減の範囲におさまるように調整する。例えばパンチングマシーンを用いる場合には、通常1〜30秒程度、好ましくは2〜20秒程度である。
またパンチングマシーンなどの装置を用いる他、中種生地を手で叩く、あるいは中種生地を落とした後、手で叩くなどにより衝撃を加えることで、中種生地に物理的負荷を与えてもよい。
【0019】
これらの物理的負荷とその後の中種発酵により、中種生地中の網目(気泡)構造やグルテン構造に適度に変化が起こることなどにより、その結果、生地の弾力が増し、生地自体がしっかりしたものとなり、またイーストが活性化するものと考えられる。また特許文献1に記載されているように、減圧吸引処理により脱気しても、中種生地中の網目(気泡)構造が必要以上に壊れてしまい、またグルテン構造の変化などが十分とは言えず、このため所望の効果は得られない。さらに、特許文献1のような減圧吸引処理では、当該処理後の中種生地の容積が、当該処理前の容積の75%減となり、本発明において必要とされる範囲を超えて中種生地に負荷が付与されてしまうため好ましくない。
【0020】
本発明の製造方法では、中種生地に物理的負荷を与えた後、少なくとも10分以上、中種生地を発酵させる必要があり、好ましくは12分以上、中種生地を発酵させる。この発酵時間を取ることにより、中種生地中の網目(気泡)構造やグルテン構造に与えられた負荷から中種生地が回復するだけでなく、当該負荷が刺激となって生地の弾力がより増すと共に、イーストが活性化し、その後の本捏工程を経て、得られるパン類のアルコール臭を低減させるだけでなく、作業性の低下やケーブインを防止しながらパン生地の総加水量(パン吸水)を増加させるといった、本発明の優れた効果を奏するようになる。
【0021】
そして、中種生地の発酵終了後、本捏工程を行なう。その際の本捏生地に配合する穀粉原料、副原料の組成や配合量、本捏工程の条件などは特に制限されず、常法に従って行なえばよい。例えば、中種発酵を終了した中種生地に、残余の穀粉原料と所定量の水、食塩や砂糖、脱脂粉乳等の乳製品、ショートニングなどの油脂、必要に応じてイーストフードや追加のイーストや各種発酵種などを添加して本捏工程を行なえばよい。このようにして調製した本捏生地を用いて、常法にしたがって、例えば、フロアータイム、分割、ベンチタイム、成型、最終発酵(ホイロ)などを行なう。
【0022】
本発明の製造方法により製造されるパン類としては、中種製パン法により製造されるパン類であれば特に限定されないが、例えば、食パン、菓子パン、テーブルロールなどの各種のパン類が挙げられる。
【実施例】
【0023】
本発明を具体的に説明するために実施例および比較例を挙げるが、本発明は以下の実施例などに限定されるものではない。
【0024】
≪70%中種法によるプルマン型の食パンの製造≫
実施例1〜4および比較例1〜6
実施例1〜4および比較例1〜3については、パン用小麦粉、イーストフード、生イースト、食塩、砂糖、脱脂粉乳、ショートニングおよび水を表1に示す配合で配合し、下記に示す工程1によりプルマン型の食パンを製造した。その際に、中種生地の物理的負荷処理を、表2に示す時期に、中種生地をシーティングロールで1回圧延することにより行った。なお、以下の実施例及び比較例において、中種生地の容積減少率は、中種生地を収納する容器中の生地の高さを測定し、当該高さを中種生地の容積の相対値として、物理的負荷処理の前後の中種生地の容積減少率を算出した。
【0025】
比較例4〜6については、ロール圧延を行う代わりに、表3に示す時期に、中種生地に減圧吸引処理(圧力;2.7kPa,1分)を行う以外は、実施例1と同様にして、プルマン型の食パンを製造した。
【0026】
本捏工程以降における作業性および得られたプルマン型の食パンの外観(ケーブインの有無)を表4に示す評価基準に従って評価した。また、食パンの風味について、10名のパネラーにより表4に示す評価基準に従って評価した。その平均値を算出し、表2または表3に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
<工程1>
〔中種〕
ミキシング : 低速2分→中速2分
捏ね上げ温度 : 24℃
中種発酵(1) : (温度27℃/湿度75%)
物理的負荷処理 : ロール圧延または減圧吸引処理
中種発酵(2) : (温度27℃/湿度75%)
(但し、中種発酵の所要時間は、中種発酵(1)+(2)=240分)
〔本捏〕
ミキシング : 低速2分→中速4分→ショートニング添加→低速1分→中速3分→高速2分
捏ね上げ温度 : 27℃
フロアタイム : 20分(温度27℃/湿度75%)
分割重量 : 250g(比容積4.0)
ベンチタイム : 20分
成型 : 型詰め(モルダー使用)
ホイロ : 50分(温度38℃/湿度85%)
焼成 : 37分(温度220℃)
【0029】
【表2】

【0030】
【表3】

【0031】
【表4】

【0032】
表2および表3の結果から、ロール圧延を中種発酵の所要時間(240分)の40%〜90%の間に行なっている実施例1〜4は、作業性が良好であり、ケーブインの発生がなく、得られた食パンに、アルコール臭の発生がないか僅かであり、風味も良好である。特に、ロール圧延を中種発酵の所要時間の50%〜80%の間に行なっている実施例2および3は、得られた食パンの風味が良好である。
【0033】
これに対し、ロール圧延を中種発酵の所要時間の40%未満(30%)または90%超(95%)に行っている比較例1および2は、作業性が悪く、ケーブインがやや発生し、得られた食パンにアルコール臭がある。
【0034】
また、ロール圧延の代わりに、特許文献1に記載の減圧吸引処理を行っている比較例4〜6では、中種生地の容積減少率が60%以上となり、作業性が悪く、ケーブインがやや発生し、得られた食パンにアルコール臭がある。特に、減圧吸引処理を、中種発酵終了後に行っている比較例6では、中種生地の容積減少率が最も大きく、作業性が悪くなり、アルコール臭がやや強くなり、風味に欠けていた。
【0035】
また、比較例3及び対照1との対比から、ロール圧延を行わない場合に、総加水量を増加させると、作業性が悪くなり、ケーブインが発生し、得られた食パンのアルコール臭がやや強くなり、風味に欠けていた。
【0036】
≪70%中種法によるプルマン型の食パンの製造≫
実施例5および6ならびに比較例7および8
中種生地の物理的負荷処理を、中種発酵の所要時間の80%を経過した時間(中種発酵開始から約190分)に、ロール圧延の代わりに中種生地を手で叩くパンチングを施すことによりに行う以外は、実施例1と同様にして、プルマン型の食パンを製造した。
次いで、実施例1と同様にして、作業性、食パンの外観(ケーブインの有無)および食パンの風味を評価した。その結果を表5に示す。
【0037】
【表5】

【0038】
表5の結果から、中種生地の物理的負荷処理(手によるパンチング)の度合いが、負荷を与える前の中種生地の容積の20〜60%減の範囲にある実施例5および6では、作業性が良好で、得られた食パンの風味も良好であるのに対して、中種生地の物理的負荷処理の度合いが範囲外で中種生地の容積減少率が20%未満および60%超えの比較例7および8では、作業性が悪く、ややケーブインが発生し、得られた食パンにアルコール臭があり、やや風味に欠けていた。
【0039】
≪加糖中種法による菓子パンの製造≫
実施例7および8ならびに比較例9〜11
パン用小麦粉、イーストフード、生イースト、食塩、砂糖、脱脂粉乳、全卵、マーガリンおよび水を表6に示す配合で配合し、下記に示す工程2により菓子パン(あんぱん)を製造した。その際に、中種生地の物理的負荷処理を、表7に示す時期に、中種生地を低速で10秒間ミキシングすることにより行った。
【0040】
本捏工程以降における作業性を表4に示す評価基準により評価するとともに、得られたあんパンの風味を10名のパネラーにより表4に示す評価基準に従って評価した。その平均値を表7に示す。
【0041】
【表6】

【0042】
<工程2>
〔中種〕
ミキシング : 低速2分→中速2分
捏ね上げ温度 : 26℃
中種発酵(1) : (温度27℃/湿度75%)
物理的負荷処理 : ミキシング(低速15秒)
中種発酵(2) : (温度27℃/湿度75%)
(但し、中種発酵の所要時間は、中種発酵(1)+(2)=120分)
〔本捏〕
ミキシング : 低速5分→中速6分→マーガリン添加→低速1分→中速4分→高速2分
捏ね上げ温度 : 28℃
フロアタイム : 20分(室温)
分割 : 45g/個
ベンチタイム : 25分(室温)
成型 : 包餡(餡40g)
ホイロ : 50分(温度38℃/湿度85%)
焼成 : 9分(温度210℃)
【0043】
【表7】

【0044】
表7の結果から、ミキシングを中種発酵の所要時間(120分)の50%〜80%の間に行なっている実施例7および8は、作業性が良好であり、得られたあんパンにアルコール臭がないか僅かであり、風味も良好であるのに対して、ミキシングを中種発酵の所要時間の40%未満(30%)または90%超(95%)に行っている比較例9および10は、作業性が悪く、得られたあんパンにアルコール臭があり、風味に欠けていた。
また、対照2と比較例11との対比から、ミキシングを行わない場合に、総加水量を増加させると、作業性が悪くなり、得られたあんパンのアルコール臭がやや強くなり、風味に欠けていた。
【0045】
≪100%中種法(フルフレーバー法)による食パンの製造≫
実施例9および10ならびに比較例12〜14
パン用小麦粉、イーストフード、生イースト、食塩、砂糖、脱脂粉乳、ショートニング、マーガリンおよび水を表8に示す配合で配合し、下記に示す工程3により食パンを製造した。その際に、中種生地の物理的負荷処理を、表9に示す時期に、パンチングマシーンで15秒パンチングすることにより行った。
【0046】
本捏工程以降における作業性および得られた食パンの外観(ケーブインの有無)を表4に示す評価基準に従って評価した。また、食パンの風味について、10名のパネラーにより表4に示す評価基準に従って評価した。その平均値を算出し、表9に示す。
【0047】
【表8】

【0048】
<工程3>
〔中種〕
ミキシング : 低速2分→中速3分
捏ね上げ温度 : 26℃
中種発酵(1) : (温度27℃/湿度75%)
物理的負荷処理 : パンチングマシーン(15秒)
中種発酵(2) : (温度27℃/湿度75%)
(但し、中種発酵の所要時間は、中種発酵(1)+(2)=150分)
〔本捏〕
ミキシング : 低速2分→中速4分→ショートニング添加→低速1分→中速3分→高速2分
捏ね上げ温度 : 27℃
フロアタイム : 20分(室温)
分割 : 250g/個(比容積4.0)
ベンチタイム : 20分(室温)
成型 : 型詰め(モルダー使用)
ホイロ : 50分(温度38℃/湿度85%)
焼成 : 37分(温度220℃)
【0049】
【表9】

【0050】
表9の結果から、パンチングを中種発酵の所要時間(150分)の50%〜80%の間に行なっている実施例9および10は、作業性が良好であり、ケーブインの発生がなく、得られた食パンにアルコール臭がないか僅かであり、風味も良好であるのに対し、パンチングを中種発酵の所要時間の40%未満(30%)または90%超(95%)に行っている比較例12および13は、作業性が悪く、ケーブインがやや発生し、得られた食パンにアルコール臭があり、やや風味に劣っていた。
また、対照3と比較例14との対比から、パンチングを行わない場合に、総加水量を増加させると、作業性が悪くなり、ケーブインが発生し、得られた食パンのアルコール臭が強くなり、風味に劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パン生地の冷蔵または冷凍を行わない中種製パン法において、中種発酵の所要時間の40〜90%の時間が経過する間に、ミキシング、ロール圧延、パンチングまたはこれらの組合せにより、発酵途中の中種生地に物理的負荷を与え、この負荷の度合いは、負荷を与えた後の中種生地の容積が、負荷を与える前の中種生地の容積の20〜60%減の範囲におさまるようにし、その後、少なくとも10分間以上中種発酵を行うことを特徴とする、パン類の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法で製造されたパン類。