説明

パーキングブレーキ装置

【課題】パーキングブレーキの作動中に、ブレーキ液圧源とシリンダとを接続するブレーキ配管に高圧が作用するのを回避する。
【解決手段】車輪とともに回転するディスクロータ16の摩擦摺動面に相対してブレーキパッド14a、14bが配置される。キャリパ12は、ブレーキパッドをロータに押し付けるピストン20が配設されるシリンダ36を備え、シリンダ内のブレーキ液圧によりピストン20を駆動する。キャリパ12内に形成された液室は、油圧アクチュエータ50から供給されるブレーキ液で満たされる。閉塞部24は、液室とシリンダ36とを連通する連通路を閉塞可能に配置される。連通路の直径は、油圧アクチュエータ50と液室とをつなぐ配管の直径よりも小さくなるように形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動パーキングブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
キャリパ一体型のパーキングブレーキ装置には、キャリパに取り付けられたモータでキャリパ内に配設されたピストンを駆動するものと、油圧アクチュエータから供給される油圧でピストンを駆動するものがある。油圧駆動型のパーキングブレーキ装置には、モータ等の部品をキャリパに追加する必要がないため小型化がしやすいという利点がある。
【0003】
パーキングブレーキ装置は、長期の駐車中にも制動力を保持する必要があるので、電力を消費せずにブレーキをロックする仕組みが必要になる。例えば、特許文献1には、車両の駐車時に常用ブレーキにより全車輪を制動して制動力を保持する車両盗難防止装置において、長期間ブレーキ力を保持するための蓄圧器を流体路に設けることが記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、パーキング用制御液圧の作用に応じたパーキングピストンの前進作動によってパーキングブレーキ状態を得るパーキングブレーキ装置において、パーキングピストンの前進位置を機械的にロックするロック機構を備えることで、電力消費を伴わずにパーキングブレーキ状態を得ることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−224942号公報
【特許文献2】特開2005−291366号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1または2のような油圧駆動型のパーキングブレーキ装置では、長期間にわたるパーキングブレーキの作動中に、液圧駆動源とシリンダを連通するブレーキホースなどの配管類に高い圧力が作用し続けるので、配管類の耐久性を高める必要がある。これは、重量の増加、コスト上昇、配管の困難さといった問題を生み出しうる。
【0007】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、パーキングブレーキの作動中に、ブレーキ液圧源とシリンダとを接続するブレーキ配管に高圧が作用するのを回避する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、パーキングブレーキ装置に関する。この装置は、車輪とともに回転するロータと、前記ロータの摩擦摺動面に相対して配置される摺動部材と、前記摺動部材を前記摩擦摺動面に押し付けるピストンと、前記ピストンが配設されるシリンダを備え、該シリンダ内のブレーキ液圧により前記ピストンを駆動するキャリパと、ブレーキ液を供給するブレーキ液圧源と、前記キャリパ内に形成され、前記ブレーキ液圧源から供給されるブレーキ液で満たされる液室と、前記液室と前記シリンダとを連通する連通路と、前記連通路を閉塞可能に配置された閉塞部と、前記閉塞部を駆動する駆動部と、を備える。
【0009】
この態様によると、ブレーキ液圧源からのブレーキ液をシリンダ内に流入させる連通路を遮断することで、ピストンの後退を防止して制動力を保持することができる。この連通路はキャリパ内部に形成されているので、連通路を閉塞した後に高い圧力がブレーキ配管等に作用しないため、ブレーキ配管にかかる負荷を軽減することができる。
【0010】
前記連通路の直径が、前記ブレーキ液圧源と前記液室とをつなぐ配管の直径よりも小さく形成されてもよい。これによると、比較的小さい連通路を塞ぐだけでよいため、閉塞部および駆動部の構造を小型化、軽量化することができる。
【0011】
前記閉塞部は、前記連通路の軸方向に移動可能であり該連通路の直径よりも大きい直径を有する柱状部で構成されており、該柱状部は、前記駆動部による駆動時に前記連通路の前記液室出口に形成された円錐状の弁座と面接触する円錐状先端を有してもよい。これによると、シリンダ内部からのブレーキ液の漏れを抑制することができる。
【0012】
前記駆動部は、回転運動を発生するモータと、回転運動を直進運動に変換し前記閉塞部に伝達するネジ機構と、を備えてもよい。これによると、モータの電源オフ後にも、シリンダ内の高圧をネジの逆効率によって閉塞することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、パーキングブレーキの作動中に、ブレーキ液圧源とシリンダとを接続するブレーキ配管に高圧が作用するのを回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係るキャリパ一体型パーキングブレーキ装置の概略構成図である。
【図2】図1のA部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本実施形態に係るキャリパ一体型パーキングブレーキ装置100の概略構成図である。図1では、ディスクブレーキユニット10の一部を断面図として示している。
【0016】
ディスクブレーキユニット10は、図示しない車両の車輪とともに回転するディスクロータ16と、摩擦部材としてのブレーキパッド14a、14bと、ブレーキパッドを移動させるキャリパ12とを備える。
【0017】
一対のブレーキパッド14a、14bは、ディスクロータ16の両側にそれぞれ配置され、ディスクロータ16の軸方向に摺動可能に支持されている。ブレーキパッド14aの背部には、キャリパ12から延び出した爪部18が配置される。また、ブレーキパッド14bの背部にはピストン20が取り付けられている。このピストン20は、キャリパ12に形成されたシリンダ36の内部に配設される。
【0018】
車室内には、ドライバーが操作するEPB(Electric Parking Brake)スイッチ56が設置される。EPBスイッチ56がオンにされると、ブレーキECU(Electric Control Unit)54から油圧アクチュエータ50に対し、パーキングブレーキを作動させるように指令が発せられる。
【0019】
油圧アクチュエータ50は、ブレーキECU54からの指令に応じて、ブレーキ配管52を介してブレーキ液をディスクブレーキユニット10に供給する。なお、この油圧アクチュエータ50は、パーキングブレーキ装置100の専用のものであってもよいが、VSC(Vehicle Stability Control)システムなどの横滑り防止装置を搭載している車両であれば、この制御に使用される加圧可能なアクチュエータと共用してもよい。
【0020】
EPBスイッチ56が操作されると、油圧アクチュエータ50が作動してブレーキ液をディスクブレーキユニット10に供給する。ブレーキ液は、ブレーキ配管52およびキャリパ12に形成された接続孔22を通ってシリンダ36内に進入する。シリンダ内に進入したブレーキ液は、ピストン20を図中の左方向、すなわちブレーキパッド14bの方向に移動させる。これによって、ピストン20の先端に取り付けられたブレーキパッド14bがディスクロータ16の車体内側の摩擦摺動面に押し付けられる。このとき、ピストン20の反力によって、キャリパ12がピストン20の移動方向とは反対の方向(図中の右方向)に移動し、キャリパ12の先端の爪部18によってブレーキパッド14aがディスクロータ16の車両外側の摩擦摺動面に押し付けられる。これにより、ディスクロータ16が一対のブレーキパッド14a、14bにより強圧されることで車輪が固定され、パーキングブレーキとしての機能を果たす。
【0021】
ブレーキパッド14a、14bがディスクロータ16に押し付けられて車輪が固定されると、ブレーキECU54からの指令に応じて、モータ30により閉塞部24が駆動されて連通路32を塞ぐ。これにより、シリンダ36内のブレーキ液が閉じ込められてピストン20が後退しなくなるため、ピストン20およびキャリパ12によってブレーキパッド14a、14bがディスクロータ16に押し付けられた状態が維持される。したがって、油圧アクチュエータからのブレーキ液の供給が停止されても、パーキングブレーキが作動し続ける。
【0022】
図2は、図1において点線で囲まれた部分Aの拡大図である。図示するように、接続孔22から入るブレーキ液は、キャリパ後端部に形成された液室42に入る。液室42とシリンダ36との間は、接続孔22およびブレーキ配管52の直径と比較して小さな直径を持つ連通路32で接続されている(例えば、接続孔の直径が4〜5mmであるのに対し、連通路の直径は1mm以下)。
【0023】
液室42には、連通路32の軸方向、すなわち図2の水平方向に移動可能に構成された閉塞部24が配置されている。閉塞部24は、連通路32の直径よりも大きい直径を有する柱状に形成される。液室42の下方に配置されたモータ30が回転すると、モータの出力軸に取り付けられたギヤ28が回転し、これに係合したギヤ26が回転する。ギヤ26の回転はネジ機構40に伝達される。ネジ機構40は、伝達された回転運動を直線運動に変換し、モータの回転方向に応じて閉塞部24を図2の左右方向に移動させる。
【0024】
閉塞部24が図2の左方向に移動すると、その先端が連通路32の液室出口側に形成された弁座34に押し付けられて、連通路32を閉塞する。閉塞部24の先端と弁座34はともに例えば円錐状に形成されており、閉塞部24が押し付けられたときにこれらの円錐面が互いに面接触することで、シリンダ36からのブレーキ液の漏れを防止する。
【0025】
閉塞部24が弁座34に押し付けられた後、すなわちパーキングブレーキの作動後、通常は車両のイグニッションオフによってモータ30への電力供給が切断される。しかし、連通路32の直径が非常に小さく作られているので、ネジ機構40内の雌ねじと雄ねじの間の摺動抵抗(いわゆる逆効率)によって閉塞部24の移動を妨げることができる。したがって、電源オフ後もシリンダ36内にブレーキ液を封じ込めてパーキングブレーキを機能させ続けることができる。
【0026】
以上説明したように、本実施形態によれば、キャリパ一体式パーキングブレーキ装置において、ブレーキ液圧源からのブレーキ液をシリンダ内に流入させる連通路を遮断することで、ピストンの後退を防止して制動力を保持することができる。この連通路はキャリパ内部に形成されているので、シリンダ内に封じ込められたブレーキ液の圧力は、キャリパ、シリンダおよび閉塞部にしかかからない。したがって、連通路の閉塞後に高い圧力がブレーキ配管等に作用しないため、ブレーキ配管にかかる負荷を軽減することができる。そのため、これらの部位に高圧に長期間耐えられるような耐久性を持たせる必要もないので、コストおよび重量を低減することができる。
【0027】
また、本実施形態では、モータは非常に小さな閉塞部を短距離移動させるだけでよいので、モータの駆動トルクは小さくてよい。さらに、モータの電源オフ後にはネジ機構の逆効率でブレーキ液を封じ込めるので、モータの熱定格も小さくて済む。したがって、モータを小型化(例えば、全長15mm程度)することができる。モータが小さいので、キャリパの重量増加を抑制でき、また連通路の閉塞に要する移動距離も短いことから、パーキングブレーキ作動時に応答性も高くすることができる。
【0028】
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。これらの実施の形態はあくまで例示であり、実施の形態どうしの任意の組み合わせ、実施の形態の各構成要素や各処理プロセスの任意の組み合わせなどの変形例もまた、本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0029】
本発明は、上述の各実施形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を加えることも可能である。各図に示す構成は、一例を説明するためのもので、同様な機能を達成できる構成であれば、適宜変更可能である。
【0030】
実施の形態では、モータ、ギヤおよびネジ機構を使用して閉塞部を駆動することを述べた。これらの構成以外でも、閉塞部を移動させて連通路を塞ぐことができれば、任意の構成を利用することができる。
【0031】
実施の形態ではディスクブレーキと一体化されたパーキングブレーキ装置について説明したが、本発明はドラムブレーキと一体化されたパーキングブレーキ装置にも適用することができる。すなわち、ブレーキドラムの内周面にブレーキシューを押し付けるピストンが配設されるシリンダへのブレーキ液供給路の途中に、実施の形態と同様に連通路、閉塞部、ネジ機構等を設置すればよい。
【符号の説明】
【0032】
10 ディスクブレーキユニット、 12 キャリパ、 14a、14b ブレーキパッド、 16 ディスクロータ、 20 ピストン、 22 接続孔、 24 閉塞部、 30 モータ、 32 連通路、 34 弁座、 36 シリンダ、 40 ネジ機構、 42 液室、 50 油圧アクチュエータ、 52 ブレーキ配管、 54 ブレーキECU、 56 EPBスイッチ、 100 パーキングブレーキ装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪とともに回転するロータと、
前記ロータの摩擦摺動面に相対して配置される摺動部材と、
前記摺動部材を前記摩擦摺動面に押し付けるピストンと、
前記ピストンが配設されるシリンダを備え、該シリンダ内のブレーキ液圧により前記ピストンを駆動するキャリパと、
ブレーキ液を供給するブレーキ液圧源と、
前記キャリパ内に形成され、前記ブレーキ液圧源から供給されるブレーキ液で満たされる液室と、
前記液室と前記シリンダとを連通する連通路と、
前記連通路を閉塞可能に配置された閉塞部と、
前記閉塞部を駆動する駆動部と、
を備えることを特徴とするパーキングブレーキ装置。
【請求項2】
前記連通路の直径が、前記ブレーキ液圧源と前記液室とをつなぐ配管の直径よりも小さく形成されることを特徴とする請求項1に記載のパーキングブレーキ装置。
【請求項3】
前記閉塞部は、前記連通路の軸方向に移動可能であり該連通路の直径よりも大きい直径を有する柱状部で構成されており、該柱状部は、前記駆動部による駆動時に前記連通路の前記液室の出口に形成された円錐状の弁座と面接触する円錐状先端を有することを特徴とする請求項1または2に記載のパーキングブレーキ装置。
【請求項4】
前記駆動部は、
回転運動を発生するモータと、
回転運動を直進運動に変換し前記閉塞部に伝達するネジ機構と、
を備えることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のパーキングブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−246983(P2012−246983A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−118286(P2011−118286)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】