説明

パークロック構造

【課題】付勢部材の位置決めを簡易化することができるパークロック構造を提供する。
【解決手段】ケーシング3と、回動部材5と、ケーシング3に対してボルト7で固定され回動部材5に係合され回動部材5の回動に対して段階的に付勢力を付与する付勢部材9と、移動部材11と、操作部材と、ケーシング3に固定され操作部材の周囲を覆い移動を案内するスリーブ15と、ロック部材17と、駆動軸19とを備えたパークロック構造1において、スリーブ15に、付勢部材9と当接してボルト7の締結による付勢部材9の締結方向への回転を防止する突き当て部21を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に適用されるパークロック構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パークロック構造としては、ケーシングと、このケーシングに回動可能に配置された回動部材としてのマニュアルプレートと、このマニュアルプレートに係合されマニュアルプレートの回動に対して段階的に付勢力を付与する付勢部材としてのディテントスプリングとを備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このようなパークロック構造では、マニュアルプレート以降に移動部材などの操作機構が設けられており、操作機構を介してロック部材を揺動操作し、駆動軸の回転を阻止又は回転の阻止を解除している。
【0004】
そして、特許文献1のパークロック構造では、ディテントスプリングをケーシングに対してピンによって位置決めしてボルトで固定しており、ケーシングにピンの抜け止めを行う折り返し片を設けている。
【0005】
また、付勢部材のケーシングに対する位置決めとしては、付勢部材を固定するボルトの締結による付勢部材の締結方向への回転を規制する回り止め面部をケーシングに設けたものも知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−30332号公報
【特許文献2】特開2009−257385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1のパークロック構造ではピンの抜け止めを行う折り返し片の加工が必要であり、上記特許文献2のパークロック構造では回り止め面部の加工精度が必要であるなど、付勢部材の位置決めの構造が複雑化していた。
【0008】
そこで、この発明は、付勢部材の位置決めを簡易化することができるパークロック構造の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ケーシングと、このケーシングに回動可能に配置された回動部材と、前記ケーシングに対してボルトで固定され前記回動部材に係合され前記回動部材の回動に対して段階的に付勢力を付与する付勢部材と、前記回動部材に係合され前記回動部材の回動により移動操作される移動部材と、この移動部材と一体移動可能に配置された操作部材と、前記ケーシングに固定され前記操作部材の周囲を覆い移動を案内するスリーブと、前記ケーシングに揺動可能に支持され前記スリーブ内で前記操作部材と当接し揺動が操作されるロック部材と、このロック部材の揺動によって回転が阻止又は回転の阻止が解除される駆動軸とを備えたパークロック構造であって、前記スリーブには、前記付勢部材と当接して前記ボルトの締結による前記付勢部材の締結方向への回転を防止する突き当て部が設けられていることを特徴とする。
【0010】
このパークロック構造では、スリーブに付勢部材と当接してボルトの締結による付勢部材の締結方向への回転を防止する突き当て部が設けられているので、ケーシングに対する加工や部品点数の増加を伴うことなく、付勢部材の位置決めを行うことができ、付勢部材の位置決めを簡易化することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、付勢部材の位置決めを簡易化することができるパークロック構造を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態に係るパークロック構造の上面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るパークロック構造の側面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係るパークロック構造の下面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1〜図3を用いて本発明の実施の形態に係るパークロック構造について説明する。
【0014】
本実施の形態に係るパークロック構造1は、ケーシング3と、このケーシング3に回動可能に配置された回動部材5と、ケーシング3に対してボルト7で固定され回動部材5に係合され回動部材5の回動に対して段階的に付勢力を付与する付勢部材9と、回動部材5に係合され回動部材5の回動により移動操作される移動部材11と、この移動部材11と一体移動可能に配置された操作部材13と、ケーシング3に固定され操作部材13の周囲を覆い移動を案内するスリーブ15と、ケーシング3に揺動可能に支持されスリーブ15内で操作部材13と当接し揺動が操作されるロック部材17と、このロック部材17の揺動によって回転が阻止又は回転の阻止が解除される駆動軸19とを備えている。
【0015】
そして、スリーブ15には、付勢部材9と当接してボルト7の締結による付勢部材9の締結方向への回転を防止する突き当て部21が設けられている。
【0016】
また、スリーブ15は、ケーシング3とスリーブ15とに挿通されるノックピン23によってケーシング3に対する位置決めがなされている。
【0017】
さらに、スリーブ15には、ロック部材17と当接してロック部材17の揺動方向と交差する方向への移動を規制する規制部25が設けられている。
【0018】
図1〜図3に示すように、ケーシング3は、内部に回動部材5と付勢部材9と移動部材11と操作部材13とスリーブ15とロック部材17とギヤ部材27と駆動軸19とを収容している。このケーシング3の開口面29には、カバー部材(不図示)が組み付けられ、ケーシング3の内部に各部材を収容した後、カバー部材によって閉塞される。
【0019】
回動部材5は、薄板状のプレートからなり、回動中心に挿通された回転軸31に電動モータなどのアクチュエータ(不図示)が一体回転可能に連結され、アクチュエータの回転により回転軸31の軸心周りを回動する。なお、アクチュエータは、ドライバなどのユーザがシフトレンジを切り替えることによって作動され、回転軸31を回転駆動させて回動部材5を回動させる。
【0020】
この回動部材5は、回転軸31、すなわちアクチュエータの正逆回転により、ロック部材17が駆動軸19の回転を阻止するロック位置と、ロック部材17による駆動軸19の回転の阻止を解除するロック解除位置との間を回動される。このような回動部材5は、付勢部材9によって段階的に付勢力が付与される。
【0021】
付勢部材9は、板バネからなり、ケーシング3に対してボルト7で固定され、一端側が回動部材5に係合されている。この付勢部材9の一端は、コロからなる係合部33となっており、回動部材5の回動により、回動部材5に形成されたロック凹部35と解除凹部37との間を変動していずれかに係合される。
【0022】
詳細には、この係合部33は、回動部材5がロック位置に位置したときはロック凹部35に係合され、回動部材5がロック解除位置に位置したときには解除凹部37に係合される。このとき、付勢部材9は、ロック位置又はロック解除位置の2段階に回動部材5に付勢力を付与する。このような回動部材5には、移動部材11が係合されている。
【0023】
移動部材11は、長尺状のロッドからなり、一端側が回動部材5に連結部45を介して係合され、回動部材5の回動により軸方向移動される。この移動部材11の他端側には、操作部材13が挿通されている。
【0024】
操作部材13は、端部を溶接によって形成される溶接部47によって操作部材13の移動部材11に対する軸方向位置が位置決めされている。この操作部材13には、ロック部材17と当接してロック部材17を操作するカム面49が形成されている。また、操作部材13には、移動部材11に挿通され、ロック部材17が駆動軸19の回転を阻止する際に、ロック部材17の待ち機構となる待ちバネ51が当接されている。この操作部材13は、軸方向移動により、カム面49がロック部材17と当接する、もしくは当接を解除することによってロック部材17を操作する。このような操作部材13の周囲には、スリーブ15が配置されている。
【0025】
スリーブ15は、下面側が開口された筐体状に形成され、ケーシング3に2つのボルト53によって固定されている。このボルト53は、ケーシング3側に形成されたねじ穴に対してねじ締結されるが、スリーブ15側のボルト53を挿通する孔はねじ穴となっていない。このため、スリーブ15をケーシング3にボルト53で固定した状態では、スリーブ15がガタつく恐れがある、そこで、スリーブ15とケーシング3には、ノックピン23が挿通されている。
【0026】
ノックピン23は、ケーシング3とスリーブ15とにそれぞれ形成されたピン穴55,57に挿通されている。このノックピン23は、スリーブ15をボルト53でケーシング3に固定する前の状態でピン穴55,57に挿通され、スリーブ15のケーシング3に対する位置決めを行う。このノックピン23により、スリーブ15をケーシング3にガタつくことなく、固定させることができる。このようなスリーブ15は、開口側からロック部材17が内部に配置されており、操作部材13の移動を案内してロック部材17の作動を安定化させる。
【0027】
ロック部材17は、ケーシング3の開口面29よりも内部側に設けられた溝状の組付部59に組み付けられ、当接部61とロック部63とを備えている。当接部61は、ロック部材17の一端側に設けられ、ロック部材17のロック解除位置ではスリーブ15の内部に配置されており、ロック部材17のロック位置では操作部材13のカム面49が当接されてロック部材17が駆動軸19の回転を阻止する方向に回動される。
【0028】
ロック部63は、ロック部材17の他端側に設けられ、ロック部材17が駆動軸19の回転を阻止する方向に回動されたときに、駆動軸19と一体回転可能に設けられたギヤ部材27のギヤ部65と噛み合い、駆動軸19の回転を阻止する。このロック部材17は、軸支部材67に揺動可能に軸支されている。
【0029】
軸支部材67は、ケーシング3の組付部59とロック部材17とを挿通し、一端側がケーシング3に固定されている。この軸支部材67により、ロック部材17が揺動可能に支持される。このような軸支部材67の他端側には、リターンスプリング69が挿通されている。
【0030】
リターンスプリング69は、巻きバネからなり、一端がケーシング3に係合され、他端側がロック部材17に当接されている。このリターンスプリング69は、ロック部材17をロック部63とギヤ部材27のギヤ部65との噛み合い解除方向に付勢してロック部材17の初期位置を規定している。なお、このリターンスプリング69の付勢力は、移動部材11に挿通された待ちバネ51よりも弱く設定されている。
【0031】
ギヤ部材27は、内径側が駆動軸19と一体回転可能に固定され、外径側が複数の歯からなるギヤ部65となっている。このギヤ部材27のギヤ部65は、ロック部材17のロック部63と噛み合い可能となっている。このギヤ部65とロック部63とが噛み合うと、駆動軸19の回転が阻止される。
【0032】
駆動軸19は、ケーシング3に回転可能に支持され、駆動源から車輪までの動力伝達経路上に設けられた変速機構(不図示)の出力軸又は入力軸となっている。また、駆動軸19には、入出力ギヤである大径ギヤ71と小径ギヤ73とが一体回転可能に設けられている。
【0033】
この駆動軸19は、ギヤ部材27のギヤ部65がロック部材17のロック部63と噛み合うと、回転が阻止され、駆動源から車輪への駆動力の伝達が阻止される。また、ギヤ部65とロック部63との噛み合いが解除されると、駆動軸19の回転の阻止が解除され、駆動源から車輪への駆動力の伝達が可能となる。
【0034】
このように構成されたパークロック構造1は、アクチュエータの作動により回動部材5がロック位置に回動したとき、移動部材11がロック部材17側に移動され、操作部材13がロック部材17の当接部61と当接する。このとき、操作部材13のカム面49がロック部材17の当接部61を押圧してロック部材17の当接部61側をリターンスプリング69の付勢力に抗して押下する。これにより、ロック部材17のロック部63が軸支部材67を支点として押し上げられてギヤ部材27のギヤ部65と噛み合い、駆動軸19の回転が阻止される。なお、ロック部63がギヤ部65の歯面に位置してギヤ部65と噛み合っていない場合には、待ち機構としての待ちバネ51によってロック部63がギヤ部65の歯底に向けて付勢されており、ロック部63がギヤ部65との噛み合い位置に位置したときにギヤ部65と噛み合う。
【0035】
このロック部材17のロック状態からアクチュエータの作動により回動部材5がロック解除位置に回動したとき、移動部材11が回動部材5側に移動され、操作部材13とロック部材17の当接部61との当接が解除される。このとき、リターンスプリング69の付勢力によってロック部材17の当接部61が上昇してスリーブ15の内部に収容される。これにより、ロック部材17のロック部63が軸支部材67を支点として下降されてギヤ部65との噛み合いが解除され、駆動軸19の回転の阻止が解除される。
【0036】
このようなパークロック構造1において、付勢部材9は、ボルト7によるケーシング3への固定の際に、ボルト7の締結によって付勢部材9がボルト7の締結方向に回転されてしまう。また、ロック部材17は、揺動する際に、揺動方向と交差する方向に移動する恐れがあった。そこで、スリーブ15には、突き当て部21と規制部25とが設けられている。
【0037】
突き当て部21は、スリーブ15の上面となっている。この突き当て部21は、ボルト7の締結方向と対向して位置されており、付勢部材9の端部が当接されている。このため、付勢部材9をボルト7で固定する際に、ボルト7の締結によって付勢部材9がボルト7の締結方向に回転しようとしても、付勢部材9の端部と突き当て部21との当接によって付勢部材9が回転することができず、付勢部材9の位置を確実に固定させることができる。この突き当て部21により、付勢部材9を位置決めさせることができ、回動部材5の回動を安定化させることができる。
【0038】
規制部25は、スリーブ15の開口側に設けられたロック部材17の側面と対向する側壁となっている。この規制部25は、ロック部材17がロック位置とロック解除位置との間を揺動するとき、常時ロック部材17の当接部61の側面と対向するように位置されている。このため、ロック部材17の揺動の際に、ロック部材17が揺動方向と交差する方向、すなわち厚さ方向に移動しようとしても、ロック部材17の側面と規制部25とが当接され、ロック部材17が厚さ方向に移動することができない。この規制部25により、ロック部材17の作動を安定化させることができる。
【0039】
このようなパークロック構造1では、スリーブ15に付勢部材9と当接してボルト7の締結による付勢部材9の締結方向への回転を防止する突き当て部21が設けられているので、ケーシング3に対する加工や部品点数の増加を伴うことなく、付勢部材9の位置決めを行うことができ、付勢部材9の位置決めを簡易化することができる。
【0040】
また、スリーブ15は、ケーシング3とスリーブ15とに挿通されるノックピン23によってケーシング3に対する位置決めがなされているので、突き当て部21が設けられたスリーブ15を確実に位置決めでき、より安定して付勢部材9の位置決めを行うことができる。
【0041】
さらに、スリーブ15には、ロック部材17と当接してロック部材17の揺動方向と交差する方向への移動を規制する規制部25が設けられているので、部品点数の増加を伴うことなく、ロック部材17の作動を安定化させることができる。
【0042】
なお、本発明の実施の形態に係るパークロック構造では、スリーブを1つのノックピンによって位置決めし、2つのボルトによって固定させているが、これに限らず、スリーブを2つのノックピンによって位置決めし、1つのボルトによって固定させるなど、スリーブの位置決めをノックピンで行う構成であれば、ノックピンやボルトの配置個所はどのような形態であってもよい。
【符号の説明】
【0043】
1…パークロック構造
3…ケーシング
5…回動部材
7…ボルト
9…付勢部材
11…移動部材
13…操作部材
15…スリーブ
17…ロック部材
19…駆動軸
21…突き当て部
23…ノックピン
25…規制部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングと、このケーシングに回動可能に配置された回動部材と、前記ケーシングに対してボルトで固定され前記回動部材に係合され前記回動部材の回動に対して段階的に付勢力を付与する付勢部材と、前記回動部材に係合され前記回動部材の回動により移動操作される移動部材と、この移動部材と一体移動可能に配置された操作部材と、前記ケーシングに固定され前記操作部材の周囲を覆い移動を案内するスリーブと、前記ケーシングに揺動可能に支持され前記スリーブ内で前記操作部材と当接し揺動が操作されるロック部材と、このロック部材の揺動によって回転が阻止又は回転の阻止が解除される駆動軸とを備えたパークロック構造であって、
前記スリーブには、前記付勢部材と当接して前記ボルトの締結による前記付勢部材の締結方向への回転を防止する突き当て部が設けられていることを特徴とするパークロック構造。
【請求項2】
請求項1記載のパークロック構造であって、
前記スリーブは、前記ケーシングと前記スリーブとに挿通されるノックピンによって前記ケーシングに対する位置決めがなされていることを特徴とするパークロック構造。
【請求項3】
請求項1又は2記載のパークロック構造であって、
前記スリーブには、前記ロック部材と当接して前記ロック部材の揺動方向と交差する方向への移動を規制する規制部が設けられていることを特徴とするパークロック構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−255528(P2012−255528A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−130314(P2011−130314)
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【出願人】(000225050)GKNドライブラインジャパン株式会社 (409)
【Fターム(参考)】