説明

パーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物

【課題】すぐれた導電性を示すとともに摩擦係数の低い、非黒色のパーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物を提供する。
【解決手段】パーフルオロポリエーテルおよび金属被覆有機樹脂短繊維から少なくともなるパーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物。金属被覆有機樹脂短繊維の配合量は、上記パーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物に対して1質量%以上25質量%以下であることが好ましく、金属被覆有機樹脂短繊維としては銀被覆有機樹脂短繊維が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物に関し、詳しくは、高導電性を有する非黒色のグリースコンパウンドに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、事務機器や情報機器などの高性能化・小型化が顕著である。その中で、可動部における部品どうしの回転、摺動などに伴って静電気が発生し、機器内部に静電気がたまりやすいという問題があった。機器内部にたまった静電気は、機器システムに悪影響を及ぼす場合があるので、導電性グリースコンパウンドを可動部の部品などに塗布して静電気を機器外部に逃がすという対策がとられている。
【0003】
このような導電性グリースコンパウンドとしては、導電性付与剤および増ちょう剤として、カーボンブラックを含有したグリースコンパウンドが一般的に用いられている(例えば特公昭63−24038号公報参照)。また、特開2007−2182号公報には、アルミニウムやガリウムをドープして導電性を付与した酸化亜鉛を含有したグリースコンパウンドが記載されている。
【0004】
しかし、導電性付与剤および増ちょう剤としてカーボンブラックを含有したグリースコンパウンドは、部品の回転や摺動により、経時的にカーボンブラック粒子のチェーンストラクチャーが破壊され離油度が安定しなかったりすることがあった。
【特許文献1】特公昭63−24038号公報
【特許文献2】特開2007−2182号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
また、カーボンブラックを含有したグリースコンパウンドは、摩擦係数が高く、部品に塗布したときにスムーズな摺動を長期間継続できない場合もあった。
【0006】
また、カーボンブラックを含有したグリースコンパウンドは黒色であるため、部品に塗布したときの外観が劣り、最終製品の使用者の手や衣服を黒く汚したりする場合があった。
【0007】
一方、アルミニウムやガリウムをドープして導電性を付与した酸化亜鉛を含有したグリースコンパウンドは、カーボンブラックを含有したグリースコンパウンドと比較して導電性が著しく劣るという問題があった。
【0008】
本発明の目的は、摩擦係数が低い非黒色の導電性グリースコンパウンドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、パーフルオロポリエーテルおよび金属被覆有機樹脂短繊維から少なくともなるパーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物に関する。前記パーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物は、不混和ちょう度が220以上340以下であることが好ましく、体積抵抗率が1〜10Ω・cmであることが好ましい。前記パーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物は、携帯電話ヒンジ用導電性グリースコンパウンドとして好適に用いることができる。
【0010】
前記パーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物は、さらにポリテトラフルオロエチレンを含有することが好ましく、ポリテトラフルオロエチレンの含有量は前記パーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物に対して、1質量%以上50質量%以下であることが好ましい。
【0011】
前記金属被覆有機樹脂短繊維の含有量は、前記パーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物に対して、1質量%以上25質量%以下であることが好ましい。また、前記金属被覆有機樹脂短繊維は、繊維径が1μm以上50μm以下であり繊維長さが50μm以上50mm以下であることが好ましい。また、金属被覆有機樹脂短繊維としては、銀被覆有機樹脂短繊維であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のパーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物は、金属被覆有機樹脂短繊維を含有するので高い導電性を有し、摩擦抵抗が小さいという特徴がある。本発明のパーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物は、静電気除去などを目的とした導電性の摺動部材、駆動部材、軸受等の潤滑剤として有用である。また、非黒色であるので、部品に塗布した際の外観が良好で、使用者の手や衣服に付着しても目立たないという特徴がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
金属被覆有機樹脂短繊維は、本発明パーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物に導電性を付与するものである。金属被覆有機樹脂短繊維の含有量は、パーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物に対して、1質量%以上25質量%以下であることが好ましい。金属被覆有機樹脂短繊維の含有量が1質量%未満であると十分な導電性が得られず、一方、金属被覆有機樹脂短繊維の含有量が25質量%を超えると不経済であり、本発明のパーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物の摩擦係数が大きくなる場合がある。
【0014】
金属被覆有機樹脂短繊維の形状は特に限定されず、適宜選択可能である。導電性や分散性の点から、一般的には、繊維径が1μm以上50μm以下であることが好ましく、5μm以上30μm以下であることがさらに好ましい。また、導電性や分散性の点から、一般的には、繊維長さが50μm以上50mm以下であることが好ましく、50μm以上10mm以下であることがさらに好ましい。
【0015】
金属被覆有機樹脂短繊維の有機樹脂繊維は特に限定されないが、ポリエステル繊維、ポリアクリル繊維、ポリプロピレン繊維やポリエチレン繊維のようなポリオレフィン繊維、ナイロン繊維、アラミド系繊維などが例示される。中でも、強度や入手の容易さから、ポリエステル繊維、ポリアクリル繊維、ナイロン繊維が好ましい。
【0016】
金属被覆有機樹脂短繊維の金属被覆としては、金、銀、銅、アルミ、ニッケル、亜鉛、錫が例示されるが、中でも電気抵抗の低い、金、銀、銅が好ましい。有機樹脂繊維への被覆は、電解メッキや化学メッキ、真空蒸着などにより行うことができる。金属被覆量は特に限定されないが、2〜50質量%の範囲であることが一般的である。金属被覆は多層からなる積層構造であってもよい。また、金属被覆表面に、電気抵抗を増大させない程度の膜厚で、ワックス、シリカ、チタニアなどからなる表面保護層を設けてもよい。
【0017】
パーフルオロポリエーテルは本発明のパーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物の基油であり、パーフルオロエーテルの種類は特に限定されない。パーフルオロポリエーテルは化学的に極めて安定で、不活性であるため高温でも分解しにくく、塗布した場合にも部品への影響がほとんどないという特徴がある。
【0018】
パーフルオロポリエーテルの動粘度は、40℃において10mm/s以上500mm/s以下であることが好ましい。動粘度が10mm/s未満だと、パーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物の離油度が不十分となる場合があり、また動粘度が500mm/sを超えると得られるコンパウンド組成物のちょう度が下がり、取り扱い作業性が悪くなる場合がある。
【0019】
また、パーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物のちょう度をさらに安定させるために、増ちょう剤としてポリテトラフルオロエチレンを使用してもよい。ポリテトラフルオロエチレンの一次粒子径は、電子顕微鏡で測定された値で0.1μm以上1μm以下であることが一般的である。
【0020】
本発明のパーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物の不混和ちょう度は220以上340以下が好ましい。不混和ちょう度が220未満であると、部品に塗布することが難しくなり、また、長期使用時に摺動不能となる懸念がある。また、不混和ちょう度が340より大きいと、コンパウンド組成物が軟らかくなりすぎ、部品から漏出する懸念がある。
【0021】
本発明のパーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物の体積抵抗率は1〜10Ω・cmであることが好ましく、10〜10Ω・cmであることがさらに好ましい。体積抵抗率(Ω・cm)は、直径2cmの円盤電極で、パーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物の厚さが0.2cmになるように挟み、デジタルマルチメーターで電極間抵抗値(Ω)を25℃で測定して算出することができる。
【0022】
本発明のパーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物は導電性が高く、その導電性が長期間にわたり高水準に維持されるという特徴がある。したがって、本発明のパーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物は、静電気除去などを目的として導電性が必要とされる部位に用いられるグリースコンパウンドとして好適に使用することができる。
【0023】
また、本発明のパーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物では、添加剤として、酸化防止剤、極圧剤、油性剤、防錆剤、腐食防止剤、金属不活性剤、染料、色相安定剤、増粘剤、構造安定剤、紫外線吸収剤等といった種々の添加剤を、使用される用途に応じて使用することもできる。
【0024】
本発明のパーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物は、従来知られている種々の方法で製造することができる。具体的には、例えば、パーフルオロポリエーテルと金属被覆有機樹脂短繊維および/またはポリテトラフルオロエチレンを混合することにより製造することができるほか、予め、パーフルオロポリエーテルとポリテトラフルオロエチレンを混合し、ロールミルを通してミル仕上げをした後、金属被覆有機樹脂短繊維や種々の添加剤を加えて混合・攪拌・脱泡して製造することができる。
【0025】
さらに、上記操作後に必要に応じて濾過、減圧、加圧、過熱、冷却、不活性ガス置換等を単独、あるいは複合して行ってもよい。
【実施例】
【0026】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。また、表1中の数値はコンパウンド組成物全体を100とした場合の各成分の質量%を表す。
【0027】
[パーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物の体積抵抗率の測定方法]
直径2cmの円盤電極で、パーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物の厚さが0.2cmになるように挟み、デジタルマルチメーターで電極間抵抗値(Ω)を測定し、体積抵抗率(Ω・cm)を算出した。測定は25℃で行った。
【0028】
[摩擦係数の測定方法]
図1に示した装置を用いて、パーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物を約0.1mmの厚さで塗布したSPCC−SB鋼板上に、1/2インチ鋼球を載せ、荷重1.96N、摺動速度30cpm、摺動距離40mm、測定温度25℃の条件で摺動サイクル1000回の往復動試験を行った。ロードセルを通じて記録計にアウトプットされた摩擦力から、摺動サイクル1000回試験後の摩擦係数を算出した。
【0029】
[不混和ちょう度、離油度の測定方法]
不混和ちょう度は、JIS K2220 7に規定された方法で測定した1/2スケールでの測定結果である。離油度は、FTM 321.3に規定された方法で、200℃/24時間の条件で測定した値である。
【0030】
[実施例1、2]
表1に示すパーフルオロポリエーテルおよび/またはポリテトラフルオロエチレンを攪拌した後、3本ロールミルを用いてミル仕上げし、さらにこれに金属被覆有機樹脂短繊維を添加し混合・攪拌・脱泡を行い、淡黄灰色パーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物を得た。それぞれ得られた淡黄灰色パーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物の体積抵抗率、摩擦係数、不混和ちょう度、離油度を評価した。得られた結果を表1に示す。
【0031】
[比較例1]
表1に示すパーフルオロポリエーテル、カーボンブラックとポリテトラフルオロエチレンを攪拌した後、3本ロールミルを用いてミル仕上げした後、脱泡を行い、黒色パーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物を得た。得られた黒色パーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物の体積抵抗率、摩擦係数、不混和ちょう度、離油度を評価した。得られた結果を表1に示す。
【0032】
[比較例2]
表1に示すパーフルオロポリエーテルとポリテトラフルオロエチレンを攪拌した後、3本ロールミルを用いてミル仕上げした後、脱泡を行い、白色パーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物を得た。得られた白色パーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物の体積抵抗率、摩擦係数、不混和ちょう度、離油度を評価した。得られた結果を表1に示す。
【0033】
[比較例3]
表1に示すパーフルオロポリエーテル、導電性酸化亜鉛Aおよびポリテトラフルオロエチレンを攪拌した後、3本ロールミルを用いてミル仕上げした後脱泡を行い、白色パーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物を得た。得られた白色パーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物の体積抵抗率、摩擦係数、不混和ちょう度、離油度を評価した。得られた結果を表1に示す。
【0034】
[比較例4]
表1に示すパーフルオロポリエーテル、導電性酸化亜鉛Bおよびポリテトラフルオロエチレンを攪拌した後、3本ロールミルを用いてミル仕上げした後脱泡を行い、淡緑色パーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物を得た。得られた淡緑色パーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物の体積抵抗率、摩擦係数、不混和ちょう度、離油度を評価した。得られた結果を表1に示す。
【0035】
[比較例5]
40℃における動粘度が160mm/sであるパーフルオロポリエーテル19質量%と銀被覆ニッケル粉(平均粒径7μm、嵩密度3.4g/cc)71質量%およびポリテトラフルオロエチレン10%を攪拌した後、3本ロールミルを用いてミル仕上げした後、脱泡を行い、淡灰色パーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物を得た。得られた淡灰色パーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物の体積抵抗率は6×1013Ω・cm、摩擦係数は0.2であった。
【0036】
【表1】

【0037】
表1において
金属被覆有機樹脂短繊維:銀被覆ポリエステル(銀被覆量約20質量%、繊維径15μm、繊維長さ:0.3mm)
PFPEオイル:パーフルオロポリエーテル(40℃での動粘度が160mm/s)
PTFE:ポリテトラフルオロエチレン(一次粒子径約0.3μm)
カーボンブラック:ケッチェンブラックEC(ケッチェン・ブラック・インターナショナル(株)製、導電性付与剤、一次粒子径39.5nm)
導電性酸化亜鉛A:ハクスイテック(株)製の23−K(一次粒子径120〜250nm)
導電性酸化亜鉛B:ハクスイテック(株)製のPazet GK−40(一次粒子径20〜40nm)
をそれぞれ示す。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明のパーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物は導電性が高く、その導電性が長期間にわたり高水準に維持されるという特徴があり、また、長期間摩擦抵抗の低い優れた潤滑性を維持するという特徴がある。このことから、本発明のパーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物は、静電気除去などを目的とした導電性部品からなる回転軸受/滑り軸受、ピボットピン、カム、ガイド、ウェイ、ドライブスクリュー、ギヤ、スプライン、チェーン、ベアリングの潤滑剤として好適に使用することができる。具体的な用途としては、例えば、携帯電話の受信感度の向上や、ワンセグ視聴時の画像の乱れを防止する目的で、携帯電話ヒンジ用グリースコンパウンドとして用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】摩擦係数測定装置の一部を示す側面図である。
【符号の説明】
【0040】
1 錘
2 1/2インチ鋼球
3 パーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物
4 SPCC−SB鋼板
5 ロードセル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パーフルオロポリエーテルおよび金属被覆有機樹脂短繊維から少なくともなるパーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物。
【請求項2】
さらに、ポリテトラフルオロエチレンを含有する請求項1に記載のパーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物。
【請求項3】
ポリテトラフルオロエチレンの配合量がパーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物に対して1質量%以上50質量%以下であることを特徴とする請求項2項に記載のパーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物。
【請求項4】
金属被覆有機樹脂短繊維の配合量がパーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物に対して1質量%以上25質量%以下であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のパーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物。
【請求項5】
金属被覆有機樹脂短繊維の繊維径が1μm以上50μm以下であり繊維長さが50μm以上50mm以下であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載のパーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物。
【請求項6】
金属被覆有機樹脂短繊維が銀被覆有機樹脂短繊維であることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載のパーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物。
【請求項7】
パーフルオロエーテルコンパウンド組成物の不混和ちょう度が220以上340以下であることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載のパーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物。
【請求項8】
体積抵抗率が1〜10Ω・cmであることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載のパーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物。
【請求項9】
携帯電話ヒンジ用であることを特徴とする請求項1〜8の何れか1項に記載のパーフルオロポリエーテルコンパウンド組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2010−100703(P2010−100703A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−272040(P2008−272040)
【出願日】平成20年10月22日(2008.10.22)
【出願人】(000110077)東レ・ダウコーニング株式会社 (338)
【Fターム(参考)】