説明

ヒアルロン酸及び/又はその塩の精製法

【課題】夾雑物の混入、低分子量化、不純物およびエンドトキシンなどの問題がないことで医薬として利用が可能となるヒアルロン酸類を工業的規模で分離・精製することができる簡便な方法を提供する。
【解決手段】ヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液を、担体に鎖長が炭素数8以上の置換又は未置換の炭化水素基を結合させた逆相クロマトグラフィー用充填に接触させる工程を含んでなる、ヒアルロン酸及び/又はその塩の精製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液からヒアルロン酸及び/又はその塩(以下、総称してヒアルロン酸類という)を分離・精製する方法に関する。ヒアルロン酸は化粧品の保湿剤の他、眼科、整形外科、皮膚科等で医薬品としての用途が開かれている。
【背景技術】
【0002】
ヒアルロン酸は、動物組織、例えば、工業規模では、鶏の鶏冠等からの抽出物により製造されているが、夾雑物としてコンドロイチン硫酸が混入したり、組織内に含まれるヒアルロニダーゼ等によって低分子量化されやすい。従って高分子量で高純度に精製されたものは、コスト高になる。
【0003】
これら問題点を解決するため、発酵法によりヒアルロン酸を製造することが行なわれている。ヒアルロン酸がストレプトコッカス属のある群のバクテリアにより生産されることは、古くから知られ、多くの報告がある(非特許文献1及び特許文献1)。発酵法によって製造されるヒアルロン酸は、抽出法と比べ、一定の原料で、一定の方法で製造されるため、製品の品質が一定に保たれることから、産業上の利用価値は大きい。
【0004】
しかしながら、発酵液には、低分子化合物が不純物として存在することから、それらを分離除去して高純度のヒアルロン酸製品を得る方法が検討されてきた。例えば、塩化セチルピリジニウム等の第4級アンモニウム塩とヒアルロン酸とのアダクトを形成させ不純物を分離し、さらにフロリジルのようなケイ酸マグネシウムのカラムに不純物を吸着させる方法がある(特許文献2)。また、マクロレティキュラー型アニオン交換樹脂を用いて、発酵液から発熱物質、蛋白質等を除去するヒアルロン酸の精製法が開示されている(特許文献3)。しかしながら、これらの精製法により得られたヒアルロン酸は、エンドトキシンの除去が不十分であり、医薬として使用することができなかった。
【0005】
本発明者らは、ヒアルロン酸類を精製する方法についてさらなる検討を行い、エンドトキシン、蛋白質、核酸等を除去するためにヒアルロン酸類含有液をアルミナに接触させる方法(特許文献4)及びヒアルロン酸類含有液をアルミナに接触させた後、シリカゲルに接触させる方法について提案した(特許文献5)。しかしながら、これらの方法においても、工業的規模で医薬品として使用できる高純度のヒアルロン酸類を得るには、(i)不純物のアルミナ、シリカゲル等への吸着量が少ないので、アルミナやシリカゲルを多量に消費する、(ii)ヒアルロン酸類の回収率が低い、などの課題が残っていた。
【0006】
また、強塩基性イオン交換樹脂を用いてエンドトキシンを含む溶液からヒアルロン酸を精製する方法が開示されている(特許文献6)。しかしながら、この方法を用いてエンドトキシンを除去する場合、プレチャージした後にNaClの濃度勾配で溶出し、分画するという操作が必要となり、エンドトキシン除去を目的とするプロセスとしては操作が煩雑かつ効率が悪いので、工業的規模でヒアルロン酸類を精製するのには適さなかった。
【0007】
さらに、ポリカチオンのマルチアタッチメント効果を利用するエンドトキシン吸着除去剤等も開発されている。しかしながら、これらのエンドトキシン吸着除去剤は、電荷の相違を利用してエンドトキシンを含む蛋白質含有液から蛋白質を精製する目的で開発されたものであり、ヒアルロン酸がエンドトキシンと同様にポリアニオンであることから、ヒアルロン酸含有液からのエンドトキシン除去効率は、蛋白質のそれと同程度を期待することはできない(非特許文献2)。
【特許文献1】特開昭63−123392号公報
【特許文献2】公表特許昭62−501471号公報
【特許文献3】特開昭63−12293号公報
【特許文献4】特開平1−313503号公報
【特許文献5】特開平2−103204号公報
【特許文献6】国際公開2002−004471号公報
【非特許文献1】ジェービー・ウールコック(J. B. Woolcock), ジャーナル・オブ・ジェネラル・マイクロバイオロジー(J. Gen. Microbiol.), 85, 372-375(1976)
【非特許文献2】高分子論文集, 64, 821 (2007)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、工業的規模で実施可能な方法であって、かつ医薬として利用可能なヒアルロン酸類を精製できる方法の開発が望まれていた。本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、簡便に医薬として利用可能なヒアルロン酸類を分離・精製することができ、工業的規模で実施できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ヒアルロン酸類を高純度に精製する簡便な方法の開発という課題について、これまでにヒアルロン酸類含有液をアルミナに接触させる方法、ヒアルロン酸類含有液をアルミナに接触させた後にシリカゲルに接触させる方法、強塩基性イオン交換樹脂を用いてヒアルロン酸類を精製する方法などを検討してきた。しかしながら、何れの方法も、工業的規模で利用するには操作が煩雑、もしくは、医薬として使用できる程度までヒアルロン酸類を精製できないなど、課題を解決するには至らなかった。
そこで、本発明者らは、主として研究されている、電荷の違いを利用したヒアルロン酸類の精製方法から発想を転換し、当業者の間では、通常水系で使用されないこと及び担体が比較的高価であるという事実によりヒアルロン酸の精製には適さないと考えられていた逆相クロマトグラフィーを用いてヒアルロン酸類の精製を試みた。その結果、逆相クロマトグラフィーを用いてエンドトキシンを含むヒアルロン酸類含有液からヒアルロン酸類の精製が可能であることが見出された。さらなる鋭意検討の結果、従来の方法に比較して非常に効率的にその目的が達せられる方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、ヒアルロン酸及び/又はその塩の精製方法であって、前記精製方法は、ヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液を、逆相クロマトグラフィー用充填剤に接触させる工程を含んでなり、前記逆相クロマトグラフィー用充填剤は、担体に鎖長が炭素数8以上の置換又は未置換の炭化水素基を結合させた逆相クロマトグラフィー用充填剤であることを特徴とする、ヒアルロン酸及び/又はその塩の精製方法を提供する。本発明は、ヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液を、担体に鎖長が炭素数8以上の置換又は未置換の炭化水素基を結合させた逆相クロマトグラフィー用充填剤に接触させるため、ヒアルロン酸及び/又はその塩が精製される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法によれば、エンドトキシン、蛋白質、核酸等の除去された高純度なヒアルロン酸類を、簡便かつ高収率かつ工業的規模で製造することができる。またこの方法で得られたヒアルロン酸類は医薬用途、特にエンドトキシン量が低いことが必須となる関節への注射剤などに用いることができる。
【0012】
さらに、本発明は、逆相クロマトグラフィー用充填剤として、担体に置換又は未置換のオクタデシル基及び/又はこれらの末端を改変した官能基を結合させたものを用いてもよい。置換又は未置換のオクタデシル基及び/又はこれらの末端を改変した官能基を結合させた担体を用いることにより、より高純度なヒアルロン酸及び/又はその塩の精製が実施可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本実施形態のヒアルロン酸類は、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸の塩、又はヒアルロン酸とヒアルロン酸の塩の混合物を包含してもよい。ヒアルロン酸類の由来は特に限定されないが、一定の原料で、一定の方法で製造されるため、製品の品質を一定に保持しやすい発酵法により生産されたものが好ましい。
【0014】
発酵法によるヒアルロン酸はストレプトコッカス属のバクテリアを使用して既知の方法で得ることができる。発酵法で使用する菌株は、自然界から分離されるストレプトコッカス属等のヒアルロン酸生産能を有する微生物、または、特許文献1に記したストレプトコッカス・エキFM−100(微工研菌寄9027号)のような高収率で安定にヒアルロン酸を生産する変異株が望ましい。
【0015】
そのようなヒアルロン酸生産能を有する微生物をグルコース、シュークロース等の炭素源、ペプトン、ポリペプトン、酵母エキス等の窒素源、ビタミン、無機塩等を用いた培地中で好気的に培養して得られる培養液を、ヒアルロン酸が0.1〜5g/L濃度になるように希釈後、既知の方法、例えば遠心分離、濾過、凝集剤、カーボン、ゼオライト等などの方法で除菌した液を逆相クロマトグラフィー用充填剤に接触させることによりヒアルロン酸類を精製することが可能である。
【0016】
医薬品として使用できるヒアルロン酸類を製造する場合には、上記の除菌液を更に精製処理した後に逆相クロマトグラフィー用充填剤に接触させることが望ましい。この精製処理としては、透析処理による低分子化合物の除去、精密濾過処理による水不溶微粒子の除去、アルコール、アセトン、ジオキサン等の水溶性有機溶剤添加による析出分離後の再溶解、等を挙げることができ、これら処理は、単独あるいは組み合わせて実施することができる。ここで、「医薬品として使用できる」ヒアルロン酸類は、エンドトキシン、蛋白質、核酸等の不純物を実質的に含有しない。なお、「実質的に含有しない」とは、不純物が一分子も含まれないことを意味するのではなく、不純物が含まれていないと当業者に認識される程度(現在の技術では検出できない程度、もしくは目的の用途に影響が出ない程度)を意味するものである。仮に、将来的に分析技術が進歩して分子単位での検出が可能になったとしても、本願における「実質的に含有しない」とは、本願における記載に基づいて解釈すべきである。例えば、「医薬として使用できる」ヒアルロン酸類中の蛋白質含有率は、0.05%以下であることを意味する。また、「医薬品として使用できる」ヒアルロン酸類中のエンドトキシン含有量は、例えば、ヒアルロン酸1mg中0.05EU以下(0.05EU/mg)、好ましくは0.03EU/mg以下、0.01EU/mg以下、0.005EU/mg以下、0.003EU/mg以下、0.002EU/mg以下、又は0.001EU/mg以下である。また、「関節への注射剤として使用できる」ヒアルロン酸類中のエンドトキシン含有量は、0.01EU/mg以下、又は0.005EU/mg以下である。また、「医薬品として使用できる」ヒアルロン酸類中の核酸含有量は、0.1%以下、もしくは検出限界以下の含有量である。
【0017】
本実施形態において用いられる逆相クロマトグラフィー用充填剤の担体は、シリカゲル又は、ポリビニルアルコール等の合成樹脂の球状又は破砕状のものが好ましく、その平均粒径は、1μmから約100μmのものが好ましく、より好ましくは10μmから約50μmのものである。当業者であれば、平均粒径が小さいほど単位長あたりのカラム理論段数は大きくなるが、カラムの圧力損失も大きくなることなどを考慮して、適した粒径を選択することができる。また、本実施形態において用いられる逆相クロマトグラフィー用充填剤は、担体に、置換又は未置換の炭化水素基を結合させたものであり、特に鎖長が炭素数8以上のものを用いることを特徴とする。その例として、オクチル基、オクタデシル基、およびこれらの末端を改変した官能基等が挙げられるが、これらに制限されるものではない。また、炭化水素基の鎖長の炭素数が大きいほど強い保持力を有するので、当業者であれば、炭化水素基の鎖長の炭素数を調節することで、固定相における保持力を調節することができる。また、官能基として、フェニル基、ジオール基、ニトリル基、アミノ基などを用いて固定相の極性を調節することもできる。
【0018】
鎖長が炭素数8以下の置換又は未置扱の炭化水素基として、例えばトリメチル基、ブチル基、フェニル基、シアノプロピル基、アミノプロピル基等が挙げられるが、後述の実施例に示すように、これらはヒアルロン酸の精製には適さない。
【0019】
本実施形態に適するものとして、例えば市販されているオクチル基をシリカゲルに化学的に結合させた逆相クロマトグラフィー用充填剤〔YMC・GEL C8−120−S5(YMC製)〕、〔YMC・GEL C8−300−S5(YMC製)〕、オクタデシル基をシリカゲルに化学的に結合させた逆相クロマトグラフィー用充填剤〔YMC・GEL ODS−AM−120−S50(YMC製)〕、〔YMC・GEL ODS−A120−S30/50(YMC製)〕、〔YMC・GEL ODS−AQ60−S50(YMC製)〕、〔YMC・GEL ODS−AQ−120−S50(YMC製)〕、オクタデシル基を合成樹脂に化学的に結合させた充填剤〔TSK-GEL Octadecyl−4PW(30)(東ソー製)〕などが挙げられる。これらの充填剤は、品質が安定しており、かつ入手が容易である点で適しているが、これらに制限されるものではない。
【0020】
逆相クロマトグラフィー用充填剤に接触させる溶媒は、水及び有機溶媒、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、アセトニトリル、酢酸エチル、ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)もしくはDMSOなどの混合溶媒系に塩を含むものが一般的に用いられる。水を用いることにより、溶媒の極性が増大することから、本実施形態においては、塩を含むヒアルロン酸類水溶液を逆相クロマトグラフィー用充填剤に接触させることが特に良い。
【0021】
本実施形態では、硫安、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の塩を用いて、溶媒のpHを調節することができるが、これらに制限されるものではない。
【0022】
溶媒の塩濃度により、保持力が変化することが知られているが、本実施形態において、ヒアルロン酸類含有液を逆相クロマトグラフィー用充填剤に接触させるに当たり、ヒアルロン酸類含有液は、水系で、塩濃度は5〜3000mMがよく、より好ましくは、10〜1000mMがよい。
【0023】
また、溶媒のpHを調整することにより、溶質のイオン化を制御することができるが、本実施形態のpHは、3〜8が好ましく、6〜8が特に好ましい。
【0024】
また、温度を一定にすることにより安定した成績を得ることが可能であるが、本実施形態における温度は0〜40℃が好ましく、より好ましくは10〜30℃がよい。
【0025】
また、ヒアルロン酸類の濃度を調整することにより、効率的に精製することができるが、本実施形態のヒアルロン酸類の濃度は、0.1〜5g/Lが好ましく、より好ましくは0.5〜2g/Lである。
【0026】
逆相クロマトグラフィー用充填剤に接触させる方法としては、ヒアルロン酸類含有液に逆相クロマトグラフィー用充填剤を添加して、バッチ式で撹拌する方法と、充填塔等に充填後にヒアルロン酸類含有液を通液処理する方法、またその組合せや反復も可能であるが、通常は、処理条件の選択により、1回の処理で十分である。
【0027】
エンドトキシン、蛋白質、核酸等の不純物を除去する能力の低下した逆相クロマトグラフィー用充填剤は、通常の脱着、洗浄、再生処理で簡単に初期の性能に回復させることが出来る。アルカリ洗浄を行う場合、担体の材質としてシリカゲルを用いると、シリカゲルは塩基性条件下で溶解してしまうことから、合成樹脂を用いることが好ましい。
【0028】
本実施形態の方法は、工業的規模で実施可能であるが、ここでいう「工業的規模」とは、例えば、少なくとも100kg/年以上の規模でヒアルロン酸類を精製できることをいう。もしくは、0.1kg/時間以上の精製効率でヒアルロン酸類を精製可能であることをいう。また、コストを考慮しても、産業的に利用可能であることをいう。
【0029】
逆相クロマトグラフィー用充填剤に接触させたヒアルロン酸類含有液は、必要ならば、pH調整や孔径0.2〜1μmのメンブレンフィルターを用いる精密濾過を行なった後、有機溶剤沈殿法で分離後、真空乾燥等により、乾燥品とすることができる。
【0030】
以下に本実施形態の精製方法の作用効果について説明する。
本実施形態の精製方法は、ヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液を、担体に鎖長が炭素数8以上の置換又は未置換の炭化水素基を結合させた逆相クロマトグラフィー用充填剤に接触させるため、ヒアルロン酸及び/又はその塩が精製される。
【0031】
また、実施形態の精製方法は、ヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液が、その他の塩を含む場合であってもヒアルロン酸及び/又はその塩を精製できる。そのため、鶏の鶏冠等からの抽出物や発酵法により生産されたヒアルロン酸及び又はその塩の含有液のpHをその他の塩で調節することができ、効率的にヒアルロン酸及び/又はその塩を精製することができる。
【0032】
さらに、実施形態の精製方法は、エンドトキシンを含むヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液から、ヒアルロン酸及び/又はその塩を精製することができる。そのため、例えば、ヒアルロン酸及び/又はその塩の生産においてエンドトキシンが混入する場合であっても、ヒアルロン酸及び/又はその塩を精製することができる。
【0033】
さらに、実施形態の精製方法は、逆相クロマトグラフィー用充填剤として、担体に置換又は未置換のオクタデシル基及び/又はこれらの末端を改変した官能基を結合させたものを用いてもよい。置換又は未置換のオクタデシル基及び/又はこれらの末端を改変した官能基を結合させた担体を用いることにより、より高純度なヒアルロン酸及び/又はその塩の精製が実施可能となる。
【0034】
さらに、実施形態の精製方法は、逆相クロマトグラフィー用充填剤の担体として合成樹脂を用いてもよい。合成樹脂は幅広いpHの範囲で用いることができるため、ヒアルロン酸及び/又はその塩の精製において、移動相として塩基性溶媒や酸性溶媒を用いることもできる。
【0035】
さらに、実施形態の精製方法は、医薬として使用できるヒアルロン酸を精製することもできる。本発明の精製方法は、エンドトキシン、蛋白質、核酸等を除去することができるため、ヒアルロン酸及び/又はその塩を医薬用途に用いることができる。
【0036】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示に過ぎない。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を参考例及び実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
[参考例]
粗製ヒアルロン酸ナトリウムの製造
ストレプトコツカス・エクイFM−100(微工研菌寄第9027号)を用いて培養した培養液15Lを純水で50Lに希釈し(ヒアルロン酸ナトリウム濃度1.10g/L)、遠心分離、ホローファイバー型限外濾過を行い、菌体と培地成分を除いた。
このヒアルロン酸類含有液500mLに食塩15gを溶解、pH7に調節後、エタノール750mLで析出、エタノール100mLで洗浄を行い、40℃で真空乾燥し、0.5gの粗製ヒアルロン酸ナトリウムを得た。
分析結果を表1に示す。
【0038】
[実施例1]
参考例で得られた粗製ヒアルロン酸ナトリウム1gを、1Lの50mMの塩化ナトリウム溶液に溶解し、オクチル基をシリカゲルに化学的に結合させた逆相クロマトグラフィー用充填剤(YMC・GEL C8−120−S5、YMC製)を30g添加して30分撹拌した。
その後、0.45μmの精密濾過膜で濾過処理を行なった。得られた液に食塩30gを溶解し、pH7に調整後、エタノール2Lで析出し、エタノール300mLでの洗浄を3回行い40℃で真空乾燥して0.9gのヒアルロン酸ナトリウムが得られた。
分析結果を表1に示す。
【0039】
[実施例2]
参考例で得られた粗製ヒアルロン酸ナトリウム1gを、1Lの50mMの塩化ナトリウム溶液に溶解し、オクタデシル基をシリカゲルに化学的に結合させた逆相クロマトグラフィー用充填剤(YMC・GEL ODS−AQ−120−S50、YMC製)を30g添加して30分撹拌した。その後0.45μmの精密濾過膜で濾過処理を行なった。
得られた液は、実施例1と同様に処理し、0.9gのヒアルロン酸ナトリウムが得られた。分析結果を表1に示す。
【0040】
[比較例1]
参考例で得られた粗製ヒアルロン酸ナトリウム1gを、1Lの30V/V%エタノール水溶液に溶解し、アルミナ(昭和電工製)を30g添加して30分撹拌した。その後、0.45μmの精密濾過膜で濾過処理を行なった。得られた液は、実施例1と同様に処理し、0.9gのヒアルロン酸ナトリウムが得られた。
分析結果を表1に示す。
【0041】
[比較例2]
参考例で得られた粗製ヒアルロン酸ナトリウム1gを、1Lの50mMの塩化ナトリウム溶液に溶解し、ブチル基をシリカゲルに化学的に結合させた逆相クロマトグラフィー用充填剤(YMC・GEL C4-120-S5、YMC製)を30g添加して30分撹拌した。
その後0.45μmの精密濾過膜で濾過処理を行なった。得られた液は、実施例1と同様に処理し、0.9gのヒアルロン酸ナトリウムが得られた。
分析結果を表1に示す。
[表1]

注1)ヒアルロン酸ナトリウム1mgあたり
【0042】
[実施例3]
参考例で得られた粗製ヒアルロン酸ナトリウム1gを、1Lの30V/V%エタノール水溶液に溶解し、オクタデシル基をシリカゲルに化学的に結合させた逆相クロマトグラフィー用充填剤(YMC・GEL ODS−AQ−120−S50、YMC製)を30g添加して30分撹拌した。その後0.45μmの精密濾過膜で濾過処理を行なった。
得られた液を実施例1と同様に処理し、0.9gのヒアルロン酸ナトリウムが得られた。分析結果を表2に示す。
【0043】
[実施例4]
参考例で得られた粗製ヒアルロン酸ナトリウム1gを、1Lの水溶液に溶解し、オクタデシル基をシリカゲルに化学的に結合させた逆相クロマトグラフィー用充填剤(YMC・GEL ODS−AQ−120−S50、YMC製)を30g添加して30分撹拌した。その後0.45μmの精密濾過膜で濾過処理を行なった。得られた液を実施例1と同様に処理し、0.9gのヒアルロン酸ナトリウムが得られた。分析結果を表2に示す。
【0044】
[実施例5]
内径0.8cm、高さ10cmのガラスカラムに、オクタデシル基をシリカゲルに化学的に結合させた逆相クロマトグラフィー用充填剤(YMC・GEL ODS−AQ−120−S50、YMC製)を20mL充填し、エタノール、水、塩化ナトリウム水溶液の順に平衡化し、参考例で得られた粗製ヒアルロン酸ナトリウム1gを1Lの500mMの塩化ナトリウム溶液に溶解し、上記カラムにSV=20(h−1)で通液した。
得られた液を実施例1と同様に処理し、0.9gのヒアルロン酸ナトリウムが得られた。分析結果を表2に示す。
【0045】
[実施例6]
内径5cm、高さ10cmのガラスカラムに、オクタデシル基をシリカゲルに化学的に結合させた逆相クロマトグラフィー用充填剤(YMC・GEL ODS−AQ−120−S50、YMC製)を200mL充填し、エタノール、水、塩化ナトリウム水溶液の順に平衡化し、参考例で得られた粗製ヒアルロン酸ナトリウム10gを10Lの500mMの塩化ナトリウム溶液に溶解し、上記カラムにSV=20(h−1)で通液した。
得られた液に食塩300gを溶解し、pH7に調整後、エタノール20Lで析出し、エタノール3Lでの洗浄を3回行い、40℃で真空乾燥して、9gのヒアルロン酸ナトリウムが得られた。
分析結果を表2に示す。
【0046】
[実施例7]
内径5cm、高さ10cmのガラスカラムに、オクタデシル基を合成樹脂に化学的に結合させた逆相クロマトグラフィー用充填剤(TSK−GEL Octadecyl−4PW(30)、東ソー製)を200mL充填し、3%塩化ナトリウム水溶液で平衡化し、参考例で得られた粗製ヒアルロン酸ナトリウム20gを10Lの500mMの塩化ナトリウム溶液に溶解し、上記カラムにSV=25(h−1)で通液した。
得られた液に食塩300gを溶解し、pH7に調整後、エタノール20Lで析出し、エタノール3Lでの洗浄を3回行い、40℃で真空乾燥して、9gのヒアルロン酸ナトリウムが得られた。
分析結果を表2に示す。
【0047】
[実施例8]
実施例6で使用したカラムに0.4%水酸化ナトリウム溶液を通液し、同溶液に24時間浸漬した。3%塩化ナトリウム水溶液で平衡化し、参考例で得られた粗製ヒアルロン酸ナトリウム20gを10Lの500mMの塩化ナトリウム溶液に溶解し、上記カラムに再度SV=25(h−1)で通液した。
得られた液に食塩300gを溶解し、pH7に調整後、エタノール20Lで析出し、エタノール3Lでの洗浄を3回行い、40℃で真空乾燥して、9gのヒアルロン酸ナトリウムが得られた。
分析結果を表2に示す。
[表2]

注1)ヒアルロン酸ナトリウム1mgあたり
【0048】
測定法
1)蛋白質:精製ヒアルロン酸ナトリウムを0.1N水酸化ナトリウムに溶解しローリー法にて行った。
2)エンドトキシン:生化学工業社製トキシカラーシステムにより処理液を直接比色分析することにより行った。
3)核酸:0.1%ヒアルロン酸ナトリウム溶液の260nmにおける吸光度を測定した。
【0049】
(考察)
上記実施例は、逆相クロマトグラフィーを用いることによって、医薬として利用可能なヒアルロン酸類を分離・精製することができることを示すものである。さらに、逆相クロマトグラフィーを用いることにより、粗製ヒアルロン酸類含有液からワンパスで医薬として使用できるヒアルロン酸類が得られるため、煩雑な操作を必要とせず、効率的であり、工業的規模での精製にも適している。また、逆相クロマトグラフィーを用いた精製方法は、0.1kg/時間以上でヒアルロン酸類を精製可能であり、工業的規模で実施可能であった。
【0050】
以上、本発明を実施例に基づいて説明した。この実施例はあくまで例示であり、種々の変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒアルロン酸及び/又はその塩の精製方法であって、前記精製方法は、ヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液を、逆相クロマトグラフィー用充填剤に接触させる工程を含んでなり、前記逆相クロマトグラフィー用充填剤は、担体に鎖長が炭素数8以上の置換又は未置換の炭化水素基を結合させた逆相クロマトグラフィー用充填剤であることを特徴とする、ヒアルロン酸及び/又はその塩の精製方法。
【請求項2】
前記ヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液が、さらに他の塩を含むことを特徴とする、請求項1に記載の精製方法。
【請求項3】
エンドトキシンを含むヒアルロン酸及び/又はその塩の含有液から、ヒアルロン酸及び/又はその塩を精製することを特徴とする、請求項1又は2に記載の精製方法。
【請求項4】
前記逆相クロマトグラフィー用充填剤が、担体に、置換又は未置換のオクタデシル基及び/又はこれらの末端を改変した官能基を結合させたものであることを特徴とする、請求項1ないし3に記載のヒアルロン酸及び/又はその塩の精製方法。
【請求項5】
前記逆相クロマトグラフィー用充填剤が、担体として合成樹脂を用いたものであることを特徴とする、請求項1ないし4に記載のヒアルロン酸及び/又はその塩の精製方法。
【請求項6】
前記精製方法により精製されたヒアルロン酸及び/又はその塩が、医薬として使用できることを特徴とする、請求項1ないし5に記載のヒアルロン酸及び/又はその塩の精製方法。

【公開番号】特開2010−53259(P2010−53259A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−220553(P2008−220553)
【出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】