説明

ヒト上皮細胞の免疫賦活活性の増強剤としてのオンコスタチンM

本発明は、ヒトにおいて上皮細胞の免疫賦活活性を増強するための医薬の製造における、オンコスタチンM(OSM)、オンコスタチンM受容体(OSMR)アゴニスト、またはOSM若しくはOSMRアゴニストとI型インターフェロン(IFNタイプI)との組み合わせの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の技術分野は免疫学である。
【発明の背景】
【0002】
オンコスタチンM(OSM)は28,000のおおよその分子量を有する糖タンパク質であり、主にT細胞、単球/マクロファージ(Malik, 1989)および樹状細胞(Suda, et al., 2002)により産生されるIL−6型の多面的サイトカイン(IL−6はインターロイキン6の略語である)である。それは、元来、ヒト白血病細胞から単離され、イン・ビトロでメラノーマの細胞増殖を抑制するその能力により同定された(Zarling, et al., 1986; Brown, et al., 1987)。OSMは、急性期タンパク質の発現(Heinrich, 1998)同様に、宿主の防御系の重要な制御因子であるIL−6の産生(Brown, et al., 1991)を促進する。OSMは、今では、炎症応答に役割を果たしていると共に、肝細胞、骨芽細胞または肺上皮細胞などの様々な細胞型の活性化、増殖および分化に関与する多機能性サイトカインであると考えられている(Grant, et al., 1999; Tanaka, et al., 2003)。
【0003】
ヒトA375メラノーマおよびマウスM1骨髄性白血病細胞、並びに他の固形癌細胞に対するその増殖抑制活性に加えて(Grant, et al., 1999; Gibbs, et al., 1998)、OSMは、正常な繊維芽細胞、AIDS−カポジ肉腫細胞およびヒト赤芽球性白血病細胞株であるTF−1に対する増殖賦活活性も有する(Nair, et al., 1992; Miles, et al., 1992)。OSM受容体ベータサブユニット(OSMRβ)に結合する抗体の使用が、癌細胞の増殖を抑制するために特許請求されている(国際公開第2006084092号公報)。
【0004】
インターフェロン−アルファとの組み合わせにおけるOSMも、その抗ウイルス活性、特にC型肝炎ウイルスの複製を阻害することにおいて知られている(欧州公開第1905447号公報)。
【0005】
Zarling, et al., 1986が、炎症性メディエータとしてのOSMの役割を既に確立した。しかし、免疫系における他のサイトカインに対するその正確な影響は明確には理解されていない。さらに、1997年(Ichihara, et al., 1997)以前のマウスおよびヒトでのOSM受容体シグナル系の知られざる差異が、OSMの生理活性の特徴付けに混乱を加えてきた。
【0006】
一方で、Brown, et al., 1991は内皮細胞に対するOSMの炎症誘発特性を記載した。Yao, et al., 1996も、ヒトOSMでの初代内皮細胞培養物(HUVEC)の賦活化が、慢性またはアレルギー性炎症の部位への白血球の移出を促進するP−セレクチンの遅延した、しかし延長した上方制御をもたらしたことを報告している。他方で、OSMは、関節リュウマチのモデルを引き起こす抗体の関節破壊の程度を低減することが見いだされ、このことは調和した免疫抑制の無い抗炎症活性を示す(Wallace, et al., 1999)。Hams, et al., 2008は、OSMRβシグナルが急性炎症時の単球細胞の動員を制限したと結論した。しかし、これらの2件の最新の研究はマウスモデルで実施された。
【0007】
ヒトにおいては、OSMは2つの異なる受容体複合体を介してシグナルを伝える:a)OSMと構造的な類似性を有し、進化的に関連するタンパク質であるLIF(白血球抑制因子の略語である)と高い親和性の結合を共有する、LIF/OSM共有受容体;およびb)OSMと独自に結合するOSM特異的受容体。しかし、マウスにおいては、OSMは、OSM特異的受容体のマウスホモログを介してのみシグナルを伝える。加えて、マウスにおいてイン・ビトロおよびイン・ビボの研究に伝統的に用いられてきたヒトOSMは、マウスLIF受容体にのみ結合し、それにより、OSMではなくLIFに属する生理活性のみを示す。従って、ヒトにおける臨床利用でのOSMの生理活性を明らかにするためには、適切に計画された研究は、ヒト細胞を用いるべきである。
【0008】
欧州公開第422186号公報では、臓器移植および自己免疫疾患の処置における利用での、ヘルパーおよびエフェクターTリンパ球に対する内皮組織の免疫原性を抑制に関するOSMの役割が記載されている。
【0009】
Durda, et al., 2003では、OSMは、メラニン形成細胞の抗原の発現の下方調節因子として提示されている。しかし、メラノーマ細胞に対する免疫応答に対する、この縮小された抗原の発現の効果に関しては、決定的なデータは提供されていない。
【0010】
ヒトモデルにおけるOSMの免疫学的特性をさらに特徴付ける際に、驚くべきことに、OSMは、細胞障害性T細胞(CTL)によるインターフェロンガンマ(IFN−γ)の産生を賦活化するヒト肝細胞肝臓癌(HepG2)細胞の能力をインターフェロン−アルファ2(IFN−α2)単独で用いるときよりも効果的に増強することが見いだされた。IFN−γは、細胞媒介性の免疫における抗原認識の後のTリンパ球の賦活化の一般に用いられるマーカーである(Brosterhus, et al., 1999)。本発見は、特に、OSMが感染または腫瘍上皮細胞の抗原性を増加させること、すなわち、これらの細胞における抗原プロセッシングおよび提示を増加させることにより、同じ細胞の選択的破壊をもたらす自殺型のメカニズムで、これらの細胞を免疫応答に対してより可視性および反応性にすることが明らかとなった。
【0011】
I型インターフェロンは、元来、イン・ビトロでの細胞株のウイルス感染に対するその抑制活性によって発見された、サイトカイン活性を有するポリペプチドのファミリーである(Pestka, et al., 2004)。
【0012】
その配列の相同性に依存して、I型インターフェロンは、インターフェロン−α(IFN−α)、インターフェロン−β(IFN−β)およびインターフェロン−ω(IFN−ω)に分類される。これらのサイトカインの機能は、これらが抗原提示を許しつつ感染細胞のアポトーシス誘発死とウイルス複製の抑制を促進するメカニズムを始動するので、多くの型のウイルス感染に対する免疫応答において大変重要である。最近、これらが免疫応答において樹状細胞同様にNK、BおよびT−細胞の活性を直接的に活性化することによりその機能を発揮することも実験的に記述された(Le Bon A et al., 2006; Le Bon A et al., 2006; Le Bon, et al., 2003)。
【0013】
I型インターフェロンは様々な臨床疾患状態において試験されてきた。IFN−αは、慢性ウイルス性肝炎の処置に処方され、メラノーマおよび慢性骨髄性白血病などの様々な悪性疾患の処置に用いられる。例えば、Murata et al., 2006は、抗増殖効果、細胞周期の変化およびアポトーシスなどの、肝細胞癌細胞株に対するインターフェロンαおよびβの抗腫瘍効果を記載する。IFN−αの抗腫瘍効果は、腫瘍細胞に対する直接的なアポトーシス促進効果、血管腫瘍細胞に対する抗血管新生効果および抗腫瘍免疫応答に対する増強効果により媒介される。しかし、臨床試験は、腫瘍の処置におけるIFN−αの効能は非常に限られ、そのため、副作用に対する臨床的な利益は非常には好都合でないことが示され、それゆえに腫瘍学におけるその使用は現在のところ非常に限られている。ヒトインターフェロンベータの使用は、多発性硬化症の処置において最もよく確立されている。
【0014】
OSMの免疫学的特性の特徴付けの進行に加えて、驚くべきことに、OSMはIFNα2と協調して、細胞障害性T細胞によるIFN−γの産生を賦活化させる、ヒト肝細胞肝臓癌(HepG2)細胞の能力を増強することが見いだされた。それゆえに、単独のまたはIFNタイプIとの組み合わせにおけるOSMは、癌および感染症の免疫療法において有用かつ強力な薬剤である。
【発明の概要】
【0015】
本発明は、ヒトにおける上皮細胞の免疫賦活活性を増強するための医薬の製造における、オンコスタチンM(OSM)、OSM受容体(OSMR)アゴニストまたはOSM若しくはOSMRアゴニストとI型インターフェロンとの組み合わせの使用に関する。同様に、本発明は、ヒトにおける上皮細胞の免疫賦活活性の増強における使用のための、OSM、OSMRアゴニストまたはOSM若しくはOSMRアゴニストとI型IFNとの組み合わせに関する。ヒトにおける上皮細胞の免疫賦活活性を増強する方法であって、前記ヒトに対して、有効量のOSM、OSMRアゴニストまたはOSM若しくはOSMRアゴニストとI型IFNとの組み合わせを投与することを含んでなる方法に関する。
【0016】
本発明は、さらに、OSMまたはOSMRアゴニストをコードする核酸および場合によってI型インターフェロンをコードする核酸を含んでなる組換え発現ベクターであって、好適な発現宿主内でOSMまたはOSMRアゴニストおよび場合によってI型IFNの産生を導く1以上の制御配列に作動可能に連結させた組換え発現ベクターに関する。上記に記載された発現ベクターでトランスフェクトまたは形質転換した宿主細胞も同様に提供される。ベクターおよびトランスフェクトまたは形質転換した宿主細胞の両方が、ヒトにおける上皮細胞の免疫賦活活性を増強するための医薬の製造において、遺伝子治療に用いることができる。
【0017】
本発明は、獲得免疫療法における使用のための賦活化リンパ球CD8+の調製のためのイン・ビトロの方法であって、
a)有効用量のOSM、OSMRアゴニスト、またはOSM若しくはOSMRアゴニストとI型IFNとの組み合わせ、または本発明により提供される組換え発現ベクターでヒト由来の上皮細胞または組織を処置すること、
b)工程a)で得られた処置された細胞または組織に放射線照射すること、
c)工程b)で得られた放射線照射された細胞または組織を、
−末梢血単核球(PBMC)、若しくは
−濃縮されたCD8+リンパ球および場合によって抗原提示細胞
と共培養すること、および
d)場合によって、工程c)で得られた賦活化CD8+リンパ球を工程b)で得られた、処置され、かつ放射線照射された細胞または組織と共培養すること、
{ここで、PBMC、CD8+リンパ球および上皮細胞または組織は同一のヒト対象に由来する}
を含んでなる方法に関する。イン・ビトロの方法および処置の方法により得られる賦活化リンパ球CD8+、並びに癌または感染症の処置のための医薬としての、および医薬の製造における、これらの賦活化リンパ球CD8+の使用が同様に記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、IFNα2、OSMまたは2つの組み合わせで、表示した時間処理したHuh7細胞におけるJak/STATシグナル経路およびp38MAPKの活性化を示す。(A)培地単独、または1、3、24、48および72時間IFNα2若しくはOSM若しくはIFNα2プラスOSMの存在下で、培養したHuh7細胞におけるSTAT1、STAT2、STAT3、Tyk2およびJak1のリン酸化および全タンパク質レベルの代表的なウェスタンブロット分析。(B)IFNα2若しくはOSM若しくはIFNα2プラスOSMで1、3、24、48および72時間処理した、または処理していないHuh7細胞におけるp38MAPKレベルのリン酸化および全タンパク質の代表的なウェスタンブロット分析。アクチンレベルをローディング・コントロールとして示す。
【図2】図2は、OSMが、感染に対する自然防御に関与する遺伝子を上方制御することを示す。MYD88(TLRアダプター分子)の転写発現(A)、S100A9(TLR機能の調節因子)(B)、ULBP2(NK細胞を活性化するNKG2Dのリガンド)(C)、IL−32(マクロファージを活性化する炎症促進分子)(D)、IRF1(E)、GBP2(F)並びにケモカイン遺伝子CXCL1/2およびCXCL3(GおよびH)は、IFNα2、OSM若しくは2つのサイトカインの組み合わせで表示した時間処理した、または処理しなかったHuh7細胞における定量的RT−PCRにより測定された。値は、5度繰り返して実施した3回の実験の平均±SDである。p<0.05 vs未処理、IFNα2およびOSM。**p<0.05 vs未処理およびIFNα2。
【図3】図3は、Huh7細胞における抗原プロセッシングおよび提示に関与する遺伝子の誘導において、OSMがIFNαと協調することを示す図である。IFNα2、OSM若しくは両方で表示した時間処理した、または処理しなかったHuh7細胞におけるユビキチンコンジュゲート酵素(ubiquitin-conjugating enzyme)UBE2L6(A)、免疫プロテアソームサブユニットPSMB8(B)およびPSMB9(C)、抗原プロセッシングに関連するトランスポータTAP1(D)およびTAP2(E)、HLAクラスI A、BおよびC(F、G、H)、TAP結合タンパク質TAPBP1(I)、並びにβ2マイクログロブリン(B2M)(J)のmRNAレベルの定量的RT−PCRによる測定。値は、5度繰り返して実施した3回の実験の平均±SDである。IFNα2、OSM若しくは2つのサイトカインの組み合わせで3および4日間処理した、または処理しなかったHuh7細胞におけるTAP1、PSMB9、HLA−ABCおよびB2Mのウェスタンブロット。アクチンレベルをローディング・コントロールとして示した(K)。p<0.05 vs未処理、IFNα2およびOSM。**p<0.05 vs未処理およびIFNα2。値は、5度繰り返して実施した3回の実験の平均±SDである。
【図4】図4は、OSMが、獲得免疫を賦活化し、肝臓上皮細胞のIL−15トランス提示および免疫賦活活性を増強する遺伝子を上方制御することを示す図である。IFNα2、OSM若しくは両方で処理した、または処理しなかったHuh7細胞におけるICAM−1(A)、IL−15Rα(B)およびIL−7(C)の転写発現。IFNα2、OSM若しくは両方で処理した、または処理しなかったHuh7細胞におけるICAM−1のウェスタンブロット(D)。IFNα2、OSM若しくは2つのサイトカインの組み合わせで4日間処理したHuh7細胞の表面上のICAM−1を測定するためのフローサイトメトリー調査(E)。値は未処理細胞に対する倍率を表す。IFNα2、OSM若しくは両方で3日間処理した、または処理しなかったHuh7細胞とインキュベートしたCTLL−2(IL−15の増殖依存性を有するCD8+T細胞株)の増殖活性(F)。インフルエンザウイルスのペプチドGILGFVFTL(配列番号46)を提示するHepG2細胞の存在下でインキュベートしてそのペプチドで感作したCTLによるIFNγの産生(G)。IFNα2、OSM若しくは2つのサイトカインの組み合わせで表示した時間処理した、または処理しなかったHepG2細胞におけるHLA−A、HLA−B、HLA−C、IL−15RαおよびICAM−1(H〜L)のmRNAレベルの定量的RT−PCRによる測定並びにICAM−1およびHLA−ABCのウェスタンブロット(M)。IFNα2、OSM若しくは2つのサイトカインの組み合わせで4日間処理したHepG2細胞の表面上のICAM−1の測定のためのフローサイトメトリー調査(N)。値は、5度繰り返してまたは6度繰り返して実施した3回の実験の平均±SDである。p<0.05 vs未処理、IFNα2およびOSM。**p<0.05 vs未処理およびIFNα2。***p<0.05 vs未処理。
【図5】図5は、OSMが、抗原プロセッシングおよび提示に関与する遺伝子(PSMB9、TAP1)並びに獲得免疫の活性化に関与する遺伝子(IL−7)の、IFNβ誘発の上方制御を増強することを示す図である。IFNβ、OSM若しくは2つのサイトカインの組み合わせで表示した時間処理した、または処理しなかったHuh7細胞における定量的RT−PCRによりmRNA存在量の測定を実施した。値は、6度繰り返して実施した2回の実験の平均±SDである。p<0.05 vs未処理、IFNβおよびOSM。**p<0.05 vs未処理およびIFNβ。
【発明の具体的な説明】
【0019】
本発明は、ヒトにおいて上皮細胞の免疫賦活活性を増強するための医薬の製造における、オンコスタチンM(OSM)、OSM受容体(OSMR)アゴニスト、またはOSM若しくはOSMRアゴニストとI型インターフェロン(I型IFN)との組み合わせの使用に関する。同様に、本発明は、ヒトにおける上皮細胞の免疫賦活活性の増強における使用のための、OSM、OSMRアゴニストまたはOSM若しくはOSMRアゴニストとI型IFNとの組み合わせに関する。ヒトにおける上皮細胞の免疫賦活活性を増強する方法であって、前記ヒトに対して、有効量のOSM、OSMRアゴニストまたはOSM若しくはOSMRアゴニストとI型IFNとの組み合わせを投与することを含んでなる方法を同様に提供する。本明細書では、用語「単独のまたはI型IFNと組み合わせたOSM」は、オンコスタチンM(OSM)、OSM受容体(OSMR)アゴニストまたはOSMとI型インターフェロンとの組み合わせまたはOSMRアゴニストとI型インターフェロンとの組み合わせを包含して用いられる。
【0020】
本明細書において用いられる用語「オンコスタチンM」または「OSM」は、元来、PMA処理をしたU−937ヒト組織球性白血病細胞によって馴化した培地から、A375メラノーマ細胞の増殖を抑制するその能力に基づいて単離されたサイトカインをいう。ヒトOSMのcDNAは、25残基の疎水性シグナルペプチドと親水性C末端ペプチドを有し、タンパク分解を受けて196残基のOSMの成熟形態を生成する252アミノ酸のプレ−プロ−OSMポリペプチドをコードする。このタンパク質に対してリスト化されたアクセッション番号は、http://www.expasy.org/uniprot/P13725の公衆に利用可能なタンパク質データベース中に見つけることができる。ヒトOSMのアミノ酸配列は、配列番号1:MGVLLTQRTLLSLVLALLFPSMASMAAIGSCSKEYRVLLGQLQKQTDLMQDTSRLLDPYIRIQGLDVPKLREHCRERPGAFPSEETLRGLGRRGFLQTLNATLGCVLHRLADLEQRLPKAQDLERSGLNIEDLEKLQMARPNILGLRNNIYCMAQLLDNSDTAEPTKAGRGASQPPTPTPASDAFQRKLEGCRFLHGYHRFMHSVGRVFSKWGESPNRSRRHSPHQALRKGVRRTRPSRKGKRLMTRGQLPRにより表される。
【0021】
典型的な好適なOSMとしては、下記に限定されないが、例えば、R&Dシステムズ社から入手可能な天然起源の、または組換えのヒトOSMが挙げられる。
【0022】
「受容体命名法および薬剤分類に関する国際薬学連合委員会(International Union of Pharmacology Committee on Receptor Nomenclature and Drug Classification)」によれば、アゴニストは、受容体に結合して受容体の状態を変化させ、生物学的応答を引き起こすリガンドである。通常のアゴニストは受容体の活性を増加させ、一方で逆アゴニストはそれを低下させる。そのようなことで、逆アゴニストは、受容体に結合することにより活性なコンフォメーションの比を減らすリガンドとして定義される。逆アゴニストは、受容体の不活性のコンフォメーションに優先的な結合親和性を示す。受容体の構成的な活性が見られる系では、逆アゴニストは、アゴニストの逆の働きを引き起こす。
【0023】
用語「OSMRアゴニスト」は、通常のアゴニスト、すなわち、OSM受容体に結合してその活性を増加させるリガンドをいう。OSMRアゴニストの例は、日本国公開特許第2004-026768号公報(神奈川科学技術アカデミー)において提供されている。
【0024】
用語「リガンド」はOSMRに特異的に結合することができるすべての分子を意味する。リガンドとしては、小分子と同様にペプチド、ポリペプチド、膜関連若しくは膜結合分子、またはこれらの複合体が挙げられる。
【0025】
「小分子」は、10kD未満の、典型的には2kD未満の、好ましくは1kD未満の分子量を有する分子として定義される。小分子としては、下記に限定されないが、無機分子、有機分子、無機成分を含む有機分子、放射性原子からなる分子、合成分子、ペプチド模倣物および抗体模倣物が挙げられる。
【0026】
用語「インターフェロンタイプI」、「IFNタイプI」または等価の名称は、インターフェロン−α(IFN−α)およびインターフェロン−β(IFN−β)並びにウイルス複製および細胞増殖を抑制し、免疫応答を調節する高い相同性の種特異的タンパク質のファミリーをいう。
【0027】
本明細書で用いられる用語「インターフェロン−アルファ」は、組換えタンパク質同様に天然起源のIFN−αを包含する。IFN−αの例としては、シェーリング社から入手可能なイントロン−A(Intron-A)インターフェロンなどのインターフェロンアルファ−2b;ホフマン・ラ・ロッシュ社から入手可能なロフェロン(Roferon)インターフェロンなどの組換えインターフェロンアルファ−2a;べーリンガーインゲルハイム社から入手可能なベロフォア(Berofor)アルファ2インターフェロンなどの組換えインターフェロンアルファ−2c;スミトモ社から入手可能なスミフェロン(Sumiferon)若しくはグラクソ−ウェルカム社から入手可能なウェルフェロン(Welferon)インターフェロンアルファ−n1(INS)などの、精製された天然アルファインターフェロンの混合物であるインターフェロンアルファ−n1;または、アムジェン社から入手可能な特定の製品である米国特許第4897471号公報および米国特許第4695623号公報(特にその実施例7、8または9)に記載されたものなどのコンセンサスインターフェロンアルファ;インターフェロンアルファ−5;または、インターフェロンサイエンス社により製造され、かつアルフェロンの商品名でパーデュー・フレデリック社から入手可能な天然インターフェロンアルファの混合物である、インターフェロンアルファ−n3が挙げられる。インターフェロンアルファ−2aまたはアルファ−2bの使用が好ましい。すべてのインターフェロンの中でインターフェロンアルファ2bが世界を通じて最も幅広く承認を得ているので、これが最も好ましい。インターフェロンアルファ2bの製造は米国特許第4530901号公報に記載されている。
【0028】
用語「インターフェロン−ベータ」とは、組換えタンパク質同様に、天然起源のIFN−βを包含することを意図されている。IFN−βの例としては、以下に限定されないが、インターフェロン−ベータ−1aおよびインターフェロン−ベータ−1bが挙げられる。インターフェロン−ベータ−1aはアボネックス(Avonex)の商標でバイオジェン社により、およびレビフ(Rebif)の商標でセロノ社(Serono)から販売されている。インターフェロン−ベータ−1bの他の形態がベータセロン(Betaseron)の商標でバーレックス社(Berlex)により販売されている。アボネックス(商標)中のIFN−ベータ−1aはグリコシル化された天然のヒト配列であるが、一方で、ベータセロン(商標)中のIFN−ベータ−1bは、セリン−17が置換されたグリコシル化されていない天然のヒト配列である。
【0029】
OSMおよびIFNタイプ1タンパク質は、例えば、これらのタンパク質を天然に産生する細胞、またはタンパク質の合成若しくは分泌を導くことのできる組換えDNA分子でトランスフェクトした若しくは形質転換した細胞を含む、生理活性のOSMまたはIFNタイプIタンパク質を合成する様々な細胞源から得ることができる。代わりに、OSMおよびIFNタイプIタンパク質は、以下に限定されないが固相ペプチド合成を含む化学合成法により合成することができる。
【0030】
OSMおよびIFNタイプIに関連して本明細書で用いられる用語「組換えタンパク質」は、原核または真核の宿主細胞からDNA組換え技術により得られるこれらのタンパク質並びにその塩、機能的な誘導体、変異体、類似体および断片をいう。
【0031】
典型的には、組換えOSM、組換えIFN−αおよび組換えIFN−ベータ−1bは、ヒトタンパク質をコードするDNAを含んでなる、遺伝学的に改変されたEscherichia coli細菌から、その後好適な栄養培地で発酵させて得ることができる。アボネックス(商標)中のIFN−ベータ−1aは、組換えDNA技術を用いてチャイニーズハムスター卵巣細胞中に産生される。
【0032】
本明細書の用語「塩」とはOSM、OSMRアゴニストおよびIFNタイプI分子またはそれらの類似体のカルボキシル基の塩およびアミノ基の酸付加塩をいう。カルボキシル基の塩は、公知の方法により形成することができ、無機塩、例えば、ナトリウム、カルシウム、アンモニウム、第二鉄または亜鉛塩など、並びに、例えば、トリエタノールアミン、アルギニン、リジン、ピペリジン、プロカインなどのアミンと形成される塩のような有機塩基との塩があげられる。酸付加塩としては、例えば、例えば塩酸または硫酸などの無機酸との塩および、例えば酢酸またはシュウ酸などの有機酸との塩があげられる。当然、その如何なる塩もOSMまたはIFNタイプIの生理活性を保持しなければならない。治療の使用のためには、OSMおよびIFNタイプIの塩は、対イオンが薬学的に許容される塩である。薬学的に許容されない塩も、薬学上許容される最終生成物の製造に用いることができるので、本発明の範囲に包含される。
【0033】
本明細書で用いられる「機能的誘導体」は、残基の側鎖またはN−若しくはC−末端基として生じる官能基から当技術分野で公知の方法により調製することができ、それらが薬学的に許容される限り、すなわち、それらが上記のタンパク質の生理活性、すなわち、対応する受容体に結合し受容体シグナルを開始する能力を破壊せず、それを含む構成成分に毒性を与えない限り、本発明に含まれる。誘導体は、そのような誘導体がタンパク質の生理活性を保持し、薬学的に許容されるならば、炭化水素またはリン酸残基などの化学部分を有していても良い。
【0034】
誘導体としては、例えば、カルボキシル基の脂肪酸エステル;アンモニアとの若しくは一級若しくは二級アミンとの反応によるカルボキシル基のアミド;アシル部分(例えば、アルカノイル若しくはカルボサイクリックアロイル基)と形成されるアミノ酸残基のN−アシル誘導体若しくは遊離アミノ基;またはアシル部分と形成される遊離ヒドロキシル基(例えば、セリル若しくはトレオニル残基のもの)のO−アシル誘導体が挙げられる。また、このような誘導体としては、例えば、抗原部位を隠し、血流における分子の滞在期間を延長させるポリエチレングリコール側鎖が挙げられる。
【0035】
錯化剤に由来しまたはこれと組み合わされて長期持続性であるタンパク質がとりわけ重要である。例えば、ペグ化バージョンまたは遺伝学的に改変され体内で長期持続性の活性を示すタンパク質を本発明に従って用いることができる。
【0036】
本発明によれば、「変異体」とは、上記で定義した全長のタンパク質またはその断片と実質的に同様の分子のことをいう。変異体ペプチドは、周知の方法を用いて変異体ペプチドの直接的な化学合成により便利に調製することができる。当然、そのような変異体は、対応する天然に生じたタンパク質と同様の受容体結合およびシグナル開始活性を有する。
【0037】
タンパク質の主要構造の変異が、高次構造組織体の変異、例えば、アミノ酸残基を結合させる共有結合、またはタンパク質の末端残基への基の付加のタイプの変異と同様に、本発明の範囲である。さらに、タンパク質分子は、例えば、欠失、付加および置換を含む分子の機能を保つサイレントな変化を起こすアミノ酸残基に、保守的なまたは非保守的な変化を含んでいても良い。そのような変化した分子は、その使用においてある利点を提供するときに所望されうる。本明細書で用いられる、保守的な置換は、対応するタンパク質の配列内での1以上のアミノ酸の、同じ極性および疎水性/親水性の特性を有し機能的に等価な分子を生ずる他のアミノ酸での置換を含む。そのような保守的な置換としては、下記に限定されないが、以下のグループのアミノ酸内での置換が挙げられる:グリシン、アラニン;バリン、イソロイシン、ロイシン;アスパラギン酸、グルタミン酸;アスパラギン、グルタミン;セリン、スレオニン;リジン、アルギニン;フェニルアラニン、チロシン;およびメチオニン、ノルロイシン。
【0038】
上記で定義したタンパク質のアミノ酸配列の変異体は、合成された誘導体をコードするDNAの変異により調製することができる。そのような変異体としては、例えば、アミノ酸配列内の残基からの欠失または残基の挿入若しくは置換が挙げられる。最終的なコンストラクトが所望の活性を有する限りにおいて、欠失、挿入および置換のいかなる組み合わせも、最終的なコンストラクトに生じさせて良い。変異体ペプチドをコードするDNA内に作られる変異は、読み枠を変化させてはならず、好ましくはmRNAの二次構造を生み出しうる相補的な領域を作らないことは自明であろう。
【0039】
遺伝学的なレベルでは、これらの変異体は、通常はペプチド分子をコードするDNA内のヌクレオチドの部位特異的変異生成と、それによる変異体をコードするDNAの製造、およびその後の組換え細胞培養内でのDNAの発現により調製される。典型的には、変異体は非変異体ペプチドと同じ質の生理活性を示す。
【0040】
本発明による上記で定義したタンパク質の「類似体」とは、全体の分子またはその活性な断片と実質的に同様な非天然分子をいう。そのような類似体は、対応する天然に生じたタンパク質と同じ活性を示す。
【0041】
本発明による「断片」とは、あらゆる分子の部分集合、つまり、所望の生理活性を保持する、より短いペプチドをいう。断片は、分子の両端からアミノ酸を除き、受容体アゴニストとしての結果物のその特性を試験することにより容易に調製できる。ペプチドのN末端またはC末端のいずれかから一時に一つのアミノ酸を除くプロテアーゼが公知である。
【0042】
用語「上皮細胞の免疫賦活活性」とは、上皮細胞により引き起こされた細胞性免疫応答の発達をいう。
【0043】
「細胞性免疫応答」とは、Tリンパ球により、若しくはその他の白血球により、または2つの組合せにより媒介される免疫応答をいう。細胞性免疫の一つの重要な側面は、細胞障害性T細胞(CTL)による抗原特異的応答を含む。CTLは、主要組織適合性複合体(MHC)によりコードされ、細胞の表面上に発現するタンパク質を伴って提示されるペプチド抗原に対する特異性を有する。CTLは、細胞内病原体の細胞内での破壊またはそのような病原体に感染した細胞の溶解の誘発および促進を助ける。細胞性免疫のもう一つの側面は、ヘルパーT細胞による抗原特異的応答を含む。ヘルパーT細胞は、細胞上のMHCを伴うペプチド抗原を提示する細胞に対する、非特異的エフェクター細胞の機能を賦活化し、活性を集中させるのを助けるために働く。「細胞性免疫応答」は、同様に、サイトカイン、ケモカインおよびCD4+およびCD8+T細胞に由来するものを含む活性化T細胞や他の白血球により産生されるその他の分子の産生をいう。
【0044】
単独のまたはIFNタイプIと組み合わせたOSMは、上皮細胞における抗原プロセッシングおよび提示の過程を賦活化するので、上皮細胞に免疫原性の特性を付与する。
【0045】
用語「免疫原性」とは、抗原と呼ばれる特定の物質の、免疫応答を引き起こす能力をいう(さらなる免疫原性の定義のために、例えば、Roitt: Essential Immunology(11th Edition, Blackwell)を参照)。単独のまたはIFNタイプIと組み合わせたOSMに関して用いるときは、それは、上皮細胞における抗原プロセッシングおよび提示の仕組みを活性化することにより免疫系から応答を誘発するこれらのタンパク質の能力を表す。単独のまたはIFNタイプIと組み合わせたOSMは、抗原産生を活性化し、細胞膜にて提示されて、抗原が最終的に免疫応答を引き起こすので、上皮細胞の免疫原性を増加させる物質としても考えることができる。
【0046】
上皮細胞における抗原プロセッシングおよび提示の過程は、前記細胞内での抗原の産生、すなわち、癌細胞において変異した遺伝子のような変異遺伝子によりコードされる異常タンパク質と同様に、上皮細胞に感染した病原体が発現するタンパク質の断片化(タンパク質分解)を含む。細胞内で断片(例えば、ペプチド)に分解されたこれらの内在性の抗原は、その後、MHC分子と連結して、クラスI組織適合性分子内に具合良くおさまって細胞の表面に最終的に提示されるか発現提示され、ここで、これらは感染若しくは腫瘍細胞を破壊する仕組みを有するT細胞、特にCD8+T細胞上のT細胞受容体により認識される。
【0047】
そのようにして、単独のまたはIFNタイプIと組み合わせたOSMは、感染または腫瘍上皮細胞の抗原性を増加させ、これらの細胞にこれらの細胞表面でより多くの抗原をプロセッシングさせ、および提示させて、それゆえに、免疫応答に対してより見え、かつより反応性になり、最終的に同じ細胞の選択的破壊を引き起こす。
【0048】
それゆえに、単独のまたはIFNタイプIと組み合わせたOSMは、前記タンパク質が病原体に感染したまたは腫瘍性である上皮細胞のみを破壊する過程を選択的に活性化することができるので、癌ならびにウイルス、細菌、真菌および寄生生物などの感染性病原体により引き起こされる疾患の免疫療法において有用な薬剤の典型となる。
【0049】
本明細書で用いられる用語「免疫療法」とは、細胞性免疫応答の活性化に基づく治療のまたは予防の処置をいう。
【0050】
本発明の一つの態様では、細胞性免疫応答は、自然免疫応答または獲得免疫応答でありうる。好ましくは、細胞性免疫応答は獲得免疫応答である。
【0051】
本発明の一つの態様では、上皮細胞の免疫賦活活性は、Tリンパ球の増殖、NK若しくはCD8+細胞に対するインターロイキン15(IL−15)のトランス提示またはインターフェロンガンマ(IFN−γ)を含んでなる。
【0052】
本発明のさらなる態様は、上皮細胞が細胞性病原体に感染したまたは腫瘍上皮細胞である、ヒトにおける上皮細胞の免疫賦活活性を増強するための医薬の製造における、OSM、OSMRアゴニストまたはOSM若しくはOSMRアゴニストとインターフェロンタイプIとの組み合わせの使用に関する。
【0053】
上皮細胞に感染する細胞性病原体としては、病原性ウイルス、細菌、真菌および寄生生物、特にレトロウイルス、アデノウイルス、パピローマウイルス、ヘルペスウイルス、サイトメガロウイルス、アデノ関連ウイルス、肝炎ウイルス、肺炎ウイルス、ノロウイルス、ロタウイルス、アストロウイルス、パラミクソウイルス、ムンプスウイルス、ウイルスタンパク質、ウイロイドなど;髄膜炎菌、肺炎球菌、マイコバクテリア、サルモネラ属菌、シゲラ属菌、スタフィロコッカス属菌、カンピロバクター・ジェジュニ、クロストリディウム属菌、大腸菌、エルシニア属菌、ボーデテラ・パーツシス、トレポネマ属菌など;レイシュマニア属、トキソプラズマ属、住血吸中属、肝吸虫属若しくはプラスモディウム属などの寄生生物;またはヒストプラズマ属、アスペルギルス属、カンジダ属、クリプトコッカス属、ニューモシスチス属などのような真菌が挙げられるべきである。
【0054】
腫瘍上皮細胞は、腺癌(気管支肺胞腺癌、明細胞腺癌、小胞状腺腫、膠様腺癌、乳頭腺癌、硬性腺癌、皮脂腺癌、副腎皮質腺癌、カルチノイド腫瘍、腺房細胞癌、腺様嚢胞癌、腺管癌、類内膜癌、膵臓腺癌、胃癌、結腸直腸癌、肝細胞癌、非浸潤性腺管内癌、膵島細胞癌、小葉癌、粘液性類表皮癌、神経内分泌癌、腎細胞癌、印環細胞癌、皮膚付属器癌、胆管癌、絨毛癌、嚢胞腺癌、クラツキン腫瘍、乳房外パジェット病);腺扁平上皮癌;基底細胞癌;基底有棘細胞癌;エールリッヒ癌;巨細胞癌;上皮内癌(子宮頸部上皮内腫瘍および前立腺上皮内腫瘍);クレブス2癌;大細胞癌;ルイス肺癌;非小細胞肺癌;乳頭状癌;扁平上皮癌(ボーエン病);移行上皮癌;ゆうぜい性癌などの癌腫から選択することができる。
【0055】
腫瘍上皮細胞は、皮脂腺癌、皮膚付属器癌などの付属器および皮膚付属器腫瘍;基底細胞癌(基底細胞母斑症候群)、基底有棘細胞癌および毛質性上皮腫などの基底細胞性腫瘍;粘液性腺癌、粘液性類表皮癌、印環細胞癌(クルーケンベルク腫)、嚢胞腺癌(粘液性嚢胞腺癌、乳頭状嚢胞腺癌、漿液性嚢胞腺癌)、嚢胞腺腫(粘液性嚢胞腫、乳頭状嚢胞腫、漿液性嚢胞腫)、粘液類上皮腫、および腹膜偽性粘液腫などの粘液嚢腺腫;腺管癌(乳管癌、膵管癌)、非浸潤性腺管内癌(乳房ページェット病)、小葉癌、髄様癌、乳房外ページェット病、管内乳頭腫などの腺管性、小葉性および髄様性腫瘍;腺線維腫、ブレンナー腫瘍などの線維上皮腫瘍;類腺腫瘍、中皮腫(嚢胞性中皮腫)などの中皮腫瘍;並びに棘細胞腫、乳頭状癌、扁平上皮細胞癌(ボーエン病)、ゆうぜい性癌、乳頭腫(内反乳頭腫)などの扁平細胞腫瘍から選択することができる。
【0056】
OSM、OSMRアゴニストまたはOSM若しくはOSMRアゴニストとインターフェロンタイプIとの組み合わせは、別々の医薬処方物として、または同一の単一の投与形態の一部として一緒に投与することができる。代わりに、OSM、OSMRアゴニストまたはOSM若しくはOSMRアゴニストとインターフェロンタイプIとの組み合わせは、別々に、しかし、同一の処方計画の一部として投与することができる。別々に投与されるなら、2つの成分は、それが望まれかつ可能であったとしても、必ずしも本質的に同時に投与される必要はない。従って、OSM、OSMRアゴニストまたはOSM若しくはOSMRアゴニストとインターフェロンタイプIとの組み合わせは、別々の投与形態として、しかし同時に、投与することができる。場合によっては、OSM、OSMRアゴニストまたはOSM若しくはOSMRアゴニストとインターフェロンタイプIとの組み合わせの別々の投与は、異なる時間におよび任意の順序で行ってもよい。
【0057】
本発明の一つの態様では、ヒトにおいて上皮細胞の免疫賦活活性を増強するための、同時の、別々の若しくは連続的な使用のための組み合わせ製剤として、OSMまたはOSMRアゴニストおよびIFNタイプIを含んでなる製品が提供される。さらなる態様では、ヒトにおいて上皮細胞の免疫賦活活性を増強するための、同時の、別々の若しくは連続的な使用のための組み合わせ製剤として、OSMまたはOSMRアゴニストおよびIFNタイプIを含む製品が提供される。
【0058】
本発明はさらに、キットの形態において別々の医薬処方物を組み合わせることに関する。例えば、キットは、1)OSMまたはOSMRアゴニスト、および2)IFNタイプIを含んでなる2つの別々の医薬処方物を含んでなることができる。同様に、キットは、分割されたボトルまたは分割されたホイルの小包などの別々の処方物のための容器を含んでなる。容器のさらなる例としては、注射器、箱、袋などが挙げられる。典型的には、キットは、別々の成分の投与のための説明書を含んでなる。キットの形態は、別々の成分を好んで異なる投与形態(例えば、経口および非経口)で投与する、若しくは異なる投与間隔で投与するとき、または組み合わせのそれぞれの成分の滴定が処方医により望まれているときに特に有利である。
【0059】
本発明の製品またはキットは、ヒトにおける上皮細胞の免疫賦活活性を増強するために特に適している。本発明の一つの実施形態では、OSM、OSMRアゴニストまたはOSM若しくはOSMRアゴニストとインターフェロンタイプIとの組み合わせを含んでなる製品またはキットは、癌ならびにウイルス、細菌、真菌および寄生生物により引き起こされる疾患の免疫療法に用いられる。
【0060】
さらなる態様では、本発明は、ヒトにおける上皮細胞の免疫賦活活性を増強するための医薬の製造における単独のまたはIFNタイプIと組み合わせたOSMの上記の使用であって、単独のまたはIFNタイプIと組み合わせたOSMが治療学的に有効な量の単独のまたはIFNタイプIと組み合わせたOSMおよび薬学的に許容される担体を含んでなる医薬組成物において調合される使用に関する。この文脈において、治療学的に有効な量は、臨床的に意味のある様式でヒトにおいて上皮細胞の免疫賦活活性を増強するのに十分な量である。
【0061】
単独のまたはIFNタイプIと組み合わせたOSMは、投与目的のために様々な医薬形態へと調合されうる。適切な組成物として、全身に薬を投与するために通常利用される全ての組成物を挙げることができる。本発明の医薬組成物を調製するために、有効量の単独のまたはIFNタイプIと組み合わせたOSMが有効成分として、薬学上許容される担体との完全な混合物中に組み合わされ、その担体は投与に望まれる調製の方式に依存して広く様々な形態を取りうる。これらの医薬組成物は、特に経口で、直腸経由で、経皮で、吸入による、または非経口(すなわち、皮下の、静脈注射の、筋肉内の若しくは腹腔内の)経路による投与に適した単一の投与形態であることが望ましい。単独のまたはIFNタイプIと組み合わせたOSMは、錠剤、カプセル剤および粉末剤などの固形の投与形態、またはエリキシール剤、シロップ剤および懸濁剤などの液体の投与形態において、経口により投与することができる。本発明の医薬組成物は、滅菌した液体の投与形態において非経口的に投与することもできる。投与の好ましい経路は、特に筋肉内の、静脈内の、または皮下の注射によるこれらの非経口経路である。
【0062】
非経口投与のための処方物は、水性若しくは非水性の等張の滅菌した注射水溶液または懸濁液の形態とすることができる。例えば、その中で担体が生理食塩水溶液若しくはグルコース溶液または生理食塩水およびグルコース溶液の混合物を含んでなる注射可能な水溶液を調製することができる。注射可能な懸濁液を調製することもでき、その場合、適切な液体の担体、懸濁化剤などが利用される。使用直前に液体形態の製剤へと変換されることを意図した固体形態の製剤も含まれる。経皮投与に適した組成物において、担体は、場合によって透過促進剤および/または好適な湿潤剤を含んでいてもよく、場合によって皮膚に有意に有害な影響を与えない、あらゆる性質の少量の好適な添加剤と組み合わされてもよい。これらの後者の好適な添加剤は、抗酸化剤、保存剤、安定化剤、乳化剤、浸透圧に影響する塩、および/または緩衝物質としてもよい。
【0063】
代わりに、単独のまたはIFNタイプIと組み合わせたOSMはリポソーム中に調合され、上皮細胞に届けることができる。リポソームは、音波破砕、キレート透析、均質化、押し出し成形と連結した溶媒注入、凍結融解押し出し成形、微細乳化を含む通常の技術を他の技術同様に用いて調製することができる。本発明のタンパク質にリポソームまたは他の脂質含有の薬剤を架橋させるために使われる試薬は、脂質層における架橋の一端と標的の生体分子に付着点を提供する他端の反応性基とを固定するリン脂質誘導体を含んでなる。重合したリポソームまたはポリマーで被覆されたリポソームを同様に用いてよい。そのようなポリマーは、リポソームを安定化し、体からのそのクリアランスを低下させ、および/またはその免疫原性を低下させるだろう。リポソームには、診断のまたは治療の薬剤などの機能性成分を、その形成中に若しくは形成後に加えることができる。薬剤は、リポソームの水性の中心部に含ませてもよいし、またはその周囲の膜に取り込ませ若しくは付着させてもよい。
【0064】
投与の容易さおよび用量の均一性のためには、単位投与形態における前記医薬組成物を調合することが特に都合がよい。本明細書で用いられる単位投与形態は、単一の用量として適した物理的に別個な単位のことをいい、各々の単位が所望の治療効果を生み出すために計算され、前もって決定された量の有効成分を、必要とされる薬学的な担体と共に含む。そのような単位投与形態の例は、錠剤(分割錠剤またはコーティング錠剤を含む)、カプセル剤、丸薬、座薬、粉末分包、オブラート剤、注射液または懸濁液など、並びにそれらの分離された集合物である。
【0065】
本発明によれば化合物の一日の用量は、投与、所望される処置および疾患の重大さの様式によって変わるだろう。
【0066】
一般的に、OSMの一日の有効量は患者当たり約0.05〜約5.0mgの範囲に及ぶと考えられる。IFNタイプIのケースでは、一日の有効量は1〜1,000μg/mLであろう。IFNα2aは通常11.1μg/0.5mL、22.2μg/0.5mL、33.3μg/0.5mLで毎日または週に3回投与される。IFNα2bは通常0.038mg/1mL、0.069mg/1mL、0.087mg/1.5mL、0.144mg/1.5mL、0.192mg/1mL、0.288mg/1.5mLで週に3回または5回注射により投与される。IFNβ1aは通常8.8μg/0.5mL、22μg/0.5mLまたは44μg/0.5mLで週3回皮下に注射で投与される。IFNβ1bは通常0.0625mg/0.25mLで、および0.25mg/1mLまで増加させられて隔日で皮下に注射で投与される。
【0067】
1、2、3、4またはそれ以上の分割用量として必要とされる用量を、一日を通じて適切な間隔で投与することが適切である。さらに、前記一日の有効量は治療対象の応答に依存して、および/または本発明の化合物を処方する医師の評価に依存して減らされ、または増やされてもよい。上記の一日の有効量は、それゆえに単なる指針でしかない。
【0068】
単独のまたはIFNタイプIと組み合わせたOSMは、ポリペプチドとして、例えば組換えタンパク質として提供してもよいし、または代わりに前記成分の一つ若しくは両方を、前記成分をコードする核酸配列を含んでなるポリヌクレオチドとして提供してもよい。
【0069】
好ましい態様では、前記成分をコードするポリヌクレオチドはベクター内に包含される。本発明の一つの態様では、OSMまたはOSMRアゴニストをコードする核酸および場合によってIFNタイプIをコードする核酸を含んでなる組換え発現ベクターであって、好適な発現宿主内でOSMまたはOSMRアゴニストおよび場合によってIFNタイプIの産生を導く1以上の制御配列と作動可能に連結させた組換え発現ベクターが提供される。
【0070】
いくつかのケースでは、OSMまたはOSMRアゴニストおよびIFNタイプIの異なるポリペプチド鎖をコードする核酸は、同一の発現ベクター内に提供することができる。
【0071】
当業者であれば理解するように、ヒトにおいて上皮細胞の免疫賦活活性を増強するためのOSMまたはOSMRアゴニストをコードするヌクレオチド配列を含んでなるポリヌクレオチドおよびIFNタイプIをコードするヌクレオチド配列を含んでなるポリヌクレオチドの組み合わせの投与の代わりに、本発明を実施する他の方法は、両方のポリヌクレオチドを含んでなる組換え発現ベクター、すなわち、OSMまたはOSMRアゴニストをコードするヌクレオチド配列とIFNタイプIをコードするヌクレオチド配列とを含んでなるベクターを投与することからなる。ベクターが受容体宿主に発現したとき、従って、それは前記治療効果を達成する、対応するタンパク質を生産するだろう。
【0072】
本発明のキットおよび組成物を形成するポリヌクレオチドを収容するに適したベクターとしては、宿主細胞に導入されたときに前記細胞のゲノムに統合される若しくはされないプラスミドまたはベクターが挙げられる。前記ベクターは当業者により知られた通常の方法により得ることができ、例えば、Sambrook, et al., 2001に見いだすことができる。
【0073】
しかしながら、本発明の範囲においては、本発明のベクターは、好ましくは、遺伝子治療におけるその使用に適したウイルスまたは非ウイルスベクターであり、非制限的な例示により、前記ベクターはレトロウイルス、アデノウイルス、アルファウイルスなどに基づくウイルスベクター、または非ウイルスベクターのケースでは、ベクターは、DNA−リポソーム、DNA−ポリマー、DNA−ポリマー−リポソーム複合体など(Hung, 1999)とすることができる。単独のまたはIFNタイプIを組み合わされたOSMをコードするヌクレオチド配列を含んでなる前記ウイルスおよび非ウイルスベクターは、通常の方法によってヒトの体に直接的に投与される。
【0074】
特別の態様では、ベクターはウイルスベクターであり、他の特別の態様ではセムリキ森林ウイルス、シンドビスウイルスおよびベネズエラウマ脳炎(VEE)などのアルファウイルス;高容量アデノウイルス;制限増殖型アデノウイルス;またはアデノ関連ウイルスである。好ましい特別の態様では、アルファウイルスはセムリキ森林ウイルスである。
【0075】
代わりに、前記ベクターは、細胞、特に哺乳細胞を、例えば生体外(ex vivo)で形質転換し、トランスフェクトし、または感染し、次いで、所望の治療効果を得るためにヒトの体に細胞を移植するために用いることができる。対象へのその投与のために、前記細胞はその生存率に悪く影響しない好適な培地内で調製されるであろう。同様に、当業者であれば理解するように、前記ベクターは、数多ある中でマルチクローニングサイト、発現制御配列、ベクターが導入される宿主細胞に適した複製起点、選択マーカーなどを含んでなることができる。
【0076】
本発明のベクターは、ポリヌクレオチドの前にある1以上の制御または発現調節配列であって、好適な発現宿主においてOSMまたはOSMRアゴニストおよび場合によってIFNタイプIの産生を導くために前記ポリヌクレオチドに作動可能に連結させた制御または発現調節配列を含んでなる。本明細書で用いられる表現「作動可能に連結させた」とは、OSMまたはOSMRアゴニストをコードするポリヌクレオチドおよびIFNタイプIをコードするポリヌクレオチドが前記制御または発現調節配列の制御下でその発現のために正しい読み枠で存在することを意味する。
【0077】
本発明に有用な調節配列は、核促進配列または代わりにエンハンサ配列および/または異種の核酸配列の発現を増加させる他の調節配列とすることができる。プロモータは、構成的または誘導性なものとすることができる。従って、異種の核酸配列の一定の発現が所望されるのであれば、構成的なプロモータを用いる。周知の構成的なプロモータの例としては、サイトメガロウイルス(CMV)前初期プロモータ、ラウス肉腫ウイルスプロモータなどが挙げられる。構成的プロモータの他の数多くの例は、当業者に周知であり、発明の実施に用いることができる。従って、異種の核酸配列の制御された発現が所望されるのであれば、誘導性プロモータを用いなければならない。非誘導状態では、誘導性プロモータは「休止」していなければならない。「休止」とは、誘導物質の非存在下では、異種の核酸配列の発現がほとんどまたは全く観察されない;しかし、誘導物質の存在下では異種の核酸配列の発現が起こることを意味することと理解される。発現レベルは、しばしば誘導物質の濃度を変化させることにより制御される。誘導性プロモータがより強く、またはより弱く刺激されるように、例えば誘導物質の濃度を変化させることにより発現を制御することにより、異種の核酸配列の転写産物の濃度が影響を受ける。異種の核酸配列が遺伝子をコードする事象において、合成されるタンパク質の量が制御される。従って、治療産物の濃度を変化させることができる。周知の誘導性プロモータの例は、アンドロゲンもしくはエストロゲン−応答プロモータ、ドキシサイクリン−応答プロモータ、メタロチオネインプロモータ、またはエクジソンに応答するプロモータである。他の様々な例が当技術分野で周知であり、本発明の実施に用いることができる。(通常、広範な種類の細胞または組織型で機能する)構成的および誘導性プロモータに加えて、組織特異的プロモータを、細胞または組織内で特異的な異種の核酸配列の発現を達成するために用いることができる。組織特異的プロモータの周知の例としては、アルブミン、アルファ−1アンチトリプシンまたはヘモペキシンプロモータ(Kramer, et al., 2003)などの肝臓特異的プロモータ、骨格筋α−アクチンプロモータ、心筋アクチンプロモータ、骨格筋トロポニンCプロモータ、遅筋型心筋トロポニンCプロモータおよびクレアチンキナーゼプロモータ/エンハンサを含む様々な筋特異的プロモータ、またはヒト肝細胞癌のα−フェトプロテインプロモータ若しくは前立腺癌の前立腺特異的抗原プロモータなどの腫瘍特異的プロモータが挙げられる。当技術分野にて周知で、かつ本発明の実施に用いることができる数多くの筋特異的プロモータ(筋特異的プロモータの総説のためにMiller, et al., 1993を参照)が存在する。
【0078】
本明細書で用いられる「異種の」とは、「異なる天然起源の」を意味し、または非天然状態を表す。例えば、「異種の」は、同一の天然起源の細胞型から由来し、かつ、同一の天然起源の細胞型に挿入されたヌクレオチド配列であるが、非天然状態で、例えば、異なるコピー数または異なる調整因子の制御下で存在するヌクレオチド配列をいう。同様に、他の生物、特に他の種に由来するDNAまたは遺伝子で宿主細胞を形質転換するなら、その遺伝子はその宿主細胞に関して異種であり、その遺伝子を有する宿主細胞の子孫に関しても同様である。
【0079】
本発明のベクターは、トランスフェクションによって宿主細胞に届けることができる。通常のトランスフェクション技術としては、リン酸カルシウム若しくは塩化カルシウム共沈殿、DEAE−デキストラン媒介のトランスフェクション、リポフェクション、(マイクロ)インジェクションまたはエレクトロポレーションを含み、外来の核酸(例えば、DNAまたはRNA)を宿主細胞に導入するための、当技術分野において認知されている様々な技術が挙げられる。
【0080】
本発明のさらなる態様は、上記で定義した組換え発現ベクターを含んでなる宿主細胞に関する。
【0081】
「宿主細胞」は、例えば、エレクトロポレーション、リン酸カルシウム沈殿、マイクロインジェクション、形質転換、ウイルス感染など、如何なる手段によるものであっても細胞に導入された異種のDNAを含む原核または真核細胞をいう。
【0082】
それゆえに、本発明の組換え発現ベクターおよび宿主細胞は、ヒトにおける上皮細胞の免疫賦活活性を増強するための医薬の製造に有用である。そのようにして、これらは、1以上の薬学的に許容される添加剤で適切に整えられ、それにより医薬処方物を構成する。
【0083】
さらなる態様では、本発明は、獲得免疫療法における使用のための賦活化リンパ球CD8+の調製のためのイン・ビトロの方法であって、前記方法が、
a)有効用量のOSM、OSMRアゴニスト、またはOSM若しくはOSMRアゴニストとIFNタイプIとの組み合わせ、または本発明により提供される組換え発現ベクターでヒト由来の上皮細胞または組織を処置すること、
b)工程a)で得られた処置された細胞または組織に放射線照射すること、
c)工程b)で得られた放射線照射された細胞または組織を、
−末梢血単核球(PBMC)若しくは
−濃縮されたCD8+リンパ球および場合によって抗原提示細胞
と共培養すること、および
d)場合によって、工程c)で得られた賦活化CD8+リンパ球を工程b)で得られた、処置され、かつ放射線照射された細胞または組織と共培養すること
(ここで、PBMC、CD8+リンパ球、および上皮細胞または組織は同一のヒト対象に由来する)
を含んでなる方法に関する。
【0084】
ヒト対象の処置における獲得性の細胞治療のためにCD8+リンパ球を用いる方法は、当技術分野で熟練した医師に知られている。本明細書に記載された方法に従って調製され、当技術分野で公知のCD8+リンパ球は、そのような方法に用いることができる。例えば、抗腫瘍細胞障害性T細胞株を用いた獲得性の細胞治療は、固形腫瘍の患者において臨床で試験されてきた(Turin, et al., 2007)。
【0085】
本発明は、生体外で賦活化し、その後患者にそれらを再投与することにより、増強した免疫レベルを患者に提供することにより獲得免疫療法を増強する方法を提供する。細胞は対象に組織適合性であり、同種異系または自家とすることができる。それらは、好ましくは治療を受ける同一の患者に由来する。
【0086】
賦活化リンパ球CD8+の調製のイン・ビトロの方法は、患者からの末梢血単核球(PBMC)を単離すること;同一の患者から上皮細胞を単離することおよびそれらを有効量のOSM,OSMRアゴニスト、若しくはOSM若しくはOSMRアゴニストとIFNタイプIとの組み合わせ、または本発明の組換え発現ベクターで処理すること;並びに、培地中で培養中の細胞を大量に増やすことを含んでなる。賦活化リンパ球CD8+を含んでなるこれらの増やされた細胞は、その後、免疫療法の目的のために患者に再び戻してもよい。
【0087】
他の態様では、PBMCを一度単離すると、より均質性を増すために、またはCD8+リンパ球の濃縮培養物を得るためにこれらの細胞をさらに単離し、その後、これらの細胞をその患者に再投与することができる。
【0088】
代わりに、上記の方法の工程c)で得られた賦活化リンパ球CD8+は、問題の患者の免疫療法における使用のために十分に多くの数の賦活化リンパ球CD8+を得るために都合のよい回数だけ、上記工程b)で得られた処理され放射線照射された細胞または組織と共に培養してもよい。
【0089】
本発明は、患者から上皮細胞を単離し、有効用量のOSM、OSMRアゴニスト若しくはOSM若しくはOSMRアゴニストとIFNタイプIとの組み合わせ、または本発明の組換え発現ベクターでそれらを処置すること;処置した細胞を放射線照射すること;患者からの処置され、かつ放射線照射された材料と、濃縮したCD8+リンパ球および場合によって自家の樹状細胞、単球、B細胞、EBV−形質転換B細胞株、共有された制限したアリールを発現する同種異系のEBV形質転換B細胞株、人工抗原提示細胞などの抗原提示細胞(APC)とを共培養すること;並びにこれらの細胞を培養において増殖させることを含んでなる、獲得免疫療法における使用のための賦活化リンパ球CD8+を調製するイン・ビトロの方法を提供する。賦活化リンパ球CD8+を含んでなるこれらの増殖した細胞は、患者に再導入して戻すことができる。
【0090】
本発明は、さらに、癌、若しくは感染症の処置のための医薬として、または医薬の製造におけるこれらの賦活化リンパ球CD8+の使用と同様に本明細書に記載された方法により得られうる賦活化リンパ球CD8+に関する。等価なことであるが、本発明は、ヒトにおける癌または感染症を処置する方法であって、前記方法が本明細書に記載された方法に従って有効量の賦活化リンパ球CD8+を投与することを含んでなる方法に関する。
【0091】
OSM、OSMRアゴニストまたはOSM若しくはOSMRアゴニストとI型インターフェロンとの組み合わせは、それゆえにヒト上皮細胞の免疫賦活活性のイン・ビトロの増強剤として有用である。本発明の特別の態様では、I型インターフェロンは、IFN−αであり、他の特別な態様ではIFN−βである。
【0092】
本発明は、下記の実施例により例証され、限定的に解釈されるべきではない。
【実施例】
【0093】
標的細胞上でのOSMの免疫賦活特性を分析するために、ペプチド抗原で処理したサイトカイン処理ヒト肝癌細胞(Hih7およびHepG2)を、抗原特異的細胞障害性Tリンパ球の賦活化に用いた。リンパ球の活性化は、Tリンパ球のプライミングの通常用いられるマーカーであるIFN−γのそれらの産生を解析することにより測定した。T細胞による抗原認識後のこのTh1サイトカインの産生は、古典的には、ウイルス感染および癌における免疫療法戦略において有用なリンパ球のエフェクター特性と関連する読み出し情報として考えられてきた(Brosterhus, et al., 1999)。
【0094】
材料と方法
RNA抽出およびリアルタイムRT−PCR
全RNAの抽出は、核酸精製溶解溶液(Nucleic Acid Purification Lysis Solution) (アプライドバイオシステムズ社)および半自動システムABI PRISM 6100核酸プレップステーション(Nucleic Acid PrepStation)(アプライドバイオシステムズ社)を用いて行った。リアルタイムRT−PCRは、各遺伝子(表1)に特異的なプライマーを用いて記載された通り(Larrea, et al., 2006)に行った。
【0095】
ウェスタンブロット
ウェスタンブロット分析のために、1.5×10細胞のHuh7またはHepG2細胞を6穴プレート上に播種した。24時間後、細胞を50IU/mLのIFNα2(Sicor社)若しくは20ng/mLのOSM(R&Dシステムズ社)または50IU/mLのIFNα2プラス20ng/mLのOSMで処理し、または処理しなかった。異なる時点の後に、細胞をPBSで洗浄し、150μLのタンパク質ローディング緩衝液(62.5mM Tris−HCl pH6.8、10%グリセロール、5% 2−ME、2% SDS、0.006%ブロモフェロールブルー)中に回収した。ウェスタンブロットは、特異的抗体を用いて実施された(Larrea, et al., 2006):抗リン酸化STAT1Tyr701、抗リン酸化STAT3tyr705、抗リン酸化JAK1tyr1022/1023、抗リン酸化Tyk2tyr1054/1055、抗リン酸化p38thr180/182MAPK抗体、および抗ウサギIgGペルオキシダーゼ(HRP)結合抗体はサンタクルーズバイオテクノロジー社から購入した。抗STAT3、抗Tyk2、抗STAT2、抗リン酸化STAT2tyr689抗体はアップステートバイオテクノロジー社製であった。抗STAT1および抗p38MAPK抗体はサンタクルーズバイオテクノロジー社製であった。抗Tap1、抗ICAM−1、抗PSMB9、抗B2Mおよび抗HLAクラスI抗体はアブカム社(Abcam)製であった。抗アクチンおよび抗マウスIgG HRP結合抗体は、シグマ−アルドリッチ社製であった。
【0096】
マイクロアレイ分析
Huh7細胞を、DMEMプラス10%PBS中で1×10細胞/プレートで播種した。18時間後、細胞をIFNα2(50IU/mL)若しくはOSM(20ng/mL)またはOSM(20ng/mL)と組み合わせたIFNα2(50IU/mL)で処理し、または処理しなかった。3日後に、細胞を1mLのトライゾール(TRIzol)試薬(インビトロジェン社)中に回収した。実験は、4度繰り返して実施された。その後、サンプルをプロジェニカバイオファーマS.A社、次いで、アフィメトリクス社推薦の製品で処理し、cRNAをアフィメトリクス ヒトU133A 2.0アレイにハイブリダイズさせた。バックグラウンドの更正と標準化は共にロバストマルチチップアベレージアルゴリズム(Robust Multichip Average algorithm)を用いて行った。全てのマイクロアレイにおける各プローブセットの発現の計算後、フィルタリング処理を行って低発現のプローブセットを除去した。17%のサンプルに16を超える発現値の基準を適用し、17,927のプローブセットを統計分析のために選択した。マイクロアレイデータのための線型モデル(Linear Models for Microarray Data)を用いて、実験条件間で有意に異なる発現を示すプローブセットを見いだした。IFNα2若しくはOSMまたはIFNα2プラスOSMの組み合わせの処理により影響を受けた遺伝子を、B統計カットオフ(B statistic cut off)(B>0)を用いて有意であるとした。記載された遺伝子は、何倍変化したかの基準並びにインジェニュイティー(Ingenuity)(http://www.ingenuity.com/)およびウェブゲスタルト(Webgestalt)(http://bioinfo.vanderbilt.edu/webgestalt)ソフトウェアにより調査された、機能区分の強化に基づいて選択された。
【0097】
抗原提示アッセイ
HLA−A2+健常ドナーから得たPBMCを、1μg/mLのHLA−A2制限インフルエンザAウイルス基質58−66ペプチド(GILGFVFTL)(配列番号46)で37度で2時間処理して、洗浄し、3×10細胞/ウェルの密度で24穴プレートに培養した。3日後に、IL−2(10 U/mL)を加え、さらに細胞を5日間培養した。8日目に、回収された細胞と、事前に50IU/mLのIFNα2若しくは20ng/mLのOSM、若しくは50IU/mLのIFNα2プラス20ng/mLのOSMで4日間処理したHepG2細胞(5×10/ウェル)または未処理の細胞とを、1μg/mLのGILGFVFTL(配列番号46)ペプチドの存在下または非存在下で、96穴円形底培養プレートで共に培養した。24時間後、上清を回収してELISA(BDバイオサイエンシズ社)によりIFN−γの産生を測定した。
【0098】
IL−15Rα活性のアッセイ
CTLL−2細胞にIL−15をトランス提示するHuh7細胞上に発現させたIL−15Rαの機能性を評価した。この目的のために、Huh7細胞を播種し、50IU/mLのIFNα2、20ng/mLのOSMまたは両方の処理の組み合わせで3日間処理した。その後、Huh7細胞を回収し、50ng/mLの外来性のIL−15と共に、またはIL−15無しで1時間インキュベートし、3回洗浄し、ガンマセル3000エラン(Gammacell 3000 Elan)内で15000cGysにて放射線照射した。その後、3×10の放射線照射されたHuh7細胞を1×10のCTLL−2細胞と共に96穴プレートで培養した。2日目に、細胞を0.5μCi/ウェルのトリチウム化チミジンで処理して、回収し、チミジンの取り込みをシンチレーションカウンター(トップカウント、パッカード社)で計測した。
【0099】
フローサイトメトリー分析
表面分子ICAM1の発現を、50IU/mLのIFNα2、若しくは20ng/mLのOSMまたは50IU/mLのIFNα2プラス20ng/mLのOSMで4日間処理した、または処理しなかったHuh7およびHepG2細胞で調べた。その後、細胞をPBS−EDTAで回収し、PE−標識抗ヒトICAM1またはIgG−PE対照アイソタイプ(BDバイオサイエンシズ社)で染色した。30分後、細胞を洗浄し、ファックスキャリバーサイトメーター(FACSCalibur cytometer)(ベクトン・ディキンソン社)を用いて分析した。
【0100】
統計分析
以前に記載されるように(Larrea, et al., 2006)統計的方法を用いた。データは平均±SDであった;<0.05のp値を有意であると考えた。
【表1】

【0101】
PBMCの調製
MNCプログラム(半自動方法)を利用し、かつ少なくとも1つの血液量を処理して、スペクトラコーブ(Spectra Cobe)(レイクウッド社、米国)を用いた白血球搬出法によって、大量の患者のPBMCを得た。
【0102】
リンパ球CD8+のイン・ビトロでの賦活化
ヒト由来の腫瘍の上皮細胞または組織を、外科的処置によって患者から得た。ヒトの体から抽出された組織を処理して、脂肪および壊死性の組織を除去した。単細胞懸濁液を、機械的分離または連続的な酵素消化などの当技術分野で周知の方法により調整した。
【0103】
腫瘍の上皮細胞を、OSM、OSMRアゴニストまたはOSM若しくはOSMRアゴニストとIFNタイプIとの組み合わせで4日間処理した。
【0104】
処理された腫瘍の上皮細胞(TTEC)を、10%ウシ胎児血清を添加したセルグロ(CellGro)SCGM(セルジェニックス、ドイツ)中で0.5〜1×10細胞/mLで播種し、37℃および5%COで2週間にわたり培養した。生存していないTTECを各培地交換(隔日)の際に取り除いた。TTECが成長の表面の少なくとも70%を覆い、好適な量のTTECが得られるとき、抗線維芽細胞マイクロビーズ(ミニマックス、ミルテニイバイオテック社、米国)で製造会社の説明書に従って負の選択を行った。腫瘍の滲出液が得られるときに、サンプルを遠心分離し、負の選択により得られたTTECをセルグロSCGM中で1〜5×10細胞/mLで培養フラスコ中に播種し、上記の通り培養した。初期の継代の際および継代培養中に定期的に、TTECを多くの評価基準(すなわち、形態学的および表現型分析ならびに遺伝子再編成)により大規模に特徴付けて、起源の組織との相関関係に取り組んだ。
【0105】
大規模なイン・ビトロの再培養の結果として主要な特徴が変化を起こす可能性を最小限にするため、長期継代よりも初期継代のTTECを用いた。形態学的および表現型の分析の後に、TTEC株を賦活化および標的細胞(純度>98%)としての使用まで、凍結保存した。
【0106】
CD8濃縮細胞(10細胞/mL)を48ウェルプレート(最終容積1mL)中で、放射線照射(20000rads)された樹状細胞(2×10細胞/mL)およびTTEC(0.5〜1×10細胞/mL)と共に培養した。7〜10日後に、培養物を放射線照射されたTTEC(5×10細胞/mL)で再賦活化した。腫瘍特異的賦活化の追加のラウンドには同一のプロトコルを用いた。
【0107】
結果
IFNαおよび/またはOSMで処理したHuh7細胞におけるJak/STATシグナリング
OSMおよびIFNαの組み合わせ効果により活性化された細胞のシグナリング機構を分析するために、本発明者らは、IFNα2若しくはOSMまたは両方で、1、3、24、48、72時間処理したHuh7細胞におけるJak/STATタンパク質の免疫ブロット解析を行った。図1に示されるように、STAT2はIFNα2によって、またはOSMとのその組み合わせによってのみ活性化され、その活性化は一過性であり、24時間までに検出できなくなった。同様に、STAT1はIFNα2により1および3時間で強くリン酸化されたが、24時間ではすでにその活性化は存在しなかった。しかし、IFNα2は、全STAT1タンパク質の増加を引き起こし、これは24時間先から明白であった。OSMはSTAT1を1時間で活性化したが、シグナルは次の時点までかすかなものであり、しかし、72時間まで続いた。にも関わらず、同様にOSMは全STAT1タンパク質を適度に増加させた。IFNα2がOSMと組み合わされたとき、本発明者らは、全STAT1のレベルの増加と、72時間まで続くSTAT1の強い活性化シグナルをもたらすこの分子の長期化した活性化とを引き起こす、2つのサイトカインの加算性の効果を観察した。STAT3に関して、IFNα2は、その分子の穏和かつ一過性の活性化しか引き起こさず、これは1時間後には既に検出できなかった。対照的に、OSM単独および組み合わせOSMプラスIFNα2は、72時間続く、迅速かつ非常に強いSTAT3の活性化を引き起こした。さらに、単独のまたはIFNα2との組み合わせにおけるOSMは、IFNα2単独のときよりも強く長期化したJak1の活性化を引き起こした(図1A)。
【0108】
これらの知見から、OSMプラスIFNα2を用いたときのJak1、STAT1およびSTAT3のよりより強く長期化した活性化は、STAT1およびSTAT3ホモ二量体およびヘテロ二量体の耐久性のある構造を促進する可能性があると思われる。
【0109】
p38MAPKの活性化が、ISREおよびGAS要素を介したIFNα駆動性の遺伝子発現を促進することが知られている(Parmar, 2003)ので、本発明者らは同様にこのシグナル分子の活性化における2つのサイトカインの効果を分析した。本発明者らは、Huh7細胞において、OSMプラス/マイナスIFNαが少なくとも72時間際だったp38の活性化を引き起こす一方で、IFNαがp38のリン酸化を引き起こせなかったことを見いだした(図1B)。p38に対するOSMのこの効果は、2つのサイトカインが組み合わされて用いられたときに、IFNα感受性遺伝子の発現を高めることに貢献する可能性があると思われる。
【0110】
IFNαおよび/またはOSMにより誘導される遺伝子のマイクロアレイ分析
IFNα2プラスOSMの共同の働きにより始動される転写プログラムに洞察を得るために、本発明者らは、基本培地で、またはIFNα2(50IU/mL)若しくはOSM(20ng/mL)または両方の存在下で72時間インキュベートしたHuh7細胞のトランスクリプトームを調べた。異なって発現する遺伝子を用いた機能性分析の調査の後に、本発明者らは、抗ウイルス遺伝子、抗原提示に関わる遺伝子および基幹の免疫制御因子をコードする遺伝子を含むいくつかの生物学的区分の増大を見いだした。
【0111】
これらの遺伝子の確認を、IFNα2若しくはOSMまたは両方で24、48および72時間処理したHuh7細胞からのRNAの抽出後に、定量的RT−PCRによって行った。確認された遺伝子は、2つの集団にまとめることができた:A)OSM単独ではほとんど若しくは全く変化を示さず、IFNαに感受性であるかまたは非感受性である遺伝子であって、2つのサイトカインの組み合わせにより強い上方制御を示す遺伝子;B)2つのサイトカインの組み合わせによるのと同様に、OSMにより誘導された遺伝子。集団Aは、主に抗ウイルス性遺伝子および抗原プロセッシングおよび提示に関与する遺伝子を含んでいた。集団Bは、特異的抗ウイルス遺伝子および抗原提示に関与する遺伝子同様に自然免疫に関わる分子をコードする遺伝子、リンパ球の活性化および増殖に関与する遺伝子を含んでいた。
【0112】
OSMは、自然免疫のキープレイヤーを誘導する
マイクロアレイおよびRT−PCRの確認の調査からのデータは、OSMがIFNα賦活化抗ウイルス遺伝子の発現を高めることによるだけでなく、MYD88、S100A9、ULBP2、IL−32、IRF1およびGBP2並びにケモカイン遺伝子CXCL1、CXCL2およびCXCL3を含む、感染に対する自然防御において欠かすことのできない分子を直接的に誘導することにより、自然免疫に参加することを示した。これらのいくつかの遺伝子に対しては、組み合わせOSMプラスIFNαが、OSM単独でよりも高いレベルでそれらの発現を増加させた。
【0113】
OSMおよびIFNαの組み合わせ効果による、またはOSM単独による、抗原プロセッシングおよび提示に関与する分子の上方制御
既に示されているように、抗原プロセッシングおよび提示において不可欠な機能を有する分子をコードする遺伝子の群は、Huh7細胞がOSMプラスIFNα2で処理されたとき、強く上方制御された。これらの遺伝子としては:a)細胞質基質タンパク質からのペプチドの生成に関与するユビキチン免疫プロテアソーム系の一員UBE2L6、PSMB8およびPSMB9、b)MHCクラスI分子に付随するための、小胞体へのペプチドのトランスポータ、すなわち、TAP1およびTAP2、c)HLAクラスI遺伝子、特にHLA−A、HLA−BおよびHLA−C並びに細胞表面上でのクラスI分子の安定的な発現に不可欠な分子であるβ2−マイクログロブリンをコードするB2M(図3A〜図3I)(Rizvi, et al., 2006)が挙げられる。
【0114】
他方で、発明者らは、その遺伝子産物がTAP1とHLAクラスIの間の相互作用を媒介するTAPBP(Rizvi, et al., 2006)などの、抗原提示に決定的な他の遺伝子を、OSMがそれ自体で誘導したことを見いだした(図3J)。
【0115】
Huh7細胞におけるPSMB9およびTAP1のウェスタンブロット分析により、IFNα2プラスOSMでの処理が3および4日目にこれらの分子の発現を強く誘導したが、一方で各サイトカイン単独では同一のタンパク質の穏和な上昇しか引き起こさなかったことを証明した(図3K)。HLAクラスIタンパク質は、2つのサイトカインでは3日目に明白な、しかし後の時点ではそうではない加算性の効果を伴って、主にIFNα2で上方制御され、OSMではほとんど上方制御されなかった(図3K)。B2Mタンパク質は、主にIFNα2によって3日目に、および組み合わせた処理によって4日目に上方制御を示した(図3K)。
【0116】
これらの結果は、肝臓上皮細胞におけるIFNα2およびOSMの協力した働きが、獲得免疫応答のエフェクターに対する抗原ペプチドの生成と提示の原因となる仕組みを強く賦活化することを示している。この効果は、ウイルス感染細胞の免疫クリアランスを容易にするために大変重要である。
【0117】
OSMは、Huh7細胞の免疫賦活機能とIL−15をトランス提示するその能力を増加させる。
上記の知見に加えて、本発明者らは、OSMが、Huh7細胞においてリンパ球の活性化および増殖を支持する分子、すなわち、ICAM−1、IL−15RαおよびIL−7をコードする遺伝子を誘導することを観察した(図4A〜図4C)。ウェスタンブロット分析は、単独のまたはIFNα2との組み合わせにおけるOSMが、タンパク質のより高い免疫賦活活性と関連する影響である(Diamond, et al., 1991)、超グリコシル化と一致する多重のバンドパターンを伴うICAM−1の上方制御を引き起こすことを示した(図4D)。これらの結果と一致するように、フローサイトメトリーの調査は、OSMおよびIFNα2との組み合わせた処理が、Huh7細胞の細胞膜でICAM−1の存在量を増加させることを示した(図4E)。上皮細胞に免疫賦活特性を与える他の関連分子はIL−15Rαであり、CD8+T細胞へのIL−15の効果的なトランス提示のために不可欠である。機能性IL−15Rαの発現の増加におけるOSMの役割を確かめるために、本発明者らは、(IL−15反応性細胞株として)CTLL−2細胞の増殖を維持する、IL−15で処理したHuh7細胞の能力に対する、OSM,IFNα2またはOSMプラスIFNα2の効果を調査した。図4に示されるように、本発明者らは、単独のまたはIFNα2との組み合わせにおけるOSMは、CTLL−2の増殖の有意な賦活化を引き起こし、一方で、細胞増殖は、IL−15非存在下では、あらゆる形態の処理と同様であった。本発明者らのデータは、OSMが肝細胞によるIL−15のトランス提示を増強し、その効果はIFNαにより示される効果よりも強力であることを示す。
【0118】
本発明者らはさらに、単独のまたはIFNα2との組み合わせにおけるOSMが、肝臓上皮細胞の免疫賦活活性を増加させることができるかを調べた。この目的のために、本発明者らは、HepG2細胞をOSM、IFNα2または組み合わせまたは培地単独における培地でインキュベートし、その後、HLA−A2により提示されるインフルエンザAウイルスペプチドで処理した。これらの細胞は、感作したCTLによるIFNγの産生を賦活化するために用いられた。この実験において、HepG2細胞がHLA−A2+であり、かつHuh7細胞と同じ様式で抗原提示および免疫賦活化に関与する遺伝子の上方制御を伴ってOSMに応答することが示されているため(図4H〜図4N)、本発明者らはHepG2細胞を用いた。上記データと一致するように、本発明者らは、OSMまたは組み合わせOSMプラスIFNα2での前処置が、IFNα2を単独で用いたときよりも効果的にCTLによるIFNγの産生を賦活化するHepG2細胞の能力を増強したことを見いだした(図4G)。
【0119】
免疫制御分子の誘導におけるOSMとI型IFNとの正の相互作用は、IFNαだけではなくIFNβにより観察された(図5)。
参考文献






【図2A】

【図2B】

【図2C】

【図2D】

【図2E】

【図2F】

【図2G】

【図2H】

【図3A】

【図3B】

【図3C】

【図3D】

【図3E】

【図3F】

【図3G】

【図3H】

【図3I】

【図3J】

【図4A】

【図4B】

【図4C】

【図4E】

【図4F】

【図4G】

【図4H】

【図4I】

【図4J】

【図4K】

【図4L】

【図4N】

【図5A】

【図5B】

【図5C】

【図1A】

【図1B】

【図3K】

【図4D】

【図4M】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトにおいて上皮細胞の免疫賦活活性を増強するための医薬の製造における、オンコスタチンM(OSM)、OSM受容体(OSMR)アゴニスト、またはOSM若しくはOSMRアゴニストとインターフェロンタイプI(IFNタイプI)との組み合わせの使用。
【請求項2】
免疫応答が、獲得免疫応答である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
上皮細胞の免疫賦活活性が、Tリンパ球の増殖、NK若しくはCD8+細胞へのインターロイキン15(IL−15)のトランス提示(transpresentation)、またはインターフェロンガンマ(IFN−γ)の産生を含んでなる、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
上皮細胞が、細胞性病原体に感染している、または腫瘍上皮細胞である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
細胞性病原体が、ウイルス、細菌、真菌および寄生生物である、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
ヒトにおける上皮細胞の免疫賦活活性の増強における使用のための、OSM、OSMRアゴニストまたはOSM若しくはOSMRアゴニストとIFNタイプIとの組み合わせ。
【請求項7】
ヒトにおいて上皮細胞の免疫賦活活性を増強する方法であって、有効量のOSM、OSMRアゴニストまたはOSM若しくはOSMRアゴニストとINFタイプIとの組み合わせを前記ヒトに投与することを含んでなる、方法。
【請求項8】
ヒトにおいて上皮細胞の免疫賦活活性を増強するための、同時の、別々の、または連続的な使用のための、組み合わせ製剤としての、OSMまたはOSMRアゴニストとIFNタイプIとを含んでなる製品。
【請求項9】
OSMまたはOSMRアゴニストをコードする核酸と、場合によってインターフェロンタイプIをコードする核酸とを含んでなる組換え発現ベクターであって、好適な発現宿主内でOSMまたはOSMRアゴニストおよび場合によってIFNタイプIの産生を導く1以上の制御配列に作動可能に連結させた組換え発現ベクター。
【請求項10】
請求項9に記載の組換え発現ベクターを含んでなる宿主細胞。
【請求項11】
前記宿主細胞が、原核または真核細胞である、請求項10に記載の宿主細胞。
【請求項12】
ヒトにおいて上皮細胞の免疫賦活活性を増強するための医薬の製造における、請求項9に記載の組換え発現ベクターまたは請求項10若しくは11に記載の宿主細胞の使用。
【請求項13】
請求項9に記載の組換え発現ベクターまたは請求項10若しくは11に記載の宿主細胞と、薬学的に許容される賦形剤とを含んでなる医薬処方物。
【請求項14】
獲得免疫療法における使用のための賦活化リンパ球CD8+の調製のためのイン・ビトロの方法であって、
a)有効用量のOSM、OSMRアゴニスト、またはOSM若しくはOSMRアゴニストとIFNタイプIとの組み合わせ、または請求項9に記載の組換え発現ベクターでヒト由来の上皮細胞または組織を処置すること、
b)工程a)で得られた処置された細胞または組織に放射線照射すること、
c)工程b)で得られた放射線照射された細胞または組織を、
−末梢血単核球(PBMC)、若しくは
−濃縮されたCD8+リンパ球および場合によって抗原提示細胞
と共培養すること、
d)場合によって、工程c)で得られた賦活化CD8+リンパ球を工程b)で得られた、処置され、かつ放射線照射された細胞または組織と共培養すること、
{ここで、PBMC、CD8+リンパ球、および上皮細胞または組織は同一のヒト対象に由来する}
を含んでなる、方法。
【請求項15】
工程c)における抗原提示細胞が樹状細胞である、請求項14に記載のイン・ビトロの方法。
【請求項16】
請求項14または15に記載の方法により得られる賦活化リンパ球CD8+。
【請求項17】
請求項16に記載の賦活化リンパ球CD8+の医薬としての使用。
【請求項18】
癌または感染症の処置のための医薬の製造における、請求項16に記載の賦活化リンパ球CD8+の使用。
【請求項19】
癌または感染症の処置における使用のための請求項16に記載の賦活化リンパ球CD8+。
【請求項20】
ヒトにおいて癌または感染症を処置する方法であって、請求項16に記載の有効量の賦活化リンパ球CD8+の投与を含んでなる、方法。
【請求項21】
ヒト上皮細胞の免疫賦活活性の増強剤としての、OSM、OSMRアゴニストまたはOSM若しくはOSMRアゴニストとIFNタイプIとの組み合わせの、イン・ビトロでの使用。

【公表番号】特表2012−504948(P2012−504948A)
【公表日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−530513(P2011−530513)
【出願日】平成21年10月6日(2009.10.6)
【国際出願番号】PCT/ES2009/070419
【国際公開番号】WO2010/040882
【国際公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(506061716)プロイェクト、デ、ビオメディシナ、シーマ、ソシエダッド、リミターダ (34)
【氏名又は名称原語表記】PROYECTO DE BIOMEDICINA CIMA, S.L.
【Fターム(参考)】