説明

ヒト癌細胞に対する抗癌性を有するインジルビン誘導体

本発明はヒト癌細胞株に対して、細胞の増殖を阻害することによる抗癌性を有するインジルビン誘導体に関する。具体的には本発明は、CDK(サイクリン依存性キナーゼ)インヒ
ビターとして知られるインジルビン誘導体の合成を提供する。さらにインジルビン誘導体によるヒト癌細胞株の増殖を抑制する活性と、分化を誘導することによって白血病細胞株をアポトーシスに誘導する性質とが検討され、様々なヒト癌細胞株に対して抗癌作用の薬効を有する新規インジルビン誘導体が開発された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヒト癌細胞株に対する抗癌性と、分化誘導することによって白血病細胞株をアポトーシスに誘導する性質を持つインジルビン誘導体に関する。とりわけ、本発明はヒト癌細胞株の増殖を抑制する抗癌性と、分化誘導することによって白血病細胞株をアポトーシスに誘導する性質とを持つ、CDK(サイクリン依存性キナーゼ)インヒビターとしてのイ
ンジルビン誘導体に関する。
【背景技術】
【0002】
中国漢方薬の生理活性成分の一つであるインジルビン(indirubin)は、ヒト癌細胞株
に対し抗癌性を有することが知られている。Hoesselらは、インジルビンがCDK(サイクリ
ン依存性キナーゼ)インヒビターの一つであると発表した(Nature Cell Biology Vol. 1 May(1999))。
【0003】
韓国の公開特許No.2000-6570「生理的生成物の抽出」では、インディゴ植物からインジルビンを抽出する方法が開示されている。さらに、韓国の公開特許No.1998-25557「高濃
度細胞培養物を用いてインジルビンを調製する方法」では、バイオリアクター中でインジルビンを調製する方法が開示されている。
【0004】
また、本発明者らは韓国の公開特許No.2003-36580において、新規オキシゲナーゼ遺伝
子を組み込んだ組換えE.coliを用いてインジルビンを調製する生物学的方法を開示している。
【0005】
ヒト癌細胞株の分化誘導剤は、毒性が高いために抗癌剤として使用するには問題があった。
【発明の開示】
【0006】
そこで本発明では、従来の分化誘導剤と併せて投与することで、ヒト癌細胞株のアポトーシスに対し、少量で相乗的効果を示すインジルビン誘導体を開発した。
【0007】
本発明では、多数のインジルビン誘導体が合成され、薬効のある化合物を選び出すため、それぞれの誘導体の抗癌性について検出を行っている。本実験により、極めて低濃度の条件で優れた抗癌性を有する新規インジルビン誘導体が発見された。
【0008】
本発明の目的は、以下の式(I)〜(VII)により表されるCDK インヒビターとして、ヒト癌細胞株に対する抗癌性と、分化を誘導することによって白血病細胞株をアポトーシスに誘導する性質を有するインジルビン化合物を提供することにある。
【0009】
【化1】

【0010】
【化2】

【0011】
【化3】

【0012】
【化4】

【0013】
【化5】

【0014】
【化6】

【0015】
【化7】

【0016】
さらに、本発明のもう一つの目的は、上記の式(I)〜(VII)に表される少なくとも一つの化合物を0.1〜80重量%および製剤基準に適合する担体を含有する抗癌性組成物を提供す
ることにある。
【0017】
さらに、前記抗癌性組成物の製剤は注射液、カプセル、錠剤、溶液剤またはペレットである。
[発明の効果]
【0018】
本発明の有利な効果はAGM011, AGM029, AGM012, AGM014, AGM030およびAGM031に示される、優れた抗癌剤を提供することにある。これらの化合物は従来のインジルビン化合物からは予想することのできない極めて優れた抗癌性を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明のインジルビン誘導体の合成方法を以下に説明する。
1.インジルビン誘導体の合成
【0020】
【化8】

【0021】
50ml容の丸底フラスコに酢酸インドキシル(176mg, 1mmol)を入れ、メタノール(5ml)に
溶解させる。イサチン(148mg, 1mmol)とNa2CO3(265mg, 2.5mmol)を加えた後、混合物を室温で2時間撹拌する。TLC(Rf=0.4 酢酸エチル/ヘキサン 1/2 v/v)で反応の終了を確認する。得られた粗生成物は結晶が析出するまで冷蔵庫に置く。結晶性生成物が出たら、ろ過する。最終生成物はメタノールと水で数回洗浄する。真空ポンプで乾燥後、紫色の固体(1
57.6mg)が収率60.2%で得られる。
2.インジルビンオキシム誘導体の合成
【0022】
【化9】

【0023】
インジルビン(262mg, 1mmol)を50ml容の二口丸底フラスコに入れる。このものはピリジン(5ml)に溶解させた後、H2NOH・HCl(181mg, 2.6mmol)を加える。120℃を超える温度で2時間加熱還流する。TLC(Rf=0.45 酢酸エチル/ヘキサン 1/1 v/v)で反応の終了を確認す
る。その後、反応溶液の温度を室温まで下げる。得られた粗生成物に1N HCl(50〜100ml)を加え、得られた結晶性生成物をろ過する。その結晶性の生成物を1N NaOH(50ml)に溶解
させた後、1N HCl (100ml)中で再結晶化させると、暗紫色の固体(263.5mg)が収率93%で得られる。
3.インジルビンヒドラゾン誘導体の合成
【0024】
【化10】

【0025】
インジルビン(80mg, 0.3mmol)を50ml容の二口丸底フラスコに入れる。H2NNH2・H2Oを加えた後、70〜80℃で加熱する。1日後に青色の固体が生じるので、ろ過し、エーテルで洗浄する。精製のために、得られた生成物をNMPに溶解させる。次いでシリカゲルカラムク
ロマトグラフィー(溶離液(酢酸エチル/ヘキサン:1/1))により、精製した生成物が
得られる。この段階で、NMPはヘキサンで数回洗浄することにより除去されていなければ
ならない。ロータリーエバポレーターで溶媒を除去すると、最終生成物が収率10%(8mg)で得られる。
4.インジルビン N-アセチル誘導体の合成
【0026】
【化11】

【0027】
インジルビン(314.4mg,1.2mmol)を50ml容丸底フラスコに入れる。無水酢酸(15ml)を加
えた後、混合物を10時間加熱還流する。TLC(Rf=0.55 酢酸エチル/ヘキサン 1/2 v/v)で
反応の終了を確認する。得られた生成物をろ過し、水で数回洗浄する。その後、真空ポンプで乾燥させる。収率を上げるため、残ったろ液を凍結乾燥させて溶媒を除去する。最終的に、収率98%(358mg)で目的物が得られる。
5.インジルビンアミン誘導体の合成
【0028】
【化12】

【0029】
インジルビン-5-ニトロ(500mg, 1.629mmol)を50ml容の二口丸底フラスコに入れる。DMF(5ml)とSnCl2・2H2O(1.838g, 8.145mmol)を加えた後、混合物を70℃で加熱する。1時間
後、TLC(Rf=0.2 CHCl3/MeOH 50/1 v/v)で反応の終了を確認する。pHが11になるまで1N NaOHを加えて反応溶液をアルカリ性にする。得られた生成物を分液漏斗に移す。酢酸エチルで抽出した後、生成物を食塩水で洗浄する。ロータリーエバポレーターで溶媒を除去する。次に、得られた結晶性物質を真空ポンプで乾燥させると、最終生成物が収率45.2%(204mg)で得られる。
6.インジルビンアシルアミド誘導体の合成
【0030】
【化13】

【0031】
1mMのインジルビン-5-1NH2(AGM029)をピリジンに溶解させる。2当量の塩化トリメチルアセチルを0℃で一滴ずつ加えた後、混合物を30分撹拌する。5-NH-トリメチルアセチルインジルビンと6当量のヒドロキシルアミン塩酸塩をピリジン中に入れ、80〜90℃で2〜3時間加熱還流する。冷却後、反応混合物を1N HClで中和する。得られた沈殿物をろ過し、水で洗浄すると、最終的に5-NH-トリメチル-インジルビン-3-オキシム(AGM030)が得ら
れる。
【0032】
上記ステップで合成された化合物は次の式で表される。
【0033】
【化14】

【0034】
化合物AGM001〜AGM031はX1、X2、Y、Z、R位置の基を置換することにより合成される。
合成された化合物は1H NMR(核磁気共鳴吸収法)とMS(質量分析)により分析される。本発明で合成された化合物のNMRおよびMSデータは下記の通りである。
【0035】
化合物AGM001の合成
1H,1'H-[2,3']ビインドリリデン-3,2'-ジオン(1H,1'H-[2,3']biindolylidene-3,2'-dione) (AG M001)
【0036】
【数1】

【0037】
化合物AGM002の合成
1H,1'H-[2,3']ビインドリリデン-3,2'-ジオン3-オキシム (AGM002)
【0038】
【数2】

【0039】
化合物AGM006の合成
1-アセチル-1H,1'H-[2,3']ビインドリリデン-3,2'-ジオン (AGM006)
【0040】
【数3】

【0041】
化合物AGM009の合成
5'-ニトロ-1H,1'H-[2,3']ビインドリリデン-3,2'-ジオン (AGM009)
【0042】
【数4】

【0043】
化合物AGM010の合成
5'-フルオロ-1H,1'H-[2,3']ビインドリリデン-3,2'-ジオン (AGM010)
【0044】
【数5】

【0045】
化合物AGM011の合成
5'-ニトロ-1H,1'H-[2,3']ビインドリリデン-3,2'-ジオン3-オキシム (AGM011)
【0046】
【数6】

【0047】
化合物AGM012の合成
5'-フルオロ-1H,1'H-[2,3']ビインドリリデン-3,2'-ジオン3-オキシム (AGM012)
【0048】
【数7】

【0049】
化合物AGM013の合成
5'-メチル-1H,1'H-[2,3']ビインドリリデン-3,2'-ジオン3-オキシム (AGM013)
【0050】
【数8】

【0051】
化合物AGM014の合成
5'-クロロ-1H,1'H-[2,3']ビインドリリデン-3,2'-ジオン3-オキシム (AGM014)
【0052】
【数9】

【0053】
化合物AGM015の合成
5'-ヨード-1H,1'H-[2,3']ビインドリリデン-3,2'-ジオン3-オキシム (AGM015)
【0054】
【数10】

【0055】
化合物AGM016の合成
5',7'-ジメチル-1H,1'H-[2,3']ビインドリリデン-3,2'-ジオン3-オキシム (AGM016)
【0056】
【数11】

【0057】
化合物AGM017の合成
5'-クロロ-7'-メチル-1H,1'H-[2,3']ビインドリリデン-3,2'-ジオン3-オキシム (AGM017)
【0058】
【数12】

【0059】
化合物AGM018の合成
5'-ブロモ-1H,1'H-[2,3']ビインドリリデン-3,2'-ジオン3-オキシム (AGM018)
【0060】
【数13】

【0061】
化合物AGM019の合成
3,2'-ジオキソ-1,3,1',2'-テトラヒドロ-[2,3']ビインドリリデン-5'-スルホン酸ナト
リウム (AGM019)
【0062】
【数14】

【0063】
化合物AGM020の合成
3-ヒドロキシイミノ-2'-オキソ-1,3,1',2'-テトラヒドロ-[2,3']ビインドリリデン-5'-スルホ ン酸ナトリウム (AGM020)
【0064】
【数15】

【0065】
化合物AGM021の合成
5-ブロモ-1H,1'H-[2,3']ビインドリリデン-3,2'-ジオン (AGM021)
【0066】
【数16】

【0067】
化合物AGM023の合成
5-ブロモ-5'-ニトロ-1H,1'H-[2,3']ビインドリリデン-3,2'-ジオン3-オキシム (AGM023)
【0068】
【数17】

【0069】
化合物AGM024の合成
5'-メチル-1H,1'H-[2,3']ビインドリリデン-3,2'-ジオン (AGM024)
【0070】
【数18】

【0071】
化合物AGM025の合成
5'-クロロ-1H,1'H-[2,3']ビインドリリデン-3,2'-ジオン (AGM025)
【0072】
【数19】

【0073】
化合物AGM026の合成
5'-ヨード-1H,1'H-[2,3']ビインドリリデン-3,2'-ジオン (AGM026)
【0074】
【数20】

【0075】
化合物AGM027の合成
5',7'-ジメチル-1H,1'H-[2,3']ビインドリリデン-3,2'-ジオン (AGM027)
【0076】
【数21】

【0077】
化合物AGM028の合成
5'-クロロ-7'-メチル-1H,1'H-[2,3']ビインドリリデン-3,2'-ジオン (AGM028)
【0078】
【数22】

【0079】
化合物AGM029の合成
5'-アミノ-1H,1'H-[2,3']ビインドリリデン-3,2'-ジオン (AGM029)
【0080】
【数23】

【0081】
化合物AGM030の合成
5'-NH-トリメチルアセチル-インジルビン-3-オキシム (AGM030)
【0082】
【数24】

【0083】
化合物AGM031の合成
5'-アミノ-1H,1'H-[2,3']ビインドリリデン-3,2'-ジオン-3-オキシム (AGM031)
【0084】
【数25】

【0085】
化合物AGM001〜AGM031の置換基X1、X2、Y、ZおよびRの種類を表1に示す。
【0086】
【表1】

【0087】
[実施例]
本発明はさらに具体的に以下の実施例により説明される。しかしながら実施例は本発明を説明するためのものであり、その範囲を限定することを意図するものではない。
【実施例1】
【0088】
・インジルビン誘導体による癌細胞株増殖の抑制効果についての分析
インジルビン誘導体によるヒト癌細胞株の増殖に対する影響を検出するために、ヒト肺癌細胞株(A549)、ヒト胃癌細胞株(SNU-638)、ヒト大腸癌細胞株(Col2)、ヒト腹腔癌細胞
株(HT 1080)およびヒト白血病細胞株(HL-60)をインビトロ試験に用いている。
【0089】
インジルビン化合物による増殖抑制の測定には、K. LikhitwitayawuidらがJournal. Nat. Prod. 58(1993) 1468-1478で公表した方法を用いる。本法の概要は次の通りである。
癌細胞株は5×104 cfu/mlに希釈して用いる。次に、希釈した細胞株の入った96穴マイク
ロタイタープレートに様々な濃度の試験化合物を加える。37℃で3〜4日インキュベート
した後、プレートを乾燥させTris-baseを加える。それから、ELISAプレートリーダー(吸光度515nm)で測定する。IC50は非線形回帰分析により測定する。癌細胞株の増殖に対す
る、インジルビン誘導体の抑制を表2に示す。
【0090】
表2 インジルビン誘導体による癌細胞の増殖に対する抑制
【0091】
【表2】

【0092】
本実験から、AGM011、AGM012、AGM014、AGM023およびAGM029はヒト癌細胞株の増殖抑制に効果的であることが示される。
【実施例2】
【0093】
・インジルビン誘導体による白血病細胞株(HL-60)への分化誘導効果の分析
インジルビン化合物AGMによる急性骨髄性白血病細胞株(HL-60)への分化誘導効果を測定するため、NBT(ニトロブルーテトラゾリウム)還元反応試験を用いる。白血病細胞株を2×105 cfu/mlに希釈する。20μMおよび1μMの濃度での試験化合物で処理した後、テストプ
レートは5% CO2インキュベーター内で、37℃で3日間インキュベートする。インキュベー
トした細胞はリン酸緩衝化生理食塩水溶液(PBS)で洗浄する。それから、0.1% NBTと200ng/mlのPMA(フォルボール12-ミリステート13-アセテート)を含むPBS溶液中で更に37℃で30
分間インキュベートする。インキュベートした細胞は遠心分離機にかけた後、集められた細胞はPBS溶液で洗浄される。セルカウンターを使って、全細胞のうちニトロブルーフォ
ルマザン(formazan)を形成した分化細胞を計数する。その結果AGM029は、20μMの濃度
で優れた分化誘導能を持つことが分かる。表3は、濃度と化合物AGMごとの分化誘導のパ
ーセントを示す。
表3 白血病細胞株HL-60についてインジルビン誘導体による分化誘導のパーセント
【0094】
【表3】

【0095】
次に、本発明の化合物AGMを、分化誘導剤として知られる、1,25-ジヒドロキシビタミン
D3[1,25-(OH)2D3]またはオールトランスレチノイン酸(all-trans retinoic acid; ATRA)の低濃度溶液で処理したとき、相乗的に急性骨髄性白血病細胞株の分化を誘導するかどうかを検証する。該細胞を1μM AGMと30%の分化誘導能を持つ低濃度1,25-(OH)2D3およびATRAでインキュベートする。NBT還元法に基づき測定すると、AGM010とAGM029は、70%を
超える細胞分化(1,25-(OH)2D3とATRAにより誘導される)を示す。AGM023はやや細胞毒性があるが、0.2μMの従来の分化誘導剤と一緒に処理すると、高い分化誘導能を示す。表4は
、化合物AGMを5nMの1,25-(OH)2D3または50nMのATRAとともに処理した場合のヒト白血病細
胞株について分化のパーセントを示す。ポジティブコントロール(P. control)として従来の分化誘導剤が使われている。
【0096】
表4 化合物AGMを5nMの1,25-(OH)2D3または50nMのATRAで処理した場合のヒト白血病細
胞株について分化のパーセント結果
【0097】
【表4】

【0098】
実施例1および実施例2に基づき、化合物AGM023は優れた抗癌性を示している。さらに、AGM011、AGM029、AGM012、AGM014も種々のヒト癌細胞株について優れた抗癌性を示す。したがってこれらの5つの化合物は、従来のインジルビン誘導体から予想よりはるかに強力な抗癌性を持つことが分かる。
【実施例3】
【0099】
・インジルビン誘導体(011)でRK3E-Ras細胞を処理した後の細胞生存率の測定
インジルビン誘導体による細胞生存率(cell viability)への影響を測定するために、RK3E-Ras細胞、1×105/wellを24ウェルプレートに添加する。12〜24時間、それらの細
胞をインキュベートした後、種々の濃度(1μM、10μM 、20μM 、40μM)のインジルビン
誘導体011でそれぞれ6、12、24、48時間処理する。無処理の細胞をコントロールとして用いる。MTTアッセイでは、式(I)に表されるインジルビン誘導体011の濃度が上昇するに
従い、細胞生存率は急速に減少する。図 1はインジルビン誘導体011で処理した後の細胞
生存率の減少を示す。
【実施例4】
【0100】
・インジルビン誘導体(011)でRK3E-Ras細胞を処理した後のDNAフラグメンテーションの測定
インジルビン誘導体011による細胞生存率の減少が細胞のアポトーシスに関連があるか
どうかを試験する。インジルビン誘導体011で処理した細胞からゲノムDNAを単離し、フラグメント化する。
【0101】
RK3E-Ras細胞、6×105/wellを6ウェルプレートに添加する。12〜24時間インキュベー
トした後、10μMのインジルビン誘導体011で細胞を処理する。コントロールとして、化合物で何ら処理していない細胞か、または同じ濃度のDMSOで処理した細胞を用いる。12時間または24時間の薬剤処理の後、ゲノムDNAを単離し、1.5%アガロースゲルにロードする。
化合物で何ら処理していない細胞か、またはDMSOで処理した細胞では、DNAフラグメンテ
ーションが起こらない。しかし、インジルビン誘導体011で12時間処理した細胞では、DNAフラグメンテーションがいくらか起こっており、他方24時間処理した細胞では、DNAフラ
グメンテーションが明瞭に検出される。図2は式(I)で表されるインジルビン誘導体011
で処理された細胞株のDNAフラグメンテーションを示す電気泳動写真である。
【0102】
実施例3と同じ条件下で、他のインジルビン誘導体012、030を用いた場合の細胞生存率への影響を測定している。インジルビン誘導体012、030を用いた場合もまた、これらの濃度が上昇すると、細胞生存率が急速に減少することが示される。図3は式(II)に表される
インジルビン誘導体012と式(VI)に表されるインジルビン誘導体030の濃度が上昇するに従い、細胞生存率が減少することを示す図である。
【実施例5】
【0103】
・アネキシン-V-FLUOS/ヨードプロピディウム二重染色アッセイ法によるアポトーシス
アネキシン-V-フルオレセイン/ヨードプロピディウム二重染色法(Annexin-V-FLUOS/propidium iodide double staining assay)は、アポトーシスの細胞膜上の露出したホス
ファチジルセリンを検出することで、アポトーシスを細胞レベルで測定する高感度な方法である。
【0104】
RK3E-Ras細胞を6×105のレベルでカバースライド上に乗せる。インジルビン誘導体011
、012、030を1μMの濃度で24時間処理する。化合物で処理していない細胞をコントロールとして用いる。24時間後、細胞をアネキシン-V-フルオレセイン染色キットを用いて
、アネキシン-V- FLUOS/ヨードプロピディウムで二重染色を行う。蛍光顕微鏡で検出す
ると、インジルビン誘導体011、012、030で処理された細胞は、無処理であるコントロー
ルと比べ、強く緑の蛍光色に染色している。インジルビン誘導体011、012、030で処理し
た細胞はアポトーシスが進行していることが確認される。図4に示すように、インジルビ
ン誘導体011で処理した細胞は急速にアポトーシスが進行する。図4にはインジルビン誘導体011, 012, 030で処理した細胞について、アネキシン-V- FLUOS/ヨードプロピディウム二重染色後の写真を示す。
【実施例6】
【0105】
・腫瘍の増殖進行を抑制するインジルビン誘導体
RK3E細胞はラットの腎臓細胞の一つで、EA1発癌遺伝子により不老化される。その細胞
は正常な核型を有し、ヌードラットに対しては発癌効果がない。発明者らは、発癌遺伝子である変異型k-rasを発現させるために、レトロウィルス発現ベクターによる感染により
安定なRK3E-k-eas細胞株を作製している。作製した細胞株をSprague Dawleyラットの筋肉内に注射して腫瘍を誘発させる。固形腫瘍が形成され、2週間以内に腹腔に転移している
のが観察される。インジルビン誘導体011, 012, 030による腫瘍抑制効果は、腫瘍を誘発
させたラットを使って試験される。
【0106】
1×107のRK3E-ras細胞をSprague Dawleyラットに注射し、5日間で固形腫瘍を誘発させる。腫瘍の大きさと体積で実験用動物を実験群に分ける。これらの実験群の動物に100mM
のインジルビン誘導体を一日おきに5回ずつ注射する。
【0107】
結果として、対照群の腫瘍の大きさと体積が増大する一方で、インジルビン誘導体011,
012, 030を注射したグループの腫瘍の大きさと体積は減少していることが観察される。
図5はインジルビン誘導体011, 012, 030による腫瘍の増殖抑制を示すインビボ写真である。
【実施例7】
【0108】
・インジルビン誘導体(011, 012, 030)で処理した後のラットの腫瘍体積の測定
腫瘍はバーニャキャリパーで計測し、腫瘍体積はCarlsso計算法{V=1/2(a.b2), a: 長
軸, b: 短軸}で算出する。腫瘍体積の測定結果によると、インジルビン誘導体011, 012,
030はラットの腫瘍を抑制するのに効果的である。インジルビン誘導体012, 030は腫瘍を50〜60%抑制するが、特にインジルビン誘導体011は80%抑制することを示している。結果
的に、インジルビン誘導体011, 012, 030は有効な抑制剤であることが確認される。図6はインジルビン誘導体011, 012, 030で処理後の癌体積の縮小を示す図である。
【実施例8】
【0109】
・インジルビン誘導体でインビボ処理した後の軟X線分析
軟X線分析はラットの固形腫瘍に対し、インジルビン誘導体で処理して10日間経過した後に行う。インジルビン誘導体で処理された腫瘍には石灰化が認められるが、対照群の腫瘍体積は連続的に増大している。図7はインジルビン誘導体011, 012, 030で処理した後の軟X線写真である。
【実施例9】
【0110】
・インジルビン誘導体で処理後の腫瘍病巣の組織的所見
インジルビン誘導体で処理後の腫瘍病巣の組織的所見を明らかにするために、腫瘍組織をパラホルムアルデヒド溶液で固定した後、パラフィンで処理する。次に、H&E染色を行
う。DMSOでのみ処理した腫瘍では、多くの腫瘍細胞が残存しているが、インジルビン誘導体011, 012, 030で処理した腫瘍では、壊死や石灰化を起こしているのが観察される。本
実験からすると、本発明のインジルビン誘導体は腫瘍のアポトーシスを誘導し、組織レベルでの腫瘍形成を抑制する結果となる。図8は本発明のインジルビン誘導体011, 012, 030で処理した後の腫瘍の病巣所見を示す写真である。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】図1は、式(I)に表されるインジルビン誘導体011の化合物濃度が上昇するに従い、細胞生存率が減少することを示す図である。
【図2】図2は、式(I)に表されるインジルビン誘導体011で処理された細胞株のDNAフラグメンテーションを示す電気泳動写真である。
【図3】図3は、式(II)に表されるインジルビン誘導体012および式(VI)に表されるインジルビン誘導体030の化合物濃度が上昇するに従い、細胞生存率が減少することを示す図である。
【図4】図4は、アネキシン-V-FLUOS/ヨードプロピディウム二重染色アッセイ法を表す写真である。これは本発明のインジルビン誘導体011、インジルビン誘導体012、インジルビン誘導体030によるアポトーシスを示す。
【図5】図5は本発明のインジルビン誘導体011、012、030による腫瘍増殖抑制を示すin vivo写真である。
【図6】図6は、本発明のインジルビン誘導体011、012、030で処理した後の癌体積の縮小を示す図である。
【図7】図7は、本発明のインジルビン誘導体011、012、030で処理した後の軟X線写真である。
【図8】図8は、本発明のインジルビン誘導体011、012、030で処理した後の癌病巣の写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式(I)〜(VII):
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

に示されるCDKインヒビターとして、ヒト癌細胞株に対する抗癌性と、分化を誘導するこ
とにより白血病細胞株をアポトーシスに誘導する性質を有するインジルビン化合物。
【請求項2】
上記式(I)〜(VII)に表される少なくとも一つの化合物を0.1〜80重量%および製剤基準
に適合する担体を含有する抗癌性組成物。
【請求項3】
前記抗癌性組成物の製剤が注射液、カプセル、錠剤、溶液剤またはペレットである請求項2に記載の抗癌性組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2007−519713(P2007−519713A)
【公表日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−550940(P2006−550940)
【出願日】平成17年1月26日(2005.1.26)
【国際出願番号】PCT/KR2005/000209
【国際公開番号】WO2005/070416
【国際公開日】平成17年8月4日(2005.8.4)
【出願人】(506257445)エニジェン カンパニー リミテッド (3)
【Fターム(参考)】