説明

ヒト皮膚表皮細胞増殖促進剤、それを含む皮膚外用組成物および化粧料

【課題】効率的に生産でき、かつ安全性の高い、優れたヒト皮膚表皮細胞増殖促進剤、およびそれを含む外用剤および化粧料を提供することにある。
【解決手段】本発明によるヒト皮膚表皮細胞増殖促進剤は、燕窩の酵素分解物を有効成分とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燕窩の酵素分解物を有効成分とするヒト皮膚表皮細胞増殖促進剤に関する。また本発明は、その有効成分である燕窩の酵素分解物を含む、皮膚外用組成物および化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
肌荒れやしわ、肌のたるみ、張りの低下等の肌のトラブルは、特に女性にとって重大な関心事である。これらの肌のトラブルは、通常、環境的な要因や、老化といった加齢に伴う要因、さらにはストレスなどの心理的要因などにより引き起こされると考えられている。特に、近年の紫外線の増大や、エアコンの多用などに伴う生活環境の乾燥化などによる肌に悪影響を及ぼす環境的要因は増大しつつあると言える。
【0003】
皮膚組織は、表皮、真皮、皮下組織からなる。表皮は、皮膚の最外層を形成する構成要素であり、さらに角層、顆粒層、有棘層、基底層から基本的になることが知られている。表皮では、最下層である基底層で新しい角化細胞(表皮細胞)が分裂して生じ、次第に細胞は上の方に向かって機能と形を変えながら押し上げられていき、角層の角質細胞となった後、最後は皮膚の表面から剥がれ落ちる。ヒトの健康な皮膚では、基底層で表皮細胞が分裂してそれが押し上げられて角質細胞となって皮膚表面から剥がれ落ちるまで、28日程度かかると言われている。このような表皮細胞の分裂から細胞表面での細胞の剥離までの一連の流れをターンオーバーといい、このようなターンオーバーを表皮で繰り返すことで、常に健康な皮膚となるよう皮膚では新陳代謝が行われている。
【0004】
ところが、加齢に伴ってこのターンオーバーの周期が遅くなることが知られており、ターンオーバー周期の遅れによって、皮膚表面に古い角質等が残り、肌のくすみや肌荒れの状態等につながるとされている。
【0005】
このため、皮膚表皮細胞増殖促進を進めることで、皮膚の新陳代謝を活発化させ、ターンオーバーの周期を維持し、常に健康な皮膚表面とすることは、肌の潤いを向上させ、肌のきめを整えることとなり、生活の質(QOL)向上につながると言える。
【0006】
表皮(上皮)細胞成長因子(Epidermal growth factor (EGF))は、ヒトを含む動物の体内に存在することが知られている上皮細胞再生因子であり、マウスの顎下腺の抽出物からタンパク質の一種として初めて見出された(mEGF(マウスEGF))。EGFは動物種毎にそれぞれ異なり、マウスEGFがそのままヒトにおいて細胞増殖促進効果を示すことにはならない。ヒトEGFについても既に見出されており、EGFが、皮膚表面にある細胞に働きかけ細胞の増殖を促進することが知られている。一方で、例えば、特開2009−234980号公報(特許文献1)には、ヒトは、年齢を重ねるに従って、EGFの分泌量が減少していき(Life Sciences vol. 31, pp679-683, 1982)、これが肌の老化現象の一因である旨が記載されている。このため、EGFを肌に補給することで、ヒト表皮における細胞の新生(増殖)を促進でき、肌の状態を良好にできると考えられている。
【0007】
燕窩は、アナツバメが自らの唾液を糸状にして作る巣であり、その成分としては、糖タンパク質を多く含み、脂質は殆ど含まれないことが知られている。燕窩は、従来、中華料理における食用素材や、漢方薬の原料などに使用されている。近年では、燕窩を原料に用いた健康食品なども開発されているが、外用剤や化粧料のような外用用途への適用例はまだ僅かしか知られていない。
【0008】
特開2003−095961号公報(特許文献2)には、燕窩の酵素分解物を用いた経口用の美肌促進剤が開示されている。しかしながら、ここには、経口用途のみが示されているに過ぎず、外用用途への利用可能性については何ら記載も示唆もされていない。またここでの効果は、皮膚の保水性を高め、しっとりとしたキメの細かな肌を得ることであって、表皮における細胞増殖を促進することで、ターンオーバー周期を維持し、肌のきめ細かさなどの肌の状態の維持、向上を図ることについては、何ら記載されていない。
【0009】
WO99/022709(特許文献3)には、燕窩の含水溶剤抽出物、特に熱水抽出物を含む化粧料が開示されている。この化粧料は、スキンケア用途に使用でき、外用用途で使用するものである。しかしながら、ここで使用される抽出物は、燕窩を熱水抽出して、固形分を除去したものであり、燕窩全体を酵素処理してそのまま使用する燕窩酵素分解物とは、明らかに異なるものである。また効果に関しても、表皮における細胞増殖を促進することに基づく、本発明の効果とは異なるものである。
【0010】
特開2009−234980号公報(特許文献1)には、EGF関連物質と、ノイラミン酸類とを含む、美容組成物に関するものであり、ここでは、ノイラミン類の補給源の一つとして燕窩を利用することが開示されている。しかしながら、ここでは、ノイラミン酸類は、EGF関連物質を活性化するために使用されるものであり、EGF関連物質は必須の成分である一方、燕窩は必須成分ではなく、卵や牛乳と並ぶノイラミン酸類の供給源として期待されているに過ぎない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2009−234980号公報
【特許文献2】特開2003−095961号公報
【特許文献3】国際公開WO99/022709
【0012】
本発明者等は今般、燕窩の酵素分解物が、ヒトEGF様の優れたヒト表皮細胞増殖促進効果を有することを見出した。ヒトとは関わりのないアナツバメ由来の燕窩の酵素分解物が、ヒトEGF様の細胞増殖促進効果を示したことは予想外の驚くべきことであった。また、酵素分解物において見られる効果は、燕窩の水抽出物の場合に比べて顕著であり、この点も驚くべきことであった。本発明はこれら知見に基づくものである。
【0013】
よって本発明は、効率的に生産でき、かつ安全性の高い、優れたヒト皮膚表皮細胞増殖促進剤、およびそれを含む外用剤および化粧料の提供をその目的とする。
【0014】
本発明によるヒト皮膚表皮細胞増殖促進剤は、燕窩の酵素分解物を有効成分とする。
【0015】
本発明の一つの好ましい態様によれば、前記酵素分解物は、プロテアーゼによる分解物である。
【0016】
本発明の一つのより好ましい態様によれば、前記酵素分解物の分子量は、70〜200,000である。
【0017】
本発明の一つのさらに好ましい態様によれば、前記酵素分解物の平均分子量は、300〜50,000である。
【0018】
本発明の別の態様によれば、本発明によるヒト表皮細胞増殖促進剤を含んでなる、皮膚外用組成物が提供される。好ましくはこの組成物は、スキンケアに用いられ、より好ましくは、肌のきめを整え、肌もしくは皮膚の状態を改善するために用いられる。
【0019】
本発明の別のより好ましい態様によれば、本発明による皮膚外用組成物は、化粧料である。本発明の別のさらに好ましい態様によれば、本発明による皮膚外用組成物は、ローション、乳液、スキンケア用クリーム、保湿液、リップクリーム、美容液パック、または洗顔料である。
【0020】
本発明によれば、燕窩の酵素分解物を有効成分として使用することで、ヒト皮膚表皮細胞増殖を、従来に比べて顕著に促進させることができる。またこのヒト皮膚表皮細胞増殖促進能に基づいて、酵素分解物を皮膚外用用途または化粧料用途に使用することで、皮膚におけるターンオーバー周期を維持もしくは周期の遅延を回復して、肌のきめを整え、肌もしくは皮膚の状態を維持もしくは改善させることができる。このようにして本発明によれば、消費者のQOLの向上を図ることができる。また、使用される酵素分解物は、食用素材としても周知な燕窩を使用するため、安全性が高く、消費者にも受け入れられやすいものである。さらに酵素分解物は、燕窩をそのまま酵素処理して得ることができるため、効率的に製造でき、また製造コストも低く抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】燕窩サンプル中のシアル酸量の測定結果を示すグラフである。
【図2】燕窩サンプル中のタンパク質量の測定結果を示すグラフである。
【図3】GPC−HPLCによる燕窩酵素分解物1の測定結果を示すグラフである。
【図4】GPC−HPLCによる燕窩酵素分解物2の測定結果を示すグラフである。
【図5】実施例(3)の結果を示すグラフである。
【図6】実施例(4)の結果を示すグラフである。
【発明の具体的説明】
【0022】
ヒト皮膚表皮細胞増殖促進剤および有効成分
本発明によるヒト皮膚表皮細胞増殖促進剤は、前記したように、燕窩の酵素分解物を有効成分とする。
【0023】
酵素分解物の原料である燕窩は、アナツバメが自らの唾液を糸状にして作る巣であり、その成分としては、糖タンパク質を多く含み、脂質はほとんど含まれていない。ここでアナツバメとは、アマツバメ科(Apodidae)のアナツバメ属(Collocalia)に属するツバメ類のことであり、例えば、Apodidae Collocalia francicaApodidae Collocalia salanganaApodidae Collocalia fuciphagaApodidae Collocalia inexpectataApodidae Collocalia vestitaApodidae Collocalia esculentaApodidae Collocalia maximusなどが挙げられる。
【0024】
本発明において、燕窩は、市販品を使用できる。一般に市販されている燕窩には、毛や糞等の汚れを取り除いて洗浄しただけのものから、燕窩のクズを集めて漂白と洗浄を繰り返して成形したものまで、様々な種類があるが、本発明で用いる燕窩は、前処理において過度の洗浄や漂白等が行われていない燕窩を用いることが好ましい。
【0025】
燕窩の酵素分解物とは、燕窩を酵素反応を適用して分解し、得られたものを意味し、燕窩またはその処理物を、プロテアーゼやプロテアーゼを含む複合酵素等を用いて分解することにより得ることができる。ここで分解処理に使用する酵素としては、好ましくはプロテアーゼであり、より好ましくはパンクレアチンである。
【0026】
燕窩の酵素分解物は、通常、まず加熱殺菌処理を施した後、水中にて酵素処理に付すことによって行うことができる。殺菌処理の条件は、慣用の加熱殺菌条件を適宜参考にして設定することができ、酵素処理の条件も、使用する酵素の種類や、燕窩の状態に応じて適宜設定することができる。
より具体的な例を挙げれば、燕窩の酵素分解物は、以下のようにして調製することができる。
【0027】
例えば、粉砕した燕窩に、その質量の10〜50倍の水を加えて膨潤させた後、60〜130℃で、5秒〜30分間加熱殺菌処理する。その後、適量の酵素をそのまま添加して、酵素の至適pH、至適温度で0.5〜48時間酵素反応を行なう。酵素反応終了後、加熱処理等により酵素を失活させ、反応液を濾過して不溶物を除去することにより、燕窩の酵素分解物を得ることができる。また、この酵素分解物は、必要に応じて乾燥して粉末化してもよい。なお、上記の各工程においては、適宜pH調整、脱色、脱臭等の操作を行なってもよい。
【0028】
別の例として、燕窩の処理物を酵素分解する場合には、粒径2mm以下、好ましくは150μm以下に粉砕した燕窩に、その質量の10〜100倍の水を加えて、1〜60℃、0.5〜48時間静置または撹拌して膨潤させた後、60〜130℃、5秒〜30分間加熱殺菌処理し、必要に応じて濾過して、得られた溶液を、上記と同様にして酵素処理に付すことにより、燕窩の酵素分解物を得ることができる。
【0029】
酵素分解物の調製法において、酵素反応の時間が長いほど、タンパク質の分解が進み、より低分子のタンパク質を含む、酵素分解物が得られることとなる。本発明においては、酵素反応時間を、0.5〜48時間、好ましくは0.5〜36時間、より好ましくは3〜36時間、さらに好ましくは約24時間程度として、酵素反応をより進行させた酵素分解物が好ましい。
【0030】
このようにして得られる燕窩の酵素分解物の分子量は70〜200,000が好ましく、70〜180,000がより好ましい。さらに好ましくは、分子量は、70〜150,000であり、さらにより好ましくは、70〜120,000である。
【0031】
また燕窩の酵素分解物の平均分子量(重量平均分子量)は、300〜100,000が望ましく、300〜70,000が好ましい。より好ましくは、平均分子量は、300〜50,000である。
【0032】
皮膚外用組成物
本発明によるヒト皮膚表皮細胞増殖促進剤は、単独でそのままでも使用することができるが、化粧料、医薬品、医薬部外品などの種々の皮膚外用組成物に添加剤として含有させることができ、ヒト皮膚表皮細胞の増殖促進効果を有する組成物を得ることができる。得られた組成物は、スキンケア、好ましくは、肌のきめを整え、肌もしくは皮膚の状態を改善もしくは維持させるために有効に使用することができる。
【0033】
本発明による有効成分である燕窩の酵素分解物は、EGF−R発現皮膚構成細胞を実際に増殖させる効果を有しており、この効果は、燕窩の酵素分解物の非添加群および燕窩の熱水抽出物群に比べて顕著であった(後述する実施例1の試験結果)。また本発明による有効成分である燕窩の酵素分解物は、EGFレセプター(EGF−R)を実際にリン酸化する効果を示した(後述する実施例2の試験結果)。EGF−Rがリン酸化されるということは、燕窩の酵素分解物がEGF−Rのリガンドとしての作用を実際に保持していること、すなわち、EGF様の作用を実際に保持していることを示している。
【0034】
したがって、本発明において、ヒト皮膚表皮細胞増殖促進活性とは、ヒト皮膚表皮細胞を実際に増殖させることができることをいう。燕窩の酵素分解物には、EGFレセプターのリガンドとして作用し得る成分が含まれると考えられ、その結果EGF活性が促進され、表皮細胞の増殖を促進すると考えられる。なおこれは理論であって本発明を限定するものではない。
【0035】
このため、本発明によれば、燕窩の酵素分解物を使用することで、EGF様の効果が期待でき、その結果、表皮における細胞増殖促進でき、表皮におけるターンオーバーの周期を維持もしくは周期の遅延を回復して、ヒト皮膚の新陳代謝を高めることができる。これにより、肌のきめを整え、肌や皮膚の状態の改善および向上に有効であることは明らかである。また皮膚の状態の悪化の予防効果も可能と言える。
【0036】
なお、本明細書において、肌もしくは皮膚の状態の「改善または維持」とは、該状態の、向上、調節、状態悪化の遅延もしくは緩和などを包含する意味で使用される。
【0037】
よって前記したように、本発明の別の態様によれば、本発明によるヒト皮膚表皮細胞増殖促進剤を含んでなる、皮膚外用組成物が提供される。好ましくは、皮膚外用組成物は、医薬品、医薬部外品、または化粧料として提供され、より好ましくは、化粧料として提供される。
【0038】
本発明による皮膚外用組成物(特に化粧料)において、有効成分である燕窩酵素分解物の含有量(乾物換算)は、特に制限はなく、組成物の形態により異なるが、一般には固形分として、0.001〜20重量%、好ましくは0.005〜5重量%の範囲であり、組成物の形態に応じて適宜変更することができる。
【0039】
あるいは、本発明による皮膚外用組成物における燕窩酵素分解物の含有量(乾物換算)は、1日当り0.001mg以上、より好ましくは0.001mg〜1mg、1平方cmあたりの皮膚に適用できるように含むことが好ましい。
【0040】
本発明による皮膚外用組成物は、有効成分を含み、かつヒト皮膚表皮細胞増殖促進効果を損なわない限りにおいて、本発明による促進剤は、他の任意成分をさらに含んでなることができる。このような任意成分としては、例えば、皮膚外用剤や化粧料に慣用されている各種成分、例えば、保湿剤、低級アルコール、多価アルコール、糖類、界面活性剤、緩衝剤、乳化剤、安定化剤、増粘剤、酸化防止剤、防腐防菌剤、キレート剤、pH調整剤、香料、色素、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤、ビタミン類、アミノ酸類、抗炎症剤、水、ペプチド、糖アルコール類、酵素類、植物エキス類、抗酸化物質類、タルク、クレイ、花粉、パールなどが挙げられる。
【0041】
ここで保湿剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、ヒアルロン酸やコンドロイチン硫酸等の酸性ムコ多糖類、アミノ酸、コラーゲン、コラーゲンペプチド、エラスチンなどが挙げられる。
【0042】
低級アルコールとしては、例えば、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどが挙げられる。
【0043】
多価アルコールとしては、例えば、グリセリン、ペンタエリストリール、ジペンタエリスリトール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコールなどが挙げられる。
【0044】
糖類としては、例えば、グルコース、ガラクトース、マルトース、ラクトース、キシロース、D−グルクロン酸、サッカロース、グルコサミン、ガラクトサミン、D−ソルビット、ソルビタン、セルロース、デンプンなどの糖類、オリゴ糖類、多糖類およびこれらの誘導体などが挙げられる。
【0045】
本発明による皮膚外用組成物は、燕窩酵素分解物を含むヒト皮膚表皮細胞増殖促進剤および上記のような任意成分を、公知の方法に従って適宜配合し調整することによって、ローション、乳液、スキンケア用クリーム(例えば、バニシングクリーム、ナリシングクリーム、バーニングクリーム)、保湿液、パック剤(例えば、美容液パック)、化粧水、洗顔料、ボディローション、ボディクリームなどの種々の化粧料において慣用の製品形態とすることができる。本発明による皮膚外用組成物は、さらに、ファウンデーション類、リップクリーム、リップスティック、アイシャドウ、頬紅などのメーキャップ化粧品や、日焼け止め用製品や防臭化粧品などの薬用化粧品、シャンプーやヘアリンス、整髪料などの頭髪用化粧品、皮膚洗浄剤や浴剤の浴用化粧品などとして用いてもよい。
【0046】
本発明のさらに別の態様によれば、本発明の有効成分である酵素分解物の有効量を、ヒトの皮膚に適用することを含んでなる、ヒト皮膚表皮細胞の増殖促進方法が提供される。なおここで「有効量」とは、適用によって、体内における所望の領域において、ヒト皮膚表皮細胞増殖促進活性を発揮しうるのに十分な量である。
【0047】
さらに本発明のさらに別の一つの態様によれば、本発明の有効成分の有効量を、ヒトをの皮膚に適用することを含んでなる、スキンケア方法が提供される。同様に、本発明の有効成分の有効量を、ヒトの皮膚に適用することを含んでなる、肌のきめを整え、肌の状態を向上もしくは改善する方法も提供される。なおここで「有効量」とは、所望の効果が得られるのに十分な量である。
【0048】
なお本明細書において、「約」および「程度」を用いた値の表現は、その値を設定することによる目的を達成する上で、当業者であれば許容することができる値の変動を含む意味である。例えば、所定の値または範囲の20%以内、好ましくは10%以内、より好ましくは5%以内の変動を許容し得ることを意味する。
【実施例】
【0049】
以下の例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0050】
(1) 燕窩サンプルの調製
(1-1) 燕窩酵素分解物1
市販の無漂白の燕窩を粉砕機で粉砕して、100メッシュパス(粒径150μm以下)の燕窩粉末を得、この燕窩粉末に、約50倍量(質量)の水を加えて5℃で20時間膨潤させた後、121℃、15分間加熱殺菌処理した。
【0051】
得られた処理液を冷却した後、pHを調整し、燕窩粉末に対して2質量%の量のプロテアーゼ含有酵素(商品名「パンクレアチンF」、天野製薬株式会社製)を添加して、45℃で3時間反応させた。
【0052】
この酵素反応液をpH7.0に調整した後、90℃で5分間加熱して酵素を失活させて、濾過し、濾液(水溶性画分)を回収した。この濾液を濃縮後、凍結乾燥して、「燕窩酵素分解物1」を得た。
【0053】
(1-2) 燕窩酵素分解物2
酵素反応の時間を24時間とした以外は、前記(1-1)項の酵素分解物1と同様に行い、「燕窩酵素分解物2」を得た。
【0054】
(1-3) 燕窩熱水抽出物(比較例)
市販の無漂白の燕窩(乾燥物)40gを粉砕機で粉砕し、この粉砕物を、1000mlの蒸留水に加えて、加熱還流下にて2時間抽出処理を行った。加熱還流後、静置した後、上清を分取して濾過し、濾液を回収した。残渣についてはさらに、上記と同様に1000mlの蒸留水に加えて、加熱還流下にて再抽出処理を行った後、固形物残渣を濾過により除去し、濾液を回収した。得られている濾液(抽出液)を併せ、減圧下にて濃縮し、得られた濃縮物を凍結乾燥して、黄白色の「燕窩熱水抽出物」(比較例)を得た。
【0055】
(2) 燕窩サンプルの分析
得られた各燕窩サンプル(燕窩酵素分解物1、燕窩酵素分解物2および燕窩熱水抽出物)中のシアル酸量とタンパク質量とを下記のようにして測定した。
シアル酸の量は、各試料を酸加水分解後に高速液体クロマトグラフィーにて遊離N−アセチルノイラミン酸として測定した。
タンパク質の量は、Brad ford法に基づくBio Rad社のプロテインアッセイキットを使用して測定した。
【0056】
結果は、図1および図2に示される通りであった。
【0057】
次に、燕窩酵素分解物1および燕窩酵素分解物2に含まれるタンパク質の分子量およびその分布を測定するため、下記のような条件にて、GPCによる分析を行った。
【0058】
[HPLCの測定条件]
・カラム: Shodex Asahipak GS320HQ (φ7.6×300mm)
・カラム温度: 35℃
・移動相: 50mM CHCOONH pH6.7
・流速: 0.4ml/min
・試料注入量: 10μl
・検出器: 紫外分光検出器(UV220nmにて測定)
[使用した分子量マーカー]
・BSA MW 66,000
・Gly-gly MW 132.1
・Gly-gly-gly MW 189.17
・L-Asparaginic acid MW133.1
・DL-Asparaginic acid MW 150.1
・N-Acetylneuraminic acid MW 309.3
【0059】
測定結果は、図3および図4に示される通りであった。
【0060】
さらに、燕窩酵素分解物に含まれるタンパク質の分子量について、ウエスタンブロッド法を使用して評価した。具体的には、まず、前記した測定法に従い、燕窩酵素分解物中のタンパク質の量を確認した。燕窩酵素分解物由来のタンパク質(100μg)を、SDS−PAGEを用いて、10〜15%のポリアクリルアミドにより分離した。ゲルに展開したタンパク質をImmuno-blot PVDF膜(Polyvinylidene difluoride、Bio-Lad Lab社より入手)に転写した。PVDF膜を3%スキムミルクと0.1% Tween-20を含むPBS中にて、1時間ブロッキングし、視覚的に判定した。
なお、タンパク質の分子量の評価にあたっては、公知文献(Guo, C. T., Suzuki Y., et al., Antiviral Res. 70, pp.140-146 (2006) に示されているデータも参考にした。
【0061】
これらの結果から、燕窩酵素分解物中に含まれるタンパク質分子量は、約70〜120,000程度(なお評価条件によっては、上限値は200,000程度となる場合がある)の範囲で存在することがわかった。
【0062】
さらに、得られた結果から、燕窩酵素分解物1におけるタンパク質の平均分子量は、約55,000であるとわかった。また、燕窩酵素分解物2におけるタンパク質の平均分子量は、約33,000であるとわかった。
【0063】
(3) 酵素処理燕窩の細胞増殖促進活性
酵素処理燕窩のEGF様作用、すなわち、細胞増殖促進活性を、EGF−R発現皮膚構成細胞を用いて検討した。
【0064】
(i) 材料:
細胞は、ATCCより購入したヒト表皮(皮膚)由来のEGF−R発現細胞A431細胞を用いた。
燕窩酵素分解物としては、上記(1)に従って得た、燕窩酵素分解物1(酵素処理3時間)と、燕窩酵素分解物2(酵素処理24時間)と、燕窩熱水抽出物とを用いた。
【0065】
(ii) 実験方法:
3%FCSを添加したDME培地にて、5×10cells/mlに調整したA431細胞に、燕窩酵素分解物または燕窩熱水抽出物を、下記の各種濃度で添加し、96穴平底プレートにて5×10cells/1ml/wellで培養した。
最終添加濃度:
・燕窩熱水抽出物(heart): 1%,0.1%,0.01%
・燕窩酵素分解物1(Enz1): 1%,0.1%,0.01%
・燕窩酵素分解物2(Enz2): 1%,0.1%,0.01%
【0066】
また、対照として、燕窩酵素分解物もr−EGFも添加しない非添加群についても用意し培養を行った。
【0067】
細胞の増殖を、経時的に、Cell Counting Kit−8
(同仁化学研究所社製)(トリチウムサイミジンの取り込み試験の代替法)を用いて検討し、EGF様採用の有無を調べた。
結果は,460nm付近に極大吸収を持つ水溶性ホルマザンの色素量としてABS(アブソーバンス)で示される。
【0068】
結果は図5に示される通りであった。
【0069】
結果から、非添加コントロール群(あ431/3%FCS)に比較して、細胞の増殖が抑制される群と、増殖される群とに明確に分かれた。
燕窩酵素分解物1および燕窩酵素分解物2の添加群(特に0.1%および0.01%の濃度)で共に、明らかな増殖促進効果が認められた。
一方、燕窩熱水抽出物の1%添加群では、非添加コントロール群に比較しても、細胞増殖が極端に抑制された。燕窩熱水抽出物の0.1%添加群および0.01添加群においても、細胞増殖は非添加コントロール群よりも低かった。
このため、燕窩酵素分解物には細胞増殖促進する一方、燕窩熱水抽出物についてはむしろ細胞増殖を抑制または阻害する傾向が認められた。
【0070】
(4) 燕窩酵素分解物のEGF様作用の検証(EGF−Rリン酸化の検討)
燕窩酵素分解物のEGF様作用を、EGF−R発現皮膚構成細胞のEGFリセプターリン酸化を指標に検討した。
【0071】
(i) 材料:
細胞は、ATCCより購入したヒト表皮(皮膚)由来のEGF−R発現細胞A431細胞を用いた。
燕窩酵素分解物としては、上記(1)に従って得た、燕窩酵素分解物1(酵素処理3時間)と、燕窩酵素分解物2(酵素処理24時間)とを用いた。
陽性対照として、ヒト組み替え型EGF(r−EGF)(Protein Expressより入手)を用いた。
EGF−Rのリン酸化は、Active EGF receptor EIAキット (Takara社)を用いて測定した。
【0072】
(ii) 細胞培養:
3%FCSを添加したDME培地にて、それぞれ5×10cells/mlに調整したA431細胞に、燕窩酵素分解物と、陽性対照としてのr−EGFとを、下記の各種濃度で添加し、24穴平底プレートにて5×10cells/1ml/wellで培養した。
最終添加濃度:
・燕窩酵素分解物1(Enz1): 0.1%,0.01%
・燕窩酵素分解物2(Enz2): 0.1%,0.01%
・r−EGF : 0.15ng/ml
【0073】
また、対照として、燕窩酵素分解物もr−EGFも添加しない非添加群についても用意し培養を行った。
【0074】
(iv) 検体の調整および測定:
培養10時間より50時間まで(データは10〜34時間)の間、経時的に細胞を回収し、測定キットに付属のレセプター抽出用緩衝液を用いて、検体を調整した。培養上清を除いた後、レセプター抽出用緩衝液を50μl/well加え、Cell Scraperを用いて細胞をかきとり2well分の細胞抽出液を、1.5ml用のマイクロ遠心チューブにプールした。4℃、10000rpmの条件にて5分間遠心して細胞不溶物を沈殿させ、抽出上清を測定まで−80℃に凍結保存した。
凍結保存した抽出上清を溶解し、検体希釈液を用いてそれぞれ10倍に希釈してActive EGF receptor EIAキットの測定法に従って測定した。
結果は、リン酸化EGFレセプター標準液による標準曲線より算出し、EGFレセプター中のリン酸化チロシン数(fmol/L)で示した。
【0075】
結果は図6に示される通りであった。
【0076】
培養34時間までの検討では、何れも非添加コントロール群(Cont)に比較して、EGF−Rのリン酸化が亢進していた。燕窩酵素分解物2の0.1%および0.01%添加濃度群(それぞれ、Enz2 0.1%、Enz2 0.01%)のEGF−Rのリン酸化数は、いずれも、陽性対照であるr−EGFの0.15ng/ml添加群(r−EGF0.15ng)よりも高い値を示した。燕窩酵素分解物1の0.1%添加群(Enz1 0.1%)においては、非常に早期に(10時間)、EGF−Rのリン酸化の亢進が認められた。
【0077】
結果から、燕窩酵素分解物1および燕窩酵素分解物2は共に、0.1%および0.01%の添加濃度でEGF−Rのリン酸化を促進し、表皮細胞(A431細胞)の増殖に影響を及ぼすことが示唆された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燕窩の酵素分解物を有効成分とする、ヒト皮膚表皮細胞増殖促進剤。
【請求項2】
酵素分解物がプロテアーゼによる分解物である、請求項1に記載のヒト表皮細胞増殖促進剤。
【請求項3】
酵素分解物の分子量が、70〜200,000である、請求項1または2に記載のヒト表皮細胞増殖促進剤。
【請求項4】
酵素分解物の平均分子量が、300〜50,000である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のヒト表皮細胞増殖促進剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のヒト表皮細胞増殖促進剤を含んでなる、皮膚外用組成物。
【請求項6】
スキンケアに用いられる、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
肌のきめを整え、肌もしくは皮膚の状態を改善するために用いられる、請求項5または6に記載の組成物。
【請求項8】
化粧料である、請求項5〜7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
ローション、乳液、スキンケア用クリーム、保湿液、リップクリーム、または美容液パック、洗顔料である、請求項5〜7のいずれか一項に記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−190217(P2011−190217A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−58104(P2010−58104)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(391003912)コンビ株式会社 (165)
【出願人】(598041566)学校法人北里研究所 (180)
【Fターム(参考)】